説明

植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラム

【課題】植物工場等において大量に生産される植物の成長具合を、簡易簡便な方法で、客観的かつ定量的に測定できる植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラムを提供する。
【解決手段】栽培培地4の表面には、シート状の第1の導体11が、シート状の絶縁体13の上層に重ねることにより、絶縁された状態で設けられている。第1の導体11には、導電性シートや導電性のフィルム、又は金属網等を用いる。絶縁体13としては、ビニールシート等の絶縁性能を有するシートや絶縁性能を有するフィルムを用いる。第1の導体11は、直流の電源15が接続され、その先端は接地されている。電源15により、第1の導体11には、10V程度の低電圧が印加される。第2の導体12には、電流計16が接続されており、その先端は接地されている。電流計16は、第2の導体12と接地線の間に流れる微少電流を検出することが可能なエレクトロメータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場等の植物育成環境に用いられる植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラムに係り、植物の成長具合を客観的に判断することを可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国の農業は、高齢化と後継者不足という問題や、国土面積の狭さ等を要因とする食物低自給率という問題を抱えるとともに、食に関する課題として、安全な食料の供給や食料の計画的な周年栽培による安定的な供給等、課題が山積している。
【0003】
このような多くの課題を解決する手段の一つとして、ハイテク農業、すなわち、植物工場に関する研究がはじまっている。この植物工場とは、閉鎖的または半閉鎖的な空間内において、植物を計画的に生産するシステムである。植物工場には、閉鎖環境においてLED照明で生産する完全人工光型と温室などで太陽光利用を基本に夏季の高温抑制技術などで栽培する太陽光利用型、双方の併用型などがあり、例えば、人工的な光の管理や徹底した温湿度管理により、完全無農薬の野菜を育てたり、季節に関係なく野菜を供給でき、生産性も高い。
【0004】
このような植物工場にあっては、植物の成長管理が重要な要素の一つであるが、従来より、植物の成長具合は、人の目で見て判断するのが一般的である。しかしながら、このような人的判断では、人により、植物の成長具合に関する基準が異なるため、必ずしも客観的、定量的とはいえず、植物物の成長具合を客観的かつ定畳的に測定できる方法が必要とされている。
【0005】
従来の技術としては、植物の生育状況を把握するものとして、植物体の重量を測定する技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術は、樹木等の植物体の静電容量を測定し、その測定結果に基づいて植物体の根部及び全体の重量を推定する手法を提案するものであり、具体的な手法としては、植物の木部と植物体近傍の土壌とにステンレス製の釘等からなる電極を挿入し、両電極間に等価回路を構成し、この等価回路により植物体の根部の静電容量を測定してこの静電容量から植物体の根部の重量又は植物体の総重量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−325430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示される従来技術は、植物体の根部の静電容量を測定し、この静電容量から植物体の根部の重量又は植物体の総重量を推定するというものであり、その手段として植物の静電容量を測定し、非破壊的に測定するというものであるが、その対象は、樹木等の大型植物であって、樹木一つ一つに電極を設けて各々の静電容量の測定を行なっている。
【0008】
しかしながら、植物工場等における栽培棚をはじめ、食料品となるべき小型植物の生育においては、同種の植物を大量生産するのが通例であって、このような場合に、電極を一つ一つに設けるような手法では、手間を要し、コストも嵩むことから、そのまま適用することはできない。また、食品として提供されるべき植物については、重量というより、大きさが成長具合の目安であって、この点においても従来技術では対応できなかった。このことから、植物の成長具合を、簡易簡便にして客観的定量的に判断することのできる手法が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するもので、その目的は、植物工場等において大量に生産される植物の成長具合を、簡易簡便な方法で、客観的かつ定量的に測定できる植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムであって、前記栽培培地の表面にシート状の第1の導体を、前記栽培培地から絶縁して設け、前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に、前記第1の導体に対向して、シート状の第2の導体を絶縁して設け、前記第1及び第2の導体により、コンデンサが形成され、前記第1の導体には、所定の電圧が印加され、前記第2の導体には、電流計が接続されたことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1の発明を、コンピュータにより植物成長測定システムの制御する方法の発明として捉えたものであり、植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムの制御方法であって、コンピュータが、前記栽培培地から絶縁して前記栽培培地の表面に設けたシート状の第1の導体と、前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に前記第1の導体に対向して設けたシート状の第2の導体と、により形成されたコンデンサを用いて、前記第1の導体に、所定の電圧を印加するステップと、前記第2の導体に流れる電流を検出するステップと、前記栽培培地に植えられた植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量を、前記コンデンサを形成する第2の導体に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例して、第2の導体に流れる電流の変化量に比例することを前提とし、前記第2の導体に流れる電流を測定することで、体積変化に基づく植物の成長を検出するステップと、を実行することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