説明

検出対象の検出方法及び定量方法

【課題】検出対象を迅速、安価、簡便且つ高精度に検出、定量できる検出対象の検出方法等を提供すること。
【解決手段】検体中の検出対象50を検出する方法は、刺激応答性ポリマー11を含有する凝集性物質と検出対象50に対する抗体13とが結合した結合物10と、検体とを混合し、この混合物を刺激応答性ポリマー11が凝集する条件下におき、刺激応答性ポリマー11の凝集の程度を判定し、検体の非存在下よりも、刺激応答性ポリマー11の凝集の程度が低下したと判定された場合には、検体中に検出対象50が存在すると判別する手順を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象の検出方法及び定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体中の検出対象を検出する方法として、ラテックス凝集法が行われてきた。ラテックス凝集法とは、生体試料等の流体中における抗原を検出する場合、流体と、抗原に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを担持させたラテックスとを混合して、ラテックスの凝集の程度を測定することにより、抗原を検出又は定量する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このラテックス凝集法によれば、検体として添加された抗原が複数のラテックス結合抗体を架橋させ、ラテックスの凝集を促す。このように手順が単純であるから、簡便且つ迅速に抗原を検出できる。しかし、抗原が微量の場合、その架橋が起こりにくいため、ラテックスが十分に凝集しない。このため、微量の抗原を検出することが困難であった。
【0004】
そこで、ELISA法やCLEIA法といった酵素基質反応を利用する方法も広く採用されている。これらの方法では、例えば、抗原に特異的に結合する一次抗体を抗原に結合させ、この一次抗体に酵素を有する二次抗体を結合させる。ここで、酵素の基質を添加し、酵素が触媒する反応の程度を測定することで、抗原を検出又は定量する。
【0005】
これらの方法によれば、例えば基質として発光試薬を用いると、基質添加後の発光の検出感度が高いため、微量の抗原も検出できる。
【特許文献1】特公昭58−ll575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、酵素基質反応を利用する方法では、二次抗体や発光試薬等の特殊な試薬が多数必須であり、作業コストが高い。また、発光試薬の退色(ブリーチング現象)を抑制するべく、測定工程を極めて短時間に終了せざるを得ないため、測定精度が不充分になることが懸念される。
【0007】
一方、図6に示すように、この方法は、試料及び各試薬をインキュベーションする工程(ST110、ST130)、系を洗浄する工程(ST120)、発光を測定する工程(ST140)等の多段階からなっており、操作が煩雑である。しかも、各段階に要する時間が極めて長く、大規模処理には適さない。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、検出対象を迅速、安価、簡便且つ高精度に検出、定量できる検出対象の検出方法及び定量方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有電荷又は親水性物質に接近されると刺激応答性ポリマーの凝集が阻害されることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の構成を有する。
【0010】
[1]検体中の検出対象を検出する方法であって、
刺激応答性ポリマーを含有する凝集性物質と前記検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物と、前記検体とを混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する条件下におき、
前記刺激応答性ポリマーの凝集の程度を判定し、
前記検体の非存在下よりも、前記刺激応答性ポリマーの凝集の程度が低下したと判定された場合には、前記検体中に検出対象が存在すると判別する手順を含む方法。
[2]前記凝集性物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む[1]に記載の方法。
[3]検体中の検出対象を定量する方法であって、
刺激応答性ポリマーを含有する凝集性物質と前記検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物と、前記検体とを混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する所定条件下におき、
前記混合物の濁度を測定し、前記検出対象の量と濁度との前記所定条件下における相関式に基づいて、前記検体中の検出対象の量を算出する手順を含む方法。
