検査装置および検査方法
【課題】 モノづくり等で起こる不良出現の状況変化(初期試作(初期段階)→量産試作(調整段階)→量産(安定段階))に応じて、適切な検査を行なうことができる検査方法を提供すること。
【解決手段】正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の波形データに対し、MTSによる異常判定と1クラスSVMによる異常判定を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なう。調整段階では、(a)に示すように、両判定機能の範囲が一致せず、判定結果が一致する場合と一致しない場合がある。そこで、(b)に示すファジィ推論を行ない、判定結果が一致する場合には、その結果を最終結果とし、異なる場合にはGRAYとする。良品の分布や正常領域の形状が安定している状態では、両者の判定結果に差異が無くなるので、検査対象の波形データに対し、MTSのみに基づいて異常判定を実行する。
【解決手段】正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の波形データに対し、MTSによる異常判定と1クラスSVMによる異常判定を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なう。調整段階では、(a)に示すように、両判定機能の範囲が一致せず、判定結果が一致する場合と一致しない場合がある。そこで、(b)に示すファジィ推論を行ない、判定結果が一致する場合には、その結果を最終結果とし、異なる場合にはGRAYとする。良品の分布や正常領域の形状が安定している状態では、両者の判定結果に差異が無くなるので、検査対象の波形データに対し、MTSのみに基づいて異常判定を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査装置および検査方法に関するもので、より具体的には、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置およびその検査装置を用いて実行する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品などには、モータ等の駆動系部品が組み込まれた回転機器が非常に多く用いられている。例えば自動車を例にとってみると、エンジン,パワーステアリング,パワーシート,ミッションその他の至る所に回転機器が実装されている。また、家電製品では、冷蔵庫,エアコン,洗濯機その他各種の製品がある。そして、係る回転機器が実際に稼働すると、モータ等の回転に伴って音が発生する。
【0003】
係る音は、正常な動作に伴い必然的に発生するものもあれば、不良に伴い発生する音もある。その不良に伴う異常音の一例としては、ベアリングの異常,内部の異常接触,アンバランス,異物混入などがある。より具体的には、ギヤ1回転について1度の頻度で発生するギヤ欠け,異物かみ込み,スポット傷,モータ内部の回転部と固定部が回転中の一瞬だけこすれ合うような異常音がある。また、人が不快と感じる音としては、例えば人間が聞こえる20Hzから20kHzの中で様々な音があり、例えば約15kHz程度のものがある。そして、係る所定の周波数成分の音が発生している場合も異常音となる。もちろん、異常音はこの周波数に限られない。
【0004】
係る不良に伴う音は、不快であるばかりでなく、さらなる故障を発生させるおそれもある。そこで、それら各製品に対する品質保証を目的とし、生産工場においては、通常検査員による聴覚や触覚などの五感に頼った「官能検査」を行ない、異常音の有無の判断を行っている。具体的には、耳で聞いたり、手で触って振動を確認したりすることによって行っている。なお、官能検査は、官能検査用語 JIS Z8144により定義されている。
【0005】
ところで、係る検査員の五感に頼った官能検査では、熟練した技術を要するばかりでなく、判定結果に個人差や時間による変化などのばらつきが大きい。さらには、判定結果のデータ化,数値化が難しく管理も困難となるという問題がある。そこで、係る問題を解決するため、駆動系部品を含む製品の異常を検査する検査装置として、定量的かつ明確な基準による安定した検査を目的とした異音検査装置がある。
【0006】
このように検査対象から得られた振動波形から正常/異常を判別する検査(いわゆる異音検査)を自動的に行なう異音検査装置としては、従来、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示された発明は、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とを用いて検査対象の正常/異常を総合的に判別するものである。
【0007】
このように時間軸波形と周波数軸波形のように異なる軸から得られる波形に基づいて総合的に異音検査をするのは以下の理由からである。すなわち、それ以前に開発されていた時間軸波形から得られた特徴量だけの異音検査や、周波数軸波形から得られた特徴量だけの異音検査ではすべての異音を検出することが難しい。それは、それぞれの特徴量には得意・不得意があるからである。複数の特徴量を用いる異音検査は、単一の特徴量を用いる異音検査に比べて高い判別能力を有する。
【0008】
つまり、そもそも駆動系部品は、回転や往復運動を繰り返す機構で成り立っており、その機構にわずかな機械的異常があれば、それに起因した異常成分(良品から発せられる正常成分とは何かが違う成分)が必ず振動や音として周囲に伝達される。ところが、異音検査における異常成分は、正常成分と比較しても振動や音の波形に含まれる、わずかな違いでしかなく、熟練した人の耳であれば聞き分けられるような違いがあっても、波形解析してみるとノイズに埋もれてうまく検知することができないことがあった。これは、従前の異音検査が時間軸波形から得られた特徴量だけや、周波数軸波形から得られた特徴量だけの判別、しかも単一の特徴量のみに基づいて行われる判別であったからである。そこで、上記の特許文献1では、複数の軸から得られる複数の特徴量に基づいて総合的に正常/異常を判断するようにしている。そして、この特許文献1に開示された発明では、判別ルールとして、ファジィルールを用い、ファジィ推論により複数の特徴量に基づく正常/異常の判断を行なうようにしている。
【0009】
ところで、特許文献1に開示された異音検査に判別ルールとして用いるファジィ推論は、ニューラルネットなど、その他の判別モデルと比較して、人が判別ルールを理解しやすいという利点がある。例えばニューラルネットとは、ニューロンモデルを互いに多数結合させて接続しネットワーク状にしたものであり、どのような判別をしてそのような結果に至ったのか、その根拠が難解で感覚的に理解しがたい。感覚的に理解できないものを人は信用しにくい。それが品質の要となる検査装置であるならなおさらである。
【0010】
これに対して、ファジィ推論は、あいまいさを表現するメンバシップ関数を用いており、ファジィ推論を用いた判別ルールは、判別の根拠と判別結果を対応づけて「IF 特徴量A=大 THEN 異常」のように人に理解しやすい表現で示すことが出来る。このように感覚的に理解できるものは説明もしやすく、品質ソリューションを事業とする場合に、検査装置の検査ロジックとして判別ルールを説明しやすいため、その説明を受けた顧客にとっても納得する度合いが高いので安心して採用できるという利点がある。
【0011】
また、新規に異音検査装置を導入しようとする顧客は、それまで熟練者(官能検査員)の耳による官能検査を行っていることも多く、官能検査員は「異音なきこと」などの記述が一般的な検査基準に対して独自の判定基準やノウハウ、知見をすでに有している。このような場合には、異音検査装置は官能検査員がこれまで行っていた官能検査の置き換えとなるので、官能検査員の持つ判定基準やノウハウ、知見との整合性が自ずと求められるのが現状である。係る場合にも、作成した判別ルールと、それまでの官能検査員がもっていた知識(検査基準)との整合性を説明しやすいということは、顧客に対して説明責任を負うソリューション提供者にとってファジィ推論による説明のしやすさは事業を進める上で大きな利点となっている。
【0012】
ところで、使用する特徴量の数が増加するほど、良否判定をするための判別ルールも複雑になったり、多数必要になったりする。そのため、精度の高い異音検査を行なうためには、判別ルールを精度良く作成する必要がある。異音検査における判別ルールを作成する工数を削減する技術として、非特許文献1に開示された技術がある。この非特許文献1には、判別ルール(検査ロジック)の自動生成において判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ探索に遺伝子アルゴリズムを用いる技術が開示されている。つまり、判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ探索とに、遺伝子アルゴリズムを用いることによって、それまで、人の勘と経験による試行錯誤でしか出来ないとされてきた判別ルールの作成処理を自動化/半自動化できるようにした。
【0013】
また、異音検査における判別ルールを自動作成する技術としては、非特許文献2に開示された発明もある。この非特許文献2には、判別ルールの自動生成において、判別ルール生成のために収集した正常データと異常データから適切な数の正常データと異常データを選択し、選択したデータから遺伝子アルゴリズムを用いて判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ調整をし、選択した特徴量と調整したパラメータからファジィ推論を用いて判別ルールを生成する技術が開示されている。このように正常データと異常データからそれらを最も分離する判別ルールを生成する技術は一般に不良識別と呼ばれている。
【0014】
しかしながら、不良識別では、正常/異常を判別するにはサンプルデータとして正常データと異常データがあらかじめ必要であり、異常データは正常データに比べて取得しにくいことから異常データがなければ判別ルールが生成できないという問題は点がある。
【0015】
これに対し、例えば特許文献2に開示された発明のように、正常データのみで良品が存在する正常領域を形成し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、検出値が正常領域外であれば異常と判断する技術がある。この特許文献2に開示された発明では、複数の入力情報を用いて、正常な状態が許容される正常領域を多次元ベクトルで設定し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、領域外であれば異常と判断するようになっている。係る判断手法は、一般に異常検出と呼ばれている。
【0016】
係る異常検出の場合、正常領域を形成するに十分なサンプルデータがあらかじめ取得できる場合には、このような正常領域の内外に基づいて正常/異常を判断することができる。しかし、検査装置が実際に用いられる製造ライン等では頻繁に検査対象が変わることもしばしばで、十分なサンプルデータが用意できない場合も多々ある。このように十分な正常データがあらかじめ用意できない場合には、正常領域そのものが形成できないので、異常検出すら出来ないという問題点があった。
【0017】
また、上記とは逆に、異常音の発生領域に該当する周波数成分など、不良・異常のときに発生する音や振動等の波形信号に基づいてモデル・ルールを作成し、実際の検査においては、不良品のサンプルに基づいて作成したルールに該当するか否かを判断し、該当しない場合に、良品と判断するものもある。係る判定アルゴリズムが、異音検査においては従来から一般的に行われてきたものである。
【0018】
しかし、この場合も、不良品のサンプルデータを用意できない場合には、適切なモデル・ルールを作成することができず、高性能な検査装置を構築することができないという問題を有する。さらに、不良品のサンプルデータは、どういう種類の異常であるかなどの不良種類ごとに用意する必要があるとともに、各不良種類ごとに複数個の不良品のサンプルデータを必要とすることから、サンプルデータを用意することは煩雑である。しかも、検知できるのは、既知の不良品のサンプルデータに特徴量が適合するものであるため、未知の不良を検出することは困難であった。
【特許文献1】特許第3484665号
【特許文献2】特許第3103193号
【非特許文献1】オムロンテクニクスVol.43 No.1 pp.99−105(2003)
【0019】
【非特許文献2】オムロンテクニクスVol.44 No.1 pp.48−53(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述した通り、これまでにも各種の異音検査装置の開発が試みられてきている。しかし、いずれも、不良品(異常品)を良品(正常品)と誤判定してしまう見逃し率の発生をなくしつつ(不良品を出荷することになるため確実に阻止する必要がある)、良品を不良品と誤判定してしまう過検出率の低減を図る(良品が出荷されず、廃棄処理等されてしまう無駄・歩留まり低下の防止をする)ことを目的とし、高性能な良否判定アルゴリズムの作成・改良が行なわれており、そのため、使用する特徴量の数が増加したり、よりよい判定ルールを作成するために要求されるサンプル数が増加したりするのが現状であった。
【0021】
一方、近年、工業製品の品質に対する消費者の目は厳しくなる一方である。また、多品種少量生産の時代の製造業においては、製品の品質を確保するだけでなく、生産ラインの立ち上げをいかに迅速に行なえるかが重要な課題となる。つまり、単純に異音検査アルゴリズムの高精度化を図るだけでは十分ではなく、よりよい品質の製品を市場に送り出すために、生産現場には、以下の2つのニーズがある。
【0022】
1つ目は、検査の自動化である。すなわち、通常、生産工程での検査は製品の寸法や重さなど、生産された製品の個々の特性値それぞれに対して管理基準を決定し、品質を管理している。例えば、プリント配線基板のはんだ外観検査や、自動車エンジンの異音検査のような官能検査を自動化した検査装置では、画像や波形から複数の品質特性を抽出し、判別モデルがこれらの特性を総合的に判断して良否を判定する。
【0023】
2つ目は、垂直立ち上げである。生産現場では、ラインの立ち上げの際に、量産試作という過程を経て、量産ラインを立ち上げるのが一般的である。量産試作とは、研究・設計後に量産と同じ生産手段によって製品を作り、工程に問題が無いかなど量産の可否を決定するものである。自動検査装置の判別モデルを自動生成する場合は、十分なデータが集まらないとモデリングできないため、量産開始時まで検査基準を確定できない。この量産試作段階で量産段階に使用する検査基準を決定し、量産開始と同時に安定した検査を開始することが、生産ラインの垂直立ち上げを実現する上で重要な課題となる。
【0024】
図1は、ある製品(ワーク)の開発開始から、最終的な正常な量産ラインの立ち上げ完成までの段階(工程)と、各工程で得られる良品(OK)と、不良品(NG)のサンプルの関係を示している。すなわち、まず最初に製品をどのようなものにするかについての研究が開始され(研究)、具体的な設計を行ない(設計)、設計した製品に対する量産試作(量試)を行なう。そして、この量産試作で工程に問題が無いことなどを確認した上で、実際の量産を開始し、量産ラインを立ち上げる(量産)。
【0025】
そして、量産開始後も、予期せぬ不良品の発生等の不具合等が発生することがあり、その都度修正し(量産変動時)、その後は、不良品の発生原因を突き止めるとともに解消し、不良品の発生率が極力低下して歩留まりが向上した安定期がある(量産安定期)。すなわち、量産開始後であっても、不良品が発生・検出することがあり、その原因が判別ルールなどが適切でない場合には、検査基準を変更する(特徴量を変更する/検出範囲を変更する)ような修正を行ない、そもそも不良品が発生するような場合には、検査基準は変更せずに原因を究明し、原因対策(設計変更)を行ないながら、量産を継続する。
【0026】
図1から明らかなように、研究・設計段階では、実際に作成(試作)する製品の数も少ない(初期試作)。特に、研究段階では、不良品のサンプル数(ワーク数)が極端に少ない。そのため、正常と異常の分布領域もそれぞれ小さい範囲となる。そして、設計段階に移行すると、いろいろと試行錯誤することから、不良品の発生数が増加するとともに、分布イメージからもわかるように不良品の発生原因も多岐にわたる。これにより、異常となる領域も複数点在する。
【0027】
そして、量試段階に移行すると、実際に製品を量産することから製造されるサンプル数も増加し、研究・設計段階では予測できなかった不良原因も発生することから、不良品の発生数も増加する。この予測できなかった不良原因とは、具体的には、例えば製造工程の不具合に起因する不良等がある。分布イメージからもわかるように、この量試段階では、不良品の発生原因も多岐にわたるため、異常となる領域も複数点在し、その点在数並びに各領域でのサンプル数は、設計段階よりも増加する。また、異常とされる領域が多岐にわたることから、良品(正常)と判断される領域も、複数点在することがある。量試段階が進むにつれて、日々不良品の発生の原因を究明するとともに、係る不良品が発生しないようにするための解決策を考え、生産設備・製造ラインの改良を行なう。そのため、不良品の発生数も減少するとともに、不良品の発生原因が解消されることから、不良品の発生領域数も減少していく。
【0028】
量産開始時には、良品の発生数が増加する一方で、不良品の発生数が減少する。係る現象は、量産変動時→量産安定期に進むにつれてより顕著となる。そして、分布イメージも、不良品の発生領域数も少なくなるとともに、製造される良品のばらつきも徐々に少なくなることから、正常となる領域も縮小される。これにより、異常の領域と正常の領域間の距離が開き、最終的な量産安定期においては、高精度の良否判定が行なえる。
【0029】
しかしながら、量産前の初期の段階から異音検査装置による良否判定を行ない、不良品の特定を正確かつ高精度に行なうとともに、量産の立ち上げを早期に行ないたいという要求を満たすようにすると、以下の問題が生じる。
【0030】
すなわち、例えば従来から一般に行われてきた不良品のサンブルデータに基づく良否判定(不良識別)は、ある程度発生する不良・異常の種類が特定されてきた量産体制に移行した生産設備・製造ラインに対しては適している。しかし、生産ラインの立ち上げ時(設計,量試)などのように、不良品の発生率が高く、しかも、複数の不良種類が複合的に作用したり、未知の不良種類なども多数存在する場合には、適切な不良品のサンプルデータを用意することができず、検査装置を効果的に適用することができない。さらに、仮に不良品のサンプルデータが用意でき、検査装置を構築することができたとしても、立ち上げ時には、日々不良品の発生の原因を究明するとともに、係る不良品が発生しないようにするための解決策を考え、生産設備・製造ラインの改良を行なう。そのため、検査装置を構築する際に使用したサンプルデータのもととなる不良品は、すでに解決策が施されて発生しないようになっていることが多々あるばかりでなく、新たな不良種類が発生するなどし、有効な検査装置を提供することができないなどの問題を有する。
【0031】
この発明は、モノづくり等で起こる不良出現(不良形態)数,良品とのバランス状況変化(初期試作(初期段階)→量産試作(調整段階)→量産(安定段階))に応じて、適切な検査を行なうことができ、検査対象物の初期試作段階から検査を行なうこともできる検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記した目的を達成するため、本発明の検査方法は、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備える。そして、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判定モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なう。また、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行するようにした。この発明は、第2の実施形態により実現されている。
【0033】
