説明

模擬鉄心及びそれを用いた更新巻線の品質確認方法

【課題】種々の径又は長さの更新巻線の品質確認試験に適用することができる模擬鉄心及びそれを用いた更新巻線の品質確認方法を提供する。
【解決手段】更新巻線の品質確認試験に用いる模擬鉄心を、模擬鉄心脚2と模擬上下部ヨーク3、4から構成すると共に、模擬鉄心脚2と模擬上下部ヨーク3、4間の接合面が互いに全て平行となるように構成し、模擬鉄心脚2を前記模擬上下部ヨーク3、4の長手方向へ移動可能に設置する。そして、模擬鉄心脚2を模擬上下部ヨーク3、4の長手方向に適宜移動させることにより、隣接する模擬鉄心脚2、2間の寸法を巻線の更新を要する変圧器の鉄心脚間の寸法に調整して、更新巻線の品質確認試験を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施例は、変圧器やリアクトル等の静止誘導電器の更新巻線の品質確認試験に用いられる模擬鉄心及びそれを用いた更新巻線の品質確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在様々な変電所、発電所等に設置されている変圧器等の静止誘導電器は、各々の定格に応じて設計、製造されており、鉄心径、巻線高さや巻線径も多岐に渡っている。これらの変圧器が経年劣化した際には、巻線を更新する必要が生じ、その際、更新巻線の品質確認試験を工場で行う必要がある。
【0003】
しかしながら、巻線単体で十分な試験をすることは困難であるため、巻線を鉄心に挿入し磁路を形成する必要がある。そのため、従来は、現地から変圧器等をタンクごと工場に持ち帰る必要があり、輸送費のコスト高、リードタイムの長期化等の問題が生じていた。
【0004】
すなわち、図6は、劣化した巻線7と鉄心8から構成された変圧器の本体中身構造物が、絶縁油を満たしたタンク9内に収納された変圧器の断面図であるが、このような変圧器において、長期運転による経年劣化が原因となって巻線7の更新が必要となると、更新用の巻線として工場において新規で製作する巻線が品質上問題ないことを確認するための絶縁試験やインピーダンス測定試験を実施する必要がある。
【0005】
通常、鉄心の大きさは定格電圧、絶縁レベルによって決定されるため、種々の変圧器間で鉄心を流用することができず、巻線の更新を要する変圧器の鉄心を使用する必要があった。そのため、図6に示したタンク9ごと鉄心8と巻線7を工場に搬送し、工場にて新規に製作した更新巻線と劣化した巻線7を交換し、品質確認試験を実施する必要があった。
【0006】
また、定格電圧を印加した際に流れる磁束が鉄心を磁気飽和させないように鉄心径が設計されるため、一般に、巻線を更新する変圧器の鉄心径より小さい鉄心を使用して交流試験電圧を印加することはできない。一方、巻線を更新する変圧器の鉄心径より大きい鉄心では更新巻線を挿入することができなかったり、対鉄心静電容量が巻線の更新を要する変圧器と異なったりすることで、品質確認試験を正確に実施することができない。そのため、個々の静止誘導電器に応じて模擬鉄心を製造する必要が出てくるが、コストや作業時間がかかり得策ではない。
【0007】
このような問題の解決策として、更新巻線を製造する工場において模擬鉄心を用意し、この品質確認用の模擬鉄心と更新巻線とを組み合わせ、商用周波電圧や雷衝撃電圧を印加し、巻線絶縁性能に関する品質を確認するという提案が特許文献1に示されている。一方、十分な鉄心断面積を確保できない場合は、商用周波電圧を印加する変わりに開閉衝撃電圧を印加することで巻線内絶縁の品質確認を行うことも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−224016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来、模擬鉄心の構造についての詳細な提案はなく、各相の更新巻線を単相で個々に試験し、巻線内の品質確認を行うことで、低コスト、小スペース化が実現できるという技術が提案されているにすぎない。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、種々の径又は長さの更新巻線の品質確認試験に適用することができる模擬鉄心及びそれを用いた更新巻線の品質確認方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、実施例1の模擬鉄心は、模擬鉄心脚と模擬上下部ヨークからなる模擬鉄心において、前記模擬鉄心脚と前記模擬上下部ヨーク間の接合面が互いに全て平行となるように構成され、前記模擬鉄心脚が前記模擬上下部ヨークの長手方向へ移動可能に設置されていることを特徴とする。
