説明

正帯電単層型電子写真感光体、及び画像形成装置

【課題】接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備え、正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置において、転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供すること。また、前述の正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供すること。
【解決手段】導電性基体上に感光層が形成された正帯電単層型電子写真感光体において、感光層に含まれる正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルを5.33〜5.60eVとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電単層型電子写真感光体、及び正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に備えられる電子写真感光体としては、セレン等の無機材料からなる感光層を備える無機感光体と、主に、結着樹脂、電荷発生剤、電荷輸送剤等の有機材料からなる感光層を備える有機感光体とがある。そして、これらの感光体のなかでは、無機感光体と比較して製造が容易であり、感光層の材料を幅広い材料から選択でき、設計の自由度が高いことから有機感光体が幅広く使用されている。
【0003】
かかる有機感光体としては、電荷発生剤及び電荷輸送剤を同一層に含む感光層を備える単層型有機感光体が挙げられる。単層型有機感光体は、導電性基体上に電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した積層型有機感光体と比較して、構造が簡単で製造が容易であるとともに、皮膜欠陥の発生を抑制できることが知られている。
【0004】
また、このような電子写真感光体を用いて、以下の1)〜5)の工程を含む画像形成プロセスが実施されている。
1)電子写真感光体の表面を帯電させる工程
2)帯電された電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する工程
3)静電潜像を現像バイアス電圧が印加された状態でトナー現像する工程
4)形成されたトナー像を反転現像方式により被転写体に転写する工程
5)被転写体に転写されたトナー像を加熱定着する工程
【0005】
しかし、このような画像形成プロセスにおいては、電子写真感光体を回転させて使用するため、前周回において露光された部分の電位(明電位)が残留して、次の周における帯電工程を経ても、かかる部分においては所望する帯電電位(暗電位)を得ることができない現象(転写メモリー)が見られた。そして、転写メモリーの発生する部分と発生しない部分とでは画像濃度が変わってしまい、良好な画像を得難い問題がある。
【0006】
また、単層型電子写真感光体には正帯電型と負帯電型とがあり、電子写真感光体の帯電方式としては接触帯電方式と非接触帯電方式とがあるが、電子写真感光体の表面を帯電させる際に、電子写真感光体の寿命やオフィス環境に悪影響を与えるオゾン等の酸化性ガスをほとんど発生しないことから、接触帯電方式と正帯電単層型電子写真感光体とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0007】
接触帯電方式では、放電領域が狭いため、非接触帯電方式よりも帯電能力に乏しく、又電子写真感光体表面の帯電均一性を上げるために交流電圧や直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を電子写真感光体に印加して使用されるが、交流電圧のマイナス成分により帯電電位が低下することから、直流電圧を印加して用いられる。
しかしながら、前述のように、帯電効率が劣り表面の電位が安定しにくい為、転写メモリーが発生しやすいという問題がある。
【0008】
このような理由から、接触帯電方式により直流電圧を印加する帯電部を備える画像形成装置において、正帯電単層型電子写真感光体を使用する場合、非常に転写メモリーが発生しやすく、転写メモリーの発生にともないゴースト等の画像不良を発生しやすい。
【0009】
接触帯電方式の帯電部を備え、正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置における転写メモリーの問題を解決する方法としては、例えば、特許文献1に、感光層に含まれる正孔輸送剤及び電荷発生剤に関して、正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルIP1(eV)と電荷発生剤のイオン化ポテンシャルIP2(eV)との差を0.1〜0.4(eV)の範囲内の値とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−232904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1は、接触帯電方式において直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を正帯電単層型電子写真感光体の表面に印加する際の転写メモリーを抑制する方法であり、より転写メモリーが発生しやすい接触帯電方式において直流電圧を正帯電単層型電子写真感光体の表面に印加する方法における転写メモリーを抑制する場合には、特許文献1に記載の正帯電単層型電子写真感光体を適応しても、転写メモリーの抑制には不十分であった。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備え、正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置において、転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供することを目的とする。また、本発明は前述の正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、導電性基体上に感光層が形成された正帯電単層型電子写真感光体において、感光層に含まれる正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルを5.33〜5.60eVとすることにより、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備える画像形成装置において正帯電単層型電子写真感光体を用いる場合に、転写メモリーの抑制により画像不良の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) 導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層が形成されており、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備える画像形成装置において像担持体として使用される正帯電単層型電子写真感光体であって、前記正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVであることを特徴とする正帯電単層型電子写真感光体。
【0015】
