説明

極低温冷凍機の運転制御装置

【課題】極低温冷凍機の冷凍負荷の変動に対する追従性を高くするとともに、定常運転時の消費電力を低減する。
【解決手段】JT冷媒回路の一部が被冷却体の冷却保持用の液体ヘリウムを貯溜するポット(Ph)内に開放されたJT冷凍機(31)を有する極低温冷凍機(R)において、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数を可変とし、ポット(Ph)内の液体ヘリウムの液面に応じて、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数と、JT弁(38)の開度と、JT冷媒回路におけるJT高圧とを制御する。冷凍機(R)の冷凍能力の最小から最大までの範囲を大きくし、その最小の冷凍能力での定常運転により、消費電力を低減するとともに、最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、冷凍機の運転モードを拡大し、冷凍負荷の増大に短時間で応答して冷凍能力を増大させ、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被冷却体を極低温レベルに冷却するための液化冷媒を貯溜する冷媒タンクに対し、その冷媒タンク内で蒸発した冷媒を冷媒回路内に吸い込んで圧縮及び膨張により液化してタンク内に戻すようにした極低温冷凍機の運転制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の極低温冷凍機として、例えば被冷却体である超電導磁石(その超電導コイル)を冷却保持するためのものが知られている。この超電導磁石においては、コイルに用いる超電導体をその臨界温度以下に冷却保持するために液体ヘリウムタンク内に貯溜した液体ヘリウム(冷媒)を用い、冷凍負荷の上昇によって液体ヘリウムがタンク内で蒸発すると、この蒸発したヘリウムガスを冷却凝縮させて液化する目的で極低温冷凍機が使用される。
【0003】
このような極低温冷凍機の運転を制御する制御装置として、従来、例えば特許文献1に示されるように、ヘリウムガスを圧縮する圧縮機の運転周波数を可変とし、冷媒回路に対しヘリウムガスを給排するバッファタンクの内圧を検出して、その内圧が所定以下に下がったときに圧縮機の運転周波数を低下させて冷凍能力の低下により、冷媒の液化の進行を抑制しかつバッファタンクの内圧低下を抑える一方、圧縮機から膨張手段へ至る高圧配管を閉鎖して冷媒流量を0とし、冷媒タンク内の圧力上昇を防止し、よって冷媒タンクの内圧上昇を招くことなく圧縮機の運転周波数を下げて冷凍機の冷凍能力を低下させるようにしたものが提案されている。
【0004】
また、この他、特許文献2に示されるものでは、並列に接続された圧縮機を有するJT冷媒回路を備え、その圧縮機の運転周波数を制御するようになされている。
【特許文献1】特開2001−12813号公報
【特許文献2】特開平10−238889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、例えば半導体の製造設備では、超電導磁石を用いた電力貯蔵装置(蓄電装置)を備え、例えば落雷による短時間の電圧低下(瞬低)や電力の供給停止(瞬時停電)が発生した際に、電力貯蔵装置からの電力によって電力供給をバックアップすることが行われている。
【0006】
しかし、上記従来の特許文献1のものでは、冷媒回路に対するバッファタンク内との冷媒ガスの給排を制御するものであるので、上記のように瞬低に対し電力貯蔵装置から電力を供給し、それに伴い冷凍負荷が増大して液体ヘリウムタンク内の液面が低下した場合に、その液面が安定するまでに時間がかかり、液面安定の応答性(負荷追従性)が悪いという難がある。
【0007】
また、年間を通してみると、落雷による瞬低の頻度は極めてまれであり、それが生じない時間の方が遥かに長いものの、その大半の時間も冷凍機の運転を停止するわけにはいかず、瞬低のために冷凍機を運転し続けておく定常運転が必要である。従って、この冷凍機の長時間に亘る定常運転に対してその省電力化が望まれている。
【0008】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、極低温冷凍機の運転制御に改良を加えることで、その冷凍機の冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くするとともに、定常運転時の消費電力を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、被冷却体の負荷特性に応じて圧縮機の運転周波数、ジュール・トムソン(以下、JTという)回路の高圧側冷媒圧力、JT膨張手段の開度等を制御するようにした。
【0010】
具体的には、請求項1の発明では、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(4),(8)と、この圧縮機構(4),(8)、及び該圧縮機構(4),(8)からの高圧ガスを膨張させるJT膨張手段(38)を接続したJT冷媒回路を有し、このJT冷媒回路の一部が、被冷却体を冷却保持する液冷媒を貯溜する冷媒タンク(Ph)内に開放されたJT冷凍機(31)と、上記JT冷凍機(31)の冷媒回路における冷媒を予冷する予冷冷凍機(22)とを備えた極低温冷凍機を前提とする。
【0011】
そして、上記圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する運転周波数可変の低段圧縮機(4)と、この低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなるものとする。
【0012】
また、上記被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、上記圧縮機構(4),(8)からJT冷媒回路のJT膨張手段(38)に至る冷媒圧力を調整するJT圧力調整手段(20)とを設ける。
【0013】
さらに、上記冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、上記低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数と、上記JT膨張手段(38)の開度と、JT圧力調整手段(20)による冷媒圧力とを制御する制御手段(54)を設ける。
【0014】
