説明

検査対象受体

【課題】液受部に不要な液体が混入することを抑制可能な検査対象受体を提供する。
【解決手段】検査チップ40では、検体に所定方向の遠心力が付与された場合、検体投入口から供給された検体が検体供給路46によって計量部50へ案内される。計量部50では、遠心力の作用によって所定量の検体が計量される。計量部50から流出する余剰分の検体は、案内面53によって余剰槽54へ案内されて、余剰槽54に貯留される。案内面53は、計量部50における余剰槽54側の端部から、計量部50に貯留されている検体を第一流路61に流出させる際に付加される遠心力方向と直交する垂直面に対して下流側に傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的、医学的、生物学的な検査を行うための検査対象受体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体物質及び化学物質等を検査するために使用されるマイクロチップ又は検査チップと呼ばれる検査対象受体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような検査対象受体を使用することで、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)、酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルス、細胞などを検知したり、計量したりすることができる。
【0003】
図19に示すように、特許文献1に開示の検査チップでは、検査対象の血液が開口101から内部に注入されて、遠心分離装置によって回転される。検査チップ内に注入された血液は、F0方向に作用する遠心力によって、毛管スロット102内を通って血液保持室103に移動し、さらに血液分離室104内に流れ込んで遠心分離される。一方、反応試剤室105から流出する反応試剤と、希釈剤室106から流出する希釈剤とが、反応試剤計量室107内に流れ込んで混合される。
【0004】
次に、検査チップを90°回転させることによって、F1方向に作用する遠心力が生じる。これにより、分離された血液の一部が血液分離室104から試料保持室108に移送され、且つ、混合された反応試剤が反応試剤計量室107から混合室109に移送される。さらに、検査チップを90°反転させることによって、再びF0方向に作用する遠心力が生じる。これにより、試料保持室108で保持されている血液が試料計量室110に移送され、且つ、混合室109で保持されている反応試剤がキュベット室111に移送される。最後に、検査チップの90°回転および90°反転を順に行うことによって、試料計量室110で保持されている血液と、キュベット室111で保持されている反応試剤とが混合される。その後、図示しない光源からキュベット室111に光を照射して、血液と反応試剤とが混合された液体の光学特性を計測することによって、血液の検査を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−238760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の検査チップでは、試料計量室110で正確な試料量を計量するために、過剰な試料が試料計量室110から試料溢流室112へ流れ出るようにしている。しかしながら、試料計量室110における試料溢流室112側の端部から連続して延びる壁面が、F0方向と直交する方向とほぼ平行である。言い換えると、試料計量室110の開口端から試料溢流室112に向けて延設された隔壁の上面(以下、試料案内面113と呼ぶ。)が、F0方向と直交する方向とほぼ平行である。
【0007】
そのため、試料が試料計量室110に移送される場合に、試料計量室110から溢れ出た試料が、試料溢流室112へ流れ込まずに試料案内面113に留まりやすかった。この状態でF1方向に作用する遠心力が生じた場合、試料案内面113に留まってしまった試料が試料計量室110で保持されている試料と合流してしまう。そうすると、試料計量室110で計量された試料量が変わってしまい、正確な検査結果を得られないおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、液受部に不要な液体が混入することを抑制可能な検査対象受体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る検査対象受体は、回転軸から離間した位置で回転自在に保持され、且つ、前記回転軸を中心とした回転時に生じる遠心力によって検査対象の液体を検査する検査対象受体であって、前記検査対象受体の内部に前記液体を供給するための供給口と、前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記供給口から供給された前記液体を前記第一の方向の下流側に案内する第一案内部と、前記第一案内部を案内された前記液体を受けて、所定量の前記液体を貯留可能な凹部である液受部と、前記液受部で前記所定量の前記液体が貯留され、且つ、前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記液受部から流出する余剰分の前記液体を前記第一の方向の下流側に案内する第二案内部と、前記液受部よりも前記第一の方向の下流側に設けられ、前記第二案内部によって案内された前記余剰分の前記液体が貯留される余剰部とを備え、前記第二案内部は、前記液受部における前記余剰部側の端部から延びる壁面であり、且つ、前記液受部に貯留されている前記液体を前記余剰部とは異なる所定の箇所に流出させる際に付加される前記遠心力の方向である第二の方向と直交する垂直面に対して、前記第二の方向の下流側に傾斜するように延びることを特徴とする。
【0010】
これによれば、検査対象受体に第一の方向の遠心力が付与された場合、供給口から供給された液体が第一案内部によって液受部へ案内されて、液受部で所定量の液体が貯留される。液受部から流出する余剰分の液体は、検査に使用されない不要な液体であるため、第二案内部によって余剰部へ案内されて、余剰部に収容される。第二案内部は、液受部における余剰部側の端部から、液受部に貯留されている液体を所定の箇所に流出させる際に付加される遠心力の方向である第二の方向と直交する垂直面に対して下流側に傾斜している。したがって、第二案内部に液体が残留している状態で第二の方向の遠心力が付与された場合でも、残留している液体は第二案内部を逆流しにくいため、不要な液体が液受部に混入することを抑制できる。
【0011】
上記態様に係る検査対象受体において、前記第二案内部と前記垂直面とのなす角のうち、前記垂直面を前記第二案内部と対向する側から前記第二案内部まで回転させた場合の角度θは、少なくとも5°以上であってもよい。この場合、角度θを少なくとも5°以上に設計するだけで、不要な液体が液受部に混入することを抑制できる。
