説明

構造物の水平高さ修正工法およびその工法に用いられる機具並びに構造物の支持力補強工法

【課題】地盤の掘り起こしが不要で、狭隘な場所でも作業を行うことができ、しかも、労力や規模が小さくても効率よく施工を行うことができる工法を得る。
【解決手段】穿孔機6により構造物3の基礎4に沿って杭孔5を形成し、この杭孔5に杭7を挿入し、挿入された杭7を油圧ジャッキ9により地面2に立てる。基礎4には、取付具10を介して加圧用パワージャッキ11を取り付け、杭7を地面2に圧入して構造物3の重さを支える支持力を持たせる。取付具10に杭押圧用パワージャッキ31を杭孔5の上方に配置されるよう取り付ける。支持力を持った杭7に、杭押圧用パワージャッキ31により下方への押圧力を付与して反力により構造物3を持ち上げ、持ち上げられた構造物3の基礎4と地面2との間に生じる隙間Sに充填材Mcを充填して硬化させ、構造物2の水平高さを修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈下した構造物を持ち上げて所望の高さの水平位置に修正する構造物の水平高さ修正工法およびその工法に用いられる機具並びに地盤反力の不安定な地盤に設置された構造物の支持力補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、沈下した構造物を持ち上げて水平高さを修正する工法として、構造物(家屋)の基礎の下を掘り下げて、作業空間を確保し、基礎の下に鋼管杭を配置し、鋼管杭上端と基礎下面との間にジャッキを配置して構造物を持ち上げ、掘削空間を埋め戻す工法が知られている。この工法は、例えば、図16の(A)ないし(E)に示すように、まず、第1段階として、構造物(家屋)3の基礎104の直下に作業スペースAを掘削し(深さ:基礎104の下1.6m程度、図16の(A)、(B)参照)、掘削した土をベルトコンベアにより場外へ搬出処分し、基礎104下の割栗石を撤去する。必要に応じて山留め105および排水を行う。次に、第2段階として、基礎104のうち立ち上がり部と交差する部位104Aの下方に鋼管杭(φ150〜250mm程度、長さ1m程度)107を垂直に設置する。次に、第3段階として鋼管杭107と基礎104底面の間に油圧ジャッキ(図示せず)を設置する。次に、図示しない油圧ジャッキを作動させ、建物荷重を反力として杭107を地盤103に圧入する。追加の鋼管杭107を溶接し、継ぎ足しながら支持層まで圧入する。圧入力の数値を記録し、杭支持力を確認する。次に、圧入後、杭頭部にサポートジャッキ108を取り付けて仮受けし、プレロードを行う。建物が沈下しないように注意しながら、上記工程を建物の端から順次繰り返し、建物全体を仮受けする。そして、給排水、ガス等の設備配管の切断、先止めを行う。次に、第4段階として、図16の(C)に示すように、サポートジャッキ108と基礎104との間に油圧ジャッキ109をセットし、建物全体を一斉にジャッキアップして沈下を修正し、建物の水平調整を行った上で、サポートジャッキ108のねじを締め、本受けする。次に、水盛管等で建物レベルおよび水平を確認する。そして、油圧ジャッキ109を撤去し、給排水、ガス等の配管、接続を行う。次に、第5段階として、図16の(D)に示すように、基礎104の底面にケミカルアンカーを打ち込み、これに鉄筋を溶接し、杭頭部を配筋する。杭頭周囲にせき板を設置し、圧入杭の杭頭部に鉄筋コンクリートを打設し、既設基礎104と杭107を定着させる。次に、第6段階として、図16の(E)に示すように、掘削部分Aを埋め戻す。埋め戻しには土を使用する他、発泡モルタル等を使用する場合もある。布基礎の場合、束を復旧して終了する(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター著「住宅紛争処理技術関連資料集」平成17年度版(工事名称「基礎のジャッキアップ+鋼管杭圧入工法」、工事NO「木造(共通)K−1−2」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の構造物の修正工法では、基礎の下側の良好な地盤を掘り起こしてしまうことになる。このため、その対策として基礎下側に多数のジャッキを設置しなければならない。多数のジャッキを設けられない場合、構造物の基礎に応力の集中を招く虞がある。また、基礎の下側の地面掘り返しに当たっては、都市の住宅地のように隣家との境界に作業を行う空間が限られている場合、住宅地の周囲にシャベルカーを運び入れることができず、人力で穴を掘らなければならないという問題がある。また、ジャッキで、構造物を上昇させる際、構造物を支える基礎側からジャッキアップを行わなければならず、基礎の下側にジャッキを設置するための穴も掘らなければならず、ジャッキアップも穴の中に作業員が入り狭い空間での作業を余儀なくされ、作業に手間取るという問題がある。さらに、掘り返した土砂の扱いについても、廃棄するか、作業終了まで一時的に保管しなければならないという問題がある。また、上記従来の構造物の修正工法では、例えば、工事現場に設置されるタワークレーン等の小規模な基礎についても、基礎の周囲に作業を行う空間が限られているため、設置後に基礎の支持力を補強する必要が生じた場合、基礎の下を掘削するのに難渋するという問題がある。
【0004】
本発明のうち第1の発明は、上記課題を解決するためになされたもので、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも地上で容易に作業を行うことができ、しかも、労力や規模が小さくても作業効率が良好でコストを低減させることができる構造物の水平高さ修正工法およびその工法に用いられる機具を提供することを目的とするものである。
【0005】
また、本発明のうち第2の発明は、上記課題を解決するためになされたもので、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも容易に作業を行うことができ、しかも、労力や規模が小さくても作業効率が良好でコストを低減させることができる構造物の支持力補強工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る構造物の水平高さ修正工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、杭と取付具との間に杭を下方に押圧する杭押圧手段を配設する第4の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭押圧手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第5の工程とを有するようにしたものである。
【0007】
本発明の請求項1に係る構造物の水平高さ修正工法では、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、杭と取付具との間に杭を下方に押圧する杭押圧手段を配設する第4の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭押圧手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第5の工程とを有するようにしたことにより、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも地上で作業を行うことができる。また、一旦、杭圧入手段により杭が地面に圧入されて構造物を支持する支持力を得ると、今度は逆に、杭押圧手段が杭を押圧する力を反力として構造物側に作用させて構造物を持ち上げる。このため、杭に下方に力をかけるだけで杭の圧入と構造物の持ち上げを行うことができ、設備は簡素化され、作業が効率化される。杭押圧手段の押圧力を調整するだけで構造物の水平が確保し易く、圧入作業も持ち上げ作業も少人数の作業員で行うことができる。
【0008】
また、請求項2に係る構造物の水平高さ修正工法は、第2の工程で、杭圧入手段を立てられた杭の上方に配置し、第4の工程で、杭押圧手段を圧入された杭の上方に配置するようにしたものである。
【0009】
また、請求項2に係る構造物の水平高さ修正工法では、第2の工程で、杭圧入手段を立てられた杭の上方に配置し、第4の工程で、杭押圧手段を圧入された杭の上方に配置するようにしたことにより、杭圧入手段または杭押圧手段として杭毎に一方向に突出して押し出し加圧するジャッキを用いることができ、設置時の作業性が向上する。
【0010】
請求項3に係る構造物の水平高さ修正工法は、第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されるようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る構造物の水平高さ修正工法では、第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されるようにしたことにより、作業スペースを構造物から外側に大きく取る必要がなくなり、限られたスペースでも作業を行うことができる。
【0012】
請求項4に係る構造物の水平高さ修正工法は、構造物の持ち上げ後、構造物の沈下が認められた場合、杭押圧手段により押圧力を付与するようにしたものである。
【0013】
請求項4に係る構造物の水平高さ修正工法では、構造物の持ち上げ後、構造物の沈下が認められた場合、杭押圧手段により押圧力を付与するようにしたことにより、沈下が生じても杭押圧手段により杭を押圧して構造物の持ち上げを繰り返すと沈下がほぼ抑えられるようになる。沈下が収まると、地盤反力により構造物が確実に支持される。このため、水平高さの修正を確実に行うことができる。
【0014】
請求項5に係る構造物の水平高さ修正工法は、第5の工程で、持ち上げられた構造物側に係止具を取り付けて杭に係止させ、杭の支持力を構造物側に伝えるようにしたものである。
【0015】
請求項5に係る構造物の水平高さ修正工法では、第5の工程で、持ち上げられた構造物側に係止具を取り付けて杭に係止させ、杭の支持力を構造物側に伝えるようにしたことにより、杭押圧手段に代えて係止具を通じて杭に構造物の支持力を負担させることができる。
【0016】
請求項6に係る構造物の水平高さ修正工法は、持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に生じる隙間に充填材を充填して硬化させるようにしたものである。
【0017】
請求項6に係る構造物の水平高さ修正工法では、持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に生じる隙間に充填材を充填して硬化させるようにしたことにより、構造物は、杭と硬化した充填材とにより支持されるので、地盤沈下を確実に抑えることができる。
【0018】
請求項7に係る構造物の水平高さ修正工法は、多数の杭により構造物の支持力を確保するとともに、1本の杭の支持力に杭の本数を乗じた荷重負担力が、構造物の自重より大きくなるように構造物の自重と地盤の性質とに応じて杭径と杭数とを決定するようにしたものである。
【0019】
