説明

極低温冷凍機連結構造

【課題】被冷却物への熱侵入量を抑制した上で、極低温冷凍機取り付け時に常温の冷凍機から極低温に冷却された被冷却物への熱移動を抑制し、短時間で冷凍機の着脱及び再冷却を可能とする冷凍機連結構造を提供する。
【解決手段】極低温冷凍機1の冷却ステージに連結された少なくとも一部に可撓部を有する熱接触部を有し、この熱接触部の外周部に熱接触部よりも熱収縮率が大きい熱収縮リングを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機を利用する装置、特に冷凍機冷却型超電導磁石において、被冷却物を極低温に冷却した状態で冷凍機の着脱を可能とする冷凍機連結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導マグネットを極低温冷凍機で冷却する冷凍機冷却型超電導マグネットは、液体ヘリウムが不要である点に大きな特徴がある。液体ヘリウムが不要であるため、液体ヘリウムを生成する過程のエネルギー消費が不要となり、省エネルギー化を進めることができる。このような冷凍機冷却型超電導マグネットは、液体ヘリウムを補給することなく、ボタン一つで極低温環境を実現できる手軽さから磁気浮上列車、強磁場環境下での物性測定や着磁、磁気分離など様々な応用が期待されている。
【0003】
液体ヘリウムを使用せずに極低温環境を実現する極低温冷凍機は、以下に述べる構造上の課題から定期的なメンテナンスが必要である。冷凍機冷却型超電導マグネットで一般的に利用されているGifford−McMahon(GM)型冷凍機では、年1回若しくは15000時間毎のメンテナンスが必要とされる。これは、極低温冷凍機内部で圧縮・膨張と熱交換を行うディスプレーサーの往復運動に伴う摩耗が原因であり、摩耗した部品の交換が必要となる。また、極低温冷凍機内部に充填されたヘリウムガスの純度が次第に劣化するため、ヘリウムガスの置換が必要となる。
【0004】
極低温冷凍機のメンテナンスを行うためには、極低温冷凍機を一度室温まで昇温させる必要がある。昇温時間はヒータ加熱により短縮できるが、極低温冷凍機と一体化している被冷却物の温度が上昇するという課題がある。また、極低温冷凍機の冷却ステージと連結された被冷却物の熱容量は極低温冷凍機自体の熱容量よりも大きく、極低温冷凍機と被冷却物が一体となることで昇温時間が長くなるという課題があった。更に、冷却は極低温冷凍機の冷却能力に頼らざるを得ないため、昇温時間が長いシステムほど冷却時間も長くなるという課題があった。
【0005】
極低温冷凍機のみで被冷却物を冷却する冷凍機冷却型超電導マグネットでは、極低温冷凍機のメンテナンスの際に被冷却物の温度が上昇し、超電導状態でなくなる可能性があるため、超電導マグネットから発生する磁場を消磁する必要がある。従って、メンテナンス中はマグネットとしての機能を発揮することができない。少しでも早く再励磁するためには、超電導マグネットの温度上昇を小さくし、短時間で励磁可能な温度まで再冷却する必要がある。
【0006】
従来の極低温冷凍機による冷凍機冷却構造を図7に示す。極低温冷凍機1は真空容器3に取り付けられており、被冷却物20と熱シールド4を第2の冷却ステージ2及び第1の冷却ステージ7で冷却する構造となっている。被冷却物20及び熱シールド4の周囲は真空状態となり、常温である真空容器3からの熱移動量を小さく抑制している。
【0007】
極低温冷凍機1のメンテナンス時には、極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2と被冷却物20、及び第1の冷却ステージ7と熱シールド4との接触面を切り離す必要がある。その際に極低温冷凍機1の周囲を大気圧にするために極低温冷凍機1の周囲に真空壁31が設置されている。被冷却物20及び熱シールド4の一部も真空容器3の一部として使用されている。
【0008】
この課題を解決するメンテナンス方法は大きく2つに分けられる。
【0009】
第1の方法は、極低温冷凍機を被冷却物から物理的に切り離す方法である。特許文献1記載の特許では、極低温冷凍機を被冷却物に押しつける形で熱接触させており、室温部のネジを緩めることによって、極低温冷凍機と被冷却物とを分離可能としている。また、特許文献2記載の特許では、極低温冷凍機と被冷却物とを連結するネジを室温部から緩め、極低温冷凍機を被冷却物から切り離すことを可能としている。更に特許文献3記載の特許では、極低温冷凍機と被冷却物との連結部にバネ形状を適用している。いずれの方法も極低温冷凍機と被冷却物とを被冷却物が極低温状態のまま切り離すことを特徴としている。
【0010】
第2の方法として、極低温冷凍機と被冷却物とが連結した状態で極低温冷凍機のみを昇温する方法が考えられる。いわゆる熱スイッチを適用して極低温冷凍機と被冷却物とを熱的に切り離し、極低温冷凍機のみを昇温する。昇温後は極低温冷凍機内部のディスプレーサー等を交換するため、冷凍機本体を入れ替える必要はない。