【0012】
上記態様に係る検査対象受体において、前記角度θは、前記液体の粘度が1cP未満である場合、10°以上であってもよい。この場合、粘度が1cP未満の液体が使用される検査対象受体において、不要な液体が液受部に混入することを確実に抑制できる。
【0013】
上記態様に係る検査対象受体において、前記角度θは、前記液体の粘度が1cP以上である場合、15°以上であってもよい。この場合、粘度が1cP以上の液体が使用される検査対象受体において、不要な液体が液受部に混入することを確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】検査装置1の平面図である。
【図2】検査装置1の左側面図である。
【図3】図2に示す角度変更機構19を拡大した図である。
【図4】検査チップ40の平面図である。
【図5】遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ40の部分拡大図である。
【図6】遠心力方向の角度「90°」の状態を示す検査チップ40の部分拡大図である。
【図7】血漿を検体とする検査チップ40を用いた実験例の実験データである。
【図8】ラテックス試薬を検体とする検査チップ40を用いた実験例の実験データである。
【図9】緩衝液を検体とする検査チップ40を用いた実験例の実験データである。
【図10】検査装置1で実行される検査処理のフローチャートである。
【図11】試薬を充填した状態の検査チップ40の平面図である。
【図12】遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図13】遠心力方向の角度「30°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図14】遠心力方向の角度「60°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図15】遠心力方向の角度「90°」の状態を示す検査チップ40の平面図である。
【図16】遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ40の他の平面図である。
【図17】変形例に係る、遠心力方向の角度「0°」の状態を示す検査チップ80の平面図である。
【図18】変形例に係る、遠心力方向の角度「90°」の状態を示す検査チップ80の平面図である。
【図19】従来の検査チップの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を具体化した実施の形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、単なる説明例である。
【0016】
本実施形態では、検査対象である液体(以下、検体と呼ぶ。)および検体に混合される複数の液体(以下、試薬と呼ぶ。)を収容可能な検査チップ40を用いて、検査装置1で検査が行われる場合を例示する。検査装置1は、検査チップ40の回転角度を変化させることによって、検査チップ40に付与される遠心力の方向(以下、遠心力方向と呼ぶ。)を切り替え可能である。
【0017】
図1〜図3を参照して、検査装置1の概略構造について説明する。以下の説明では、図1の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査装置1の右方、左方、前方、後方とする。図2の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査装置1の上方、下方、前方、後方とする。なお、理解を容易にするために、図2では、外壁部2を図1に示すA−A線における矢視方向の断面図で示している。図3では、ターンテーブル3およびチップホルダ4を図1に示すY−Y線における矢視方向の断面図で示している。さらに、図2では角度変更機構19を簡略して箱状に示す一方、図3では角度変更機構19の詳細な構造を示している。
【0018】
検査装置1は、円筒形の筺体である外壁部2を備える。外壁部2の内部には、外壁部2よりも小径の円盤体であるターンテーブル3が回転自在に設けられている。ターンテーブル3の直径方向の両端部、すなわちターンテーブル3の円周近傍には、一対のチップホルダ4が各々設けられている。
【0019】
チップホルダ4は、一例として、底板と上板と側壁とで外形が形成された箱状体である。詳細には、チップホルダ4は、平面視長方形に形成された検査チップ40を内部に収納できるように、検査チップ40より一回り大きい平面視長方形に形成された箱状の部材である。チップホルダ4は、ターンテーブル3の回転中心(すなわち、後述の軸6)から離間した位置で、検査チップ40を保持する。検査者は、検査装置1の回転中心側から遠心方向に向けて(図1の例では、ターンテーブル3の回転中心から矢印Aに示す方向に向けて)、検査チップ40をチップホルダ4に装着可能である。
【0020】
ターンテーブル3の中心部の下部には、モータ5が設けられている。モータ5は、モータ5から上方に延び、且つ、ターンテーブル3の平面中心に接続された軸6を備える。モータ5が軸6を回転させるのに伴って、ターンテーブル3も軸6を中心として回転する。
【0021】
検査装置1は、チップホルダ4を水平方向に回転させることによって、チップホルダ4の回転角度を変更する角度変更機構19を備える。角度変更機構19は、検査装置1の遠心動作時にチップホルダ4の回転角度を変更することで、チップホルダ4に作用する遠心力方向を変更できる。
【0022】
角度変更機構19は、ステッピングモータ10、ギア12、ギア13、プーリ15、プーリ16、およびベルト17を備える。ギア12は、ステッピングモータ10の軸11に固定されている。ギア13は、ギア12と噛合する減速用ギアである。プーリ15は、ギア13の軸14に対して同軸に固定されている。プーリ16は、チップホルダ4を回転可能に軸支する軸18の下端部に対して同軸に固定されている。ベルト17は、プーリ15とプーリ16との間に掛け渡されている。
【0023】
上記の構成により、ステッピングモータ10の軸11が所定角度回転すると、ギア12が回転して、ギア12と噛合しているギア13が回転する。ギア13の回転に伴って、軸14に固定されているプーリ15が回転する。プーリ15の回転はベルト17によりプーリ16に伝えられて、プーリ16が所定角度回転する。ひいては、軸18が所定角度回転して、チップホルダ4が所定角度回転する。
【0024】
