説明

構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析装置及びテレメトリデータ解析プログラム

【課題】飛翔体のテレメトリデータからカオス力学系に基づく異常疑のある動作を検知するテレメトリデータ解析装置を提供する。
【解決手段】飛翔体のテレメトリデータ群から時系列データ群を切り出すデータ切出部と、時系列データ群の埋め込み次元を算出するデータ前処理部と、時系列データ群からRS及びFTサロゲートデータ群を作成するサロゲートデータ作成部と、時系列データ群とRS及びFTサロゲートデータ群とから非線形統計量を推定する非線形統計量推定部と、非線形統計量に関する有意性検定を行い、時系列データ群がカオス的であるか否かを判定するデータ検定部と、カオス的であると判定された時系列データ群の非線形統計量と過去の時系列データ群の非線形統計量との差から、飛翔体の異常疑のある動作を検出する異常疑検出部と、データ前処理部に対して、飛翔体の構造が変化する度に、時系列データ群の埋め込み次元を算出させる制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットなどの構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータを解析して、飛翔体の異常疑のある動作を検出するテレメトリデータ解析装置及びテレメトリデータ解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
飛行中のロケット、軌道上の人工衛星、無人宇宙船や有人宇宙船の状態は、これらの飛翔体から送信されるテレメトリデータを通して、地上の観測基地において常時観測されている。テレメトリデータとは、飛翔体の状態を表す各種の掲載機器から送信される時系列データのことであり、主なものとしては、各種搭載機器の電圧や電流、動作のオンオフ状態、飛翔体の各部の温度や圧力、送受信装置の送受信電力、飛翔体の外部環境に関する情報などのデータがある。これらのデータは各々、飛翔体に搭載されたテレメータ送信機のエンコーダにて収集され、一定のフォーマットにて地上の観測基地に送信される。図10に示すように、観測基地Bにおいては、飛翔体(ロケットR)から送信された各種テレメトリデータS〜Sをアンテナ等の受信装置A(A〜A)にて受信した後、信号号復調変換装置D(D〜D)にて復調し、A/D変換や各種の物理量変換を行う。そして、テレメトリデータ解析装置Zにおいて、変換された時系列データを統計解析や周波数解析したり、データの可視化を行い表示装置Pに表示させたりして、その結果を過去のデータ、設計値、又は予測値などと比較する。このような時系列データ解析により、飛翔体が計画通りに飛行できたことを確認したり、飛翔体の異常な動作を検知したり、また、飛翔体に何らかの事故が発生した場合にはその原因を調査して搭載機器の改良に役立てたりする(特許文献1)。
【0003】
このような従来のテレメトリデータ解析(時系列データ解析)では、解析対象となるテレメトリデータを過去のデータ、設計値、又は予測値と比較したときに差異があまり大きくない場合には、その差異は通常ランダムノイズとして認識される。
【0004】
しかし、近年数理物理学の分野において、一見するとランダムに見える時系列データがカオス力学系における決定論的な法則に従っている場合があることが明らかになってきた。カオス力学系の特徴は、そのダイナミクスがある種の非線形な因果関係に基づいているため、その時系列データがランダムノイズに似た複雑な振る舞いを示す点にある。ある時系列データがカオス力学系に基づく時系列データであるか否かを判定するためには、カオス力学系の特徴量であるフラクタル次元、リャプノフスペクトルなどの非線形統計量を算出したり、カオス力学系に特有なアトラクタ軌道(ストレンジアトラクタ)を相空間にて可視化したりするといったデータ解析を行う必要がある。このような時系列データ解析を特にカオス時系列データ解析といい、現状では主に生体内の各種生理信号、プラント等の状態信号など、各種工学システムの計測データに実用されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開20090105892号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】合原 一幸、池口 徹、山田 泰司、小室 元政著、カオス時系列解析の基礎と応用、産業図書、2000。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ロケット等の飛翔体のテレメトリデータに対する従来のデータ解析では、テレメトリデータが一見するとランダムに見えるような時系列データであった場合には、その中に潜む非線形性に基づく決定論的な要因、つまり飛翔体の動作における何らかのカオス力学系、の存在を見逃してしまう可能性があった。このことは、従来の飛翔体のテレメトリデータ解析では、カオス力学系に基づく飛翔体の異常疑のある動作を見逃してしまうことを意味する。
【0008】
本発明は、上記の実情を鑑みて為されたものであり、ロケットなどの構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータからカオス力学系に基づく飛翔体の異常疑な動作を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析装置であって、構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータ群から解析対象となる時系列データ群を切り出すデータ切出部と、切り出された時系列データ群を埋め込み可能とする相空間の埋め込み次元を算出するデータ前処理部と、算出された次元を有する相空間に埋め込まれた時系列データ群から可視化情報を算出するデータ可視化処理部と、切り出された時系列データ群から1次統計量を保存する第1のサロゲートデータ群と2次統計量を保存する第2のサロゲートデータ群とを作成するサロゲートデータ作成部と、リアルタイム解析時には、可視化された時系列データ群から非線形統計量を推定し、飛行後解析時には、可視化された時系列データ群と第1及び第2のサロゲートデータ群とから非線形統計量を推定する非線形統計量推定部と、飛行後解析時に、第1及び第2のサロゲートデータ群から推定された非線形統計量を母集団として、可視化された時系列データ群から推定された非線形統計量の有意性検定を行い、切り出された時系列データ群がカオス力学系に従うか否かを判定するデータ検定部と、カオス力学系に従うと判定された時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報と過去の時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報との差を算出し、カオス力学系に基づく飛翔体の異常疑のある動作を検出する異常疑検出部と、前記データ前処理部に対して、飛翔体の構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させる制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、コンピュータを、構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータ群から解析対象となる時系列データ群を切り出すデータ切出手段と、切り出された時系列データ群を埋め込み可能とする相空間の埋め込み次元を算出するデータ前処理手段と、算出された次元を有する相空間に埋め込まれた時系列データ群から可視化情報を算出するデータ可視化処理手段と、切り出された時系列データ群から1次統計量を保存する第1のサロゲートデータ群と2次統計量を保存する第2のサロゲートデータ群とを作成するサロゲートデータ作成手段と、リアルタイム解析時には、可視化された時系列データ群から非線形統計量を推定し、飛行後解析時には、可視化された時系列データ群と第1及び第2のサロゲートデータ群とから非線形統計量を推定する非線形統計量推定手段と、飛行後解析時に、第1及び第2のサロゲートデータ群から推定された非線形統計量を母集団として、可視化された時系列データ群から推定された非線形統計量の有意性検定を行い、切り出された時系列データ群がカオス力学系に従うか否かを判定するデータ検定手段と、カオス力学系に従うと判定された時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報と過去の時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報との差を算出し、カオス力学系に基づく飛翔体の異常疑のある動作を検出する異常疑検出手段と、前記データ前処理手段に対して、飛翔体の構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させる制御手段と、して機能させることを特徴とする構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造可変な飛翔体からの一見するとランダムのように見えるテレメトリデータの中からカオス力学系に基づく決定論的な要因を系統だって見つけ出すことが可能となるので、従来見過ごされていた可能性のある飛翔体の異常疑のある動作を検出することができるようになる。さらに、この装置を飛行後解析に適用した場合には、既に発生してしまった飛翔体の故障の原因を効率良く特定して、将来発生する可能性のある故障を予測することが可能となるので、次号機以降の飛翔体の設計の改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置において解析対象となる多段式ロケットからのテレメトリデータを示す図である。
【図2】図1に示した多段式ロケットから観測基地に送られてくるテレメトリデータの特徴を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置のブロック図である。
【図4】図3に示したテレメトリデータ解析装置において行われるテレメトリデータ解析の全体的な流れを示すフローチャートである。
【図5】図4に示したデータの前処理の詳細を示すフローチャートである。
【図6】図4に示したデータの可視化処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】図4に示した非線形統計量の推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図4に示したサロゲートデータの作成処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】図4に示した非線形統計量の推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】ロケットからのテレメトリデータを受信する観測基地の主要構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施の形態に係る構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析装置及びテレメトリデータ解析プログラムについて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置1(図3)において解析対象となる多段式ロケットRからのテレメトリデータを示す図である。
【0014】
[解析対象となるテレメトリデータ]
本発明において解析対象となるのは、図1に示すように、多段式ロケットのような構造可変な飛翔体Rから送信されるテレメトリデータである。多段式ロケットの一例として二段式ロケットについて説明する。本ロケットは、各段R,Rに液体酸素と液体水素によるロケットエンジンを備えた2段式の液体燃料ロケットであり、1段目Rには推力増強のための大型固体ロケットブースタが2本装備されており、2段目Rの先端にペイロードフェアリングで覆われた人工衛星Rを装備している。また、さらに推力を増強するために、1段目に固体補助ロケットが複数本装備される場合もある。
【0015】
これらのパーツR〜Rにはそれぞれ、飛行中のロケットR(の搭載機器)の状態をチェックするためにテレメータ送信機が装備されており、これらのテレメータ送信機は、パーツR〜Rに装備された各種の搭載機器の状態を表すテレメトリデータ群SG〜SGをそれぞれ地上の観測基地Bへとリアルタイムに送信する。テレメトリデータ群SG〜SGはそれぞれ、N個のテレメトリデータS11〜S1N1,N個のテレメトリデータS21〜S2N2,N個のテレメトリデータS31〜S3N3を含む。これらテレメトリデータ群SG〜SG中のテレメトリデータの個数は、一般にはパーツごと異なっている。なお、搭載機器には非常に様々なものがあるが、通信系、計測系、制御系、タイマ・点火系、電源・管制系、配線系などに関する搭載機器はロケットRの可動に必須である。
【0016】
パーツR,Rは、ロケットRの飛行中に下から順に作動し、ロケットRが必要な速度に達するための推力を出し終わったら順次本体から切り離されていき、最終的には、人工衛星Rのみが地球の周回軌道上に投入される。このようなロケットRからのパーツR,Rの切り離しに応じて、観測基地Bに送信されてくるテレメトリデータは、図2に示すように時間的に変化する。図2は、図1に示した多段式ロケットRから観測基地Bに送られてくるテレメトリデータの特徴を示す図である。時刻tにてロケットRが打ち上げられ、時刻tにてパーツRが品体から切り離されると、時刻t以降、パーツRから観測基地Bに送信されていたテレメトリデータ群SGは送信されなくなる。次いで、時刻tにてパーツRが本体から切り離されると、時刻t以降、パーツRから観測基地Bに送信されていたテレメトリデータ群SGは送信されなくなる。そして、最終的には、それ以降(現時刻t)、周回軌道に投入された人工衛星Rからのテレメトリデータ群SGのみが観測基地Bに送信され続けることになる。つまり、多段式ロケットRのような構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータは、観測基地Bから送信されるコマンドに応じて当該飛翔体の構造が変化する度に、観測基地Bにて受信されるテレメトリデータ数が変化することを特徴としている。
【0017】
[解析装置の構成]
次に、本発明の一実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置1の構成について説明する。図3は、本発明の一実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置1のブロック図である。テレメトリデータ解析装置1は、データ受信部10と、データ切出部20と、データ前処理部30と、データ可視化処理部40と、非線形統計量推定部50と、サロゲートデータ作成部60と、データ検定部70と、異常疑検出部80と、データ送信部90と、入力部100と、記憶部110と、制御部120とを備えている。
【0018】
データ受信部10は、観測基地B(アンテナA〜A)にて受信され、信号復調変換装置D(D〜D)にて復調されA/D変換等が行われたテレメトリデータ群を受信する。
【0019】
データ切出部20は、データ受信部10にて受信したテレメトリデータ群からテレメトリデータ解析を実施する時間領域の時系列データ群を切り出す処理を行う。
【0020】
データ前処理部30は、データ切出部20にて切り出された時系列データ群が一次元の時系列データ群であった場合には、誤り近傍点法によって当該時系列データ群が描く軌道を埋め込み可能とする相空間Hの次元(埋め込み次元)mを算出する処理を行い、切り出された時系列データ群が多次元であった場合には、その次元nを当該時系列データ群の埋め込み次元として設定する処理を行う。
