説明

樹脂組成物、その成型体、及び容器

【課題】 本発明は、機械強度と耐薬品性に優れる成型体が得られるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物やその成型体を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明の樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量部、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体5〜50重量部を含むポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物であって、前記シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体100重量%が、シロキサンゴム重合体(A)60〜90重量%からなるゴムコア層と、前記ゴムコア層を覆い多官能性単量体系重合体(B)0.1〜10重量%からなる硬質中間層と、前記硬質中間層を覆い、エチレン性不飽和単量体重合体(C)4.9〜34.9重量%、及びエポキシ基含有単量体重合体(D)5〜30重量%からなるシェル層と、からなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、その成型体、及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)については、耐衝撃性の向上を目的にこれまでいくつかの検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1、2では、PPS樹脂に不飽和酸グリシジルエステルからなるオレフィン系共重合体を配合する組成物が開示されている。特許文献3には、ポリオレフィン樹脂とPPS樹脂からなり、PPS樹脂をマトリクス樹脂とし、ポリオレフィン樹脂を分散層となる相構造を有する組成物が開示さている。しかし、具体的に開示された組成物では、機械強度と耐薬品性が不十分であった。
【0004】
また、特許文献4は、PPS樹脂100重量部に対し、ポリオレフィンにグリシジルメタクリレート・マレイン酸無水物などの反応性官能基含有モノマーを添加して押出し変性した変性ポリオレフィン1〜100重量部を含有した、PPS組成物を開示している。しかし、強度を与える成分がポリオレフィンであることに由来して、低温での機械強度が十分とは言えなかったことに加え、耐薬品性も十分とは言いがたいものであった。
【0005】
さらに、特許文献5では、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、カルボン酸無水物含有量が10重量%以上のポリオレフィン0.05〜10重量部を含有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を開示している。しかし、射出成形時のバリ低減を目的としたものであり、機械強度や耐薬品性が十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−382号公報
【特許文献2】特開平5−239363号公報
【特許文献3】特開2001−302917号公報
【特許文献4】特開2000−265059号公報
【特許文献5】特開平11−269385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、機械強度と耐薬品性に優れる成型体が得られるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物やその成型体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意検討した結果、本発明者は、特定の構成を有するポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物とすれば、機械強度と耐薬品性に優れる成型体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量部、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体5〜50重量部を含むポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物であって、
前記シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体100重量%が、シロキサンゴム重合体(A)60〜90重量%からなるゴムコア層と、前記ゴムコア層を覆い多官能性単量体系重合体(B)0.1〜10重量%からなる硬質中間層と、前記硬質中間層を覆い、エチレン性不飽和単量体重合体(C)4.9〜34.9重量%、及びエポキシ基含有単量体重合体(D)5〜30重量%からなるシェル層と、からなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物に関する。
【0010】
好ましい実施態様は、前記シェル層を、前記エポキシ基含有単量体重合体(D)5〜20重量%からなる反応性シェル層、及びからなる前記エチレン性不飽和単量体重合体(C)14.9%〜34.9重量%からなる反応性制御シェル層の2層とすることである。
【0011】
好ましい実施態様は、前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂を、ポリフェニレンスルフィド樹脂とすることである。
【0012】
また、本発明は、このような本発明のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を成形してなる成型体に関する。
【0013】
このような本発明の成形体は、液状有機物用容器として好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、機械強度と耐薬品性に優れる成型体が得られる樹脂組成物となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量部、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体5〜50重量部を含むポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物であり、その成形体は、強度と耐薬品性のバランスに優れる。
【0016】
本発明のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物は、前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量部に対して、前記シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体を5〜50重量部含むことを要するが、成形体の機械的特性の観点、及び成形性の観点からは、10〜40重量部以上含むことが好ましい。
