説明

樹脂組成物およびその成形品

【課題】流動性および衝撃強度に優れる樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物からなる成形品の提供。
【解決手段】曲げ弾性率が2000MPa以上である、例えばリサイクルされたポリカーボネート系樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)のような熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対し、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を有するアクリル系ブロック共重合体(B)を0.01〜20質量部含有する樹脂組成物およびその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性および衝撃強度に優れた樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジニアリングプラスチック等の熱可塑性樹脂は、事務機器や電気・電子機器、自動車分野など、幅広い分野に用いられている。これら熱可塑性樹脂について、近年、環境への配慮およびコストダウンの観点から、資源の有効利用が求められており、例えば成形品の薄肉化や熱可塑性樹脂のマテリアルリサイクルが検討されている。
【0003】
成形品の薄肉化には、熱可塑性樹脂に高流動性が求められる。また、薄肉成形品においても高い衝撃強度を有することが求められる。衝撃強度を向上させる手法として、熱可塑性樹脂を高分子量化する手法(特許文献1参照)や、コアシェル型改質剤を添加する手法(特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらの方法では、衝撃強度を大幅に改善できる一方、流動性が大きく低下してしまい、流動性と衝撃強度の改良を両立することは困難であった。
【0004】
また、熱可塑性樹脂のマテリアルリサイクルとは、事務機器などの廃材として回収された熱可塑性樹脂を、同じ事務機器などの製品または同等の製品に原料として再利用することを指す。従来、廃材として回収された熱可塑性樹脂は、リサイクルされていない、新品の熱可塑性樹脂(以下、バージン原料と称する)と比較して経年劣化による力学強度、柔軟性などの物性低下が著しく、バージン原料よりも品質の低いものとしての利用が多かった(カスケードリサイクルという)。また、廃材として回収された熱可塑性樹脂を燃焼させて熱回収を行う、いわゆるサーマルリサイクルされるものが多かった。そのため、マテリアルリサイクル可能な熱可塑性樹脂の量は少なく、コスト面および環境面から、より効率よく熱可塑性樹脂をマテリアルリサイクルする方法が求められていた。
【0005】
ポリカーボネート系樹脂などのエステル結合を有する熱可塑性樹脂は、経年劣化の一つである加水分解による分子量低下が避けられず、衝撃強度や引張強度などの力学物性が大幅に低下することが知られている。ポリカーボネート系樹脂は、衝撃性や耐熱性などに優れるが、高価であるため、マテリアルリサイクル技術が盛んに検討されている。
例えば、バージン原料からなる成形品と同等の物性をリサイクルされた熱可塑性樹脂からなる成形品に持たせるために、リサイクルされた熱可塑性樹脂にバージン原料を添加する方法(特許文献3参照)、コアシェル型改質剤を添加する方法(特許文献4参照)が検討されている。これらの方法では、バージン原料を用いて再度成形品を製造する場合と比較して、使用エネルギー量を減少できる。しかし、バージン原料を添加する方法は、リサイクルされた樹脂に対してバージン原料の添加量の割合が多くならざるを得ず、リサイクルされた熱可塑性樹脂の使用率が低いという問題がある。また、コアシェル型改質剤を添加する方法は、リサイクルされた熱可塑性樹脂の流動性が低下するため成形性に劣り、用途が限られてしまうほか、高い成形温度が必要とされ、熱可塑性樹脂の劣化が進むという問題もある。
【0006】
一方、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート系樹脂やポリエチレンテレフタラート系樹脂等のエステル結合を有する熱可塑性樹脂の耐衝撃改質剤として、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを構成単位とするブロック共重合体が有効であることが知られている(特許文献5、特許文献6参照)。しかしながら、特許文献5および特許文献6には、熱可塑性樹脂の薄肉成形性やマテリアルリサイクルについての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−127686号公報
【特許文献2】特開2002−308997号公報
【特許文献3】特開2000−159900号公報
【特許文献4】特開2003−096286号公報
【特許文献5】特開2006−225413号公報
【特許文献6】特開平10−168271号公報
【特許文献7】特公平7−25859号公報
【特許文献8】特開平11−335432号公報
【特許文献9】特開平6−93060号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】マクロモレキュラ ケミカル フィジックス(Macromol.Chem.Phys.)201巻,1108〜1114頁(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、流動性および衝撃強度に優れる樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物からなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の目的は、
(1)曲げ弾性率が2000MPa以上である熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対し、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を有するアクリル系ブロック共重合体(B)を0.01〜20質量部含有する樹脂組成物;
(2)前記熱可塑性樹脂組成物(A)がゴム系強化樹脂を含有する(1)の樹脂組成物;
(3)前記熱可塑性樹脂組成物(A)がリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)であり、バージン原料の熱可塑性樹脂組成物(A)とリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)の260℃、2.16kgfでのメルトフローレートの比(A’/A)が2.00以下である、(1)または(2)の樹脂組成物;
(4)前記熱可塑性樹脂組成物(A)がポリカーボネート系樹脂を含有する、(1)〜(3)のいずれかの樹脂組成物;
(5)前記熱可塑性樹脂組成物(A)がポリカーボネート系樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を含有する、(1)〜(4)のいずれかの樹脂組成物;
(6)さらに、コアシェル弾性重合体(f)を含有する(1)〜(5)のいずれかの樹脂組成物;
(7)熱可塑性樹脂組成物100質量部に対するアクリル系ブロック共重合体(B)の含有量が0.1〜4.8質量部の範囲である、(1)〜(6)のいずれかの樹脂組成物;
(8)(1)〜(7)のいずれかの樹脂組成物からなる成形品;
(9)筐体である、(8)の成形品;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動性および衝撃強度に優れる樹脂組成物およびその成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例2の樹脂組成物からなる成形品のTEM画像である。