請求項7に係る構造物の水平高さ修正工法では、多数の杭により構造物の支持力を確保するとともに、1本の杭の支持力に杭の本数を乗じた荷重負担力が、構造物の自重より大きくなるように構造物の自重と地盤の性質とに応じて杭径と杭数とを決定するようにしたことにより、1本の杭では構造物を押し上げることができない細い径の杭であっても、予め導き出した本数を打ち込むことにより、構造物を持ち上げる支持力を得ることができるので、少ない人数でも作業することができる。また、地盤が軟弱な場合、杭径の太い杭を用いることにより支持力の増大を図ることができる。
【0020】
請求項8に係る構造物の水平高さ修正工法は、取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したものである。
【0021】
請求項8に係る構造物の水平高さ修正工法では、取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したことにより、杭圧入手段を杭の支持力確保に必要な杭圧入深さに応じて、また、杭押圧手段を構造物の持ち上げ高さに応じてそれぞれ選択することができ、作業性が向上する。
【0022】
請求項9に係る構造物の水平高さ修正工法は、第4の工程で、杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたものである。
【0023】
請求項9に係る構造物の水平高さ修正工法では、第4の工程で、杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたことにより、第5の工程で、圧入され支持力を持った杭毎に、杭押圧手段により下方への押圧力が付与されると、弾性部材は杭毎に変形して押圧力を吸収する。杭押圧手段からの押圧力が、杭のほぼ全体に及び構造物の重量に相当する力を越えると、弾性部材全体で押圧力を受け止めるので、反力により構造物が持ち上がる際、バランスよく持ち上がる。さらに、構造物の持ち上げ時、杭毎に時間差を設けて押圧力を付与しても弾性部材により押圧力を付与した杭とまだ付与していない杭との偏りを吸収することができるので、すべての杭に同時に押圧力を付与する必要がなく、大規模な設置作業が不要となり、作業性が向上する。
【0024】
請求項10に係る構造物の水平高さ修正工法は、取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したものである。
【0025】
請求項10に係る構造物の水平高さ修正工法では、取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したことにより、ウインチを杭の上方に配置する必要がないので、設置しやすく、作業スペースを有効に利用でき、作業性が向上する。さらに、短時間で杭を圧入することができ、支持力確保のため、杭を深く圧入する場合、作業効率が向上する。また、ウインチを用いることにより、杭への加圧を自在に制御することができ、油圧系のような大規模な設置作業が不要となり、作業性が向上する。
【0026】
本発明の請求項11に係る構造物の水平高さ修正工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭圧入手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第4の工程とを有するようにしたものである。
【0027】
請求項11に係る構造物の水平高さ修正工法では、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭圧入手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第4の工程とを有するようにしたことにより、杭の下方への圧力の付与を同一の手段を用いて行うことができるので、設備は簡素化され、作業が効率化される。
【0028】
本発明の請求項12に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に立てられた杭の近傍に配置されて基礎を含む構造物側に取り付けられる取付具と、これら杭と取付具との間に配設され、立てられた杭に下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる杭圧入手段と、地面に圧入された杭と取付具との間に配設され、地面に圧入されて支持力を持った杭に下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる杭押圧手段とを備えたものである。
【0029】
本発明の請求項12に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に立てられた杭の近傍に配置されて基礎を含む構造物側に取り付けられる取付具と、これら杭と取付具との間に配設され、立てられた杭に下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる杭圧入手段と、地面に圧入された杭と取付具との間に配設され、地面に圧入されて支持力を持った杭に下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる杭押圧手段とを備えたことにより、立てられた杭を杭圧入手段により地面に圧入して構造物の重さを支える支持力を持たせ、この支持力を持った杭に、杭押圧手段により下方への押圧力を付与して反力により構造物を持ち上げることとができるので、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも地上で作業を行うことができる。また、一旦、杭圧入手段により杭が地面に圧入されて構造物を支持する支持力を得ると、今度は逆に、杭押圧手段が杭を押圧する力を反力として構造物側に作用させて構造物を持ち上げる。このため、杭に下方への力をかけるだけで杭の圧入と構造物の持ち上げを行うことができ、設備は簡素化され、作業が効率化される。杭押圧手段の押圧力を調整するだけで構造物の水平が確保し易く、圧入作業も持ち上げ作業も少人数の作業員で行うことができる。
【0030】
請求項13に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、杭圧入手段と杭押圧手段とはそれぞれ、杭の上方に配置されるようにしたものである。
【0031】
請求項13に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、杭圧入手段と杭押圧手段とはそれぞれ、杭の上方に配置されるようにしたことにより、杭圧入手段または杭押圧手段として杭毎に一方向に突出して押し出し加圧するジャッキを用いることができ、装置の簡素化を図ることができるとともに、設置時の作業性が向上する。
【0032】
請求項14に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に形成される隙間に充填後硬化する充填材を充填する充填手段を備えたものである。
【0033】
請求項14に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に形成される隙間に充填後硬化する充填材を充填する充填手段を備えたことにより、隙間に充填材が充填され、充填材が硬化すると、構造物は、杭と固化した充填材とにより支持されるので、地盤沈下を確実に抑えることができる。
【0034】
請求項15に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、持ち上げられた構造物側には、杭側に係止され圧入された杭の支持力を構造物側に伝える係止具が取り付けられるようにしたものである。
【0035】
請求項15に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、持ち上げられた構造物側には、杭側に係止され圧入された杭の支持力を構造物側に伝える係止具が取り付けられることにより、持ち上げ後、係止具が杭に係止された状態で構造物の沈下が認められると、係止具を一旦取り外して杭押圧手段を取り付けて、杭押圧手段により構造物の持ち上げを行うことができ、持ち上げにより構造物の水平高さを後から修正することができる。この動作は繰り返すこともでき、沈下がほぼ抑えられるようになる。沈下が収まると、地盤反力により構造物が確実に支持される。このため、水平高さの修正を確実に行うことができる。
【0036】
請求項16に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、圧入された杭の上端部には、所望の寸法にカットされた介在具が取り付けられるようにしたものである。
【0037】
請求項16に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、圧入された杭の上端部には、所望の寸法にカットされた介在具が取り付けられることにより、杭押圧手段が介在具を介して杭を下方に押圧すると、反力により構造物は持ち上げられる。持ち上げ後、係止具を介在具に係止させて基礎に取り付けると、構造物は係止具により介在具を介して杭に支持される。係止具が介在具に係止された状態で構造物の沈下が認められると、係止具を一旦取り外して杭押圧手段を介在具に連結し、杭押圧手段により構造物の持ち上げを行うことができる。介在具は、所望の寸法にカットされたものを選択して用いることができるので、構造物の持ち上げ量が異なっても係止具や杭押圧手段の種類を変えることなく使用することができる。
【0038】
請求項17に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、基礎には、杭を垂直に保持する水平材を設け、係止具をこの水平材に取り付けるようにしたものである。
【0039】
請求項17に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、基礎には、杭を垂直に保持する水平材を設け、係止具をこの水平材に取り付けるようにしたことにより、基礎間の地面で基礎から離れた位置にも杭を圧入することができる。
【0040】
請求項18に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、地面に圧入される杭を、尖端が閉塞した中空筒状に形成するとともに先端側に多数の貫通孔を穿設して構成し、地面に圧入された杭には、外部から杭内部に支持力を高める支持力増強材を充填して加圧し、貫通孔から支持力増強材を土中に押し出すようにしたものである。
【0041】
請求項18に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、地面に圧入される杭を、尖端が閉塞した中空筒状に形成するとともに先端側に多数の貫通孔を穿設して構成し、地面に圧入された杭には、外部から杭内部に支持力を高める支持力増強材を充填して加圧し、貫通孔から支持力増強材を土中に押し出すようにしたことにより、杭を深く打たなくとも、また、たとえ軟弱層であっても支持力を得ることができる。
【0042】
請求項19に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたものである。
【0043】