本実施形態では、ターンテーブル3がモータ5によって回転駆動されると、チップホルダ4に保持された検査チップ40も軸6を回転中心として回転する。軸6を回転中心とした検査チップ40の回転を、検査チップ40の「公転」と呼ぶ。一方、チップホルダ4がステッピングモータ10によって所定角度回転されると、チップホルダ4に保持された検査チップ40も軸18を回転中心として所定角度回転する。軸18を回転中心とした検査チップ40の回転を、検査チップ40の「自転」と呼ぶ。
【0025】
検査装置1は、外壁部2の外部に設けられた制御装置70に接続されている。制御装置70は、図示外のCPU、RAM、ROM等を内蔵して、検査装置1の各種動作(例えば、ターンテーブル3の回転や、チップホルダ4の回転など)を制御する。制御装置70には、検査者が検査装置1の各種動作を指示するための操作部(図示外)が設けられている。
【0026】
ターンテーブル3と外壁部2との間には、上下方向に対向する光源7および検出器8が設けられている。光源7は、検査チップ40内で生成された試薬と検体との混合物(つまり、反応生成物)に、検査チップ40の上方から光を照射する。検出器8は、反応生成物を透過した光を、検査チップ40の下方で検出する。制御装置70は、検出器8で検出された受光量に基づいて、各種測定を実行できる。なお、光源7および検出器8を検査チップ40に対して同一方向に設けることで、反応生成物で反射する光を検出して各種測定を行ってもよい。
【0027】
図4および図5を参照して、検査チップ40の概略構造について説明する。以下では、図4および図5の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査チップ40の前方、後方、右方、左方として説明する。また、図4および図5の紙面手前側および紙面奥側を、それぞれ、検査チップ40の上方および下方として説明する。
【0028】
本実施形態では、検査装置1で検査チップ40を使用する場合、検査チップ40の上下方向が検査装置1の上下方向と一致するように、検査者が検査チップ40を水平にチップホルダ4に装着する。このとき、検査者は、検査チップ40の前後方向が遠心力方向(つまり、矢印Aに示す方向)と一致するように、且つ、検査チップ40の前側および後側が遠心力方向の上流側および下流側とそれぞれ一致するように、検査チップ40をチップホルダ4に装着する(図1参照)。
【0029】
検査チップ40は、前後方向を長手方向とする、平面視長方形状の薄手の箱状体である。検査チップ40の材質は特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料を用いることができる。また、シリコン、ガラス、石英等の無機材料を用いても良い。
【0030】
検査チップ40は、所定の厚みを有する合成樹脂の板材45によって外形が構成されている。検体投入口41、第一試薬投入口42、第二試薬投入口43、および第三試薬投入口44が、板材45に平面視円形の窪みとして形成されている。検体投入口41、第一試薬投入口42、第二試薬投入口43、第三試薬投入口44は、間隔を空けて右側から左側に並んで形成されている。
【0031】
図示しないが、検査チップ40の上面は、透明の合成樹脂製の蓋(図示外)で覆われている。この蓋には、検体投入口41、第一試薬投入口42、第二試薬投入口43、および第三試薬投入口44と対応する位置のみに、それぞれ開口が形成されている。つまり、検査チップ40の上面のうちで、検体投入口41、第一試薬投入口42、第二試薬投入口43、および第三試薬投入口44のみが上方に開口している。
【0032】
検体投入口41は、検査チップ40内に検体を供給するために、検査者が検体を投入する部位である。第一試薬投入口42、第二試薬投入口43、および第三試薬投入口44は、検査チップ40内に第一試薬、第二試薬、および第三試薬をそれぞれ供給するために、検査者がこれらの試薬を投入する部位である。従って、検査者は検査チップ40内に一つの検体に三つの試薬を投入して、これらの検体および試薬を混合させることができる。
【0033】
また、検体供給路46、第一試薬供給路47、第二試薬供給路48、および第三試薬供給路49が、板材45に溝状に形成されている。検体供給路46は、検体投入口41から後方に延びる、検体の流路である。第一試薬供給路47は、第一試薬投入口42から後方に延びる、第一試薬の流路である。第二試薬供給路48は、第二試薬投入口43から後方に延びる、第二試薬の流路である。第三試薬供給路49は、第三試薬投入口44から後方に延びる、第三試薬の流路である。
【0034】
検体供給路46、第一試薬供給路47、第二試薬供給路48、および第三試薬供給路49は、それぞれ平行に延設されている。つまり、これらの供給路の延設方向は、検査チップ40の前後方向とも平行である。検体供給路46、第一試薬供給路47、第二試薬供給路48、および第三試薬供給路49の後端部には、幅が狭くなった出口が各々設けられている。
【0035】
検体供給路46の後方側(図4における下方側)には、検体供給路46から供給される検体を所定量計量するための計量部50が形成されている。計量部50は、第一壁部51と第二壁部52との間に形成された、平面視で後方に凹む部位である。第二壁部52は、検体供給路46の出口と前後方向に対向する壁面52Aを有する壁部である。第一壁部51は、壁面52Aから右側に連続して延設された壁面51Aを有する壁部である。詳細には、計量部50は、壁面51Aと壁面52Aとで形成され、平面視で後方に向かってV字型に凹んでいる。
【0036】
第二壁部52の外縁に沿って、第一流路61が板材45に溝状に形成されている。第一流路61は、計量部50で計量された検体を、後述の第一混合槽55へ案内する流路である。一方、第一壁部51の外縁に沿って、流出路60が板材45に溝状に形成されている。流出路60は、計量部50から流れ出た検体(すなわち、余った検体)を、余剰槽54へ案内する流路である。余剰槽54は、第一壁部51の後方に設けられた、平面視で後方に凹む部位であって、計量部50から流れ出た検体が貯留される。
【0037】
壁面51Aの延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度が、第一角度θ1である。より詳細には、第一角度θ1は、平面視で壁面51Aの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、壁面51Aを左右方向と平行になるまで時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第一角度θ1が少なくとも鋭角(一例として、20°)となるように、第一壁部51が右前方に延設されている。
【0038】
