説明

検出対象の検出方法及び定量方法

【課題】検出対象を迅速、安価且つ簡便に高感度で検出、定量できる検出用キット等を提供すること。
【解決手段】検体中の検出対象50を検出するキットは、pH応答性ポリマー11を含有する第1の物質と検出対象50に対する第1の抗体13とが結合した第1の結合物10と、有電荷又は親水性の第2の物質21と検出対象50に対する第2の抗体23とが結合した第2の結合物20と、を含む。第1の抗体13及び第2の抗体23は、検出対象50の異なる部位において、同時に検出対象50に結合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象の検出/定量用キット、及び検出/定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体中の検出対象を検出する方法として、ラテックス凝集法が行われてきた。ラテックス凝集法とは、生体試料等の流体中における抗原を検出する場合、流体と、抗原に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントを担持させたラテックスとを混合して、ラテックスの凝集の程度を測定することにより、抗原を検出又は定量する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このラテックス凝集法によれば、検体として添加された抗原が複数のラテックス結合抗体を架橋させ、ラテックスの凝集を促す。このように手順が単純であるから、簡便且つ迅速に抗原を検出できる。しかし、抗原が微量の場合、その架橋が起こりにくいため、ラテックスが十分に凝集しない。このため、微量の抗原を検出することが困難であった。
【0004】
そこで、ELISA法やCLEIA法といった酵素基質反応を利用する方法も広く採用されている。これらの方法では、例えば、抗原に特異的に結合する一次抗体を抗原に結合させ、この一次抗体に酵素を有する二次抗体を結合させる。ここで、酵素の基質を添加し、酵素が触媒する反応の程度を測定することで、抗原を検出又は定量する。
【0005】
これらの方法によれば、例えば基質として発光試薬を用いると、基質添加後の発光の検出感度が高いため、微量の抗原も検出できる。
【特許文献1】特公昭58−ll575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、酵素基質反応を利用する方法では、二次抗体、発光試薬、発光検出装置等の特殊な試薬、機器が必須であり、作業コストが高い。
【0007】
また、図3に示すように、この方法は、試料及び各試薬をインキュベーションする工程(ST110、ST130)、系を洗浄する工程(ST120)、発光を測定する工程(ST140)等の多段階からなっており、操作が煩雑である。しかも、各段階に要する時間が極めて長く、大規模処理には適さない。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、検出対象を迅速、安価且つ簡便に高感度で検出、定量できる検出/定量用キット、及び検出/定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有電荷又は親水性物質に接近されるとpH応答性ポリマーの凝集が阻害されることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の構成を有する。
【0010】
[1]検出対象を検出及び/又は定量するためのキットであって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、
有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、を含み、
第1の親和性物質及び第2の親和性物質が、前記検出対象の異なる部位において、同時に前記検出対象に結合できるキット。
[2]第1の物質は、微粒子状の磁性物質を含む[1]に記載のキット。
[3]第2の物質は、親水性の高分子化合物である[1]又は[2]に記載のキット。
[4]第2の物質は、ポリアニオン又はポリカチオンである[1]から[3]のいずれかに記載のキット。
[5]ポリアニオンは、核酸又はポリアクリル酸である[4]に記載のキット。
[6]ポリカチオンは、ポリアルキルアミン又はポリエチレンイミンである[4]に記載のキット。
[7]検体中の検出対象を検出する方法であって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、前記検体とを混合し、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する条件下におき、前記pH応答性ポリマーの拡散の有無を判定する工程を含み、
