説明

機能性繊維およびその製造方法

【課題】 樹脂や他の接着剤を使用せず、金属酸化物と繊維を化学結合させた機能性繊維を提供する。
【解決手段】 繊維母材に(1)粒子径が0.01〜0.03ミクロンで、水酸化アルミニウムとステアリン酸で表面被覆されたルチル型酸化チタンの微粒子(2)真空凍結乾燥機を使用して粉末化し保存しておいたセリシン粉末の(1)と(2)を所定量混合した分散水溶液中に超音波洗浄器と渦発生器を使用してセリシンー酸化チタン分散水溶液とすることにより分散安定性を向上させて金属酸化物とセリシンとの複合物を繊維母材に固着する。UV波吸収、活性酸素発生活性酸素吸収、消臭、抗菌などの機能を付与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維母材に酸化チタン等の金属酸化物が固着されてUV波吸収、活性酸素発生、活性酸素吸収、消臭、抗菌等の機能が付与された機能性繊維、および、そのような機能性繊維を製造するための方法に関する。
【技術背景】
【0002】
消臭や抗菌などの機能性が付与された機能性繊維は、繊維母材に酸化チタン等の金属酸化物を固着して製造される。繊維母材に金属酸化物を固着する方法をしては、従来、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系バインダーや、アルギン酸ソーダ、ローカスビーンガム、グアーガム、デンプン等の多糖類バインダーを使用し、それらのバインダーを介して金属酸化物を繊維表面に保持させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ビスコースに金属酸化物微粒子を添加し混合した後、そのビスコースを紡糸して機能性レーヨン繊維を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】 特開2004−137611(第5頁)
【特許文献2】 特開2004−162245(第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バインダーで金属酸化物を繊維表面に保持させる方法では、バインダーの風合いが繊維独自の風合いに影響するといった問題点がある。また、ビスコースに金属酸化物微粒子を添加し混合した場合、そのビスコースを紡糸して機能性レーヨンを製造する方法では、ビスコースの繊維表面に突出した金属酸化物は機能を発揮するが、ビスコースの内部に付与された金属酸化物は機能の発揮が減少される。その為、ビスコースに金属酸化物微粒子を添加してもその微粒子全部が効果を発揮するには至らない、といった問題点がある。
【0004】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、繊維表面に金属酸化物を化学結合させた、機能性繊維を提供すること、および、そのような機能性繊維を好適に製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
請求項1に係る発明は、繊維母材に金属酸化物が固着された機能性繊維の製造方法において、繊維母材に金属酸化物を、セリシンとの複合物にして固着したことを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明は、繊維母材に金属酸化物が固着された機能性繊維の製造方法において、金属酸化物およびセリシンが分散した分散水溶液を調整し、その分散水溶液中に繊維を浸漬させた後、繊維を乾燥させることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の製造方法において金属酸化物をセリシン水溶液中に分散させて前記分散水溶液を調整することを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の製造方法において、繊維の表面をカチオン化して、そのカチオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の製造方法において、繊維の表面をアニオン化して、そのアニオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の機能性繊維においては、セリシンを用いて酸化チタン等の金属酸化物を化学結合させる為、バインダーを必要としない。したがって、請求項1に係る発明の機能性繊維を使用すると、繊維表面に結合した酸化チタン等の金属化合物は繊維の風合いを損なうことなく機能を発揮させる事にある。特に布帛への効果的な製造方法である。