請求項19に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたことにより、圧入され支持力を持った杭毎に、杭押圧手段により下方への押圧力が付与されると、弾性部材は杭毎に変形して押圧力を吸収する。杭押圧手段からの押圧力が、杭のほぼ全体に及び構造物の重量の相当する力を越えると、弾性部材全体で押圧力を受け止めるので、反力により構造物が持ち上がる際、バランスよく持ち上がる。さらに、構造物の持ち上げ時、杭毎に時間差を設けて押圧力を付与しても弾性部材により押圧力を付与した杭とまだ付与していない杭との偏りを吸収することができるので、すべての杭に同時に押圧力を付与する必要がなく、大規模な設置作業が不要となり、作業性が向上する。
【0044】
請求項20に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したものである。
【0045】
請求項20に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したことにより、杭圧入手段を杭の支持力確保に必要な杭圧入深さに応じて、また、杭押圧手段を構造物の持ち上げ高さに応じてそれぞれ選択することができ、作業性が向上する。
【0046】
請求項21に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したものである。
【0047】
請求項21に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したことにより、ウインチを杭の上方に配置する必要がないので、設置しやすく、作業スペースを有効に利用でき、作業性が向上する。さらに、短時間で杭を圧入することができ、支持力確保のため、杭を深く圧入する場合、作業効率が向上する。また、ウインチを用いることにより、杭への加圧を自在に制御することができ、油圧系のような大規模な設置作業が不要となり、作業性が向上する。
【0048】
本発明の請求項22に係る構造物の支持力補強工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、地面に圧入されて支持力を持った杭と構造物側とを連結し構造物の重さの一部を杭に負担させる第4の工程とを有するようにしたものである。
【0049】
本発明の請求項22に係る構造物の支持力補強工法では、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、地面に圧入されて支持力を持った杭と構造物側とを連結し構造物の重さの一部を杭に負担させる第4の工程とを有するようにしたことにより、構造物に対する地盤反力が不安定であっても杭に構造物の重さの一部を負担させて支持力を補強することができ、構造物の支持力を増すことができる。
【0050】
請求項23に係る構造物の支持力補強工法は、第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されるようにしたものである。
【0051】
請求項23に係る構造物の支持力補強工法では、第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されるようにしたことにより、作業スペースを構造物から外側に大きく取る必要がなくなり、限られたスペースでも作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の請求項1に係る構造物の水平高さ修正工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、杭と取付具との間に杭を下方に押圧する杭押圧手段を配設する第4の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭押圧手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第5の工程とを有するようにしているので、地盤の掘削を行うことなく、狭隘な場所でも作業効率を向上させ、しかも、コストダウンを図ることができる。
【0053】
本発明の請求項11に係る構造物の水平高さ修正工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭圧入手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第4の工程とを有するようにしているので、杭の下方への圧力の付与を同一の手段を用いて行うことができ、設備を簡素化し、作業効率を向上させることができる。
【0054】
本発明の請求項12に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具では、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に立てられた杭の近傍に配置されて基礎を含む構造物側に取り付けられる取付具と、この取付具に取り付けられ、立てられた杭に下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる杭圧入手段と、取付具に取り付けられ、地面に圧入されて支持力を持った杭に下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる杭押圧手段とを備えるようにしているので、地盤の掘削を行うことなく、簡素な機具で狭隘な場所でも作業効率を向上させ、しかも、コストダウンを図ることができる。
【0055】
本発明の請求項22に係る構造物の支持力補強工法は、構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭を地面に圧入する杭圧入手段を取付具を介して基礎を含む構造物側に取り付け、この杭圧入手段を立てられた杭の上方に配置する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、地面に圧入されて支持力を持った杭と構造物側とを連結し構造物の重さの一部を杭に負担させる第4の工程とを有するようにしているので、地盤の掘削を行うことなく、狭隘な場所でも作業効率を向上させ、しかも、簡素な構成で構造物の支持力を増すことができ、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
地盤を掘削することなく狭隘な場所でも効率よく構造物の水平高さを修正するという目的を、構造物を支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方の地面に、まず杭を立て、この杭を基礎側に取り付けられた杭圧入手段により構造物の反力を利用して地面に圧入し構造物の重さを支える支持力を持たせ、この支持力を持った杭に、杭圧入手段に代えて杭押圧手段により下方への押圧力を付与して杭の反力により構造物を持ち上げ、持ち上げられた構造部の沈下が収まると、基礎と地面との間に生じる隙間に硬化性充填材を充填するようにしたことにより実現した。
【実施例1】
【0057】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。図1の(A)ないし(D)および図2の(E)ないし(G)はそれぞれ、本発明のうち第1の発明の第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法により構造物の水平高さを修正する工程を順に示す工程図、図3は、上記工程のうち、杭圧入後、取付具にジャッキを取り付けた状態を示す説明図である。本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、機具として、図1の(A)ないし(C)に示すように、構造物(既存の家屋や建物)3を支持する基礎(断面逆T字状布基礎)4に杭孔5を形成する穿孔機6と、穿孔機6によりコア抜きされて形成された杭孔5に挿入された杭7の杭頭部8に圧入部9Aが取り付けられる油圧ジャッキ(油圧ユニット)9とが用いられる。油圧ジャッキ9は、杭7を圧入に先立ち直接にまたは杭孔5を介して地面2に垂直に立てるために用いられる。なお、油圧ジャッキ9に代えて人力で立てるようにしてもよい。
【0058】
この工法では、図1の(D)および図3に示されるように、基礎4の水平支持部(フーチング、底辺広がり部)4Xに取り付けられる取付具10が用いられる。この取付具10には、加圧用パワージャッキ(杭圧入手段)11または杭押圧用パワージャッキ(杭押圧手段)31が交換可能に取り付けられるようになっている。加圧用パワージャッキ11は取付具10に取り付けられる際、駆動端部(以下、進退動部という)12を下方に向け、杭孔5の上方に配置される。また、杭押圧用パワージャッキ31も同様に、取付具10に取り付けられる際、駆動端部(以下、進退動部という)32を下方に向け、杭孔5の上方に配置される。加圧用パワージャッキ11は、杭(鋼管杭)7の圧入または杭7に充填された支持力増強材Msの加圧のうち少なくともいずれか1の機能を果たすようになっている。杭押圧用パワージャッキ31は、杭孔5に圧入され所定の支持力が確保された杭7を下方へ押圧するようになっている。パワージャッキ11は、およそ84〜100cm程の比較的長い突出ストロークを、パワージャッキ31は、およそ10cm程の比較的短い突出ストロークをそれぞれ有している。
【0059】
取付具10は、図4の(A)、(B)および図5の(A)ないし(C)に示されるように、一対の枠材21、22から構成され、これら枠材21、22の上端を連結具23または加圧用パワージャッキ11の支持部24により連結し、下端を基礎4の水平支持部4Xに設けられたインサート25にボルトで連結し、基礎に固定するようになっている。また、一対の枠材21、22は、高さが変更可能になっている。すなわち、各パワージャッキ11、31の突出ストロークの長さに応じて、複数の枠材21A−22A、21B−22B、21C−22Cをボルトにより上下に連結して高さを変えることができるようになっている。
【0060】
杭7のうち最初に杭孔5に挿入される先端杭7Aは、図3に示すように、尖端が閉塞した中空円筒状に形成され、全体に多数の貫通孔26が穿設される。先端杭7Aの他端は開口し接続具13を介して他の杭7Bと通路を確保して接続可能になっている。杭7Aが土中2に圧入されると、外部から支持力を高める支持力増強材Msが充填されるようになっている。この杭7Aに充填された支持力増強材Msは、加圧用パワージャッキ11により加圧されると、加圧により貫通孔26から土中2に押し出されるようになっている。杭7は、先端の杭7Aが土中2に圧入されると、順次、接続用の杭7B、7C・・・7Nが接続され所定の支持力を得るまで圧入される。接続用杭7B〜7Nは、両端に連結部を有する同一径の中空円筒状杭で、先端杭7Aのような孔は形成されていない。このため、杭7B〜7Nが先端杭7Aに順に連結されると、外部から供給される支持力増強材Msは先端杭7Aに導かれ、加圧されると、先端杭7Aから支持力増強材Msが土中2に押し出されるようになっている。
【0061】