第1の親和性物質及び第2の親和性物質が、前記検出対象の異なる部位において、同時に前記検出対象に結合できる方法。
[8]第1の物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む[7]に記載の方法。
[9]検体中の検出対象を定量する方法であって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、前記検体とを混合し、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する所定条件下におき、
前記混合物の濁度を測定し、前記検出対象の量と濁度との前記所定条件下における相関式に基づいて、前記検体中の検出対象の量を算出することを含む方法。
[10]第1の物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検出対象が存在すると、この結合対象に第1の親和性物質及び第2の親和性物質が結合するため、第1の親和性物質に結合したpH応答性ポリマーと、第2の親和性物質に結合した第2の物質が接近する。これにより、電荷部分又は親水性部分がpH応答性ポリマーの近傍に配置されるため、刺激に応答したpH応答性ポリマーの凝集が阻害される。従って、この凝集阻害の有無を観察することで、検出対象の存否を検出できる。また、凝集阻害の程度を測定することで、検出対象を定量できる。
【0012】
以上の手順は、いずれも特殊な試薬、機器を特に使用することなく行うことができ、安価且つ簡便である。また、凝集阻害の程度を測定するだけであり、酵素によって触媒される反応を利用する系ではないから、迅速に行うことができる。また、第2の物質が有する電荷部分又は親水性部分がpH応答性ポリマーの凝集を高度に阻害するので、高感度で検出対象を検出、定量できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<キット>
本発明のキットは、検出対象を検出及び/又は定量するためのキットであって、第1の結合物と、第2の結合物とを含有する。各構成について、以下詳細に説明する。
【0014】
〔第1の結合物〕
第1の結合物は、pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と、検出対象に対する第1の親和性物質とが結合したものである。
【0015】
(第1の物質)
本発明で用いられる第1の物質はpH応答性ポリマーを含有するところ、このpH応答性ポリマーは、外的なpH変化に応答して構造変化を起こし、凝集及び分散を調整できるポリマーである。
【0016】
pH応答性ポリマーが構造変化を起こすpHは、特に限定されないが、刺激付与時における第1の結合物、第2の結合物、及び検体の変性等による検出・定量精度の低下を抑制できる点で、pH4〜10が好ましく、pH5〜9であることが更に好ましい。
【0017】
かかるpH応答性ポリマーは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ホスホリルエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の解離基を有するモノマーが重合されたものであってもよく、これら解離基を有するモノマーと、pH応答能が損なわれない程度において、他のビニルモノマー、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、スチレン、塩化ビニル、N−ビニルピロリドン等のビニル化合物、(メタ)アクリルアミド類等とが共重合されたものであってもよい。
【0018】
第1の物質は、後述の磁力付加により検出精度を向上できる点で、微粒子状の磁性物質を更に含有することが好ましい。かかる磁性物質は、多価アルコールとマグネタイトとで構成されてよい。
【0019】
多価アルコールは、構成単位に水酸基を少なくとも2個有し且つ鉄イオンと結合可能なアルコール構造体である限りにおいて特に限定されず、例えば、デキストラン、ポリビニルアルコール、マンニトール、ソルビトール、シクロデキストリンが挙げられる。例えば特開2005−82538公報には、デキストランを用いた微粒子状の磁性物質の製造方法が開示されている。また、グリシジルメタクリレート重合体のようにエポキシを有し、開環後多価アルコール構造体を形成する化合物も使用できる。
【0020】
このような多価アルコールを用いて調製された微粒子状の磁性物質(磁性微粒子)は、良好な分散性を有するように、その平均粒径が0.9nm以上1000nm未満であることが好ましい。平均粒径は、特に目的とする検出対象の検出感度を高めるためには、2.9nm以上200nm未満であることが好ましい。即ち、平均粒径が大きすぎる場合には、後述のように磁力を付加した際、非凝集状態の粒子でも凝集物と同様の行動をとることが懸念される。
