説明

樹脂成形リアクトル

【課題】小型化と直流重畳特性の悪化の抑制との両立を、製造の容易さを損なうことなく実現する
【解決手段】樹脂成形リアクトル1は、コア4よりも透磁率が低い材料で構成され、巻線2への通電で巻線2の周囲に生じる磁束により形成された閉磁路のうちの一部が内部を通過するようにケース3内に配置される樹脂ギャップ部材5を備え、樹脂ギャップ部材5は、巻線2と樹脂ギャップ部材5との間の距離が大きくなるほど、閉磁路が樹脂ギャップ部材5の内部を通過する距離が短くなるように形成されている。そして、巻線2と樹脂ギャップ部材5と、巻線2を被覆する樹脂絶縁部材は、あらかじめ一体的に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粉末が充填された樹脂に巻線を埋め込んで成形することにより製造される樹脂成形リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形リアクトルは、磁性体粉末が混入された樹脂に、樹脂絶縁部材で被覆された巻線を埋め込んで成形することにより製造される(例えば、特許文献1を参照)。なお、磁性体粉末が混入された樹脂は、リアクトルの磁心としての機能を有するとともに、樹脂絶縁部材は、巻線と、リアクトルの磁心となる樹脂とを電気的に絶縁する機能を有する。
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載の樹脂成形リアクトルでは、その電気的特性を考慮した場合に、以下の問題がある。図13は、従来の樹脂成形リアクトルの構造を示す断面図である。
【0004】
図13に示すように、従来の樹脂成形リアクトル101では、巻線102の周囲に形成された磁路の内周側の周長La(以下、内周側周長Laという)が、磁路の外周側の周長Lb(以下、外周側周長Lbという)よりも短くなる。すなわち、磁路に誘導される磁界が磁路の内周側で強くなるとともに外周側で弱くなるという磁界の不均一が生じる。このため、巻線102に流れる電流値を徐々に大きくしていくと、磁路の内周側の磁心のほうが外周側の磁心よりも早く磁束密度が飽和してしまうため、直流重畳特性が悪化し易い。
【0005】
ここで、巻線102に印加する起磁力Fと、内周側周長Laの経路上で発生する磁界の平均値Ha(以下、内周側磁界平均値Haという)または外周側周長Lbの経路上で発生する磁界の平均値Hb(以下、外周側磁界平均値Hbという)との間には、アンペールの法則に基づき、下式(1)で表される関係が成り立つ。このため、内周側磁界平均値Haと外周側磁界平均値Hbとの間には、下式(2)で表される関係が成り立つ。
【0006】
【数1】

【0007】
したがって、外周側周長Lbと内周側周長Laとの比が大きいほど、内周側磁界平均値Haと外周側磁界平均値Hbとの比が大きくなり、直流重畳特性の悪化が顕著となる。なお、樹脂成形リアクトル101の構造的要因を考慮すると、外周側周長Lbの磁路と巻線102との間の横方向距離Wmが大きくなるほど、或いは巻線102の横方向寸法Wc1または縦方向寸法Wc2が小さくなるほど、周長比(Lb/La)が大きくなり、直流重畳特性の悪化が顕著に現れる。
【0008】
このため、従来の樹脂成形リアクトル101のようなリアクトル構造において、使用する材料を変えることなくリアクトル体格の小型化を目指すこと、すなわち、巻線102を小型化することによって、限られた体格の中にリアクトルを構成することが困難となる。
【0009】
一方、リアクトル体格の小型化のためには、巻線102の体格ではなく磁心の体格を小型化することも考えられる。しかし、直流重畳特性を維持するため、以下の理由により、磁心の体格を小型化することはできない。
【0010】
リアクトルに蓄積されるエネルギーは、磁心の中に磁気エネルギーの形で保たれる。すなわち、リアクトル101のエネルギーEは、磁心の体格Vと、磁心の単位体積当りの磁気エネルギーDとを用いて、下式(3)で表される。
【0011】
【数2】

【0012】
ここで、単位体積当りの磁気エネルギーDは、磁性材料によって決定される上限値Dmを有し、磁気エネルギーDが上限値Dmを超えると磁心の磁気特性が失われることが知られている。このときのリアクトル101のエネルギーが、リアクトル101に蓄えることのできるエネルギーの上限値Em(以下、リアクトルエネルギー上限値Emという)であり、このときの巻線電流値Im(以下、エネルギー上限電流値Imという)とリアクトル101のインダクタンスLとを用いて、下式(4)で表される。このため、エネルギー上限電流値Imは、下式(5)で表される。
【0013】
【数3】

【0014】