支持力増強材Msには、例えば、モルタルまたは発泡樹脂(ウレタン樹脂)が用いられる。支持力増強材Msを先端の杭7Aから土中2に押し出すには、まず、基礎4に取り付けられる取付具10を、図4に示すように、複数の枠材21A−22A、21B−22B、21C−22Cにより高く組み立てて構成し、取付具10の上部に加圧用パワージャッキ11を取り付ける。パワージャッキ11の進退動部12には、栓状のピストン部材14(図2の(E)参照)を取り付け、杭7(7Aまたは7A〜7N)に支持力増強材Msを充填した後、パワージャッキ11のピストン部材14を杭7の上端開口部に挿入し、パワージャッキ11を動作させて、ピストン部材14を下方に押し下げて支持力増強材Msを加圧するようになっている。そして、押し出される支持力増強材Msの量が、予め計算された構造物に対して所定の支持力が得られる量に達するまで、支持力増強材Msの充填、ピストン部材14の杭7への装着、押し下げ、抜き出しを繰り返すようになっている。支持力増強材Msは土中2で硬化または固化すると、杭7の支持力を増大させるようになっている。
【0062】
先端杭7Aから支持力増強材Msが土中2に押し出されて硬化または固化し、杭7が所定の支持力を確保すると、取付具10から加圧用パワージャッキ11が取り外されて、杭押圧用パワージャッキ31が取り付けられる。このとき、取付具10は複数の枠材21A−22A、21B−22B、21C−22Cを組み立てた状態で、その下部に杭押圧用パワージャッキ31を取り付けてもよいし、上側の枠材21B−22B、21C−22Cを取り外し、一対の枠材21A−22Aの上端を連結具23で連結して組み立て、それに杭押圧用パワージャッキ31を取り付けてもよい(図5の(B)参照)。杭押圧用パワージャッキ31は、進退動部32を下方に向けて取付具10に取り付けられる。杭押圧用パワージャッキ31は、図2の(F)に示すように、進退動部32が、地面に圧入されて所定の支持力が確保された杭7の杭頭部8を押圧すると、その反力により構造物3を持ち上げるようになっている。
【0063】
持ち上げられた構造物3の基礎4と地面2との間に生じた隙間Sには、注入機(グラウティングマシン、充填手段)33により充填材(例えば、モルタルグラウト、セメントペースト、ベントナイト液、合成樹脂等)Mcを充填するようになっている。なお、注入機33に代えて人力により充填してもよい。
【0064】
次に、上記第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法についてこの工法に用いられる機具の作用に基づいて説明する。この第1の実施例に係る工法は、構造物が比較的深い地層まで軟弱地盤が続く土地に築造された例を示す。上記実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、図1の(A)に示すように、構造物3を支持する基礎4の上で作業を行うことができるよう基礎4に沿って、構造物3内部の床3Aの一部を取り外し、基礎4の内外側の水平支持部4Xに作業場所を確保する。次に、図1の(B)に示すように、穿孔機6により基礎4の内外側水平支持部4Xに杭孔5を穿設する(ステップS1)。杭孔5は、予め計画された施工プランに基づき、杭7が構造物3を均等に支持するように基礎4に沿って互いに所定の距離を隔てて配置されるようになっている。次に、基礎4に形成された杭孔5に先端杭7Aを挿入し、杭孔5上に杭頭部8を突出させた状態で保持する(ステップS2)。
【0065】
次に、図1の(C)に示すように、この杭7Aの杭頭部8には、油圧ジャッキ9の圧入部9Aを取り付け、油圧ジャッキ9を動作させて杭7Aを地面2に打ち込み垂直に立てる(ステップS3、第1の工程)。杭7Aが垂直に立つと、次に、図1の(D)に示すように、取付具10を基礎4の水平支持部4Xに取り付ける。取付具10は、杭孔5の上方に配置され、基礎4のインサート25にボルトで取り付けられ固定される。次に、この取付具10に加圧用パワージャッキ11を取り付け、進退動部12を杭7Aの上方に配置する(ステップS4、第2の工程)。そして、加圧用パワージャッキ11を動作させて進退動部12により杭7Aを下方に圧入する。杭7Aが下方に圧入されその上端開口部が地面2近くの位置に達すると、この第1の先端杭7Aに第2の杭7Bを接続具13により接続する。こうして、加圧用パワージャッキ11は、先端杭7Aが所定の深さに達するまで新たな杭7C〜7Nを順次継ぎ足して地面2に圧入してゆく(ステップS5)。このとき、加圧用パワージャッキ11は取付具10を介して基礎4に固定されているので、構造物3の重さを反力として利用し、杭7A〜7Nを圧入するようになっている。
【0066】
先端杭7Aが所定の深さに達し、支持力増強材Msを充填すべき位置に至ると、次に、図2の(E)に示すように、複数接続されて土中2に圧入された杭7には、上端開口部から流動性のある支持力増強材Msが充填される。次に、接続された杭7の上端開口部に、パワージャッキ11のピストン部材14を挿入し、パワージャッキ11を動作させて、ピストン部材14を下方に押し下げて支持力増強材Msを加圧する。支持力増強材Msは杭7内で加圧されると、先端杭7Aの貫通孔26から土中2に押し出され、時間の経過とともに硬化または固化する。予め支持力確保のため計算された量の支持力増強材Msが杭7の先端側周囲で硬化または固化すると、本実施例のように軟弱地盤内であっても、基礎4に沿って互いに所定の距離を隔てて配置された杭7ごとに所定の構造物支持力を確保することができ、杭7全体で構造物3を均等に支持するようになっている(ステップS6、第3の工程)。支持力増強材Ms硬化後または固化後の各杭7の支持力は図示しない計測器により測定される。予め計算された所定値以上の支持力が確認できれば次の工程に進む。
【0067】
杭7が、支持力増強材Msの硬化または固化により構造物3を支持する支持力を得ると、次に、図2の(F)および図5に示すように、取付具10から加圧用パワージャッキ11を取り外して、取付具10の高さを変更し、1組の枠材21A−22Aにより取付具10を組み立て、この取付具10に杭押圧用パワージャッキ31を取り付け、進退動部32を杭7の杭頭部8に接続具(図示せず)を介して接続する(ステップS7、第4の工程)。
【0068】
杭押圧用パワージャッキ31が杭7にセットされると、次に、杭押圧用パワージャッキ31を動作させ、進退動部32から所定の押圧力Pを杭7に付与する。この押圧力Pは杭7の1本当たりの支持力wを越えないよう設定される。こうして、各杭押圧用パワージャッキ31により杭7に押圧力Pが均等に加えられると、杭押圧用パワージャッキ31の下方への押圧力Pは、杭7が構造物3を支持する支持力を得ているので、地盤側の反力により取付具10を通じて構造物3に作用し、構造物3を持ち上げる(ステップS8、第5の工程)。杭7の杭径、圧入長さ、杭1本当たりの必要な構造物支持力等は、構造物3を地面2から持ち上げる力により決定される。すなわち、1本の杭の支持力に杭の本数を乗じた荷重負担力が、構造物3を持ち上げる持ち上げ力HWより大きくなるようにし、構造物3の持ち上げ力HWと構造物3下側の地盤の性質とに応じて1本当たりの杭径(杭の支持力に比例する)と杭数とを決定するようになっている(構造物3の持ち上げ力HW<杭押圧用パワージャッキ31がそれぞれの杭7に与える押圧力P×杭数pn<杭7の1本当たりの支持力w(杭径)×杭数pn)。すなわち、図6の(A)、(B)に示すように、自重5tの構造物3aの基礎4aを通じて、例えば、地面2に6本の杭7(7p1〜7p6)を圧入し、これら各杭7p1〜7p6にそれぞれ1tの反力Pを同時に加えて構造物3aを持ち上げると、構造物3aには計6tの押し上げ力がかかり持ち上げられることになる。構造物の持ち上げ力HWは、構造物の自重だけでなく、基礎4と地面2との摩擦力も含まれる。このため、各杭7p1〜7p6は、1t以上の支持力wを確保するようにしている。構造物3は、杭押圧用パワージャッキ31の進退動部32の突出量(本実施例の場合、およそ10cm)に応じて持ち上げられると、持ち上げられた構造物3の基礎下面4Bと地面2との間に隙間Sが生じる。
【0069】
次に、図2の(G)に示すように、注入機33により、持ち上げられた構造物3の基礎4と地面2との間に生じた隙間Sに充填材Mcを充填する(ステップS9)。充填材Mcが硬化または固化すると、杭押圧用パワージャッキ31を取付具10から、また、取付具10を基礎4からそれぞれ取り外して、杭孔5にも充填材Mcを充填して硬化または固化させ、構造物の水平高さ修正が完了する。こうして、構造物3は施工前の沈下状態あるいは傾斜状態から所定の水平高さに修正される。このように、本実施例では、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも作業を行うことができ、しかも、小型の簡素な機具を用いるので、労力や規模が小さくても施工を行うことができる。
【0070】
なお、上記実施例では、構造物3の持ち上げ後、ステップS9で隙間Sに充填材Mcを充填するようにしているがこれに限られるものではなく、構造物3が持ち上げられ、基礎下面4Bと地面2との間に隙間Sが生じた状態(ステップS8の状態)で、杭7と基礎を図示しない連結具で連結し、基礎4に杭7の支持力を伝え、杭7に構造物3の支持力を負担させるようにしてもよい。この場合、沈下が生じても、図示しない連結具に代えて杭押圧用パワージャッキ31を再び基礎4に取り付けて杭7を押圧して、構造物3の高さを修正することができる。このように、たとえ、沈下が生じても、図示しない連結具による杭7と基礎4との連結と、杭押圧用パワージャッキ31の押圧とを繰り返してもよいし、このような繰り返しにより、沈下が収まれば、杭7が構造物3を確実に支持していることになり、以後沈下の虞がなくなる。また、沈下が収まった後、充填材Mcを隙間Sに充填して硬化させるようにしてもよい。こうすることにより確実に沈下を防ぐことができる。さらに、図21は、取付具10の変形例を示すもので、上記取付具10が、複数の枠材21A−22A、21B−22B、21C−22Cをボルトにより上下に連結して高さを変えることができるようになっているのに対し、加圧用パワージャッキ11を用いる際の取付具110を、長寸の一対の枠材121、122と、この枠材121、122の上端部に溶接されてこれら枠材121、122を連結し、中央に加圧用パワージャッキ11の進退部12が通過する円孔が形成された連結プレート123とを備えて構成し、この連結プレート123上に加圧用パワージャッキ11を配置するようにしている。加圧用パワージャッキ11の上端部に連結された連結具126と連結プレート123とにはそれぞれ、上下方向に合致して貫通孔が形成され、これら貫通孔にロッド124、125を挿通して、ボルト127により、加圧用パワージャッキ11を長寸の枠材121、122に固定するようにしている。このように構成したことにより、取付具10に対して、枠材21A−22A、21B−22B、21C−22Cを組み立てる作業が不要となるので、作業効率が向上する。
【実施例2】
【0071】
次に、本発明の第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法について説明する。第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、上記第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、構造物が比較的深い地層まで軟弱地盤が続く土地に築造された例を示しているのに対し、築造された構造物の地面下に軟弱地盤を介して比較的浅い地層に固い支持地盤が存在する例を示す。第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、上記第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法が、ステップS6で軟弱地盤に対して杭7が所望の支持力を持つように支持力増強材Msを用いているのに対し、支持力増強材Msを用いることなく、杭7を比較的浅い地層にある固い支持地盤に打ち込むことにより支持力を確保するようにした点が異なる他は上記第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法とほぼ同じ構成を備えている。
