説明

植生緑化装置の接続方法

【課題】既設土留構造物と張出部材の間の収納空間に植生のための客土を収納することで、張出部材に土圧が作用し滑動や転倒しようとすることから、これを防止するため既設土留構造物と張出部材を接続せしめることにおいて、既設の土留構造物に損傷を与えず、容易な施工方法でかつ低コストでせしめる接続装置を提供することを目的とする。
【解決手段】コンクリートやプラスチック、樹脂等で成る接続部材を接着剤により既設の土留構造物の表面に接着し一体化せしめ、接続部材に加工された係止部に張出部材の横材を挿入または縦材挿通させ、既設の土留構造物と張出部材を接続部材を介して接続せしめることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートや石積みおよび鋼材などによって構築された擁壁や橋台、橋脚、ダム、堰、トンネル坑口などの土留構造物の表面を植生緑化するための装置に係り、特に既設土留擁壁と張出部材の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植生緑化装置の構造としては、図16に示すものがある。既設土留構造物と張出部材の間の収納空間に植生のための客土を収納することで張出部材に土圧が作用し滑動や転倒しようとする力に対して抵抗し得るために、既設土留構造物と張出部材を接続せしめる手段が考えられた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3080496号公報(第5−9頁、第5図)
【0004】
図16に示すように、従来の技術ではたとえば接続部材であるホールインアンカー31を既設構造物21に埋め込み先端を突出させておき、この先端部分と溶接金網で形成された張出部材22の多くの縦材42とを溶接プレート36を介して現場で溶接することにより接続せしめている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、張出部材22の滑動や転倒防止対策として行われてきたホールインアンカー方式は、ホールインアンカー31を既設土留構造物21に埋設させるためには、先ず、埋設位置にドリル等で削孔せしめ、削孔した孔35にホールインアンカー31を埋設し既設土留構造物21と一体化させるものであり、このような手段では、多数のホールインアンカー31を使用することや削孔位置を決定するための精密さ、削孔の手間、ドリル等による削孔時の衝撃や充填剤の膨張による既設土留構造物21への損傷等、場合によっては削孔部35からひび割れが生じ既設構造物21が破壊に至ることも懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、このような不都合を解消すべく、本発明は、例えばコンクリートやプラスチック、樹脂等で成る接続部材24を接着剤23を用いて既設の土留構造物21の表面34に接着し一体化せしめ、接続部材51に加工された縦溝52および係止部となる横溝53に張出部材22の縦材42および係止部材となる横材43を挿入させ、既設の土留構造物21と張出部材22を接続部材51を介して接続せしめることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、既設の土留構造物の表面34の所定の位置に接続部材24を接着剤23で接着し一体化させることで、従来技術のようなホールインアンカー埋設用のための削孔35の必要がないことから、既設の土留構造物21に損傷を与えず、さらに接着剤23を用いることで施工も容易になり施工スピードが向上、すなわち低コストで接続できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
接着剤23を用いて接続部材24を既設の土留構造物21と一体化させ、張出部材22を容易に接続せしめることに実現した。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図2は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。壁面を構成する張出部材22の1段あたりの高さは略45cmから60cm程度である。張出部材22を1段敷設する毎に既設の土留構造物との間の収納空間32に植生用の客土33を収容させ転圧し所定の1段高さに整正し、同じ手順を繰り返し張出部材22を積重させることにより植生緑化装置が完成される。張出部材22と収納空間32に収容された客土33は土構造物となり、張出部材22には土圧力が作用し前方へ抜け出そうとする力が作用する。このような土圧力には既設の土留構造物21と張出部材22を一体化することで抵抗し得ることが可能となり、その手段として接続部材24を介することで土圧力に抵抗し得る強固な植生緑化装置20を構築することができる。
【0010】