【0012】
上記のような構成を有する実施例1の模擬鉄心によれば、模擬鉄心脚を模擬上下部ヨークの長手方向に適宜移動させることができるので、隣接する模擬鉄心脚間の寸法を、巻線の更新を要する変圧器の鉄心脚間の寸法に容易に調整することができる。このようにして寸法調整を行った模擬鉄心脚に更新巻線を挿入することにより、三相変圧器の場合でも、各相の巻線を巻線の更新を要する変圧器と同等の位置関係に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の模擬鉄心の構成を示す斜視図。
【図2】実施例1の模擬鉄心の他の構成を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図。
【図3】実施例2の模擬鉄心の構成を示す図であって、(A)は斜視図、(B)は模擬鉄心脚のB−B´断面図、(C)は上下部ヨークのA−A´断面図。
【図4】模擬鉄心脚又は模擬上下部ヨークの断面図であって、(A)はスペーサを広げた状態を示す図、(B)はスペーサを縮めた状態を示す図。
【図5】実施例4の模擬鉄心の構成を示す斜視図。
【図6】各実施例に示した模擬鉄心の適用が必要となる経年劣化した巻線を有する変圧器の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る模擬鉄心及びそれを用いた更新巻線の品質確認方法の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
(1−1)実施例1の構成
図1に示すように、本実施例の模擬鉄心は、それぞれ適当な径及び適当な長さを有する模擬鉄心脚2、模擬上部ヨーク3及び模擬下部ヨーク4から構成されている。また、前記模擬鉄心脚2と模擬上下部ヨーク3、4は、それぞれの接合面が互いに平行となるように、言い換えれば、前記模擬鉄心脚2が模擬上下部ヨーク3、4の長手方向に移動可能に構成されている。
【0016】
なお、模擬鉄心の形状は、図1に示したような矩形の模擬鉄心脚2と矩形の模擬上部ヨーク3、模擬下部ヨーク4を突き合わせた構成にすることで、組立て作業時間の削減や、1種類の幅の珪素鋼板を用いるだけで製作することができるため、コストの削減を図ることができる。
【0017】
(1−2)実施例1の作用・効果
上記のような構成を有する本実施例の模擬鉄心は以下のように作用する。
すなわち、前記模擬鉄心脚2を模擬上下部ヨーク3、4の長手方向に適宜移動させることができるので、隣接する模擬鉄心脚2、2間の寸法を、巻線の更新を要する変圧器の鉄心脚間の寸法に容易に調整することができる。そして、寸法調整を行った模擬鉄心脚2に更新巻線1を挿入することにより、三相変圧器の場合でも、各相の巻線を巻線の更新を要する変圧器と同等の位置関係に設置することができる。また本構造を単相鉄心に適用することにより、鉄心側脚と巻線間の絶縁寸法を容易に模擬することも可能である。
【0018】
このように本実施例の模擬鉄心を適用することにより、従来のように現地から工場へ鉄心と巻線をタンクごと搬送する必要がなくなり、且つ、上記の模擬鉄心を異なる定格の変圧器に適用することができるため、輸送コストの削減や材料費の削減、作業効率の向上が可能となる。
【0019】
(1−3)実施例1の変形例
模擬鉄心の形状は、図1に示したように、模擬鉄心脚2及び模擬上下部ヨーク3、4の両方を矩形とするだけでなく、いずれか一方のみを矩形としても良く、また、模擬上下部ヨーク3、4の形状を半円筒とし、模擬鉄心脚2を円筒としても良い。また、模擬鉄心脚2と模擬上下部ヨーク3、4間の接合部は、必ずしも大きな平面の突き合せ構造である必要はなく、各接合面が互いに平行であれば、図2に示すように、模擬鉄心脚2と模擬上下部ヨーク3、4の珪素鋼板を交互にラップさせた構造とすることも可能である。
【実施例2】
【0020】