【0011】
請求項2に係る発明の製造方法によると、金属酸化物およびセリシンが分散した分散水溶液を使用することにより繊維表面に均一に化学結合させる事が出来る。その為、紡績前の繊維原料などに必要な機能を付与し、繊維表面の平滑性を必要とする紡績性に適した機能繊維を特徴とする製造方法である。
【0012】
請求項3に係る発明の製造方法では、各種の金属酸化物はセリシン濃度、分子量の変化によって水溶液中に分散する。その為、各種の金属酸化剤とセリシン分子量及び使用量を調整し、UV派吸収、活性酸素発生、活性酸素吸収、消臭、抗菌などの機能や各種の風合い、耐久性に優れた請求項2に記載の機能性繊維の製造方法である。
【0013】
請求項4に係る発明の製造方法では、あらかじめ、繊維の表面をカチオン化することにより優れた化学結合を補う事ができる。そのカチオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させる請求項2または請求項3に記載の機能性繊維の製造方法である。
【0014】
請求項5に係る発明の製造方法では、あらかじめ、繊維の表面をアニオン化することにより優れた化学結合を補う事ができる。そのアニオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させる請求項2または請求項3に記載の機能性繊維の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の最良の実施形態について説明する。
この発明に係る機能性繊維は、繊維母材に金属酸化物とセリシンとの複合物が固着されている。
【0016】
繊維母材は、綿、ナイロン、アクリル繊維、ポリエステル繊維など、特に限定されない。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛などのようにUV波吸収物質、活性酸素発生物質、活性酸素吸収物質等の表面活性物質、消臭物質、抗菌物質などが使用される。金属酸化物の粒子の大きさ、形状、表面修飾、表面加工法などは特に限定されないが、例えば酸化チタンの分散液濃度では0.01〜10%で使用され、UV波のB波を吸収する効果が高い、といった観点からすると0.1%前後の濃度が好ましい。また、1種類の金属酸化物だけを使用しても、2種類以上の金属酸化物を組み合わせて使用してもどちらでもよい。
【0017】
セリシンとしては、生糸から抽出して得られた分子量が5千〜10万程度であるものが使用されるが、金属酸化物と繊維母材との良好な結果が得られるようにするためには、セリシンの分子量は、1万前後とするのが好ましい。
【0018】
上記した機能性繊維は、金属酸化物およびセリシンが分散した分散水溶液を調整し、その分散水溶液中に繊維を浸漬させた後、繊維を乾燥させることにより得られる。分散水溶液は、金属酸化物をセリシン水溶液中に分散させて調整される。あるいは、2種類以上の金属酸化物を組み合わせてセリシン水溶液中に分散させて調整する。
【0019】
繊維の表面をカチオン化して、そのカチオン化繊維を分散水溶液中に浸漬させるようにしてもよい。繊維の表面をカチオン化するには、カチオン化剤などを使用し、水酸化ナトリウムの存在下においてカチオン化剤と繊維とを反応させる。得られたカチオン化繊維は、例えば酸化チタンとセリシンの分散水溶液で処理されるが、このときの分散水溶液のpHは、例えば2〜12の範囲である。
【0020】
繊維の表面をアニオン化して、そのアニオン化繊維を分散水溶液中に浸漬させるようにしてもよい。繊維の表面をアニオン化するには、メタクリル酸を酸化剤と還元剤を用いた水溶液中にて繊維をグラフト結合させ、メタクリル酸が含有するカルボキシル基のアニオン基を利用する。例えば酸化チタンとセリシンの分散水溶液で処理されるが、このときの分散水溶液のpHは、例えば2〜12の範囲である。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
