説明

検体浮遊液組成物、キット及び検査方法

【課題】 コロイド凝集法を用いた検体の検査方法において、偽陽性の発生を防止し、被測定物の精度の高い検出を可能にする検体浮遊液組成物、これを含む被測定物の検出キット、及び被測定物を検出する方法を提供すること。
【解決手段】 コロイド物質を標識物質として使用し、被検試料中の被測定物を検出するアッセイ法に用いる検体浮遊液組成物であって、界面活性剤を含み、pHが3〜8であることを特徴とする検体浮遊液組成物、これを含む被測定物の検出キット、及び被測定物を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコロイド物質を標識物質として用いる測定法に使用する検体浮遊液組成物、それを用いた被測定物の検出キット、及び被測定物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、抗原抗体反応や酵素反応等を利用した、ウイルスや細菌等の病原体への感染、妊娠の有無、血糖値など様々な測定項目を数分から数十分の短時間で検出あるいは定量する簡易検査試薬またはキットが開発されている。病原体構成蛋白質、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)、血糖等が検出あるいは定量の対象である。簡易検査試薬の多くは、特別な設備を必要とせず操作も簡単で安価であるという特徴を有しており、例えば、妊娠診断のための簡易検査試薬はOTCとして一般薬局で販売されている。また病原体への感染を測定する簡易検査試薬の一部は、他の検査試薬と異なり、大病院や医療検査センター以外にも一般の病院や診療所で広く使用されている。これらの施設は患者が最初に訪れる医療機関である場合が多く、患者から採取した検体についてその場で感染の有無が判明すれば、症状が早期のうちに治療措置を施すことができるため、簡易検査試薬の医療における重要性は益々高まってきている。
【0003】
現在、簡易検査方法として、免疫測定法、すなわち免疫凝集法やイムノメンブレンアッセイ法、特にニトロセルロース等の膜やフィルター等のメンブレンを用いたアッセイ方法が一般に知られており、これらはフロースルー式とラテラルフロー式メンブレンアッセイ法に大別される。前者は被測定物を含む溶液を被測定物に対する検出用物質が塗布された膜を垂直方向に通過させるものであり、後者は水平方向に展開させるものである。いずれの場合も被測定物に特異的に結合する膜固相物質、被測定物、被測定物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被測定物の検出あるいは定量を行うという点で共通している。
【0004】
標識物質としてはアルカリフォスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイドのような金属コロイド及び着色ラテックスがよく用いられる。酵素を用いる場合には被測定物が存在すると酵素の作用により基質分子の構造の一部が変化して着色するので、この着色を測定する。一方、金属コロイドや着色ラテックスを用いる場合には、これらの標識物質が凝集することによって着色が生じるので、この着色を測定する。酵素を用いる場合には、測定ステップの中に基質を添加する工程及び酵素と基質の反応を停止させる工程が必要なのに対して、金属コロイドや着色ラテックスを用いる場合にはそのような工程を必要としない。近年、インフルエンザなど流行期に大量の検査数が発生する項目では臨床現場での迅速測定が行われている。この目的に使用される簡易検査試薬は現場の医師、看護婦、臨床検査技師等によって扱われるケースが多いため、測定ステップを一層簡略化することが求められている。これに答えるためには金属コロイドや着色ラテックスを用いる方が便利な場合が多い。金属コロイドとしては金コロイド、白金コロイド、銀コロイドやセレニウムコロイド等が用いられるが、特に金コロイドは以前より作製法、物性が研究されており、抗体や抗原のような生体関連物質の標識物質として多用されている。着色ラテックスではポリスチレン粒子等がよく用いられる。
【0005】
しかし、このような簡易検査方法では、患者から実際に採取された検体の分析において、被測定物が検体中に存在しないにも係わらず陽性と判定してしまう、いわゆる偽陽性が生じることがある。病原体の感染を測定する際に偽陽性反応が発生すると、疾患に関して誤った情報を与えるため、原因特定を遅らせるばかりでなく、不適切な措置を講じることになり病状がより重篤になる等の重大な結果をもたらすこともあり得る。したがって偽陽性を抑えることは簡易検査方法の主要な使用目的から見て、極めて重要な課題である。従来、この問題を解決するため、検体を浮遊あるいは希釈させる緩衝液として界面活性剤を含有する緩衝液を用いたりするなどの工夫がなされてきたが、必ずしも満足のゆくものではなかった。特に金属コロイドや着色ラテックスのようなコロイド物質を標識物質として用いた場合には、これらはもともと凝集しやすい性質を有しているため、偽陽性も発生しやすい傾向にあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コロイド物質を標識物質として用いる検体の簡易な検査方法において、偽陽性の発生を防止し、被測定物の精度の高い検出あるいは定量を可能にする検体浮遊液組成物及びその検体浮遊液組成物を用いた被測定物の検出キット、被測定物を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コロイド物質を標識物質として用いる被測定物の検出・定量法を行うにあたり、被測定物を含有する可能性がある検体を浮遊あるいは希釈するのに用いる検体浮遊液組成物として、界面活性剤を含み、pHが3〜8である検体浮遊液組成物を用いることにより、感度が保たれつつ偽陽性の発生が大きく抑制されることが見出された。本発明はこの知見に基づいて完成されたものであり、以下の検体浮遊液、被測定物の検出キット及び被測定物の検出方法を提供するものである。