【図2】比較例1の樹脂組成物からなる成形品のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)熱可塑性樹脂組成物(A)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物(A)は、曲げ弾性率が2000MPa以上である。本発明の樹脂組成物を含有する成形体の衝撃強度、弾性率および流動性のバランスを考慮すると、熱可塑性樹脂組成物(A)の曲げ弾性率は2300MPa以上であることがより好ましい。曲げ弾性率が上記範囲より小さいと、得られる樹脂組成物の柔軟性が高くなり過ぎ、衝撃強度が不十分となる。なお、本明細書において、曲げ弾性率とは、JIS K 7139に準拠した多目的試験片B形のダンベル型試験片を用い、JIS K 7171に準拠して23℃にて測定した曲げ弾性率をいう。
【0014】
熱可塑性樹脂組成物(A)に含有される樹脂としては、例えば、単量体単位間の結合がエステル結合からなる樹脂が挙げられ、具体的にはポリカーボネート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの樹脂のうち、1種類を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
アクリル系ブロック共重合体(B)との相容性が高い点、および本発明の樹脂組成物からなる成形品の衝撃強度、耐熱性、剛性を向上する観点から、ポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましい。
【0015】
上記ポリカーボネート系樹脂は、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させて製造する。二価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと略記する)、テトラメチルビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−イソプロピルベンゼン、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。カーボネート前駆体としては、ホスゲンなどのカルボニルハライド、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、ハロホルメート、二価フェノールのジハロホルメートなどのジハロホルメート等が挙げられる。ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールAを原料とするものが好ましい。
【0016】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させてポリカーボネート系樹脂を製造するに際し、二価フェノールは1種類を単独で、または2種以上を併用してもよく、必要に応じて触媒、分子量調整剤、酸化防止剤等を使用してもよい。また、ポリカーボネート系樹脂は例えば3官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、2種以上のポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。ポリカーボネート系樹脂の分子量について特に制限はなく、例えば二価フェノールとしてビスフェノールA、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いてポリカーボネート樹脂を得た場合、濃度0.7g/dl塩化メチレン溶液により温度20℃で測定した比粘度が0.15〜1.5の範囲のものが好ましく用いられる。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物(A)が含有していてもよい他の樹脂としては、例えばゴム強化樹脂などが挙げられる。ゴム強化樹脂を含有していると、熱可塑性樹脂組成物(A)が衝撃強度に優れたものになる点で好ましい。ゴム強化樹脂の例としては、芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体が挙げられる。
【0018】
ゴム強化樹脂として、芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体を用いる場合、上記芳香族ビニル単量体成分(c)としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン,m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上併用してもよい。中でもスチレンまたはα−メチルスチレンが好ましい。
【0019】
シアン化ビニル単量体成分(d)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0020】
ゴム質重合体(e)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体などのジエン系ゴム;エチレン−プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン−ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンとα−オレフィンとの共重合体などのオレフィン系共重合体;エチレン−メタクリル酸エステル、エチレン−アクリル酸ブチルなどのエチレン−不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、例えばアクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのアクリル系弾性重合体;エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体などのエチレン−プロピレン−非共役ジエンターポリマー;塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。中でもジエン系ゴム、アクリル系弾性重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエンターポリマーが好ましく、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴムがより好ましい。
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体の各成分の組成比は特に制限されない。
【0021】
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体は、芳香族ビニル単量体成分(c)およびシアン化ビニル単量体成分(d)の共重合体中に、ゴム質重合体(e)を混合したものであっても、ゴム質重合体(e)の存在下に芳香族ビニル単量体成分(c)およびシアン化ビニル単量体成分(d)を共重合したものであっても、これらを混合したものでもよい。
【0022】
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体には、本発明の効果を奏する範囲で、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸などのα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのグリシジル基含有単量体を1種類または2種以上共重合させてもよい。
【0023】
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体の具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。流動性(成形加工性)および衝撃強度向上の観点から、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましい。
【0024】