【0017】
(混合方法)
本発明の樹脂組成物の各成分の混合は、公知の混練機械によって行なうことができる。このような混練機械としてはミキシングロール、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、押出機、ブロー成形機、インフレーション成形機等を挙げることができる。
【0018】
(ポリフェニレンスルフィド系樹脂)
本発明に係るポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量%は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を50重量%以上含み、その他の熱可塑性樹脂50重量%未満含む、いわゆるポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂であり、耐薬品性の観点からより好ましくは100重量%をポリフェニレンスルフィド樹脂とすることである。
【0019】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂)
本発明に係るポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)とは、下記一般式1に示す繰り返し単位を50モル%以上、好ましくは70モル%以上有する重合度80〜300の重合体であり、共重合成分として下記一般式群2に示す単位があげられるが、これらの共重合成分は10モル%以下が好ましい。
【0020】
このようなPPS樹脂には、酸素存在下での熱処理により架橋させ溶融粘度を高めた射出成形用の架橋型と、重合系中に塩化リチウム・有機酸塩・水などを添加し、分子量を向上させた射出成形、繊維、フィルム用の直鎖型があるが、本発明の効果を十分に得る観点から、架橋型より伸びや靱性に優れる直鎖型が好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Rはアルキル基、ニトロ基、フェニル基、アルコキシ基、カルボン酸基またはその金属塩を示す)
【0024】
(その他の熱可塑性樹脂)
前記その他の熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリオキシメチレン等のポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、ジエン化合物、マレイミド化合物、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上をブレンドして用いることができる。機械物性、耐薬品性、コストの観点から好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、特にその中でもポリエチレンである。
【0025】
(シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体)
本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体は、シロキサンゴム重合体(A)からなるゴムコア層、分子内に2以上のラジカル重合性基を有する多官能性単量体由来の単位を少なくとも有する多官能性単量体系重合体(B)からなる硬質中間層、エチレン性不飽和単量体由来のエチレン性不飽和単量体重合体(C)、及びエポキシ基含有単量体由来のエポキシ基含有単量体重合体(D)からなるシェル層の少なくとも3つの層を含む多層構造重合体を主成分とする組成物であり、基本的には、(A)からなるゴムコア層、前記ゴムコア層を覆い(B)からなる硬質中間層、前記硬質中間層を覆い(C)、及び(D)からなるシェル層を含んで構成される所謂コアシェル(CSR)構造を有する多層構造重合体、即ち、ゴム含有多層構造重合体(CSR)である。このCSR、及び(A)にグラフトしなかった、(B)、(C)、(D)成分等からなる所謂フリーポリマー、を組成物の構成成分としてもよく、好ましくはCSRのみから構成されている。
【0026】
かかるシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体は、例えば、シロキサンゴム重合体(A)存在下に、多官能性単量体を主成分とする単量体を重合し多官能性単量体系重合体(B)を得、さらにエチレン性不飽和単量体、及びエポキシ基含有単量体からなるシェル層用単量体を重合することによりエチレン性不飽和単量体重合体(C)、及びエポキシ基含有単量体重合体(D)を得ることにより作製することができる。
【0027】
かかるシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体は、安定的に粒子を得る観点、及び最終成形体の難燃性や耐衝撃性を十分なものとする観点から、その体積平均粒子径は0.008〜0.6μmが好ましく、0.01〜0.35μmがさらに好ましく、特に好ましくは0.20〜0.35μmである。
【0028】
このようなシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体は、上記重合後には、好ましくは水系ラテックスとして得られ、この水系ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウムなどの二価以上の金属塩を添加することにより凝固した後に熱処理・脱水・洗浄・乾燥し粉体として回収する凝固法や、この水系ラテックスを噴霧乾燥して直接粉体として回収する噴霧乾燥法により、通常粉体として製造される。また、このようにして本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体粉末を得る工程の途中に、さらに好ましくは数回の水洗工程を追加することで、その粉末中の、重合時に用いた乳化剤、分散剤、pH調整剤、重合開始助剤などの副原料に由来する有機ナトリウム塩や有機カリウム塩等のPCに対する触媒的分解作用を有する金属不純物を低減し、例えば、これらの総量が10ppm以下とすると、本発明の樹脂組成物がより高品質もものとなるので好ましい。またさらに、前記水系ラテックスを、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体を緩凝集させこの重合体の緩凝集体を得た後、その緩凝集体を液相から分離・回収し、脱水・乾燥することで粉体として回収する水凝固法により回収する方法がある。
【0029】
