説明

植物発芽抑制資材

【課題】ヒノキ科の葉粉末、あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を主な構成成分とする植物成長抑制資材を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒノキ科の粒経1mm以下の葉粉末、あるいはヒノキ科の葉から水により抽出される抽出物又はブタノール、酢酸エチルなどから抽出される脂溶性物質を、対象とする土壌表面に散布及び/又は土壌に混合することにより、あるいは水中に浸漬することにより植物の発芽を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物発芽抑制資材及びそれを用いた植物発芽抑制方法に関する。更に詳細には、ヒノキ科の葉粉末を主な構成成分とする、あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を主な構成成分とする植物発芽抑制資材、及び該植物発芽抑制資材を、対象とする土壌表面に散布及び/又は土壌に混合することにより、あるいは対象とする水中に浸漬することにより、植物の発芽を抑制する植物発芽抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、林業、緑化、空き地、宅地および庭園において雑草の発芽や繁茂を抑制する場合、除草剤および人力による排除が行われている。近年、除草剤の残留問題を解決するため、天然素材による雑草発芽抑制技術の開発が行われており、ヒノキの樹皮や枝葉を利用した雑草発芽抑制技術についても、特開2001−31969号公報、特開平5−15253号公報、埼玉県林業試験場業務成果報告No.41及びNo.42、ランドスケープ研究62(5)によりその効果が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、雑草抑制用として使用されている除草剤の大部分は化学製品であるため、生態系および人体への影響が問題となっており、その使用低減が望まれている。また、工場および住宅予定地(空き地)や法面では雑草管理に多大な費用と労力が必要となり、その改善方法の開発が望まれている。また、木材を採集した後に残る枝葉は廃棄物として処理され、林地に廃棄されるかあるいは焼却処分されており、有効な利用方法は未だ開発されていない状況にある。反面、ヒノキ等の枝葉には抗菌性や耐虫性といった有用な天然物質が多く含まれており、その有効利用が望まれている。これまでに、それらの有用成分を工業的に抽出し、添加物として利用する試みがなされてきたが、抽出という煩雑な行程を経るため製品の高価格化を招き、普及の妨げとなってきた。枝葉と同様に廃棄物として扱われてきた樹皮については様々な研究・開発がなされ、堆肥や雑草・病害虫抑制資材として使用されている。
【0004】
しかしながら、特開2001−31969号公報、特開平5−15253号公報及び埼玉県林業試験場業務成果報告No.41及びNo.42に記載されているように、ヒノキの樹皮を雑草抑制資材として用いた場合、敷設厚さを5cm以上取らないと雑草抑制効果が認められず、資材本来の抑制効果なのか、単なる光の遮断による抑制効果なのかが明確ではなく、従ってヒノキ樹皮を含む資材を用いた場合、雑草抑制効果は低いと言える。また、埼玉県林業試験場業務成果報告No.41及びNo.42において、ヒノキ枝葉の雑草抑制効果が報告されているが、葉の粉砕材に効果があるという記載に止まっており、具体的な加工方法や使用方法は言及されておらず、更には葉だけでは効果が無かったことが記載されている。また、ランドスケープ研究62(5)において、ヒノキ葉からメタノールにより抽出された物質に植物の発芽抑制効果があることが記載されており、メタノール抽出物質であったことから難水溶性物質が主成分であるという推測がなされているが、メタノール抽出物質の中にも水溶性物質が含まれている可能性があることから、発芽抑制効果の主物質を同定するには至っていない。
