説明

樹脂用特性調整剤及びそれを用いた特性調整化樹脂組成物

【課題】樹脂について、特定の特性のみを調整でき、かつ他の特性の性能が維持し得る、樹脂用特性調整剤及びそれを用いた特性調整化樹脂組成物を提供することにある
【解決手段】樹脂の特性を改善する樹脂用特性調整剤であって、該樹脂用特性調整剤は、保持材と、該保持材の表面に埋め込まれた特性調整成分とから構成され、該樹脂用特性調整剤の表面に、該保持材と該特性調整成分が共に露出し、かつ該特性調整成分の露出部各々の面積は、該特性調整成分と特性調整される該樹脂との相互作用を回避させる面積である樹脂用特性調整剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の特性を改善する樹脂用特性調整剤に関し、より具体的には誘電率、導電率、難燃性、密度、離型性、帯電防止性、抗菌性、防臭性等の特性を改善させる目的で樹脂に混合される樹脂用特性調整剤に関する。また、本発明の樹脂用特性調整剤を用いた特性調整化樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の特性を調整するには、樹脂に、樹脂の特性を改善させる目的の、樹脂とは異なる物質である特性調整成分を混合し、その混合比率を制御して、樹脂の特性を調整していた。樹脂への混合方法は、調整剤と樹脂と直接接触させる接触的混合、あるいは調整剤の表面を樹脂に対して不活性な材料で被覆した調整剤を樹脂と間接的に接触させる非接触的混合であった。しかし、樹脂と混合する場合、特性調整成分と樹脂とが反応する相互作用等が起き、調整したい特性とは異なる、他の特性の性能を低下させてしまうという問題点があった。このような問題点を回避するため、樹脂に用いることができる特性調整成分の種類は限られ、また樹脂と特性調整成分の組合せの面において制限があった。
【0003】
以下に、誘電率の調整を例として、より詳しく説明する。
樹脂の比誘電率の調整は、樹脂と、その樹脂とは比誘電率が異なる材料(誘電率調整剤)とを混合して行っている。接触的混合方法としては、誘電率調整剤を樹脂に均一溶解する方法、誘電率調整剤を樹脂に分散混合させる方法等がある。しかし、これらの方法では、求める比誘電率の調整は可能であるが、他の特性が低下するという問題がある。例えば、均一溶解(相溶化)する場合、樹脂の反応速度(例えば硬化速度)の低下、或いは上昇をまねき、反応制御が困難となる等の化学的特性の面で、加えて耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、誘電正接、接着性、機械的強度等の物理特性の面で、樹脂から元来予期される特性の性能が低下し、樹脂に誘電率調整剤を接触的混合させた場合には、所望の性能すべてが得られないという問題があった。粒子分散の場合においても同様な問題があった(特許文献1)。
また、樹脂に非接触的混合させる場合には、樹脂と中空材とを混合する方法が、樹脂に発泡剤を混合して、樹脂の硬化物内に空隙を設ける方法(空隙配設)、誘電率調整剤を樹脂に不活性なコーティング材料で被覆して混合する方法(被覆混合)が挙げられる。しかし、空隙配設の場合には、機械的強度の点で問題があった。また、被覆混合の場合は、樹脂製コーティング材料では特性調整される樹脂との分散性が悪く、均質に特性調整するのが困難であり、またセラミックス製コーティング材料では機械的強度が不十分であると共に、樹脂の加工が困難であるという問題があった。
そのため、樹脂について、特定の特性のみを調整でき、かつ他の特性の性能が特性調整に伴う悪影響を蒙るのを回避する、樹脂用特性調整剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公表2004−513503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂について、特定の特性のみを調整でき、かつ他の特性の性能を維持し得る、樹脂用特性調整剤及びそれを用いた特性調整化樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明に到達した。
本発明は、樹脂の特性を改善する樹脂用特性調整剤であって、その表面に保持材と特性調整成分とが露出し、かつ該特性調整成分の露出部各々の面積は、該特性調整成分と特性調整される該樹脂との相互作用を回避させる面積である樹脂用特性調整剤に関する。特性調整成分の各露出点面積が、8.0×106 nm2以下であることが好ましい。特性調整成分は、充填、含浸(表面処理含む)等の埋め込み、打ち込み、粒成長等の方法で保持材に埋め込むことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、樹脂の特定の特性のみを調整でき、かつ他の特性の性能を維持し得る、樹脂用特性調整剤を達成したものである。また、本発明の樹脂用特性調整剤を用いた特性調整化樹脂組成物を達成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の充填多孔質シリカ、並びに未充填多孔質シリカの断面観察SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施態様の一つは、多孔性物質と、該多孔性物質内に埋め込まれた特性調整成分とで構成される樹脂用特性調整剤に関する。