【0011】
特許文献4記載の特許では、極低温冷凍機と被冷却物との間に伝熱媒体であるヘリウムガスを充填して、熱スイッチとして利用している。ヘリウムガスを排気することによって、極低温冷凍機と被冷却物との間の熱的な連結(熱接続)が無くなり、極低温冷凍機のみの昇温が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−287838号公報
【特許文献2】特開2004−294041号公報
【特許文献3】特開平1−196479号公報
【特許文献4】特開2002−252111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
冷凍機のメンテナンスに関しては様々な特許が提案されているがそれぞれ課題があった。
【0014】
特許文献1記載の技術では被冷却物に面圧をかけて接触させるため、この面圧に耐えるだけの支持構造が必要となり、支持部の断面積が大きくなるため、被冷却物への熱侵入量が大きくなるという課題があった。特許文献2記載の技術では極低温冷凍機の冷却前に極低温冷凍機の冷却ステージと被冷却物とを熱接触させる必要があり、冷凍機の熱容量によって被冷却物の温度が上昇するという課題があった。特許文献3記載の技術では、冷凍機取り付け時に常温の冷凍機と極低温に冷却された被冷却物とが熱接触する形となり、冷凍機の熱容量によって被冷却物の温度が上昇するという課題があった。特許文献4記載の技術では、極低温冷凍機を室温まで上昇させる時間が必要となり、冷凍機のメンテナンスを実施するまでに要する時間が長くなるという課題があった。
【0015】
本発明の目的は、冷凍機冷却型超電導マグネットにおいて、メンテナンス及び再冷却に要する時間を短縮するために、超電導マグネットの温度上昇を抑制し、極低温冷凍機取り付け時に常温の冷凍機から極低温に冷却された被冷却物への熱移動を抑制し、短時間で冷凍機の着脱及び再冷却を可能とする冷凍機連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、前述の課題を解決する本発明の極低温冷凍機連結構造の第1の特徴は、極低温冷凍機の冷却ステージに連結された熱接触部を有し、この熱接触部の外周部に熱接触部よりも熱収縮率が大きい熱収縮リングを設置している点にある。これにより、熱収縮量の大きい収縮リングが内側の熱接触部を締めつけるため、熱接触部と被冷却物の連結部との熱接触が良好になる。
【0017】
また、本発明の第2の特徴は、熱接触部が可撓部と熱的に接触している点にある。可撓部があることにより、熱接触部が位置や角度を変えることが容易となり、熱接触部と被冷却物の連結部との間の熱接触が良好になる。
【0018】
また、本発明の第3の特徴は、熱接触部が円周方向に分割されている点にある。熱接触部が分割され、熱接触部の外周に設置された熱収縮リングが冷却され、縮むことにより、熱接触部を締めつける。これにより、熱接触部と被冷却物の連結部との熱接触が良好になる。
【0019】
また、本発明の第4の特徴は、極低温冷凍機の冷却ステージと熱的に接触している熱接触部は、極低温冷凍機の冷却ステージが常温状態の場合において、熱接触部と被冷却物の連結部との間にクリアランスが生じている点にある。常温状態にある極低温冷凍機と極低温状態にある被冷却物との間の熱接触がなくなり、常温の極低温冷凍機の熱容量が極低温状態にある被冷却物へ移動することを防止している。
【0020】
また、本発明第5の特徴は、メンテナンス後に極低温冷凍機を起動させることにより、極低温冷凍機の冷却ステージと熱的に結合した熱接触部及び熱収縮リングが冷却されることにより、熱収縮リング5が熱収縮により縮み、熱接触部と被冷却物の連結部とが自動的に熱接触する点にある。これにより、極低温冷凍機の冷却ステージの温度が高い状態では、極低温冷凍機の冷却ステージと熱的に結合した熱接触部と被冷却物の連結部とは非接触状態となり、温度の高い冷却ステージから被冷却物の連結部への熱侵入を抑制することができ、被冷却物の温度上昇を最低限に抑制することができる。極低温冷凍機の冷却ステージの温度が低下するに伴い、熱接触部と熱的に結合している熱収縮リングは次第に熱収縮し、ある温度以下で熱接触部と被冷却物の連結部が自動的に熱接触する。
【発明の効果】
【0021】
本発明における極低温冷凍機連結構造を有することにより、極低温冷凍機のメンテナンス時に常温状態にある極低温冷凍機から被冷却物への熱移動が抑制され、被冷却物の温度が極低温状態に維持される。
【0022】
極低温冷凍機を冷却する過程で熱収縮リングの熱収縮により極低温冷凍機と熱的に接触した熱伝導手段と被冷却物が自動的に熱接触する。熱伝導手段が極低温冷凍機により冷却された状態で、熱伝導手段と被冷却物とが熱接触することにより、被冷却物の温度上昇を最低限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一の実施例を示す極低温冷凍機連結部の断面図である。