【0008】
1.コロイド物質を標識物質として使用し、被検試料中の被測定物を検出するイムノアッセイ法に用いる検体浮遊液組成物であって、界面活性剤を含み、pHが3〜8であることを特徴とする検体浮遊液組成物。
2.さらに塩基性アミノ酸を含む上記1記載の検体浮遊液組成物。
3.塩基性アミノ酸がアルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その濃度が0.1〜30(W/V)%である上記2記載の検体浮遊液組成物。
4.界面活性剤の濃度が0.01〜20(W/V)%である上記1〜3のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
5.界面活性剤が非イオン性界面活性剤である上記1〜4のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
6.さらに200mM未満の無機塩類を含む上記1〜5のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
7.アッセイ法がイムノアッセイ法である上記1〜6のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
8.アッセイ法が被測定物と特異的に結合する物質を感作(接触、付着)した担体を用いる上記1〜7のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
9.アッセイ法がメンブレンアッセイ法である上記1〜8のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
10.被測定物がウイルスである上記1〜9のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
11.上記1〜10のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物を備えた被測定物の検出キット。
12.上記1〜10のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物又は上記11記載の検出キットを用いることを特徴とする被測定物の検出方法。
【0009】
本発明は、コロイド物質を標識物質として用いる被測定物の検出・定量法を行うにあたり、被測定物を含有する可能性がある検体を浮遊あるいは希釈するのに用いる検体浮遊液組成物であって、界面活性剤を含み、pHが3〜8であることを特徴とするものである。
本発明の検体浮遊液組成物はさらに塩基性アミノ酸、200mM未満の無機塩類を含有することが好ましい。
本発明の検出キットは、コロイド物質を標識物質として用いた、検体試料中の被測定物の存在を検査するための簡易メンブレンアッセイキットであり、上記検体浮遊液組成物、及び被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の検体浮遊液組成物、キット、これを用いた方法により、偽陽性の発生を効果的に防止ないし低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳しく説明する。
(検体浮遊液組成物)
検体浮遊液組成物とは、患者や環境等から採取した被測定物を含む可能性がある検体を浮遊または懸濁するための溶液であり、該検体を浮遊または懸濁した浮遊液はアッセイ装置に滴下されて、アッセイに供される。
採取検体には被測定物以外にも様々な物質が含まれている。例えば、病原体感染測定のため、人から検体を採取する際には鼻腔や咽頭より綿棒等で採取することが多いが、この検体中には患者由来の組織片や分泌物の他、被測定物である病原体の組織が含まれている場合がある。これらの一部は検体浮遊液組成物中に凝集物として存在し、一部は検体浮遊液組成物中に溶解した状態で存在する。これらを含んだ状態で検体浮遊液組成物をアッセイ装置に滴下すると、非特異反応により偽陽性が発生する場合がある。凝集物を除去するためにはアッセイ装置に滴下する前に濾過用のメンブレンを通過させて濾過する方法が有効であるが、溶解物の場合、濾過により除去することはできないので、偽陽性を発生させない様な組成の検体浮遊液組成物が必要である。本発明の検体浮遊液組成物はような偽陽性の発生を防止ないし低減するために使用するものである。
【0012】
本発明の検体浮遊液組成物を用いる、被測定物を含む可能性がある検体の測定原理の例としては、ラテックス凝集反応法、金属コロイド凝集反応等が挙げられる。標識物質としてコロイド物質を用い、被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置に検体浮遊液組成物を滴下して、前記液中の被測定物の存在を検出あるいは定量する簡易メンブレンアッセイ法に対しては特に効果的である。
【0013】
(界面活性剤)