(2) 前記電子輸送剤の、アルミニウム製の基材上に形成された、前記電子輸送剤30質量%と粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂70質量%とからなるポリカーボネート樹脂組成物の厚さ5μmの膜を試料に用いて、温度23℃、電界強度3.0×10V/cmの条件で測定されるドリフト移動度が1.2×10−7cm/V・sec以上であることを特徴とする(1)記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【0016】
(3) 前記電子輸送剤の還元電位が−1.05〜−0.85V(vs. Ag/Ag)であることを特徴とする(1)、又は(2)記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【0017】
(4) 像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備える画像形成装置において、前記像担持体として用いられる、(1)〜(3)何れか記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【0018】
(5) 前記画像形成装置が、除電光により前記像担持体表面を除電するための除電部を備えない、(4)記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【0019】
(6) 像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、前記像担持体が、(1)〜(3)何れか記載の正帯電単層型電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【0020】
(7) 除電光により前記像担持体表面を除電するための除電部を備えない、(6)記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備え、正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置において、転写メモリーの抑制により画像不良の発生を抑制できる正帯電単層型電子写真感光体を提供できる。また、本発明によれば、前述の正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として備える、転写メモリーの抑制により画像不良の発生を抑制できる画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体の構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0024】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層が形成されており、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備える画像形成装置において像担持体として使用される正帯電単層型電子写真感光体(以下、単層型感光体、又は感光体と称する場合がある)であって、前記正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVであることを特徴とする正帯電単層型電子写真感光体に関する。
【0025】
本発明の正帯電単層型電子写真感光体10は、図1に示すように、導電性基体12と、導電性基体12上に形成された、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を含有する単層の感光層14とが備えられたものである。そして、正帯電単層型電子写真感光体10は、導電性基体12と感光層14とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、図1(a)に示すように、導電性基体12上に感光層14を直接備えていてもよいし、図1(b)に示すように、導電性基体12と感光層14との間に中間層16を備えていてもよい。また、図1(a)や図1(b)に示すように、感光層14が最外層となって露出していてもよいし、図1(c)に示すように、感光層14上に保護層18を備えていてもよい。
【0026】
以下、導電性基体、及び感光層について順に説明する。
【0027】
〔導電性基体〕
導電性基体は、正帯電単層型電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆したものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。また、導電性基体としては、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。そうすることによって、より好適な画像を形成することができる正帯電単層型電子写真感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることによると考えられる。
【0028】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができ、例えば、シート状、ドラム状等の基体が好適に使用できる。
【0029】
〔感光層〕
正帯電単層型電子写真感光体が備える感光層としては、正帯電単層型電子写真感光体の感光層として用いることができ、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂からなる単層構造の感光層であって、正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVであれば特に限定されない。
【0030】
正帯電単層型電子写真感光体が備える感光層は、画像形成工程の転写工程において発生する転写メモリーを抑制するために、所定のイオン化ポテンシャルを有する正孔輸送剤を含有することを特徴とする。すなわち、本発明の正帯電単層型電子写真感光体の感光層は、かかる正孔輸送剤を含有しているため、電荷発生剤に残留する電荷を効率よく除去することができ、画像形成工程の転写工程において発生する転写メモリーを抑制することができる。以下、画像形成工程において発生する転写メモリーについて説明する。
【0031】
一般に、電子写真方式を利用した画像形成工程は、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、除電工程等を含む。最初の工程である帯電工程においては、像担持体表面である正帯電単層型電子写真感光体の表面は、一様に一定電位まで帯電されることにより、正の電荷を有することとなる。次に、露光工程においては、一定電位まで帯電された正帯電単層型電子写真感光体の表面は、露光され、これにより静電潜像が形成される。
【0032】
さらに、現像工程においては、上記露光された部分にトナーが付与されることにより、トナー像が形成され、静電潜像が可視化される。そして、転写工程においては、正帯電単層型電子写真感光体の表面に形成されたトナー像は、中間転写体に転写される。ここで、上記トナー像を上記中間転写体に転写する工程では、この中間転写体に正帯電単層型電子写真感光体の電荷と逆極性である負極性のバイアスが印加される。
【0033】