一方、壁面52Aの延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度は、第二角度θ2である。より詳細には、第二角度θ2は、平面視で壁面52Aの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、壁面52Aを左右方向と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第二角度θ2が少なくとも鋭角(一例として、15°)となるように、第二壁部52が左前方に延設されている。なお、壁面51A、52Aの延設方向の角度および長さは、上記条件を満たす範囲で、計量部50で計り取る検体の量に応じて決定されればよい。また、計量部50は、例えばU字型や矩形状など、平面視でV字型とは異なる形状で凹むように形成されてもよい。
【0039】
第一壁部51において壁面51Aの右端部(つまり、余剰槽54側の端部)から後方に連続して延びる壁面は、案内面53である。案内面53は、流出路60に流れ出た検体を余剰槽54に向けて案内する。案内面53は、計量部50で計量された検体を第一流路61へ流出させる遠心力方向と直交する垂直面に対して、遠心力方向の下流側に傾斜するように延びているが、詳細は後述する。
【0040】
第一試薬供給路47の後方側(図4における下方側)には、第一混合槽55が形成されている。第一混合槽55は、第三壁部56と第三壁部56から右方に延びる壁部との間に形成された、平面視で後方に凹む部位である。第三壁部56は、第一試薬供給路47の出口と前後方向に対向する壁面56Aを有する壁部である。第一混合槽55では、第一流路61を経由して流れ出た検体と、第一試薬供給路47から供給された第一試薬とが混合されて、第一混合液が生成される。第三壁部56の外縁に沿って、第二流路62が板材45に溝状に形成されている。第二流路62は、第一混合槽55で生成された第一混合液を、後述の第二混合槽57へ案内する流路である。
【0041】
壁面56Aの延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度は、第三角度θ3である。より詳細には、第三角度θ3は、平面視で壁面56Aの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、壁面56Aを左右方向と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第三角度θ3が少なくとも第二角度θ2よりも大きい鋭角(一例として、45°)となるように、第三壁部56が左前方に延設されている。
【0042】
第二試薬供給路48の後方側(図4における下方側)には、第二混合槽57が形成されている。第二混合槽57は、第四壁部58と第四壁部58から右方に延びる壁部との間に形成された、平面視で後方に凹む部位である。第四壁部58は、第二試薬供給路48の出口と前後方向に対向する壁面58Aを有する壁部である。第二混合槽57では、第二流路62を経由して流れ出た第一混合液と、第二試薬供給路48から供給された第二試薬とが混合されて、第二混合液が生成される。第四壁部58の外縁に沿って、第三流路63が板材45に溝状に形成されている。第三流路63は、第二混合槽57で生成された第二混合液を、後述の第三混合槽59へ案内する流路である。
【0043】
壁面58Aの延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度は、第四角度θ4である。より詳細には、第四角度θ4は、平面視で壁面58Aの延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、壁面58Aを左右方向と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度である。本実施形態では、第四角度θ4が少なくとも第三角度θ3よりも大きい鋭角(一例として、75°)となるように、第四壁部58が左前方に延設されている。
【0044】
第三試薬供給路49の後方側(図4における下方側)には、第三混合槽59が形成されている。第三混合槽59は、第三試薬供給路49の後方側に設けられた、平面視で後方に凹む部位である。第三混合槽59では、第三流路63を経由して流れ出た第二混合液と、第三試薬供給路49から供給された第三試薬とが混合されて、第三混合液が生成される。なお、本実施形態では、計量部50、余剰槽54、第一混合槽55、第二混合槽57、および第三混合槽59は、いずれも板材45に対する窪みとして形成されている。
【0045】
上記のように検査チップ40では、複数の混合槽(すなわち、第一混合槽55、第二混合槽57、および第三混合槽59)が左右方向に並設されている。さらに、各混合槽の壁部(すなわち、第二壁部52、第三壁部56、および第四壁部58)の延設角度は、互いに異なった角度に形成されている。ただし、各混合槽の壁部の延設角度(すなわち、第二角度θ2、第三角度θ3、および第四角度θ4)は、平面視で各壁部の壁面(すなわち、壁面52A、壁面56A、および壁面58A)が左前方に延びるように、検査チップ40の左右方向に対して鋭角である。本実施形態では、第二角度θ2、第三角度θ3、第四角度θ4は、それぞれ15°、45°、75°に設定されている。
【0046】
図5〜図9を参照して、計量部50近傍の詳細構造について説明する。図7〜図9において、「角度」は、後述の第五角度θ5の大きさを示す。「○」は、案内面53への液乗りがないことを示す。「×」は、案内面53への液乗りがあることを示す。なお、案内面53への液乗りとは、案内面53に置かれた検体が、案内面53から流れ落ちずに残留した状態をいう。
【0047】
図5および図6に示すように、検査チップ40の前後方向と壁面51Aの延設方向とのなす角のうち、計量部50側の角度θ11は鋭角である。検査チップ40の前後方向と壁面52Aの延設方向とのなす角のうち、計量部50側の角度θ12は鋭角である。図1に示す例のように、検査チップ40の前側から後方に向けて作用する遠心力を発生した場合、検査チップ40の前後方向は遠心力方向と一致する。このとき、遠心力の作用によって、検体は検体供給路46を経由したのち、計量部50で後方に移動しないように受け止められる。さらに、計量部50では、遠心力の作用によって所定量まで検体が貯留される。
【0048】
壁面51Aおよび壁面52Aが接続される前後方向位置を基準として、壁面51Aの前後方向長さ(高さ)は壁面52Aの前後方向長さ(高さ)よりも短い(低い)。壁面51Aの高さまでの容積を超える量の検体が計量部50に流れ込むと、余剰分の検体が壁面51Aを乗り越えて(つまり、計量部50から流出路60に溢れて)、余剰槽54に流れ込む。余剰槽54では、遠心力の作用によって余剰分の検体が貯留される。従って、計量部50では、所定量の検体が計量される。なお、壁面51A、52Aの高さや角度は、計量部50で計量される所定量(つまり、計量部50の容積)に応じて予め決定されればよい。
【0049】