【0021】
データ可視化処理部40は、データ前処理部30にて算出された埋め込み次元を有する高次元相空間H中の2点間の距離を規定する所定のノルムに基づき時系列データ群を二値化して視覚化するリカレンスプロットと、高次元相空間H中の2点における方向ベクトル間のばらつき具合を評価するノルムに基づき時系列データ群を二値可して視覚化する同方向性リカレンスプロットと、これら2つのプロットの結果に基づき同方向的近傍プロットを行い、同方向的近傍プロットの結果に基づき時系列データ群が決定論的な法則に従っているか否かを判断する処理を行う。
【0022】
非線形統計量推定部50は、切り出された時系列データ群の非線形統計量として、GP(Grassberger−Procaccia)法によって当該の時系列データ群からフラクタル次元の1つである相関次元Dcを推定し、また、この時系列データ群からリャプノフスペクトル及びリャプノフ指数を推定する処理を行う。
【0023】
サロゲートデータ作成部60は、本データ解析がリアルタイム解析ではなく飛行後解析である場合に、切り出された時系列データ群からRS(Random Shuffle)法にて1次統計量を保存するRSサロゲートデータを作成すると共に、FT(Fourier Transform)法にて2次統計量を保存するFTサロゲートデータを作成する処理を行う。
【0024】
なお、非線形統計量推定部50は、サロゲートデータの非線形統計量として、サロゲートデータ作成部60にて作成されたFTサロゲートデータとRSサロゲートデータに対しても、GP法によってフラクタル次元の1つである相関次元Dcを推定し、また、これらのサロゲートデータからリャプノフスペクトル及びリャプノフ指数を推定する処理も行う。
【0025】
データ検定部70は、切り出された時系列データ群から推定された非線形統計量と各サロゲートデータから推定された非線形統計量とをモンテカルロ有意性検定により比較して、当該の時系列データ群がカオス的な決定論に従うか否かを判断する処理を行う。
【0026】
異常疑検出部80は、データ検定部70にてカオス的な決定論に従うと判断された時系列データ群を、後述する記憶部110から読み出された過去の時系列データ群の非線形統計量(フラクタル次元、リャプノフスペクトルなど)や可視化データ(リカレンスプロット、相空間中のアトラクタ軌道など)と比較して、その差を求めることにより、ロケットRの異常疑のある動作を検出する処理を行う。
【0027】
データ送信部90は、データ切出部20、データ前処理部30、データ可視化処理部40、非線形統計量推定部50、サロゲートデータ作成部60、データ検定部70、及び異常疑検出部80にて得られたデータを記憶部110へと送信したり、また、必要に応じて、これらのデータを観測基地Bの表示装置Pに送信したりする。
【0028】
なお、データ受信部10、データ切出部20、データ前処理部30、データ可視化処理部40、非線形統計量推定部50、サロゲートデータ作成部60、データ検定部70、及び異常疑検出部80、データ送信部90は、本実施の形態に係るテレメトリデータ解析装置1の主要部であるテレメトリデータ解析部1Aを構成している。
【0029】
また、入力部100は、テレメトリデータ解析部1Aにおける上記の処理を行う上で必要となるパラメータ(詳細は後述)の入力をユーザーに促す。
【0030】
記憶部110は、テレメトリデータ解析部1Aにおける上記の処理にて得られた各種データの格納を行うサブメモリと、上記の処理の各ステップ(後述)を実行するためのコンピュータに読み取り可能なプログラムを格納するメインメモリとから構成される。記憶手段110は、RAM(Random Accesss Memory)やROM(Read Only Memory)などから構成される。さらに、記憶部110のサブメモリとメインメモリとを別体として構成してもよい。
【0031】
制御部120は、記憶部110から読み出したプログラムに従って、テレメトリデータ解析部1Aの各動作を制御するCPU(Central Processing Unit)を備える。特に、制御部120は、飛翔体Rの構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させるようにデータ前処理部30を制御する点に特徴を有する。
【0032】
本実施の形態では、テレメトリデータ解析装置1を、テレメトリデータ解析部1Aと、入力部100、記憶部110、及び制御部120とを一体化した構成としたが、記憶部110を独立した記憶装置としてテレメトリデータ解析部1A、入力部100、制御部120から切り離した構成としてもよい。また、テレメトリデータ解析部1Aからデータ受送信のインターフェースであるデータ受信部10及びデータ送信部90を取り除いた構成をもってテレメトリデータ解析部1Bとしてもよい。
【0033】
ここで、コンピュータとは、構造化された入力を所定の規則に従って処理し、処理した結果を構造化して出力する装置のことを指し、例えば、汎用コンピュータ、スーパーコンピュータ、メインフレーム、ワークステーション、マイクロコンピュータ、サーバ等が含まれる。また、通信ネットワーク(例えば、イントラネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、及びこれらの組み合わせから成る通信ネットワーク)を介して接続された2つ以上のコンピュータから成る構成(例えば、分散コンピュータシステム)であってもよい。
【0034】
[データ解析方法]
次に、テレメトリデータ解析装置1において行われるテレメトリデータ解析の全体的な流れについて説明する。図4は、図3に示したテレメトリデータ解析装置において行われるテレメトリデータ解析の全体的な流れを示すフローチャートである。
【0035】
データ受信部10が観測基地Bの信号復調変換装置D(D〜D)からテレメトリデータ群を受け取ると、制御部120は、記憶部110に格納されたプログラムに従い、テレメトリデータ解析部1Aの各部が以下に示す処理を行うように各部を制御する。
【0036】
ステップS10において、データ切出部20は、データ受信部10にて受信したテレメトリデータ群を読み込み、ステップS20において、読み込んだテレメトリデータ群からデータ解析を実施する時間領域の時系列データ群を切り出す処理を行う。その際、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100からこの時間領域を入力するように促す。
【0037】
ステップS30において、制御部120は、データ切出部20にて切り出された時系列データ群が一次元の時系列データ群か否かを判断し、一次元の時系列データ群であると判断した場合には、データ前処理部30に対して、誤り近傍点法によって当該時系列データ群を埋め込み可能とする相空間の次元(埋め込み次元)mを算出する処理を行わせ、切り出された時系列データ群が多次元であった場合には、その次元nを当該時系列データ群の埋め込み次元として設定する処理を行わせる。ここで、切り出された時系列データ群が何次元の時系列データ群であるかは飛翔体Rの構造の変化に依存する。従って、制御部120は、多段式ロケットにおいて各段が切り離されるなど飛翔体Rの構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させる(又は、切替える)ようにデータ前処理部30を制御する。
【0038】
図5は、この埋め込み次元の設定処理の詳細を示すフローチャートである。データ切出部20にて切り出された時系列データ群が一次元の時系列データ群x(t)であった場合、ステップS41にて、制御部120は、ユーザーに入力部100から遅れ時間τの入力を促し、データ前処理部30に対して、入力された遅れ時間τに対してm次元相空間Hを構成させる。このとき、切り出された時系列データ群の軌跡上の点は、構成されたm次元相空間Hにおいて、
【数1】