上記中間転写体に負極性のバイアスが印加される際に、上記正帯電単層型電子写真感光体上の露光された部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有するため、上記負極性のバイアスが印加されても帯電時の極性(正極性)を維持する。しかしながら、露光されなかった部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有しないため、負極性のバイアスにより、帯電と逆極性(負極性)の電荷を有してしまうこととなる。その結果、正帯電単層型電子写真感光体上の露光された部分と露光されなかった部分とは、異なる極性の電位を有することとなり、この電位差が、以降の画像形成時において転写メモリー発生の原因となる。さらにこの現象は、除電工程で光除電することで緩和されるが、除電工程を有さないいわゆる除電レスシステムにおいて、より顕著である。
【0034】
そこで、本発明においては、特定のイオン化ポテンシャルを有する正孔輸送剤が、電荷発生剤に残存する電荷を減少させることにより上記電位差を消失させ、転写工程において発生する転写メモリーを抑制する。
【0035】
以下、感光層を構成する成分である、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、バインダー樹脂、及び添加剤、並びに正帯電単層型電子写真感光体の製造方法について説明する。
【0036】
(電荷発生剤)
電荷発生剤としては、正帯電単層型電子写真感光体の電荷発生剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(I)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H2Pc)、Y型オキソチタニルフタロシアニン(Y−TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
また、電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前述の各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンターやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する正帯電単層型電子写真感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。また、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する正帯電単層型電子写真感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0039】
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤としては、イオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVのものを用いる。かかる正孔輸送剤を用いることにより、電荷発生剤に残存する電荷を減少させることができ、転写メモリーが抑制される。正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルは、例えば、大気雰囲気型紫外線光電子分析装置(AC−1(理研計器株式会社製))を用いて測定できる。
【0040】
イオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVである正孔輸送剤は、所定のイオン化ポテンシャルを有する限り特に限定されず、種々の化合物から適宜選択して使用できる。正孔輸送剤として好適な化合物としては、例えば、ベンジジン誘導体、スチリル誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、及びエナミン誘導体等が挙げられる。
【0041】
正孔輸送剤として好適に使用できる、イオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVである化合物の具体例としては、以下のHTM−1〜HTM−5が挙げられる。
【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
(電子輸送剤)
電子輸送剤としては、正帯電単層型電子写真感光体の感光層に含まれる電子輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。電子輸送剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
電子輸送剤の還元電位は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電子輸送剤の還元電位は、典型的には−1.05〜−0.85V(vs. Ag/Ag)であるのが好ましい。かかる範囲の還元電位の電子輸送剤を用いる場合、特に、転写メモリーを良好に抑制でき、ゴースト等の不具合のない良好な画像を形成できる。電子輸送剤の還元電位は、以下の方法により測定できる。
【0046】
<還元電位測定方法>
還元電位は、以下の測定条件によりサイクリックボルタメントリー測定を行って、求める。
作用電極:グラッシーカーボン
対極:白金
参照電極:銀/硝酸銀(0.1mol/L、AgNO−アセトニトリル溶液)
試料溶液電解質:過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.1mol)
測定物質:電子輸送剤(0.001mol)
溶剤:ジクロロメタン(1L)
【0047】
また、電子輸送剤のドリフト移動度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電子輸送剤のドリフト移動度は、典型的には、1.2×10−7cm/V・sec以上が好ましい。かかる範囲のドリフト移動度の電子輸送剤を用いる場合、特に、転写メモリーを良好に抑制でき、ゴースト等の不具合のない良好な画像を形成できる。なお、電子輸送剤のドリフト移動度は、電子輸送剤30質量%と粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂70質量%とからなるポリカーボネート樹脂組成物の厚さ5μmの膜を試料に用いて、温度23℃、電界強度3.0×10V/cmの条件で測定されるドリフト移動度である。電子輸送剤のドリフト移動度は、以下の方法により測定できる。
【0048】
<ドリフト移動度測定方法>
粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂と、試料の全質量に対して30質量%の電子輸送剤とを、有機溶媒中に加え、ポリカーボネート樹脂及び電子輸送剤を溶解させて塗布液を調製する。得られた塗布液を、アルミニウムからなる基材上に塗布し、80℃30分間熱処理を行い、溶媒を除去して厚さ5μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜上に真空蒸着法にて半透明金電極を形成して測定試料とした。得られた試料を用いて、温度23℃、電界強度3.0×10V/cmの条件で、TOF(Time of Flight)法に従ってドリフト移動度が測定される。
【0049】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[M]は、オストワルド粘度計によって、極限粘度[η]を求め、Schnellの式によって、[η]=1.23×10−40.83より算出できる。なお、[η]は、20℃で、塩化メチレンを溶媒として、濃度が6.0g/dmとなるようにポリカーボネート樹脂を溶解させて得られるポリカーボネート樹脂溶液を用いて測定できる。
