説明

業務支援方法、業務支援装置、及びプログラム

【課題】ユーザからの入力に応じて設備が故障した場合の損失を求めることができるようにする。
【解決手段】業務支援装置10が、ある時点において設備に故障が発生する確率を算出するための、設備の余寿命の分布の平均や標準偏差などの確率情報を記憶する。また、業務支援装置10は、ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を記憶する。業務支援装置10は、あらかじめ設定される事故コストのそれぞれについて、事故の発生確率に事故コストを乗じた第1のコストと、交換損失に事故の発生確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定する。業務支援装置10は、設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付け、交換時点に対応する最適時点を特定し、その故障損失を設備データベース15に登録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務支援方法、業務支援装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
新規設備投資の抑制などにより、既存の設備を有効活用することが求められており、設備の交換に係る最適化手法が数々提案されている。例えば、非特許文献1では、設備の故障コストとトレードオフの関係となる交換費用と故障コストとの和である総コストが最小になるように、設備の点検周期を決定する方法が示されている。
【非特許文献1】「経済性と信頼性を考慮した設備保全計画策定支援システムの開発」,電気学会研究会資料,PE-03-107,平成15年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電力設備などの故障にかかる被害が多大であるようなものについては、故障により発生する損失を見積もることは容易ではない。その一方で、業務経験を積んだベテランの技術者は、設備の交換時点を適切に評価していると考えられている。
【0004】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、ユーザからの入力に応じて設備が故障した場合の損失を求めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明のうち請求項1に記載の発明は、設備の交換業務を支援する方法であって、CPUとメモリとを備えるコンピュータが、ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を前記メモリに記憶し、ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を前記メモリに記憶し、あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定し、特定した前記最適時点を前記候補損失に対応付けて前記メモリに記憶し、前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付け、前記交換時点に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出し、読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて前記メモリに記憶することとする。
【0006】
本発明の業務支援方法によれば、故障損失を正確に見積もることができない場合であっても、ユーザが最適な設備の交換時点を判断しているものとして、ユーザからの交換時点の入力を受け付けることにより、故障損失を求めることができる。すなわち、ユーザによる設備の交換時点の判断を、故障損失として数値化することができる。これにより、設備の交換に関するユーザのノウハウを数値化してコンピュータに記憶させることができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記確率情報は、前記設備についての物理量を測定した場合の前記物理量の確率分布であることとする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記交換損失情報には、少なくとも、前記設備の導入価格、前記設備の原価償却費、金利、固定資産税率、及び前記設備の点検費の少なくともいずれかが含まれていることとする。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記コンピュータが、将来時点における価値を現在時点における価値に換算するための割引率を前記メモリに記憶し、前記候補損失と前記割引率とに基づいて算出される前記候補損失の現在価値に前記確率を乗じて前記第1のコストを算出し、前記交換損失と前記割引率とに基づいて算出される前記交換損失の現在価値に前記確率を乗じて前記第2のコストを算出することとする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記コンピュータは、前記メモリから、前記交換時点に最も近い前記最適時点に対応する前記候補損失を読み出すこととする。
【0011】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記コンピュータが、前記設備の入力を受け付け、受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出し、読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと、前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定し、特定した前記最適時点を出力装置に出力することとする。
この場合、コンピュータに記憶されている故障損失に基づいて最適時点を決定することができる。したがって、他のユーザによる交換時点の判断を、他のユーザの判断を数値化した故障損失を利用して再現することができる。よって、他のユーザが行った交換時点の判断を再現することが可能となる。すなわち、他のユーザから、設備の交換に関するノウハウの移転を行うことができる。