【0021】
〔第2の結合物〕
第2の結合物は、有電荷又は親水性の第2の物質と、検出対象に対する第2の親和性物質とが結合したものである。
【0022】
(第2の物質)
電荷を有する第2の物質は、例えば電荷を有する高分子化合物であり、ポリアニオン又はポリカチオンであることが好ましい。ポリアニオンとは複数のアニオン基を有する物質を意味し、ポリカチオンとは複数のカチオン基を有する物質を意味する。ポリアニオンの例として、DNA及びRNA等の核酸が挙げられる。これらの核酸は、核酸骨恪に沿って複数個のホスホジエステルが存在することにより、ポリアニオンの性質を有する。また、ポリアニオンには、多数のカルボキシルを含むポリペプチド(グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸からなるポリペプチド)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びアクリル酸やメタクリル酸を重合成分として含有するポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、及びヘパリン等の多糖類等も含まれる。一方、ポリカチオンの例としては、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、ポリアルキルアミン、ポリエチレンイミンやポリプロピルエチレンイミン等が挙げられる。なお、ポリアニオン(カルボキシル)やポリカチオン(アミノ)の官能基数は、25個以上が好ましい。
【0023】
親水性の第2の物質は、例えば水溶性の高分子化合物であり、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のエーテル結合を含有する高分子、ポリビニルアルコール等のアルコール性水酸基を含有する高分子、デキストラン、シクロデキストリン、アガロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性多糖類等が挙げられる。
【0024】
これら有電荷又は親水性の物質は、高分子鎖の中又は末端に、第2の親和性物質を結合させるための官能基等を有していてもよい。
【0025】
(第1の親和性物質、第2の親和性物質)
第1の結合物の第1の親和性物質、及び第2の結合物の第2の親和性物質は、検出対象の異なる部位において、同時に検出対象に結合できるものである。第1の親和性物質及び第2の親和性物質は、例えば、検出対象の異なる抗原決定基を認識するモノクローナル抗体であってよい。
【0026】
ここで用いる抗体は、いかなるタイプの免疫グロブリン分子であってもよく、Fab等の抗原結合部位を有する免疫グロブリン分子断片であってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよいが、異なる抗原認識部位を有する2種類のモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0027】
〔作製方法〕
以上のキットの作成方法を説明する。
【0028】
[第1の結合物の作製]
第1の結合物は、第1の物質と第1の親和性物質とを結合することによって作製する。この結合方法は、特に限定されないが、例えば、第1の物質側(例えばpH応答性ポリマー部分)及び第1の親和性物質(例えば、第1の抗体)側の双方に、互いに親和性の物質(例えば、アビジン及びビオチン、グルタチオン及びグルタチオンSトランスフェラーゼ)を結合させ、これら物質を介して第1の物質及び第1の親和性物質を結合させる。
【0029】
具体的には、pH応答性ポリマーへのビオチンの結合は、国際公開第01/09141号パンフレットに記載されているように、ビオチン等をメタクリルやアクリル等の重合性官能基と結合させて付加重合性モノマーとし、他のモノマーと共重合することにより行い、第1の親和性物質へのアビジン等の結合は常法に従って行う。次に、ビオチン結合pH応答性ポリマー及びアビジン結合第1の親和性物質を混合すると、アビジンとビオチンとの結合を介して、第1の親和性物質及びpH応答性ポリマーが結合する。
【0030】
別法として、ポリマーの重合時にカルボキシル、アミノ又はエポキシ等の官能基を持つモノマーを他のモノマーと共重合させ、この官能基を介し、当技術分野で周知の方法に従って抗体親和性物質(例えば、メロンゲル、プロテインA、プロテインG)をポリマーに結合させる方法が利用できる。このようにして得られた抗体親和性物質に第1の抗体を結合させることにより、pH応答性ポリマーと、検出対象の抗原に対する第1の抗体との第1の結合物が作製される。
【0031】