前記エポキシ基含有単量体重合体(D)は、マトリクス樹脂であるポリフェニレンスルフィド系樹脂と反応することで、本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体をそのマトリクス構造に安定的に分散する機能を果たしているので、上述のように粉体として回収されたシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体の状態で、エポキシ基が活性を維持していることが重要である。逆に、エポキシ基が活性を維持しているため、この多層構造重合体同士が強固に接着していまい、粉体としての回収が困難になったり、マトリクス中に一次粒子として分散しにくかったりする問題がある。
【0030】
こうした問題に対処するために、前記凝固法を用いる場合には、前記シェル層を、前記硬質中間層を覆う前記エポキシ基含有単量体重合体(D)からなる反応性シェル層、及びこの反応性シェル層を覆う前記エチレン性不飽和単量体重合体(C)からなる反応性制御シェル層の2層として、このエポキシ基の凝固熱処理工程での失活を防止することが好ましい。
【0031】
また、前記噴霧乾燥法や前記水凝固法を用いる場合には、前記シェル層の内、前記反応性制御シェル層を重合しなかったり、前記反応性シェル層、及び反応性制御シェル層を重合する順番を逆にしたりすることも好ましい。
【0032】
このようなシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体の粉体は、それをマトリクス樹脂に配合して樹脂組成物を得る際に、マトリクス樹脂として粉体状のものを用いる場合には、その粉体の体積平均粒子径が、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらには50μm以上、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらには200μm以下とすることが好ましい。特に、マトリックス樹脂の粉体の平均粒子径に近い、あるいは同様の体積平均粒子径であることが、分級しにくくなるので好ましい。前記粉体としては、本発明の共重合体が緩やかに凝集した状態のものであることが、マトリックス樹脂中で多層構造重合体の一次粒子の状態に容易に分散するので、好ましい。
【0033】
本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体を100重量%として、前記シロキサンゴム重合体(A)は、本発明に係る樹脂組成物の機械特性を損なわないために、60重量%以上含有していることが好ましく、さらには65重量%以上含有することが好ましい。上限は、マトリクス樹脂中でのシロキサンゴム重合体(A)成分の分散状態を良好にするために90重量%である。
【0034】
本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体を100重量%として、前記分子内に2以上のラジカル重合性基を有する多官能性単量体由来の単位を少なくとも有する重合体(B)は、本発明に係る樹脂組成物の難燃性を損なわないために、好ましくは0.1重量%以上含有していることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上、さらには1重量%以上であり、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは1〜5重量%であり、この比率は、本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体に対する、重合体(B)形成用単量体の重さと同じであるとみなした値である。
【0035】
本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体を100重量%として、前記エチレン性不飽和単量体由来の重合体(C)は、本発明に係る樹脂組成物の難燃性を損なわないために、また、本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体とマトリクス樹脂との相溶性を確保するために、好ましくは0.5重量%以上含有していることが好ましく、より好ましくは3重量%以上、さらには5重量%以上であり、好ましくは34.9重量%以下、より好ましくは24.5重量%以下、さらには好ましくは15重量%以下であり、この比率は、本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体に対する、前記エチレン性不飽和単量体の重さと同じであるとみなした値である。
【0036】
(シロキサンゴム重合体(A))
前記シロキサンゴム重合体(A)は難燃性を低下させることなく、特に低温での耐衝撃性を向上させるための成分であり、場合によってはそれ自身を含む樹脂組成物の難燃性を向上させる成分である。前記シロキサンゴム重合体(A)には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体などのシロキサンゴム重合体、側鎖アルキル基の一部が水素原子に置換されたポリオルガノハイドロジェンシロキサン等を用いることができる。これらの内、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサンージフェニルシロキサン共重合体が難燃性を付与する上では好ましく、ポリジメチルシロキサンが経済的にも容易に入手できるので最も好ましい。
【0037】
前記シロキサンゴム重合体(A)の重量平均分子量は好ましくは、最終成形体の難燃性や耐衝撃性を十分なものとする観点、及び生産性を確保する観点から、100,000以上、より好ましくは150,000以上、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは700,000以下、さらには300,000以下である。前記重量平均分子量はゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)分析による標準ポリスチレン換算値を用いることができる。
【0038】
前記シロキサンゴム重合体(A)は具体的には、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジアルコキシシラン、1,3,5,7−オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)に代表される環状シロキサンや、好ましくは重量平均分子量が500〜20,000以下の直鎖状、又は分岐状のオルガノシロキサンオリゴマーを主成分とする前記シロキサンゴム重合体(A)形成用原料を、酸や、アルカリ、塩、フッ素化合物などの触媒を用いて、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法で重合したシロキサンゴム重合体を好ましく例示することができる。前記シロキサンゴム重合体(A)の原料として、残存揮発性低分子量環状シロキサンがあらかじめ低減された前記直鎖状、又は分岐状のオルガノシロキサンオリゴマーを用いた場合には、形成されたシロキサンゴム重合体(A)中の残存揮発性低分子量環状シロキサンを低減することが可能でストリッピング等の工程等を省くことができる。
