説明

樹脂複合材

【課題】 容易に複合化でき,かつ適用範囲の広い樹脂複合材を製造することができる樹脂複合材を提供すること。
【解決手段】 2種以上のポリマーと有機化クレイとからなる。2種以上のポリマーA103,B104のうち,少なくとも1種が官能基を有する。ポリマーA,Bが相溶性であるか,又は非相溶性であるか,更に後者の場合にはマトリックス821を構成するポリマーAかミセル822を構成するポリマーBのいずれに官能基が形成されているかによって有機化クレイ3の分散状態(モルフォロジー)が変わる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は,弾性率等の物性を改良するための樹脂複合材に関する。
【0002】
【従来技術】従来より,有機高分子材料の機械的特性を改良するために,クレイの添加,混合が検討されている。例えば,ナイロン,ビニル系高分子,エポキシなどの熱硬化性高分子,又はゴムに,クレイを分散させる方法がある(特開昭62−74957号公報,特開平1−198645号公報,E.P.GiannelisらChem.Mater.5,1694−1696(1993)等)。これらは,クレイを有機オニウムイオンで有機化し粘土層間でモノマーの重合を開始させる方法,クレイを成長種に組み込む方法,或いはクレイを重合物と混練してポリマーを層間に入れる方法である。
【0003】
【解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の粘土複合材料においては,クレイは,非極性ポリマーとなじみが悪い。そのため,クレイの層間に非極性ポリマーを入れて,層間を拡張させるのは,容易ではない。そのため,非極性ポリマーにクレイを均一に分散させることは困難であった。また,ポリスチレン等のように,クレイ層間にインターカレートする場合でも,1層程度しかインターカレートすることはできず,層間膨潤にも限界がある。
【0004】かかる問題に対処すべく,我々は,図5に示すごとく,クレイ7を有機オニウムイオン6により有機化して有機化クレイ3となし,これを,極性基910を有するゲスト分子91の中に分散させることを提案した(特開平8−333114号公報)。
【0005】本発明は,容易に複合化でき,かつ適用範囲の広い樹脂複合材を製造することができる樹脂複合材を提供しようとするものである。
【0006】
【課題の解決手段】本発明は,2種以上のポリマーと有機化クレイとからなり,上記2種以上のポリマーのうち,少なくとも1種が官能基を有することを特徴とする樹脂複合材である。
【0007】本発明の樹脂複合材は,少なくとも1種のポリマーが官能基を有するため,この官能基が,親水性の有機化クレイと相互に作用し合い,官能基を有するポリマーの中に有機化クレイが分子レベルで分散する。
【0008】ここに本発明において最も特徴とする点は,2種以上のポリマーが,互いに相溶性を有するか,又は非相溶性かによって,有機化クレイの分散状態が変わることにある。
【0009】2種以上のポリマーが相溶性を有する場合には,図1に示すごとく,これらのポリマーA100,ポリマーB101が相溶した相溶性マトリックス81が形成される。そして,相溶性マトリックス81の中には,少なくとも1種のポリマーが官能基を有している。そのため,この官能基が,親水性の有機化クレイ3と相互に作用し合い,相溶性マトリックス81の中に有機化クレイ3が分子レベルで均一に分散する。
【0010】一方,2種以上のポリマーが非相溶性の場合には,図2(O)に示すごとく,同種のポリマーA,B同志が集合することにより,一方のポリマーA103をマトリックス821として,他方のポリマーB104が該マトリックス821の中にミセル822を形成する。これにより,2種以上の非相溶性ポリマーからなる非相溶性マトリックス82が形成される。その状態は,「海」(マトリックス)と,その中に浮かぶ「島」(ミセル)とからなる海島構造に喩えることができる。
【0011】そして,この非相溶性マトリックスの中における,マトリックスとしてのポリマー,又はミセルとしてのポリマーの少なくともいずれかが,有機化クレイと親水性の高い官能基を有する。この官能基が有機化クレイと相互に作用し合い,官能基を有するポリマーに有機化クレイが分子レベルで分散する。
【0012】即ち,図2(A)に示すごとく,非相溶性マトリックス82の中のマトリックス821を構成しているポリマーA103が官能基を有する場合には,有機化クレイ3はマトリックス821の中に分散する。
