橋型クレーン、原子力発電所の解体方法
【課題】原子力発電所において、少ない土地の占有で設置することができ、かつ揚重の際の作業半径による吊り上げ荷重・吊代を考慮することなく効率よく重量物の吊り上げ等の作業を行なうことができるとともに、作業員の被曝量を低減することが可能な橋型クレーンまたは原子力発電所の解体方法を提供する。
【解決手段】原子炉建屋102を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーン10であって、前記橋型クレーン10の水平のビーム12内の長手方向にわたって形成された内部空間と、前記内部空間に配置されるとともに前記ビーム12の長手方向に移動可能とされ、前記ビーム12の下端において前記ビーム12の長手方向に沿って開けられた開口部18を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段(移動式巻揚機22)と、前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室28と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】原子炉建屋102を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーン10であって、前記橋型クレーン10の水平のビーム12内の長手方向にわたって形成された内部空間と、前記内部空間に配置されるとともに前記ビーム12の長手方向に移動可能とされ、前記ビーム12の下端において前記ビーム12の長手方向に沿って開けられた開口部18を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段(移動式巻揚機22)と、前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室28と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋型クレーン、原子力発電所の解体方法に関し、特に作業効率の向上及び作業員の被曝量を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所は、耐用年数を過ぎた場合や社会情勢あるいは事故等による事情で解体・撤去が行なわれる。原子力発電所の解体・撤去の手順は通常以下のようになる。まず、稼動している原子炉を停止させ、使用済燃料や未使用燃料などを再処理工場や貯蔵施設に搬送する。そして原子力発電所内に配置された配管や容器内に付着した放射性物質を除染(系統除染)する。そして、この状態で、原子力発電所を5年〜10年ほど適切な管理のもとで安全に貯蔵する。その後、建屋内部の配管や容器などの解体作業を行うとともに建屋内部の放射性物質の除去作業を行い、最後に建屋の解体工事を行なう。
【0003】
このような解体工事を行なう場合は、建屋内の構造物等を吊り上げるのに、通常、天井クレーン他、建屋内の常設の設備を使用するが、何らかの事情でそれらの設備が使用できない場合は、クローラークレーンを導入することが考えられる。しかし、クローラークレーンでは構造物を吊り上げるための作業半径が一定の範囲に限られる。さらに、吊り上げ荷重を低減して作業半径を広げるために構造物を細断すると被曝や作業工程の増加が不可避となる。また、クレーンのアームと建屋との干渉を考慮しなければならないので、クレーンの設置位置を頻繁に移動させる必要があり、これによる作業工程の増加も不可避となる。このことは、原子力発電所を建設する場合にも同様の問題となる。また、解体工事が長期化すると作業員の被曝量が増加という問題がある。
【0004】
一方、特許文献1においては原子力建屋とタービン建屋とで共用可能な天井クレーンを配置し、各建屋に配置する構造物を天井クレーンにより吊り上げて搬入する技術が開示されている。また特許文献2においてもタービン建屋と廃棄物処理建屋とで共用可能な天井クレーンを配置し、タービン建屋内の構造物を定期点検するために前記構造物を天井クレーンで吊り上げ廃棄物処理建屋に仮置きする技術が開示されている。よって特許文献1、特許文献2に開示された技術を適用し、原子力発電所の解体時にも天井クレーンを用いて構造物等を吊り上げることにより作業効率の向上を図ることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−140744公報
【特許文献2】特許3996153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような天井クレーンの可動範囲は建屋内に限定されてしまうので、建屋の内外での重量物の運搬を伴う解体作業や建設作業には不向きであり、とくに原子力発電所の解体工事においては、建設時及び点検時に比べて建屋内の放射性物質の量が圧倒的に多いので作業員の被曝が問題となる。
また、万が一、事故等により建屋内の常設設備に不具合が生じた場合には重量物の運搬に大きな支障が出る可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に着目し、原子炉建屋等の建屋への重量物の搬出入を効率よく行なうとともに、特に原子炉建屋を解体する際に作業員の被曝を抑制可能な橋型クレーン、原子力発電所の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る橋型クレーンは、第1には、原子炉建屋を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーンであって、前記橋型クレーンの水平のビーム内の長手方向にわたって形成された内部空間と、前記内部空間に配置されるとともに前記ビームの長手方向に移動可能とされ、前記ビームの下端において前記ビームの長手方向に沿って開けられた開口部を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成により、橋型クレーンが地上を占有する部分は支柱のみであるので、配置スペースを小さくすることができる。またビームは原子炉建屋を跨ぐように配置されるため、ビームと原子炉建屋との干渉を考慮することなく重量物を吊り上げることができる。また作業員を収容する移動式運転室は吊り上げ手段とともに移動するので、作業員は吊り上げの様子を視認できるとともに、移動式運転室はビーム内に配置されるので原子炉建屋から放射される放射線による作業員の被曝量を低減することができる。
【0010】
第2には、前記内部空間は、前記吊り上げ手段が通過する作業空間と、前記作業空間から空間的に分離した多目的空間と、に仕切られたことを特徴とする。
上記構成により、多目的空間は吊り上げ手段と干渉することなく様々な機器を配置することができる。
【0011】
第3には、前記多目的空間には、放射能汚染物質を除去する高性能フィルタ付き空調機が配置されるとともに前記作業空間と前記多目的空間とを仕切る仕切りには、ドアが配置されたことを特徴とする。
上記構成により、移動式運転室にいる作業員が原子炉建屋から放出された放射線量が増加した場合等において多目的空間に退避することができる。
【0012】
第4には、前記移動式運転室に配置され、前記開口部を通じて下方を撮影可能なカメラと、前記多目的空間に配置され、前記カメラが撮影した画像を映すモニターと、を有し、前記多目的空間に配置され、前記制御手段を遠隔操作可能な遠隔操作部と、を有することを特徴とする。
上記構成により、作業員は移動式運転室に入ることなく吊り上げ手段を操作することができる。
【0013】
第5には、前記多目的空間及び前記移動式運転室の少なくとも前記原子炉建屋に対向する壁面には放射線遮蔽部材が配置されたことを特徴とする。
上記構成により、原子炉建屋から放出される放射線を放射線遮蔽部材で遮蔽して、作業員の被曝量を抑制することができる。
【0014】
第6には、前記ビーム上部には、前記ビームの長手方向に移動可能なジブクレーンが配置されたことを特徴とする。
上記構成により、例えば原子炉建屋内の構造物以外の比較的軽量な物資を吊り上げ手段を用いることなく独立に吊り上げて運搬することができる。
【0015】
第7には、前記原子炉建屋は一列に複数配列されるとともに、前記原子炉建屋の配列方向に平行な方向に一対のガーダが前記原子炉建屋を挟むように配置され、前記支柱はガーダ上に配置されるとともに前記ガーダに沿って移動可能であることを特徴とする。
上記構成により、一つの橋型クレーンが全ての原子炉建屋上に配置することができるのでコストを抑制することができる。
【0016】
第8には、前記ガーダは、前記原子炉建屋の配列方向の両端部間の長さより長く、且つ前記ガーダの長手方向の端部を頂点とする四角形内に前記原子炉建屋が収まるように配置されたことを特徴とする。
【0017】
上記構成により、原子炉建屋の配列方向の両端部より外側の敷地を、橋型クレーンを用いて原子炉建屋に搬入する物資や、原子炉建屋から搬出した構造物の仮置き場等にして作業効率を向上させることができる。
【0018】
第9には、前記ガーダが配置される地面には前記ガーダを支持する杭が打ち込まれていることを特徴とする。
上記構成により、地中に配置されたトレンチ等の構造物に干渉することなくガーダの橋型クレーンの荷重による撓みを低減して橋型クレーンを安定的に移動させることができる。
【0019】
