説明

検出対象の検出方法および定量方法

【課題】種々の環境において、検出対象を迅速、安価、簡便且つ高精度に検出、定量できる検出および定量用キット、並びに検出および定量方法を提供すること。
【解決手段】本発明のキットは、検体中の検出対象を検出および/または定量するためのキットであって、該検出対象に対する第1の親和性物質と磁性体を含有する第1の磁性物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、該検出対象に対する第2の親和性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子親水性を有する物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物とを含む。第1の親和性物質と第2の親和性物質は、検出対象の異なる部位において結合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象の検出方法および定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体中の検出対象を検出する方法として、ラテックス凝集法が利用されてきた。ラテックス凝集法とは、生体試料等の流体中における抗原を検出する場合、抗原に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを担持させたラテックスと、流体とを混合して、ラテックスの凝集の程度を測定することにより、抗原を検出または定量する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ラテックス凝集法によれば、検体として添加された抗原が複数のラテックス結合抗体を架橋させ、ラテックスの凝集を促す。このように手順が単純であるから、簡便且つ迅速に抗原を検出できる。しかし、抗原が微量の場合、該架橋が起こりにくいため、ラテックスが十分に凝集しない。このため、微量の抗原を検出することが困難であった。
【0004】
そこで、ELISA法およびCLEIA法といった酵素基質反応を利用する方法も広く利用されている。これらの方法では、例えば、抗原に特異的に結合する一次抗体を抗原に結合させ、該一次抗体に酵素を有する二次抗体を結合させる。ここで、酵素の基質を添加し、酵素が触媒する反応の程度を測定することで、抗原を検出または定量する。
【0005】
これらの方法によれば、例えば、基質として発光試薬を用いると、基質添加後の発光の検出感度が高いため、微量の抗原も検出できる。
【0006】
しかし、酵素基質反応を利用する方法では、二次抗体および発光試薬等の特殊な試薬が多数必須であり、作業コストが高い。また、発光試薬の退色(ブリーチング現象)を抑制する必要から、測定工程を極めて短時間に終了せざるを得ないため、測定精度が不充分になることが懸念される。
【0007】
また、酵素基質反応を利用する方法は、試料および各試薬をインキュベーションする工程、系を洗浄する工程、並びに発光を測定する工程等の多段階からなっており、操作が煩雑である。しかも、各段階に要する時間が極めて長く、大規模処理には適さない。
【0008】
一方、刺激応答性ポリマーを含有する物質と検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物、並びに電荷を有する物質と検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物を用いて、検出対象の検出および定量する方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2に記載の方法は、上記2種類の結合物と検体とを混合した混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する条件下に置いた後、濁度測定等によって刺激応答性ポリマーの凝集の程度が低下したと判定された場合には、検体中に検出対象が存在すると判別する方法である。
【0010】
特許文献2に記載の方法によれば、刺激応答性ポリマーを含有する物質、親和性物質および電荷を有する物質のみを用いて検出対象を検出および定量することができ、特殊な試薬を特に使用しなくてもよいので、安価且つ簡便である。また、凝集阻害の程度を測定するだけであり、酵素によって触媒される反応を利用する系ではないから、迅速に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭58−ll575号公報
【特許文献2】国際公開第2008/001868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記技術では、検出対象の検出および定量のために、例えば温度を変化させなければならず、そのための専用の装置も必要となる。
【0013】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、検出対象を迅速、安価、簡便且つ高精度に検出、定量できる検出対象の検出方法および定量方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、磁性体を含有する磁性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とを接近させると、磁性体の磁気分離速度が変化することを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0015】
[1]検体中の検出対象を検出および/または定量するためのキットであって、
該検出対象に対する第1の親和性物質と磁性体を含有する磁性物質とが結合した第1の結合物と、該検出対象に対する第2の親和性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とが結合した第2の結合物とを含み、
第1の親和性物質と第2の親和性物質が、該検出対象の異なる部位において結合できることを特徴とするキット。
[2]前記磁性物質の平均粒子径が100nm以上1μm未満であることを特徴とする[1]に記載のキット。
[3]前記検出対象が抗原であり、第1の親和性物質および第2の親和性物質が該抗原に対する抗体である[1]または[2]に記載のキット。
[4]検体中の検出対象を検出および/または定量する方法であって、
該検出対象に対する第1の親和性物質と磁性体を含有する磁性物質とが結合した第1の結合物と、該検出対象に対する第2の親和性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とが結合した第2の結合物と、該検体とを混合し、第1の結合物を磁気分離する条件下で、第1の結合物の磁気分離速度を判定する工程を含み、