【図2】第一の実施例における第2の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【図3】第一の実施例における冷凍機連結構造を上面から見た断面図である。
【図4】本発明の第二の実施例を示す第2の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【図5】本発明の第三の実施例における第1の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【図6】本発明の第四の実施例における第1の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【図7】従来の冷凍機連結構造を示す断面図である。
【図8】主たる構成材料の熱収縮率の一例を示す図(荻原宏康編著「低温工学概論」東京電機大学出版局,1999年7月刊行,P.292より抜粋)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明における第一の実施例を示す極低温冷凍機連結部の断面図である。
【0026】
極低温冷凍機1は真空容器3に取り付けられており、被冷却物20と熱シールド4を第2の冷却ステージ2及び第1の冷却ステージ7で冷却する構造となっている。被冷却物20及び熱シールド4の周囲は真空状態となり、常温である真空容器3からの熱移動量を小さく抑制している。極低温冷凍機1のメンテナンス時には、極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2と被冷却物20、及び第1の冷却ステージ7と熱シールド4との接触面を切り離す必要がある。その際に極低温冷凍機1の周囲を真空状態から大気圧に変化させるために極低温冷凍機1の周囲に真空壁31が設置されている。被冷却物20及び熱シールド4の一部も真空容器3の一部として使用されている。
【0027】
極低温冷凍機1は例えばGM型冷凍機であり、寒冷を発生する第1の冷却ステージ7及び第2の冷却ステージ2を有する。第1の冷却ステージ7は30Kから80Kの間に冷却される。また、第2の冷却ステージ2は30K以下に冷却される。
【0028】
極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7で冷却される被冷却物は、主として熱シールド4である。この熱シールド4は、常温である真空容器3からの輻射を受ける。熱シールド4が受ける輻射熱量を小さくするために、熱シールド4と真空容器3との間には図示しない積層断熱材と呼ばれる断熱材を設置している。熱シールド4は例えば図示しない電流リードのサーマルアンカーとしても利用され、電流リードを伝わって被冷却物に伝わる熱伝導を小さく抑制することにも適用される。
【0029】
極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2では、極低温冷却環境下で動作する被冷却物20を冷却する。被冷却物20は例えば超電導マグネットやSQUID応用機器である。また、極低温環境を利用するその他の機器も適用可能である。
【0030】
極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2で冷却される被冷却物20は、連結部21を有し、連結部21を極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2で冷却することにより被冷却物20を極低温に冷却している。
【0031】
極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7で冷却される熱シールド4は、連結部72を有し、連結部72を極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7で冷却することにより熱シールド4を極低温に冷却することができる。
【0032】
極低温冷凍機1は真空容器3に固定される。真空容器3は内部を真空状態にすることが可能であり、図示しない真空ポンプにより真空排気される。極低温冷凍機1の周囲は仕切りとなる真空壁31により被冷却物20の周囲の真空槽とは異なる閉空間32を形成している。極低温冷凍機1を取り外す場合には、閉空間32を大気圧にして取り外す。このとき、閉空間32はヘリウムガスで充填され、極低温部での凝縮・結露を防止する。
【0033】