一方、本発明に係る原子力発電所の解体方法は、第1には、ビームと、前記ビームに配置され前記ビームの長手方向に移動可能であって、原子炉建屋内の重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、を有する橋型クレーンを、前記原子炉建屋及び前記原子炉建屋に隣接するタービン建屋を跨ぐように配置し、前記タービン建屋内の重量物を前記タービン建屋から撤去したのち、前記吊り上げ手段により前記原子炉建屋内の重量物の一部を吊り上げて前記タービン建屋内に搬入することを特徴とする。
【0020】
上記方法により、原子炉建屋内の重量物の一部をタービン建屋に仮置きすることができる。これにより、原子炉建屋内において重量物の解体の際に必要な空間を確保することができ、作業効率を向上させることができる。また、いずれの重量物も原子炉建屋かタービン建屋に置かれることになるので、作業に伴う放射性物質の漏洩を各建屋により低減することができる。
【0021】
第2には、前記原子炉建屋の上部を覆うとともに前記原子炉建屋内の重量物を取り出し可能な開閉ドアを有する蓋体を前記原子炉建屋に被せることを特徴とする。
上記方法により、重量物の搬出作業時、あるいは安全貯蔵する際に放射性物質の漏洩を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る橋型クレーン及び原子力発電所の解体方法によれば、原子力発電所において、少ない土地の占有で設置することができ、かつ揚重の際の作業半径による吊り上げ荷重・吊代を考慮することなく効率よく重量物の吊り上げ等の作業を行なうことができるとともに、作業員の被曝量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の橋型クレーンと、原子力発電所の鳥瞰図である。
【図2】本実施形態の橋型クレーンと原子力発電所の正面図及び本実施形態の橋型クレーンの側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図であり、本実施形態の橋型クレーンを構成するビーム内の構成要素の配置図である。
【図4】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その1、正面図と側面図)である。
【図5】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その2)である。
【図6】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その3)である。
【図7】本実施形態の橋型クレーンの適用対象となる原子炉建屋の模式図である。
【図8】本実施形態の原子力発電所の解体工程(橋型クレーンを設置する工程)を示す模式図である。
【図9】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉建屋内の構造物の一部をタービン建屋に移送・保管する工程)を示す模式図である
【図10】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉建屋にカバーを設置する工程)を示す模式図である
【図11】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉燃料を搬出する工程)を示す模式図である。
【図12】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉を解体して搬出する工程)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0025】
図1に、本実施形態の橋型クレーン10と、原子力発電所100の鳥瞰図を示し、図2に、本実施形態の橋型クレーン10と原子力発電所100の正面図及び本実施形態の橋型クレーン10の側面図を示す。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子力発電所100は、主に原子炉建屋102、タービン建屋120、主排気塔122(図2)により構成されている。原子炉建屋102は、複数棟(本実施形態では4棟)配置され一列に配列されている。そして、原子炉建屋102に隣接してタービン建屋120が配置されている。タービン建屋120(本実施形態では4棟)は、その長手方向を原子炉建屋102の配列方向と平行な方向に向けて配置されている。そして原子炉建屋102とタービン建屋120との間には、タービン発電用の水蒸気を送る配管(不図示)、復水を送る配管(不図示)、空調用の配管(不図示)等が配置され、さらにケーブル(不図示)等が配置されている。
【0027】
図1に示すように、原子炉建屋102およびタービン建屋120を挟むように互いに平行にガーダ38が配置されている。ガーダ38は、その長手方向が原子炉建屋102の配列の長さよりも長くなるように設計されるとともに、ガーダ38の長手方向の両端を頂点とする四角形内(平面内)に少なくとも原子炉建屋102及びタービン建屋120が納まるように配置される。
【0028】
図2に示すように、橋型クレーン10は、原子炉建屋102及びタービン建屋120を跨ぐように配置され、原子炉建屋102上及びタービン建屋120上に水平に配置されたビーム12と、ビーム12の長手方向の両端を支持するとともにガーダ38上に配置された支柱30を有する。ビーム12は、例えば複数の鋼板を繋ぎ合わせて形成し、原子炉建屋102の配列方向に垂直な方向に配置される。支柱30の下部には走行車輪32と走行車輪32を駆動する駆動手段(不図示)が配置され、支柱30はガーダ38の長手方向に沿って移動することができる。したがって、橋型クレーン10は、ガーダ38の長手方向に沿って移動して、ビーム12を、ビーム12の長手方向に垂直な方向に平行移動させることができる。
【0029】
よって図1に示すように、ガーダ38の長手方向の両端よりさらに先となる位置を、準備エリア124とすることができ、準備エリア124に橋型クレーン10を移動させた上で、この準備エリア124に運んできた物資や、この準備エリア124で組み立てた部品等を吊り上げ、原子炉建屋102やタービン建屋120まで移動して吊り上げた物資や部品を吊り降ろすことができる。逆に原子炉建屋102やタービン建屋120から吊り上げた構造物(重量物)を準備エリア124に吊り降ろして仮置きすることもできる。そして2つの準備エリア124に挟まれた原子炉建屋102を包含する領域が、橋型クレーン10の作業エリアとなる。
【0030】
このように本実施形態の橋型クレーン10では、一台のみで全ての原子炉建屋102及びタービン建屋120にアクセスできるので、移動式クレーン、クローラークレーン等の揚重機の台数低減ができ、配置スペースの削減も図れ、用地を有効に活用できる。また、使用する揚重機が減少することから使用後の除染作業の作業負担や、その作業に伴い生ずる廃棄物の低減を図ることができる。なお図1においては、橋型クレーン10は1台配置されているが、2台以上配置しても良い。
【0031】
図3に、図2のA−A線断面図であり、本実施形態の橋型クレーン10を構成するビーム12内の構成要素の配置図を示す。図3に示すようにビーム12は内部が空洞となっており、下側の作業空間14と上側の多目的空間16とに仕切られている。よって、作業空間14は、ビーム12の内部空間の下側であってビーム12の長手方向の一端から他端までの空間を占有する。また、多目的空間16は、ビーム12の内部空間の上側であってビーム12の長手方向の一端から他端までの空間を占有する。
【0032】
作業空間14の下部の壁面の中央にはビーム12の長手方向に沿って開口された開口部18を有するとともに、作業空間14の下部を形成する壁面上の開口部18に隣接する位置には、ビーム12の長手方向に平行な第1のレール20が開口部18を挟むように配置されている。
【0033】
そして作業空間14内には吊り上げ手段となる移動式巻揚機22が配置されている。移動式巻揚機22は第1のレール20上に配置され、駆動手段(不図示)により第1のレール20上を走行可能となっている。また移動式巻揚機22は、開口部18からワイヤー24を垂らせる位置に配置されている。またワイヤー24の先端にはフック26が設けられている。
【0034】
ここで移動式巻揚機22は、重量の大きいものを低速で吊り上げる主巻と、重量の小さいものを高速で吊り上げる補巻とを有しているが、両者は第1のレール20の長手方向に配列されているため、図3では主巻のみが記載されている。
【0035】
そして、移動式巻揚機22には移動式運転室28が配置される。移動式運転室28は、移動式巻揚機22の開口部18に対向する位置に配置され、移動式巻揚機22をレ−ル上で走行させる駆動手段(不図示)、主巻の駆動手段(不図示)、補巻の駆動手段(不図示)を制御する制御手段(不図示)が配置されている。そして移動式運転室28には作業員が入室し、制御手段(不図示)を操作することにより、移動式巻揚機22の移動や、主巻・補巻の巻き上げ・巻き下げを行なうことができる。移動式運転室28は、開口部18を除いて周囲がビーム12で覆われている他、その床面には後述のように放射線の遮蔽部材が配置されているので原子炉建屋102等から受ける放射線の量を低減して作業員の被曝量を低減することができる。なお、移動式運転室28内には空調機(不図示)が配置され、移動式運転室28を形成する壁面には空調機(不図示)と接続した給気口(不図示)と排気口(不図示)が配置され、さらに給気口(不図示)には放射能汚染物質を遮蔽する高性能フィルタ、例えばHEPA(High Efficiency Particlate Air)フィルタ(不図示)が配置され、移動式運転室28内に清浄な空気を供給できるようにしているものとする。
【0036】
