説明

機能性高分子複合体の製造方法

【課題】様々な機能性分子を任意にナノメートルオーダーの距離で配列させること、溶液中での機能性分子間の距離を一定に設定して制御すること、機能性分子間の距離を長い距離で安定に保つこと、機能性高分子の種類の組み合わせを容易に変えることができること、任意の溶液中で機能性分子の機能を損なうことなく簡便にスペーサー分子に結合させることができること、機能性分子間の距離が長い機能性高分子複合体を簡便に、高い収率で製造すること等の少なくとも1つを可能にする、機能性高分子複合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】生体高分子に対する結合活性を有する少なくとも2つの機能性分子を、核酸又はその誘導体を含有した連結可能なスペーサー構造を介して連結させることを特徴とする、機能性高分子複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一種の機能性分子又は異なる種の少なくとも2つの機能性分子が核酸スペーサーを介して連結した機能性高分子複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の評価、医療等の用途に細胞を利用する場合、細胞本来の性質を再現させるために、生体外、すなわち、人工的な基材の上で、細胞の機能、例えば、接着、増殖、分化、未分化、細胞死等を精緻に制御する技術が必要となる。本来の性質を失った細胞の使用は、例えば、薬物の作用の誤った解釈、移植した細胞の生体に対する不適合等を招く場合があるという欠点がある。そのため、人工基材を種々改変する試みが活発になされている。その際に、細胞、特に、細胞表面受容体が認識できる細胞接着性の機能性分子が重要な機能を担うことになる。
【0003】
機能性分子として、生体内から抽出した細胞外マトリクスであるコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン等を用いて、人工基材を被覆し、生体内と同等の環境を再現することで細胞機能を制御する研究が古くから行われている(例えば、非特許文献1、2参照)。また、機能性分子として、ホルモンやサイトカインを用いて、人工基材を被覆する方法を利用することによっても、生体内と同等の環境を再現することで細胞機能を制御する研究がなされている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
しかし、抽出した細胞外マトリクスによって細胞の機能を制御する方法では、生体内から精製できる細胞外マトリクスの種類が実質的に限られること、微量の抽出困難な細胞外マトリクスを用いることが実質的にできないこと、純度や不純物等の影響により再現性の高い結果を得ることが困難であること等の欠点がある。そのため、それぞれの細胞の、それぞれの機能に見合った環境を、人工基材上に設計して再構成することは困難であるのが現状である。
【0005】
そこで、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の細胞外マトリクスに含まれたアミノ酸配列を有し、かつ細胞表面受容体が認識できる合成ペプチド分子を機能性分子として用い、密度及び種類を種々変更して人工基材上に被覆して細胞機能を制御する試みもなされている(例えば、非特許文献4、5)。
【0006】
前記機能性分子を配列させる方法の1つとして、ナノメーターの長さを有する高分子スペーサーにより機能性分子同士を連結する技術(スペーサー法)が報告されている。
【0007】
例えば、ダイ(W.Dai)らは、フィブロネクチン中に含まれる配列であって、細胞表面受容体との相互作用に関与するアミノ酸配列から構成される機能性分子であるRGD分子同士又はラミニン中のアミノ酸配列から構成される機能性分子であるYIGSR分子同士を、平均分子量約3500のポリエチレングリコール鎖を介して、結合させ、細胞凝集剤を製造することを報告している(例えば、非特許文献6参照)。
【0008】
また、川崎らは、フィブロネクチン中に含まれるアミノ酸配列から構成される機能性分子であるRGD分子と、そのシナジー配列であるPHSRN分子とを、平均分子量約2500〜約3400のポリエチレングリコール鎖を介して結合させ、ヘテロリガンド分子を製造することを報告している(非特許文献7及び8参照)。同様に、フィブロネクチン中のアミノ酸配列から構成される機能性分子であるRGDとEILDVとを結合させ、あるいはラミニン中の機能性分子であるPDSGRとYIGSRとを結合させ、分子を製造することが報告されている(例えば、非特許文献9及び10参照)。
【非特許文献1】PP.Lanza,R.Langer,J.Vacanti,Principles of Tissue Engineering,2nd Ed.,Academic Press(2000)
【非特許文献2】小出輝、林利彦 編、細胞外マトリクス−基礎と臨床−、愛智出版(2000)
【非特許文献3】Y.Ito,Biomaterials,20,2333(1999)
【非特許文献4】U.Hersel,C.Dahmen,H.Kessler,Biomaterials,24,4385(2003)
【非特許文献5】H.Shin,S.Jo,AG.Mikos,Biomaterials,24,4353(2003)
【非特許文献6】W.Dai,J.Belt,WM.Saltzman,Bio/Technology,12,797−801(1994)
【非特許文献7】S.Yamamoto,Y.Kaneda,N.Okada,S.Nakagawa,K.Kubo,S.Inoue,M.Maeda,Y.Yamashiro,K.Kawasaki,T.Mayumi,Anti−Cancer Drugs,5,424−428(1994)
【非特許文献8】Y.Suzuki,K.Hojo,I.Okazaki,H.Kamata,M.Sasaki,M.Maeda,M.Nomizu,Y.Yamamoto,S.Nakagawa,T.Mayumi,K.Kawasaki,Chem.Pharm.Bull.50(9),1229−1232(2002)
【非特許文献9】M.Maeda,Y.Izuno,K.Kawasaki,y.Kaneda,y.Mu,y.Tsutsumi,KW.Lem,T.Mayumi,Biochem.Biophys.Res.Commun.,241,595−598(1997)
【非特許文献10】M.Maeda,K.Kawasaki,Y.Mu,H.Kamada,Y.Tsutsumi,TJ.Smith,T.Mayumi,Biochem.Biophys.Res.Commun.,248,485−489(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、1つの側面では、様々な機能性分子を任意にナノメートルオーダーの距離で配列させること、溶液中での機能性分子間の距離を一定に設定して制御すること、機能性分子間の距離を長い距離で安定に保つこと、機能性高分子の種類の組み合わせを容易に変えることができること、任意の溶液中で機能性分子の機能を損なうことなく簡便にスペーサー分子に結合させることができること、機能性分子間の距離が長い機能性高分子複合体を簡便に、高い収率で製造すること等の少なくとも1つを可能にする、機能性高分子複合体の製造方法を提供することにある。なお、本発明の他の課題は、本明細書の記載等から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕 (I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーとを結合させて予備的機能性高分子(A)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的機能性高分子(A)と、該予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法、
〔2〕 (I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)と、機能性分子とを結合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法、並びに
〔3〕 (I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)の少なくとも2種を連結させ、高分子複合体(D)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた高分子複合体(D)に少なくとも2種の機能性分子を結合させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性高分子複合体の製造方法によれば、様々な機能性分子を任意にナノメートルオーダーの距離で配列させることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の機能性高分子複合体の製造方法によれば、機能性分子の位置関係をナノメートルオーダーで一定に制御された機能性高分子複合体を得ることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の製造方法によれば、機能性分子間の距離が長い機能性高分子複合体を簡便に、高い収率で製造することができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の製造方法により得られた機能性高分子複合体によれば、機能性分子の位置関係がナノメートルオーダーで規定可能であり、本発明の製造方法により得られた機能性高分子複合体は、生体分子内あるいは生体分子間の距離を正確に推定する際に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において、ペプチドのアミノ酸配列は、慣用の生化学命名法に準拠したアミノ酸の1文字表記又は3文字表記により表される場合がある。かかる表記とアミノ酸との対応関係を以下に示す。A又はAla:アラニン残基;D又はAsp:アスパラギン酸残基;E又はGlu:グルタミン酸残基;F又はPhe:フェニルアラニン残基;G又はGly:グリシン残基;H又はHis:ヒスチジン残基;I又はIle:イソロイシン残基;K又はLys:リジン残基;L又はLeu:ロイシン残基;M又はMet:メチオニン残基;N又はAsn:アスパラギン残基;P又はPro:プロリン残基;Q又はGln:グルタミン残基;R又はArg:アルギニン残基;S又はSer:セリン残基;T又はThr:スレオニン残基;V又はVal:バリン残基;W又はTrp:トリプトファン残基;Y又はTyr:チロシン残基;C又はCys:システイン残基。
【0013】
本発明は、1つの側面では、生体高分子に対する結合活性を有する少なくとも2つの機能性分子を、核酸又はその誘導体を含有した連結可能なスペーサー構造を介して連結させることを特徴とする、機能性高分子複合体の製造方法に関する。
【0014】
本発明の製造方法は、機能性高分子複合体の製造に際して、核酸又はその誘導体を含有したスペーサー構造が用いられていることに1つの大きな特徴がある。
【0015】
従って、本発明の製造方法によれば、様々な機能性分子を、所望の間隔で制御して配列させることができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の製造方法によれば、前記機能性分子間の位置関係をナノメートルオーダーで実質的に一定に制御された機能性高分子複合体を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0016】