上記の構成によれば、冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて制御手段(54)により、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数、JT膨張手段(38)の開度、並びにJT圧力調整手段(20)による冷媒圧力(JT高圧)が制御され、例えば冷凍負荷が増大すると、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数が上昇し、JT膨張手段(38)の開度が大きくなり、JT圧力調整手段(20)による冷媒圧力が高くなるように、一方、冷凍負荷が下がったときには、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数が低下し、JT膨張手段(38)の開度が小さくなり、JT圧力調整手段(20)による冷媒圧力が低くなるように、それぞれ制御される。
【0015】
そして、これら4種類の要素を可変とすることで、冷凍機の冷凍能力の最小から最大までの範囲を大きくすることができ、定常運転時には最小の冷凍能力で運転することにより、消費電力を低減することができる。
【0016】
また、冷凍負荷の増大時には、最小能力から最大能力に一気に運転状態を変更すれば、その最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、冷凍機の運転モードを拡大でき、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くすることができる。
【0017】
請求項2の発明では、上記請求項1の発明の前提と同様の極低温冷凍機において、圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する運転周波数可変の低段圧縮機(4)と、この低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなるものとする。
【0018】
また、被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、この冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数を制御する制御手段(54)とを設ける。
【0019】
この構成によると、冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて制御手段(54)により、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数が制御され、例えば冷凍負荷が増大すると、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数が上昇するように、一方、冷凍負荷が下がったときには、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数が低下するように、それぞれ制御される。
【0020】
この発明においても、上記低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数を可変とすることで、冷凍機の冷凍能力の最小から最大までの範囲を大きくし、定常運転時には最小の冷凍能力で運転することにより、消費電力を低減することができるとともに、冷凍負荷の増大時には、最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、冷凍機の運転モードを拡大して、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くすることができる。
【0021】
請求項3の発明では、請求項1の発明の前提と同様の極低温冷凍機において、圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する低段圧縮機(4)と、この低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなるものとする。
【0022】
また、被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、この冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、高段圧縮機(8)の運転周波数を制御する制御手段(54)とを設ける。
【0023】
この構成によると、冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて制御手段(54)により、高段圧縮機(8)の運転周波数が制御され、例えば冷凍負荷が増大すると、高段圧縮機(8)の運転周波数が上昇するように、一方、冷凍負荷が下がったときには、高段圧縮機(8)の運転周波数が低下するように、それぞれ制御される。
【0024】
この発明においても、高段圧縮機(8)の運転周波数を可変とすることで、冷凍機の冷凍能力の最小から最大までの範囲を大きくし、定常運転時には最小の冷凍能力で運転することにより、消費電力を低減することができるとともに、冷凍負荷の増大時には、最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、冷凍機の運転モードを拡大して、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くすることができる。
【0025】
請求項4の発明では、上記冷却負荷検出手段は、被冷却体の負荷特性として、冷媒タンク(Ph)内に貯溜された液冷媒の液面、冷媒タンク(Ph)内の圧力、冷媒タンク(Ph)内の温度の少なくとも1つを検出するものとする。このことで、被冷却体の負荷特性が具体的にかつ容易に得られる。
【0026】
請求項5の発明では、被冷却体は、電力貯蔵設備(蓄電設備)に用いられる超電導磁石であり、冷媒タンク(Ph)内に貯溜された液冷媒が上記超電導磁石を臨界温度以下に冷却するように構成されているものとする。こうすれば、本発明の効果が有効に発揮される好適な被冷却体が得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明のように、請求項1の発明では、JT冷媒回路の一部が被冷却体の冷却保持用の液冷媒を貯溜する冷媒タンク内に開放されたJT冷凍機を有する極低温冷凍機において、圧縮機構を運転周波数可変の低段及び高段圧縮機とで構成し、被冷却体の負荷特性に応じて、低段及び高段圧縮機の運転周波数と、JT膨張手段の開度と、JT冷媒回路におけるJT膨張手段に至る冷媒圧力とを制御するようにした。また、請求項2の発明では、被冷却体の負荷特性に応じて、低段及び高段圧縮機の運転周波数を制御するようにした。さらに、請求項3の発明では、被冷却体の負荷特性に応じて、高段圧縮機のみの運転周波数を制御するようにした。従って、これら発明によると、冷凍機の冷凍能力の最小から最大までの範囲を大きくし、その最小の冷凍能力での定常運転により、消費電力を低減することができるとともに、最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、主に液化量を増加する効果を有する請求項3の発明、冷媒タンクの内圧を調整できる請求項2の発明、及び、それらの追従性をより高くできる請求項1の発明により、冷凍負荷の増大変動状況により冷凍機の運転モードが拡大し、追従性を高めることができる。
