説明

植物栽培方法

【課題】バラ科の植物を栽培する方法、特にバラのアーチング栽培法において、効果的な補光を行う方法を提供する。
【解決手段】バラ科の栽培植物に対して、660nm±10nmに発光ピークを有し、駆動電流20mAにおける発光出力が5mW以上である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射する。バラの栽培初期に、最初に伸びた枝2のツボミだけを取り、その枝2は株元1付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元1付近から発生せるベーサルシュートを枝2として生育させるにあたり、株元1付近に上記の赤色LEDパネルを設置して660nm±10nmに発光ピークを有し、駆動電流20mAにおける発光出力が5mW以上、好ましくは10mW以上である赤色発光ダイオードを光源として光を照射する植物栽培方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科の栽培植物に対して、660nm±10nmに発光ピークを有する赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とする植物栽培方法に関わる。本発明は、特に、660nm±10nmに発光ピークを有する赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とするバラの栽培方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
バラの栽培方法として、特開平3−191716号公報には、栽培初期に最初に伸びた枝のツボミだけを取り、その枝は株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元付近から発生するベーサルシュートを枝として生育させてその枝の葉がついていない基部から切断採花し、最初の採花以後は、採花しないすべての枝の葉がついていない基部から発生するベーサルシュートを枝として生育させてその枝の葉がついていない基部から切断採花することを繰り返す栽培方法が開示されている。この栽培方法は、アーチング法として命名されている。
【0003】
また、特開平3−191716号公報に記載のアーチング法を改良したバラの切花栽培方法が特開平4−330231号公報、特開平4−341123号公報、実開平7−39356号公報などに記載されている。
【0004】
特開平4−341123号公報には、バラの栽培初期に、最初に伸びた枝のツボミだけを取り、その枝は株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元付近から発生せるベーサルシュートを枝として生育させ、全ての枝を曲げて倒伏状態を維持せしめ、所定の葉数を確保した段階で新たに発生するベーサルシュートを枝として生育させて伸びた枝のツボミだけを取り、その枝に発生せるわき芽を伸ばして枝として生育させてその枝の基部から切断採花し、採花後その母枝をその基部で折り曲げ、以後、これを繰り返すことを特徴とするバラの切花栽培方法が記載されている。この方法により、切花の品質をあまり低下させることなく採花本数を大幅に増加させることが可能となり、生産者の経営規模が大きくない場合でも十分に採算のとれる栽培方法を提供することができるという利点があるとされている。
【0005】
また、特開平4−330231号公報には、バラの栽培初期に、最初に伸びた枝のツボミだけを取り、その枝は株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元付近から発生せるベーサルシュートを枝として生育させてその枝の基部から切断採花し、最初の採花以後は、採花しない全ての枝を曲げて倒伏状態を維持せしめ、前に採花した後に発生するシュート及び新たに発生するベーサルシュートを枝として生育させてその枝の基部から切断採花し、以後、これを繰り返すことを特徴とする第1の栽培方法と、枝の切断採花作業を枝と葉を残す形で行い、以後、これを繰り返すことを特徴とする第2の栽培方法とを組み合わせて実施するようにして構成したバラの切花栽培方法が記載されている。この方法では、特に、ベーサルシュートの出易い時期に第1の栽培方法を実施し、ベーサルシュートの出難い時期に第2の栽培方法を実施するように構成される。
【0006】
上記いずれのアーチング法においても、枝を株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめるのであるが、株元から曲げた枝の葉が混み合うと、葉に十分な量の光が照射されなくなり効率的な炭酸同化作用がされなくなってしまう。そうすると、株元から曲げた枝を光合成用の同化専用枝となし、十分に確保した同化作用枝からの転流養分で株元から発生するベーサルシュートを伸張させるというアーチング法本来の狙いが達成されなくなってしまう。従って、株元から曲げた枝の葉に十分な光が照射されることが必要となる。
【0007】
