説明

横編機及び横編機の省電力制御方法

【構成】
前後一対の針床を備え、一方の針床が他方の針床に対し、サーボモータによりラッキング自在な横編機に、針床のラッキングを禁止するためのブレーキを設ける。編地の編成データに基づき、編地もしくはキャリッジから針床に加わるスライド力を求め、求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつサーボモータにより針床をラッキングさせない際に、サーボモータの励磁を解除すると共にブレーキをオンする。
【効果】
針床の不用意な移動を防止しつつ、針床をラッキングさせるサーボモータをサーボブレーキとして用いる頻度を減らし、省電力化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は横編機に関し、特に針床のラッキングの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機では、前後例えば一対の針床を備え、例えばその一方の針床を他方の針床に対しラッキング自在にする。針床を互いにラッキングできるようにすることによって、編目を移動できる範囲が広がり、多様な編地を編成できる。ここで、針床のラッキングはサーボモータで制御し、針床をラッキングしない際には、サーボモータをサーボブレーキとして用いることが行われている。しかしながらサーボブレーキとして用いるためには、サーボモータのコイルを励磁する必要があり、電力が必要である。この一方で、編地の編成コース(キャリッジのストローク)の大部分、編地によっては例えば80%程度は、針床のラッキングが無いコースである。
【0003】
そこで針床のラッキングを行わないコースでは、サーボモータによるブレーキ(サーボブレーキ)をオフし、他のブレーキで針床を固定することが考えられる。しかし発明者はこの点について検討し、針床には編地あるいはキャリッジからスライド力が加わることがあり、ラッキングをしないコースでも、ブレーキで制動すると、針床が不用意に移動するおそれがあることを見出した。またブレーキによる制動では、針床が移動した後に元の位置へ復帰させることができない。すると針床が編成データとは異なる位置に置かれたまま、編成が続行されることになる。これに対してサーボブレーキでは、元の位置へ復帰させることができる。このためどのような条件で、サーボブレーキと他のブレーキとを切り替えるかを検討する必要がある。
【0004】
なおロボット等に関して、サーボモータとは別のブレーキを設け、サーボモータで軸を駆動しない期間は、サーボモータをオフし、ブレーキをオンすることが知られている(特許文献1:JP2000-308990A)。これによってサーボモータの励磁が不要になり、省電力化が図れる。しかしながら、横編機の場合、単にサーボモータで軸を駆動しない、即ちラッキングを行わないことだけをもって、サーボモータからブレーキに切り替えると、前記のように編地あるいはキャリッジからの力で針床が不用意に移動することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JP2000-308990A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、針床の不用意な移動を防止しつつ、針床をラッキングさせるサーボモータをサーボブレーキとして用いる頻度を減らし、省電力化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前後少なくとも一対の針床を備え、少なくとも一方の針床が他方の針床に対し、ラッキング用でかつサーボブレーキ兼用のサーボモータにより、針床の長手方向に沿ってラッキング自在であり、前記少なくとも一対の針床上を往復するキャリッジにより針床の針を操作して編地を編成する横編機において、ラッキング自在な針床のラッキングを禁止するためのブレーキと、編地の編成データに基づき、編地もしくはキャリッジから、ラッキング自在な針床に加わるスライド力を求めるためのスライド力算出部とを設ける。ここでのスライド力は、サーボモータ以外から、針床をラッキングさせるように加わる力で、針床が不用意に移動する原因となる。