【0028】
請求項4の発明によれば、被冷却体の負荷特性として、冷媒タンク内に貯溜された液冷媒の液面、冷媒タンク内の圧力、冷媒タンク内の温度の少なくとも1つを検出するようにしたことにより、被冷却体の負荷特性が具体的にかつ容易に得られる。
【0029】
請求項5の発明によると、被冷却体は、電力貯蔵設備に用いられる超電導磁石で、この超電導磁石を冷媒タンク内の液冷媒により臨界温度以下に冷却するようにしたことにより、本発明の効果が有効に発揮される好適な被冷却体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係る極低温冷凍機の運転制御装置の全体構成を示す。(R)は、例えば半導体製造工場等の電力貯蔵設備に具備される図外の超電導磁石(詳しくはその超電導コイル)に極低温レベルの寒冷を付与するための極低温冷凍機で、液体ヘリウム(冷媒)を貯溜する液体ヘリウムポット(Ph)(冷媒タンク)に設けられており、このヘリウムポット(Ph)内の液体ヘリウムにより超電導磁石(超電導コイル)が臨界温度以下の極低温レベルに冷却保持される。
【0032】
冷凍機(R)は圧縮機ユニット(1)と真空デュワー(D)内に配置された冷凍機ユニット(21)とからなる。上記圧縮機ユニット(1)には、低圧ガス吸入口(2)に接続された低圧配管(3)内の低圧ヘリウムガスを吸い込んで圧縮する運転周波数可変のインバータ式低段圧縮機(4)と、この低段圧縮機(4)から吐出されたヘリウムガスを、中間圧ガス吸入口(6)に接続された中間圧配管(7)内の中間圧のヘリウムガスと共に吸い込んでさらに高圧に圧縮する運転周波数可変のインバータ式高段圧縮機(8)と、この高段圧縮機(8)から吐出された高圧ヘリウムガスから圧縮機潤滑用の油を分離する油分離器(9)と、この油分離器(9)から吐出された高圧ヘリウムガスから不純物を吸着除去するアドソーバ(12)(吸着器)とが配設され、このアドソーバ(12)の吐出側は予冷用高圧配管(13)を介して予冷用高圧ガス吐出口(14)に接続されている。上記低段圧縮機(4)は第1インバータ(51)の出力を受けて、また高段圧縮機(8)は第2インバータ(52)の出力を受けてそれぞれ運転周波数を可変とするようになっており、これら低段及び高段圧縮機(4),(8)によりヘリウムガスを圧縮する圧縮機構が構成されている。(10)は油分離器(9)で分離された油を中間圧配管(7)を介して高段圧縮機(8)の吸入側に戻す油戻し管である。
【0033】
上記予冷用高圧配管(13)には第1及び第2の2本のJT用高圧配管(15a),(15b)が並列に分岐接続され、これらJT用高圧配管(15a),(15b)は下流端で集合された後にJT用高圧ガス吐出口(16)に接続されている。上記第1JT用高圧配管(15a)には絞り固定式の第1JT高圧調整弁(V1)と、この第1JT高圧調整弁(V1)の高圧ガス吐出口(16)側に電磁弁からなる第1開閉弁(AV1)とが配設されている。一方、第2JT用高圧配管(15b)には同様の第2JT高圧調整弁(V2)と第2開閉弁(AV2)とが配設され、第2JT高圧調整弁(V2)の開度は第1JT高圧調整弁(V1)よりも小さく設定されている。この実施形態では、上記第1及び第2JT高圧調整弁(V1),(V2)並びに第1及び第2開閉弁(AV1),(AV2)により、圧縮機(4),(8)からJT弁(38)へ至るヘリウムガスの圧力(以下の説明ではJT高圧ともいう)を調整するJT圧力調整機構(20)(JT圧力調整手段)が構成され、第1開閉弁(AV1)を開きかつ第2開閉弁(AV2)を閉じて第1JT用高圧配管(15a)を冷媒回路としたときには、ヘリウムガスの流量を多くしてJT弁(38)に至るヘリウムガスの圧力(JT高圧)を高くする一方、第1開閉弁(AV1)を閉じかつ第2開閉弁(AV2)を開いて第2JT用高圧配管(15b)を回路に用いたときには、ヘリウムガスの流量を少なくしてJT高圧を減圧するようになっている。
【0034】
さらに、(Tb)はヘリウムガスを所定圧力で貯蔵するバッファタンクで、このバッファタンク(Tb)にはヘリウムガス給排配管(17)の一端部が接続されている。このヘリウムガス給排配管(17)の他端側はヘリウムガス供給配管(18)とヘリウムガス戻し配管(19)とに分岐され、ヘリウムガス供給配管(18)の端部は、上記低段圧縮機(4)の吸込側と低圧ガス吸入口(2)との間の低圧配管(3)に接続されている。ヘリウムガス供給配管(18)は途中で2つの分岐配管(18a),(18b)に並列に分岐され、一方の分岐配管(18a)には第1低圧制御弁(LPR1)が、また他方の分岐配管(18b)には、第1低圧制御弁(LPR1)よりも流量(開度)の小さい第2低圧制御弁(LPR2)がそれぞれ配設されている。これらの各低圧制御弁(LPR1),(LPR2)は、低圧配管(3)(液体ヘリウムポット(Ph)の内圧)でのヘリウムガスの圧力が設定圧以下に低下したときにそれをパイロット圧として自動的に開くもので、この低圧制御弁(LPR1),(LPR2)の開弁に伴いバッファタンク(Tb)内のヘリウムガスが低圧配管(3)(冷媒回路)に供給される。
【0035】
一方、ヘリウムガス戻し配管(19)の端部は、上記JT用高圧配管(15a),(15b)の分岐部とアドソーバ(12)との間の予冷用高圧配管(13)に接続され、このヘリウムガス戻し配管(19)の途中には高圧制御弁(HPR)が配置されている。この高圧制御弁(HPR)は、予冷用高圧配管(13)(JT用高圧配管(15a),(15b))でのヘリウムガスの圧力が設定圧以上に上昇したときにそれをパイロット圧として自動的に開くもので、この高圧制御弁(HPR)の開弁により予冷用高圧配管(13)及びJT用高圧配管(15a),(15b)(冷媒回路)のヘリウムガスがバッファタンク(Tb)内に戻される。
【0036】