【0012】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の業務支援方法であって、前記設備はエネルギーの処理を行う設備であり、前記コンピュータは、前記交換時点とともに、前記設備により処理される第1のエネルギー量の入力を受け付け、前記故障損失を、前記設備と前記第1のエネルギー量と前記交換時点とに対応付けて前記メモリに記憶し、前記設備とともに、前記設備が処理する第2のエネルギー量の入力を受け付け、受け付けた前記設備に対応する前記故障損失及び前記第1のエネルギー量を前記メモリから読み出し、読み出した前記第1のエネルギー量に対する第2のエネルギー量の比に応じた値を前記故障損失に加算したコストに前記確率を乗じて前記第3のコストを算出することとする。
【0013】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の業務支援方法であって、前記コンピュータは、前記故障損失のそれぞれについて、前記所定期間における前記第1及び第2のコストの和のグラフをユーザインタフェースに表示し、前記ユーザインタフェースから前記交換時点の入力を受け付けることとする。
【0014】
また、請求項9に記載の発明は、設備の交換業務を支援する装置であって、ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を記憶する確率情報記憶部と、ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を記憶する交換損失記憶部と、あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定する最適時点特定部と、特定した前記最適時点を前記故障損失に対応付けて記憶する最適時点記憶部と、前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付ける交換時点入力部と、前記交換時点に対応する前記故障損失を前記最適時点記憶部から読み出す故障損失取得部と、読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて記憶する故障損失記憶部と、を備えることとする。
【0015】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の業務支援装置であって、前記設備の入力を受け付ける設備入力部を備え、前記設備損失取得部は、受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記故障損失記憶部から読み出し、前記最適時点特定部は、読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定し、特定した前記最適時点を出力装置に出力する最適時点取得部と、を備えることとする。
【0016】
また、請求項11に記載の発明は、設備の交換業務を支援するためのプログラムであって、CPUとメモリとを備えるコンピュータに、ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を前記メモリに記憶するステップと、ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を前記メモリに記憶するステップと、あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定するステップと、特定した前記最適時点を前記候補損失に対応付けて前記メモリに記憶するステップと、前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付けるステップと、前記交換時点に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出すステップと、読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて前記メモリに記憶するステップと、を実行させるようにする。
【0017】
また、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のプログラムであって、前記コンピュータに、前記設備の入力を受け付けるステップと、受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出すステップと、読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと、前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定するステップと、特定した前記最適時点を出力装置に出力するステップと、をさらに実行させるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ユーザからの入力に応じて設備が故障した場合の損失を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態である、電力会社において電力設備の交換時点を決定する技術者の支援を行う業務支援装置10について説明する。
【0020】
電力設備の交換に係る損失には、電力設備を交換しないうちに寿命に伴う事故が発生してしまうことによる損失(以下、継続損失という。)と、電力設備を寿命まで使いきらずに交換してしまうことによる損失(以下、交換損失という。)とがある。継続損失は、設備に事故が発生した場合にかかるコスト(以下、事故コストという。)の期待値である。また、交換損失は、交換時期のちがいにより発生し,経済比較期間(例えば,電力設備の法定耐用年数)にわたり電力設備にかかる実際の経費(減価償却費や固定資産税、点検費など)を積み上げて算出するコストの差額(以下、交換コストという。)の期待値である。したがって、電力設備の交換は継続損失と交換損失との和(以下、総損失という。)が最小になるような時点において行うことが望ましい。
【0021】