【0013】また,図2(B)に示すごとく,マトリックス821を構成しているポリマーA103,及びミセル822を構成しているポリマーB104の双方が,官能基を有する場合には,有機化クレイ3はマトリックス821及びミセル822の双方の中に分散する。
【0014】また,図2(C)に示すごとく,非相溶性マトリックス82の中のミセル822を構成しているポリマーB104が官能基を有する場合には,有機化クレイ3はミセル822の中に分散する。
【0015】このように,2種以上のポリマーが相溶性であるか,又は非相溶性であるか,更に後者の場合にはマトリックスを構成するポリマー又はミセルを構成するポリマーのどちらに官能基が形成されていることによって,有機化クレイの分散状態(モルフォロジー)が変わる。そのため,このような分散状態の差は,樹脂複合材の物性に大きな影響を与える。
【0016】次に,本発明の樹脂複合材の詳細について説明する。官能基を有するポリマーとしては,例えば,官能基を有する共重合ポリマー,ポリマーの変性により官能基を導入してなる変性ポリマー等がある。まず,官能基を有する共重合ポリマーについて説明する。官能基を有する共重合ポリマーとは,図3に示すごとく,官能基10を有する官能基モノマー11と,官能基モノマー11と共重合可能なモノマー12との共重合体をいう。
【0017】共重合ポリマーの形態は,官能基モノマーの共重合ポリマー中での分布の形態は特に制限はない。図3に示すごとく,官能基モノマー11が不規則(ランダム)に分布しているランダム共重合体(図3(a))であっても,官能基モノマーからなるオリゴマーと共重合可能なオリゴマーとが交互に結合した交互共重合体(図3(c))であってもよく,また図3(b)に示すように官能基モノマー11が複数連なって分布していてもよい。一般に,共重合ポリマー中での官能基モノマーの量が多くなると必然的にブロック性が高まる。また,共重合ポリマーは,重合可能な基を2つ以上有するモノマーの存在により,分岐構造を有していてもよい。
【0018】官能基は,クレイ層間にインターカレートすることができる官能基であれば良い。クレイ層間にインターカレートできるかを判断するには,官能基モノマーと有機化クレイとを混合し,X線回折により有機化クレイの層間距離を測定すれば良い。インターカレートした場合には,有機化クレイの層間距離が広がる。
【0019】例えば,インターカレート可能な官能基としては,酸無水物基,カルボン酸基,水酸基,チオール基,エポキシ基,ハロゲン基,エステル基,アミド基,ウレア基,ウレタン基,エーテル基,チオエーテル基,スルホン酸基,ホスホン酸基,ニトロ基,アミノ基,ウレア基,エーテル基,チオエーテル基,スルホン酸基,ホスホン酸基,ニトロ基,アミノ基,オキサゾリン基,イミド基等の官能基,又はベンゼン環,ピリジン環,ピロール環,フラン環,チオフェン環等の芳香環があげられる。
【0020】官能基モノマーは,上記官能基を有する重合可能なモノマーであれば特に制限はない。官能基は,モノマー中に1つ又は2以上存在する。2以上存在する場合には,その官能基が同一のものであってもよいし,異なっていてもよい。例えば,かかる官能基を有するモノマーには,メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,プロピル(メタ)アクリレート等のアクリルモノマー,アクリル(メタ)アミド,メチル(メタ)アミド,エチル(メタ)アミド等のアクリルアミド,(メタ)アクリル酸,無水マレイン酸,マレインイミド等のように不飽和炭素を有する化合物,スチレン,ビニルピリジン,ビニルチオフェン等のようにベンゼン環,ピリジン環,チオフェン環等の芳香環を有するモノマー等があげられる。また,官能基モノマーは,一分子中に重合可能な基(例えば,ビニル基)を2つ以上有するモノマーであってもよい。
【0021】官能基モノマーと共重合可能なモノマーは,例えば,エチレン,プロピレン,ブテン,ペンテン等の二重結合を有する炭化水素化合物,アセチレン,プロピレン等の三重結合を有する炭化水素化合物,又はブタジエン,イソプレン等の2つ以上の共役した不飽和結合を有する炭化水素化合物であり,これらの炭素鎖中には分岐構造又は環状構造を有していてもよい。