また、本発明の製造方法は、機能性高分子複合体の製造に際して、連結可能なスペーサー構造が用いられていることにも1つの大きな特徴がある。
【0017】
従って、本発明の製造方法によれば、様々な機能性分子を、所望の間隔で制御して、より容易に配列させることができるという優れた効果を発揮する。さらに、本発明の製造方法によれば、前記機能性分子間の位置関係をナノメートルオーダーで実質的に一定に制御して、機能性高分子複合体を作製することができるという優れた効果を発揮する。
【0018】
本発明の製造方法では、機能性高分子複合体の製造に際して、互いに同一又は異なる少なくとも2つのスペーサー構造が用いられていることにも1つの特徴がある。
【0019】
従って、本発明の製造方法によれば、前記スペーサー構造を介して、2つ以上の機能性分子を連結することができるという優れた効果を発揮する。
【0020】
さらに、本発明の製造方法は、機能性高分子複合体の製造に際して、スペーサー構造を連結することに1つの大きな特徴がある。
【0021】
従って、本発明の製造方法によれば、機能性分子間の距離が長い機能性高分子複合体を高い収率で製造することができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の製造方法によれば、機能性分子間の距離が長い機能性高分子複合体を簡便に製造することができるという優れた効果を発揮する。
【0022】
本発明の製造方法によれば、互いに異なる核酸鎖に少なくとも1つの機能性分子が配置された構造を有する機能性高分子複合体〔「機能性高分子複合体1」ともいう;例えば、図1の(A)等参照〕、又は一方の一本鎖の核酸鎖上に少なくとも2つの機能性分子が配置され、かつ他方の一本鎖の核酸鎖上には存在しない構造を有する機能性高分子複合体〔「機能性高分子複合体2」ともいう;例えば、図1の(B)等参照〕を得ることができる。
【0023】
本明細書において、前記「スペーサー構造」とは、2つ以上の機能性分子を連結するために使用されている構造体をいう。具体的には、本発明において、スペーサー構造は、機能性分子に対する結合活性を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサー(本発明において、相補スペーサーともいう)とから構成される。
【0024】
前記スペーサー構造は、連結可能な末端形状を有している。前記末端形状は、いわゆる突出末端であってもよく、平滑末端であってもよい。機能性分子間の距離を、より容易に制御する観点から、前記末端形状は突出末端であることが望ましい。
【0025】
なお、本明細書において、機能性分子に対する結合活性を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサー及び相補スペーサーを、「核酸スペーサー」ともいう。
【0026】
本発明の機能性高分子複合体の製造方法において、機能性分子の種類、数、機能性分子間の距離等は、目的に応じて選択されうる。
【0027】
本明細書において、前記「機能性分子」とは、生体高分子との間で結合活性を有する、合成又は天然の分子をいう。ここで、前記生体高分子としては、例えば、細胞、細胞外マトリクス、細胞間接着の受容体、その他各種生体組織表面におけるタンパク質、ホルモン、サイトカイン(増殖因子)、抗体、糖質等が挙げられる。
【0028】
前記機能性分子の結合活性は、例えば、表面プラズモン解析、ゲルシフトアッセイ、ファージディスプレイ法等により、評価されうる。例えば、表面プラズモン解析による結合活性の評価は、生体高分子を固定化したチップに、評価対象の機能性分子を含有した溶液を、一定の流速で、送液し、適切な検出手段により相互作用を検出することにより行われうる。前記検出手段としては、例えば、蛍光強度、蛍光偏向度等による光学的検出手段;マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF MS)、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計(ESI−MS)等の質量分析計;これらの組み合わせ等が挙げられる。ここで、機能性分子と生体高分子とからなる複合体の形成を示すセンサーグラムが呈示された場合、該機能性分子が結合活性を有することの指標となる。
【0029】
本発明の製造方法においては、前記「少なくとも2つの機能性分子」は、互いに同一又は異なる機能性分子であってもよい。
【0030】
本発明の製造方法に用いられる機能性分子は、化学的に誘導体化されたものであってもよい。
【0031】
また、本明細書において、前記「受容体」とは、細胞に存在し、各種の生理活性物質を特異的に認識し、該生理活性物質の作用を伝達し発現する生体高分子をいう。前記受容体としては、例えば、細胞内に存在する受容体(以下、細胞内受容体ともいう)、形質膜上に存在する受容体(以下、細胞表面受容体ともいう)等が挙げられる。
【0032】
細胞外マトリクスとしては、例えば、コラーゲン(例えば、プロコラーゲン等)、エラスチン、フィブロイン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、アグリン、アンカリン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、オステオカルシン、フィブリノーゲン、プロテオグリカン等が挙げられる。また、前記プロテオグリカンとしては、例えば、アグリカン、アグリン、パールカン、デュリン、フィブロモジュリン、ブレビカン等が挙げられる。
【0033】
なお、本発明の製造方法においては、前記細胞外マトリクスに由来する一部分の構造、すなわち、生体内の細胞マトリクスの断片又は該断片に対応する合成ペプチドを、機能性分子として用いてもよい。
【0034】
前記「生体内の細胞マトリクスの断片」とは、細胞外マトリクスの一部分を化学的又は酵素的に切断し精製後に得られる、ある特定の細胞表面受容体が結合可能な精製断片をいう。前記生体内の細胞マトリクスの断片としては、特に限定されないが、例えば、CNBr処理されて得られるI型コラーゲンの精製断片(例えば、WD. Staatz, JJ. Walsh, T. Pexton, SA. Santoro, J. Biol. Chem., 265(9), 4778-4781(1990)に記載の断片等);CNBrやさらに必要に応じてトリプシン、サーモライシン、コラゲナーゼ等のプロテアーゼで処理をしたIV型コラーゲンの精製断片(例えば、JA. Eble, R. Golbik, K. Mann, K. Kuhn, EMBO J., 12(12), 4795-4802(1993) に記載の方法により得られる三重らせん構造を有する断片;EC. Tsilibary, AS. Charonis, J. Cell. Biol., 103(6), 2467-2473(1986)に記載の方法により得られるNC1ドメイン等)、フィブロネクチンをトリプシン又はペプシン等のプロテアーゼで処理することにより得られる細胞接着性の断片(例えば、SK. Akiyama, E. Hasegawa, T. Hasegawa, KM. Yamada, J. Biol. Chem., 260(24), 13256-13260(1985)参照)等が挙げられる。
【0035】
また、前記「生体内の細胞マトリクスの断片に対応する合成ペプチド」とは、細胞外マトリクスに含まれるアミノ酸配列を含有し、かつある特定の細胞表面受容体が結合できる最小のアミノ酸配列の単位を有する化学的に合成されたオリゴペプチドをいう。
【0036】
本発明において機能性分子として利用されうる全てのペプチドには、目的に応じて付加的なアミノ酸残基がそのN末端側及び/又はC末端側に結合していてもよい。
【0037】
また、本発明において機能性分子として利用されうる合成ペプチドには、目的に応じて非天然型アミノ酸、化学的な修飾基、L体及びD体のアミノ酸のどちらか一方又はその両方等が含まれていてもよい。
【0038】
前記合成ペプチドとしては、特に限定されないが、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、トロンボスポンジン等に共通して含まれ、受容体が結合する最小のアミノ酸配列の単位として、アミノ酸が3個結合したArg−Gly−Asp(RGD)配列等が挙げられる。
【0039】
前記RGD配列を含む直鎖状の合成ペプチドであって、本発明において、機能性分子として用いうるペプチドのアミノ酸配列としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、RGD、RGDS、RGDV、RGDT、RGDF、GRGD、GRGDG、GRGDS、GRGDF、GRGDY、GRGDVY、GRGDYPC、GRGDSP、GRGDSG、GRGDNP、GRGDSY、GRGDSPK、YRGDS、YRGDG、YGRGD、CGRGDSY、CGRGDSPK、YAVTGRGDS、RGDSPASSKP(配列番号:1)、GRGDSPASSKG(配列番号:2)、GCGYGRGDSPG(配列番号:3)、及びGGGPHSRNGGGGGGRGDG(配列番号:4)等が挙げられる。
【0040】
また、RGD配列を含むペプチドを環状にすることで、受容体への結合活性を制御した機能性分子も本発明に利用することができる。
【0041】
前記環状ペプチドとしては、特に限定されないが、例えば、GPen*GRGDSPC*A、GAC*RGDC*LGA、AC*RGDGWC*G、シクロ(RGDf(NMe)V)、シクロ(RGDfV)、シクロ(RGDfK)、シクロ(RGDEv)、シクロ(GRGDfL)、シクロ(ARGDfV)、シクロ(GRGDfV)等が挙げられる。なお、ペプチド配列を示すアミノ酸一文字表記に含まれる小文字は、D−アミノ酸を示す。また、前記「Pen」は、ペニシラミンを示し、「*」は、分子内でジスルフィド結合をしたシステイン残基を示す。以下も同様である。
【0042】
本発明の製造方法では、前記RGD配列以外にも種々の細胞外マトリクスに由来する最小のアミノ酸配列の単位を利用することができる。
【0043】
細胞外マトリクスの1つであるフィブロネクチン由来の最小アミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、NGR、LDV、REDV、EILDV、KQAGDV等の配列が挙げられる。
【0044】
また、細胞外マトリクスの1つであるラミニン由来の最小アミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、LRGDN、IKVAV、YIGSR、CDPGYIGSR、PDSGR、YFQRYLI、RNIAEIIKDA(配列番号:5)等の配列が挙げられる。また、ラミニン由来の最小アミノ酸配列には、例えば、野水基義、蛋白質 核酸 酵素、第45巻、15号、2475−2482(2000)等に記載の細胞接着活性のあるペプチドの配列等も包含される。前記細胞接着活性のあるペプチドの配列としては、例えば、ラミニンのα1鎖に由来するRQVFQVAYIIIKA(配列番号:6)、α1鎖Gドメインに由来するRKRLQVQLSIRT(配列番号:7)等が挙げられる。
【0045】
同様に、細胞外マトリクスの1つであるI型コラーゲン由来の最小アミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、DGEA、KDGEA及びGPAGGKDGEAGAQG(配列番号:8)、GER、GFOGER等の配列が挙げられる。