本実施例の模擬鉄心は、図3(A)〜(C)に示すように、模擬鉄心脚12及び模擬上下部ヨーク13、14を、所定の厚さ及び所定の長さを有するブロック鉄心12a、13a、14aと、スペーサ12b、13b、14bから構成したものである。すなわち、模擬鉄心脚12は、図3(B)に示すように、その長手方向に配置した複数個のブロック鉄心12aの間に所定のスペーサ12bを設置することにより所定の間隔を設けて組み立てた鉄心脚ユニット20を複数個積層して構成されている。
【0021】
また、模擬上下部ヨーク13、14は、図3(C)に示すように、その長手方向に配置した複数個のブロック鉄心13a、14aの間に所定のスペーサ13b、14bを設置することにより所定の間隔を設けて組み立てたヨークユニット21を複数個積層して構成されている。
【0022】
なお、この場合、互いに積層された鉄心脚ユニット20及びヨークユニット21のスペーサ位置がその積層方向に隣接して配置されると、磁気回路上の空隙となったり、ブロック鉄心内に流れる磁束量に偏りが生じ、部分的に磁気飽和を生じたりすること等で励磁電流が大幅に増加してしまう可能性がある。そこで、図4(A)(B)に示すように、積層方向に隣接するスペーサを長手方向へずらして配置することで、模擬鉄心脚12及び模擬上下部ヨーク13、14を長手方向へ圧縮して長さを調整した場合でも、磁束が均等に流れるようにして、磁気飽和の抑制を図ることができるように構成されている。
【0023】
このように、模擬鉄心脚12及び模擬上下部ヨーク13、14を、その長手方向に配置した複数個のブロック鉄心12a、13a、14aの間に所定のスペーサ12b、13b、14bを設置することにより所定の間隔をあけて組み立てることで、それぞれ長手方向への伸縮が可能となる。これにより、模擬鉄心脚12の高さや模擬上下部ヨーク13、14の長さを、巻線の更新を要する変圧器と容易に同等にすることができる。なお、上記スペーサは、プレスボードや木材等の絶縁物、もしくは、非磁性金属材料から構成されている。
【0024】
上記のような構成を有する本実施例によれば、上記実施例1の作用・効果に加えて、巻線相間や巻線−鉄心側脚間構造に加え、巻線−ヨーク間の構造も模擬鉄心により正確に模擬することが可能となる。また、磁束の偏りをなくす構造にすることで、特に他試験と比較して流れる磁束量が多い交流周波電圧印加試験において、鉄損の増加や磁気飽和による励磁電流の増加を防ぎ、品質確認試験をより正確に行うことができる。
【実施例3】
【0025】
本実施例は、更新巻線1の工場での品質確認試験に関するものである。変圧器の更新巻線の品質確認試験は、単相又は三相にて実施することができるが、更新巻線1の相間絶縁や更新巻線1とブッシングを繋ぐリード線の相間絶縁等については三相状態を模擬しないと品質確認が困難となる。この場合、上記実施例1及び実施例2を適用することにより、模擬鉄心脚2を巻線の更新を要する三相変圧器の巻線相間距離が確保できる位置に配置し、更新巻線1を三相分挿入することで相間絶縁の品質確認試験を実施することが可能となる。
【0026】
三相変圧器において、相間絶縁の検証は更新巻線1の品質を保証するのに必要な試験項目である。設計仕様によっては相間絶縁が厳しくなるケースもあり、三相状態にて品質確認試験を実施することで懸念される箇所の相間絶縁評価も可能となる。そのため、三相鉄心を構成可能な模擬鉄心を適用することは、品質保証の信頼性を高めることになる。
【実施例4】
【0027】
更新巻線の品質確認試験において雷衝撃電圧試験を実施する際、模擬鉄心と更新巻線1間の静電容量による影響を考慮する必要がある。なぜなら、鉄心径が異なると巻線の更新を要する変圧器と異なる静電容量条件で品質確認試験をすることになるためである。
【0028】
そこで、本実施例においては、図5に示すように、模擬鉄心脚2や模擬上部ヨーク3、模擬下部ヨーク4に、巻線の更新を要する変圧器の鉄心脚8a、上部ヨーク8b、下部ヨーク8c(図6参照)とそれぞれ同じ径の円筒シールド電極30が挿入されている。このように所定の位置に円筒シールド電極30を挿入することにより、該変圧器の鉄心径を模擬することができ、これにより巻線−鉄心間の静電容量を正確に模擬し、より正確な条件で品質確認試験をすることができる。
【0029】
波尾長の短い雷衝撃電圧試験に関する更新巻線品質試験において、巻線内電位分布は、巻線内直列静電容量、巻線間静電容量、対地静電容量によって決定されるため、対地静電容量に当たる巻線−鉄心間静電容量を正確に模擬しなければ巻線の更新を要する変圧器とは異なる電位振動で品質評価をすることになる。そこで、本実施例を適用することで、巻線−鉄心間の対地静電容量を巻線−シールド電極間で模擬し、巻線の更新を要する変圧器に近い静電容量を設けることができる。その結果、信頼性の高い品質評価を実現することが可能となる。