求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつ前記サーボモータにより針床をラッキングさせない際に、前記サーボモータの励磁を解除すると共に前記ブレーキをオンし、求めたスライド力が第1の所定値超の際、及び前記サーボモータにより針床をラッキングさせる際に、前記サーボモータを励磁し前記ブレーキをオフするための出力インターフェース、とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明はまた、前後少なくとも一対の針床を備え、少なくとも一方の針床が他方の針床に対し、ラッキング用でかつサーボブレーキ兼用のサーボモータにより、針床の長手方向に沿ってラッキング自在であり、前記少なくとも一対の針床上を往復するキャリッジにより針床の針を操作して編地を編成する横編機を省電力制御するために、横編機は、ラッキング自在な針床のラッキングを禁止するためのブレーキを備え、編地の編成データに基づき、編地もしくはキャリッジから、ラッキング自在な針床に加わるスライド力を求めるためのステップと、求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつ前記サーボモータにより針床をラッキングさせない際に、前記サーボモータの励磁を解除すると共に前記ブレーキをオンし、求めたスライド力が第1の所定値超の際、及び前記サーボモータにより針床をラッキングさせる際に、前記サーボモータを励磁すると共に前記ブレーキをオフするステップ、とを実行する、横編機の省電力制御方法にある。
【0009】
この発明では、ラッキング自在な針床に編地あるいはキャリッジから加わるスライド力を求める。なおこの発明では、サーボモータによる制動か、他のブレーキによる制動かを切り替え、具体的には他のブレーキでスライド力を押さえて針床の妄動を防止できるかを判別するために、スライド力を求める。従って、求めるスライド力の精度は、この判別ができる程度でよい。そして求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつサーボモータにより針床をラッキングさせない際に、サーボモータの励磁を解除すると共にブレーキをオンすると、ブレーキで制動できる際には、サーボモータの励磁を解除して、消費電力を小さくできる。またスライド力が第1の所定値超の際、及びサーボモータにより針床をラッキングさせる際に、サーボモータを励磁し、ブレーキをオフするので、必要な場合には必ずサーボモータが励磁されている。さらに編成データに基づいてサーボモータか他のブレーキかを切り替えるので、先を見越した制御ができる。即ち、各時点でサーボモータによるブレーキが適切か、他のブレーキが適切かを判別できるだけでなく、次コース、あるいは次の次のコース等でも状況も予測できるので、より合理的な制御ができる。ブレーキの切替はコース単位でもコースの途中でも良く、例えばコース内でスライド力が第1の所定値以上の区間ではサーボモータをブレーキとし、コース内の他の区間ではサーボモータ以外のブレーキを用いるようにしても良い。
【0010】
スライド力を求めることは、編成データにより、ニットデザインシステム等の横編機以外の装置でも可能である。また求めたスライド力が第1の所定値以下かどうかと、かつサーボモータにより針床をラッキングさせるかさせないかは、編成データによりニットデザインシステムでも求めることができる。従ってニットデザインシステムで、サーボモータによるブレーキを用いるか他のブレーキを用いるかを決定し、横編機に記憶させ、横編機の出力インターフェースにより、サーボモータによるブレーキと他のブレーキとを切り替えても良い。
【0011】
前記ブレーキは好ましくは、通電によりオフし、通電の解除によりオンする、無励磁で作動するブレーキである。このようにすると、ブレーキをオンした際の消費電力は発生せず、さらに省電力化を図ることができる。
また好ましくは、歪みゲージ等のスライド力を測定するためのセンサをさらに備え、前記出力インターフェースは、前記センサにより求めたスライド力が第2の所定値以上で、サーボモータの励磁の解除を禁止すると共に、ブレーキをオフする。編成データにより針床に働くスライド力を求めることができる。しかし、針床に加わる力を歪みゲージ等で監視すれば、現実に針床に加わっているスライド力を求めることができ、想定外の負荷が発生した際にも対応できる。また第2の所定値は第1の所定値と同じでも、異なっていても良い。例えば編成データによる制御が原則で、センサによる制御が予備の安全手段と考えると、第2の所定値を第1の所定値よりも大きくする。
【0012】
好ましくは、前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床で、キャリッジの走行速度と選針された針の数に基づいて、キャリッジから針床に加わるスライド力を求める。選針された針の数が多い程、キャリッジから針床に加わる力が増し、キャリッジの走行速度が大きい程、キャリッジから針床に加わる力が増す。そこでキャリッジの走行速度と選針された針の数とから、スライド力を求めることができる。