第1の親和性物質と第2の親和性物質が、該検出対象の異なる部位において結合できることを特徴とする方法。
[5]磁性物質の平均粒子径が100nm以上1μm未満であることを特徴とする[4]に記載の方法。
[6]前記検出対象が抗原であり、第1の親和性物質および第2の親和性物質が該抗原に対する抗体である[4]または[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検体中に検出対象が存在する場合、該検出対象の異なる部位に第1の結合物中の第1の親和性物質と第2の結合物中の第2の親和性物質が結合する。そのため、第1の親和性物質に結合した磁性物質と、第2の親和性物質に結合した重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子が接近する。これにより、磁性物質を含む第1の結合物の磁気分離速度が阻害または促進されるため、検体中の検出対象の存在量に応じて磁性物質を含む第1の結合物の磁気分離速度が変化する。この変化の有無または程度に基づいて、検体中の検出対象を簡便に検出または定量することができる。
【0017】
以上の手順は、いずれも特殊な試薬、機器を特に使用することなく行われるので、安価且つ簡便に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るキットの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るキットの使用状態を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例に係る方法における磁力の付加の態様を示す図である。
【図4】本発明の一実施例に係る方法のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係る方法における磁集時間と吸光度との相関性を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施例に係る方法における検出対象量と吸光度との相関性を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施例に係る方法における検出対象量と吸光度との相関性を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施例に係る方法における磁集時間と吸光度との相関性を示すグラフである。
【図9】本発明の比較例に係る方法における磁集時間と吸光度との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<キット>
本発明のキットは、検体中の検出対象を検出および/または定量するためのキットであって、第1の結合物と、第2の結合物とを含有する。
各構成について、以下詳細に説明する。
【0021】
[検体]
検体としては、人または動物の体液、尿、喀痰および糞便等の生物学的物質、飲食品、水道水、並びに河川等の環境から採取した試料等が挙げられる。
【0022】
[検出対象]
検出対象としては、例えば、環境汚染物質、飲食品汚染物質および臨床診断に利用される物質が挙げられる。このような物質としては、具体的には、例えば、ダイオキシン、環境ホルモン、農薬、PCB(polychlorobiphenyl)、有機水銀等、プリオン、カビ毒、フグ毒、抗生物質、防カビ剤、ヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリンおよびそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン([例えば、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびインスリン等]および薬剤が挙げられる。
【0023】
[第1の結合物]
第1の結合物は、検出対象に対する第1の親和性物質と、磁性体を含有する磁性物質とが結合したものである。
【0024】
(第1の親和性物質)
検出対象に対する第1の親和性物質は、検出対象に対して親和性を有する物質であれば、特に限定されない。ここで、「親和性」とは、ある物質が他の物質と特異的に結合する性質をいう。第1の親和性物質としては、例えば、検出対象が抗原である場合は該抗原に対する抗体、検出対象が抗体である場合は該抗体に結合する抗原、検出対象がGSTタグ付のタンパク質である場合はグルタチオン、検出対象がヒスチジンタグ付のタンパク質の場合は金属イオンを配位したキレート剤、検出対象が核酸の場合は相補的な配列を持つ核酸が挙げられる。
【0025】
前記抗体は、いかなるタイプの免疫グロブリン分子であってもよく、Fab等の抗原結合部位を有する免疫グロブリン分子断片であってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
【0026】
第1の親和性物質と第2の親和性物質としては、検出対象の異なる部位において非競合的に結合できる物質を用いる。例えば、検出対象が抗原である場合、第1の親和性物質および第2の親和性物質は、該抗原において互いに異なる抗原決定基を認識するモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0027】
(磁性物質)
本発明に用いる磁性物質は磁性体を含有する物質である。磁性物質としては、磁性体のみでもよく、磁性体と親水性物質との複合体、ポリスチレンおよびポリメチルアクリレートなどのようなラテックスにより表面を被覆した磁性体であってもよい。
【0028】
磁性物質としては、国際公開第2004−083124号に示すような金磁性粒子なども利用できる。なお、本発明に用いる磁性物質は、刺激応答性ポリマーによる凝集性の機能が必要ではなく、また、磁性物質の構成の簡易化の観点から、刺激応答性ポリマーを含有する必要はなく、刺激応答性ポリマーを含有しないことが特に好ましい。
【0029】
磁性体としては、例えば、磁性金属微粒子および磁性酸化物微粒子などの磁性微粒子を挙げることができる。これらの磁性微粒子は、必要に応じて、希土類元素または遷移金属元素を含有していてもよい。
【0030】
磁性微粒子の素材としては、例えば、マグネタイト、酸化ニッケル、フェライト、コバルト鉄酸化物、バリウムフェライト、炭素鋼、タングステン鋼、KS鋼、希土類コバルト磁石、マグヘマイト、ヘマタイトおよびゲーサイト等の微粒子を挙げることができる。これらの中でも、マグネタイト、マグヘマイト、ヘマタイトおよびゲーサイトが好ましい。これらの磁性微粒子の形状は、球状、針状、紡錘状および無定形のいずれでもよい。
