説明

植物由来成分を有するポリカーボネート樹脂組成物

【課題】応力に対する信頼性が向上した植物由来成分を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40〜100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と付加重合型ポリマー25〜400重量部とからなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応力に対する信頼性が向上した植物由来成分を有する樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、破断点伸びが向上し、かつ成型性が改善された植物由来成分を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れており、現在、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野、その他の工業分野で広く使用されている。しかしながらポリカーボネート樹脂は高価であり、また溶融粘度が高く成型加工性(流動性)に劣るという問題があった。これらの問題を解決する方法の一つとしてABS樹脂とのポリマーアロイが知られている(たとえば特許文献1)。しかしながら、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂からなるポリマーアロイの引張り試験における破断点の伸びおよびその他の機械物性はポリカーボネート単独のときの値よりも小さくなる、つまりはABSを添加することで応力が負荷された際の信頼性に乏しくなるという問題があった。この点を改良するために種々の第3物質を添加することが考えられている(たとえば特許文献2〜5)。
【0003】
また、このようにして得られる樹脂組成物は石油資源から得られる原料を用いて製造されているため、石油資源の枯渇や廃棄物の焼却処理に伴い発生する二酸化炭素による地球温暖化が懸念されている昨今においては好ましい材料とは言えず、より環境負荷が小さく、リサイクル性に優れた材料が待たれる。
このような問題に対処するために植物由来原料からなるポリカーボネートの研究も行われている(例えば特許文献6)。しかしポリカーボネート単独では引張り試験における破断点伸度が小さいために応力に対する信頼性が低く、成型加工性が向上したポリマーが求められていた。
【0004】
【特許文献1】特公昭38-15225号公報
【特許文献2】特公昭48-12170号公報
【特許文献3】特公昭55-27579号公報
【特許文献4】特公昭57-21530号公報
【特許文献5】特公昭58-12300号公報
【特許文献6】国際公開第2004/111106号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術のこれらの問題点を解決し、植物由来成分を重合単位として含有するポリカーボネート樹脂と付加重合型ポリマーの二成分からなり、さらに引張り試験において破断点伸度が向上したポリマーアロイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、下記式(1)
【化1】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40〜100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と付加重合型ポリマー25〜400重量部とからなる樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物由来成分を重合単位として含有するポリカーボネート樹脂と付加重合型ポリマーの二成分からなり、引張り試験において破断点伸度が向上したポリマーアロイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。尚、これらの実施例および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0009】
本発明にかかる樹脂組成物は、下記式(1)
【化2】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40〜100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と付加重合型ポリマー25〜400重量部とからなる樹脂組成物である。
【0010】
付加重合型ポリマーのポリカーボネートに対する重量比がこの範囲よりも小さくなると得られる樹脂組成物の溶融粘度が高くなりより高い成型温度が必要となるため好ましくない。また同重量比がこの範囲よりも大きいと、種々の産業用途に用いるに十分な耐熱性が得られない。ポリカーボネート100重量部に対して付加重合型ポリマーは好ましくは25〜150重量部であり、より好ましくは67〜150重量部、さらに好ましくは80〜150重量部、さらに好ましくは80〜99重量部である。
【0011】
全ジオール残基中、式(1)で表されるジオール残基が40〜100モル%である。式(1)で表されるジオール残基の割合がこの範囲よりも小さくなると、得られる樹脂のガラス転移温度が低くなり耐熱性が低くなり好ましくない。またジオール残基の割合がこの範囲よりも大きくなると溶融粘度が高くなり高い重合度のポリマーが得られず、また成型加工も困難になるため好ましくない。式(1)で表されるジオール残基の割合は全ジオール残基中より好ましくは60モル%以上90モル%以下である。
【0012】
上記ポリカーボネートは、還元粘度が0.1dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.35dl/g以上であり、さらには0.5dl/g以上であることが好ましい。また、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、より好ましくは20,000以上であり、さらには30,000以上であることが好ましい。この範囲内にあるときには良好な溶融流動性を有し、さらには十分な機械強度を有する。
【0013】
ガラス転移温度についてより詳しく記述すると、上記式(1)で表されるポリカーボネートのガラス転移温度は90℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度がこれよりも低くなると実用的に十分な耐熱性と成形性が得られず好ましくない。より好ましくはガラス転移温度は100℃以上160℃以下である。ガラス転移温度が160℃よりも高くなると重合時のポリマーの溶融粘度が高くなり過ぎて重合度の高いポリマーが得られず、また成型加工も困難になることがある。
【0014】
ポリカーボネートにおけるジオール残基として下記式(2)
【化3】

(Rは炭素数が2から12である脂肪族ジオールまたは脂環族ジオールから選ばれる少なくとも一つのジオール残基)
で表されるジオール残基をさらに含むことが好ましい。該ジオール残基は全ジオール残基中0〜60モル%であり、より好ましくは10〜40モル%である。
【0015】
ここで上記式(2)のジオール残基を構成するジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。この中でもポリマーの合成において重合度が上がりやすく、またポリマーの物性においても高いガラス転移点を示すといった点で1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましく、1,3-プロパンジオールがより好ましい。1,3-プロパンジオールを用いて重合したポリカーボネートは他の脂肪族ジオール、例えば1,4-ブタンジオールや1,6-ヘキサンジオールを用いて重合したポリカーボネートに比べて重合度やガラス転移温度が高く、機械物性や耐熱性に優れている。
【0016】
上記式(1)で表されるジオール残基を構成するジオールとしては、具体的には下記式(3)、(4)および(5)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。これら糖質由来のジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの一つである。イソソルビドはでんぷんから得られるD-グルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0017】
【化4】