従って、本発明の課題は、生態系に優しい天然材料であり、且つ未利用材であるヒノキ葉を有効利用した植物成長抑制資材、即ちヒノキ葉を雑草抑制資材として有効利用する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記した課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、ヒノキ科の特に葉粉末、あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質が雑草の発芽を有効に抑制することを見出し本発明を完成させた。
即ち、本発明は、ヒノキ科の葉粉末を主な構成成分とする、あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を主な構成成分とする植物発芽抑制資材に関する。
更に本発明は、上記植物発芽抑制資材を、対象とする土壌表面に散布及び/又は土壌に混合することにより、あるいは対象とする水中に浸漬することにより、植物の発芽を抑制することを特徴とする植物発芽抑制方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、ヒノキ葉粉末の土壌表面への施工厚と発芽抑制効果の関係を示したグラフである。
【図2】図2は、ヒノキ葉粉末、ハイネズ葉粉末、サワラ葉粉末、ヒバ葉粉末、ニオイヒバ葉粉末およびスギ葉粉末の発芽抑制効果を示したグラフである。
【図3】図3は、ヒノキ葉粉末、他の葉粉末と混合した場合の葉粉末と発芽抑制効果を示したグラフである。
【図4】図4は、ヒノキ葉粉末の含水率が発芽抑制効果に与える影響を示したグラフである。
【図5】図5は、ヒノキ葉乾燥粉末のメタノール抽出物から更に抽出される各種抽出物の発芽抑制効果を示したグラフである。
【図6】図7は、ヒノキ葉乾燥粉末のメタノール抽出物から更に抽出される各種抽出物の幼根長及び胚軸長に対する効果を示したグラフである。
【図7】図7は、ヒノキ葉乾燥粉末の水抽出物の発芽抑制効果を示したグラフである。
【図8】図8は、ヒノキ葉の採取時期が発芽抑制効果に与える影響を調べた結果を示すグラフである。
【図9】図9は、ヒノキ葉の葉齢が発芽抑制効果に与える影響を調べた結果を示すグラフである。
【図10】図10は、ヒノキ葉粉末の適用した試験区の設置状況を示した図である。
【図11】図11は、ヒノキ葉粉末を適用した各処理区における出現植物の固体数を示したグラフである。
【図12】図12は、ヒノキ葉粉末を適用した各処理区における植物の個体数及び平均個体乾燥重量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の植物発芽抑制資材の主たる構成成分は、ヒノキ科の葉粉末あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質である。ここでヒノキ科に属するものとしては、ヒノキ属、クロベ属、アスナロ属、ビャクシン属、コノテガシワ属などが挙げられる。更にヒノキ属に属するものとしては、ヒノキ、サワラ、チャボヒバ、クジャクヒバ、ローソンヒノキ、アラスカヒノキ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、ヒヨクヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ムヒロなどが、クロベ属に属するものとしては、ニオイヒバ、クロベ(ネズコ)、アメリカネズコなどが、アスナロ属に属するものとしては、ヒバ(アスナロ)などが、ビャクシン属に属するものとしては、ハイネズ、イブキ、ハイビャクシャン、ミヤマビャクシャン、カイヅカイブキ、タマイブキ、ネズ、オオシマハイネズ、ミヤマネズなどが、コノテガシワ属に属するものとしては、コノテガシワ、シシンデンなどが挙げられる。本発明では、ヒノキ属及びクロベ属が好ましく、特にヒノキ属のヒノキ及びサワラ、クロベ属のニオイヒバが好ましい。
ヒノキ科の葉粉末あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を得るための材料としては、ヒノキ科の苗木又は成木から採取した葉が用いられる。材料として用いる葉は、採取直後の葉でも、あるいは長期間、例えば数十年間保存していたものでよいが、裁断又は粉砕したものについては、直ちに使用することが好ましい。また、葉の採取時期は特に限定する必要はなく、春、夏、秋、冬のいずれの時期でもよい。採取する葉齢も特に限定されず、若葉、古葉のいずれでもよい。