本発明によれば、樹脂用特性調整剤は、多孔性物質内に特性調整成分を埋め込むため、特性調整成分を、多孔性物質の細孔内に充填し、固定化して構成される。樹脂用特性調整剤(多孔性物質)外部の樹脂と、特性調整成分とは、特性調整成分と特性調整される樹脂との相互作用を回避させる面積内で接触するため、樹脂の特性を調整しながらも、樹脂の他の特性(耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、誘電正接、接着性、機械的強度)の性能は維持される。特性調整成分と特性調整される樹脂との相互作用を回避させる面積内で接触するということは、微視的な見地からは特性調整成分と特性調整される樹脂の一部とは接点で各々接触しており、特性調整成分とその接触している特性調整される樹脂とは相互作用、例えば反応している状態であるが、巨視的な見地、つまり全体として捉えると、特性調整される樹脂に悪い影響を与えておらず、相互作用は全体としてほとんど回避されている状態である。
【0010】
ここで、多孔性物質の細孔に、他の物質を充填した複合体が知られている(特開平8−253625号公報及び特開平6−62346号公報)。特許文献2は、多孔質シリカにシリコーン硬化物を充填して撥水性とした撥水性粉末が開示されている。また、特許文献3は、多孔質シリカに、イオン交換樹脂・キレート樹脂を充填して、複合体の表面積を増大させた、クロマトグラム等の分離・吸着剤が開示されている。これらは、いずれも、多孔性物質の表面又は内部に介在させた作用物質(シリコーン硬化物又はイオン交換樹脂・キレート樹脂)を、対象物質(水又は金属等)と接触させ、対象物質に作用を及ぼすことを目的としている。すなわち、本発明のように、多孔性物質内に作用物質(特性調整成分)を埋め込み、かつ対象物質(樹脂)と相互作用を回避させるように接触をさせるものとは、その構造及び作用・機能が異なる。
【0011】
本発明の多孔性物質は、細孔を有し、樹脂に対して不活性である材料であれば材質は限定されない。細孔は、独立細孔以外に、多孔性物質外部に通じ、細孔同士が連関していることが好ましい。多孔性物質の材質は、例えばシリカ、シリカゲル、ガラス、アルミナ、ゼオライト、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、珪藻土、ケイ酸カルシウム等のケイ酸塩、リン酸カルシウム等のリン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、活性炭、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、キトサン樹脂、ポリシロキサン樹脂、シリコーンゴム、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。多孔性物質としては、好ましくは無機多孔性物質であり、多孔質シリカであることがより好ましい。また、多孔性物質の形状も特に限定されるものではなく、球状、鱗片状、針状、無結晶粉末状、板状、ハニカム状等が挙げられる。球状である場合、樹脂の流動性を制御できるので好ましい。表面の平均細孔径は0.5〜1000nmであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。表面の平均細孔径が0.5nm以上であると、特性調整成分が充填が容易であり、1000nm以下であると、低誘電率化成分と樹脂と相互作用が回避される接触面積である。例えば、接触面積8.0×106 nm2以下であることが好ましい。多孔性物質への特性調整成分の充填量としては細孔容積の1以上〜100未満容積%であることが好ましい。充填量は、高充填であるほど、多孔性物質の機械的強度が高くなり、また特性調整剤の添加量が少量で有意な効果を発揮する。特性調整成分の充填量が細孔容積の100容積%未満であると、多孔性物質の細孔内に特性調整成分が埋め込まれている。細孔容積はJIS K 5101精製あまに油法の吸油量に換算して10〜700ml/100gであることが好ましく、50〜500ml/100gであることがより好ましい。吸油量が10ml/100g以上であると、例えば誘電率の調整効果が有意であり、700ml/100g以下であると、多孔性物質の強度が充分である。本発明における細孔容積は、多孔性物質外部に通じる細孔の容積であり、独立細孔の容積は含まれない。
多孔性物質の材質、形状、平均細孔径、吸油量、平均粒径が異なる、2種類以上の多孔性物質を用いることができる。
【0012】
