標的とされた発現特性に従う異種遺伝子の発現
【課題】宿主細胞内での異種遺伝子発現の効果の改良を可能にするDNA構築物を提供すること。
【解決手段】異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を発現させるための方法およびベクターを提供する。この方法およびベクターは、所定の構造を有するDNA構築物を含む。本発明によれば、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現が提供される。
【解決手段】異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を発現させるための方法およびベクターを提供する。この方法およびベクターは、所定の構造を有するDNA構築物を含む。本発明によれば、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種遺伝子の発現を得るように異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入するためのDNA構築物に関し、異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入する方法に関し、そして改変された宿主ゲノムを有する生物に関する。
【0002】
一つの特定の局面においては、本発明は、異種遺伝子を宿主ゲノム内の内因性の遺伝子に挿入するための構築物に関し、異種遺伝子は、内因性遺伝子の代わりに、またはそれに加えて発現される。第2の特定の局面においては、本発明は、宿主ゲノムの特異的遺伝子に異種遺伝子配列(導入遺伝子(transgene))を、導入遺伝子の発現と内因性の転写調節エレメントおよび転写後調節エレメントとを密接に結合させるように機能的に組み込む方法に関し、上記方法における使用のための構築物に関し、そしてそのような構築物およびそれらの子孫によって生成された遺伝的改変細胞およびトランスジェニック動物に関する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子工学は、異なる遺伝子配列の融合を含む。多くの場合、これは別の遺伝子の発現パターンと同一かまたは一部それを反映した異種遺伝子配列を曲がりなりにも発現させるという意図を持って行われる。所望の発現レベル、配置、および/または時期、または発現される配列を達成するために、コピーされる遺伝子の調節配列が、発現構築物を生成するために発現される遺伝子配列と融合される。しかし、特定の幹細胞の選択、またはトランスジェニック動物由来の異種タンパク質の産生のような高等真核細胞を含む多くの応用では、コピーされる遺伝子の発現パターンおよび発現レベルを適切に模倣する(mimic)発現構築物を生成することは非常に困難である。
【0004】
幹細胞、トランスジェニック動物、およびインビトロで維持された細胞系を含む哺乳動物細胞に異種遺伝子を導入することは公知である。しかし、特別な設計にも関わらず、既存の発現構築物が宿主ゲノムに組み込まれた場合に、それが所望のレベルおよび配置(空間的にも時間的にも)の遺伝子発現を提供することは稀である。発現構築物は、内因性遺伝子の公知の調節エレメントを組み込むことによって内因性遺伝子の発現特性を模倣する試みが公知である。しかし、これらの構築物による成功は少なく、それは部分的には、そのようなエレメントの位置および独自性、ならびに各成分の役割を含む内因性遺伝子構造の機能的な細部によって遺伝子発現の調節が行われるためであり、理由の大部分はそれらが未知であるためである。他の問題は、組み込み部位(site of integration)の位置効果を含む発現構築物のランダムな組み込み、および内因性遺伝子発現のランダムな変異に関連する。
【0005】
さらに、内因性遺伝子内で、しばしばその遺伝子の転写される領域からある程度の距離をおいて調節エレメントを位置し、限定することは、しばしば骨の折れる仕事を必要とする。これらのエレメントを遠位に置くこともまたしばしばそれらの機能にとっては重要であり、そしてトランスジェニック発現構築物中で再現することはおそらく困難である。
【0006】
さらに、内因性調節エレメントを異種遺伝子発現構築物内に同定し、そして設計したとしても、一旦ゲノム内にランダムに導入されればどんな特定のトランスジェニック発現構築物であっても正しく機能するという保証はほとんどない。
【0007】
トランスジェニック動物内で異種タンパク質を産生する初期の試みは、主に、他の遺伝子由来のcDNAコーディング配列に融合させた1遺伝子に由来するプロモーター領域を含む導入遺伝子構築物の使用に焦点を当てていた。大抵の融合構築物は機能したとしても貧弱であり、得られる発現レベルは、内因性遺伝子の発現レベルよりはるかに低い。
【0008】
このことは、ヒツジ乳漿タンパク質βラクトグロブリン(BLG)のような完全な遺伝子とは対照的である。コードされたタンパク質の高レベルの発現は、全イントロン、ならびに適切な長さの5’および3’の非転写領域を全て有する完全長のBLG遺伝子を有するトランスジェニックマウスにおいて得られる(Simonsら、Nature 328、530-532、1987)。
【0009】
トランスジェニック動物において異種コーディング配列を発現させるそのようなゲノム導入遺伝子の効果的な発現を活用するために種々のグループによって研究が行われた。縦列遺伝子構築物は、最初の(上流)コーディング配列しか翻訳されないため、通常哺乳動物系では発現されない。この理由により、ほとんどの研究者たちは、目的の異種タンパク質をコードするcDNAを、ゲノム遺伝子の5’非翻訳領域(5'UTR)に融合させることを余儀なくされていた。
【0010】
Tomasettoら(Mol.Endocrinol.3、1579-1584、1989)は、pS2 cDNAを乳漿酸性タンパク質(WAP)遺伝子の5'UTRに融合させた。いくつかの発現が観察されたが、産生レベルは、著しく低かった。同様に、Simonsら(Bio/Technology 6、179-183、1988)は、ヒト因子IXまたはα-1抗トリプシンをコードしているcDNAがヒツジBLGの5'UTRに導入されている構築物を生成した。トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックヒツジのどちらにおいても、これらの構築物は適切に機能せず、低レベルの発現しか得られなかった(Clarkら、Bio/Technology 7、487-492、1989)。
【0011】
いくつかの報告はイントロン配列の発現構築物への単純な挿入が発現を増加させ得ることを示すが(例えば、Brinsterら、Proc.Natl.Acad.Sci.85、836-840、1988)、発現レベルは内因性遺伝子の発現レベルに比べて低いままであり、そのことは、イントロン配列それ自体はトランスジェニックな状況においては高レベルの遺伝子発現を可能にするには十分でないことを示唆している。このことはWhitelawらの結果によって確認された(Transgenic Res.1、3-13、1991)。彼らは、BLG遺伝子からイントロンを欠失させ、次いで1つのイントロンを再付加した。イントロンのない遺伝子は作用が貧弱で、1イントロンが存在するだけでは、トランスジェニックマウスにおけるBLG遺伝子の転写効率を回復するには十分ではなかった。
【0012】
イントロンおよびエクソンの相対位置を含む全遺伝子構造は、導入遺伝子の機能にとって決定的に重要であることが議論されてきた。この議論は、BLD遺伝子の5’末端が、ヒトα−1抗トリプシン遺伝子のゲノムコピーに融合された場合、トランスジェニック動物での不変の高レベルの発現を引き起こす(Archibaldら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA87、5178-5182、1990)ということが発見されたことにより完全に支持される。
【0013】
しかし、実際には、このゲノム融合技術を応用することはしはしば困難である。特に関心のある多くの遺伝子は、非常に大きく(例えば、ヒト因子VIII遺伝子は、長さが100キロベース以上である)、そして融合構築物の生成、およびそれらのトランスジェニック哺乳動物(家畜動物を包含する)への導入は、非常に困難である。
【0014】
発現構築物をインビトロで(1つまたはいくつかの遺伝子の調節エレメントを発現される異種遺伝子配列と結合することによって)設計する代替法は、「遺伝子トラップ」法を利用することである。遺伝子トラップ発現構築物の発現を制御する調節エレメントは、発現される異種配列を宿主ゲノム中の遺伝子に挿入することにより提供される。発現される遺伝子の配列は、それによって内因性遺伝子の調節エレメントと密接に結合する。
【0015】
遺伝子トラップタイプベクターの非常に多くが、宿主遺伝子のランダムな組み込みまたはトラップに用いられているが、組み込み部位または内因性遺伝子/導入遺伝子融合産物の生成を制御できないという不利な点がある。1つの遺伝子トラップベクター、pGT4.5が、Genes & Development 6:903-918、Cold Spring Harbour Laboratory Press、1992によって公知である。
【0016】
先行技術で公知の全ての「遺伝子トラップ」および「ゲノム導入遺伝子」発現構築物の設計および機能的利用における主な制限は、導入遺伝子翻訳開始のメカニズムである。ほとんどのmRNAの翻訳は、リボゾーム複合体(43Sという)がキャップ化mRNAの5’末端に結合し、そして適切な場所にあるAUG開始コドンを検出するまでmRNAに沿って移動するという走査メカニズムによって開始される。次いで、第2のリボゾームサブユニット(60Sという)がこの複合体と結合し、そしてタンパク質合成が始まる。
【0017】
1988年に、PettetierおよびSonenberg(Nature、334:320-325)は、いくつかのピコルナウイルスmRNAが、「リボゾーム内部結合(internal ribosome binding)」という変わったメカニズムによって翻訳され、そしてこれらの特殊なmRNAは、リボゾームが結合し、翻訳を開始するのを可能にするmRNAに対して内部に特異的配列を含むことを示した。この配列は、「リボゾーム内部エントリー部位(Internal Ribosome Entry Site、IRES)」と称された。ピコルナウイルスがヒトの細胞に感染すると、この研究は、真核生物のリボゾームがIRESを認識して内部で翻訳を開始し得るが、キャップ依存性メカニズム以外のメカニズムを介しているということを示した。
【0018】
Ghattasら(Molecular&Cellu1ar Biology、第11巻、No.12、1991年12月、pp5848-5859)は、培養細胞およびニワトリの胚における組換えプロウイルス由来の2つの遺伝子の同時発現(co-expression)を得る際のリボゾーム内部エントリー部位の使用を記載している。
【0019】
しかし、現在のところ、真核細胞、特定の哺乳動物幹細胞、トランスジェニック動物、または培養細胞内で発現される異種遺伝子配列(導入遺伝子)を宿主細胞のゲノムに挿入して、所望のパターンでその異種遺伝子を発現させ得る効果的な方法はない。所望のパターンの1例は、異種遺伝子の発現と標的される内因性遺伝子の発現を制御する調節エレメントとを密接に結合させることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
宿主細胞内での異種遺伝子発現の効果の改良を可能にするDNA構築物およびその使用方法を提供することが、本発明の目的である。所望のレベルの異種遺伝子の発現を提供することは、別の目的である。さらなる目的は、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法を提供し、該宿主細胞が、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、任意のリンカー配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0022】
1つの実施態様では、前記構築物は、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0023】
別の実施態様では、上記方法は、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0024】
さらなる実施態様では、上記方法は、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0025】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0026】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0027】
さらに別の実施態様では、上記方法は、非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための方法である。
【0028】
さらに別の実施態様では、上記方法は、前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0029】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記異種遺伝子コーディング配列がまた選択性マーカーもコードし、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0030】
さらに別の実施態様では、上記方法は、前記構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する。
【0031】
本発明はまた、異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法を提供し、該方法は、以下の工程
(i)該ゲノムへ第1のDNA構築物をランダムに組み込みする工程;および
(ii)上記の方法を使用して、該ゲノムへの第2のDNA構築物を相同組換えする工程であって、ここで、該ランダムに組み込みする工程は、ドナー細胞ゲノム中の内因性遺伝子の発現を調節するエレメントの制御下で該第1のDNA構築物が該宿主細胞ゲノムへのランダムな組み込みを受けることを可能にすることにより該コーディング配列を発現させることを包含し、該ドナー細胞は、該宿主細胞とは異なる細胞であり、ここで、該宿主細胞は、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該第1のDNA構築物は、以下の配列:
5’ X’−A’−P’−B’−Q’−C’−Y’ 3’
を含み、ここで、
X’およびY’は、同一のドナー細胞ゲノムからの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該ドナー細胞中で該内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含み;
P’は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Q’は、該異種遺伝子コーディング配列であり;
A’、B’およびC’は、別々に、任意のリンカー配列である。
【0032】
1つの実施態様では、前記第1のDNA構築物は前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0033】
別の実施態様では、前記第1のDNA構築物は前記IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0034】
1つの実施態様では、上記方法は、非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列Q’を発現するための方法である。
【0035】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法は、前記異種遺伝子コーディング配列Q’を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0036】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法において、前記異種遺伝子コーディング配列Q’がまた、選択性マーカーもコードし、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0037】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法は、前記第1のDNA構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する。
【0038】
なお別の実施態様では、前記宿主細胞は、マウス胚幹細胞およびマウス受精卵から選択される。
【0039】
さらなる実施態様では、前記非ヒト受精卵細胞は、マウス受精卵細胞である。
【0040】
本発明はまた、インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法を提供し、該宿主細胞が、哺乳動物幹細胞であり、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0041】
1つの実施態様では、上記構築物は、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0042】
別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0043】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0044】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0045】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記スプライスアクセプターが前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0046】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、動物細胞中で異種遺伝子コーディング配列を発現するための方法である。
【0047】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0048】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記構築物がまた選択性マーカーをコードする遺伝子も含み、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0049】
なお別の実施態様では、前記哺乳動物幹細胞はヒト胚幹細胞である。
【0050】
本発明はさらに、異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させるためのベクターを提供し、該ベクターは、DNA構築物を含み、該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、そして
該構築物が該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0051】
1つの実施態様では、前記標的内因性遺伝子はOct4またはDIA遺伝子である。
【0052】
別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0053】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0054】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0055】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0056】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0057】
なお別の実施態様では、上記ベクターは、動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するためのベクターである。
【0058】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物がまた、選択性マーカーをコードする遺伝子も含む。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、宿主細胞内での異種遺伝子発現の効果の改良を可能にするDNA構築物が提供される。また、所望のレベルの異種遺伝子の発現が提供される。さらに、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
「異種遺伝子発現」により、(1)ある遺伝子のある宿主における発現、この場合その遺伝子はその宿主内で以前に発現されていない、および(2)特定の発現特性に従うある遺伝子のある宿主における発現、この場合この遺伝子はこの宿主で発現されたことが以前にあるが、そのときはこの特定の発現特性に従っていなかった、という両方が意味される。
【0061】