したがって、エネルギー上限電流値Imを超える電流を巻線102に流しても、リアクトル101は、リアクトルエネルギー上限値Emを超えてエネルギーを蓄えることができず、リアクトルの電気的特性を維持することができなくなる。すなわち、エネルギー上限電流値Imは、リアクトルに通電できる限界の電流値であり、直流重畳特性を特徴付けるパラメータである。なお、リアクトル101の材料とインダクタンスの仕様を変更しない場合には、上式(5)に基づいて、下式(6)で表される関係が成り立つ。
【0015】
【数4】

【0016】
上式(6)は、直流重畳特性が磁心体格Vのみによって特徴付けられることを表している。したがって、直流重畳特性を維持するためには、磁心体格Vを低減することができない。
【0017】
このような問題に対して、磁路の外周側よりも内周側の方で幅が大きくなるように形成されたスリット状ギャップを磁心に設けることにより、磁心を通過する磁束密度の不均一を緩和し、小型化による直流重畳特性の悪化を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−19402号公報
【特許文献2】特開平8−115825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、磁性粉末が混入された樹脂内に巻線を埋め込むことで製造される樹脂成形リアクトルにおいて上記ギャップを設けるためには、巻線を樹脂内に埋め込んだ後に上記ギャップを樹脂に形成するという製造工程が追加されることになり、樹脂成形リアクトルの利点である製造の容易さが損なわれるという問題があった。
【0020】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、小型化と直流重畳特性の悪化の抑制との両立を、製造の容易さを損なうことなく実現できる樹脂成形リアクトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の樹脂成形リアクトルは、導線を巻回して形成され、電気絶縁性を有する樹脂を材料として構成された樹脂絶縁部材により露出面が被覆された巻線と、巻線を収納するケースと、磁性粉末と樹脂との混合物であり、ケース内に収納された巻線を覆うようにケース内に充填されるコアとを有する。
【0022】
すなわち、ケースに巻線を収納した後に、磁性粉末と樹脂との混合物であるコアをケース内に注入し、注入したコアを硬化させることにより、樹脂成形リアクトルが製造される。
【0023】
そして、コアよりも透磁率が低い材料で構成され、巻線への通電で巻線の周囲に生じる磁束により形成された閉磁路のうちの一部ないし全部が内部を通過するようにケース内に配置される樹脂ギャップ部材を備え、樹脂ギャップ部材は、巻線と樹脂ギャップ部材との間の距離が大きくなるほど、閉磁路が樹脂ギャップ部材の内部を通過する距離が短くなるように形成されている。これにより、閉磁路において、内周側のほうが外周側よりも低透磁率領域を通過する割合が多くなるため、巻線の周囲に生じる閉磁路において、その内周側と外周側との間における磁心を通過する磁束密度の不均一を緩和することができる。
【0024】
そして、樹脂ギャップ部材と樹脂絶縁部材とは、あらかじめ構造的に一体となって巻線上に固定されるように形成される。このため、一体となっている巻線と樹脂ギャップ部材とをケース内に収納した後に、磁性粉末と樹脂との混合物であるコアをケース内に注入し、注入したコアを硬化させることにより、樹脂成形リアクトルを製造することができる。すなわち、ケース内に注入したコアを硬化させた後にギャップを形成するという製造工程を省略することができる。これにより、樹脂成形リアクトルの利点である製造の容易さを損なうことなく、小型化と直流重畳特性の悪化の抑制との両立を実現できる。
【0025】
また、請求項1に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、巻線の巻回方向に直交する巻線断面が多角形状に形成されている場合には、巻線の周囲で多角形状となる閉磁路の角部で磁束が集中して、特に角部の内周側で磁束密度が高くなり飽和し易くなるため、請求項2に記載のように、樹脂ギャップ部材が、多角形状の角部において、樹脂絶縁部材と連結されるようにするとよい。これにより、磁束密度が飽和し易い閉磁路の角部における磁束密度の不均一を緩和することができ、小型化による直流重畳特性の悪化を抑制することができる。
【0026】
また、請求項1または請求項2に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項3に記載のように、樹脂ギャップ部材が、磁性粉末が混入された樹脂を材料としてあらかじめ巻線上に一体的な構造として固定されるように形成されるようにしてもよい。