本発明の検体浮遊液組成物に使用する界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等、任意の界面活性剤を使用できるが、少なくとも一種類の非イオン性界面活性剤が含まれていることがより好ましい。特に特異的(抗原抗体)反応への影響の少ない非イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤としてはポリアルキレンオキサイド基を分子中に有するポリアルキレンオキサイド誘導体が挙げられる。ポリアルキレンオキサイド基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。ポリアルキレンオキサイド基のアルキレンオキサイドの繰り返し数は、通常6〜20程度であり、6〜12が更に好ましい。ポリアルキレンオキサイド誘導体としては、具体的には、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル等のポリオキシエチレンアリールエーテル類、ポリオキシエチレンメチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリ・オキシエチレン−ポリ・プロピレン縮合物が挙げられる。特に好ましいポリアルキレンオキサイド誘導体としては、特異的反応への影響が少ないポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが挙げられる。
【0014】
本発明の検体浮遊液組成物中の界面活性剤の濃度は、0.01(w/v)%〜20(w/v)%が好ましく、0.2(w/v)%〜5(w/v)%がより好ましい。この濃度範囲が好ましい理由は、濃度が低いと期待される効果が十分に得られない場合があり、また濃度が高いと特異的(抗原抗体)反応を阻害したり、逆に非特異的反応を誘発・促進する場合があるからである。
【0015】
本発明の検体浮遊液組成物のpHは、3〜8であり、好ましくは5〜8である。
pHが3未満又は8超では、偽陽性の発生率が高くなり、本発明の所期の目的が達成されない。また、浮遊液中の被測定物の安定性が損なわれるおそれがある。
pHを3〜8に保つための緩衝剤としては、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝剤、グッドの緩衝剤等が好適に使用できるがそれらに限定されない。本発明の検体浮遊液組成物中の緩衝剤の濃度は通常、10〜50mMが適当である。
【0016】
(塩基性アミノ酸)
本発明の検体浮遊液組成物は塩基性アミノ酸を含むことが好ましい。本明細書において、塩基性アミノ酸とは、塩基性側鎖を有するアミノ酸を意味する。好ましい塩基性アミノ酸としてはアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチンまたはシトルリン等が挙げられる。本発明の検体浮遊液組成物はアルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アルギニンを含むことがさらに好ましい。
【0017】
検体の種類(例えば、患者由来の脱離・剥離細胞等、あるいはそれら細胞から放出された細胞成分を含むような検体)によっては反応中に不要な凝集塊(凝集物)が形成され、これが非特異的な反応の原因となる場合があるが、塩基性アミノ酸はこれら凝集を抑制する凝集抑制剤としての作用も期待できる。従って、このような検体の検出を行う場合には、本発明の検体浮遊液組成物においても塩基性アミノ酸を含むことがより好ましい。
本発明の検体浮遊液組成物中の塩基性アミノ酸の濃度は、0.1〜30(W/V)%であることが好ましく、1〜10(W/V)%であることがさらに好ましい。
0.1(W/V)%未満では本発明の所期の効果が達成されない場合があり、30(W/V)%超では、特異的(抗原抗体)反応を阻害する場合がある。
【0018】
(無機塩類)
本発明の検体浮遊液組成物は、さらに無機塩類を含むことが好ましい。無機塩類を含むことにより、非特異反応が低減されるという効果が奏される。
無機塩類としては、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セシウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物等の無機化合物のうち水溶性のもの及びそれらを組み合わせたものが好適に用いられるがそれらに限定されない。塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等が好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。
本発明の検体浮遊液組成物中の、無機塩類の濃度は好ましくは200mM未満であり、より好ましくは10〜100mMである。200mMを超えると偽陽性の発生率が高くなり、10mM未満でも、200mMを超えた場合と同様、偽陽性の発生率が高くなるという傾向がある。
【0019】
(タンパク質)
本発明の検体浮遊液組成物にはその他、浮遊液中の被測定物の安定化を目的として、ウシ血清アルブミン、ゼラチン等のタンパク質を含有させることも可能である。その濃度は通常、0.1〜5(W/V)%が適当である。
【0020】
(コロイド標識化検出試薬)
本明細書において、検出試薬とは、被測定物に特異的に結合し、被測定物と複合体を形成しうるものである。また、コロイド標識化検出試薬とは、被測定物と複合体を形成した後にコロイド状物質で検出可能なように標識された検出試薬を意味する。例えば、被測定物がウイルス等の抗原物質である場合には、そのウイルスに対する抗体であって、金コロイド等で標識化された抗体が挙げられる。標識化される前の検出試薬としては、捕捉試薬について後述するものと同じものが挙げられる。標識物質には、金コロイド、白金コロイド、銀コロイド、セレニウムコロイド等の金属コロイドや着色ポリスチレン等の着色ラテックス等が挙げられる。
【0021】
(被測定物)