【0072】
すなわち、第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、図7の(A)ないし(E)に示すように、構造物3を支持する基礎4に沿って、構造物3内部の床3Aの一部を取り外し、作業場所を確保し(図7の(A)参照)、次に、穿孔機6により基礎4に杭孔5を穿設する(ステップS11、図7の(B)参照)。杭孔5は、予め計画された施工プランに基づき、所定の距離を隔てて所定の位置に形成される。次に、基礎4に形成された杭孔5に先端杭7Aを挿入し、この杭7Aの杭頭部8には、油圧ジャッキ9の圧入部9Aを取り付け、油圧ジャッキ9を動作させて杭7Aを地面2に打ち込み垂直に立てる(ステップS12)。次に、取付具10を基礎4の水平支持部4Xに取り付け、この取付具10に加圧用パワージャッキ11を取り付け、進退動部12を杭7の上方に配置する(ステップS13)。次に、加圧用パワージャッキ11を動作させ、進退動部12により杭7を土中2に圧入する。杭7Aが下方に圧入されその上端開口部が地面2近くの位置に達すると、この第1の先端杭7Aに第2の杭7Bを接続具13により接続する。こうして、先端杭7Aが硬い地盤2A内に達するまで新たな杭7C〜7Nを順次継ぎ足して土中2に圧入してゆく。そして、先端杭7Aが、硬い地盤2Aに達し、それ以上下方に下がらなくなると、杭7は支持力を獲得する(ステップS14、図7の(C)参照))。このとき、杭7毎の支持力の大きさは図示しない計測器により確認される。
【0073】
次に、取付具10の加圧用パワージャッキ11を杭押圧用パワージャッキ31と交換し、進退動部32を杭7の杭頭部8に接続し(ステップS15)、杭押圧用パワージャッキ31を動作させ、進退動部32から所定の押圧力Pを杭7に付与すると、反力により構造物3を持ち上げる(ステップS16、図7の(D)参照)。構造物3が、杭押圧用パワージャッキ31により持ち上げられると、持ち上げられた構造物3の基礎4と地面2との間に隙間Sが生じる。次に、注入機33により、持ち上げられた構造物3の基礎4と地面2との間に生じた隙間Sと杭孔5とに充填材Mcを充填する(ステップS17)。充填材Mcが硬化または固化すると、杭押圧用パワージャッキ31と取付具10とを基礎4からそれぞれ取り外して構造物の水平高さ修正が完了する(図7の(E)参照)。このように、本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、硬い地盤2Aを利用して杭7の支持力を得るようにしているので、第1の実施例のような支持力増強材Msの注入および硬化の工程を省略することができる。
【実施例3】
【0074】
次に、本発明の第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法について説明する。第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、上記第1および第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、杭7を基礎4の杭孔5を介して地面に圧入するのに対し、基礎44の近傍の地面2に杭7を立て、地面2に立てられた杭7を圧入するようにした点、および、取付具10をこの杭7上に配置するため、水平支持部4Xのない縦壁状基礎に取り付けられる支持金具(水平材)50を設けた点が異なる他は、上記第1第2の実施例とほぼ同一の構成を有している。すなわち、第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、図8および図9に示すように、水平支持部(フーチング、底辺広がり部)を備えていない縦壁状に形成された基礎44を有する構造物43に適用される。この実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、上記第1第2の実施例が取付具10を布基礎4の水平支持部4Xに取り付けるようにしているのに対し、本実施例の基礎44は水平支持部を備えておらず、取付具10は縦壁状基礎44の側面に取り付けられた断面L字状支持金具(水平材)50に取り付けられる点が異なっている。すなわち、L字状支持金具50は、立ち上がり部50Aが基礎44の側面に取り付けられ、延長部50Bがこの立ち上がり部50Aから直角に延びている。これら両面50A、50Bの側部には、これら両面50A、50Bを接続する補強部50Cが形成される。L字状支持金具50の立ち上がり部50Aには、図10の(A)ないし(C)に示すように、取り付け用の貫通孔51が、延長部50Bの端部には、取付具10が取り付けられるスリット52が形成される。L字状支持金具50は、地面2に立てられる杭7の両側に、杭7を挟むように基礎44に取り付けられる。一対の支持金具50には、ボルトとナットにより取付具10が取り付けられる。取付具10には、加圧用パワージャッキ11または杭押圧用パワージャッキ31が杭7の上方に配置されるように取り付けられる。杭を圧入する前に立てるための打ち込み、杭の圧入、支持力確保、反力を利用した構造物43の持ち上げおよび充填材Mcの充填の工程は、上記第1第2の実施例とほぼ同じである。このように、第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、基礎に杭孔を穿設することなく直接地面に杭を打ち込んで構造物の水平高さを修正するようにしているので、施工の自由度が向上し、多様な現場に対応した作業を行うことができる。
【0075】
なお、この第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、杭7を基礎44に沿って基礎4の近傍に立てた後、地面2に圧入するようにしているがこれに限られるものではなく、例えば、図11の(A)ないし(D)に示すように、基礎4間で基礎4から離れた位置の地面2に杭7を圧入するようにしてもよい。この変形例では、基礎4間に水平材53を取り付け、この水平材53に穿設された孔54に杭7を差し入れて垂直に保持するようになっている。また、この水平材53には、取付具10が取り付けられるようになっている。杭7は、取付具10にセットされた加圧用パワージャッキ11により地面2に圧入され、加圧用パワージャッキ11と交換された杭押圧用パワージャッキ31により押圧されるようになっている。このように、水平材53は支持金具50と同じ作用を果たすようになっている。
【実施例4】
【0076】
次に、上記第1の発明の第4の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法について説明する。第4の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、上記第1ないし第3の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、全体が一様に沈下した構造物であるのに対し、一部が沈下、または不同沈下した構造物について適用されるものである。すなわち、本発明の第4に係る構造物の水平高さ修正工法では、例えば、駐車場や駐輪場あるいは公園広場等の土間コンクリート、屋根支柱の独立基礎、バルコニー、エントランス、歩道、戸建住宅の不同沈下、花壇や受水槽の支持基礎等の水平高さ修正に適用される。第4の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、図12および図13に示すように、例えば、基礎に相当する駐輪場の土間コンクリート64の一部が沈下した場合の水平高さを修正するようにしている。本実施例に係る水平高さ修正工法は、上記第1ないし第3の実施例では、構造物を反力により持ち上げる杭7を、構造物3、43を均等に支持するように基礎4、44に沿って互いに所定の距離を隔てて配置するようにしているのに対し、沈下の度合いに応じて適切な箇所に杭7を打ち込むようにした点が異なっている他は、ほぼ同一の構成を備えている。
【0077】
すなわち、本実施例では、杭孔65は、土間コンクリート64のうち、沈下の度合いの大きい箇所に穿孔機6により杭孔65を穿設する(ステップS101)。杭孔65は、予め計画された施工プランに基づき、沈下の度合いの大きい箇所に集中して穿設される。次に、基礎64に形成された杭孔65に単管杭67を挿入して杭孔65上に突出させた状態で保持し(ステップS102)、取付具10を基礎64に取り付ける。次に、この取付具10に加圧用パワージャッキ11を取り付け、進退動部12を杭67の上方に配置する。次に、加圧用パワージャッキ11を動作させ、進退動部12により杭67を土中2に圧入する。単管杭67を下方に圧入し、所定の支持力を確保するまで圧入を続け、計測器により所定の支持力確保を確認すると圧入を停止する(ステップS103)。次に、図13に示すように、取付具10の加圧用パワージャッキ11を杭押圧用パワージャッキ31と交換し、進退動部32を杭67の杭頭部に接続し(ステップS104)、杭押圧用パワージャッキ31を動作させ、進退動部32から所定の押圧力P1を杭67に付与すると、反力により土間コンクリート64が持ち上がる(ステップS105)。土間コンクリート64が、杭押圧用パワージャッキ31により持ち上げられると、持ち上げられた土間コンクリート64と地面2との間に隙間S1が生じる。次に、注入機33により、生じた隙間S1に充填材Mcを充填する(ステップS106)。充填材Mcが硬化または固化すると、杭押圧用パワージャッキ31と取付具10とを土間コンクリート64から取り外し、杭孔65に充填材Mcを充填して構造物の水平高さ修正が完了する(図12参照)。このように、本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、一部沈下または不同沈下した構造物についても、地盤の掘り起こしを行うことがなく、狭隘な場所でも作業を行うことができ、しかも、小型の簡素な機具を用いるので、労力や規模が小さくても施工を行うことができる。
【実施例5】
【0078】