【0046】
さらに、細胞外マトリクスの1つであるエラスチン由来の最小アミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、VAPG、VGVAPG、VAVAPG等の配列が挙げられる。
【0047】
さらに、細胞外マトリクスの1つであるトロンボスポンジン由来の最小アミノ酸配列としては、VTXG等の配列が挙げられる。
【0048】
前記最小のアミノ酸配列の単位は、機能性分子として用いられる合成ペプチドに含有させることができる。
【0049】
また、本発明の製造方法においては、前記機能性分子は、細胞外マトリクスに由来するもの以外の物質であってもよい。具体的には、単純に受容体に結合する物質、例えば、低分子物質として人工的に設計して合成された物質を、機能性分子として用いてもよい。
【0050】
前記受容体に結合する物質は、細胞外マトリクスに由来する一部分の構造モチーフを含むものであってもよく、該構造モチーフを含まないものであってもよい。前記物質としては、例えば、α5β1インテグリンに対するリガンド分子として、C*RRETAWAC*のペプチド等、α6β1インテグリンに対するリガンド分子として、VSWFSRHRYSPFAVS(配列番号:9)のペプチド等、αMβ2インテグリンに対するリガンド分子として、GYRDGYAGPILYN(配列番号:10)のペプチド等が挙げられる。
【0051】
さらに、本発明の製造方法においては、GA. Sulyok, C. Gibson, SL. Goodman, G. Holzemann, M. Wiesner, H. Kessler, J. Med. Chem., 44(12), 1938-1950(2001)等に記載されているような非ペプチド性の低分子物質であって、受容体に結合する低分子物質も機能性分子として利用可能である。
【0052】
また、受容体のうち、例えば、シンデカン、NG2、CD44等の受容体は、プロテオグリカンを含有することから、前記受容体中のアミノ酸配列を含有し、プロテオグリカンに対して結合するペプチドを機能性分子として用いることもできる。
【0053】
プロテオグリカンに対して結合するペプチドのアミノ酸配列としては、特に限定されないが、例えば、BBXB、XBBXBX、XBBBXXBX等のコンセンサス配列が挙げられる。なお、前記「X」は、疎水性アミノ酸、「B」は、塩基性アミノ酸を示す。前記コンセンサス配列としては、具体的には、例えば、KRSR、FHRRIKA(骨シアロタンパク質に由来)、PRRARV(フィブロネクチンに由来)、WQPPRARI等や、より長いペプチド配列として、YEKPGSPPREVVPRPRPGV(配列番号:11)(フィブロネクチンに由来)、RPSLAKKQRFRHRNRKGYRSQR(配列番号:12)(ビトロネクチンに由来)、RIQNLLKITNLRIKFVK(配列番号:13)(ラミニンに由来)等が挙げられる。
【0054】
本発明の製造方法では、例えば、U. Hersel, C. Dahmen, H. Kessler, Biomaterials, 24, 4385-4415(2003)、JA. Hubbell, Bio/Technology, 13, 565-576(1995)、H. Shin, S. Jo, AG. Mikos, Biomaterials, 24, 4353-4364(2003)及びE. Koivunen, W. Arap, D. Rajotte, J. Lahdenranta, R. Pasqualini, J. Nuclear Med., 40(5), 883-888(1999)等やそれらの引用文献に記載されているような直鎖状又は環状の合成ペプチドを機能性分子として利用することができる。
【0055】
前記「ホルモン」とは、動物組織の内分泌細胞によって生産・分泌され、血流によって標的細胞へ輸送され、外来性のシグナルとして標的細胞の活性を調節する物質をいう。前記ホルモンとしては、特に限定されないが、例えば、膵臓で生産されるインスリンやグルカゴン、副腎髄質で生産されるアドレナリンやノルアドレナリン、性腺で生産されるアンドロゲン、エストロゲン及びゲスターゲン等が挙げられる。また、前記細胞外マトリクスの場合と同様に、ホルモンの分子中に含まれるアミノ酸配列を有し、活性が期待できる一部の構造又は人工的に合成された物質を用いてもよい。
【0056】
前記「サイトカイン」とは、細胞から放出され、免疫、炎症反応の制御作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、細胞増殖・分化の調節作用等の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子をいう。前記サイトカインとしては、特に限定されるものではないが、例えば、インターロイキン類、インターフェロン類、腫瘍壊死因子(TNF)、リンホトキシン、コロニー刺激因子(CSF)、骨形成因子(BMP)、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が挙げられる。
【0057】
サイトカインについても、前記細胞外マトリクスの場合と同様に、それらの分子中に含まれ、活性が期待できる一部の構造又は人工的に合成された物質を用いてもよい。かかる物質としては、例えば、骨形成因子(BMP)に関して、BMP−2と同様の性質を示すNSVNSKIPKACCVPTELSAI(配列番号:14)のペプチド等が挙げられる(例えば、Y. Suzuki, M. Tanihara, K. Suzuki, A. Saitou, W. Sufan, Y. Nishimura, J. Biomed. Mater. Res., 50, 405-409(2000))。また、前記物質としては、エリスロポエチンに関して、YXCXXGPXTWXCXP(Xは数種のアミノ酸で置換可能な位置を示す(NC.Wrington,FX.Farrell,R.Chang,AK.Kashyap,FP.Barbone,LS.Mulcahy,DL.Johnson,RW.Barrett,LK.Jolliffe,WJ.Dower,Science,273,458−463(1996)参照)のペプチド等が挙げられる。
【0058】
なお、本発明の製造方法においては、CD. Reyes, AJ. Garcia, J. Biomed. Mater. Res., 65A, 511-523 (2003) に記載のように、例示されたアミノ酸配列等を含むペプチドが幾つか会合したような構造体を機能性分子として用いてもよい。
【0059】
本発明の製造方法では、抗体を機能性分子として用いることもできる。前記抗体は、目的に応じて自由に選択でき、特に限定されないが、例えば、種々の細胞、細胞外マトリクス、その他各種生体組織表面におけるタンパク質、脂質その他の生体高分子に対する抗体等が挙げられる。具体的には、前記抗体としては、モノクローナル抗体、各種の抗インテグリン抗体、シンデカン、NG2、CD44/CSPG等の細胞表面プロテオグリカンに対する抗体、抗カドヘリン抗体、抗セレクチン抗体等が挙げられる。前記抗体を機能性分子として用いる場合には、抗体そのものを用いてもよく、ペプシンやパパイン等のプロテアーゼ処理によって得られる断片等を用いてもよい。
【0060】
本発明の製造方法では、糖質を機能性分子として用いることもできる。本発明の製造方法では、機能性分子として、単糖、数個(2〜10個)の単糖の縮合体であるオリゴ糖、さらに多数の単糖からなる多糖等のいずれを用いてもよい。また、オリゴ糖や多糖には、構成糖の種類の違い、構成糖間の結合様式の違い、重合度の違い等によりきわめて多種類のものがあるが、本発明の製造方法では、受容体や生体高分子等に結合する能力を有する糖質であれば、機能性分子として用いることができる。
【0061】
前記糖質としては、例えば、β−ガラクトース、ラクトース又は重合して接着性基質を形成することができる重合性ラクトースモノマー等、肝細胞上のアシアロ糖タンパク質受容体に結合する単糖類等;セレクチンに結合するものとして、シアル酸とフコースとを含むオリゴ糖であるシアリルルイスエックス(例えば、A.Varki,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,7390−7397(1994)参照)等;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸等のグリコサミノグリカン類等が挙げられる。
【0062】
また、本発明の機能性分子として使用できる「細胞間接着の受容体に結合する分子」とは、それぞれの細胞膜外成分に存在する細胞間接着の受容体に結合する分子をいう。前記細胞間接着の受容体に結合する分子としては、特に限定されないが、例えば、NCAM、カドヘリン等が挙げられる。さらに、前記細胞間接着の受容体に結合する分子としては、例えば、セレクチンに対する受容体のうち、合成ペプチドとして、DITWDQLWDLMK(配列番号:15)等が挙げられる。本発明の製造方法では、前記細胞間接着の受容体に結合する分子を機能性分子として用いることにより、細胞−細胞間相互作用を模倣することができるという優れた効果を発揮する。
【0063】
本発明の製造方法では、前記機能性分子として、細胞外マトリクス、ホルモン、サイトカイン(増殖因子)、抗体、糖質、細胞間接着の受容体に結合する分子等から、それぞれの細胞毎に最適なものを2つ以上選択することができる。機能性分子の配列をナノメートルオーダーで制御した機能性高分子複合体を実用的に製造する観点から、天然由来の機能性分子の断片、合成ペプチド分子、糖類及び人工的に合成された物質(低分子物質を含む)等やこれらの複合体を利用することが好ましい。なお、機能性分子が、ペプチドからなるものである場合、該ペプチドの鎖長は、アミノ酸3〜150残基程度であることが好ましい。また、機能性分子が、糖鎖からなる場合、該糖鎖の鎖長は、単糖1〜100残基程度であることが好ましい。
【0064】
本発明の機能性高分子複合体の製造方法において、機能性分子は、後述の核酸スペーサーに共有結合又は非共有結合によって結合される。
【0065】
本発明の製造方法は、1つの側面では、少なくとも2つの同一又は異なる機能性分子とスペーサー構造、具体的には、核酸スペーサーとを結合させ、該機能性分子をナノメートルオーダーで配列させる方法である。
【0066】
機能性分子間の間隔は、スペーサー構造長、すなわちスペーサー分子が伸長した状態での長さで規定される。スペーサー構造長、すなわち、シス配置で隣接する機能性分子間又はトランス配置で隣接する機能性分子間の距離は、それぞれの機能性分子の大きさや利用する目的によって最適な距離を選択すればよく、溶液中で剛直性を発揮させる観点から、好ましくは、1〜300nmの範囲であり、より好ましくは、5〜100nmの範囲である。
【0067】
核酸スペーサーとしては、デオキシリボ核酸、リボ核酸又はそれらの誘導体等の基本骨格を有するものが挙げられる。なお、前記核酸等をまとめて、「核酸」ともいう。
【0068】
前記デオキシリボ核酸(以下、「DNA」ともいう)及びリボ核酸(以下、「RNA」ともいう)は、それぞれデオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドがモノマー単位となって、3’→5’ホスホジエステル結合したポリマーである。
【0069】