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体の製造法は特に限定されず、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など公知の製造法を用いることができる。該共重合体の重量平均分子量(Mw)は、衝撃強度と流動性の観点から、30,000〜250,000であるのが好ましく、60,000〜140,000であることがより好ましい。
【0025】
上記芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体は、分子量分布が狭くてもよく、ブロック共重合体、立体規則性の高い共重合体であってもよい。
【0026】
また、芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体は、さらにその他の芳香族ビニル単量体成分を含有する重合体または共重合体との混合物であってもよい。芳香族ビニル単量体成分を含有する重合体または共重合体の具体例としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体などが挙げられる。芳香族ビニル単量体成分を含有する重合体または共重合体は、立体規則性が高いものであっても良いし、共重合体の場合には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体などのいずれであってもよい。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体においてはアクリロニトリル−スチレン共重合体およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体との混合物が一般的であり、流動性を向上させる点で本発明において好適に使用される。
【0027】
上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体成分100質量%中のジエンゴム成分の割合が好ましくは8〜50質量%であり、より好ましくは10〜35質量%である。該アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体のゴム粒子径は0.1〜5.0μmが好ましく、0.3〜1.5μmがより好ましく。ゴム粒子の構造は、単一相を形成するものであっても、サラミ構造を有するものであってもよい。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物(A)の製造について説明する。好適な例としてポリカーボネート系樹脂ならびに芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物(A)は、それぞれのペレットを別々のフィーダーで単軸又は二軸の押出機に導入して溶融混練するか、又はペレットを予めブレンドした後、溶融混練することで製造できる。ポリカーボネート系樹脂と芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体の混合比は厳密な意味での制限は特にないが、通常、質量比で20/80〜90/10の範囲であることが好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物(A)がポリカーボネート系樹脂ならびに芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体からなる場合、かかる熱可塑性樹脂組成物(A)を用いて得られる本発明の樹脂組成物およびそれからなる成形品は流動性および衝撃強度に一層優れたものとなる。
【0030】
なお、上記熱可塑性樹脂組成物(A)として、ポリカーボネート系樹脂ならびに芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体からなるものを用いる場合、市販品を用いてもよい。例えば、ポリカーボネート/ABS樹脂として、帝人化成社製「マルチロンTN7500」、Sabicイノベーティブプラスチックス社製「サイコロイC6600」などが挙げられる。
【0031】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物(A)は、リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)であってもよい。かかるリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)は、例えば事務機器や電気・電子機器、自動車などに使用される熱可塑性樹脂の成形品または廃材の回収物を粉砕、洗浄した破砕物であり、また、該破砕物と同じ組成である熱可塑性樹脂のバージン原料を含んでいてもよい。また、リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)は数回リサイクルされたものであってもよい。リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)は、前記した熱可塑性樹脂組成物(A)に示したものと同じ組成のものからなることが好ましく、ポリカーボネート系樹脂および芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体とからなる熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品または廃材の回収物を粉砕、洗浄した破砕物であることが特に好ましい。
【0032】
上記リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)は、経時劣化による加水分解、熱履歴または紫外光劣化などにより、熱可塑性樹脂組成物(A)がバージン原料の場合と比較して流動性が高くなることが一般的である。衝撃強度や流動性の観点から、バージン原料の熱可塑性樹脂組成物(A)とリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)の260℃、2.16kgでのメルトフローレートの比(A’/A)は2.00以下であることが好ましく、1.60以下であることがより好ましい。かかるメルトフローレートの比が上記範囲より大きい場合、リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)の力学強度が低くなり、得られる樹脂組成物からなる成形品の衝撃強度が低下する傾向となる。
【0033】
上記リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)の粒径は10mm以下が好ましく、6mm以下がより好ましい。必要に応じてシートカット、ストランドカット、ホットエアカット、アンダーウォーターカットなどの方法により粒系10mm以下に造粒してもよい。粒径が上記範囲より大きいと、均一な溶融混練が困難になる傾向となる。
なお、後述する実施例においては、リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)として、バージン原料を80℃、95%RHで168時間放置し、加水分解を促進した樹脂を用いた。
【0034】
(2)アクリル系ブロック共重合体(B)
本発明の樹脂組成物を構成する成分であるアクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を有する。上記重合体ブロック(b1)または重合体ブロック(b2)中におけるアクリル酸エステル単位またはメタクリル酸エステル単位の含有量は、それぞれ60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0035】