【0039】
また、前記シロキサンゴム重合体(A)形成用単量体100重量%中には、ゴム弾性を十分に維持し、かつ架橋構造を形成する観点から、必要に応じてメチルトリエトキシシラン、テトラプロピルオキシシランなどの3官能以上のアルコキシシラン、及びメチルオルソシリケートなどの3官能以上のシランの縮合体からなる群から選ばれる1種以上が、0.1重量%〜10重量%含まれ得る。
【0040】
さらに、前記シロキサンゴム重合体(A)形成用原料100重量%中には、ラジカル重合性基をこのシロキサンゴム重合体(A)に導入することで、本発明に係る前記硬質中間層のシロキサンゴム重合体(A)への被覆を容易にする観点から、メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルフェニルジメトキシメチルシランなどの加水分解性基、及びラジカル重合性基を含有するシラン化合物であるグラフト交叉剤が、0.1重量%〜10重量%含まれていることが好ましい。
【0041】
メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなど、前記3官能以上のアルコキシシランであってかつラジカル重合性基を有するシラン化合物を用いることも出来る。
【0042】
最終成形体の耐衝撃性を良好に発現させるために、前記シロキサンゴム重合体(A)は粒子であることが好ましい。かかる粒子は、前述のごときオルガノシロキサンから乳化重合法により製造することができる。乳化重合法に代わって、エマルジョン状態のシロキサンゴム重合体を変性する方法、溶液重合法などにより得た変性若しくは非変性のシロキサンゴム重合体(A)を高圧ホモジナイザーなどを用いて機械的に強制乳化する方法などによりシロキサンゴム重合体(A)のエマルジョンを得ることもできる。
【0043】
このようにシロキサンゴム重合体(A)が粒子の場合には、安定的に粒子を得る観点、及び最終成形体の難燃性や耐衝撃性を十分なものとする観点から、その体積平均粒子径は0.008〜0.6μmが好ましく、0.01〜0.35μmがさらに好ましく、特に好ましくは0.17〜0.32μmであり、このようにシロキサンゴム重合体(A)の粒子であるゴム粒子につき、本発明の樹脂組成物やその成型体を電子顕微鏡写真等で観察して測定される該粒子の数平均占有面積が、0.01〜0.12μmであることがより好ましい。前記体積平均粒子径は、例えば、日機装株式会社製のMICROTRACUPA150を用いて測定することができる。
【0044】
ここで、シロキサンゴム重合体(A)を重合するに際しては、シード重合法を適用することができる。例えば、ポリブチルアクリレート等の有機重合体をシード粒子として用いる方法、シロキサンゴム重合体ラテックスをシードラテックスとして用いる方法等を好ましく例示することができ、その際、シード粒子のラテックス粒子径は30nm以下が好ましく、より好ましくは25nm以下、さらに好ましくは10nm以下であり、1nm以上、より好ましくは5nm以上である。
【0045】
前記の変性若しくは非変性の、好ましくは残存揮発性低分子量環状シロキサンがあらかじめ低減された(ポリ)オルガノシロキサンは、必要に応じて前記グラフト交叉剤等と共に、水、界面活性剤などを加え、例えばラインミキサーや循環ポンプなどで一次混合後、高圧ホモジナイザーやコロイダルミルなどにより所望の粒子径になるよう機械的に強制乳化し、ドデシルベンゼンスルホン酸などの酸を加えて0℃以上、好ましくは100℃以下、さらには30℃以下、特に25℃以下で重合し、必要に応じてさらにグラフト交叉剤等と反応させ、しかる後に中和することで生成することができる。
【0046】
前記環状シロキサン等の重合、又は(ポリ)オルガノシロキサン等の強制乳化重合に際して酸性重合条件を用いる場合には、界面活性剤としては酸性下でも界面活性能が発揮される界面活性剤を用いることが好ましい。その様な界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステルの金属塩、アルキルスルフォン酸の金属塩、アルキルアリールスルホン酸の金属塩などのアニオン系界面活性剤をあげることができる。前記金属塩としては、好ましくはアルカリ金属塩、特にナトリウム塩、カリウム塩が選ばれる。中でもナトリウム塩が好ましく、さらにはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが最も好ましい。また、ポリオキシエチレンドデシルエーテルに代表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルに代表されるポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルに代表されるポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステルなどのノニオン系界面活性剤を使用することができる。あるいはそれらと前記アニオン系界面活性剤とを併用することもできる。
【0047】
(多官能性単量体系重合体(B))
前記分子内に2以上のラジカル重合性基を有する窒素原子含有多官能性単量体由来の単位を少なくとも有する重合体(B)には、前記エチレン性不飽和単量体の重合体(C)のシロキサンゴム重合体(A)へのグラフト効率を高める効果があり、これにより前記エチレン性不飽和単量体の使用量少なく抑えることが可能となるので、相対的に本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体中でのシロキサンゴム重合体(A)成分の割合を高めることができる。この結果、可燃成分であるエチレン性不飽和単量体の使用量を低減することができ、得られる樹脂組成物の難燃性の悪化を抑制、もしくは改善することができる。多官能性単量体由来重合体(B)として窒素原子含有多官能性単量体由来重合体を用いた場合には、さらには、シロキサンゴム重合体系共重合体自体の耐熱性を向上させることができる。これは前記窒素原子含有多官能性単量体由来の重合体(B)の耐熱性が高いことに起因すると考えられる。また、アリルメタクリレート、1,3一ブチレングリコールジメタクリレートなどのメタクリレート系の多官能性単量体、ブタジエンなどのジエン類、ジビニルベンゼン等由来の単位を少なくとも有する重合体を用いた場合と比較して難燃性の悪化を抑制、もしくは改善することができる。
【0048】