従って、第1の局面においては、本発明は異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入するためのDNA構築物を提供し、この構築物は、以下の配列を含む:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
ここで、
XおよびYは、独立して、DNA配列であり、宿主遺伝子座と実質的に相同であり、
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり、
Qは、異種遺伝子配列であり、そして
A、B、およびCは、任意のリンカー配列である。
【0062】
XおよびYは、本発明のDNA構築物と対応する宿主ゲノムDNAとの間で相同組換えが起こることを可能にするのに十分な長さであり、そして宿主配列と十分に相同である。XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対であることが好ましい。しかし、いくつかの事例では、効果的な相同組換えが、かなり短い配列を有するXおよびYによって達成されているが、一般に、配列の長さが長くなるほどその効率は高まるということが認められる。XおよびYは、宿主と、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、そして最も好ましくは、実質的に100%相同である。
【0063】
本発明の実施態様において、XおよびYは、(i)1つの連続した宿主DNA配列と実質的に相同なDNA配列を共同して構成しているか、または(ii)同じ内因性宿主遺伝子座に由来する2つの別々の配列と実質的に相同であり、かつそれぞれが内因性の座と同じ向きに位置している。好ましい実施態様においては、DNA構築物は、DNA構築物を宿主細胞DNAに挿入することによって宿主細胞を形質転換し得るベクターの一部である。
【0064】
Pは、IRESであり、異種遺伝子配列Qのオープンリーディングフレームの5’側にある。ここでBがない場合には、IRESは、直接異種遺伝子配列のオープンリーディングフレームの5’側に隣接する。
【0065】
リンカー領域A、B、およびCは、DNA構築物中に必要に応じて存在する付加DNA配列である。リンカー領域は、構築物に挿入され得、または構築物作製に用いる組換えDNA技術の結果として生じ得る。本発明の実施態様においては、リンカー領域Aは、スプライスアクセプターを含むかまたはそれからなる。リンカーBのサイズおよび特徴は、IRESと異種遺伝子との間の最適な連結を提供する際に特に重要である(Cell、第68巻、pp119-131、1992年1月)。
【0066】
異種遺伝子を発現する成功した形質転換細胞を選択するために、選択性マーカー、例えば、抗生物質耐性遺伝子、またはヒポキサンチンリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を異種遺伝子内に含有させると便利である。選択性マーカーを含有することは、所望の導入遺伝子が組み込まれたトランスフェクト細胞を選択する可能性を高める。何故なら、選択性マーカーの発現は、活性な遺伝子への機能的な組み込みに依存しているからである。従って、ゲノムの非転写領域における導入遺伝子の組み込みは、容易に排除される。
【0067】
本発明による構築物を宿主ゲノムの形質転換に用いる場合、宿主DNAとの相同組換えは、結果としてその構築物を宿主遺伝子に挿入することになる。次いで異種遺伝子の転写が宿主遺伝子に関連した調節エレメントの制御の下で行われる。次に、異種遺伝子コーディング配列の翻訳が、異種遺伝子のオープンリーディングフレームの5’側にあるIRESの存在によって可能になる。これにより、従来から公知で用いられてきた異種遺伝子発現を得る技術によるよりかなり高い効率で異種遺伝子の発現が調節される。
【0068】
使用においては、宿主細胞における特定の発現パターンおよび/またはレベルを有する異種遺伝子および内因性遺伝子が選択される。内因性遺伝子のいくつかの部分または内因性遺伝子の隣接領域に対して実質的に相同なXおよびYを有するDNA構築物が作製される。次いでDNA構築物は、異種遺伝子の転写がその内因性遺伝子の宿主調節エレメントにより導かれるように、異種遺伝子およびIRESをその内因性遺伝子中に(またはその代わりに)挿入することを目標とする。成熟異種遺伝子産物の翻訳は、DNA構築物に含有され、そして異種遺伝子と共に新しく挿入されたIRESによって可能となる。
【0069】
本発明による遺伝子トラップタイプ標的ベクターにおけるIRESの仲介による翻訳開始の利用は、先に記載した遺伝子トラップおよび遺伝子トラップ標的ベクターよりも相当の利点を提供する。ここでは、導入遺伝子を所望の内因性遺伝子転写領域に機能的に組み込んでも融合タンパク質を産生せず、内因性遺伝子発現の破壊を必ずしも必要としない。
【0070】
8量体結合転写因子4は、転写因子であるPOUファミリーの一員である(Scholerによる概説、1991)。Oct4転写は、発生途中のマウス初期胚の4細胞期および8細胞期の間に活性化され、そして拡大しつつある胚盤胞内で高度に発現され、次いで、内部細胞塊の多能性細胞内で発現する。転写は、初期外胚葉が分化して中胚葉を形成するときダウンレギュレート(down-regulate)され(Scholerら、1990)、そして8.5d.p.c(受精後の日数(days post coitum))まで始原生殖細胞の移動に制限される。高レベルのOct4遺伝子発現は、また多能性胚癌腫および胚幹細胞系においても観察され、これらの細胞が分化するように誘導されるとき、ダウンレギュレートされる(Scholerら、1989;Okamotoら、1990)。
【0071】
Oct4遺伝子が本発明の構築物の使用の適切な例として選択されたのは、高レベルのOct4 mRNAに対する穏和作用(moderate)が公知であったからである。結果は、第2のイントロン内の可能なエンハンサー配列の除去と一致する、標的Oct4対立遺伝子からの転写におけるダウンレギュレーションにもかかわらず、Oct4遺伝子は本発明の方法および構築物を用いて非常に高い効率で標的され得ることを示す。
【0072】
本発明の1つの実施態様においては、IRESエレメントとオープンリーディングフレームを組み込んでいるトランスジェニック構築物を停止コドンの3’側でありかつポリアデニル化シグナルの5’側の位置に組み込むことは、内因性遺伝子産物とトランスジェニックオープンリーディングフレームの産物との両方をコードし得る機能的ジシストロニックmRNAを生成する。別の実施態様においては、導入遺伝子を内因性遺伝子のリーディングフレームの5’側にまたはその代わりに組み込むことが、内因性遺伝子産物を「ノックアウトする(knock-out)」(または、そうでなければ改変する)機会を提供する。
【0073】
多くの研究所における真核生物遺伝子の分析は、DNAのコーディング配列、即ち最終的にアミノ酸配列に翻訳される領域は、一般に、連続的ではなく「サイレント(silent)」DNAによって中断されることを示した。ショウジョウバエにおける酵母のtRNA遺伝子のようにタンパク質産物を持たない遺伝子に関してさえ、第1次RNA転写物は、変異の間に切り出される内部領域を含み、最終的なtRNAまたはmRNAはスプライスされた産物である。成熟したメッセンジャーから失われることになる領域を「イントロン」(遺伝子内領域について)といい、そして他方発現されることになる領域を「エクソン」という。導入遺伝子は、機能的にエクソンに挿入されるか、または本発明のさらなる局面では、イントロンへの機能的な組み込みを可能にするIRESエレメントの5’側にスプライスアクセプター配列を組み込み得る。従って、機能的な導入遺伝子の組み込みは、イントロン/エクソンの配置または内因性遺伝子のリーディングフレームによって制限されない。これは、本発明のトランスジェニック構築物の構築が、従来の公知の構築物の構築より簡便であるという別の局面である。
【0074】
本発明のIRES含有ベクターは、より効率のいい遺伝子標的を可能にする。本発明は、異種遺伝子コーディング配列を遺伝子の3’非翻訳領域(3'UTR)に挿入することを可能にし、従って、上流の全てのイントロンおよびエクソンの相対的位置が保存され、そして高レベルの発現につながる。異種遺伝子のゲノムコピーの必要性はなくなり、そしてIRES下流の3'UTRにcDNAコピーを挿入することにより良好な発現が得られる。cDNAが対応するゲノムコピーに比べて非常に短いので、構築物の構築およびトランスジェニック哺乳動物の生成が著しく簡便になる。
【0075】
好ましい実施態様においては、異種遺伝子は、その3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルを含む。この実施態様の利点は、ポリアデニル化シグナルが結果として異種遺伝子の末端で効果的な短縮(truncation)および転写のプロセッシングを行うということである。
【0076】
特に好ましい実施態様においては、このDNA構築物はまた、相同領域Xの5’側(上流)に短縮/切断(cleavage)/転写終結配列を含む。この5’配列の機能は、mRNAのリードスルーを防ぐことである;適切な配列は、SV40のポリアデニル化シグナルのようなポリAシグナルおよび上流マウス配列(Upstreatm Mouse Sequence、UMS)(Heardら、1987)を含む。この5’配列は、さらにスプライスアクセプターを含み得る。DNA構築物はランダムに宿主ゲノムに組み込み得る、即ちそれらは標的される内因性遺伝子との相同組換えによる挿入を常に行うわけではないということは公知である。いかなる活性な遺伝子へのランダムな組み込みであっても、結果として異種遺伝子を発現し得る;このことは、正しい挿入を認識するのを困難にし、それは不利な点である。特に好ましい実施態様がこの問題を克服するのは、ランダムな組み込みが起こっている場合、転写終結または短縮または切断配列もまた組み込まれて転写をブロックしているからである。標的された内因性遺伝子による相同組換えが起こっている場合、転写をブロックする配列は組み込まれず、そのため異種遺伝子の転写が可能になるということが好都合にも発見される。
【0077】
本発明のこれらの特に好ましい実施態様において、ランダムな遺伝子トラップ組み込み後の発現を排除し、従って、特に所望の標的の選択を可能にする遺伝子トラップタイプ標的ストラテジーを提供するのに効果的な方法が確立される。この方法は、発明者らによりPositive Only Selection(POS)と命名され、そして転写短縮/切断配列(例えばポリアデニル化配列)またはUMSのような転写終結配列を利用して、活性に転写される遺伝子へのランダムな組み込みにおける導入遺伝子の発現をブロックしている。標的遺伝子との相同組換えは、異種遺伝子、およびもしあれば、選択性マーカーを機能的に挿入するが上流転写終結配列は挿入せず、従って、異種遺伝子、および存在する場合選択性マーカーの転写を可能にする。
【0078】
従って、本発明の「POS」実施態様は、所望の標的遺伝子以外の導入遺伝子の発現を組み込み部位から本質的に排除する方法を提供することにより、遺伝子トラップ発現技術の可能性を拡大する。このPOSシステムは、遺伝子治療において特別な適用を有し、ここでは、導入遺伝子の発現を標的された遺伝子座に制限することに非常に価値がある。
【0079】
第1の局面のDNA構築物を用いることにより、異種遺伝子を内因性宿主遺伝子に、異種遺伝子配列の開始点が内因性標的遺伝子配列の開始点に実質的に導入されるように挿入することが可能である。そのような場合においては、IRESは必要に応じて除かれ、即ちこのDNA構築物は以下を包含する:
5’T−D−X−A−Q−C−Y 3’
ここで、Tは、転写ターミネーターまたはトランケーター、
Dは、任意のリンカー配列、そして
X、Y、A、C、およびQは、先に規定したとおりである。
【0080】
本発明の構築物はまた、特定の発現特性(「E」)に従って、標的宿主細胞または生物(明確化のため細胞を「T」という)内で遺伝子(「G」)を発現させるという問題を解決するために有利である。ここでは適切な発現特性を有する内因性遺伝子が存在しないかまたは利用しにくい。解決法は、発現特性Eを有する遺伝子(「H」)を含むドナー宿主細胞(「D」)を同定し、そして本発明に従って構築物をつくることである。ここで、XおよびYは、特性Eに従って細胞D中の内因性遺伝子の発現を調節する細胞Dエレメントを含むような長さである。従って、DNA構築物は(1)標的される内因性遺伝子の細胞D調節エレメントであって、その発現特性が模倣されることが望ましいエレメント、(2)IRES、および(3)異種遺伝子配列Gを含む。このDNA構築物は細胞TのDNAにランダムに組み込まれ得る。
【0081】
構築物の細胞TDNAへのランダムな組み込みにより、細胞Dの発現特性Eにほぼ従って異種遺伝子を発現する、改変された細胞Tが生じる。結果として、細胞DにおけるHの発現と同様のパターンで細胞T中で遺伝子の発現が起こる。
【0082】
本発明のDNA構築物をランダムに細胞Tに組み込んだ後、改変された細胞Tは、相同組換えによって行われる本発明の全ての実施態様に従って、DNA構築物の標的となる。
【0083】
第2の局面では、本発明は異種遺伝子を宿主細胞ゲノム内の標的内因性遺伝子に挿入する方法を提供し、それは本発明の第1の局面に従うDNA構築物による宿主細胞の形質転換を包含する。形質転換は本発明のDNAを、トランスフェクション、弾動注入(injection ballistics)、プラスミドまたはウイルスベクター、あるいはエレクトロポレーション、あるいは融合によって細胞または細胞調製物に導入することを含み得る。
【0084】
第3の局面において、本発明は、異種遺伝子を含む本発明の第1の局面に従うDNA構築物を作製することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。ここでは、そのDNA構築物に宿主ゲノムとの相同組換えを行わせ、そして異種遺伝子を発現する宿主細胞の培養物を生育させる。
【0085】
従って、本発明は、相同な遺伝子領域によって近接される、プロモーターを持たないトランスジェニック構築物を使用する方法を提供し、ここではトランスジェニック構築物のDNAと標的遺伝子座との間の相同組換えが、導入遺伝子を選択された転写ユニットに機能的に挿入することになる。導入遺伝子の転写は、内因性遺伝子に関連したエレメント、および/または導入遺伝子によってその部位に導入された付加エレメントによって調節される。1つまたは複数のトランスジェニックリーディングフレームの翻訳は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)を(1つまたは複数の)オープンリーディングフレームの5’側のすぐ隣に組み込むことによるキャップ独立性翻訳開始により仲介される。これにより、導入遺伝子調節の優れたレベルが提供され、そして導入遺伝子の発現のための前記発現構築物の設計および良好な利用に関連した多くの問題が避けられる。
【0086】
第4の局面においては、本発明は、本発明に従うプロモーターを持たないDNA構築物を作製することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。ここでは、それを宿主ゲノムとランダムに統合させ、そして異種遺伝子を発現している細胞の培養物を生育させる。
【0087】
第5の局面においては、本発明は、その構築物を宿主ゲノムに導入する前に機能的な発現構築物を設計することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。一つの実施態様では、そのような「ゲノム導入遺伝子」は、発現されるべき異種遺伝子に結合させたIRESを、遺伝子の調節エレメントを全てではないがほとんど組み込んでいる大きなゲノム配列(例えば、コピーされるべき遺伝子を含むコスミドまたは人工染色体)に挿入することにより、インビトロで設計される。別の実施態様では、ゲノム導入遺伝子は、IRESおよび発現されるべき異種遺伝子を内因性宿主遺伝子内に標的し、そして続いて、IRESおよび発現されるべき配列、および標的遺伝子に関連した全てではないがほとんどの調節エレメントを組み込んでいる大きなゲノムフラグメント(例えばコスミドまたは人工染色体)を標的細胞系から単離することにより、インビトロで設計される。次いで、大きなゲノム導入遺伝子は、宿主細胞へのランダムな導入の後所望の導入遺伝子の発現を提供する。
【0088】
第6の局面において、本発明は、相同組換えによるかまたはランダムな組み込みによるかのいずれかの本発明に従うDNA構築物を用いて異種遺伝子がゲノムに挿入されたトランスジェニック細胞、またはトランスジェニック生物、またはトランスジェニック動物を提供する。第7の局面において、本発明は、異種遺伝子を遺伝した第6の局面の子孫を提供する。本発明は、真核生物および原核生物の両方において異種遺伝子を発現させることに適用し得るが、好ましくは真核生物であり、そしてより好ましくは動物細胞においてであり;そして特に哺乳動物細胞においてである。
【0089】
明らかに、所望の組み込みについての選択における本発明の構築物および方法の有用性は、選択性マーカー遺伝子を組み込んでいるトランスジェニック構築物を、トランスフェクトされた細胞内で十分なレベルで発現される内因性遺伝子に導入することに制限される。選択性マーカーとは独立した発現のために非選択性遺伝子を活性転写遺伝子に導入するためには、標的遺伝子座は、まず、選択性マーカーを発現している本発明の構築物によって「マーク」される。これは、それについて(1次標的)およびそれに抗して(2次標的)、選択され得る。1次標的によって一旦マークされると、「マークされた」遺伝子への導入遺伝子の組み込みは、1次標的遺伝子選択性マーカーの欠如によって、選択され得る。このタイプのアプローチは、異種遺伝子の過剰発現についての細胞系またはトランスジェニック動物の開発におけるような特定の遺伝子の反復標的が計画されている場合、特に適用され得る。
【0090】
標的されている遺伝子が1次遺伝子トラップ「マーキング」について十分発現されない場合、標的遺伝子をマークするために、標準的非遺伝子トラップタイプ標的ベクターにおいて、選択性マーカーのプロモーター仲介発現が同様に用いられ得る。
【0091】
本発明の特に好ましい実施態様において、ネズミ胚幹(ES)細胞内の遺伝子標的のためにLacZ/細菌ネオマイシン耐性融合遺伝子の脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditus virus、EMCV)IRES仲介性翻訳を用いるベクターが構築されている。βgeo融合遺伝子の翻訳は、レポーター遺伝子活性と選択性マーカー遺伝子活性の両方を提供する二機能性の遺伝子産物を生成する。ベクターは、(a)導入遺伝子を内因性遺伝子のリーディングフレームの3’側に非破壊的に挿入することによる正常な分化阻害活性/白血病阻害活性(DIA/LIF)遺伝子発現、および(b)DIA遺伝子座での規定の改変から得られるDIA遺伝子発現変化、および(c)その遺伝子座での規定の改変から得られた8量体結合転写因子4(Oct4)発現変化を標的し、そして続いてリポートするように設計された。
【0092】
DIAは、インビトロでES細胞の分化を抑制し、そしてインビボで種々の発生および生理過程に関連している他面発現性サイトカインである。このDIAの遺伝子が本発明の構築物の使用の適切な例として選択されたのは、DIAのmRNAレベルの低さが公知であったからである。結果は、DIAのmRNAレベルの定常状態が低い(<10コピー/細胞)にも関わらず、DIA遺伝子は、高い効率で標的され得ることを示す。
【0093】
従って、これらの結果は、本発明に従う構築物の使用は、少なくともES細胞において、たとえ低いレベルであっても発現される遺伝子に適用され得るということを示唆する。
【0094】
IRES仲介性翻訳効率が細胞のタイプに依存しているかどうかを調べるために、本発明者らは、本発明に従うランダム遺伝子トラップベクターを生成した。これは、EMCV-IRESを利用してβgeo融合遺伝子の翻訳を開始する。種々の分化した細胞タイプにおいてLacZ染色を示すネオマイシン耐性細胞系が胚盤胞注入および次の世代のキメラのために選択された。キメラを生育させて、LacZ発現特性の分析のために十分なトランスジェニック動物を提供した。この分析は、他の細胞タイプにおけるIRES仲介性翻訳の効率に価値ある洞察を提供する。
【0095】
従って、以下の項に記載の発明が提供される:
項1.異種遺伝子配列を真核細胞性宿主ゲノムに挿入し、そして該遺伝子配列を発現させるDNA構築物であって、以下の配列を含む、DNA構築物であり、
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
ここで、XおよびYは、内因性宿主遺伝子の一部と実質的に相同であり、Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり、Qは、異種遺伝子配列であり、A、B、およびCは、別々に任意のリンカー配列である、DNA構築物;
項2.XおよびYが、前記A−P−B−Q−C配列を前記宿主ゲノムに挿入するために、該宿主ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さである、項1に記載のDNA構築物;