例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、大まかに量産試作、量産があり、それぞれに以下の特徴がある。すなわち、量産試作段階では、取得できるサンプルデータが増加し、良品の分布は推定できるが、偏りに起因する誤差によって正常領域の形状が不安定な状態であり(調整段階)、量産段階では取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態(安定段階)となる。そこで、量産試作時および量産時には、それぞれ異常検出の調整段階モデルおよび安定段階モデルを適用することとした。
【0034】
つまり、調整段階モデルとしては、パラメトリックな手法のみでは信頼性が低下するため、パラメトリックな手法とノンパラメトリックな手法を併用し、総合的に判断するようにした。これにより、サンプル数が十分に集まらない量産開始前であっても、精度の高い異常判定を保証する。そして、安定段階になると、十分なサンプル数が確保できるので、パラメトリックな手法による判定のみで高性能な異常判定が行なえる。安定段階になると、パラメトリックな手法と、ノンパラメトリックな手法の判断結果が一致するため、判定結果の性能の点では両方の手法を用いた判定を行なうメリットが無くなるばかりか、両方の処理を行なうことの煩雑・CPU負荷の点で好ましくないため、パラメトリックな手法のみにより良否判定をするようにした。
【0035】
また、別の解決手段としては、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を行なう異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を行ない、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行するようにした。この発明は、第1の実施形態により実現されている。
【0036】
例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階にはさらに初期試作(研究・設計段階)が含まれる場合があり、この場合には、大まかに初期試作(試作)、量産試作(量試)、量産となる。初期試作は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない状態(初期段階)である。したがって、パラメトリック判別モデルによる手法では、異常判定が行なえないが、ノンパラメトリック判別モデルによる判定はある程度の精度が保証できる。そこで、初期段階では、ノンパラメトリック判別モデルによる手法により異常判定をすることにより、初期試作の段階から自動的な異常判定を行なうことができる。サンプル数がある程度収集可能になる量産試作以降は、上述した発明と同様である。
【0037】
そして、前記初期段階から前記調整段階への移行は、収集したサンプルの数が、少なくとも特徴量の数より多くなった場合に実行するようにすることができる。より好ましくは、3倍以上とすることである。もちろん、切り替えるための条件は、このようにサンプル数に基づくものに限ることはなく、その他各種の切替条件を用いることができる。
【0038】
また、前記調整段階から前記安定段階への移行は、前記調整段階における前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果が一致する割合が一定以上になった場合に行なうこととすることができる。この一致は、完全に一致するようにしても良いし、完全に一致するまで待つことなく、一致の度合いがある程度高くなる場合に切り替えるようにしても良い。実施形態では、「両者の判別結果に差異がなくなった場合」としたが、差異が無くなったとは、全くない(完全に一致)した場合はもちろんのこと、一定のマージンを許容する(多少の差異を生じるのは許可する)ものでもよい。
【0039】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、前記検査装置は、人による判断結果の入力を待ち、入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とすることができる。この発明は、第3の実施形態により実現されている。
【0040】
また、上記した各方法の発明を実施するのに適した本発明に係る検査装置は、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、良品から得られた正常の計測データに基づいて生成されたモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、一方または両方を同時に実行可能とすると共に、その実行を制御する制御手段(実施の形態では、「使用モデル選択部」に対応)を備えた。そしてその制御手段は、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行させ、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なうように制御し、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御するように構成することができる。
【0041】
そして、前記制御手段は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御する機能をさらに備えるとよい。
【0042】
さらに、良品から得られた正常の計測データに基づいて異常検出のためのモデルを作成するモデル生成手段を備え、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、前記モデル生成手段により生成されたモデルに基づいて異常判定を行なうように構成できる。この場合に、前記モデル生成手段がモデルを生成する際に使用する前記正常の計測データは、検査対象の計測データが良品と判断された場合の当該計測データも含むものとするとよい。
【0043】
さらに、前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、人による判断結果の入力を受け付けるための入力画面を表示する機能と、その入力画面に基づき入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とする機能を備えるとよい。
【0044】
そして、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVM(サポートベクターマシン)を用いることができる。
【0045】
1クラスSVMは、事例との照合に基づく判定であり、「過去に経験した良品の音・波形に近い音・波形なら良品」と判断するもので、確実に良品といえるもの以外を検出する。従って、データが少ない段階では本来の不良以外も検出してしまうので過検出が多くなる。但し、「ノンパラメトリックな手法」なので少数の良品サンプルからでも学習可能であるので、サンプルを十分収集できない試作・量産試作段階でも検査可能になる。そして、多変量正規性が仮定でき、かつデータが十分ある場合はMTSと判定が一致するはずである。但し、1クラスSVMの場合、どのような基準で判定するかを説明できないので量産段階での品質管理には不向きである。
【0046】
一方、MTS(マハラノビス・タグチ・システム)は、モデルとの照合に基づく判定で理想的な良品に近い音・波形なら良品」と判断するもので平均とばらつきを管理するという品質管理からのアプローチであり、どのような基準で判定するかを説明できる。そして、多変量正規性を仮定する「パラメトリックな手法」なので統計的な分布推定を行なうのに十分な数の良品サンプルが必要であるというデメリットを有するものの、サンプルを十分収集できる最終量試・量産段階では、係るデメリットが解消され、どのような基準で判定するかを説明できるというメリットが発揮される。これにより、量産段階では、パラメトリックな手法による良否判断を行なうようにした。
【0047】
計測データは、実施形態では、音や振動に基づく波形データであるが、本発明はこれに限ることはなく、例えば、画像信号や温度、回転数、トルク等の計測データでも良い。また、パラメトリックな手法とは、すでに観測されているデータが構成する群(たとえば正常)について、各群に属するデータが従う確率密度分布の形状を規定するパラメータ(たとえば平均・分散)を推定する学習を行ない、判別時には、新たなデータが観測されたときに、推定したパラメータ使ってからその群への帰属の度合いを求め、その群に属するかを決定するものである。
【0048】
実施の形態では、このパラメトリック判別モデルの具体例として、MTS(マハラノビス・タグチ・システム)(良品群が従う確率密度分布を多変量正規分布と仮定してその形状パラメータである平均と標準偏差を推定し、新たにデータが観測されたときに、観測されたデータから良品群までのマハラノビス距離(平均と分散から求められる)が一定以上のものを不良品と判別する)を示したが、これ以外にも、たとえば、同じく良品群が従う確率密度分布が正規分布であると仮定してその形状パラメータである平均と標準偏差を推定し、新たにデータが観測されたときに、そのデータがその群に属する事後確率を求め、その確率が一定以下のものを不良品と判別する手法を用いることができる。
【0049】
また、ノンパラメトリックな手法は、群ごとに、すでに観測されているデータの全て、または判別に寄与する一部のデータをそのまま保持しておく学習を行ない、判別時には、新たなデータが観測されたときに、保持しておいたデータとの類似度や距離からその群への帰属度をもとめ、その群に属するかを決定するものである。
【0050】
このノンパラメトリックな手法の具体例として、実施の形態では1クラスサポートベクタマシン(1クラスSVM)を示したが、これ以外にも、例えば、全データを保持し、新たなデータが観測されたときに、保持したデータの中からユークリッド距離が近い順にk個のデータを抽出し、その平均値が一定以上のものを不良品と判別する手法を用いることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明では、正常(良品)データベースを基準に正常か否か(異常でないか)を判断することにより、不明確な不良の検出を含め各種の不良の検出を可能にするとともに、モノづくり等で起こる不良出現(不良形態)の状況変化(初期試作→量産試作→量産)に応じて、適切な検査を行なうことができる。
【0052】
つまり、本発明では、不良データがない、または僅少な場合でも検査が可能となり、正常データが少ない場合(生産ライン立上げ時等)でも検査可能になる。さらに、データが増えるにつれ、異常検出精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図2は、本発明の好適な一実施形態を示している。図2に示すように、本実施形態では、検査対象物1に接触・近接配置するマイク2および加速度ピックアップ3からの信号をアンプ4で増幅し、AD変換器5にてデジタルデータに変更後、検査装置10に与えるようになっている。また、図示省略するが、量試段階や、量産開始後は、生産現場にて実際にワーク(製品)の製造をする制御を司るPLCからも動作タイミングその他のデータを取得することができるようにしている。そして、検査装置10は、マイク2で収集した音データや、加速度ピックアップ3で収集した振動データに基づく波形データを取得し、特徴量を抽出するとともに、異常判定を行なう。図2から明らかなように、検査装置10は、コンピュータから構成され、CPU本体10aと、キーボード,マウス等の入力装置10bと、ディスプレイ10cとを備えている。また、必要に応じて外部記憶装置を備えたり、通信機能を備え外部のデータベースと通信し、必要な情報を取得することが出来る。
【0054】
また、本実施形態では、異常判定をする際に用いる判定知識を正常なサンプルに基づいて生成し、条件に適合したものは良品で適合しないものを不良品と判定するといった、異常検出を行なうことを基本的なアルゴリズムとしている。係る構成を取ることにより、本実施形態の検査装置10は、量産試作等の量産開始前から量産初期(ライン立ち上げ)を経て量産の安定期に至る各時期において正常/異常の判定を行なえるようになっている。
【0055】
図3は、主として検査装置10の内部構成を示しており、図4は、さらに詳細な内部構造を示している。この検査装置10は、異常判定をする際に必要とする知識を作成する機能と、その作成した知識に基づいて良否判断を行なう機能を備えている。本実施形態では、いずれの機能も正常な良品のサンプルに基づいて行なうととともに、開発から生産へ移行する各段階に合わせて、自動的に知識を修正することで、各段階に適した良否判断を行なうことが出来るようになっている。
【0056】
知識を作成する機能としては、検査装置10は、A/D変換器5を介して取得した波形データを格納する波形データベース11を有する。この波形データベース11には、本実施形態では、正常な製品(良品)に基づき発生する波形データが格納される。もちろん、不良品に基づいて発生する異常な波形データを格納するのを妨げない。異常な波形データは、検査装置10の性能の検査(正しく不良と判定されるか)に用いることができる。
【0057】
モデル(判別ルール)の作成のためには、良品のデータのみを格納すればよい。但し、本発明の検査装置10は、量産開始前から量産開始後に至る各段階でモデルを逐次改良・修正しながらよりよい判定を行なうためのモデルを構築する。従って、当初は、良品のサンプル波形データを用意し、それを波形データベース11に格納することになるが、ある程度の数のサンプルデータが収集できると、実際に異常判定の検査を行ないつつ、さらにサンプルデータの収集を行ない、その収集したサンプルデータ(検査対象のデータ)に基づいてモデルの再構築が行なわれる。
【0058】
従って、実際には、A/D変換器5を介して入力された波形データは、検査時は特徴量抽出部13に与えられて異常判定が行なわれるとともに、波形データベース11にも格納される。但し、このとき格納される波形データは、良品についてのものか否かが不明であり、モデルの再構築に使用するのは良品の波形データである。そこで、図示省略するが、判定結果は、波形データベース11に格納された波形データにフィードバックされる。つまり、波形データベース11のデータ構造は、実際の波形データと、正常/異常の区別とを関連づけたテーブル構造となる。さらに、判定結果をフィードバックして関連づけるために、各波形データを識別するコード(レコードNo.で兼用可能)も必要となる。なお、初期に与えられる良品のサンプルデータの場合には、判定結果を待つまでもなく区別は「正常」となる。また、判定結果が異常と判断された波形データであっても、人が判断して良品との判定結果が得られた場合には、区別を「正常」に更新し、モデルの作成に利用することもできる。
【0059】
この波形データベース11に格納された正常の波形データは、異常検出モデル生成部12に呼び出され、異常判定をするために必要な知識を作成する。ここで作成する知識としては、特徴量パラメータならびに異常検出モデルがあり、作成された特徴量パラメータは、特徴量パラメータデータベース17に格納され、異常検出モデルは異常検出モデルデータベース18に格納される。さらに、後述する異常判定を行なう判定部15における判定処理をするためのファジィルールを作成する機能を備える。
【0060】
また、検査装置10は、A/D変換器5を介して取得した波形データから特徴量を抽出する特徴量抽出部13と、その特徴量抽出部13で抽出した特徴量に基づいて、その特徴量の値が正常領域に含まれるか否かを判別することで、正常領域外のときに異常と検出する異常検出部14と、その異常検出部14の検出結果に基づいて、最終的に良否判断(異常判定)を行なう判定部15と、異常検出処理を行なう際に使用するモデルを決定・選択する使用モデル選択部16とを備えている。この判定部15の判定結果は、例えばディスプレイ10cにリアルタイムで表示したり、記憶装置に格納したりすることができる。
各処理部の機能・構造の詳細な説明をする前に、本実施形態における異常検出アルゴリズムを説明する。
【0061】
図1を見ても明らかなように、製品の研究・設計から量産に至る各工程における良品と不良品とがそれぞれ構成する群のデータ数や性質がでない。すなわち、量産開始後は、不良品の発生頻度が低く、十分なデータ数を得られない。また、量産開始前は、不良品の発生頻度が上がるものの、一時的に発生し、すぐに改善されて同一原因に基づく不良品、つまり、同種の特徴量を持った不良品の波形データに基づく特徴量がその後継続して発生する可能性は低い。さらに、いずれの時期においても、発生原因により不良はさまざまに分類でき、これをクラスとして考えることは合理的でない。さらに、対称性の観点では、製品の良品・不良品のモデリングに利用できるサンプル数は対称ではない。そこで、本実施形態では、良品に基づく正常波形データを基準とし、確率密度推定のような1クラスの判別方法を利用するようにした。
【0062】
また、本実施形態で対象としている良品に基づく正常波形データの特徴量の値の統計的性質は、収集するサンプル数が少ないときは正規分布となることが期待できないが、少なくとも量産開始後は正規分布(多変量正規分布)となることが期待できる。そして、正規分布に従うことを仮定できる場合には、利用可能なモデリングとして、パラメトリックな手法があるが、仮定できなければ、ノンパラメトリックなモデリング手法しか利用できない。
【0063】
そこで、本実施形態では、良品から得られるデータ(特徴量値)の統計的性質が、多変量正規分布が期待できるときはパラメトリックな手法を用い、多変量正規分布が期待できないときはノンパラメトリックな手法を用いることとした。但し、量産開始前から連続して本実施形態の検査装置10により異常判定を行なうような場合、得られるサンプルデータ(実際の検査対象のデータも含む)数が徐々に増加していくため、ある瞬間を基点として、特徴量値の統計的性質が多変量正規分布に瞬間的に切り替わることはなく、どちらとも言い難い過渡期の期間がある。また、仮に(理論上)、ある瞬間で多変量正規分布に切り替えることがあるとしても、その瞬間を見定め、使用するモデルをノンパラメトリックな手法から、パラメトリックな手法に切り替えるのは困難である。
【0064】
そこで、本実施形態では、上記の過渡期の期間は、パラメトリックな手法とノンパラメトリックな手法の両方を併用して良否判断をし、量産開始後などのパラメトリックな手法で比較的正確な判断ができるようになった場合には、パラメトリックな方法のみに基づく判断に切り替えるようにした。この考えに基づいて実現されたのが、本発明に係る第2の実施形態である。
【0065】
もちろん、サンプル数が少なかったり、歪み・偏りなどがあって正規分布をしていなかったりしていることが明らかな場合には、パラメトリックな手法による異常判定結果に対する信頼性が低いため、ノンパラメトリックなモデリング手法のみにより判断する機能を付加するとよい。この考えに基づいて実現させたのが、本発明に係る第1の実施形態である。
【0066】
そして、本実施形態では、パラメトリックによる手法として、MTS(マハラノビス・タグチ・シュミット)法を用いる。すなわち、MTS法では、良品の集団というように、何らかの意味で普通の集団を設定する。これを単位空間と呼ぶ。不良品の判定では、良品を単位空間にとる。そして、単位空間と観測変数が設定されれば、単位空間に属する標本のみから、以下に述べるマハラノビス汎距離のもとになる平均ベクトルと分散共分散行列を推定する。
ここで、マハラノビス距離とは、以下の式で表される、平均ベクトルを原点に、分散共分散行列つまり変数の相関を考慮した距離を示すスカラ値である。
【数1】
【0067】
このように、良品サンプルから算出されたマハラノビス距離は、良品群からの乖離の度合いを示す量として捉えることができる。すなわち、図5(a)に示すように、正規分布をしているため、分布の中心からマハラノビス距離が所望の等距離の超楕円の範囲内(図中破線で示す領域内)が良品の範囲となり、その推定した分布(所定の等距離の超楕円の範囲内)から外れる領域を異常として検出するものである。従って、仮に、図中「黒丸」で示すものは、範囲外となるので、異常(不良品)と判定される。
【0068】
なお、このパラメトリックな手法を用いた異常判定は、少なくともデータ数が特徴数以上になることがデータ数の下限とされており、好ましくは(経験則上)、データ数が特徴数の3倍以上が必要とされる。
【0069】