しかしながら、電力設備では事故が発生した場合にかかる事故コストが莫大であるために、一般に故障が発生する以前に交換が行われており、実際の故障率等を求めることができない。
【0022】
一方、従来、電力設備の交換時点は業務経験の豊富な、いわゆるベテラン技術者の経験に頼って判断されてきており、一般にベテラン技術者による判断は最適なものであると考えられている。そこで、本実施形態では、ベテラン技術者から交換時点の入力を受け付けることを想定して、受け付けた交換時点において総損失が最小となるような事故コストが設備の事故コストであると推定するようにしている。推定した事故コストはデータベースに登録され、次に設備の交換時点を求める際に、データベースから読み出され、その他経費などの情報とともに総損失の計算に用いられる。
【0023】
なお、本実施形態では、電力設備が故障する時点(余寿命)の確率分布を、電力設備についての物理量(例えば、油入変圧器の油中CO2+CO生成量から求まる絶縁紙の平均重合度や、真空しゃ断器のしゃ断電流としゃ断回数から求まる電極消耗量など)の変化から求めるようにし、電力設備の余寿命の確率分布から上記の継続損失や交換損失の期待値を求めるようにしている。このような設備の余寿命の推定に基づいて総損失の期待値を算出する仕組みについては、論文「絶縁診断による電力機器のファイルサイクル管理の検討」(電気学会論文誌、平成14年)に詳しい。
【0024】
図1に、本実施形態に係る業務支援装置10のハードウェア構成を示す。本実施形態の業務支援装置10は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータである。業務支援装置10は、図1に示すように、CPU101、メモリ102、記憶装置103、入力装置104、出力装置105を備えている。記憶装置103はプログラムやデータを記憶する、例えば、ハードディスクドライブやCD−ROMドライブなどである。CPU101は記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより各種の機能を実現する。入力装置104は、作業者からのデータの入力を受け付ける、例えば、タッチパネルやボタン、マイクロフォン、キーボード、マウスなどである。出力装置105は、データを出力する、例えば、ディスプレイやプリンタなどである。
【0025】
図2は、業務支援装置10の機能ブロック図である。同図に示すように、業務支援装置10は、コスト情報入力部111、総損失グラフ出力部112、交換時点入力部113、事故コスト算出部114、設備入力部115、事故コスト決定部116、交換時点算出部117、交換時点出力部118、設備データベース15を備えている。
【0026】
設備データベース15は、電力設備に関する情報(以下、設備情報という。)を記憶する。図3に設備情報の構成例を示す。同図に示すように、設備情報には、設備番号、設備の名称、設備の種別、処理電力、寿命平均、寿命標準偏差、新品コスト、割引率、残存価格率、固定資産税率、点検費、事故コストがふくまれている。
【0027】
設備番号は、設備に割り当てられている識別情報であり、処理電力は、設備が処理する電力量である。寿命平均、寿命標準偏差、新品コスト、割引率、残存価格率、固定資産税率、及び点検費は、設備の総損失を算出するための情報(以下、コスト情報という。)である。事故コストは、後述する処理によって総損失から求められる。
【0028】
寿命平均及び寿命標準偏差は、余寿命診断による設備の確率分布(確率密度関数)を求めるための情報である。本実施形態では、寿命平均を平均値とし、寿命標準偏差を標準偏差とした正規分布をH(t)とした場合、設備の寿命の確率密度関数h(t)は、次の式(1)により求められる。
【数1】

【0029】
新品コストは設備を購入した場合にかかる費用である。
【0030】
割引率は、将来の価値を現在の価値に換算するための値である。割引率をiとした場合に、将来時点nでの価値を現在の価値に換算するための現価換算係数k(t)は、次の式(2)によって求められる。
【数2】

【0031】
残存価格率は、設備の減価償却を行った際の残存価格を算出するための情報である。固定資産税率は、設備にかかる固定資産税を算出するための情報である。点検費は、設備の点検にかかる費用である。
【0032】
本実施形態では、時点tにおいて交換するときと寿命の直前まで使い切るときについて、各々、上記の新品コスト、残存価格率、固定資産税率、点検費から設備にかかる実際の経費(減価償却費や固定資産税、点検費など)を算出し、その差額を求めて交換コストLr(t)を算出するものとする。交換コストLr(t)を現在価値に換算し、余寿命の確率密度関数を乗じた値を設備の交換時点Tから∞まで積分した値が交換損失である。
【0033】
設備の交換損失は、次の式(3)により求められる。
【数3】

【0034】
コスト情報入力部111は、上述したコスト情報の入力を受け付ける。
総損失グラフ出力部112は、設備の交換時点Tを変化させた場合の総損失の推移のグラフを出力する。総損失グラフ出力部112は、入力されたコスト情報に基づいて、交換時点Tを、現在から、余寿命平均に余寿命標準偏差を加算した時点まで変化させた場合の各時点tにおける上記の交換損失を算出し、算出した交換損失と予め設定された事故コストとに基づいて総コストを算出していく。総損失グラフ出力部112は、このようにして算出した総損失のグラフを表示する。なお、本実施形態では、設備に事故が発生した場合にかかる事故コストLcは発生した時点にかかわらず一定であるものとする。
【0035】
本実施形態において、継続損失は事故コストに余寿命の確率密度関数h(t)と、現価換算係数k(t)とを乗じて次の式(4)により求められる。
【数4】

【0036】
また、総損失は継続損失と交換損失との和として算出することができる。したがって、総損失は次の式(5)により求めることができる。
【数5】

【0037】
交換時点入力部113は、利用者から設備の交換時点Tの入力を受け付ける。本実施形態では、ベテラン技術者が判断した設備の交換時点Tが入力されることを想定している。
【0038】