【0050】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、正帯電単層型電子写真感光体の感光層に含まれるバインダー樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。バインダー樹脂として好適に使用される樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂等の熱硬化性樹脂;エポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
これらの樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性、耐摩耗性のバランスに優れた感光層が得られることから、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、及びビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0052】
(添加剤)
正帯電単層型電子写真感光体の感光層は、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂の他に、各種添加剤を含んでいてもよい。感光層に配合できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0053】
(正帯電単層型電子写真感光体の製造方法)
正帯電単層型電子写真感光体の製造方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。正帯電単層型電子写真感光体の製造方法の好適な例としては、感光層用の塗布液を導電性基体上に塗布して感光層を形成する方法が挙げられる。具体的には、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、バインダー樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、感光層を製造することができる。塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、ディップコーター、ドクターブレード等を用いる方法が挙げられる。また、導電性基体上に形成された塗膜の乾燥方法としては、例えば、80〜150℃で15〜120分間の条件で熱風乾燥する方法等が挙げられる。
【0054】
正帯電単層型電子写真感光体において、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましい。電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。正孔輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましい。また、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量、すなわち、電荷輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20〜500質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。
【0055】
正帯電単層型電子写真感光体の感光層の厚さは、感光層として充分に作用することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
【0056】
感光層用の塗布液に含有される溶剤としては、感光層を構成する各成分を溶解又は分散させることができれば、特に限定されない。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
正帯電単層型電子写真感光体は、後述の、直流電圧を印加する接触帯電方式の帯電部を備える画像形成装置の像担持体として使用される。そうすることによって、単層型電子写真感光体の帯電極性が正帯電であり、帯電方式が直流電圧を印加する接触帯電方式であるという極めて転写メモリーが生じやすい条件であるにもかかわらず、転写メモリーが抑制され、高品質の画像を形成できる画像形成装置を提供することができる。
【0058】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、像担持体と、像担持体の表面を帯電するための直流電圧を印加する接触帯電方式の帯電部と、帯電された像担持体の表面を露光して像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、トナー像を像担持体から被転写体へ転写するための転写部とを備え、像担持体として第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置に関する。
【0059】
また、本発明の画像形成装置としては、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
【0060】
なお、本実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備えた複数の現像部とを備え、各像担持体として、それぞれ第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる。
【0061】
図2は、本発明の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、画像形成装置としては、カラープリンター1を例に挙げて説明する。
【0062】
このカラープリンター1は、図2に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、機器本体1aの上面には、定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0063】
給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の図2に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0064】
また、給紙部2は、機器本体1aの図2に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0065】
画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0066】
画像形成ユニット7は、上流側(図2では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての正帯電単層型電子写真感光体37(以下、感光体37)が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体37の周囲には、帯電部39、露光部38、現像部71、及び不図示のクリーニング部と、必要に応じて不図示の除電部とが、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、感光体37としては、第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる。
【0067】
