説明

欠陥寸法推定方法及び装置

【課題】最大欠陥寸法を推定する際の安全率の設定基準を明確とし、所望の裕度を考慮した構造設計や強度評価が可能となる欠陥寸法推定方法及び装置を提供する。
【解決手段】予め、複数の試験片を作成すると共に、各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求め、求めた各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成しておき、この極値統計グラフを用いて、所望の分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物材等に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を推定する欠陥寸法推定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複雑な形状を有する部材や大型の部材では、製作・製造の容易さから、一般に、機械加工や溶接ではなく、鋳物材が用いられている。
【0003】
鋳物材では、作製した金型に金属を流し込めば任意の形状が得られるため、製作・製造が容易であるという利点があるが、金属の冷却過程において不純物や空気などが集中して金属が健全に固まりきれなかった領域、すなわち内在欠陥が発生してしまうという問題がある。これは、製造上避けられない問題であり、特に、製造する鋳物材の質量が大きくなると、内在欠陥が含まれてしまうことは避けられない。
【0004】
内在欠陥が存在する鋳物材等の材料は、内在欠陥が存在しないか存在しても極めて小さい材料に比べて、その疲労強度が低下する。したがって、鋳物材において疲労などの材料強度を評価する際(例えば、構造健全性評価、余寿命評価を実施する際)、あるいは構造設計を実施する際には、内在欠陥の寸法を精度よく測定し、内在欠陥を考慮した評価を実施する必要がある。また、構造設計や強度評価を行う際には、内在欠陥のうち最も大きなものを起点として破壊が発生することから、評価対象材に含まれる最も大きな内在欠陥の寸法(以下、最大欠陥寸法という)を精度よく推定することが求められる。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第06/117837号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ある材料に含まれる内在欠陥の寸法は、製作条件(熱処理条件)や寸法等の影響を大きく受けるため、同じ種類の材料であっても、最大欠陥寸法は大きく異なると考えられる。
【0008】
しかしながら、従来、最大欠陥寸法を推定する方法は提案されておらず、経験や実績により設定された不明確な安全率(安全代)を含ませた最大欠陥寸法を用いるか、あるいは、十分に安全側となるように設定した最大欠陥寸法を用いて、構造設計や強度評価が行われていた。
【0009】
不明確な安全率を含ませた最大欠陥寸法を用いる場合、安全率の設定基準が不明確であるため、構造設計や強度評価の際にどの程度の裕度が考慮されているのかが不明であるという問題がある。
【0010】
また、十分に安全側となるように設定した最大欠陥寸法を用いる場合、当然ながら構造設計や強度評価においても過度に安全側の評価となる可能性があり、好ましくないという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、最大欠陥寸法を推定する際の安全率の設定基準を明確とし、所望の裕度を考慮した構造設計や強度評価が可能となる欠陥寸法推定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、予め、複数の試験片を作成すると共に、各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求め、求めた各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成しておき、この極値統計グラフを用いて、所望の前記分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定する欠陥寸法推定方法である。
【0013】
また、本発明は、予め求めた複数の試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を入力する測定値入力部と、該測定値入力部で入力された各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成する極値統計グラフ作成部と、所望の前記分布関数の設定値を入力する設定値入力部と、前記極値統計グラフ作成部で作成した極値統計グラフを用いて、前記設定値入力部で入力された前記分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定する最大欠陥寸法推定部と、を備えた欠陥寸法推定装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、最大欠陥寸法を推定する際の安全率の設定基準を明確とし、所望の裕度を考慮した構造設計や強度評価が可能となる欠陥寸法推定方法及び装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る欠陥寸法推定装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る欠陥寸法推定方法のフローチャートである。
【図3】本発明において、内在欠陥の欠陥寸法の一例を説明する図である。
【図4】本発明において、極値統計グラフの一例を示すグラフ図である。
【図5】本発明において、極値統計グラフの一例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
まず、本実施の形態に係る欠陥寸法推定方法に用いる欠陥寸法推定装置について説明する。
【0018】