【0027】
このように構成された樹脂成形リアクトルでは、樹脂ギャップ部材が若干の磁性を有するために、樹脂ギャップ部材から巻線に漏洩する磁束が少なくなり、巻線に渦電流が誘導されることによる渦電流損が低減されるため、本発明の樹脂成形リアクトルの電気的特性を向上させることができる。
【0028】
また、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項4に記載のように、樹脂ギャップ部材および樹脂絶縁部材と、ケースの一部または全部とがあらかじめ巻線上に一体的な構造として固定されるように形成されるようにしてもよい。
【0029】
このように構成された樹脂成形リアクトルによれば、その製造工程において、樹脂ギャップ部材が固定された巻線と、ケースの一部または全部とを別々ではなく一体として持ち運ぶことができ、樹脂成形リアクトルの製造工程を簡略化することができる。
【0030】
また、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項5に記載のように、複数の巻線が、1つのケース内に収納されるようにしてもよい。
このように構成された樹脂成形リアクトルによれば、複数の巻線を1つのケース内に収納した後に、磁性粉末と樹脂との混合物であるコアをケース内に注入し、注入したコアを硬化させることにより、巻線の個数に応じた複数の樹脂成形リアクトルが製造される。つまり、複数の巻線のそれぞれについて別々に、ケース内にコアを注入する工程(以下、コア注入工程という)を行うことなく、1回のコア注入工程で複数の樹脂成形リアクトルを製造することができる。このため、複数の樹脂成形リアクトルを製造する場合の製造工程を簡略化することができる。
【0031】
また、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項6に記載のように、ケースは、ケース内に収納されている巻線の一部を、ケースの外側に突出させるための貫通孔が形成されているようにしてもよい。
【0032】
このように構成された樹脂成形リアクトルによれば、ケース内に収納されている巻線の一部を、ケースの外側に突出させることができる。このため、この突出部分を、ヒートシンクに接触させることによって、巻線の銅損による発熱を上記突出部分から放出して巻線を冷却することができ、樹脂成形リアクトルの放熱効率を向上させることができる。
【0033】
また、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項7に記載のように、ケース内に収納されている巻線の少なくとも一部分は、その表面を被覆している樹脂絶縁部材を介して、ケースの内面に接触しているようにしてもよい。
【0034】
このように構成された樹脂成形リアクトルによれば、巻線の銅損による発熱を巻線とケースの内面との接触部分から放出して巻線を冷却することができる。つまり、巻線を冷却するヒートシンクとしてケースを利用することにより、樹脂成形リアクトルの放熱効率を向上させることができる。
【0035】
また、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトルにおいて、請求項8に記載のように、ケース内に収納されている巻線の内周側に形成された中空孔をその一端側開口部から他端側開口部に貫通して巻線を仕切るとともに、一部がケースの内面に接触する仕切部材を備えるようにしてもよい。
【0036】
このように構成された樹脂成形リアクトルでは、巻線の中空孔内に充填されているコアと仕切部材とが接触し、さらに仕切部材がケースの内面に接触しているため、巻線の中空孔内に充填されているコアの熱をケースから放出してコアを冷却することができる。つまり、巻線の中空孔内に充填されているコアを冷却するヒートシンクとしてケースを利用することにより、樹脂成形リアクトルの放熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】樹脂成形リアクトル1の斜視図および断面図である。
【図2】巻線2および樹脂ギャップ部材5の斜視図である。
【図3】巻線2と樹脂ギャップ部材5の収納方法を説明する斜視図である。
【図4】樹脂成形リアクトル1の平面図および断面図である。
【図5】樹脂成形リアクトル11の斜視図、及び巻線2と樹脂ギャップ部材5の収納方法を説明する斜視図である。
【図6】樹脂成形リアクトル21の断面図である。
【図7】巻線2と樹脂ギャップ部材5とケース蓋部26の斜視図である。
【図8】樹脂成形リアクトル31の断面図、及び巻線2、ケース33、および樹脂ギャップ部材5の斜視図である。