アクリル系ブロック共重合体(B)において、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、主としてアクリル酸エステル単位から構成され、該重合体ブロックを形成させるためのアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステルが、本発明の熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度、流動性等を向上させる観点から好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。また、本発明の効果を奏する範囲において、後述するメタクリル酸エステル重合ブロック(b2)を構成するメタクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸、芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、オレフィンなどの他の単量体を共重合成分として少量(10モル%以下、好適には5モル%以下)用いてもよい。
【0036】
アクリル系ブロック共重合体(B)において、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、主としてメタクリル酸エステル単位から構成され、該重合体ブロックを形成させるためのメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、本発明の樹脂組成物の衝撃強度、耐熱性等を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。また、本発明の効果を奏する範囲において、前記のアクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸、芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、オレフィンなどの他の単量体を共重合成分として少量(10モル%以下、好適には5モル%以下)用いても差し支えない。
【0037】
本発明の効果を奏する範囲においては、アクリル系ブロック共重合体(B)は、上記した重合体ブロックとは別に、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル以外の単量体から誘導される重合体ブロック(s)を有してもよい。重合体ブロック(s)と、上記アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)、およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)との結合の形態は特に限定されないが、例えば、(b2)−{(b1)−(b2)}n−(s)構造(nはいずれも自然数を表す)や、(s)−(b2)−{(b1)−(b2)}n−(s)構造などが挙げられる。そのような重合体ブロック(s)を構成する単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε−カプロラクトン、バレロラクトンなどが挙げられる。
【0038】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1) とメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)より構成され、その分子鎖形態としては、特に限定されず、例えば、線状、分枝状、放射状などのいずれでもよい。中でも重合体ブロック(b1)の両端に重合体ブロック(b2)が結合したトリブロック共重合体を用いることが、本発明の樹脂組成物の衝撃強度、耐熱性等を向上させる観点から好ましい。
【0039】
アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量は、本発明の樹脂組成物の衝撃強度、流動性等を向上させる観点から、10,000〜200,000の範囲が好ましく、15,000〜150,000の範囲がより好ましい。アクリル系ブロック共重合体(B)の重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、溶融粘度が低下して、上記した熱可塑性樹脂組成物(A)との溶融混練性が悪化し、得られる成形品の力学強度が劣る傾向となる。一方、200,000よりも大きいと、溶融高粘度化し、溶融成形時にメルトフラクチャーが発生し、成形品の外観を損ねる傾向となる。また、アクリル系ブロック共重合体(B)における、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量は、2,000〜100,000であるのが好ましく、5,000〜80,000であるのがより好ましい。また、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量は、2,000〜100,000であるのが好ましく、5,000〜80,000であるのがより好ましい。
【0040】
アクリル系ブロック共重合体(B)を構成するアクリル酸エステル重合体ブロック(b1)のアクリル系ブロック共重合体(B)中の含有量は、本発明の樹脂組成物の衝撃強度を向上させる観点から、30〜90質量%であることが好ましく、50〜85質量%であることがより好ましく、65〜80質量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の含量が上記範囲より多いと、本発明の樹脂組成物において膠着が起こり、成形材料として適さなくなる場合がある。一方、上記範囲より少ないと、アクリル系ブロック共重合体(B)の柔軟性、流動性が低下し、樹脂組成物およびそれから得られる成形品の流動性および衝撃強度が悪化する傾向となる。
【0041】
アクリル系ブロック共重合体(B)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.01以上1.50未満が好ましく、1.01〜1.35がより好ましい。分子量分布が前記範囲であると、本発明の樹脂組成物を溶融成形する際の成形加工性を安定化できる。
【0042】
アクリル系ブロック共重合体(B)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0043】
アクリル系ブロック共重合体(B)の製造方法としては、各ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が好適に用いられる。かかるリビング重合としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩存在下でリビングアニオン重合する方法(特許文献7参照)、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下でリビングアニオン重合する方法(特許文献8参照)、有機希土類金属錯体を重合開始剤としてリビング重合する方法(特許文献9参照)、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として銅化合物の存在下、リビングラジカル重合する方法(非特許文献1参照)などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各重合体ブロックを構成する単量体を重合させ、本発明で用いられるアクリル系ブロック共重合体(B)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの中でも、アクリル系ブロック共重合体(B)が狭い分子量分布でかつ高純度で得られ、すなわち本発明の樹脂組成物の衝撃強度、耐熱性を低下させる要因となるオリゴマーや、流動性を低下させる要因となる高分子量体の副生を抑制できることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし、有機アルミニウム化合物の存在下で、リビングアニオン重合する方法が好ましい。