多目的空間16には、様々な構成要素が配置される。多目的空間16には空調機(不図示)が配置され、多目的空間16を形成する壁面には空調機と接続した給気口(不図示)と排気口(不図示)が配置される。給気口(不図示)は、例えばビーム12の長手方向の一端側に配置されHEPAフィルタ(不図示)を介して給気ファン(不図示)により外気を吸引する。また排気口(不図示)は、例えばビーム12の長手方向の一端側の反対側の他端側に配置され、排気口(不図示)に配置された排気ファン(不図示)により多目的空間16内の空気を外部に排気する。また多目的空間16の下面(作業空間14との仕切り)には、作業空間14にいる作業員が出入り可能なドア(不図示)が一つ配置され、またはビーム12の長手方向に並んで複数配置されている。なお、多目的空間16は、たとえば、長手方向に複数個に仕切り、仕切られた空間ごとに空調機(吸気口、排気口)やドア(不図示)を設けてもよい。
【0037】
また、多目的空間16には、モニター(不図示)、遠隔操作部(不図示)を有する無線用運転室(不図示)が配置され、移動式運転室28にはカメラ(不図示)が配置される。カメラ(不図示)は、開口部18を通じて巻揚機のワイヤー24先端のフック26が視野に入る方向に光軸を向けて配置され、被写体を撮影した動画データを無線(有線でも良い)でモニター(不図示)に出力する。また遠隔操作部(不図示)は無線(有線でも良い)で移動式運転室28に配置された制御手段(不図示)を操作する信号を出力することができる。よって作業員は、移動式運転室28に入ることなく無線用運転室(不図示)から、移動式巻揚機22の操作を行なうことができる。
【0038】
さらに多目的空間16には、原子炉の燃料を交換するための燃料交換機を無線で操作するための燃料交換機運転室、予備室が配置される。また走行車輪32を駆動させる駆動手段(不図示)、移動用巻揚機の非常用電源、原子炉圧力容器104を切断する水中切断機等の操作室を配置することもできる。
【0039】
そして、図2に示すように、橋型クレーン10の支柱30にはエレベーター33や階段(不図示)が配置され、作業員が支柱30から多目的空間16や移動式運転室28に入室できるようになっている。
【0040】
なお、多目的空間16、作業空間14、移動式運転室28の少なくとも下面を形成する壁面(原子炉建屋102及びタービン建屋120に対向する壁面)には鉛等の放射線遮蔽部材(不図示)を配置することが好ましい。これにより作業員の被曝量を低減することができる。もちろん、放射線遮蔽部材(不図示)は、下面のみならず側面、上面にも配置してもよい。
【0041】
図2に示すように、ビーム12上にはジブクレーン34が配置されている。ジブクレーン34はビーム12の長手方向に移動可能であり、移動式巻揚機22で吊り上げる必要のない比較的重量の小さな資材を吊り上げるのに用いられる。ジブクレーン34はその下部にジブクレーン34を移動させる車輪が配置され、図3に示すように、ビーム12上にはビーム12の長手方向に沿ってジブクレーン34の車輪が載る第2のレール36が配置されている。このようにジブクレーン34をビーム12上に配置することにより、新たなクレーンの設置場所を確保する必要なく移動式巻揚機22と別のクレーンを導入することができる。なお、図2等に示すように、ジブクレーン34はビーム12上に複数配置してもよい。
【0042】
ところで、図2に示すように、原子力発電所100には主排気塔122が配置されているが、主排気塔122が橋型クレーン10のビーム12に干渉する場合は、ビーム12と干渉する部位から上の部分を切断・解体する必要がある。この場合、解体物は移動式巻揚機22、ジブクレーン34、または上述のクローラークレーンにより地面に降ろすことになる。
【0043】
図4に、本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その1、正面図と側面図)を示し、図5に本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その2)を示し、図6に本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その3)を示す。図4に示すように、ガーダ38は例えば鋼等で形成され、橋型クレーン10の荷重に対しても一定の剛性を有するものが用いられる。そしてガーダ38上には走行車輪32が載る第3のレール40がガーダ38の長手方向に沿って配置されている。
【0044】
一方、地面のガーダ38の配置される位置においては、ガーダ38の長手方向に沿って所定の間隔で杭42が打ち込まれ、この杭42の上にガーダ38が配置されている。これにより、橋型クレーン10の荷重によるガーダ38の地面への沈み込みを回避して、橋型クレーン10の安定性を確保することができる。さらに図5に示すように、地中に埋設された配管・トレンチ126等の設備を跨いで杭42を打ち込むことができるので、これらの設備との干渉を回避しつつ橋型クレーン10の安定性を確保することができる。さらにガーダ38の補強を杭42のみで行なうことによりガーダ38の補強が限定的であるため、そのための工程及びコストを抑制することができる。なおガーダ38を配置する地面が強固なものである場合は、図6に示すように、杭42を打ち込むことなくコンクリート製のガーダ38を配置し、ガーダ38上に走行車輪32用の第3のレール40を配置しても良い。
【0045】
図7に、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子炉建屋102の模式図を示す。図7に示すように、原子炉建屋102は、主に原子炉燃料を収容する原子炉圧力容器104(RPV:Reactor Pressure Vessel)と、原子炉圧力容器104を収容する原子炉格納容器108(PCV:Primary Containment Vessel)を有する。また原子炉格納容器108は側面がコンクリート製の保護壁112により覆われ、上部がコンクリート製の原子炉ウェルカバー114により覆われている。また、原子炉の上部には使用済みの原子炉燃料を循環冷却水で冷却する使用済み燃料プール116が配置されている。そして、原子炉建屋102の上部には天井クレーン118が配置され、使用済み燃料プール116に隣接する位置には燃料交換機(不図示)が配置されている。また原子炉圧力容器104の上部はRPVヘッド106により封止され、原子炉格納容器108の上部はPCVヘッド110により封止されている。また原子炉格納容器108内部にはシュラウド(不図示)や蒸気乾燥機(不図示)が配置され、原子炉格納容器108の周囲にはγ線シールド(不図示)が配置されている。また原子炉建屋102内には、これらのほかに原子炉圧力容器104や原子炉格納容器108に付属する機器類(不図示)が配置されている。一方、タービン建屋120においては、タービン本体(不図示)、発電機(不図示)、復水器(不図示)、熱交換器(不図示)、天井クレーン(不図示)が配置されている。
【0046】
なお、後述のように、これらの建屋内の構成要素は必要に応じて適度な大きさに切断されたのち、橋型クレーン10により運び出される。特に原子炉圧力容器104は小さく切断されたのち、輸送キャスク48(重量物)に収容した状態で搬出される。また使用済み燃料、原子炉燃料を搬出する際は燃料キャスク46に収容した状態で搬出される。また、原子炉建屋102内の構造物を安全貯蔵する際に、または原子炉圧力容器104を解体する際に、外部への放射能の漏洩を低減するため、原子炉建屋102の上部を覆うとともに原子炉建屋102内の構造物を取り出し可能な開閉ドアを有する鋼板製の蓋体44(カバー)を原子炉建屋102に被せる。もちろん原子炉建屋102の開閉ドアに対向する位置には開口部18(不図示)を設けておく。開閉ドアの開閉はジブクレーン34等により開閉ドア(不図示)の自由端側を吊り上げる等により行なう。
【0047】
図8乃至図12に本実施形態の原子力発電所100の解体工程を示し、図8は橋型クレーン10を設置する工程、図9は原子炉建屋102内の構造物の一部をタービン建屋120に移送・保管する工程、図10は原子炉建屋102にカバーを設置する工程、図11は原子炉燃料を搬出する工程、図12は、原子炉を解体して搬出する工程を示す。ここで、原子炉圧力容器104、使用済み燃料プール116はすでに冷温停止状態となっていることを前提とする。
【0048】
第1に、図8に示すように、まず原子炉建屋102及びタービン建屋120を跨ぐ橋型クレーン10を配置する。まず橋型クレーン10が載置されるガーダ38を図1等に示すように配置する(第1の工程)。そしてガーダ38の長手方向の端部においてクローラークレーン等を用いて支柱30を立て、鋼板を繋ぎ合わせて形成したビーム12をクローラークレーンで吊り上げて支柱30に接続する。さらにジブクレーン34をクローラークレーンで吊り上げてビーム12の上に搭載する。また主排気塔122がビーム12に干渉する場合には、主排気塔122のビーム12と干渉する部位以上の部分を解体・撤去する。この解体撤去は、クローラークレーンを用いても良いし、橋型クレーン10(移動式巻揚機22(不図示)、ジブクレーン34)を用いてもよい。
【0049】