本発明の特性調整成分は、その特性を調整し得れば、制限されない。樹脂への特性調整成分の溶解を抑制するために20℃で固体である方が好ましく、23℃で固体である方がより好ましい。加えて、絶縁性樹脂の溶剤に不溶であることが好ましい。
また、保持材(多孔性物質)に埋め込む際の取扱い性を考慮すると、特性調整成分は、加圧又は加熱により流動性を有することが好ましく、すなわち溶剤を用いずに流動性を得られることが好ましい。これは、溶剤のような揮発性物質を用いて流動性を得ると、加熱・乾燥時、或いは貯蔵時に溶剤が揮発する場合があるので、特性調整成分の固定及び充填の制御を考慮すると、溶剤を用いないことが好ましい。
加熱により流動性を得る場合、流動点又は融点の温度は、保持材(多孔性物質)の機械的強度が維持される温度範囲であることが好ましい。製造環境等を考慮すると、融点は、100〜200℃であることが好ましい。
流動点以上の粘度が10000ポイズ(1kPa・s)以下であるとさらに好ましい。
【0013】
本発明の態様の一つによれば、特性調整成分として、誘電率調整成分、導電率調整成分、難燃性調整成分、密度調整成分、離型性調整成分、帯電防止成分、抗菌性成分、防臭成分等が挙げられる。これらの特性調整成分は、付与する特性を有する成分を適宜選択し、2種以上を介在させる、或いは兼用させることができる。
【0014】
例えば、誘電率調整剤としての特性調整成分としては、樹脂と誘電率が異なれば、限定されない。ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリプロピレンエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂が挙げられる。
また、充填する特性調整成分は単一でも、2種類以上用いてもよい。熱硬化性であることが好ましい。あるいは誘電率調整成分が、リン酸エステル又はポリオレフィンであることが好ましい。リン酸エステルとしては、例えば〔(CH32632P(O)OC64OP(O)〔C63(CH32〕が挙げられる。
【0015】
本発明によれば、保持材(被埋め込み材)、より具体的には多孔性物質内に、特性調整成分を固定する方法について、埋め込み方法により例示する。埋め込み方法としては、毛細管現象を利用して、充填することが簡便である。充填方法は、例えば、液状の特性調整成分と多孔性物質を撹拌して細孔内に充填する方法、加圧下で液状の特性調整成分と多孔性物質を撹拌して細孔内に充填する方法、減圧してから液状の特性調整成分に多孔性物質を投入し撹拌して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と特性調整成分を混合しておき加熱により特性調整成分を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と特性調整成分を混合しておき減圧してから加熱により特性調整成分を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と特性調整成分を混合しておき加圧、加熱により特性調整成分を溶解して細孔内に充填する方法、特性調整成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填する方法、特性調整成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填した後、加熱により溶剤を除去する方法、特性調整成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填した後、減圧加熱により溶剤を除去する方法が挙げられる。いずれの方法を用いてもよい。
特性調整成分の充填が終了した多孔性物質は、特性調整成分として使用する前に多孔性物質外部に残る特性調整成分を除去するために、溶剤等で洗浄してもよい。
また、特性調整成分を充填する前に特性調整成分の充填性を高めるために、オリゴマー又はシランカップリング剤等で多孔性物質の細孔表面を処理してもよい。特性調整成分を充填した誘電率調整剤は、分散性を高めるために、オリゴマー又はシランカップリン剤等で表面処理してもよく、粉砕等の処理を行って粒径を小さくしてもよい。
【0016】
本発明の態様の一つによれば、樹脂と、本発明の樹脂用特性調整剤とを混合分散させた、特性調整された樹脂組成物(特性調整化樹脂組成物)であることが好ましい。分散させる樹脂用特性調整剤は単一でも、2種類以上用いてもよい。
その際には、樹脂用特性調整剤の分散性を向上するために、ニーダー、ボールミル、ビーズミル、三本ロール、ナノマイザー等既知の混練方法により分散することができ、樹脂用特性調整剤を粉砕し粒径を小さくすることができる。
このように、本発明の樹脂用特性調整剤は、樹脂と樹脂用特性調整剤と物理的に混合するのみで、その機能を発揮するため、従来の製造工程を変更する必要がなく、取扱いが容易である。
【0017】