【0022】また,上記モノマーは,官能基モノマーとの組合せにより,メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,プロピル(メタ)アクリレート等のアクリルモノマー,アクリル(メタ)アミド,メチル(メタ)アミド,エチル(メタ)アミド等のアクリルアミドでも良いし,スチレン,メチルスチレン等のような芳香環を有するモノマーでも良い。この場合,メチルスチレン等のような芳香環が置換基を含んでいてもよい。また,一分子中に重合可能な基を2つ以上有するモノマーであってもよい。
【0023】モノマーの組合せ方として,よりクレイ層との相互作用の大きいモノマーが官能基モノマーとして定義される。例えば,エチレン−スチレン共重体の場合は,クレイ層との相互作用の大きいスチレンが官能基モノマーとなる。スチレン−ビニルオキサゾリン共重体の場合は,より相互作用の大きいビニルオキサゾリンが官能基モノマーとなる。
【0024】次に,上記変性ポリマーについて説明する。変性ポリマーとは,図4(a)に示すポリマー102の変性により,図4(b)に示すごとく,その側鎖又は主鎖に官能基10を導入したものである。ポリマーとしては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリペンテン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−ブテン共重合体,ポリブタジエン,ポリイソプレン,水添ポリブタジエン,水添ポリイソプレン,エチレン−プロピレン−ジエン共重合体,エチレン−ブテン−ジエン共重合体,ブチルゴム,ポリスチレン,スチレン−ブタジエン共重合体,スチレン−水添ブタジエン共重合体,ポリアミド,ポリカーボネート,ポリアセタール,ポリエステル,ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエーテルケトン,ポリアリレート,ポリメチルペンテン,ポリフタルアミド,ポリエーテルニトリル,ポリエーテルサルホン,ポリベンズイミダゾール,ポリカルボジイミド,ポリ4フッ素化エチレン,フッ素樹脂,ポリアミドイミド,ポリエーテルイミド,液晶ポリマー,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,ジアリルフタレート樹脂,フェノール樹脂,ポリシラン,ポリシロキサン,シリコーン樹脂,ウレタン樹脂等のポリマーを用いることができる。
【0025】変性により導入される官能基は,クレイ層間にインタカレートすることができる官能基であれば良い。クレイ層間にインタカレートできるかどうかを判断するには,その官能基を有する化合物と有機化クレイとを混合し,X線回析により有機化クレイの層間距離を測定すれば良い。インタカレートした場合には,有機化クレイの層間距離が広がる。上記官能基としては,例えば,酸無水物基,カルボン酸基,水酸基,チオール基,エポキシ基,ハロゲン基,エステル基,アミド基,ウレア基,ウレタン基,エーテル基,チオエーテル基,スルホン酸基,ホスホン酸基,ニトロ基,アミノ基,オキサゾリン基等の官能基,又はベンゼン環,ピリジン環,ピロール環,フラン環,チオフェン環等の芳香環を用いることが好ましいが,これに限定されるものではない。これにより,変性ポリマーの中での有機化クレイの分散性が更に向上する。ポリスチレン等のように官能基を有しているポリマーの場合,変性により導入する官能基は,よりクレイ層と相互作用の大きいものを用いることが好ましい。
【0026】次に,2種以上のポリマーの組み合わせについて,ポリマーが相溶性の場合と非相溶性の場合に分けて詳細に説明する。
ポリマーが相溶性の場合2種以上のポリマーは,互いに相溶し合うものであれば,特に限定しないが,例えば,以下の組み合わせがある。第1に,官能基を有するポリマーとそれ以外のポリマーとの組み合わせは,主鎖の構造が互いに同一又は類似であることが好ましい。これにより,2種以上のポリマーは互いに相溶しやすくなる。具体的には,上記変性ポリマーと未変性ポリマーとの組み合わせが考えられる。ただし,この場合,変性ポリマーの変性量が多すぎると非相溶となるので気をつける必要がある。変性ポリマーの変性量はポリマーの種類により差があるため,特に限定はできない。未変性ポリマーと変性ポリマーとの組み合わせとしては,例えば,ポリエチレン(以下,PEという。)と変性PE,ポリプロピレン(以下,PPという。)と変性PP,エチレンプロピレンラバー(以下,EPRという。)と変性EPR等があるが,これらに限定されない。