一方、本実施形態では、ノンパラメトリックな手法として、1クラスSVM(サポートベクターマシン)という手法を用いた。このSVMは2クラスの判別問題を解くために作られた学習機械である。SVMはカーネル変換と呼ばれる入力データの高次元空間への写像を学習に用いることにより、非線形の判別関数も構成できるという特徴をもつ。SVMはサンプルデータを最も良く判別する分離超平面を決めるために分離超平面とサンプルデータとの最小距離を評価式として用い、これを最大化するように分離超平面を決定する。この最大化された際の最小距離に対応するサンプルデータのことをサポートベクトルと呼ぶ(図6参照)。このサポートベクトルは、境界のデータのみで決定される。
ここで、n個のd次元データx={x1,……,xd}の集合をサンプルデータとしたとき、SVMによる判別関数は以下のように表される。
【数2】
【0070】
ここで、yiはサンプルデータのラベル、αiはサポートベクトルの重みと呼ばれるパラメータである。また、bはバイアス項と呼ばれるパラメータである。そして、Φはカーネル変換による写像でK(x,xj)は写像後の空間における内積を表す。この判別器のf(x)=0を満たす点の集合(識別面)はd−1次元の超平面となる。
【0071】
ここでカーネル法は、SVMを非線形に拡張するため、非線形写像Φにより、非線形写像を行なうもので、次元が高くなると、通常は複雑で計算が困難であるが、SVMの場合は、目的関数や識別関数が、入力パターンの内積のみに依存するため、内積が計算できれば最適な識別関数が構成できる。このように、高次元に写像しながら、実際には写像された空間での特徴の計算を避けて、カーネル関数に置き換えられる。カーネル関数の計算のみで最適な識別関数を構成することをカーネルトリックと呼ぶ。
【0072】
例えば、図7(a)に示すように白丸と黒四角が点在する場合に、両者の領域をd−1次元(図示の場合d=2より1次元:直線)で分離することはできないが、図7(b)に示すように、Φ(x)による非線形写像を作成(想定)することで、d−1次元(図示の場合d=3より2次元:平面)の分離超平面により、両者(白丸と黒四角)を分離することができる。ようは、元の入力データを高次元特徴空間に写像し、特徴空間において線形分離を行なうことである。高次元になるほど、計算量が増えるものの、内積を用いて演算処理できるので、計算が簡単に行なえる。
【0073】
そして、1クラスSVMとは、正常データのみの情報から、未知のデータに対してもその正常/異常を精度よく判別できる判別関数を確定する学習機能である。1クラスSVMにより得られた識別面は、サンプルデータの分布の外形にフィットするように構成される。すなわち、サンプルデータとは違うデータを異常として判別する。カーネル変換により、非線形に拡張された1クラスSVMの判別関数は、次式のとおりである。
【数3】
【0074】
ここで、f(x)の値は、識別面からの乖離度を表す。これにより、正常データの集合からの距離で、正常・異常を判断することができる。つまり、1クラスSVMは、サンプル点のサポート求めるためのカーネル法である。カーネルにガウシアン関数を使用すると、はずれ点は、特徴空間の原点近くに写像される性質を利用して、入力空間におけるはずれ点を検出する(図8参照)。図8では、νはサンプル群が原点側に残る割合であり(0>ν≧1)、νが小さいほどはずれ点、つまり、異常であると言える。
【0075】
1クラスSVMを用いた異常検出をイメージ的に説明すると、図5(b)に示すように、正常な範囲を示す群の外形(点線で示す領域)にフィット範囲内に存在するものが正常(良品)に関するものと判断する。つまり、データの出現実績がない領域を異常として検出する。これにより、サンプル数が少ない状態でも、異常判定が行なえる。なお、係る範囲の外に位置するのは全て異常と検出することもできるが、一定の乖離度を設定し、その乖離度が一定以上の場合に異常であると検出するようにしても良い。
【0076】
つまり、MTSと、1クラスSVMにおける異常度合いの意味は、前者は分布の中心からの乖離度が一定以上のものとなり、後者が識別面からの乖離度が一定以上のものとなる。また、1クラスSVMにおける正常な範囲は、既存の良品の波形データ(それに基づく特徴量値)からなる群の集合体の外形であるため、良品に基づくデータが追加されるに従い、その形状も変化する。そして、収集したデータのサンプル数が多くなり、正規分布する程度に収集できたならば、その1クラスSVMにおける正常の範囲の外形状は、正規分布に基づく超楕円の範囲と等しくなる。この状態では、MTSによる判定も精度良く実行可能となるので、MTSによる判定に切り替えることができる。なお、良品群の形状は、必ずしも正規分布になるとは限らず、正規分布に従わない場合であっても、ワイブル分布や二項分布などパラメトリックな手法が既知である分布に従う場合には、それぞれの分布に適したパラメトリックな手法に切り替えることかできる。
【0077】
図3、図4に戻って、本実施形態の装置を説明する。異常検出モデル生成部12は、パラメータ最適化部12aと、特徴選択次元圧縮部12bと、モデリング部12cを備えている。本実施形態では、使用する特徴量は予め決めておく。そして、特徴量におけるパラメータをパラメータ最適化部12aで自動的に決定する。このパラメータ最適化部12aにおけるパラメータの決定手法は、上述した非特許文献等に開示された技術を適用することが出来る。そして、求めたパラメータは、特徴量パラメータデータベース17に格納する。
【0078】
特徴量選択次元圧縮部12bは、複数の特徴量の中から、有効なものを選別し、高次元特徴量を低次元に圧縮する。すなわち、本実施形態では、より正確、かつ、高性能で、幅広い対象に対して異常判定を行なうようにしたため、時間軸に基づく波形と、周波数軸に基づく波形(波形変換部13eで生成)に基づき、それぞれ所定数の特徴量を求めるようにしたことから、特徴量の数が多くなり、この特徴量の数は今後さらに増加する可能性がある。このように、異常判定のために有効と思われる特徴量を幅広く盛り込んだ結果、高次元の特徴ベクトルが生成されるが、係る高次元の特徴ベクトルを、正常/異常の識別に有効な次元を選択しつつ圧縮する。モデリング部12cは、良品に基づく波形データの特徴量空間について、1クラスSVMのモデル(群を構成する範囲)や、MTSのモデルを作成し、異常検出モデルデータベース18に格納する。さらに、作成したモデルに基づき、判定部15で行なうファジィ推論の際に使用するファジィルール(メンバシップ関数も含む)も作成し、ファジィルールデータベース19に格納する。ここで作成し・格納するファジィルールは、MTSの結果と1クラスSVMの結果を両方とし、総合的に判断する過渡期における良否判断のためのルールと、単独のモデル(MTS/1クラスSVM)で異常判定をする場合に使用するルールのいずれも該当する。作成するルールについては、後述する。
【0079】
特徴量抽出部13は、図4に示すように、A/D変換器5を介して取得した検査対象の一連の波形データから所定の周波数成分を抽出/除去(フィルタリング)するフィルタ13aと、そのフィルタ13aを通過した波形データに対してフレーム分割するフレーム分割部13bと、そのフレーム分割部13bにて分割された各フレームの波形データに対して、波形変換を行なう波形変換部13eと、フレーム分割部13bで分割された各フレーム単位の波形データならびに波形変換部13eにて変換されたデータ(フレーム単位)に基づき、フレーム単位の特徴量(フレーム特徴量)を算出するフレーム特徴量演算部13cと、そのフレーム特徴量に基づき、検査対象の波形データの代表特徴量を求める代表特徴量演算部13dを備えている。この代表特徴量演算部13dで求めた代表特徴量が、次段の異常検出部14や、判定部15に送られる。この特徴量抽出部13の各処理部の機能は、基本的に公知の異音検査装置等に実装された特徴量抽出部の機能と同様である。
【0080】
各処理部の機能を簡単に説明すると、フィルタ13aは、バンドパスフィルタや、ローパスフィルタ等の各種のフィルタであり、ノイズを除去したり、判定に必要な周波数成分を抽出するもので、境界となる周波数値が各種設定される。
【0081】
但し、本実施形態では、良品に基づく異常検出のため、不良識別に比べて特徴量数はかなり増やす必要がある。すなわち、不良識別の場合、不良品に伴い発生する異音は、その異音の種類に固有の周波数帯に現れるため、その周波数帯だけに注目しないと異音は捉えられない(異音が他の周波数成分のなかに埋もれてしまう)が、逆に、その異音が発生する周波数帯がわかっているため、実際の検査ではその周波数帯だけを特徴量で監視すればよい。しかし、異常検出では不良品データがないので周波数帯を特定することができず、検査では各周波数帯をすべて特徴量で監視する必要あるためである。現実には、経験則から検査すべき周波数範囲がある程度(不良識別ほどではないにしても)限定できる場合には、その範囲内に限定することができる。また、後述するように、FFTなどにより周波数解析もできるため、広い周波数範囲での特徴量の解析は可能である。
【0082】
検査対象の波形データは、検査対象の製品を駆動しているときに測定して得られたある一定の長さをもつ連続波形である。そこで、フレーム分割部13bでは、その一連の波形データを、単位時間(単位サンプリング数)で構成されるフレーム単位に分割する。この分割処理をする際には、一連の波形データに対し、前後のフレームが切れ間無く連続するようにしたり、前後のフレームの一部が重なるように分割するなど各種の方式がとれる。波形変形部13eは、ヒルベルト変換,FFT(フーリエ変換),高域強調,低域強調,自己相関関数を求めるなど各種のものがある。
【0083】
フレーム特徴量演算部13cは、平均,分散,歪度,尖度,ピーク数(閾値を超えた数),最大値等各種のものがある。代表特徴量演算部13dは、各フレーム毎に求めたフレーム特徴量の平均,最大,最小,変化量などを求める。もちろん、算出するフレーム特徴量の種類や、そのフレーム特徴量に基づいて算出する代表特徴量の算出方法は、上記例示列挙したものに限ることはなく、その他各種のものを用いることが出来る。
【0084】
実際には、特徴量抽出部13が、特徴量パラメータデータベース17に格納された特徴量とパラメータ(例えば、フィルタにおける境界となる周波数や、ピーク数を求める際の閾値など)を読み出し、各処理部がそれに従って演算処理等を実行する。
【0085】
異常検出部14は、次元圧縮部14aと、SVM処理部14bと、MTS処理部14cを備えている。本実施形態では、より正確、かつ、高性能で、幅広い対象に対して異常判定を行なうようにしたため、時間軸に基づく波形と、周波数軸に基づく波形(波形変換部13eで生成)に基づき、それぞれ所定数の特徴量を求めるようにしたため、特徴量の数が多くなり、この特徴量の数は今後さらに増加する可能性がある。このように、異常判定のために有効と思われる特徴量を幅広く盛り込んだ結果、高次元の特徴ベクトルが生成されるが、次元圧縮部14aは、係る高次元の特徴ベクトルを、正常/異常の識別に有効な次元を選択しつつ圧縮する処理を行なう。
【0086】
SVM処理部14bは、異常検出モデルデータベース18に格納された現在の1クラスSVM用のモデル(正常の範囲(外形)を示す情報)を取得し、上述した1クラスSVMにおける判別関数(式3)を算出し、検査対象の波形データに基づく次元圧縮された特徴量空間における識別面からの乖離度f(x)を求める。そして、求めた結果を次段の判定部15に渡す。
【0087】
MTS処理部14cは、異常検出モデルデータベース18に格納された現在のMTS用のモデル(正常の範囲を示す超楕円の存在位置情報)を取得し、上述した検出対象の波形データに基づく次元圧縮された特徴量空間における超楕円の中心からのマハラノビス距離(式1)を求める。そして、求めた結果を次段の判定部15に渡す。
【0088】
判定部15は、ファジイ推論部15aと、閾値処理部15bを備えている。ファジィ推論部15aは、異常検出部14から取得した1クラスSVMの乖離度や、MTSのマハラノビス距離や、特徴量抽出部13から取得した代表値特徴量に基づき、ファジィルールデータベース19に格納されたルールしたがってファジィ推論を行ない、その推論して得られた結果を閾値処理部15bに渡す。閾値処理部15bは、取得したファジィ推論の結果に従い、検査対象の製品の良品/不良品を判断する。使用するモデルが異なるが、ファジィ推論処理並びにその推論結果に基づく閾値処理による異常判定は、基本的に従来と同様の機構のものを用いることができる。
【0089】
ここで、各段階における分布状況(分布成熟度)と、その際に用いるモデル/ファジィルールについて説明する。研究・設計の初期段階では、サンプルデータ数が少ない。従って、各サンプルデータに基づく特徴量の分布状況は、図9(a)に示すように分正規分布とならず、良品(正常)に基づく範囲の外形状も、超楕円とはならない。尚、説明の便宜上、特徴量は2つ(x1,x2)とし、2次元平面上で図示しているが、実際には、3つ以上の多数の特徴量空間となる。
【0090】
上述したように、十分なサンプル数が得られない初期段階では、1クラスSVMのみで行なうため、図9(b)に示すように、1クラスSVMの乖離度(横軸)のみに対して、図示するようなメンバシップ関数を作成する。このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。初期段階では、MTSモデルに基づく判定は行なわないため、メンバシップ関数も作成されない。よって、図9(b)に示すように、横軸のみのメンバシップ関数に基づいて、異常判定が行なわれる。MTSの乖離度は求めないので、縦軸についてはメンバシップ関数は作成されない。また、更新に使用する学習データは、正常(良品)と判定されたデータである。なお、異常(不良品)と判定されたデータであっても、人手で再検査し、良品であれば追加してもよい。
【0091】
また、量試段階等に移行し、ある程度のサンプル数(例えば、「データ数が特徴数の3倍以上」)が集まると、MTSによる異常判定も可能となる。但し、このときの分布成熟度は、分布の推定はできるが、多変量正規分布が完成しているわけではないので、偏りに起因する誤差で不安定な状態となっている。従って、図10(a)に示すように、1クラスSVMのモデルに基づく良品の範囲(破線で示す不定形な形状)と、MTSのモデルに基づく良品の範囲(実線で示す超楕円の形状)とは完全には一致しない。そのため、両方のモデルに基づく判定結果が正常と判定したデータは、良品と判断し、両方のモデルに基づく判定結果が異常のデータは不良品と判断する。そして、MTSとSVMで判定が異なるものについては、GRAY(不定:不明)と判定するようにした。
【0092】
そして、係る処理を行なうためのメンバシップ関数は、1クラスSVMについては、上記した初期段階の場合と同様である。また、MTSについてのメンバシップ関数は、このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。また、ルールとしては、図12に示すようになる。
【0093】
さらに、量産段階等に移行し、図11(a)に示すように、分布成熟度も推定した多変量正規分布が安定している状態では、上述したようにMTSモデルのみにより異常判定を行なう。これは、この段階では、1クラスSVMによる良品の範囲も、超楕円と同等の形状となるため、両モデルに基づく判定結果も共に一致するためである。従って、調整段階のようにわざわざ2つのモデルに基づく判定処理を行なう必要が無くなるため、MTSのみにより判断するようにした。このときのメンバシップ関数は、初期段階とは逆にMTSのみとなり、MTSについてのメンバシップ関数は、このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。なお、安定段階に移行した場合には、モデル(判定ルール)について逐次更新はしない。そして、必要に応じて分布に変化がないかチェックする。
【0094】
上記した各段階のうち、どの処理を実行するかは使用モデル選択部16が決定し、各処理部(異常検出部14,判定部15)に対して切替指令を送る。この指令に基づき、各処理部は、指定されたモデルに基づく処理を実行する。
【0095】
次に、上述した検査装置を用いた本発明に係る第1の実施形態を説明する。図13は、本発明の第1の実施形態の全体の処理を示すフローチャートである。例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、初期試作を行なった後、量産試作を経て実際の量産に移行するものがある。本実施形態では、このような3段階で開発から生産へ移行するようなケースにおいて、初期試作の段階から異常判定を行なうことができるようにしたものである。
【0096】
図13に示すように、まず、初期試作(初期段階)における異常判定処理を行なう(S10)。この初期段階では、取得できるサンプルデータが少なく、特徴量空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない状態である。そこで、初期段階モデルとして、1クラスSVMのみによる異常判定を行なう。
【0097】
具体的には、図14に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、予め用意した良品初期サンプルデータを読み込む(S11)。この読み込んだデータは、波形データベース11に格納される。そして、その波形データベース11に格納された波形データに基づき、異常検出モデル生成部12が1クラスSVMのモデルを作成する(S12)。そして、作成した特徴量や、異常検出モデル並びにファジィルールをそれぞれ対応するデータベース17,18,19に格納する。この処理ステップS11,S12が、学習段階であり、この学習段階までは実際の未知の波形データに対する異常判定(異音検査)は行なわない。所定数のサンプルデータを用意し、それに基づいて作成された、1クラスSVMモデルによる検査が可能になったならば、処理ステップS13以降の実際の検査に移行する。
【0098】
すなわち、初期試作段階で得られた製品(サンプル・試作品)に基づく波形データを取得し、A/D変換器5を介して特徴量抽出部13に送る。このとき、波形データベース11にもあわせて格納する。使用モデル選択部16は、異常検出部14,判定部15に対して初期段階モード、つまり、1クラスSVMのみで動作するように設定している。これにより、特徴量抽出部13で抽出された代表特徴量は、異常検出部14に送られ、次元圧縮部14aにて次元圧縮された後、SVM処理部14bのみにデータが送られ、そこにおいて、1クラスSVMモデルに基づく乖離度を求め、判定部15に送る。判定部15では、1クラスSVMのみに基づき、ファジィ推論処理を行ない(図9参照)、正常/異常の判断を行なう。
【0099】
次いで、サンプルの蓄積を行なう(S14)。すなわち、波形データベース11に格納した処理ステップS13にて検査を行なった検査データ(波形データ)の判定結果を、格納した波形データに関連づけて登録する。良品(正常)の場合、1クラスSVMのモデル作成に利用する。なお、異常検出モデル生成部12は、サンプルが1つ追加される毎にモデルの再構築をしても良いし、所定量蓄積される都度再構築を行なうようにしても良い。また、後述するように、この1クラスSVMモデルに基づく異常判定を行っている間は、新たなサンプルデータは蓄積のみ行ない、その蓄積されたサンプルに基づくモデルの再構築を行なわないこともある。ただし、好ましくは、逐次適当なタイミングでモデルの再構築をすることである。そのようにすると、良品として抽出されるサンプルが増える(本来良品のものが異常と判定されることを回避できる)のでよい。
【0100】
なお、この初期段階における1クラスSVMのみによる検査処理を実行している間は、処理ステップS11,S12の実行により求めたられたモデルに基づいて異常判定を行ない、処理ステップS14の実行により得られた新たなサンプルに基づく1クラスSVMモデルの再構築は行なわないようにしても良い。
【0101】
なおまた、上述した説明では、検査対象の波形データを波形データベース11に格納するタイミングとして、検査のために特徴量抽出部13へ与えるのと同時に(異常判定結果を待たずに)格納するようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、たとえば、処理ステップS13を実行し、良品と判定されたもののみを波形データベース11に格納するようにしても良い。この場合に、A/D変換器5を介して与えられた波形データは、判定結果が出るまではバッファメモリその他の一次記憶手段に格納し、判定結果を待ってその一次記憶手段に格納された波形データを波形データベース11に格納することで対応できる。そして、不良品(異常)と判断された波形データは廃棄(消去)するか、別のデータベースに格納する。もちろん、この場合でも、不良品に基づく波形データが分かる状態で波形データベース11に格納するのは妨げない。