【実施例5】
【0030】
本実施例は、上記実施例1〜実施例4に示した模擬鉄心を適用した工場において実施する更新巻線の品質確認方法に関するものである。すなわち、品質確認試験として、上記模擬鉄心を用いてインピーダンス測定、雷衝撃電圧試験、開閉衝撃電圧試験、交流周波電圧試験等を実施する。インピーダンス測定、雷衝撃電圧試験、開閉衝撃電圧試験等では鉄心に流れる磁束が小さいため、一般に小さな鉄心径でも磁路を形成すれば試験を実施することができる。
【0031】
しかし、交流周波電圧試験は、変圧器の定格電圧より高い交流電圧を印加し、電磁誘導により他巻線に電圧を誘起させるため、鉄心断面積の小さい模擬鉄心では磁気飽和が生じてしまう。そこで、模擬鉄心を適用した更新巻線に可変周波数電源から高い周波数の電圧を印加することで、鉄心内磁束量を減らすことができ、巻線の更新を要する変圧器の鉄心断面積より小さい模擬鉄心でも試験の実施が可能となる。
【0032】
本実施例は、定格の異なる変圧器に対して模擬鉄心を共有して品質検証試験ができることを特徴とする。その結果、複数の鉄心径の模擬鉄心を用意する必要がなく、1種類の模擬鉄心を用いるだけで模擬鉄心脚2、12に挿入した多様な定格の更新巻線1の雷衝撃電圧や商用周波電圧に対する絶縁品質検証が可能となる。さらに模擬鉄心の共有化によりコストの削減や作業工数の削減が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…更新巻線
2…模擬鉄心脚
3…模擬上部ヨーク
4…模擬下部ヨーク
7…劣化した巻線
8…鉄心
9…タンク
12…模擬鉄心脚
12a、13a、14a…ブロック鉄心脚
12b、13b、14b…スペーサ
13…模擬上部ヨーク
14…模擬下部ヨーク
20…鉄心脚ユニット
21…ヨークユニット
30…シールド電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模擬鉄心脚と模擬上下部ヨークからなる模擬鉄心において、
前記模擬鉄心脚と前記模擬上下部ヨーク間の接合面が互いに全て平行となるように構成され、
前記模擬鉄心脚が前記模擬上下部ヨークの長手方向へ移動可能に設置されていることを特徴とする模擬鉄心。
【請求項2】
前記模擬鉄心脚及び前記模擬上下部ヨークの少なくともいずれか一方の断面形状が矩形であることを特徴とする請求項1に記載の模擬鉄心。
【請求項3】
前記模擬鉄心脚及び前記模擬上下部ヨークの少なくともいずれか一方が、該鉄心の積層方向と長手方向にそれぞれ2分割以上されたブロック鉄心から構成され、各鉄心の長手方向に互いに隣接して配置される前記ブロック鉄心間にスペーサが設置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬鉄心。
【請求項4】
各鉄心の積層方向に互いに隣接して配置される前記ブロック鉄心間に設置されるスペーサが、各鉄心の長手方向へずらして配置されていることを特徴とする請求項3に記載の模擬鉄心。
【請求項5】
巻線の更新を要する静止誘導電器の鉄心径に合わせて製作されたシールド電極が、前記模擬鉄心脚又は前記模擬上下部ヨークの少なくともいずれか一方に取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の模擬鉄心。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の模擬鉄心と可変周波数電源とを組み合わせ、商用周波数より高い周波数で交流試験電圧を印加することにより、様々な仕様の静止誘導電器の更新巻線に対して同一の模擬鉄心で品質確認試験を実施することを特徴とする更新巻線の品質確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−114165(P2012−114165A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260506(P2010−260506)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)