このような分子内に2以上のラジカル重合性基を有する窒素原子含有多官能性単量体由来の単位を少なくとも有する重合体(B)は、後述する窒素原子含有多官能性単量体と、これと共重合可能な後述するその他の単量体と、の混合物である重合体(B)形成用単量体を、公知のラジカル重合法を用いて重合した重合物である。前記シロキサンゴム重合体(A)をエマルジョンとして得た場合には、重合体(B)は、乳化重合法により得ることが好ましく、その際には、公知の重合開始剤、すなわち2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の熱分解型重合開始剤として用いることができる。また、重合温度を比較的低温を含む広い範囲で設定できることから、t一ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t一ブチルハイドロパーオキサイド、ジーt一ブチルパーオキサイド、t一ヘキシルパーオキサイド等の有機過酸化物過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物といった過酸化物、及び必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤を、組み合わせてレドックス型重合開始剤として用いることが好ましく、この場合、必要に応じて硫酸鉄(II)等の遷移金属塩、また必要に応じてエチレンジアミン四酢酸ニナトリウム等のキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウム等のリン含有化合物等を併用することが好ましい。前記有機過酸化物過酸化水素の中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の芳香族環含有過酸化物を、レドックス型重合開始剤として用いることが好ましい。
【0049】
重合体(B)形成用単量体100重量%中の窒素原子含有多官能性単量体の割合は、本発明に係る難燃性発現の観点から、20重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、100重量%が最も好ましい。
【0050】
前記窒素原子含有多官能性単量体としては、トリアリルアミンなどの三級アミン類、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルーn一プロピルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどのイソシアヌル酸骨格を有する化合物、トリアリルシアヌレートに代表されるシアヌル酸骨格を有する化合物、トリ(メタ)アクリロイルヘキサハイドロトリアジン等が挙げられ、中でもイソシアヌル酸骨格を有する化合物、特にトリアリルイソシアヌレート、またはシアヌル酸骨格を有する化合物、特にトリアリルシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートが最も好ましい。
【0051】
前記窒素原子含有多官能性単量体と共重合可能な他の単量体としては、後述するエチレン性不飽和単量体と同様のものが用いられるが、その他、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、ジイソプロペニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルベンゼントリカルボキシレート、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、2,2‘一ジビニルビフェニル、2,4’−ジビニルビフェニル、3,3Lジビニルビフェニル、4,4Lジビニルビフェニル、2,4‘−ジ(2一プロペニル)ビフェニル、4,4Lジ(2一プロペニル)ビフェニル、2,2’−ジビニルー4一エチルー4‘−プロピルビフェニル、3,5,4Lトリビニルビフェニルなどの多官能性単量体も用いることができる。また、前記窒素原子含有多官能性単量体と共重合可能な他の単量体として、良好な難燃性発現のために、スチレン、α一メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニルなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレートといったアルキル基の炭素数が2以下のアルキル(メタ)アクリレート、2,2’−ジビニルビフェニル、2,4‘−ジビニルビフェニル、3,3Lジビニルビフェニル、4,4Lジビニルビフェニル、2,4’−ジ(2一プロペニル)ビフェニル、4,4‘−ジ(2−プロペニル)ビフェニル、2,2’−ジビニル−4−エチル−4‘−プロピルビフェニル、3,5,4’−トリビニルビフェニル等の非縮合多芳香環含有多官能性単量体を用いても良い。
【0052】
(エチレン性不飽和単量体重合体(C))
前記エチレン性不飽和単量体由来の重合体(C)には、本発明に係るシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体とマトリクス樹脂との相溶性を確保する効果がある。本発明に係る難燃性発現の観点から、重合体(C)のガラス転移温度は40℃以上とすることが好ましく、60℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。
【0053】
このようなエチレン性不飽和単量体由来の重合体(C)は、後述するエチレン性不飽和単量体を、必要に応じて連鎖移動剤と共に、公知のラジカル重合法を用いて重合した重合物である。前記シロキサンゴム重合体(A)、及び多官能性単量体由来の単位を少なくとも有する重合体(B)を含む重合体混合物をエマルジョンとして得た場合には、重合体(C)は、乳化重合法により得ることが好ましい。前記連鎖移動剤を用いることにより、得られるポリルガノシロキサン含有共重合体の耐熱性や熱安定性、最終成形体の難燃性・耐衝撃性等が改良される場合がある。このような連鎖移動剤としては、不飽和テルペン類、メルカプタン類などが例示されるが、中でも前記メルカプタン類が好ましく、臭気のないシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体、又は本発明に係る樹脂組成物が得られることから、2−エチルヘキシルチオグリコレートが最も好ましい。前記連鎖移動剤の前記エチレン性不飽和単量体に対する使用量は、重合体(C)のグラフト効率や、マトリクス樹脂中でのシロキサンゴム重合体含有共重合体の分散性、本発明に係る難撚性・機械的特性の観点から、好ましくは0,01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらには0.1重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらには2重量%以下である。
【0054】