【図9】樹脂成形リアクトル41の断面図、及び巻線42と樹脂ギャップ部材45の収納方法を説明する斜視図である。
【図10】樹脂成形リアクトル51の断面図および平面図である。
【図11】別の実施形態の樹脂成形リアクトルの斜視図である。
【図12】別の実施形態の樹脂成形リアクトルの断面図である。
【図13】従来の樹脂成形リアクトル101の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第1実施形態)
以下に本発明の第1実施形態を図面とともに説明する。
図1(a)は、本実施形態の樹脂成形リアクトル1の斜視図である。図1(b)は、図1(a)のA−A断面部を示す図である。図2(a)は、巻線2の斜視図である。図2(b)は、巻線2および樹脂ギャップ部材5の斜視図である。
【0039】
樹脂成形リアクトル1は、図1(a)に示すように、巻線2、ケース3、コア4、および樹脂ギャップ部材5を備えている。
これらのうち巻線2は、図2(a)に示すように、平角線を略矩形状に周回するように巻回して形成されている。なお、巻線2の両端部2a,2bは、矩形を構成する4辺のうちの1辺からこの1辺に対して垂直方向に突出するように配置されている。さらに、巻線2を構成する平角線の表面は、樹脂絶縁部材により被覆されている。これにより、巻線2は、その周囲と電気的に絶縁される。
【0040】
またケース3は、図1(a)に示すように、例えばアルミニウムを材料として、直方体の箱形状に形成されており、その内部に巻線2を収納可能に構成されている。なおケース3は、直方体を構成する6面のうちの1面に、巻線2を挿入するための開口部3aが形成されており、この開口部3aを介して巻線2がケース3の内部に収納される。
【0041】
またコア4は、磁性粉末(例えば、カーボニル鉄粉)と樹脂(例えば、エポキシ系樹脂)との混合物であり、ケース3の内部に充填されて、樹脂成形リアクトル1の磁心として機能する。
【0042】
また樹脂ギャップ部材5は、図2(b)に示すように、コア4よりも透磁率が低い樹脂(本実施形態では、磁性粉末が混入された樹脂)を材料として、巻線2における略矩形状の長辺部分を覆うように形成されている。そして樹脂ギャップ部材5は、図1(b)に示すように、巻線2の周囲に形成される略矩形状の磁路MP1,MP2の角部に配置される。なお、樹脂ギャップ部材5は、巻線2からの距離Lsが大きくなるほど、樹脂ギャップ部材5内を磁路MP1,MP2が通過する距離が短くなるように形成されている。さらに、樹脂ギャップ部材5は、例えば射出成形法などの成形加工法を用いて、あらかじめ巻線2上に一体的な構造として固定されるように形成される。なお、ギャップ部材5は、あらかじめ樹脂成形された部品を、巻線2を挟み込むように嵌合(もしくは接着)したり、巻線2上に樹脂絶縁部材を射出成形法で成形し、ギャップ部材5を融着で樹脂絶縁部材上に接合したりすることで、巻線を含めた一体的な構造として形成されてもかまわない。
【0043】
次に、樹脂成形リアクトル1の製造手順を説明する。図3は、巻線2と樹脂ギャップ部材5をケース3内に収納する方法を説明する斜視図である。図4(a)は、樹脂成形リアクトル1の平面図である。図4(b)は、図1(a)のB−B断面部を示す図である。
【0044】
図3に示すように、巻線2の矩形を構成する4辺のうち、両端部2a,2bが配置されている側の辺2cと対向する辺2dをケース3の開口部3aに向けて、樹脂ギャップ部材5が一体的に形成されている巻線2を開口部3a内に挿入することにより、巻線2と樹脂ギャップ部材5をケース3内に収納する。これにより、巻線2の両端部2a,2bは、図4(a)に示すように、開口部3aから突出するように配置される。
【0045】
なお、ケース3は、図4(b)に示すように、直方体を構成する6面のうち開口部3aと対向する面3bにおいて、巻線2の辺2d近傍の端縁部のみをケース3内部から引き出すための貫通孔3cが形成されている。このため、巻線2がケース3内に収納されている状態で、貫通孔3cが下になり開口部3aが上になるようにケース3を配置すると、巻線2の辺2d近傍の端縁部が貫通孔3cから突出するとともに、樹脂ギャップ部材5における巻線2の辺2d側の端部とケース3の面3bの内側とが当接し(例えば、図4(b)における当接部TCを参照)、巻線2がケース3内で直立した状態となる。
【0046】
この状態で、磁性粉末が混入された樹脂(コア材)をケース3の開口部3aから注入し、注入した樹脂を硬化させる。これにより、図1(a)に示す樹脂成形リアクトル1が製造される。
【0047】