【0027】第2に,官能基を有するポリマーとそれ以外のポリマーの組み合わせとして,一方のポリマーと,そのポリマーが有する構成と同一の構成部分を有する他方のポリマーとの組み合わせがある。この組み合わせとしては,上記官能基を有する共重合ポリマーと,該共重合ポリマーと相溶性を有するポリマーとの組み合わせがあり,その具体例としては,例えば,エチレン−アクリル酸共重合体とPE,エチレン−メチルアクリレート共重合体とPE等があるが,これらに限定されない。ただし,この場合にも,アクリル酸やメチルアクリレートのような異種モノマーの量が多すぎると,非相溶になるので気をつける必要がある。異種モノマーの量は,ポリマーの種類により差があるので,特に限定はできない。
【0028】第3に,官能基を有するポリマーとそれ以外のポリマーとは,主鎖の構造が異なっていても,相溶性であれば問題はない。例えば,ポリフェニレンオキサイド(以下,PPOという。)とポリスチレン,ポリスチレンとポリビニルメチルエーテル,ポリビニルクロライドとポリカプロラクトン,PMMA(ポリメチルメタクリレ─ト)とポリフッ化ビニリデン,ポリカーボネートとMMA(メチルメタクリレート)共重合体等の組み合わせがある。
【0029】ポリマーが非相溶性の場合2種以上のポリマーは,互いに相溶し合わないものであれば,特に限定しないが,例えば,以下の組み合わせがある。官能基を有するポリマーとそれ以外のポリマーとの組み合わせとしては,例えば,一方が官能基を有する上記共重合ポリマー又は上記変性ポリマーであり,他方はこれらのポリマーと相溶し合わないポリマーの組み合わせがある。
【0030】上記共重合ポリマー及び上記変性ポリマーと相溶し合わないポリマーとしては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリペンテン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−ブテン共重合体,ポリブタジエン,ポリイソプレン,水添ポリブタジエン,水添ポリイソプレン,エチレン−プロピレン−ジエン共重合体,エチレン−ブテン−ジエン共重合体,ブチルゴム,ポリスチレン,スチレン−ブタジエン共重合体,スチレン−水添ブタジエン共重合体,ポリアミド,ポリカーボネート,ポリアセタール,ポリエステル,ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエーテルケトン,ポリアリレート,ポリメチルペンテン,ポリフタルアミド,ポリエーテルニトリル,ポリエーテルサルホン,ポリベンズイミダゾール,ポリカルボジイミド,ポリ四フッ素化エチレン,フッ素樹脂,ポリアミドイミド,ポリエーテルイミド,液晶ポリマー,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,ジアリルフタレート樹脂,フェノール樹脂,ポリシラン,ポリシロキサン,シリコーン樹脂,ウレタン樹脂等のポリマーがあるが,これらに限定されない。
【0031】相溶性及び非相溶性のいずれの場合にも,2種以上のポリマーのいずれに官能基が形成されていてもよい。相溶性及び非相溶性の場合における,ポリマーの数平均分子量は,5,000〜10,000,000であることが好ましい。5,000未満の場合には,樹脂複合材の機械的物性が低下するおそれがある。また,10,000,000を超える場合には,樹脂複合材の加工性に問題が生ずるおそれがある。更に好ましくは,ポリマーの数平均分子量は,10,000〜1,000,000である。これにより,樹脂複合材の機械的物性及び加工性が更に向上する。
【0032】図5に示すごとく,有機化クレイ3とは,有機オニウムイオン6がクレイ7の表面にイオン結合することにより,有機化したクレイをいう。クレイは,炭素数6以上の有機オニウムイオンとイオン結合して有機化されていることが好ましい。炭素数が6未満の場合には,有機オニウムイオンの親水性が高まり,ポリマーとの相溶性が低下するおそれがあるからである。上記有機オニウムイオンとしては,例えば,ヘキシルアンモニウムイオン,オクチルアンモニウムイオン,2−エチルヘキシルアンモニウムイオン,ドデシルアンモニウムイオン,ラウリルアンモニウムイオン,オクタデシルアンモニウムイオン,ステアリルアンモニウムイオン,ジオクチルジメチルアンモニウムイオン,トリオクチルアンモニウムイオン,ジステアリルジメチルアンモニウムイオン,又はラウリン酸アンモニウムイオンを用いることができる。