〔セリシンの抽出〕
高温・高圧釜を使用し、130℃の温度、3kgf/cmの圧力で1時間、生糸から抽出処理を行い、得られた抽出液を130℃の温度で3時間、加水分解してセリシンの水溶液を得た。得られた水溶液を凍結乾燥させ、乾燥物を粉末化した。得られたセリシンの粉末を蒸留水に溶解させ、高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製CO−8020)を使用してセリシンの分子量を測定した。(使用したカラム:TSK−Gel G3000−SW、カラム温度:40℃、流速:0.7ml/min、移動層:0.1Mリン酸緩衝液(pH6.9/0.3MNaCl)。検出器は、測定波長210nmとした紫外分光光度計(東ソ−(株)製UV−8020)を用いた。検量線は、高度に精製された5種類のタンパク質混合物のオリエンタル酵母(株)製MW−Marker(HPLC用)を用いて作成した。そして、これらの測定により検定された分子量10,000のセリシンを以下の処理に用いた。
【0022】
〔セリシン水溶液の調製〕
真空凍結乾燥機( (株)宝製作所TF5−85ATANN)を使用して粉末化し保存しておいたセリシン粉末を、1mg/mlの濃度となるように蒸留水に120℃、20分で溶解させた。得られたセリシン水溶液は、pH6.5であり、このほかにpH2およびpH12に調整したセリシン水溶液を用意した。
【0023】
〔酸化チタン分散水溶液の調製〕
粒子系が0.01〜0.03μmで、水酸化アルミニウムとステアリン酸で表面被覆されたルチル型酸化チタンの微粒子30mgに蒸留水10mlを加え、超音波洗浄器(ヤマト科学 (株)製YAMATO2510 BRANSON)と渦発生器(Scientific Industries,INC製Vortex Genie2)を使用し、1時間〜4時間の時間をかけてチタン微粒子を水溶液中に均一に分散させた。
【0024】
セリシン水溶液:酸化チタン分散水溶液が1:2の割合となるように、上記セリシン水溶液を上記酸化チタン分散水溶液中に注ぎ入れ、超音波洗浄器と渦発生器を使用して1時間〜2時間、セリシンおよび酸化チタン微粒子を水溶液中に均一に分散させた。得られた水溶液を、セリシン−酸化チタン分散水溶液として用いることとした。このように、酸化チタン分散水溶液にセリシンを加えることにより、酸化チタン微粒子の分散安定性がより向上することとなる。
【0025】
〔カチオン化綿布の作製〕
浴比1:8でカチオノンUK(一方社油脂化学 (株)商品名)80g/Lを用い、水酸化ナトリウム12g/Lの存在下で、綿布に60℃の温度で40分間、カチオン化剤を反応させ、その後に綿布を水洗し乾燥させて、カチオン化綿布を作製した。
【0026】
〔綿布へのセリシン−酸化チタンの付着〕
上記カチオン化綿布および何も加工処理を施していない綿布をそれぞれ3g切り取り、上記セリシン−酸化チタン分散水溶液を2個のシャーレにそれぞれ30mlずつ入れ、シャーレ内の水溶液中に綿布をそれぞれ室温で1時間、浸漬させた。その後に、綿布を蒸留水で3回軽くすすぎ洗いし乾燥させた。
【0027】
〔アミノ酸定量法によるセリシンの定量〕
綿布へのセリシンの付着量を、フルオレスカミン法を用い以下のようにして調べた。
セリシン−酸化チタンが付着した各綿布をそれぞれ2cmの大きさに切断したものをそれぞれサンプル片とした。サンプル片を試験管に入れ、その試験管中に1mol/LのHClを1ml添加し、オートクレーブ(平山製HICLAVE HV−50)を用いて、120℃の温度で30分間、加水分解を行った。続いて、1mol/Lの水酸化ナトリウムを用いてpH=7となるように水溶液を中和した後、10%のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を、サンプル溶液に対する濃度が1%となるように添加し、超音波を10分間照射して、これをサンプル溶液とした。
フルオレスカミン試薬3mgを1,4−ジオキサン10.3gに溶解させ、これを蛍光測定試薬とした。また、サンプル溶液を1%SDSで2倍希釈し、この希釈溶液を1ml分取して遠心分離し、上澄み液をセリシンサンプル溶液とした。