第2に、図9に示すように、移動式巻揚機22(図9〜図12では不図示)を用いて比較的放射能レベルの低いタービン建屋120内の構造物(タービン本体、発電機等)を撤去したのち、原子炉建屋102内の構造物(重量物)の一部(機器類)をタービン建屋120に移送する(第2の工程)。このときタービン建屋120の天井は、構造物を搬入・搬出できる程度の開口部を設け、安定貯蔵等をする場合には開口部を鋼板製の板材等により蓋をする。これにより、原子炉建屋102内において原子炉圧力容器104、原子炉格納容器108の解体の際に必要な空間を確保することができ、作業効率を向上させることができる。また、原子炉建屋102内に配置されていたいずれの構造物も原子炉建屋102かタービン建屋120に置かれることになるので、作業に伴う放射性物質の漏洩を各建屋により低減することができる。なお、原子炉建屋102内から搬出する機器のうち放射線量が多いものは高放射線物保管キャスクに収納した状態で、原子炉建屋102から搬出しタービン建屋120に移送する。
【0050】
第3に、図10に示すように、原子炉建屋102の上部に蓋体44を被せ、長期間安定貯蔵する(第3の工程)。ここで、蓋体44は組み立てたあとに移動式巻揚機22で吊り上げても良いし、蓋体44を構成する鋼板を一つずつ移動式巻揚機22で吊り上げ、原子炉建屋102に次々と固定して蓋体44を形成してもよい。また上記作業の後は、主排気塔122の残りの部分を解体する。そして安定貯蔵したのちは、タービン建屋120に配置した原子炉建屋102由来の構造物を移動式巻揚機22により搬出するとともにタービン建屋120を解体する。
【0051】
第4に、図11に示すように、原子炉建屋102内の使用済み燃料及び原子炉圧力容器104内の燃料を搬出する(第4の工程)。まず、移動式巻揚機22を用いて燃料キャスク46(重量物)を、開閉ドアを通じて原子炉建屋102に導入し、使用済み燃料プール116内の使用済み燃料を、燃料交換機(移動式巻揚機22でも良い)を用いてプール内の水とともに収容する。さらに原子炉建屋102において原子炉ウェルカバー114(図7)、PCVヘッド110(図7)、RPVヘッド106(図7)等を取り外してこれらを移動式巻揚機22で吊り上げてタービン建屋120に移動・仮置きし、原子炉圧力容器104内の原子炉燃料を、燃料交換機(移動式巻揚機22でも良い)を用いて使用済み燃料プール116に導入したうえで、燃料キャスク46にプール内の水とともに収容する。よって使用済み燃料プール116には燃料キャスク46(輸送キャスク48も同様)により運び出された水の分だけ新たな水を作業の進行に合わせて供給する。
【0052】
そして、その燃料キャスク46を移動式巻揚機22により吊り上げ、吊り上げた状態で橋型クレーン10をガーダ38に沿って移動させ、準備エリア124(それ以外の場所でも良い)に待機している運搬車両128上で吊り下げ、その運搬車両128に燃料キャスク46を積載させる作業を使用済み燃料および原子炉燃料がなくなるまで繰り返す。
【0053】
第5に、図12に示すように、原子炉建屋102内の構造物を解体・搬出する(第5の工程)。まず、移動式巻揚機22により輸送キャスク48(重量物)を使用済み燃料プール116に導入し、原子炉建屋102内の原子炉圧力容器104以外の構造物を水中で切断する。そして、切断により発生した切断片(重量物)を使用済み燃料プール116に導入して輸送キャスク48に収容し、輸送キャスク48を移動式巻揚機22により前述同様に運搬車両128に積載させ、全ての切断片がなくなるまで繰り返す。最後に、移動式巻揚機22により水中切断装置を導入して原子炉圧力容器104を切断する。そして切断片を使用済み燃料プール116に導入して輸送キャスク48に収容し、輸送キャスク48を移動式巻揚機22により前述同様に運搬車両128に積載させ、全ての切断片がなくなるまで繰り返す。
【0054】
以上の工程を経ることにより、高濃度の放射性物質を含む構造物は撤去され、あとは原子炉建屋102の解体工事を行なうことになる。もちろんこの解体工事にも本実施形態の橋型クレーン10を用いることができる。なお、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子炉建屋102は複数あるので、例えば前段の工程(第2の工程〜第4の工程)を各原子炉建屋102で一つずつ行い、全ての原子炉建屋102で前段の工程が終了したのち、次段の工程(第3の工程〜第5の工程)を各原子炉建屋102で一つずつ行なう、という流れで解体作業を行うことになる。
【0055】
従来の移動式クレーン・クローラークレーンでは、作業半径により吊り上げ荷重・吊代の制限がある。またこれらのクレーンのアームと建屋の干渉等を常に注意する必要があるが、本実施形態の橋型クレーン10ではそれらが無く、常に鉛直方向からの吊り上げとなり、瓦礫、建屋解体、重量物移動、燃料移動が容易・安全に行えるため、作業性が向上し工程の短縮を図ることできる。例えば、原子炉及び使用済み燃料プール116内の燃料・機器の搬出を原子炉建屋102に配置された天井クレーン118(図7)、燃料交換機同様に取り扱うことができる。さらに天井クレーン118(図7)とは異なり、建屋の内部と外部との間で重量物(構造物)を運搬することができるので、天井クレーン118(図7)を用いた場合より作業効率が向上する。
【0056】
また、大型のクローラークレーンの場合には、稼動範囲の地盤養生が大掛かりとなるが、本実施形態の橋型クレーン10では、ガーダ38の基礎部分のみの強化(杭42を用いた強化)で済ませることができる。特にガーダ38を原子炉建屋102の配列方向に並列に敷かれた道路上に敷設する場合には、基礎(杭42)は少なくて済み、作業効率、コストを抑制できる。さらに、原子炉建屋102及びタービン建屋120が複数ある場合、クローラークレーンの場合は設置位置を移動させる必要が発生するが、本実施形態の橋型クレーン10では、その可動範囲に全ての原子炉建屋102、タービン建屋120が入ることになるため、作業効率の向上・工期短縮を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
原子力発電所において、少ない土地の占有で設置することができ、かつ揚重の際の作業半径による吊り上げ荷重・吊代を考慮することなく効率よく重量物の吊り上げ等の作業を行なうことができるとともに、作業員の被曝量を低減することが可能な橋型クレーンまたは原子力発電所の解体方法として利用できる。
【符号の説明】
【0058】
10………橋型クレーン、12………ビーム、14………作業空間、16………多目的空間、18………開口部、20………第1のレール、22………移動式巻揚機、24………ワイヤー、26………フック、28………移動式運転室、30………支柱、32………走行車輪、33………エレベーター、34………ジブクレーン、36………第2のレール、38………ガーダ、40………第3のレール、42………杭、44………蓋体、46………燃料キャスク、48………輸送キャスク、100………原子力発電所、102………原子炉建屋、104………原子炉圧力容器、106………RPVヘッド、108………原子炉格納容器、110………PCVヘッド、112………保護壁、114………原子炉ウェルカバー、116………使用済み燃料プール、118………天井クレーン、120………タービン建屋、122………主排気塔、124………準備エリア、126………配管・トレンチ、128………運搬車両。
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋型クレーン、原子力発電所の解体方法に関し、特に作業効率の向上及び作業員の被曝量を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所は、耐用年数を過ぎた場合や社会情勢あるいは事故等による事情で解体・撤去が行なわれる。原子力発電所の解体・撤去の手順は通常以下のようになる。まず、稼動している原子炉を停止させ、使用済燃料や未使用燃料などを再処理工場や貯蔵施設に搬送する。そして原子力発電所内に配置された配管や容器内に付着した放射性物質を除染(系統除染)する。そして、この状態で、原子力発電所を5年〜10年ほど適切な管理のもとで安全に貯蔵する。その後、建屋内部の配管や容器などの解体作業を行うとともに建屋内部の放射性物質の除去作業を行い、最後に建屋の解体工事を行なう。
【0003】
このような解体工事を行なう場合は、建屋内の構造物等を吊り上げるのに、通常、天井クレーン他、建屋内の常設の設備を使用するが、何らかの事情でそれらの設備が使用できない場合は、クローラークレーンを導入することが考えられる。しかし、クローラークレーンでは構造物を吊り上げるための作業半径が一定の範囲に限られる。さらに、吊り上げ荷重を低減して作業半径を広げるために構造物を細断すると被曝や作業工程の増加が不可避となる。また、クレーンのアームと建屋との干渉を考慮しなければならないので、クレーンの設置位置を頻繁に移動させる必要があり、これによる作業工程の増加も不可避となる。このことは、原子力発電所を建設する場合にも同様の問題となる。また、解体工事が長期化すると作業員の被曝量が増加という問題がある。
【0004】
一方、特許文献1においては原子力建屋とタービン建屋とで共用可能な天井クレーンを配置し、各建屋に配置する構造物を天井クレーンにより吊り上げて搬入する技術が開示されている。また特許文献2においてもタービン建屋と廃棄物処理建屋とで共用可能な天井クレーンを配置し、タービン建屋内の構造物を定期点検するために前記構造物を天井クレーンで吊り上げ廃棄物処理建屋に仮置きする技術が開示されている。よって特許文献1、特許文献2に開示された技術を適用し、原子力発電所の解体時にも天井クレーンを用いて構造物等を吊り上げることにより作業効率の向上を図ることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−140744公報