有機アルミニウム化合物としては、例えばイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス[2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)]アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチルビス[2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノキシ)]アルミニウム、トリス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウムなどを挙げられる。中でも、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウム、n−オクチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムまたはn−オクチルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノキシ)アルミニウムが、重合活性、ブロック効率等の点から特に好ましい。
【0044】
アクリル系ブロック共重合体(B)の本発明の樹脂組成物における含有量は、衝撃強度、流動性の観点から、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して0.01〜20質量部であり、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、4.8質量部以下であることが特に好ましい。また、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。アクリル系ブロック共重合体(B)の含有量が、上記範囲を超えると、本発明の樹脂組成物から得られる成形品の弾性率が低下し、十分な衝撃強度が得られない傾向となる。
【0045】
アクリル系ブロック共重合体(B)の衝撃強度改善効果は、熱可塑性樹脂組成物(A)がゴム強化樹脂を含有するものであるとより顕著に現れる。特に、ゴム強化樹脂が、芳香族ビニル単量体成分(c)、シアン化ビニル単量体成分(d)およびゴム質重合体(e)を含む共重合体であると、後述する実施例および比較例でのTEM写真で明らかなように、芳香族ビニル単量体の重合体成分(c)やシアン化ビニル単量体の重合体成分(d)およびゴム質重合体(e)が、熱可塑性樹脂組成物(A)の主成分となる樹脂(例:ポリカーボネート系樹脂)中により均一に分散され、且つ芳香族ビニル単量体の重合体成分(c)やシアン化ビニル単量体の重合体成分(d)およびゴム質重合体(e)と熱可塑性樹脂組成物(A)との相間剥離を防ぐことにより、衝撃強度が改善するものと推定される。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲において、上記した熱可塑性樹脂組成物(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)の他に、必要に応じて他の重合体や添加剤を含有していてもよい。他の重合体の例としては、コアシェル弾性重合体(f)などが挙げられ、また、添加剤の例としては、成形加工時の流動性を向上させるためのパラフィン系オイル、ナフテン系オイルなどの鉱物油軟化剤;耐熱性、耐候性等の向上または増量などを目的とする炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの無機充填剤;補強のためのガラス繊維、カーボン繊維などの無機繊維または有機繊維;熱安定剤;酸化防止剤;光安定剤;粘着剤;粘着付与剤;可塑剤;帯電防止剤;発泡剤;加工助剤;着色剤;染色剤などが挙げられる。これらの添加剤の中でも、耐熱性、耐候性をさらに良好なものとするために、熱安定剤、酸化防止剤などを添加することが実用上好ましい。
【0047】
本発明の樹脂組成物がコアシェル弾性重合体(f)を含有する場合、優れた流動性を維持したまま、より衝撃強度を向上できる場合がある。ここで、コアシェル弾性重合体(f)は、コアとなるゴム成分(f1)と、シェルとなる重合体成分(f2)を有するコア−シェル構造の重合体又は樹脂組成物である。
【0048】
該ゴム成分(f1)としては、前記ゴム質重合体(e)として挙げられるもの;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;ポリオルガノシロキサンおよびポリアルキル(メタ)アクリレートを含むシリコーン−アクリル系複合ゴム;ポリブテンゴム;ポリイソブチレンゴムあるいはこれらの混合物などが用いられる。耐候性や低温衝撃強度向上の観点から、中でも、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム;アクリル系弾性重合体;シリコーン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン−アクリル系複合ゴムが好ましく、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、シリコーン−アクリル系複合ゴムがより好ましく、シリコーン−アクリル系複合ゴムがさらに好ましい。
【0049】
ゴム成分(f1)は、平均粒子径0.03〜5.0μmであることが好ましい。この範囲であると、本発明の樹脂組成物の衝撃強度が向上できる。
【0050】
コアシェル弾性重合体(f)は、上記ゴム成分(f1)にビニル系単量体をグラフト共重合させることにより得られる。上記ビニル単量体の重合体成分がシェルとなる重合体成分(f2)である。重合体成分(f2)を構成するビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基含有ビニル系単量体;ヒドロキシ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有ビニル系単量体などが挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0051】
コアシェル弾性重合体(f)は、例えば、ゴム成分(f1)のラテックスの存在下、ビニル系単量体を一段であるいは多段でラジカル重合させ、硫酸、塩酸、リン酸等の酸や、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等の凝析剤を用いて凝析した後、熱処理等を経て固化し、さらに脱水、洗浄、乾燥することにより得られる。
【0052】
上記ゴム成分(f1)と、重合体成分(f2)を構成するビニル系単量体の割合は、コアシェル弾性重合体(f)の質量を基準にして、ゴム成分(f1)30〜95質量%、ビニル系単量体5〜70質量%が好ましく、ゴム成分(f1)40〜90質量%、ビニル系単量体10〜60質量%がより好ましい。ビニル系単量体(f1)の含有量が5質量%以上であれば、樹脂組成物中でコアシェル弾性重合体(f)が十分に分散され、70質量%以下であれば、樹脂組成物の衝撃強度が向上する。
【0053】
コアシェル弾性重合体(f)は市販されており、例えば、三菱レイヨン社製「メタブレン」S2001やW450A、ロームアンドハース社製「パラロイド」EXL2314やEXL2602を使用することができる。特開2006−002110に記載の方法で製造することもできる。
【0054】
本発明の樹脂組成物を調製する方法は特に制限されないが、該樹脂組成物を構成する各成分の分散性を高めるため、溶融混練する方法が好ましい。該調製方法としては、例えば、熱可塑性樹脂組成物(A)およびアクリル系ブロック共重合体(B)を溶融混練する方法が挙げられるが、必要に応じて上記した他の重合体または添加剤とを同時に混合しても良いし、熱可塑性樹脂組成物(A)を、上記した他の重合体または添加剤とともに混合後、アクリル系ブロック共重合体(B)を混合してもよい。溶融混練操作は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用して行なうことができる。特に、熱可塑性樹脂組成物(A)とアクリル系ブロック共重合体(B)の混練性、相容性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。溶融混練時の温度は、使用する熱可塑性樹脂組成物(A)、アクリル系ブロック共重合体(B)等の溶融温度などに応じて適宜調節することができ、通常110℃〜300℃の範囲の温度で行う。このようにして、本発明の樹脂組成物を、ペレット、粉末などの任意の形態で得ることができる。ペレット、粉末などの形態の樹脂組成物は、成形材料として使用するのに好適である。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、溶融流動性に優れ、熱可塑性樹脂に対して一般に用いられている成形加工方法や成形加工装置を用いて成形できる。例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などによって成形加工でき、型物、パイプ、シート、フィルム、繊維状物、該樹脂組成物からなる層を含む積層体等の任意の形態の成形品を得ることができる。