これに対し、上記冷凍機ユニット(21)には、圧縮機ユニット(1)の高段圧縮機(8)に対し閉回路に接続された予冷冷凍機(22)(膨張機)と、低段圧縮機(4)及び高段圧縮機(8)に対し直列に接続されたJT冷凍機(31)とが設置されている。上記予冷冷凍機(22)は、GM(ギフォード・マクマホン)サイクルの冷凍機で構成されていて、JT冷凍機(31)におけるヘリウムガス(冷媒)を予冷するためにヘリウムガスを圧縮及び膨張させる。この予冷冷凍機(22)は上記真空デュワー(D)の外部に配置される密閉円筒状のケース(23)と、このケース(23)に連設された大小2段構造のシリンダ(24)とを有する。上記ケース(23)には上記圧縮機ユニット(1)の予冷用高圧ガス吐出口(14)に連絡配管(25)を介して接続される高圧ガス入口(26)と、同中間圧ガス吸入口(6)に連絡配管(27)を介して接続される低圧ガス出口(28)とが開口されている。一方、シリンダ(24)は真空デュワー(D)の側壁を貫通してその内部に延びており、その大径部(24a)の先端部は所定温度レベルに冷却保持される第1ヒートステーション(29)に、また小径部(24b)の先端部は上記第1ヒートステーション(29)よりも低い温度レベルに冷却保持される第2ヒートステーション(30)にそれぞれ形成されている。
【0037】
すなわち、図示しないが、シリンダ(24)内には、上記各ヒートステーション(29),(30)に対応する位置にそれぞれ膨張空間を区画形成するフリータイプのディスプレーサ(置換器)が往復動可能に嵌挿されている。一方、上記ケース(23)内には、回転する毎に開閉するロータリバルブと、該ロータリバルブを駆動するバルブモータとが収容されている。ロータリバルブは、上記高圧ガス入口(26)から流入したヘリウムガスをシリンダ(24)内の各膨張空間に供給し、又は各膨張空間内で膨張したヘリウムガスを低圧ガス出口(28)から排出するように切り換わる。そして、このロータリバルブの開閉により高圧ヘリウムガスをシリンダ(24)内の各膨張空間でサイモン膨張させて、その膨張に伴う温度降下により極低温レベルの寒冷を発生させ、その寒冷をシリンダ(24)における第1及び第2ヒートステーション(29),(30)にて保持する。つまり、予冷冷凍機(22)では、高段圧縮機(8)から吐出された高圧のヘリウムガスを断熱膨張させてヒートステーション(29),(30)の温度を低下させ、JT冷凍機(31)における後述の予冷器(36),(37)を予冷するとともに、膨張した低圧ヘリウムガスを高段圧縮機(8)に戻して再圧縮するようになされている。
【0038】
一方、上記JT冷凍機(31)は、約4Kレベルの寒冷を発生させるためにヘリウムガスをジュール・トムソン膨張させる冷凍機であって、この冷凍機(31)は上記真空デュワー(D)内に配置された第1〜第3のJT熱交換器(32)〜(34)を備えている。この各JT熱交換器(32)〜(34)は1次側及び2次側をそれぞれ通過するヘリウムガス間で互いに熱交換させるもので、第1JT熱交換器(32)の1次側は圧縮機ユニット(1)のJT用高圧ガス吐出口(16)に連絡配管(35)を介して接続されている。また、第1及び第2のJT熱交換器(32),(33)の各1次側同士は、上記予冷冷凍機(22)におけるシリンダ(24)の第1ヒートステーション(29)外周に配置した第1予冷器(36)を介して接続されている。同様に、第2及び第3JT熱交換器(33),(34)の各1次側同士は、第2ヒートステーション(30)外周に配置した第2予冷器(37)を介して接続されている。さらに、上記第3JT熱交換器(34)の1次側は、高圧のヘリウムガスをジュール・トムソン膨張させるJT膨張手段としてのJT弁(38)に接続されている。このJT弁(38)は真空デュワー(D)外側に配置したステッピングモータ等のアクチュエータ(39)の駆動により操作ロッド(38a)を介して開度が調整される。上記JT弁(38)は、液体ヘリウム戻し配管(40)を介してヘリウムポット(Ph)内に連通されている。また、このヘリウムポット(Ph)内は、ヘリウムガス吸入配管(41)を介して上記第3JT熱交換器(34)の2次側に接続されている。そして、この第3JT熱交換器(34)の2次側は第2JT熱交換器(33)の2次側を経て第1JT熱交換器(32)の2次側に接続され、この第1JT熱交換器(32)の2次側は連絡配管(42)を介して圧縮機ユニット(1)の低圧ガス吸入口(2)に接続されている。
【0039】
すなわち、JT冷凍機(31)は連絡配管(35),(42)、低圧配管(3)、両圧縮機(4),(8)及びJT用高圧配管(15a),(15b)に対し直列に接続された冷媒回路をなし、その冷媒回路の一部が液体ヘリウム戻し配管(40)及びヘリウムガス吸入配管(41)を介してヘリウムポット(Ph)内に開放されており、ポット(Ph)内で蒸発したヘリウムガスをガス吸入配管(41)から冷媒回路に吸い込んで第3〜第1JT熱交換器(34)〜(32)の各2次側を通して低段及び高段圧縮機(4),(8)に吸入圧縮する。また、この高段圧縮機(8)により圧縮された高圧ヘリウムガスを第1〜第3のJT熱交換器(32)〜(34)において、圧縮機(4)側に向かう低温低圧のヘリウムガスと熱交換させるとともに、第1及び第2予冷器(36),(37)でそれぞれシリンダ(24)の第1及び第2ヒートステーション(29),(30)により予冷した後、JT弁(38)でジュール・トムソン膨張させて約4Kの液状態のヘリウムとなし、この液体ヘリウムを液体ヘリウム戻し配管(40)を経由してポット(Ph)内に戻すようになされている。
【0040】
上記各圧縮機(4),(8)のインバータ(51),(52)、第1及び第2開閉弁(AV1),(AV2)、予冷冷凍機(22)のバルブモータ、並びにJT弁(38)のアクチュエータ(39)は、制御装置(54)からの制御信号を受けて制御される。また、上記液体ヘリウムポット(Ph)には、内部に貯溜された液体ヘリウムの液面を検出する第1〜第3の3つの液面センサ(55)〜(57)が取り付けられ、これら液面センサ(55)〜(57)は、被冷却体である超電導磁石の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段を構成している。第1及び第2液面センサ(55),(56)は共に制御用のもので、いずれもセンサ(55),(56)に一定電流を流してその電圧を調整する調整器(58)に接続され、この調整器(58)の信号が高段圧縮機(8)の第2インバータ(52)と制御装置(54)とに入力されている。これら液面センサ(55),(56)と調整器(58)との間には、制御装置(54)からの切換信号に応じて切り換わる2つの切換スイッチ(59),(60)を有するスイッチ装置(61)が接続されており、この切換信号に応じて切換スイッチ(59),(60)を切り換えることで、第1又は第2液面センサ(55),(56)の一方(第1液面センサ(55)を主とし、第2液面センサ(56)は予備としている)を調整器(58)及び制御装置(54)に接続するようにしている。一方、上記第3液面センサ(57)は液面検知用のもので、この第3液面センサ(57)の信号は直接に制御装置(54)に入力されるようになっている。