第2の冷却ステージ2では、少なくとも1ヶ所の可撓部11と被冷却物との熱接触部12が熱的に結合している。同様に、第1の冷却ステージには、少なくとも1ヶ所の可撓部71と被冷却物との熱接触部である連結部72が熱的に結合している。可撓部11及び可撓部71は、無酸素銅や高純度アルミニウムなど熱伝導率が高い材料で構成されている。可撓部11及び可撓部71は例えば無酸素銅線や高純度アルミ線の撚り線を束ねたものであり、高い熱伝導性と柔軟性を併せ持つ。
【0034】
熱接触部12及び熱接触部72は、熱伝導率の高い銅やアルミニウムで製作されている。熱接触部12と可撓部11は熱的に結合している。同様に熱接触部72と可撓部71も熱接触している。
【0035】
熱接触部12の外周には熱収縮リング5を設置している。また熱接触部72の外周には熱収縮リング51を設置している。熱収縮リング5及び熱収縮リング51は例えばテフロン(登録商標)などのフッ素樹脂やナイロンといった高分子化合物で製作されている。また、熱収縮リング5及び熱収縮リング51には、隣接して、ヒータ6及びヒータ61が設けられている。熱収縮リング51によって、熱接触部72と連結部91とが締めつけられている。
【0036】
図2により、冷凍機取り付け時の各要素の働きを極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2について説明する。図2は第一の実施例における第2の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【0037】
第2の冷却ステージ2は、少なくとも一部の可撓部11を介して熱接触部12と熱的に結合している。熱接触部12は周方向に分割された構造となっており、分割された各熱接触部は半径方向に移動可能な構造となっている。熱接触部12の外周には熱収縮リング5及びヒータ6が設置されている。熱接触部12と熱収縮リング5とは、周方向に分割された熱接触部の少なくとも一部が熱的に結合する形となっている。
【0038】
第2の冷却ステージ2と可撓部11を介して熱的に結合している熱接触部12と連結部21との間には、熱接触部12が常温状態である場合には一定のクリアランスが生じるように設計されている。したがって、常温の極低温冷凍機1を取り付けた状態では、第2の冷却ステージにおける熱接触部12と連結部21とは非接触状態であり、常温の冷却ステージ2から連結部21への熱移動は生じない。
【0039】
極低温冷凍機1を取り付けた後、極低温冷凍機1を動作させて第2の冷却ステージ2の温度を次第に低下させていくと、第2の冷却ステージ2に熱的に結合した熱接触部12の温度も次第に低下する。また、熱接触部12の外周に取り付けられた熱収縮リング5の温度も低下する。
【0040】
熱収縮リング5は、第2の冷却ステージの熱接触部12よりも極低温冷却時の熱収縮率が大きい。図8は、主たる構成材料の熱収縮量と温度の関係を示す図(荻原宏康編著「低温工学概論」東京電機大学出版局,1999年7月刊行,P.292より抜粋)である。
【0041】
例えば、熱接触部が銅であった場合、50K程度に冷却した状態では常温時より0.3%程度熱収縮するのに対し、熱収縮リング5又は熱収縮リング51がナイロンの場合50Kに冷却した状態では常温時より1.4%、テフロン(登録商標)の場合50Kに冷却した状態では常温時より2.0%収縮する。
【0042】
熱接触部12は温度低下に伴い熱収縮するが、熱収縮リング5の熱収縮量の方が熱接触部12の熱収縮量よりも大きいため、熱収縮リング5が次第に熱接触部12を締めつける。熱接触に伴い、極低温冷凍機1の温度が高い場合には、極低温冷凍機1から被冷却物20への熱移動が生じるが、極低温冷凍機1は十分に冷却された状態で熱接触するため、熱移動量は小さく、被冷却物20の温度上昇は小さく抑制できる。
【0043】
次に同じく図1及び図2を用いて、冷凍機を取り外す過程について説明する。
【0044】
極低温状態にある連結部21と極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2とを切り離すために、熱収縮リング5の外周に取り付けられたヒータ6を加熱する。熱収縮リング5の温度が上昇することにより、熱収縮リング5の熱収縮量が小さくなり、熱収縮リング5によって締めつけられていた熱接触部12と連結部21との間にクリアランスが生じる。同様に、極低温状態にある連結部91と極低温冷凍機の第1の冷却ステージ7とを切り離すために、熱収縮リング51の外周に取り付けられたヒータ61を加熱する。熱収縮リング51の温度が上昇することにより、熱収縮リング51の熱収縮量が小さくなり、熱収縮リング51によって締めつけられていた熱接触部72と連結部91との間にクリアランスが生じる。
【0045】
冷凍機の第1の冷却ステージ7及び第2の冷却ステージ2の両方にクリアランスができた時点で極低温冷凍機1は取り外しが可能となる。
【0046】
