説明

模擬便

【課題】比重を調整することができ、簡便かつ安価に作製することができる模擬便を提供する。
【解決手段】油脂分と水分と有機・無機分とを含む模擬便基質に、中空フィラーが配合されていることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、模擬便に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大便器の開発では大便による大便器洗浄性の評価が伴う。大便器洗浄性は、大便の硬さ、粘度、形状や比重などの物理的性状の違いにより排泄時あるいは洗浄後の大便器への付着態様が異なり、その洗浄性も変わってくる。したがって、大便器洗浄性の評価の際にはその目的とする大便を準備する必要があるが、その都度準備することは困難である。また、使用する大便が評価毎に異なるため、再現性がなく結果の比較が十分にできないという問題もある。このため、大便器洗浄性の評価を再現性よく実現するためには、粘度や比重などを容易に調整できるようにした模擬便を簡便かつ安価に作製し、それを用いて評価することが必要である。
【0003】
模擬便としては、従来より、釣魚用配合飼料と穀物と糖類から作製することが知られている(たとえば、特許文献1参照)。この模擬便は、人糞採取の訓練用教材として提案されたもので、採便棒をその模擬便に突き刺した際の感触を実際の大便に似せるようにしている。しかしながら、以上の模擬便の大便器への付着態様は大便と同程度ではなく、大便器の大便器洗浄性の評価用として用いるには、いまだ満足できるレベルではなかった。
【特許文献1】特開平10−319022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明は、以上の通りの背景から、比重を調整することができ、簡便かつ安価に作製することができる模擬便を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の模擬便は、前記の課題を解決するものとして、第1には、油脂分と水分と有機・無機分とを含む模擬便基質に、中空フィラーが配合されていることを特徴とする。
【0006】
また、第2には、上記の模擬便において、中空フィラーは、無機材料よりなるものであることを特徴とする。
【0007】
第3には、上記第1または第2の模擬便において、中空フィラーの粒子径は、5〜200μmの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記第1の発明によれば、油脂分と水分と有機・無機分とを含む模擬便基質に、中空フィラーが配合されていることにより、比重を調整することができ、簡便かつ安価に作製することができる模擬便を得ることができる。
【0009】
上記第2の発明によれば、中空フィラーが、無機材料よりなるものであることにより、静電気を効果的に防止でき、その取り扱い性が容易であるため、より簡便に模擬便を作製できる。
【0010】
上記第3の発明によれば、中空フィラーの粒子径が、5〜200μmの範囲であることにより、模擬便の付着評価への影響が少なく、取り扱い性も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0012】
本願発明の模擬便は、大便の大便器洗浄性に関して汚れ評価をおこなうことをその目的とし、大便の硬さ、粘度、比重などの物理的性状の違いによって大便の大便器への付着態様が異なることを見出した上で、模擬便と大便のそれぞれについて大便器への付着態様が同程度になるようにし、大便器の汚れ性が同程度となるように実現したものである。以下に、大便の物理的性状の違いによる大便器への付着態様を図1に基づいて説明する。
【0013】
まず、大便の物理的性状については、硬さや粘度に着目し、1.硬便、2.普通便、3.軟便、4.水様便の4つに分類することができる。ここで、1.硬便とは、便秘ぎみで硬くコロコロした便のことをいい、2.普通便とは、半練り状の便のことをいう。3.軟便とは、半練り状より柔らかい便のことをいい、4.水様便とは、ポタージュや水のような下痢便のことをいう。
【0014】
図1に示したように、大便1の大便器2への付着態様は、A〜Dの4つの態様に分類できる。まず、大便1が水没しない部位に付着する場合(A,B)と、水没する部位に付着する場合(C,D)に分け、Aは排泄時に大便1が傾斜面に落下し、その傾斜面に付着する態様、Bは排泄時やおしり洗浄時に飛び散った大便1が傾斜面に付着する態様とした。Cは浮遊した大便1が排出時(大便器洗浄時)に旋回し、こすれて付着する態様とし、Dは沈んだ大便1が排出時(大便器洗浄時にこすれて付着する態様とした。
【0015】
本願の発明者らの検討の結果、各物理的性状の大便1の大便器2への付着態様は、1.硬便の場合には主にDの態様となり、2.普通便の場合には主にA,CおよびDの態様となることがわかった。また、3.軟便および4.水様便の場合には主にA,BおよびDの態様となることがわかった。このような大便器への各種の付着態様を再現することは、大便器洗浄性に関する汚れ評価をおこなうにあたり重要である。すなわち、以上のような大便の大便器への付着態様を模擬便で再現することができれば、模擬便の大便器における当該箇所の付着度合いを観察することで、汚れを評価することができるのである。したがって、模擬便の作製の際には、大便器への付着度合いを大便と同程度とする必要があり、そのためには、目的とする大便の物理的性状にあわせた模擬便とする必要がある。本願発明は、以上の検討結果を踏まえ、特に上記Cの付着態様を再現するために、比重を調整することができ、簡便かつ安価に作製することができる模擬便を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本願発明の模擬便は、油脂分と水分と有機・無機分とを含む模擬便基質に、中空フィラーが配合されていることを特徴としている。
【0017】