接続部材24と既設の土留構造物21は接着剤23を用いて一体化せしめる。接着剤23の効果を最大限に得るために既設の土留構造物の表面34の汚れを落としておく必要があり、張出部材22が敷設される位置はあらかじめ研磨しておく。次に、接続部材23が接着される表面位置に接着剤23を塗布し、接続部材24を接合させる。このとき、接続部材24の背面側に接着剤23を塗布してもよい。このとき使用する接着剤は耐久性や強度および接着力等を考慮しエポキシ系樹脂材料を用いることが望まれる。エポキシ樹脂は硬化剤と組み合わせた二液混合タイプが一般的で、種々の硬化剤を選択することによりコンクリートと鉄製品の接着やコンクリート同士の接着を効果的に行うことができる。
【0011】
次に、本発明の溝型接続部材51を用いた接続方法について図2および図3を参照しつつ説明する。
図2は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。図3は溝型接続部材51を示す断面図である。溝型接続部材51の上面には延長方向に略矩形状の横溝53が開放され、土圧が作用する方向に等間隔で略矩形状の縦溝52が開放されている。縦溝52の間隔は張出部材22の縦材42の間隔と等しく配置され、該縦材42が挿入される。係止部となる横溝53には張出部材22の横材43が挿入され、横材43を係止することで接続部材51と張出部材22が接続され、すなわち既設の土留構造物21と張出部材22が接続部材51を介して一体化された。
【0012】
接続部材51はコンクリートやプラスチック、樹脂等で成型され、既に製造工場において溝加工された部材を搬入するため、施工現場における作業は容易である。
【0013】
次に、本発明の開孔型接続部材61を用いた接続方法について図4および図5を参照しつつ説明する。
図4は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。図5は接続部材61の断面図である。略円筒状の開孔部62は張出部材22の縦材42の端部を折り曲げて挿通し係止させる係止部となり、張出部材縦材42と同じ間隔で同じ数だけ配置されている。既に略円形状に穴あけ加工された略矩形状の開孔型接続部材61を既設の土留構造物21の表面34の所定の位置に接着固定させる。接着の方法は上述と同じ方法でよい。張出部材22は溶接金網工場で製作される段階で縦材42端部を下向きにおよそ90度に折り曲げ加工しており、施工現場に搬入された張出部材22は何ら加工することなく敷設することができる。また、折り曲げ加工された張出部材22の縦筋42の端部を接続部材61の開孔部62に挿通後、抜け出し防止のためにセメントモルタルや樹脂系モルタル等で固化し一体化させると尚良い。
【0014】
次に、本発明の切欠き型接続部材71を用いた接続方法について図6および図7を参照しつつ説明する。
図6は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。図7は接続部材71の断面図である。接続部材71の背面側には張出部材22の縦材42の端部を折り曲げて挿通し係止させる略矩形状の切欠き部72を有し、張出部材縦材42と同じ間隔で同じ数だけ配置されている。既に略矩形状に切欠き加工された略矩形状の開孔型接続部材71を既設の土留構造物21の表面34の所定の位置に接着固定させる。接続部材71の接着方法は上述と同じ方法でよい。
【0015】
次に、本発明の深溝型接続部材81を用いた接続方法について図8および図9を参照しつつ説明する。
図8は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図ある。図9は接続部材81の断面図である。略矩形状に延長方向に開放された深溝82を有し、張出部材22の縦材42の端部を折り曲げて挿通し係止させる係止部となる。既に略矩形状に延長方向に開放され深溝加工された略矩形状の開孔型接続部材81を既設の土留構造物21の表面34の所定の位置に接着固定させる。接続部材81の接着方法は上述と同じ方法でよい。
【0016】
深溝82が延長方向に開放されているため、折り曲げ加工された張出部材22の縦材42の端部は延長方向のどの位置にも取り付けが可能となり、接続部材81の精密な取り付け位置を考慮する必要がなく、容易に既設の土留構造物21の表面34に接着固定することができる。
【0017】
次に、本発明の挟み込みキー接続部材91を用いた接続方法について図10、図11および図12を参照しつつ説明する。
図10は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。図11は挟み込みキー接続部材91を示す断面図である。略矩形状に延長方向に開放された係止溝92を有し、図12に示す挟み込みキー93の係止部95を係止溝92に挿入し係止される。
【0018】
接続方法は、張出部材22の端部を接続部材91の上方に設置し、このとき張出部材の端部横材43は接続部材係止溝92の後方に配置させる。次に挟み込みキー93を張出部材縦材42が挟み込みキー切り欠き部94に収まるように上方から挟み込みキー係止部95を接続部材係止溝92に挿入することで、接続部材91と張出部材22を一体化せしめる。接続部材91の接着方法は上述と同じでよい。
【0019】
次に、本発明のH型鋼接続部材96を用いた接続方法について図13、図14および図15を参照しつつ説明する。