次に、上記第1の発明の第5の実施例について説明する。第5の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、上記第1ないし第4の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、杭押圧用パワージャッキ31は、支持力が確保された杭7、67を直接または図示しない接続具を介して押圧し構造物を持ち上げるようにしているのに対し、杭7、67の頂部と杭押圧用パワージャッキ31の進退動部32との間に、所定寸法にカットされた棒状介在具(ジグ)を介在させた点が異なっている他は、ほぼ同一の構成を備えている。この第5の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法は、図14に示すように、上記第1、第2および第4の各実施例におけるステップS6、ステップS14およびステップS103の工程後、圧入された杭7、67に所定の支持力が確保されると、この杭7、67の上端開口部に介在具70が接続され、基礎4側に設置される杭押圧用パワージャッキ31の進退動部32と杭6、67との間に介在されるようになっている。介在具70は、全面がねじ切りされたロッドにより構成され、下部には、杭径とほぼ同一の外径を有するワッシャ71とその上にはこのワッシャ71より若干小径のワッシャ72とが挿通され、これら2枚のワッシャ71、72を上下からナット73、74で挟持するようになっている。この下側ワッシャ71は杭7、67の上端面に載置される。介在具70の下端にも、ナット75が螺装され、下側ワッシャ71が杭7、67の上端面に載置された際、下端に螺装されたナット75の外面が杭7、67の内面に当たり、介在具70が傾かないようになっている。介在具70の上端には、下部にナットが溶接された平座金76が螺装される。
【0079】
また、基礎4、44、64側には、当接金具(係止具)78が取り付けられる。当接金具78は、介在具70の平座金76上面に当接して持ち上げられた構造物3、43を支えるようになっている。当接金具78は、長手方向両側にねじ穴79A、79Bが穿設された断面コ字状プレート79と、これらねじ穴79A、79Bに螺入されるとともに、基礎4、44、46の杭孔5、45、65両側に対で形成されたインサート80A、80Bに下端が螺合されるボルト81A、81Bを備えて構成される。当接金具78は、杭押圧用パワージャッキ31が構造物3、43を持ち上げると、順次、杭押圧用パワージャッキ31に代えて介在具70に当接させて基礎4、44、46に取り付けられる。当接金具78は、まず、断面コ字状プレート79の底面を平座金76上面に載置し、ボルト81A、81Bをそれぞれねじ穴79A、79Bに螺入し、ボルト81A、81Bの下端をインサート80A、80Bにねじ込んで、介在具70を杭7、67とコ字状プレート79との間に固定するようになっている。こうして、すべての杭押圧用パワージャッキ31に代えて当接金具78が介在具70の平座金76上面に当接して取り付けられると、当接金具78を介して杭7、67により構造物3、43、64はその重さが支えられる。
【0080】
こうして、本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、圧入工程(ステップS6、S14、S103)で圧入されて支持力が確保された杭7、67を、持ち上げ工程(ステップS8、S16、S105)で構造物を持ち上げる際に、介在具70を、杭7、67頂部と杭押圧用パワージャッキ31の進退動部32との間に配置し、杭押圧用パワージャッキ31の下方への押圧力を反力として構造物を持ち上げ、持ち上げた後、介在具70上の杭押圧用パワージャッキ31を当接金具78に順次取り替えて構造物3、43、64を支持するようになっている。
【0081】
ところで、上記第1ないし第4の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、杭押圧用パワージャッキ31による持ち上げ後、基礎4、44、64と地面との間に形成される隙間Sに充填材Mcを充填する(ステップS9、S17、S106の工程)ようにしているのに対し、本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、持ち上げ後、直ちに充填材Mcを充填しないで、当接金具78を取り付けた状態で構造物3、43を支持したまま、構造物3、43の沈下の有無をある期間(例えば、地盤の性質に応じて、週間毎、月毎というように)確認するようにしている。確認は介在具70に印したマークの降下量を計測器により計測して検知する。そして、その状態で沈下が見られなければ、基礎4、44、64と地面との間に形成される隙間Sに充填材Mcを充填する(ステップS9、S17、S106の工程)。ある確認期間の間に沈下が見られた場合、沈下の量(例えば、数センチメートル〜十数センチメートル)と、沈下量計測日間の経過時間とを記録するとともに、当接金具78に代えて杭押圧用パワージャッキ31を各杭7、67の介在具70毎にセットし、所望の水平高さまで再び構造物3、43を持ち上げ、持ち上げ後、杭押圧用パワージャッキ31を当接金具78に取り替える。その後、再び確認期間の間に沈下が見られた場合、沈下の量と沈下量計測日間の経過時間とを記録し、経過時間に対する沈下量の割合を算出する。こうして、杭押圧用パワージャッキ31と当接金具78とを交換して沈下した構造物の持ち上げを繰り返す。持ち上げを繰り返してゆくと、地盤反力が沈下をほぼ抑えるようになる。こうして、経過時間に対する沈下量の割合が減少してゆき沈下がほぼ収まると、基礎4、44、64と地面との間に形成される隙間Sに充填材Mcを充填するようにしている(ステップS9、S17、S106の工程)。このように本実施例に係る構造物の水平高さ修正工法では、沈下がほぼ収まるまで期間をおいて構造物の持ち上げを繰り返すようにしているので、充填材Mc投入後の地盤沈下を確実に抑えることができる。
【0082】
介在具70の長さは、ロッドを自在にカットして決定されるが、介在具70の長さの決定にあたっては、長さの異なるねじ切りされたロッドを選択して用い、構造物の沈下量が大きい初期の段階では、長寸のものを用い、沈下量が落ち着いてくると、短寸のものに交換してもよい。また、地盤の性質に応じて、軟弱地盤の場合は、長寸のものを、支持層が強固な硬い地盤の場合は短寸のものを用いるようにしてもよい。さらに、介在具70はロッドに限定されるものではなく、パイプを用いてもよい。
【0083】
なお、上記第1ないし第5の実施例に係る構造物では、構造物の基礎4、44、64がすでに築造された既存の基礎であって、これら基礎4、44、64に直接杭孔を形成するか、基礎近傍の地面に杭孔を形成しているがこれに限られるものではなく、例えば、駐輪場や広場などの基礎について、基礎築造時に、予め杭孔を形成するようにしてもよい。たとえば、杭を立てる第1の工程の前に、すなわち、駐輪場(構造物)の基礎を築造する際、予め基礎の上下を貫通する塩ビ管(填隙部材)を配置して基礎を築造し、築造後、塩ビ管により形成される内部の空隙を杭孔とするようにしてもよい。
【実施例6】
【0084】
次に、本発明の第2の発明に係る構造物の支持力補強工法について説明する。上記第1ないし第5の実施例の構造物では、構造物3、43を持ち上げて水平高さを修正するようにしているのに対し、本発明の第2の発明の第1の実施例(第6の実施例)に係る構造物の支持力補強工法では、構造物を持ち上げることなく構造物の支持力を補強するようにした点が異なっている。本実施例に係る構造物の支持力補強工法は、図15の(A)ないし(C)に示すように、例えば、工事現場に設置されるタワークレーン等の小規模な基礎について適用される。タワークレーン(構造物)83を支持する基礎84は、工事現場などの狭隘な場所に暫定的に設置され、工事終了後は撤去されるようになっている。基礎84は、地面に型枠を設置し、鉄筋を配置した後、コンクリートを打設して形成される。ところで、この基礎84は、基礎築造時に、予め杭孔を形成するようにしている。すなわち、図15の(A)ないし(C)に示すように、基礎84を築造する際、予め基礎84の上下を貫通する塩ビ管(填隙部材)86を複数配置して基礎84を築造し、築造後、塩ビ管86内部の空隙により杭孔85を形成するようにしている。本実施例の場合、平面矩形の基礎84に対し長手方向両側に短辺方向に沿って杭孔85が形成されるようになっている。そして、この杭孔85に杭87が立てられると、杭87は、基礎84に設けられた取付具(図示せず)を介して杭加圧用パワージャッキ11により地盤に圧入され所定の支持力を確保するようになっている。圧入された杭87は、図示しない連結具により基礎84と連結される。基礎84は、杭87と連結されると、杭87により支持力が補強されるようになっている。このため、基礎84を支える地盤反力が不安定であったり、弱かったりしても、基礎84の支持力を補強し、安定化を図ることができる。杭87は単管杭でもよいし、継ぎ足した複数の杭から構成してもよい。本実施例に係る構造物の支持力補強工法では、構造物83に対する地盤反力が不安定であっても杭87に構造物83の重さの一部を負担させて支持力を補強することができ、構造物83の支持力を増すことができる。このように、本実施例に係る構造物の支持力補強工法では、基礎84に予め杭孔85が形成されるので、杭孔の形成作業を省略することができ、また、基礎84のジャッキアップを行わないで地盤の支持力不足を杭の圧入により補強することができる。なお、本実施例に係る構造物の支持力補強工法では、工事現場に設置されるタワークレーン等の小規模な基礎について述べたがこれに限られるものではなく、上記第1ないし第5の実施例に係る構造物に適用し、構造物の持ち上げと充填材の充填とを行わず、構造物に対して支持力を補強して沈下の防止を図るようにしてもよい。また、本実施例では、杭孔85を基礎84の築造時に予め形成するようにしているがこれに限られるものではなく、基礎84を築造した後、杭孔を穿設するようにしてもよい。また、杭孔85を必ずしも基礎84に設ける必要はなく、基礎84近傍の地面に杭87を立て、杭加圧用パワージャッキ11により地盤に圧入するようにしてもよい。
【実施例7】
【0085】
ところで、上記第1の発明に係る第1ないし第5の各実施例および第2の発明に係る第1の実施例(第6の実施例)では、杭圧入用パワージャッキ11を取付具10を介して基礎4、44、64、84側に固定して、杭7、67、87を地面2に圧入する際、構造物3、43、64、83側の重量を杭7、67、87圧入の反力に用いている。このため、構造物3、43、64、83側の荷重が杭7、67、87を地盤中の支持層(固い地盤)2Aに打ち込むのに不十分な場合、打ち込み時、基礎4、44、64、84が浮き上がる虞がある。このため、図16の(A)ないし(E)に示すように、本実施例(第7の実施例)では、先に地面2に圧入された杭7、67、87を順次、当接金具78を介して基礎4、44、64、84と連結して、構造物3、43、64、83側に支持力を持たせ、この増大した支持力を杭7、67、87圧入の反力に用いるようにしている。すなわち、図16の(A)に示すように、まず、杭圧入用パワージャッキ11により杭7、67、87を地面2に圧入して、杭7、67、87を固い地盤の支持層2Aに打ち込むと、杭は7、67、87は支持力を持つことになる。このため、例えば、複数の杭7、67、87をほぼ同時に圧入し、構造物3、43、64、83側の荷重より杭7、67、87の支持力が大きくなると、杭圧入用パワージャッキ11は構造物3、43、64、83側の反力を利用しているため、杭7、67、87の支持力に抗して杭圧入用パワージャッキ11の下方への押圧力が逆に構造物3、43、64、83側に作用して構造物3、43、64、83側が持ち上げられることになってしまう。このため、本実施例に係る工法では、先行して打ち込まれる杭7、67、87を、予め導かれた設計支持力に基づいて、構造物3、43、64、83側の荷重を越えない杭の本数を導き、圧入された杭7、67、87の本数が導かれた本数に達する前に、図16の(C)に示すように、圧入された杭7、67、87の頂部または介在具70に当接金具78を当接させて当接金具78を基礎4、44、64、84と連結し、構造物3、43、64、83側に支持力を付与するようにしている。構造物3、43、64、83側の支持力が増大すると、新たな杭7、67、87を圧入する際に構造物3、43、64、83側の反力も増大しているので、より多くの杭をほぼ同時に圧入することができ、作業時間を短縮することができる。なお、本実施例に係る工法は、本発明の第1の発明に係る構造物の水平高さ修正工法にも、第2の発明に係る構造物の支持力補強工法にも適用可能であることはいうまでもない。