1の発明を、コンピュータに各種機能を実現させるための植物成長測定システムの制御プログラムの発明として捉えたものであり、植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムの制御プログラムであって、前記プログラムは、コンピュータに、前記栽培培地から絶縁して前記栽培培地の表面に設けたシート状の第1の導体と、前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に前記第1の導体に対向して設けたシート状の第2の導体と、により形成されたコンデンサを用いて、前記第1の導体に、所定の電圧を印加する機能と、前記第2の導体に流れる電流を検出する機能と、前記栽培培地に植えられた植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量を、前記コンデンサを形成する第2の導体に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例して、第2の導体に流れる電流の変化量に比例することを前提とし、前記第2の導体に流れる電流を測定することで、体積変化に基づく植物の成長を検出する機能と、を実現させることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第1の導体と、前記栽培培地との間には、絶縁性のシートが設けられたことを特徴とする。
【0014】
以上のような態様では、栽培培地に植えられた植物の一つ一つに電極を設けることなく、植物全体として、所定の電圧を印加した第1導体と、第2の導体によりコンデンサを形成し、第2の導体に電流計を接続したことで、この電流計により、第2の導体と接地線の間に流れる電流を計測する。
【0015】
ここで、栽培培地に植えられた植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量は、コンデンサを形成する第2の導体に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例し、結果的に第2の導体に流れる電流の変化量に比例する。したがって、第2の導体に流れる電流を測定することにより、静電容量の変化を測ることが可能となり、これにより植物の体積変化に基づく植物の成長を客観的かつ定量的に把握することができる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記栽培培地、前記第1の導体、前記第2の導体は、閉鎖的または半閉鎖的な空間を形成する容器内に収納され、前記第2の導体は、前記容器に絶縁部材を介して絶縁支持されたことを特徴とする。
【0017】
以上のような態様では、本発明の植物成長測定システムを、いわゆる植物工場といわれる閉鎖的または半閉鎖的な空間内において、植物を計画的に生産するシステムに採用することで、システム全体としての機械的管理により、効率性の高いハイテク農業を実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、植物工場等において大量に生産される植物の成長具合を、簡易簡便な方法で、客観的かつ定量的に測定できる植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1.本実施形態]
図1を参照して、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について具体的に説明する。なお、以下では、本発明をその一形態である植物成長測定システムとして説明するが、これを本発明は、この植物成長測定システムを制御する制御方法及び制御プログラムとして捉えることも可能である。
【0021】
[1−1.構成]
本実施形態の植物成長測定システムは、図1に示すように、閉鎖的または半閉鎖的な空間を形成する容器1と、この容器1の上方に設けられた蛍光灯やLED照明を用いた光源2と、容器1の中ほどに設けられた栽培棚3とを備える。
【0022】
栽培棚3には、栽培培地4が敷き詰められており、この栽培培地4上に上方に向け複数の植物が植え込まれるようになっている。この栽培培地4は、栽培棚3の底部に設けられた金属網3aに支持されており、金属網3aの下部に、養液を流す流路3bが形成されている。この養液は、植物の生長に必要な養水分を液肥として与えるものであり(養液栽培)、容器1の下部に設けられた養液漕5に貯留され、ポンプPの作用により、養液漕5と、栽培棚3の流路3bとを結ぶパイプを経由して循環するように構成されている。
【0023】
本実施形態の植物成長測定システムにおいては、上述したいわゆる植物工場の基本的構成を前提として、以下のような具体的な構成を備える。
【0024】
すなわち、栽培培地4の表面には、シート状の第1の導体11が、同シート状の絶縁体13の上層に重ねることにより、絶縁された状態で設けられている。この第1の導体11には、導電性シートや導電性のフィルム、又は金属網等を用いる。また、絶縁体13としては、ビニールシート等の絶縁性能を有するシートや絶縁性能を有するフィルムを用いる。なお、本実施形態では、上述のように、絶縁体13を栽培培地4に重ね、さらに第1の導体11を重ねているが、本発明では、このような態様に限らず、第1の導体11を、絶縁体13で被覆し、これを栽培培地4上に設置することによって構成することも可能である。
【0025】
第1の導体11は、直流の電源15が接続され、その先端は接地されている。この電源15により、第1の導体11には、10V程度の低電圧が印加されるようになっている。
【0026】
一方、光源2と栽培棚3との間の第1の導体11から例えば300mm程度離間した位置に、シート状の第2の導体12が設けられている。第2の導体12は、その両端を、絶縁支持体14を介して容器1に対して絶縁支持されている。この第2の導体12としては、第1の導体11同様、導電性のシートや導電性のフィルム、又は金属網等を用いることが可能であるが、栽培培地4に植えられた植物に対する光源2からの光の照射を妨げないように、金属網を用いるのが好ましい。
【0027】
第2の導体12には、電流計16が接続されており、その先端は接地されている。この電流計16は、第2の導体12と接地線の間に流れる微少電流を検出することが可能なエレクトロメータである。
【0028】
このような構成により、帯電した第1の導体11と、絶縁され一端を接地した第2の導体12との間には、コンデンサ10が形成される。
【0029】
[1−2.作用効果]
以上のような構成からなる本実施形態の植物成長測定システムでは、第1の導体11と、第2の導体12との間に形成されるコンデンサ10において、電源15から、栽培培地4の表面に絶縁支持して設けられた第1の導体11に、10V程度の低電圧が印加される。これに対して、第2の導体12に接続された電流計16により、第2の導体12と接地線の間に流れる微少電流を検出する。