事故コスト算出部114は、入力された交換時点Tにおいて総損失が最小値をとるような事故コストを算出する。本実施形態では、予め設定された、いくつかの事故コストについて、各時点tにおける総損失を算出して総損失が最小となる時点tを特定しておき、特定した時点tが、入力された交換時点Tと最も近い事故コストを設備の事故コストとする。事故コスト算出部114は、上記のようにして求めた事故コストを、入力された設備に対応する設備データベース15の設備情報に設定する。
【0039】
設備入力部115は、設備の指定を受け付ける。
事故コスト決定部116は、指定された設備(以下、指定設備という。)に対応する事故コストを読み出し、事故コストが設定されていない場合には、指定された設備と同一の種別である設備(以下、候補設備という。)についての事故コストを取得する。また、事故コスト決定部116は、取得した事故コストを設備の処理電力に応じて調整する。なお、事故コストの調整処理の詳細については後述する。
【0040】
交換時点算出部117は、事故コスト決定部116が決定した事故コストなどに基づいて総損失を算出し、総損失が最小となる時点を交換時点として算出する。
交換時点出力部118は、算出した交換時点を出力する。
【0041】
以下、業務支援装置10が行う処理について説明する。まず業務支援装置10は、業務経験の豊富なベテラン技術者から設備の交換時点の入力を受け付けて、交換時点から事故コストを推定する。図4に、事故コストの推定処理の流れを示す。
【0042】
入力画面200は、電力設備の選択欄210、コスト情報の入力欄220、及び予め設定される事故コスト(以下、候補コストという。)を決定するための情報(以下、候補決定情報という。)の入力欄230を備えている。
【0043】
選択欄210から設備が選択され(S301)、入力欄220の各項目にコスト情報が入力され(S302)、候補決定情報が入力されると(S303)、業務支援装置10は、候補決定情報に基づいて候補コストを決定する(S304)。図5の例では、候補決定情報の入力欄230には、0〜100は10ずつ、150〜500は50ずつ増加させるようにする候補決定情報が入力されており、業務支援装置10は、0〜500までの19の候補コストを決定することになる。
【0044】
次に業務支援装置10は、決定した各候補コストLcについて、Tを変化させて、コスト情報及びLcに基づいて上記式(5)により求められる、Lcについての総損失のグラフを表示する(S305)。図5の例では、入力画面200のグラフ表示欄230に上記総損失が表示される。ここで、業務支援装置10は、例えば、Tの値を現在時点以降かつ、余寿命平均+余寿命標準偏差により求められる時点(以下、寿命限界点という。)以前の期間についてのグラフを表示するようにして、現実的に交換時点Tとなりうる期間のみのグラフが表示されるようにしてもよい。
【0045】
入力画面200のグラフ表示欄230には、交換時点Tを示す図形231が表示されており、ユーザは図形231をマウスで操作することにより、交換時点Tを入力する。交換時点Tが入力されると(S306)、業務支援装置10は、各候補コストLcについて、総損失が最低となる時点minTを算出する(S307)。なお、この時点minTは、現在時点以降、寿命限界点以前の期間において総損失が最低となる時点を求めるようにしてもよい。
【0046】
業務支援装置10は、上記のようにして求めたminTのうち、入力された交換時点Tに最も近いものを特定する(S308)。図5の例では、図形231が示す交換時点T=2017において、総損失が最小値232を取る事故コストLc=50が特定される。業務支援装置10は、特定したminTに対応するLcを設備の事故コストの推定値とする(S309)。業務支援装置10は、推定した事故コストを設備データベース15に登録し(S310)、入力画面200のグラフ表示欄230に図形233を表示して事故コストを表示する。
【0047】
上記のようにして、業務支援装置10は事故コストを推定し、推定した事故コストを設備データベース15に記憶することができる。したがって、電力設備のように実際に事故が発生することが少ないような設備であっても、ユーザから入力された交換時点から、事故コストを推定し、コスト管理を行うことが可能となる。
【0048】
また、本実施形態の業務支援装置10では、油入変圧器の絶縁紙の平均重合度や、真空しゃ断器の電極消耗量などの物理量を測定して電力設備の余寿命の確率分布を求めている。したがって、実際に故障を発生させることなく、事故コストの推定を行うことができる。よって、事故コストの推定にかかる手間や費用を抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態の業務支援装置10は、割引率を用いて将来の損失を現在価値に換算して評価している。したがって、より精度の高い事故コストの推定を行うことができる。よって、より効果的な設備の運用を行うことができる。
【0050】
事故コストが設備データベース15に登録されると、事故コストやコスト情報などに基づいて算出される総損失が最小となる時点を交換時点として算出することが可能となる。図6に交換時点を算出する処理の流れを示す。
【0051】
出力画面400は、電力設備の選択欄410、コスト情報の入力欄420、交換時点の表示欄430を備えている。
選択欄410から設備が選択されると(S321)、業務支援装置10は、選択された指定設備に対応する設備情報(以下、指定設備情報という。)を設備データベース15から読み出し(S322)、読み出した指定設備情報の事故コストに値が設定されているかどうかを判断する(S323)。指定設備情報の事故コストに値が設定されている場合には(S323:YES)、指定設備情報の事故コストをLcとする(S324)。
【0052】
一方、指定設備情報の事故コストに値が設定されていない場合には(S323:NO)、設備データベース15に登録されている設備情報のうち、指定設備情報の種別と種別が同一、かつ事故コストが設定されているもの(以下、他設備情報という。)を読み出す(S325)。業務支援装置10は、指定設備情報の処理電力を、他設備情報の処理電力で割った商を調整比率として(S326)、他設備情報の事故コストに調整比率を乗じて、Lcとする(S327)。
【0053】