本明細書にいう被測定物にはインフルエンザウイルス抗原、アデノウイルス抗原、RSウイルス抗原、HA抗原、HBc抗原、HCV抗原、HIV抗原、EBV抗原、NLV抗原等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス抗原、溶連菌抗原、百日咳菌抗原、ヘリコバクター・ピロリ抗原、レプトスピラ抗原、トレポネーマ・パリダム抗原、トキソプラズマ・ゴンディ抗原、ボレリア抗原、炭疽菌抗原、MRSA抗原等の細菌抗原、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト繊毛性ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミンB類等のビタミン類、プロスタグランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、細菌等が産生する毒素、各種腫瘍マーカー、農薬、抗大腸菌抗体、抗サルモネラ抗体、抗ブドウ球菌抗体、抗カンピロバクター抗体、抗ウェルシュ菌抗体、抗腸炎ビブリオ菌抗体、抗ベロトキシン抗体、抗ヒトトランスフェリン抗体、抗ヒトアルブミン抗体、抗ヒト免疫グロブリン抗体、抗マイクログロブリン抗体、抗CRP抗体、抗トロポニン抗体、抗HCG抗体、抗クラミジア・トラコマティス抗体、抗ストレプトリジンO抗体、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体、抗β-グルカン抗体、抗HBe抗体、抗HBs抗体、抗アデノウイルス抗体、抗HIV抗体、抗ロタウイルス抗体、抗インフルエンザウイルス抗体、抗パルボウイルス抗体、抗RSウイルス抗体、抗RF抗体、病原微生物に由来する核酸成分に相補的なヌクレオチド等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明の検査方法により分析するための検体試料は、咽頭あるいは鼻腔拭い液を本発明の検体浮遊液組成物に浮遊させた溶液、鼻腔吸引液、便懸濁液、血漿、血清、尿、唾液、羊水、髄液、膿、臓器抽出液、各種組織抽出液等の生体試料、食品抽出液、培養上清、上水、下水、湖水、河川水、海水、土壌抽出液、汚泥抽出液等を本発明の検体浮遊液組成物に浮遊させた溶液又は本発明の検体浮遊液組成物で希釈した溶液を用いることができる。
【0023】
(簡易メンブレンアッセイ法)
本明細書において“簡易メンブレンアッセイ法”とは、被測定物に特異的に結合する捕捉試薬が固相化されたメンブレンを含むアッセイ装置を用いて検体試料中の被測定物の存在の有無を短時間に簡便に検査する方法である。典型的には、被測定物と、捕捉試薬及び標識化検出試薬を反応させてサンドイッチ状の複合体をメンブレン上に形成させ、前記標識物を検出することによりこの複合体の存在を検出する方法である。被測定物と捕捉試薬及び標識化検出試薬との反応としては、抗原抗体反応、その他の受容体とレセプターの反応、ビオチンとアビジンの特異的結合反応、相補的配列を持つDNA同士の反応等が挙げられる。また、本発明の簡易検査方法は、このような方法に用いるものであれば、被測定物、メンブレンの種類について限定されるものではない。
【0024】
本発明を適用するメンブレンアッセイ法は、2種類のメンブレンイムノクロマトグラフ法、すなわちフロースルー式メンブレンアッセイ法またはラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用するものであることが、簡便かつ迅速であるため好ましい。フロースルー式メンブレンアッセイ法は被測定物を含む溶液を、被測定物と特異的に結合する捕捉試薬や検出用物質が塗布されたメンブレンに対して垂直方向に通過させるものであり、被測定物に特異的に結合する捕捉試薬、被測定物、被測定物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被測定物の検出あるいは定量を行う。ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法は、同様なメンブレンを用いて、メンブレンに対して被測定物を含む溶液を水平方向に展開させる点でフロースルー式メンブレンアッセイ法と異なるが、被測定物の検出原理は同様である。
【0025】
メンブレンアッセイ装置中のメンブレンとしては、紙やニトロセルロースなどの多孔質物質、または繊維状マトリクス、薄層クロマトグラフに用いられるシリカ、微細顆粒セルロース、ナイロン6,6などの一定の粒子径の粒子を捕捉できる担体を挙げることができる。好ましい多孔質物質としては、微多孔質セルロースエステル、たとえばアルカンカルボン酸などの脂肪族カルボン酸とのセルロースエステルが挙げられ、特に好ましくはニトロセルロースから作られた微多孔質物質が挙げられる。また、前記セルロースエステルとニトロセルロースの混合物も好適に用いることができる。上記メンブレンは孔径0.3〜15μmのものが用いられることが多い。メンブレンの厚さは、通常、100〜200μm程度である。
【0026】
(捕捉試薬)
被測定物を捕捉するための捕捉試薬は、被測定物と、抗原抗体反応のような特異的反応により結合して、複合体を形成する物質である。従って、被測定物により使用する捕捉試薬が異なることは当然であるが、一般には被測定物が細菌、ウイルス、ホルモン、その他臨床マーカー等の場合には、これらに対し特異的に反応して結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等が挙げられる。そのほか、ウイルス抗原、ウイルス中空粒子、遺伝子組換え大腸菌発現タンパク質、遺伝子組換え酵母発現タンパク質等が挙げられる。このような捕捉試薬を上述したメンブレン表面に結合させる方法としては、物理的吸着であってもよく、または化学的な結合によるものであってもよい。捕捉試薬が結合したメンブレンの調製は、例えば、捕捉試薬を緩衝液等に希釈した溶液をメンブレンに吸着してその後乾燥することにより行われる。