【特許文献2】特許3996153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような天井クレーンの可動範囲は建屋内に限定されてしまうので、建屋の内外での重量物の運搬を伴う解体作業や建設作業には不向きであり、とくに原子力発電所の解体工事においては、建設時及び点検時に比べて建屋内の放射性物質の量が圧倒的に多いので作業員の被曝が問題となる。
また、万が一、事故等により建屋内の常設設備に不具合が生じた場合には重量物の運搬に大きな支障が出る可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に着目し、原子炉建屋等の建屋への重量物の搬出入を効率よく行なうとともに、特に原子炉建屋を解体する際に作業員の被曝を抑制可能な橋型クレーン、原子力発電所の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る橋型クレーンは、第1には、原子炉建屋を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーンであって、前記橋型クレーンの水平のビーム内の長手方向にわたって形成された内部空間と、前記内部空間に配置されるとともに前記ビームの長手方向に移動可能とされ、前記ビームの下端において前記ビームの長手方向に沿って開けられた開口部を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成により、橋型クレーンが地上を占有する部分は支柱のみであるので、配置スペースを小さくすることができる。またビームは原子炉建屋を跨ぐように配置されるため、ビームと原子炉建屋との干渉を考慮することなく重量物を吊り上げることができる。また作業員を収容する移動式運転室は吊り上げ手段とともに移動するので、作業員は吊り上げの様子を視認できるとともに、移動式運転室はビーム内に配置されるので原子炉建屋から放射される放射線による作業員の被曝量を低減することができる。
【0010】
第2には、前記内部空間は、前記吊り上げ手段が通過する作業空間と、前記作業空間から空間的に分離した多目的空間と、に仕切られたことを特徴とする。
上記構成により、多目的空間は吊り上げ手段と干渉することなく様々な機器を配置することができる。
【0011】
第3には、前記多目的空間には、放射能汚染物質を除去する高性能フィルタ付き空調機が配置されるとともに前記作業空間と前記多目的空間とを仕切る仕切りには、ドアが配置されたことを特徴とする。
上記構成により、移動式運転室にいる作業員が原子炉建屋から放出された放射線量が増加した場合等において多目的空間に退避することができる。
【0012】
第4には、前記移動式運転室に配置され、前記開口部を通じて下方を撮影可能なカメラと、前記多目的空間に配置され、前記カメラが撮影した画像を映すモニターと、を有し、前記多目的空間に配置され、前記制御手段を遠隔操作可能な遠隔操作部と、を有することを特徴とする。
上記構成により、作業員は移動式運転室に入ることなく吊り上げ手段を操作することができる。
【0013】
第5には、前記多目的空間及び前記移動式運転室の少なくとも前記原子炉建屋に対向する壁面には放射線遮蔽部材が配置されたことを特徴とする。
上記構成により、原子炉建屋から放出される放射線を放射線遮蔽部材で遮蔽して、作業員の被曝量を抑制することができる。
【0014】
第6には、前記ビーム上部には、前記ビームの長手方向に移動可能なジブクレーンが配置されたことを特徴とする。
上記構成により、例えば原子炉建屋内の構造物以外の比較的軽量な物資を吊り上げ手段を用いることなく独立に吊り上げて運搬することができる。
【0015】
第7には、前記原子炉建屋は一列に複数配列されるとともに、前記原子炉建屋の配列方向に平行な方向に一対のガーダが前記原子炉建屋を挟むように配置され、前記支柱はガーダ上に配置されるとともに前記ガーダに沿って移動可能であることを特徴とする。
上記構成により、一つの橋型クレーンが全ての原子炉建屋上に配置することができるのでコストを抑制することができる。
【0016】
第8には、前記ガーダは、前記原子炉建屋の配列方向の両端部間の長さより長く、且つ前記ガーダの長手方向の端部を頂点とする四角形内に前記原子炉建屋が収まるように配置されたことを特徴とする。
【0017】
上記構成により、原子炉建屋の配列方向の両端部より外側の敷地を、橋型クレーンを用いて原子炉建屋に搬入する物資や、原子炉建屋から搬出した構造物の仮置き場等にして作業効率を向上させることができる。
【0018】
第9には、前記ガーダが配置される地面には前記ガーダを支持する杭が打ち込まれていることを特徴とする。
上記構成により、地中に配置されたトレンチ等の構造物に干渉することなくガーダの橋型クレーンの荷重による撓みを低減して橋型クレーンを安定的に移動させることができる。
【0019】
一方、本発明に係る原子力発電所の解体方法は、第1には、ビームと、前記ビームに配置され前記ビームの長手方向に移動可能であって、原子炉建屋内の重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、を有する橋型クレーンを、前記原子炉建屋及び前記原子炉建屋に隣接するタービン建屋を跨ぐように配置し、前記タービン建屋内の重量物を前記タービン建屋から撤去したのち、前記吊り上げ手段により前記原子炉建屋内の重量物の一部を吊り上げて前記タービン建屋内に搬入することを特徴とする。
【0020】
上記方法により、原子炉建屋内の重量物の一部をタービン建屋に仮置きすることができる。これにより、原子炉建屋内において重量物の解体の際に必要な空間を確保することができ、作業効率を向上させることができる。また、いずれの重量物も原子炉建屋かタービン建屋に置かれることになるので、作業に伴う放射性物質の漏洩を各建屋により低減することができる。
【0021】
第2には、前記原子炉建屋の上部を覆うとともに前記原子炉建屋内の重量物を取り出し可能な開閉ドアを有する蓋体を前記原子炉建屋に被せることを特徴とする。
上記方法により、重量物の搬出作業時、あるいは安全貯蔵する際に放射性物質の漏洩を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る橋型クレーン及び原子力発電所の解体方法によれば、原子力発電所において、少ない土地の占有で設置することができ、かつ揚重の際の作業半径による吊り上げ荷重・吊代を考慮することなく効率よく重量物の吊り上げ等の作業を行なうことができるとともに、作業員の被曝量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の橋型クレーンと、原子力発電所の鳥瞰図である。
【図2】本実施形態の橋型クレーンと原子力発電所の正面図及び本実施形態の橋型クレーンの側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図であり、本実施形態の橋型クレーンを構成するビーム内の構成要素の配置図である。
【図4】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その1、正面図と側面図)である。
【図5】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その2)である。
【図6】本実施形態の橋型クレーンの基礎構造の模式図(その3)である。
【図7】本実施形態の橋型クレーンの適用対象となる原子炉建屋の模式図である。
【図8】本実施形態の原子力発電所の解体工程(橋型クレーンを設置する工程)を示す模式図である。
【図9】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉建屋内の構造物の一部をタービン建屋に移送・保管する工程)を示す模式図である
【図10】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉建屋にカバーを設置する工程)を示す模式図である
【図11】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉燃料を搬出する工程)を示す模式図である。
【図12】本実施形態の原子力発電所の解体工程(原子炉を解体して搬出する工程)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0025】
図1に、本実施形態の橋型クレーン10と、原子力発電所100の鳥瞰図を示し、図2に、本実施形態の橋型クレーン10と原子力発電所100の正面図及び本実施形態の橋型クレーン10の側面図を示す。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子力発電所100は、主に原子炉建屋102、タービン建屋120、主排気塔122(図2)により構成されている。原子炉建屋102は、複数棟(本実施形態では4棟)配置され一列に配列されている。そして、原子炉建屋102に隣接してタービン建屋120が配置されている。タービン建屋120(本実施形態では4棟)は、その長手方向を原子炉建屋102の配列方向と平行な方向に向けて配置されている。そして原子炉建屋102とタービン建屋120との間には、タービン発電用の水蒸気を送る配管(不図示)、復水を送る配管(不図示)、空調用の配管(不図示)等が配置され、さらにケーブル(不図示)等が配置されている。
【0027】
図1に示すように、原子炉建屋102およびタービン建屋120を挟むように互いに平行にガーダ38が配置されている。ガーダ38は、その長手方向が原子炉建屋102の配列の長さよりも長くなるように設計されるとともに、ガーダ38の長手方向の両端を頂点とする四角形内(平面内)に少なくとも原子炉建屋102及びタービン建屋120が納まるように配置される。
