説明

正帯電性荷電制御剤及びそれを用いるトナーの荷電制御方法

【課題】静電荷像現像用トナーや粉体塗料に良好な正帯電性を発現させる荷電制御剤、及びこの荷電制御剤を含み、帯電安定性、保存安定性、耐環境性に優れ、現像して優れた品質の画像を形成させる静電荷像現像用正帯電性トナーを提供する。
【解決手段】正帯電性荷電制御剤は、下記化学式(1)


で表されるケイ素錯体化合物を含む。静電荷像現像用正帯電性トナーは、この正帯電性荷電制御剤が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーや粉体塗料に使用される正帯電性荷電制御剤、その荷電制御剤を含む静電荷像現像用正帯電性トナー、その荷電制御剤を含む荷電付与組成物、その組成物で形成されトナーに荷電を付与する部材、及びトナーの荷電制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンター、ファクシミリなどに利用されている電子写真は、摩擦帯電させたトナーにより感光体上の静電荷像を現像し、記録紙上に転写して定着させて、複写や印刷をするものである。
【0003】
トナーには、二成分トナーと一成分トナーとがある。二成分トナーを用いた現像方式は、例えばトナーとそれに電荷を付与する磁性粒子であるキャリアとを混合した現像剤を用いるものであり、トナーとキャリアとが摩擦することによりトナーが帯電し、トナーをキャリアにより搬送して感光体に静電的に付着させ現像するというものである。一方、一成分トナーを用いた現像方式は、例えば金属ブレードと現像スリーブとの隙間でトナーを摩擦帯電させた後、潜像電界によりトナーを感光体に飛行させて現像するというものである。
【0004】
このようなトナーの帯電性は、電子写真の現像スピードを高め、鮮明な画像を形成する上で重要な因子である。そこでトナーの帯電量を適切に制御して安定化し、帯電の立ち上がり速度を速めたりするために、トナーへトナー用樹脂と共に荷電制御剤が添加されている。荷電制御剤には正帯電用のものと、負帯電用のものがある。正帯電用荷電制御剤は、例えば特許文献1、特許文献2に開示され、負帯電用荷電制御剤は、例えば特許文献3に開示されている。これら特許文献に開示された荷電制御剤は、いずれも中心原子であるアルミニウム、錫、鉛、コバルト、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銅、バリウム、ベリリウムなどの金属原子に、有機配位子が配位した有機金属錯体化合物である。特許文献4に開示されている荷電制御剤は、中心原子であるケイ素に、有機配位子が配位したものであり、負帯電用荷電制御剤である。このため、これを使用したトナーは負帯電トナーとなり、感光体上に正帯電した静電荷像の現像に用いられるものである。
【0005】
複写や印刷の速度を高速化しつつ高画質化も実現するために、トナーは、従来のものよりも帯電特性や帯電安定性に優れていることが要求されている。のみならずトナー及びそこに含まれる荷電制御剤は、保存安定性、さらに最近の傾向として環境に対する安全性に優れていることも要求されている。
【0006】
また、構造体表面の電荷に、静電気帯電した粉体塗料をひきつけ、焼き付ける静電粉体塗装に使用される粉体塗料にあっても、適度な帯電特性や、帯電安定性を持つ荷電制御剤が望まれている。
【0007】
時として、このような荷電制御剤が添加されたトナーは、摩擦帯電の際、トナー粒子同士の摩擦、キャリアとの衝突、感光体との摩擦等により、表面に露出している荷電制御剤が脱落してしまい、キャリア等を汚染してしまったり、十分な帯電性を発現できなくなったり、画像濃度の低下やカブリによる画像品質の低下を起こしたりすることがある。
【0008】
トナーに荷電制御剤を添加してトナーを帯電させる方法の代替として、特許文献5には、現像のために必要な電荷をトナーに付与するために、トナーに接触して帯電させる荷電制御剤が露出したキャリア等の電荷付与部材が開示されている。
【0009】
複写や印刷の速度を高速化しつつ高画質化するために、トナーに十分な電荷を付与して、従来よりも一層優れた帯電特性や帯電安定性を発現させ、しかも環境に対して安全で長期間使用できる電荷付与部材も望まれている。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−206768号公報
【特許文献2】特開昭62−62369号公報
【特許文献3】特開平3−276166号公報
【特許文献4】特開平4−293057号公報
【特許文献5】特開2004−341456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、静電荷像現像用トナーや粉体塗料に良好な正帯電性を発現させる荷電制御剤、及びこの荷電制御剤を含み、帯電安定性、保存安定性、耐環境性に優れ、現像して優れた品質の画像を形成させる静電荷像現像用正帯電性トナーを提供することを目的とする。また、このトナーを使用した荷電制御方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、静電写真用トナーに負の電荷を付与して優れた帯電特性や帯電安定性を発現させる電荷付与部材の原材料となる荷電付与組成物を提供することを目的とする。また荷電付与組成物を用いて形成され、十分な電荷付与性と耐摩擦強度と耐久性とを有し、環境に対して安全な電荷付与部材を提供することを目的とする。さらにこの荷電付与部材を使用した静電写真用トナーの荷電制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の本発明の正帯電性荷電制御剤は、下記化学式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(化学式(1)中、R,Rは水素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアリサイクリック基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる同一又は異なる基;Rは窒素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子;[A]は硫酸エステル系アニオンを示す。)
で表されるケイ素錯体化合物を含んでいることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項1に記載されたもので、前記ケイ素錯体化合物が、下記化学式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(化学式(2)中、Rは炭素数1〜8であってアルキル基、アルケニル基、又はアルコキシ基;Rは炭素数1〜8であってアルキル基、アルケニル基、又は無置換若しくは炭素数1〜8であるアルキル基、若しくはアルケニル基、若しくはアルコキシ基が置換したアリール基;[A]は前記に同じである。)
で表されることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項2に記載されたもので、前記化学式(2)中、Rは炭素数1〜8の前記アルキル基;Rはイソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−オクチル基、又は無置換若しくは炭素数1〜8であるアルキル基、若しくはアルコキシ基が置換したアリール基であることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項2に記載されたもので、前記化学式(2)のケイ素錯体化合物が、下記化学式(3)
【0021】
【化3】