【0102】
そして、蓄積されたサンプルの特徴量が正規分布を形成できるか否かを判断する(S15)。この判断は、使用モデル選択部16が行なう。図3では、図示の便宜上、使用モデル選択部16は、異常検出部14並びに判定部15とのみ接続され、データの送受が行なえるように記載しているが、他の処理部やデータベースともアクセスできるようになっている。そして、本実施の形態では、使用モデル選択部16か、波形データベース11にアクセスし、そこに格納された良品のサンプルデータの数が、良品分布の推定(MTSモデルに基づく判断)に十分なサンプル数になったか否かにより判断するようにしている。具体的には、少なくとも特徴量の数以上であり、本実施形態では、特徴量の数の3倍以上になったか否かを判断する。良品のサンプル数が3倍以上にならない場合(3倍未満の場合)には、この分岐判断はNoとなり、処理ステップS13に戻り次の製品(試作品)に対する検査処理を実行する。そして、上記の処理ステップS15の分岐判断でYesとなった場合には、図13に示す初期試作(初期段階)における異常判定処理(S10)が完了し、次の段階、つまり、量産試作(調整段階)における異常判定処理に移行する(S20)。なお、特徴量が正規分布をとるか否かは、本実施の形態では、特徴量の数とサンプルデータの数に基づいて推定する方式を採ったが、本発明はこれに限ることはなく、たとえば、求めた特徴量の値の分布状況に基づき、歪み度と尖り度という指標を利用することによっても簡単に判定できる。
【0103】
量産試作段階は、取得できるサンプルデータが増加し、良品の分布は推定できるが、偏りに起因する誤差によって正常領域の形状が不安定な状態である。そこで、調整段階モデルとして、1クラスSVMモデルに基づく判定処理と、MTSモデルに基づく判定処理を併用し、総合的に判断する(S20)。
【0104】
具体的には、図15に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、良品のサンプルデータの追加読込を行なう(S21)。そして、その追加されたサンプルデータを含めて1クラスSVMのモデリングを再度行なう(S22)。なお、初期段階の処理において、常に追加蓄積されたサンプルに基づいて1クラスSVMのモデルの再構築を繰り返し実行している場合には、S22の処理は特に設けなくても良い。但し、いずれの場合も、次に行なうMTSのモデリング(S23)を行なう必要から、S21では、追加分を含めて良品についての波形データを読み込む必要がある。上記の各モデリングにより求めた特徴量や異常検出モデル並びにファジィルールは、各データベース17,18,19に格納される。
【0105】
処理ステップS21からS23までを実行することで作成された1クラスSVMモデルとMTSモデルに従い、検査対象の製品から得られる波形データに基づく判別を行ない(S24)、判別結果の統合を行ない、検査結果の出力を行なう(S25)。
【0106】
すなわち、使用モデル選択部16は、異常検出部14,判定部15に対して調整段階モード、つまり、1クラスSVMとMTSの両方で動作するように設定している。これにより、特徴量抽出部13で抽出された代表特徴量は、異常検出部14に送られ、次元圧縮部14aにて次元圧縮された後、SVM処理部14bとMTS処理部14cの両方にデータが送られ、それぞれにおいて、1クラスSVMモデルに基づく乖離度並びにMTSモデルに基づく乖離度を求め、判定部15に送る。判定部15では、1クラスSVMとMTSの両方の乖離度に基づき、ファジィ推論処理を行ない(図10参照)、正常/異常の判断を行なう。本実施の形態では、図10を用いて説明した通り、処理ステップS24における各モデルでの判別処理と、それぞれの判別結果の統合処理をファジィ推論処理により一括して行なっているが、それぞれを別々に実行してももちろん良い。
【0107】
次いで、サンプルの蓄積を行なう(S26)。すなわち、処理ステップ24における検査対象の波形データを波形データベース11に格納する。このとき、判定結果(検査結果)も合わせて格納する。波形データの格納するタイミングは、上述した初期段階の場合と同様に各種のタイミングをとれる。
【0108】
そして、過去n個分のサンプルで1クラスSVMとMTSの判別結果に差異があるか否かを判断する(S27)。具体的には、ファジィ推論部15aで求めた推論結果がGRAYのものがあるか否かにより判断できる。GRAYが存在する場合には、差異があると判断される。なお、GRAYの判断の有無であるが、過去n個分のサンプルで1個でもGRAY判定のものが出た場合には差異があると判断するようにしても良いし、1個或いは所定数以下の場合には差異がないと判断するようにして良い。この判断は、使用モデル選択部16が行なう。
【0109】
差異がある場合には、処理ステップ21に戻り、上記した処理を繰り返し実行する。そして、差異が無くなったならば、図13に示す量産試作(調整段階)における異常判定処理(S20)が完了し、次の段階、つまり、量産(安定段階)における異常判定処理に移行する(S30)。なお、このフローチャートによれば、処理ステップ27の分岐判断でYesの場合には、処理ステップS21に戻るため、1つの波形データについての検査が行なわれる都度モデリングの再構築が行なわれるようになっている。但し、本発明はこれに限ることはなく、所定数分のサンプルの追加蓄積が行なわれるまではS24に戻るようにして、モデリングの再構築をすることなく検査を行なうようにしてもよい。
【0110】
量産段階は、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態である。そこで、安定段階モデルとしてMTSモデルのみに基づく判定処理を行なう(S30)。
【0111】
具体的には、図16に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、良品のサンプルデータの追加読込を行なう(S31)。なお、調整段階の処理において、常に追加蓄積されたサンプルに基づいてMTSのモデルの再構築を繰り返し実行している場合には、S31の処理は特に設けなくても良い。そして、その追加されたサンプルデータを含めてそれまで収集した良品のサンプルデータ、つまり、多変量正規分布が形成された良品データでMTSのモデリングを行なう(S32)。そして、モデリングにより求めた特徴量や異常検出モデル並びにファジィルールは、各データベース17,18,19に格納される。以後、MTSモデルによる判別(異常判定)を行なう(S33)。
【0112】
図17は、本発明の第2の実施形態を示している。例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、大まかに量産試作、量産がある。係る場合には、第1の実施の形態における初期試作(初期段階)による異常判定処理を無くし、量産試作(調整段階)における1クラスSVMとMTSを併用した異常判定処理を行ない(S20)、量産(安定段階)に移行したならば、MTSのみに基づく異常判定に切り替える(S30)。
【0113】
なお、それぞれの段階における具体的な処理フローは、第1の実施の形態に示したもの(図15,図16)と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、この第2の実施の形態を第1の実施の形態のように初期試作(初期段階)から開発が開始されるものにおいて適用することも妨げない。
【0114】
図18,図19は、本発明の第3の実施形態を示している。すなわち、上記した各実施形態では、調整段階で1クラスSVMと、MTSの判定結果に差異があった場合には、GRAYの判定結果を出力するようにしている。このとき、GRAYの状態のままでも良いが、正常か異常かを人に判断させることで、より早く安定段階に移行するための具体的な処理機能を示している。
【0115】
具体的には、図18に示すように、まず、検査データの取得をし、特徴量抽出部13にて、特徴量の演算を行なう(S41)。次いで、求めた特徴量(代表特徴量)を1クラスSVMモデルと、MTSモデルに基づきでそれぞれ乖離度を求め、異常判定を行なう(S42)。係る処理は、図15における処理ステップS24と同等である。
【0116】
そして、1クラスSVMとMTSの判別結果に差異があるか否かを判断する(S43)。つまり、判定部15におけるファジィ推論部15aにて実行したファジィ推論結果がGRAYか否かを判断する。そして、一致している場合には、モデルの判別結果(正常/異常)を検査結果として処理を実行(S45)、つまり、検査結果をディスプレイに表示したり、波形データデータベース11に格納したりする。
【0117】
一方、両モデルに基づく判別結果に際があった場合には、判別結果とともに、検査員に正常か異常かの判断入力させる指示情報を出力する。この指示情報としては、例えば図19に示すような判断入力画面をディスプレイに表示することである。波形グラフの欄には、検査対処の波形データを波形データベース11や、一時記憶部手段等から読み出して出力する。また、この判断入力画面において、「再生ボタン」をクリックすると、波形グラフに表示された波形データに基づき、音声を再生・出力する。これにより、判断する人は、波形グラフや、再生した音に基づいて良品(正常)か、不良品(異常)かを判断し、「OK」ボタンか、「NG」ボタンのいずれかをクリックする。
【0118】
そこで、検査装置としては、処理ステップS44を実行し、指示情報を含む判断入力画面を表示したならば、判断入力が来るのを待ち(S46)、判断入力がされない場合には、所定処理(上記の例では、音声の再生等)を実行する(S48)。そして、正常/異常の判断が入力されたならば、その入力された判断結果を検査結果として処理を実行する(S47)。つまり、例えば、判断結果を修正表示したり、波形データベース11に登録する情報を更新したり、さらには、モデルの再構築を行なうなど各種の処理が実行される。特に、1クラスSVMの場合、良品の群の範囲外か否かにより判断されるため、このように人手による修正を適宜のタイミングで行なうことにより、良品の群の範囲が早期に超楕円に近づくことができる。
【0119】
また、上記した以外でも、例えば追加したサンプルについて、調整段階モデルと安定段階モデルで判別結果が異なった場合(同一のサンプルにも関わらず、一方が正常と判別し、もう一方が異常と判別したとき)などにおいても、上記と同様の仕組みを利用し人手による修正を行なうことができる。
【0120】
上記した実施形態の検査装置10は、異音騒音,組立てミス,出力特性の検査分野に適用できる。また、量産を行なうインラインでも、量産とは別に試作品の検査等を行なうオフラインにも適用できる。そして、より具体的には、本実施形態の検査装置10は、例えば、自動車のエンジン(音),トランスミッション(振動)などの自動車の駆動モジュールの検査機や、電動ドアミラー,電動パワーシート,電動コラム(ハンドルの位置合わせ)などの自動車のモータアクチュエーターモジュールの検査機としたり、上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置さらには開発中の試作機の評価装置として適用できる。
【0121】
また、冷蔵庫,エアコン室内外機,洗濯機,掃除機,プリンタなどのモータ駆動家電の検査機並びに上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置として適用できる。
【0122】
さらにまた、NC加工機,半導体プラント、食品プラントなど設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断機器として適用することもできる。これは、設備診断において従来は異常時のサンプルデータに基づいて異常有無の判定式(判定ルール)を作成することを既定事実・固定観念化していたのを、正常時のサンプルデータのみから正常か異常かを判定するようにしようとする考えである。設備機器を導入した直後は、通常、機器の調整をしながら(または操作パラメータの設定を調整・変更しながら)使用するので、「異常状態」は言わば不安定に発生するが、その異常状態はメンテナンスを行なったり機器の調整をうまくすることですることで、発生しなくすることができる。
【0123】
つまり、設備機器の稼動安定期になると異常状態のいくつかは解決策が施されて発生しなくすることができるのである。これは、設備機器の状態判別の「異常状態」のいくつかが発生しなくなるのと検査対象物の「不良品」のいくつかが発生しなくなるのとが類似した現象であることを意味しており、この発明を設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断装置として適用できることを意味する。この設備診断装置への適用時にあたって、「初期状態」は設備が安定して稼動する前の段階が該当する。また、異常種類知識については、設備機器の稼動が安定した後、設備機器自体の経年変化などに起因して、設備機器の中で定期的にメンテナンス調整が必要な箇所が判明するので、その異常状態(異常有りと異常種類との二つ)を特定して、その異常種類ごとのデータに基づいて異常判定知識を生成すればよい。異常判定知識のうち解決策が施されて発生しなくなれば、その異常種類の異常種類知識を削除し、削除した状態で判定処理をすればよい。
【0124】
また、設備は、プラントなどに限ったものではなく、車,飛行機などの乗り物を含み、さまざまな物品の状態判別を行なう診断機器として適用することもできる。例えば乗り物を例に挙げると、試作の段階にエンジン状態についての正常状態のデータのみに基づいて正常知識を生成する。試作時点で当然に異常となる状態が生じるが、異常状態のいくつかは試作改良で発生しなくなる。よって、試作の初期段階では、正常データのみから判定ルールを作成し、試作改良を進めて異常状態のいくつかを解決して発生しなくさせて完成に近づいた段階で、いくつかの異常種類が特定し、その異常状態のデータから異常種類知識を生成する。こうすることで、正常状態と特定の異常状態とを判定できるようになる。このように、試作段階からデータと知識とを蓄積して、正常知識と異常種類知識とを用いて正常か否かおよび異常種類のどれかを判定する診断機器をつくり、その診断機器を完成品として市場に出る車や飛行機に搭載して、エンジンの振動に基づいて正常と異常とを診断することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】ある製品(ワーク)の開発開始から、最終的な正常な量産ラインの立ち上げ完成までの段階(工程)と、各工程で得られる良品と、不良品のサンプルの関係を示す図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態を示す図である。
【図3】検査装置10の内部構成の一例を示す図である。
【図4】さらに詳細な内部構造を示す図である。
【図5】(a)はMTSの原理を説明する図であり、(b)は1クラスSVMの原理を説明する図である。
【図6】1クラスSVMを説明する図である。
【図7】1クラスSVMを説明する図である。
【図8】1クラスSVMを説明する図である。
【図9】初期段階の作用を説明する図である。
【図10】調整段階の作用を説明する図である。
【図11】安定段階の作用を説明する図である。
【図12】調整段階のファジィルールの一例を示す図である。
【図13】第1の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図14】初期段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図15】調整段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図16】安定段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図17】第2の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図18】第3の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図19】第3の実施形態の作用を示す図である。
【符号の説明】
【0126】
10 検査装置
11 波形データベース
12 異常検出モデル生成部
13 特徴量抽出部
14 異常検出部
14a 次元圧縮部
14b SVM処理部
14c MTS処理部
15 判定部
16 使用モデル選択部
17 特徴量パラメータデータベース
18 異常検出モデルデータベース
19 ファジィルールデータベース
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査装置および検査方法に関するもので、より具体的には、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置およびその検査装置を用いて実行する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品などには、モータ等の駆動系部品が組み込まれた回転機器が非常に多く用いられている。例えば自動車を例にとってみると、エンジン,パワーステアリング,パワーシート,ミッションその他の至る所に回転機器が実装されている。また、家電製品では、冷蔵庫,エアコン,洗濯機その他各種の製品がある。そして、係る回転機器が実際に稼働すると、モータ等の回転に伴って音が発生する。
【0003】
係る音は、正常な動作に伴い必然的に発生するものもあれば、不良に伴い発生する音もある。その不良に伴う異常音の一例としては、ベアリングの異常,内部の異常接触,アンバランス,異物混入などがある。より具体的には、ギヤ1回転について1度の頻度で発生するギヤ欠け,異物かみ込み,スポット傷,モータ内部の回転部と固定部が回転中の一瞬だけこすれ合うような異常音がある。また、人が不快と感じる音としては、例えば人間が聞こえる20Hzから20kHzの中で様々な音があり、例えば約15kHz程度のものがある。そして、係る所定の周波数成分の音が発生している場合も異常音となる。もちろん、異常音はこの周波数に限られない。
【0004】
係る不良に伴う音は、不快であるばかりでなく、さらなる故障を発生させるおそれもある。そこで、それら各製品に対する品質保証を目的とし、生産工場においては、通常検査員による聴覚や触覚などの五感に頼った「官能検査」を行ない、異常音の有無の判断を行っている。具体的には、耳で聞いたり、手で触って振動を確認したりすることによって行っている。なお、官能検査は、官能検査用語 JIS Z8144により定義されている。
【0005】
ところで、係る検査員の五感に頼った官能検査では、熟練した技術を要するばかりでなく、判定結果に個人差や時間による変化などのばらつきが大きい。さらには、判定結果のデータ化,数値化が難しく管理も困難となるという問題がある。そこで、係る問題を解決するため、駆動系部品を含む製品の異常を検査する検査装置として、定量的かつ明確な基準による安定した検査を目的とした異音検査装置がある。
【0006】
このように検査対象から得られた振動波形から正常/異常を判別する検査(いわゆる異音検査)を自動的に行なう異音検査装置としては、従来、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示された発明は、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とを用いて検査対象の正常/異常を総合的に判別するものである。
【0007】
このように時間軸波形と周波数軸波形のように異なる軸から得られる波形に基づいて総合的に異音検査をするのは以下の理由からである。すなわち、それ以前に開発されていた時間軸波形から得られた特徴量だけの異音検査や、周波数軸波形から得られた特徴量だけの異音検査ではすべての異音を検出することが難しい。それは、それぞれの特徴量には得意・不得意があるからである。複数の特徴量を用いる異音検査は、単一の特徴量を用いる異音検査に比べて高い判別能力を有する。
【0008】
