説明

極低温冷凍装置

【課題】本発明はディスプレーサを有する極低温冷凍装置において、冷凍効率の向上を図る。
【解決手段】モータ30及びスコッチヨーク機構32によりシリンダ10,20内で往復移動されるディスプレーサ11,21を有し、このディスプレーサ11,21の移動に伴いシリンダ10,20内に形成された膨張空間15,25内の冷媒ガスを膨張させることにより寒冷を発生させる極低温冷凍装置であって、ディスプレーサ11,21の下死点近傍おける移動速度が上死点近傍における移動速度よりも速くなるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極低温冷凍装置に係り、特にディスプレーサを有する極低温冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディスプレーサを備えた極低温冷凍装置として、ギフォード・マクマホン冷凍機(以下、GM冷凍機という)が知られている。このGM冷凍機は、駆動装置によりシリンダ内でディスプレーサが往復移動する構成とされている。
【0003】
また、シリンダとディスプレーサとの間には、膨張空間が形成されている。そして、ディスプレーサがシリンダ内で往復移動することにより、膨張空間に供給された高圧の冷媒ガスを膨張させ、これにより極低温の寒冷を発生させる構成とされている。
【0004】
一般にこの種のGM冷凍機では、ディスプレーサがシリンダ内で一往復する1サイクルの移動速度は単振動の速度と等しく設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2617681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般にディスプレーサが下死点近傍位置にあるとき、GM冷凍機はシリンダ内に高圧の冷媒ガスを吸入する処理を行う。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された極低温冷凍装置のように、1サイクルにおけるディスプレーサの移動速度が単振動の速度に等しい設定では、冷媒ガスの膨張空間への流入速度が遅いため、膨張空間内における冷媒ガスの圧力上昇が十分でない。よって、寒冷発生時に十分な寒冷を発生することができず、冷却効率が低下してしまうという問題点が生じる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、冷凍効率の向上を図った極低温冷凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、第1の観点からは、
駆動装置によりシリンダ内で往復移動されるディスプレーサと、
前記シリンダ内に冷媒ガスを供給する際に開弁される吸気バルブと、
前記シリンダ内から冷媒ガスを排気する際に開弁される排気バルブとを有し、
該ディスプレーサの移動に伴い前記シリンダ内に形成された膨張空間内の冷媒ガスを膨張させることにより寒冷を発生させる極低温冷凍装置であって、
前記ディスプレーサの下死点近傍おける移動速度を上死点近傍における移動速度よりも速くしたことを特徴とする極低温冷凍装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
開示の極低温冷凍装置によれば、ガス供給時に効率よく冷媒ガスをシリンダ内に供給することが可能となるため冷却効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態であるGM冷凍機の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態であるGM冷凍機に設けられるスコッチヨーク機構を拡大して示す分解斜視図である。
【図3】図3は、スコッチヨーク機構のスライダ枠を拡大して示す図である。
【図4】図4は、本発明の第1実施形態であるGM冷凍機におけるディスプレーサの移動曲線図である。
【図5】図5は、本発明の第1実施形態であるGM冷凍機に設けられるスコッチヨーク機構の動作を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の第1実施形態であるGM冷凍機のP−V線図である。
【図7】図7は、本発明の効果を示す図である。
【図8】図8は、第1実施形態の変形例であるスコッチヨーク機構を拡大して示す図である。
【図9】図9は、第1実施形態の変形例であるGM冷凍機におけるディスプレーサの移動曲線図である。
【図10】図10は、本発明の第2実施形態であるGM冷凍機の概略構成図である。
【図11】図11(A)は本発明の第2実施形態であるGM冷凍機のバルブタイミングを示す図であり、図11(B)は本発明の第2実施形態であるGM冷凍機におけるディスプレーサの移動曲線図である。
【図12】図12は、第2実施形態の変形例であるGM冷凍機の概略構成図である。
【図13】図13は、本発明の第3実施形態であるGM冷凍機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0013】
図1は本発明の第1実施形態である極低温冷凍装置を示している。以下の説明では、極低温冷凍装置としてギフォード・マクマホンサイクルを用いた極低温冷凍装置(以下、GM冷凍機という)を例に挙げて説明する。しかしながら、本発明の適用はGM冷凍機に限定されるものではなく、ディスプレーサを使用する各種極低温冷凍装置(例えば、ソルベー冷凍機、スターリング冷凍機等)に適用が可能なものである。
【0014】
本実施形態に係るGM冷凍機1は2段式の冷凍機であり第1段目シリンダ10と、第2段目シリンダ20とを有している。この第1段目及び第2段目シリンダ10,20は、熱伝導率の低いステンレスで形成される。また、第2段目シリンダ20の高温端が、第1段目シリンダ10の低温端に連結された構成とされている。
【0015】
第2段目シリンダ20は、第1段目シリンダ10よりも小さな径を有する。第1段目シリンダ10及び第2段目シリンダ20内に、それぞれ第1段目ディスプレーサ11及び第2段目ディスプレーサ21が挿入されている。第1段目ディスプレーサ11と第2段目ディスプレーサ21とは、相互に連結されており、駆動装置3により、シリンダ10,20の軸方向(図中矢印Z1,Z2方向)に往復駆動される。
【0016】
また、第1段目ディスプレーサ11及び第2段目ディスプレーサ21の内部には、それぞれ蓄冷器12,22が設けられている。この蓄冷器12,22の内部には、それぞれ蓄冷材13,23が充填されている。また、第1段目シリンダ10内の高温端には空洞14が形成され、また低温端には第1段目膨張室15が形成されている。更に、第2段目シリンダ20の低温側には、第2段目膨張室25が形成されている。
【0017】