96穴マルチウエルプレートのウエルに30μlのセリシンサンプル溶液を分注し、そのウェルに120μlのリン酸バッファ(pH8.2)を分注し、さらに50μlのフルオレスカミン蛍光測定試薬分注した後、蛍光マイクロプレートリーダー(日本モレキュラデバイス(株)製SPECTRA MAX GEMINI EM)を使用し、波長を励起波長=390nm、蛍光波長=475nmとして蛍光波長を測定した。
同時に、上記した〔セリシン水溶液の調製〕において調製されたものと同じ濃度のセリシン水溶液を用いて、試験管にサンプル片を入れずに、上記と同様に加水分解、中和、SDS水溶液の添加及び超音波照射の各処理操作を行い、得られた溶液を、1%SDSを用いて各種濃度に希釈した。そして、各種濃度の溶液中に蛍光測定試薬を添加し、上記と同様の操作、条件で蛍光強度を測定して、それらの測定値に基づいて検量線を作製した。その検量線を用い、Softmax▲R▼Pro(モレキュラーデバイス(株))を用いて、綿布へのセリシンの付着量を算出した。
【0028】
セリシン付着量の定量結果を図1に示す。図1から分かるように、綿布をカチオン化綿布とすることにより、綿布とセリシンをイオン結合させて、綿布へのセリシンの付着量をより多くすることができる。
【0029】
エネルギー分散型X線分析装置(エダックス ジャパン(株)製EDAX DX−4)を用いて、カチオン化綿布上のセリシン酸化チタンの存在を確認した。その結果を図2に示す。
【0030】
この発明に係る方法を用いることにより、セリシンと酸化チタンを良好に分散させ、従来の接着剤などを用いることなくカチオン化綿布上に酸化チタンを付着させることができる。
【0031】
〔UV透過率の測定〕
分光光度計((株)日立製作所U−3000 Spectrophotometer)と60Φの積分球((株)日立製作所Integating sphere)を用いて、各サンプル片のUV透過率をそれぞれ測定した。波長は280nm〜450nmで、波長の間隔は5nmとした。
また、未処理の綿布を、セリシン水溶液のみ、酸化チタン分散水溶液のみおよびセリシン−酸化チタン分散水溶液でそれぞれ処理した各綿布のUV透過率をそれぞれ測定した。さらに、カチオン化綿布を、セリシン水溶液、酸化チタン分散水溶液のみおよびセリシン酸化チタン分散水溶液でそれぞれ処理した各カチオン化綿布のUV透過率をそれぞれ測定した。それらの測定結果を図3および図4に示す。
【0032】
図3から分かるように、セリシンと酸化チタンを用いることにより、綿布のUV透過率を低下させる効果が認められた。また、綿布をカチオン化綿布にすることにより、綿布よりもさらに優れた効果が認められた。
【0033】
〔洗濯後のUV透過率の測定〕
上記した〔綿布へのセリシン−酸化チタンの付着〕において作製した試料綿布(未加工処理綿布およびカチオン化綿布)を30回洗濯し、10回毎に試料綿布のUV透過率を測定した。測定には、60Φ積分球を設置した分光光度計((株)日立製作所U−3000)を使用し、波長は450nm〜280nmで、波長の間隔は5nmとした。洗濯条件は、JIS L0271−103に準じた。それらの測定結果を図5ないし図7に示す。
【0034】
図5ないし図7から分かるように、この発明に係る方法で得られた有機UV波吸収繊維は、十分に洗濯耐久性を有するものであり、さらに、セリシン水溶液のpH値を変化させることにより、アルカリ洗剤とのイオン的な効果が加わり、より優れた洗濯耐久性が得られる。
【0035】
〔摩擦堅牢度試験後のUV透過率測定〕
上記した試料綿布(未加工処理綿綿布およびカチオン化綿布)の摩擦試験を、染色物摩擦堅牢度試験機学振型((株)大栄科学精器製作所)を用いて、JIS−L0849に規定されている摩擦に対する染色堅牢度試験法に準じて行った。また、UV透過率の測定は、上記と同様の方法により行った。その結果を図8および図9に示す。
【0036】
図8および図9から分かるように、この発明に係る方法で得られた有機UV波吸収繊維は、充分な摩擦堅牢度を有し、また、摩擦をうけることにより、UV透過率を低下させる効果が認められた。
【0037】
[実施例2]