樹脂と、本発明の樹脂用特性調整剤とを混合分散する配合率は、所望の特性レベルに併せて適宜設定することができる。例えば、本発明の誘電率調整剤を樹脂中に配合する場合、樹脂100重量部に対し誘電率調整剤を1〜700重量部にすることが好ましく、50〜300重量部にすることがより好ましい。誘電率調整剤の配合量が1重量部以上であるいと誘電率の調整効果が有意であり、700重量部以下であると樹脂組成物の取扱いが容易である。
【0018】
本発明で樹脂用特性調整剤を分散する樹脂は特に制限されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0019】
本発明の特性調整剤を混合した樹脂、すなわち特性調整化樹脂組成物には、本発明の目的の範囲内において、充填剤、添加剤、他の強化繊維材等を添加することができる。例えば、添加剤としては、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、カップリング剤、顔料、染料、着色剤、ゴム等が挙げられる。
【0020】
このような特性調整化樹脂組成物を希釈する溶剤は、樹脂を溶解できれば、限定されない。例えば、メチルエチルケトン、ヘキサン、キシレン、トルエン、アセトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチルエトキシプロピオネート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらの溶剤は、単独あるいは混合系を用いることができる。この溶剤の前記樹脂に対する割合は、樹脂組成物を塗工する設備にあわせてその使用量を調整する。
【0021】
本発明の特性調整化樹脂組成物の用途としては、自動車部品、電子・電気部品等が挙げられる。電子・電気部品としては、例えば回路基板用積層板材料、半導体封止材料等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。ここでは、便宜的に、誘電率調整剤を用いて説明する。
【0023】
表面処理剤の作製
撹拌装置、コンデンサー及び温度計を備えたガラスフラスコに、ジメトキシジメチルシラン20g、テトラメトキシシラン25g及びメタノール105gを配合した溶液を導入し、その後酢酸0.60g及び蒸留水17.8gを添加して、50℃で8時間撹拌した。シロキサン単位の重合度が30であるシロキサン系表面処理剤を合成した。得られたシロキサン系表面処理剤は、水酸基と反応する末端管能基としてメトキシ基及びシラノール基を有するものである。
【0024】
実施例1
(1)多孔性物質として多孔質シリカ1[吸油量150ml/100g、表面の平均細孔径5〜15nm、比重:2.2、平均粒径2.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE-2C(商品名)]と充填する特性調整成分として縮合リン酸エステル[融点95℃、大八化学工業株式会社製PX−200(商品名)]を用い、多孔質シリカ1 200重量部、縮合リン酸エステル(PX−200)600重量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg(1.3kPa)以下まで下がった事を確認後、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま5時間加熱撹拌して液状の縮合リン酸エステルを多孔質シリカ1内に充填した。
【0025】
(2)(1)の4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、縮合リン酸エステルを固化させた。メチルエチルケトン1400重量部を4つ口セパラブルフラスコに投入、撹拌して、過剰な縮合リン酸エステルを溶解した。空冷により室温まで冷却後、開孔径0.45μmのフィルターを用いて、溶解された縮合リン酸エステルの吸引ろ過を行い、過剰な縮合リン酸エステルと充填された多孔質シリカ1とを分離した。
【0026】
(3)(2)の充填された多孔質シリカ1は、表面にリン酸縮合エステルが付着している場合があるために、200重量部のメチルエチルケトンに(2)の充填された多孔質シリカ1を投入して、15分間撹拌して、表面付着リン酸縮エステルを溶解して除去した(多孔質シリカの洗浄)。その後、開孔径0.45μmのフィルターを用いて、溶解されたリン酸縮合エステルの吸引ろ過を行い、表面付着リン酸縮合エステルと多孔質シリカ1(充填)を分離した。(3)の工程を再度繰り返し多孔質シリカ1(充填)の洗浄を行った。その後、50℃で10時間乾燥を行い、誘電率調整剤1(縮合リン酸エステルを多孔質シリカの細孔容積100%容積で充填した多孔質シリカ1、表面にリン酸縮合エステルが付着していない)を作製した。