第1段目ディスプレーサ11及び第2段目ディスプレーサ21には、冷媒ガス(ヘリウムガス)が流れる複数のガス流路L1〜L4が設けられている。ガス流路L1は空洞14と蓄冷器12とを接続し、ガス流路L2は蓄冷器12と第1段目膨張室15とを接続する。また、ガス流路L3は第1段目膨張室15と蓄冷器22とを接続し、ガス流路L4は蓄冷器22と第2段目膨張室25とを接続する。
【0018】
第1段目シリンダ10の高温端側の空洞14は、ガス供給系5に接続されている。ガス供給系5は、ガス圧縮機6、バルブ7,8、及びガス流路9等を含んで構成されている。
【0019】
吸気バルブ7はガス圧縮機6の吸気口側に接続されており、また排気バルブ8はガス圧縮機6の排気口側に接続されている。吸気バルブ7を開くと共に排気バルブ8を閉じると、ガス圧縮機6からバルブ7及びガス流路9を通って空洞14内に冷媒ガスが供給される。吸気バルブ7を閉じ、排気バルブ8を開くと、空洞14内の冷媒ガスがガス流路9及びバルブ8を通ってガス圧縮機6に回収される。
【0020】
駆動装置3は、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21を第1及び第2段目シリンダ10,20内で往復移動させる。この駆動装置3は、モータ30とスコッチヨーク機構32とにより構成されている。図2は、スコッチヨーク機構32を拡大して示している。スコッチヨーク機構32は、大略するとクランク部材34とスコッチヨーク36とにより構成されている。
【0021】
クランク部材34は、モータ30の回転軸(以下、モータ軸31という)に固定される。このクランク部材34は、モータ軸31の取り付け位置から偏心した位置にクランクピン34aを設けた構成とされている。従って、クランク部材34をモータ軸31に取り付けると、モータ軸31とクランクピン34aは偏心した状態となる。
【0022】
また、スコッチヨーク36には、各ディスプレーサ11,21の移動方向と直行する方向(図中、矢印X1,X2で示す方向)に延在するスライド溝38が形成されている。よって、スコッチヨーク36は枠形状とされている。
【0023】
スコッチヨーク36に形成されたスライド溝38には、コロ軸受け35が係合している。コロ軸受け35は、スライド溝38内で矢印X1,X2方向に転動可能な構成とされている。なお、説明の便宜上、スコッチヨーク36及びスライド溝38の具体的な構成については後に詳述するものとする。
【0024】
コロ軸受け35の中心位置には、クランクピン34aと係合するクランクピン係合孔35aが形成されている。従って、クランクピン34aをコロ軸受け35に係合した状態でモータ軸31が回転すると、クランクピン34aは円弧を描くように回転し、これによりスコッチヨーク36は図中矢印Z1,Z2方向に往復移動する。この際、コロ軸受け35は、スライド溝38内を図中矢印X1,X2方向に往復移動する。
【0025】
スコッチヨーク36は、上方向及び下方向に延出する駆動アーム37が設けられている。この内、下方の駆動アーム37は、図1に示すように、第1段目ディスプレーサ11に連結されている。よって上記のようにスコッチヨーク機構32によりスコッチヨーク36がZ1,Z2方向に往復移動すると、駆動アーム37も上下方向に移動し、これにより第1及び第2段目ディスプレーサ11,21は第1及び第2段目シリンダ10,20内で往復移動する。
【0026】
前記した吸気バルブ7及び排気バルブ8の駆動は、モータ30により駆動される図示しないロータリバルブにより制御されている。ロータリバルブは、吸気バルブ7及び排気バルブ8の開閉と、各ディスプレーサ11,21の往復駆動とが所定の位相差を有するよう駆動制御する。この位相差により、第1段目膨張室15及び第2段目膨張室25内において冷媒ガスが膨張し寒冷が発生する。
【0027】
次に、上記構成とされたGM冷凍機1の動作について説明する。
【0028】
ロータリバルブは、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21が下死点に至る直前においてガス供給系5の吸気バルブ7を開弁する。具体的には本実施形態では、駆動装置3により第1及び第2段目ディスプレーサ11,21が下死点(BDC)前30°に達すると、吸気バルブ7が開弁されるよう構成されている。この際、排気バルブ8は閉弁した状態を維持する。
【0029】
これによりガス圧縮機6(コンプレッサー)で生成された高圧の冷媒ガスは、ガス流路9及びガス流路L1を介して第1段目ディスプレーサ11に形成された蓄冷器12に流入する。蓄冷器12内に流入した冷媒ガスは、蓄冷器12内の蓄冷材13により冷却されつつ進行し、続いてガス流路L2を介して第1段目膨張室15に流入する。
【0030】
第1段目膨張室15に流入した冷媒ガスは、ガス流路L3を介して第2段目ディスプレーサ21に形成された蓄冷器22に流入する。そして、蓄冷器22内に流入した冷媒ガスは、蓄冷器22内の蓄冷材23により冷却されつつ進行し、続いてガス流路L4を介して第2段目膨張室25に流入する。
【0031】
吸気バルブ7が開弁した後、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21は、駆動装置3に駆動されて第1及び第2段目膨張室15,25の体積が最も小さくなる下死点に至り、下方(図中矢印Z2方向)に向けた移動が瞬間的に停止する(移動速度がゼロとなる)。
【0032】
その後、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21は、上方(図中矢印Z1方向)への移動を開始する。これに伴い、ガス圧縮機6から供給される高圧の冷媒ガスは、前記の経路を経て第1段目膨張室15及び第2段目膨張室25内に供給(吸入)されていく。そして、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21が121°に達した時点で吸気バルブ7は閉弁され、ガス供給系5からGM冷凍機1への冷媒ガスの供給が停止される。
【0033】
吸気バルブ7の閉弁後、更に第1及び第2段目ディスプレーサ11,21が上動して170°に達すると、ロータリバルブは排気バルブ8を開弁する。この際、吸気バルブ7は閉弁された状態を維持する。これにより、第1及び第2段目膨張室15,25内の冷媒ガスは膨張し各膨張室15,25内で寒冷が発生する。
【0034】
排気バルブ8が開弁した後、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21は、駆動装置3に駆動されて上死点に至り、上方(図中矢印Z1方向)に向けた移動が停止する(移動速度がゼロとなる)。その後、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21は、下方(図中矢印Z2方向)への移動を開始する。これに伴い、第2段目膨張室25で膨張した冷媒ガスは、ガス流路L4を通り蓄冷器22内に流入し、蓄冷器22内の蓄冷材23を冷却しつつ通過し、ガス流路L3を介して第1段目膨張室15に流入する。