ヒノキ科の葉粉末を得るには、採取した葉を粉砕機、製粉機又は食繊機を用いて摩砕することにより得ることができる。ヒノキ科の葉粉末は、その粒経が5mm以下が好ましく、特に1mm以下が好ましい。粒経の下限値は特に限定されず、5mm以下あるいは1mm以下であればいずれでもよい。このような粒経を有する葉粉末は特に強い植物発芽抑制作用を発揮する。ヒノキ科の葉粉末は、その含水率は0から100%までのいずれでもよく、含水率に影響されることなく植物発芽抑制作用を発揮する。従って、葉粉末は、加熱下に乾燥機で乾燥して絶乾状態にしたものであっても、あるいは多くの水分を含んでいてもよい。またヒノキ属の葉粉末は、高温下に置いても、その植物発芽抑制作用が失われることがない。
このようにして得られた葉粉末は、そのまま植物発芽抑制資材として用いてもよく、また使用対象、使用方法などに応じて適当な他の材料などと一緒にして用いてもよい。
【0008】
本発明の植物発芽抑制資材の主たる構成成分である、ヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質は、ヒノキ科の葉乾燥粉末から水により抽出することができる。具体的には、この植物発芽抑制物質は、例えば、ヒノキ科の葉を加熱下で通風乾燥して絶乾状態にした後で粉末とし、この葉乾燥粉末を水に加えて、超音波処理などによりよく攪拌した後に、得られる水を濾過し濾液中に得ることができる。この濾液をそのまま、あるいはその濃縮物を植物発芽抑制資材として用いてもよく、また使用対象、使用方法などに応じて適当な他の材料などと一緒にして用いてもよい。この植物発芽抑制物質は、高温下に置いても変質せず且つ揮発しないものであり、また水により抽出されることから当然に水に可溶性である。
また、本発明の植物発芽抑制資材の主たる構成成分である、ヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質は、高温でも変質且つ揮発せず水にやや可溶性でありアルカリ性から中性の脂溶性物質である。この脂溶性物質は、例えば、ヒノキ科の葉乾燥粉末からアルカリ性から中性の条件下で有機溶媒により抽出することができる。具体的には、例えば、ヒノキ科の葉を加熱下に通風乾燥して絶乾状態にした後で粉末とし、この葉乾燥粉末を、70から90%のメタノール中に加えて、超音波処理などによりよく攪拌した後に、濾過してメタノール抽出液を得る。次いで、このメタノール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水を加えて水溶液とする。この水溶液をアルカリ性から中性に調整した後で、酢酸エチル、n−ブタノールなどの有機溶媒で抽出した画分に植物発芽抑制物質である脂溶性物質を得ることができる。この画分を濾過し濾液を濃縮し、得られる濃縮物をそのまま植物発芽抑制資材として用いてもよく、また使用対象、使用方法などに応じて適当な他の材料などと一緒にして用いてもよい。この植物発芽抑制物質は、高温下に置いても変質せず且つ揮発しないものであり、またアルカリ性から中性の条件下で、酢酸エチル、n−ブタノールなどの有機溶媒で抽出できることから、水にやや可溶性でアルカリ性から中性の脂溶性物質といえる。また、この植物発芽抑制物質は、ヒノキ科葉乾燥粉末中に約9重量%の割合で含まれている。
【0009】
上記したヒノキ科の葉粉末あるいはヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を主な構成成分とする植物発芽抑制資材は、対象とする土壌表面に散布及び/又は土壌に混合することにより、あるいは対象とする水中に浸漬することにより、植物の発芽を抑制することができる。
ここで構成成分としてヒノキ科の葉粉末を用いる場合には、ヒノキ科の枝粉末、スギなどの他の植物枝葉乾燥粉末などを、ヒノキ科の葉粉末の本来の植物発芽抑制作用を損なわない程度の量で混合して用いても構わない。また、構成成分としてヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を用いる場合にも、他の同様の作用を有する物質を混合してもよく、またヒノキ科の葉粉末と一緒に用いることもできる。また、ヒノキ属の葉粉末または植物発芽抑制物質を、他の固形剤、例えば、酢酸ビニルなどと一緒にして用いることもできる。更には、ヒノキ属の葉粉末あるいは植物発芽抑制物質に水等を加えた後、ペレット状に加工して用いてもよい。