【0033】クレイとしては,ポリマーとの接触面積が大きいものを用いることが好ましい。これにより,クレイの層間を大きく膨潤させることができる。具体的には,クレイの陽イオンの交換容量は,50〜200ミリ等量/100gであることが好ましい。50ミリ等量/100g未満の場合には,オニウムイオンの交換が十分に行われず,クレイの層間を膨潤させることが困難な場合がある。一方,200ミリ等量/100gを越える場合には,クレイの層間の結合力が強固となり,クレイの層間を膨潤させることが困難な場合がある。
【0034】上記クレイとしては,例えば,モンモリロナイト,サポナイト,ヘクトライト,バイデライト,スティブンサイト,ノントロナイトなどのスメクタイト系クレイ,バーミキュライト,ハロイサイト,又はマイカがある。天然のものでも,合成されたものでもよい。
【0035】有機オニウムイオンは,クレイのイオン交換容量の0.3〜3当量用いることが好ましい。0.3当量未満ではクレイ層間を膨潤させることが困難となる場合があり,3当量を越える場合はポリマーの劣化の原因となり,樹脂複合材の着色原因となるおそれがある。更に好ましくは,有機オニウムイオンは,クレイのイオン交換容量の0.5〜2当量用いる。これにより,クレイ層間を更に膨潤させることができ,また樹脂複合材の劣化,変色をより一層防止できる。
【0036】有機化クレイの添加量は,2種以上のポリマーの合計量100重量部に対して,0.01〜200重量部であることが好ましい。これにより,樹脂複合材の機械的強度が向上する。一方,0.01重量部未満の場合には,有機化クレイの添加による機械的強度の向上が認められないおそれがある。また,200重量部を超える場合には,樹脂複合材の粘性が高くなりすぎ成形性が低下するおそれがある。
【0037】更に,0.1〜100重量部であることが好ましい。これにより,機械的物性と成形性のバランスのとれた樹脂複合材が得られる。特に,0.1〜30重量部であることが好ましい。
【0038】有機化クレイは,共重合ポリマーの中で1μm以下の大きさで分散していることが好ましい。これにより,樹脂複合材の機械的物性が向上する。また,ポリマーがクレイ層間に介入(インターカレート)していることが好ましい。これにより,クレイ表面とポリマーとの界面が大きくなり,クレイがポリマーを補強する効果が増加する。上記インターカレートとは,有機化クレイがポリマーとの複合化により有機化クレイの層間距離が,複合化前の有機化クレイの層間距離よりも広くなっている状態をいう。この状態は,例えば,X線回折により観察できる。
【0039】ポリマーによる複合化の後には,複合化の前よりも,有機化クレイの層間距離が10Å以上拡大していることが好ましい。更に好ましくは,当該層間距離が30Å以上拡大している。特に好ましくは100Å以上拡大している。これにより,有機化クレイにより高速されるポリマーの割合が増え,有機化クレイの補強効果が増大する。
【0040】また,有機化クレイの層構造が消失し,単層で分子分散していることが特に好ましい。これにより,有機化クレイにより拘束されるポリマーの割合が一層大きくなり,有機化クレイの補強効果が増加する。ただし,この場合でも,樹脂複合材の物性低下を来さない範囲において数層程度の積層状態のものが存在していても構わない。
【0041】次に,上記樹脂複合材の製造方法としては,例えば,2種以上のポリマーと有機化クレイとを混合する方法がある。混合の順序は,有機化クレイと2種以上のポリマーとを同時に混合してもよいし,またポリマーと有機化クレイとを任意の順序で混合してもよい。
【0042】この混合は,例えば,有機溶媒又はオイル等の溶媒の中で行い,その後溶媒を除去することにより行う。これにより,有機化クレイの分散性が向上する。また,上記の混合は,共重合体と有機化クレイとをポリマーの軟化点,融点以上に加熱することにより行う。更に好ましくは,この際にせん断力を与えることが好ましい。これにより,有機化クレイをポリマーの中に均一に分散させることができる。特に,押出機を用いてせん断力を与えながら,溶融混練することが好ましい。
【0043】この製造方法を行うことにより,官能基を有するポリマーの中に有機化クレイが微分散する。また,優れた機械的強度,特に弾性率等の機械的物性を有する樹脂複合材を得ることができる。