図13は本発明の実施の一形態の接続方法を示す斜視図である。図14はH型鋼接続部材96を示す断面図である。図15に示すH型鋼の斜視図に示すように、一般的に市販されているH型鋼材のフランジ部の一部を切り欠くことで張出部材22の縦材42をフランジ切り欠き部に、張出部材22の横材43を横材収納部に収め、フランジ係止部98で係止せしめる。このとき、H型鋼接続部材96のかわりにこれも一般的に利用ケースが多い溝型鋼を用いても良い。接続部材96の接着方法は上述と同じ方法でよい。
【0020】
以上のようにして、比較的容易な構成で接続部材を安価に製造して、既設のコンクリート擁壁や橋台、橋脚、ダム、堰、トンネル坑口等ののり面を緑化することができる。しかも、既設の土留構造物に限らず新設のコンクリート構造物の前面を緑で覆うことができ、大掛かりな緑化工事を必要とせずあらゆるコンクリート構造物に有利に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
既設の土留め構造物と張出部材を用いた植生緑化装置に関して、収納空間に客土を収容した場合に張出部材に作用する土圧に対して抗するためには、既設の土留構造物と張出部材を一体化させるための接続装置が必要不可欠である。接続装置を介する方法として、本発明の接続部材および接続部材の接着方法を適用することによって、山間部や緑地帯には付近に適した緑の壁面を、また近年の都市におけるヒートアイランド現象による気温の上昇により摂氏35度を超える日が多く続く環境を、屋上緑化や保水性アスファルト舗装のみならずビルの壁面や塀を本発明の実施により緑化することで温暖化を防止し都市にオアシスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の一形態を示す植生緑化装置の全体図である。
【図2】本発明の溝型接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図3】本発明の溝型接続部材を示す断面図である。
【図4】本発明の開孔型接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図5】本発明の開孔型接続部材を示す断面図である。
【図6】本発明の切欠き型接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図7】本発明の切欠き型接続部材を示す断面図である。
【図8】本発明の深溝型接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図9】本発明の深溝型接続部材を示す斜視図である。
【図10】本発明の挟み込みキー接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図11】本発明の挟み込みキー接続部材を示す断面図である。
【図12】本発明の挟み込みキーを示す斜視図である。
【図13】本発明のH型鋼接続部材を用いた植生緑化装置の一部を示す斜視図である。
【図14】本発明のH型鋼接続部材を示す断面図である。
【図15】本発明のH型鋼接続部材を示す斜視図である。
【図16】従来の植生緑化装置の既設土留構造物と張出部材の接続を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
20 植生緑化装置
21 既設の土留構造物
22 張出部材
23 接着剤
24 接続部材
31 ホールインアンカー
32 収納空間
33 客土
34 既設の土留構造物の表面
35 削孔部
36 溶接プレート
37 水抜き孔
41 植物
42 縦材
43 横材
51 溝型接続部材
52 縦溝
53 横溝
61 開孔型接続部材
62 開孔部
71 切欠き型接続部材
72 切欠き部
81 深溝型接続部材
82 深溝部
91 挟み込みきー接続部材
92 係止溝
93 挟み込みキー
94 挟み込みキー切り欠き部
95 挟み込みキー係止部
96 H型鋼接続部材
97 フランジ切り欠き部
98 フランジ係止部
99 横材収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設土留構造物の表面と、延長方向に間隔をあけて配置される複数の張出部材と、土留構造物の表面と張出部材の間に収納される客土からなる植生緑化装置であって、既設土留構造物と張出部材の接続に際して、既設土留構造物表面に接着剤を用いて接続部材を接着固定し、一体化せしめることを特徴とする植生緑化装置の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−45903(P2006−45903A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228139(P2004−228139)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(592233439)株式会社ジオシステム (10)
【Fターム(参考)】