【0035】
第1段目膨張室15に流入した冷媒ガスは、第1段目膨張室15で膨張した冷媒ガスと共に、ガス流路L2を介して蓄冷器12に流入する。蓄冷器12に流入した冷媒ガスは、蓄冷材13を冷却しつつ進行し、そしてガス流路L1、ガス流路9、排気バルブ8を介してガス供給系5のガス圧縮機6に回収されていく。そして、第1及び第2段目ディスプレーサ11,21が340°に達した時点で排気バルブ8は閉弁され、GM冷凍機1からガス供給系5への冷媒ガスの回収(吸入)処理は停止される。
【0036】
以上のサイクルを繰り返し行うことにより、第1段目膨張室15では20〜50K程度の寒冷を発生することができ、第2段目膨張室25では4〜10K以下の極低温を発生させることができる。
【0037】
ここで、駆動装置3を構成するスコッチヨーク36に注目し、主に図2及び図3を用いてその構成及び機能について説明する。
【0038】
図3は、スコッチヨーク36を正面視した図である。前記のように、スコッチヨーク36にはX1,X2方向に延在するスライド溝38が形成されている。従来のスコッチヨークのスライド溝は、横長の矩形状とされたものが一般的である。
【0039】
これに対して本実施形態では、スライド溝38のディスプレーサ11,21の下死点に対応する位置(図3に矢印Aで示す位置。以下、下死点対応位置Aという)に凸状部39を設けた構成としている。また、スライド溝38のディスプレーサ11,21の上死点に対応する位置(図3に矢印Bで示す位置。以下、上死点対応位置Bという)に凹状部45が設けられている。
【0040】
スライド溝38は、下部にX1,X2方向に直線状に延在する下部水平部40(直線状部)を有し、上部に同様にX1,X2方向に直線状に延在する上部水平部41(直線状部)を有している。凸状部39は、下部水平部40の略中央位置に上方(Z1方向)に突出するよう形成されている。また、凹状部45は、上部水平部41の略中央位置に上方(Z1方向)に向け窪むよう形成されている。
【0041】
ここで、鉛直方向(Z1,Z2方向)に延在し、下死点対応位置Aを通る線分を想定する。この線分は図3に一点鎖線で示す線分であり、以下の説明においてこの線分を中心線Zというものとする。前記した駆動アーム37は、この中心線Zと一直線状となるよう構成されている。
【0042】
凸状部39は、図中矢印Oで示す位置(以下、この位置を中心点Oという)を中心とした円弧形状とされ、円形状部を形成した構成とされている。
【0043】
本実施形態では、凸状部39の形状は中心線Zを中心として図中矢印X1方向側及び矢印X2方向側で対称な形状とされている。
【0044】
従って、凸状部39のX1方向側の端部と中心点Oとを結ぶ線分を線分Cとし、凸状部39のX2方向側の端部と中心点Oとを結ぶ線分を線分Dとすると、線分Cと中心線Zとがなす角度θ1と、線分Dと中心線Zとがなす角度θ2は等しくなる(θ1=θ2)。
【0045】
この角度θ1〜θ2の大きさは特定されるものではないが、本実施形態ではθ1=θ2=30°、に設定している。しかしながら、これらの角度はこれに限定されるものではなく、例えば20°≦(θ1=θ2)≦40°の範囲で設定してもよい。
【0046】
なお、凸状部39の形成範囲を規定する角度θ1,θ2は、必ずしも上記のように同一角度に設定する必要はなく、異ならせた構成(θ1≠θ2)とすることも可能である。
【0047】
次に、上記構成とされたスコッチヨーク36を有するスコッチヨーク機構32を用いた各ディスプレーサ11,21の動作について、図4及び図5を用いて説明する。
【0048】
図4は、ディスプレーサ11,21の移動曲線図である。また、図5はスライド溝38内におけるコロ軸受け35の動作を示している。
【0049】
なお、図4において横軸はクランク部材34の回転角度(クランク角度)を示し、縦軸は第2段目ディスプレーサ21の偏移(移動量)を示している。また、本実施形態に係るGM冷凍機1の特性を実線で示し(図中、矢印A示す)、凸状部39及び凹状部45を有しない従来のGM冷凍機の特性を一点鎖線で示している(図中、矢印Bで示す)。
【0050】
本実施形態に係るスコッチヨーク機構32は、クランク角度0°が下死点(BDC)前30°に設定されている。よって、クランク角度0°の時のコロ軸受け35のスライド溝38内の位置は、図5(A)に示すように、下部水平部40と凸状部39との境界に位置している。
【0051】
この状態からクランク部材34が30°回転すると、これに伴いコロ軸受け35はスコッチヨーク36を下方(Z2方向)に向けて移動付勢する。この動作に伴い、コロ軸受け35はスライド溝38内をX2方向に移動する。よってコロ軸受け35は、凸状部39に係合しつつスライド溝38内をX2方向に移動する。具体的には、コロ軸受け35はその移動に伴い凸状部39と係合し、凸状部39に乗り上げたような状態となる。
【0052】
前記のように、コロ軸受け35が取り付けられたクランクピン34aはクランク部材34の中心に対して偏心した位置にあるため、コロ軸受け35の移動に伴い、スコッチヨーク36はZ2方向に移動する。また、スコッチヨーク36には駆動アーム37を介してディスプレーサ11,21が接続されている。このため、スコッチヨーク36の移動に伴い、ディスプレーサ11,21もZ2方向へ移動する。
【0053】
ここで、スコッチヨーク36の移動速度(これは、ディスプレーサ11,21の移動速度と等価)に注目する。
【0054】
凸状部39は、下部水平部40よりも突出している。よって、単位時間におけるスコッチヨーク36の移動量は、コロ軸受け35が従来の水平部46に係合しているときの移動量に比べ、コロ軸受け35が凸状部39と係合しているときの移動量の方が大きくなる。
【0055】
換言すると、コロ軸受け35の移動によりスコッチヨーク36が下方(Z2方向)に移動する移動速度V1(図4参照)は、コロ軸受け35が従来の下部水平部46と係合しているときのスコッチヨーク36の移動速度V1Bに比べて速くなる(V1>V1B)。
【0056】
図5(B)は、クランク角度が30°の状態を示している。本実施形態では、クランク角度が30°時がディスプレーサ11,21の下死点(BDC)となるよう設定している。このため、下死点(BDC)において、コロ軸受け35は凸状部39の頂点部(中央位置)に位置している。
【0057】
クランク部材34の回転に伴い、コロ軸受け35がディスプレーサ11,21の下死点(BDC)に対応する位置を過ぎると、スコッチヨーク36の移動方向は反転する。即ち、
下死点(BDC)を過ぎるとスコッチヨーク36は上方(Z1方向)に向けた移動を開始する。
【0058】