[4]前記凝集性物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む[3]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出対象が存在する場合、この結合対象に親和性物質が結合する。すると、検出対象の電荷部分又は親水性部分が、親和性物質に結合した刺激応答性ポリマーに接近する。これにより、電荷部分又は親水性部分が刺激応答性ポリマーの近傍に配置される。従って、この凝集阻害の有無を観察することで、検出対象の存否を検出できる。また、凝集阻害の程度を測定することで、検出対象を定量できる。
【0012】
以上の手順は、凝集性物質及び親和性物質のみを用いて達成され、特殊な試薬、機器を特に使用することなく行われるので、安価且つ簡便である。また、凝集阻害の程度を測定するだけであり、酵素によって触媒される反応を利用する系ではないから、迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
<第1実施形態> 検出方法
〔混合・凝集〕
本発明の検出方法では、まず、結合物及び検体を混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する条件下におく。まず、ここで用いる結合物について詳細に説明する。
【0015】
[結合物]
結合物は、刺激応答性ポリマーを含有する凝集性物質と、検出対象に対する親和性物質とが結合したものである。
【0016】
(凝集性物質)
本発明で用いられる凝集性物質は刺激応答性ポリマーを含有するところ、この刺激応答性ポリマーは、外的な刺激に応答して構造変化を起こし、凝集及び分散を調整できるポリマーである。刺激は、特に限定されないが、温度、光、酸、塩基、pH、電場変化等の様々な物理的、あるいは化学的信号であってよい。
【0017】
特に、本発明では、刺激応答性ポリマーとしては、温度変化によって凝集及び分散可能な温度応答性ポリマーが利用できる。なお、温度応答性ポリマーとしては、下限臨界溶液温度(以下、LCSTとも称する)を有するポリマーや上限臨界溶液温度を有するポリマーが挙げられる。
【0018】
本発明で用いられる下限臨界溶液温度を有するポリマーとしては、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N、N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリン等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体からなるポリマー;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテル、(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタンラウレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル誘導体;(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)(メタ)アクリレート類;及び(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(メタ)アクリレート類等のポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸エステル誘導体等が挙げられる。更に、これらのポリマー及びこれらの少なくとも2種のモノマーからなるコポリマーも利用できる。また、N−イソプロピルアクリルアミドとN−t−ブチルアクリルアミドのコポリマーも利用できる。(メタ)アクリルアミド誘導体を含むポリマーを使用する場合、このポリマーにその他の共重合可能なモノマーを、下限臨界溶液温度を有する範囲で共重合してもよい。本発明では、なかでも、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N、N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーからなるポリマー又はN−イソプロピルアクリルアミドとN−t−ブチルアクリルアミドのコポリマーが好ましく利用できる。
【0019】
本発明で用いられる上限臨界溶液温度を有するポリマーとしては、アクリロイルグリシンアミド、アクリロイルニペコタミド、アクリロイルアスパラギンアミド及びアクリロイルグルタミンアミド等からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーからなるポリマーが利用できる。また、これらの少なくとも2種のモノマーからなるコポリマーであってもよい。これらのポリマーには、アクリルアミド、アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N−ビオチニル−N’−メタクリロイルトリメチレンアミド、アクリロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクリロイルメチルウラシル等、その他の共重合可能なモノマーを、上限臨界溶液温度を有する範囲で共重合してもよい。