帯電部39は、矢符方向に回転されている感光体37の周面を均一に帯電させる。帯電部39の具体例としては、帯電ローラー及び帯電ブラシ等が感光体37に接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる、接触方式の帯電ローラー及び帯電ブラシ等を備えた帯電部が挙げられ、帯電ローラーを備えた帯電部が好ましく用いられる。
【0068】
接触方式の帯電ローラーを備えた帯電部は、帯電ローラーが感光体37と接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる。このような帯電ローラーとしては、例えば、感光体37と接触したまま、感光体37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電部は、電圧印加部によって、芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体37の表面を帯電させることができる。
【0069】
電圧印加部により帯電ローラーに印加される電圧は直流電圧のみである。交流電圧や直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を帯電ローラーに印加する場合より、帯電ローラーに直流電圧のみを印加する場合のほうが、感光層の磨耗量が少なくなる傾向がある。正帯電単層型電子写真感光体に印加する直流電圧は、1000〜2000Vが好ましく、1200〜1800Vがより好ましく、1400〜1600Vが特に好ましい。
【0070】
画像形成装置が帯電ローラーを備える直流電圧を印加する帯電部と、像担持体として正帯電単層型電子写真感光体とを備える場合、転写メモリーが発生しやすい傾向があったが、第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を像担持体として用いる場合、転写メモリーが抑制され画像不良の発生を抑制することができる。
【0071】
また、帯電ローラーの樹脂層を構成する樹脂は、感光体37の周面を良好に帯電させることができれば特に限定されない。樹脂層に用いる樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、樹脂層には、無機充填材を含有させていてもよい。
【0072】
露光部38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電部39によって均一に帯電された感光体37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データに基づくレーザー光を照射し、感光体37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像部71は、静電潜像が形成された感光体37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング部は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電部は、1次転写が終了した後、感光体37の周面を除電する。クリーニング部及び除電部によって清浄化処理された感光体37の周面は、新たな帯電処理のために帯電部へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0073】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体37に押圧された状態で、複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモーター等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0074】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体37上に形成されたトナー像は、各感光体37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。この後、所望により、除電光により各感光体37の表面を除電するための除電部(図示せず)による除電が行われた後に、各感光体37はさらに回転され、次のプロセスに移行する。この際、除電操作を行わないのがより好ましい。除電操作を行わない場合、カラープリンター1を除電部を備えない構成とすることができるため、カラープリンター1の小型化や、部品点数の低減による製造コストの低減が可能となる。除電部を備えない場合、転写メモリーがより発生しやすいが、感光体37として第1の実施形態にかかる感光体を用いることにより、除電部を備えないカラープリンター1であっても、転写メモリーを抑制できる。
【0075】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0076】
定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
【0077】
そして、画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンター1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
【0078】
排紙部5は、カラープリンター1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0079】
カラープリンター1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、像担持体として、第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体が備えられているので、接触帯電方式であり直流電圧を印加する帯電方式であって、像担持体が正帯電単層型電子写真感光体である転写メモリーが生じやすい条件であっても、転写メモリーが生じ難いため、好適な画像を形成することができる画像形成装置が得られる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
無金属フタロシアニン5質量部、正孔輸送剤(HTM−1)50質量部、電子輸送剤(ETM−1)35質量部、粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂100質量部、及びテトラヒドロフラン800質量部をボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、感光層用の塗布液を調製した。得られた塗布液を導電性基板上にディップコート法により塗布し、100℃で40分間処理して塗膜よりテトラヒドロフランを除去して、膜厚30μmの感光層を備える正帯電単層電子写真感光体を得た。
【0082】
〔実施例2〜12、及び比較例1〜6〕
正孔輸送剤(HTM)、及び電子輸送剤(ETM)を表1に記載の種類に変える他は、実施例1と同様にして正帯電単層型電子写真感光体を得た。
【0083】
実施例、及び比較例では、正孔輸送剤として下式で表されるHTM−1〜HTM−8を用い、電子輸送剤として下式で表されるETM−1〜ETM−8を用いた。
【0084】
〔正孔輸送剤〕
【化4】

【0085】
【化5】

【0086】
〔電子輸送剤〕
【化6】

【0087】
【化7】

【0088】