項3.XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである、項2に記載のDNA構築物:
項4.前記宿主細胞が動物細胞である、項1、2、または3に記載のDNA構築物;
項5.XおよびYが、内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む、項4に記載のDNA構築物;
項6.前記リンカー配列A、B、およびCのいずれかまたは全てが存在しない、項2〜5のいずれかに記載のDNA構築物;
項7.前記遺伝子コーディング配列の3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルをさらに含む、項2〜6のいずれかに記載のDNA構築物;
項8.前記IRESの5’(上流)に、例えばウサギb-グロビンスプライスアクセプターのようなスプライスアクセプターをさらに含む、項2〜7のいずれかに記載のDNA構築物;
項9.前記スプライスアクセプターが、前記遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、項8に記載のDNA構築物;
項10.Xの5’(上流)に短縮/切断/転写ターミネーター配列をさらに含む、項2〜9のいずれかに記載のDNA構築物;
項11.前記短縮/切断/転写ターミネーター配列が、スプライスアクセプターおよびポリアデニル化シグナルを含む、項10に記載のDNA構築物;
項12.前記転写ターミネーターが、上流マウス配列またはSV40のポリアデニル化シグナルのようなポリA配列である、項10または11に記載のDNA構築物;
項13.前記遺伝子コーディング配列が抗生物質耐性のような選択性マーカーをコードし、該遺伝子コーディング配列を前記宿主ゲノムに挿入した細胞の選択を容易にする、項2〜12のいずれかに記載のDNA構築物;
項14.前記IRESが翻訳終結コドンの前にある、項2〜13のいずれかに記載のDNA構築物;
項15.XおよびYがプロモーターエレメントを含まない、項2〜14のいずれかに記載のDNA構築物;
項16.XおよびYが、特定の発現特性(特性E)に従って第1の細胞(細胞D)内で内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含むような長さであり、そして前記構築物が、第2の細胞(細胞T)のDNAへのランダムな組み込みに適応して特性Eに従って細胞T内で前記遺伝子配列を発現する、項1に記載のDNA構築物;
項17.前記遺伝子コーディング配列が選択性マーカーをコードしている、項16に記載のDNA構築物;
項18.前記リンカー配列A、B、およびCのいずれかまたは全てが存在しない、項16〜17のいずれかに記載のDNA構築物;
項19.前記遺伝子コーディング配列の3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルを含む、項16〜18のいずれかに記載のDNA構築物;
項20.前記IRESの5’(上流)に、スプライスアクセプターを含む項16〜19のいずれかに記載のDNA構築物;
項21.前記スプライスアクセプターが、前記遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、項20に記載のDNA構築物;
項22.遺伝子コーディング配列を宿主細胞または宿主生物内で発現させるための項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物の使用;
項23.前記宿主が、動物細胞、胚幹細胞、および受精卵から選択される、項22に記載のDNA構築物の使用;
項24.遺伝子コーディング配列を宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該コーディング配列を発現させる方法であって、該宿主細胞を項1〜15のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクターで形質転換することを包含する、方法;
項25.遺伝子コーディング配列を宿主細胞のゲノムに挿入し、該コーディング配列を発現させる方法であって、該ゲノムに項16〜21に記載のDNA構築物をランダムに組み込むことを包含する、方法;
項26.遺伝子コーディング配列を宿主細胞または宿主動物内で発現させる方法であって、以下の工程:
1.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を作製する工程、
2.該構築物を宿主細胞に挿入する工程、および
3.該遺伝子コーディング配列を発現している細胞または動物を同定する工程、
を包含する、方法;
項27.前記DNA構築物が、前記宿主のゲノムと相同組換えを行うのに適している、項26に記載の方法;
項28.前記DNA構築物が、前記宿主のゲノムへのランダムな組み込みに適している、項26に記載の方法;
項29.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を受精卵に注入する工程を包含するトランスジェニック動物の作成方法;
項30.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を用いて挿入された遺伝子コーディング配列を含む細胞または動物;
項31.前記子孫が前記導入された遺伝子コーディング配列を遺伝した、項30に記載の細胞または動物の子孫;
項32.項2〜15のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクター;および
項33.項16〜21のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクター。
【0096】
以下は、本発明の例示的な実施態様であり、ここで、
図1〜3、および6は、本発明のDNA構築物を示す。
図4および5は、構築物作製において用いるDNA構築物を示す。
図7および8は、IRES-βgeo標的ストラテジーを示す:
図7−ジシストロニック転写においてIRESを通して仲介される翻訳の内部開始のスキームを示す。
図8−遺伝子標的におけるIRES-βgeoカセットの適用を示す。構築物は、遺伝子全部または一部を欠失させて他方lacZリポーターを組み込むか、または完全な遺伝子の改変をともなうかまたはともなわずにリポーターを付加するかのどちらかに設計され得る。そして
図9〜12は、標的されたクローンのDNAおよびmRNAのハイブリダイゼーション分析を示す:
図9−DIA/LIF標的を示す。HindIIIまたはEcoRIによって切断したゲノムDNAを、pDR100由来エクソン1特異的163bp XhoI-EaeIフラグメントまたは700bp PstI-EcoRI 3’ゲノムフラグメントのいずれかとそれぞれハイブリダイズさせた。レーン1は、CGR8の親ES細胞;レーン2、5、および6は、非短縮型の構築物によって標的されたクローン;レーン3および4は、短縮型の構築物によって標的されたクローンを示す。
【0097】
図10−Oct-4標的を示す。EcoRI切断によりアガロースプラグ内で調製されたゲノムDNA上の1次スクリーニングおよび587bpの5’NcoIフラグメントとのハイブリダイゼーション、およびフェノール/クロロホルム抽出DNAのClaI切断後の600bpのHindIII-Sau3A3’フラグメントとの確認のハイブリダイゼーション。ClaIは、lacZ配列内の可変的なメチル化を示唆する導入部位の部分的な切断を再現的に行った。レーン1は、親のCGR8 ES細胞;レーン2は、標的されなかったトランスフェクト細胞;レーン3〜7は、標的されたクローンを示す。
【0098】
図11は、DIA遺伝子座に標的とされた組み込みを有するES細胞クローンにおける融合転写物の検出を示す。DIA発現レベルを増加させるために、ES細胞は、10-6Mのレチノイン酸(retinoic acid)に曝することにより分化を誘導された。ポリ(A+)冨化したRNAを4日後に調製し、ホルムアルデヒドゲルに流してナイロンメンブレンに移した。このフィルターを650bpのDIA/LIFコーディング配列プローブとハイブリダイズし、そして21日間曝した後、剥がして800bpのlacZフラグメントと再びハイブリダイズした。レーン1は、親CGR8細胞由来のRNA(1.5μg);レーン2は、非短縮型の構築物によって標的された細胞由来のRNA(3μg);レーン3および4は、短縮型の構築物によって標的された細胞由来のRNA(3μg)を示す。
【0099】
図12は、Oct-4を標的としたES細胞における融合転写物の検出を示す。全RNAは、未分化のES細胞から調製した。Oct-4プローブは、24bpのエクソン2を含む408bpのNcoI-PstIの5’cDNAフラグメント(292)であり、そのため野生型および融合転写物と同じハイブリダイゼーションを与えた。
【0100】
図13は、実施例3に記載したように、本発明の構築物の生成における工程を示す。
【実施例】
【0101】
実施例1
DIA遺伝子標的構築物(図1および2)を、内因性DIA遺伝子座の制御下で遺伝子を発現させるために、β-geo融合遺伝子産物を発現する導入遺伝子を組み込むように設計した。第3構築物(図3)は、標的とされる相同なDNAの5’側の位置で遺伝子トラップ標的構築物に設計される場合、ランダムに組み込まれた導入遺伝子から発現を排除はしないが大いに低減させる転写ブロッカーによって得られる利点を示すように設計した。
【0102】
ES細胞培養および操作
ES細胞を、記載されたように(Smith,A.G.(1991) J.Tiss.Cult.Meth.13,89-94による)、ネズミDIA/LIFを添加した培地でフィーダーなしで規定通りに維持した。生殖系列コンピテント細胞系CGR8を公開された手順(Nichols,J.、Evans,E.P.およびSmith,A.G. (1990) Development 110,1341-1348)により129株の胚から確立した。Woodsらの方法(Wood,S.A.、Pascoe,W.S.、Schmidt,C.、Kemler,R.、Evans,M.J.およびAllen,N.D. (1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、4582-4585)の変法によりES細胞と異系交配MF1胚との間で凝集キメラを生成した。この方法では、共存培養は懸滴培養で行われた。生殖系列伝達に関しては、キメラを胚盤胞注入により産生した。相同組換え体の単離に関しては、108個の細胞を0.4cmキュベット中で3μFd、0.8kVで150μgの直鎖状プラスミドとともにエレクトロポレーションし、次いで、175μg/mlのG418の存在下で選択した。ゲノムDNAを24ウェルの平板培養由来のアガロースプラグ内で調製し(Brown,W.R.A.(1988) EMBO J.7、2377-2385)、他方同様のプレートを凍結保存した(Ure,J.、Fiering,S.、およびSmith,A.G. (1992) Trends.Genet.8、6)。DIA/LIF産生をアッセイするために、ES細胞を6mMの3−メトキシベンズアミド(3-methoxybenzamide)と共にインキュベーションすることによって分化に誘導し、そして調節培地を回収し、ES細胞の分化の阻害能力について記載されるようにアッセイした。このアッセイは、ネズミDIA/LIFに対して生じた中和ポリクローナル抗血清(AS、未公開)を含むことにより、DIA/LIFに対して特異的にした。β−ガラクトシダーゼの組織化学的染色は、X-galを用いて行い(Beddington,R.S.P.、Morgenstern,J.、Land,H.およびHogan,A.(1989) Development 106、37-46)、そして蛍光染色は、DetectaGene Green(Molecular Probes)を製造者の指示に基づいて用いて行った。
【0103】
プラスミド構築
DNA操作は以下の標準的手順に従って行った。IRESは、EMCVのmRNAの5’非翻訳領域(UTR)由来の594bpの配列であり、天然の開始コドンの突然変異誘発により改変されている。翻訳は、通常の開始部位から9bpだけ3’側にあり、NcoIクローニング部位の一部を形成するATGによって開始される。
【0104】
簡単にいうと、IRES-βgeoカセットをEMCV-IRES/lacZ融合物(Ghattasら、1991)の5’フラグメントをβgeo遺伝子融合物の3’lacZ/neoR配列(Friedrich,G.およびSoriano,P. (1991) Genes Dev.5、1513-1523)に連結させることにより構築した。次いで、pGTIRESβgeopAプラスミドをen-2スプライスアクセプターの5’連結(Gossler,A.、Joyner,A.L.、Rossant,J.、およびSkarnes,W.C. (1989) Science 244、463-465)、およびSV40ポリアデニル化配列の3’連結により生成した。標的構築物を、129株λライブラリーから単離したゲノムクローンから調製した。DIA/LIF標的構築物を、別の第1エクソン間のSacII部位から遺伝子の3’のHindIII部位まで延びている7kbのフラグメント内に生成した。IRES-βgeoカセットを独特のXbaI部位に挿入することによりDIA-βgeo構築物を調製した。DIA-βgeopA構築物を生成するために、3’βgeo配列およびSV40ポリアデニル化配列を含む1.2kbのBamHIフラグメントをpGTIRESβgeopAから単離し、そしてBamHIで切断したDIA-βgeo構築物に連結した。これにより、200bpのSV40配列をDIA/LIFの3’UTRの400bpのフラグメントの代わりに挿入したことになる。Oct-4標的構築物は、5’側が1.6kbにわたって相同であり、それは第1エクソン内のHindIII部位から第1イントロン内のXhoI部位まで延びており、そして3’側が4.3kbにわたって相同で、それはポリアデニル化配列の3’側のNarI部位からHindIII部位まで延びている。
【0105】
詳細には、DIA標的構築物を生成するために、EMCV-IRESをβgeo融合遺伝子に結合させる予備ベクターを設計した。これは、ベクター「1」を生成するために、細菌のネオマイシン耐性遺伝子(neo)およびSV40のポリアデニル化シグナルを含む1.2kbのBamHI部位をB1uescript II KS(-)クローニングベクター(Stratagene)のBamHI部位に連結することにより生成した。これとは別に、EMCV-IRESおよび5’LacZ配列を含む1.4kbのBglII/ClaIフラグメントをpLZIN(Ghattasら、1991)から単離し、そしてpGT1.8βgeoに連結して、pGT1.8IRESβgeoと呼ぶベクターを生成した(図4)。全IRESβgeo融合遺伝子を含む4.9kbのXbaIフラグメントをpGT1.8IRESβgeoから単離し、そして(標的用の)IRES-βgeoを生成するためにXbaI切断ベクター「1」に連結した(図5)。
【0106】
DIA-IRESβgeo標的ベクター(図1)を生成するために、(標的用の)IRES-βgeo由来の4.9kbのXbaI IRES-βgeoフラグメント(図5)を、ネズミDIA遺伝子の翻訳停止コドンとオーバーラップしている独特のXbaI部位に連結した。DIA遺伝子トラップ標的ベクターの設計に用いられるネズミDIA遺伝子フラグメントは、別の第1エクソン(「D」転写物をコードしている)の3’側に隣接しているSacII部位からこの部位の3’から約7kb離れたHindIII部位まで延びていた。
【0107】
DIA IRESβgeopAと呼ばれる第2のDIA遺伝子標的ベクターを、SV40のポリアデニル化配列をIRESβgeo導入遺伝子の3’側のすぐ隣に挿入することにより生成した。これは、(標的用の)IRES-βgeo由来のBamHI neo/pAフラグメントをBamHIで切断した7kbのDIA IRESβgeoに挿入することにより達成された。得られた構築物は、約400bpのDIA遺伝子3’UTR配列の代わりにSV40のポリアデニル化シグナルを含む以外は7kb DIA IRESβgeo標的構築物と同じであった。
【0108】
「POS」DIA IRESβgeo標的ベクターを、ウサギβ−グロビン遺伝子スプライスアクセプターおよびエクソン配列およびSV40ポリアデニル化シグナルを組み込んでいる1400bpのNcoI/PstI pSVTKNeobフラグメントを、DIA遺伝子のDNA相同性領域の5’末端のSacII部位に挿入することにより生成した(図3)。
【0109】
Oct4遺伝子への標的組み込みのために設計されたOct4-neo構築物(Oct4-tgtvec)を図6に示す。この構築物は、1.6kbの5’Oct4遺伝子配列、4.3kbの3’Oct4遺伝子配列のlacZ-neomycin融合遺伝子(βgeo、二機能性タンパク質をコードしている。FriedrichおよびSoriano、1991)をOct4のmRNAの第1のイントロンに組み込む。第1のエクソン−イントロンの境界のスプライスドナー配列から組み込まれたIRES-βgeo配列までのスプライシングは、ネズミengrailed-2スプライスアクセプター配列(Skarnesaら、1992)をIRES-βgeo配列の5’側のすぐ隣に含むことにより促進される。Oct4-βgeo融合転写物のβgeoシストロンの翻訳は、EMCV-IRESをβgeoコーディング配列の5’側のすぐ隣に含むことにより促進される。
【0110】
ES細胞トランスフェクションおよびコロニー選択
マウス129 ES細胞(CGR-8系)を調製し、Smithら(1991)によって記載されたようにDIA存在下で維持した。トランスフェクション用のプラスミドDNAをSalI切断により直鎖状にし、エタノールで沈澱させ、そしてPBS中で10〜14mg/mlの濃度で再懸濁した。新鮮な培地で10時間培養した後、ほぼ集密したES細胞をトリプシン処理によって分散させ、培地およびPBSで連続的に洗浄し、そして直ちにトランスフェクションできるようにPBS中で1.4×108/mlの濃度で再懸濁した。基本的には、0.7mlの細胞懸濁液を0.1mlのDNA含有溶液と混合し、そしてBiorad Gene Pulserおよび0.4cmキュベットを用いて0.8kVおよび3.0μFDでエレクトロポレーションを行った。トランスフェクション物質は、200μg/ml(活性)G418(Sigma)を含む選択培地を添加する前に、ゼラチンで覆った組織培養皿に5〜8×104/cm2の濃度で生育培地中で16時間プレートした。単一コロニーをトランスフェクション後8〜10日の時点で選択し、200μg/mlのG418を含む生育培地内でさらに成長させるために24ウェルの組織培養プレートに二重に移した。
【0111】
一度密集すると、一連の細胞を貯蔵のため凍結し、残ったものをサザン分析および/またはlacZ染色によって分析した。
【0112】
DIA遺伝子−標的細胞系のさらなる特徴付け:
選択した細胞系を、DIA添加培地中のES細胞の成長および分化または非DIA添加培地中のレチノイン酸誘導分化の後、lacZ染色パターンについてアッセイした。
【0113】
DIA遺伝子−標的細胞系からのキメラの産生:
選択した細胞系を以前に記載したように胚注入の前にG418非存在下で7日間培養した(Nicholsら、1990)。簡単にいうと、注入する胚盤胞をC57/B16ドナーから4d.p.cで採集し、10〜20細胞を用いて注入し、そして疑似妊娠レシピエントの子宮に移す前に培養で再成長させた。C57/BL6バックグラウンド上の砂色のコート色の斑の存在によってキメラを同定した。オスのキメラは、導入遺伝子の伝達に関してテスト交配させ得る。トランスジェニックマウスは、lacZ染色に関して分析され得る。
【0114】
DNAおよびRNAハイブリダイゼーション分析
ランダムに感作した32P-標識プローブを用いて標準的な手順に従って、フィルターハイブリダイゼーションをナイロンメンブレン上で行った。相同組換え体を5’および3’近接配列の両方の由来のプローブにより特徴付けた。ジゴキシゲニンで標識したOct-4アンチセンスRNAとの全スライド(whole mount)インサイチュハイブリダイゼーション(Scholer,H.、Dressler,G.R.、Balling,R.、Rohdewold,H.およびGruss,P. (1990) EMBO J.9、2185-2195)を本質的に記載されているように行った(Wilkinson,D.G (1992) in situ hybridization: a practical approach,Wilkinson,D.G編(IRL Press,Oxford),pp.75-83)。
【0115】
ES細胞におけるDIA/LIF mRNAの定常状態レベルは、1細胞当り10コピーより少ない;これにより、本発明のIRES標的ベクターの一般的な有用性の厳格なテストが提供された。標的ベクターを停止コドンとオーバーラップしているXbaI部位でIRES-βgeoモジュールを導入することにより構築した(図9)。従って、全コーディング配列は元のまま残り、そしてイントロン配列も変化しなかった。2つの構築物、DIA-βgeoおよびDIA-βgeopAが構築され、これらはβgeo配列の3’側にSV40のポリアデニル化シグナルを含むことによって区別された。はじめの構築物との相同組換えの後生成した融合転写物は、DIA/LIF遺伝子の内因性3’UTRおよびポリアデニル化シグナルを利用するが、DIA-βgeopA構築物はこれらの配列を欠く短縮型の転写物を生じる。