【0020】
また、本発明では、刺激応答性ポリマーとして、pH変化によって凝集及び分散可能なpH応答性ポリマーが利用できる。
このようなpH応答性ポリマーとしては、カルボキシル、リン酸、スルホニル、アミノ等の基を官能基として含有するポリマーが例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ホスホリルエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド又はこれらの塩を共重合成分として含むポリマーが挙げられる。
【0021】
凝集性物質は、後述の磁力付加により検出精度を向上できる点で、微粒子状の磁性物質を更に含有することが好ましい。かかる磁性物質は、多価アルコールとマグネタイトとで構成されてよい。
【0022】
多価アルコールは、構成単位に水酸基を少なくとも2個有し且つ鉄イオンと結合可能なアルコール構造体である限りにおいて特に限定されず、例えば、デキストラン、ポリビニルアルコール、マンニトール、ソルビトール、シクロデキストリンが挙げられる。例えば特開2005−82538公報には、デキストランを用いた微粒子状の磁性物質の製造方法が開示されている。また、グリシジルメタクリレート重合体のようにエポキシを有し、開環後多価アルコール構造体を形成する化合物も使用できる。
【0023】
このような多価アルコールを用いて調製された微粒子状の磁性物質(磁性微粒子)は、良好な分散性を有するように、その平均粒径が0.9nm以上1000nm未満であることが好ましい。平均粒径は、特に目的とする検出対象の検出感度を高めるためには、2.9nm以上200nm未満であることが好ましい。
【0024】
(親和性物質)
親和性物質は、例えば、検出対象の異なる抗原決定基を認識するモノクローナル抗体であってよい。ここで用いる抗体は、いかなるタイプの免疫グロブリン分子であってもよく、Fab等の抗原結合部位を有する免疫グロブリン分子断片であってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
【0025】
[結合物の作製]
結合物は、凝集性物質と親和性物質とを結合することによって作製する。この結合方法は、特に限定されないが、例えば、凝集性物質側(例えば刺激応答性ポリマー部分)及び親和性物質(例えば、抗体)側の双方に、互いに親和性の物質(例えば、アビジン及びビオチン、グルタチオン及びグルタチオンSトランスフェラーゼ)を結合させ、これら物質を介して凝集性物質及び親和性物質を結合させる。
【0026】
具体的には、刺激応答性ポリマーへのビオチンの結合は、国際公開第01/09141号パンフレットに記載されているように、ビオチン等をメタクリルやアクリル等の重合性官能基と結合させて付加重合性モノマーとし、他のモノマーと共重合することにより行うことができる。また、親和性物質へのアビジン等の結合は常法に従って行うことができる。次に、ビオチン結合刺激応答性ポリマー及びアビジン結合親和性物質を混合すると、アビジンとビオチンとの結合を介して、親和性物質及び刺激応答性ポリマーが結合する。
【0027】
別法として、ポリマーの重合時にカルボキシル、アミノ又はエポキシ等の官能基を持つモノマーを他のモノマーと共重合させ、この官能基を介し、当技術分野で周知の方法に従って抗体親和性物質(例えば、メロンゲル、プロテインA、プロテインG)をポリマーに結合させる方法が利用できる。このようにして得られた抗体親和性物質に抗体を結合させることにより、刺激応答性ポリマーと、検出対象の抗原に対する抗体との結合物が作製される。
【0028】
あるいは、ポリマーの重合時にカルボキシル、アミノ又はエポキシ等の官能基を有するモノマーを他のモノマーと共重合させ、これらの官能基に検出対象の抗原に対する抗体を常法に従って直接結合させてもよい。
【0029】
あるいは、微粒子状の磁性物質に親和性物質及び刺激応答性ポリマーを結合させてもよい。
【0030】
凝集性物質を刺激応答性ポリマーが凝集する条件においた後、遠心分離によって分離することで、結合物を精製してもよい。結合物の精製は、刺激応答性ポリマーに微粒子状の磁性物質を結合させ、更に親和性物質を結合させた後、磁力を付加して磁性物質を回収する方法によって行ってもよい。なお、本明細書では、刺激応答性ポリマーと微粒子状の磁性物質とが結合した材料を刺激応答性磁性微粒子という場合があり、その刺激が温度の場合には、温度応答性磁性微粒子という。
【0031】