【実施例8】
【0086】
また、本発明の第8の実施例は、上記各実施例が、構造物3、43、64、83を持ち上げる際、杭押圧用パワージャッキ31(図16では杭圧入用パワージャッキ11)で直接杭7、67、87を下方に押圧するか、介在具70を介して下方に押圧するようにしているのに対し、図17に示すように、パワージャッキ側31、11と、杭7、67、87または介在具70との間にパワージャッキ側31、11からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材90を介在させた点が異なっている外は上記各実施例とほぼ同様の構成を有している。
【0087】
すなわち、上記第1ないし第7の各実施例では、杭7、67、87を地面2に圧入し、構造物3、43、64、83を持ち上げる際、第1ないし第5の各実施例では、杭押圧用パワージャッキ31で直接杭7、67を下方に押圧するか、介在具70を介して下方に押圧するようにし、第6および第7の実施例では、杭圧入用パワージャッキ11で直接杭87を下方に押圧するようにしている。このため、構造物3、43、64、83を傾かないようバランスよく水平を保持して持ち上げるには、杭7、67、87全体をほぼ同時にかつ均等な押圧力で下方に押圧して持ち上げなければならない(図6の(B)参照)。第1ないし第5の各実施例について、例えば、図18に示すように、複数台の杭押圧用パワージャッキ31(31a〜31f)を取付具に取り付けて動作させる場合、複数台の油圧ポンプ88A、88B毎に油圧ホースを介して分岐弁89A、89Bに接続し、各分岐弁89A、89Bを複数の杭押圧用パワージャッキ31a〜31c、31d〜31fに接続して準備が完了する。そして、パワージャッキ31の動作時、押圧力に差が生じないよう各油圧ポンプ88A、88Bの圧力を注意深く確認しながら操作する必要があり、作業に員数が求められる。これに対し、本実施例(第8の実施例)では、図17に示すように、ステップS6(第3の工程)で、地面2に圧入され支持力を持った杭7、67に対し、基礎4、44、64、84に取付具10を取り付け、杭7、67頭部に杭押圧用パワージャッキ31を出力側進退動部32を上方に向けて配置し、この進退動部32と取付具10の連結具23との間に、弾性部材(ゴムパッド)90を配置するようにしている。この弾性部材90は進退動部32により押圧されると、変形して押圧力を吸収するようになっており、除荷されると弾性復帰するようになっている。このように、本実施例では、杭押圧用パワージャッキ31が動作されて進退動部32が突出すると、押圧力は弾性部材90を介して構造物3側に伝えられるようになっている。この弾性部材90は、変形量に応じて荷重の測定ができるようになっており、例えば、図19の(A)、(B)に示すように、除荷状態の弾性部材90の上下方向高さh1がh2に変化するとその変化量(変形量)(h2−h1)で、弾性部材90にかかる荷重の測定ができるようになっている。すなわち、1トンの荷重で弾性部材90の変形量である上下方向距離の差h2−h1が、例えば、1cmとなるようなゴムパッドを用いるようにし、弾性部材90の上下方向距離h2を測定することにより一本の杭にかかる荷重を測定することができるようになっている。このようにすることにより、作業時、荷重検出器を用いる必要がなくなり、作業性が向上する。
【0088】
そして、この弾性部材90は、図17に示すように、パワージャッキ31の進退動部32が取付具10側に向かって上方に突出する場合には、パワージャッキ31と取付具10側、すなわち、構造物3側との間に配置するようにしているが、これに限られるものではなく、上記第1ないし第7の各実施例に示されるように、パワージャッキ31の固定側が取付具10に取り付けられ、進退動部32が杭7、67、87側に向かって下方に突出する場合には、パワージャッキ31と杭7、67、87側との間に配置するようにしてもよい。図19の(A)ないし(D)はそれぞれ、弾性部材90をパワージャッキ31と杭7、67、87側との間に配置して構造物3を持ち上げる過程を順を追って示す説明図で、地面に圧入され支持力を持った複数の杭7、67毎に、杭押圧用パワージャッキ31と杭7、67との間に弾性部材90を配置し(図19の(A)参照)、杭押圧用パワージャッキ31により下方への押圧力が付与されると、弾性部材90は杭毎に変形して押圧力を吸収する(図19の(B)参照)。パワージャッキ31からの押圧力が、杭7、67のほぼ全体に及び構造物3の重量に相当する力を越えると、弾性部材90全体で押圧力を受け止めるので、反力により構造物が持ち上がる際、バランスよく徐々に持ち上がる(図19の(C)の持ち上がり高さH1、図19の(D)の持ち上がり高さH2(H2<H1)参照)。しかも、構造物3の持ち上げ時、杭毎に時間差を設けて押圧力を付与しても弾性部材により押圧力を付与した杭とまだ付与していない杭との偏りを吸収することができるので、すべての杭に同時に押圧力を付与する必要がなく、一部の杭毎に作業を行うことができ、大規模な設置作業が不要となり、少人数で作業を行うことができ、作業性が向上する。なお、本実施例では、弾性部材90としてゴムパッドを用いているがこれに限られるものではなく、ゴムパッドに代えてばねを用いるようにしてもよい。
【実施例9】
【0089】
次に、本発明の第9の実施例について説明する。本実施例(第9の実施例)に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具は、上記各実施例(第1〜第8の実施例)が、杭7、67、87を地面に圧入するのに杭圧入用パワージャッキ11を、また、杭の支持力確保後、構造物3を持ち上げるのに杭押圧用パワージャッキ31をそれぞれ用いているのに対し、図20に示すように、杭7、67、87と基礎4、44、64,84を含む構造物3側に取り付けられた取付具210との間に、杭圧入用パワージャッキ11または杭押圧用パワージャッキ31に代えて、押し下げ機構(押し下げ手段)211を設けた点が異なっている外は、上記各実施例とほぼ同様の構成を有している。
【0090】
取付具210は、基礎4、44、64、84に形成された杭孔5、65、85を囲んで、基礎4、44、64、84に固定された取付枠により構成される。押し下げ機構211は、この取付枠210に配設され、引き出し端に鉤部212を有するロープ213を巻胴214に巻き取るウインチ215と、このウインチ215と杭孔5、65、85との間で取付枠210に立設され、ロープ213の引き出し側を巻き回す第1のシーブ216を備えた固定綱車台217と、杭孔5、65、85に立てられた杭7、67、87の上端開口部に着脱自在に嵌装され、第1のシーブ216から引き出されたロープ213をほぼ真上に導いて巻き回す第2のシーブ218を備えた杭側綱車台219と、取付枠219に固定綱車台217の第1のシーブ216と杭孔5、65、85を挟んで向き合って取り付けられるとともに、第1のシーブ216の巻き回し部と第2のシーブ218の巻き回し部とにより形成される直線上に位置し、第2のシーブ218から導かれるロープ213の引き出し端鉤部212を係止させる係止部220とを備えて構成される。この押し下げ機構211は、ウインチ215を駆動させてロープ213を巻胴214に巻き取ると、杭側綱車台219が杭7、67、87に下方への力を与えるようになっている。
【0091】
このため、ウインチ215を杭7、67、87の上方に配置する必要がないので、設置しやすく、作業スペースを有効に利用でき、作業性が向上する。さらに、短時間で杭を圧入することができ、支持力確保のため、杭を深く圧入する場合、作業効率が向上する。本発明者等は、実際にパワージャッキとウインチとを用いて同一の地質条件で比較実験した結果、パワージャッキの場合、1m打ち込むのに5分前後要したのに対し、ウインチの場合、1mの打ち込みにほぼ1分しかかからなかった。また、ウインチを用いることにより、杭への加圧を自在に制御することができ、油圧系のような大規模な設置作業が不要となり、作業性が向上する。
【0092】
なお、上記実施例では、複数の杭で構造物を支えるようにしているがこれに限られるものではなく、基礎が傾斜した比較的軽量の構造物等であって、一本の細径の杭で構造物を支えることができる場合には、単一の杭で構造物の支持と持ち上げを行うようにしてもよい。また、上記各実施例では、突出量の異なる二種のジャッキを、杭圧入時と反力を用いた持ち上げ時とで使い分けするようにしているが、これに限られるものではなく、一種類の単一ジャッキで、杭の圧入と反力による持ち上げを行うようにしてもよい。さらに、上記各実施例では、杭を継ぎ足して地面に圧入するようにしているが、これに限られるものではなく、所定の支持力を得られるのであれば、単一の杭を用いるようにしてもよい。また、上記実施例では、持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に生じた隙間に注入機により充填材を充填するようにしているが、これに限られるものではなく、人力によりこれら充填材を充填するようにしてもよい。さらに、上記実施例では、構造物の持ち上げ時、杭押圧用パワージャッキの本体を基礎側に、その進退動部を杭側にそれぞれ連結しているが、これに限られるものではなく、構造物の構造躯体が強固なものであれば、杭押圧用パワージャッキ本体を構造物の構造躯体に連結して持ち上げるようにしてもよい。また、上記実施例では、杭を地面に直接または基礎を介して立てた後圧入するようにしているがこれに限られるものではなく、両方に立てて圧入してもよい。さらに、上記実施例では、取付具10を基礎4、44、64、84または水平材53に取り付けるようにしているがこれに限られるものではなく、基礎以外の構造物に取り付けてもよい。また、ジャッキは機械式のものとして、ねじジャッキ、普通形ねじジャッキ、ラチェット式ねじジャッキ、軸受付ねじジャッキ、ラック駆動ジャッキ等を用いることができる。液圧作動式として、油圧ジャッキの他に、ポンプ一体型、ポンプ分離型等を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】(A)ないし(D)はそれぞれ、本発明の第1の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法による工程の前半を示す説明図である。(実施例1)
【図2】(E)ないし(G)はそれぞれ、図1の工法による工程の後半を示す説明図である。
【図3】図1の工法における杭を圧入する状態を示す説明図である。
【図4】(A)および(B)はそれぞれ、図1の工法に用いられる取付具と杭圧入用パワージャッキを示す側面図および正面図である。
【図5】(A)および(B)はそれぞれ、図1の工法に用いられる取付具と杭押圧用パワージャッキを示す側面図および正面図である。