正孔輸送剤(HTM−1〜HTM−8)のイオン化ポテンシャルを、大気雰囲気型紫外線光電子分析装置(AC−1(理研計器株式会社製))を用いて測定した。また、電子輸送剤の還元電位(vs. Ag/Ag)を下記方法に従って測定した。さらに、電子輸送剤のドリフト移動度を下記方法に従って測定した。正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルと、電子輸送剤の還元電位(vs. Ag/Ag)と、電子輸送剤のドリフト移動度とを表1に記す。
【0089】
<還元電位測定方法>
還元電位は、以下の測定条件によりサイクリックボルタメントリー測定を行って、求めた。
作用電極:グラッシーカーボン
対極:白金
参照電極:銀/硝酸銀(0.1mol/L、AgNO−アセトニトリル溶液)
試料溶液電解質:過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.1mol)
測定物質:電子輸送剤(0.001mol)
溶剤:ジクロロメタン(1L)
【0090】
<ドリフト移動度測定方法>
粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂と、試料の全質量に対して30質量%の電子輸送剤とを、有機溶媒中に加え、ポリカーボネート樹脂及び電子輸送剤を溶解させて塗布液を調製した。得られた塗布液を、アルミニウムからなる基材上に塗布し、80℃30分間熱処理を行い、溶媒を除去して厚さ5μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜上に真空蒸着法にて半透明金電極を形成して測定試料とした。得られた試料を用いて、温度23℃、電界強度3.0×10V/cmの条件で、TOF(Time of Flight)法に従ってドリフト移動度が測定される。
【0091】
実施例及び比較例で得られた正帯電単層型電子写真感光体を、帯電部を直流電圧を印加する帯電ローラーに換装したプリンター(FS−5300DN、京セラミタ株式会社製)に装着し、転写バイアスをオフした時の白紙部電位と転写バイアスをオンした時の白紙部電位との差を転写メモリーとして評価した。また1時間耐久印刷した後、印刷画像を観察し、画像不良の発生の有無を評価した。画像の評価は、画像不良が見られないものを◎とし、一辺10mmのベタパッチがハーフトーン部にゴーストとして現れる状態を○とし、前述のベタパッチがゴーストとして現れるとともに、一辺3mmのアルファベットがゴーストとして現れるが、その文字がはっきり読みとれない状態を△とし、前述のベタパッチがゴーストとして現れるとともに、一辺3mmのアルファベットがゴーストとして現れその文字がはっきり読める状態を×とした。転写メモリー及び画像の評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1によれば、イオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVである正孔輸送剤(HTM−1〜HTM−6)を用いた実施例1〜12の正帯電単層型電子写真感光体によれば、転写メモリー電位の絶対値を低くすることができ、ゴーストのない良好な画像を得やすいことが分かる。また、実施例1〜10と、実施例11、及び実施例12との比較によれば、電子輸送剤のドリフト移動度1.2×10−7cm/V・sec以上であり、還元電位(vs. Ag/Ag)が−1.05〜0.85Vである場合、特に転写メモリー電位の絶対値を低くすることができ、それに伴い良好な画像を形成できることが分かる。
【0094】
比較例1〜6によれば、正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVの範囲外である場合、転写メモリー電位の絶対値を低くすることができず、画像形成時にゴーストが発生しやすいことが分かる。また、比較例4〜6によれば、電子輸送剤のドリフト移動度1.2×10−7cm/V・sec以上であり、還元電位(vs. Ag/Ag)が−1.05〜0.85Vであっても、正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVの範囲外である場合、ゴーストの発生を良好に抑制できないことが分かる。
【符号の説明】
【0095】
10 正帯電単層型電子写真感光体
12 導電性基体
14 感光層
16 中間層
18 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に、少なくとも電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層が形成されており、接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部を備える画像形成装置において像担持体として使用される正帯電単層型電子写真感光体であって、前記正孔輸送剤のイオン化ポテンシャルが5.33〜5.60eVであることを特徴とする正帯電単層型電子写真感光体。
【請求項2】
前記電子輸送剤の、アルミニウム製の基材上に形成された、前記電子輸送剤30質量%と粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂70質量%とからなるポリカーボネート樹脂組成物の厚さ5μmの膜を試料に用いて、温度23℃、電界強度3.0×10V/cmの条件で測定されるドリフト移動度が1.2×10−7cm/V・sec以上であることを特徴とする請求項1記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【請求項3】
前記電子輸送剤の還元電位が−1.05〜−0.85V(vs. Ag/Ag)であることを特徴とする請求項1、又は2記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【請求項4】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備える画像形成装置において、前記像担持体として用いられる、請求項1〜3何れか記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【請求項5】
前記画像形成装置が、除電光により前記像担持体表面を除電するための除電部を備えない、請求項4記載の正帯電単層型電子写真感光体。
【請求項6】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための接触帯電方式の直流電圧印加型の帯電部と、
帯電された前記像担持体の表面を露光して前記像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写部と、を備え、
前記像担持体が、請求項1〜3何れか記載の正帯電単層型電子写真感光体であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
除電光により前記像担持体表面を除電するための除電部を備えない、請求項6記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−208231(P2012−208231A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72578(P2011−72578)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】