【0030】
ここで、栽培培地4上に植えられた植物が成長すると、このコンデンサ10の容量が大きくなる。すなわち、このコンデンサには一定電圧が印加されているので、下記式1から分かるように、静電容量の単位時間当たりの変化量に比例して単位時間当たりの電荷量の変化量が増加する。なお、「ΔQ」は電荷量の変化量を、「Δt」は単位時間を、「ΔC」は静電容量の変化量を、「V」は一定電圧を、「ΔI」は電流の変化量をそれぞれ表す。
[式1]
ΔQ/Δt=(ΔC/Δt)V …(1)
【0031】
さらに、単位時間当たりの電荷量の変化量は、下記式2で示される。
[式2]
ΔQ/Δt=ΔI …(2)
【0032】
つまり、植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量は、このコンデンサ10を形成する第2の導体12に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例し、結果的に第2の導体12に流れる電流の変化量に比例する。
【0033】
したがって、帯電した第1の導体11と、絶縁され一端を接地した第2の導体12との間には、コンデンサ10が形成され、電流計16を用いて、第2の導体12に流れる微少電流を測定することにより、体積変化に基づく植物の成長を客観的かつ定量的に把握することができる。このように本実施形態によれば、植物工場等において大量に生産される植物の成長具合を、簡易簡便な方法で、客観的かつ定量的に測定できる植物成長測定システム及びその制御方法並びに制御プログラムを提供することができる。
【0034】
[2.他の実施形態]
本発明は、上記実施形態において示した態様に限定されるものではなく、以下のような実施形態も包含する。例えば、上記実施形態においては、光源2として、蛍光灯又はLED照明を例示したが、本発明では、このような場合に限られず、光源2として人工光だけでなく、自然光を用いることも可能であるし、また人工光も例示したものに限らず、公知のいかなる手段を採用することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、本発明における植物成長測定システムが、容器1内に設けられたいわゆる植物工場に用いられることを前提として説明したが、本発明はこのような場合に限られず、第1の導体と、第2の導体とを、コンデンサを形成するものとして配置可能で、第2の導体12と接地線の間に流れる微少電流とを測定可能な態様であれば、例えば、ビニルハウス等における栽培方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…容器
2…光源
3…栽培棚
3a…金属網
3b…流路
4…栽培培地
5…養液漕
10…コンデンサ
11…第1の導体
12…第2の導体
13…絶縁体
14…絶縁支持体
15…電源
16…電流計
P…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムであって、
前記栽培培地の表面にシート状の第1の導体を、前記栽培培地から絶縁して設け、
前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に、前記第1の導体に対向して、シート状の第2の導体を絶縁して設け、
前記第1及び第2の導体により、コンデンサが形成され、
前記第1の導体には、所定の電圧が印加され、
前記第2の導体には、電流計が接続されたことを特徴とする植物成長測定システム。
【請求項2】
前記第1の導体と、前記栽培培地との間には、絶縁性のシートが設けられたことを特徴とする請求項1記載の植物成長測定システム。
【請求項3】
前記栽培培地、前記第1の導体、前記第2の導体は、閉鎖的または半閉鎖的な空間を形成する容器内に収納され、
前記第2の導体は、前記容器に絶縁部材を介して絶縁支持されたことを特徴とする請求項1又は2記載の植物成長測定システム。
【請求項4】
植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムの制御方法であって、
コンピュータが、
前記栽培培地から絶縁して前記栽培培地の表面に設けたシート状の第1の導体と、前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に前記第1の導体に対向して設けたシート状の第2の導体と、により形成されたコンデンサを用いて、
前記第1の導体に、所定の電圧を印加するステップと、
前記第2の導体に流れる電流を検出するステップと、
前記栽培培地に植えられた植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量を、前記コンデンサを形成する第2の導体に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例して、第2の導体に流れる電流の変化量に比例することを前提とし、前記第2の導体に流れる電流を測定することで、体積変化に基づく植物の成長を検出するステップと、を実行することを特徴とする植物成長測定システムの制御方法。
【請求項5】
植物の栽培培地を備えた植物成長環境に用いられる植物成長測定システムの制御プログラムであって、
前記プログラムは、コンピュータに、
前記栽培培地から絶縁して前記栽培培地の表面に設けたシート状の第1の導体と、前記栽培培地の上方であって前記第1の導体と所定間隔離間した位置に前記第1の導体に対向して設けたシート状の第2の導体と、により形成されたコンデンサを用いて、
前記第1の導体に、所定の電圧を印加する機能と、
前記第2の導体に流れる電流を検出する機能と、
前記栽培培地に植えられた植物の成長による静電容量の単位時間当たりの変化量を、前記コンデンサを形成する第2の導体に流れる電荷量の単位時間当たりの変化量に比例して、第2の導体に流れる電流の変化量に比例することを前提とし、前記第2の導体に流れる電流を測定することで、体積変化に基づく植物の成長を検出する機能と、を実現させることを特徴とする植物成長測定システムの制御プログラム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−263794(P2010−263794A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115208(P2009−115208)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000236160)株式会社テクノ菱和 (50)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)