このとき、クランク角度が下死点(BDC)からその後30°の間、コロ軸受け35は凸状部39と係合した状態を維持する。具体的には、コロ軸受け35は凸状部39(具体的には、中心線ZよりもX2方向側の部分)と係合した状態を維持しつつ移動して水平部40,41と対向する位置に至る(この状態を図5(C)に示す)。
【0059】
よって、コロ軸受け35の移動によりスコッチヨーク36が上方(Z1方向)に移動する移動速度V2(図4参照)は、コロ軸受け35が従来の水平部46と係合しているときのスコッチヨーク36の移動速度V2Bに比べて速くなる(V2>V2B)。これは、コロ軸受け35が図5(A)に示す状態から図5(B)に示す状態に移動するときと同様である。
【0060】
更に、クランク部材34が回転すると、図5(D)に示すように、スライド溝38内の水平部40,41と対向する位置に移動する。この時の、スコッチヨーク36がZ1方向の移動速度をV3とする。このスコッチヨーク36の移動速度V3は、コロ軸受け35が水平部40と係合しているため、従来の移動速度V3Bと略同等である。
【0061】
また、上記したように本実施形態では、凸状部39の形状は中心線Zを介して対称形状となっている。よって、下死点対応位置Aの前後30°におけるスコッチヨーク36の移動速度V1,V2は、その方向は異なるが絶対値は等しくなる。なお、凸状部39の形状は中心線Zを介して対称形状とした場合、スコッチヨーク36の製造を容易化することができる。
【0062】
また、上記したように本実施形態では、円弧形状の凸状部39は水平部40と直接に連結される構造になっているが、コロ軸受け35が円滑に移動するため、円弧形状の凸状部39と水平部40の間に円滑な連結部(例えば、直線)があってもいい。
【0063】
図5(E)〜図5(G)は、コロ軸受け35が凹状部45と係合しているときの動作を示している。凹状部45は水平上部41に対して窪んだ形状とされている。この凹状部45は、コロ軸受け35が凹状部45と係合している間、スコッチヨーク36(ディスプレーサ11,21)の移動速度V4は、コロ軸受け35が従来の水平部47と係合しているときのスコッチヨーク36の移動速度V4Bに比べて遅くなる(V4<V4B)。
【0064】
また、この凹状部45は上死点対応位置Bとなる位置を中心として、クランク部材34のクランク角にして±30°にわたり形成されている。従って、図4に示されるように、上死点(TDC)を中心として±30°の範囲におけるディスプレーサ11,21の移動速度V4はコロ軸受け35が従来の水平部47と係合しているときのスコッチヨーク36の移動速度V4Bに比べて遅くなる(V4<V4B)。
【0065】
そして、図5(G)に示す状態から、更にクランク部材34が回転すると、図5(H)に示すように、コロ軸受け35はスライド溝38内の水平部40,41と対向する位置に移動する。これにより、スコッチヨーク36は移動を開始し、これに伴いディスプレーサ11,21も移動を開始する。
【0066】
この時のスコッチヨーク36のZ1方向の移動速度をV5とすると、この移動速度V5はコロ軸受け35が水平部41と係合しているため、従来の移動速度V5Bと略同等である。
【0067】
上記の説明から明らかなように本実施形態に係るGM冷凍機1は、ディスプレーサ11,21の下死点における移動速度V1,V2が上死点における移動速度V4よりも速くなるよう設定されている(V1>V4,V2>V4)。よって、図4に示されるように、従来のGM冷凍機のディスプレーサの移動曲線(図中、矢印Bで示す一点鎖線)に比べ、本実施形態に係るディスプレーサの移動曲線(図中、矢印Aで示す実線)は、下死点近傍において急峻な特性となっている。
【0068】
ここで、「ディスプレーサ11,21の下死点における移動速度」とは、スライド溝38に凸状部39が形成された範囲におけるディスプレーサ11,21の移動速度をいうものとする。また、「上死点における移動速度」とは、スライド溝38に凹状部45が形成された範囲におけるディスプレーサ11,21の移動速度をいうものとする。
【0069】
また本実施形態では、ディスプレーサ11,21が下死点(BDC)前30°に達した時点で吸気バルブ7が開弁される構成とされている。よって本実施形態では、吸気バルブ7が開弁されると同時に、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度がV5からV1に変化する(従来のV1Bより速くなる)。
【0070】
なお、本実施形態では上死点近傍でディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度が変化するタイミングと、吸気バルブ7が開弁されるタイミングが同時となるよう設定しているが、吸気バルブ7の開弁のタイミングは、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度が変化するタイミングよりも早く設定することも可能である。
【0071】
この構成した場合には、吸気バルブ7が開弁したときからディスプレーサ11,21が下死点に至るときまでの間に、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度が速なる構成となる。
【0072】
更に本実施形態では、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)が下死点に至ったときから、排気バルブ8を開弁するときまでの間に、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度は従来のディスプレーサの移動速度と略同等になる。具体的には、ディスプレーサ11,21(スコッチヨーク36)の移動速度は、クランク角度が30°において移動速度V2から移動速度V3に変化され、従来の移動速度V3Bと略同等になる。なお、本実施形態における吸気バルブ7はクランク角度が121°で閉弁される。
【0073】
次に、ディスプレーサ11,21の下死点における移動速度V1,V2を上死点における移動速度V4よりも速く設定することによる作用効果について説明する。
【0074】
前記のように吸気バルブ7が開弁することにより、GM冷凍機1にはガス供給系5から高圧の冷媒ガスが供給される。冷媒ガスは、高圧になると密度が大きくなる特性を有している。よって、冷媒ガスは高圧とすることにより圧力損失を小さくすることができる。
【0075】
また本実施形態のように、ディスプレーサ11,21の下死点における移動速度V1,V2を速めることにより、ガス供給系5からGM冷凍機1内へのガス供給量を増大させることができる。このように、GM冷凍機1内へのガス供給量を増大させても、冷媒ガスは高圧であるため圧力損失を小さい。このため、大量の冷媒ガスをGM冷凍機1内に効率よく供給することが可能となる。