微粒子状の磁性物質と刺激応答性ポリマーとの結合は、反応性官能基を介して結合する方法や、磁性物質中の多価アルコール上の活性水素又は多価アルコールに重合性不飽和結合を導入してグラフト重合する方法等の当技術分野で周知の方法で行ってよい(例えば、ADV.Polym.Sci.、Vol.4、p111、1965やJ.Polymer Sci.、Part−A、3、p1031、1965参照)。
【0032】
再び、検出方法の手順の説明に戻る。以上のような結合物及び検体の混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する条件下におくと、検出対象が存在する場合には、刺激応答性ポリマーが検出対象の電荷部分又は親水性部分によって凝集阻害されて分散する一方、検出対象が存在しない場合には刺激応答性ポリマーが凝集阻害されず凝集することになる。
【0033】
この現象を、図1〜図2を参照しながら説明する。
【0034】
図1に示されるように、結合物10は刺激応答性ポリマー11を含有し、この刺激応答性ポリマー11はアビジン15及びビオチン17を介して検出対象50に対する抗体13に結合されている。また、結合物10は微粒子状の磁性物質19を含み、この磁性物質19の表面に刺激応答性ポリマー11が結合されている。これにより、検出対象50は抗体13を介して磁性物質19に接近でき、このとき検出対象50の正電荷部分が磁性物質19の近傍に位置することになる。なお、本実施形態では検出対象50の正電荷部分が磁性物質19の近傍に位置する構成としたが、これに限られず、負電荷部分又は親水性部分が磁性物質19の近傍に位置する構成であってもよい。
【0035】
刺激応答性ポリマー11を凝集させるためには、例えば温度応答性ポリマーを用いた場合、混合液の入った容器を温度応答性ポリマーの凝集する温度の恒温槽に移せばよい。温度応答性ポリマーには、上限臨界溶液温度(以下「UCST」と略すことがある。)を有するポリマーと、下限臨界溶液温度(以下「LCST」と略すことがある。)を有するポリマーの2種類がある。例えば、LCSTが37℃である下限臨界溶液温度を有するポリマーを用いた場合には、混合液の入った容器を37℃以上の恒温槽に移すことで、温度応答性ポリマーを凝集させることができる。また、UCSTが5℃である上限臨界溶液温度を有するポリマーを用いた場合には、混合液の入った容器を5℃未満の恒温槽に移すことで、温度応答性ポリマーを凝集させることができる。
【0036】
また、pH応答性ポリマーを用いた場合、混合液の入った容器に酸溶液又はアルカリ溶液を加えればよい。具体的には、pH応答性ポリマーが構造変化を起こすpH範囲の外にある分散混合液の入った容器に、酸溶液又はアルカリ溶液を加え、容器内をpH応答性ポリマーが構造変化を起こすpH範囲に変更すればよい。例えば、pH5以下で凝集、pH5超で分散するpH応答性ポリマーを用いた場合、pH5超で分散している混合液の入った容器に、pHが5以下になるように酸溶液を加えればよい。また、pH10以上で凝集、pH10未満で分散するpH応答性ポリマーを用いた場合、pH10未満で分散している混合液の入った容器に、pHが10以上になるようにアルカリ溶液を加えればよい。pH応答性ポリマーが構造変化を起こすpHは、特に限定されないが、pH4〜10が好ましく、pH5〜9であることが更に好ましい。
【0037】
また、光応答性ポリマーを用いた場合、混合液の入った容器にポリマーを凝集できる波長の光を照射すればよい。凝集させるための好ましい光は、光応答性ポリマーに含まれる光応答性官能基の種類及び構造により異なるが、一般に波長190〜800nmの紫外光又は可視光が好適に使用できる。このとき、強度は0.1〜1000mW/cmが好ましい。なお、光応答性ポリマーは、測定精度を向上できる点で、濁度の測定に用いられる光が照射された際、分散を生じにくいもの、換言すれば凝集するものであることが好ましい。光応答性ポリマーとして、濁度の測定に用いられる光が照射された際に分散を生じるものを用いる場合、照射時間を短縮することで測定精度を向上できる。
【0038】
かかる条件下に結合物10及び検体の混合物をおくと、検出対象50が存在する場合には、刺激応答性ポリマー11が検出対象50の正電荷部分によって凝集阻害されて分散する(図2(A))一方、検出対象50が存在しない場合には刺激応答性ポリマー11が凝集阻害されず凝集することになる(図2(B))。
【0039】
なお、温度応答性ポリマーの凝集は、結合物及び検出対象の結合前に行ってもよいし、同時並行的に行ってもよいが、処理時間を短縮できる点で後者が好ましい。
【0040】
ここで、下限臨界溶液温度及び上限臨界溶液温度は例えば以下のように決定する。まず、試料を吸光光度計のセルに入れ、1℃/分の速度で試料を昇温する。この間、550nmにおける透過率変化を記録する。ここで、ポリマーが透明に溶解しているときの透過率を100%、完全に凝集したときの透過率を0%としたとき、透過率が50%になるときの温度をLCSTとして求める。