【0039】
と表される。また、制御部120は、m次元相空間Hにおける時系列データ群の軌跡y(t)を別途、観測基地Bの表示装置Pに表示させる。
【0040】
このとき、適当な遅れ時間τを設定しないと、m次元相空間Hにおける時系列データ群の軌跡がアトラクタに漸近するのかどうかの判断がつかないことになる。具体的には、遅れ時間τが小さすぎると相関が大きくなりすぎて、時系列データ群の軌跡がm次元相空間内の各象限の対角線上につぶれた形となる一方、遅れ時間τが大きすぎると相関が小さくなりすぎて、時系列データ群の軌跡はm次元相空間内においてランダムな軌跡を描くことになる。それゆえ、制御部120は、ユーザーに対して、表示装置Pに表示されたm次元相空間中の時系列データ群の軌跡y(t)の画像をチェックさせて、入力部100から適当な遅れ時間τを入力するように促す。
【0041】
次に、ステップS42において、データ前処理部30は、誤り近傍点法により最も低い埋め込み次元を求めて、それを当該相空間Hの次元mとして設定する。まず、データ前処理部30は、式(1)で表されるm次元相空間Hにおける切り出された時系列データ群の軌跡上の点y(t)の最近傍点
【数2】

【0042】
をヒープソートによって算出させる。ここで、n(t,m)は最近傍点のインデックスである。そして、データ前処理部30は、m次元相空間Hでの2点間処理とm+1次元相空間での2点間距離との比
【数3】