【0056】
本発明の樹脂組成物からなる成形品は、衝撃強度および耐熱性に優れ、電子・電気機器、OA装置、機械装置、車両など幅広い用途に使用可能である。特にノート型コンピュータ、携帯型コンピュータ、プリンタ、複写機、プロジェクタ、カメラ、携帯電話、DVDなどの光ディスクドライブのなどの筐体またはシャーシ、並びに自動車のセンターパネル、ドアハンドル、モール類、カバー類など、各種の樹脂成形品に適用できる。また、得られた成形品は、その目的に応じて印刷、塗装、メッキ、蒸着、スパッタなどの表面処理を施すことができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、実施例および比較例中の各種物性は以下の方法により測定または評価した。
【0058】
(1)数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
参考例2〜5で得られた各アクリル系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表す)により標準ポリスチレン換算分子量として求め、これより分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
・装置:東ソー社製GPC装置「HLC−8020」
・カラム:東ソー社製「TSKl GMHXL」、「G4000HXL」および「G5000HXL」を直列に連結
・溶離液:テトラヒドロフラン
・溶離液流量:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・検出方法:示差屈折率(RI)
【0059】
(2)各アクリル系ブロック共重合体における各重合体ブロックの構成割合
参考例2〜5で得られたアクリル系ブロック共重合体における各重合体ブロックの構成割合は、H−NMR測定によって求めた。
・装置:日本電子社製核磁気共鳴装置「JNM−LA400」
・溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
【0060】
(3)樹脂組成物の曲げ弾性率
実施例1〜20および比較例1〜10で得られた樹脂組成物を用いて、射出成形機により所定のシリンダー温度および金型温度で成形した、JIS K 7139に準拠した多目的試験片B形のダンベル型試験片を用い、JIS K 7171に準拠して23℃にて測定した。
【0061】
(4)成形品の衝撃強度
実施例1〜20および比較例1〜10で得られた樹脂組成物または熱可塑性樹脂を用いて、射出成形機により所定のシリンダー温度および金型温度で長さ100mm、幅10mm、厚さ4.0mmの試験片を成形し、ノッチングマシンを用いて長さ80mm、幅10mm、厚さ4.0mm、ノッチ深さ2.0mmの試験片を作成した。この試験片を用いて、JIS K 7111に準拠してノッチ付き23℃の条件でシャルピー衝撃強度を測定した。
【0062】
(5)成形品の溶融流動性
実施例1〜20および比較例1〜10で得られた樹脂組成物または熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)を、JIS K 7210に準拠して260℃、荷重2.16kg、10分の条件で測定し、溶融流動性の指標とした。
【0063】
(6)薄肉成形性(スパイラルフロー)
実施例1〜20または比較例1〜10の樹脂組成物または熱可塑性樹脂のスパイラルフロー長を、流路厚1mm、流路幅8mmのスパイラルフローの金型を使用して射出成形した場合のスパイラルフロー長を測定した。評価条件は、シリンダー温度240または260℃、金型温度60℃、射出圧力100または200MPa、射出速度20〜100mm/secで、射出成形機は住友重機械工業(株)製SE180DUを使用した。
【0064】
表1から表4に記載の記号は下記の各成分を示す。(以下、下記記号で記載する。)
・A−1:ポリカーボネート/ABS樹脂(帝人化成社製「マルチロンTN7500」)
・A−2:ポリカーボネート/ABS樹脂(Sabicイノベーティブプラスチックス社製「サイコロイC6600」)
・A’−1:ポリカーボネート/ABS樹脂(帝人化成社製「マルチロンTN7500」)を80℃95%RHで168時間放置し、加水分解を促進した樹脂(リサイクルされた樹脂とみなす)
・A’−2:ポリカーボネート/ABS樹脂(Sabicイノベーティブプラスチックス社製「サイコロイC6600」を80℃、95%RHで168時間放置し、加水分解を促進した樹脂(リサイクルされた樹脂とみなす)
上記A−1、A−2、A’−1およびA’−2の曲げ弾性率、メルトフローレートおよびメルトフローレート比(A’/A)は表1のとおりである。
【0065】
【表1】

【0066】
[参考例1] [有機アルミニウム化合物:イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムの調製]
ナトリウムで乾燥後、アルゴン雰囲気下で蒸留して得た乾燥トルエン25mlと、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール11gを、内部をアルゴンで置換した内容積200mlのフラスコ内に添加し、室温で攪拌しながら溶解した。得られた溶液にトリイソブチルアルミニウム6.8mlを添加し、80℃で約1時間攪拌することで、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを0.7mmol/gの濃度で含有するトルエン溶液を調製した。
【0067】
[参考例2] [アクリル系ブロック共重合体(B−1)の合成]
容量2リットルの三口フラスコの内部を窒素で置換し、室温にて乾燥トルエン1040g、1,2−ジメトシキエタン100g、参考例1の方法で得られたイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム21mmolを含有するトルエン溶液30gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム8.0mmolを加えた。この混合液にメタクリル酸メチル52gを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料1)。引き続き反応液の内部温度を−25℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル347gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液0.1gを採取した(サンプリング液2)。続いて、メタクリル酸メチル52gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌した。反応液にメタノールを4g添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールに注ぎ、析出した沈殿物を得た(サンプリング試料3)。サンプリング試料1〜3を用いて、H−NMR測定、GPC測定を行い、その結果に基づいて、得られたアクリル系ブロック共重合体(B−1)のMw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの重量比等を求めたところ、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体(PMMA−b−PnBA−b−PMMA)であって、そのPMMAブロック部のMwは8,900、Mw/Mnは1.05であり、また、アクリル系ブロック共重合体(B−1)全体のMwは76,000、Mw/Mnは1.08であり、各重合体ブロックの割合はPMMA(12質量%)−PnBA(76質量%)−(12質量%)であった。