また、バラは株元に光を当て明条件とすると、発芽抑制ホルモン(ABA)が不活性型に転換し、根で生産される発芽促進ホルモンのサイトカイニンが茎部の芽に移行し、サイトカイニン活性が高くなることでベーサルシュートが発生することから、アーチング法においては株元に十分に光を当てる必要がある。従って、特に、冬季にベーサルシュートの発生しにくい品種を栽培する場合や、日射量の不足する地域では、株元に十分に光が当たるように補光するのが効果的である。
【0008】
他方、特に、北陸や北海道など日照量が少ない地域で温室栽培を行う場合や、作物の増収を図る場合、品質リスクを減らし多収を可能とすることから近年注目されているトマト等の低段密植栽培や遮光資材を用いたイチゴ栽培を行う場合には、自然光(太陽光)のみでは十分ではなく、照明装置で補光することによりハウス内の栽培植物に照射される光量を増やすことが要求されている。
【0009】
照明装置として、従来から白熱電球、蛍光灯またはハロゲンランプなどが用いられているが、これらの照明装置は、多量のエネルギーを必要とするため電力コストが増大し、高湿下では電源系統に絶縁破壊を生じる可能性があった。そこで、従来の白熱電球などに代わる照明装置として、発光ダイオード(以下、LEDともいう。)を用いた植物栽培の可能性が提案されている。たとえば、特開平08−103167号公報には、発光ダイオードによって波長400nm〜480nmおよび波長620nm〜700nmの光を植物に照射する植物栽培装置が提案されている。
【0010】
しかしながら、これまで提案された発光ダイオードによる補光をアーチング法において行っても満足できる効果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−191716号公報
【特許文献2】特開平4−330231号公報
【特許文献3】特開平4−341123号公報
【特許文献4】特開平8−103167号公報
【特許文献5】実開平7−39356号公報
【特許文献6】特開平11−46575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、バラ科の植物を栽培する方法、特にバラのアーチング栽培法において、効果的な補光を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
植物の光合成反応に関与するクロロフィルの吸収波長は660nm付近に吸収ピークがあることが知られているが、本発明者は、660nm付近に発光ピークを有する発光ダイオードを光源とする光を株元及び株元から曲げた枝の葉が混み合った部分に照射すると、発芽抑制ホルモンを効率的に不活性型に転換することができ、また、曲げた枝の葉での光合成を促進できることを着想した。
【0014】
ところで、630nm〜700nmにピーク波長を持つガリウム・アルミニウム・ヒ素系材料からなる光半導体をイチゴなどに照射する技術が知られており(例えば、特開平11−46575号公報)、また、蛍光灯やナトリウムランプを栽培植物に照射して補光することは従来から行われていた。しかしながら、蛍光灯やナトリウムランプは660nm以外の波長も多く発するため、エネルギー効率が悪いという問題がある。また、従来の3元系のLEDランプでは発光出力が小さいため、作物育成に十分な光量を得るためには、光源のコストが高くなるという問題があった。今般、本発明者らは、660nm±10nmに発光ピークを有し、かつ、発光出力が従来の赤色発光ダイオードに比べて大きいアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系赤色発光ダイオードが、バラ科の植物、特に、イチゴやバラの栽培に好適に使用できることを見出した。
【0015】
しかして、本願発明は、バラ科の栽培植物に対して、660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電力20mA)である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とする植物栽培方法に関わる。特に、本願発明の好適な態様は、バラのアーチング法による栽培方法おいて660nm±10nmに発光ピークを有する赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とする栽培方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、660nm付近に発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電流20mA)である赤色発光ダイオードを光源とする光を株元及び/又は株元から曲げた枝の葉が混み合った部分に照射することにより、発芽抑制ホルモンを効率的に不活性型に有効に転換することができ、また、曲げた枝の葉での光合成を促進できる。また、本発明は、使用する赤色発光ダイオードの発光出力が従来の3元系LEDより高いために、同等の明るさを得るために使用する電力量を大幅に削減できるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のアーチング法による栽培方法の模式図 1・・・株元 2・・・倒伏状態を維持せしめた枝
【発明を実施するための形態】
【0018】
赤色発光ダイオード