【0043】
を計算する。ここで、分子、分母共に距離はユークリッドノルムで規定している。そして、データ前処理部30は、全データ点数N(t=0,1,・・・,N)に対するaの平均値
【数4】

【0044】
を算出し、相空間の次元をm次元からm+1次元に変化させたときの変化率の指標
【数5】

【0045】
を算出する。
【0046】
次に、ステップS43において、データ前処理部30は、次元mを増加させて式(5)の値を計算させ、その値が収束するか否かを判定させる。切り出された時系列データ群が何らかの決定論的な法則に従っている場合には、式(5)の値は収束するので、データ前処理部30は、閾値内まで式(5)の値が変化しなくなったときのmの値を埋め込み可能な最低次元として設定する。この閾値は、制御部120が、ユーザーに対して、入力部100から設定するように促す。
【0047】
そして、ステップS44において、データ前処理部30は、設定された埋め込み次元mの相空間Hに切り出された時系列データ群を埋め込む処理を行う。
【0048】
また、ステップS30において、制御部120は、データ切出部20にて切り出された時系列データ群が多次元の時系列データ群であると判断した場合には、データ前処理部30に対して、その次元nを当該時系列データ群の埋め込み次元として設定させる。
【0049】
また、ステップS43において、収束解が見つからなかった場合には、ステップS45において、制御部120は、ユーザーに入力部100から適当な埋め込み次元mを設定するように促した後に、ステップS44の処理を行わせる。
【0050】
次に、ステップS50において、データ可視化処理部40は、切り出された時系列データ群を表示装置Pに表示させることを可能とするための可視化処理を行わせる。
【0051】
図6は、この可視化処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS51において、データ可視化処理部40は、データ前処理部30にて算出された埋め込み次元(m又はn:以降では、仮にmとする)を有する高次元相空間Hにおける切り出された時系列データ群の軌跡上のの2点y(i),y(j)間の距離
【数6】

【0052】
をi,jの全ての組(i,j)に対して算出する。ここで、2点間距離はユークリッドノルムにて規定している。また、i及びjは共に、切り出された時系列データ群における時間のインデックスである。
【0053】
ここで、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、切り出された時系列データ群を二値化してリカレンスプロットにて視覚化するための閾値Thを入力するように促す。次に、データ可視化処理部40は、式(6)で算出されたDijを入力された閾値Thに基づき二値化する。その際、Dijが閾値以下の点(i,j)をTrue,閾値以上の点(i,j)をFalseとする。また、制御部120は、データ可視化処理部40にて二値化された時系列データ群をリカレンスプロットとして表示装置Pに表示させるために、式(6)で算出されたDij(i,j=0,1,・・・,N−1)をデータ送信部90を介して表示装置Pへと送信することもできる。
【0054】
次に、ステップS52において、データ可視化処理部40は、m次元相空間Hにおける切り出された時系列データ群の軌跡上の2点y(i),y(j)における方向ベクトル
【数7】

【0055】
間のばらつき具合を評価するために、
【数8】

【0056】
を算出する。
【0057】
ここで、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、切り出された時系列データ群を二値化して同方向リカレンスプロットにて視覚化するための閾値Th及び式(7),(8)におけるパラメータ(微小な時間差)Δを入力するように促す。次に、データ可視化処理部40は、式(8)で算出されたDVijを入力された閾値Thに基づき二値化する。その際、DVijが閾値以下の点(i,j)をTrue,閾値以上の点(i,j)をFalseとする。また、制御部120は、データ可視化処理部40にて二値化された時系列データ群を同方向リカレンスプロットとして表示装置Pに表示させるために、式(8)で算出されたDVij(i,j=0,1,・・・,N−1)をデータ送信部90を介して表示装置Pへと送信することもできる。
【0058】
次に、ステップS53において、データ可視化処理部40は、式(6)で算出されたDij=(True、又はFalse)と式(8)で算出されたDVij=(True、又はFalse)との論理積
【数9】

【0059】
を計算する。このIDNPも、True又はFalseの2値を取る。
【0060】
次に、ステップS60において、データ可視化処理部40は、
【数10】

【0061】
を算出し、算出されたRの値が1に近い場合には、切り出された時系列データ群は決定論的な法則に従うものと判断し、ステップS70の処理に移り、そうでない場合には、切り出された時系列データ群は非決定論的であると判断して、本データ解析を終了する。ここで、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、Rの値が1に近いかどうかの判断基準となる閾値を入力するように促す。
【0062】
次に、ステップS70において、制御部120は、本データ解析がリアルタイム解析であるか否かを判断し、リアルタイム解析であると判断した場合には、ステップS80において、制御部120は、非線形統計量推定部50に対して、切り出された時系列データ群の非線形統計量を推定させる。
【0063】
図7は、この非線形統計量の算出処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS81において、非線形統計量推定部50は、GP法によって切り出された時系列データ群からフラクタル次元の1つである相関次元Dcを推定する。具体的には、非線形量推定部50は、
【数11】