つまり、そもそも駆動系部品は、回転や往復運動を繰り返す機構で成り立っており、その機構にわずかな機械的異常があれば、それに起因した異常成分(良品から発せられる正常成分とは何かが違う成分)が必ず振動や音として周囲に伝達される。ところが、異音検査における異常成分は、正常成分と比較しても振動や音の波形に含まれる、わずかな違いでしかなく、熟練した人の耳であれば聞き分けられるような違いがあっても、波形解析してみるとノイズに埋もれてうまく検知することができないことがあった。これは、従前の異音検査が時間軸波形から得られた特徴量だけや、周波数軸波形から得られた特徴量だけの判別、しかも単一の特徴量のみに基づいて行われる判別であったからである。そこで、上記の特許文献1では、複数の軸から得られる複数の特徴量に基づいて総合的に正常/異常を判断するようにしている。そして、この特許文献1に開示された発明では、判別ルールとして、ファジィルールを用い、ファジィ推論により複数の特徴量に基づく正常/異常の判断を行なうようにしている。
【0009】
ところで、特許文献1に開示された異音検査に判別ルールとして用いるファジィ推論は、ニューラルネットなど、その他の判別モデルと比較して、人が判別ルールを理解しやすいという利点がある。例えばニューラルネットとは、ニューロンモデルを互いに多数結合させて接続しネットワーク状にしたものであり、どのような判別をしてそのような結果に至ったのか、その根拠が難解で感覚的に理解しがたい。感覚的に理解できないものを人は信用しにくい。それが品質の要となる検査装置であるならなおさらである。
【0010】
これに対して、ファジィ推論は、あいまいさを表現するメンバシップ関数を用いており、ファジィ推論を用いた判別ルールは、判別の根拠と判別結果を対応づけて「IF 特徴量A=大 THEN 異常」のように人に理解しやすい表現で示すことが出来る。このように感覚的に理解できるものは説明もしやすく、品質ソリューションを事業とする場合に、検査装置の検査ロジックとして判別ルールを説明しやすいため、その説明を受けた顧客にとっても納得する度合いが高いので安心して採用できるという利点がある。
【0011】
また、新規に異音検査装置を導入しようとする顧客は、それまで熟練者(官能検査員)の耳による官能検査を行っていることも多く、官能検査員は「異音なきこと」などの記述が一般的な検査基準に対して独自の判定基準やノウハウ、知見をすでに有している。このような場合には、異音検査装置は官能検査員がこれまで行っていた官能検査の置き換えとなるので、官能検査員の持つ判定基準やノウハウ、知見との整合性が自ずと求められるのが現状である。係る場合にも、作成した判別ルールと、それまでの官能検査員がもっていた知識(検査基準)との整合性を説明しやすいということは、顧客に対して説明責任を負うソリューション提供者にとってファジィ推論による説明のしやすさは事業を進める上で大きな利点となっている。
【0012】
ところで、使用する特徴量の数が増加するほど、良否判定をするための判別ルールも複雑になったり、多数必要になったりする。そのため、精度の高い異音検査を行なうためには、判別ルールを精度良く作成する必要がある。異音検査における判別ルールを作成する工数を削減する技術として、非特許文献1に開示された技術がある。この非特許文献1には、判別ルール(検査ロジック)の自動生成において判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ探索に遺伝子アルゴリズムを用いる技術が開示されている。つまり、判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ探索とに、遺伝子アルゴリズムを用いることによって、それまで、人の勘と経験による試行錯誤でしか出来ないとされてきた判別ルールの作成処理を自動化/半自動化できるようにした。
【0013】
また、異音検査における判別ルールを自動作成する技術としては、非特許文献2に開示された発明もある。この非特許文献2には、判別ルールの自動生成において、判別ルール生成のために収集した正常データと異常データから適切な数の正常データと異常データを選択し、選択したデータから遺伝子アルゴリズムを用いて判別ルールに用いる特徴量選択とパラメータ調整をし、選択した特徴量と調整したパラメータからファジィ推論を用いて判別ルールを生成する技術が開示されている。このように正常データと異常データからそれらを最も分離する判別ルールを生成する技術は一般に不良識別と呼ばれている。
【0014】
しかしながら、不良識別では、正常/異常を判別するにはサンプルデータとして正常データと異常データがあらかじめ必要であり、異常データは正常データに比べて取得しにくいことから異常データがなければ判別ルールが生成できないという問題は点がある。
【0015】
これに対し、例えば特許文献2に開示された発明のように、正常データのみで良品が存在する正常領域を形成し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、検出値が正常領域外であれば異常と判断する技術がある。この特許文献2に開示された発明では、複数の入力情報を用いて、正常な状態が許容される正常領域を多次元ベクトルで設定し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、領域外であれば異常と判断するようになっている。係る判断手法は、一般に異常検出と呼ばれている。
【0016】
係る異常検出の場合、正常領域を形成するに十分なサンプルデータがあらかじめ取得できる場合には、このような正常領域の内外に基づいて正常/異常を判断することができる。しかし、検査装置が実際に用いられる製造ライン等では頻繁に検査対象が変わることもしばしばで、十分なサンプルデータが用意できない場合も多々ある。このように十分な正常データがあらかじめ用意できない場合には、正常領域そのものが形成できないので、異常検出すら出来ないという問題点があった。
【0017】
また、上記とは逆に、異常音の発生領域に該当する周波数成分など、不良・異常のときに発生する音や振動等の波形信号に基づいてモデル・ルールを作成し、実際の検査においては、不良品のサンプルに基づいて作成したルールに該当するか否かを判断し、該当しない場合に、良品と判断するものもある。係る判定アルゴリズムが、異音検査においては従来から一般的に行われてきたものである。
【0018】
しかし、この場合も、不良品のサンプルデータを用意できない場合には、適切なモデル・ルールを作成することができず、高性能な検査装置を構築することができないという問題を有する。さらに、不良品のサンプルデータは、どういう種類の異常であるかなどの不良種類ごとに用意する必要があるとともに、各不良種類ごとに複数個の不良品のサンプルデータを必要とすることから、サンプルデータを用意することは煩雑である。しかも、検知できるのは、既知の不良品のサンプルデータに特徴量が適合するものであるため、未知の不良を検出することは困難であった。
【特許文献1】特許第3484665号
【特許文献2】特許第3103193号
【非特許文献1】オムロンテクニクスVol.43 No.1 pp.99−105(2003)
【0019】
【非特許文献2】オムロンテクニクスVol.44 No.1 pp.48−53(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述した通り、これまでにも各種の異音検査装置の開発が試みられてきている。しかし、いずれも、不良品(異常品)を良品(正常品)と誤判定してしまう見逃し率の発生をなくしつつ(不良品を出荷することになるため確実に阻止する必要がある)、良品を不良品と誤判定してしまう過検出率の低減を図る(良品が出荷されず、廃棄処理等されてしまう無駄・歩留まり低下の防止をする)ことを目的とし、高性能な良否判定アルゴリズムの作成・改良が行なわれており、そのため、使用する特徴量の数が増加したり、よりよい判定ルールを作成するために要求されるサンプル数が増加したりするのが現状であった。
【0021】
一方、近年、工業製品の品質に対する消費者の目は厳しくなる一方である。また、多品種少量生産の時代の製造業においては、製品の品質を確保するだけでなく、生産ラインの立ち上げをいかに迅速に行なえるかが重要な課題となる。つまり、単純に異音検査アルゴリズムの高精度化を図るだけでは十分ではなく、よりよい品質の製品を市場に送り出すために、生産現場には、以下の2つのニーズがある。
【0022】
1つ目は、検査の自動化である。すなわち、通常、生産工程での検査は製品の寸法や重さなど、生産された製品の個々の特性値それぞれに対して管理基準を決定し、品質を管理している。例えば、プリント配線基板のはんだ外観検査や、自動車エンジンの異音検査のような官能検査を自動化した検査装置では、画像や波形から複数の品質特性を抽出し、判別モデルがこれらの特性を総合的に判断して良否を判定する。
【0023】
2つ目は、垂直立ち上げである。生産現場では、ラインの立ち上げの際に、量産試作という過程を経て、量産ラインを立ち上げるのが一般的である。量産試作とは、研究・設計後に量産と同じ生産手段によって製品を作り、工程に問題が無いかなど量産の可否を決定するものである。自動検査装置の判別モデルを自動生成する場合は、十分なデータが集まらないとモデリングできないため、量産開始時まで検査基準を確定できない。この量産試作段階で量産段階に使用する検査基準を決定し、量産開始と同時に安定した検査を開始することが、生産ラインの垂直立ち上げを実現する上で重要な課題となる。
【0024】
図1は、ある製品(ワーク)の開発開始から、最終的な正常な量産ラインの立ち上げ完成までの段階(工程)と、各工程で得られる良品(OK)と、不良品(NG)のサンプルの関係を示している。すなわち、まず最初に製品をどのようなものにするかについての研究が開始され(研究)、具体的な設計を行ない(設計)、設計した製品に対する量産試作(量試)を行なう。そして、この量産試作で工程に問題が無いことなどを確認した上で、実際の量産を開始し、量産ラインを立ち上げる(量産)。
【0025】
そして、量産開始後も、予期せぬ不良品の発生等の不具合等が発生することがあり、その都度修正し(量産変動時)、その後は、不良品の発生原因を突き止めるとともに解消し、不良品の発生率が極力低下して歩留まりが向上した安定期がある(量産安定期)。すなわち、量産開始後であっても、不良品が発生・検出することがあり、その原因が判別ルールなどが適切でない場合には、検査基準を変更する(特徴量を変更する/検出範囲を変更する)ような修正を行ない、そもそも不良品が発生するような場合には、検査基準は変更せずに原因を究明し、原因対策(設計変更)を行ないながら、量産を継続する。
【0026】
図1から明らかなように、研究・設計段階では、実際に作成(試作)する製品の数も少ない(初期試作)。特に、研究段階では、不良品のサンプル数(ワーク数)が極端に少ない。そのため、正常と異常の分布領域もそれぞれ小さい範囲となる。そして、設計段階に移行すると、いろいろと試行錯誤することから、不良品の発生数が増加するとともに、分布イメージからもわかるように不良品の発生原因も多岐にわたる。これにより、異常となる領域も複数点在する。
【0027】
そして、量試段階に移行すると、実際に製品を量産することから製造されるサンプル数も増加し、研究・設計段階では予測できなかった不良原因も発生することから、不良品の発生数も増加する。この予測できなかった不良原因とは、具体的には、例えば製造工程の不具合に起因する不良等がある。分布イメージからもわかるように、この量試段階では、不良品の発生原因も多岐にわたるため、異常となる領域も複数点在し、その点在数並びに各領域でのサンプル数は、設計段階よりも増加する。また、異常とされる領域が多岐にわたることから、良品(正常)と判断される領域も、複数点在することがある。量試段階が進むにつれて、日々不良品の発生の原因を究明するとともに、係る不良品が発生しないようにするための解決策を考え、生産設備・製造ラインの改良を行なう。そのため、不良品の発生数も減少するとともに、不良品の発生原因が解消されることから、不良品の発生領域数も減少していく。
【0028】
量産開始時には、良品の発生数が増加する一方で、不良品の発生数が減少する。係る現象は、量産変動時→量産安定期に進むにつれてより顕著となる。そして、分布イメージも、不良品の発生領域数も少なくなるとともに、製造される良品のばらつきも徐々に少なくなることから、正常となる領域も縮小される。これにより、異常の領域と正常の領域間の距離が開き、最終的な量産安定期においては、高精度の良否判定が行なえる。
【0029】
しかしながら、量産前の初期の段階から異音検査装置による良否判定を行ない、不良品の特定を正確かつ高精度に行なうとともに、量産の立ち上げを早期に行ないたいという要求を満たすようにすると、以下の問題が生じる。
【0030】
すなわち、例えば従来から一般に行われてきた不良品のサンブルデータに基づく良否判定(不良識別)は、ある程度発生する不良・異常の種類が特定されてきた量産体制に移行した生産設備・製造ラインに対しては適している。しかし、生産ラインの立ち上げ時(設計,量試)などのように、不良品の発生率が高く、しかも、複数の不良種類が複合的に作用したり、未知の不良種類なども多数存在する場合には、適切な不良品のサンプルデータを用意することができず、検査装置を効果的に適用することができない。さらに、仮に不良品のサンプルデータが用意でき、検査装置を構築することができたとしても、立ち上げ時には、日々不良品の発生の原因を究明するとともに、係る不良品が発生しないようにするための解決策を考え、生産設備・製造ラインの改良を行なう。そのため、検査装置を構築する際に使用したサンプルデータのもととなる不良品は、すでに解決策が施されて発生しないようになっていることが多々あるばかりでなく、新たな不良種類が発生するなどし、有効な検査装置を提供することができないなどの問題を有する。
【0031】
この発明は、モノづくり等で起こる不良出現(不良形態)数,良品とのバランス状況変化(初期試作(初期段階)→量産試作(調整段階)→量産(安定段階))に応じて、適切な検査を行なうことができ、検査対象物の初期試作段階から検査を行なうこともできる検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記した目的を達成するため、本発明の検査方法は、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備える。そして、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判定モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なう。また、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行するようにした。この発明は、第2の実施形態により実現されている。
【0033】
例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、大まかに量産試作、量産があり、それぞれに以下の特徴がある。すなわち、量産試作段階では、取得できるサンプルデータが増加し、良品の分布は推定できるが、偏りに起因する誤差によって正常領域の形状が不安定な状態であり(調整段階)、量産段階では取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態(安定段階)となる。そこで、量産試作時および量産時には、それぞれ異常検出の調整段階モデルおよび安定段階モデルを適用することとした。
【0034】
つまり、調整段階モデルとしては、パラメトリックな手法のみでは信頼性が低下するため、パラメトリックな手法とノンパラメトリックな手法を併用し、総合的に判断するようにした。これにより、サンプル数が十分に集まらない量産開始前であっても、精度の高い異常判定を保証する。そして、安定段階になると、十分なサンプル数が確保できるので、パラメトリックな手法による判定のみで高性能な異常判定が行なえる。安定段階になると、パラメトリックな手法と、ノンパラメトリックな手法の判断結果が一致するため、判定結果の性能の点では両方の手法を用いた判定を行なうメリットが無くなるばかりか、両方の処理を行なうことの煩雑・CPU負荷の点で好ましくないため、パラメトリックな手法のみにより良否判定をするようにした。
【0035】
また、別の解決手段としては、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を行なう異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を行ない、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行するようにした。この発明は、第1の実施形態により実現されている。
【0036】
例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階にはさらに初期試作(研究・設計段階)が含まれる場合があり、この場合には、大まかに初期試作(試作)、量産試作(量試)、量産となる。初期試作は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない状態(初期段階)である。したがって、パラメトリック判別モデルによる手法では、異常判定が行なえないが、ノンパラメトリック判別モデルによる判定はある程度の精度が保証できる。そこで、初期段階では、ノンパラメトリック判別モデルによる手法により異常判定をすることにより、初期試作の段階から自動的な異常判定を行なうことができる。サンプル数がある程度収集可能になる量産試作以降は、上述した発明と同様である。
【0037】
そして、前記初期段階から前記調整段階への移行は、収集したサンプルの数が、少なくとも特徴量の数より多くなった場合に実行するようにすることができる。より好ましくは、3倍以上とすることである。もちろん、切り替えるための条件は、このようにサンプル数に基づくものに限ることはなく、その他各種の切替条件を用いることができる。
【0038】
また、前記調整段階から前記安定段階への移行は、前記調整段階における前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果が一致する割合が一定以上になった場合に行なうこととすることができる。この一致は、完全に一致するようにしても良いし、完全に一致するまで待つことなく、一致の度合いがある程度高くなる場合に切り替えるようにしても良い。実施形態では、「両者の判別結果に差異がなくなった場合」としたが、差異が無くなったとは、全くない(完全に一致)した場合はもちろんのこと、一定のマージンを許容する(多少の差異を生じるのは許可する)ものでもよい。
【0039】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、前記検査装置は、人による判断結果の入力を待ち、入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とすることができる。この発明は、第3の実施形態により実現されている。
【0040】
また、上記した各方法の発明を実施するのに適した本発明に係る検査装置は、入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、良品から得られた正常の計測データに基づいて生成されたモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、一方または両方を同時に実行可能とすると共に、その実行を制御する制御手段(実施の形態では、「使用モデル選択部」に対応)を備えた。そしてその制御手段は、取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行させ、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なうように制御し、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御するように構成することができる。
【0041】
そして、前記制御手段は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御する機能をさらに備えるとよい。
【0042】