【0027】
(簡易メンブレンアッセイキット)
本発明を適用可能な簡易メンブレンアッセイキットは、上述した本発明の簡易メンブレンアッセイ法に用いるキットである。本発明の簡易メンブレンアッセイキットは少なくとも以下のイ、ロ、ハを含む。
イ.検体浮遊液組成物
ロ.コロイド標識化検出試薬、及び
ハ.被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレン。
本発明のキットはさらに必要により、濾過フィルター、洗浄液組成物を含んでいてもよい。また、必要に応じて、キットの活性を検査するためのバッファーのみからなる陰性コントロール液、抗原性物質などの被測定物を含むバッファーからなる陽性コントロール液を含んでいてもよい。さらに、滅菌綿棒等の検体採取器具を含んでいてもよい。
【0028】
以下に、本発明の方法についてメンブレンアッセイを例に挙げ、より具体的な手順を示し、本発明を説明するが、本発明の適用可能範囲はこの限りではない。
1.フロースルー式メンブレンアッセイ
(1)ウイルスや細菌等に感染した患者の咽頭あるいは鼻腔等から検体試料を採取する。拭い液を採取する場合には滅菌綿棒等を用いると便利である。また、鼻腔吸引液等は吸引カテーテルを用いることが多い。
(2)採取した検体試料を本発明の検体浮遊液組成物に浮遊あるいは希釈する。検体浮遊液組成物はポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブルな材質からなる滴下用チューブに入れると便利である。
(3)前記浮遊液又は希釈液(以下、単に「浮遊液」ともいう)を、被測定物に特異的に結合する標識化検出試薬と混合し、捕捉試薬/被測定物の複合体を形成させる。次に前記複合体を含む浮遊液を、メンブレンを備えたアッセイ装置中の被測定物に特異的に結合して被測定物を捕捉する捕捉試薬が結合したメンブレンに滴下して、被測定物/標識化検出試薬の複合体をメンブレン上に捕捉させる。この結果、メンブレン上に、捕捉試薬/被測定物/標識化検出試薬の複合体が形成される。
あるいは、被測定物を前記メンブレンに滴下して、捕捉試薬/被測定物の複合体をメンブレン上に形成させた後、標識化検出試薬を滴下して、捕捉試薬/被測定物/標識化検出試薬の複合体を形成させてもよい。
または、標識化検出試薬を乾燥状態にして、メンブレン上に配置し、前記浮遊液がメンブレンに滴下されると溶け出すようにしておけば、被測定物と標識化検出試薬は複合体を形成しながら、前記メンブレン上に捕捉され、メンブレン上で捕捉試薬/被測定物/標識化検出試薬の複合体が形成される。
いずれの場合においても、試料中に含まれる凝集物等を除去するため、前記滴下用チューブの先端等に濾過フィルターを装着してメンブレンに滴下前に濾過してもよい。
(4)前記複合体中の標識化検出試薬により、複合体の存在を検出することで、検体試料中の被測定物の有無を測定する。
【0029】
2.ラテラルフロー式メンブレンアッセイ
(1)ウイルスや細菌等に感染した患者の咽頭あるいは鼻腔等から検体試料を採取する。拭い液を採取する場合には滅菌綿棒等を用いると便利である。また、鼻腔吸引液等は吸引カテーテルを用いることが多い。
(2)採取した検体試料を本発明の検体浮遊液組成物に浮遊あるいは希釈する。検体浮遊液組成物はポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブルな材質からなる滴下用チューブに入れると便利である。
(3)前記浮遊液を、被測定物に特異的に結合する標識化検出試薬と混合し、捕捉試薬/被測定物の複合体を形成させる。次に前記複合体を含む浮遊液を、被測定物に特異的に結合して被測定物を捕捉する捕捉試薬がライン状に結合したメンブレンを備えたアッセイ装置中のメンブレンの捕捉試薬結合ラインから離れた場所に滴下する。被測定物/標識化検出試薬の複合体を含む浮遊液はメンブレン上を水平方向に展開してゆき、捕捉試薬の結合ラインに達するとそのライン上に、捕捉試薬/被測定物/標識化検出試薬の複合体が形成される。
あるいは、前記浮遊液と標識化検出試薬を個々に前記アッセイ装置中のメンブレンの捕捉試薬結合ラインから離れた場所に滴下してもよい。その際、滴下位置は同じでも別々でも構わない。
いずれの場合においても、試料中に含まれる凝集物等を除去するため、滴下用チューブの先端等に濾過フィルターを装着してメンブレンに滴下前に濾過してもよい。
(4)前記複合体中の標識化検出試薬により、複合体の存在を検出することで、検体試料中の被測定物の有無を測定する。
【実施例】
【0030】
[実施例1、比較例1]
フロースルー式イムノクロマトアッセイによるインフルエンザウイルスの検出
1.モノクローナル抗体の作製
(1)抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体(マウス)の作製
精製A型インフルエンザウイルス抗原を免疫し、一定期間維持したBALB/cマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol.256, p.495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。
得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、A型インフルエンザウイルスNP抗原固相プレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水からそれぞれ硫安分画法によってIgGを精製し、2種類の精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を得た。