【0064】
を算出する。ここで、Iはヘビサイド関数
【数12】

【0065】
である。C(r)は相関積分と呼ばれる量であり、定性的には、m次元相空間Hにおける切り取られた時系列データ群の軌跡上の点y(i)を中心とした半径rのm次元超球内に入る点y(j)の数をカウントして、その全データ点数Nに対する割合を計算するということを軌跡上の全点y(i)に対して行い、その平均を取ったものである。
【0066】
次に、非線形統計量推定部50は、半径rの適当な範囲に対して、
【数13】

【0067】
を満たす次元d(m)を埋め込み次元mごとに算出する。具体的には、式(13)を対数グラフにプロットした際にその傾斜が一定となるlogrの領域におけるグラフの傾きを算出する。ここで、傾斜が一定であるとは、1ディケード(対数周波数軸で10倍になる区間)以上に亘って傾斜の変動がある閾値以内である場合をいう。そこで、この際に、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、この閾値を入力するように促す。そして、非線形統計量推定部50は、埋め込み次元mの変化に伴う収束先の傾斜をDcとして算出し、このDcが、条件
【数14】

【0068】
を満たすか否かを判定する。この条件を満たす場合、非線形統計量推定部50は、Dcを相関次元として推定する。一方、この条件を満たさない場合には、制御部120は、ユーザーに表示装置Pを介して、データ点数を増やし、本データ解析を再度実行するように通知する。
【0069】
次に、ステップS82において、非線形統計量推定部50は、切り出された時系列データ群からリャプノフスペクトル及びリャプノフ次元を推定する処理を行う。
【0070】
まず、非線形統計量推定部50は、m次元相空間Hにおける切り出された時系列データ群の軌道上にN個あるデータ点数の各点y(t)(t=0,1,・・・,N−1)を中心とするM個の近傍点y(k)(i=1,2,・・・,M)を含むm次元超球を考え、次の微小変位ベクトル
【数15】

【0071】

【数16】

【0072】
を満たすm×m行列Jを算出する処理を行う。ここで、sは単位ステップ時間を表す。そのため、まず、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、超球内に含まれる軌道上の近傍点y(k)の個数Mを入力するように促す。なお、近傍点y(k)(i=1,2,・・・,M)について、制御部120は、ステップS61にて算出されたDijをヒープソートアルゴリズムにて昇順にソーティングして、インデックスを呼び出す処理を行う。
【0073】
次に、非線形統計量推定部50は、時刻t=0に対して、
【数17】

【0074】
を算出する。ここで、εik及びεilはそれぞれ、式(15)の微小変位ベクトルε(i=1,2,・・・,M)の第k及び第l成分である。また、wkl及びcklはそれぞれ、
【数18】

【0075】
を満たすm×m行列の成分であり、W及びCはそれぞれ、分散行列及び共分散行列である。ちなみに、式(18)は、
【数19】

【0076】
を最小にするための極小条件
【数20】

【0077】
から得られる関係式である。
【0078】
そして、非線形統計量推定部50は、算出された式(17)を用いて式(18)の右辺をLU分解法により解き、軌道上の点y(t)(t=0)におけるJを近似的なヤコビ行列として算出する。このとき、M≧mで縮退がなければ、ヤコビ行列Jを一意に算出することができる。そして、非線形統計量推定部50は、この処理を全部のデータ点列に対して行う(すなわち、N回繰り返す)ことによって、N個のヤコビ行列J(t=0,1,・・・,N−1)を算出する。
【0079】
次に、非線形統計量推定部50は、予め用意されたm次元の正規直交基底
【数21】

【0080】
に対して上記処理にて算出された時刻t=0でのヤコビ行列
【数22】

【0081】
を乗じて、
【数23】

【0082】
へと写像する。ここで、
【数24】

【0083】
である。
【0084】
そして、非線形統計量推定部50は、式(23)のzの各列ベクトルをグラム−シュミットの直交化法にて再度直交化して、
【数25】

【0085】
を算出する。このとき、i番目の直交ベクトルのノルム‖v‖はヤコビ行列Jのi番目の固有値に等しく、その指数部分はリャプノフスペクトルを近似している。
【0086】
次いで、非線形統計量推定部50は、Vを再度正規化してWを算出して、上記の処理をN回繰り返すことにより、V,V,・・・,Vを算出して、N個の列ベクトルv(j=1,2,・・・,N)のノルムを平均して、リャプノフスペクトル
【数26】