案内面53の延設方向と、検査チップ40に付与される遠心力の方向と直交する垂直面とのなす角度は、第五角度θ5である。より詳細には、第五角度θ5は、平面視で案内面53の延設方向に延びる線と遠心力方向と直交する垂直線との交点を回転中心として、案内面53をこの垂直線と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度である。先述したように、案内面53は遠心力方向と直交する垂直面に対して遠心力方向の下流側に傾斜するように延びているため、第五角度θ5は少なくとも0°よりも大である。
【0050】
第五角度θ5の大きさは、検査チップ40に付与される遠心力の方向に応じて変化する。具体的には、図5に示すように、検査チップ40の前側から後方に向けて遠心力が作用している場合は、第五角度θ5は案内面53の延設方向と検査チップ40の左右方向とのなす角度となる。一方、図6に示すように、検査チップ40の右側から左方に向けて遠心力が作用している場合は、第五角度θ5は案内面53の延設方向と検査チップ40の前後方向とのなす角度となる。
【0051】
先述したように、計量部50から流出路60に流れ出た検体は、案内面53によって余剰槽54に向けて案内される。このとき検体が案内面53に液乗りしないように、案内面53の延設角度(つまり、第五角度θ5)は各種要素を考慮して決定される。本実施形態では、第五角度θ5を決定するための要素として、検体の粘度および遠心力を用いた場合を例示する。
【0052】
本願の発明者は、検査装置1で検査チップ40の遠心処理を行うことで、案内面53への液乗りを評価する実験を行った。この実験では、例えば図1に示す状態で検査チップ40の遠心処理を行なって、検査チップ40の前側から後方に向けて作用する遠心力を発生させた。この遠心力によって、検体投入口41から投入された検体は、検体供給路46経由で計量部50に移動する。計量部50で計量される検体量を超えた余剰分の検体は、計量部50から流出路60に溢れ出て、案内面53を滑り落ちるように余剰槽54に移動する。かかる実験において、第五角度θ5、検体の粘度、および遠心力を適宜変更することで、案内面53に検体が残留するか否かを検証した。
【0053】
図7に示す実験例では、それぞれ異なる大きさの第五角度θ5(5°、10°、15°、20°)を有し、且つ、検体として「血漿」がそれぞれ収容された各検査チップ40について、上記実験を行った。このとき、それぞれ異なる大きさの遠心力(500G、200G、100G)を、各検査チップ40に付与した。そして、案内面53に対する「血漿」の液乗りを、遠心力および第五角度θ5の組み合わせごとに評価した。なお、「血漿」の粘度は、1.7〜2.0cPである。
【0054】
上記実験によれば、第五角度θ5が「5°」の検査チップ40では、遠心力が「100G」、「200G」、および「500G」のいずれであっても、「血漿」の液乗りが生じた。第五角度θ5が「10°」の検査チップ40では、遠心力が「100G」および「200G」である場合、「血漿」の液乗りが生じた一方、遠心力が「500G」である場合、「血漿」の液乗りが生じなかった。第五角度θ5が「15°」および「20°」の各検査チップ40では、遠心力が「100G」、「200G」、および「500G」のいずれであっても、「血漿」の液乗りが生じなかった。
【0055】
図8に示す実験例では、それぞれ異なる大きさの第五角度θ5(5°、10°、15°、20°)を有し、且つ、検体として「ラテックス試薬」がそれぞれ収容された各検査チップ40について、上記実験を行った。このとき、それぞれ異なる大きさの遠心力(500G、200G、100G)を、各検査チップ40に付与した。そして、案内面53に対する「ラテックス試薬」の液乗りを、遠心力および第五角度θ5の組み合わせごとに評価した。なお、「ラテックス試薬」の粘度は、0.89cPである。
【0056】
上記実験によれば、第五角度θ5が「5°」の検査チップ40では、遠心力が「100G」、「200G」、および「500G」のいずれであっても、「血漿」の液乗りが生じた。第五角度θ5が「10°」、「15°」、および「20°」の各検査チップ40では、遠心力が「100G」、「200G」、および「500G」のいずれであっても、「ラテックス試薬」の液乗りが生じなかった。
【0057】
図9に示す実験例では、それぞれ異なる大きさの第五角度θ5(5°、10°、15°、20°)を有し、且つ、検体として「緩衝液」がそれぞれ収容された各検査チップ40について、上記実験を行った。それぞれ異なる大きさの遠心力(500G、200G、100G)を、各検査チップ40に付与した。そして、案内面53に対する「緩衝液」の液乗りを、遠心力および第五角度θ5の組み合わせごとに評価した。なお、「緩衝液」の粘度は、1.0〜10.0cPである。
【0058】
上記実験によれば、第五角度θ5が「5°」および「10°」の各検査チップ40では、遠心力が「100G」および「200G」である場合、「緩衝液」の液乗りが生じた一方、遠心力が「500G」である場合、「緩衝液」の液乗りが生じなかった。第五角度θ5が「15°」および「20°」の各検査チップ40では、遠心力が「100G」、「200G」、および「500G」のいずれであっても、「緩衝液」の液乗りが生じなかった。
【0059】
図7〜図9に示す実験例に基づいて、第五角度θ5を以下のように決定することができる。すなわち、案内面53への液乗りを防止するためには、第五角度θ5は少なくとも「5°」以上であることを要すると推定できる。さらに、検体の粘度が「1cP」以上である場合、第五角度θ5が少なくとも「15°」以上であれば、遠心処理時における遠心力の大きさに関わらず、案内面53に対する検体の液乗りが防止されると推定できる。そのため、粘度が「1cP」以上の検体(例えば、血漿や緩衝液など)が使用される検査チップ40では、第五角度θ5が「15°」以上となるように、案内面53が形成されればよい。
【0060】
また、検体の粘度が「1cP」未満である場合、第五角度θ5が少なくとも「10°」以上であれば、遠心処理時における遠心力の大きさに関わらず、案内面53に対する検体の液乗りが防止されると推定できる。そのため、粘度が「1cP」未満の検体(例えば、ラテックス試薬や純水など)が使用される検査チップ40では、第五角度θ5が「10°」以上となるように、案内面53が形成されればよい。
【0061】
後述するように、検査装置1の遠心処理時には、検査チップ40の前後方向と遠心力方向とのなす角度(以下、遠心力方向の角度と称する。)が「0°」(図12参照)から「90°」(図15参照)まで変化するように、検査チップ40が適宜回転される。この遠心力方向の角度が大きいほど、第五角度θ5は小さくなる。
【0062】