第1の物質をpH応答性ポリマーが凝集する条件においた後、遠心分離によって分離することで、第1の結合物を精製してもよい。第1の結合物の精製は、pH応答性ポリマーに微粒子状の磁性物質を結合させ、更に第1の親和性物質を結合させた後、磁力を付加して磁性物質を回収する方法によって行ってもよい。
【0032】
微粒子状の磁性物質とpH応答性ポリマーとの結合は、反応性官能基を介して結合する方法や、磁性物質中の多価アルコール上の活性水素又は多価アルコールに重合性不飽和結合を導入してグラフト重合する方法等の当技術分野で周知の方法で行ってよい(例えば、ADV.Polym.Sci.、Vol.4、p111、1965やJ.Polymer Sci.、Part−A、3、p1031、1965参照)。
次に、電荷を有する第2の物質と、検出対象の抗原に対する第2の抗体とを結合させ第2の結合物を作製する方法について記述する。
【0033】
[第2の結合物の作製]
第2の結合物は、第2の物質と第2の親和性物質とを直接又は間接に結合することによって作製する。特に限定されないが、例えば、第2の物質側及び第2の親和性物質(例えば、第2の抗体)側の双方に、互いに親和性の物質(例えば、アビジン及びビオチン、グルタチオン及びグルタチオンSトランスフェラーゼ)を結合させ、これら物質を介して第2の物質及び第2の親和性物質を間接的に結合させる。
【0034】
第2の物質と第2の親和性物質とを直接的に結合させる場合、官能基を介して結合させてもよく、例えば、官能基を用いる場合、ゴッシュらの方法(Ghosh et al:Bioconjugate Chem.、 1、 71−76、1990)のマレイミド−チオールカップリングに従って結合できる。具体的には、以下の2つの方法が挙げられる。
【0035】
第1の方法では、まず、核酸の5’末端にメルカプト(別名、スルフヒドリル)を導入する一方、抗体に6−マレイミドヘキサノイックアシッドスクシンイミドエステル(例えば、「EMCS(商品名)」(同仁化学社製))を反応させてマレイミドを導入する。次に、これら2種の物質をメルカプト及びマレイミドを介して結合させる。
【0036】
第2の方法では、まず、第1の方法と同様にして核酸の5’末端にメルカプトを導入し、このメルカプトに更にホモ二官能性試薬であるN,N−1,2−フェニレンジマレイミドと反応させることによって核酸の5’末端にマレイミドを導入する一方、抗体にメルカプトを導入する。次に、これら2種の物質をメルカプト及びマレイミドを介して結合させる。
【0037】
この他に、核酸をタンパク質に導入する方法としては、例えば、Nucleic Acids Research 第15巻5275頁(1987年)及びNucleic Acids Research 第16巻3671頁(1988年)に記載された方法が知られている。これらの技術は核酸と抗体の結合に応用できる。
【0038】
Nucleic Acids Research 第16巻3671頁(1988年)によると、まず、オリゴヌクレオチドを、シスタミン、カルボジイミド及び1−メチルイミダゾールと反応させることによって、オリゴヌクレオチドの5’末端の水酸基にメルカプトを導入する。メルカプトを導入したオリゴヌクレオチドを精製した後、ジチオトレイトールを用いて還元し、この後に2、2’−ジピリジルジスルフィドを加えることによってオリゴヌクレオチドの5’末端にジスルフィド結合を介してピリジルを導入する。一方、タンパク質に対しては、イミノチアレンを反応させてメルカプトを導入しておく。これらピリジルジスルフィドを導入したオリゴヌクレオチドとメルカプトを導入したタンパク質を混合し、ピリジルとメルカプトを特異的に反応させてタンパク質とオリゴヌクレオチドを結合させる。
【0039】
Nulcleic Acids Reseach 第15巻5275頁(1987年)によると、まず、オリゴヌクレオチドの3’末端にアミノを導入しておき、ホモ二官能性試薬であるジチオ−ビス−プロピオニックアシッド−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(略称:ジチオ−ビス−プロピオニル−NHS)を反応させる。反応後、ジチオトレイトールを添加することによりジチオ−ビス−プロピオニル−NHS分子中のジスルフィド結合を還元して、オリゴヌクレオチドの3’末端にメルカプトを導入する。タンパク質の処理については、特開平5−48100号公報に示すようなヘテロ二官能性架橋剤が用いられる。まず、タンパク質中の官能基(例えば、アミノ)と反応しうる第1の反応性基(スクシンイミド)、及びメルカプトと反応しうる第2の反応性基(例えば、マレイミド等)を有するヘテロ二官能性架橋剤と、タンパク質を反応させることにより、タンパク質に第2の反応性基を導入し、予め活性化されたタンパク試薬とする。このようにして得られたタンパク試薬をチオール化ポリヌクレオチドのメルカプトへ共有結合させる。
【0040】