【0031】
(2)抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体(マウス)
精製B型インフルエンザウイルス抗原を免疫し、一定期間維持したBALB/cマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol.256, p.495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。 得られた融合細胞(ハイブリドーマ)は、37℃インキュベーター中で維持し、B型インフルエンザウイルスNP抗原固相プレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水から硫安分画法によってIgGを精製し、2種類の精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を得た。
【0032】
2.標識抗インフルエンザ抗体の作製
(1)金コロイド標識抗A型インフルエンザ抗体の調製
10mLの金コロイドを取り、100mM炭酸カリウムでpHを7.0に調製した。抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち1種類を2mMホウ酸溶液で透析、遠心分離し精製後、2mMホウ酸溶液で100μg/mLの濃度になるように調製した。調製した抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体の最終濃度が10μg/mLとなる量を十分撹拌させながら金コロイドに加えた。5分後10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間ローテーターで撹拌した。全量を遠心管に移し、14000rpm、30分、4℃で遠心した。遠心後上清を吸引廃棄し、沈殿している金コロイドと抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体の感作されたものに、最終濃度が10mMトリス塩酸緩衝液、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む溶液1mLで浮遊した。
【0033】
(2)金コロイド標識抗B型インフルエンザ抗体の調製
10mLの金コロイドを取り、100mM炭酸カリウムでpHを7.0に調製した。抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち1種類を2mMホウ酸溶液で透析、遠心分離し精製し後、2mMホウ酸溶液で100μg/mLの濃度になるように調製した。調製した抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体の最終濃度が10μg/mLとなる量を十分撹拌させながら金コロイドに加えた。5分後10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間ローテーターで撹拌した。全量を遠心管に移し、14000rpm、30分、4℃で遠心した。遠心後上清を吸引廃棄し、沈殿している金コロイドと抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体の感作されたものに、最終濃度が10mMトリス塩酸緩衝液、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む溶液1mLで浮遊した。
【0034】
3.金コロイド標識抗体の乾燥化
(1)金コロイド標識抗A型インフルエンザ抗体の乾燥化
2.(1)で作製した金コロイド抗体を陽圧噴霧装置(BioDot社製、BioJet)を用いて8.0OD520、10μL/cmの濃度、及び速度で10mmx300mmのポリスチレン不織布に噴霧した。次いで減圧装置内で1時間減圧乾燥し、乾燥抗A型金コロイド抗体パッドとした。使用時には10mmx7mm間隔で裁断して用いた。
【0035】
(2)金コロイド標識抗B型インフルエンザ抗体の乾燥化
2.(2)で作製した金コロイド抗体を陽圧噴霧装置(BioDot社製、BioJet)を用いて8.0OD520、10μL/cmの濃度、及び速度で10mmx300mmのポリスチレン不織布に噴霧した。次いで減圧装置内で1時間減圧乾燥し、乾燥抗B型金コロイド抗体パッドとした。使用時には10mmx7mm間隔で裁断して用いた。
【0036】
4.メンブレンアッセイ装置の作製
AホールとBホールを有するメンブレンアッセイ装置を使用した。メンブレンとしては、孔径0.45μmを有するニトロセルロースメンブレン(サイズ2×3cm、厚さ125μm)を用いた。
2種の抗体溶液をニトロセルロースメンブランヘスポットして固定した。装置のAホールには精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの0.2mg/mLが含まれる溶液を12μL、Bホールには精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの1mg/mLが含まれる溶液12μLを0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過し、それぞれスポットした。抗体を希釈する緩衝液は10mMクエン酸緩衝液(pH4.5)を用いた。スポット後、45℃の乾燥室で40分間乾燥を行った。