【0031】
磁性金属微粒子としては、例えば、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Al、Fe−Ni−Al、Fe−Co−Ni、Fe−Ni−Al−ZnおよびFe−Al−Siなどの金属微粒子を挙げることができる。
【0032】
磁性酸化物微粒子としては、例えば、FeOx(4/3≦x≦3/2)で表される酸化鉄(フェライト)型の強磁性微粒子およびFeの一部がNiまたはCoで一部置換されたフェライトを挙げることができる。
【0033】
磁性体と親水性物質との複合体に用いる親水性物質は、構成単位に水酸基を少なくとも2個有し且つ鉄イオンと結合可能な多価アルコールであれば特に限定されない。このような親水性物質としては、例えば、デキストラン、デキストリン、セルロース、アガロース、澱粉およびジェラン等のポリサッカライド類、カルボキシメチルセルロース、ジエチルアミノセルロース、ヒドロキシアセチルセルロース、ヒドロキシアセチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ジエチルアミノエチルセルロースおよびジエチルアミノエチルデキストラン等のポリサッカライド誘導体、並びにポリビニルアルコールおよびポリアリルアルコールなどの合成ポリオールが挙げられる。
【0034】
また、前記親水性物質としては、例えば、モノマーとして、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール−モノ(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基を有するモノマーの少なくとも一種を重合成分として含有するポリマー、並びに酢酸エステル型、トリメチルシリルエーテル型およびt−ブトキシカルボニルオキシ型などの保護された水酸基を有するビニルアルコールを含むモノマーの少なくとも一種を重合成分として含有するポリマーから水酸基の保護を除去して得られるポリビニルアルコールランダムコポリマーを挙げることができる。
【0035】
これらの親水性物質は、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。また、グリシジルメタクリレート重合体のようにエポキシを有し、開環後多価アルコール構造体を形成する化合物も使用できる。
【0036】
磁性体と親水性物質との複合体の複合化様式としては、例えば、物理的な吸着および共有結合形成を挙げることができる。
【0037】
また、磁性体と親水性物質との複合体としては、例えば、多価アルコールを含む鉄イオン水溶液に、アンモニアおよび水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加する共沈法により得られる、ポリオールにより被覆されたフェライト微粒子を用いてもよい(例えば、特開平6−92640号公報参照)。
【0038】
磁性体と親水性物質との複合体の調製方法としては、具体的には、例えば、米国特許第4452773号に記載されているように、デキストラン50質量%水溶液(10ml)中に、塩化第二鉄・六水和物(1.51g)および塩化第一鉄・四水和物(0.64g)混合水溶液(10ml)を加えて撹拌し、60〜65℃に水浴中で7.4(V/V)%アンモニア水溶液をpH10〜11程度になるように滴下しながら加熱し、15分反応させる方法により得ることができる。
【0039】
磁性体は親水性物質などへの親和性を高めるために表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、シラン系カップリング処理、チタン系カップリング処理、リン酸系カップリング処理、塩酸および硫酸などによる酸処理、並びに水酸化ナトリウムなどによるアルカリ処理が挙げられる。
【0040】
磁性体と親水性物質との複合体における磁性体含有率は、磁気分離および磁性体の分散性の観点から、10〜90重量%とすることが好ましく、40〜80重量%とすることがより好ましい。
【0041】
ラテックスにより表面を被覆した磁性体は、Journal of Magnetism and Magnetic Materials 122 (1993)37−41に記載の方法により調製することができる。
【0042】
磁性体を含有する磁性物質の平均粒子径は、100nm以上1μm未満であることが好ましく、200nm以上500nm以下であることがより好ましい。磁性体を含有する第1の磁性物質の平均粒子径をこの範囲内とすることで、該複合体を水溶液中で均一に分散させることができ、長時間において沈降物が生じず、かつ短時間で磁気回収することができる。磁性体を含有する磁性物質の平均粒子径は、動的光散乱法により測定する。
【0043】
[第1の結合物の作製]
第1の結合物は、磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質とを結合することによって作製する。磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質との結合方法は、特に限定されないが、例えば、磁性物質側(例えば、磁性体部分)および第1の親和性物質(例えば、第1の抗体)側の双方に、互いに親和性の物質(例えば、アビジンおよびビオチン、並びにグルタチオンおよびグルタチオンSトランスフェラーゼ)を結合させ、これら物質を介して磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質とを結合させる方法が挙げられる。
【0044】
磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質とをビオチンを介して結合させる方法としては、例えば、ビオチンの末端をN−ヒドロキシスクシンイミドでエステル化したsulfo−EMCS(商品名)[(株)同仁化学研究所製)]と第1の親和性物質とを反応させてビオチンを導入し、ビオチンを介してアビジンを結合した磁性物質と第1の親和性物質とを結合することができる。
【0045】
また、磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質とを直接的に結合させる場合、官能基を介して結合させてもよい。
【0046】
磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質とを官能基を介して結合させる方法としては、例えば、磁性物質としてアルデヒド基を有する親水性物質と磁性体との複合体を用い、検出対象に対する第1の親和性物質として1級アミンを有する物質(例えば、抗体)を含む物質を用いて、該アルデヒド基と1級アミンとの結合を介して磁性物質と第1の親和性物質とを結合させる方法が挙げられる。
【0047】
前記アルデヒド基を有する親水性物質と磁性体との複合体は、アルカリ処理などの操作により親水性物質のグリコシド結合を開裂させて低分子量の末端にアルデヒド基を有する親水性物質を発生させるか、または過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化試薬を用いて、親水性物質の構造中のビシナルジオールを発生することにより得られる。
【0048】
また、例えば、検出対象に対する第1の親和性物質として第1の抗体を用いる場合は、第1の抗体のFc部分と親和性が高い物質(以下、「抗体親和性物質」と略す。)を用い、親水性物質を介して抗体親和性物質を磁性物質に結合させることにより、該抗体親和性物質を介して磁性物質と第1の抗体とを結合させることができる。
【0049】
具体的には、抗体親和性物質として、例えば、メロンゲル、プロテインAおよびプロテインGを用いる。親水性物質として、例えば、グリセロール−モノ(メタ)アクリレートなどのモノマーを重合して得られるポリマーを用いる。該ポリマーとしてカルボキシル、アミノおよびエポキシ等の官能基を持つモノマーを他のモノマーとを共重合させたポリマーを用いることが好ましく、該官能基を介して当該技術分野で周知の方法に従って前記抗体親和性物質を親水性物質であるポリマーに結合させ、該親水性物質を磁性体に結合させ、磁性物質とすることができる。
【0050】
このようにして得られた抗体親和性物質を含む磁性物質を、該抗体親和性物質を介して第1の抗体に結合させることにより、磁性物質と第1の抗体との第1の結合物を作製することができる。
【0051】
あるいは、磁性物質に含まれる磁性体と、検出対象に対する第1の親和性物質とを結合させて、第1の結合物としてもよい。
【0052】
[第1の結合物の精製]
第1の結合物を精製する方法としては、例えば、磁性物質と検出対象に対する第1の親和性物質を結合させた後、磁力を付加して磁性物質を含む第1の結合物を回収する方法、および遠心分離によって未結合の第1の親和性物質を分離して精製する方法が挙げられる。
【0053】
[第2の結合物]
本発明の方法では、第1の結合物に加えて、検出対象に対する第2の親和性物質と、重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とが結合した第2の結合物を用いる。これにより、検出感度を向上することができる。
【0054】
(第2の親和性物質)
検出対象に対する第2の親和性物質は、第1の親和性物質とは異なる部位において、第1の親和性物質と同じ検出対象に結合できる物質である。第1の親和性物質と同様に、第2の親和性物質としては、例えば、検出対象が抗原である場合は該抗原に対する抗体、検出対象が抗体である場合は該抗体に結合する抗原、検出対象がGSTタグ付のタンパク質である場合はグルタチオン、検出対象がヒスチジンタグ付のタンパク質の場合は金属イオンを配位したキレート剤および検出対象が核酸の場合は相補的な配列を持つ核酸などが挙げられる。
【0055】
前記抗体は、いかなるタイプの免疫グロブリン分子であってもよく、Fab等の抗原結合部位を有する免疫グロブリン分子断片であってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。上記したように、第1の親和性物質および第2の親和性物質は、例えば、検出対象(抗原)の異なる抗原決定基を認識するモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0056】
(高分子)
第2の親和性物質と結合して第2の結合物を構成する高分子の重量平均分子量は、1,000〜1,000,000である。高分子の重量平均分子量が1,000以上であると、磁気分離速度の差が大きくなるため好ましい。また、高分子の重量平均分子量が1,000,000以下であると、第2の親和性物質と高分子との結合が可能であるため好ましい。高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Gel Permeation Chromatography)により測定する。
【0057】
例えば、高分子としてポリアクリル酸の重量平均分子量を測定する場合、次のように行えばよい。測定対象のポリアクリル酸の濃度が約0.5質量%になるように、0.2Mの硝酸ナトリウムで希釈し、これをサンプルとして用いる。GPC装置として島津製作所製、示差屈折率計 RID−10Aを用い、カラムとして東ソー(株)製カラムSuper AW5,000およびSuper AW4000を用いる。ここで、GPC装置にカラムをSuper AW5,000、Super AW4000の順で、直列に取り付け、カラム温度40℃、流速1.0ml/minとし、0.2Mの硝酸ナトリウムを展開剤として用いて、サンプル中のポリアクリル酸の溶出時間を測定し、ポリエチレンオキシド換算することにより、重量平均分子量を求めることができる。
【0058】
重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子(以下、単に「高分子」ともいう)は、磁性物質の磁気分離速度を変化させる高分子であることが好ましい。このような高分子としては、例えば、磁気分離を阻害する高分子および磁気分離を促進する高分子が利用できる。磁気分離を阻害する高分子としては、例えば、水溶性の高分子化合物および電荷を有する高分子化合物が挙げられる。また、磁気分離を促進する高分子としては、例えば、水に対する溶解性の低い高分子化合物が挙げられる。
【0059】
水溶性の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシド等のエーテル結合を含有する高分子、ポリビニルアルコール等のアルコール性水酸基を含有する高分子、デキストラン、シクロデキストリン、アガロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性多糖類並びに中性アミノ酸を含むポリペプチドが挙げられる。
【0060】
電荷を有する高分子化合物としては、例えば、ポリアニオンおよびポリカチオンが挙げられる。ポリアニオンとは、複数のアニオン基を有する物質を意味する。また、ポリカチオンとは、複数のカチオン基を有する物質を意味する。
