説明

樹脂フィルタ材

【課題】高強度と高気孔率を有し、また金属が腐食するような環境でも使用可能であり、かつ安価な樹脂フィルタ材を提供する。
【解決手段】樹脂フィルタ材1は、連通孔2cを有する樹脂多孔質体2からなり、流体中の異物4を吸着するための樹脂フィルタ材であって、この樹脂多孔質体の連通孔は、少なくとも気孔形成材と強化材とが配合された樹脂を成形して成形体とした後、気孔形成材を溶解し、かつ樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から気孔形成材を抽出して得られる。特に、連通孔2cの総体積が、樹脂多孔質体2の全体積の 30%以上の割合であり、フィルタ材の曲げ強度が 100 MPa 以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度の樹脂フィルタ材に関し、特に高連通孔率と高強度を併せ持つ樹脂多孔質体を構成部材とする樹脂フィルタ材(部材)に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルタ自体が構造部材としての機能を有するフィルタ材には、高い機械的強度を有することや、目詰まり性、ろ過速度等のフィルタ特性が良好であることが要求される。フィルタ材は流体(気体または液体)を通過させながら流体中の異物を吸着する目的で使用されるため、優れた通気性を有する多孔質構造が必要であり、流体受入口から流体排出口まで連続した気孔である連通孔を有することが必要である。これらの要件を備える材料としては、焼結金属やセラミック焼結体が採用され、焼結金属の例としては、厚さが 0.5 mm 以下、面積が 200 cm2 以上で、引張強度が 150 MPa 以上であるチタン焼結フィルタが知られ(特許文献1参照)、セラミック焼結体の例としては、高連通孔率(少なくとも 30%以上)、高強度(少なくとも 100 MPa 以上)および優れた通気性(フィルター前後の差圧の変化が小さい)を付与した窒化ケイ素セラミックス多孔体が知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの焼結体は連通孔率や連通孔径の制御が難しいためフィルタ特性(目詰まり性、ろ過速度)が悪く、かつ切削加工にて製品形状とするため高価である。また、焼結金属は、金属材料の種類によっては、腐食する環境では使用できない場合がある。上記問題を解決するために、高強度の金属やガラス、または強化樹脂の中空体にフィルタ特性の良好な樹脂多孔質体等のフィルタ材を充填する方法もあるが、加工費と組み立て費とが嵩み、より高価となり、また適用できる製品形状にも制限が加わるという問題がある。
【0003】
一方、樹脂多孔質体は様々な方法で製造されるが、代表的な製造方法としては以下の3つの方法がある。気孔を発泡により形成する「発泡法」、粉体を調整した加熱・加圧条件で成形して粉体間の間隙を意図的に形成して多孔質体とする「焼結法」、溶媒で抽出可能な気孔形成材粉末を樹脂に配合・成形し、成形後に抽出して多孔質体とする「抽出法」である。
「発泡法」は高連通孔率の樹脂多孔質体を作製できる方法であるが、主にゴムなどの柔軟な材料に適した方法であり、強度が高い剛直な樹脂では作製することが困難である。なお、連通孔率とは、樹脂多孔質体の全体積に占める連通孔の総体積の割合をいう。近年、超臨界流体を使用した樹脂多孔質体の成形方法が開発され、繊維強化した強度の高い熱可塑性樹脂でも多孔質化することができるようになったが、この方法では低気孔率の材料しか作製できず、また連続した気孔とはならないため、フィルタ材用途には適用することができない。
「焼結法」は溶融粘度の高いフッ素樹脂やポリイミド樹脂などに適しているが、高連通孔率は得られない。また、樹脂の結合が不十分であるため強度が低い。
これらに対し、「抽出法」は比較的容易に連通孔率が高い多孔質体を製造することができる。しかし、従来の一般的な抽出法で得られる樹脂多孔質体は、気孔形成材の抽出性を考慮して薄肉のものが多く、高連通孔率と柔軟性は確保されているものの、樹脂自体の強度が低いため樹脂多孔質体の強度も低く、フィルタ自体が構造部材となるような高強度が必要とされる場合には適用が困難である。
【特許文献1】特開2005−324153号公報
【特許文献2】特開2004−277234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、高強度と高連通孔率を有し、また金属が腐食するような環境でも使用可能であり、かつ安価な樹脂フィルタ材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂フィルタ材は、連通孔を有する樹脂多孔質体からなり、流体中の異物を吸着するための樹脂フィルタ材であって、上記樹脂多孔質体の連通孔は、少なくとも気孔形成材と強化材とが配合された樹脂を成形して成形体とした後、上記気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られることを特徴とする。