本発明の製造方法では、スペーサー構造として、核酸スペーサー、例えば、前述の基本骨格を有するポリマーを用いることで、機能性分子の間隔を任意の距離に規定し、かつスペーサー部分の分子量が単一であるナノ構造を有する機能性高分子複合体が提供できるという優れた効果を発揮する。前記核酸スペーサーは、例えば、ポリエチレングリコール等の従来用いられているスペーサーと比較して、段階的・選択的にヌクレオチド等のモノマー単位を縮合させることができるため、長さの揃ったスペーサーが合成でき、分岐構造等複雑な高次構造を調製することができるという優れた効果を発揮する。
【0070】
本発明の製造方法では、前記核酸スペーサーは、DNAおよびRNAからなる群より選択された少なくとも2種を含む混合物からなるものでもよい。
【0071】
本発明の製造方法においては、例えば、生体成分との接触条件において、機能性高分子複合体自体の安定性を増加させること、該機能性高分子複合体をエンザイムイムノアッセイ又は蛍光ラベル等によって定量分析すること、微粒子によりラベル化して電子顕微鏡等により観察すること等を可能とする観点から、前記核酸スペーサーは、化学的に修飾されていてもよい。
【0072】
ここで、「化学的な修飾」とは、リン酸部位、リボース部位等の核酸の主鎖を化学的に改変すること、又は核酸塩基部位等に化学修飾を施すことをいう。
【0073】
核酸の主鎖を化学的に改変する例としては、構造的に不安定なデオキシリボ核酸やリボ核酸のリン酸部分のチオール化等によりヌクレアーゼに対する耐性を向上させたホスホロチオエート等の化学的修飾体;フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体及びアレクサ等の発色団及び例えば、栗原靖之、武内恒成、松田洋一編「non−RI実験の最新プロトコール−蛍光の原理と実際:遺伝子解析からバイオイメージングまで」別冊実験医学、羊土社(1999)等に記載されている発色団;ビオチン、ブロモデオキシウリジンやジゴキシゲニン等の抗原部位等を導入した化学的修飾体等が挙げられる。前記発色団あるいは、ビオチン、ブロモデオキシウリジン、ジゴキシゲニン等の抗原部位等の導入法としては、例えば、高橋豊三著「DNAプローブ−技術と応用―」シーエムシー(1988)や高橋豊三著「DNAプローブII−新技術と新展開―」シーエムシー(1990)等に記載されている方法等が挙げられる。
【0074】
また、核酸スペーサーの原料となる一本鎖の核酸を合成する段階で、前記化学的修飾が施されてもよい。化学的修飾は、それぞれ最適な製法で行われ得、上述した目的に応じて選択でき、特に限定されるものではない。
【0075】
前記核酸スペーサーは、DNA、RNA又はそれらの誘導体からなるものであって、一旦、機能性高分子複合体が形成された際には、その構造として少なくとも一部分が二重らせん、さらに、前記核酸スペーサーは、これらの構造単位が組み合わさって、さらに大きな一次元的、二次元的又は三次元的な構造体を形成してもよい。
【0076】
本発明の製造方法においては、所望のスペーサー構造の形状を問わず、スペーサー原料は、一本鎖核酸であることが好ましい。前記一本鎖核酸は、150ヌクレオチド長、より実用的には、100ヌクレオチド長程度の鎖長まで化学的に合成されうる。前記一本鎖核酸は、ホスホアミダイト法による固相合成法等により化学的に合成されうる。例えば、前記化学合成の段階で位置特異的に機能性分子を導入するための機能性分子結合用官能基を導入しておけば、その後、当該官能基に対して、機能性分子を、機能性分子が元来有するか又は該機能性分子に意図的に導入された核酸スペーサー結合用の官能基部分で結合させることによって、容易に機能性分子を所定の間隔をもってナノメートルオーダーで適正に配列させることができる。
【0077】
また、前記核酸スペーサーに関して、ヌクレオチド30量体を超える長鎖スペーサーの合成し易さの観点から、デオキシリボ核酸を核酸スペーサーとして利用するのが好ましい。特に、二重らせんのDNA鎖においては、10ヌクレオチド長で3.4nmの長さを有するという構造的にも明確である。したがって、本発明の製造方法においては、特に好ましくは、核酸スペーサーとして二重らせんのDNA鎖(以下、dsDNAと略称することがある)を使用することが望ましい。
【0078】
機能性分子結合用官能基と、機能性分子の核酸スペーサー結合用官能基とは、互いに共有結合又は非共有結合を形成させて結合させればよい。
【0079】
なお、スペーサーが複数の核酸からなる場合、機能性分子は、それぞれ、同一又は異なる核酸に結合されていればよい。例えば、核酸スペーサーが2本鎖を形成する核酸からなるものであり、かつ2つの機能性分子が核酸の5’末端又は3’末端にそれぞれ結合する場合、該核酸スペーサーには2つの5’末端及び3’末端が存在するが、同一核酸の当該両末端に機能性分子が結合すると機能性分子は同一の核酸に結合することになり、一方、いずれか一方の核酸の5’末端にいずれか一方の機能性分子が結合し、他方の核酸の5´末端に他方の機能性分子が結合すると、機能性分子は異なる核酸に結合することになる(例えば、図2参照)。
【0080】
本発明の製造方法は、1つの実施態様では、
(I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーとを結合させて予備的機能性高分子(A)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的機能性高分子(A)と、該予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程を含む、製造方法である(本明細書中において「製造方法1」ともいう)。
【0081】
前記製造方法1は、予備的機能性高分子(A)と相補スペーサーとの対合に先立ち、機能性分子と該機能性分子に対する結合性部位を有するスペーサーとを結合させるため、かかる製造方法1によれば、予備的機能性高分子(A)を製造する際に用いる機能性分子とスペーサーとの組み合わせを任意に選択することによって、少なくとも2種の機能性分子の組み合わせを任意に変えることができ、また、少なくとも2種の機能性分子間の距離を任意に設定し得るという優れた効果を発揮する。
【0082】
本明細書において、前記「予備的機能性高分子(A)」とは、少なくとも1つの機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を有するスペーサーとを結合させた構築物をいう。
【0083】
また、本明細書において、前記「予備的機能性高分子複合体(B)」とは、少なくとも1つの機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとから構成され、該機能性分子とスペーサーとが結合し、該スペーサーと相補スペーサーとが対合した状態にある複合体をいう。
【0084】
前記製造方法1においては、前記予備的機能性高分子複合体(B)は、例えば、前記予備的機能性高分子(A)と、前記予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対する相補性を有するスペーサーとを対合させることによって得られうる。
【0085】
本明細書において、前記「対合」とは、水素結合を介して、2種の核酸が会合することを意図する。前記「対合」には、具体的には、「核酸のハイブリッド形成」及び「核酸のアニーリング」の概念をも包含する。なお、前記「対合」は、本発明の目的を妨げないものであれば、不完全相補の対合であってもよく、完全相補の対合であってもよい。
【0086】
また、前記「連結」とは、少なくとも2種類の前記予備的機能性高分子複合体(B)を、適当な緩衝液中で、二本鎖核酸連結酵素の触媒作用によって連結させることをいう。
【0087】
本発明の製造方法1の工程(I)では、生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を有するスペーサーとを結合させて、予備的機能性高分子(A)を得る。
【0088】
前記工程(I)において、前記機能性分子と核酸スペーサーとの結合は、例えば、機能性分子及び核酸スペーサーそれぞれに適切な官能基を導入し、該官能基を利用して行うことができる。本明細書中において、機能性分子に導入する官能基を、「核酸スペーサー結合用官能基」ともいい、核酸スペーサーに導入する官能基を、「機能性分子結合用官能基」ともいう。核酸スペーサー結合用官能基及び機能性分子結合用官能基は、特に限定されるものではなく、互いに対応して、該核酸スペーサー結合用官能基と機能性分子結合用官能基とが結合するように、適宜選択されうる。
【0089】
核酸スペーサーに含まれる機能性分子結合用官能基と、機能性分子に含まれる核酸スペーサー結合用官能基との結合様式は、反応中における核酸スペーサーや機能性分子の分解、意図しない部位同士での非特異的な導入反応の発生が実質的に生じないものであれば、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。
【0090】
共有結合による導入反応としては、アミド結合形成反応(カルボジイミド等の縮合剤を用いてアミノ基とカルボキシル基を縮合させるか、又はアミノ基と予めN−ヒドロキシスクシンイミド等により活性化されたカルボキシル基活性エステルを反応させる方法等が例示できる)、マイケル付加反応(マレイミド基、アクリルエステル基、アクリルアミド基、ビニルスルホン基等のα,β−不飽和カルボニル基とチオール基を反応させる方法が例示できる)、チオエーテル形成反応(ハロアセチル基等のハロゲン化アルキル基やエポキシ基、アジリジン基等とチオールの反応が例示できる)、ディールスアルダー環化付加反応(シクロペンタジエン等の共役ジエン類とキノン等のオレフィン類とを反応させる方法が例示できる)、シッフベース形成反応(グリオキシル酸等のアルデヒド基とオキシアミノ基等のアミノ基を反応させる方法等が例示でき、形成されるシッフベース基は適切な還元剤で還元されていてもよい)、チアゾリジン環形成反応(アミノ基及びチオール基が残留したシステインとアルデヒド基を反応させる方法である)等が挙げられる。さらに、アミド結合形成反応としては、チオエステル基とアミノ基とチオール基が残留したシステインとを反応させてアミド結合を形成させる方法も例示される。
【0091】
非共有結合による導入反応としては、例えば、錯体形成反応(例えば、トリニトリロ酢酸−ニッケル錯体とオリゴヒスチジンの三元錯体形成を利用したHis−Tag形成反応、金−チオール結合反応等)、生物学的な認識反応(例えば、糖鎖−レクチン反応、アビジン−ビオチン反応、抗原−抗体反応等)等が挙げられる。
【0092】
導入反応は、機能性分子結合用官能基と核酸スペーサー結合用官能基との組み合わせを上記の反応様式で互いに結合し得るものとしておくことで行うことができる。そのような組み合わせは、上記を参照すれば適宜選択することができる。なお、前記導入反応は、光、熱、振動、時間、脱保護等別の因子によって開始されるものであってもよい。
【0093】
核酸スペーサー結合用官能基として、機能性分子にもともと含まれる反応性のアミノ酸残基等や糖に含まれる反応性部位等を用いてもよく、機能性分子に核酸スペーサー結合用官能基を意図的に導入して用いてもよい。機能性分子に核酸スペーサー結合用官能基を導入する方法としては、核酸スペーサー用官能基を含有し、かつ機能性分子に結合する官能基を同一分子中に含有する二官能性試薬を使って、機能性分子を化学修飾する方法が挙げられる。ペプチドを含む機能性分子を化学修飾する1つの方法は、機能性分子を合成した後にアミノ酸残基の反応性等を利用して二官能性試薬を結合させるものであり、例えば駒野徹、志村憲助、中村研三、中村道徳、山崎信行編、大野素徳、金岡祐一、崎山文夫、前田浩著、「蛋白質の化学修飾<上>」生物化学実験法12、学会出版センター(1981)等に記載されている公知の方法が用いられる。また、機能性分子を化学的に合成する段階で、N末端やアミノ酸残基等に対して、例えばMW.Pennington,BM.Dunn Ed.,“Peptide Synthesis Protocols”,Methods in Molecular Biology,Vol.35,Humana Press(1994)等に記載されている公知の方法を用いることで自由に導入することが可能である。糖類を含む機能性分子に関しても同様のことがいえ、例えば糖鎖工学編集員会編「糖鎖工学」、産業調査会、バイオテクノロジー情報センター(1992)等に記載されている公知の方法を用いることができる。