本発明に使用することができる赤色発光ダイオードは、660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が従来の赤色発光ダイオードに比べて大きい赤色発光ダイオードである。本発明においては、駆動電力20mAにおいて発光出力が5mW以上、好ましくは10mW以上であることが好ましい。特に、本願発明では、660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電流20mA)であるアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系赤色発光ダイオードが好ましい。本発明に好適に使用できる赤色発光ダイオードとして、例えば昭和電工株式会社から製品番号HRP−350Fとして販売されているアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系赤色発光ダイオード(ガリウム・リン系基板)などがある。このような赤色発光ダイオードを、アルミフレーム上などに適宜配置して赤色発光ダイオードパネル(以下、「赤色LEDパネル」ともいう。)を作成する。使用するアルミフレームの大きさは、栽培植物の補光する部位などを考慮して任意に決めることができる。また、アルミフレーム上に配置する赤色発光ダイオードの個数も照射する光の強度(光量子束密度等)を基準に適宜定めることができる。
【0019】
照射方法
本発明においては、上記の赤色LEDパネルを栽培植物の補光が必要な部位の付近に設置して光を照射する。特に、本発明においては、上記した特開平3−191716号公報、特開平4−330231号公報及び平4−341123号公報に記載されているようなバラのアーチング法(以下、夫々、「アーチング法1」、「アーチング法2」および「アーチング法3」という。)の何れの栽培方法においても使用することができる。具体的には、バラの栽培初期に、最初に伸びた枝のツボミだけを取り、その枝は株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元付近から発生せるベーサルシュートを枝として生育させるにあたり、株元付近に上記の赤色LEDパネルを設置して660nm±10nmに発光ピークを有し、駆動電流20mAにおける発光出力が5mW以上、好ましくは10mW以上である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することが好ましい。また、倒伏状態を維持せしめた株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分に上記の赤色LEDパネルを設置して660nm±10nmに発光ピークを有し、駆動電流20mAにおける発光出力が5mW以上、好ましくは10mW以上である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することが好ましい。本発明において、株元付近及び倒伏状態を維持せしめた株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分に当該赤色発光ダイオードを光源とする光を照射するバラのアーチング法による栽培方法を行う模式図を図1に示す。
【0020】
本発明においては、前記の株元及び/又は株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分に赤色発色ダイオードを光源とする光を照射する場合に、光量子束密度が0.1〜200、好ましくは20〜200、更に好ましくは40〜180μmol・m−2・s−1となるように照射する。
【0021】
また、本発明の別の態様においては、例えば実開平7−39356号公報に記載されているようなバラの低位整枝栽培装置に配設されている中空パイプの上に660nm±10nmに発光ピークを有する赤色発光ダイオードのランプを設けて、株元付近及び/または株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分に赤色LEDランプの光を照射することもできる。
【0022】
本発明における栽培方法は、主として、太陽光併用型のハウスにおいて実施される。太陽光を利用するハウスとしては、施設園芸に利用されている被覆材からなるハウス全般、例えば、ガラスハウス、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、フッ素系樹脂フィルム等が展張されたハウスなどがあげられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の栽培方法を適用する植物はバラ科の植物、中でもバラ亜科の植物であり、具体的には、バラ、ハマナス、オニシモツケ、クマイチゴ、シロヤマブキ、ヤマブキ、イチゴ、ワレモコウ、キジムシロである。本発明の栽培方法は、特に、バラおよびイチゴの栽培に好適に使用される。
【0024】
対象植物の栽培方法としては、特に限定されるものではなく、培土をつめたトレイやポットを用いて発芽・育苗したものを圃場に定植し栽培する方法、スポンジキューブ上で発芽させた後、そのまま水耕栽培する方法、養分を含んだ寒天上で無菌的に組織培養し育苗する方法等、植物の種類や栽培の目的に応じた栽培法を用いることが出来る。
【0025】