前記エチレン性不飽和単量体としては、スチレン、α一メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2一エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベンジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ドデシルメタクリルアミド、シクロドデシルメタクリルアミド、アダマンチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。なお、本発明において特に断らない限り、例えば(メタ)アクリルとはアクリル、及び/又は、メタクリルを意味する。
【0055】
これらの単量体の中でも、前記エチレン性不飽和単量体として好ましいのは、本発明に係る難燃性発現の観点から、スチレン、α一メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニルなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアルキル基の炭素数が2以下のアルキル(メタ)アクリレートであり、より好ましいのは、単独重合体のガラス転移温度が40℃以上、さらに好ましくは60℃以上、さらには90℃以上である単量体のみを用いる場合であり、そのようなより好ましい単量体としてはスチレン、α一メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート等である。
【0056】
このような好ましい単量体に必要に応じて、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体、4−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル系単量体又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、有機フォスフォニウム塩、有機スルフォニウム塩や有機アンモニウム塩、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有ビニル系単量体、オキセタンメタクリレート等のオキセタン環含有ビニル系単量体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート等の水酸基含有ビニル系単量体等の官能基含有ビニル系単量体を併用することもできる。
【0057】
(エポキシ基含有単量体重合体(D))
前記エポキシ基含有単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられるが、好ましくはグリシジルメタクリレートである。なお、本発明において特に断らない限り、例えば(メタ)アクリルとはアクリル、及び/又は、メタクリルを意味する。
【0058】
(配合剤)
本発明の樹脂組成物には、通常使用される配合剤を適宜添加することができる。そのような添加剤としては、滴下防止剤、リン系難燃剤、難燃助剤、繊維強化剤、充填剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、導電性付与剤、伝熱性付与剤、加水分解抑制剤、増粘剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤、離型剤、相溶化剤、充填剤とマトリックス樹脂とのカップリング剤、熱安定剤、摺動性付与剤等が挙げられる。
【0059】
特に本発明の樹脂組成物を燃料タンク用途に用いる場合には、帯電防止のためにカーボンブラックを配合することが好ましく、その際の好ましい配合量は0.1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。
【0060】
(成型品)
本発明の樹脂組成物から得られる成形品は、住宅・建材用途、電気・電子用途、自動車用途等の部材として適宜使用できるが、耐衝撃性や難燃性、耐寒性、耐薬品性に優れることから、好ましくは自動車用部材として使用され、より好ましくは液状有機物用容器としての使用であり、例えば燃料タンクとして好適に使用され、この際好ましくは、射出成形によりタンクの上部と下部を別々に成型し、貼り合わせることにより単一材料で燃料タンクとすることである。
【0061】
前記液状有機物としては、好ましくはアルコール、アルカン、アルケン、アルキン、脂環式炭化水素、及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、一般に芳香族炭化水素29〜36%、アルケン9〜18%、飽和炭化水素51〜55%からなるガソリンや、それにエタノールが添加されたバイオエタノール高配合ガソリンである。
【0062】
(成型法)
本発明の樹脂組成物の成形法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、回転成形法などを適用することができる。
【実施例】
【0063】
以下では、本発明をより具体的に表す実施例を説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下における測定および試験はつぎのように行った。
【0064】
(体積平均粒子径)
シードポリマー、シロキサンゴム重合体粒子および多層構造重合体の体積平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRACUPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0065】
(重量平均分子量)
ポリマーを、約0.2%のテトラヒドロフラン(THF)溶液とし、その溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析することにより重量平均分子量(Mw)を決定した。GPC分析においては東ソー(株)社製HLC−8220GPCシステムを使用し、カラムはTSK Guardcolumn Super HZ−HおよびTSKgel Super HZM−H(東ソー(株)製)を用い、THFを溶出液とし、ポリスチレン換算で解析した。
【0066】
(耐衝撃性)
ASTMD−256に準じて、アイゾット試験により評価した。具体的には、1/4インチの成型品サンプル、2.75Jハンマーを用いて、23℃、−10℃、及び−40℃で測定した。各測定での試料数は4個でありその平均値を評価結果とした。
【0067】
(耐薬品性)
射出成形により得たサンプルと、それをトルエンに室温で4日間浸漬した後0.5時間風乾したサンプルにつき、浸漬前後での重量変化率を測定した。
【0068】
(シロキサンゴム重合体粒子の製造例)