【0041】
さらに、(63)は上記ヘリウムガス給排配管(17)内の圧力(バッファタンク(Tb)の内圧BPSを検出するバッファタンク圧センサで、この検出信号も制御装置(54)に入力されている。
【0042】
また、上記各インバータ(51),(52)及び制御装置(54)には、半導体製造工場等において瞬間的に電圧低下したときの瞬低信号が入力されている。
【0043】
そして、制御装置(54)においては、冷却負荷検出手段としての上記第1液面センサ(55)(又は第2液面センサ(56))により検出された液体ヘリウムの液面(被冷却体の負荷特性)に応じて、上記インバータ(51),(52)による低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数と、上記アクチュエータ(39)によるJT弁(38)の開度と、JT圧力調整機構(20)における開閉弁(AV1),(AV2)の開閉切換えによる冷媒圧力(JT高圧)とを制御するようになっている。
【0044】
具体的に、上記制御装置(54)で行われる制御動作について説明する。制御の基本的な流れは図2に示すメインルーチンに沿って行う。最初のステップS1で初期設定をした後にステップS2に移行してクールダウン運転モードのルーチンを行い、次いでステップS3のセンサチェックのルーチンに進み、ステップS4において、第3液面センサ(57)により検出された液面検知レベルが液面制御開始点X1以上にあるかどうかを判定する。
【0045】
上記液面制御開始点X1は、図7に示すように、冷凍機(R)の運転時に定常運転での制御範囲とクールダウン運転とを切り換えるための液面レベルであり、液面が液面制御開始点X1以上のときに液面の制御を、また液面制御開始点X1よりも低いときにクールダウン運転をそれぞれ行う。上記液面のレベルには、この他、液面制御開始点X1よりも高い制御目標レベルXと、この制御目標レベルXよりも高い高圧制御弁回路切換点X3と、この高圧制御弁回路切換点X3及び制御目標レベルXの間に位置する液面オーバー警報出力点X2と、制御目標レベルX及び液面制御開始点X1の間に位置する高圧制御弁回路切換復帰点X4とが設定されている。
【0046】
そして、上記液面検知レベルが液面制御開始点X1よりも低くてステップS4の判定がOFFであるときには、ステップS2に戻ってクールダウン運転モードを行う。一方、液面検知レベルが液面制御開始点X1以上でステップS4の判定がONであるときには、ステップS5に進んで液面制御のルーチンを実行する。その後、ステップS6において、上記瞬低信号が入力されたかどうかを判定し、ここで瞬低信号ONと判定されたときには、半導体製造工場等において瞬間的に電圧低下が発生した状態であるので、ステップS7の瞬低補償運転モードに移行する。これに対し、上記ステップS6の判定が瞬低信号OFFのときには、ステップS8において冷凍機(R)の停止信号が入力されたかどうかを判定し、この判定が停止信号OFFのときには、上記ステップS3に戻るが、停止信号音のときには、制御を終了する。
【0047】
上記メインルーチンにおけるステップS2のクールダウン運転モードのルーチンでは、図3に示すように、まず、ステップS11において高段圧縮機(8)を例えば60Hzで運転するようにその第2インバータ(52)を制御し、次のステップS12において低段圧縮機(4)をも例えば60Hzで運転するように第1インバータ(51)を制御した後にリターンする。
【0048】
また、メインルーチンにおけるステップS3のセンサチェックのルーチンでは、図4に示すように、最初のステップS21で第1液面センサ(55)の出力値PS1が最大規制値PSHと最小規制値PSLとの間にあるかどうかをチェックし、このチェックがOKのときにはそのままリターンする。一方、判定がNGのときには、第1液面センサ(55)が異常であると判定して、ステップS22に進み、第1液面センサ(55)の異常を出力するとともに、ステップS23において切換スイッチ(59),(60)の切換えにより調整器(58)及び制御装置(54)が第2液面センサ(56)に接続されるように切り換える。次のステップS24では、この切り換えた第2液面センサ(56)の出力値PS2が最大規制値PSHと最小規制値PSLとの間にあるかどうかをチェックし、このチェックがOKのときにはそのままリターンする。一方、判定がNGのときには、第2液面センサ(56)も異常であると判定して、ステップS25に進み、第2液面センサ(56)の異常を出力するとともに、ステップS26において、バッファタンク圧センサ(63)の出力からバッファタンク(Tb)の内圧をチェックし、ステップS27においてバッファタンク内圧BPSが最大規制値BPSHと最小規制値BPSLとの間にあるかどうかを判定する。この判定がOKであるときには、ステップS28において第1及び第2液面センサ(55),(56)が共に異常であるので、冷凍機(R)の運転を停止する。一方、ステップS27の判定がNGのときには、圧力異常状態と判定して、ステップS29で圧力異常信号を出力するとともに、ステップS30において圧縮機(4),(8)の異常と見倣して運転を停止する。
【0049】
さらに、メインルーチンにおけるステップS5の液面制御のルーチンでは、図5に示すように、ステップS41において上記調整器(58)の出力に応じて高段圧縮機(8)の運転周波数を例えば40〜50Hzとなるように第2インバータ(52)を制御するとともに、低段圧縮機(4)を例えば50Hzで運転するように第1インバータ(51)を制御する。次のステップS42では、液面検知レベルが液面オーバー警報出力点X2以上にあるかどうかを判定し、この判定がON(YES)であるときには、ステップS43において外部に警報を出力した後に、また判定がOFF(NO)であるときにはそのまま、それぞれステップS44に進む。このステップS44では、今度は液面検知レベルが高圧制御弁回路切換点X3以上にあるかどうかを判定し、この判定がOFF(NO)であるときには、ステップS45において、第1開閉弁(AV1)が閉じかつ第2開閉弁(AV2)が開いていて、高段圧縮機(8)からJT弁(38)に流れる高圧ヘリウムガスが第2JT用高圧配管(15b)の第2JT高圧調整弁(V2)を通る状態に切り換えられているかどうかを判定し、この判定がOFF(NO)のときにはそのままリターンする。