【0087】
を推定する。
【0088】
続いて、非線形統計量推定部50は、式(26)にて推定したリャプノフスペクトルλの和
【数27】

【0089】
を満たす最大の整数Pに対して、次の定義
【数28】

【0090】
に従い、リャプノフ次元Dを算出させる。
【0091】
次に、ステップS90にて、制御部120は、非線形統計量推定部50にて算出されたリャプノフスペクトルλの内の少なくとも最大リャプノフ指数λが正であれば、切り出しされた時系列データ群がカオス的な法則に従っていると判断して、ステップS100にて、以上の処理過程において得られたデータを記憶部110に記憶させる。一方、最大リャプノフ指数λ1が負である場合には、切り出した時系列データ群はカオス的ではない決定論的な法則に従っているとして本データ解析を終了する。
【0092】
ここで、ステップS70の処理に戻って説明を続ける。ステップS70において、制御部120は、本データ解析が、リアルタイム解析ではなく飛行後解析であると判断した場合には、ステップS110において、サロゲートデータ作成部60に対して、切り出された時系列データ群からRS(Random Shuffle)法にてRSサロゲートデータを作成させると共に、FT(Fourier Transform)法にてFTサロゲートデータを作成させる。
【0093】
図8は、このサロゲートデータの作成処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS111において、制御部120は、データ前処理部30にて埋め込まれた時系列データ群が元々は一次元の時系列データ群であったか否かを判断し、一次元の時系列データ群であると判断した場合には、制御部120は、ステップS112において、サロゲートデータ作成部60に対して、元の一次元の時系列データ群におけるデータ点列の並びをランダムに変化させたRSサロゲートデータを所定の組数作成させる。このとき作成されたRSサロゲートデータにおいては、平均値、分散、中央値などの1次統計量が保存されている。
【0094】
次に、ステップS113において、サロゲートデータ作成部60は、元の一次元の時系列データ群に高速フーリエ変換を施すことによって、当該一次元の時系列データ群を実空間から周波数空間へと変換する。そして、サロゲートデータ作成部60は、高速フーリエ変換された周波数空間における各波の振幅を保存したままで位相だけランダム化した後に、逆高速フーリエ変換して周波数空間から実空間へと逆変換したFTサロゲートデータを所定の組数作成する。このとき作成されたFTサロゲートデータにおいては、パワースペクトル密度などの2次統計量が保存されている。
【0095】
一方、ステップS111において、制御部120が、データ前処理部30にて埋め込まれた時系列データ群が元々は多次元の時系列データ群であると判断した場合には、制御部120は、ステップS114において、サロゲートデータ作成部60に対して、それぞれの(一次元の)時系列データ群に対して、ステップS112及びS113において、RS及びTFサロゲートデータを所定の組数作成させる。
【0096】
なお、ステップS112において、制御部120は、ユーザーに対して、入力部100から、ステップS112において作成するRSサロゲートデータの組数SとステップS113において作成するFTサロゲートデータの組数Sを入力するように促す。以降では、サロゲートデータの総組数をS(=S+S)とする。
【0097】
次に、ステップS120において、非線形統計量推定部50は、切り出された時系列データ群と、サロゲートデータ作成部60にて作成されたS組のサロゲートデータ(S組のRSサロゲートデータとS組のFTサロゲートデータ)のそれぞれに対して、非線形統計量として、相関次元Dc、リャプノフスペクトルλ(i=1,2,・・・,N)、及びリャプノフ次元Dを推定する。
【0098】
図9は、この非線形統計量の推定処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS121において、制御部120は、切り出された元の時系列データ群と、サロゲートデータ作成部60にて作成されたS組のサロゲートデータのそれぞれが元々一次元の時系列データであったと判断した場合には、ステップS122において、データ前処理部30にて算出された埋め込み次元mの相空間Hへのデータの埋め込みを行う。
【0099】
次に、ステップS123において、非線形統計量推定部50は、m次元相空間Hに埋め込まれた元の時系列データ群と各サロゲートデータに対して、ステップS81にて行った処理と同様の処理を施すことによって、フラクタル次元の1つである相関次元Dcを推定する。
【0100】
次に、ステップS124において、非線形統計量推定部50は、m次元相空間Hに埋め込まれた元の時系列データ群と各サロゲートデータに対して、ステップS82にて行った処理と同様の処理を施すことによって、リャプノフスペクトルλ(i=1,2,・・・,N)(のノルムと最大リャプノフ指数)、及びリャプノフ次元Dを推定する。
【0101】
一方、ステップS121において、制御部120は、元の時系列データ群と、サロゲートデータ作成部60にて作成されたS組のサロゲートデータのそれぞれが元々多次元の時系列データであったと判断した場合には、ステップS125において、その次元そのものを埋め込み次元とした相空間Hへのデータの埋め込みを行い、ステップS123へと処理を勧める。
【0102】
次に、ステップS130において、データ検定部70は、非線形統計量推定部50によって元の時系列データ群から推定された非線形統計量Qと各サロゲートデータから推定された非線形統計量Q(l=1,2,・・・,S)とをモンテカルロ有意性検定により比較する。その際、制御部120は、ユーザーに入力部100から、モンテカルロ有意性検定における有意水準α(例えば、α=0.05)を入力するように促す。ここで、Q及びQは、相関次元Dc、リャプノフスペクトルλ(i=1,2,・・・,N)(のノルムと最大リャプノフ指数)、及びリャプノフ次元Dである。
【0103】
次に、ステップS140において、制御部120は、QがQの最も大きい方から(Bs+1)・α/2番目、或いは、最も小さい方から(Bs+1)・α/2番目の間に挟まれているか否かを判定し、Qがこの間に挟まれていない場合には、元の時系列データ群はカオス的な法則に従っていると判断して、ステップS150へと処理を進める。
【0104】