【0028】
図2に示すように、橋型クレーン10は、原子炉建屋102及びタービン建屋120を跨ぐように配置され、原子炉建屋102上及びタービン建屋120上に水平に配置されたビーム12と、ビーム12の長手方向の両端を支持するとともにガーダ38上に配置された支柱30を有する。ビーム12は、例えば複数の鋼板を繋ぎ合わせて形成し、原子炉建屋102の配列方向に垂直な方向に配置される。支柱30の下部には走行車輪32と走行車輪32を駆動する駆動手段(不図示)が配置され、支柱30はガーダ38の長手方向に沿って移動することができる。したがって、橋型クレーン10は、ガーダ38の長手方向に沿って移動して、ビーム12を、ビーム12の長手方向に垂直な方向に平行移動させることができる。
【0029】
よって図1に示すように、ガーダ38の長手方向の両端よりさらに先となる位置を、準備エリア124とすることができ、準備エリア124に橋型クレーン10を移動させた上で、この準備エリア124に運んできた物資や、この準備エリア124で組み立てた部品等を吊り上げ、原子炉建屋102やタービン建屋120まで移動して吊り上げた物資や部品を吊り降ろすことができる。逆に原子炉建屋102やタービン建屋120から吊り上げた構造物(重量物)を準備エリア124に吊り降ろして仮置きすることもできる。そして2つの準備エリア124に挟まれた原子炉建屋102を包含する領域が、橋型クレーン10の作業エリアとなる。
【0030】
このように本実施形態の橋型クレーン10では、一台のみで全ての原子炉建屋102及びタービン建屋120にアクセスできるので、移動式クレーン、クローラークレーン等の揚重機の台数低減ができ、配置スペースの削減も図れ、用地を有効に活用できる。また、使用する揚重機が減少することから使用後の除染作業の作業負担や、その作業に伴い生ずる廃棄物の低減を図ることができる。なお図1においては、橋型クレーン10は1台配置されているが、2台以上配置しても良い。
【0031】
図3に、図2のA−A線断面図であり、本実施形態の橋型クレーン10を構成するビーム12内の構成要素の配置図を示す。図3に示すようにビーム12は内部が空洞となっており、下側の作業空間14と上側の多目的空間16とに仕切られている。よって、作業空間14は、ビーム12の内部空間の下側であってビーム12の長手方向の一端から他端までの空間を占有する。また、多目的空間16は、ビーム12の内部空間の上側であってビーム12の長手方向の一端から他端までの空間を占有する。
【0032】
作業空間14の下部の壁面の中央にはビーム12の長手方向に沿って開口された開口部18を有するとともに、作業空間14の下部を形成する壁面上の開口部18に隣接する位置には、ビーム12の長手方向に平行な第1のレール20が開口部18を挟むように配置されている。
【0033】
そして作業空間14内には吊り上げ手段となる移動式巻揚機22が配置されている。移動式巻揚機22は第1のレール20上に配置され、駆動手段(不図示)により第1のレール20上を走行可能となっている。また移動式巻揚機22は、開口部18からワイヤー24を垂らせる位置に配置されている。またワイヤー24の先端にはフック26が設けられている。
【0034】
ここで移動式巻揚機22は、重量の大きいものを低速で吊り上げる主巻と、重量の小さいものを高速で吊り上げる補巻とを有しているが、両者は第1のレール20の長手方向に配列されているため、図3では主巻のみが記載されている。
【0035】
そして、移動式巻揚機22には移動式運転室28が配置される。移動式運転室28は、移動式巻揚機22の開口部18に対向する位置に配置され、移動式巻揚機22をレ−ル上で走行させる駆動手段(不図示)、主巻の駆動手段(不図示)、補巻の駆動手段(不図示)を制御する制御手段(不図示)が配置されている。そして移動式運転室28には作業員が入室し、制御手段(不図示)を操作することにより、移動式巻揚機22の移動や、主巻・補巻の巻き上げ・巻き下げを行なうことができる。移動式運転室28は、開口部18を除いて周囲がビーム12で覆われている他、その床面には後述のように放射線の遮蔽部材が配置されているので原子炉建屋102等から受ける放射線の量を低減して作業員の被曝量を低減することができる。なお、移動式運転室28内には空調機(不図示)が配置され、移動式運転室28を形成する壁面には空調機(不図示)と接続した給気口(不図示)と排気口(不図示)が配置され、さらに給気口(不図示)には放射能汚染物質を遮蔽する高性能フィルタ、例えばHEPA(High Efficiency Particlate Air)フィルタ(不図示)が配置され、移動式運転室28内に清浄な空気を供給できるようにしているものとする。
【0036】
多目的空間16には、様々な構成要素が配置される。多目的空間16には空調機(不図示)が配置され、多目的空間16を形成する壁面には空調機と接続した給気口(不図示)と排気口(不図示)が配置される。給気口(不図示)は、例えばビーム12の長手方向の一端側に配置されHEPAフィルタ(不図示)を介して給気ファン(不図示)により外気を吸引する。また排気口(不図示)は、例えばビーム12の長手方向の一端側の反対側の他端側に配置され、排気口(不図示)に配置された排気ファン(不図示)により多目的空間16内の空気を外部に排気する。また多目的空間16の下面(作業空間14との仕切り)には、作業空間14にいる作業員が出入り可能なドア(不図示)が一つ配置され、またはビーム12の長手方向に並んで複数配置されている。なお、多目的空間16は、たとえば、長手方向に複数個に仕切り、仕切られた空間ごとに空調機(吸気口、排気口)やドア(不図示)を設けてもよい。
【0037】
また、多目的空間16には、モニター(不図示)、遠隔操作部(不図示)を有する無線用運転室(不図示)が配置され、移動式運転室28にはカメラ(不図示)が配置される。カメラ(不図示)は、開口部18を通じて巻揚機のワイヤー24先端のフック26が視野に入る方向に光軸を向けて配置され、被写体を撮影した動画データを無線(有線でも良い)でモニター(不図示)に出力する。また遠隔操作部(不図示)は無線(有線でも良い)で移動式運転室28に配置された制御手段(不図示)を操作する信号を出力することができる。よって作業員は、移動式運転室28に入ることなく無線用運転室(不図示)から、移動式巻揚機22の操作を行なうことができる。
【0038】
さらに多目的空間16には、原子炉の燃料を交換するための燃料交換機を無線で操作するための燃料交換機運転室、予備室が配置される。また走行車輪32を駆動させる駆動手段(不図示)、移動用巻揚機の非常用電源、原子炉圧力容器104を切断する水中切断機等の操作室を配置することもできる。
【0039】
そして、図2に示すように、橋型クレーン10の支柱30にはエレベーター33や階段(不図示)が配置され、作業員が支柱30から多目的空間16や移動式運転室28に入室できるようになっている。
【0040】
なお、多目的空間16、作業空間14、移動式運転室28の少なくとも下面を形成する壁面(原子炉建屋102及びタービン建屋120に対向する壁面)には鉛等の放射線遮蔽部材(不図示)を配置することが好ましい。これにより作業員の被曝量を低減することができる。もちろん、放射線遮蔽部材(不図示)は、下面のみならず側面、上面にも配置してもよい。
【0041】
図2に示すように、ビーム12上にはジブクレーン34が配置されている。ジブクレーン34はビーム12の長手方向に移動可能であり、移動式巻揚機22で吊り上げる必要のない比較的重量の小さな資材を吊り上げるのに用いられる。ジブクレーン34はその下部にジブクレーン34を移動させる車輪が配置され、図3に示すように、ビーム12上にはビーム12の長手方向に沿ってジブクレーン34の車輪が載る第2のレール36が配置されている。このようにジブクレーン34をビーム12上に配置することにより、新たなクレーンの設置場所を確保する必要なく移動式巻揚機22と別のクレーンを導入することができる。なお、図2等に示すように、ジブクレーン34はビーム12上に複数配置してもよい。
【0042】
ところで、図2に示すように、原子力発電所100には主排気塔122が配置されているが、主排気塔122が橋型クレーン10のビーム12に干渉する場合は、ビーム12と干渉する部位から上の部分を切断・解体する必要がある。この場合、解体物は移動式巻揚機22、ジブクレーン34、または上述のクローラークレーンにより地面に降ろすことになる。
【0043】
図4に、本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その1、正面図と側面図)を示し、図5に本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その2)を示し、図6に本実施形態の橋型クレーン10の基礎構造の模式図(その3)を示す。図4に示すように、ガーダ38は例えば鋼等で形成され、橋型クレーン10の荷重に対しても一定の剛性を有するものが用いられる。そしてガーダ38上には走行車輪32が載る第3のレール40がガーダ38の長手方向に沿って配置されている。
【0044】