【図6】(A)および(B)はそれぞれ、図1の工法において杭の圧入と構造物の持ち上げを模式的に示した説明図である。
【図7】(A)ないし(E)はそれぞれ、第1の発明の第2の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法による工程を順を追って示す説明図である。(実施例2)
【図8】第1の発明の第3の実施例に係る工法において杭を圧入する状態を示す説明図である。(実施例3)
【図9】図8の工法に用いられる支持金具を基礎に取り付けた状態を示す説明図である。
【図10】(A)ないし(C)はそれぞれ、図8の支持金具を示す平面図、側面図および正面図である。
【図11】(A)ないし(D)はそれぞれ、変形例に係る水平材を用いて杭を圧入する工程を示す説明図である。
【図12】第1の発明の第4の実施例に係る工法において土間コンクリートを持ち上げた状態を示す説明図である。(実施例4)
【図13】図11の工法において土間コンクリートを持ち上げた状態を模式的に示す説明図である。
【図14】第1の発明の第5の実施例に係る工法において、介在具を介在させた状態を示す断面図である。(実施例5)
【図15】(A)ないし(C)はそれぞれ、第2の発明の第1の実施例に係る構造物の支持力補強工法において基礎築造時に、基礎に予め杭孔を形成する状態を示す平面図、断面図および杭を圧入した状態を示す説明図である。(実施例6)
【図16】(A)ないし(E)はそれぞれ、構造物側の荷重が小さい場合の杭の打ち込み工程を示す説明図である。(実施例7)
【図17】本発明の第8の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具を示す説明図である。(実施例8)
【図18】多数の杭押圧用パワージャッキを用いて構造物を持ち上げる際の油圧系統を模式的に示す説明図である。
【図19】(A)ないし(D)はそれぞれ、図17に示す弾性部材をパワージャッキ31と杭との間に配置して構造物を持ち上げる過程を順を追って示す説明図である。
【図20】本発明の第9の実施例に係る構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具を示す説明図である。(実施例9)
【図21】取付具の変形例を示す正面図である。
【図22】(A)ないし(E)はそれぞれ、従来の構造物の水平高さを修正工法による工程を順を追って示す説明図である。
【符号の説明】
【0094】
2 地面
3 構造物
4 基礎
7 杭
10 取付具
11 加圧用パワージャッキ(杭圧入手段)
31 杭押圧用パワージャッキ(杭押圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、杭と取付具との間に杭を下方に押圧する杭押圧手段を配設する第4の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭押圧手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第5の工程とを有することを特徴とする構造物の水平高さ修正工法。
【請求項2】
第2の工程で、杭圧入手段を立てられた杭の上方に配置し、第4の工程で、杭押圧手段を圧入された杭の上方に配置することを特徴とする請求項1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項3】
第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項4】
構造物の持ち上げ後、構造物の沈下が認められた場合、杭押圧手段により押圧力を付与することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項5】
第5の工程で、持ち上げられた構造物側に係止具を取り付けて杭に係止させ、杭の支持力を構造物側に伝えることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項6】
持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に生じる隙間に充填材を充填して硬化させることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項7】
多数の杭により構造物の支持力を確保するとともに、1本の杭の支持力に杭の本数を乗じた荷重負担力が、構造物の自重より大きくなるように構造物の自重と地盤の性質とに応じて杭径と杭数とを決定することを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項8】
取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したことを特徴とする請求項2ないし7のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項9】
第4の工程で、杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたことを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項10】
取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、
杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したことを特徴とする請求項1、3ないし7、9のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法。
【請求項11】
構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、圧入され上記支持力を持った杭に、杭圧入手段により下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる第4の工程とを有することを特徴とする構造物の水平高さ修正工法。
【請求項12】
構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に立てられた杭の近傍に配置されて基礎を含む構造物側に取り付けられる取付具と、これら杭と取付具との間に配設され、立てられた杭に下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる杭圧入手段と、地面に圧入された杭と取付具との間に配設され、地面に圧入されて支持力を持った杭に下方への押圧力を付与し、反力により構造物を持ち上げる杭押圧手段とを備えたことを特徴とする構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項13】
杭圧入手段と杭押圧手段とはそれぞれ、杭の上方に配置されることを特徴とする請求項12に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項14】
持ち上げられた構造物の基礎と地面との間に形成される隙間に充填後硬化する充填材を充填する充填手段を備えたことを特徴とする請求項12または13に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項15】
持ち上げられた構造物側には、杭側に係止され圧入された杭の支持力を構造物側に伝える係止具が取り付けられることを特徴とする請求項12ないし14のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項16】
圧入された杭の上端部には、所望の寸法にカットされた介在具が取り付けられることを特徴とする請求項15に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項17】
基礎には、杭を垂直に保持する水平材を設け、係止具をこの水平材に取り付けることを特徴とする請求項15または16に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項18】
地面に圧入される杭を、尖端が閉塞した中空筒状に形成するとともに先端側に多数の貫通孔を穿設して構成し、地面に圧入された杭には、外部から杭内部に支持力を高める支持力増強材を充填して加圧し、貫通孔から支持力増強材を土中に押し出すことを特徴とする請求項12ないし17のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項19】
杭押圧手段と杭または取付具との間に、杭押圧手段からの押圧力を吸収し弾性復帰可能な弾性部材を介在させたことを特徴とする請求項12ないし18のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項20】
取付具を、高さを調整可能に構造物側に取り付けるとともに、杭圧入手段と杭押圧手段とを押し出し突出量が異なるジャッキにより構成したことを特徴とする請求項13ないし19のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項21】
取付具を、杭孔を囲んで基礎に取り付けられた取付枠により構成し、
杭圧入手段と杭押圧手段とのうち少なくともいずれか一方を、この取付枠に配設され、引き出し端に鉤部を有するロープを巻胴に巻き取るウインチと、ウインチと杭孔との間で取付枠に設けられ、ロープの引き出し側を巻き回す第1のシーブを備えた固定綱車台と、杭孔に立てられた杭上端に着脱自在に取り付けられ、第1のシーブから引き出されたロープを巻き回す第2のシーブを備えた杭側綱車台と、取付枠に固定綱車台の第1のシーブと杭孔を挟んで向き合って取り付けられ、第2のシーブから導かれるロープの引き出し端鉤部を係止させる係止部とを備えた押し下げ手段により構成するとともに、ウインチを駆動させてロープを巻胴に巻き取り、杭側綱車台を通じて杭に下方への力を与えるよう構成したことを特徴とする請求項12、14ないし19のうちいずれか1に記載の構造物の水平高さ修正工法に用いられる機具。
【請求項22】
構造物に含まれこれを支持する基礎間またはこの基礎に沿った場所のうち少なくともいずれか一方に複数の杭を立てる第1の工程と、杭と基礎を含む構造物側に取り付けられた取付具との間に杭を地面に圧入する杭圧入手段を配設する第2の工程と、立てられた杭に杭圧入手段により下方への圧力を加え反力により杭を地面に圧入し、杭に構造物の重さを支える支持力を持たせる第3の工程と、地面に圧入されて支持力を持った杭と構造物側とを連結し構造物の重さの一部を杭に負担させる第4の工程とを有することを特徴とする構造物の支持力補強工法。
【請求項23】
第1の工程で、杭は、基礎に形成された杭孔を介して地面に圧入されることを特徴とする請求項22に記載の構造物の支持力補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−57816(P2009−57816A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196253(P2008−196253)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(390022323)大成ユーレック株式会社 (5)