得られた低誘電率化剤1において、多孔質シリカ1(充填)が100%であることを、多孔質シリカ1(充填)と多孔質シリカ(未充填)について顕微鏡観察して確認した。試料は、日立製作所製、FB2000A、加速電圧30kV、イオン源Gaを用いて、任意の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により切り出し(FIB加工後試料)、FIB加工後表面を清浄にするため、日立製作所製、E3200、加速電圧4kVを用いて、イオンミリング処理した(イオンミリング処理後試料)。イオンミリング処理後試料は、多孔質シリカ(未充填)は細孔が確認されるが、多孔質シリカ1(充填)では隙間なく充填されていること(細孔容積100%充填)が明らかである。FIB加工後試料及びイオンミリング処理後試料をSEM(日立製作所製、型番S−4700、加速電圧5.0kV、倍率:10万倍)で観察した。
図1に、多孔質シリカ1(充填)と多孔質シリカ(未充填)について、FIB加工後試料及びイオンミリング処理後試料の断面観察SEM写真を示す。
【0027】
(4)誘電率調整剤1は、同重量のメチルエチルケトンに分散させ、上記のシロキサン系表面処理剤を、誘電率調整剤1の重量に対して、表面処理剤の固形分が1wt%になるように配合して、メチルエチルケトンの還流温度で一時間加熱処理して、表面処理した誘電率調整剤1を得た。
【0028】
(5)(4)で作製した誘電率調整剤1を樹脂に配合して、下記の組成で樹脂組成物を作製した(誘電率調整剤:40.2容積%)。この時のエポキシに対する熱硬化剤の当量は1.0当量とした。この樹脂組成物を銅箔上に塗工し、100℃−10分乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
誘電率調整剤1 150重量部
樹脂
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H
(日本化薬株式会社社製、商品名) 110重量部
・ 熱硬化剤ジシアンジアミド
(日本カーバイド株式会社製、商品名) 4重量部
・ 熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂、HP-850
(日立化成工業株式会社製、商品名) 20重量部
・イミダゾール、2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ) 0.5重量部
・溶剤 メチルエチルケトン 150重量部
(6)次に、銅箔を剥がした後、180℃−120分の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。
【0029】
実施例2
実施例1において、多孔質シリカ1を、多孔質シリカ2[吸油量330ml/100g、表面の平均細孔径10nm、比重:2.2、平均粒径2.6μm、富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA310P(商品名)]とし、配合量を100重量部とし、縮合リン酸エステルの配合量は1200重量部とし、冷却後に4つ口セパラブルフラスコに投入するエチルメチルケトンの量を2600重量とした以外は、実施例1と同様にして、誘電率調整剤2を作製した(100%充填)。
【0030】
実施例3
実施例1において、多孔質シリカ1を、多孔質シリカ3[吸油量80ml/100g、表面の平均細孔径17mm、比重:2.2、平均粒径3.1μm、旭ガラス株式会社製L−31−C(商品名)]とし、配合量を200重量部とし、縮合リン酸エステルの配合量は400重量部とし、冷却後に4つ口セパラブルフラスコに投入するエチルメチルケトンの量を1200重量とした以外は、実施例1と同様にして、誘電率調整剤3を作製した(100%充填)。
【0031】
比較例1
実施例1の誘電率調整剤と同重量と計算される無孔質シリカとリン酸エステルを、下記の組成で配合し、樹脂組成物を作製した。この時のエポキシに対する熱硬化剤の当量は1.0当量とした。この樹脂組成物を銅箔上に塗工し、100℃−10分乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
縮合リン酸エステルリン酸エステル、PX−200
(大八化学工業株式会社製、商品名) 91重量部
無孔質シリカ、SO−25R、平均粒径0.5μm
(株式会社アドマテックス製、商品名) 9重量部
樹脂
・ビフェニル系エポキシ樹脂、NC3000−H
(日本化薬株式会社社製、商品名) 110重量部
・熱硬化剤ジシアンジアミド
(日本カーバイド株式会社製) 4重量部
・熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂、HP-850
(日立化成工業株式会社製、商品名) 20重量部
・イミダゾール、2−フェニルイミダゾール
(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ) 0.5重量部
・溶剤 メチルエチルケトン 150重量部