上記カチオン化綿布および何も加工処理を施していない綿布をそれぞれ10cmの大きさに切り取り〔酸化チタン分散水溶液の調製〕において調製された水溶液5mlを上記した実施例1と同様の方法によりセリシン−酸化チタンを付着させたカチオン化綿布を得た。また上記と同様の方法によりUV透過率の測定を行った。その結果を図10に示す。
【0038】
図10から分かるようにカチオン化綿布に対してセリシン−酸化チタン量を多くすると透過率をさらに低下させることができる。
[実施例3]
上記した実施例1と同様の方法により、120℃の温度0分間、生糸から抽出処理を行い、最終的に得られた分子量98、000のセリシンを用いて、上記した実施例1と同様の方法により、セリシン−酸化チタン分散水溶液を得た。
【0038】
上記した実施例1と同様の方法により、セリシン−酸化チタンを付着させた綿布(UV波吸収繊維)を得て、上記と同様の方法により、セリシン付着量の定量方法およびUV透過率の測定をそれぞれ行った。それらの結果を図11および図12に示す。
【0039】
図13および図14から分かるように、この発明に係る方法によると、セリシンの分子量の如何に拘わらず綿布のUV透過率を下げることができ、セリシンの分子量や抽出方法に関係なく同じ効果が得られる。
【0040】
[実施例3]
上記した実施例1と同様の方法により、酸化チタンの種類を変えてカチオン化綿布についての実験を行った。酸化チタンは、粒子系が0.03μm〜0.05μmで、表面処理していない親水性のもの(N)、表面を水酸化アルミニウムで被覆した親水性のもの(A)表面を水酸化アルミニウムとステアリン酸で被覆した撥水性のもの(C)の3種類を用いた。綿布のUV透過率の測定結果を図12ないし図14に示す。
【0041】
図13ないし図15から分かるように、この発明に係る方法によると、酸化チタンに表面処理が施されているかどうかに拘わらず、どのようなタイプの酸化チタンでも、セリシンを用いてカチオン化綿布のUV透過率を下げることができる。
【0042】
[実施例4]
上記した実施例1と同様の方法により、粒子系や形状の異なる酸化チタンを用いてカチオン化綿布についての実験を行った。酸化チタンは、針状酸化チタン(短軸0.21μm、長軸2.86μm)、ならびに、表面を水酸化アルミニウムで被覆したルチル型の、粒子系がそれぞれ0.21μm、0.28μm、0.24μmおよび0.25μmである酸化チタンを用いた。綿布のUV透過率の測定結果を図15に示す。
【0043】
図16から分かるように、この発明に係る方法によると、どのような形状、粒子系または表面処理が施された酸化チタンであっても、酸化チタンの微粒子をセリシンによって均一に分散させることができ、カチオン化綿布のUV透過率を下げることができる。
【0044】
[実施例5]
綿布だけでなく他の素材に対しても、この発明を適用することができるかどうかについて検討した。試験布帛として6−ナイロン布を使用し、KIERARON MFB(BASF社製)3g/Lと炭酸ナトリウム0.2g/Lにより80℃の温度で10分間、精錬だけしたものと、精錬後において表面にグラフト重合を施してアニオン化したものとを用いて実験を行った。
【0045】
[アニオン化ナイロン布の作製]
6−ナイロン布の重量に対して浴比1:10で金属封鎖剤(キレストNTB、キレスト化学(株)社製)0.3%、メタクリル酸45%、過硫酸アンモニウム1.5%および還元剤(スーパーライトC、三菱ガス化学(株)社製)4.5%の存在下で、6−ナイロン布に80℃の温度で40分間、還元剤を反応させ、その後にナイロン布を水洗し、1g/Lの非イオン界面活性剤(ダイサーフP−30 第一工業製薬(株)社製)を用いて70℃の温度で10分間、水洗し、水洗後に乾燥させて、アニオン化ナイロン布を作製した。
【0046】
酸化チタンとして、粒子系が0.03〜0.05μmで、ルチル型の表面処理を施していないもの(N)、表面を水酸化アルミニウムで被覆したもの(A)、および、表面を酸化アルミニウムとステアリン酸で被覆したもの(C)の3種類を用い、上記した実施例1と同様の方法により実験を行った。ナイロン布のUV透過率の測定結果を図17ないし図21に示す。
【0047】