本発明の栽培方法は、好ましくは、バラの切花栽培やイチゴ栽培、より好ましくは上述したバラのアーチング法による栽培において効果的に使用することができる。イチゴについては、夏期にイチゴ栽培をおこなう場合、高温となり品質低下を招くため遮光資材を用いるが、逆に光量不足となるため、特に遮光資材を用いて栽培する場合には、660nm±10nmに発光ピークを有する赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とする本発明の栽培方法を使用することが効果的である。
【0026】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
市販の赤色発光LED(京セミ株式会社製:KED661M53(ガリウム・アルミニウム・ヒ素系)、発光ピーク:660nm、発光出力(駆動電流20mA):3mW)、本発明による赤色LED(昭和電工株式会社製:HRP−350F(アルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系)、発光ピーク:660nm、発光出力(駆動電流20mA):11mW)、蛍光ランプ処理、無処理区を設けてバラのアーチング栽培試験を次のように行った。
【0028】
栽培試験方法
供試品種:リトルマーベル(3年株)
処理方法
(1)処理時間は、いずれの区も17:00〜翌日8:00の15時間とした。
【0029】
(2)処理時期は、2009年9月28日開始〜2009年11月15日まで
(3)蛍光ランプは1灯を光源から株元の距離10cmとして株元照射した。
【0030】
(4)各発光ダイオードは、1パッケージ(発光単位)あたり10個の発光ダイオードチップを実装し、幅4cm、120cm長さのアルミ基板上に、長さ方向5cm間隔で1パッケージを配置した。これにより、合計約240個の発光ダイオードチップを実装したLEDパネルを作製した。
【0031】
(5)上記LEDパネルを、株元及び株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分(同化専用枝)へ各1枚配置し照射した。光源から株元または葉への距離は10cmとした。各発光ダイオードの照射部での光量子束密度は次の通りであった。 市販の赤色発光LED:40〜50μmol・m−2・s−1
本発明による赤色LED:120〜150μmol・m−2・s−1
【0032】
(6)蛍光ランプの処理については、隣への影響を防止するため、ベンチ中央に発泡板にて間仕切りした。
【0033】
耕種概要
(1)定植:2009年4月24日
(2)栽培密度:910mm×200mm×75mmのロックウールマット1枚当たり6株定植、マットは60cm幅のベンチに2列平行に並べた。
【0034】
(3)養液管理:EC0.8〜1.5ds/m
給液回数11回/日
(4)温度管理:25℃で換気、最低気温18℃
(5)区制:各区 12株、反復なし、切り花調査は5株を対象とした。
【表1】

上の表から、販売可能な切り花本数は、蛍光ランプ区が8本、市販の赤色LED(葉)区が8本、無処理区の5本に比べ、本発明の赤色LED(葉)区は11本と大きく増加した。また、株元のみに照射した場合でも、本発明の赤色LEDを用いると従来の赤色LEDに比べて販売可能な切り花本数は増加した。
【0035】
以上により、株元並びに同化専用枝への本発明による赤色LED(発光ピークが660nmで、駆動電流20mAにおける発光出力が11mW)による補光で冬期の切り花本数を増収できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科の栽培植物に対して、660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電流20mA)である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
赤色発光ダイオードがアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系発光ダイオードであることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
バラの切花栽培における請求項1又は2に記載の植物栽培方法の使用。
【請求項4】
バラのアーチング法における請求項1〜3のいずれか1項に記載の栽培方法の使用。
【請求項5】
バラのアーチング法による栽培方法であって、栽培初期に、最初に伸びた枝のツボミだけを取り、その枝は株元付近で人為的に曲げて倒伏状態を維持せしめ、その株元付近から発生せるベーサルシュートを枝として生育させるにあたり、株元付近に660nm±10nmに発光ピークを有し、発光出力が5mW以上(駆動電流20mA)である赤色発光ダイオードを光源とする光を照射すること、及び/又は、倒伏状態を維持せしめた株元から曲げた枝の葉が混み合っている部分に当該赤色発光ダイオードを光源とする光を照射すること、を含む該栽培方法。
【請求項6】
赤色発光ダイオードがアルミニウム・ガリウム・インジウム・リン系発光ダイオードであることを特徴とする請求項5に記載の栽培方法。

【図1】
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