イオン交換水200重量部、アルキル基の平均鎖長が12のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)1重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)1重量部、平均分子量2000の末端ジヒドロキシポリジメチルシロキサン(DHPDMS)97.5重量部、及びγ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(DSMA)2.5重量部からなる混合物を、ホモミキサーにより10000rpmで5分間撹搾後、高圧ホモジナイザーに500barの圧力下で3回通過させてシロキサンエマルジョンを調製した。このエマルジョンを速やかに撹搾機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5ロフラスコに一括して仕込んだ。系を撹搾しながら、30℃で6時間反応させた。その後、23℃に冷却して20時間放置後、系のpHを3重量%炭酸水素ナトリウム水溶液で6.8にして重合を終了し、シロキサンゴム重合体粒子を含むラテックスをえた。重合転化率は97%、シロキサンゴム重合体粒子のラテックスの体積平均粒子径は0.28μm、シロキサンゴム重合体成分の重量平均分子量は23万であった。
【0069】
(製造例1:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−1)の製造)
撹搾機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口および温度計を備えた5ロフラスコに、イオン交換水240重量部(オルガノシロキサン粒子を含むラテックスからの持ち込み分を含む)、及び上記で得たシシロキサンゴム重合体粒子のラテックスを固形分相当で70重量部を仕込み、系を撹搾しながら窒素気流下に重合である温度60℃まで昇温した。その温度に到達してから1時間後に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.25重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.002重量部、及び硫酸第一鉄0.0005重量部を添加したのち、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)1重量部、及びクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.05重量部からなる混合物を一括で追加し、30分間撹搾を続けた。
【0070】
その後、さらにクメンハイドロパーオキサイドを0.04重量部添加して30分間撹搾した後、グリシジルメタクリレート(GMA)10重量部、2−エチルヘキシルチオグリコレート(2EHTG)0.04重量部、及びCHP0.1重量部からなる混合物を20重量部/時間の追加速度で滴下追加し、続いて、メチルメタクリレート(MMA)20重量部、2−エチルヘキシルチオグリコレート(2EHTG)0.08重量部、及びCHP0.2重量部からなる混合物を20重量部/時間の追加速度で滴下追加し、その後さらに2時間撹搾を続け、さらにCHP0.05重量部を添加してから30分間撹搾を続けることによってシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−1)のラテックスを得た。グラフト成分すべての重合転化率は100%であり、ラテックスの体積平均粒子径は0.30μmであった。
【0071】
70℃に加温しミスト状に噴霧した前記ラテックスに、90℃に加温しミスト状に噴霧した10重量%塩化カルシウム水溶液を固形分で4重量部相当となるように接触させて凝固スラリーを得た。得られた凝固スラリーをスチーム加熱により95℃まで加熱し、5分間保持した後、50℃まで冷却して脱水、樹脂量の15倍の水で2回洗浄後、乾燥させてシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体SG−1の粉体を得た。
【0072】
表1に製造例1〜6で得た各サンプルの各層の組成、及び粉体製造時の最高温度であるスチーム加熱温度を比較して示す。
【0073】
【表1】

【0074】
(製造例2:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−2)の製造)
製造例1のスチーム加熱温度95℃を90℃としたこと以外は製造例1と同様にして、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−2)を製造した。
【0075】
(製造例3:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−3)の製造)
製造例1のTAIC追加量1重量を0.5重量部としたこと以外は製造例1と同様にして、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−3)を製造した。
【0076】
(製造例4:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−4)の製造)
製造例1のTAIC追加量1重量を2重量部としたこと以外は製造例1と同様にして、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−4)を製造した。
【0077】
(製造例5:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−5)の製造)
撹搾機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口および温度計を備えた5ロフラスコに、イオン交換水240重量部(オルガノシロキサン粒子を含むラテックスからの持ち込み分を含む)、及び上記で得たシシロキサンゴム重合体粒子のラテックスを固形分相当で85重量部を仕込み、系を撹搾しながら窒素気流下に重合である温度60℃まで昇温した。その温度に到達してから1時間後に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.25重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.002重量部、及び硫酸第一鉄0.0005重量部を添加したのち、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)2重量部、及びクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.05重量部からなる混合物を一括で追加し、30分間撹搾を続けた。
【0078】