一方、地面のガーダ38の配置される位置においては、ガーダ38の長手方向に沿って所定の間隔で杭42が打ち込まれ、この杭42の上にガーダ38が配置されている。これにより、橋型クレーン10の荷重によるガーダ38の地面への沈み込みを回避して、橋型クレーン10の安定性を確保することができる。さらに図5に示すように、地中に埋設された配管・トレンチ126等の設備を跨いで杭42を打ち込むことができるので、これらの設備との干渉を回避しつつ橋型クレーン10の安定性を確保することができる。さらにガーダ38の補強を杭42のみで行なうことによりガーダ38の補強が限定的であるため、そのための工程及びコストを抑制することができる。なおガーダ38を配置する地面が強固なものである場合は、図6に示すように、杭42を打ち込むことなくコンクリート製のガーダ38を配置し、ガーダ38上に走行車輪32用の第3のレール40を配置しても良い。
【0045】
図7に、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子炉建屋102の模式図を示す。図7に示すように、原子炉建屋102は、主に原子炉燃料を収容する原子炉圧力容器104(RPV:Reactor Pressure Vessel)と、原子炉圧力容器104を収容する原子炉格納容器108(PCV:Primary Containment Vessel)を有する。また原子炉格納容器108は側面がコンクリート製の保護壁112により覆われ、上部がコンクリート製の原子炉ウェルカバー114により覆われている。また、原子炉の上部には使用済みの原子炉燃料を循環冷却水で冷却する使用済み燃料プール116が配置されている。そして、原子炉建屋102の上部には天井クレーン118が配置され、使用済み燃料プール116に隣接する位置には燃料交換機(不図示)が配置されている。また原子炉圧力容器104の上部はRPVヘッド106により封止され、原子炉格納容器108の上部はPCVヘッド110により封止されている。また原子炉格納容器108内部にはシュラウド(不図示)や蒸気乾燥機(不図示)が配置され、原子炉格納容器108の周囲にはγ線シールド(不図示)が配置されている。また原子炉建屋102内には、これらのほかに原子炉圧力容器104や原子炉格納容器108に付属する機器類(不図示)が配置されている。一方、タービン建屋120においては、タービン本体(不図示)、発電機(不図示)、復水器(不図示)、熱交換器(不図示)、天井クレーン(不図示)が配置されている。
【0046】
なお、後述のように、これらの建屋内の構成要素は必要に応じて適度な大きさに切断されたのち、橋型クレーン10により運び出される。特に原子炉圧力容器104は小さく切断されたのち、輸送キャスク48(重量物)に収容した状態で搬出される。また使用済み燃料、原子炉燃料を搬出する際は燃料キャスク46に収容した状態で搬出される。また、原子炉建屋102内の構造物を安全貯蔵する際に、または原子炉圧力容器104を解体する際に、外部への放射能の漏洩を低減するため、原子炉建屋102の上部を覆うとともに原子炉建屋102内の構造物を取り出し可能な開閉ドアを有する鋼板製の蓋体44(カバー)を原子炉建屋102に被せる。もちろん原子炉建屋102の開閉ドアに対向する位置には開口部18(不図示)を設けておく。開閉ドアの開閉はジブクレーン34等により開閉ドア(不図示)の自由端側を吊り上げる等により行なう。
【0047】
図8乃至図12に本実施形態の原子力発電所100の解体工程を示し、図8は橋型クレーン10を設置する工程、図9は原子炉建屋102内の構造物の一部をタービン建屋120に移送・保管する工程、図10は原子炉建屋102にカバーを設置する工程、図11は原子炉燃料を搬出する工程、図12は、原子炉を解体して搬出する工程を示す。ここで、原子炉圧力容器104、使用済み燃料プール116はすでに冷温停止状態となっていることを前提とする。
【0048】
第1に、図8に示すように、まず原子炉建屋102及びタービン建屋120を跨ぐ橋型クレーン10を配置する。まず橋型クレーン10が載置されるガーダ38を図1等に示すように配置する(第1の工程)。そしてガーダ38の長手方向の端部においてクローラークレーン等を用いて支柱30を立て、鋼板を繋ぎ合わせて形成したビーム12をクローラークレーンで吊り上げて支柱30に接続する。さらにジブクレーン34をクローラークレーンで吊り上げてビーム12の上に搭載する。また主排気塔122がビーム12に干渉する場合には、主排気塔122のビーム12と干渉する部位以上の部分を解体・撤去する。この解体撤去は、クローラークレーンを用いても良いし、橋型クレーン10(移動式巻揚機22(不図示)、ジブクレーン34)を用いてもよい。
【0049】
第2に、図9に示すように、移動式巻揚機22(図9〜図12では不図示)を用いて比較的放射能レベルの低いタービン建屋120内の構造物(タービン本体、発電機等)を撤去したのち、原子炉建屋102内の構造物(重量物)の一部(機器類)をタービン建屋120に移送する(第2の工程)。このときタービン建屋120の天井は、構造物を搬入・搬出できる程度の開口部を設け、安定貯蔵等をする場合には開口部を鋼板製の板材等により蓋をする。これにより、原子炉建屋102内において原子炉圧力容器104、原子炉格納容器108の解体の際に必要な空間を確保することができ、作業効率を向上させることができる。また、原子炉建屋102内に配置されていたいずれの構造物も原子炉建屋102かタービン建屋120に置かれることになるので、作業に伴う放射性物質の漏洩を各建屋により低減することができる。なお、原子炉建屋102内から搬出する機器のうち放射線量が多いものは高放射線物保管キャスクに収納した状態で、原子炉建屋102から搬出しタービン建屋120に移送する。
【0050】
第3に、図10に示すように、原子炉建屋102の上部に蓋体44を被せ、長期間安定貯蔵する(第3の工程)。ここで、蓋体44は組み立てたあとに移動式巻揚機22で吊り上げても良いし、蓋体44を構成する鋼板を一つずつ移動式巻揚機22で吊り上げ、原子炉建屋102に次々と固定して蓋体44を形成してもよい。また上記作業の後は、主排気塔122の残りの部分を解体する。そして安定貯蔵したのちは、タービン建屋120に配置した原子炉建屋102由来の構造物を移動式巻揚機22により搬出するとともにタービン建屋120を解体する。
【0051】
第4に、図11に示すように、原子炉建屋102内の使用済み燃料及び原子炉圧力容器104内の燃料を搬出する(第4の工程)。まず、移動式巻揚機22を用いて燃料キャスク46(重量物)を、開閉ドアを通じて原子炉建屋102に導入し、使用済み燃料プール116内の使用済み燃料を、燃料交換機(移動式巻揚機22でも良い)を用いてプール内の水とともに収容する。さらに原子炉建屋102において原子炉ウェルカバー114(図7)、PCVヘッド110(図7)、RPVヘッド106(図7)等を取り外してこれらを移動式巻揚機22で吊り上げてタービン建屋120に移動・仮置きし、原子炉圧力容器104内の原子炉燃料を、燃料交換機(移動式巻揚機22でも良い)を用いて使用済み燃料プール116に導入したうえで、燃料キャスク46にプール内の水とともに収容する。よって使用済み燃料プール116には燃料キャスク46(輸送キャスク48も同様)により運び出された水の分だけ新たな水を作業の進行に合わせて供給する。
【0052】
そして、その燃料キャスク46を移動式巻揚機22により吊り上げ、吊り上げた状態で橋型クレーン10をガーダ38に沿って移動させ、準備エリア124(それ以外の場所でも良い)に待機している運搬車両128上で吊り下げ、その運搬車両128に燃料キャスク46を積載させる作業を使用済み燃料および原子炉燃料がなくなるまで繰り返す。
【0053】
第5に、図12に示すように、原子炉建屋102内の構造物を解体・搬出する(第5の工程)。まず、移動式巻揚機22により輸送キャスク48(重量物)を使用済み燃料プール116に導入し、原子炉建屋102内の原子炉圧力容器104以外の構造物を水中で切断する。そして、切断により発生した切断片(重量物)を使用済み燃料プール116に導入して輸送キャスク48に収容し、輸送キャスク48を移動式巻揚機22により前述同様に運搬車両128に積載させ、全ての切断片がなくなるまで繰り返す。最後に、移動式巻揚機22により水中切断装置を導入して原子炉圧力容器104を切断する。そして切断片を使用済み燃料プール116に導入して輸送キャスク48に収容し、輸送キャスク48を移動式巻揚機22により前述同様に運搬車両128に積載させ、全ての切断片がなくなるまで繰り返す。
【0054】
以上の工程を経ることにより、高濃度の放射性物質を含む構造物は撤去され、あとは原子炉建屋102の解体工事を行なうことになる。もちろんこの解体工事にも本実施形態の橋型クレーン10を用いることができる。なお、本実施形態の橋型クレーン10の適用対象となる原子炉建屋102は複数あるので、例えば前段の工程(第2の工程〜第4の工程)を各原子炉建屋102で一つずつ行い、全ての原子炉建屋102で前段の工程が終了したのち、次段の工程(第3の工程〜第5の工程)を各原子炉建屋102で一つずつ行なう、という流れで解体作業を行うことになる。
【0055】
従来の移動式クレーン・クローラークレーンでは、作業半径により吊り上げ荷重・吊代の制限がある。またこれらのクレーンのアームと建屋の干渉等を常に注意する必要があるが、本実施形態の橋型クレーン10ではそれらが無く、常に鉛直方向からの吊り上げとなり、瓦礫、建屋解体、重量物移動、燃料移動が容易・安全に行えるため、作業性が向上し工程の短縮を図ることできる。例えば、原子炉及び使用済み燃料プール116内の燃料・機器の搬出を原子炉建屋102に配置された天井クレーン118(図7)、燃料交換機同様に取り扱うことができる。さらに天井クレーン118(図7)とは異なり、建屋の内部と外部との間で重量物(構造物)を運搬することができるので、天井クレーン118(図7)を用いた場合より作業効率が向上する。
【0056】