特に好ましくは、前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床がラッキングしているピッチ数と、前後の針床間を渡る編糸の本数とに基づいて、編地から針床に加わるスライド力を求める。前後の針床間を渡る編糸の本数は、編糸によって前後の針床が互いに結びつけられている程度を表し、ラッキングしているピッチ数は個々の糸が針床をラッキングさせようとする力を表す。そこでラッキング自在な針床がラッキングしているピッチ数と、前後の針床間を渡る編糸の本数とから、編地が針床をラッキングさせる力を求めることができる。
【0013】
また好ましくは、サーボモータを励磁して編地を編成する際の、サーボモータの励磁電流の値、あるいはサーボモータの出力トルクから測定したスライド力を、スライド力算出部で編成データから求めたスライド力と比較し、測定したスライド力が編成データから求めたスライド力よりも所定の条件以上異なる際に、第1の所定値を変更する補正部を設ける。
【0014】
始動時に横編機が冷えている場合、編成データから求めたスライド力よりも大きなスライド力が針床に働くことがある。また横編機の針溝に埃が溜まっている場合も、編成データから求めたスライド力よりも大きなスライド力が針床に働くことがある。逆に編成開始から長時間経って横編機が暖まり、針溝がきれいに清掃されている場合、編成データから求めたスライド力よりも小さなスライド力しか働かないことがある。
【0015】
そこで例えば編成開始時に1〜2コース程度、サーボモータを励磁し、例えば最大の選針数で編成し、この間にサーボモータに針床から加わるスライド力を測定する。この間のキャリッジの速度は例えば一定としても、数個の速度の間でに変化させても良い。針床に加わるスライド力は、サーボモータの励磁電流の値、あるいはサーボモータの出力トルクから測定できる。そして例えば測定したスライド力と編成データから計算したスライド力との比あるいは差を求め、この比が1から所定の条件以上ずれている場合、もしくは差の絶対値が所定の条件以上ずれている場合、編成データから求めたスライド力に関する第1の所定値を変更する。例えば測定したスライド力が編成データから求めたスライド力よりも、所定の条件以上大きい場合、第1の所定値を小さくする。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の横編機の模式的平面図
【図2】実施例での省電力制御部のブロック図
【図3】キャリッジから針床へ加わるスライド力を模式的に示す図
【図4】編糸から針床へ加わるスライド力を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に、周知技術による変更の可能性を加味して解釈されるべきである。
【実施例】
【0018】
図1〜図4に実施例の横編機2を示す。図1において、4は前針床、6は後針床で、各々多数の編針を備え、針床4,6間に歯口8がある。ここで後針床6が図1の左右方向にラッキング自在で、前針床4は固定とするとが、共にラッキング自在としても良い。また上下前後に針床あるいは目移し部材のベッドを備えた4枚針床等の、横編機に本発明を適用しても良い。その場合、4枚の針床等を前後に分けて、前後一方の2枚の針床等を、ラッキングさせると良い。
【0019】
キャリッジ10は針床4,6上を、図1の左右に往復動し、その1回のストロークを1コースあるいは1編成コースという。キャリッジ10は針床4,6の針を選択し、選択した針のバットをカムで制御して操作する。この時に、キャリッジ10から針を介して、後針床6にスライド力が働く。12は歯付きのベルトで、図示しないキャリッジ駆動用のサーボモータにより駆動され、14はラッキング用のサーボモータで、サーボブレーキとしても使用し、後針床6をラッキングさせる。15はスライド力を測定するセンサで、例えば針床あるいはサーボモータの軸等に設けた歪みゲージである。センサ15として歪みゲージを用いると、サーボモータがオフの時でもスライド力を求めることができる。なおセンサ15として、サーボモータ14の励磁電流の値を監視する電流センサ、あるいはサーボモータ14の出力トルクを測定するセンサでも良いが、サーボモータがオフの場合に編成データからは想定外の負荷が加わると対応できない。
【0020】