【0050】
上記ステップS44の判定がON(YES)であるときには、ステップS45において第1開閉弁(AV1)をそれまでの開き状態から閉じかつ第2開閉弁(AV2)をそれまでの閉じ状態から開くことで、高段圧縮機(8)からJT弁(38)に流れる高圧ヘリウムガスが、第1JT用高圧配管(15a)の第1JT高圧調整弁(V1)からそれよりも開度の小さい、第2JT用高圧配管(15b)の第2高圧調整弁(V2)を通るように切り換える。このことで、JT弁(38)に流れるヘリウムガスの流量を低下させて、JT弁(38)に至るヘリウムガスの高圧を減圧するようにしている。
【0051】
上記ステップS46の後は、上記ステップS45の判定がON(YES)のときと共にステップS49に進み、JT弁(38)の開度を制御する。次いで、ステップS47において、液面検知レベルが高圧制御弁回路切換復帰点X4以上にあるかどうかを判定し、この判定がON(YES)であるときには、そのままリターンするが、判定がOFF(NO)のときには、ステップS50に進み、JT弁(38)の開度を制御した後、ステップS48において、第1開閉弁(AV1)をそれまでの閉じ状態から開きかつ第2開閉弁(AV2)をそれまでの開き状態から閉じることで、高段圧縮機(8)からJT弁(38)に流れる高圧ヘリウムガスが、第2JT用高圧配管(15b)の第2高圧調整弁(V2)からそれよりも開度の大きい、第1JT用高圧配管(15a)の第1高圧調整弁(V1)を通るように切り換えた後にリターンする。このことで、JT弁(38)に流れるヘリウムガスの流量を増加させて、JT弁(38)に至るヘリウムガスの高圧を高くするようにしている。
【0052】
さらにまた、メインルーチンにおけるステップS7の瞬低補償運転のルーチンでは、図6に示すように、まず、ステップS61において高段圧縮機(8)を例えば60Hzで運転するようにそのインバータ(52)を制御し、次のステップS62において低段圧縮機(4)を例えば60Hzで運転するようにそのインバータ(51)を制御し、その後のステップS63では、上記瞬低信号が引き続いて入力されているかどうかを判定する。この判定がON(YES)のときには、ステップS61に戻ってステップS61,S62を繰り返し、判定がOFF(NO)になった後にリターンする。
【0053】
次に、上記実施形態の作動について説明する。冷凍機(R)の運転開始後はそのクールダウン運転が行われ、このクールダウン運転モードでは、インバータ(51),(52)の制御により圧縮機ユニット(1)の低段及び高段圧縮機(4),(8)がいずれも例えば60Hzの運転周波数で運転される。そして、高段圧縮機(8)から供給された高圧のヘリウムガスの一部が予冷冷凍機(22)(膨張機)におけるシリンダ(24)内の各膨張空間で膨張し、このガスの膨張に伴う温度降下により第1ヒートステーション(29)が所定温度レベルに、また第2ヒートステーション(30)が第1ヒートステーション(29)よりも低い温度レベルにそれぞれ冷却される。膨張空間で膨張したヘリウムガスは圧縮機ユニット(1)に戻り、その中間圧配管(7)を経由して高段圧縮機(8)に吸い込まれて圧縮される。
【0054】
一方、圧縮機ユニット(1)における第1JT用高圧配管(15a)の第1開閉弁(AV1)が開弁する一方、第2JT用高圧配管(15b)の第2開閉弁(AV2)は閉弁しており、上記高段圧縮機(8)から吐出された高圧のヘリウムガスの残部は上記第1JT用高圧配管(15a)の第1JT高圧調整弁(V1)を経由してJT冷凍機(31)の第1JT熱交換器(32)の1次側に入り、そこで圧縮機(4)側へ向かう2次側の低圧ヘリウムガスと熱交換されて常温300Kから例えば約50Kまで冷却され、その後、上記予冷冷凍機(22)の第1ヒートステーション(29)外周の第1予冷器(36)に入ってさらに冷却(予冷)される。この冷却されたガスは第2JT熱交換器(33)の1次側に入って、同様に2次側の低圧ヘリウムガスとの熱交換により例えば約15Kまで冷却された後、予冷冷凍機(22)の第2ヒートステーション(30)外周の第2予冷器(37)に入ってさらに冷却(予冷)される。この後、ガスは第3JT熱交換器(34)の1次側に入って2次側の低圧ヘリウムガスとの熱交換によりさらに冷却され、しかる後にJT弁(38)に至る。このJT弁(38)では高圧ヘリウムガスは絞られてジュール・トムソン膨張し、約4Kの液状態のヘリウムとなり、この液体ヘリウムは液体ヘリウム戻し配管(40)を経由して液体ヘリウムポット(Ph)へ供給される。また、このポット(Ph)内で蒸発したヘリウムガスは、ヘリウムガス吸入配管(41)を介して第3JT熱交換器(34)の2次側に吸入され、第2及び第1JT熱交換器(33),(32)の各2次側を経由して低段圧縮機(4)に吸い込まれて圧縮される。
【0055】
上記クールダウン運転に伴いポット(Ph)内の液体ヘリウムの液面が上昇して、液面制御開始点X1以上に達すると、その液面が一定の制御範囲に維持されるように液面制御運転(定常運転)が始まり、上記高段圧縮機(8)の運転周波数が第1液面センサ(55)の出力に応じて例えば40〜50Hzの範囲で制御され、低段圧縮機(4)も例えば50Hzで制御される。また、第1及び第2開閉弁(AV1),(AV2)の開閉切換えによるJT高圧、及びJT弁(38)の開度が制御され、これらの制御により、上記ポット(Ph)内の液体ヘリウムの液面が制御範囲(高圧制御弁回路切換点X3と高圧制御弁回路切換復帰点X4との間)に維持される。
【0056】
そして、上記液体ヘリウムポット(Ph)内の液体ヘリウムにより、電力貯蔵設備に具備される超電導磁石(その超電導コイル)が臨界温度以下に冷却保持され、その超電導磁石に電力が貯蔵される。
【0057】
このような定常運転時に、例えば落雷等により電圧低下が発生して瞬低信号が制御装置(54)等に入ると、超電導磁石から電力が出力供給されるが、それと同時に、冷凍機(R)が直ちに瞬低補償運転モードに移行し、インバータ(51),(52)の制御により圧縮機ユニット(1)の低段及び高段圧縮機(4),(8)がいずれも最大の例えば60Hzの運転周波数で運転され、超電導磁石からの電力供給に伴う冷凍負荷の増大に対し、その超電導磁石を臨界温度以下に保持するように冷凍能力が増大する。このことで、急激な冷凍負荷の増大に対処できるようになる。
【0058】
したがって、この実施形態においては、第1〜第3液面センサ(55)〜(57)により検出された超電導磁石の負荷特性に応じて、低段及び高段圧縮機(4),(8)の各運転周波数、JT弁(38)の開度、並びにJT高圧が制御されるので、冷凍機(R)の冷凍能力の最小から最大までの範囲が大きくなり、定常運転時には最小の冷凍能力で運転することによって冷凍機(R)の消費電力を低減することができる。