このようにして製造されるキットは、例えば以下のような方法で、検出対象を検出及び/又は定量するために使用できる。
【0041】
<検出方法>
本発明の検出方法は、まず第1の結合物、第2の結合物及び検体を混合し、pH応答性ポリマーが凝集する条件下において、pH応答性ポリマーの拡散の有無を判定する工程を含む。手順の詳細を以下に説明する。
【0042】
(混合・凝集)
まず、第1の結合物と第2の結合物とを容器内で混合し、更に検体を添加して混合物を得る。続いて、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する条件下におく。すると、検出対象が存在する場合には、pH応答性ポリマーが第2の結合物中の電荷部分又は親水性部分によって凝集阻害されて拡散する一方、検出対象が存在しない場合にはpH応答性ポリマーが凝集阻害されず凝集することになる。
【0043】
この現象を、図1〜図2を参照しながら説明する。
【0044】
図1に示されるように、第1の結合物10はpH応答性ポリマー11を含有し、この11はアビジン15及びビオチン17を介して検出対象50に対する第1の抗体13に結合されている。また、10は微粒子状の磁性物質19を含み、この19の表面に11が結合されている。一方、第2の結合物20は負電荷を有する第2の物質21を含み、この21は検出対象50に対する第2の抗体23に結合されている。そして、13及び23は、検出対象50の異なる部位において、同時に検出対象50に結合できる。
【0045】
図2に示されるように、第1の結合物10、第2の結合物20及び検体の混合物を所定条件下におくと、検出対象50が存在する場合には、pH応答性ポリマーが第2の結合物20中の電荷によって凝集阻害されて拡散する(図2(A))一方、検出対象50が存在しない場合にはpH応答性ポリマーが凝集阻害されず凝集することになる(図2(B))。
【0046】
pH応答性ポリマーが凝集する条件は、混合液の入った容器に、構造変化を起こすpHまで酸溶液又はアルカリ溶液を加えることで達成される。具体的には、pH応答性ポリマーが構造変化を起こすpH範囲の外にある分散混合液の入った容器に、酸溶液又はアルカリ溶液を加え、容器内をpH応答性ポリマーが構造変化を起こすpH範囲に変更すればよい。例えば、pH5以下で凝集、pH5超で分散するpH応答性ポリマーを用いた場合、pH5超で分散している混合液の入った容器に、pHが5以下になるように酸溶液を加えればよい。また、pH10以上で凝集、pH10未満で分散するpH応答性ポリマーを用いた場合、pH10未満で分散している混合液の入った容器に、pHが10以上になるようにアルカリ溶液を加えればよい。
【0047】
ここで使用される酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、エタノールアミン等のアミン等が挙げられる。
【0048】
酸溶液又はアルカリ溶液は、添加時のpH急変化による第1の結合物、第2の結合物、及び検体の変性を抑制するべく、0.01〜1.0mol/Lで調製されることが好ましい。
【0049】
なお、pH応答性ポリマーの凝集は、第1結合物及び第2結合物の検出対象への結合の前に行ってもよいし、同時並行的に行ってもよいが、処理時間を短縮できる点で後者が好ましい。ただし、pH応答性ポリマーが凝集する条件が、第1結合物及び第2結合物が検出対象に結合する条件と大幅に異なる場合、前者が好ましい。また、pHの不均衡による第1の結合物、第2の結合物、及び検体の局所的な変性を抑制するべく、酸溶液又はアルカリ溶液の添加後、速やかに混合作業を行うことが好ましい。
【0050】
(判定)
拡散の有無の判定は、例えば目視又は濁度測定で行うことができる。濁度は光散乱装置での光透過率から算出でき、濁度が低ければpH応答性ポリマーの凝集が阻害されており、検出物質の存在が示唆される。ここで、使用する光の波長は、磁性物質の粒径等に応じ所望の検出感度が得られるよう適宜設定されてよい。光の波長は、従来汎用の装置を利用できる点で、可視光の範囲内(例えば、550nm)であることが好ましい。
【0051】
目視又は濁度測定は、一定の時点で断続的に行ってもよいし、経時的に連続して行ってもよい。また、ある時点における濁度測定値と、他の時点における濁度測定値との差に基づいて判定を行ってもよい。
【0052】
<定量方法>
本発明の定量方法によれば、まず、第1の結合物、第2の結合物及び検体を混合し、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する所定条件下におく、次に、混合物の濁度を測定し、検出対象の量と濁度との所定条件下における相関式に基づいて、検体中の検出対象の量を算出する。前半部分の手順は前述した検出方法と類似するので、説明を省略する。
【0053】
(相関式)