ヒノキ科の葉粉末を主たる構成成分とする植物発芽抑制資材を、土壌表面に散布する場合には、該葉粉末が200g/m2以上、特に400g/m2以上となる量を散布するのが好ましい。また、土壌に混合する場合は、該葉粉末の濃度が10g/l以上、特に15g/l以上となる量を混合するのが好ましい。また、当該資材を混合した土壌表面に更に当該資材を散布することにより、植物の発芽をより抑制することができる。
ヒノキ科の葉から抽出される植物発芽抑制物質を主な構成成分とする植物発芽抑制資材を、土壌表面に散布する場合には、該植物発芽抑制物質が20g/m2以上、特に40g/m2以上となる量を散布するのが好ましく、また、土壌に混合する場合は、該植物発芽抑制物質の濃度が0.8g/l以上、特に3.0g/l以上となる量を混合するのが好ましい。
上記したように、植物発芽抑制資材を土壌表面あるいは土壌に混合して用いる場合には、ヒノキ科の葉粉末あるいは植物発芽抑制物質に水等を加えた後、ペレット状に加工して用いることもできる。また、ヒノキ科の葉粉末あるいはヒノキ属の葉から抽出される植物発芽抑制物質に、上記した固化剤を添加することにより得られる植物発芽抑制資材は、風雨による当該資材からのヒノキ科の葉粉末あるいは植物発芽抑制物質の流亡を抑制することができるため、特に法面等の傾斜地で植物発芽抑制資材として好適に使用することができる。
【0010】
本発明の植物発芽抑制資材を水に浸漬して用いる場合には、例えば、当該資材を小穴の開いた袋状容器に入れた後、水の中に浸漬することにより、水田や池等の水中植物の発芽を抑制することができる。水に浸漬して用いる場合の当該資材の量は、当該資材に用いる構成成分の種類、対象とする水田や池などの面積等に応じて適当に決定することができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
愛媛県新居浜市の山林に人工造林したヒノキおよびヒバ成木より枝葉を、北海道紋別市の山林に人工造林したニオイヒバより枝葉を、また茨城県つくば市においてスギ、ハイネズおよびサワラの植栽木より枝葉を採集し、材料として用いた。
【0012】
(1)植物発芽抑制試験I
採集した葉は、枝に付けた状態で、60℃に設定した通風乾燥機中で3日間乾燥させた後、人力により枝から葉を採集した。その後、以下の操作を行い、供試体を作製した。
(1) 人力により、葉を裁断したもの
(2) 上記(1)を、パワーミルを用いて粉砕した粉末状物
【0013】
上記の操作により得られた供試体は、更にその粒径により、1mm以下、2〜5mm、6〜10mm、11mm以上に篩い分けし、試験に供試した。なお、対照試験体として、同様な操作を行ったスギ葉粉末状物を用いた。これらの資材を、1428cm3(縦17cm×横12cm×高さ7cm)の透明プラスチック容器内に均等に入れた400mlの赤玉土の上に、表1に示した条件で資材を土壌表面に均等に散布又は混合し、雑草抑制試験を行った。供試植物には、白クローバーを用い、当該植物の種子35粒を播種した。育成は、25℃±2℃、湿度70%の恒温室内に設置した育苗棚で行い、育苗棚は3,000lux、16時間日長に設定した。なお、表中の播種位置については、下とあるものは赤玉土上に種子を播種しその上から資材を散布したもので、上とあるものは資材を散布した後に資材上に播種したものである。また、処理区1及び19については、赤玉土上に播種を行い、処理区1については資材を散布せず、対照区とした。播種後7日、24日の植物の発芽率を表2に示した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
表2の結果からも分かるように、ヒノキ葉を粉砕した資材に植物の発芽抑制効果が認められ、特に粒径1mm以下における発芽率は20%以下であり、顕著な発芽抑制効果が見られた。また、植物の種子が資材の下にあった場合でも、上にあった場合でも発芽が抑制されていた。これは、屋外における埋土種子(前年に飛散し当年発芽する種子)と当年種子(当年に散布される種子)に当たることから、本資材は全ての場面において植物の発芽抑制効果があることが分かる。
【0017】
(2)植物発芽抑制試験II