また、上記連通孔の総体積が、上記樹脂多孔質体の全体積の 30%以上の割合であることを特徴とする。なお、この樹脂多孔質体の全体積に占める連通孔の総体積の割合が連通孔率である。
【0006】
上記樹脂多孔質体の表面に、強化材を配合した樹脂被膜を被覆したことを特徴とする。また、上記フィルタ材は、曲げ強度が 100 MPa 以上であることを特徴とする。
また、上記連通孔を形成する気孔の大きさが 0.001μm〜1000μm であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂フィルタ材は、気孔形成材と強化材とを配合した樹脂を成形体とし、気孔形成材を溶解し、かつ樹脂を溶解しない溶媒にて気孔形成材を抽出して得られる樹脂多孔質体をフィルタ材とすることで、高強度、高連通孔率であり、耐食性が高く、かつ連通孔径の制御が容易なフィルタ材を得ることができる。また、樹脂多孔質体表面に強化材を配合した樹脂被膜を被覆することにより、さらに高強度のフィルタ材とすることができる。
また、射出成形可能な樹脂材料を使用することにより、射出成形が可能となり、安価にかつ任意の形状に製造することができる。
【0008】
本発明の樹脂フィルタ材に用いる樹脂多孔質体は、樹脂多孔質体に占める連通孔の体積の割合が 30%以上であるので、高連通孔率でフィルタ特性に優れる。また、樹脂フィルタ材は曲げ強度 100 MPa 以上の高強度であるので、バックメタルなどの補強材を要することなく、機械部品として使用することができる。
また、樹脂多孔質体の連通孔を形成する気孔の大きさ(連通孔径)が 0.001μm〜1000μm であるので、連通孔径が小さすぎることによる気孔形成材の抽出不足や、フィルタ特性の低下が起きにくく、逆に連通孔径が大きすぎることによる破損のし易さも回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
フィルタ材自体が構造部材としての機能を有するフィルタ材には、高い機械的強度を有することや、目詰まり性、ろ過速度等のフィルタ特性が良好であることが要求される。フィルタ材は気体または液体の流体を通過させながら流体中の異物を吸着する目的で使用されるため、優れた通気性を有する多孔質構造が必要であり、流体入口から流体出口まで連続した気孔である連通孔を有することが必要である。
本発明の樹脂フィルタ材は、これらの要件を備える樹脂材料として、少なくとも気孔形成材と強化材とが配合された樹脂を成形して成形体とした後、気孔形成材を溶解し、かつ樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有する樹脂多孔質体を用いる。該方法において、樹脂材料、強化材および気孔形成材を適宜選択することで、連通孔の総体積が樹脂多孔質体の全体積の 30%以上の割合であり、かつ、曲げ強度が 100 MPa 以上である樹脂多孔質体とすることができる。
【0010】
本発明において樹脂多孔質体に用いる樹脂としては、樹脂多孔質体の曲げ強度を 100 MPa 以上にできる樹脂であればよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはゴムなどの樹脂粉末やペレットを使用できる。樹脂粉末、ペレットの粒径や形状は、溶融成形する場合には、溶融時に気孔形成材と混練されるので、特に限定されるものではない。ドライブレンドしてそのまま圧縮成形する場合には 1μm〜500μm のものが好ましい。
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、水架橋ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリケトン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリオキサゾリン樹脂、ポリフェニレンサルフィド(以下、PPSと記す)樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド9T樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などを例示できる。また、上記合成樹脂から選ばれた2種以上の材料の混合物、すなわちポリマーアロイなどを例示できる。
【0011】