上記所定条件と同一の条件における、検出対象の量と濁度との相関式を作成する。この相関式を構成する検出対象の量と濁度との測定は、データが多い程に信頼性の高い相関式が得られる。そこでデータは、2以上の検出対象の量に関するものであればよく、3点以上の検出対象の量に関するものであることが好ましい。
【0054】
ここで、検出対象の量と濁度との相関式は、検出対象の量と濁度との直接的な相関を示す式のみならず、検出対象の量と濁度を反映するパラメータとの相関式であってもよい。
【0055】
(算出)
混合物の濁度測定値を、作成した相関式に代入することによって、検体中の検出対象の量を算出できる。
【0056】
(分離)
第1の物質が微粒子状の磁性物質を含有する場合、本発明の検出方法又は定量方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含むことが好ましい。これによって、凝集した磁性物質が、非凝集状態の磁性物質を含む夾雑物から分離される。このため、分離した磁性物質の量、溶媒に分散した際の光透過率等の測定値は、夾雑物の影響が除外され、検出物質の存在をより忠実に反映したものとなる。
【0057】
磁力の付加は磁性物質に磁石を接近させて行うことができるところ、この磁石の磁力は、用いる磁性物質が有する磁力の大きさによって異なる。磁石としては、例えばマグナ社製ネオジ磁石が挙げられる。
【0058】
また、磁力の付加は、判定の前又は判定と同時並行して行ってよいが、工程に費やされる時間を短縮化できる点で同時並行が好ましい。なお、磁力を付加すると、凝集した磁性物質は夾雑物を巻き込んで分離されるため、分離後における混合物の濁度は、凝集磁性物質が存在していた場合の方がむしろ小さくなるものと推測される。
【0059】
なお、検出方法又は定量方法における「濁度測定」には、濁度を直接的に測定することのみならず、濁度を反映するパラメータを測定することも包含される。かかるパラメータとしては、複数時点での濁度測定値の差異、分離された凝集物量、分離後の非凝集物の濁度等が挙げられる。ここで、複数時点のうちの1点は、例えば、検出対象が非存在である陰性対照に磁力を付加した際、濁度が最大値となる時点近傍であることが好ましい。これにより、別の時点での濁度測定値との差異が大きくなり、検出対象の量をより正確に定量できることになる。
【0060】
(検出対象)
検体中の検出対象としては、臨床診断に利用される物質が挙げられ、具体的には、体液、尿、喀痰、糞便中等に含まれるヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリン及びそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、インスリン、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン、薬剤等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
本実施例では、第1の結合物としてビオチン結合−pH応答性ポリマー表面修飾磁性粒子を、第2の結合物としてビオチン結合ポリアクリル酸を用いて、ストレプトアビジンを検出、定量する例を示す。
【0062】
(第1の結合物の調製)
[製造例1]磁性粒子(60nm)の調製方法
100mlのフラスコ内に、塩化第二鉄・六水和物(1.0mol)及び塩化第一鉄・四水和物(0.5mol)の混合水溶液を3ml、多価アルコールであるデキストラン(和光純薬工業社製、分子量32000〜40000)の10質量%水溶液60mlを入れ、メカニカルスターラで撹拌した。得られた混合溶液を50℃に昇温した後、これに25質量%アンモニア溶液5.0mlを滴下し、1時間程度撹拌した。これにより、平均粒径が約60nmのデキストラン含有磁性粒子が得られた(特開2005−82538(P2005−82538A)を参照)。
【0063】
[製造例2]ビオチンモノマー〔N−ビオチニル−N’−メタクリロイルトリメチレンアミド〕の調製方法
N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩18g、ビオチン24g及びトリエチルアミン30gを300mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、0℃に冷却した。ジフェニルホスフォニルアジド28gを50mlのDMFに溶解させた溶液を1時間かけて、冷却溶液中に滴下した。滴下終了後、0℃で3時間撹拌し、更に室温で12時間撹拌した。この後、減圧下で溶媒を留去し、展開溶媒としてクロロホルム−メタノール混合溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーで精製したところ、白色粉末22gが得られた。これは、目的物であるN−ビオチニル−N’−メタクリロイルトリメチレンアミドであった(収率59%)。(特開2005−82538(P2005−82538A)を参照)