上記試験Iから、ヒノキ葉粉砕物のうち粒径が1mm以下のものに顕著な植物発芽抑制効果が認められたため、次に散布厚さが植物の発芽率に与える影響を検討した。資材の製造方法は試験Iと同じである。
【0018】
1428cm3の透明プラスチック容器内に均等に入れた400mlの赤玉土上に、植物種子を播種し、その上から粒径1mm以下のヒノキ又はスギ葉粉末(以下、ヒノキ粉末及びスギ粉末と呼ぶ)を2mm、5mm、10mmの厚さになるように均等に散布した。植物種子には、白クローバーとオーチャードグラスを用いた。また、対照として、ピートモス(園芸用培土等に副資材として用いられる有機資材)を、植物種子の上から2mm、5mm、10mmの厚さで散布した。結果を図1に示した。
【0019】
図1からも分かるように、ヒノキ粉末を用いた場合では、散布厚が2mm区においてすでに植物の発芽を抑制する効果が認められた。対照としたスギ及びピートモスでは、発芽抑制効果は認められなかった。
【0020】
(3)植物発芽抑制試験III
試験IおよびIIの結果から、ヒノキ葉粉末に植物の発芽を抑制する効果が認められたことから、土壌に混合する適切な量を明らかにするため、本試験を行った。
【0021】
粒径1mm以下のヒノキ葉粉末を0、10、15、25g/lの濃度で混合した浄水場発生土を主な構成とし、発芽しやすいよう成分調整された市販の播種用培土(スミリン農産工業(株)社製「セル培土」)に、白クローバー、オーチャードグラス、キュウリ、トマト、ビオラ、ハクサイ、ダイコン、ニンジンの種子を播種し、7日後及び14日後の発芽率を計測した。結果を表3に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
表3からも分かるように、ヒノキ粉末を土壌に混合した場合、発芽抑制効果が認められ、特に15〜20g/lの濃度で土壌に混合することが植物抑制に効果的であった。
【0024】
(4)植物発芽抑制試験IV
試験I、II、IIIの結果から、ヒノキ葉粉末に植物成長抑制効果があることが明らかになったことから、葉と枝のどちらが植物発芽抑制効果が高いのかを明らかにするため、本試験を行った。
【0025】
粒径1mm以下のヒノキ葉乾燥粉末あるいは枝乾燥粉末を0g/l、20g/lの濃度で混合した前記の播種用培土に、白クローバーの種子を播種し、7日後及び14日後の発芽率を計測した。また、前記の播種用培土に同植物の種子を播種した後、その上からヒノキ葉乾燥粉末あるいは枝乾燥粉末を313g/m2の密度で散布し、7日後及び14日後の発芽率を計測した。結果を表4に示した。
【0026】
【表4】

【0027】
表4の結果からも分かるように、ヒノキ葉粉末には高い発芽抑制効果が認められたが、枝粉末では逆に発芽促進効果が認められた。
【0028】
(5)植物発芽抑制試験V
ヒノキ科5樹種(ヒノキ,サワラ,ハイネズ,ヒバ,ニオイヒバ)およびスギの葉乾燥粉末を用いて、植物の発芽抑制効果について検討した。採取した各樹種の葉を60℃で通風乾燥させ絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状に加工した。粉末の粒径は、1mm以下とした。透明プラスチックボックスに赤玉土100mlを敷き詰め、そこに白クローバーの種子を20粒ずつ播種した。播種後、各粉末を476g/m2の密度で播種した全ての種子を覆うように散布した。試験には各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。なお、処理区1は粉末を散布せず、播種後そのまま育成を行った処理区である。発芽結果を図2に示した。なお、ヒノキ科5樹種の属分類を表5に示した。
【0029】
【表5】

【0030】
図2からも分かるように、ヒノキ葉、サワラ葉、ニオイヒバ葉に植物の発芽を抑える効果が認められた。ヒノキとサワラはヒノキ属、ニオイヒバはクロベ属であることから、ヒノキ科の葉粉末には植物の発芽抑制効果があることが明らかになった。
【0031】
(6)植物発芽抑制試験VI