【0116】
DIA/LIFとは対照的に、8量体結合転写因子Oct-4(Oct-3としても知られている)のmRNAおよびタンパク質の両方は、ES細胞において比較的豊富である。Oct-4はまた卵母細胞、多能性初期胚細胞、および始原生殖細胞においても見られる。Oct-4と多能性との関連は、分化の間の迅速なダウンレギュレーションによって強化される。IRES-βgeoベクターを、無効対立遺伝子を生成し、そして発現マーカーをOct-4遺伝子座に導入するように設計した(図8)。後者は現在まで同定されていなかったOct-4発現部位の検出を容易にし得た。エクソン2から5にあるPOU特異的ドメインおよびホメオドメインコーディング配列を欠失させ、そしてIRES-βgeopAモジュールによって置換した(図11)。5’アームの相同領域が第1イントロン内で終了しているので、相同組換えの後エクソン1からの生産的スプライシングを促進するために、en-2スプライスアクセプター配列をIRESの5’側に含んだ。
【0117】
G418におけるエレクトロポレーションおよび選択の後、置換標的が起こったことを検出するために3’近接プローブおよび5’近接プローブの両方を用いて(図9〜12)、および複数の組み込みをモニターするために内部プローブを用いて、サザンハイブリダイゼーションを行うことにより個々のクローンを分析した。本発明の構築物によって得られる相同組換えの頻度を、表1に示す。
【0118】
正しい置換が行われたことが全てのベクターで観察された。特に高い頻度が、Oct-4の遺伝子座で再現的に得られた。このことは、同質遺伝子型DNAの働きおよびプロモーターを持たない構築物によって与えられた富化に加えて、ES細胞におけるこの遺伝子の高い発現レベルを反映し得る。ポリ(A)付加ベクターでのDIA/LIFの標的もまた効果的であった。DIA/LIF遺伝子座で正しく標的されたクローンの単離は、IRES仲介性翻訳が、ES細胞で非常に低いレベルで発現される遺伝子に適用され得るということを確立する。
【0119】
いくつかの標的クローンのノーザン分析により、全てのクローンが、lacZとDIA/LIFまたはOct-4プローブとのそれぞれにハイブリダイズする予想された大きさの融合転写物を含んでいるということが確認された。IRES-βgeoのクローンD70内でのDIA/LIF遺伝子への短縮されない挿入により生成された転写物が同様に検出されたが、正常な転写物に比べれば僅かに少なかった。このことは、IRES-βgeo配列自身は転写またはメッセージの転向のいずれにもいかなる甚大な影響も与えないということを示す。IRES-βgeopAの組み込みの際に生じる短縮型の融合種は、蛍光画像走査(phosphorimage scanning)によると正常のメッセージより5倍も豊富であった。これらの細胞内の融合転写物のレベルの上昇は、生物学的に活性なDIA/LIFタンパク質の産生において反映された;親細胞または非短縮型の構築物によって標的された細胞から調製された調節培地よりも、標的された短縮物を有する細胞の分化培養物から調製された調節培地において3〜6倍多いDIA/LIFが存在した。従って、融合転写物は、機能的なジシストロニックmRNAであり、そして標的は、標的された遺伝子の活性を改変した。その一方、Oct-4融合転写物は野生型Oct-4 mRNAより10〜20倍も少なかった。このことは、en-2スプライスアクセプターの非効果的な利用のせいであるが、mRNA内の安定化エレメントまたは遺伝子内のエンハンサーのいずれかの欠失によっても生じ得た。
【0120】
インビトロ研究は、標的される異種遺伝子発現を得る本発明の構築物及び方法の可能性を示す。
【0121】
実施例2
IRES機能の組織特異性の問題に取り組むために、本発明者らは、pGTIRESβgeopAをエレクトロポレーションによってES細胞に入れることにより本発明に従う一連のランダムIRES遺伝子トラップを行った。分化細胞タイプ中でのβ−ガラクトシダーゼの幅広い発現をインビトロで示すいくつかのクローンを、凝集キメラを生成するために用いた。発生の7.5日目および8.5日目に、ES細胞によってコロニーを作った全ての組織でβ−ガラクトシダーゼが検出され得、それは胚の一帯、および羊膜および内臓卵黄嚢においてである。これらの遺伝子トラップは生殖系を介して伝達されており、IRESの存在は機能的な配偶子形成と適合することを確証する。そしてヘテロ接合体に関する予備分析は、IRESが広範な種々の胚組織および成熟組織で機能的であることを示す。凝集キメラもまたOct-4標的細胞によって産生された。7.5日目におけるそのような胚の染色パターンは、Oct-4 mRNAの組織特異的分布が、β−ガラクトシダーゼ発現パターンにより正確に反映されることを示す。
【0122】
実施例3
IRESおよびcDNAを組織特異的遺伝子のゲノムクローンの3’非翻訳領域に挿入することによる異種分子の効果的な発現への本発明の適用および受精卵へのマイクロインジェクションによるトランスジェニック動物の生成。
【0123】
以下の実施例において、cDNA(例えば、ヒトα-1抗トリプシン)を、IRES(例えば、EMCV由来)の下流で、トランスジェニック動物において効果的におよび組織特異的様式で機能するゲノム遺伝子(例えば、ヒツジβ−ラクトグロブリン遺伝子、BLG)の3’非翻訳領域に挿入する。
【0124】
脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来のIRESは、600bpのEcoRI-NcoIフラグメントとして利用し得る。ここで、NcoI部位(CCATGG)は、翻訳の開始部位を規定している;それはまた、NcoI部位の上流に数ヌクレオチドを挿入してIRESとATGとの間の距離を変えるHindIII部位も含んでいる(Ghattasら、Mol.Cell.Biol. 11、5848-5859、1991)。始めに、上流のEcoRI部位をリンカー挿入によりEcoRV部位に転換する(配列GAATTGATATCAATT)。IRESの2つのバージョンを用い、1つ(IRES-1)は、NcoI部位に異種コーディング配列が導入されており、2つめは、boxA(TTTCC、Pilipenkoら、Cell 68、119-131、1992)の20ヌクレオチド下流のNcoI部位内にATGを位置させるように部位指向性変異を誘発し、HindIII部位を除いた(この領域のDNA配列はこの時点でTTTCCTTTGAAAAACACGATAACCATGGとなる)(図13、A)。この改変IRESをIRES-2という。IRES-1およびIRES-2の両方をEcoRI-NcoIフラグメントとして以下の実験に用いる。
【0125】
ヒツジBLG遺伝子は、pPolyIII-I(Latheら、Gene 57、193-201、1987)にクローニングされた大きなSaII-SaIIフラグメント(または別の僅かに小さいSaII-XbaIフラグメント)(Simonsら、Nature 328、530-532、1987;AliおよびC1ark、J.Mol.Biol.199、415-426、1988;Harrisら、Nucl.Acids Res.16、10379、1988)に存在している。どちらのフラグメントもトランスジェニック動物に導入されると泌乳中の乳腺において高レベルで発現する(Simonsら、Nature 328、530-532、1987)。
【0126】
最終エクソン内の翻訳停止コドンのすぐ下流に独特のAatII部位(GACGT/C)がある。この部位は、リンカーの挿入によりEcoRV部位に転換される(最終配列GACGTGATATCACGTC)(図13、D)。この構築物は全SaII-SaIIフラグメントの使用に基づいているが、SaII-XbaIフラグメントもまたこの手順の適切な僅かな改変をするだけで用いられ得る。
【0127】
本実験で用いるリポーター遺伝子は、ヒトα-1抗トリプシンcDNAであるが、この手順は、別のどのようなcDNAによっても繰り返され得る。このcDNAを局所変異誘発により操作し、その結果NcoI部位が開始ATGをオーバーラップする(これは第2のコドンにおいて1塩基の変化となり、この位置でコードされていた本来のアミノ酸が変化する。多くの場合、このアミノ酸はシグナル配列の先端にあるため成熟タンパクに貢献しないので、このことは成熟タンパク質の発現、分泌または活性に不都合な結果をもたらさない)。同様に、EcoRV部位をcDNAの3’末端で操作し、3’非翻訳領域を除去する(cDNAの3’末端の配列はTAAGATATCであり、ここで、停止コドンTAAはTAA、TAG、またはTGAで有り得る)(図13、B)。以下の実験にはこのNcoI-EcoRVフラグメント(必要ならば、内部部位(internal site)が存在する場合には、部分的な切断によって得られたもの)を用いる。
【0128】
次に、pPolyIII-I(Latheら、Gene 57、193-201、1987)を改変し、その結果、合成BamHI-SaII-PstIポリリンカーがBamHI部位とPstI部位との間に挿入される(ポリリンカー配列−GGATTCGCGTCGACCACTGCAG;制限部位に下線を付けた)(図13、C)。改変された(AatII部位の場所がEcoRV部位である)ゲノムヒツジBLG遺伝子を含むSaII-SaIIフラグメントをSaII部位にクローニングする。IRESおよび改変cDNAをそれぞれEcoRV-NcoIフラグメントおよびNcoI-EcoRVフラグメントとして切り出し、相互連結して、融合産物EcoRV-NcoI-EcoRVをBLG遺伝子の3’非翻訳領域内のEcoRV部位に挿入する(図13、E)。
【0129】
ハイブリッド分子BLG-IRES-AAT-BLGをSfiIまたは別の適当な酵素を用いてプラスミドから切り出し、マウスまたはヒツジの受精卵にマイクロインジェクトする。この構築物を有するトランスジェニック動物は、大部分、それらの乳の中で高レベルのAATを発現していることが観察されている。本発明の構築物はまた、生物医学的に重要な他のタンパク質の発現を得るためにも用いられ得る。
【0130】
本明細書中で報告する実験は、本発明に従うIRES標的の使用が宿主ゲノムにおいて所望の遺伝子を発現させる有力な手段であることを確立する。さらに、これらの研究で用いたIRESの構成は、3’シストロンの翻訳には最適ではなかった。IRESの3’末端に関連するATGの正確な位置は、翻訳効率に主要な影響を与えることがわかった。βgeoの産生は、本研究で達成されるよりも数倍上昇し得たようである。このことにより、僅かな発現しか見られない遺伝子内の組換え体を単離し、そしてlacZリポーターの感受性を高める能力が増大する。
【0131】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のIRES標的ストラテジーは、哺乳動物の遺伝子発現をリポートし改変する強力な手段である。さらに、IRESに連結したマーカーを3’UTRに非破壊的に組み込むことは遺伝子に微妙な変異を導入する便利な手段を提供することが明らかである。さらに、このIRESストラテジーは、内因性遺伝子の改変およびリポーターの導入に制限されず、しかも導入遺伝子の発現制御にも適用し得る。導入遺伝子発現の所望の特異性およびレベルは、前核注入用のゲノム構築物においてまたは適切な遺伝子座への相同的組み込みの後のいずれかにおける、IRES仲介性翻訳の使用によって確実とされ得た。後者は、2つのIRESエレメントを含むポリシストロニックベクターの構築によって達成され得た。あるいは、相同置換の連続したラウンドまたは選択性マーカーの組換え除去の前の標的を用いて、破壊を最小限にとどめてIRES発現カセットをES細胞で発現されていないいかなる遺伝子にも導入し得た。従って、一般に、IRES仲介性翻訳の柔軟性および有用性は、導入遺伝子研究において幅広い適用を見いだすように思われる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】7kb DIA−IRESβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図2】7kb DIA−IRESβgeo−p(A)を含むDNA構築物を示す図である。
【図3】SA/pA−7kb DIA−IRESβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図4】pGT1.8Iresβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図5】IRES−βgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図6】Oct4−tgtvecを含むDNA構築物を示す図である。
【図7】ジシストロニック転写においてIRESを通して仲介される翻訳の内部開始のスキームを示す図である。
【図8】遺伝子標的におけるIRES-βgeoカセットの適用を示す図である。
【図9】DIA/LIF標的を示す図および電気泳動写真である。
【図10】Oct−4標的を示す図および電気泳動写真である。
【図11】DIA遺伝子座に標的とされた組み込みを有するES細胞クローンにおける融合転写物の検出を示す電気泳動写真である。
【図12】Oct-4を標的としたES細胞における融合転写物の検出を示す電気泳動写真である。
【図13】実施例3に記載したように、本発明の構築物の生成における工程を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種遺伝子の発現を得るように異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入するためのDNA構築物に関し、異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入する方法に関し、そして改変された宿主ゲノムを有する生物に関する。
【0002】
一つの特定の局面においては、本発明は、異種遺伝子を宿主ゲノム内の内因性の遺伝子に挿入するための構築物に関し、異種遺伝子は、内因性遺伝子の代わりに、またはそれに加えて発現される。第2の特定の局面においては、本発明は、宿主ゲノムの特異的遺伝子に異種遺伝子配列(導入遺伝子(transgene))を、導入遺伝子の発現と内因性の転写調節エレメントおよび転写後調節エレメントとを密接に結合させるように機能的に組み込む方法に関し、上記方法における使用のための構築物に関し、そしてそのような構築物およびそれらの子孫によって生成された遺伝的改変細胞およびトランスジェニック動物に関する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子工学は、異なる遺伝子配列の融合を含む。多くの場合、これは別の遺伝子の発現パターンと同一かまたは一部それを反映した異種遺伝子配列を曲がりなりにも発現させるという意図を持って行われる。所望の発現レベル、配置、および/または時期、または発現される配列を達成するために、コピーされる遺伝子の調節配列が、発現構築物を生成するために発現される遺伝子配列と融合される。しかし、特定の幹細胞の選択、またはトランスジェニック動物由来の異種タンパク質の産生のような高等真核細胞を含む多くの応用では、コピーされる遺伝子の発現パターンおよび発現レベルを適切に模倣する(mimic)発現構築物を生成することは非常に困難である。
【0004】
幹細胞、トランスジェニック動物、およびインビトロで維持された細胞系を含む哺乳動物細胞に異種遺伝子を導入することは公知である。しかし、特別な設計にも関わらず、既存の発現構築物が宿主ゲノムに組み込まれた場合に、それが所望のレベルおよび配置(空間的にも時間的にも)の遺伝子発現を提供することは稀である。発現構築物は、内因性遺伝子の公知の調節エレメントを組み込むことによって内因性遺伝子の発現特性を模倣する試みが公知である。しかし、これらの構築物による成功は少なく、それは部分的には、そのようなエレメントの位置および独自性、ならびに各成分の役割を含む内因性遺伝子構造の機能的な細部によって遺伝子発現の調節が行われるためであり、理由の大部分はそれらが未知であるためである。他の問題は、組み込み部位(site of integration)の位置効果を含む発現構築物のランダムな組み込み、および内因性遺伝子発現のランダムな変異に関連する。
【0005】
さらに、内因性遺伝子内で、しばしばその遺伝子の転写される領域からある程度の距離をおいて調節エレメントを位置し、限定することは、しばしば骨の折れる仕事を必要とする。これらのエレメントを遠位に置くこともまたしばしばそれらの機能にとっては重要であり、そしてトランスジェニック発現構築物中で再現することはおそらく困難である。
【0006】
さらに、内因性調節エレメントを異種遺伝子発現構築物内に同定し、そして設計したとしても、一旦ゲノム内にランダムに導入されればどんな特定のトランスジェニック発現構築物であっても正しく機能するという保証はほとんどない。
【0007】
トランスジェニック動物内で異種タンパク質を産生する初期の試みは、主に、他の遺伝子由来のcDNAコーディング配列に融合させた1遺伝子に由来するプロモーター領域を含む導入遺伝子構築物の使用に焦点を当てていた。大抵の融合構築物は機能したとしても貧弱であり、得られる発現レベルは、内因性遺伝子の発現レベルよりはるかに低い。
【0008】
このことは、ヒツジ乳漿タンパク質βラクトグロブリン(BLG)のような完全な遺伝子とは対照的である。コードされたタンパク質の高レベルの発現は、全イントロン、ならびに適切な長さの5’および3’の非転写領域を全て有する完全長のBLG遺伝子を有するトランスジェニックマウスにおいて得られる(Simonsら、Nature 328、530-532、1987)。
【0009】
トランスジェニック動物において異種コーディング配列を発現させるそのようなゲノム導入遺伝子の効果的な発現を活用するために種々のグループによって研究が行われた。縦列遺伝子構築物は、最初の(上流)コーディング配列しか翻訳されないため、通常哺乳動物系では発現されない。この理由により、ほとんどの研究者たちは、目的の異種タンパク質をコードするcDNAを、ゲノム遺伝子の5’非翻訳領域(5'UTR)に融合させることを余儀なくされていた。
【0010】
Tomasettoら(Mol.Endocrinol.3、1579-1584、1989)は、pS2 cDNAを乳漿酸性タンパク質(WAP)遺伝子の5'UTRに融合させた。いくつかの発現が観察されたが、産生レベルは、著しく低かった。同様に、Simonsら(Bio/Technology 6、179-183、1988)は、ヒト因子IXまたはα-1抗トリプシンをコードしているcDNAがヒツジBLGの5'UTRに導入されている構築物を生成した。トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックヒツジのどちらにおいても、これらの構築物は適切に機能せず、低レベルの発現しか得られなかった(Clarkら、Bio/Technology 7、487-492、1989)。
【0011】
いくつかの報告はイントロン配列の発現構築物への単純な挿入が発現を増加させ得ることを示すが(例えば、Brinsterら、Proc.Natl.Acad.Sci.85、836-840、1988)、発現レベルは内因性遺伝子の発現レベルに比べて低いままであり、そのことは、イントロン配列それ自体はトランスジェニックな状況においては高レベルの遺伝子発現を可能にするには十分でないことを示唆している。このことはWhitelawらの結果によって確認された(Transgenic Res.1、3-13、1991)。彼らは、BLG遺伝子からイントロンを欠失させ、次いで1つのイントロンを再付加した。イントロンのない遺伝子は作用が貧弱で、1イントロンが存在するだけでは、トランスジェニックマウスにおけるBLG遺伝子の転写効率を回復するには十分ではなかった。
【0012】
イントロンおよびエクソンの相対位置を含む全遺伝子構造は、導入遺伝子の機能にとって決定的に重要であることが議論されてきた。この議論は、BLD遺伝子の5’末端が、ヒトα−1抗トリプシン遺伝子のゲノムコピーに融合された場合、トランスジェニック動物での不変の高レベルの発現を引き起こす(Archibaldら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA87、5178-5182、1990)ということが発見されたことにより完全に支持される。
【0013】
しかし、実際には、このゲノム融合技術を応用することはしはしば困難である。特に関心のある多くの遺伝子は、非常に大きく(例えば、ヒト因子VIII遺伝子は、長さが100キロベース以上である)、そして融合構築物の生成、およびそれらのトランスジェニック哺乳動物(家畜動物を包含する)への導入は、非常に困難である。
【0014】
発現構築物をインビトロで(1つまたはいくつかの遺伝子の調節エレメントを発現される異種遺伝子配列と結合することによって)設計する代替法は、「遺伝子トラップ」法を利用することである。遺伝子トラップ発現構築物の発現を制御する調節エレメントは、発現される異種配列を宿主ゲノム中の遺伝子に挿入することにより提供される。発現される遺伝子の配列は、それによって内因性遺伝子の調節エレメントと密接に結合する。
【0015】