16はブレーキで、無励磁でブレーキとして作動するタイプで、励磁によりブレーキ作用が解除される。図1の左下にブレーキ16の構造を示す。20は軸で、中央部に図示しないネジが刻まれ、後針床6に設けたナットと噛み合い、サーボモータ14で軸20を回転させると、後針床が左右にラッキングする。22はブレーキディスク、24は励磁用のコイル、26はバネ、27は摩擦板で、コイル24を励磁すると、摩擦板27がバネ26の反発力に打ち勝ってブレーキディスク22から離れ、ブレーキが解除される。コイル24への通電を停止すると、摩擦板27がバネ26の反発力によりブレーキディスク22に圧接し、ブレーキがオンする。従ってブレーキオン時の消費電力は無く、ブレーキの解除時に電力を消費する。
【0021】
横編機の制御部18は、編成データを記憶すると共に解析し、サーボモータ14の制御信号、ブレーキ16の制御信号、キャリッジの移動制御信号と、キャリッジでの選針装置とカム等の制御信号を出力する。実施例の省電力制御部30は制御部18内に設ける。
【0022】
図2において、30は省電力制御部、32は編成データ記憶部で編地の編成データを記憶し、これらは制御部18内にある。編成データ解析部34は、編成データを各編成コースを実行する前に解析し、例えば編成の開始前に、全編成コース分先読みして解析する。解析の対象は、ラッキングの状態、即ち、後針床6を前針床4に対し何ピッチ分、左右どちらの方向へラッキングさせたかと、編糸の渡りの数、即ち、前後の針床間を渡る編糸の本数などがある。ピッチは針床での針間の間隔である。また元々のラッキング状態として、例えば編目を形成した時点での前後の針床間のラッキングの状態を記憶するが、このデータを無視しても良い。さらに編成データから編目のループ長を求め、必要で有れば編成データ以外のデータとして、編糸の素材、太さ等を記憶する。これらのデータを記憶部36に記憶する。
【0023】
補正部37は、編成データから求めたスライド力と、サーボモータ14を励磁して編地を編成する際の、サーボモータ14の励磁電流の値、あるいはサーボモータの出力トルクから測定したスライド力とを比較し、測定したスライド力が編成データから求めたスライド力よりも所定の条件以上異なる際に、第1の所定値を変更して、変更後の第1の所定値を記憶する。
【0024】
始動時に横編機2が冷えている場合、編成データから求めたスライド力よりも大きなスライド力が後針床6に働くことがある。また横編機2の針溝に埃が溜まっている場合も、編成データから求めたスライド力よりも大きなスライド力が後針床6に働くことがある。逆に編成開始から長時間経って横編機2が暖まり、針溝がきれいに清掃されている場合、編成データから求めたスライド力よりも小さなスライド力しか働かないことがある。
【0025】
そこで例えば編成開始時に1〜2コース程度、サーボモータを励磁し、例えば最大の選針数で編成し、この間にサーボモータに針床から加わるスライド力を測定する。この間のキャリッジの速度は例えば一定としても、数個の速度の間でに変化させても良い。またこの編成は、編地毎に行う必要はなく、例えば毎日の始業時等に、横編機2が編成データ通りのサイズの編目を編成できるように、キャリッジ10のカムを調整する”ループ長ルーチン”と同時に行うと良い。後針床6に加わるスライド力は、サーボモータ14の励磁電流の値、あるいはサーボモータ14の出力トルクから測定できる。なお、編成開始時などにサーボモータに編針から加わるスライド力を測定するために編成を行う際は、編糸を用いずに針を上下動させるだけの空編成でもよい。
【0026】
測定したスライド力と編成データから計算したスライド力との比あるいは差を求め、この比が1から所定の条件以上ずれている場合、もしくは差の絶対値が所定の条件以上ずれている場合、編成データから求めたスライド力に関する第1の所定値を変更する。例えば測定したスライド力が編成データから求めたスライド力よりも、所定の条件以上大きい場合、第1の所定値を小さくする。逆に所定の条件以上小さい場合は、第1の所定値を大きくしても良く、また第1の所定値を変更しなくても良い。
【0027】
記憶部38には、後針床6にキャリッジ10から働くスライド力に関する要素を記憶する。この要素としては、後針床6から選針した針の数とキャリッジの速度等が有る。スライド力は左右方向に後針床6をラッキングさせようとする力で、キャリッジ10から働くものと、編地から働くものとがある。後針床6のラッキングにより、編目が形成時の位置よりも左右にラッキングしていると、編糸から後針床6にスライド力が働く。この力は、前後の針床4,6間に渡る編糸の数が多い程強く、また編目を形成した時よりも編目が左右にラッキングしている距離(ピッチの数)が大きい程強くなる。さらに編目のループ長が小さいため編糸のテンションが高い、素材が太く硬いなどによっても強くなる。なお編目を形成した時を基準とするラッキングの距離に代えて、単に現在のラッキングの距離を用いても良い。これらのデータを、スライド力算出部40,42は適宜のテーブル、マップ、関数等により、編地からのスライド力に変換する。