ヒノキ科3樹種(ヒノキ,サワラ,ハイネズ)およびスギの葉乾燥粉末を用いて、植物の発芽抑制効果について検討した。採取した各樹種の葉を60℃で通風乾燥させ絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状に加工した。粉末の粒径は、1mm以下とした。透明プラスチックボックスに赤玉土100mlを敷き詰め、そこに白クローバーの種子を20粒ずつ播種した。播種後、各粉末単体およびヒノキ粉末と他樹種の粉末を表6に示した量及び割合で混合したものを散布した。なお、各粉末単体および混合した粉末は、総量で16mlになるように混合割合を調整した。また、各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。処理区1は、粉末を散布せず、播種後そのまま育成を行った処理区である。発芽結果を図3に示した。
【0032】
【表6】

【0033】
図3からも分かるように、ヒノキ葉粉末を他の樹種の葉粉末に混合した各処理区において顕著な発芽抑制効果が認められたことから、ヒノキ葉粉末を他の植物葉粉末に混合することにより発芽抑制効果が発揮されることが判明した。
【0034】
(7)植物発芽抑制試験VII
上記の試験Vにおいて、ヒノキ葉粉末に発芽抑制効果があることが判明したが、粉末の含水率が発芽抑制効果に与える影響を検討するため、本試験を行った。採取したヒノキ葉を、40、60、105、150℃の各々の温度に設定した通風乾燥機中で乾燥させ、絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状に加工した。また、105℃に設定した通風乾燥機中にヒノキ葉を入れ、含水率30、50%になった時点で取り出し、ミルを用いて粒径1mm以下の粉末状に加工した。さらに、乾燥処理を行わない含水率100%のヒノキ生葉をミルを用いて粒径1mm以下の粉末状に加工した。発芽試験は、透明プラスチックボックスに敷き詰めた赤玉土200mlの上に、白クローバーの種子20粒を播種した後、全ての種子を覆うように各粉末を散布した。散布量は、絶乾状態の粉末は476g/m2、含水率30%の粉末は619g/m2、含水率50%の粉末は714g/m2、含水率100%の粉末は952g/m2とした。播種後、1日目〜13日目までの発芽率を調査した。なお、各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。また、対照区として、種子の上から何も散布を行わない処理区を設けた。結果を図4に示した。
【0035】
図4からも分かるように、含水率0〜100%までの全てのヒノキ粉末に顕著な発芽抑制効果が認められた。また、150℃という高温で処理したにもかかわらず、発芽抑制効果が認められたことから、ヒノキ葉に含有される発芽抑制物質は高温でも変質且つ揮発しない物質であることが明らかにされた。
【0036】
(8)植物発芽抑制試験VIII
これまでの試験により、ヒノキ葉粉末に顕著な発芽抑制効果があることが解明されたが、葉に含有される物質の中、どのような物質が発芽抑制に関与しているのかを明らかにするため、本試験を行った。
ヒノキの葉乾燥粉末からの抽出物を用いて、植物の発芽抑制効果について検討した。採取したヒノキ葉を、60℃で通風乾燥させ絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状に加工した。この粉末50gを80%メタノール250ml中で攪拌し、更に超音波処理を施した。処理後、吸引ろ過を行い、メタノール抽出液を得た。得られたメタノール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水溶液とした。この水溶液をpH7に調整した後、ヘキサン、酢酸エチル、n−ブタノールの順で抽出していき、pH7ヘキサン画分、pH7酢酸エチル画分、pH7ブタノール画分を得るとともに、ブタノール処理後に得られた水層をpH2に調整した後、ヘキサン、酢酸エチル、n−ブタノールの順で抽出していき、pH2ヘキサン画分、pH2酢酸エチル画分、pH2ブタノール画分、水層画分を得た。これら7画分を乾固した後、それぞれの重量を測定した。重量測定後、画画分を7.5mlの100%メタノールに溶解し、発芽試験に用いた。