【0064】
[製造例3]ビオチン結合−pH応答性ポリマー表面修飾磁性粒子(第1の結合物)の調製方法
50mlの三口フラスコ内に、N−イソプロピルアクリルアミド300mg、上記方法で調製したビオチンモノマー3mg、アクリル酸9.5mg、上記方法で調製したデキストラン含有磁性粒子(60nm)の2質量%水溶液2mlを入れ、蒸留水で20mlに調節した。この溶液を窒素置換した後、更に0.2M硝酸二アンモニウムセリウム(IV)硝酸溶液200μlを添加し、2時間撹拌し、反応を進行させることで、pH応答性磁性粒子が得られた。
【0065】
このpH応答性磁性粒子の平均粒径は、レーザーゼータ電位計「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、約100nmであることがわかった(特開2005−82538(P2005−82538A)を参照)。また、この粒子は、37℃において、pH7では水溶液中に完全に分散し、磁石での回収が困難であったが、溶液をpH5以下にすると直ちに凝集し、磁石で容易に回収できた。即ちpH7で分散し、pH5以下で凝集するpH応答性が確認された。
【0066】
こうして得たpH応答性ポリマー表面修飾磁性粒子を37℃、pH4で凝集させ、磁石で回収した後、上清部分を除去した(B/F分離)。分離後の粒子を、0.5w/v%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5w/v%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有させたPBSバッファー(pH7.4)に分散することで、第1の結合物を調製した。
【0067】
(第2の結合物の調製)
[製造例4]N−(6−アミノヘキシル)ビオチンの調製方法
窒素ガス導入管、温度計、及び撹拌装置を付した200mlの三口フラスコ内にヘキサメチレンジアミン(和光純薬工業社製)5g及びN,N−ジメチルホルムアミド30gを入れ、溶解した。ここに、ビオチン−NHS(和光純薬工業社製)2gをN,N−ジメチルホルムアミド25gに溶解した溶液を、5分かけて滴下した。2時間の反応後、生成した白い沈殿物をろ過して除き、ろ液を減圧濃縮した。更に真空乾燥機で、一晩乾燥し、N−(6−アミノヘキシル)ビオチンを得た。収量2.67g。
【0068】
[製造例5]ビオチン結合ポリアクリル酸(第2の結合物)の調製方法
温度計、及び撹拌装置を付した200mlの三口フラスコ内に、25%ポリアクリル酸(Mw.50000、Polysciences社製)4g、及び84mlの精製水(MILLIPORE社製 Direct−Q(商品名)で精製した水)を入れ、撹拌しながら1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液13mlを加え、中和した。更に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩100mgを加え、撹拌溶解した。ここに上記で調製した1%N−(6−アミノヘキシル)ビオチン水溶液341μlを添加し、24時間反応させた。反応終了後、反応液を透析チューブに移し、5Lの精製水中で24時間透析し、精製水で100mlにメスアップした。更に5mlずつガラス試験管に小分けし、95℃の恒温槽中で5分間加熱し、濃度1%のビオチン結合ポリアクリル酸を得た。こうして得た1%ビオチン結合ポリアクリル酸5mlと、0.5w/v%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5w/v%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有させたPBSバッファー(pH7.4)7mlとを混合することで、第2の結合物を調製した。
【0069】
ビオチン結合−pH応答性ポリマー表面修飾磁性粒子及びビオチン結合ポリアクリル酸を用いたストレプトアビジンの定量
【0070】
[試料の調製]
ストレプトアビジン(和光純薬工業社製)を、精製水で10mg/mLとなるように溶解した。この溶液を0.5w/v%(w/v)BSA(シグマ社製)、0.5w/v%(w/v)Tween(登録商標)20、10mM EDTAを含有させたPBSバッファー(pH7.4)で26.7μg/ml、13.3μg/ml、6.7μg/ml、及び0μg/mlとなるよう希釈したものを、それぞれ試料とした。
【0071】
[定量]