一方、ステップS140において、Qがこの間に挟まれていると判断された場合には、元の時系列データ群はカオス的な法則に従ってはいないとして、本データ処理を終了する。
【0105】
次に、ステップS150において、異常疑検出部80は、データ検定部70にてカオス的な決定論に従うと判断された元の時系列データ群の非線形統計量Q(相関次元Dc、リャプノフスペクトルλ(i=1,2,・・・,N)、及びリャプノフ次元D)や可視化データ(リカレンスプロット、同方向性リカレンスプロット、同方向近傍プロット、相空間中のアトラクタ軌道)を、記憶部110から読み出された過去の時系列データ群の非線形統計量、及びリャプノフ次元D)や可視化データと比較して、その差を検出する。そして、制御部120は、異常疑検出部80にて検出された差を表示装置Pなどによりユーザーに提示する。これによって、ユーザーは、解析対象である時系列データ群を送信した構造可変な飛翔体Rのカオス力学系に基づく異常疑のある動作を検出することができる。
【0106】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲でその他の構成にても具現化することができる。
【0107】
例えば、その他の実施の形態として、3層ニューラルネットワークなどの学習機構を備えたテレメトリデータ解析部1Cを適用することもできる。テレメトリデータ解析部1Cでは、この学習機構を用いて、例えばバックプロパゲーション学習則に基づき、切り出された時系列データ群からカオス力学系のモデルを直接構築することによって、時系列データ群からカオス力学系を同定してしまう。そして、構築されたカオス力学系のモデルを用いて、解析対象となる時系列データ群からリャプノフスペクトルなどの非線形統計量を推定し、それを記憶部110に記憶された過去のデータと比較することによって、異常疑検出部80にて、カオス力学系のモデルに基づく飛翔体の異常疑のある動作を検出することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 テレメトリデータ解析装置
1A テレメトリデータ解析部
10 データ受信部
20 データ切出部
30 データ前処理部
40 データ可視化処理部
50 非線形統計量推定部
60 サロゲートデータ作成部
70 データ検定部
80 異常疑検出部
90 データ送信部
100 入力部
110 記憶部
120 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータ群から解析対象となる時系列データ群を切り出すデータ切出部と、
切り出された時系列データ群を埋め込み可能とする相空間の埋め込み次元を算出するデータ前処理部と、
算出された次元を有する相空間に埋め込まれた時系列データ群から可視化情報を算出するデータ可視化処理部と、
切り出された時系列データ群から1次統計量を保存する第1のサロゲートデータ群と2次統計量を保存する第2のサロゲートデータ群とを作成するサロゲートデータ作成部と、
リアルタイム解析時には、可視化された時系列データ群から非線形統計量を推定し、飛行後解析時には、可視化された時系列データ群と第1及び第2のサロゲートデータ群とから非線形統計量を推定する非線形統計量推定部と、
飛行後解析時に、第1及び第2のサロゲートデータ群から推定された非線形統計量を母集団として、可視化された時系列データ群から推定された非線形統計量の有意性検定を行い、切り出された時系列データ群がカオス力学系に従うか否かを判定するデータ検定部と、
カオス力学系に従うと判定された時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報と過去の時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報との差を算出し、カオス力学系に基づく飛翔体の異常疑のある動作を検出する異常疑検出部と、
前記データ前処理部に対して、飛翔体の構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させる制御部と、
を備えたことを特徴とする構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析装置。
【請求項2】
コンピュータを、
構造可変な飛翔体から送信されるテレメトリデータ群から解析対象となる時系列データ群を切り出すデータ切出手段と、
切り出された時系列データ群を埋め込み可能とする相空間の埋め込み次元を算出するデータ前処理手段と、
算出された次元を有する相空間に埋め込まれた時系列データ群から可視化情報を算出するデータ可視化処理手段と、
切り出された時系列データ群から1次統計量を保存する第1のサロゲートデータ群と2次統計量を保存する第2のサロゲートデータ群とを作成するサロゲートデータ作成手段と、
リアルタイム解析時には、可視化された時系列データ群から非線形統計量を推定し、飛行後解析時には、可視化された時系列データ群と第1及び第2のサロゲートデータ群とから非線形統計量を推定する非線形統計量推定手段と、
飛行後解析時に、第1及び第2のサロゲートデータ群から推定された非線形統計量を母集団として、可視化された時系列データ群から推定された非線形統計量の有意性検定を行い、切り出された時系列データ群がカオス力学系に従うか否かを判定するデータ検定手段と、
カオス力学系に従うと判定された時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報と過去の時系列データ群の非線形統計量及び視覚化情報との差を算出し、カオス力学系に基づく飛翔体の異常疑のある動作を検出する異常疑検出手段と、
前記データ前処理手段に対して、飛翔体の構造が変化する度に、切り出された時系列データ群の埋め込み次元を算出させる制御手段と、
して機能させることを特徴とする構造可変な飛翔体のテレメトリデータ解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−68322(P2011−68322A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223274(P2009−223274)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代輸送系システム設計基盤技術開発 ミッション対応設計高度化技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)