業務支援装置10は、出力画面400の入力欄420からコスト情報の入力を受け付けて(S328)、受け付けたコスト情報及び、上述のようにして求めたLcに基づいて、Tを変化させて上述の式(5)より求められる総損失のグラフを表示する(S329)。図7の例では、出力画面400の表示欄430に総損失のグラフが表示される。
業務支援装置10は、上記の総損失が最小となる時点minTを求め(S330)、求めたminTを交換時点とし(S331)、交換時点を出力画面400の表示欄430に表示する(S332)。
【0054】
上記のようにして、業務支援装置10に電力設備の指定が行われると、設備データベース15に記憶されている事故コストを利用して、電力設備の交換時点が出力される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の業務支援装置10によれば、業務経験の豊富なベテラン技術者による設備の交換時点を決定するノウハウを、設備コストの事故コストという形で数値化を行うことができる。これにより、新米技術者は、ベテラン技術者のノウハウから抽出された事故コストを用いて総損失を算出して、具体的な数値から設備の交換時点を決定することができる。このように、技術者間での技術の伝承を、事故コストという具体的な数値により行うことが可能となる。よって、技術者間での技術の伝承を効率的かつ効果的に行うことが可能となる。
【0056】
また、本実施形態の業務支援装置10は、推定した事故コストに基づいて、設備の交換時点を算出することができる。したがって、事故コストを推定するために交換時点を入力したベテラン技術者のノウハウを簡単に再現することができる。よって、ベテラン技術者から他のユーザへの技術移転を容易に行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の業務支援装置10は、事故コストが設定されていない設備についても、同一の種別で処理する電力量が異なる設備についての事故コストが設定されていれば、電力設備が処理する電力量に応じて他の設備の事故コストを流用することができる。したがって、電力設備の数が多くなった場合などにも効率的に交換時点を算出することができる。よって、事故コストの推定処理にかかる処理負荷を低減することができるので、効率的に業務支援装置10を運用することができる。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0059】
例えば、本実施形態では、単独のコンピュータにより処理が行われるものとしたが、複数のコンピュータにより業務支援装置10が構成されるようにしてもよい。また、事故コストの推定や交換時点の算出処理をサーバ装置で行い、クライアント装置からサーバ装置にアクセスするような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態による業務支援装置10のハードウェア構成を示す図である。
【図2】業務支援装置10の機能ブロック図である。
【図3】設備情報の構成例を示す図である。
【図4】事故コスト推定処理の流れを示す図である。
【図5】事故コスト推定処理に用いられる入力画面200の一例を示す図である。
【図6】交換時点を算出する処理の流れを示す図である。
【図7】交換時点を算出する処理に用いられる出力画面400の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 業務支援装置
101 CPU
102 メモリ
103 記憶装置
104 入力装置
105 出力装置
111 コスト情報入力部
112 総損失グラフ出力部
113 交換時点入力部
114 事故コスト算出部
115 設備入力部
116 事故コスト決定部
117 交換時点算出部
118 交換時点出力部
15 設備データベース
200 入力画面
210 選択欄
220 入力欄
230 グラフ表示欄
231 図形
232 最小値
233 図形
400 出力画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の交換業務を支援する方法であって、
CPUとメモリとを備えるコンピュータが、
ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を前記メモリに記憶し、
ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を前記メモリに記憶し、
あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定し、
特定した前記最適時点を前記故障損失に対応付けて前記メモリに記憶し、
前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付け、
前記交換時点に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出し、
読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて前記メモリに記憶すること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記確率情報は、前記設備についての物理量を測定した場合の前記物理量の確率分布であること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項3】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記交換損失情報には、少なくとも、前記設備の導入価格、前記設備の原価償却費、金利、固定資産税率、及び前記設備の点検費の少なくともいずれかが含まれていること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項4】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記コンピュータが、
将来時点における価値を現在時点における価値に換算するための割引率を前記メモリに記憶し、
前記候補損失と前記割引率とに基づいて算出される前記候補損失の現在価値に前記確率を乗じて前記第1のコストを算出し、