本実施形態では、第五角度θ5が最も小さくなる遠心状態でも案内面53の液乗りが防止されるように、遠心力方向の角度が「90°」の場合を基準として、第五角度θ5が「15°」以上となるように設定されている。具体的には、案内面53の延設方向と検査チップ40の前後方向とのなす角度が「15°」となるように、案内面53の傾斜が規定されている。つまり、平面視で案内面53の延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、案内面53を左右方向と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度は、「105°」である。
【0063】
したがって、この検査チップ40では、遠心力方向の角度が「0°」(図12参照)から「90°」(図15参照)のいずれであっても、粘度が「1cP」未満の検体のみならず、粘度が「1cP」以上の検体についても、案内面53に対する検体の液乗りを防止可能である。もちろん、第五角度θ5は、上記条件を満たす範囲で、検体の種類や遠心力の大きさなどに応じて適宜最適なものを選択することができる。
【0064】
図5、図6、図10〜図17を参照して、検査装置1および検査チップ40を用いた検査方法について説明する。以下の説明では、図10を参照して検査者の動作および検査装置1の動作を説明しつつ、図5、図6、図11〜図17を適宜参照して検査チップ40の状態変化を説明する。
【0065】
まず、検査者は検査チップ40の検体投入口41に検体を滴下する。同様に、検査者は、第一試薬投入口42に第一試薬を滴下し、第二試薬投入口43に第二試薬を滴下し、第三試薬投入口44に第三試薬を滴下する(S11)。これにより、検体および第一試薬〜第三試薬が、検査チップ40内に供給される(図11参照)。
【0066】
ステップS11の実行後、検査者は、検査チップ40の前後方向が遠心力方向と一致するように、且つ、検査チップ40の前側および後側が遠心力方向の上流側および下流側とそれぞれ一致するように、検査チップ40をチップホルダ4にセットする(S12)。次に検査者は、制御装置70の操作部(図示外)を操作して、検査装置1の電源をONする(S13)。制御装置70のCPU(図示外)は、ROM(図示外)に記憶されている制御プログラムに基づいて、検査チップ40の遠心処理を実行する(S14)。
【0067】
検査チップ40の遠心処理(S14)では、まず検査チップ40の前後方向(検体供給路46、第一試薬供給路47、第二試薬供給路48、第三試薬供給路49の延設方向)と遠心力方向とのなす角度が「0°」の状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、検査チップ40の後側が、遠心力方向の下流側となる。これにより、図5および図12に示すように、検体投入口41から投入された検体は、遠心力によって検体供給路46を経由して計量部50に流出する。計量部50では、先述したように、所定量の検体が貯留され、且つ、余剰分の検体が余剰槽54に流出して貯留される。
【0068】
同時に、第一試薬投入口42から投入された第一試薬は、遠心力により第一試薬供給路47を経由して第一混合槽55に流出する。第二試薬投入口43から投入された第二試薬は、遠心力により第二試薬供給路48を経由して第二混合槽57に流出する。第三試薬投入口44から投入された第三試薬は、遠心力により第三試薬供給路49を経由して第三混合槽59に流出する。なお、第一試薬、第二試薬、および第三試薬は、それぞれ遠心力の作用によって第一混合槽55、第二混合槽57、および第三混合槽59に貯留される。
【0069】
次に、チップホルダ4が所定角度自転される。具体的には、図13に示すように、遠心力方向の角度が「30°」となるまで、チップホルダ4が反時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向の下流側は、図12に示す例と比較して時計回りに30°傾斜する。検査チップ40の前後方向と壁面52Aの延設方向とのなす角のうち、計量部50側の角度θ12は鈍角になるため、計量部50で計り取られた検体は壁面52Aに沿って先端側に移動し(つまり、第一流路61内を移動し)、第一混合槽55に流れ込む。
【0070】
ただし、図13に示す状態では、遠心力方向と壁面56Aの延設方向とのなす角のうち、第一混合槽55側の角度θ13は鋭角である。よって、第一混合槽55では、貯留されている第一試薬と第一流路61から流れ込んだ検体とが混合されて、第一混合液が生成および貯留される。同様に、遠心力方向と壁面58Aの延設方向とのなす角のうち、第二混合槽57側の角度θ14は鋭角である。よって、第二混合槽57では、第二試薬が貯留された状態が維持される。
【0071】
次に、チップホルダ4が所定角度自転される。具体的には、図14に示すように、遠心力方向の角度が「60°」となるまで、チップホルダ4が反時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向の下流側は、図12に示す例と比較して時計回りに60°傾斜する。角度θ13は鈍角になるため、第一混合槽55で生成された第一混合液は壁面56Aに沿って先端側に移動し(つまり、第二流路62内を移動し)、第二混合槽57に流れ込む。ただし、図14に示す状態では、角度θ14は鋭角である。よって、第二混合槽57では、貯留されている第二試薬と第二流路62から流れ込んだ第一混合液とが混合されて、第二混合液が生成および貯留される。
【0072】
次に、チップホルダ4が所定角度自転される。具体的には、図6および図15に示すように、遠心力方向の角度が「90°」となるまで、チップホルダ4が反時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向の下流側は、図12に示す例と比較して時計回りに90°傾斜する。角度θ14は鈍角になるため、第二混合槽57で生成された第二混合液は壁面58Aに沿って先端側に移動し(つまり、第三流路63内を移動し)、第三混合槽59に流れ込む。第三混合槽59では、貯留されている第三試薬と第三流路63から流れ込んだ第二混合液とが混合されて、第三混合液が生成および貯留される。
【0073】
本実施形態では、遠心力方向の角度が「0°」、「30°」、「60°」、「90°」のいずれであっても、案内面53は遠心力方向と直交する垂直面に対して遠心力方向の下流側に傾斜している(つまり、第五角度θ5は少なくとも「0°」よりも大である)。これにより、上記のように遠心力が付与された場合には、遠心力方向に拘わらず余剰分の検体が案内面53に残存することが抑制される。したがって、余剰分の検体を確実に余剰槽54へ案内しつつ、検体およびその混合液を規定の流路に流出させることができる。さらに、第五角度θ5は遠心力方向に拘わらず「15°」以上であるため、先述の実験データに示すように、検体の粘度に拘わらず案内面53に対する検体の液乗りを防止可能である。
【0074】