上記樹脂の中で、引張り強さが 49 MPa 以上、曲げ弾性率が 1.9 GPa 以上、を有するエンジニアリング樹脂、特殊エンジニアリング樹脂またはスーパーエンジニアリング樹脂、および機械的性質が特に優れているため工業用途に使用できる樹脂が好ましい。
本発明に使用できる好ましい樹脂の具体例としては、PEEK樹脂、PPS樹脂、ポリアミドイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリアミド9T樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、超高分子量ポリエチレンが挙げられる。
【0012】
エラストマーまたはゴムとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の加硫ゴム類;ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、軟質ナイロン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー類が例示できる。
【0013】
本発明に用いる強化材としては、炭素繊維やガラス繊維などの短繊維を用いることが好ましい。強化材は樹脂の機械的強度を向上させるために用いられ、樹脂多孔質体全体に占める強化材の配合割合は後述の樹脂多孔質体の段階で曲げ強度が 100 MPa 以上となるように配合すればよい。
樹脂多孔質体の曲げ強度が 100 MPa 未満であると曲げ強度不足による破損が起こりやすくなり、構造部材としても機能する必要のあるフィルタ等の機械的強度を要する用途では使用できない。
【0014】
本発明において気孔形成材は、成形時における気孔形成材の融解を防止するため、樹脂の成形温度よりも高い融点の物質を使用するが、これに限定されるものではなく、樹脂の成形温度よりも高い融点の物質と、樹脂の成形温度よりも低い融点の物質とを併用することもできる。また、気孔形成材としては、樹脂に配合されて成形体とされた後、その樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から溶解されて抽出できる物質であれば使用できる。
気孔形成材は、無機塩化合物、有機塩化合物、またはこれらの混合物であることが好ましく、特に洗浄抽出工程が容易となる水溶性物質であることが好ましい。また、アルカリ性物質、好ましくは防錆剤として利用できる弱アルカリ塩を使用できる。弱アルカリ塩としては、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、無機アルカリ金属塩、無機アルカリ土類金属塩などが挙げられる。なお、これらの金属塩は 1 種または 2 種以上混合して用いてもよい。また、洗浄用溶媒として安価な水を使用することができ、連通孔形成時における廃液処理などが容易となることから水溶性の弱アルカリ塩を使用することが好ましい。
【0015】
本発明に好適に用いることができる水溶性有機アルカリ金属塩としては、安息香酸ナトリウム(融点 430℃)、酢酸ナトリウム(融点 320℃)、セバシン酸ナトリウム(融点 340℃)、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。融点が高く、多種の樹脂に対応でき、かつ水溶性が高く、微細連通孔を形成できるという理由から、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはセバシン酸ナトリウムが特に好ましい。
無機アルカリ金属塩としては、例えば、硫酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中で、融点が高く、多種の樹脂に対応でき、かつ水溶性が高く、微細連通孔を形成できるという理由から、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、珪酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
気孔形成材の配合割合は、樹脂多孔質体の段階で連通孔率が 30%以上となり、かつ曲げ強度が 100 MPa 以上となる割合で配合する。具体的には、樹脂粉末、気孔形成材、および強化材などの他の材料を含めた全量に占める気孔形成材の配合割合は、30 体積%〜70 体積%、好ましくは 35 体積%〜60 体積%である。30 体積%未満の場合には材料の構造上連通孔とはなりにくく十分なフィルタ特性を発揮しない。また、70 体積%をこえる場合には強度不足となる可能性が高い。
【0017】
樹脂材料と気孔形成材の混合法は特に限定されるものではなくドライブレンド、溶融混練など樹脂の混合に一般に使用する混練法が適用できる。