前記交換損失と前記割引率とに基づいて算出される前記交換損失の現在価値に前記確率を乗じて前記第2のコストを算出すること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項5】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記コンピュータは、
前記メモリから、前記交換時点に最も近い前記最適時点に対応する前記候補損失を読み出すこと、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項6】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記コンピュータが、
前記設備の入力を受け付け、
受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出し、
読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと、前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定し、
特定した前記最適時点を出力装置に出力すること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項7】
請求項6に記載の業務支援方法であって、
前記設備はエネルギーの処理を行う設備であり、
前記コンピュータは、
前記交換時点とともに、前記設備により処理される第1のエネルギー量の入力を受け付け、
前記故障損失を、前記設備と前記第1のエネルギー量と前記交換時点とに対応付けて前記メモリに記憶し、
前記設備とともに、前記設備が処理する第2のエネルギー量の入力を受け付け、
受け付けた前記設備に対応する前記故障損失及び前記第1のエネルギー量を前記メモリから読み出し、
読み出した前記第1のエネルギー量に対する第2のエネルギー量の比に応じた値を前記故障損失に加算したコストに前記確率を乗じて前記第3のコストを算出すること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項8】
請求項1に記載の業務支援方法であって、
前記コンピュータは、
前記故障損失のそれぞれについて、前記所定期間における前記第1及び第2のコストの和のグラフをユーザインタフェースに表示し、
前記ユーザインタフェースから前記交換時点の入力を受け付けること、
を特徴とする業務支援方法。
【請求項9】
設備の交換業務を支援する装置であって、
ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を記憶する確率情報記憶部と、
ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を記憶する交換損失記憶部と、
あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定する最適時点特定部と、
特定した前記最適時点を前記故障損失に対応付けて記憶する最適時点記憶部と、
前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付ける交換時点入力部と、
前記交換時点に対応する前記故障損失を前記最適時点記憶部から読み出す故障損失取得部と、
読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて記憶する故障損失記憶部と、
を備えることを特徴とする業務支援装置。
【請求項10】
請求項9に記載の業務支援装置であって、
前記設備の入力を受け付ける設備入力部を備え、
前記設備損失取得部は、受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記故障損失記憶部から読み出し、
前記最適時点特定部は、読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定し、
特定した前記最適時点を出力装置に出力する最適時点取得部と、
を備えることを特徴とする業務支援装置。
【請求項11】
設備の交換業務を支援するためのプログラムであって、
CPUとメモリとを備えるコンピュータに、
ある時点において前記設備に故障が発生する確率を算出するための情報である確率情報を前記メモリに記憶するステップと、
ある時点において前記設備を交換した場合の損失である交換損失を算出するための情報である交換損失情報を前記メモリに記憶するステップと、
あらかじめ設定される、前記設備が故障した場合の損失である複数の故障損失のそれぞれについて、前記確率情報より求められる前記確率に前記故障損失を乗じた第1のコストと、前記交換損失情報より求められる前記交換損失に前記確率を乗じた第2のコストとを加算した和が、所定期間において最も小さくなる時点である最適時点を特定するステップと、
特定した前記最適時点を前記候補損失に対応付けて前記メモリに記憶するステップと、
前記設備を交換する時点である交換時点の入力を受け付けるステップと、
前記交換時点に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出すステップと、
読み出した前記故障損失を前記設備に対応付けて前記メモリに記憶するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記設備の入力を受け付けるステップと、
受け付けた前記設備に対応する前記故障損失を前記メモリから読み出すステップと、
読み出した前記故障損失に前記確率情報より求められる確率を乗じた第3のコストと、前記第2のコストとの和が、前記所定期間内において最も小さくなる前記最適時点を特定するステップと、
特定した前記最適時点を出力装置に出力するステップと、
をさらに実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−156799(P2007−156799A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350742(P2005−350742)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)