次に、乾燥後のメンブレンアッセイ装置にAホールとBホールを有するアダプターを装着した。アダプターのAホールとBホールはそれぞれ、メンブレンアッセイ装置のAホールとBホールの形状に適合する形状になっており、底部はメンブレンに接触する。また、アダプターの底部のうち上記抗体がスポットされている位置に接する部分を除去し、開口部を設置した。アダプターのAホールに3.(1)で作製した乾燥抗A型金コロイド抗体パッド1枚を挿入し、Bホールに3.(2)で作製した乾燥抗B型金コロイド抗体パッド1枚を挿入し、インフルエンザウイルス検出用メンブレンアッセイ装置を作製した。
【0037】
5.インフルエンザウイルスの検出
(1)メンブレンアッセイ法による検出
臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者62人の鼻腔より一人の患者につき2本ずつ滅菌綿棒を用いて拭い液を採取し、1本をチューブに入れた浮遊液A(実施例1)1.5mL中に、もう1本を他のチューブに入れた浮遊液B(比較例1)1.5mL中に浮遊し、試験用試料を作製した。
(浮遊液Aの組成)
20mMリン酸緩衝液(pH6.0)
50mM塩化ナトリウム
4(W/V)% TritonX−100
5(W/V)% アルギニン塩酸塩
1.0(W/V)%ウシ血清アルブミン
(浮遊液Bの組成)
20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)
300mM塩化ナトリウム
4(W/V)% TritonX−100
5(W/V)% アルギニン塩酸塩
1.0(W/V)%ウシ血清アルブミン
【0038】
試料をそれぞれよく懸濁させた後、それぞれのチューブの先端に孔径0.45μmのPVDFメンブレン及び保留粒子径0.6μmのガラス濾紙メンブレンを積層してなるフィルターを有するろ過用ノズルを装着した。
検体試料をろ過用ノズルを通過して濾過した後、4.で作成したメンブレンアッセイ装置のアダプターのAホールとBホールにそれぞれ350μLずつ滴加し、アダプターの底部の開口部を通じてニトロセルロースメンブレンの下部に備えられた液体吸収部材に試料が完全に吸収されるまで放置した。次にアダプターを除去し、装置のAホールとBホールを鉛直上方から観察し、Aホールにのみ発色が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性、Bホールにのみ発色が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性、AB両ホールに発色が認められた場合にはA型及びB型インフルエンザウイルス陽性、AB両ホールとも発色が認められない場合は陰性と判定した。
【0039】
(2)RT−PCR法による検出
5−(1)で作製した試験用試料の残りを用いてRT−PCR法により検体中にインフルエンザウイルス遺伝子が存在するかを確認した。RT−PCR法は、清水の方法(感染症学雑誌、第71巻、第6号、p.522−526)で実施した。
(3)簡易メンブレンアッセイ法とRT−PCR法の比較
本発明の簡易メンブレンアッセイ法と上述したRT−PCR法の判定結果を表1及び表2に示す。RT−PCR法は感度及び特異性が極めて高い測定法であることが知られており、RT−PCR法の結果と異なる判定となった場合に偽陽性または偽陰性とみなした。
【0040】
表1 浮遊液Aを用いた場合の比較(実施例1)

※表内の数値は該当する検体数を示す。
【0041】
表2 浮遊液Bを用いた場合の比較(比較例1)

※表内の数値は該当する検体数を示す。
【0042】
浮遊液Aを用いた場合(実施例1)にはRT−PCR法による判定と比較すると偽陰性発生率は4.8%(62検体中3検体)であったが、偽陽性は見られなかった。
浮遊液Bを用いた場合(比較例1)は偽陰性発生率は4.8%(62検体中3検体)で浮遊液Aを用いた場合と変わらなかったが、偽陽性発生率が12.9%(62検体中8検体)であった(下線部分)。
【0043】
[実施例2、比較例2]
ラテラルフロー式イムノクロマトアッセイによるインフルエンザウイルスの検出
1.モノクローナル抗体の作製
(1)抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体(マウス)の作製
[実施例1、比較例1]1.(1)記載の方法と同様に作製した。
(2)抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体(マウス)
[実施例1、比較例1]1.(2)記載の方法と同様に作製した。
2.標識抗インフルエンザ抗体の作製
(1)金コロイド標識抗A型インフルエンザ抗体の調製
[実施例1、比較例1]2.(1)記載の方法と同様に作製した。
(2)金コロイド標識抗B型インフルエンザ抗体の調製
[実施例1、比較例1]2.(2)記載の方法と同様に作製した。
【0044】
3.インフルエンザウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置の作製
インフルエンザウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置のメンブレンfは、孔径5μmを有するニトロセルロースメンブレン(PuraBind、ワットマン社製、サイズ5×50mm、厚さ200μm)から成り、その一端(この端を下流端とする)から15mm離れたgの位置に精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの1mg/mlが含まれる溶液2.0μLをライン状(幅1.0mm)に塗布し、20mm離れたhの位置に精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかったもの0.2mg/mlが含まれる溶液2.0μLを、ライン状(幅1.0mm)に塗布した。その際、固相抗体を希釈する緩衝液には10mMクエン酸緩衝液(pH4.0)を用い、固相化する直前に0.22μmろ過を行った。塗布後、45℃の乾燥室で40分間乾燥を行った。