【0041】
〔判定〕
分散の有無の判定は、例えば目視又は濁度測定で行うことができる。濁度は光散乱装置での光透過率から算出でき、濁度が低ければ刺激応答性ポリマーの凝集が阻害されており、検出物質の存在が示唆される。ここで、使用する光の波長は、磁性物質の粒径等に応じ所望の検出感度が得られるよう適宜設定されてよい。光の波長は、従来汎用の装置を利用できる点で、可視光の範囲内(例えば、550nm)であることが好ましい
【0042】
目視又は濁度測定は、一定の時点で断続的に行ってもよいし、経時的に連続して行ってもよい。また、ある時点における濁度測定値と、他の時点における濁度測定値との差に基づいて判定を行ってもよい。
【0043】
(分離)
凝集性物質が微粒子状の磁性物質を含有する場合、本発明の検出方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含むことが好ましい。これによって、凝集した磁性物質が、非凝集状態の磁性物質を含む夾雑物から分離される。このため、分離した磁性物質の量、溶媒に分散した際の光透過率等の測定値は、夾雑物の影響が除外され、検出物質の存在をより忠実に反映したものとなる。
【0044】
磁力の付加は磁性物質に磁石を接近させて行うことができる。この磁石の磁力は、用いる磁性物質が有する磁力の大きさによって異なる。磁石としては、例えばマグナ社製ネオジ磁石が挙げられる。
【0045】
また、磁力の付加は、判定の前又は判定と同時並行して行ってよいが、工程に費やされる時間を短縮化できる点で同時並行が好ましい。なお、磁力を付加すると、凝集した磁性物質は夾雑物を巻き込んで分離されるため、分離後における混合物の濁度は、夾雑物が存在していた場合の方がむしろ小さくなるものと推測される。
【0046】
(検出対象)
以上の検出方法で検出できる対象としては、臨床診断に利用される物質が挙げられ、具体的には、体液、尿、喀痰、糞便中等に含まれるヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリン及びそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン(例えば、ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)、インスリン等)、薬剤等が挙げられる。
【0047】
これらの検出対象が含まれると疑われる検体(血液等)には、多種類且つ多量の夾雑物が混在する場合が多いが、測定される磁界は検出対象中の夾雑物に大きく影響されるものではない。このため、測定前に夾雑物を除去するといった予備手順を必ずしも行わなくてもよい。
【0048】
〔作用効果〕
本発明の第1実施形態によれば、以下のような作用効果が得られる。
検出対象が存在する場合、この結合対象に親和性物質が結合する。すると、検出対象の電荷部分又は親水性部分が、親和性物質に結合した刺激応答性ポリマーに接近する。これにより、電荷部分又は親水性部分が刺激応答性ポリマーの近傍に配置される。従って、この凝集阻害の有無を観察することで、検出対象の存否を検出できる。
【0049】
以上の手順は、凝集性物質及び親和性物質のみを用いて達成され、特殊な試薬、機器を特に使用することなく行われるので、安価且つ簡便である。また、凝集阻害の程度を測定するだけであり、酵素によって触媒される反応を利用する系ではないから、迅速に行うことができる。
【0050】
<第2実施形態> 定量方法
本発明の定量方法では、まず、結合物及び検体を混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する所定条件下におく。続いて、この混合物の濁度を測定し、検出対象の量と濁度との所定条件下における相関式に基づいて、検体中の検出対象の量を算出する。前半部分の手順は前述した検出方法と類似するので、説明を省略する。
【0051】
(相関式)
上記所定条件と同一の条件における、検出対象の量と濁度との相関式を作成する。この相関式を構成する検出対象の量と濁度との測定は、データが多い程に信頼性の高い相関式が得られる。そこでデータは、2以上の検出対象の量に関するものであればよく、3点以上の検出対象の量に関するものであることが好ましい。
【0052】
ここで、検出対象の量と濁度との相関式は、検出対象の量と濁度との直接的な相関を示す式のみならず、検出対象の量と濁度を反映するパラメータとの相関式であってもよい。
【0053】
(算出)
混合物の濁度測定値を、作成した相関式に代入することによって、検体中の検出対象の量を算出できる。
【0054】