図1に示すように、欠陥寸法推定装置1は、測定値入力部2、測定値記憶部3、極値統計グラフ作成部4、グラフ記憶部5、評価対象材選択部6、設定値入力部7、最大欠陥寸法推定部8、および出力部9を備えている。
【0019】
測定値入力部2では、予め求めた複数の試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を入力する。また、測定値入力部2では、製作条件として、試験片に用いた材料、熱処理条件、試験片の寸法(試験部の断面積(試験片の評価面積ともいう))を入力する。なお、本実施の形態では、評価対象材が鋳物材である場合を説明する。そのため、試験片としても鋳物材の試験片を用いる。
【0020】
測定値記憶部3は、製作条件ごと(試験片に用いた材料ごと、かつ熱処理条件ごと、かつ試験片の寸法ごと)に整理して、測定値入力部2で入力された各試験片の最大欠陥寸法を記憶する。
【0021】
極値統計グラフ作成部4は、製作条件ごとに、測定値記憶部3で記憶された各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成する。極値統計法に基づく分布関数、および極値統計グラフの詳細については後述する。
【0022】
グラフ記憶部5は、極値統計グラフ作成部4で作成した極値統計グラフを記憶する。
【0023】
評価対象材選択部6では、評価対象材の材料、熱処理条件、寸法を選択する。選択肢については、予め設定しておくようにしてもよいし、測定値記憶部3(あるいはグラフ記憶部5)に記憶されている製作条件を表示するようにしてもよい。
【0024】
設定値入力部7では、所望の分布関数の設定値を入力する。
【0025】
最大欠陥寸法推定部8は、極値統計グラフ作成部4で作成されグラフ記憶部5に記憶された極値統計グラフのうち、評価対象材選択部6で選択された材料、熱処理条件、寸法の極値統計グラフを用いて、設定値入力部7で入力された分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定する。
【0026】
出力部9は、最大欠陥寸法推定部8で推定した最大欠陥寸法を、図示しない表示器などに出力する。
【0027】
これら測定値入力部2、測定値記憶部3、極値統計グラフ作成部4、グラフ記憶部5、評価対象材選択部6、設定値入力部7、最大欠陥寸法推定部8、および出力部9は、インターフェイス、メモリ、CPU、ソフトウェアなどを適宜組み合わせて実現される。
【0028】
次に、本実施の形態に係る欠陥寸法推定方法を、欠陥寸法推定装置1の動作と共に説明する。
【0029】
図2に示すように、本実施の形態に係る欠陥寸法推定方法では、まず、各試験片の最大欠陥寸法を入力する(ステップS1)。
【0030】
具体的には、複数の試験片を作成すると共に、各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求め、求めた各試験片の最大欠陥寸法と、試験片に用いた材料、熱処理条件、試験片の寸法を、製作条件として測定値入力部2に入力する。
【0031】
図3に示すように、内在欠陥31は、一般に複雑な形状となっているので、本実施の形態では、欠陥寸法(最大欠陥寸法)として、内在欠陥31全体を包含するような楕円のき裂を設定したときの楕円のき裂の長軸dを用いることとした。欠陥寸法としては、これに限らず、例えば、内在欠陥31の面積や、体積などを用いてもよく、最終的な評価や設計に応じて、どのパラメータを用いるかを適宜選択することができる。
【0032】
各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求める方法については、特に限定するものではないが、例えば、疲労試験では最も大きい内在欠陥を起点として破壊が発生することから、疲労試験にて試験片が破断したときの破断面における最大の内在欠陥の寸法を測定することで、最大欠陥寸法を求めることができる。
【0033】
測定値入力部2に入力された各試験片の最大欠陥寸法は、製作条件ごとに整理されて測定値記憶部3に記憶される。
【0034】
その後、測定値記憶部3に記憶された各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成する(ステップS2)。
【0035】
ステップS2では、まず、極値統計グラフ作成部4が、測定値記憶部3に記憶された各試験片の最大欠陥寸法のデータに、最大欠陥寸法を昇順に並べたときの順位(小さい順に並べたときの順位)を付与し、その後、付与した順位に相当する極値統計法に基づく分布関数を求める。本実施の形態では、極値統計法に基づく分布関数として、下式(1)
i=i/(n+1)×100 ・・・(1)
但し、n:最大欠陥寸法のデータ数
i:最大欠陥寸法を昇順に並べたときの順位(i=1〜n)
で表される存在頻度(破壊確率)を用いる場合を説明する。なお、式(1)で表される存在頻度は、累積分布関数、トーマス分率など種々の呼称があるが、ここでは存在頻度として統一する。
【0036】
極値統計グラフ作成部4は、得られた最大欠陥寸法と存在頻度の関係をグラフにプロットし、最小二乗法など公知の方法を用いて最大欠陥寸法と存在頻度の関係式を求める。
【0037】
ステップS2で得られる極値統計グラフの一例を図4に示す。図4に示すように、最大欠陥寸法と存在頻度の関係は直線関係で表すことができる。図4のような極値統計グラフを作成することにより、例えば、最大欠陥寸法がX(mm)以下である可能性(つまり存在頻度(%))を知ることができ、逆に、設定した所望の存在頻度に対応する最大欠陥寸法を知ることができる。極値統計グラフ作成部4で作成した極値統計グラフは、製作条件ごとにグラフ記憶部5に記憶される。
【0038】
その後、評価対象材選択部6にて評価対象材の製作条件(材料、熱処理条件、寸法)を選択すると共に、設定値入力部7にて所望の存在頻度の設定値を入力する(ステップS3)。
【0039】
ステップS3で評価対象材の製作条件の選択、存在頻度の設定値の入力を行った後、最大欠陥寸法の推定を行う(ステップS4)。
【0040】