【0028】
スライド力算出部42は、キャリッジの走行速度と前記の針数から、キャリッジ10から後針床に加わるスライド力を算出する。即ちキャリッジは針のバットをカムで制御し、この時、バットはキャリッジ10に押されてスライド力が生じる。ここで、キャリッジの影響が小さい状態(キャリッジが反転中、あるいは選針している針が少ない)から、編入部等で多数の針を選針する状態へ移行すると、急激にスライド力が働くので、後針床6がラッキングすることがある。同様にコースの途中で、選針される針数が急変しても、スライド力が働く。これらのスライド力は、キャリッジの走行速度が大きい程、大きくなる。ラッキング指令記憶部44はラッキングの指令の有無を記憶する。
【0029】
判定部46は、スライド力算出部40,42で求めたスライド力を加算する。なおスライド力には向きがある。ラッキングを行うコース及びその前後の各1〜2コースでは、無条件にサーボモータ14をオンし、ブレーキ16をオフとする。加算したスライド力が第1の所定値以下で、かつラッキングを行うコース及びその前後の1〜2コース以外のコースで、サーボモータ14をオフ(励磁解除)し、ブレーキ16をオン(これも励磁を解除)する。なお第1の所定値は補正部37で補正済みのものを用いる。このようにして、サーボモータ14かブレーキ16のいずれをオンするかを、記憶部48にコース単位で記憶する。
【0030】
出力インターフェース50は、編成の進行状況を監視し、各コースを実行する例えば1コース前に、記憶部48からデータを読み出し、センサ15で求めたスライド力が第2の所定値以下で有れば、記憶部48のデータ通りにサーボモータ14とブレーキ16を制御する。スライド力が第2の所定値超で有れば、後針床6はラッキングを実行中か、何らかの原因で後針床6を不用意にラッキングさせる力が加わっているので、後者の場合はサーボモータ14をオンし、ブレーキ16をオフする。
【0031】
図3のステップ1〜ステップ4に、キャリッジ10により後針床6が押される仕組みを示す。キャリッジが反転し、選針を開始すると、針のバットがキャリッジに操作されて押され、スライド力が働く。この力は、編入部でキャリッジ10により操作される針の数に比例する。またコースの途中で、所定の長さ当たりで選針される針の数が変化すると、針数の変化に比例するスライド力が働く。
【0032】
図4に編地から働くスライド力の機構を示す。52は前後の針床4,6間の渡り糸、54は前針床4の編目,55は後針床6の編目である。図4では編目55が前から見て右側にラッキングし、糸の張力によって、後針床6を図4の左側へラッキングさせる力が働く。この力は渡り糸52の本数に比例し、編目55を形成したときからのラッキングの距離に比例し、編目55のループ長が短い程強い。そこでこれらのファクターから、編地から働くスライド力を算出できる。
【0033】
実施例では以下の効果が得られる。
1) 後針床6が不用意にラッキングするおそれが無い場合、サーボモータ14をオフし、ブレーキ15の励磁を解除することにより、省電力化が図れる。
2) 編成データにより、サーボモータ14とブレーキ16との切替データを事前に求めることができる。
3) 後針床に実際に働くスライド力をセンサ15から求め、スライド力が大きい場合はサーボモータ14をオンする。
4) キャリッジからのスライド力も、編地からのスライド力も加味した制御ができる。
なお図2の、編成データ記憶部32から判定部46までを図示しないニットデザインシステムに設け、横編機2には図2の記憶部48と出力インターフェース50のみを設けても良い。

【符号の説明】
【0034】
2 横編機
4 前針床
6 後針床
8 歯口
10 キャリッジ
12 ベルト
14 サーボモータ
15 センサ
16 ブレーキ
18 制御部
20 軸
22 ブレーキディスク
24 コイル
26 バネ
27 摩擦板
30 省電力制御部
32 編成データ記憶部
34 編成データ解析部
36,38 記憶部
40,42 スライド力算出部
44 ラッキング指令記憶部
46 判定部
47 補正部
48 記憶部
50 出力インターフェース
52 渡り糸
54,55 編目