また、気孔形成材を液体溶媒中に溶解させて透明溶液とした後、この溶液に樹脂粉末を分散混合させて、その後、この溶媒を除去する方法を用いることができる。気孔形成材を樹脂粉末に分散混合させた状態で成形体を得ることで、気孔形成材抽出後の樹脂多孔質体において、連通孔が均一に分布し、かつ、元の気孔形成材の粒子径より小さい連通孔径を形成することができる。
分散混合させる方法としては、液中混合できる方法であれば特に限定されるものではなく、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、ジューサーミキサーなどが例示できる。また、分散液の分離を抑えるために少量の界面活性剤を添加することも有効である。なお、混合時においては、混合により気孔形成材が完全に溶解するよう溶媒量を確保する。
また、分散混合後の溶媒を除去する方法としては、加熱蒸発、真空蒸発、窒素ガスによるバブリング、透析、凍結乾燥などの方法を用いることができる。手法が容易で、設備が安価であることから加熱蒸発により液体溶媒の除去を行なうことが好ましい。
樹脂に気孔成形材を配合した混合物の成形に関しては、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、真空成形、トランスファ成形などの任意の成形方法を採用できる。また成形前に作業性を向上させるため、ペレットやプリプレグなどに加工してもよい。
【0018】
得られた成形体からの気孔形成材の抽出は、上記気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒で成形体を洗浄することにより行なう。
該溶媒としては、例えば、水、および水と相溶しうる溶媒としてアルコール系、エステル系、ケトン系溶媒などを用いることができる。これらの中で、樹脂および気孔形成材の種類によって上記条件に従い適宜選択される。また、これらの溶媒は1種または2種以上を混合し使用してもよい。廃液処理などが容易、安価などの利点から水を用いることが好ましい。
該抽出処理を行なうことにより、気孔形成材が充填されていた部分が溶解され、該溶解部分に連通孔が形成された樹脂多孔質体が得られる。
【0019】
本発明においてフィルタ特性の制御は、樹脂多孔質体の連通孔を形成する気孔形成材の大きさ・形状と配合量で容易に行なうことができる。樹脂多孔質体の連通孔径は 0.001μm〜1000μm になるように制御することが好ましい。連通孔径は、基本的には気孔形成材自体の平均粒子径を管理することで調整し、微小な連通孔径が必要である場合には、上述のように分散混合により微小化を図ることができる。連通孔径が 0.001μm 未満であると気孔形成材の抽出不足が生じ、フィルタ特性の悪化が起こりやすくなる。1000μm をこえると連通孔径が大きくなりすぎることから機械的強度が低下し破損が起こりやすくなる。
【0020】
本発明の樹脂フィルタ材を用いて、直径や肉厚が数 mm 程度と小さく、特に強度が必要であるフィルタを作製する場合には、所定の寸法より若干小さく成形し、成形体表面に強化材を配合した高強度な樹脂塗料を被覆し、フィルタリングする液体や気体を接触させる面を切削加工にて除去し、気孔形成材を抽出して多孔質化する方法が好ましい。このような方法で得られたフィルタ材は、表面の被膜により補強され構造部材にも適用できる高強度を示し、内部の多孔質体が高連通孔率であるため良好なフィルタ特性を発揮する。
【0021】
本発明において表面被膜を形成するための樹脂塗料組成物を得る方法として以下の方法が挙げられる。
(1)ポリイミド(以下、PIと記す)系樹脂を樹脂溶媒に溶解してなる樹脂ワニスに強化材を配合して、均一に撹拌する方法。
(2)PI系樹脂粉末および強化材を樹脂溶媒に配合して、均一に撹拌する方法。なお、この場合、樹脂溶媒を用いないで粉体樹脂塗料とすることもできる。
【0022】
本発明において樹脂塗料組成物を樹脂多孔質体の外周面に塗布する方法は、ディッピング法、ローラ塗布法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、印刷塗布法など種々の方法を採用することができる。
本発明において樹脂塗料組成物における強化材を含む固形分の濃度は、5 重量%〜50 重量%、好ましくは 5 重量%〜40 重量%、より好ましくは 5 重量%〜30 重量%である。固形分濃度が 5 重量%未満であると、過剰な樹脂溶媒分の処理工程が増えるため工程上不利となる。固形分濃度が 50 重量%をこえると、固形分量が多すぎることとなり、スプレーガン等の霧化手段においてノズルの液づまりの原因となりやすくなる。
【0023】