遺伝子トラップタイプベクターの非常に多くが、宿主遺伝子のランダムな組み込みまたはトラップに用いられているが、組み込み部位または内因性遺伝子/導入遺伝子融合産物の生成を制御できないという不利な点がある。1つの遺伝子トラップベクター、pGT4.5が、Genes & Development 6:903-918、Cold Spring Harbour Laboratory Press、1992によって公知である。
【0016】
先行技術で公知の全ての「遺伝子トラップ」および「ゲノム導入遺伝子」発現構築物の設計および機能的利用における主な制限は、導入遺伝子翻訳開始のメカニズムである。ほとんどのmRNAの翻訳は、リボゾーム複合体(43Sという)がキャップ化mRNAの5’末端に結合し、そして適切な場所にあるAUG開始コドンを検出するまでmRNAに沿って移動するという走査メカニズムによって開始される。次いで、第2のリボゾームサブユニット(60Sという)がこの複合体と結合し、そしてタンパク質合成が始まる。
【0017】
1988年に、PettetierおよびSonenberg(Nature、334:320-325)は、いくつかのピコルナウイルスmRNAが、「リボゾーム内部結合(internal ribosome binding)」という変わったメカニズムによって翻訳され、そしてこれらの特殊なmRNAは、リボゾームが結合し、翻訳を開始するのを可能にするmRNAに対して内部に特異的配列を含むことを示した。この配列は、「リボゾーム内部エントリー部位(Internal Ribosome Entry Site、IRES)」と称された。ピコルナウイルスがヒトの細胞に感染すると、この研究は、真核生物のリボゾームがIRESを認識して内部で翻訳を開始し得るが、キャップ依存性メカニズム以外のメカニズムを介しているということを示した。
【0018】
Ghattasら(Molecular&Cellu1ar Biology、第11巻、No.12、1991年12月、pp5848-5859)は、培養細胞およびニワトリの胚における組換えプロウイルス由来の2つの遺伝子の同時発現(co-expression)を得る際のリボゾーム内部エントリー部位の使用を記載している。
【0019】
しかし、現在のところ、真核細胞、特定の哺乳動物幹細胞、トランスジェニック動物、または培養細胞内で発現される異種遺伝子配列(導入遺伝子)を宿主細胞のゲノムに挿入して、所望のパターンでその異種遺伝子を発現させ得る効果的な方法はない。所望のパターンの1例は、異種遺伝子の発現と標的される内因性遺伝子の発現を制御する調節エレメントとを密接に結合させることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
宿主細胞内での異種遺伝子発現の効果の改良を可能にするDNA構築物およびその使用方法を提供することが、本発明の目的である。所望のレベルの異種遺伝子の発現を提供することは、別の目的である。さらなる目的は、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法を提供し、該宿主細胞が、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、任意のリンカー配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0022】
1つの実施態様では、前記構築物は、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0023】
別の実施態様では、上記方法は、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0024】
さらなる実施態様では、上記方法は、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0025】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0026】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0027】
さらに別の実施態様では、上記方法は、非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための方法である。
【0028】
さらに別の実施態様では、上記方法は、前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0029】
さらに別の実施態様では、上記方法において、前記異種遺伝子コーディング配列がまた選択性マーカーもコードし、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0030】
さらに別の実施態様では、上記方法は、前記構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する。
【0031】
本発明はまた、異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法を提供し、該方法は、以下の工程
(i)該ゲノムへ第1のDNA構築物をランダムに組み込みする工程;および
(ii)上記の方法を使用して、該ゲノムへの第2のDNA構築物を相同組換えする工程であって、ここで、該ランダムに組み込みする工程は、ドナー細胞ゲノム中の内因性遺伝子の発現を調節するエレメントの制御下で該第1のDNA構築物が該宿主細胞ゲノムへのランダムな組み込みを受けることを可能にすることにより該コーディング配列を発現させることを包含し、該ドナー細胞は、該宿主細胞とは異なる細胞であり、ここで、該宿主細胞は、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該第1のDNA構築物は、以下の配列:
5’ X’−A’−P’−B’−Q’−C’−Y’ 3’
を含み、ここで、
X’およびY’は、同一のドナー細胞ゲノムからの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該ドナー細胞中で該内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含み;
P’は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Q’は、該異種遺伝子コーディング配列であり;
A’、B’およびC’は、別々に、任意のリンカー配列である。
【0032】
1つの実施態様では、前記第1のDNA構築物は前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0033】
別の実施態様では、前記第1のDNA構築物は前記IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0034】
1つの実施態様では、上記方法は、非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列Q’を発現するための方法である。
【0035】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法は、前記異種遺伝子コーディング配列Q’を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0036】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法において、前記異種遺伝子コーディング配列Q’がまた、選択性マーカーもコードし、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0037】
なお別の実施態様では、上記異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法は、前記第1のDNA構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する。
【0038】
なお別の実施態様では、前記宿主細胞は、マウス胚幹細胞およびマウス受精卵から選択される。
【0039】
さらなる実施態様では、前記非ヒト受精卵細胞は、マウス受精卵細胞である。
【0040】
本発明はまた、インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法を提供し、該宿主細胞が、哺乳動物幹細胞であり、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0041】
1つの実施態様では、上記構築物は、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0042】
別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0043】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0044】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0045】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記スプライスアクセプターが前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0046】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、動物細胞中で異種遺伝子コーディング配列を発現するための方法である。
【0047】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法は、前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する。
【0048】
なお別の実施態様では、上記インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法において、前記構築物がまた選択性マーカーをコードする遺伝子も含み、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する。
【0049】
なお別の実施態様では、前記哺乳動物幹細胞はヒト胚幹細胞である。
【0050】
本発明はさらに、異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させるためのベクターを提供し、該ベクターは、DNA構築物を含み、該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、そして
該構築物が該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む。
【0051】
1つの実施態様では、前記標的内因性遺伝子はOct4またはDIA遺伝子である。
【0052】
別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される。
【0053】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する。
【0054】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する。
【0055】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0056】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする。
【0057】
なお別の実施態様では、上記ベクターは、動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するためのベクターである。
【0058】
なお別の実施態様では、上記ベクターにおいて、前記構築物がまた、選択性マーカーをコードする遺伝子も含む。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、宿主細胞内での異種遺伝子発現の効果の改良を可能にするDNA構築物が提供される。また、所望のレベルの異種遺伝子の発現が提供される。さらに、宿主細胞または細胞集団またはトランスジェニック生物の生存中に所望の時間的および/または空間的特性をともなう発現が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
「異種遺伝子発現」により、(1)ある遺伝子のある宿主における発現、この場合その遺伝子はその宿主内で以前に発現されていない、および(2)特定の発現特性に従うある遺伝子のある宿主における発現、この場合この遺伝子はこの宿主で発現されたことが以前にあるが、そのときはこの特定の発現特性に従っていなかった、という両方が意味される。
【0061】
従って、第1の局面においては、本発明は異種遺伝子配列を宿主ゲノムに挿入するためのDNA構築物を提供し、この構築物は、以下の配列を含む:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
ここで、
XおよびYは、独立して、DNA配列であり、宿主遺伝子座と実質的に相同であり、
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり、
Qは、異種遺伝子配列であり、そして
A、B、およびCは、任意のリンカー配列である。
【0062】
XおよびYは、本発明のDNA構築物と対応する宿主ゲノムDNAとの間で相同組換えが起こることを可能にするのに十分な長さであり、そして宿主配列と十分に相同である。XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対であることが好ましい。しかし、いくつかの事例では、効果的な相同組換えが、かなり短い配列を有するXおよびYによって達成されているが、一般に、配列の長さが長くなるほどその効率は高まるということが認められる。XおよびYは、宿主と、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、そして最も好ましくは、実質的に100%相同である。
【0063】
本発明の実施態様において、XおよびYは、(i)1つの連続した宿主DNA配列と実質的に相同なDNA配列を共同して構成しているか、または(ii)同じ内因性宿主遺伝子座に由来する2つの別々の配列と実質的に相同であり、かつそれぞれが内因性の座と同じ向きに位置している。好ましい実施態様においては、DNA構築物は、DNA構築物を宿主細胞DNAに挿入することによって宿主細胞を形質転換し得るベクターの一部である。
【0064】
Pは、IRESであり、異種遺伝子配列Qのオープンリーディングフレームの5’側にある。ここでBがない場合には、IRESは、直接異種遺伝子配列のオープンリーディングフレームの5’側に隣接する。
【0065】
リンカー領域A、B、およびCは、DNA構築物中に必要に応じて存在する付加DNA配列である。リンカー領域は、構築物に挿入され得、または構築物作製に用いる組換えDNA技術の結果として生じ得る。本発明の実施態様においては、リンカー領域Aは、スプライスアクセプターを含むかまたはそれからなる。リンカーBのサイズおよび特徴は、IRESと異種遺伝子との間の最適な連結を提供する際に特に重要である(Cell、第68巻、pp119-131、1992年1月)。
【0066】
異種遺伝子を発現する成功した形質転換細胞を選択するために、選択性マーカー、例えば、抗生物質耐性遺伝子、またはヒポキサンチンリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を異種遺伝子内に含有させると便利である。選択性マーカーを含有することは、所望の導入遺伝子が組み込まれたトランスフェクト細胞を選択する可能性を高める。何故なら、選択性マーカーの発現は、活性な遺伝子への機能的な組み込みに依存しているからである。従って、ゲノムの非転写領域における導入遺伝子の組み込みは、容易に排除される。
【0067】
本発明による構築物を宿主ゲノムの形質転換に用いる場合、宿主DNAとの相同組換えは、結果としてその構築物を宿主遺伝子に挿入することになる。次いで異種遺伝子の転写が宿主遺伝子に関連した調節エレメントの制御の下で行われる。次に、異種遺伝子コーディング配列の翻訳が、異種遺伝子のオープンリーディングフレームの5’側にあるIRESの存在によって可能になる。これにより、従来から公知で用いられてきた異種遺伝子発現を得る技術によるよりかなり高い効率で異種遺伝子の発現が調節される。
【0068】
使用においては、宿主細胞における特定の発現パターンおよび/またはレベルを有する異種遺伝子および内因性遺伝子が選択される。内因性遺伝子のいくつかの部分または内因性遺伝子の隣接領域に対して実質的に相同なXおよびYを有するDNA構築物が作製される。次いでDNA構築物は、異種遺伝子の転写がその内因性遺伝子の宿主調節エレメントにより導かれるように、異種遺伝子およびIRESをその内因性遺伝子中に(またはその代わりに)挿入することを目標とする。成熟異種遺伝子産物の翻訳は、DNA構築物に含有され、そして異種遺伝子と共に新しく挿入されたIRESによって可能となる。
【0069】
本発明による遺伝子トラップタイプ標的ベクターにおけるIRESの仲介による翻訳開始の利用は、先に記載した遺伝子トラップおよび遺伝子トラップ標的ベクターよりも相当の利点を提供する。ここでは、導入遺伝子を所望の内因性遺伝子転写領域に機能的に組み込んでも融合タンパク質を産生せず、内因性遺伝子発現の破壊を必ずしも必要としない。
【0070】
8量体結合転写因子4は、転写因子であるPOUファミリーの一員である(Scholerによる概説、1991)。Oct4転写は、発生途中のマウス初期胚の4細胞期および8細胞期の間に活性化され、そして拡大しつつある胚盤胞内で高度に発現され、次いで、内部細胞塊の多能性細胞内で発現する。転写は、初期外胚葉が分化して中胚葉を形成するときダウンレギュレート(down-regulate)され(Scholerら、1990)、そして8.5d.p.c(受精後の日数(days post coitum))まで始原生殖細胞の移動に制限される。高レベルのOct4遺伝子発現は、また多能性胚癌腫および胚幹細胞系においても観察され、これらの細胞が分化するように誘導されるとき、ダウンレギュレートされる(Scholerら、1989;Okamotoら、1990)。
【0071】
Oct4遺伝子が本発明の構築物の使用の適切な例として選択されたのは、高レベルのOct4 mRNAに対する穏和作用(moderate)が公知であったからである。結果は、第2のイントロン内の可能なエンハンサー配列の除去と一致する、標的Oct4対立遺伝子からの転写におけるダウンレギュレーションにもかかわらず、Oct4遺伝子は本発明の方法および構築物を用いて非常に高い効率で標的され得ることを示す。
【0072】
本発明の1つの実施態様においては、IRESエレメントとオープンリーディングフレームを組み込んでいるトランスジェニック構築物を停止コドンの3’側でありかつポリアデニル化シグナルの5’側の位置に組み込むことは、内因性遺伝子産物とトランスジェニックオープンリーディングフレームの産物との両方をコードし得る機能的ジシストロニックmRNAを生成する。別の実施態様においては、導入遺伝子を内因性遺伝子のリーディングフレームの5’側にまたはその代わりに組み込むことが、内因性遺伝子産物を「ノックアウトする(knock-out)」(または、そうでなければ改変する)機会を提供する。
【0073】
多くの研究所における真核生物遺伝子の分析は、DNAのコーディング配列、即ち最終的にアミノ酸配列に翻訳される領域は、一般に、連続的ではなく「サイレント(silent)」DNAによって中断されることを示した。ショウジョウバエにおける酵母のtRNA遺伝子のようにタンパク質産物を持たない遺伝子に関してさえ、第1次RNA転写物は、変異の間に切り出される内部領域を含み、最終的なtRNAまたはmRNAはスプライスされた産物である。成熟したメッセンジャーから失われることになる領域を「イントロン」(遺伝子内領域について)といい、そして他方発現されることになる領域を「エクソン」という。導入遺伝子は、機能的にエクソンに挿入されるか、または本発明のさらなる局面では、イントロンへの機能的な組み込みを可能にするIRESエレメントの5’側にスプライスアクセプター配列を組み込み得る。従って、機能的な導入遺伝子の組み込みは、イントロン/エクソンの配置または内因性遺伝子のリーディングフレームによって制限されない。これは、本発明のトランスジェニック構築物の構築が、従来の公知の構築物の構築より簡便であるという別の局面である。
【0074】
本発明のIRES含有ベクターは、より効率のいい遺伝子標的を可能にする。本発明は、異種遺伝子コーディング配列を遺伝子の3’非翻訳領域(3'UTR)に挿入することを可能にし、従って、上流の全てのイントロンおよびエクソンの相対的位置が保存され、そして高レベルの発現につながる。異種遺伝子のゲノムコピーの必要性はなくなり、そしてIRES下流の3'UTRにcDNAコピーを挿入することにより良好な発現が得られる。cDNAが対応するゲノムコピーに比べて非常に短いので、構築物の構築およびトランスジェニック哺乳動物の生成が著しく簡便になる。
【0075】