なお、検出方法又は定量方法における「濁度測定」には、濁度を直接的に測定することのみならず、濁度を反映するパラメータを測定することも包含される。かかるパラメータとしては、複数時点での濁度測定値の差異、分離された凝集物量、分離後の非凝集物の濁度等が挙げられる。ここで、複数時点のうちの1点は、例えば、検出対象が非存在である陰性対照に磁力を付加した際、濁度が最大値となる時点近傍であることが好ましい。これにより、別の時点での濁度測定値との差異が大きくなり、検出対象の量をより正確に定量できることになる。
【0055】
〔作用効果〕
本発明の第2実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
第1実施形態と同様に、濁度の程度が検出対象の量に依存することになるので、検出対象量及び濁度の相関式に濁度測定値を代入することで、検出対象を定量できる。
しかも、この手順は、凝集性物質及び親和性物質のみを用いて達成され、特殊な試薬、機器を特に使用することなく行われるので、安価且つ簡便である。また、凝集阻害の程度を測定するだけであり、酵素によって触媒される反応を利用する系ではないから、迅速に行うことができる。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
(検出対象に対する親和性物質が結合した刺激応答性磁性微粒子の調製)
まず、検出対象としてのヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対するリガンドとしての抗体(クローン:155マウス、マウスIgG、Leinco Technology,Inc.製)を、従来周知のsulfo−NHS−Biotin法(旭テクノグラス社)によりビオチン化し、ビオチン標識抗TSHベータ抗体を調製した。
【0057】
一方、ストレプトアビジン及び温度応答性ポリマーが結合された磁性微粒子であるマグナビート社製のTherma−Max LSA Streptavidin(0.2質量%)250μLを1.5mLマイクロチューブ内にとった。このマイクロチューブを42℃に加熱することで、Therma−Max LSA Streptavidinを凝集させ、磁石で回収した後、上清を除去した。除去後のチューブにTBSバッファ(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH7.5)250μLを加え、冷却することで凝集物を分散させた。
【0058】
この分散液に、PBSバッファ(0.01M リン酸バッファ、0.0027M 塩化カリウム、0.137M 塩化ナトリウム、pH7.4)に溶解した上記ビオチン標識抗TSHベータ抗体50μL(0.75mg/mL)を加え、室温で20分間に亘り転倒混和した。その後、マイクロチューブを42℃に加熱して、Therma−Max LSA Streptavidinを凝集させ、磁石で回収した後、上清を除去することで余分なビオチン標識抗TSHベータ抗体を分離した(B/F分離)。分離後のマイクロチューブにTBSバッファ250μLを加え、冷却することで、凝集物を分散させた。更に、0.5%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有するPBSバッファ(pH7.4)溶液に凝集物を分散させることで、検出対象に対する親和性物質が結合した刺激応答性磁性粒子1溶液を調製した。
【0059】
(試料の調製)
ヒト甲状腺刺激ホルモン(TSH;Aspen Bio Pharma,Inc.製、活性8.5IU/mg、WHO80/558)を0.5%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有するPBSバッファ(pH7.4)溶液で、2550mIU/L、255mIU/L、25.5mIU/L、2.55mIU/L、0.255mIU/L、及び0.0255mIU/Lとなるよう希釈したものを、それぞれ試料とした。
【0060】
[定量]
図3に示されるように、従来汎用されている分光光度計用セミミクロセル71の光路外に、寸法5mm×9m×2mmのネオジム永久磁石73(西興産業社製)を取り付けた。このセル71を、セル温度制御機が設けられた紫外可視分光光度計V−660DS(日本分光製)内に設置し、37℃のもと10分間以上保持した。
【0061】
図4は、実施例に係る定量方法の手順を示すフローチャートである。定量方法は、上記の第1の結合物、第2の結合物及び試料を混合する工程(ST10)と、混合物の濁度を測定する工程(ST20)とを含む。
【0062】
(混合)
検出対象に対する親和性物質が結合した刺激応答性磁性粒子1溶液150μL、0.5%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有するPBSバッファ(pH7.4)溶液120μL及び各試料750μLをマイクロチューブ内に注ぎ、ピペッティングで混合した後、20分間静置した。
【0063】
(相関式の作製)