このように構成された樹脂成形リアクトル1は、コア4よりも透磁率が低い材料で構成され、巻線2への通電で巻線2の周囲に生じる磁束により形成された閉磁路のうちの一部もしくは全部が内部を通過するようにケース3内に配置される樹脂ギャップ部材5を備え、樹脂ギャップ部材5は、巻線2と樹脂ギャップ部材5との間の距離が大きくなるほど、閉磁路が樹脂ギャップ部材5の内部を通過する距離が短くなるように形成されている。これにより、閉磁路において、内周側のほうが外周側よりも低透磁率領域を通過する割合が多くなるため、巻線2の周囲に生じる閉磁路において、その内周側と外周側との間における磁心を通過する磁束密度の不均一を緩和することができる。
【0048】
そして、樹脂ギャップ部材5と樹脂絶縁部材とは、あらかじめ構造的に一体となって巻線上に固定されるように形成される。このため、一体となっている巻線2と樹脂ギャップ部材5とをケース3内に収納した後に、磁性粉末と樹脂との混合物であるコア4をケース3内に注入し、注入したコア4を硬化させることにより、樹脂成形リアクトル1を製造することができる。すなわち、ケース3内に注入したコア4を硬化させた後にギャップを形成するという製造工程を省略することができる。これにより、樹脂成形リアクトル1の利点である製造の容易さを損なうことなく、小型化と直流重畳特性の悪化の抑制との両立を実現できる。
【0049】
なお、巻線2の巻回方向に直交する巻線断面が多角形状に形成されているため、巻線2の周囲で多角形状となる閉磁路の角部で磁束が集中して、特に角部の内周側で磁束密度が高くなり飽和し易くなる。これに対し、樹脂成形リアクトル1では、樹脂ギャップ部材5が、多角形状の角部において、樹脂絶縁部材と連結されている。これにより、磁束密度が飽和し易い閉磁路の角部における磁束密度の不均一を緩和することができ、小型化による直流重畳特性の悪化を抑制することができる。
【0050】
また、ケース3は、ケース3内に収納されている巻線2の一部を、ケース3の外側に突出させるための貫通孔3cが形成されている。これにより、ケース3内に収納されている巻線2の一部を、ケース3の外側に突出させることができる。このため、この突出部分を、ヒートシンクに接触させることによって、巻線2の銅損による発熱を上記突出部分から放出して巻線2を冷却することができ、樹脂成形リアクトル1の放熱効率を向上させることができる。
【0051】
また、樹脂ギャップ部材5は、磁性粉末が混入された樹脂を材料として形成されている。これにより、樹脂ギャップ部材5が若干の磁性を有するために、樹脂ギャップ部材5から巻線2に漏洩する磁束が少なくなり、巻線2に渦電流が誘導されることによる渦電流損が低減されるため、樹脂成形リアクトル1の電気的特性を向上させることができる。
【0052】
(第2実施形態)
以下に本発明の第2実施形態を図面とともに説明する。
図5(a)は、本実施形態の樹脂成形リアクトル11の斜視図である。図5(b)は、巻線2と樹脂ギャップ部材5をケース13内に収納する方法を説明する斜視図である。
【0053】
樹脂成形リアクトル11は、図5(a)に示すように、巻線2、ケース13、コア4、および樹脂ギャップ部材5を備えている。
これらのうちケース13は、巻線2の矩形を構成する4辺のうちケース13内に収納される2辺の間を仕切る仕切部材13aが設けられている。
【0054】
また、ケース13は、図5(b)に示すように、仕切部材13a、下部ケース13b、および上部ケース13cを備えている。
下部ケース13bは、上面と前面が開口する箱形状に形成されており、その内部に仕切部材13aが設置されている。また下部ケース13bは、その背面の上辺部において、巻線2の辺2d近傍の端縁部のみをケース3内部から突出させるための凹部13dが形成されている。また上部ケース13cは、下部ケース13bの上面側の開口部を塞ぐことができる板状部材である。
【0055】
次に、樹脂成形リアクトル11の製造手順を説明する。
まず、樹脂ギャップ部材5が一体的に形成されている巻線2を、下部ケース13bの上面側の開口部から、下部ケース13bの下面上に載せるようにして、下部ケース13b内に収納する(図5(b)の矢印Y11を参照)。このとき、巻線2の辺2d近傍の端縁部が凹部13dから突出するようにして巻線2を下部ケース13b内に設置する。そして、下部ケース13bの上面側の開口部上に上部ケース13cを載せることにより(図5(b)の矢印Y12を参照)、上面側の開口部を塞ぐ。
【0056】
その後、巻線2がケース13内に収納されている状態で、下部ケース13bの背面が下になり前面が上になるようにケース13を配置し、さらに、磁性粉末が混入された樹脂(コア材)を下部ケース13bの前面側の開口部から注入し、注入した樹脂を硬化させる。これにより、図5(a)に示す樹脂成形リアクトル11が製造される。
【0057】