【0094】
一本鎖核酸、すなわち、DNA、RNA又はそれらの誘導体に対し、位置特異的に機能性分子結合用官能基を導入する方法として、例えば、高分子学会/バイオ・高分子研究会編「高分子化学と核酸の機能デザイン」、バイオ・高分子研究法6、学会出版センター(1996)やY.Ito,E.Fukusaki,J.Mol.Catal.B:Enzymatic,28,155−166(2004)及び該文献に記載された参考文献等に記載された方法等が利用できる。
【0095】
機能性分子結合用官能基を導入した一本鎖核酸は、機能性分子結合用官能基の核酸スペーサーにおける位置が特定できるものであればよく、例えば、リン酸部位やリボース又はデオキシリボース等を含む主鎖や核酸塩基等の部分に機能性分子結合用官能基を導入した化学的修飾体、5´末端や3´末端へ機能性分子結合用官能基を導入した化学的修飾体等が挙げられる。
【0096】
核酸スペーサーと機能性分子結合用官能基との間及び/又は機能性分子と核酸スペーサー結合用官能基との間にはリンカーを含んでいてもよい。前記リンカーによれば、核酸スペーサーと機能性分子との間の距離を僅かに隔離しておくことができ、核酸スペーサーと機能性分子との間の反応において立体障害等を低減させて導入反応を迅速に進行させる機能や、本発明の製造方法で得られるナノ構造を有する機能性高分子複合体を細胞と接触させた場合に細胞表面受容体と機能性分子との結合反応を阻害しない機能等を発揮させることができるという優れた効果を発揮する。前記リンカーは、0.1〜5nm程度までの長さであれば、特に素材等に制限されるものではなく、例えば、アルキル鎖、ペプチド鎖、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等やそれらが混合された構造であってもよい。なお、リンカーは、前記構造に限定されるものではなく、目的により最適なものが選ばれる。リンカーは、例えば、機能性分子結合用官能基、核酸スペーサー結合用官能基の一部として核酸スペーサー及び/又は機能性分子に導入しておけばよい。
【0097】
ついで、前記製造方法1では、前記工程(I)で得られた予備的機能性高分子(A)と、該予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させることで予備的機能性高分子複合体(B)を得る〔工程(II)という〕。
【0098】
前記予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有するスペーサー(相補スペーサー)とは、前記工程(I)で得られた予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有し、5’末端にリン酸基を有する核酸又はその誘導体をさす。
【0099】
なお、本発明において、前記相補スペーサーは、機能性分子結合用官能基を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、相補スペーサーが機能性分子結合用官能基を含んでいる場合であっても、該相補スペーサーには、機能性分子を結合させてもよく、結合させなくてもよい。
【0100】
前記工程(II)において、機能性分子が結合した相補スペーサーを用いた場合、それぞれの核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。かかる機能性高分子複合体としては、例えば、図1の(A)に示される機能性高分子複合体が挙げられる。また、前記工程(II)において、機能性分子が結合していない相補スペーサーを用いた場合、一方の核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。かかる機能性高分子複合体としては、例えば、図1の(B)に示される機能性高分子複合体が挙げられる。
【0101】
また、前記「5’末端にリン酸基を有する核酸又はその誘導体」とは、末端リボースの5’位がモノリン酸エステル化されたものを指す。リン酸基の導入方法としては、ホスホアミダイト法による固相合成法及びリン酸化酵素の触媒作用を利用する方法のいずれであってもよい。
【0102】
前記工程(II)において、前記対合は、例えば、前記予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサー中の核酸成分と、相補スペーサー中の核酸成分との間に適切な水素結合が生じる条件下で行われ得る。具体的には、前記対合は、特に限定されないが、例えば、慣用のアニーリング、ハイブリダイゼーションに準じて行われ得る。アニーリングは、特に限定はされないが、例えば、100mMトリス緩衝液(pH7.6)、50mM塩化マグネシウム、100mM塩化ナトリウム溶液中で、94℃で30秒間熱変性させた後、55℃で30秒間アニーリングさせるなどの条件で行うことができ、また、ハイブリダイゼーションも、特に限定されないが、例えば、上記アニーリングと同様の条件で行うことができる。
【0103】
その後、前記製造方法1においては、前記工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる〔工程(III)という〕。
【0104】
前記工程(III)において、前記連結は、例えば、少なくとも2種類の予備的機能性高分子複合体(B)を適当な緩衝液中で、二本鎖核酸連結酵素の触媒作用によって連結させることにより行われ得る。前記連結は、例えば、慣用のライゲーション方法に準じて行われ得、特に限定はされないが、例えば、連結酵素の存在下に、16℃、30分間インキュベートするなどの条件で行われ得る。なお、該工程(III)において、連結させる該予備的機能性高分子複合体(B)の連結末端は3’突出末端あるいは平滑末端のいずれであってもよい。
【0105】
前記緩衝液としては、pHが酵素活性に適した範囲に調整された塩を含む緩衝液であればよく、特に限定されないが、例えば、66mMトリス緩衝液(pH7.6)、6.6mM塩化マグネシウム、10mMジチオスレイトール、0.1mMATP等が挙げられる。
【0106】
また、前記二本鎖核酸連結酵素としては、DNAリガーゼであればよく、特に限定されないが、例えば、T4DNAリガーゼ、大腸菌 DNAリガーゼ、T4 RNAリガーゼ等が挙げられる。
【0107】
本明細書中においては、上述の製造方法1のように、核酸又はその誘導体からなるスペーサーと機能性分子とを予め結合させて、最初に予備的機能性高分子(A)を得、以後の工程に該予備的機能性高分子(A)を用いて、機能性高分子複合体を製造する方法を、「前変性法」ともいう。
【0108】
本発明の製造方法は、他の実施態様では、
(I)前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサー(相補スペーサー)とを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)と、機能性分子を結合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程、
を含む方法である(「製造方法2」ともいう)。
【0109】
本発明の製造方法2は、予備的高分子複合体(C)の機能性分子との結合に先立ち、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させているため、かかる製造方法2によれば、核酸の折りたたみ等による立体障害等の影響を低減することができ、機能性分子の導入効率が高まるという優れた効果を発揮する。
【0110】
前記製造方法2の工程(I)においては、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサー(相補スペーサー)を対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る。
【0111】
ここで、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、相補スペーサーとの対合は、前記製造方法1の工程(II)の場合と同様の手法により行われうる。
【0112】
前記工程(I)において、機能性分子が結合した相補スペーサーを用いた場合、それぞれの核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。また、前記工程(I)において、機能性分子が結合していない相補スペーサーを用いた場合、一方の核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。
【0113】
ついで、前記製造方法2では、前記工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)のスペーサーと、機能性分子とを結合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る〔工程(II)という〕。
【0114】
なお、本明細書において、前記「予備的高分子複合体(C)」とは、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーと対合させたものをいう。
【0115】
前記製造方法2においては、前記予備的機能性高分子複合体(B)は、前記予備的高分子複合体(C)に少なくとも1つの機能性分子を結合させることによって得られうる。
【0116】
前記工程(II)において、予備的高分子複合体(C)のスペーサーと、機能性分子との結合は、前記製造方法1の工程(I)の場合と同様の手法により行われうる。
【0117】
その後、前記製造方法2では、工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる〔工程(III)という〕。
【0118】
前記工程(II)において、少なくとも2種の予備的機能性高分子複合体(B)間の連結は、前記製造方法1の工程(III)の場合と同様の手法により行われうる。
【0119】
本発明の製造方法は、更に他の実施態様では、
(I)該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサー(相補スペーサー)とを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)の少なくとも2種を連結させ、高分子複合体(D)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた高分子複合体(D)に少なくとも2種の機能性分子を結合させる工程、
を含む方法である(「製造方法3」ともいう)。
【0120】