【0061】
ポリアニオンとしては、例えば、DNAおよびRNA等の核酸が挙げられる。これらの核酸は、核酸骨恪に沿って複数個のホスホジエステル基が存在することにより、ポリアニオンの性質を有する。
【0062】
また、ポリアニオンには、多数のカルボキシルを含むポリペプチド(例えば、グルタミン酸およびアスパラギン酸等のアミノ酸からなるポリペプチド)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスルホン酸、アクリル酸およびメタクリル酸等を重合成分として含有するポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸並びにヘパリン等の多糖等も含まれる。
【0063】
一方、ポリカチオンとしては、例えば、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリアルキルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリプロピルエチレンイミンが挙げられる。なお、ポリアニオン(カルボキシル)またはポリカチオン(アミノ)の官能基数は、25個以上が好ましい。また、カルボキシル基を持つラテックス粒子なども挙げられる。
【0064】
水に対する溶解性の低い高分子化合物としてはポリペプチドまたはアクリル系高分子化合物が挙げられる。
【0065】
ポリペプチドとしては、例えば、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)およびアラニン(Ala)等の疎水性アミノ酸を多く含むポリペプチドが挙げられる。
【0066】
ポリペプチド全体において疎水性アミノ酸が占める割合は、例えば、Kyte J.,Doolittle R.F.,J.Mol.Biol.157:105−132(1982)に記載された各アミノ酸の疎水性度の値を用いたとき、ポリペプチドを構成する各アミノ酸の疎水性度の相加平均が0以上であることが好ましい。なかでも、アミノ酸20残基以上のポリペプチドユニットを構成する各アミノ酸の疎水性度の相加平均が0.5以上である部分構造を含むポリペプチドが、より好ましい。このようなポリペプチドとしては、ベータ・アミロイドペプチドが例示できる。また、当該疎水性度を示すポリペプチドは、人工的に合成してもよい。
【0067】
アクリル系高分子化合物としては、高分子を構成するモノマーの構造中に、例えば、t−ブチル、イソプロピル、プロピル、エチルおよびフェニル等の疎水性官能基を有するモノマーを多く含む水溶性ポリマーが挙げられる。
【0068】
ポリマー全体において疎水性官能基を有するモノマーが占める割合は、例えば、ポリマーを構成するモノマーのlogP値(Pは分配係数)の相加平均が0.2以上であることが好ましい。
【0069】
これら高分子は、高分子鎖の中または末端に、第2の親和性物質を結合させるための官能基等を有していてもよい。また、該高分子は、一種で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0070】
[作製方法]
第2の結合物は、高分子と第2の親和性物質とを直接または間接的に結合させることによって作製する。
【0071】
高分子と第2の親和性物質とを間接的に結合させる方法としては、例えば、高分子および第2の親和性物質(例えば、第2の抗体)側の双方に、互いに親和性の物質(例えば、アビジンおよびビオチン、並びにグルタチオンおよびグルタチオンSトランスフェラーゼ)を結合させる。当該物質を介して、および前記高分子および第2の親和性物質を間接的に結合させることができる。
【0072】
高分子と第2の親和性物質とを直接的に結合させる方法としては、例えば、高分子の末端をN−ヒドロキシスクシンイミドでエステル化して第2の親和性物質と結合させる方法(CANCER RESEARCH 51、p.4310−4315、1991)、官能基を介して高分子と第2の親和性物質とを結合させる方法が挙げられる。
【0073】
高分子の末端をN−ヒドロキシスクシンイミドでエステル化して第2の親和性物質と結合させる方法としては、具体的には、例えば、次の方法が挙げられる。高分子であるポリエチレングリコールの末端をN−ヒドロキシスクシンイミドでエステル化し、NHS−ポリエチレングリコールのエステルとする。該NHS−ポリエチレングリコールのエステルと第2の親和性物質(抗体)のアミノ基とを反応させて、ポリエチレングリコールと抗体とを結合させて、アミドを得ることができる。
【0074】
高分子と第2の親和性物質とを直接的に結合させる場合、官能基を介して結合させてもよい。官能基を介して結合させる方法としては、例えば、ゴッシュらの方法(Ghosh et al.:Bioconjugate Chem.1、71−76、1990)のマレイミド−チオールカップリングが挙げられる。
【0075】
マレイミド−チオールカップリングによる方法としては、具体的には、例えば、次の2つの方法が挙げられる。第1の方法では、まず、高分子(核酸)の5’末端にメルカプト基(別名、スルフヒドリル基)を導入する。一方、第2の親和性物質(抗体)に6−マレイミドヘキサノイックアシッドスクシンイミドエステル(例えば、「EMCS(商品名)」[(株)同仁化学研究所製]を反応させてマレイミド基を導入する。次に、導入したメルカプト基およびマレイミド基を介して、これら2種の物質を結合させる。
【0076】
第2の方法では、まず、第1の方法と同様にして高分子(核酸)の5’末端にメルカプト基を導入する。該メルカプト基に更にホモ二官能性試薬であるN,N−1,2−フェニレンジマレイミドを反応させることによって、核酸の5’末端にマレイミド基を導入する。一方、第2の親和性物質(抗体)にメルカプト基を導入する。次に、導入したメルカプト基およびマレイミド基を介して、これら2種の物質を結合させる。
【0077】
[第2の結合物の精製]
第2の結合物を精製する方法としては、例えば、高分子と検出対象に対する第2の親和性物質を結合させた後、ゲルろ過、イオン交換、アフィニティークロマトグラフィーおよび遠心分離からなる少なくとも1種の分離方法を用いることによって精製する方法が挙げられる。
【0078】
上記のようにして製造される本発明のキットは、例えば以下のような方法で、検出対象を検出および/または定量するために使用できる。
【0079】
本発明の検出方法および/または定量方法は、以下の工程(1)および(2)を含む。
(1)第1の結合物、第2の結合物および検体の混合物を得る工程