【0076】
よって、冷媒ガスをGM冷凍機1に供給し、吸気バルブ7を閉弁した後に排気バルブ8を開弁した際、大量の冷媒ガスを膨張させることが可能となる。これにより、GM冷凍機1の冷却効率を高めることが可能となる。
【0077】
このように、GM冷凍機1に対して高圧の冷媒ガスを効率よく供給するためには、吸気バルブ7が開弁したときからディスプレーサ11,21が下死点に至るときまでの間に、ディスプレーサ11,21の移動速度を速くする構成することが望ましい。
【0078】
図6は、本実施形態に係るGM冷凍機1のP−V線図(矢印Aで示す特性)と、比較例としてスライド溝38に凸状部39を設けないGM冷凍機のP−V線図(図中、矢印Bで示す特性)とを並べて示している。
【0079】
P−V線図において、GM冷凍機の1サイクル間に発生する寒冷量は、P−V線図で囲まれる面積に相当する。そこで図6を見ると、本実施形態に係るGM冷凍機1のP−V線図の面積は、比較例に係るGM冷凍機のP−V線図の面積よりも広くなっていることが分かる。よって図6により、本実施形態に係るGM冷凍機1は、比較例に比べて冷却効率が高いことが実証された。
【0080】
また、図7は本実施形態に係るGM冷凍機1の冷却温度を比較例に係るGM冷凍機の冷却温度と比較して示す図である。いずれのGM冷凍機においても、第1段目膨張室の近傍温度と、第2段目膨張室の近傍温度を測定した。
【0081】
同図に示すように、比較例に係るGM冷凍機の1段目の温度が46.2Kであったのに対し、本実施形態に係るGM冷凍機の1段目の温度は45.1Kであった。また、比較例に係るGM冷凍機の2段目の温度が4.26Kであったのに対し、本実施形態に係るGM冷凍機の2段目の温度は4.19Kであった。このように、図7からも、本実施形態に係るGM冷凍機1は、比較例に比べて冷却効率が高いことが実証された。
【0082】
図8は、上記した実施形態の変形例であるGM冷凍機のスコッチヨーク機構48を示している。同ずでは、スコッチヨーク機構48のスコッチヨーク49を拡大して示している。なお、図8において、図1乃至図5に示した構成と対応する構成については同一符号を付して、その説明は省略する。
【0083】
図1乃至図5に示したGM冷凍機1に設けられたスコッチヨーク機構32は、スコッチヨーク36の上部水平部41に凹状部45を設けた構成とした。これに対して本変形例では、上部水平部41に凹状部45を設けることなく、平らな構成としたことを特徴とするものである。
【0084】
図9は、図8に示すスコッチヨーク49を用いたGM冷凍機のディスプレーサ11,21の移動曲線図である。本変形例に係るGM冷凍機では、上部水平部41に凹状部45を設けられていないため、上死点近傍においてディスプレーサ11,21が停止することはなく、その移動は単振動的な移動となる。
【0085】
いま、上死点(TDC)前30°から上死点に至るまでのディスプレーサ11,21の移動速度をV4aとし、上死点から上死点(TDC)後30°までのディスプレーサ11,21の移動速度をV4bとする。
【0086】
前記のように下死点(BDC)近傍におけるディスプレーサ11,21の移動速度V1,V2は、コロ軸受け35が下部水平部40に形成された凸状部39と係合するため、その速度はコロ軸受け35が水平部40,41と係合しているときの速度に比べて速くなる。よって、本変形性の構成によっても、下死点近傍おけるディスプレーサ11,21の移動速度V1,V2は、上死点近傍におけるディスプレーサ11,21の移動速度V4a,V4bよりも速くなる。
【0087】
従って、本変形例に係るGM冷凍機の構成としても、前記した実施形態に係るGM冷凍機1と同様に、冷却効率の向上を図ることができる。
【0088】
なお、本実施形態では凸状部39が円弧状である例について説明したが、凸状部39の形状はこれに限定されるものではなく、水平下部40よりも上側に突出した形状であれば良く、例えば、複数の直線又は曲線を組み合わせて凸状部39を構成しても良い。
【0089】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0090】
図10は、第2実施形態であるGM冷凍機50を示している。本実施形態では一段式のGM冷凍機を例に挙げて説明する。
【0091】
GM冷凍機50は、駆動装置51、ディスプレーサ52、シリンダ54、冷却ステージ55、蓄冷器57、及び圧縮機62等を有している。本実施形態に係るGM冷凍機50は、ディスプレーサ52を駆動する駆動装置51として、ガス駆動方式を適用していることを特徴としている。
【0092】
ディスプレーサ52は、ディスプレーサ本体52A、低温側熱伝導部52B、及び蓄冷器57等を有した構成とされている。ディスプレーサ本体52Aは有底筒状とされており、その内部には蓄冷材が収納された蓄冷器57が設けられている。
【0093】
蓄冷器57の高温側(図中、上方が高温側となる)には、冷媒ガスの流れを整流する整流器59が設けられている。また、蓄冷器57の低温側(図中、下方が低温側となる)にも、冷媒ガスの流れを整流する整流器60が設けられている。
【0094】
ディスプレーサ52の高温端に位置する天板部52Dには、冷媒ガスを室温室58から蓄冷器57に流すための流路61が複数形成されている。室温室58は、ディスプレーサ52の天板部52Dとシリンダ54の天板部54Aとの間に形成されている。
【0095】
この室温室58は、圧縮機62と接続されている。具体的には、室温室58には圧縮機62のサプライ側に接続されたサプライ配管67、及び圧縮機62のリターン側に接続されたリターン配管68が接続されている。サプライ配管67は、吸気バルブ63(バルブV1ということもある)を介して室温室58に接続されている。またリターン配管68は、排気バルブ64(バルブV2ということもある)を介して室温室58に接続されている。なお、各配管67,68は、各バルブ63,64の下流側で一本になって室温室58に接続されている。
【0096】
従って、吸気バルブ63が開弁する共に排気バルブ64が閉弁することにより、圧縮機62で生成された高圧の冷媒ガスは室温室58に供給される。逆に、吸気バルブ63が閉弁すると共に排気バルブ64が開弁することにより、室温室58から圧縮機62に冷媒ガスは還流される。
【0097】
ディスプレーサ52の低温端には、低温側熱伝導部52Bが設けられている。また、ディスプレーサ本体52Aと低温側熱伝導部52Bとの間には、蓄冷器57と膨張空間53を連通する第2流路66が形成されている。この低温側熱伝導部52Bは、ピン56を用いてディスプレーサ本体52Aに結合されている。
【0098】
膨張空間53は、シリンダ54とディスプレーサ52(低温側熱伝導部52B)との間に形成されている。この膨張空間53には、圧縮機62から高圧の冷媒ガスが導入される。また、導入された冷媒ガスが断熱膨張することにより、膨張空間53内で寒冷が発生するよう構成されている。