本願発明における中空フィラーは、模擬便の比重を調整する役割を担っており、その材質の種類としては、たとえば、ガラス、セラミックなどの無機材料、フェノール樹脂、PMMA、ポリスチレンなどの有機材料を例示することができる。なかでも、無機材料は、静電気を効果的に防止でき、その取り扱い性が容易であるため好ましく用いられる。また、中空フィラーの形状は一般的には球状であり、その粒子径としては、模擬便による付着評価への影響と取り扱い性を考慮し、粒径が5〜200μmであることが好ましい。5μm未満の場合には、粒子が細かすぎるために扱いにくく、コスト的にも不利であるので好ましくなく、200μmを超える場合には、模擬便がざらついたものとなり、大便(人糞)の汚れの付着を再現できなくなるので好ましくない。更に好ましくは、10〜150μmとして考慮される。
【0018】
この中空フィラーとしては、真密度が0.125〜0.600g/cmの範囲で、かさ密度が0.075〜0.370g/cmの範囲のものが好ましい。
【0019】
以上の中空フィラーは、模擬便の比重が0.95〜1.00になるようにその配合量を適宜に設定して配合することが考慮される。具体的には、まず、中空フィラーを模擬便に少なめに配合し、その模擬便を実際に水に投入して水面近くに浮遊するかどうかを確認する。模擬便が沈むようであれば、中空フィラーを少量づつ追加し上記作業を繰り返す。目安として模擬便が水面近くに浮遊する場合はその比重は0.95程度であり、模擬便が沈むことなく水中に漂っている場合には1.00程度である。このため、模擬便の水中での浮遊状態を確認することで中空フィラーの配合量を決定できる。なお、カタログなどによって中空フィラーの比重をあらかじめ調査しておけば、以上の作業をさらに簡便にすることができる。中空フィラーの配合量としては、一般的には、模擬便基質100gに対し、中空フィラーを20〜50ccの割合で配合されることが考慮される。20cc未満の場合には、浮遊する便を十分に再現することができない場合があるため好ましくない。50ccを超える場合には、得られる模擬便の比重が想定している大便よりも小さくなるため好ましくない。
【0020】
本願発明における模擬便基質は、上述のように油脂分と水分と有機・無機分とを含むものであるが、油脂分としては、大便の付着度合いにより似せるために、たとえば、長鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸のうちの少なくともいずれか一方であることが好ましく、両者を併用してもよい。具体的には、長鎖脂肪酸としてはオレイン酸、中鎖脂肪酸としてはオクタン酸を例示することができる。油脂分の配合割合としては、たとえば、模擬便全体に対して1〜10重量%であることが考慮される。実際の大便の成分分析の結果において脂質の比率が6重量%程度であることを考慮すると、模擬便全体に対して4〜8重量%であることが最適である。
【0021】
有機分としては、たとえば、小麦粉、ピーナッツ粉、そば粉、山芋粉、大豆粉、みそなどの植物由来のもの、あるいは、これらに模擬便の粘度や硬さを調整する目的で無機分として、二酸化ケイ素(シリカ)を加えたものを例示することができる。有機・無機分の配合割合は、模擬便全体に対して10〜60重量%の割合で配合されることが考慮されるが、実際の大便の成分分析の結果において有機・無機分の比率が20重量%程度であることを考慮すると、好ましくは20〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%である。
【0022】
水分の配合割合については、たとえば模擬便全体に対して40〜90重量%であることが考慮される。実際の大便の成分分析の結果において水分の比率が75重量%程度であることを考慮すると、模擬便全体に対して70〜80重量%、より好ましくは72〜75重量%である。
【0023】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0024】
<実施例>
表1に示す材料比でみそを所定の容器に入れ、ついでオクタン酸を入れてよくかき混ぜた。次に、所定量の純水を上記容器に入れ、塊がなくなるまでよく攪拌し、その後約30分以上放置して模擬便基質を得た。模擬便基質の材料比は、あらかじめ大便(人糞)と模擬便基質の各材料の成分を調査しておき、模擬便と大便の成分比が同程度になるようにした。
【0025】
次に、得られた模擬便基質100gに対し、中空フィラー(粒径15〜135μm、真密度0.37g/cm、かさ密度0.23g/cm)を29cc、シリカ(二酸化ケイ素)を5g混合した後、むらなく攪拌して模擬便を得た。用いた材料の詳細は以下のとおりである。
【0026】
みそ :米みそ
シリカ 品名:アエロジル200(日本アエロジル(株))
中空フィラー(中空ガラスビーズ) 品名:スコッチライト グラスバブルスK37(住友スリーエム(株))
【0027】
【表1】

得られた模擬便について、図1で示したCの付着態様になるかどうかを大便(人糞)と比較して観察したところ、その付着程度は大便と同程度であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】大便の物理的性状の違いによる大便器への付着態様を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 大便
2 大便器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂分と水分と有機・無機分とを含む模擬便基質に、中空フィラーが配合されていることを特徴とする模擬便。
【請求項2】
中空フィラーは、無機材料よりなるものであることを特徴とする請求項1に記載の模擬便。
【請求項3】
中空フィラーの粒子径は、5〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の模擬便。

【図1】
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