(2)工程(1)で得られた混合物に磁力を付加して第1の結合物を回収する条件下で、第1の結合物が磁気分離速度を調べる工程
【0080】
(1)第1の結合物、第2の結合物および検体の混合物を得る工程
工程(1)では、第1の結合物と第2の結合物とを容器内で混合し、更に検体を添加して混合物を得る。なお、第1の結合物、第2の結合物および検体は、すべてを同時に混合してもよく、1種ずつを別々に混合してもよい。
【0081】
(2)工程(1)で得られた混合物に磁力を付加して第1の結合物を回収する条件下で、第1の結合物が磁気分離速度を調べる工程
工程(2)では、工程(1)で得られた混合物を、磁力を付加して磁性物質を含む第1の結合物を回収する条件下に置く。
【0082】
第1の結合物、第2の結合物および検体の混合物に対する磁力の付加は、第1の結合物に含まれる磁性物質に磁石を接近させて行うことができる。用いる磁石の磁力は、用いる磁性物質が有する磁力の大きさおよび磁性物質との距離によって任意に設定することができる。磁石の種類としては、例えば、NeoMag社製のネオジム、フェライト、サマコバ、アルニコおよびネオジムボンド磁石が挙げられる。
【0083】
また、磁力の付加は、磁気分離速度の判定の前、または判定と同時並行で行ってよいが、工程に費やされる時間を短縮化できる点で同時並行が好ましい。
【0084】
第1の結合物の磁気分離速度は、例えば、第1の結合物、第2の結合物および検体の混合物に対して磁力を付加し、一定時間内に目視または吸光度を測定することにより調べることができる。
【0085】
吸光度は分光光度計を用いて測定し、回収した第1の結合物の量を測定してもよく、溶媒に分散した第1の結合物の吸光度を測定してもよい。ここで、使用する光の波長は、磁性体の粒径等に応じ所望の検出感度が得られるよう適宜設定できる。光の波長は、従来汎用の装置を利用できる点で、可視光の範囲内であることが好ましい。
【0086】
目視または吸光度の測定は、一定の時点で断続的に行ってもよいし、経時的に連続して行ってもよい。また、ある時点における吸光度測定値と、他の時点における吸光度測定値との差に基づいて判定を行ってもよい。
【0087】
また、吸光度の測定には、吸光度を直接的に測定することのみならず、吸光度を反映するパラメータを測定することも包含される。かかるパラメータとしては、複数時点での吸光度測定値の差異、分離された第1の結合物の量および分離後の第1の結合物の吸光度等が挙げられる。
【0088】
ここで、複数時点のうちの1点は、例えば、検出対象が非存在である陰性対照に磁力を付加した際、吸光度が最大値となる時点近傍であることが好ましい。これにより、別の時点での吸光度測定値との差異が大きくなり、検出対象の量をより正確に定量できることになる。
【0089】
<検出方法>
本発明の検出方法は、前記工程(1)および工程(2)に加えて、さらに以下の工程(3−1)を含むことが好ましい。
(3−1)第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、磁気分離速度が変化する場合、検体中に検出対象が存在すると判定する工程
各工程の詳細を以下に説明する。
工程(3−1)は、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、第1の結合物の磁気分離速度が変化するか否かを調べることにより、検体中の検出対象の有無を判定する工程である。
【0090】
検体中に検出対象が存在する場合には、検出対象に結合した第2の結合物中の高分子によって、磁性物質を含む第1の結合物の磁気分離が阻害または促進されて、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、第1の結合物の磁気分離速度が変化する。
【0091】
一方、検出対象が存在しない場合には、第1の結合物の磁気分離が阻害または促進されずに、前記第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、第1の結合物の磁気分離速度が変化しないことになる。
【0092】
例えば、第2の結合物中の高分子が、磁性物質の磁気分離を阻害する高分子である場合、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加した場合の吸光度が高ければ、第1の結合物の磁気回収が阻害されており、検体中に検出対象の存在が示唆される。
【0093】
また、例えば、第2の結合物中の高分子が、磁性物質の磁気分離を促進する高分子である場合、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加しない場合と比較して、第1の結合物と第2の結合物との混合物に検体を添加した場合の吸光度が低ければ、第1の結合物の磁気回収が促進されており、検体中に検出対象の存在が示唆される。
【0094】
この現象を、図1〜図2を参照しながら説明する。なお、図2は、例として、第2の結合物中の高分子によって、第1の結合物中の磁性物質の磁気分離が阻害される場合を説明する。
【0095】
図1に示されるように、第1の結合物10は、アビジン13およびビオチン15を介して、磁性物質11と検出対象(抗原)50に対する第1の親和性物質(抗体)17とが結合することにより構成されている。一方、第2の結合物20は、検出対象(抗原)50に対する第2の親和性物質(抗体)23と高分子21とが結合することにより構成されている。
【0096】
そして、第1の親和性物質17および第2の親和性物質23は、検出対象50の異なる部位に結合できることから、同じ検出対象50に結合できる。第2の結合物20は検出対象50とアビジンを介して磁性物質11に接近でき、このとき第2の結合物20中の高分子21が第1の結合物10中の磁性物質11の近傍に位置することになる。
【0097】
図2に示されるように、第1の結合物10、第2の結合物20および検体の混合物を所定条件下におくと、検出対象50が存在する場合には、第2の結合物20中の高分子によって第1の結合物10に含まれる磁性物質11の磁気分離が阻害され、第1の結合物10の磁気回収が阻害される。[図2(A)]。一方、検出対象50が存在しない場合には第1の結合物10に含まれる磁性物質11の磁気分離が阻害されず、第1の結合物10が磁気回収されることになる[図2(B)]。
【0098】
<定量方法>
本発明の定量方法は、前記工程(1)および(2)に加えて、さらに以下の工程(3−2)および工程(4)を含むことが好ましい。
(3−2)工程(2)と同一の条件下における磁気分離速度と検出対象の量との相関式を作成する工程