(5)次に、銅箔を剥がした後、180℃−120分の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。
【0032】
比較例2
比較例1において、縮合リン酸エステルを除き、その他は比較例1と同様にして行った。
【0033】
特性試験
誘電率:作製した樹脂フィルムを、RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率を測定した。
ガラス転移温度:また、樹脂フィルムから試験片を切出して熱機械分析装置(マックサイエンス株式会社製TMA−4000)を用いて昇温;5℃/minの条件でガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
ここで、比較例2は、実施例1〜3の樹脂組成物において誘電率調整剤を、比較例1の樹脂組成物においてリン酸エステルを除いた樹脂組成物とほぼ同様の組成を有する。よって、誘電率調整剤する前の、樹脂の特性を示す(ブランク)である。
表1から明らかなように、本発明の誘電率調整剤を含む特性調整化樹脂組成物を用いた実施例1〜3では、誘電率が3.4未満に低誘電率化された。そして、ガラス転移温度は150℃以上であるので、ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性は維持された。
一方、本発明の誘電率調整剤を含まない比較樹脂組成物を用いた比較例1については、比較例1ではガラス転移温度、誘電率は悪影響を受けた。
【0037】
表1より、本発明の誘電率調整剤を樹脂に配合することにより、物性への影響を抑えながら誘電率を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、特定の特性のみが調整・制御され、かつ他の特性(耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、誘電正接、接着性、機械的強度)の性能が維持された、樹脂用特性調整剤及び特性調整樹脂組成物を達成したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の特性を改善する樹脂用特性調整剤であって、
該樹脂用特性調整剤は、保持材と、該保持材の表面に埋め込まれた特性調整成分とから構成され、該樹脂用特性調整剤の表面に、該保持材と該特性調整成分が共に露出し、かつ
該特性調整成分の露出部各々の面積は、該特性調整成分と特性調整される該樹脂との相互作用を回避させる面積である樹脂用特性調整剤。
【請求項2】
特性調整成分の各露出点面積が、8.0×106 nm2以下である、請求項1又は2記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項3】
多孔性物質と、該多孔性物質内に埋め込まれた特性調整成分とで構成される樹脂用特性調整剤。
【請求項4】
多孔性物質の表面の平均細孔径が、0.5〜1000nmである、請求項3記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項5】
多孔性物質の平均粒径が、0.1〜100μmである、請求項3又は4記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項6】
特性調整成分が、多孔性物質内に、多孔性物質の細孔容積に対して1以上〜100未満容積%埋め込まれている、請求項3〜5のいずれか1項記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項7】
多孔性物質の細孔容積が、吸油量に換算して10〜700ml/100gである、請求項3〜6のいずれか1項記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項8】
多孔性物質が、多孔質シリカである、請求項3〜7のいずれか1項記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項9】
特性調整成分が、誘電率調整成分である、請求項1〜8のいずれか1項記載の樹脂用特性調整剤。
【請求項10】
樹脂と、請求項1〜9のいずれか1項記載の樹脂用特性調整剤とを混合分散させた、特性を調整された樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280924(P2010−280924A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220215(P2010−220215)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2004−218856(P2004−218856)の分割
【原出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)