このように構成された樹脂成形リアクトル11は、ケース13内に収納されている巻線2の内周側に形成された中空孔をその一端側開口部から他端側開口部に貫通して巻線2を仕切るとともに、一部がケース3の内面に接触する仕切部材13aを備える。これにより、巻線2の中空孔内に充填されているコア4と仕切部材13aとが接触し、さらに仕切部材13aがケース13の内面に接触しているため、巻線2の中空孔内に充填されているコア4の熱をケース13から放出してコア4を冷却することができる。つまり、巻線2の中空孔内に充填されているコア4を冷却するヒートシンクとしてケース13を利用することにより、樹脂成形リアクトル11の放熱効率を向上させることができる。
【0058】
(第3実施形態)
以下に本発明の第3実施形態を図面とともに説明する。
図6は、本実施形態の樹脂成形リアクトル21の断面図である。図7(a)は、巻線2と樹脂ギャップ部材5とケース蓋部26を巻線2の両端部2a,2b側から見たときの斜視図である。図7(b)は、巻線2と樹脂ギャップ部材5とケース蓋部26を巻線2の辺2d近傍の端縁部側から見たときの斜視図である。
【0059】
樹脂成形リアクトル21は、図6に示すように、巻線2、ケース23、コア4、樹脂ギャップ部材5、およびケース蓋部26を備えている。
これらのうちケース23は、直方体を構成する6面のうちの1面に、巻線2を挿入するための開口部23aが形成されており、この開口部23aを介して巻線2がケース23の内部に収納される。さらに、開口部3aと対向する面に開口部23bが形成されている。
【0060】
またケース蓋部26は、図6,7に示すように、巻線2がケース23内に収納されている状態で開口部23bを塞ぐことができるように、例えば射出成形法などの成形加工法を用いて、樹脂ギャップ部材5と同じ材料によって、樹脂ギャップ部材5とあらかじめ合体した形状に形成される板状部材である。なお、ケース蓋部26には、巻線2の辺2d近傍の端縁部のみをケース23内部から突出させるための開口部26aが形成されている。
【0061】
このように構成された樹脂成形リアクトル21によれば、その製造工程において、樹脂ギャップ部材5が固定された巻線2と、ケース蓋部26とを別々ではなく一体として持ち運ぶことができ、樹脂成形リアクトル21の製造工程を簡略化することができる。
【0062】
(第4実施形態)
以下に本発明の第4実施形態を図面とともに説明する。
図8(a)は、本実施形態の樹脂成形リアクトル31の断面図である。図8(b)は、巻線2、ケース33、および樹脂ギャップ部材5の斜視図である。
【0063】
樹脂成形リアクトル31は、図8(a)に示すように、巻線2、ケース33、コア4、および樹脂ギャップ部材5を備えている。
これらのうちケース33は、直方体を構成する6面のうちの1面に、巻線2の両端部2a,2bをケース33内部から突出させるための開口部33aが形成されている。さらに、開口部33aと対向する面には、巻線2の辺2d近傍の端縁部のみをケース33内部から突出させるための開口部33bが形成されている。
【0064】
そしてケース33は、例えば射出成形法などの成形加工法を用いて、図8(a),(b)に示すように、樹脂ギャップ部材5と同じ材料によって、樹脂ギャップ部材5と同時にあらかじめ合体した形状に形成される。
【0065】
このように構成された樹脂成形リアクトル31によれば、その製造工程において、樹脂ギャップ部材5が固定された巻線2と、ケース33とを別々ではなく一体として持ち運ぶことができ、樹脂成形リアクトル31の製造工程を簡略化することができる。なお、樹脂で形成されているケース33は、発熱が少ないリアクトルで用いられる。
【0066】
(第5実施形態)
以下に本発明の第5実施形態を図面とともに説明する。
図9(a)は、本実施形態の樹脂成形リアクトル41の断面図である。図9(b)は、巻線42と樹脂ギャップ部材45をケース43内に収納する方法を説明する斜視図である。
【0067】
樹脂成形リアクトル41は、図9(a)に示すように、巻線42、ケース43、コア4、樹脂ギャップ部材45を備えている。
これらのうち巻線42は、平角線を略円状に周回するように巻回して円筒形状に形成されている。
【0068】
また樹脂ギャップ部材45は、巻線42における円筒部分の全体を覆うように形成されている。そして樹脂ギャップ部材45は、巻線42の周囲に形成される略矩形状の磁路MP41,MP42の角部に配置される。また、樹脂ギャップ部材45は、巻線42からの距離Lsが大きくなるほど、樹脂ギャップ部材45内を磁路MP41,MP42が通過する距離が短くなるように形成されている。さらに、樹脂ギャップ部材45は、例えば射出成形法などの成形加工法を用いて、あらかじめ巻線42上に一体的な構造として固定されるように形成される。