図17ないし図21から分かるように、この発明に係る方法によると、表面がカチオン化されている繊維だけでなく、表面がアニオン化されている繊維など、どのような繊維表面になっていても、UV透過率を下げることができる。また、この発明は、綿やナイロンだけに限らず、アクリル繊維、ポリエステル繊維など、その他のあらゆる繊維にも適応し得るものである。
【0048】
以上のとおり、この発明に係る方法によると、セリシンを用いて酸化チタンを分散させることにより、分散安定性をより高めることができ、綿布にセリシン酸化チタンを付着させることによって綿布のUV透過率を下げることができる。さらに、綿布の表面をカチオン化することにより、UV透過率をより下げることができる。そして、その効果は、セリシンの分子量に影響を受けるものではない。また、この発明は、綿布に対してだけでなく、その他の各種の繊維に対しても適用することができ、さらにカチオン化に限らず、繊維表面をアニオン化することによってもよりUV透過率を下げることができる。また、この発明に係る方法は、酸化チタンのどんな種類や形状にも適応させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で、綿布およびカチオン化綿布に付着したセリシン定量
【図2】エネルギー分散型X線分析装置を用いて、カチオン化綿布上のチタンの存在
【図3】綿布へのセリシン酸化チタン付着での透過率測定
【図4】カチオン化綿布へのセリシン酸化チタン付着での透過率測定
【図5】カチオン化綿布での洗濯試験10回後の透過率測定
【図6】カチオン化綿布での洗濯試験20回後の透過率測定
【図7】カチオン化綿布での選択試験30回後の透過率測定
【図8】カチオン化綿布での湿摩擦試験後の透過率測定
【図9】カチオン化綿布での乾摩擦試験後の透過率測定
【図10】セリシン酸化チタン量の多く付着させたカチオン化綿布への透過率測定
【図11】セリシン分子量98,000を使用した場合のカチオン化綿布に付着したセリシン定量
【図12】セリシン分子量98,000を使用した場合のカチオン化綿布での透過率測定
【図13】酸化チタンタイプ(N)を使用した場合の透過率測定
【図14】酸化チタンタイプ(A)を使用した場合の透過率測定
【図15】酸化チタンタイプ(C)を使用した場合の透過率測定
【図16】その他の粒子系、形状の異なる酸化チタンを用いた場合の透過率測定
【図17】ナイロン布と酸化チタンタイプ(N)を用いた場合の透過率測定
【図18】ナイロン布と酸化チタンタイプ(A)を用いた場合の透過率測定
【図19】アニオン化ナイロン布と酸化チタンタイプ(N)を用いた場合の透過率測定
【図20】アニオン化ナイロン布と酸化チタンタイプ(A)を用いた場合の透過率測定
【図21】アニオン化ナイロン布と酸化チタンタイプ(C)を用いた場合の透過率測定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維母材に金属酸化物とセリシンとの複合物を固着したことを特徴とする機能性繊維。
【請求項2】
金属酸化物およびセリシンが分散した分散水溶液を調整し、その分散水溶液中の繊維を浸漬させた後、繊維を乾燥させることを特徴とする機能性繊維の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物をセリシン水溶液中に分散させて前記分散水溶液を調整する請求項2に記載の機能性繊維の製造方法。
【請求項4】
繊維の表面をカチオン化して、そのカチオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させる請求項2または請求項3に記載の機能性繊維の製造方法。
【請求項5】
繊維の表面をアニオン化して、そのアニオン化繊維を前記分散水溶液中に浸漬させる請求項2または請求項3に記載の機能性繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−342477(P2006−342477A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198051(P2005−198051)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000231224)日本蚕毛染色株式会社 (8)
【出願人】(599029420)
【Fターム(参考)】