本発明の製造方法3は、スペーサーと相補スペーサーとを対合させて予備的高分子複合体(C)を得た後、機能性分子の結合に先立ち、少なくとも2種の予備的高分子複合体(C)を連結させて、高分子複合体(D)を得るために、かかる製造方法3によれば、高分子複合体(D)をまとめて製造しておくことにより、その中の必要量を、任意の種類あるいは量の機能性分子との結合あるいは化学的修飾に使用することができ、従って多様な機能性高分子複合体を効率的に製造することができるという優れた効果を発揮する。
【0121】
前記製造方法3の工程(I)においては、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る。
【0122】
前記工程(I)において、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、相補スペーサーとの対合は、前記製造方法1の工程(II)の場合と同様の手法により行われうる。
【0123】
前記工程(I)において、機能性分子が結合した相補スペーサーを用いた場合、それぞれの核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。また、前記工程(I)において、機能性分子が結合していない相補スペーサーを用いた場合、一方の核酸鎖に機能性分子が配置された機能性高分子複合体を得ることができる。
【0124】
ついで、前記製造方法3では、前記工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)の少なくとも2種を連結させ、高分子複合体(D)を得る〔工程(II)という〕。
【0125】
本明細書において、「高分子複合体(D)」とは、前記機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーと対合させたスペーサー構造を、少なくとも2つ連結させた高分子複合体をいう。
【0126】
前記工程(II)において、少なくとも2種の予備的高分子複合体(C)の連結は、前記製造方法1の工程(III)の場合と同様の手法により行われうる。
【0127】
その後、前記製造方法3では、前記工程(II)で得られた高分子複合体(D)に、少なくとも2種の機能性分子を結合させる〔工程(III)という〕。
【0128】
前記工程(III)において、高分子複合体(D)と少なくとも2種の機能性分子との結合は、前記製造方法1の工程(I)の場合と同様の手法により行われうる。
【0129】
なお、本明細書中においては、上述の製造方法2または3のように、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーを対合させて、最初に予備的高分子複合体(C)を得、その後、該予備的高分子複合体(C)又は該予備的高分子複合体(C)を使用して得られた高分子複合体(D)に機能性分子を結合させることによって本発明の機能性高分子複合体を製造する方法を、「後変性法」ともいう。
【0130】
かかる後変性法は、あらかじめ作製した二本鎖核酸スペーサーに対して機能性分子あるいは化学的修飾を導入する製造方法であるため、機能性分子または化学修飾の種類に変化を持たせた多様な機能性高分子複合体を製造することができるという優れた効果を発揮する。
【0131】
本発明における機能性高分子複合体の製造方法としては、前変性法及び後変性法のいずれも用いることができるが、核酸スペーサーに対する機能性分子の導入の簡便さ、及び機能性高分子の製造効率の観点から、前変性法のほうが好ましい。
【0132】
本発明の製造方法により得られる機能性高分子複合体において、dsDNAからなる核酸スペーサーの中で機能性分子を導入する好ましい位置としては、目的に応じて選択でき、特に限定されるものではなく、5’末端(途中分岐等が無い場合に限れば、計2箇所存在する)、及び3’末端(途中分岐等が無い場合に限れば、計2箇所存在する)等dsDNAスペーサーの末端部位や核酸塩基部位等dsDNAスペーサーの途中の任意の位置が挙げられる。2つの機能性分子を含有する場合を記載すると、dsDNA鎖の2つの5’末端にそれぞれ機能性分子が結合した分子、又は2つの3’末端にそれぞれ機能性分子が結合した分子、又はそれらの組み合わされた分子(例えば、5’末端及び3’末端のそれぞれに機能性分子が結合した分子等)が挙げられる。3つ以上の機能性分子を導入する場合には空いている末端を利用することもできる。
【0133】
前変性法により機能性分子を導入するため、核酸スペーサーの原料となる1本鎖DNA(以下、「ssDNA」ともいう)に機能性分子結合用官能基をDNAの化学合成の段階で導入する。機能性分子結合用官能基としては、上述したように種々のものが選択でき、特に限定されるものではなく、反応選択性を発揮する観点から、チオール基またはアミノ基を導入するのが好ましい。
【0134】
機能性分子には、チオール基またはアミノ基と結合活性を有する核酸スペーサー結合用官能基を導入しておくことが好ましい。前記チオール基と結合活性を有する核酸スペーサー結合用官能基としては、例えば、チオール基とマイケル付加反応させるためのマレイミド基、アクリルエステル基、アクリルアミド基、ビニルスルホン基等、チオール基とチオエーテル形成反応をさせるためのハロアセチル基、エポキシ基、アジリジン基等が挙げられる。この中でも機能性分子への導入のし易さ、安定性の点からマレイミド基やハロアセチル基が好適な核酸スペーサー結合用官能基として例示できる。
【0135】
機能性分子として、合成ペプチド分子を使用する場合、合成ペプチド分子を合成する際に、リジン残基等のアミノ基側鎖やN末端のアミノ基等に対して、カルボン酸や、酸クロライド、活性エステル基等を有する二官能性試薬であるマレイミド誘導体(例えば、マレイミド酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、4−マレイミドブタン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル等)又はハロアセチル誘導体(例えば、ブロモ酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、6−(ヨードアセトアミド)カプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ヨード酢酸無水物等)を作用させることで、容易に機能性分子に対して核酸スペーサー結合用官能基を導入することができる。
【0136】
本発明の製造方法においては、前記ssDNA及び機能性分子を用いることで、前変性法により機能性分子が導入されたssDNAを調製することができる。なお、このように機能性分子が導入されたssDNAを単に「コンジュゲート」ともいう。前記導入の際の反応条件や精製方法等は、特に限定されるものはなく、公知の方法が利用できる。
【0137】
本発明の製造方法においては、ssDNAにおける機能性分子結合用官能基の導入方法、部位及び官能基の種類、機能性分子における核酸スペーサー結合用官能基の導入方法、部位及び種類は、目的により適宜選択されうる。また、本発明の製造方法においては、核酸スペーサー構造は単純な二重らせんだけではなく、種々の複雑な構造、例えば、分岐構造や三次元構造、二次元的、三次元的に多重に核酸スペーサーが連結した構造等を持たせた機能性高分子複合体を作製できる。
【0138】
本発明の製造方法で得られた機能性高分子複合体は、単独で用いてもよく、2種以上の機能性高分子複合体を混合して用いてもよい。それぞれの細胞によって最適な使用形態が選択される。
【0139】
本発明の製造方法で得られた機能性高分子複合体は、必要に応じて、滅菌してもよい。滅菌方法は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択されうる。前記滅菌方法としては、例えば、オートクレーブ滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌、濾過滅菌等が挙げられる。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら限定さ
れない。以下の実施例等において使用した測定方法又は評価方法をまとめて示す。
【0141】
(逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるペプチドの分析)
逆相HPLCによるペプチドの分析は、以下のような条件で行った。カラムとして、商品名:TSKgel ODS−80TM(東ソー株式会社製)を用いた。溶出の際の溶離液の流速は、1.0mL/分、検出波長は、210nmに設定した。ペプチドは、5重量%〜10重量%のアセトニトリルによる20分のリニアグラジエントで溶出させた。前記リニアグラジエントには、0.05重量% トリフルオロ酢酸(以下、「TFA」ともいう)を含有した5重量% アセトニトリル水溶液と、0.05重量% TFAを含有した30重量% アセトニトリル水溶液とを用いた。
【0142】
(逆相HPLCによるペプチドの精製)
逆相HPLCによるペプチドの精製は、以下のような条件で行った。カラムとして、商品名:PREP−ODS(株式会社島津製作所製)を用いた。溶出の際の溶離液の流速10mL/分、検出波長は、210nmに設定した。ペプチドは、10重量%〜20重量%のアセトニトリルによる8分のリニアグラジエントで溶出させた。前記リニアグラジェントには、0.05重量% トリフルオロ酢酸を含有した10重量% アセトニトリル水溶液と、0.05重量% TFAを含有した20重量% アセトニトリル水溶液とを用いた。
【0143】
(マススペクトルの測定)
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計〔商品名:Voyager−DE STR(アプライドバイオシステムズ社製)〕により、マトリクスとして、α−cyano−4−hydroxycinnamic acid(CHCA)を用いて、マススペクトルを測定した。
【0144】
(逆相HPLCによる機能性分子が導入されたssDNA(コンジュゲート)の分析)
逆相HPLCによるコンジュゲートの分析は、以下のような条件で行った。カラムとして、商品名:OligoDNA RP(東ソー株式会社製)を用いた。流速は、1.0mL/分、検出波長は、260nmに設定した。コンジュゲートは、5%のアセトニトリルを含む0.1M酢酸アンモニウム水溶液で5分間溶出し、その後、5重量%〜30重量%のアセトニトリルによる50分のリニアグラジエントで溶出させた。前記リニアグラジエントには、5重量%のアセトニトリルを含有した0.1M 酢酸アンモニウム水溶液と、30重量%のアセトニトリルを含有した0.1M 酢酸アンモニウム水溶液とを用いた。
【0145】
(ssDNAの濃度測定)
ssDNA溶液 25μLを、10mM トリス塩酸緩衝液(pH=7.0) 975μLに添加して希釈した。得られた希釈物について、10mM トリス塩酸緩衝液のみでベース補正した分光光度計で、260nmの吸光度を測定した。このとき測定される吸光度に40を乗じた値をssDNA溶液のOD値とした。本実施例で用いられるssDNAのODあたりの重量(μg)は、それぞれ計算されたOD値から算出できる。ssDNAの分子量を用いることで、前記OD値を、モル濃度に換算できる。
【0146】
(DNAスペーサーを有する機能性高分子複合体の濃度測定)
以下の実施例で示されるリガンド構築物の濃度は、商品名:PicoGreen DNA Quantification Kit(ピアース社製)を用いて決定した。濃度既知のλDNA標準液を用いて検量線を作成した。記載した測定値は、全て3回測定の平均値である。
【0147】