次に、部材を固定し、かつ強度を増すため、メンブレンの抗体塗布面の反対側にプラスチック製バッキングシートi(BioDot社製)を接着した。
次に、セルロース/ガラス繊維製パッド(WF1.5、ワットマン社製、7mm×10mm、厚さ1.4mm)に、2.(1)で作製した標識抗A型インフルエンザ抗体及び2.(2)で作製した標識抗B型インフルエンザ抗体をそれぞれ、2μg/mL濃度で12μLずつ滴下し、45℃の乾燥室で40分間乾燥を行った。このパッドを、メンブレンの下流端から25mm離れた位置に貼って試料滴下パッドdとした。
次に、メンブレンの下流端側5mmが重なるようにセルロース/ガラス繊維製パッド(WF1.5、ワットマン社製、10mm×20mm、厚さ1.5mm)を貼って吸収パッドeとした。
【0045】
4.インフルエンザウイルスの検出
(1)メンブレンアッセイ法による検出
臨床的にインフルエンザウイルス感染が疑われる患者53人の鼻腔より一人の患者につき2本ずつ滅菌綿棒を用いて拭い液を採取し、1本をチューブに入れた、実施例1で使用した浮遊液A:0.8mL中に、もう1本をチューブに入れた、比較例1で使用した浮遊液B:0.8mL中に浮遊し、試験用試料を作製した。試料をそれぞれよく懸濁させた後、それぞれのチューブの先端に孔径0.45μmのPVDFメンブレン及び保留粒子径0.6μmのガラス濾紙メンブレンを積層してなるフィルターを有するろ過用ノズルを装着した。
検体試料をろ過用ノズルを通過して濾過した後、3.で作成したメンブレンアッセイ装置の試料滴下パッドdに150μL滴下した。10分後、j及びkの位置を鉛直上方から観察し、jの位置にのみ発色が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性、kの位置にのみ発色が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性、j及びkの両方の位置に発色が認められた場合にはA型及びB型インフルエンザウイルス陽性、j、kの位置に両方とも発色が認められない場合は陰性と判定した。
【0046】
(2)RT−PCR法による検出
4−(1)で作製した試験用試料の残りを用いてRT−PCR法により検体中にインフルエンザウイルス遺伝子が存在するかを確認した。RT−PCR法は、前述の清水の方法で実施した。
(3)メンブレンアッセイ法とRT−PCR法の比較
本発明のメンブレンアッセイ法と上述したRT−PCR法の判定結果を表3及び表4に示す。RT−PCR法の結果と異なる判定となった場合に偽陽性または偽陰性とみなした。
【0047】
表3 浮遊液Aを用いた場合(実施例2)の比較

※表内の数値は該当する検体数を示す。
【0048】
表4 浮遊液Bを用いた場合(比較例2)の比較

※表内の数値は該当する検体数を示す。
【0049】
浮遊液Aを用いた場合(実施例2)にはRT−PCR法による判定と比較すると偽陰性発生率は5.7%(53検体中3検体)であったが、偽陽性は見られなかった。
浮遊液Bを用いた場合(比較例2)は偽陰性発生率は5.7%(53検体中3検体)で浮遊液Aを用いた場合と変わらなかったが、偽陽性発生率が11.3%(53検体中6検体)であった(下線部分)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド物質を標識物質として使用し、被検試料中の被測定物を検出するアッセイ法に用いる検体浮遊液組成物であって、界面活性剤を含み、pHが3〜8であることを特徴とする検体浮遊液組成物。
【請求項2】
さらに塩基性アミノ酸を含む請求項1記載の検体浮遊液組成物。
【請求項3】
塩基性アミノ酸がアルギニン、リジン、及びヒスチジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その濃度が0.1〜30(W/V)%である請求項2記載の検体浮遊液組成物。
【請求項4】
界面活性剤の濃度が0.01〜20(W/V)%である請求項1〜3のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項5】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である請求項1〜4のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項6】
さらに200mM未満の無機塩類を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項7】
アッセイ法がイムノアッセイ法である請求項1〜6のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項8】
アッセイ法が被測定物と特異的に結合する物質を感作した担体を用いる請求項1〜7のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項9】
アッセイ法がメンブレンアッセイ法である請求項1〜8のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項10】
被測定物がウイルスである請求項1〜9のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物を備えた被測定物の検出キット。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項記載の検体浮遊液組成物又は請求項11記載の検出キットを用いることを特徴とする被測定物の検出方法。