図3は、第2の冷却ステージ2における熱伝導手段である熱接触部12及び熱収縮リング5を上面から見た断面図である。熱接触部12は周方向に分割されている。熱接触部12は中央の連結部21と熱接触している。熱接触部12の外周には熱収縮リング5とヒータ6が設置されている。
【0047】
図3(a)は極低温冷凍機の冷却ステージを冷却する前、すなわち常温状態における熱接触部12及び被冷却物の連結部21との位置関係を示す。常温状態では、熱接触部12と連結部21との間にはクリアランスがあり、常温である熱接触部12から極低温状態にある連結部21への熱移動は生じない。これにより、冷凍機連結時における被冷却物の温度上昇を抑制することができる。
【0048】
図3(b)は極低温冷凍機の冷却ステージを冷却した後の熱接触部12と連結部21との位置関係を示す図である。極低温冷凍機の第2の冷却ステージ2により、熱接触部12及び熱収縮リング5、ヒータ6が極低温に冷却される。熱収縮リング5は極低温に冷却されることによって、熱収縮する。熱収縮リング5は熱収縮することによって周長が短くなり、半径方向に縮む。例えば内径50mmのテフロン(登録商標)製リングの場合、50Kまで熱収縮することによって周長が2%短くなる。これは直径が49mmに小さくなることを意味する。熱収縮リング5の直径が小さくなることにより、熱収縮リング5が熱接触部12を締めつける形となり、熱接触部12と連結部21とが熱接触する。
【実施例2】
【0049】
図4は、本発明の第二の実施例における第2の冷却ステージ2における極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。第一の実施例と異なる部分のみ説明する。
【0050】
熱伝導手段122が熱収縮リング5を内側と外側の両面から支える構造となっている。熱伝導手段122と熱収縮リング5との間は密着状態にあり、極低温冷凍機1の第2の冷却ステージ2の温度が上昇した場合には、熱収縮リング5の外周が熱接触部を引き離す効果が生じる。
【実施例3】
【0051】
図5は、本発明の第三の実施例における第1の冷却ステージにおける極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。図5により、極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7における極低温冷凍機連結構造を説明する。
【0052】
第1の冷却ステージ7は、少なくとも一部の可撓部71を介して熱接触部72と熱的に結合している。熱接触部72は周方向に分割された構造となっており、分割された各熱接触部は半径方向に移動可能な構造となっている。熱接触部72の外周には熱収縮リング51及びヒータ61が設置されている。熱接触部72と熱収縮リング51とは、周方向に分割された熱接触部の少なくとも一部が熱的に結合する形となっている。
【0053】
第1の冷却ステージ7と可撓部71を介して熱的に結合している熱接触部72と連結部91との間には、熱接触部72が常温状態である場合には一定のクリアランスが生じるように設計されている。したがって、常温の極低温冷凍機1を取り付けた状態では、第1の冷却ステージにおける熱接触部72と連結部91とは非接触状態であり、常温の極低温冷凍機1から連結部91への熱移動は生じない。
【0054】
極低温冷凍機1を取り付けた後、極低温冷凍機1を動作させて第1の冷却ステージ7の温度を次第に低下させていくと、第1の冷却ステージ7に熱的に結合した熱接触部72の温度も次第に低下する。また、熱接触部72の外周に取り付けられた熱収縮リング51の温度も低下する。
【0055】
熱収縮リング51は、第1の冷却ステージの熱接触部72よりも極低温冷却時の熱収縮率が大きい。熱接触部72は温度低下に伴い熱収縮するが、熱収縮リング51の熱収縮量の方が熱接触部72の熱収縮量よりも大きいため、熱収縮リング51が次第に熱接触部72を締めつける。熱接触に伴い、極低温冷凍機1の温度が高い場合には、極低温冷凍機1から熱シールド4への熱移動が生じるが、極低温冷凍機1は十分に冷却された状態で熱接触するため、熱移動量は小さく、熱シールド4の温度上昇は小さく抑制できる。
【0056】
次に同じく図5を用いて、冷凍機を取り外す過程について説明する。
【0057】
極低温状態にある連結部71と極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7とを切り離すために、熱収縮リング51の外周に取り付けられたヒータ61を加熱する。熱収縮リング51の温度が上昇することにより、熱収縮リング51の熱収縮量が小さくなり、熱収縮リング51によって締めつけられていた熱接触部72と連結部91との間にクリアランスが生じる。同様に、極低温状態にある連結部91と極低温冷凍機の第1の冷却ステージ7とを切り離すために、熱収縮リング51の外周に取り付けられたヒータ61を加熱する。熱収縮リング51の温度が上昇することにより、熱収縮リング51の熱収縮量が小さくなり、熱収縮リング51によって締めつけられていた熱接触部72と連結部91との間にクリアランスが生じる。冷凍機の第1の冷却ステージ及び第2の冷却ステージの両方にクリアランスができた時点で極低温冷凍機1は取り外しが可能となる。