また、大型のクローラークレーンの場合には、稼動範囲の地盤養生が大掛かりとなるが、本実施形態の橋型クレーン10では、ガーダ38の基礎部分のみの強化(杭42を用いた強化)で済ませることができる。特にガーダ38を原子炉建屋102の配列方向に並列に敷かれた道路上に敷設する場合には、基礎(杭42)は少なくて済み、作業効率、コストを抑制できる。さらに、原子炉建屋102及びタービン建屋120が複数ある場合、クローラークレーンの場合は設置位置を移動させる必要が発生するが、本実施形態の橋型クレーン10では、その可動範囲に全ての原子炉建屋102、タービン建屋120が入ることになるため、作業効率の向上・工期短縮を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
原子力発電所において、少ない土地の占有で設置することができ、かつ揚重の際の作業半径による吊り上げ荷重・吊代を考慮することなく効率よく重量物の吊り上げ等の作業を行なうことができるとともに、作業員の被曝量を低減することが可能な橋型クレーンまたは原子力発電所の解体方法として利用できる。
【符号の説明】
【0058】
10………橋型クレーン、12………ビーム、14………作業空間、16………多目的空間、18………開口部、20………第1のレール、22………移動式巻揚機、24………ワイヤー、26………フック、28………移動式運転室、30………支柱、32………走行車輪、33………エレベーター、34………ジブクレーン、36………第2のレール、38………ガーダ、40………第3のレール、42………杭、44………蓋体、46………燃料キャスク、48………輸送キャスク、100………原子力発電所、102………原子炉建屋、104………原子炉圧力容器、106………RPVヘッド、108………原子炉格納容器、110………PCVヘッド、112………保護壁、114………原子炉ウェルカバー、116………使用済み燃料プール、118………天井クレーン、120………タービン建屋、122………主排気塔、124………準備エリア、126………配管・トレンチ、128………運搬車両。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉建屋を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーンであって、
前記橋型クレーンの水平のビーム内の長手方向にわたって形成された内部空間と、
前記内部空間に配置されるとともに前記ビームの長手方向に移動可能とされ、前記ビームの下端において前記ビームの長手方向に沿って開けられた開口部を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、
前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室と、
を備えることを特徴とする橋型クレーン。
【請求項2】
前記内部空間は、前記吊り上げ手段が通過する作業空間と、前記作業空間から空間的に分離した多目的空間と、に仕切られたことを特徴とする請求項1に記載の橋型クレーン。
【請求項3】
前記多目的空間には、放射能汚染物質を遮蔽する高性能フィルタ付きの空調機が配置されるとともに前記作業空間と前記多目的空間とを仕切る仕切りには、ドアが配置されたことを特徴とする請求項2に記載の橋型クレーン。
【請求項4】
前記移動式運転室に配置され、前記開口部を通じて下方を撮影可能なカメラと、
前記多目的空間に配置され、前記カメラが撮影した画像を映すモニターと、を有し、
前記多目的空間に配置され、前記制御手段を遠隔操作可能な遠隔操作部と、を有することを特徴とする請求項2または3に記載の橋型クレーン。
【請求項5】
前記多目的空間及び前記移動式運転室の少なくとも前記原子炉建屋に対向する壁面には放射線遮蔽部材が配置されたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項6】
前記ビーム上部には、前記ビームの長手方向に移動可能なジブクレーンが配置されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項7】
前記原子炉建屋は一列に複数配列されるとともに、前記原子炉建屋の配列方向に平行な方向に一対のガーダが前記原子炉建屋を挟むように配置され、
前記支柱はガーダ上に配置されるとともに前記ガーダに沿って移動可能であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項8】
前記ガーダは、前記原子炉建屋の配列方向の両端部間の長さより長く、且つ前記ガーダの長手方向の端部を頂点とする四角形内に前記原子炉建屋が収まるように配置されたことを特徴とする請求項7に記載の橋型クレーン。
【請求項9】
前記ガーダが配置される地面には前記ガーダを支持する杭が打ち込まれていることを特徴とする請求項7または8に記載に橋型クレーン。
【請求項10】
ビームと、前記ビームに配置され前記ビームの長手方向に移動可能であって、原子炉建屋内の重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、を有する橋型クレーンを、前記原子炉建屋及び前記原子炉建屋に隣接するタービン建屋を跨ぐように配置し、
前記タービン建屋内の重量物を前記タービン建屋から撤去したのち、前記吊り上げ手段により前記原子炉建屋内の重量物の一部を吊り上げて前記タービン建屋内に搬入することを特徴とする原子力発電所の解体方法。
【請求項11】
前記原子炉建屋の上部を覆うとともに前記原子炉建屋内の重量物を取り出し可能な開閉ドアを有する蓋体を前記原子炉建屋に被せることを特徴とする請求項10に記載の原子力発電所の解体方法。
【請求項1】
原子炉建屋を包含する作業エリアに跨って配置された橋型クレーンであって、
前記橋型クレーンの水平のビーム内の長手方向にわたって形成された内部空間と、
前記内部空間に配置されるとともに前記ビームの長手方向に移動可能とされ、前記ビームの下端において前記ビームの長手方向に沿って開けられた開口部を通じて重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、
前記吊り上げ手段に配置されるとともに作業員を収容し、前記作業員の操作により前記吊り上げ手段を制御する制御手段が配置された移動式運転室と、
を備えることを特徴とする橋型クレーン。
【請求項2】
前記内部空間は、前記吊り上げ手段が通過する作業空間と、前記作業空間から空間的に分離した多目的空間と、に仕切られたことを特徴とする請求項1に記載の橋型クレーン。
【請求項3】
前記多目的空間には、放射能汚染物質を遮蔽する高性能フィルタ付きの空調機が配置されるとともに前記作業空間と前記多目的空間とを仕切る仕切りには、ドアが配置されたことを特徴とする請求項2に記載の橋型クレーン。
【請求項4】
前記移動式運転室に配置され、前記開口部を通じて下方を撮影可能なカメラと、
前記多目的空間に配置され、前記カメラが撮影した画像を映すモニターと、を有し、
前記多目的空間に配置され、前記制御手段を遠隔操作可能な遠隔操作部と、を有することを特徴とする請求項2または3に記載の橋型クレーン。
【請求項5】
前記多目的空間及び前記移動式運転室の少なくとも前記原子炉建屋に対向する壁面には放射線遮蔽部材が配置されたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項6】
前記ビーム上部には、前記ビームの長手方向に移動可能なジブクレーンが配置されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項7】
前記原子炉建屋は一列に複数配列されるとともに、前記原子炉建屋の配列方向に平行な方向に一対のガーダが前記原子炉建屋を挟むように配置され、
前記支柱はガーダ上に配置されるとともに前記ガーダに沿って移動可能であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の橋型クレーン。
【請求項8】
前記ガーダは、前記原子炉建屋の配列方向の両端部間の長さより長く、且つ前記ガーダの長手方向の端部を頂点とする四角形内に前記原子炉建屋が収まるように配置されたことを特徴とする請求項7に記載の橋型クレーン。
【請求項9】
前記ガーダが配置される地面には前記ガーダを支持する杭が打ち込まれていることを特徴とする請求項7または8に記載に橋型クレーン。
【請求項10】
ビームと、前記ビームに配置され前記ビームの長手方向に移動可能であって、原子炉建屋内の重量物を吊り上げ可能な吊り上げ手段と、を有する橋型クレーンを、前記原子炉建屋及び前記原子炉建屋に隣接するタービン建屋を跨ぐように配置し、
前記タービン建屋内の重量物を前記タービン建屋から撤去したのち、前記吊り上げ手段により前記原子炉建屋内の重量物の一部を吊り上げて前記タービン建屋内に搬入することを特徴とする原子力発電所の解体方法。
【請求項11】
前記原子炉建屋の上部を覆うとともに前記原子炉建屋内の重量物を取り出し可能な開閉ドアを有する蓋体を前記原子炉建屋に被せることを特徴とする請求項10に記載の原子力発電所の解体方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−2924(P2013−2924A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133618(P2011−133618)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
[ Back to top ]