【0099】
シリンダ54は、その内部にディスプレーサ52を移動可能に収容する。このシリンダ54は、有底筒状の形状を有しており、開口側となる低温端部に冷却ステージ55が配設されている。この冷却ステージ55は被冷却物に熱的に接続されており、膨張空間53で寒冷が発生することにより発生被冷却物は冷却される。
【0100】
また、シリンダ54とディスプレーサ52との間にはシール65が装着されている。このシール65により、圧縮機62から供給された冷媒ガスがディスプレーサ52とシリンダ54との間の間隙を通り膨張空間53に流入することを防止する。
【0101】
このシリンダ54の高温端には、ディスプレーサ52を駆動する駆動装置51が設けられている。駆動装置51は、駆動ピストン52E、駆動室70、駆動用高圧バルブ71、駆動用低圧バルブ72等を有した構成とされている。また本実施形態では、圧縮機62で生成される高圧の冷媒ガスを駆動ガスとして使用している。
【0102】
駆動ピストン52Eは、駆動室70のディスプレーサ側の壁を構成すると共に、ディスプレーサ52と一体的な構成とされている。駆動ピストン52Eは、例えばディスプレーサ52の天板部52Dの中央位置から上方に向けて突出するよう設けることができる。よって、駆動ピストン52Eが上下に移動すると、これに伴いディスプレーサ52もシリンダ54内で上下移動を行う。
【0103】
駆動室70は、シリンダ54の天板部54Aの中央位置に形成されている。この駆動室70は天板部54Aから上方に突出した構成とされており、前記した駆動ピストン52Eは駆動室70内で上下方向(シリンダ54の軸方向)に移動可能な構成とされている。
【0104】
また駆動室70内の所定位置には、シール73が配設されている。このシール73は、駆動室70の内壁とディスプレーサ52Eとの間に配設されている。これにより、駆動室70は、室温室58に対し気密に画成された構成となる。また、シール73を設けることにより、駆動ピストン52Eは駆動室70の気密状態を維持しつつ上下移動を行うことが可能となる。
【0105】
更に、駆動室70は、圧縮機62と接続されている。具体的には、駆動室70にはサプライ配管67及びリターン配管68が接続されている。サプライ配管67は、駆動用高圧バルブ71(バルブV3ということもある)を介して駆動室70に接続されている。またリターン配管68は、駆動用低圧バルブ72(バルブV4ということもある)を介して駆動室70に接続されている。なお、各配管67,68は各バルブ71,72の下流側で一本になって駆動室70に接続されている。
【0106】
従って、駆動用高圧バルブ71が開弁すると共に駆動用低圧バルブ72が閉弁することにより、圧縮機62で生成された高圧の冷媒ガスは駆動室70に供給され、駆動室70内の圧力(以下、この圧力をP2という)は高くなる。逆に、駆動用高圧バルブ71が閉弁すると共に駆動用低圧バルブ72が開弁することにより、駆動室70内の冷媒ガスは圧縮機62に還流され、駆動室70内の圧力P2は低くなる。
【0107】
このように、駆動室70内の圧力P2は、駆動用高圧バルブ71及び駆動用低圧バルブ72の開閉により制御することができる。一方、シリンダ54内の圧力(以下、この圧力をP1という)は、吸気バルブ63及び排気バルブ64の開閉により制御することができる。
【0108】
よって、各バルブ63,64,71,72の開閉制御により、シリンダ54内の圧力P1が駆動室70内の圧力P2よりも大きくなると(P1>P2)、ディスプレーサ52は上動(上死点方向への移動)を行う。逆に、シリンダ54内の圧力P1が駆動室70内の圧力P2よりも小さい場合(P1<P2)には、ディスプレーサ52は下動(下死点方向への移動)を行う。このように、本実施形態に係るGM冷凍機50は、駆動装置51によりディスプレーサ52を駆動する構成としている。
【0109】
なお、上記した各バルブバルブ63,64,71,72(バルブV1,V2,V3,V4)は、ロータリバルブとして一体構成とされており、ロータリバルブが1回転(360°の回転)することによりディスプレーサ52が1回往復移動する(1サイクルの動作を行う)構成とされている。
【0110】
次に、図11を参照し、上記構成とされたGM冷凍機50の動作について説明する。
【0111】
図11は、本実施形態に係るGM冷凍機50の動作を示している。図11(A)は本実施形態であるGM冷凍機50のバルブタイミングを示し、図11(B)はGM冷凍機50におけるディスプレーサ52の移動を示している。
【0112】
なお、図11(A)において、太い実線で示すのは各バルブ63,64,71,72(バルブV1,V2,V3,V4)が開弁している期間であり、また横軸はロータリバルブの回転角度(以下、単にバルブ回転角度という)を示している。また、図12(B)において、横軸はロータリバルブの回転角度を示し、縦軸はディスプレーサ52の変位量を示している。
【0113】
図11(A)を参照すると、バルブ回転角度が0°であるとき、駆動装置51を構成する駆動用高圧バルブ71(V3)のみが開弁し、他のバルブ72,63,64(V1,V2,V4)は閉弁した状態となっている。よって、圧縮機62で昇圧された冷媒ガスは、駆動用高圧バルブ71(V3)を通り駆動室70に供給される。
【0114】
このため、駆動室70内の圧力P2はシリンダ54内の圧力P1よりも大きくなる(P1<P2)。従ってディスプレーサ52は、下死点(BDC)に向けて下動を行う。ここで、この下動時におけるディスプレーサ52の移動速度をVC1とする。
【0115】
本実施形態に係るGM冷凍機50は、下死点(BDC)をバルブ回転角度90°よりも早い角度に設定している。また、吸気バルブ63(V1)は、下死点(BDC)よりも早いバルブ回転角度θ1で開弁するよう設定している。更に、駆動用高圧バルブ71(V3)は、バルブ回転角度θ1と下死点(BDC)との間であるバルブ回転角度θ2で閉弁されるよう設定されている。
【0116】
このように、駆動用高圧バルブ71(V3)が閉弁されると共に、吸気バルブ63(V1)が開弁されると、吸気バルブ63(V1)を介して圧縮機62から高圧の冷媒ガスがシリンダ54内(室温室58及び膨張空間53)に導入される。これにより、シリンダ54内の圧力P1は上昇する。
【0117】
また、ディスプレーサ52が下死点(BDC)に至ると、駆動用低圧バルブ72(V4)が開弁される。これにより駆動室70はリターン配管68に接続されるため、その内部圧力P2は低くなる。従って、シリンダ54内の圧力P1は、駆動室70内の圧力P2よりも高くなり、ディスプレーサ2は上死点(TDC)に向けて上動を行う。ここで、上動時におけるディスプレーサ52の移動速度をVC2とする。
【0118】