その後、さらにクメンハイドロパーオキサイドを0.04重量部添加して30分間撹搾した後、グリシジルメタクリレート(GMA)2重量部、メチルメタクリレート(MMA)13重量部、2−エチルヘキシルチオグリコレート(2EHTG)0.06重量部、及びCHP0.145重量部からなる混合物を20重量部/時間の追加速度で滴下追加し、その後さらに2時間撹搾を続け、さらにCHP0.05重量部を添加してから30分間撹搾を続けることによってシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−6)のラテックスを得た。グラフト成分すべての重合転化率は100%であり、ラテックスの体積平均粒子径は0.30μmであった。
【0079】
70℃に加温しミスト状に噴霧した前記ラテックスに、90℃に加温しミスト状に噴霧した10重量%塩化カルシウム水溶液を固形分で4重量部相当となるように接触させて凝固スラリーを得た。得られた凝固スラリーをスチーム加熱により95℃まで加熱し、5分間保持した後、50℃まで冷却して脱水、樹脂量の15倍の水で2回洗浄後、乾燥させてシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体SG−5の粉体を得た。
【0080】
(製造例5:シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−6)の製造)
撹搾機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口および温度計を備えた5ロフラスコに、イオン交換水240重量部(オルガノシロキサン粒子を含むラテックスからの持ち込み分を含む)、及び上記で得たシシロキサンゴム重合体粒子のラテックスを固形分相当で85重量部を仕込み、系を撹搾しながら窒素気流下に重合である温度60℃まで昇温した。その温度に到達してから1時間後に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.25重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.002重量部、及び硫酸第一鉄0.0005重量部を添加したのち、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)2重量部、及びクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.05重量部からなる混合物を一括で追加し、30分間撹搾を続けた。
【0081】
その後、さらにクメンハイドロパーオキサイドを0.04重量部添加して30分間撹搾した後、メチルメタクリレート(MMA)15重量部、2−エチルヘキシルチオグリコレート(2EHTG)0.06重量部、及びCHP0.145重量部からなる混合物を20重量部/時間の追加速度で滴下追加し、その後さらに2時間撹搾を続け、さらにCHP0.05重量部を添加してから30分間撹搾を続けることによってシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体(SG−5)のラテックスを得た。グラフト成分すべての重合転化率は100%であり、ラテックスの体積平均粒子径は0.30μmであった。
【0082】
70℃に加温しミスト状に噴霧した前記ラテックスに、90℃に加温しミスト状に噴霧した10重量%塩化カルシウム水溶液を固形分で4重量部相当となるように接触させて凝固スラリーを得た。得られた凝固スラリーをスチーム加熱により95℃まで加熱し、5分間保持した後、50℃まで冷却して脱水、樹脂量の15倍の水で2回洗浄後、乾燥させてシロキサンゴム重合体含有多層構造重合体SG−6の粉体を得た。
【0083】
(実施例11、比較例1〜9)
直鎖型のPPS樹脂(DIC株式会社製FZ−2100)100重量部に、表2示す組成で多層構造重合体の粉末を添加した樹脂組成物を2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX44SS)で300℃にて溶融混錬し、ペレットを製造した。得られたペレットを用いて、シリンダー温度300℃に設定した株式会社ファナック(FANUC)製のFAS100B射出成形機で厚さ1/4インチの耐衝撃性・耐薬品性評価用試験片を作製した。得られた試験片を用いて前記評価方法に従って評価した。評価結果を表2に示す。
【0084】
表2中のMBS1は、体積平均粒子径0.08μmのメチルメタクリレートをシェル層とするブタジエン・スチレンゴム重合体含有多層構造重合体である。
【0085】
表2中のMBS2は、体積平均粒子径0.30μmのメチルメタクリレートをシェル層とするブタジエン・スチレンゴム重合体含有多層構造重合体である。
【0086】
表2中のAM1は、体積平均粒子径0.20μmのメチルメタクリレートをシェル層とするブチルアクリレートゴム重合体含有多層構造重合体である。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示すように、本発明の樹脂組成物の成型品は、機械強度と耐薬品性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド系樹脂100重量部、シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体5〜50重量部を含むポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物であって、
該シロキサンゴム重合体含有多層構造重合体100重量%が、シロキサンゴム重合体(A)60〜90重量%からなるゴムコア層と、該ゴムコア層を覆い多官能性単量体系重合体(B)0.1〜10重量%からなる硬質中間層と、該硬質中間層を覆い、エチレン性不飽和単量体重合体(C)0〜34.9重量%、及びエポキシ基含有単量体重合体(D)5〜30重量%からなるシェル層と、からなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項2】
前記シェル層が、前記エポキシ基含有単量体重合体(D)5〜20重量%からなる反応性シェル層、及びからなる前記エチレン性不飽和単量体重合体(C)14.9%〜34.9重量%からなる反応性制御シェル層の2層からなるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂である、請求項1、又は2に記載のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物を成型してなる成型体。
【請求項5】
請求項4に記載の成型体からなる液状有機物用容器。

【公開番号】特開2011−111468(P2011−111468A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266374(P2009−266374)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】