ステップS4では、最大欠陥寸法推定部8が、評価対象材選択部6で選択された製作条件に対応する極値統計グラフをグラフ記憶部5から読み出し、その読み出した極値統計グラフを用いて、設定値入力部7にて入力された存在頻度の設定値に対応する最大欠陥寸法を求める。最大欠陥寸法推定部8で求めた最大欠陥寸法は、出力部9を介して表示器などに出力される。
【0041】
以上により、所望の存在頻度の設定値における、評価対象材の最大欠陥寸法が推定される。推定した最大欠陥寸法は、評価対象材の構造設計や強度評価に用いられる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係る欠陥寸法推定方法では、予め、複数の試験片を作成すると共に、各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求め、求めた各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数(ここでは存在頻度)との関係を表す極値統計グラフを作成しておき、この極値統計グラフを用いて、所望の分布関数(ここでは存在頻度)の設定値に対する最大欠陥寸法を推定している。
【0043】
従来は、最大欠陥寸法を推定する方法がなかったため、経験や実績により設定された不明確な安全率を含ませた最大欠陥寸法を用いるか、あるいは十分に安全側となるように設定した最大欠陥寸法を用いて構造設計や強度評価を行うしかなかった。
【0044】
これに対して、本発明では、設計者(あるいは評価者)が設定した任意の存在頻度に対する最大欠陥寸法を推定することができるので、安全率の設定基準が明確となり、その結果、所望の裕度を考慮した適切な構造設計や強度評価を行うことが可能になる。換言すれば、本発明では、考慮する存在頻度(破壊確率)に応じた最大欠陥寸法を推定することができ、その結果、定量的な安全率が考慮された構造設計および強度評価が可能になり、特に、疲労強度評価、き裂進展解析等、最大欠陥寸法に強く依存する破壊現象の評価について、信頼性のある結果を得ることが期待できる。
【0045】
上記実施の形態では、極値統計法に基づく分布関数として存在頻度を用いたが、これに限らず、下式(2)
i=−ln[−ln{i/(n+1)}] ・・・(2)
但し、n:最大欠陥寸法のデータ数
i:最大欠陥寸法を昇順に並べたときの順位(i=1〜n)
で表される基準化変数(二重指数分布)を用いてもよいし、下式(3)
i=(2i−1)/2n ・・・(3)
但し、n:最大欠陥寸法のデータ数
i:最大欠陥寸法を昇順に並べたときの順位(i=1〜n)
で表されるハーゼン分率を用いてもよい。ただし、極値統計法に基づく分布関数としては、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係をプロットしたときに、直線関係となるものを用いる必要がある。
【0046】
特に、式(2)で表される基準化変数を用いる場合、基準化変数は下式(4)
T=(A+A0)/A0 ・・・(4)
但し、A:評価対象材の評価面積(危険面積)
0:試験片の評価面積(試験部の断面積)
で表される再現期間Tを用いて、下式(5)
y=−ln[−ln{(T−1)/T}] ・・・(5)
のように表現することができるので、評価対象材の評価面積を考慮して最大欠陥寸法を推定することが可能となる。
【0047】
具体的には、例えば、評価面積A0の試験片を用いて図5に示すような極値統計グラフが得られた場合、評価対象材の評価面積Aを式(4)に代入して再現期間Tを算出すると共に、得られた再現期間Tを式(5)に代入して基準化変数yを求め、得られた基準化変数yに対応する最大欠陥寸法を、極値統計グラフから求める。これにより、評価対象材の評価面積Aを考慮した最大欠陥寸法を推定することが可能となる。
【0048】
また、上記実施の形態では、鋳物材の最大欠陥寸法を推定する場合を説明したが、これに限らず、例えば、内在欠陥を含む溶接部分、あるいは使用により内部に欠陥が生じてしまうような構造物等にも、本発明は適用可能である。
【0049】
このように、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
1 欠陥寸法推定装置
2 測定値入力部
3 測定値記憶部
4 極値統計グラフ作成部
5 グラフ記憶部
6 評価対象材選択部
7 設定値入力部
8 最大欠陥寸法推定部
9 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め、複数の試験片を作成すると共に、各試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を求め、求めた各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成しておき、
この極値統計グラフを用いて、所望の前記分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定することを特徴とする欠陥寸法推定方法。
【請求項2】
予め求めた複数の試験片に含まれる内在欠陥の最大欠陥寸法を入力する測定値入力部と、
該測定値入力部で入力された各試験片の最大欠陥寸法に基づき、最大欠陥寸法と極値統計法に基づく分布関数との関係を表す極値統計グラフを作成する極値統計グラフ作成部と、
所望の前記分布関数の設定値を入力する設定値入力部と、
前記極値統計グラフ作成部で作成した極値統計グラフを用いて、前記設定値入力部で入力された前記分布関数の設定値に対する最大欠陥寸法を推定する最大欠陥寸法推定部と、 を備えたことを特徴とする欠陥寸法推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−167725(P2011−167725A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33801(P2010−33801)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)