このディスプレーサ52の上動に伴い、圧縮機62で生成された高圧の冷媒ガスは、室温室58、流路61、蓄冷器57、及び第2流路66を通り膨張空間53に流入する。この際、冷媒ガスは蓄冷器57内の蓄冷材により冷却が行われる。
【0119】
吸気バルブ63(V1)は、バルブ回転角度θ3で閉弁する。このバルブ回転角度θ3の時点で、シリンダ54内は高圧の冷媒ガスが充填されており、内部圧力P1は高い状態を維持している。また、駆動用低圧バルブ72(V4)はバルブ回転角度θ3においても開弁状態を維持し、よって駆動室70内の圧力P2は低い状態となっている。このため、バルブ回転角度θ3においても、ディスプレーサ52は上動を維持する。
【0120】
本実施形態では、バルブ回転角度180°で排気バルブ64(V2)を開弁する構成としている。排気バルブ64(V2)が開弁されることにより、膨張空間53内の冷媒ガスは膨張し、これにより膨張空間53内に寒冷が発生する。この膨張空間53に発生した寒冷により、冷却ステージ55に接続された被冷却物は冷却される。
【0121】
上記のように排気バルブ64(V2)が開弁された後も、駆動用低圧バルブ72(V4)は開弁した状態を維持する。排気バルブ64(V2)が開弁されることによりシリンダ54内の圧力P2は低い圧力となる。同様に、駆動用低圧バルブ72(V4)が開くことにより、駆動室70内の圧力P2も低い圧力となっている。更にこの状態では、シリンダ54内に形成された空間部(膨張空間53及び室温室58等)及び駆動室70は、いずれもリターン配管68に接続されている。
【0122】
従って、排気バルブ64(V2)と駆動用低圧バルブ72(V4)が共に開弁した状態では、シリンダ54内の圧力P1と駆動室70内の圧力P2は略等しくなる(P1≒P2)。このように、シリンダ54内の圧力P1と駆動室70内の圧力P2とが略等しい状態では、ディスプレーサ52は略停止した状態を維持する。よって、この時のディスプレーサ52の速度をVC3とすると、VC3≒0となる。
【0123】
駆動用低圧バルブ72(V4)は、バルブ回転角度θ4において閉弁される。また、駆動用低圧バルブ72(V4)が閉弁されると、その後バルブ回転角度θ5において駆動用高圧バルブ71(V3)が開弁される。
【0124】
駆動用低圧バルブ72(V4)が閉弁し、駆動用高圧バルブ71(V3)が開弁することにより、駆動室70には圧縮機62から高圧の冷媒ガスが流入し、よって駆動室70内の圧力P2は上昇する。一方、バルブ回転角度θ5においても、排気バルブ64(V2)は開弁された状態を維持し、シリンダ4内の圧力P1は低い状態となっている。よって、駆動用高圧バルブ71(V3)が開弁することにより、駆動ピストン52Eは下動付勢され、ディスプレーサ52は下死点に向けて下動を開始する。この時のディスプレーサ52の速度をVC4とする。
【0125】
排気バルブ64(V2)が開弁している状態においてディスプレーサ52が下動すると、膨張空間53及び室温室58等のシリンダ54内の冷媒ガスは、リターン配管68を介して圧縮機62に還流される。
【0126】
その後、バルブ回転角度θ6において、排気バルブ64(V2)は閉弁される。これにより、圧縮機62からの高圧の冷媒ガスは駆動用高圧バルブ71(V3)を介して駆動室70のみに供給され、よってディスプレーサ52の下動速度は前記したVC1となる。
【0127】
上記の説明から明らかなように本実施形態に係るGM冷凍機50においても、ディスプレーサ52の下死点(BDC)近傍における移動速度VC1,VC2は、上死点(TDC)近傍における移動速度VC3よりも速くなる(VC1>VC3,VC2>VC3)。
【0128】
これは、本実施形態では駆動用高圧バルブ71(V3)の開弁時間に対して、駆動用低圧バルブ72(V4)の開弁時間を長く設定していることによる。具体的には、駆動用高圧バルブ71(V3)は1サイクル(360°)中にバルブ回転角度θ5〜θ2の間(約120°)開弁しているのに対し、駆動用低圧バルブ72(V4)はバルブ回転角度BDC〜θ4の間(約245°)開弁している。
【0129】
このように、駆動用高圧バルブ71(V3)が開弁している時間に比べ、駆動用低圧バルブ72(V4)が開弁している時間を長くすることにより、駆動用低圧バルブ72(V4)と吸気バルブ63(V1)が共に開弁している時間(BDC〜θ3)、及び駆動用低圧バルブ72(V4)と排気バルブ64(V2)が共に開弁している時間(180°〜θ4)を長くすることができる。
【0130】
即ち、駆動用低圧バルブ72(V4)と吸気バルブ63(V1)が共に開弁している時間(BDC〜θ3)が長くなることにより、ディスプレーサ52が上動する速度VC2を速くすることができる。また、駆動用低圧バルブ72(V4)と排気バルブ64(V2)が共に開弁している時間(180°〜θ4)が長くなることにより、ディスプレーサ52の速度が遅くなり、相対的に下死点(BDC)近傍における速度を速めることができる。
【0131】
このように本実施形態においても、第1実施形態と同様にディスプレーサ52下死点(BDC)における移動速度V1,V2を速めることができるため、大量の冷媒ガスをGM冷凍機50(膨張空間53)内に効率よく供給することが可能となる。よって、寒冷発生時に膨張空間53内において大量の冷媒ガスを膨張させることが可能となり、GM冷凍機50の冷却効率を高めることが可能となる。
【0132】
図12は、上記した第2実施形態に係るGM冷凍機50の変形例であるGM冷凍機80を示している。
【0133】
なお、図12において、図10に示した第2実施形態に係るGM冷凍機50と対応する構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0134】
本変形例に係るGM冷凍機80は、サプライ配管67の駆動用高圧バルブ71と駆動室70との間に、流体抵抗となる流路抵抗バルブ81を設けたことを特徴としている。この流路抵抗バルブ81は、弁開度を調整可能な電磁弁を用いることができる。流路抵抗バルブ81を設けることにより、サプライ配管67の駆動用高圧バルブ71と駆動室70との間の流路抵抗を大きくすることが可能となる。
【0135】
これにより、シリンダ54から冷媒ガスを圧縮機62へ還流する吸気時において、シリンダ54内の圧力P1と駆動室70内の圧力P2との差圧を小さくすることができ、上死点(TDC)近傍におけるディスプレーサ52の移動速度を更に遅くすることができる。また、流路抵抗81を設けることにより、駆動室70へガス導入する速度が遅くなるため、駆動室70内の圧力が高圧まで上昇する時間が長くなる。それにより、バルブV1が開くときにシリンダ54内の圧力P1を駆動室70内の圧力P2より大きくすることができ、下死点(BDC)近傍におけるディスプレーサ52の移動速度を更に早めることができる。よって、更に冷却効率を高めることができる。