【0069】
そして、巻線42の両端部42a,42bは、図9(b)に示すように、樹脂ギャップ部材45を貫通して、樹脂ギャップ部材45の外部に引き出されている。また、巻線42を覆うように形成されている樹脂ギャップ部材45において、巻線42の円筒軸に沿って貫通する貫通孔45aが形成されている。
【0070】
またケース43は、有底円筒状に形成されており、その開口部43aを介して巻線42を内部に収納可能に構成されている。なお、ケース43の内部には、ケース43の円筒軸に沿って底面から突出する円筒状部材43bが設けられており、この円筒状部材43bは、貫通孔45aに挿入可能な大きさに形成されている。
【0071】
次に、樹脂成形リアクトル41の製造手順を説明する。
まず、貫通孔45aに円筒状部材43bを挿入することにより、樹脂ギャップ部材45が一体的に形成されている巻線42を、ケース43の開口部43aから、ケース43の底面上に載せるようにして、ケース43内に収納する(図9(b)の矢印Y41を参照)。
【0072】
その後、巻線42がケース43内に収納されている状態で、ケース43の円周面または底面に設けられた注入穴(不図示)から磁性粉末が混入された樹脂(コア材)を注入し、注入した樹脂を硬化させる。これにより、図9(a)に示す樹脂成形リアクトル41が製造される。
【0073】
このように構成された樹脂成形リアクトル41によれば、略円状に周回するように巻回して巻線42が円筒形状に形成されているため、矩形状に巻回した巻線と比較して、同等の体格で同じ巻数にするために必要な導線の長さを短くすることができる。このため、巻線を矩形状に巻回した場合よりも、巻線2の銅損による発熱を低減することができ、樹脂成形リアクトル41の電気的特性を向上させることができる。
【0074】
(第6実施形態)
以下に本発明の第6実施形態を図面とともに説明する。
図10(a)は、本実施形態の樹脂成形リアクトル51の断面図である。図10(b)は、樹脂成形リアクトル51の平面図である。
【0075】
樹脂成形リアクトル51は、図10(a)に示すように、巻線2、ケース53、コア4、および樹脂ギャップ部材55を備えている。
これらのうち樹脂ギャップ部材55は、コア4よりも透磁率が低い樹脂を材料として、巻線2における略矩形状の長辺部分と、両端部2a,2bが配置されている側の辺2cと対向する辺2dの部分とを覆うように形成されている。そして樹脂ギャップ部材55は、第1実施形態と同様にして、巻線2の周囲に形成される略矩形状の磁路MP1,MP2の角部に配置される。なお、樹脂ギャップ部材5は、巻線2からの距離Lsが大きくなるほど、樹脂ギャップ部材5内を磁路MP1,MP2が通過する距離が短くなるように形成されている(図1(b)を参照)。
【0076】
またケース53は、直方体の箱形状に形成されており、その内部に巻線2を収納可能に構成されている。なおケース53は、直方体を構成する6面のうちの1面に、巻線2を挿入するための開口部53aが形成されており、この開口部53aを介して巻線2がケース53の内部に収納される。
【0077】
さらにケース53は、直方体を構成する6面のうち開口部53aと対向する面53bの内側において、樹脂ギャップ部材55が一体的に形成されている巻線2の辺2d近傍の端縁部と接触して収容可能な凹部53cが設けられている。したがって、巻線2の辺2d近傍の端縁部は、第1実施形態と異なり、面53bからケース53の外側に向かって突出しておらず、図10(a),(b)に示すように、ケース53内に収納される。
【0078】
このように構成された樹脂成形リアクトル51によれば、巻線2の銅損による発熱を巻線とケース53の内面との接触部分から放出して巻線2を冷却することができる。つまり、巻線2を冷却するヒートシンクとしてケース53を利用することにより、樹脂成形リアクトル51の放熱効率を向上させることができる。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記実施形態では、1つのケースの中に1つの巻線が収納される樹脂成形リアクトルを示した。しかし、図11に示すように、1つのケース63の中に、複数(図11では2つ)の巻線2が収納されるようにしてもよい。これにより、2つの巻線2を1つのケース63内に収納した後に、磁性粉末と樹脂との混合物であるコア4をケース内に注入し、注入したコア4を硬化させることにより、巻線2の個数に応じた複数の樹脂成形リアクトルが製造される。つまり、複数の巻線2のそれぞれについて別々に、ケース内にコアを注入する工程(以下、コア注入工程という)を行うことなく、1回のコア注入工程で複数の樹脂成形リアクトルを製造することができる。このため、複数の樹脂成形リアクトルを製造する場合の製造工程を簡略化することができる。