本発明において樹脂塗料組成物を塗布された樹脂多孔質体から樹脂溶媒を除去する方法としては、加熱蒸発、真空蒸発、窒素ガスによるバブリング、透析、凍結乾燥などの方法を用いることができる。手法が容易で、設備が安価であることから加熱蒸発を行なう乾燥による樹脂溶媒の除去を行なうことが好ましい。乾燥温度は、5℃〜100℃の範囲で 10 分〜120 分保持させることが好ましい。これにより、焼成後被膜となる塗膜の発泡などを抑えることができる。
【0024】
乾燥された塗膜は次に、焼成される。焼成温度は、樹脂の種類とフィルタ材寸法に応じて設定する必要があるが、概ね 150℃〜450℃が適当である。また、焼成は、たとえば 80℃〜130℃〜180℃というように数段階に分け、30 分〜240 分の範囲内で 30 分〜120 分ごとに徐々に昇温させることが好ましい。これにより、結着性樹脂などの硬化反応が徐々に確実に進行し、均一な密着強度を有する被膜を形成することができる。また、被膜にちぢみ、しわ、わき、われ等の発生を防ぐこともできる。焼成時の最高温度の保持時間は、15分〜60 分、好ましくは 30分〜45 分の範囲であればよい。最高温度の保持時間が 15 分未満では結着性樹脂などの硬化反応が不十分で、60 分をこえると樹脂多孔質体への熱的影響が心配され、また電気炉の消費電力量も多くなる。さらに製造工程の時間も長くなり、コストが高くなり好ましくない。
【0025】
焼成工程後の冷却は、焼成工程時と逆の段階を経て冷却してもよく、また 60分〜180 分程度の時間をかけて連続的に徐冷してもよい。このように徐冷することにより被膜と樹脂多孔質体とが互いに均一に精度よく収縮し、精度の高いフィルタを得ることができる。合計の焼成時間としては約 2 時間〜10 時間に調整すればよい。
【0026】
本発明の樹脂フィルタ材について図1および図2に基づいて説明する。図1は樹脂フィルタ材の一例を示す図である。図1に示すように樹脂フィルタ材1は、実線矢印で示した流体の流入方向に対し垂直である側面を補強材6に覆われた樹脂多孔質体2からなり、接続治具3aおよび3bに接続され、流体入口2aより流体を受け入れ、流体出口2bより流体を排出する。このとき図1中の拡大図に示すように樹脂多孔質体2は流体中の異物4を連通孔2c内に吸着することにより、フィルタ材の機能を発現する。ここで、本発明の樹脂フィルタ材はそれ自体が高強度であるため、補強材6は樹脂多孔質体側面より流体が流出することを防止できるものであればよく、特に高い機械的強度は必要とされない。
図2は樹脂フィルタ材の他の例を示す図である。図2に示すように樹脂フィルタ材1は、樹脂多孔質体2表面に強化材を配合した樹脂被膜5が被覆され、その機械的強度を向上させている。樹脂多孔質体2は所定の寸法から樹脂被膜5の厚み分だけ小さく成形されている。樹脂被膜5は切削加工にて流体入口2a断面および流体出口2b断面から除去されているので、樹脂多孔質体2を得るための気孔形成材の抽出や、樹脂フィルタ材1をくぐる流体の通過を円滑に実施することができる。また、樹脂被膜5の被覆によって補強材等の使用が不要となる。
【実施例】
【0027】
以下に示す原料を使用して実施例1、実施例2および比較例1のダンベル試験片を得た。
<使用原料>
PEEK樹脂粉末:ビクトレックス社製150P
三リン酸ナトリウム粉末:太平化学産業社製トリポリリン酸ナトリウム、平均粒子径 30μm
炭素繊維:東邦テナックス社製HTA-C6-S
混合塗料:樹脂塗料Aと炭素繊維Bとの混合塗料(樹脂分と炭素繊維の体積比1:1)
A:ポリアミドイミド樹脂塗料(日立化成工業社製PAI−4250)
B:炭素繊維(東邦テナックス社製HTA-CMF−0160)
【0028】
実施例1
PEEK樹脂粉末と炭素繊維と三リン酸ナトリウム粉末とを体積比 50 : 10 : 40 の割合で強制サイドフィーダ付き二軸押出機にて混錬し、ペレタイザーでペレット化し、射出成形にて 4 mm×1 mm×40 mm の試験片形状とし、80℃の温水に 50 時間浸漬して三リン酸ナトリウムを抽出し、200℃の恒温槽で 3 時間乾燥して樹脂多孔質体の試験片を得た。得られた試験片の連通孔率および曲げ強度を測定した。曲げ強度は以下に示す3点曲げ試験にて測定した。結果を表1に示す。
<3点曲げ試験>
JIS K 7171曲げ試験(3点曲げ)に準拠して曲げ強度を測定した。
試験片:4 mm×1 mm×40 mm
標線間距離:25 mm
【0029】
実施例2
PEEK樹脂粉末と炭素繊維と三リン酸ナトリウム粉末とを体積比 50 : 10 : 40 の割合で強制サイドフィーダ付き二軸押出機にて混錬し、ペレタイザーでペレット化し、射出成形にて 4 mm×0.6 mm×40 mm の試験片形状とし、厚み面( 0.6 mm )の表裏両面に混合塗料を刷毛塗り塗装し、180℃×3 時間で焼成して片面の厚み 0.2 mm の被膜を表裏両面に形成した(試験片厚み 1 mm )。その後、80℃の温水に 50 時間浸漬して三リン酸ナトリウムを抽出し、200℃の恒温槽で 3 時間乾燥して樹脂多孔質体の試験片を得た。得られた試験片の連通孔率および曲げ強度を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例1