【0136】
なお、流体抵抗は電磁弁に限定されるものではなく、オリフィス等の他のものを用いることも可能である。
【0137】
図13は、本発明の第3実施形態であるGM冷凍機90を示している。
【0138】
なお、図13においても、図10に示した第2実施形態に係るGM冷凍機50と対応する構成については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0139】
本実施形態に係るGM冷凍機90は、駆動装置91としてリニアモータを用いたことを特徴とするものである。この駆動装置91は、マグネット92、駆動コイル93、及び制御装置94等を有している。
【0140】
マグネット92は、N極とS極が所定ピッチで交互に着磁された棒状の磁石である。このマグネット92は、ディスプレーサ52の天板部52Dの中央部に上方に向けて突出するよう設けられている。
【0141】
駆動コイル93は、複数の電磁石により構成されている。この各電磁石は、電流を流すことにより磁力を発生する。マグネット92は、駆動コイル93の中心部に形成された空間内に上下方向に移動可能に挿通される。この駆動コイル93は、制御装置94に接続されている。
【0142】
制御装置94は、駆動コイル93の駆動制御を行うものである。具体的には、制御装置94は、駆動コイル93に供給する電流の大きさ及びその流れ方向を可変する。前記のようにマグネット92は、N極とS極が所定ピッチで交互に着磁されている。よって制御装置94が駆動コイル93を構成する複数の電磁石の磁極が順次変化するよう制御することにより、マグネット92は直線移動を行う。
【0143】
マグネット92は、ディスプレーサ52に固定されている。よって、駆動コイル93によりマグネット92が移動されることにより、ディスプレーサ52も移動を行う。よって、駆動装置91によりディスプレーサ52を駆動することができる。
【0144】
駆動装置91によるディスプレーサ52の移動は、駆動コイル93に流す電流の大きさ及びその流れ方向を制御することにより調整することが可能である。本実施形態では、制御装置94にマイクロコンピュータを組み込んでおり、またディスプレーサ52を図4に実線で示す移動を行うよう設定されたプログラムも組み込まれている。
【0145】
よって、制御装置94で駆動コイル93を制御することにより、ディスプレーサ52は図4に実線で示す移動を行う。これにより、駆動装置91としてリニアモータを使用した本実施形態においても、第1実施形態と同様にディスプレーサ52下死点(BDC)における移動速度V1,V2を速めることができるため、大量の冷媒ガスをGM冷凍機50(シリンダ4)内に効率よく供給することが可能となる。よって、寒冷発生時に膨張空間53内において大量の冷媒ガスを膨張させることが可能となり、GM冷凍機90の冷却効率を高めることができる。
【0146】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0147】
1,50,80,90 GM冷凍機
3,51,91 駆動装置
5 ガス供給系
6 ガス圧縮機
7,63 吸気バルブ
8,64 排気バルブ
9 ガス流路
10 第1段目シリンダ
11 第1段目ディスプレーサ
12,22,57 蓄冷器
13,23 蓄冷材
15 第1段目膨張室
20 第2段目シリンダ
21 第2段目ディスプレーサ
25 第2段目膨張室
28,55 冷却ステージ
30 モータ
31 モータ軸
32,52 スコッチヨーク機構
34 クランク部材
35 コロ軸受け
36,56 スコッチヨーク
37 駆動アーム
38 スライド溝
39 凸状部
45 凹状部
52 ディスプレーサ
52E 駆動ピストン
53 膨張空間
54 シリンダ
58 室温室
70 駆動室
71 駆動用高圧バルブ
72 駆動用低圧バルブ
81 流路抵抗バルブ
92 マグネット
93 駆動コイル93

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置によりシリンダ内で往復移動されるディスプレーサと、
前記シリンダ内に冷媒ガスを供給する際に開弁される吸気バルブと、
前記シリンダ内から冷媒ガスを排気する際に開弁される排気バルブとを有し、
該ディスプレーサの移動に伴い前記シリンダ内に形成された膨張空間内の冷媒ガスを膨張させることにより寒冷を発生させる極低温冷凍装置であって、
前記ディスプレーサの下死点近傍おける移動速度を上死点近傍における移動速度よりも速くしたことを特徴とする極低温冷凍装置。
【請求項2】
前記吸気バルブが開弁したときから前記ディスプレーサが下死点に至るときまでの間に、前記ディスプレーサの移動速度を速くすることを特徴とする請求項1記載の極低温冷凍装置。
【請求項3】
前記ディスプレーサの下死点を中心とした移動が対称となるよう構成したことを特徴とする請求項1乃至2のいずれか一項に記載の極低温冷凍装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、軸受けと、該軸受けが移動可能に係合するスライド溝を有したスコッチヨークとを具備するスコッチヨーク機構を有し、
該スライド溝の前記ディスプレーサの下死点に対応する位置に凸状部を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の極低温冷凍装置。
【請求項5】
前記凸状部の中央部に円形状部を有することを特徴とする請求項4記載の極低温冷凍装置。
【請求項6】
前記円形状部の両側に直線状部を有することを特徴とする請求項5記載の極低温冷凍装置。
【請求項7】
駆動装置は、
前記ディスプレーサを移動付勢する駆動ガスが供給される駆動室と、開弁されることにより前記駆動室に前記駆動ガスを供給する高圧バルブと、開弁されることにより前記駆動室内の前記駆動ガスを排気する低圧バルブとを有することを特徴する請求項1又は2記載の極低温冷凍装置。
【請求項8】
前記低圧バルブの開弁時間を前記高圧バルブの開弁時間よりも長く設定したことを特徴とする請求項7記載の極低温冷凍装置。
【請求項9】
前記高圧バルブと前記駆動室との間に、流路抵抗を設けたことを特徴とする請求項7又は8記載の極低温冷凍装置。
【請求項10】
前記駆動装置は、前記ディスプレーサに接続されたリニアモータであることを特徴とする請求項1又は2記載の極低温冷凍装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−83428(P2013−83428A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118332(P2012−118332)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)