さらに、良品から得られた正常の計測データに基づいて異常検出のためのモデルを作成するモデル生成手段を備え、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、前記モデル生成手段により生成されたモデルに基づいて異常判定を行なうように構成できる。この場合に、前記モデル生成手段がモデルを生成する際に使用する前記正常の計測データは、検査対象の計測データが良品と判断された場合の当該計測データも含むものとするとよい。
【0043】
さらに、前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、人による判断結果の入力を受け付けるための入力画面を表示する機能と、その入力画面に基づき入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とする機能を備えるとよい。
【0044】
そして、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVM(サポートベクターマシン)を用いることができる。
【0045】
1クラスSVMは、事例との照合に基づく判定であり、「過去に経験した良品の音・波形に近い音・波形なら良品」と判断するもので、確実に良品といえるもの以外を検出する。従って、データが少ない段階では本来の不良以外も検出してしまうので過検出が多くなる。但し、「ノンパラメトリックな手法」なので少数の良品サンプルからでも学習可能であるので、サンプルを十分収集できない試作・量産試作段階でも検査可能になる。そして、多変量正規性が仮定でき、かつデータが十分ある場合はMTSと判定が一致するはずである。但し、1クラスSVMの場合、どのような基準で判定するかを説明できないので量産段階での品質管理には不向きである。
【0046】
一方、MTS(マハラノビス・タグチ・システム)は、モデルとの照合に基づく判定で理想的な良品に近い音・波形なら良品」と判断するもので平均とばらつきを管理するという品質管理からのアプローチであり、どのような基準で判定するかを説明できる。そして、多変量正規性を仮定する「パラメトリックな手法」なので統計的な分布推定を行なうのに十分な数の良品サンプルが必要であるというデメリットを有するものの、サンプルを十分収集できる最終量試・量産段階では、係るデメリットが解消され、どのような基準で判定するかを説明できるというメリットが発揮される。これにより、量産段階では、パラメトリックな手法による良否判断を行なうようにした。
【0047】
計測データは、実施形態では、音や振動に基づく波形データであるが、本発明はこれに限ることはなく、例えば、画像信号や温度、回転数、トルク等の計測データでも良い。また、パラメトリックな手法とは、すでに観測されているデータが構成する群(たとえば正常)について、各群に属するデータが従う確率密度分布の形状を規定するパラメータ(たとえば平均・分散)を推定する学習を行ない、判別時には、新たなデータが観測されたときに、推定したパラメータ使ってからその群への帰属の度合いを求め、その群に属するかを決定するものである。
【0048】
実施の形態では、このパラメトリック判別モデルの具体例として、MTS(マハラノビス・タグチ・システム)(良品群が従う確率密度分布を多変量正規分布と仮定してその形状パラメータである平均と標準偏差を推定し、新たにデータが観測されたときに、観測されたデータから良品群までのマハラノビス距離(平均と分散から求められる)が一定以上のものを不良品と判別する)を示したが、これ以外にも、たとえば、同じく良品群が従う確率密度分布が正規分布であると仮定してその形状パラメータである平均と標準偏差を推定し、新たにデータが観測されたときに、そのデータがその群に属する事後確率を求め、その確率が一定以下のものを不良品と判別する手法を用いることができる。
【0049】
また、ノンパラメトリックな手法は、群ごとに、すでに観測されているデータの全て、または判別に寄与する一部のデータをそのまま保持しておく学習を行ない、判別時には、新たなデータが観測されたときに、保持しておいたデータとの類似度や距離からその群への帰属度をもとめ、その群に属するかを決定するものである。
【0050】
このノンパラメトリックな手法の具体例として、実施の形態では1クラスサポートベクタマシン(1クラスSVM)を示したが、これ以外にも、例えば、全データを保持し、新たなデータが観測されたときに、保持したデータの中からユークリッド距離が近い順にk個のデータを抽出し、その平均値が一定以上のものを不良品と判別する手法を用いることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明では、正常(良品)データベースを基準に正常か否か(異常でないか)を判断することにより、不明確な不良の検出を含め各種の不良の検出を可能にするとともに、モノづくり等で起こる不良出現(不良形態)の状況変化(初期試作→量産試作→量産)に応じて、適切な検査を行なうことができる。
【0052】
つまり、本発明では、不良データがない、または僅少な場合でも検査が可能となり、正常データが少ない場合(生産ライン立上げ時等)でも検査可能になる。さらに、データが増えるにつれ、異常検出精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図2は、本発明の好適な一実施形態を示している。図2に示すように、本実施形態では、検査対象物1に接触・近接配置するマイク2および加速度ピックアップ3からの信号をアンプ4で増幅し、AD変換器5にてデジタルデータに変更後、検査装置10に与えるようになっている。また、図示省略するが、量試段階や、量産開始後は、生産現場にて実際にワーク(製品)の製造をする制御を司るPLCからも動作タイミングその他のデータを取得することができるようにしている。そして、検査装置10は、マイク2で収集した音データや、加速度ピックアップ3で収集した振動データに基づく波形データを取得し、特徴量を抽出するとともに、異常判定を行なう。図2から明らかなように、検査装置10は、コンピュータから構成され、CPU本体10aと、キーボード,マウス等の入力装置10bと、ディスプレイ10cとを備えている。また、必要に応じて外部記憶装置を備えたり、通信機能を備え外部のデータベースと通信し、必要な情報を取得することが出来る。
【0054】
また、本実施形態では、異常判定をする際に用いる判定知識を正常なサンプルに基づいて生成し、条件に適合したものは良品で適合しないものを不良品と判定するといった、異常検出を行なうことを基本的なアルゴリズムとしている。係る構成を取ることにより、本実施形態の検査装置10は、量産試作等の量産開始前から量産初期(ライン立ち上げ)を経て量産の安定期に至る各時期において正常/異常の判定を行なえるようになっている。
【0055】
図3は、主として検査装置10の内部構成を示しており、図4は、さらに詳細な内部構造を示している。この検査装置10は、異常判定をする際に必要とする知識を作成する機能と、その作成した知識に基づいて良否判断を行なう機能を備えている。本実施形態では、いずれの機能も正常な良品のサンプルに基づいて行なうととともに、開発から生産へ移行する各段階に合わせて、自動的に知識を修正することで、各段階に適した良否判断を行なうことが出来るようになっている。
【0056】
知識を作成する機能としては、検査装置10は、A/D変換器5を介して取得した波形データを格納する波形データベース11を有する。この波形データベース11には、本実施形態では、正常な製品(良品)に基づき発生する波形データが格納される。もちろん、不良品に基づいて発生する異常な波形データを格納するのを妨げない。異常な波形データは、検査装置10の性能の検査(正しく不良と判定されるか)に用いることができる。
【0057】
モデル(判別ルール)の作成のためには、良品のデータのみを格納すればよい。但し、本発明の検査装置10は、量産開始前から量産開始後に至る各段階でモデルを逐次改良・修正しながらよりよい判定を行なうためのモデルを構築する。従って、当初は、良品のサンプル波形データを用意し、それを波形データベース11に格納することになるが、ある程度の数のサンプルデータが収集できると、実際に異常判定の検査を行ないつつ、さらにサンプルデータの収集を行ない、その収集したサンプルデータ(検査対象のデータ)に基づいてモデルの再構築が行なわれる。
【0058】
従って、実際には、A/D変換器5を介して入力された波形データは、検査時は特徴量抽出部13に与えられて異常判定が行なわれるとともに、波形データベース11にも格納される。但し、このとき格納される波形データは、良品についてのものか否かが不明であり、モデルの再構築に使用するのは良品の波形データである。そこで、図示省略するが、判定結果は、波形データベース11に格納された波形データにフィードバックされる。つまり、波形データベース11のデータ構造は、実際の波形データと、正常/異常の区別とを関連づけたテーブル構造となる。さらに、判定結果をフィードバックして関連づけるために、各波形データを識別するコード(レコードNo.で兼用可能)も必要となる。なお、初期に与えられる良品のサンプルデータの場合には、判定結果を待つまでもなく区別は「正常」となる。また、判定結果が異常と判断された波形データであっても、人が判断して良品との判定結果が得られた場合には、区別を「正常」に更新し、モデルの作成に利用することもできる。
【0059】
この波形データベース11に格納された正常の波形データは、異常検出モデル生成部12に呼び出され、異常判定をするために必要な知識を作成する。ここで作成する知識としては、特徴量パラメータならびに異常検出モデルがあり、作成された特徴量パラメータは、特徴量パラメータデータベース17に格納され、異常検出モデルは異常検出モデルデータベース18に格納される。さらに、後述する異常判定を行なう判定部15における判定処理をするためのファジィルールを作成する機能を備える。
【0060】
また、検査装置10は、A/D変換器5を介して取得した波形データから特徴量を抽出する特徴量抽出部13と、その特徴量抽出部13で抽出した特徴量に基づいて、その特徴量の値が正常領域に含まれるか否かを判別することで、正常領域外のときに異常と検出する異常検出部14と、その異常検出部14の検出結果に基づいて、最終的に良否判断(異常判定)を行なう判定部15と、異常検出処理を行なう際に使用するモデルを決定・選択する使用モデル選択部16とを備えている。この判定部15の判定結果は、例えばディスプレイ10cにリアルタイムで表示したり、記憶装置に格納したりすることができる。
各処理部の機能・構造の詳細な説明をする前に、本実施形態における異常検出アルゴリズムを説明する。
【0061】
図1を見ても明らかなように、製品の研究・設計から量産に至る各工程における良品と不良品とがそれぞれ構成する群のデータ数や性質がでない。すなわち、量産開始後は、不良品の発生頻度が低く、十分なデータ数を得られない。また、量産開始前は、不良品の発生頻度が上がるものの、一時的に発生し、すぐに改善されて同一原因に基づく不良品、つまり、同種の特徴量を持った不良品の波形データに基づく特徴量がその後継続して発生する可能性は低い。さらに、いずれの時期においても、発生原因により不良はさまざまに分類でき、これをクラスとして考えることは合理的でない。さらに、対称性の観点では、製品の良品・不良品のモデリングに利用できるサンプル数は対称ではない。そこで、本実施形態では、良品に基づく正常波形データを基準とし、確率密度推定のような1クラスの判別方法を利用するようにした。
【0062】
また、本実施形態で対象としている良品に基づく正常波形データの特徴量の値の統計的性質は、収集するサンプル数が少ないときは正規分布となることが期待できないが、少なくとも量産開始後は正規分布(多変量正規分布)となることが期待できる。そして、正規分布に従うことを仮定できる場合には、利用可能なモデリングとして、パラメトリックな手法があるが、仮定できなければ、ノンパラメトリックなモデリング手法しか利用できない。
【0063】
そこで、本実施形態では、良品から得られるデータ(特徴量値)の統計的性質が、多変量正規分布が期待できるときはパラメトリックな手法を用い、多変量正規分布が期待できないときはノンパラメトリックな手法を用いることとした。但し、量産開始前から連続して本実施形態の検査装置10により異常判定を行なうような場合、得られるサンプルデータ(実際の検査対象のデータも含む)数が徐々に増加していくため、ある瞬間を基点として、特徴量値の統計的性質が多変量正規分布に瞬間的に切り替わることはなく、どちらとも言い難い過渡期の期間がある。また、仮に(理論上)、ある瞬間で多変量正規分布に切り替えることがあるとしても、その瞬間を見定め、使用するモデルをノンパラメトリックな手法から、パラメトリックな手法に切り替えるのは困難である。
【0064】
そこで、本実施形態では、上記の過渡期の期間は、パラメトリックな手法とノンパラメトリックな手法の両方を併用して良否判断をし、量産開始後などのパラメトリックな手法で比較的正確な判断ができるようになった場合には、パラメトリックな方法のみに基づく判断に切り替えるようにした。この考えに基づいて実現されたのが、本発明に係る第2の実施形態である。
【0065】
もちろん、サンプル数が少なかったり、歪み・偏りなどがあって正規分布をしていなかったりしていることが明らかな場合には、パラメトリックな手法による異常判定結果に対する信頼性が低いため、ノンパラメトリックなモデリング手法のみにより判断する機能を付加するとよい。この考えに基づいて実現させたのが、本発明に係る第1の実施形態である。
【0066】
そして、本実施形態では、パラメトリックによる手法として、MTS(マハラノビス・タグチ・シュミット)法を用いる。すなわち、MTS法では、良品の集団というように、何らかの意味で普通の集団を設定する。これを単位空間と呼ぶ。不良品の判定では、良品を単位空間にとる。そして、単位空間と観測変数が設定されれば、単位空間に属する標本のみから、以下に述べるマハラノビス汎距離のもとになる平均ベクトルと分散共分散行列を推定する。
ここで、マハラノビス距離とは、以下の式で表される、平均ベクトルを原点に、分散共分散行列つまり変数の相関を考慮した距離を示すスカラ値である。
【数1】
【0067】
このように、良品サンプルから算出されたマハラノビス距離は、良品群からの乖離の度合いを示す量として捉えることができる。すなわち、図5(a)に示すように、正規分布をしているため、分布の中心からマハラノビス距離が所望の等距離の超楕円の範囲内(図中破線で示す領域内)が良品の範囲となり、その推定した分布(所定の等距離の超楕円の範囲内)から外れる領域を異常として検出するものである。従って、仮に、図中「黒丸」で示すものは、範囲外となるので、異常(不良品)と判定される。
【0068】
なお、このパラメトリックな手法を用いた異常判定は、少なくともデータ数が特徴数以上になることがデータ数の下限とされており、好ましくは(経験則上)、データ数が特徴数の3倍以上が必要とされる。
【0069】
一方、本実施形態では、ノンパラメトリックな手法として、1クラスSVM(サポートベクターマシン)という手法を用いた。このSVMは2クラスの判別問題を解くために作られた学習機械である。SVMはカーネル変換と呼ばれる入力データの高次元空間への写像を学習に用いることにより、非線形の判別関数も構成できるという特徴をもつ。SVMはサンプルデータを最も良く判別する分離超平面を決めるために分離超平面とサンプルデータとの最小距離を評価式として用い、これを最大化するように分離超平面を決定する。この最大化された際の最小距離に対応するサンプルデータのことをサポートベクトルと呼ぶ(図6参照)。このサポートベクトルは、境界のデータのみで決定される。
ここで、n個のd次元データx={x1,……,xd}の集合をサンプルデータとしたとき、SVMによる判別関数は以下のように表される。
【数2】
【0070】
ここで、yiはサンプルデータのラベル、αiはサポートベクトルの重みと呼ばれるパラメータである。また、bはバイアス項と呼ばれるパラメータである。そして、Φはカーネル変換による写像でK(x,xj)は写像後の空間における内積を表す。この判別器のf(x)=0を満たす点の集合(識別面)はd−1次元の超平面となる。
【0071】
ここでカーネル法は、SVMを非線形に拡張するため、非線形写像Φにより、非線形写像を行なうもので、次元が高くなると、通常は複雑で計算が困難であるが、SVMの場合は、目的関数や識別関数が、入力パターンの内積のみに依存するため、内積が計算できれば最適な識別関数が構成できる。このように、高次元に写像しながら、実際には写像された空間での特徴の計算を避けて、カーネル関数に置き換えられる。カーネル関数の計算のみで最適な識別関数を構成することをカーネルトリックと呼ぶ。
【0072】
例えば、図7(a)に示すように白丸と黒四角が点在する場合に、両者の領域をd−1次元(図示の場合d=2より1次元:直線)で分離することはできないが、図7(b)に示すように、Φ(x)による非線形写像を作成(想定)することで、d−1次元(図示の場合d=3より2次元:平面)の分離超平面により、両者(白丸と黒四角)を分離することができる。ようは、元の入力データを高次元特徴空間に写像し、特徴空間において線形分離を行なうことである。高次元になるほど、計算量が増えるものの、内積を用いて演算処理できるので、計算が簡単に行なえる。
【0073】
そして、1クラスSVMとは、正常データのみの情報から、未知のデータに対してもその正常/異常を精度よく判別できる判別関数を確定する学習機能である。1クラスSVMにより得られた識別面は、サンプルデータの分布の外形にフィットするように構成される。すなわち、サンプルデータとは違うデータを異常として判別する。カーネル変換により、非線形に拡張された1クラスSVMの判別関数は、次式のとおりである。
【数3】
【0074】
ここで、f(x)の値は、識別面からの乖離度を表す。これにより、正常データの集合からの距離で、正常・異常を判断することができる。つまり、1クラスSVMは、サンプル点のサポート求めるためのカーネル法である。カーネルにガウシアン関数を使用すると、はずれ点は、特徴空間の原点近くに写像される性質を利用して、入力空間におけるはずれ点を検出する(図8参照)。図8では、νはサンプル群が原点側に残る割合であり(0>ν≧1)、νが小さいほどはずれ点、つまり、異常であると言える。
【0075】
1クラスSVMを用いた異常検出をイメージ的に説明すると、図5(b)に示すように、正常な範囲を示す群の外形(点線で示す領域)にフィット範囲内に存在するものが正常(良品)に関するものと判断する。つまり、データの出現実績がない領域を異常として検出する。これにより、サンプル数が少ない状態でも、異常判定が行なえる。なお、係る範囲の外に位置するのは全て異常と検出することもできるが、一定の乖離度を設定し、その乖離度が一定以上の場合に異常であると検出するようにしても良い。
【0076】
つまり、MTSと、1クラスSVMにおける異常度合いの意味は、前者は分布の中心からの乖離度が一定以上のものとなり、後者が識別面からの乖離度が一定以上のものとなる。また、1クラスSVMにおける正常な範囲は、既存の良品の波形データ(それに基づく特徴量値)からなる群の集合体の外形であるため、良品に基づくデータが追加されるに従い、その形状も変化する。そして、収集したデータのサンプル数が多くなり、正規分布する程度に収集できたならば、その1クラスSVMにおける正常の範囲の外形状は、正規分布に基づく超楕円の範囲と等しくなる。この状態では、MTSによる判定も精度良く実行可能となるので、MTSによる判定に切り替えることができる。なお、良品群の形状は、必ずしも正規分布になるとは限らず、正規分布に従わない場合であっても、ワイブル分布や二項分布などパラメトリックな手法が既知である分布に従う場合には、それぞれの分布に適したパラメトリックな手法に切り替えることかできる。
【0077】
図3、図4に戻って、本実施形態の装置を説明する。異常検出モデル生成部12は、パラメータ最適化部12aと、特徴選択次元圧縮部12bと、モデリング部12cを備えている。本実施形態では、使用する特徴量は予め決めておく。そして、特徴量におけるパラメータをパラメータ最適化部12aで自動的に決定する。このパラメータ最適化部12aにおけるパラメータの決定手法は、上述した非特許文献等に開示された技術を適用することが出来る。そして、求めたパラメータは、特徴量パラメータデータベース17に格納する。
【0078】