なお、案内面53は、少なくとも計量部50から第一流路61に検体を流出させる遠心力方向と直交する垂直面に対して、遠心力方向の下流側に傾斜していればよい。具体的には、遠心力方向の角度が「30°」である場合に(図13参照)、第五角度θ5が少なくとも「0°」よりも大であればよい。つまり、平面視で案内面53の延設方向に延びる線と検査チップ40の左右方向に延びる線との交点を回転中心として、案内面53を左右方向と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度が、少なくとも「30°」よりも大であればよい。
【0075】
これにより、案内面53に検体が残留している状態で、遠心力方向の角度が「0°」(図12参照)から「30°」(図13参照)に変化した場合でも、残留している検体が案内面53を逆流しにくいため、不要な検体が計量部50に混入することを抑制できる。さらに、計量部50で計量されている検体が案内面53に流出しにくいので、計量部50で形成されている検体のメニスカスが崩れてしまうことを抑制できる。ひいては、計量部50における検体の計量誤差を低減できる。
【0076】
最後に、チップホルダ4が元の状態に戻るように自転される。具体的には、図17に示すように、遠心力方向の角度が「0°」となるまで、チップホルダ4が時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向の下流側は、図5および図12に示す例と同様に、検査チップ40の後側と一致する。遠心力の作用によって、第三混合液が第三混合槽59の下部に攪拌されながら溜まる。
【0077】
ステップS14の実行後、ターンテーブル3の回転(つまり、チップホルダ4の公転)が停止され、遠心力の付加が終了される(S15)。このとき、検査チップ40を光学検査部に位置させるように、ターンテーブル3を所定の回転位置で停止させる(S16)。光学検査部は、上下方向に対向する光源7と検出器8との間で、検査チップ40を検査する部位である。ステップS16の実行後、光源7から検査チップ40に対して光が照射される。検出器8で検査チップ40を透過した光が検出されることによって、検査結果が測定される(S17)。最後に、ステップS17で測定された検査結果が、制御装置70の画面(図示外)に表示される(S18)。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る検査チップ40によれば、検体に「0°」の遠心力が付与された場合、検体投入口41から供給された検体が検体供給路46によって計量部50へ案内されて、計量部50で所定量の検体が貯留される。計量部50から流出する余剰分の検体は、検査に使用されない不要な検体であるため、案内面53によって余剰槽54へ案内されて、余剰槽54に収容される。案内面53は、計量部50における余剰槽54側の端部から、計量部50に貯留されている検体を第一流路61に流出させる際に付加される遠心力方向と直交する垂直面に対して下流側に傾斜している。したがって、案内面53に検体が残留している状態で「30°」の遠心力が付与された場合でも、残留している検体は案内面53を逆流しにくいため、不要な検体が計量部50に混入することを抑制できる。
【0079】
上記実施形態において、軸6が本発明の「回転軸」に相当し、検体が本発明の「検査対象の液体」に相当し、検査チップ40が本発明の「検査対象受体」に相当する。検体投入口41が、本発明の「供給口」に相当する。検体供給路46が、本発明の「第一案内部」に相当する。計量部50が、本発明の「液受部」に相当する。案内面53が、本発明の「第二案内部」に相当する。余剰槽54が、本発明の「余剰部」に相当する。第五角度θ5が、本発明の「角度θ」に相当する。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、図17および図18に示すように、検体の遠心分離を行う検査チップ80に、本発明を適用してもよい。以下では、図17および図18の上方、下方、右方、左方を、それぞれ、検査チップ80の前方、後方、右方、左方として説明する。また、図17および図18の紙面手前側および紙面奥側を、それぞれ、検査チップ80の上方および下方として説明する。なお、後述の第六角度θ6は、第五角度θ5と同様に、上述の実験データ(図7〜図9参照)に基づいて決定することができる。
【0081】
図17および図18に示す検査チップ80は、上記の検査チップ40と同様に、所定の厚みを有する合成樹脂の板材89によって外形が構成されている。検体投入口81が、板材89に平面視円形の窪みとして形成されている。図示しないが、検査チップ80の上面は、検体投入口81と対応する位置のみに開口が形成された透明の合成樹脂製の蓋(図示外)で覆われている。また、検体供給路82が、板材89に溝状に形成されている。検体供給路82の後端部には、幅が狭くなった出口が設けられている。検体供給路82の後方側には、検体供給路82から供給される検体を遠心分離するための遠心分離部90が形成されている。遠心分離部90は、平面視で左後方にU字型に凹む部位である。
【0082】
遠心分離部90の開口縁の一端側(図17では左端側)から左前方に向けて、第二流路85が板材89に溝状に形成されている。第二流路85は、遠心分離部90で分離された検体の上澄み液を、検査槽86へ案内する流路である。検査槽86は、平面視で後方に凹む部位であって、第二流路85を案内された上澄み液が貯留される。一方、遠心分離部90の開口縁の他端側(図17では右端側)から後方に向けて、第一流路84が板材89に溝状に形成されている。第一流路84は、遠心分離部90から流れ出た検体(すなわち、余った検体)を、余剰槽83へ案内する流路である。余剰槽83は、遠心分離部90よりも後方に設けられた、平面視で後方に凹む部位であって、第一流路84を案内された検体が貯留される。
【0083】
遠心分離部90の余剰槽83側の端部から後方に連続して延びる壁面は、案内面93である。案内面93は、第一流路84に流れ出た検体を余剰槽83に向けて案内する。案内面93の延設方向と、検査チップ80に付与される遠心力の方向と直交する垂直面とのなす角度は、第六角度θ6である。より詳細には、第六角度θ6は、平面視で案内面93の延設方向に延びる線と遠心力方向と直交する垂直線との交点を回転中心として、案内面93をこの垂直線と平行になるまで反時計回り方向に回転させた場合の角度である。案内面93は、遠心力方向と直交する垂直面に対して遠心力方向の下流側に傾斜するように延びているため、第六角度θ6は少なくとも0°よりも大である。
【0084】
第六角度θ6の大きさは、検査チップ80に付与される遠心力の方向に応じて変化する。具体的には、図17に示すように、検査チップ80の前側から後方に向けて遠心力が作用している場合は、第六角度θ6は案内面93の延設方向と検査チップ80の左右方向とのなす角度となる。一方、図18に示すように、検査チップ80の右側から左方に向けて遠心力が作用している場合は、第六角度θ6は案内面93の延設方向と検査チップ80の前後方向とのなす角度となる。