【0018】
特に、ジオール残基としてイソソルビドの残基を含んでなるポリカーボネートが好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。上記式(1)で表されるジオール残基のうち、イソソルビドの残基は60〜100重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いる付加重合型ポリマーとしてはスチレン系樹脂が好ましく、なかでもABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体)がより好ましい。ABS樹脂は耐衝撃性、剛性、成型加工性等の諸物性に優れていることに加え、良好な表面概観、二次加工性の容易さ等、バランスのとれた熱可塑性樹脂であり、ポリカーボネートにABS樹脂を配合させることによりポリカーボネート樹脂の衝撃強度を損なうことなくその成型加工時の流動性が改善される。
【0020】
本発明の樹脂組成物の引張り試験をISO 527−1およびISO 527−2に準ずる手法により行った際、その破断点伸度は10%以上となることが好ましい。本発明の樹脂組成物の成型温度は230℃以下であることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ポリマーの還元粘度はフェノール/テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒10mlに対してポリカーボネート120 mgを溶解して得た溶液の35℃における粘度をウデローベ粘度計で測定した。単位はdl(リットル)/gである。重量平均分子量はShodex社製GPC System-11を用いてゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)によりポリスチレン換算値を求めた。ガラス転移温度の測定はTA instruments社製DSC2920を持用いて行った。引張り試験および曲げ試験はオリエンテック社製UCT-1Tを用いて行った。ここで、引張り試験はISO 527-1およびISO 527-2、曲げ試験はISO 178に準じて測定した。降伏点応力は同様にISO 527-1およびISO 527-2により求めた。
【0022】
[実施例1]
イソソルビド(233.8 g, 1.6モル)、1,3-プロパンジオール(30.4 g, 0.4モル)およびジフェニルカーボネート(428.4 g, 2.0モル)とを反応器に入れ、また重合触媒として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.0272 mg, 1.0×10-7モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(3.65 mg, 4.0×10-5モル)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融した。攪拌下、反応槽内を100 mmHgに減圧し、生成するフェノールを溜去しながら約20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30 mmHgまで減圧し、さらに215℃に昇温した。ついで、徐々に減圧し、20 mmHgで10分間、10 mmHgで10分間反応を続行し、230℃に昇温した後さらに減圧・昇温し、最終的に250℃、0.8 mmHgで約20分間反応させ、反応を終了させた。得られたポリカーボネートをBio-PCとする。Bio-PCの還元粘度は0.60〜0.69、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)による分子量測定では重量平均分子量32,000〜45,000、DSC測定によるガラス転移点は140〜144℃であった。
【0023】
ここで得られたBio-PC 100重量部に対してABS樹脂(日本エイアンドエル(株)、サンタックAT-05)82重量部を混合したものを射出成型することにより成型品を作製し、引張り試験および曲げ試験を行った(重量比 : Bio-PC/ABS = 55/45)。結果を表1に示す。
【0024】
[実施例2]
実施例1で用いた原料の仕込み量をそれぞれ、イソソルビド(1023 g, 7.0モル)、1,3-プロパンジオール(239.7 g, 3.15モル)、ジフェニルカーボネート(2142 g, 10.0モル)、 2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.681 mg, 2.5×10-6モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(18.2 mg, 2.0×10-4モル)とした以外は実施例1と同様の操作によってBio-PCを合成した。得られたBio-PCの還元粘度は0.68〜0.70、DSC測定によるガラス転移点は123〜124℃であった。ここで得られたBio-PC 100重量部に対してABS樹脂(日本エイアンドエル(株)、サンタックAT-05)150重量部を混合したものを射出成型することにより成型品を作製し、引張り試験および曲げ試験を行った(重量比 : Bio-PC/ABS = 40/60)。結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
実施例1と同様の重合により得られたBio-PC 100重量部に対してABS樹脂を11重量部を混合したものを射出成型し、引張り試験および曲げ試験を行った(重量比 : Bio-PC/ABS = 90/10)。結果を表1に示す。
【0026】
[比較例2]
ビスフェノールAよりなる一般タイプのポリカーボネート(PCと略記する、帝人化成(株)、K-1300Y)100重量部に対してABS 82重量部を混合、射出成型し、実施例1と同様の測定を行った(重量比 : PC/ABS = 55/45)。結果を表1に示す。
【0027】
[比較例3]
PC 100重量部に対してABS 150重量部を混合、射出成型し、実施例1と同様の測定を行った(重量比 : PC/ABS = 40/60)。結果を表1に示す。
【0028】
表1からわかるように実施例1および実施例2では比較例1、2および3に比べて成型性が向上し、また同組成比を有するPC/ABSに比べて破断点伸度が飛躍的に向上している。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40〜100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と付加重合型ポリマー25〜400重量部とからなる樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネートにおけるジオール残基として下記式(2)
【化2】

(Rは炭素数が2から12である脂肪族ジオールまたは脂環族ジオールから選ばれる少なくとも一つのジオール残基)
で表されるジオール残基をさらに含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネートのガラス転移点が90℃以上である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記カーボネート100重量部と付加重合型ポリマー25〜99重量部とからなる請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
式(2)の脂肪族ジオールが1,3−プロパンジオールである請求項2〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
式(1)で表されるジオール残基として、イソソルビド残基を含んで成る、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記付加重合型ポリマーがスチレン系樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂がABS樹脂である請求項7に記載の樹脂組成物。