【0059】
また、瞬低信号の入力に伴う冷凍負荷の増大時には、冷凍機(R)は最小能力から最大能力に一気に運転状態を変更するので、その最小能力から最大能力までの冷凍能力の範囲が大きい分だけ、冷凍機の運転モードを拡大して、冷凍負荷の増大に短時間で応答して冷凍能力を増大でき、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くすることができる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の種々の実施形態をも包含するものである。
【0061】
例えば、上記実施形態においては、JT圧力調整機構(20)を第1及び第2JT高圧調整弁(V1),(V2)と第1及び第2開閉弁(AV1),(AV2)との組み合わせて構成しているが、このような組合せに代え、1つの弁で流量を調整できるような制御弁を利用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、被冷却体の負荷特性として、液体ヘリウムポット(Ph)内の液体ヘリウムの液面を液面センサ(55)〜(57)で検出しているが、その他、例えば液体ヘリウムポット(Ph)内の圧力や温度を検出するようにしてもよく、さらには、それら液面、圧力及び温度を2つ以上組み合わせて用いることもでき、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0063】
また、上記実施形態では、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数、JT弁(38)の開度と、JT圧力調整機構(20)によるJT高圧とを制御するようにしているが、その中で低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数のみや、或いは高段圧縮機(8)のみの運転周波数を制御するようにすることもできる。
【0064】
また、上記実施形態は、電力貯蔵設備に具備される超電導磁石(超電導コイル)に極低温レベルの寒冷を付与するための極低温冷凍機(R)に本発明を適用した場合であるが、本発明はその他の用途に用いられる極低温冷凍機にも適用できるのは勿論である。
【実施例】
【0065】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。上記説明した実施形態の構成において、JT弁(38)の開度の制御を行わずに、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数と、JT圧力調整機構(20)によるJT高圧とを制御し、そのときの冷凍能力と消費電力との関係である冷凍能力線図を図8に示す。尚、上記実施形態の制御とは異なり、JT高圧を減圧したときに同時に低段圧縮機(4)の運転周波数を40Hzに下げている。この冷凍能力線図によると、低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数を共に60Hzとしたときに9.1W/4.4Kとなる最大の冷凍能力が得られた。この最大能力でクールダウン運転や瞬低運転を行うことができる。高段圧縮機(8)の運転周波数を40〜50Hzに下げ、その高段圧縮機(8)の運転周波数が40Hzで低段圧縮機(4)の運転周波数が50Hzのときに、両圧縮機(4),(8)の運転周波数の制御のみによる6.6W/4.4Kの最小負荷が得られた。さらに、両圧縮機(4),(8)の運転周波数を40HzとしかつJT圧力調整機構(20)によるJT高圧を減圧することで、最小負荷は5.6W/4.4Kとなった。このことで、冷凍能力の変化幅は5.6〜9.1Wとなり、広い範囲の冷凍能力が得られることが判る。
【0066】
また、図9は低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数のみを制御したときの冷凍能力線図であり、その運転周波数を60Hzにしたときに10W/4.4Kの最大冷凍能力が、また40Hzにしたときに6.7W/4.4Kの最小冷凍能力がそれぞれ得られた。さらに、図10は高段圧縮機(8)のみの運転周波数を制御したときの冷凍能力線図であり、その運転周波数を60Hzにしたときに10.1W/4.4Kの最大冷凍能力が、また40Hzにしたときに6.7W/4.4Kの最小冷凍能力がそれぞれ得られた。
【0067】
これらによっても冷凍能力の変化幅はそれぞれ6.7〜10W、及び6.7〜10.1Wとなり、広い範囲の冷凍能力が得られることが判る。
【0068】
図11は、6.6Wの冷凍負荷に対し低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数のみの制御を行う定常運転状態において、その冷凍負荷を6.6Wから10分間だけ10Wに増大させた後に元の6.6Wに戻したときのポット(Ph)内の液体ヘリウムの液面の変化を測定したものであり、本発明例では、高段圧縮機(8)の運転周波数は、液面に応じた周波数の制御から一定の65Hzに上昇させている。また、圧縮機(4),(8)の運転周波数の制御を行わずに一定周波数(高段圧縮機(8)は40Hz、低段圧縮機(4)は50Hz)で運転したときを比較例とした。この比較例では、液面の低下は30%であり、液面安定までに約80分を要する。また、液面は元のレベルまで復帰しなかった。
【0069】
これに対し、本発明例では、液面の低下は15%程度で済み、液面は元のレベルまで復帰して、その復帰まで20分程度であった。つまり、本発明例は比較例に比べ、液面の減少幅で略1/2、安定時間で略1/4であり、良好な負荷追従性が得られることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、極低温冷凍機の消費電力を低減するとともに、冷凍負荷の増大変動に対する追従性を高くすることができるので、有用で実用性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る極低温冷凍機の運転制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】制御装置で行われるメインルーチンを示すフローチャート図である。
【図3】クールダウン運転モードのルーチンを示すフローチャート図である。
【図4】センサチェックのルーチンを示すフローチャート図である。
【図5】液面制御のルーチンを示すフローチャート図である。