以下の実施例では、本発明における最も単純な実施態様の1つを例示する。すなわち、機能性分子として、KDGEAペプチド(I型コラーゲンに由来する機能性分子)とGRGDSペプチド(フィブロネクチンに由来する機能性分子)との2つの機能性分子、その2つの機能性分子間を繋ぐスペーサー構造として、相補的な塩基対を形成した二重らせん構造を有するdsDNA、2つの機能性分子の導入位置として、dsDNAに二箇所存在する5´末端とした。
【0148】
また、本発明において好適な長さとして記載した範囲のスペーサー構造が調製できることを示すため、DNAスペーサー構造の長さは、20nm(DNAとしては60量体)とした。以上の概念に従って設計された機能性高分子複合体の構造(模式図)を以下に示す。DNAスペーサー構造の長さが20nmの機能性高分子複合体を、KDGEA−SP20−GRGDSと呼ぶ。
【0149】
【化1】

【0150】
以下の実施例で示される全ての機能性高分子複合体は前変性法を使用して調製されるため、まず、ssDNAに機能性分子を結合させたコンジュゲートが合成される。以下の実施例では、機能性分子に含まれる核酸スペーサー結合用官能基としてマレイミド基を選び、KDGEAペプチド分子及びGRGDSペプチド分子それぞれのN末端に該マレイミド基が導入されたもの(それぞれマレイミド化KDGEA、マレイミド化GRGDSと呼ぶ)を使用した。また、ssDNAには、機能性分子結合用官能基としてチオール基が5’末端に導入されているものを用いた。より具体的に構造を説明すると、5’末端のリン酸基に対して6−メルカプト−1−ヘキサノールのOH部位が結合した状態となっている合成ssDNAである。合成された直後では、5’末端のチオール部位は、チオール基を有する保護基とジスルフィド結合とにより保護されている。これを脱保護してチオール基を生成し、マレイミド化KDGEA又はマレイミド化GRGDSを導入してssDNAとのコンジュゲートを形成する。
【0151】
実施例1
DNAスペーサー構造として、20nm(60量体)のdsDNAを有するKDGEA−SP20−GRGDSの調製法について説明する。合成プロセスの概略は図2の通りである。
【0152】
(マレイミド化KDGEAの合成)
Fmoc−Ala(なお、前記「Fmoc」は、9−fluorenylmethoxycarbonylの略称である)が予め導入された樹脂(株式会社島津製作所製、商品名:PreloadedHMPレジン)から、マレイミド化KDGEAの合成を開始した。Fmoc基の脱保護は、20重量% ピペリジン(アプライドバイオシステムズ社製)/ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)溶液を用いて行った。また、ペプチド鎖の伸長のための縮合反応は、前記レジン中のアミノ酸量に対して10当量のFmoc−aa(aaは、適切に保護されたアミノ酸を示す)と、縮合試薬として10当量のHBTU〔株式会社島津製作所製;HBTUは、2−(1−H−benzotriazol−1−yl−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphateの略称である)、10当量のHOBt〔株式会社ペプチド研究所製;HOBtは、1−Hydroxybenzotriazoleの略称である〕及び20当量のDIEA(アプライドバイオシステムズ社製;DIEAは、Diisopropylethylamineの略称である)をDMFに溶解して得られた溶液を、アミノ酸配列に対応して逐次的に前記レジンに添加することにより樹脂上で行った。N末端のFmoc基を20重量% ピペリジン/DMFにより脱保護した。得られた産物に、生成した遊離のN末端アミノ基に対して5当量のGMBS〔同仁化学株式会社製;GMBSは、N−(4−maleimidobutyryloxy)succinimideの略称である〕と、10当量のDIEAとをDMFに溶解して加えた。4時間室温で反応させ、その後、得られた産物に、さらに1当量のGMBSを追加し、1時間室温で反応させた。得られた産物を保持した樹脂をDMFで洗浄し、その後、該樹脂を、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄した。洗浄後の樹脂を減圧乾燥した。樹脂からのマレイミド基含有ペプチドの切断には、90容積% TFA(株式会社ペプチド研究所製)/5容積% チオアニソール(アルドリッチ社製)/3容積% H2O/2容積% アニソール(V/V/V/V)溶液を用いた。前記溶液を、樹脂に添加し、得られた混合物を、2時間室温で攪拌した。その後、樹脂を濾別し、濾液を減圧下で濃縮した。残渣に冷却したジエチルエーテルを加えてペプチドを沈澱させ、固体を濾別して減圧乾燥した。得られたペプチドを、上述の条件下、精製用HPLCにより精製した。単離されたペプチドは、分析用HPLCでシングルピーク(保持時間10.4分)であることを確認した。また、マススペクトルによって前記ペプチドの分子量を測定するとm/z=684.60[M+H]+であり、計算値とよく一致した。凍結乾燥して固体のマレイミド化KDGEAを得た。
【0153】
(マレイミド化GRGDSの合成)
Fmoc−Serが予め導入されたレジン(株式会社島津製作所製、商品名:PreloadedHMPレジン)を用いて、前記マレイミド化KDGEAの場合と同様の方法で合成した。得られた粗ペプチドを、上述の条件下、精製用HPLCにより精製した。単離されたペプチドは分析用HPLCでシングルピーク(保持時間8.6分)であることを確認した。また、マススペクトルによって前記ペプチドの分子量を測定するとm/z=656.61[M+H]+であり、計算値とよく一致した。凍結乾燥して固体のマレイミド化GRGDSを得た。
【0154】
(チオール基を含有するssDNAの脱保護)
KDGEA−SP20−GRGDSの原料となるチオール基が保護されたssDNAは、PS−S−SP20A及びPS−S−SP20Bの2種類である(図2参照)。PS−S−SP20A(シグマジェノシス社製)を100nmol/mLとなるように、TEバッファー(1mMEDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液、pH8.0)に溶解させた。得られた溶液 0.2mLに対して、0.08Mジチオスレイトール溶液(0.25Mリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解して作製)を0.2mL混合し、その後、得られた混合物を室温で16時間攪拌した。溶離液〔0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)〕で平衡化したファルマシアバイオテク社製、商品名:NAP−5カラムにより精製して、チオール基が脱保護されたHS−SP20Aを得た。得られた産物について、260nmの吸光度を測定することによりHS−SP20Aの濃度を決定した。同様にPS−S−SP20Bも脱保護してHS−SP20Bを得た。得られたHS−SP20Bの濃度を、同様に決定した。結果を表1に示す。
【0155】
【表1】

【0156】
(KDGEA−S−SP20A及びGRGDS−S−SP20Bの調製)
上述のように脱保護して得られたHS−SP20Aへのマレイミド化KDGEAの結合形成により、以下のように、KDGEA−S−SP20A(図2を参照)を調製した。
【0157】
HS−SP20A溶液(濃度17.0nmol/mL) 0.8mLと、HS−SP20Aに対して25当量のマレイミド化KDGEAを0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた溶液 0.8mLとを混合し、4℃で24時間反応させた。得られた反応溶液を凍結乾燥させた。得られた産物を、1mM EDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH=7.0) 0.5mLに溶解させた。得られた溶液を、溶離液で平衡化したNAP−5(商品名)を用いたゲル濾過に供して、KDGEA−S−SP20Aを精製した。なお、前記溶離液として、1mM EDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を用いた。得られた産物について、260nmにおける吸光度を測定し、HS−SP20A(表1)のデータを利用して、KDGEA−S−SP20Aの濃度を決定した。同様に、マレイミド化GRGDSとHS−SP20BのコンジュゲートであるGRGDS−S−SP20Bを得た。得られたGRGDS−S−SP20Bの濃度を同様に決定した。結果を表2に示す。
【0158】
【表2】

【0159】
また、全てのコンジュゲートが、HPLCによりシングルピークであることが確認できた。
【0160】
(KDGEA−SP20−GRGDSの調製)
KDGEA−S−SP20A及びGRGDS−S−SP20Bの各32量体のDNA部位にそれぞれ相補的に結合する、5´末端がリン酸化された、28量体のssDNAであるSP20Cを準備した。KDGEA−S−SP20A、GRGDS−S−SP20B、SP20C、緩衝液(1Mトリス塩酸(pH7.6),50mM MgCl,1M NaCl)及びHOを、それぞれ表3に示す量で混合した。得られた混合物を、94℃で30秒間、次いで55℃で30秒間インキュベーションして、KDGEA−S−SP20AとSP20C、及びGRGDS−S−SP20BとSP20Cとをそれぞれアニーリングさせた。アニーリング後の反応液のうち90μLを取り出し、DNAライゲーションキット(商品名:DNA Ligation Kit(Ver.1)、タカラバイオ社製)の酵素溶液90μLと混合した。得られた混合液に対して、16℃で60分間、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応後の反応液を、スピンカラム(商品名:QIA PCR Purification Kit、キアゲン社製)により精製して、KDGEA−SP20−GRGDSを得た。
【0161】
【表3】

【0162】
また、得られたKDGEA−SP20−GRGDSを、定法に従ったポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、核酸スペーサー部分の検出を行った。その結果、得られたKDGEA−SP20−GRGDSのdsDNAが60量体であることが確認できた。これによりdsDNAからなるスペーサー構造が設計どおりの長さで合成できたことが分かった。商品名:PicoGreenによって濃度を定量したところ、48.0μg/mLであった。KDGEA−SP20−GRGDSのdsDNA部分の分子量を約36800とすると1.3nmol/mLと計算される。
【0163】
(機能性高分子複合体が持つ細胞の機能を制御する性能の評価)
細胞の機能を制御する性能は、マウス由来の未成熟骨芽細胞(MC3T3−E1細胞)を成熟した骨芽細胞に分化させる能力を比較することにより評価した。MC3T3−E1細胞を、10重量%牛胎仔由来血清(FBS)を添加したα−MEM(ギブコ社製、α−MEMはAlpha−Minimum Essential Mediumの略称である)培地で培養した。その後、MC3T3−E1細胞を90%コンフルエント状態時にトリプシン処理により回収した。10mM β−グリセロリン酸(シグマ社製)と50μg/mL アスコルビン酸(シグマ社製)と10重量% FBS(シグマ社製)とを添加したα−MEMに、19000個/mLとなるように、前記MC3T3−E1細胞を再分散させた。その後、KDGEA−SP20−GRGDSを以下に示す方法により固定化した12ウェルプレートに1ウェルあたり2mLとなるように前記MC3T3−E1細胞を播種した。この時の細胞密度は、5000個/cm2であった。37℃、5容積% CO2を含む湿潤空気中で前記MC3T3−E1細胞を培養した。3日毎に培地の交換を行った。11日後にMC3T3−E1細胞のアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を測定した。前記ALP活性をMC3T3−E1細胞の分化度合の指標として、機能性高分子複合体が持つ細胞の機能を制御する性能を評価した。