【0080】
また上記第1実施形態では、図1(b)に示すように、巻線2の巻回方向に直交する巻線断面が多角形状に形成され、樹脂ギャップ部材5が、この多角形状の角部からケース3の内面にわたって形成されているものを示した。しかし、図12に示すように、樹脂ギャップ部材5とケース3の内面との間に隙間が形成されていてもよい。これにより、巻線2がケース3内に収納されている状態でコア材をケース3の開口部3aの一箇所から注入すると、巻線2と樹脂ギャップ部材5との間の隙間の全体にコア材が拡がるため、樹脂成形リアクトル1の製造工程を簡略化することができる。
【0081】
また樹脂ギャップ部材5と樹脂絶縁部材とが、磁性粉末が混入された樹脂を材料としてあらかじめ合体している形状に形成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1,21,31,41,51・・・樹脂成形リアクトル、2,42…巻線、3,13,23,43,53,63…ケース、3c…貫通孔、4…コア、5,45,55…樹脂ギャップ部材、13a…仕切部材、26…ケース蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線を巻回して形成され、電気絶縁性を有する樹脂を材料として構成された樹脂絶縁部材により露出面が被覆された巻線と、
前記巻線を収納するケースと、
磁性粉末と樹脂との混合物であり、前記ケース内に収納された前記巻線を覆うように前記ケース内に充填されるコアと
を有する樹脂成形リアクトルであって、
前記コアよりも透磁率が低い材料で構成され、前記巻線への通電で前記巻線の周囲に生じる磁束により形成された閉磁路のうちの一部ないし全部が内部を通過するように前記ケース内に配置される樹脂ギャップ部材を備え、
前記樹脂ギャップ部材は、
前記巻線と前記樹脂ギャップ部材との間の距離が大きくなるほど、前記閉磁路が前記樹脂ギャップ部材の内部を通過する距離が短くなるように形成されており、
前記樹脂ギャップ部材と前記樹脂絶縁部材とは、前記コアを充填する前にあらかじめ構造的に一体となって前記巻線上に固定されるように形成される
ことを特徴とする樹脂成形リアクトル。
【請求項2】
前記巻線は、前記巻線の巻回方向に直交する断面が多角形状に形成されており、
前記樹脂ギャップ部材は、前記多角形状の角部において、前記樹脂絶縁部材と連結される
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項3】
前記樹脂ギャップ部材は、磁性粉末が混入された樹脂を材料としてあらかじめ構造的に一体となって前記巻線上に固定されるように形成される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項4】
前記樹脂ギャップ部材および前記樹脂絶縁部材と、前記ケースの一部または全部とがあらかじめ構造的に一体となって前記巻線上に固定されるように形成される
ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項5】
複数の前記巻線が、1つの前記ケース内に収納される
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項6】
前記ケースは、
前記ケース内に収納されている前記巻線の一部を、前記ケースの外側に突出させるための貫通孔が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項7】
前記ケース内に収納されている前記巻線の少なくとも一部分は、その表面を被覆している前記樹脂絶縁部材を介して、前記ケースの内面に接触している
ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトル。
【請求項8】
前記ケース内に収納されている前記巻線の内周側に形成された中空孔をその一端側開口部から他端側開口部に貫通して前記巻線を仕切るとともに、一部が前記ケースの内面に接触する仕切部材を備える
ことを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の樹脂成形リアクトル。

【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−146753(P2012−146753A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2474(P2011−2474)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)