好ましい実施態様においては、異種遺伝子は、その3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルを含む。この実施態様の利点は、ポリアデニル化シグナルが結果として異種遺伝子の末端で効果的な短縮(truncation)および転写のプロセッシングを行うということである。
【0076】
特に好ましい実施態様においては、このDNA構築物はまた、相同領域Xの5’側(上流)に短縮/切断(cleavage)/転写終結配列を含む。この5’配列の機能は、mRNAのリードスルーを防ぐことである;適切な配列は、SV40のポリアデニル化シグナルのようなポリAシグナルおよび上流マウス配列(Upstreatm Mouse Sequence、UMS)(Heardら、1987)を含む。この5’配列は、さらにスプライスアクセプターを含み得る。DNA構築物はランダムに宿主ゲノムに組み込み得る、即ちそれらは標的される内因性遺伝子との相同組換えによる挿入を常に行うわけではないということは公知である。いかなる活性な遺伝子へのランダムな組み込みであっても、結果として異種遺伝子を発現し得る;このことは、正しい挿入を認識するのを困難にし、それは不利な点である。特に好ましい実施態様がこの問題を克服するのは、ランダムな組み込みが起こっている場合、転写終結または短縮または切断配列もまた組み込まれて転写をブロックしているからである。標的された内因性遺伝子による相同組換えが起こっている場合、転写をブロックする配列は組み込まれず、そのため異種遺伝子の転写が可能になるということが好都合にも発見される。
【0077】
本発明のこれらの特に好ましい実施態様において、ランダムな遺伝子トラップ組み込み後の発現を排除し、従って、特に所望の標的の選択を可能にする遺伝子トラップタイプ標的ストラテジーを提供するのに効果的な方法が確立される。この方法は、発明者らによりPositive Only Selection(POS)と命名され、そして転写短縮/切断配列(例えばポリアデニル化配列)またはUMSのような転写終結配列を利用して、活性に転写される遺伝子へのランダムな組み込みにおける導入遺伝子の発現をブロックしている。標的遺伝子との相同組換えは、異種遺伝子、およびもしあれば、選択性マーカーを機能的に挿入するが上流転写終結配列は挿入せず、従って、異種遺伝子、および存在する場合選択性マーカーの転写を可能にする。
【0078】
従って、本発明の「POS」実施態様は、所望の標的遺伝子以外の導入遺伝子の発現を組み込み部位から本質的に排除する方法を提供することにより、遺伝子トラップ発現技術の可能性を拡大する。このPOSシステムは、遺伝子治療において特別な適用を有し、ここでは、導入遺伝子の発現を標的された遺伝子座に制限することに非常に価値がある。
【0079】
第1の局面のDNA構築物を用いることにより、異種遺伝子を内因性宿主遺伝子に、異種遺伝子配列の開始点が内因性標的遺伝子配列の開始点に実質的に導入されるように挿入することが可能である。そのような場合においては、IRESは必要に応じて除かれ、即ちこのDNA構築物は以下を包含する:
5’T−D−X−A−Q−C−Y 3’
ここで、Tは、転写ターミネーターまたはトランケーター、
Dは、任意のリンカー配列、そして
X、Y、A、C、およびQは、先に規定したとおりである。
【0080】
本発明の構築物はまた、特定の発現特性(「E」)に従って、標的宿主細胞または生物(明確化のため細胞を「T」という)内で遺伝子(「G」)を発現させるという問題を解決するために有利である。ここでは適切な発現特性を有する内因性遺伝子が存在しないかまたは利用しにくい。解決法は、発現特性Eを有する遺伝子(「H」)を含むドナー宿主細胞(「D」)を同定し、そして本発明に従って構築物をつくることである。ここで、XおよびYは、特性Eに従って細胞D中の内因性遺伝子の発現を調節する細胞Dエレメントを含むような長さである。従って、DNA構築物は(1)標的される内因性遺伝子の細胞D調節エレメントであって、その発現特性が模倣されることが望ましいエレメント、(2)IRES、および(3)異種遺伝子配列Gを含む。このDNA構築物は細胞TのDNAにランダムに組み込まれ得る。
【0081】
構築物の細胞TDNAへのランダムな組み込みにより、細胞Dの発現特性Eにほぼ従って異種遺伝子を発現する、改変された細胞Tが生じる。結果として、細胞DにおけるHの発現と同様のパターンで細胞T中で遺伝子の発現が起こる。
【0082】
本発明のDNA構築物をランダムに細胞Tに組み込んだ後、改変された細胞Tは、相同組換えによって行われる本発明の全ての実施態様に従って、DNA構築物の標的となる。
【0083】
第2の局面では、本発明は異種遺伝子を宿主細胞ゲノム内の標的内因性遺伝子に挿入する方法を提供し、それは本発明の第1の局面に従うDNA構築物による宿主細胞の形質転換を包含する。形質転換は本発明のDNAを、トランスフェクション、弾動注入(injection ballistics)、プラスミドまたはウイルスベクター、あるいはエレクトロポレーション、あるいは融合によって細胞または細胞調製物に導入することを含み得る。
【0084】
第3の局面において、本発明は、異種遺伝子を含む本発明の第1の局面に従うDNA構築物を作製することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。ここでは、そのDNA構築物に宿主ゲノムとの相同組換えを行わせ、そして異種遺伝子を発現する宿主細胞の培養物を生育させる。
【0085】
従って、本発明は、相同な遺伝子領域によって近接される、プロモーターを持たないトランスジェニック構築物を使用する方法を提供し、ここではトランスジェニック構築物のDNAと標的遺伝子座との間の相同組換えが、導入遺伝子を選択された転写ユニットに機能的に挿入することになる。導入遺伝子の転写は、内因性遺伝子に関連したエレメント、および/または導入遺伝子によってその部位に導入された付加エレメントによって調節される。1つまたは複数のトランスジェニックリーディングフレームの翻訳は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)を(1つまたは複数の)オープンリーディングフレームの5’側のすぐ隣に組み込むことによるキャップ独立性翻訳開始により仲介される。これにより、導入遺伝子調節の優れたレベルが提供され、そして導入遺伝子の発現のための前記発現構築物の設計および良好な利用に関連した多くの問題が避けられる。
【0086】
第4の局面においては、本発明は、本発明に従うプロモーターを持たないDNA構築物を作製することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。ここでは、それを宿主ゲノムとランダムに統合させ、そして異種遺伝子を発現している細胞の培養物を生育させる。
【0087】
第5の局面においては、本発明は、その構築物を宿主ゲノムに導入する前に機能的な発現構築物を設計することにより宿主細胞内で異種遺伝子を発現させる方法を提供する。一つの実施態様では、そのような「ゲノム導入遺伝子」は、発現されるべき異種遺伝子に結合させたIRESを、遺伝子の調節エレメントを全てではないがほとんど組み込んでいる大きなゲノム配列(例えば、コピーされるべき遺伝子を含むコスミドまたは人工染色体)に挿入することにより、インビトロで設計される。別の実施態様では、ゲノム導入遺伝子は、IRESおよび発現されるべき異種遺伝子を内因性宿主遺伝子内に標的し、そして続いて、IRESおよび発現されるべき配列、および標的遺伝子に関連した全てではないがほとんどの調節エレメントを組み込んでいる大きなゲノムフラグメント(例えばコスミドまたは人工染色体)を標的細胞系から単離することにより、インビトロで設計される。次いで、大きなゲノム導入遺伝子は、宿主細胞へのランダムな導入の後所望の導入遺伝子の発現を提供する。
【0088】
第6の局面において、本発明は、相同組換えによるかまたはランダムな組み込みによるかのいずれかの本発明に従うDNA構築物を用いて異種遺伝子がゲノムに挿入されたトランスジェニック細胞、またはトランスジェニック生物、またはトランスジェニック動物を提供する。第7の局面において、本発明は、異種遺伝子を遺伝した第6の局面の子孫を提供する。本発明は、真核生物および原核生物の両方において異種遺伝子を発現させることに適用し得るが、好ましくは真核生物であり、そしてより好ましくは動物細胞においてであり;そして特に哺乳動物細胞においてである。
【0089】
明らかに、所望の組み込みについての選択における本発明の構築物および方法の有用性は、選択性マーカー遺伝子を組み込んでいるトランスジェニック構築物を、トランスフェクトされた細胞内で十分なレベルで発現される内因性遺伝子に導入することに制限される。選択性マーカーとは独立した発現のために非選択性遺伝子を活性転写遺伝子に導入するためには、標的遺伝子座は、まず、選択性マーカーを発現している本発明の構築物によって「マーク」される。これは、それについて(1次標的)およびそれに抗して(2次標的)、選択され得る。1次標的によって一旦マークされると、「マークされた」遺伝子への導入遺伝子の組み込みは、1次標的遺伝子選択性マーカーの欠如によって、選択され得る。このタイプのアプローチは、異種遺伝子の過剰発現についての細胞系またはトランスジェニック動物の開発におけるような特定の遺伝子の反復標的が計画されている場合、特に適用され得る。
【0090】
標的されている遺伝子が1次遺伝子トラップ「マーキング」について十分発現されない場合、標的遺伝子をマークするために、標準的非遺伝子トラップタイプ標的ベクターにおいて、選択性マーカーのプロモーター仲介発現が同様に用いられ得る。
【0091】
本発明の特に好ましい実施態様において、ネズミ胚幹(ES)細胞内の遺伝子標的のためにLacZ/細菌ネオマイシン耐性融合遺伝子の脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditus virus、EMCV)IRES仲介性翻訳を用いるベクターが構築されている。βgeo融合遺伝子の翻訳は、レポーター遺伝子活性と選択性マーカー遺伝子活性の両方を提供する二機能性の遺伝子産物を生成する。ベクターは、(a)導入遺伝子を内因性遺伝子のリーディングフレームの3’側に非破壊的に挿入することによる正常な分化阻害活性/白血病阻害活性(DIA/LIF)遺伝子発現、および(b)DIA遺伝子座での規定の改変から得られるDIA遺伝子発現変化、および(c)その遺伝子座での規定の改変から得られた8量体結合転写因子4(Oct4)発現変化を標的し、そして続いてリポートするように設計された。
【0092】
DIAは、インビトロでES細胞の分化を抑制し、そしてインビボで種々の発生および生理過程に関連している他面発現性サイトカインである。このDIAの遺伝子が本発明の構築物の使用の適切な例として選択されたのは、DIAのmRNAレベルの低さが公知であったからである。結果は、DIAのmRNAレベルの定常状態が低い(<10コピー/細胞)にも関わらず、DIA遺伝子は、高い効率で標的され得ることを示す。
【0093】
従って、これらの結果は、本発明に従う構築物の使用は、少なくともES細胞において、たとえ低いレベルであっても発現される遺伝子に適用され得るということを示唆する。
【0094】
IRES仲介性翻訳効率が細胞のタイプに依存しているかどうかを調べるために、本発明者らは、本発明に従うランダム遺伝子トラップベクターを生成した。これは、EMCV-IRESを利用してβgeo融合遺伝子の翻訳を開始する。種々の分化した細胞タイプにおいてLacZ染色を示すネオマイシン耐性細胞系が胚盤胞注入および次の世代のキメラのために選択された。キメラを生育させて、LacZ発現特性の分析のために十分なトランスジェニック動物を提供した。この分析は、他の細胞タイプにおけるIRES仲介性翻訳の効率に価値ある洞察を提供する。
【0095】
従って、以下の項に記載の発明が提供される:
項1.異種遺伝子配列を真核細胞性宿主ゲノムに挿入し、そして該遺伝子配列を発現させるDNA構築物であって、以下の配列を含む、DNA構築物であり、
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
ここで、XおよびYは、内因性宿主遺伝子の一部と実質的に相同であり、Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり、Qは、異種遺伝子配列であり、A、B、およびCは、別々に任意のリンカー配列である、DNA構築物;
項2.XおよびYが、前記A−P−B−Q−C配列を前記宿主ゲノムに挿入するために、該宿主ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さである、項1に記載のDNA構築物;
項3.XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである、項2に記載のDNA構築物:
項4.前記宿主細胞が動物細胞である、項1、2、または3に記載のDNA構築物;
項5.XおよびYが、内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む、項4に記載のDNA構築物;
項6.前記リンカー配列A、B、およびCのいずれかまたは全てが存在しない、項2〜5のいずれかに記載のDNA構築物;
項7.前記遺伝子コーディング配列の3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルをさらに含む、項2〜6のいずれかに記載のDNA構築物;
項8.前記IRESの5’(上流)に、例えばウサギb-グロビンスプライスアクセプターのようなスプライスアクセプターをさらに含む、項2〜7のいずれかに記載のDNA構築物;
項9.前記スプライスアクセプターが、前記遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、項8に記載のDNA構築物;
項10.Xの5’(上流)に短縮/切断/転写ターミネーター配列をさらに含む、項2〜9のいずれかに記載のDNA構築物;
項11.前記短縮/切断/転写ターミネーター配列が、スプライスアクセプターおよびポリアデニル化シグナルを含む、項10に記載のDNA構築物;
項12.前記転写ターミネーターが、上流マウス配列またはSV40のポリアデニル化シグナルのようなポリA配列である、項10または11に記載のDNA構築物;
項13.前記遺伝子コーディング配列が抗生物質耐性のような選択性マーカーをコードし、該遺伝子コーディング配列を前記宿主ゲノムに挿入した細胞の選択を容易にする、項2〜12のいずれかに記載のDNA構築物;
項14.前記IRESが翻訳終結コドンの前にある、項2〜13のいずれかに記載のDNA構築物;
項15.XおよびYがプロモーターエレメントを含まない、項2〜14のいずれかに記載のDNA構築物;
項16.XおよびYが、特定の発現特性(特性E)に従って第1の細胞(細胞D)内で内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含むような長さであり、そして前記構築物が、第2の細胞(細胞T)のDNAへのランダムな組み込みに適応して特性Eに従って細胞T内で前記遺伝子配列を発現する、項1に記載のDNA構築物;
項17.前記遺伝子コーディング配列が選択性マーカーをコードしている、項16に記載のDNA構築物;
項18.前記リンカー配列A、B、およびCのいずれかまたは全てが存在しない、項16〜17のいずれかに記載のDNA構築物;
項19.前記遺伝子コーディング配列の3’末端(下流)にポリアデニル化シグナルを含む、項16〜18のいずれかに記載のDNA構築物;
項20.前記IRESの5’(上流)に、スプライスアクセプターを含む項16〜19のいずれかに記載のDNA構築物;
項21.前記スプライスアクセプターが、前記遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、項20に記載のDNA構築物;
項22.遺伝子コーディング配列を宿主細胞または宿主生物内で発現させるための項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物の使用;
項23.前記宿主が、動物細胞、胚幹細胞、および受精卵から選択される、項22に記載のDNA構築物の使用;
項24.遺伝子コーディング配列を宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該コーディング配列を発現させる方法であって、該宿主細胞を項1〜15のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクターで形質転換することを包含する、方法;
項25.遺伝子コーディング配列を宿主細胞のゲノムに挿入し、該コーディング配列を発現させる方法であって、該ゲノムに項16〜21に記載のDNA構築物をランダムに組み込むことを包含する、方法;
項26.遺伝子コーディング配列を宿主細胞または宿主動物内で発現させる方法であって、以下の工程:
1.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を作製する工程、
2.該構築物を宿主細胞に挿入する工程、および
3.該遺伝子コーディング配列を発現している細胞または動物を同定する工程、
を包含する、方法;
項27.前記DNA構築物が、前記宿主のゲノムと相同組換えを行うのに適している、項26に記載の方法;
項28.前記DNA構築物が、前記宿主のゲノムへのランダムな組み込みに適している、項26に記載の方法;
項29.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を受精卵に注入する工程を包含するトランスジェニック動物の作成方法;
項30.項2〜21のいずれかに記載のDNA構築物を用いて挿入された遺伝子コーディング配列を含む細胞または動物;
項31.前記子孫が前記導入された遺伝子コーディング配列を遺伝した、項30に記載の細胞または動物の子孫;
項32.項2〜15のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクター;および
項33.項16〜21のいずれかに記載のDNA構築物を含むベクター。
【0096】
以下は、本発明の例示的な実施態様であり、ここで、
図1〜3、および6は、本発明のDNA構築物を示す。
図4および5は、構築物作製において用いるDNA構築物を示す。
図7および8は、IRES-βgeo標的ストラテジーを示す:
図7−ジシストロニック転写においてIRESを通して仲介される翻訳の内部開始のスキームを示す。
図8−遺伝子標的におけるIRES-βgeoカセットの適用を示す。構築物は、遺伝子全部または一部を欠失させて他方lacZリポーターを組み込むか、または完全な遺伝子の改変をともなうかまたはともなわずにリポーターを付加するかのどちらかに設計され得る。そして
図9〜12は、標的されたクローンのDNAおよびmRNAのハイブリダイゼーション分析を示す:
図9−DIA/LIF標的を示す。HindIIIまたはEcoRIによって切断したゲノムDNAを、pDR100由来エクソン1特異的163bp XhoI-EaeIフラグメントまたは700bp PstI-EcoRI 3’ゲノムフラグメントのいずれかとそれぞれハイブリダイズさせた。レーン1は、CGR8の親ES細胞;レーン2、5、および6は、非短縮型の構築物によって標的されたクローン;レーン3および4は、短縮型の構築物によって標的されたクローンを示す。
【0097】
図10−Oct-4標的を示す。EcoRI切断によりアガロースプラグ内で調製されたゲノムDNA上の1次スクリーニングおよび587bpの5’NcoIフラグメントとのハイブリダイゼーション、およびフェノール/クロロホルム抽出DNAのClaI切断後の600bpのHindIII-Sau3A3’フラグメントとの確認のハイブリダイゼーション。ClaIは、lacZ配列内の可変的なメチル化を示唆する導入部位の部分的な切断を再現的に行った。レーン1は、親のCGR8 ES細胞;レーン2は、標的されなかったトランスフェクト細胞;レーン3〜7は、標的されたクローンを示す。
【0098】
図11は、DIA遺伝子座に標的とされた組み込みを有するES細胞クローンにおける融合転写物の検出を示す。DIA発現レベルを増加させるために、ES細胞は、10-6Mのレチノイン酸(retinoic acid)に曝することにより分化を誘導された。ポリ(A+)冨化したRNAを4日後に調製し、ホルムアルデヒドゲルに流してナイロンメンブレンに移した。このフィルターを650bpのDIA/LIFコーディング配列プローブとハイブリダイズし、そして21日間曝した後、剥がして800bpのlacZフラグメントと再びハイブリダイズした。レーン1は、親CGR8細胞由来のRNA(1.5μg);レーン2は、非短縮型の構築物によって標的された細胞由来のRNA(3μg);レーン3および4は、短縮型の構築物によって標的された細胞由来のRNA(3μg)を示す。
【0099】
図12は、Oct-4を標的としたES細胞における融合転写物の検出を示す。全RNAは、未分化のES細胞から調製した。Oct-4プローブは、24bpのエクソン2を含む408bpのNcoI-PstIの5’cDNAフラグメント(292)であり、そのため野生型および融合転写物と同じハイブリダイゼーションを与えた。
【0100】