【0044】その理由は,以下のように考えられる。即ち,官能基を有するポリマーは,層構造を有する有機化クレイの添加混合により,有機化クレイの層間に入り込む。ポリマーの官能基は,クレイ表面と親和性が高いため,ポリマーは,有機化クレイの層間に安定して留まる。これにより,ポリマーが有機化クレイの層間に介入してなる層間化合物が得られる。また,溶融混練の際に加わるせん断力により,有機化クレイが分子レベルで分散する。
【0045】本発明の樹脂複合材の用途としては,例えば,射出成形品,押出成形品,フィルム材料がある。
【0046】
【発明の実施の形態】
実施形態例1本発明の実施形態例にかかる樹脂複合材について,図2(C)を用いて説明する。本例の樹脂複合材は,2種以上のポリマーと有機化クレイとからなる。2種のポリマーは,その一方が官能基を有するポリマーであり,他方が官能基を有しないポリマーであり,両ポリマーは非相溶性である。
【0047】次に,本例の樹脂複合材について説明する。
■有機化クレイの作製まず,層状粘土鉱物として,クニミネ工業製Na−モンモリロナイト(商品名:クニピアF)を準備した。Na−モンモリロナイト80gを,80℃の水5000mlに分散させた。ステアリルアミン28.5g及び濃塩酸11mlを,80℃の水2000mlに溶解し,この溶液を上記のNa−モンモリロナイト分散液中に加えた。これにより生成した沈殿物をろ過し,80℃の水で3回洗浄し,凍結乾燥することによりステアリルアンモニウムで有機化されたモンモリロナイトを得た。以下,これをC18−Mtと略する。灼残法より求めたC18−Mt中の無機分は,68%であった。X線回折法により求めたC18−Mtの層間距離は,22Åであった。
【0048】■ポリマーの準備次いで,官能基を有するポリマーとして,変性EPR(三井石油化学社製,商品名:タフマーMP0610,以下これを変性EPRという。)を準備した。変性EPRの無水マレイン酸による変性量は,0.04mmol/gであった。一方,官能基を有しないポリマーとして,ホモPP(三菱化学製,商品名:MA2,以下これをホモPPという。)を準備した。
【0049】■樹脂複合材の作製次いで,ホモPP(700g),変性EPR(300g)及びC18−Mt(15g)を,2軸押出機を用い200℃で溶融混練した。これにより,本例の樹脂複合材を得た。
【0050】次に,得られた樹脂複合材について,C18−Mtの分散状態を観察した。観察方法は,本例の樹脂複合材を成形して試験片となし目視,光学顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いて,クレイ(モンモリロナイト)の分散状態を観察した。
【0051】その結果,図2(C)に示すごとく,一方のポリマーであるホモPPがマトリックス821を構成し,他方のポリマーである変性EPRが該マトリックス821の中にミセル822を形成していた。その状態は,「海」(マトリックス)と,その中に浮かぶ「島」(ミセル)とからなる海島構造に喩えることができる。この海島構造は,ホモPPと変性EPRとが非相溶性であるため,同種のもの同志が集合したために形成されたものである。
【0052】そして,この非相溶性マトリックス82の中における,ミセル822の中に有機化クレイ3が分散していた。これは,ミセルとしてのポリマー(変性EPR)が,有機化クレイと親水性の高い官能基(無水マレイン酸基)を有する。そのため,この官能基が有機化クレイと相互に作用し合い,官能基を有するポリマーからなるミセルに有機化クレイ(C18−Mt)が分散したためであると考えられる。
【0053】実施形態例2本例の樹脂複合材は,官能基を有しないポリマーとして,ブチルゴム(日本合成ゴム社,商品名;Butyl 268製)を用いて作製したものである。即ち,このブチルゴム(600g)を,実施形態例1で用いた変性EPR(400g)及びC18−Mt(15g)とともに,2軸混練機を用いて120℃で溶融混練した。なお,変性EPRの無水マレイン酸変性量は0.04mmol/gである。これにより,本例の樹脂複合材を得た。