【実施例4】
【0058】
図6は、本発明の第三の実施例における第1の冷却ステージ7における極低温冷凍機連結構造の詳細断面図である。
【0059】
熱伝導手段78が熱収縮リング51を内側と外側の両面から支える構造となっている。熱伝導手段78と熱収縮リング51との間は密着状態にあり、極低温冷凍機1の第1の冷却ステージ7の温度が上昇した場合には、熱収縮リング51の外周が熱接触部78を引き離す効果が生じる。
【0060】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0061】
また、上記の各構成,機能,処理部,処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成,機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム,テーブル,ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク,SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード,SDカード,DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0062】
1 極低温冷凍機
2 第2の冷却ステージ
3 真空容器
4 熱シールド
5 熱収縮リング
6 ヒータ
7 第1の冷却ステージ
11 可撓部
12 熱接触部
20 被冷却物
21 連結部
31 真空壁
32 閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被冷却物を格納する真空容器と、
前記被冷却物と前記真空容器との間に設置される熱シールドと、
前記被冷却物及び前記熱シールドを極低温に冷却する冷却ステージを具備し、
前記真空容器に連結構造を介して連結される極低温冷凍機とを有する極低温格納容器において、
前記連結構造において、前記冷却ステージに連結された熱接触部を有し、この熱接触部の外周部に熱接触部よりも熱収縮率が大きい熱収縮リングを設置していることを特徴とする極低温冷凍機連結構造。
【請求項2】
請求項1記載の極低温格納容器の連結構造において、
前記冷却ステージは、第1の冷却ステージ及び第2の冷却ステージを有し、
前記熱シールドと前記極低温冷凍機の第1の冷却ステージとの連結部及び前記被冷却物と前記極低温冷凍機の第2の冷却ステージとの連結部とを有し、
前記二つの連結部において、前記極低温冷凍機の第1の冷却ステージ及び前記極低温冷凍機の第2の冷却ステージにそれぞれ連結された熱接触部を有し、前記熱接触部の外周部に前記熱接触部よりも熱収縮率が大きい熱収縮リングを設置したことを特徴とする極低温冷凍機連結構造極低温格納容器の連結構造。
【請求項3】
請求項1記載の極低温格納容器の連結構造において、
前記熱接触部が少なくとも一部の可撓部を有することを特徴とする極低温格納容器の連結構造。
【請求項4】
請求項1記載の極低温格納容器の連結構造において、
前記熱接触部が円周方向に分割されていることを特徴とする極低温格納容器の連結構造。
【請求項5】
請求項1記載の極低温格納容器の連結構造において、
前記極低温冷凍機の第1の冷却ステージと前記熱シールドとの間に極低温冷凍機が常温状態の場合においてクリアランスが生じ、極低温冷凍機の第1の冷却ステージが極低温状態に至る過程で熱収縮リングが熱収縮することにより、熱接触部と熱シールドとが自動的に熱接触することを特徴とする極低温格納容器の連結構造。
【請求項6】
請求項1記載の極低温格納容器の連結構造において、
前記極低温冷凍機の第2の冷却ステージと前記被冷却物との間に極低温冷凍機が常温状態の場合においてクリアランスが生じ、極低温冷凍機の第2の冷却ステージが極低温状態に至る過程で熱収縮リングが熱収縮することにより、熱接触部と被冷却部とが自動的に熱接触することを特徴とする極低温格納容器の連結構造。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか記載の極低温格納容器の連結構造を有する極低温格納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−32125(P2012−32125A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174082(P2010−174082)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)