特徴量選択次元圧縮部12bは、複数の特徴量の中から、有効なものを選別し、高次元特徴量を低次元に圧縮する。すなわち、本実施形態では、より正確、かつ、高性能で、幅広い対象に対して異常判定を行なうようにしたため、時間軸に基づく波形と、周波数軸に基づく波形(波形変換部13eで生成)に基づき、それぞれ所定数の特徴量を求めるようにしたことから、特徴量の数が多くなり、この特徴量の数は今後さらに増加する可能性がある。このように、異常判定のために有効と思われる特徴量を幅広く盛り込んだ結果、高次元の特徴ベクトルが生成されるが、係る高次元の特徴ベクトルを、正常/異常の識別に有効な次元を選択しつつ圧縮する。モデリング部12cは、良品に基づく波形データの特徴量空間について、1クラスSVMのモデル(群を構成する範囲)や、MTSのモデルを作成し、異常検出モデルデータベース18に格納する。さらに、作成したモデルに基づき、判定部15で行なうファジィ推論の際に使用するファジィルール(メンバシップ関数も含む)も作成し、ファジィルールデータベース19に格納する。ここで作成し・格納するファジィルールは、MTSの結果と1クラスSVMの結果を両方とし、総合的に判断する過渡期における良否判断のためのルールと、単独のモデル(MTS/1クラスSVM)で異常判定をする場合に使用するルールのいずれも該当する。作成するルールについては、後述する。
【0079】
特徴量抽出部13は、図4に示すように、A/D変換器5を介して取得した検査対象の一連の波形データから所定の周波数成分を抽出/除去(フィルタリング)するフィルタ13aと、そのフィルタ13aを通過した波形データに対してフレーム分割するフレーム分割部13bと、そのフレーム分割部13bにて分割された各フレームの波形データに対して、波形変換を行なう波形変換部13eと、フレーム分割部13bで分割された各フレーム単位の波形データならびに波形変換部13eにて変換されたデータ(フレーム単位)に基づき、フレーム単位の特徴量(フレーム特徴量)を算出するフレーム特徴量演算部13cと、そのフレーム特徴量に基づき、検査対象の波形データの代表特徴量を求める代表特徴量演算部13dを備えている。この代表特徴量演算部13dで求めた代表特徴量が、次段の異常検出部14や、判定部15に送られる。この特徴量抽出部13の各処理部の機能は、基本的に公知の異音検査装置等に実装された特徴量抽出部の機能と同様である。
【0080】
各処理部の機能を簡単に説明すると、フィルタ13aは、バンドパスフィルタや、ローパスフィルタ等の各種のフィルタであり、ノイズを除去したり、判定に必要な周波数成分を抽出するもので、境界となる周波数値が各種設定される。
【0081】
但し、本実施形態では、良品に基づく異常検出のため、不良識別に比べて特徴量数はかなり増やす必要がある。すなわち、不良識別の場合、不良品に伴い発生する異音は、その異音の種類に固有の周波数帯に現れるため、その周波数帯だけに注目しないと異音は捉えられない(異音が他の周波数成分のなかに埋もれてしまう)が、逆に、その異音が発生する周波数帯がわかっているため、実際の検査ではその周波数帯だけを特徴量で監視すればよい。しかし、異常検出では不良品データがないので周波数帯を特定することができず、検査では各周波数帯をすべて特徴量で監視する必要あるためである。現実には、経験則から検査すべき周波数範囲がある程度(不良識別ほどではないにしても)限定できる場合には、その範囲内に限定することができる。また、後述するように、FFTなどにより周波数解析もできるため、広い周波数範囲での特徴量の解析は可能である。
【0082】
検査対象の波形データは、検査対象の製品を駆動しているときに測定して得られたある一定の長さをもつ連続波形である。そこで、フレーム分割部13bでは、その一連の波形データを、単位時間(単位サンプリング数)で構成されるフレーム単位に分割する。この分割処理をする際には、一連の波形データに対し、前後のフレームが切れ間無く連続するようにしたり、前後のフレームの一部が重なるように分割するなど各種の方式がとれる。波形変形部13eは、ヒルベルト変換,FFT(フーリエ変換),高域強調,低域強調,自己相関関数を求めるなど各種のものがある。
【0083】
フレーム特徴量演算部13cは、平均,分散,歪度,尖度,ピーク数(閾値を超えた数),最大値等各種のものがある。代表特徴量演算部13dは、各フレーム毎に求めたフレーム特徴量の平均,最大,最小,変化量などを求める。もちろん、算出するフレーム特徴量の種類や、そのフレーム特徴量に基づいて算出する代表特徴量の算出方法は、上記例示列挙したものに限ることはなく、その他各種のものを用いることが出来る。
【0084】
実際には、特徴量抽出部13が、特徴量パラメータデータベース17に格納された特徴量とパラメータ(例えば、フィルタにおける境界となる周波数や、ピーク数を求める際の閾値など)を読み出し、各処理部がそれに従って演算処理等を実行する。
【0085】
異常検出部14は、次元圧縮部14aと、SVM処理部14bと、MTS処理部14cを備えている。本実施形態では、より正確、かつ、高性能で、幅広い対象に対して異常判定を行なうようにしたため、時間軸に基づく波形と、周波数軸に基づく波形(波形変換部13eで生成)に基づき、それぞれ所定数の特徴量を求めるようにしたため、特徴量の数が多くなり、この特徴量の数は今後さらに増加する可能性がある。このように、異常判定のために有効と思われる特徴量を幅広く盛り込んだ結果、高次元の特徴ベクトルが生成されるが、次元圧縮部14aは、係る高次元の特徴ベクトルを、正常/異常の識別に有効な次元を選択しつつ圧縮する処理を行なう。
【0086】
SVM処理部14bは、異常検出モデルデータベース18に格納された現在の1クラスSVM用のモデル(正常の範囲(外形)を示す情報)を取得し、上述した1クラスSVMにおける判別関数(式3)を算出し、検査対象の波形データに基づく次元圧縮された特徴量空間における識別面からの乖離度f(x)を求める。そして、求めた結果を次段の判定部15に渡す。
【0087】
MTS処理部14cは、異常検出モデルデータベース18に格納された現在のMTS用のモデル(正常の範囲を示す超楕円の存在位置情報)を取得し、上述した検出対象の波形データに基づく次元圧縮された特徴量空間における超楕円の中心からのマハラノビス距離(式1)を求める。そして、求めた結果を次段の判定部15に渡す。
【0088】
判定部15は、ファジイ推論部15aと、閾値処理部15bを備えている。ファジィ推論部15aは、異常検出部14から取得した1クラスSVMの乖離度や、MTSのマハラノビス距離や、特徴量抽出部13から取得した代表値特徴量に基づき、ファジィルールデータベース19に格納されたルールしたがってファジィ推論を行ない、その推論して得られた結果を閾値処理部15bに渡す。閾値処理部15bは、取得したファジィ推論の結果に従い、検査対象の製品の良品/不良品を判断する。使用するモデルが異なるが、ファジィ推論処理並びにその推論結果に基づく閾値処理による異常判定は、基本的に従来と同様の機構のものを用いることができる。
【0089】
ここで、各段階における分布状況(分布成熟度)と、その際に用いるモデル/ファジィルールについて説明する。研究・設計の初期段階では、サンプルデータ数が少ない。従って、各サンプルデータに基づく特徴量の分布状況は、図9(a)に示すように分正規分布とならず、良品(正常)に基づく範囲の外形状も、超楕円とはならない。尚、説明の便宜上、特徴量は2つ(x1,x2)とし、2次元平面上で図示しているが、実際には、3つ以上の多数の特徴量空間となる。
【0090】
上述したように、十分なサンプル数が得られない初期段階では、1クラスSVMのみで行なうため、図9(b)に示すように、1クラスSVMの乖離度(横軸)のみに対して、図示するようなメンバシップ関数を作成する。このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。初期段階では、MTSモデルに基づく判定は行なわないため、メンバシップ関数も作成されない。よって、図9(b)に示すように、横軸のみのメンバシップ関数に基づいて、異常判定が行なわれる。MTSの乖離度は求めないので、縦軸についてはメンバシップ関数は作成されない。また、更新に使用する学習データは、正常(良品)と判定されたデータである。なお、異常(不良品)と判定されたデータであっても、人手で再検査し、良品であれば追加してもよい。
【0091】
また、量試段階等に移行し、ある程度のサンプル数(例えば、「データ数が特徴数の3倍以上」)が集まると、MTSによる異常判定も可能となる。但し、このときの分布成熟度は、分布の推定はできるが、多変量正規分布が完成しているわけではないので、偏りに起因する誤差で不安定な状態となっている。従って、図10(a)に示すように、1クラスSVMのモデルに基づく良品の範囲(破線で示す不定形な形状)と、MTSのモデルに基づく良品の範囲(実線で示す超楕円の形状)とは完全には一致しない。そのため、両方のモデルに基づく判定結果が正常と判定したデータは、良品と判断し、両方のモデルに基づく判定結果が異常のデータは不良品と判断する。そして、MTSとSVMで判定が異なるものについては、GRAY(不定:不明)と判定するようにした。
【0092】
そして、係る処理を行なうためのメンバシップ関数は、1クラスSVMについては、上記した初期段階の場合と同様である。また、MTSについてのメンバシップ関数は、このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。また、ルールとしては、図12に示すようになる。
【0093】
さらに、量産段階等に移行し、図11(a)に示すように、分布成熟度も推定した多変量正規分布が安定している状態では、上述したようにMTSモデルのみにより異常判定を行なう。これは、この段階では、1クラスSVMによる良品の範囲も、超楕円と同等の形状となるため、両モデルに基づく判定結果も共に一致するためである。従って、調整段階のようにわざわざ2つのモデルに基づく判定処理を行なう必要が無くなるため、MTSのみにより判断するようにした。このときのメンバシップ関数は、初期段階とは逆にMTSのみとなり、MTSについてのメンバシップ関数は、このメンバシップ関数は、良品範囲に対して小、不良品範囲に対して大のメンバシップ関数を割り当てる場合、良品の範囲の外形部分で、大と小のメンバシップ関数への適合度が等しくなるようにする。たとえば双方0.5で交わるようにする。なお、安定段階に移行した場合には、モデル(判定ルール)について逐次更新はしない。そして、必要に応じて分布に変化がないかチェックする。
【0094】
上記した各段階のうち、どの処理を実行するかは使用モデル選択部16が決定し、各処理部(異常検出部14,判定部15)に対して切替指令を送る。この指令に基づき、各処理部は、指定されたモデルに基づく処理を実行する。
【0095】
次に、上述した検査装置を用いた本発明に係る第1の実施形態を説明する。図13は、本発明の第1の実施形態の全体の処理を示すフローチャートである。例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、初期試作を行なった後、量産試作を経て実際の量産に移行するものがある。本実施形態では、このような3段階で開発から生産へ移行するようなケースにおいて、初期試作の段階から異常判定を行なうことができるようにしたものである。
【0096】
図13に示すように、まず、初期試作(初期段階)における異常判定処理を行なう(S10)。この初期段階では、取得できるサンプルデータが少なく、特徴量空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない状態である。そこで、初期段階モデルとして、1クラスSVMのみによる異常判定を行なう。
【0097】
具体的には、図14に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、予め用意した良品初期サンプルデータを読み込む(S11)。この読み込んだデータは、波形データベース11に格納される。そして、その波形データベース11に格納された波形データに基づき、異常検出モデル生成部12が1クラスSVMのモデルを作成する(S12)。そして、作成した特徴量や、異常検出モデル並びにファジィルールをそれぞれ対応するデータベース17,18,19に格納する。この処理ステップS11,S12が、学習段階であり、この学習段階までは実際の未知の波形データに対する異常判定(異音検査)は行なわない。所定数のサンプルデータを用意し、それに基づいて作成された、1クラスSVMモデルによる検査が可能になったならば、処理ステップS13以降の実際の検査に移行する。
【0098】
すなわち、初期試作段階で得られた製品(サンプル・試作品)に基づく波形データを取得し、A/D変換器5を介して特徴量抽出部13に送る。このとき、波形データベース11にもあわせて格納する。使用モデル選択部16は、異常検出部14,判定部15に対して初期段階モード、つまり、1クラスSVMのみで動作するように設定している。これにより、特徴量抽出部13で抽出された代表特徴量は、異常検出部14に送られ、次元圧縮部14aにて次元圧縮された後、SVM処理部14bのみにデータが送られ、そこにおいて、1クラスSVMモデルに基づく乖離度を求め、判定部15に送る。判定部15では、1クラスSVMのみに基づき、ファジィ推論処理を行ない(図9参照)、正常/異常の判断を行なう。
【0099】
次いで、サンプルの蓄積を行なう(S14)。すなわち、波形データベース11に格納した処理ステップS13にて検査を行なった検査データ(波形データ)の判定結果を、格納した波形データに関連づけて登録する。良品(正常)の場合、1クラスSVMのモデル作成に利用する。なお、異常検出モデル生成部12は、サンプルが1つ追加される毎にモデルの再構築をしても良いし、所定量蓄積される都度再構築を行なうようにしても良い。また、後述するように、この1クラスSVMモデルに基づく異常判定を行っている間は、新たなサンプルデータは蓄積のみ行ない、その蓄積されたサンプルに基づくモデルの再構築を行なわないこともある。ただし、好ましくは、逐次適当なタイミングでモデルの再構築をすることである。そのようにすると、良品として抽出されるサンプルが増える(本来良品のものが異常と判定されることを回避できる)のでよい。
【0100】
なお、この初期段階における1クラスSVMのみによる検査処理を実行している間は、処理ステップS11,S12の実行により求めたられたモデルに基づいて異常判定を行ない、処理ステップS14の実行により得られた新たなサンプルに基づく1クラスSVMモデルの再構築は行なわないようにしても良い。
【0101】
なおまた、上述した説明では、検査対象の波形データを波形データベース11に格納するタイミングとして、検査のために特徴量抽出部13へ与えるのと同時に(異常判定結果を待たずに)格納するようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、たとえば、処理ステップS13を実行し、良品と判定されたもののみを波形データベース11に格納するようにしても良い。この場合に、A/D変換器5を介して与えられた波形データは、判定結果が出るまではバッファメモリその他の一次記憶手段に格納し、判定結果を待ってその一次記憶手段に格納された波形データを波形データベース11に格納することで対応できる。そして、不良品(異常)と判断された波形データは廃棄(消去)するか、別のデータベースに格納する。もちろん、この場合でも、不良品に基づく波形データが分かる状態で波形データベース11に格納するのは妨げない。
【0102】
そして、蓄積されたサンプルの特徴量が正規分布を形成できるか否かを判断する(S15)。この判断は、使用モデル選択部16が行なう。図3では、図示の便宜上、使用モデル選択部16は、異常検出部14並びに判定部15とのみ接続され、データの送受が行なえるように記載しているが、他の処理部やデータベースともアクセスできるようになっている。そして、本実施の形態では、使用モデル選択部16か、波形データベース11にアクセスし、そこに格納された良品のサンプルデータの数が、良品分布の推定(MTSモデルに基づく判断)に十分なサンプル数になったか否かにより判断するようにしている。具体的には、少なくとも特徴量の数以上であり、本実施形態では、特徴量の数の3倍以上になったか否かを判断する。良品のサンプル数が3倍以上にならない場合(3倍未満の場合)には、この分岐判断はNoとなり、処理ステップS13に戻り次の製品(試作品)に対する検査処理を実行する。そして、上記の処理ステップS15の分岐判断でYesとなった場合には、図13に示す初期試作(初期段階)における異常判定処理(S10)が完了し、次の段階、つまり、量産試作(調整段階)における異常判定処理に移行する(S20)。なお、特徴量が正規分布をとるか否かは、本実施の形態では、特徴量の数とサンプルデータの数に基づいて推定する方式を採ったが、本発明はこれに限ることはなく、たとえば、求めた特徴量の値の分布状況に基づき、歪み度と尖り度という指標を利用することによっても簡単に判定できる。
【0103】
量産試作段階は、取得できるサンプルデータが増加し、良品の分布は推定できるが、偏りに起因する誤差によって正常領域の形状が不安定な状態である。そこで、調整段階モデルとして、1クラスSVMモデルに基づく判定処理と、MTSモデルに基づく判定処理を併用し、総合的に判断する(S20)。
【0104】
具体的には、図15に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、良品のサンプルデータの追加読込を行なう(S21)。そして、その追加されたサンプルデータを含めて1クラスSVMのモデリングを再度行なう(S22)。なお、初期段階の処理において、常に追加蓄積されたサンプルに基づいて1クラスSVMのモデルの再構築を繰り返し実行している場合には、S22の処理は特に設けなくても良い。但し、いずれの場合も、次に行なうMTSのモデリング(S23)を行なう必要から、S21では、追加分を含めて良品についての波形データを読み込む必要がある。上記の各モデリングにより求めた特徴量や異常検出モデル並びにファジィルールは、各データベース17,18,19に格納される。
【0105】
処理ステップS21からS23までを実行することで作成された1クラスSVMモデルとMTSモデルに従い、検査対象の製品から得られる波形データに基づく判別を行ない(S24)、判別結果の統合を行ない、検査結果の出力を行なう(S25)。
【0106】
すなわち、使用モデル選択部16は、異常検出部14,判定部15に対して調整段階モード、つまり、1クラスSVMとMTSの両方で動作するように設定している。これにより、特徴量抽出部13で抽出された代表特徴量は、異常検出部14に送られ、次元圧縮部14aにて次元圧縮された後、SVM処理部14bとMTS処理部14cの両方にデータが送られ、それぞれにおいて、1クラスSVMモデルに基づく乖離度並びにMTSモデルに基づく乖離度を求め、判定部15に送る。判定部15では、1クラスSVMとMTSの両方の乖離度に基づき、ファジィ推論処理を行ない(図10参照)、正常/異常の判断を行なう。本実施の形態では、図10を用いて説明した通り、処理ステップS24における各モデルでの判別処理と、それぞれの判別結果の統合処理をファジィ推論処理により一括して行なっているが、それぞれを別々に実行してももちろん良い。
【0107】
次いで、サンプルの蓄積を行なう(S26)。すなわち、処理ステップ24における検査対象の波形データを波形データベース11に格納する。このとき、判定結果(検査結果)も合わせて格納する。波形データの格納するタイミングは、上述した初期段階の場合と同様に各種のタイミングをとれる。
【0108】
そして、過去n個分のサンプルで1クラスSVMとMTSの判別結果に差異があるか否かを判断する(S27)。具体的には、ファジィ推論部15aで求めた推論結果がGRAYのものがあるか否かにより判断できる。GRAYが存在する場合には、差異があると判断される。なお、GRAYの判断の有無であるが、過去n個分のサンプルで1個でもGRAY判定のものが出た場合には差異があると判断するようにしても良いし、1個或いは所定数以下の場合には差異がないと判断するようにして良い。この判断は、使用モデル選択部16が行なう。
【0109】
差異がある場合には、処理ステップ21に戻り、上記した処理を繰り返し実行する。そして、差異が無くなったならば、図13に示す量産試作(調整段階)における異常判定処理(S20)が完了し、次の段階、つまり、量産(安定段階)における異常判定処理に移行する(S30)。なお、このフローチャートによれば、処理ステップ27の分岐判断でYesの場合には、処理ステップS21に戻るため、1つの波形データについての検査が行なわれる都度モデリングの再構築が行なわれるようになっている。但し、本発明はこれに限ることはなく、所定数分のサンプルの追加蓄積が行なわれるまではS24に戻るようにして、モデリングの再構築をすることなく検査を行なうようにしてもよい。