【0068】
[参考例3] [アクリル系ブロック共重合体(B−2)の合成]
容量2リットルの三口フラスコの内部を窒素で置換し、室温にて乾燥トルエン1040g、1,2−ジメトシキエタン100g、参考例1の方法で得られたイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム46mmolを含有するトルエン溶液66gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム10mmolを加えた。この混合液にメタクリル酸メチル68gを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料4)。引き続き反応液の内部温度を−25℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル249gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液0.1gを採取した(サンプリング液5)。続いて、メタクリル酸メチル68gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌した。反応液にメタノールを4g添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールに注ぎ、析出した沈殿物を得た(サンプリング試料6)。サンプリング試料4〜6を用いて、H−NMR測定、GPC測定を行い、その結果に基づいて、得られたアクリル系ブロック共重合体(B−2)のMw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの重量比等を求めたところ、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体(PMMA−b−PnBA−b−PMMA)であって、そのPMMAブロック部のMwは9,700、Mw/Mnは1.07であり、また、アクリル系ブロック共重合体(B−2)全体のMwは65,000、Mw/Mnは1.11であり、各重合体ブロックの割合はPMMA(15質量%)−PnBA(70質量%)−(15質量%)であった。
【0069】
[参考例4] [アクリル系ブロック共重合体(B−3)の合成]
容量2リットルの三口フラスコの内部を窒素で置換し、室温にて乾燥トルエン1040g、1,2−ジメトシキエタン100g、参考例1の方法で得られたイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム46mmolを含有するトルエン溶液66gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム10mmolを加えた。この混合液にメタクリル酸メチル69gを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料7)。引き続き反応液の内部温度を−25℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル194gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液0.1gを採取した(サンプリング液8)。続いて、メタクリル酸メチル173gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌した。反応液にメタノールを4g添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールに注ぎ、析出した沈殿物を得た(サンプリング試料9)。サンプリング試料7〜9を用いて、得られたアクリル系ブロック共重合体(B−3)のH−NMR測定、GPC測定を行い、その結果に基づいて、Mw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの重量比等を求めたところ、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体(PMMA−b−PnBA−b−PMMA)であって、そのPMMAブロック部のMwは98,000、Mw/Mnは1.07であり、また、アクリル系ブロック共重合体(B−3)全体のMwは70,000、Mw/Mnは1.13であり、各重合体ブロックの割合はPMMA(14質量%)−PnBA(50質量%)−(36質量%)であった。
【0070】
[参考例5] [アクリル系ブロック共重合体(B−4)の合成]
容量2リットルの三口フラスコ内部を窒素で置換し、室温にて乾燥トルエン1040g、1,2−ジメトシキエタン100g、参考例1の方法で得られたイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム46mmolを含有するトルエン溶液66gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム10mmolを加えた。この混合液にメタクリル酸メチル69gを加え、室温で1時間反応させた後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料10)。引き続き反応液の内部温度を−25℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル492gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液0.1gを採取した(サンプリング液11)。続いて、メタクリル酸メチル69gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌した。反応液にメタノールを4g添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールに注ぎ、析出した沈殿物を得た(サンプリング試料12)。サンプリング試料10〜12を用いて、アクリル系ブロック共重合体(B−4)のH−NMR測定、GPC測定を行い、その結果に基づいて、Mw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)ブロックとアクリル酸n−ブチル重合体(PnBA)ブロックの重量比等を求めたところ、PMMAブロック−PnBAブロック−PMMAブロックからなるトリブロック共重合体(PMMA−b−PnBA−b−PMMA)であって、そのPMMAブロック部のMwは98,000、Mw/Mnは1.06であり、また、アクリル系ブロック共重合体(B−4)全体のMwは111,000、Mw/Mnは1.10であり、各重合体ブロックの割合はPMMA(9質量%)−PnBA(80質量%)−(11質量%)であった。
【0071】
上記アクリル系ブロック共重合体(B−1)〜(B−4)の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn、アクリル酸n−ブチル単位含量(重合体ブロック(b1)のアクリル系ブロック共重合体(B)に対する割合)を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
[実施例1〜23、比較例1〜12]