図13は、実施例3に記載したように、本発明の構築物の生成における工程を示す。
【実施例】
【0101】
実施例1
DIA遺伝子標的構築物(図1および2)を、内因性DIA遺伝子座の制御下で遺伝子を発現させるために、β-geo融合遺伝子産物を発現する導入遺伝子を組み込むように設計した。第3構築物(図3)は、標的とされる相同なDNAの5’側の位置で遺伝子トラップ標的構築物に設計される場合、ランダムに組み込まれた導入遺伝子から発現を排除はしないが大いに低減させる転写ブロッカーによって得られる利点を示すように設計した。
【0102】
ES細胞培養および操作
ES細胞を、記載されたように(Smith,A.G.(1991) J.Tiss.Cult.Meth.13,89-94による)、ネズミDIA/LIFを添加した培地でフィーダーなしで規定通りに維持した。生殖系列コンピテント細胞系CGR8を公開された手順(Nichols,J.、Evans,E.P.およびSmith,A.G. (1990) Development 110,1341-1348)により129株の胚から確立した。Woodsらの方法(Wood,S.A.、Pascoe,W.S.、Schmidt,C.、Kemler,R.、Evans,M.J.およびAllen,N.D. (1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、4582-4585)の変法によりES細胞と異系交配MF1胚との間で凝集キメラを生成した。この方法では、共存培養は懸滴培養で行われた。生殖系列伝達に関しては、キメラを胚盤胞注入により産生した。相同組換え体の単離に関しては、108個の細胞を0.4cmキュベット中で3μFd、0.8kVで150μgの直鎖状プラスミドとともにエレクトロポレーションし、次いで、175μg/mlのG418の存在下で選択した。ゲノムDNAを24ウェルの平板培養由来のアガロースプラグ内で調製し(Brown,W.R.A.(1988) EMBO J.7、2377-2385)、他方同様のプレートを凍結保存した(Ure,J.、Fiering,S.、およびSmith,A.G. (1992) Trends.Genet.8、6)。DIA/LIF産生をアッセイするために、ES細胞を6mMの3−メトキシベンズアミド(3-methoxybenzamide)と共にインキュベーションすることによって分化に誘導し、そして調節培地を回収し、ES細胞の分化の阻害能力について記載されるようにアッセイした。このアッセイは、ネズミDIA/LIFに対して生じた中和ポリクローナル抗血清(AS、未公開)を含むことにより、DIA/LIFに対して特異的にした。β−ガラクトシダーゼの組織化学的染色は、X-galを用いて行い(Beddington,R.S.P.、Morgenstern,J.、Land,H.およびHogan,A.(1989) Development 106、37-46)、そして蛍光染色は、DetectaGene Green(Molecular Probes)を製造者の指示に基づいて用いて行った。
【0103】
プラスミド構築
DNA操作は以下の標準的手順に従って行った。IRESは、EMCVのmRNAの5’非翻訳領域(UTR)由来の594bpの配列であり、天然の開始コドンの突然変異誘発により改変されている。翻訳は、通常の開始部位から9bpだけ3’側にあり、NcoIクローニング部位の一部を形成するATGによって開始される。
【0104】
簡単にいうと、IRES-βgeoカセットをEMCV-IRES/lacZ融合物(Ghattasら、1991)の5’フラグメントをβgeo遺伝子融合物の3’lacZ/neoR配列(Friedrich,G.およびSoriano,P. (1991) Genes Dev.5、1513-1523)に連結させることにより構築した。次いで、pGTIRESβgeopAプラスミドをen-2スプライスアクセプターの5’連結(Gossler,A.、Joyner,A.L.、Rossant,J.、およびSkarnes,W.C. (1989) Science 244、463-465)、およびSV40ポリアデニル化配列の3’連結により生成した。標的構築物を、129株λライブラリーから単離したゲノムクローンから調製した。DIA/LIF標的構築物を、別の第1エクソン間のSacII部位から遺伝子の3’のHindIII部位まで延びている7kbのフラグメント内に生成した。IRES-βgeoカセットを独特のXbaI部位に挿入することによりDIA-βgeo構築物を調製した。DIA-βgeopA構築物を生成するために、3’βgeo配列およびSV40ポリアデニル化配列を含む1.2kbのBamHIフラグメントをpGTIRESβgeopAから単離し、そしてBamHIで切断したDIA-βgeo構築物に連結した。これにより、200bpのSV40配列をDIA/LIFの3’UTRの400bpのフラグメントの代わりに挿入したことになる。Oct-4標的構築物は、5’側が1.6kbにわたって相同であり、それは第1エクソン内のHindIII部位から第1イントロン内のXhoI部位まで延びており、そして3’側が4.3kbにわたって相同で、それはポリアデニル化配列の3’側のNarI部位からHindIII部位まで延びている。
【0105】
詳細には、DIA標的構築物を生成するために、EMCV-IRESをβgeo融合遺伝子に結合させる予備ベクターを設計した。これは、ベクター「1」を生成するために、細菌のネオマイシン耐性遺伝子(neo)およびSV40のポリアデニル化シグナルを含む1.2kbのBamHI部位をB1uescript II KS(-)クローニングベクター(Stratagene)のBamHI部位に連結することにより生成した。これとは別に、EMCV-IRESおよび5’LacZ配列を含む1.4kbのBglII/ClaIフラグメントをpLZIN(Ghattasら、1991)から単離し、そしてpGT1.8βgeoに連結して、pGT1.8IRESβgeoと呼ぶベクターを生成した(図4)。全IRESβgeo融合遺伝子を含む4.9kbのXbaIフラグメントをpGT1.8IRESβgeoから単離し、そして(標的用の)IRES-βgeoを生成するためにXbaI切断ベクター「1」に連結した(図5)。
【0106】
DIA-IRESβgeo標的ベクター(図1)を生成するために、(標的用の)IRES-βgeo由来の4.9kbのXbaI IRES-βgeoフラグメント(図5)を、ネズミDIA遺伝子の翻訳停止コドンとオーバーラップしている独特のXbaI部位に連結した。DIA遺伝子トラップ標的ベクターの設計に用いられるネズミDIA遺伝子フラグメントは、別の第1エクソン(「D」転写物をコードしている)の3’側に隣接しているSacII部位からこの部位の3’から約7kb離れたHindIII部位まで延びていた。
【0107】
DIA IRESβgeopAと呼ばれる第2のDIA遺伝子標的ベクターを、SV40のポリアデニル化配列をIRESβgeo導入遺伝子の3’側のすぐ隣に挿入することにより生成した。これは、(標的用の)IRES-βgeo由来のBamHI neo/pAフラグメントをBamHIで切断した7kbのDIA IRESβgeoに挿入することにより達成された。得られた構築物は、約400bpのDIA遺伝子3’UTR配列の代わりにSV40のポリアデニル化シグナルを含む以外は7kb DIA IRESβgeo標的構築物と同じであった。
【0108】
「POS」DIA IRESβgeo標的ベクターを、ウサギβ−グロビン遺伝子スプライスアクセプターおよびエクソン配列およびSV40ポリアデニル化シグナルを組み込んでいる1400bpのNcoI/PstI pSVTKNeobフラグメントを、DIA遺伝子のDNA相同性領域の5’末端のSacII部位に挿入することにより生成した(図3)。
【0109】
Oct4遺伝子への標的組み込みのために設計されたOct4-neo構築物(Oct4-tgtvec)を図6に示す。この構築物は、1.6kbの5’Oct4遺伝子配列、4.3kbの3’Oct4遺伝子配列のlacZ-neomycin融合遺伝子(βgeo、二機能性タンパク質をコードしている。FriedrichおよびSoriano、1991)をOct4のmRNAの第1のイントロンに組み込む。第1のエクソン−イントロンの境界のスプライスドナー配列から組み込まれたIRES-βgeo配列までのスプライシングは、ネズミengrailed-2スプライスアクセプター配列(Skarnesaら、1992)をIRES-βgeo配列の5’側のすぐ隣に含むことにより促進される。Oct4-βgeo融合転写物のβgeoシストロンの翻訳は、EMCV-IRESをβgeoコーディング配列の5’側のすぐ隣に含むことにより促進される。
【0110】
ES細胞トランスフェクションおよびコロニー選択
マウス129 ES細胞(CGR-8系)を調製し、Smithら(1991)によって記載されたようにDIA存在下で維持した。トランスフェクション用のプラスミドDNAをSalI切断により直鎖状にし、エタノールで沈澱させ、そしてPBS中で10〜14mg/mlの濃度で再懸濁した。新鮮な培地で10時間培養した後、ほぼ集密したES細胞をトリプシン処理によって分散させ、培地およびPBSで連続的に洗浄し、そして直ちにトランスフェクションできるようにPBS中で1.4×108/mlの濃度で再懸濁した。基本的には、0.7mlの細胞懸濁液を0.1mlのDNA含有溶液と混合し、そしてBiorad Gene Pulserおよび0.4cmキュベットを用いて0.8kVおよび3.0μFDでエレクトロポレーションを行った。トランスフェクション物質は、200μg/ml(活性)G418(Sigma)を含む選択培地を添加する前に、ゼラチンで覆った組織培養皿に5〜8×104/cm2の濃度で生育培地中で16時間プレートした。単一コロニーをトランスフェクション後8〜10日の時点で選択し、200μg/mlのG418を含む生育培地内でさらに成長させるために24ウェルの組織培養プレートに二重に移した。
【0111】
一度密集すると、一連の細胞を貯蔵のため凍結し、残ったものをサザン分析および/またはlacZ染色によって分析した。
【0112】
DIA遺伝子−標的細胞系のさらなる特徴付け:
選択した細胞系を、DIA添加培地中のES細胞の成長および分化または非DIA添加培地中のレチノイン酸誘導分化の後、lacZ染色パターンについてアッセイした。
【0113】
DIA遺伝子−標的細胞系からのキメラの産生:
選択した細胞系を以前に記載したように胚注入の前にG418非存在下で7日間培養した(Nicholsら、1990)。簡単にいうと、注入する胚盤胞をC57/B16ドナーから4d.p.cで採集し、10〜20細胞を用いて注入し、そして疑似妊娠レシピエントの子宮に移す前に培養で再成長させた。C57/BL6バックグラウンド上の砂色のコート色の斑の存在によってキメラを同定した。オスのキメラは、導入遺伝子の伝達に関してテスト交配させ得る。トランスジェニックマウスは、lacZ染色に関して分析され得る。
【0114】
DNAおよびRNAハイブリダイゼーション分析
ランダムに感作した32P-標識プローブを用いて標準的な手順に従って、フィルターハイブリダイゼーションをナイロンメンブレン上で行った。相同組換え体を5’および3’近接配列の両方の由来のプローブにより特徴付けた。ジゴキシゲニンで標識したOct-4アンチセンスRNAとの全スライド(whole mount)インサイチュハイブリダイゼーション(Scholer,H.、Dressler,G.R.、Balling,R.、Rohdewold,H.およびGruss,P. (1990) EMBO J.9、2185-2195)を本質的に記載されているように行った(Wilkinson,D.G (1992) in situ hybridization: a practical approach,Wilkinson,D.G編(IRL Press,Oxford),pp.75-83)。
【0115】
ES細胞におけるDIA/LIF mRNAの定常状態レベルは、1細胞当り10コピーより少ない;これにより、本発明のIRES標的ベクターの一般的な有用性の厳格なテストが提供された。標的ベクターを停止コドンとオーバーラップしているXbaI部位でIRES-βgeoモジュールを導入することにより構築した(図9)。従って、全コーディング配列は元のまま残り、そしてイントロン配列も変化しなかった。2つの構築物、DIA-βgeoおよびDIA-βgeopAが構築され、これらはβgeo配列の3’側にSV40のポリアデニル化シグナルを含むことによって区別された。はじめの構築物との相同組換えの後生成した融合転写物は、DIA/LIF遺伝子の内因性3’UTRおよびポリアデニル化シグナルを利用するが、DIA-βgeopA構築物はこれらの配列を欠く短縮型の転写物を生じる。
【0116】
DIA/LIFとは対照的に、8量体結合転写因子Oct-4(Oct-3としても知られている)のmRNAおよびタンパク質の両方は、ES細胞において比較的豊富である。Oct-4はまた卵母細胞、多能性初期胚細胞、および始原生殖細胞においても見られる。Oct-4と多能性との関連は、分化の間の迅速なダウンレギュレーションによって強化される。IRES-βgeoベクターを、無効対立遺伝子を生成し、そして発現マーカーをOct-4遺伝子座に導入するように設計した(図8)。後者は現在まで同定されていなかったOct-4発現部位の検出を容易にし得た。エクソン2から5にあるPOU特異的ドメインおよびホメオドメインコーディング配列を欠失させ、そしてIRES-βgeopAモジュールによって置換した(図11)。5’アームの相同領域が第1イントロン内で終了しているので、相同組換えの後エクソン1からの生産的スプライシングを促進するために、en-2スプライスアクセプター配列をIRESの5’側に含んだ。
【0117】
G418におけるエレクトロポレーションおよび選択の後、置換標的が起こったことを検出するために3’近接プローブおよび5’近接プローブの両方を用いて(図9〜12)、および複数の組み込みをモニターするために内部プローブを用いて、サザンハイブリダイゼーションを行うことにより個々のクローンを分析した。本発明の構築物によって得られる相同組換えの頻度を、表1に示す。
【0118】
正しい置換が行われたことが全てのベクターで観察された。特に高い頻度が、Oct-4の遺伝子座で再現的に得られた。このことは、同質遺伝子型DNAの働きおよびプロモーターを持たない構築物によって与えられた富化に加えて、ES細胞におけるこの遺伝子の高い発現レベルを反映し得る。ポリ(A)付加ベクターでのDIA/LIFの標的もまた効果的であった。DIA/LIF遺伝子座で正しく標的されたクローンの単離は、IRES仲介性翻訳が、ES細胞で非常に低いレベルで発現される遺伝子に適用され得るということを確立する。
【0119】
いくつかの標的クローンのノーザン分析により、全てのクローンが、lacZとDIA/LIFまたはOct-4プローブとのそれぞれにハイブリダイズする予想された大きさの融合転写物を含んでいるということが確認された。IRES-βgeoのクローンD70内でのDIA/LIF遺伝子への短縮されない挿入により生成された転写物が同様に検出されたが、正常な転写物に比べれば僅かに少なかった。このことは、IRES-βgeo配列自身は転写またはメッセージの転向のいずれにもいかなる甚大な影響も与えないということを示す。IRES-βgeopAの組み込みの際に生じる短縮型の融合種は、蛍光画像走査(phosphorimage scanning)によると正常のメッセージより5倍も豊富であった。これらの細胞内の融合転写物のレベルの上昇は、生物学的に活性なDIA/LIFタンパク質の産生において反映された;親細胞または非短縮型の構築物によって標的された細胞から調製された調節培地よりも、標的された短縮物を有する細胞の分化培養物から調製された調節培地において3〜6倍多いDIA/LIFが存在した。従って、融合転写物は、機能的なジシストロニックmRNAであり、そして標的は、標的された遺伝子の活性を改変した。その一方、Oct-4融合転写物は野生型Oct-4 mRNAより10〜20倍も少なかった。このことは、en-2スプライスアクセプターの非効果的な利用のせいであるが、mRNA内の安定化エレメントまたは遺伝子内のエンハンサーのいずれかの欠失によっても生じ得た。
【0120】
インビトロ研究は、標的される異種遺伝子発現を得る本発明の構築物及び方法の可能性を示す。
【0121】
実施例2
IRES機能の組織特異性の問題に取り組むために、本発明者らは、pGTIRESβgeopAをエレクトロポレーションによってES細胞に入れることにより本発明に従う一連のランダムIRES遺伝子トラップを行った。分化細胞タイプ中でのβ−ガラクトシダーゼの幅広い発現をインビトロで示すいくつかのクローンを、凝集キメラを生成するために用いた。発生の7.5日目および8.5日目に、ES細胞によってコロニーを作った全ての組織でβ−ガラクトシダーゼが検出され得、それは胚の一帯、および羊膜および内臓卵黄嚢においてである。これらの遺伝子トラップは生殖系を介して伝達されており、IRESの存在は機能的な配偶子形成と適合することを確証する。そしてヘテロ接合体に関する予備分析は、IRESが広範な種々の胚組織および成熟組織で機能的であることを示す。凝集キメラもまたOct-4標的細胞によって産生された。7.5日目におけるそのような胚の染色パターンは、Oct-4 mRNAの組織特異的分布が、β−ガラクトシダーゼ発現パターンにより正確に反映されることを示す。
【0122】
実施例3
IRESおよびcDNAを組織特異的遺伝子のゲノムクローンの3’非翻訳領域に挿入することによる異種分子の効果的な発現への本発明の適用および受精卵へのマイクロインジェクションによるトランスジェニック動物の生成。
【0123】
以下の実施例において、cDNA(例えば、ヒトα-1抗トリプシン)を、IRES(例えば、EMCV由来)の下流で、トランスジェニック動物において効果的におよび組織特異的様式で機能するゲノム遺伝子(例えば、ヒツジβ−ラクトグロブリン遺伝子、BLG)の3’非翻訳領域に挿入する。
【0124】
脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来のIRESは、600bpのEcoRI-NcoIフラグメントとして利用し得る。ここで、NcoI部位(CCATGG)は、翻訳の開始部位を規定している;それはまた、NcoI部位の上流に数ヌクレオチドを挿入してIRESとATGとの間の距離を変えるHindIII部位も含んでいる(Ghattasら、Mol.Cell.Biol. 11、5848-5859、1991)。始めに、上流のEcoRI部位をリンカー挿入によりEcoRV部位に転換する(配列GAATTGATATCAATT)。IRESの2つのバージョンを用い、1つ(IRES-1)は、NcoI部位に異種コーディング配列が導入されており、2つめは、boxA(TTTCC、Pilipenkoら、Cell 68、119-131、1992)の20ヌクレオチド下流のNcoI部位内にATGを位置させるように部位指向性変異を誘発し、HindIII部位を除いた(この領域のDNA配列はこの時点でTTTCCTTTGAAAAACACGATAACCATGGとなる)(図13、A)。この改変IRESをIRES-2という。IRES-1およびIRES-2の両方をEcoRI-NcoIフラグメントとして以下の実験に用いる。
【0125】
ヒツジBLG遺伝子は、pPolyIII-I(Latheら、Gene 57、193-201、1987)にクローニングされた大きなSaII-SaIIフラグメント(または別の僅かに小さいSaII-XbaIフラグメント)(Simonsら、Nature 328、530-532、1987;AliおよびC1ark、J.Mol.Biol.199、415-426、1988;Harrisら、Nucl.Acids Res.16、10379、1988)に存在している。どちらのフラグメントもトランスジェニック動物に導入されると泌乳中の乳腺において高レベルで発現する(Simonsら、Nature 328、530-532、1987)。
【0126】
最終エクソン内の翻訳停止コドンのすぐ下流に独特のAatII部位(GACGT/C)がある。この部位は、リンカーの挿入によりEcoRV部位に転換される(最終配列GACGTGATATCACGTC)(図13、D)。この構築物は全SaII-SaIIフラグメントの使用に基づいているが、SaII-XbaIフラグメントもまたこの手順の適切な僅かな改変をするだけで用いられ得る。
【0127】
本実験で用いるリポーター遺伝子は、ヒトα-1抗トリプシンcDNAであるが、この手順は、別のどのようなcDNAによっても繰り返され得る。このcDNAを局所変異誘発により操作し、その結果NcoI部位が開始ATGをオーバーラップする(これは第2のコドンにおいて1塩基の変化となり、この位置でコードされていた本来のアミノ酸が変化する。多くの場合、このアミノ酸はシグナル配列の先端にあるため成熟タンパクに貢献しないので、このことは成熟タンパク質の発現、分泌または活性に不都合な結果をもたらさない)。同様に、EcoRV部位をcDNAの3’末端で操作し、3’非翻訳領域を除去する(cDNAの3’末端の配列はTAAGATATCであり、ここで、停止コドンTAAはTAA、TAG、またはTGAで有り得る)(図13、B)。以下の実験にはこのNcoI-EcoRVフラグメント(必要ならば、内部部位(internal site)が存在する場合には、部分的な切断によって得られたもの)を用いる。