【0110】
量産段階は、取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態である。そこで、安定段階モデルとしてMTSモデルのみに基づく判定処理を行なう(S30)。
【0111】
具体的には、図16に示すフローチャートを実行する。すなわち、まず、良品のサンプルデータの追加読込を行なう(S31)。なお、調整段階の処理において、常に追加蓄積されたサンプルに基づいてMTSのモデルの再構築を繰り返し実行している場合には、S31の処理は特に設けなくても良い。そして、その追加されたサンプルデータを含めてそれまで収集した良品のサンプルデータ、つまり、多変量正規分布が形成された良品データでMTSのモデリングを行なう(S32)。そして、モデリングにより求めた特徴量や異常検出モデル並びにファジィルールは、各データベース17,18,19に格納される。以後、MTSモデルによる判別(異常判定)を行なう(S33)。
【0112】
図17は、本発明の第2の実施形態を示している。例えば工業製品が開発から生産へ移行する段階には、大まかに量産試作、量産がある。係る場合には、第1の実施の形態における初期試作(初期段階)による異常判定処理を無くし、量産試作(調整段階)における1クラスSVMとMTSを併用した異常判定処理を行ない(S20)、量産(安定段階)に移行したならば、MTSのみに基づく異常判定に切り替える(S30)。
【0113】
なお、それぞれの段階における具体的な処理フローは、第1の実施の形態に示したもの(図15,図16)と同様であるため、詳細な説明を省略する。また、この第2の実施の形態を第1の実施の形態のように初期試作(初期段階)から開発が開始されるものにおいて適用することも妨げない。
【0114】
図18,図19は、本発明の第3の実施形態を示している。すなわち、上記した各実施形態では、調整段階で1クラスSVMと、MTSの判定結果に差異があった場合には、GRAYの判定結果を出力するようにしている。このとき、GRAYの状態のままでも良いが、正常か異常かを人に判断させることで、より早く安定段階に移行するための具体的な処理機能を示している。
【0115】
具体的には、図18に示すように、まず、検査データの取得をし、特徴量抽出部13にて、特徴量の演算を行なう(S41)。次いで、求めた特徴量(代表特徴量)を1クラスSVMモデルと、MTSモデルに基づきでそれぞれ乖離度を求め、異常判定を行なう(S42)。係る処理は、図15における処理ステップS24と同等である。
【0116】
そして、1クラスSVMとMTSの判別結果に差異があるか否かを判断する(S43)。つまり、判定部15におけるファジィ推論部15aにて実行したファジィ推論結果がGRAYか否かを判断する。そして、一致している場合には、モデルの判別結果(正常/異常)を検査結果として処理を実行(S45)、つまり、検査結果をディスプレイに表示したり、波形データデータベース11に格納したりする。
【0117】
一方、両モデルに基づく判別結果に際があった場合には、判別結果とともに、検査員に正常か異常かの判断入力させる指示情報を出力する。この指示情報としては、例えば図19に示すような判断入力画面をディスプレイに表示することである。波形グラフの欄には、検査対処の波形データを波形データベース11や、一時記憶部手段等から読み出して出力する。また、この判断入力画面において、「再生ボタン」をクリックすると、波形グラフに表示された波形データに基づき、音声を再生・出力する。これにより、判断する人は、波形グラフや、再生した音に基づいて良品(正常)か、不良品(異常)かを判断し、「OK」ボタンか、「NG」ボタンのいずれかをクリックする。
【0118】
そこで、検査装置としては、処理ステップS44を実行し、指示情報を含む判断入力画面を表示したならば、判断入力が来るのを待ち(S46)、判断入力がされない場合には、所定処理(上記の例では、音声の再生等)を実行する(S48)。そして、正常/異常の判断が入力されたならば、その入力された判断結果を検査結果として処理を実行する(S47)。つまり、例えば、判断結果を修正表示したり、波形データベース11に登録する情報を更新したり、さらには、モデルの再構築を行なうなど各種の処理が実行される。特に、1クラスSVMの場合、良品の群の範囲外か否かにより判断されるため、このように人手による修正を適宜のタイミングで行なうことにより、良品の群の範囲が早期に超楕円に近づくことができる。
【0119】
また、上記した以外でも、例えば追加したサンプルについて、調整段階モデルと安定段階モデルで判別結果が異なった場合(同一のサンプルにも関わらず、一方が正常と判別し、もう一方が異常と判別したとき)などにおいても、上記と同様の仕組みを利用し人手による修正を行なうことができる。
【0120】
上記した実施形態の検査装置10は、異音騒音,組立てミス,出力特性の検査分野に適用できる。また、量産を行なうインラインでも、量産とは別に試作品の検査等を行なうオフラインにも適用できる。そして、より具体的には、本実施形態の検査装置10は、例えば、自動車のエンジン(音),トランスミッション(振動)などの自動車の駆動モジュールの検査機や、電動ドアミラー,電動パワーシート,電動コラム(ハンドルの位置合わせ)などの自動車のモータアクチュエーターモジュールの検査機としたり、上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置さらには開発中の試作機の評価装置として適用できる。
【0121】
また、冷蔵庫,エアコン室内外機,洗濯機,掃除機,プリンタなどのモータ駆動家電の検査機並びに上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置として適用できる。
【0122】
さらにまた、NC加工機,半導体プラント、食品プラントなど設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断機器として適用することもできる。これは、設備診断において従来は異常時のサンプルデータに基づいて異常有無の判定式(判定ルール)を作成することを既定事実・固定観念化していたのを、正常時のサンプルデータのみから正常か異常かを判定するようにしようとする考えである。設備機器を導入した直後は、通常、機器の調整をしながら(または操作パラメータの設定を調整・変更しながら)使用するので、「異常状態」は言わば不安定に発生するが、その異常状態はメンテナンスを行なったり機器の調整をうまくすることですることで、発生しなくすることができる。
【0123】
つまり、設備機器の稼動安定期になると異常状態のいくつかは解決策が施されて発生しなくすることができるのである。これは、設備機器の状態判別の「異常状態」のいくつかが発生しなくなるのと検査対象物の「不良品」のいくつかが発生しなくなるのとが類似した現象であることを意味しており、この発明を設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断装置として適用できることを意味する。この設備診断装置への適用時にあたって、「初期状態」は設備が安定して稼動する前の段階が該当する。また、異常種類知識については、設備機器の稼動が安定した後、設備機器自体の経年変化などに起因して、設備機器の中で定期的にメンテナンス調整が必要な箇所が判明するので、その異常状態(異常有りと異常種類との二つ)を特定して、その異常種類ごとのデータに基づいて異常判定知識を生成すればよい。異常判定知識のうち解決策が施されて発生しなくなれば、その異常種類の異常種類知識を削除し、削除した状態で判定処理をすればよい。
【0124】
また、設備は、プラントなどに限ったものではなく、車,飛行機などの乗り物を含み、さまざまな物品の状態判別を行なう診断機器として適用することもできる。例えば乗り物を例に挙げると、試作の段階にエンジン状態についての正常状態のデータのみに基づいて正常知識を生成する。試作時点で当然に異常となる状態が生じるが、異常状態のいくつかは試作改良で発生しなくなる。よって、試作の初期段階では、正常データのみから判定ルールを作成し、試作改良を進めて異常状態のいくつかを解決して発生しなくさせて完成に近づいた段階で、いくつかの異常種類が特定し、その異常状態のデータから異常種類知識を生成する。こうすることで、正常状態と特定の異常状態とを判定できるようになる。このように、試作段階からデータと知識とを蓄積して、正常知識と異常種類知識とを用いて正常か否かおよび異常種類のどれかを判定する診断機器をつくり、その診断機器を完成品として市場に出る車や飛行機に搭載して、エンジンの振動に基づいて正常と異常とを診断することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】ある製品(ワーク)の開発開始から、最終的な正常な量産ラインの立ち上げ完成までの段階(工程)と、各工程で得られる良品と、不良品のサンプルの関係を示す図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態を示す図である。
【図3】検査装置10の内部構成の一例を示す図である。
【図4】さらに詳細な内部構造を示す図である。
【図5】(a)はMTSの原理を説明する図であり、(b)は1クラスSVMの原理を説明する図である。
【図6】1クラスSVMを説明する図である。
【図7】1クラスSVMを説明する図である。
【図8】1クラスSVMを説明する図である。
【図9】初期段階の作用を説明する図である。
【図10】調整段階の作用を説明する図である。
【図11】安定段階の作用を説明する図である。
【図12】調整段階のファジィルールの一例を示す図である。
【図13】第1の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図14】初期段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図15】調整段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図16】安定段階の処理機能の一例を示すフローチャートである。
【図17】第2の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図18】第3の実施形態の概略構成を示すフローチャートである。
【図19】第3の実施形態の作用を示す図である。
【符号の説明】
【0126】
10 検査装置
11 波形データベース
12 異常検出モデル生成部
13 特徴量抽出部
14 異常検出部
14a 次元圧縮部
14b SVM処理部
14c MTS処理部
15 判定部
16 使用モデル選択部
17 特徴量パラメータデータベース
18 異常検出モデルデータベース
19 ファジィルールデータベース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて良否判定を実行することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて良否判定を実行することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
前記初期段階から前記調整段階への移行は、収集したサンプルの数が、少なくとも特徴量の数より多くなった場合に実行するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記調整段階から前記安定段階への移行は、前記調整段階における前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果が一致する割合が一定以上になった場合に行なうことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、前記検査装置は、人による判断結果の入力を待ち、入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVMを用いることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、
良品から得られた正常の計測データに基づいて生成されたモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、一方または両方を同時に実行可能とすると共に、その実行を制御する制御手段を備え、
その制御手段は、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行させ、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なうように制御し、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御することを特徴とする検査装置。
【請求項8】
前記制御手段は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御する機能をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
良品から得られた正常の計測データに基づいて異常検出のためのモデルを作成するモデル生成手段を備え、
前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、前記モデル生成手段により生成されたモデルに基づいて異常判定を行なうことを特徴とする請求項7または8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記モデル生成手段がモデルを生成する際に使用する前記正常の計測データは、検査対象の計測データが良品と判断された場合の当該計測データも含むものであることを特徴とする請求項9に記載の検査装置。
【請求項11】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、人による判断結果の入力を受け付けるための入力画面を表示する機能と、
その入力画面に基づき入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とする機能を備えたことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項12】
前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVMを用いることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項1】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて良否判定を実行することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、良品から得られた正常データに基づくモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行し、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行ない、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて良否判定を実行することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
前記初期段階から前記調整段階への移行は、収集したサンプルの数が、少なくとも特徴量の数より多くなった場合に実行するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記調整段階から前記安定段階への移行は、前記調整段階における前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果が一致する割合が一定以上になった場合に行なうことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、前記検査装置は、人による判断結果の入力を待ち、入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVMを用いることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
入力された検査対象の計測データに対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、
良品から得られた正常の計測データに基づいて生成されたモデルに従って異常判定を実行するもので、パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を備え、
前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、一方または両方を同時に実行可能とすると共に、その実行を制御する制御手段を備え、
その制御手段は、
取得できるサンプルデータが十分でない、あるいは、特徴空間における良品の分布形状が不安定であることにより、正常領域の形状の推定精度が不十分な状態の調整段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能を共に実行させ、両者の判定結果に基づいて最終の異常判定を行なうように制御し、
取得できるサンプルデータは十分であり、良品の分布や正常領域の形状が安定している状態の安定段階では、検査対象の計測データに対し、前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御することを特徴とする検査装置。
【請求項8】
前記制御手段は、取得できるサンプルデータが少なく、特徴空間における良品の分布や正常領域の形状が推定できない初期段階では、検査対象の計測データに対し、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能のみに基づいて異常判定を実行させるように制御する機能をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
良品から得られた正常の計測データに基づいて異常検出のためのモデルを作成するモデル生成手段を備え、
前記パラメトリック判別モデルによる異常判定する機能と、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、前記モデル生成手段により生成されたモデルに基づいて異常判定を行なうことを特徴とする請求項7または8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記モデル生成手段がモデルを生成する際に使用する前記正常の計測データは、検査対象の計測データが良品と判断された場合の当該計測データも含むものであることを特徴とする請求項9に記載の検査装置。
【請求項11】
前記調整段階において、前記ノンパラメトリック判別モデルによる異常判定結果と、前記パラメトリック判別モデルによる異常判定結果とが相違する場合、人による判断結果の入力を受け付けるための入力画面を表示する機能と、
その入力画面に基づき入力された判断結果をその検査対象の計測データについての最終の異常判定結果とする機能を備えたことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項12】
前記パラメトリック判別モデルにより異常判定する機能は、MTSを用い、前記ノンパラメトリック判別モデルにより異常判定をする機能は、1クラスSVMを用いることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−258535(P2006−258535A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74673(P2005−74673)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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