【0054】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にC18−Mtの分散状態を観察した。また,樹脂複合材のSEM(電子走査顕微鏡)写真を図6に示した。この写真からもわかるように,ブチルゴムと変性EPRとは非相溶性であり海島構造をとっている。そして,島(ミセル)に相当する変性EPRの中にだけ,C18−Mtがナノメーターオーダーで分散していた(図2(C)参照)。なお,同写真の中で黒い部分が変性EPR相である。
【0055】実施形態例3本例の樹脂複合材は,非相溶性の2種のポリマーとして,無水マレイン酸変性PPとEPRとを用いて作製したものである。無水マレイン酸変性PPとしては,エクソン社製の商品名PO1015を用いた。以下,これを,変性PPという。この変性PPの無水マレイン酸変性量は,0.02mmol/gであった。また,EPRとしては,住友化学製V0131を用いた。
【0056】樹脂複合材を製造するにあたっては,上記の変性PP(700g)及びEPR(300g)を,実施形態例1で用いたC18−Mt(35g)とともに,2軸混練機を用い200℃で溶融混練した。
【0057】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にC18−Mtの分散状態を観察した。その結果,樹脂複合材は,図2(A)に示す非相溶性マトリックス82を形成していた。変性PPはマトリックス821を,EPRはミセル822を形成していた。そして,有機化クレイ3であるC18−Mtは,マトリックス821を構成している変性PP相の中にナノメーターオーダーで分散していた。
【0058】実施形態例4本例の樹脂複合材は,非相溶性の2種のポリマーとして,変性PPと変性EPRとを用いて作製したものである。変性PPとしては,実施形態例3で用いた変性PP(エクソン社製の商品名PO1015)を用いた。変性EPRとしては,実施形態例1で用いた変性EPR(三井石油化学社製,商品名:タフマーMP0610)を用いた。変性PP及び変性EPRは,ともに無水マレイン酸基を有している。無水マレイン酸変性量は,変性PPは0.02mmol/gであり,変性EPRは0.04mmol/gである。
【0059】樹脂複合材を製造するにあたっては,上記の変性PP(700g),変性EPR(300g)を,実施形態例1で用いたC18−Mt(35g)とともに,2軸混練機を用い200℃で溶融混練した。
【0060】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にC18−Mtの分散状態を観察した。その結果,図2(B)に示すごとく,変性PPと変性EPRとからなる2種のポリマーは,非相溶性マトリックス82を形成していた。変性PPはマトリックス821を,変性EPRはミセル822を形成していた。そして,有機化クレイ3としてのC18−Mtは,マトリックス821である変性PP相,及びミセル822である変性EPR相の双方に,ナノメーターオーダーで分散していた。
【0061】実施形態例5本例の樹脂複合材は,相溶性のポリマーとして,ポリスチレン及びスチレン共重合体を用いて作製したものである。ポリスチレンは官能基を有しないポリマーであり,三井東圧製商品名トーポレンを用いた。スチレン共重合体としては,日本触媒製スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体(商品名;エピクロスRPS−1005)を用いた。このスチレン共重合体のオキサゾリン(官能基)含有量は,5重量%である。
【0062】また,有機化クレイとしては,有機化剤としてトリメチルステアリルアミンを用いて有機化したモンモリロナイトを用いた。その製造方法の詳細を説明すると,まず,層状粘土鉱物として,クニミネ工業製Na−モンモリロナイト(商品名:クニピアF)を準備した。Na−モンモリロナイト80gを,80℃の水5000mlに分散させた。トリメチルステアリルアンモニウムクロライド36.8gを,80℃の水2000mlに溶解し,この溶液を上記のNa−モンモリロナイト分散液中に加えた。これにより生成した沈殿物をろ過し,80℃の水で3回洗浄し,凍結乾燥することによりトリメチルステアリルアミンで有機化されたモンモリロナイトを得た。以下,C18TM−Mtと略する。灼残法より求めたC18TM−Mt中の無機分は,66%であった。X線回折法により求めたC18TM−Mtの層間距離は,22Åであった。
【0063】本例の樹脂複合材を製造するにあたっては,上記ポリスチレン(600g),スチレン共重合体(400g)を,上記C18TM−Mtとともに,2軸混練機を用いて150℃で溶融混練した。