発芽試験は、ガラスシャーレ中に敷いた脱脂綿(縦6cm×横6cm×厚さ0.5cm)に各画分0.108mlを添加した後、メタノールを揮発させるため吸引処理を施した。吸引処理後、脱脂綿1枚につき10mlの蒸留水を加えた。蒸留水を添加した後、脱脂綿1枚につき白クローバーの種子を10粒ずつ播種した。播種後、ガラスシャーレに蓋をし、25±2℃の恒温室で暗黒条件の下、育成を行った。なお、各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。また、対照区として、100%メタノール0.108mlを脱脂綿に添加後吸引処理しメタノールを揮発させ、更に蒸留水10mlを加えた後に白クローバーの種子10粒を播種した処理区(メタノール+蒸留水区)および蒸留水10mlのみを添加した脱脂綿に白クローバーの種子10粒を播種した処理区(蒸留水のみ)を設けた。播種から3日間の発芽率の結果を図5に、播種後3日目の幼根長および胚軸長の結果を図6に示した。また、各画分の収量及び収率を表7に示した。
【0037】
【表7】

【0038】
図5および図6からも分かるように、pH7の酢酸エチル画分およびブタノール画分に顕著な発芽抑制効果が認められることから、ヒノキ葉に含有される物質のうち、水にやや溶け易くアルカリ性〜中性の脂溶性物質が発芽抑制物質であることが明らかにされた。また、表7の結果から、絶乾状態の葉中に含有される植物発芽抑制成分の割合は、pH7酢酸エチル画分及びブタノール画分の合計収率から判断して、約9%であり、試験I〜VIIの結果と比較した結果、ヒノキ科葉粉末を土壌表面に散布する場合、該植物発芽抑制物質が20g/m2以上散布されていることになり、また土壌に混合する場合は、該植物発芽抑制物質が0.8g/l以上混合されていることが明らかになった。
【0039】
(9)植物発芽抑制試験IX
上記植物発芽抑制試験VIIIの結果から、ヒノキ葉に含有される物質の中、水にやや可溶性の物質に発芽抑制効果があることが明らかにされた。本試験では水に可溶性であることを証明するため、ヒノキ葉から水による抽出を行い、発芽試験を行った。
採取したヒノキ葉を、60℃で通風乾燥させ絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状に加工した。この粉末50gを蒸留水1L中で攪拌した後、超音波処理を行った。処理後、2枚重ねのガーゼでろ過を行い、抽出液1を得た。また、高温でも変質且つ揮発しないことを検証するため、抽出液1を121℃、1.21atmに設定した高温高圧滅菌機中で20分間処理し、抽出液2を作製した。また、抽出液1を吸引ろ過し、抽出液3を得た。各抽出液のECおよびpHは、蒸留水を用いて0.94mS/cmおよび5.63に調整した。調整後、各抽出液をバットに入れ、そこに脱脂綿(縦6cm×横6cm×厚さ0.5cm)を10秒間浸漬した後取り出し、風乾した。浸漬と風乾の操作を1回のみ行ったものと、3回繰り返したものを作製し、風乾した脱脂綿はシャーレ内に敷き、蒸留水10mlを添加した。蒸留水を添加した脱脂綿上に白クローバーの種子10粒を播種し、25±2℃に設定した恒温室内で育成した。3日後の発芽率、幼根長および胚軸長を測定した結果を図7に示した。
【0040】
図7から分かるように、水抽出液を加えた全処理区において発芽抑制効果が認められたことから、本資材の主成分である物質は水に可溶性であることが明らかになった。また、抽出液2においても顕著な発芽抑制効果が認められたことから、本資材の主成分である物質は高温高圧処理を施しても変質且つ揮発しない物質であることが確認された。
【0041】
(10)植物発芽抑制試験X
試験I〜IXにおいて、ヒノキ科の葉粉末に植物発芽抑制効果があることが解明された。そこで、本試験では葉の採取時期により抑制効果に差があるのか、また葉齢(若葉と古葉)で抑制効果に差があるのかを明らかにするため試験を行った。
採取時期の影響を検証する試験では、茨城県つくば市に植栽されたヒノキ成木のほぼ同じ高さの枝から、1、4、8および11月に葉を採取し、105℃の通風乾燥機中で乾燥させ、絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末化した。粉末粒径は、1mm以下であった。各月の葉から作製した粉末を用いて発芽試験を行った。透明プラスチック容器(縦12cm×横7cm×高さ4.5cm)の容器に赤玉土100mlを添加し、そこに水道水100mlを添加した。赤玉土上に白クローバーの種子20粒を播種した後、水道水を入れた霧吹きで各サンプルに約1mlの噴霧を種子上から行い、その後種子全てが覆われるように、ヒノキ葉粉末を476g/m2の密度で散布した。粉末散布後に、水道水を入れた霧吹きで各サンプルに約30mlの噴霧を粉末上から行った。試験には、各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。なお、処理区1は種子上から粉末を散布せず、そのまま育成を行った。発芽結果を図8に示した。