分光光度計用セミミクロセルを、セル温度制御機が設けられた可視紫外分光光度計V−660DS(日本分光製)内に設置し、37℃で10分間以上保持した。第1の結合物(4mg/ml)150μl、第2の結合物120μl及び各試料750μlをマイクロチューブ内に注ぎ、ピペッティングで均一に混合した後、20℃で5分間インキュベートした。この混合液をセル内に分注し、5分間静置した後、0.33mol/lの塩酸69μlを加えて速やかに撹拌し(このとき混合液のpHは5.1であった。)、5分後の吸光度を波長420nmの光を用いて測定した。この結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、ストレプトアビジンの濃度に依存して吸光度が変化することが分かる。即ち、吸光度を測定することで、ストレプトアビジンの定量が可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法において使用される第1の結合物及び第2の結合物の概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る第1の結合物及び第2の結合物の使用状態を示す模式図である。
【図3】従来例に係る方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
10 第1の結合物
11 pH応答性ポリマー
13 第1の抗体(第1の親和性物質)
19 磁性物質
20 第2の結合物
21 第2の物質
23 第2の抗体(第2の親和性物質)
50 検出対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象を検出及び/又は定量するためのキットであって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、
有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、を含み、
第1の親和性物質及び第2の親和性物質が、前記検出対象の異なる部位において、同時に前記検出対象に結合できるキット。
【請求項2】
第1の物質は、微粒子状の磁性物質を含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
第2の物質は、親水性の高分子化合物である請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
第2の物質は、ポリアニオン又はポリカチオンである請求項1から3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
ポリアニオンは、核酸又はポリアクリル酸である請求項4に記載のキット。
【請求項6】
ポリカチオンは、ポリアルキルアミン又はポリエチレンイミンである請求項4に記載のキット。
【請求項7】
検体中の検出対象を検出する方法であって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、前記検体とを混合し、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する条件下におき、前記pH応答性ポリマーの拡散の有無を判定する工程を含み、
第1の親和性物質及び第2の親和性物質が、前記検出対象の異なる部位において、同時に前記検出対象に結合できる方法。
【請求項8】
第1の物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
検体中の検出対象を定量する方法であって、
pH応答性ポリマーを含有する第1の物質と前記検出対象に対する第1の親和性物質とが結合した第1の結合物と、有電荷又は親水性の第2の物質と前記検出対象に対する第2の親和性物質とが結合した第2の結合物と、前記検体とを混合し、この混合物をpH応答性ポリマーが凝集する所定条件下におき、
前記混合物の濁度を測定し、前記検出対象の量と濁度との前記所定条件下における相関式に基づいて、前記検体中の検出対象の量を算出することを含む方法。
【請求項10】
第1の物質は、微粒子状の磁性物質を更に含有し、
前記方法は、磁力を付加することで、凝集した磁性物質を分離することを更に含む請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−162533(P2009−162533A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339989(P2007−339989)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(596057549)オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社 (4)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)