【0064】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にしてC18TM−Mtの分散状態を観察した。その結果,図1に示すごとく,ポリスチレン及びスチレン共重合体からなる2種のポリマー100,101は共溶しており,相溶性マトリックス81を形成していた。有機化クレイ3であるC18TM−Mtは,相溶性マトリックス81の中に均一にナノメーターオーダーで分散していた。
【0065】実施形態例6本例の樹脂複合材は,相溶性ポリマーとして,PPO及びスチレン共重合体を用いて作製したものである。PPOは官能基を有するポリマーであり,GE社製PPO534を用いた。スチレン共重合体としては,官能基を有するスチレン−ビニルオキサゾリン共重合体(日本触媒製,商品名;エピクロスRPS−1005,オキサゾリン(官能基)含有量;5重量%)を用いた。
【0066】本例の樹脂複合材を製造するにあたっては,上記PPO(850g)及び上記スチレン共重合体(150g)を,実施形態例5で用いたC18TM−Mt(35g)とともに,2軸混練機を用いて150℃で溶融混練した。
【0067】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にC18TM−Mtの分散状態を観察した。その結果,図1に示すごとく,PPOとスチレン共重合体とは共溶して,相溶性マトリックス81を形成していた。有機化クレイ3であるC18TM−Mtは,相溶性マトリックス81の中に均一にナノメーターオーダーで分散していた。
【0068】比較例1本例の樹脂複合材は,いずれも官能基を有しない2種のポリマーを用いて作製したものである。2種のポリマーは,ホモPP(三菱化学製,商品名;MA2)と,EPR(住友化学製,商品名;V0131)である。本例の樹脂複合材を製造するにあたっては,ホモPP(700g)及びEPR(300g)を,実施形態例1で用いたC18−Mt(35g)とともに,2軸混練機を用いて200℃で溶融混練した。
【0069】得られた樹脂複合材について,実施形態例1と同様にC18−Mtの分散状態を観察した。その結果,ホモPPとEPRとは非相溶性マトリックスを形成していた。非相溶性マトリックスの中では,C18−Mtは微分散していなかった。C18−Mtの層間には,ホモPP及びEPRのいずれもインターカレートしていなかった。
【0070】
【発明の効果】本発明によれば,容易に複合化でき,かつ適用範囲の広い樹脂複合材を製造することができる樹脂複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における,相溶性ポリマーA,Bを示す説明図(図1(a)),及び相溶性マトリックスの中での有機化クレイの分散状態を示す説明図(図1(b))。
【図2】本発明における,非相溶性ポリマーA,Bを示す説明図(図2(O)),及び非相溶性マトリックスの中での有機化クレイの分散状態を示す説明図(図2(A,B,C))。
【図3】本発明における,ランダム共重合体の説明図(図3(a)),及び交互共重合体の説明図(図3(b))。
【図4】本発明における,ポリマーの説明図(図4(a)),及び変性ポリマーの説明図(図4(b))。
【図5】本発明における,有機化クレイの説明図。
【図6】実施形態例2における,非相溶性マトリックスの中での有機化クレイの分散状態を示す,樹脂複合材の組織の顕微鏡写真からなる図面代用写真(倍率30,000倍)。
【図7】従来例における,樹脂複合材の説明図。
【符号の説明】
10...官能基,
11...官能基モノマー,
12...モノマー,
100,103...ポリマーA,
101,104...ポリマーB,
3...有機化クレイ,
6...有機オニウムイオン,
7...クレイ,
81...相溶性マトリックス,
82...非相溶性マトリックス,
821...マトリックス,
822...ミセル,

【特許請求の範囲】
【請求項1】 2種以上のポリマーと有機化クレイとからなり,上記2種以上のポリマーのうち,少なくとも1種が官能基を有することを特徴とする樹脂複合材。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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