熱可塑性樹脂組成物(A−1)、(A−2)、(A’−1)および(A’−2)と、上記参考例で得られたアクリル系ブロック共重合体(B−1)〜(B−4)と、コアシェル型耐衝撃改質剤(三菱レイヨン株式会社製「メタブレンS2001」)とを、下記の表3、表4に示す配合割合で、二軸押出機により230℃で溶融混練した後、押出し、切断することによって、樹脂組成物のペレットを製造した。この樹脂組成物およびその成形品の耐衝撃性、溶融流動性、薄肉成形性を上記した方法で評価した。結果を表3および表4に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
表3および表4より、実施例1〜23の樹脂組成物から得られる成形品は、比較例1,2の樹脂(A−1)または(A−2)のみの場合に対して、衝撃強度および流動性に優れる。中でも実施例2、実施例4および実施例7〜17の樹脂組成物は、より顕著に向上した。また、実施例2および実施例4と実施例6、実施例10および実施例12と実施例14をそれぞれ比較すると、アクリル系ブロック共重合体(B)として重合体ブロック(b1)が40質量%より多いものを用いた場合、衝撃強度および流動性がより優れることがわかる。また、実施例2と実施例8、または実施例10と実施例16をそれぞれ比較すると、アクリル系ブロック共重合体(B)として重量平均分子量(Mw)が100,000以下のものを用いた場合、衝撃強度と流動性により優れることがわかる。
【0077】
また、実施例1〜5および実施例7〜17の樹脂組成物は、アクリル系ブロック共重合体(B)の代わりに「メタブレン」S2001(三菱レイヨン社製)を用いた比較例3〜7の樹脂組成物と比べて、高い流動性を有し、かつその成形品は同等の衝撃強度を有している。
【0078】
また、実施例18〜23のリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’−1)または(A’−2)を含有する樹脂組成物およびそれから得られる成形品は、比較例8または比較例9のリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’−1)または(A’−2)のみの場合に対し、流動性および衝撃強度に優れる。中でも実施例22および実施例23の樹脂組成物は、より顕著に向上した。また、実施例18〜20および実施例22〜23の樹脂組成物は、アクリル系ブロック共重合体(B)の代わりに「メタブレン」S2001(三菱レイヨン社製)を同じ割合で使用した比較例11〜12の場合と比較して高い流動性を有し、その成形品は同等以上の衝撃強度を有していた。
【0079】
実施例18〜23の樹脂組成物およびそれから得られた成形品は、熱可塑性樹脂組成物(A−1)または(A−2)のバージン原料のみからなる比較例1または比較例2と比較して、流動性および衝撃強度に優れていた。
【0080】
また、実施例1〜4、実施例6、実施例8および実施例18〜21の樹脂組成物は、比較例1、比較例3〜5、比較例8および比較例10〜11よりも、優れた薄肉成形性を有する。さらに、実施例1〜4の240℃における薄肉成形性は、熱可塑性樹脂組成物(A)のみからなる比較例1および比較例3〜5の260℃における薄肉成形性よりも優れており、アクリル系ブロック共重合体(B)を含んでいると、成形温度を従来よりも下げられることが分かる。同様に、実施例18〜20の240℃における薄肉成形性は、リサイクルされた樹脂組成物(A’)からなる比較例8および比較例10〜11の260℃における薄肉成形性よりも優れており、アクリル系ブロック共重合体(B)を含んでいると、成形温度を従来よりも下げることができることが分かった。すなわち、成形品の熱劣化を防ぐことができる。さらに、実施例21のようにアクリル系ブロック共重合体(B)とコアシェル弾性重合体(f)を添加することで、優れた流動性を保持しながら、アクリル系ブロック共重合体(B)のみを添加したときより、さらに衝撃強度に優れる成形品を得られた。
【0081】
また、図1は、実施例2の樹脂組成物からなる成形品のTEM画像であり、図2は比較例1のTEM画像である。これらの図より、実施例2においては比較例1より、内部のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体が小さな分散径で分散し、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体中のアクリロニトリル−スチレン共重合体成分の界面にアクリル系ブロック共重合体(B)由来の成分が存在していることが確認された。このことから、アクリル系ブロック共重合体(B)により、熱可塑性樹脂組成物(A)中の成分が均一に分散し、それが衝撃強度や流動性、薄肉成形性などの成形性に寄与していると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の樹脂組成物からなる成形品は、衝撃強度、流動性および耐熱性に優れ、電子・電気機器、OA装置、機械装置、車両など幅広い用途に使用可能である。特にノート型コンピュータ、携帯型コンピュータ、プリンタ、複写機、プロジェクタ、カメラ、携帯電話、DVDなどの光ディスクドライブのなどの筐体またはシャーシ、並びに自動車のセンターパネル、ドアハンドル、モール類、カバー類など、各種の樹脂成形品に適用できる。また、得られた成形品は、その目的に応じて印刷、塗装、メッキ、蒸着、スパッタなどの表面処理を施すことができる。
【符号の説明】
【0083】
1.アクリル系ブロック共重合体(B)
2.ポリカーボネート樹脂
3.アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体中のアクリロニトリル−スチレン共重合体成分
4.アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体中のポリブタジエン成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率が2000MPa以上である熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対し、アクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を有するアクリル系ブロック共重合体(B)を0.01〜20質量部含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、ゴム強化樹脂を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)が、リサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)であり、バージン原料の熱可塑性樹脂組成物(A)とリサイクルされた熱可塑性樹脂組成物(A’)の260℃、2.16kgfでのメルトフローレートの比(A’/A)が2.00以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)がポリカーボネート系樹脂を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)がポリカーボネート系樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、コアシェル弾性重合体(f)を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対するアクリル系ブロック共重合体(B)の含有量が0.1〜4.8質量部である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
筐体である、請求項7に記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−36019(P2013−36019A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238507(P2011−238507)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】