【0164】
培養後の細胞をトリプシン処理により回収し、0.5mLのPBSに再分散した。得られた分散液を用い、細胞数を、ビルケルチルク氏血球計算盤で計数した。その後、分化の指標として、細胞のALP活性の測定を行った。ALP活性測定は、基質溶液〔商品名:FAST p−NITROPHENYL PHOSPHATE TABLET SETS(シグマ社製)を溶解して使用した〕を用いて、p−ニトロフェニルリン酸(pNPP)法により行った。ここで、基質であるpNPPが、ALPによりp−ニトロフェノールとなり黄色を呈することを利用し、一定時間に生じるp−ニトロフェノール量で酵素活性値を示した。p−ニトロフェノールの生成量は、p−ニトロフェノールをPBSに溶解させたものを検量線の作成に使用した。また、細胞膜の溶解には、界面活性剤であるTritonTM X−100(シグマ社製)を用いた。96ウェルプレートに、細胞液又は検量線溶液 100μLと、0.3重量%TritonTM X−100 50μLと、基質溶液 100μLとを入れ、得られた混合物を37℃で1時間インキュベーションして反応を行った。得られた反応産物に、3N 水酸化ナトリウム水溶液 50μLを添加し、酵素反応を停止させた。その後、得られた産物について、マイクロプレートリーダー(デカン社製ジェニオス)で450nmの吸光度を測定した。1個の細胞あたりのALP活性(細胞1個あたりのp−ニトロフェノールの生成速度(fmol/分/細胞))を算出した。
【0165】
試験例1
(ポリ−L−リジン表面の調製)
ポリ−L−リジン(PLL)塩酸塩(ペプチド研究所製、平均分子量約8000以上)を10mg/mLとなるようにリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解させた。なお、これ以降の操作は、安全キャビネット内で全て滅菌した器具や緩衝液を使用して行った。得られた溶液を0.2μm内径のフィルターを通して濾過滅菌し、PBSでさらに10倍に希釈して、1mg/mLのPLL溶液を得た。得られたPLL溶液を、ヌンク社製のデルタ処理12ウェルプレートに対して1ウェルあたり0.5mL添加し、ついで、プレートを密封した。前記プレートを37℃で2時間インキュベーションすることにより、該プレートにPLLを吸着させた。その後、前記プレートからPLL溶液を吸引してウェル内から除去した。さらに、前記プレートに、1ウェルあたり1mLのPBSを添加して3分間放置し、アスピレーションする洗浄操作を3回行い、PLL表面を調製した。
【0166】
(ポリイオンコンプレックス形成によるポリ−L−リジン表面への機能性高分子複合体の固定化)
全ての操作は安全キャビネット内で全て滅菌した器具や緩衝液を使用して行った。実施例1で調製した機能性高分子複合体、すなわち、KDGEA−SP20−GRGDSを目標密度となるように、2mM EDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で希釈した。得られた希釈物を、0.2μm内径のフィルターで濾過滅菌した。滅菌後の産物を、PLL表面を形成させた12ウェルプレートに対して1ウェルあたり0.5mLとなるように添加した。ここで、前記産物 0.5mL中に0.45pmolのKDGEA−SP20−GRGDSを含むようにした。12ウェルプレートの場合、1ウェルに液体を0.5mL入れると液体が覆う面積は、約4.5cm2となる。したがって、この場合のリガンド構築物が全てPLL表面に結合したときの密度は、100fmol/cm2と判断される。その後、4℃において12時間以上吸着させた。吸着後の機能性高分子複合体溶液を回収した。ついで、得られた機能性高分子複合体溶液について、商品名:PicoGreenによりdsDNA濃度を測定し、添加した機能性高分子複合体がどの程度PLL表面に固定化されているかを確認した。その結果を表4に示す。
【0167】
【表4】

【0168】
その結果、機能性高分子複合体がPLL表面に固定化されたことが分かった。
【0169】
試験例2
(機能性高分子複合体が持つ細胞の機能を制御する性能の評価)
実施例1で作製したKDGEA−SP20−GRGDSを固定化したPLL表面が持つ、細胞の機能を制御する性能を評価した。既に説明したようにKDGEA−SP20−GRGDSがマウス由来の未成熟骨芽細胞(MC3T3−E1細胞)を成熟した骨芽細胞に分化させる能力(ALP活性)を比較することにより行った。MC3T3−E1細胞を培養して11日目の1細胞あたりのALP活性を測定した結果を表5に示す。
【0170】
【表5】

【0171】
比較例1
(ポリエチレングリコールスペーサーを有する機能性高分子の調製)
リガンド分子としてKDGEA分子とGRGDS分子とを含有し、かつ平均分子量約3000のポリエチレングリコール(以下、PEGと略称することがある)をスペーサーとする機能性高分子を合成した。Fmoc基により保護されたアミノ基及びN−ヒドロキシスクシンイミドにより活性化されたカルボキシル基をもう1つの末端に持つFmoc−NH−PEG−NHS(NEKTAR社製,分子量3400)をPEGスペーサー結合部位として用いた以外は、非特許文献7および8に記載された方法を適用し、KDGEA−PEG−GRGDSを合成した。
【0172】
(ポリエチレングリコールスペーサーを有する機能性高分子のディッシュ表面への固定化)
9nmol/mLとなるようにKDGEA−PEG−GRGDSを純水に溶解させた。得られた溶液を、12ウェルプレート(Nunc社製、デルタ処理)のウェルに、1ウェルあたり0.5mL添加した。前記プレートを、そのままクリーンベンチ内で放置し、溶液を風乾した。前記プレートのウェルに、3容積% ウシ血清アルブミン/DMEM(ギブコ社製、DMEMはDulbecco’s Modified Eagle’s Mediumの略称である)を1ウェルあたり2mL添加して室温1時間静置した。その後、溶液を吸引した。0.1容積% ウシ血清アルブミン(BSA)/DMEM溶液を、前記プレートの1ウェルあたり2mL入れてアスピレーションする一連の洗浄操作を3回行って、機能性高分子を固定化した表面を調製した。
【0173】
(ポリエチレングリコールスペーサーを有する機能性高分子を固定化した表面による細胞機能制御)
以上のように調製した12ウェルプレートを用いて、実施例1の機能性高分子複合体を用いた場合と全く同じ条件で、かつ同時に細胞機能の評価を行った。その結果、11日間培養を続けるとMC3T3−E1細胞がプレート底面から剥がれてしまった。また、1細胞あたりのALP活性は、28fmol/min/cellであり、きわめて低かった。かかる結果は、比較例1で得られたプレートの表面では細胞機能の制御ができなかったことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の製造方法により得られる機能性高分子複合体を用いて、細胞表面、細胞外マトリクス、その他の生体組織表面におけるタンパク質、糖質等の生体高分子内の特定の部位間の距離あるいは、複数の同一又は異なるタンパク質、糖質その他の生体分子間の距離を推定することは、細胞、細胞外マトリクス、その他の生体組織の構造を知る上で、また、それらの生体分子間の相互作用の有無を推定する上で有用である。また、細胞表面上の複数の特定の部位に同時に結合することによって、細胞に対して同時に信号を与え、その細胞の反応を観察することは、それらの生体分子の機能を調べることは細胞生理学上非常に有用である。本発明の製造方法により得られる機能性高分子複合体は、例えば、前記学問の発展により、医療、診断、医薬品等有用物質の製造等の分野に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】図1は、機能性高分子複合体の一例を示す。
【図2】図2は、スペーサー構造として20nm(60量体)のdsDNAを有するKDGEA−SP20−GRGDSの調製法に関する合成プロセスの一例を示す概略図である。図中、DMTは、ジメトキシトリチル基を示す。
【符号の説明】
【0176】
1 一本鎖DNA
2 機能性分子
【配列表フリーテキスト】
【0177】
配列番号:1はリガンドを示す。
【0178】
配列番号:2はリガンドを示す。
【0179】
配列番号:3はリガンドを示す。
【0180】
配列番号:4はリガンドを示す。
【0181】
配列番号:5はリガンドを示す。
【0182】
配列番号:6はリガンドを示す。
【0183】
配列番号:7はリガンドを示す。
【0184】
配列番号:8はリガンドを示す。
【0185】
配列番号:9はリガンドを示す。
【0186】
配列番号:10はリガンドを示す。
【0187】
配列番号:11はリガンドを示す。
【0188】
配列番号:12はリガンドを示す。
【0189】
配列番号:13はリガンドを示す。
【0190】
配列番号:14はリガンドを示す。
【0191】
配列番号:15はリガンドを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子と、該機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーとを結合させて予備的機能性高分子(A)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的機能性高分子(A)と、該予備的機能性高分子(A)に含まれるスペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法。
【請求項2】
(I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)と、機能性分子とを結合させ、予備的機能性高分子複合体(B)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた予備的機能性高分子複合体(B)の少なくとも2種を連結させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法。
【請求項3】
(I)生体高分子に対する結合活性を有する機能性分子に対する結合性部位を少なくとも1つ有する核酸又はその誘導体からなるスペーサーと、該スペーサーに対して相補性を有するスペーサーとを対合させ、予備的高分子複合体(C)を得る工程、
(II)工程(I)で得られた予備的高分子複合体(C)の少なくとも2種を連結させ、高分子複合体(D)を得る工程、及び
(III)工程(II)で得られた高分子複合体(D)に少なくとも2種の機能性分子を結合させる工程
を含む、少なくとも2つの機能性分子を有する機能性高分子複合体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45207(P2006−45207A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193187(P2005−193187)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】