(4)工程(2)で調べた磁気分離速度から、工程(3−2)で作成した相関式に基づいて、検体中の検出対象の量を算出する工程
以下、各工程について説明する。
【0099】
(3−2)工程(2)と同一の条件下における磁気分離速度と検出対象の量との相関式を作成する工程
工程(3−2)は、工程(2)と同一の条件下における検出対象の量と磁気分離速度(例えば、吸光度)との所定条件下における相関式を作成する工程である。ここで、工程(2)と同一の条件とは、工程(1)で得られた混合物を、磁力を付加して磁性物質を含む第1の結合物を回収する条件をいう。
【0100】
前記相関式を構成する検出対象の量と磁気分離速度との測定は、データが多い程に信頼性の高い相関式が得られる。そこでデータは、2以上の検出対象の量に関するものであればよく、3点以上の検出対象の量に関するものであることが好ましい。
【0101】
ここで、検出対象の量と磁気分離速度との相関式は、検出対象の量と吸光度との直接的な相関を示す式のみならず、検出対象の量と磁気分離速度を反映するパラメータとの相関式であってもよい。
【0102】
(4)工程(2)で調べた磁気分離速度から、工程(3−2)で作成した相関式に基づいて、検体中の検出対象の量を算出する工程
工程(4)は、工程(2)で調べた磁気分離速度の測定値を、工程(3−2)で作成した相関式に代入することによって、検体中の検出対象の量を算出する工程である。
【0103】
[キットの構成とその使用方法の例]
以下に、本発明の方法を利用するためのキットの構成とその使用方法の例を検出対象が抗原の場合で説明する。
【0104】
試薬キットとしては、例えば、下記の試薬から構成される。
抗原検出用試薬キット:
試薬A:検出対象の抗原に特異的に結合する第1の抗体が結合した磁性物質
試薬B:第1の抗体とは異なる部位を認識し、検出対象の抗原に非競合的に結合しうる第2の抗体が結合した、重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子
試薬C:被測定物質の標準品(具体例として、精製抗原が挙げられる。)
試薬D:希釈用バッファー(上記試薬の希釈用、並びに被測定試料の希釈用に使用可能なバッファーであって、例えば、トリス塩酸バッファーおよびリン酸バッファーが挙げられる。)
【0105】
また、吸光度を測定する装置としては、200nm〜900nmの透過光を照射できる従来周知の装置が使用できる。
【0106】
上記した試薬からなるキットは、例えば、以下の方法で使用できる。
【0107】
まず、試薬A 5〜1000μlと試薬B 5〜1000μlとを混合する。試薬Aと試薬Bの入った溶液中に(1)被測定物質の標準品を添加した陽性対照、(2)何も添加しない陰性対照、(3)被検液の5〜1000μlを添加したサンプル、を準備し、一定時間反応させる。反応後、磁力を付加した容器に反応液を入れ、550nmの透過光を照射して吸光度を測定し、被検液中の抗原の有無の判定または抗原の定量を行う。
【0108】
上記とは別の使用方法として、試薬Aと試薬Cを一定時間反応後、試薬Bを添加し、一定時間反応させ、磁力を付加した容器に反応液を入れ、550nmの透過光を照射して濁度を測定し、被検液中の抗原の有無の判定または抗原の定量をしてもよい。
[実施例]
【0109】
本発明の実施例で用いた代表的な試薬は次のとおりである。
PBSバッファー:10倍濃度の市販のPBS[81mM NaHPO、15mM KHPO、27mM KCl、1370mM NaCl、pH7.4、ニッポンジーン(株)製]を精製水で1/10(V/V)に希釈して用いた。
精製水:MILLIPORE社製超純水製造装置「Direct−Q」(商品名)で精製した水。
【0110】
[キットの作製]
(第1の結合物の調製)
検出対象としてのヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する第1の親和性物質として、Leinco Technologies,Inc.製の抗ヒトTSHβ抗体(Anti−Human Thyroid Stimulating Hormone Beta、クローン:195マウス、クラス:マウスIgG)を用いた。抗ヒトTSHβ抗体を、sulfo−NHS−Biotin(Vector社製)を用いて、スクラム社においてビオチン化し、ビオチン化抗ヒトTSHβ抗体を調製した。
【0111】
磁性物質として、ストレプトアビジンを結合させた磁性粒子(ストレプトアビジン結合−磁性粒子)として、BD社製のStreptavidin particles plus DM(1mg/ml)を用いた。
【0112】
ストレプトアビジン結合−磁性粒子(濃度1mg/ml)50μlを1.5mlマイクロチューブに取り、これにビオチン化抗ヒトTSHβ抗体(0.37mg/ml)30μlを加え、4℃で30分間反応させて、磁性粒子と抗ヒトTSHβ抗体をビオチンとストレプトアビジンを介して結合させた。得られた抗ヒトTSHβ抗体化磁性粒子を第1の結合物とした。光散乱測定装置 ELS−8000(大塚電子製)を用いて第1の結合物の平均粒子径を測定したところ、246nmであった。
【0113】
(第2の結合物の調製)
検出対象としてのヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する第2の親和性物質として、抗ヒトTSHα抗体(Anti−Human Thyroid Stimulating Hormone Alpha、クローン:176マウス、マウスIgG、Leinco Technology,Inc.製、1mg/ml)を用いた。
【0114】
高分子として、PEG[SUNBRIGHT ME−400CS(商品名)日油(株)製 重量平均分子量40,000(カタログ値)]を用いた。
【0115】
抗ヒトTSHα抗体(1mg/ml)1mlにPEGを2.5mg加え、4℃で15時間反応させて、抗ヒトTSHα抗体にPEGを結合させ、得られた粗PEG化抗ヒトTSHα抗体をGEヘルスケア社製ゲルろ過クロマトグラフィーカラム(HiPrep 16/60(プラスチックカラム)に、Sephacryl S−300 HR(ゲルろ過担体)を充填したカラム)を用いてゲル濾過精製した。得られたPEG化抗ヒトTSHα抗体を第2の結合物とした。
【0116】
(検体の調製)
検体として、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)[Aspen Bio Pharma,Inc.製ヒト甲状腺刺激ホルモン(活性8.5IU/mg、WHO80/558)]を用いた。TSHの溶液(濃度1mg/ml)を、PBSバッファーで0.01mg/ml、0.1mg/mlとなるよう希釈したものを、それぞれ検体とした。なお、ヒト甲状腺刺激ホルモンを含有しないことを除き、同様の手順で調製したものを対照とした。