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後少なくとも一対の針床を備え、少なくとも一方の針床が他方の針床に対し、ラッキング用でかつサーボブレーキ兼用のサーボモータにより、針床の長手方向に沿ってラッキング自在であり、前記少なくとも一対の針床上を往復するキャリッジにより針床の針を操作して編地を編成する横編機において、
ラッキング自在な針床のラッキングを禁止するためのブレーキと、
編地の編成データに基づき、編地もしくはキャリッジから、ラッキング自在な針床に加わるスライド力を求めるためのスライド力算出部と、
求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつ前記サーボモータにより針床をラッキングさせない際に、前記サーボモータの励磁を解除すると共に前記ブレーキをオンし、求めたスライド力が第1の所定値超の際、及び前記サーボモータにより針床をラッキングさせる際に、前記サーボモータを励磁し前記ブレーキをオフするための出力インターフェース、とを備えていることを特徴とする、横編機。
【請求項2】
前記ブレーキが通電によりオフし、通電の解除によりオンする、無励磁で作動するブレーキであることを特徴とする、請求項1の横編機。
【請求項3】
前記スライド力を測定するためのセンサをさらに備え、前記出力インターフェースは、前記センサにより求めたスライド力が第2の所定値以上で、サーボモータの励磁の解除を禁止すると共に、ブレーキをオフすることを特徴とする、請求項1または2の横編機。
【請求項4】
前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床で、キャリッジの走行速度と選針された針の数に基づいて、キャリッジから針床に加わるスライド力を求めることを特徴とする、請求項1または2の横編機。
【請求項5】
前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床で、キャリッジの走行速度と選針された針の数に基づいて、キャリッジから針床に加わるスライド力を求めることを特徴とする、請求項3の横編機。
【請求項6】
前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床がラッキングしているピッチ数と、前後の針床間を渡る編糸の本数とに基づいて、編地から針床に加わるスライド力を求めることを特徴とする、請求項4の横編機。
【請求項7】
前記スライド力算出部は、ラッキング自在な針床がラッキングしているピッチ数と、前後の針床間を渡る編糸の本数とに基づいて、編地から針床に加わるスライド力を求めることを特徴とする、請求項5の横編機。
【請求項8】
前記サーボモータを励磁して編地を編成する際の、前記サーボモータの励磁電流の値あるいはサーボモータの出力トルクから測定したスライド力を、前記スライド力算出部で編成データから求めたスライド力と比較し、前記測定したスライド力が編成データから求めたスライド力よりも所定の条件以上異なる際に、前記第1の所定値を変更する補正部を設けたことを特徴とする、請求項1または2の横編機。
【請求項9】
前後少なくとも一対の針床を備え、少なくとも一方の針床が他方の針床に対し、ラッキング用でかつサーボブレーキ兼用のサーボモータにより、針床の長手方向に沿ってラッキング自在であり、前記少なくとも一対の針床上を往復するキャリッジにより針床の針を操作して編地を編成する横編機を省電力制御するために、
横編機は、ラッキング自在な針床のラッキングを禁止するためのブレーキを備え、
編地の編成データに基づき、編地もしくはキャリッジから、ラッキング自在な針床に加わるスライド力を求めるためのステップと、
求めたスライド力が第1の所定値以下で、かつ前記サーボモータにより針床をラッキングさせない際に、前記サーボモータの励磁を解除すると共に前記ブレーキをオンし、求めたスライド力が第1の所定値超の際、及び前記サーボモータにより針床をラッキングさせる際に、前記サーボモータを励磁すると共に前記ブレーキをオフするステップ、とを実行する、横編機の省電力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256468(P2011−256468A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130012(P2010−130012)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】