【0085】
後述するように、検査装置1の遠心処理時には、遠心力方向の角度が「0°」(図17参照)から「90°」(図18参照)まで変化するように、検査チップ80が適宜回転される。遠心力方向の角度が大きいほど、第六角度θ6は小さくなる。さらに、検査チップ80では、第六角度θ6が最も小さくなる遠心状態でも案内面93の液乗りが防止されるように、遠心力方向の角度が「90°」の場合を基準として、第六角度θ6が「15°」以上となるように設定されている。具体的には、案内面93の延設方向と検査チップ80の前後方向とのなす角度が「15°」となるように、案内面93の傾斜が規定されている。
【0086】
検査装置1および検査チップ80を用いた検査方法は、図10と同様である。まず、検査者は検査チップ80の検体投入口81に検体を滴下して(S11)、検査チップ80をチップホルダ4にセットする(S12)。次に、検査者が検査装置1の電源をONすると(S13)、検査チップ80の遠心処理が実行される(S14)。
【0087】
検査チップ80の遠心処理(S14)では、まず遠心力方向の角度が「0°」の状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、検査チップ80の後側が、遠心力方向の下流側となる。これにより、図17に示すように、検体投入口81から投入された検体は、遠心力によって検体供給路82を経由して遠心分離部90に流出する。遠心分離部90では、所定量まで検体が貯留され、且つ、余剰分の検体が余剰槽83に流出して貯留される。さらに、遠心分離部90では、遠心力の作用によって、貯留されている検体が遠心分離される。
【0088】
次に、チップホルダ4が所定角度自転される。具体的には、図18に示すように、遠心力方向の角度が「90°」となるまで、チップホルダ4が反時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。このとき、遠心力方向の下流側は、図17に示す例と比較して時計回りに90°傾斜する。そして、遠心分離部90に貯留されている検体のうち、上澄み液のみが第二流路85に流出して、検査槽86に流れ込む。
【0089】
最後に、遠心力方向の角度が「0°」となるまで、チップホルダ4が時計回りに自転される。この状態で、200Gの遠心力が付与される公転が10秒間行われる。遠心力の作用によって、検体の上澄み液が検査槽86の下部に溜まる。ステップS14の実行後、ターンテーブル3の回転(つまり、チップホルダ4の公転)が停止され、遠心力の付加が終了される(S15)。このとき、検査チップ80を光学検査部に位置させるように、ターンテーブル3が所定の回転位置で停止される(S16)。ステップS16の実行後、検査結果の測定および表示が行われる(S17、S18)。
【0090】
上記の検査チップ80では、遠心力方向の角度が「0°」および「90°」のいずれであっても、案内面93は遠心力方向と直交する垂直面に対して遠心力方向の下流側に傾斜している(つまり、第六角度θ6は少なくとも「0°」よりも大である)。より詳細には、案内面93は、遠心分離部90から第二流路85に上澄み液を流出させる遠心力方向と直交する垂直面に対して、遠心力方向の下流側に傾斜している。具体的には、遠心力方向の角度が「90°」である場合に(図18参照)、第六角度θ6が少なくとも「0°」よりも大である。
【0091】
これにより、案内面93に検体が残留している状態で、遠心力方向の角度が「0°」(図12参照)から「30°」(図13参照)に変化した場合でも、残留している検体が案内面53を逆流しにくいため、不要な検体が計量部50に混入することを抑制できる。さらに、検査チップ80では、第六角度θ6が遠心力方向に拘わらず「15°」以上であるため、先述の実験データに示すように、検体の粘度に拘わらず案内面93に対する検体の液乗りを防止可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 検査装置
3 ターンテーブル
4 チップホルダ
6 軸
19 角度変更機構
40 検査チップ
41 検体投入口
46 検体供給路
50 計量部
51 第一壁部
51A 壁面
52 第二壁部
52A 壁面
53 案内面
54 余剰槽
80 検査チップ
90 遠心分離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸から離間した位置で回転自在に保持され、且つ、前記回転軸を中心とした回転時に生じる遠心力によって検査対象の液体を検査する検査対象受体であって、
前記検査対象受体の内部に前記液体を供給するための供給口と、
前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記供給口から供給された前記液体を前記第一の方向の下流側に案内する第一案内部と、
前記第一案内部を案内された前記液体を受けて、所定量の前記液体を貯留可能な凹部である液受部と、
前記液受部で前記所定量の前記液体が貯留され、且つ、前記遠心力が第一の方向に生じている場合に、前記液受部から流出する余剰分の前記液体を前記第一の方向の下流側に案内する第二案内部と、
前記液受部よりも前記第一の方向の下流側に設けられ、前記第二案内部によって案内された前記余剰分の前記液体が貯留される余剰部とを備え、
前記第二案内部は、前記液受部における前記余剰部側の端部から延びる壁面であり、且つ、前記液受部に貯留されている前記液体を前記余剰部とは異なる所定の箇所に流出させる際に付加される前記遠心力の方向である第二の方向と直交する垂直面に対して、前記第二の方向の下流側に傾斜するように延びることを特徴とする検査対象受体。
【請求項2】
前記第二案内部と前記垂直面とのなす角のうち、前記垂直面を前記第二案内部と対向する側から前記第二案内部まで回転させた場合の角度θは、少なくとも5°以上であることを特徴とする請求項1に記載の検査対象受体。
【請求項3】
前記角度θは、前記液体の粘度が1cP未満である場合、10°以上であることを特徴とする請求項2に記載の検査対象受体。
【請求項4】
前記角度θは、前記液体の粘度が1cP以上である場合、15°以上であることを特徴とする請求項2に記載の検査対象受体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−237325(P2011−237325A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110153(P2010−110153)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】