【0117】
<実施例1>
第1の結合物として前記抗ヒトTSHβ抗体化磁性粒子を、第2の結合物として前記PEG化抗ヒトTSHα抗体を用いて、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)を検出した。
【0118】
[定量]
図3に示すように、従来汎用されている分光光度計用セミミクロセル71の光路外に、寸法4.6mm×9mm×2mmのネオジム磁石73(ネオマグ社製)を取り付けた。このセル71を分光光度計V−660(日本分光製)のセルホルダ内に設置した。
【0119】
図4は、実施例に係る定量方法の手順を示すフローチャートである。定量方法は、上記の第1の結合物、第2の結合物および試料を混合する工程(ST10)と、混合物の吸光度を測定する工程(ST20)とを含む。
【0120】
(混合)
第1の結合物80μlおよび第2の結合物40μlと各検体50μlとPBSバッファー1030μlとを、マイクロチューブ内で混合し、ボルテックスミキサで1分間撹拌し、混合液を得た。
【0121】
(相関式の作製)
前記混合液1000μlをセル71内に分注し、波長420nmの光を用いて、分光光度計による吸光度の測定を開始し、スリット幅10mmで、1000秒間にわたって連続して測定した。この結果を図5に示す。この時の分光光度計の温度は25℃であった。
【0122】
次に、各試料について、0秒、600秒および1000秒の測定値の差異を表した。この結果を図6および図7に示す。
【0123】
図6および図7に示されるように、0秒、600秒および1000秒のうちの2点間の測定値の差異は、いずれもTSHの量に依存するものであった。
【0124】
[再現性評価]
上記の第1の結合物、第2の結合物および試料について、前記と同様の手順で吸光度を測定し、3回の平均および変動係数を求めた結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
表1に示すように、CV(変動係数)は1.8以下という低い値であった。よって、本発明の系によれば高い再現性が得られることが確認された。
【0127】
<実施例2>
磁性粒子にDynabeads Myone Streptavidin C1(Invitrogen製)を10μl用いた以外は実施例1と同様の方法でヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)を検出した。その結果を図8および表2に示す。Dynabeads Myone Streptavidin C1の平均粒子径は1100nmであった。
【表2】

【0128】
図8および表2に示すように、第1の結合物を構成する磁性物質の平均粒子径を1μm未満とする方が、第1の結合物の磁気分離が阻害されやすく、再現性もよいことが確認された。
【0129】
<比較例1>
第1の結合物として前記抗ヒトTSHβ抗体化磁性粒子を、第2の結合物の代わりに抗ヒトTSHα抗体を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)を検出した。その結果を図9および表3に示す。表3は、実施例1と同様の手順で吸光度を測定し、3回の平均を求めた結果である。
【0130】
【表3】

【0131】
図9および表3に示すように、第2の結合物の代わりに抗ヒトTSHα抗体を用いた比較例1は、表1の実施例1の結果と比較して磁気分離の阻害の程度が低かった。この結果から、第1の結合物とともに第2の結合物を用いる本発明の方法によれば、検出対象の存在による第1の結合物の磁気分離速度の変化が大きく、検出対象を迅速かつ高精度に検出できることがわかった。
【0132】
以上の結果から、本発明の方法は、二次抗体、発光試薬および発光検出装置等の特殊な試薬、機器を必要とせず、種種の環境において検出対象を迅速、安価且つ簡便に検出、定量できる新規な方法であることが示された。
【符号の説明】
【0133】
10 第1の結合物
11 磁性物質
13 アビジン
15 ビオチン
17 第1の親和性物質(抗体)
20 第2の結合物
21 高分子
23 第2の親和性物質(抗体)
50 検出対象(抗原)
60 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の検出対象を検出および/または定量するためのキットであって、
該検出対象に対する第1の親和性物質と磁性体を含有する磁性物質とが結合した第1の結合物と、該検出対象に対する第2の親和性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とが結合した第2の結合物とを含み、
第1の親和性物質と第2の親和性物質が、該検出対象の異なる部位において結合できることを特徴とするキット。
【請求項2】
前記磁性物質の平均粒子径が100nm以上1μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記検出対象が抗原であり、第1の親和性物質および第2の親和性物質が抗体である請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
検体中の検出対象を検出および/または定量する方法であって、
該検出対象に対する第1の親和性物質と磁性体を含有する磁性物質とが結合した第1の結合物と、該検出対象に対する第2の親和性物質と重量平均分子量が1,000〜1,000,000である高分子とが結合した第2の結合物と、該検体とを混合し、第1の結合物を磁気分離する条件下で、第1の結合物の磁気分離速度を調べる工程を含み、
第1の親和性物質と第2の親和性物質が、該検出対象の異なる部位において結合できることを特徴とする方法。
【請求項5】
磁性物質の平均粒子径が100nm以上1μm未満であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記検出対象が抗原であり、第1の親和性物質および第2の親和性物質が抗体である請求項4または5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−189395(P2012−189395A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52081(P2011−52081)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)