この撹拌液をセル71内に分注し、分光光度計に添付の使用説明書に従ってゼロ補正し、波長420nmの光を用いて、直ちにバンド幅2.0nmで、1000秒間に亘って連続して測定した。この結果を図6に示す。
【0064】
図5に示されるように、開始後約500秒間は、TSHの量が高い程、濁度が低くなることが分かった。これは、刺激応答性ポリマーがTSHによって凝集阻害を受けて分散したためである。一方、開始約500秒後付近から、TSHの量と濁度との関係が反転し始め、やがて時間の経過とともに濁度が初期値よりも低下した。これは、凝集した磁性物質が磁石に吸着されて分離されるからであると推測される。
【0065】
次に、各試料について、開始後500秒及び1000秒の2点での測定値の差異を算出した。この結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、開始後500秒及び1000秒の2点間の測定値の差は、TSHの量に依存するものであった。即ち、TSH濃度が上がるにつれ、開始後500秒及び1000秒の2点間の測定値の差は小さかった。これにより、開始後500秒及び1000秒の2点間の測定値の差を測定することで、検出物質を高感度に検出又は定量できることが分かった。
【0068】
また、開始後1000秒以内という検出時間は、インキュベーション時間を含め約90分間を費やす従来技術(図3参照)に比べて、格段に短いものである。また、ST10及びST20という操作(図5参照)を、実際の検体について行うだけで検出物質を検出又は定量できるので、手順が簡便である。
【0069】
以上の結果より、TSHの濃度に応じて吸光度が変化すること、換言すれば、吸光度を測定することでTSHの濃度を定量できることが示された。つまり、本発明に係る方法は、二次抗体、発光試薬、発光検出装置等の特殊な試薬、機器を必要とせず、検出対象を迅速、安価且つ簡便に検出、定量できる新規な方法であることが確認された。
【0070】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法において使用される結合物の概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る結合物の使用状態を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例に係る方法における磁力の付加の態様を示す図である。
【図4】本発明の一実施例に係る方法のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係る方法における反応時間と濁度との相関性を示すグラフである。
【図6】従来例に係る方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
10 結合物
11 刺激応答性ポリマー
13 抗体(親和性物質)
19 磁性物質
50 検出対象
71 セル
73 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の検出対象を検出する方法であって、
刺激応答性ポリマーを含有する凝集性物質と前記検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物と、前記検体とを混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する条件下におき、
前記刺激応答性ポリマーの凝集の程度を判定し、
前記検体の非存在下よりも、前記刺激応答性ポリマーの凝集の程度が低下したと判定された場合には、前記検体中に検出対象が存在すると判別する手順を含む方法。
【請求項2】
前記凝集性物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
検体中の検出対象を定量する方法であって、
刺激応答性ポリマーを含有する凝集性物質と前記検出対象に対する親和性物質とが結合した結合物と、前記検体とを混合し、この混合物を刺激応答性ポリマーが凝集する所定条件下におき、
前記混合物の濁度を測定し、前記検出対象の量と濁度との前記所定条件下における相関式に基づいて、前記検体中の検出対象の量を算出する手順を含む方法。
【請求項4】
前記凝集性物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−162532(P2009−162532A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339988(P2007−339988)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(596057549)オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社 (4)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)