【図6】瞬低補償運転のルーチンを示すフローチャート図である。
【図7】定常運転とクールダウン運転との制御の切換えを表す液体ヘリウムの液面レベルを示す図である。
【図8】低段及び高段圧縮機の運転周波数とJT高圧とを制御した例での冷凍能力線図である。
【図9】低段及び高段圧縮機の運転周波数を制御した例での冷凍能力線図である。
【図10】高段圧縮機の運転周波数を制御した例での冷凍能力線図である。
【図11】冷凍負荷の変動に対する応答性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0072】
(R) 極低温冷凍機
(Ph) 液体ヘリウムポット(冷媒タンク)
(1) 圧縮機ユニット
(4) 低段圧縮機
(8) 高段圧縮機
(15a) 第1JT用高圧配管
(15b) 第2JT用高圧配管
(V1) 第1JT高圧調整弁
(V2) 第2JT高圧調整弁
(AV1) 第1開閉弁
(AV2) 第2開閉弁
(20) JT圧力調整機構(JT圧力調整手段)
(21) 冷凍機ユニット
(22) 予冷冷凍機
(29) 第1ヒートステーション
(30) 第2ヒートステーション
(31) JT冷凍機
(36) 第1予冷器
(37) 第2予冷器
(38) JT弁(JT膨張手段)
(39) アクチュエータ
(51) 第1インバータ
(52) 第2インバータ
(54) 制御装置
(55) 第1液面センサ(冷却負荷検出手段)
(56) 第2液面センサ(冷却負荷検出手段)
(57) 第3液面センサ(冷却負荷検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(4),(8)と、
上記圧縮機構(4),(8)と、該圧縮機構(4),(8)からの高圧ガスを膨張させるJT膨張手段(38)とを接続したJT冷媒回路を有し、該JT冷媒回路の一部が、被冷却体を冷却保持する液冷媒を貯溜する冷媒タンク(Ph)内に開放されたJT冷凍機(31)と、
上記JT冷凍機(31)の冷媒回路における冷媒を予冷する予冷冷凍機(22)とを備えた極低温冷凍機において、
上記圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する運転周波数可変の低段圧縮機(4)と、該低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなり、
上記被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、
上記圧縮機構(4),(8)からJT冷媒回路のJT膨張手段(38)に至る冷媒圧力を調整するJT圧力調整手段(20)と、
上記冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、上記低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数と、上記JT膨張手段(38)の開度と、JT圧力調整手段(20)による冷媒圧力とを制御する制御手段(54)とを備えたことを特徴とする極低温冷凍機の運転制御装置。
【請求項2】
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(4),(8)と、
上記圧縮機構(4),(8)と、該圧縮機構(4),(8)からの高圧ガスを膨張させるJT膨張手段(38)とを接続したJT冷媒回路を有し、該JT冷媒回路の一部が、被冷却体を冷却保持する液冷媒を貯溜する冷媒タンク(Ph)内に開放されたJT冷凍機(31)と、
上記JT冷凍機(31)の冷媒回路における冷媒を予冷する予冷冷凍機(22)とを備えた極低温冷凍機において、
上記圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する運転周波数可変の低段圧縮機(4)と、該低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなり、
上記被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、
上記冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、上記低段及び高段圧縮機(4),(8)の運転周波数を制御する制御手段(54)とを備えたことを特徴とする極低温冷凍機の運転制御装置。
【請求項3】
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(4),(8)と、
上記圧縮機構(4),(8)と、該圧縮機構(4),(8)からの高圧ガスを膨張させるJT膨張手段(38)とを接続したJT冷媒回路を有し、該JT冷媒回路の一部が、被冷却体を冷却保持する液冷媒を貯溜する冷媒タンク(Ph)内に開放されたJT冷凍機(31)と、
上記JT冷凍機(31)の冷媒回路における冷媒を予冷する予冷冷凍機(22)とを備えた極低温冷凍機において、
上記圧縮機構(4),(8)は、低圧の冷媒ガスを吸い込んで中間圧に圧縮する低段圧縮機(4)と、該低段圧縮機(4)からの中間圧の圧縮ガスを吸い込んで高圧に圧縮する運転周波数可変の高段圧縮機(8)とからなり、
上記被冷却体の負荷特性を検出する冷却負荷検出手段と、
上記冷却負荷検出手段により検出された被冷却体の負荷特性に応じて、上記高段圧縮機(8)の運転周波数を制御する制御手段(54)とを備えたことを特徴とする極低温冷凍機の運転制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの極低温冷凍機の運転制御装置において、
冷却負荷検出手段は、被冷却体の負荷特性として、冷媒タンク(Ph)内に貯溜された液冷媒の液面、冷媒タンク(Ph)内の圧力、冷媒タンク(Ph)内の温度の少なくとも1つを検出するものであることを特徴とする極低温冷凍機の運転制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの極低温冷凍機の運転制御装置において、
被冷却体は、電力貯蔵設備に用いられる超電導磁石であり、
冷媒タンク(Ph)内に貯溜された液冷媒が上記超電導磁石を臨界温度以下に冷却するように構成されていることを特徴とする極低温冷凍機の運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−125772(P2006−125772A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316775(P2004−316775)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)