【0042】
また、葉齢の影響を検証する試験では、茨城県つくば市に植栽されたヒノキ成木の新梢から若葉を、また古枝から古葉を採取し、105℃の通風乾燥機中で乾燥させ、絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末化した。粉末粒径は、1mm以下であった。作製した粉末を用いて、発芽試験を行った。透明プラスチック容器(縦12cm×横7cm×高さ4.5cm)の容器に赤玉土100mlを添加し、そこに水道水100mlを添加した。赤玉土上に白クローバーの種子20粒を播種した後、水道水を入れた霧吹きで各サンプルに約1mlの噴霧を種子上から行い、その後種子全てが覆われるように、ヒノキ葉粉末を476g/m2の密度で散布した。粉末散布後に、水道水を入れた霧吹きで各サンプルに約30mlの噴霧を粉末上から行った。資材が試験には、各処理区同サンプルを3つずつ用意し、3サンプルの平均値を各処理区のデータとした。なお、処理区1は種子上から粉末を散布せず、そのまま育成を行った。発芽結果を図9に示した。
図8及び9に示した結果から明らかなように、葉の採取時期及び葉齢は植物発芽抑制効果に影響を与えることはなかった。
【0043】
(11)屋外植物発芽抑制試験XI
2年間空き地になっていた場所に、図10のような試験区を設置し試験を行った。各処理区の大きさは、1m×1mとした。4月初旬、全ての処理区において、試験前に既存の植物を全て人力で除去し、さらに深さ10cmの耕耘を行った後、以下の処理を行った。処理区1および2は、無処理のままとした。処理区3および4では、粒径1mm以下のヒノキ葉乾燥粉末を土壌表面に600g/m2で散布した。処理区5および6では、粒径1mm以下のヒノキ葉乾燥粉末を25kg/klで混合した。3ヵ月後に各処理区における出現植物の種類と個体数および乾燥重量を測定した。結果を図10および図11に示した。なお、コントロール区とは、雑草除去も行わず、そのまま放置した区である。
【0044】
図10および図11からも分かるように、ヒノキ葉粉末は屋外においても安定した植物発芽抑制効果を発揮することが認められた。
【0045】
(発明の効果)
本発明によれば、未利用材であったヒノキ科の葉を植物発芽抑制資材として有効利用することができる。また、ヒノキ樹皮を主な構成成分とする植物発芽抑制資材と比較し、本発明資材の抑制効果は非常に高い。更には、本発明を用いることにより、これまで用いられてきた除草剤の使用量の低減化が図れ、人体および環境への影響が少ない雑草の発芽を抑制するための資材を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ科の葉粉末を主な構成成分とする植物発芽抑制資材であって、該植物発芽抑制資材を対象とする土壌表面に散布及び/又は土壌に混合することにより、あるいは対象とする水中に浸漬することにより、植物の発芽を抑制することを特徴とする植物発芽抑制方法に用いるための、植物発芽抑制資材。
【請求項2】
植物発芽抑制資材を、土壌表面に該葉粉末が200g/m以上となる量で散布及び/又は土壌に該葉粉末の濃度が10g/l以上となる量で混合する植物発芽抑制方法に用いるための、請求項1に記載の植物発芽抑制資材。
【請求項3】
植物発芽抑制資材を孔隙を有する容器に封入して対象とする水中に浸漬する植物発芽抑制方法に用いるための、請求項1に記載の植物発芽抑制資材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−298814(P2009−298814A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222109(P2009−222109)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2002−252567(P2002−252567)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】