PEEK樹脂粉末と三リン酸ナトリウム粉末とを体積比 60 : 40 の割合で強制サイドフィーダ付き二軸押出機にて混錬し、ペレタイザーでペレット化し、射出成形にて 4 mm×1 mm×40 mm の試験片形状とし、80℃の温水に 50 時間浸漬して三リン酸ナトリウムを抽出し、200℃の恒温槽で 3 時間乾燥して樹脂多孔質体の試験片を得た。得られた試験片の連通孔率および曲げ強度を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0031】
なお、実施例1、実施例2および比較例1において、連通孔率は、樹脂成形体において相互に連続している気孔の総体積が樹脂成形体の全体積中に占める割合であり、具体的には、数1内の式(1)に示す方法で算出した。
【数1】

上記、数1において、各符号の意味を以下に示す。
V;射出成形法にて成形された洗浄前成形体の体積
ρ;射出成形法にて成形された洗浄前成形体の密度
W;射出成形法にて成形された洗浄前成形体の重量
1;樹脂粉末の体積
ρ1;樹脂粉末の密度
1;樹脂粉末の重量
2;気孔形成材の体積
ρ2;気孔形成材の密度
2;気孔形成材の重量
3;洗浄後の樹脂多孔質体の体積
3;洗浄後の樹脂多孔質体の重量
V'2;洗浄後に樹脂多孔質体に残存する気孔形成材の体積
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように本発明の樹脂フィルタ材を構成する樹脂多孔質体を用いた実施例では、連通孔率 30%以上の高連通孔率、かつ、曲げ強度 100 MPa 以上の高強度が得られたが、比較例1では連通孔率は 30%を上回るものの、強化材である炭素繊維を配合していないため、曲げ強度は 40 MPa と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の樹脂フィルタ材は曲げ強度に優れ、高連通孔率を有し、金属が腐食するような環境でも使用可能であり、かつ安価であるので、機械的強度が必要とされ、腐食環境で使用されるフィルタ用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】樹脂フィルタ材の一例を示す図である。
【図2】樹脂フィルタ材の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 樹脂フィルタ材
2 樹脂多孔質体
2a 流体入口
2b 流体出口
2c 連通孔
3a 接続治具
3b 接続治具
4 異物
5 樹脂被膜
6 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通孔を有する樹脂多孔質体からなり、流体中の異物を吸着するための樹脂フィルタ材であって、
前記樹脂多孔質体の連通孔は、少なくとも気孔形成材と強化材とが配合された樹脂を成形して成形体とした後、前記気孔形成材を溶解し、かつ前記樹脂を溶解しない溶媒を用いて前記成形体から前記気孔形成材を抽出して得られることを特徴とする樹脂フィルタ材。
【請求項2】
前記連通孔の総体積が、前記樹脂多孔質体の全体積の 30%以上の割合であることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルタ材。
【請求項3】
前記樹脂多孔質体の表面に、強化材を配合した樹脂被膜を被覆したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂フィルタ材。
【請求項4】
前記フィルタ材は、曲げ強度が 100 MPa 以上であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の樹脂フィルタ材。
【請求項5】
前記連通孔を形成する気孔の大きさが 0.001μm〜1000μm であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の樹脂フィルタ材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−222834(P2007−222834A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49522(P2006−49522)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】