【0128】
次に、pPolyIII-I(Latheら、Gene 57、193-201、1987)を改変し、その結果、合成BamHI-SaII-PstIポリリンカーがBamHI部位とPstI部位との間に挿入される(ポリリンカー配列−GGATTCGCGTCGACCACTGCAG;制限部位に下線を付けた)(図13、C)。改変された(AatII部位の場所がEcoRV部位である)ゲノムヒツジBLG遺伝子を含むSaII-SaIIフラグメントをSaII部位にクローニングする。IRESおよび改変cDNAをそれぞれEcoRV-NcoIフラグメントおよびNcoI-EcoRVフラグメントとして切り出し、相互連結して、融合産物EcoRV-NcoI-EcoRVをBLG遺伝子の3’非翻訳領域内のEcoRV部位に挿入する(図13、E)。
【0129】
ハイブリッド分子BLG-IRES-AAT-BLGをSfiIまたは別の適当な酵素を用いてプラスミドから切り出し、マウスまたはヒツジの受精卵にマイクロインジェクトする。この構築物を有するトランスジェニック動物は、大部分、それらの乳の中で高レベルのAATを発現していることが観察されている。本発明の構築物はまた、生物医学的に重要な他のタンパク質の発現を得るためにも用いられ得る。
【0130】
本明細書中で報告する実験は、本発明に従うIRES標的の使用が宿主ゲノムにおいて所望の遺伝子を発現させる有力な手段であることを確立する。さらに、これらの研究で用いたIRESの構成は、3’シストロンの翻訳には最適ではなかった。IRESの3’末端に関連するATGの正確な位置は、翻訳効率に主要な影響を与えることがわかった。βgeoの産生は、本研究で達成されるよりも数倍上昇し得たようである。このことにより、僅かな発現しか見られない遺伝子内の組換え体を単離し、そしてlacZリポーターの感受性を高める能力が増大する。
【0131】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のIRES標的ストラテジーは、哺乳動物の遺伝子発現をリポートし改変する強力な手段である。さらに、IRESに連結したマーカーを3’UTRに非破壊的に組み込むことは遺伝子に微妙な変異を導入する便利な手段を提供することが明らかである。さらに、このIRESストラテジーは、内因性遺伝子の改変およびリポーターの導入に制限されず、しかも導入遺伝子の発現制御にも適用し得る。導入遺伝子発現の所望の特異性およびレベルは、前核注入用のゲノム構築物においてまたは適切な遺伝子座への相同的組み込みの後のいずれかにおける、IRES仲介性翻訳の使用によって確実とされ得た。後者は、2つのIRESエレメントを含むポリシストロニックベクターの構築によって達成され得た。あるいは、相同置換の連続したラウンドまたは選択性マーカーの組換え除去の前の標的を用いて、破壊を最小限にとどめてIRES発現カセットをES細胞で発現されていないいかなる遺伝子にも導入し得た。従って、一般に、IRES仲介性翻訳の柔軟性および有用性は、導入遺伝子研究において幅広い適用を見いだすように思われる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】7kb DIA−IRESβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図2】7kb DIA−IRESβgeo−p(A)を含むDNA構築物を示す図である。
【図3】SA/pA−7kb DIA−IRESβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図4】pGT1.8Iresβgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図5】IRES−βgeoを含むDNA構築物を示す図である。
【図6】Oct4−tgtvecを含むDNA構築物を示す図である。
【図7】ジシストロニック転写においてIRESを通して仲介される翻訳の内部開始のスキームを示す図である。
【図8】遺伝子標的におけるIRES-βgeoカセットの適用を示す図である。
【図9】DIA/LIF標的を示す図および電気泳動写真である。
【図10】Oct−4標的を示す図および電気泳動写真である。
【図11】DIA遺伝子座に標的とされた組み込みを有するES細胞クローンにおける融合転写物の検出を示す電気泳動写真である。
【図12】Oct-4を標的としたES細胞における融合転写物の検出を示す電気泳動写真である。
【図13】実施例3に記載したように、本発明の構築物の生成における工程を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法であって、該宿主細胞が、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、任意のリンカー配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
方法。
【請求項2】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記異種遺伝子コーディング配列がまた選択性マーカーもコードする、請求項8に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項10】
前記構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法であって、以下の工程
(i)該ゲノムへ第1のDNA構築物をランダムに組み込みする工程;および
(ii)請求項1から10のいずれかに記載の方法を使用して、該ゲノムへの第2のDNA構築物を相同組換えする工程であって、ここで、該ランダムに組み込みする工程は、ドナー細胞ゲノム中の内因性遺伝子の発現を調節するエレメントの制御下で該第1のDNA構築物が該宿主細胞ゲノムへのランダムな組み込みを受けることを可能にすることにより該コーディング配列を発現させることを包含し、該ドナー細胞は、該宿主細胞とは異なる細胞であり、ここで、該宿主細胞は、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該第1のDNA構築物は、以下の配列:
5’ X’−A’−P’−B’−Q’−C’−Y’ 3’
を含み、ここで、
X’およびY’は、同一のドナー細胞ゲノムからの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該ドナー細胞中で該内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含み;
P’は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Q’は、該異種遺伝子コーディング配列であり;
A’、B’およびC’は、別々に、任意のリンカー配列である、
方法。
【請求項12】
前記第1のDNA構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のDNA構築物が前記IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、請求項11から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列Q’を発現するための、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記異種遺伝子コーディング配列Q’を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記異種遺伝子コーディング配列Q’がまた、選択性マーカーもコードする、請求項15に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記第1のDNA構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する、請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞が、マウス胚幹細胞およびマウス受精卵から選択される、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記非ヒト受精卵細胞が、マウス受精卵細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法であって、該宿主細胞が、哺乳動物幹細胞であり、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
方法。
【請求項21】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項20から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項20から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
動物細胞中で異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項20から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項20から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記構築物がまた選択性マーカーをコードする遺伝子も含む、請求項27に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項29】
前記哺乳動物幹細胞が、ヒト胚幹細胞である、請求項20から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させるためのベクターであって、該ベクターは、DNA構築物を含み、該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、そして
該構築物が該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
ベクター。
【請求項31】
前記標的内因性遺伝子が、Oct4またはDIA遺伝子である、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項30から31のいずれかに記載のベクター。
【請求項33】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項30から32のいずれかに記載のベクター。
【請求項34】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項33に記載のベクター。
【請求項35】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項30から34のいずれかに記載のベクター。
【請求項36】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項30から35のいずれかに記載のベクター。
【請求項37】
動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項30から36のいずれかに記載のベクター。
【請求項38】
前記構築物がまた、選択性マーカーをコードする遺伝子も含む、請求項30から37のいずれかに記載のベクター。
【請求項1】
真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法であって、該宿主細胞が、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、任意のリンカー配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
方法。
【請求項2】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記異種遺伝子コーディング配列がまた選択性マーカーもコードする、請求項8に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項10】
前記構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノムに挿入する方法であって、以下の工程
(i)該ゲノムへ第1のDNA構築物をランダムに組み込みする工程;および
(ii)請求項1から10のいずれかに記載の方法を使用して、該ゲノムへの第2のDNA構築物を相同組換えする工程であって、ここで、該ランダムに組み込みする工程は、ドナー細胞ゲノム中の内因性遺伝子の発現を調節するエレメントの制御下で該第1のDNA構築物が該宿主細胞ゲノムへのランダムな組み込みを受けることを可能にすることにより該コーディング配列を発現させることを包含し、該ドナー細胞は、該宿主細胞とは異なる細胞であり、ここで、該宿主細胞は、非ヒト胚幹細胞および非ヒト受精卵から選択され、そして該第1のDNA構築物は、以下の配列:
5’ X’−A’−P’−B’−Q’−C’−Y’ 3’
を含み、ここで、
X’およびY’は、同一のドナー細胞ゲノムからの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該ドナー細胞中で該内因性遺伝子の発現を調節するエレメントを含み;
P’は、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Q’は、該異種遺伝子コーディング配列であり;
A’、B’およびC’は、別々に、任意のリンカー配列である、
方法。
【請求項12】
前記第1のDNA構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のDNA構築物が前記IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、請求項11から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
非ヒト動物細胞において異種遺伝子コーディング配列Q’を発現するための、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記異種遺伝子コーディング配列Q’を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記異種遺伝子コーディング配列Q’がまた、選択性マーカーもコードする、請求項15に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記第1のDNA構築物を非ヒト受精卵細胞に注入する工程を包含する、請求項11から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞が、マウス胚幹細胞およびマウス受精卵から選択される、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記非ヒト受精卵細胞が、マウス受精卵細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
インビトロで、真核細胞性宿主細胞をDNA構築物を含むベクターで形質転換することによって、異種遺伝子コーディング配列を該真核細胞性宿主細胞のゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させる方法であって、該宿主細胞が、哺乳動物幹細胞であり、そして該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、
ここで、該構築物は、該異種遺伝子コーディング配列を該標的内因性遺伝子の中にかまたは該標的内因性遺伝子の代わりに挿入し、その結果、該異種遺伝子コーディング配列の転写は、該標的内因性遺伝子についての該宿主調節エレメントによって指向され、そして該構築物は、該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
方法。
【請求項21】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項20から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項20から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
動物細胞中で異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項20から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記異種遺伝子コーディング配列を発現する細胞を同定する工程をさらに包含する、請求項20から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記構築物がまた選択性マーカーをコードする遺伝子も含む、請求項27に記載の方法であって、該方法は、該選択性マーカーを発現する細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項29】
前記哺乳動物幹細胞が、ヒト胚幹細胞である、請求項20から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
異種遺伝子コーディング配列を真核細胞性宿主細胞ゲノム中の標的内因性遺伝子に挿入し、そして該異種遺伝子コーディング配列を、所望の時間的および/または空間的特性に従って発現させるためのベクターであって、該ベクターは、DNA構築物を含み、該DNA構築物は、以下の配列:
5’ X−A−P−B−Q−C−Y 3’
を含み、ここで、
XおよびYは、該標的内因性遺伝子からの別々の配列と少なくとも95%相同であり、そして該A−P−B−Q−C配列を該宿主細胞ゲノムに挿入するために、該宿主細胞ゲノムとの相同組換えを受けるのに十分な長さであり;
Pは、リボゾーム内部エントリー部位(IRES)であり;
Qは、該異種遺伝子コーディング配列であり;そして
A、BおよびCは、別々に、該構築物中に必要に応じて存在するさらなるDNA配列であり、そして
該構築物が該IRESの5’(上流)にスプライスアクセプターをさらに含む、
ベクター。
【請求項31】
前記標的内因性遺伝子が、Oct4またはDIA遺伝子である、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記構築物が、前記A−P−B−Q−C配列を内因性遺伝子の終結コドンの3’(下流)、および該内因性遺伝子のポリアデニル化シグナルの5’(上流)の位置に挿入するように適合される、請求項30から31のいずれかに記載のベクター。
【請求項33】
XおよびYがそれぞれ少なくとも1000塩基対の長さである構築物を使用する、請求項30から32のいずれかに記載のベクター。
【請求項34】
XおよびYが前記標的内因性遺伝子の発現を調節する宿主エレメントを含む構築物を使用する、請求項33に記載のベクター。
【請求項35】
前記構築物が前記異種遺伝子コーディング配列の3’(下流)末端にポリアデニル化シグナルをさらに含む、請求項30から34のいずれかに記載のベクター。
【請求項36】
前記スプライスアクセプターが、前記異種遺伝子コーディング配列のイントロン配列への機能的組み込みを可能にする、請求項30から35のいずれかに記載のベクター。
【請求項37】
動物細胞において異種遺伝子コーディング配列を発現するための、請求項30から36のいずれかに記載のベクター。
【請求項38】
前記構築物がまた、選択性マーカーをコードする遺伝子も含む、請求項30から37のいずれかに記載のベクター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−17889(P2009−17889A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247444(P2008−247444)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願2007−222831(P2007−222831)の分割
【原出願日】平成6年4月21日(1994.4.21)
【出願人】(500219618)ザ・ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・エディンバラ (21)
【氏名又は名称原語表記】The University Court of the University of Edinburgh
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願2007−222831(P2007−222831)の分割
【原出願日】平成6年4月21日(1994.4.21)
【出願人】(500219618)ザ・ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・エディンバラ (21)
【氏名又は名称原語表記】The University Court of the University of Edinburgh
【Fターム(参考)】
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