【0022】
(式(3)中、R、及びRは前記に同じ、Xはハロゲン元素を示す。)で表されるβ−ジケトンケイ素化合物と、硫酸エステル系アニオン性有機化合物とを反応させて得られた化合物であることを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項4に記載されたもので、前記化学式(3)の前記β−ジケトンケイ素化合物由来の残存ハロゲン含有量が、最大でも0.2%であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項4に記載されたもので、前記硫酸エステル系アニオン性有機化合物が、アルキル硫酸エステル若しくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル若しくはその塩、又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル若しくはその塩であることを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の正帯電性荷電制御剤は、請求項6に記載されたもので、前記アルキル硫酸エステル、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、及び前記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルが、炭素数8〜18で直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していることを特徴とする。
【0026】
同じく請求項8に記載の静電荷像現像用正帯電性トナーは、請求項1〜7のいずれかに記載の正帯電性荷電制御剤が含まれていることを特徴とする。
【0027】
請求項9に記載の静電荷像現像用正帯電性トナーは、請求項8に記載されたもので、前記正帯電性荷電制御剤0.1〜10重量部と、トナー用樹脂100重量部とを含むことを特徴とする。
【0028】
同じく請求項10に記載の静電荷像現像用正帯電性トナーの荷電制御方法は、請求項8に記載のトナーを摩擦により、正に帯電させることを特徴とする。
【0029】
同じく請求項11に記載の荷電付与組成物は、請求項1〜7のいずれかに記載の正帯電性荷電制御剤と、溶媒及び/又は分散剤とが、含まれていることを特徴とする。
【0030】
同じく請求項12に記載の荷電付与部材は、静電写真用トナーに接触して荷電を付与するキャリア粉末、現像スリーブ、及びブレードのいずれかが、請求項11に記載の荷電付与組成物で、コーティングされ、又は成形されており、前記ケイ素錯体化合物を露出させていることを特徴とする。
【0031】
同じく請求項13に記載の静電写真用トナーの荷電制御方法は、請求項12に記載の荷電付与部材と、静電写真用トナーとを接触させて摩擦させることにより、該トナーを帯電させることを特徴とする。
【0032】
なお、前記化学式(1)及び(2)で示した構造式は、下記化学式(4)又は(5)で標記される場合がある。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【発明の効果】
【0035】
本発明の正帯電性荷電制御剤は、正荷電制御性を有するβ−ジケトンケイ素化合物と硫酸エステル系アニオン性有機化合物とから得られるような塩であるから、静電荷像現像用正帯電性トナーや粉体塗料に良好な正帯電性を発現させる。
【0036】
この荷電制御剤を含む静電荷像現像用正帯電性トナーは、帯電安定性、保存安定性、耐環境性に優れている。帯電させたこのトナーを用いて現像された画像は、品質が優れている。さらにこのトナーは、この正帯電性荷電制御剤を含んでいることに起因して、高温高湿から低温低湿までの苛酷な環境下や環境変化によるトナー帯電量の変動が抑えられており、環境安定性に優れている。
【0037】
本発明の正帯電性荷電制御剤が含まれている荷電付与組成物は、静電写真用トナーに、負電荷を付与して、良好な帯電特性や帯電安定性を発現させるためのものである。この荷電付与組成物は、耐熱性、保存安定性、環境に対する安全性の面で特に優れている。
【0038】
この荷電付与組成物でコーティングされたり成形されたりして形成された荷電付与部材は、速い立上がり速度でトナーに電荷を付与する。この荷電付与部材は、モノクロのトナーのみならず、幅広く種々の有彩色のトナーに電荷を付与するのに用いられる。この荷電付与部材は、耐久性に優れているから、交換しなくても長期間連続して使用できる。
【0039】
この荷電付与部材を用いた静電写真用トナーの荷電制御方法は、無機、有機を問わずあらゆる種類の感光体上の静電荷像を現像するのに適している。また、普通紙のみならず加工紙、加工フィルム等の転写記録媒体への現像に適している。現像されたトナー像は、広範な温度域における定着性を有している。定着された画像は、明瞭であり地かぶりを生じることなく、非オフセット性を有し、長時間劣化しない。
【0040】
この静電写真用トナーの荷電制御方法によれば、トナーに荷電制御剤を含有させなくてもよいから、キャリア粉末、現像スリーブ、金属ブレードや磁性体ブレード等の荷電付与部材が、汚染されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
本発明の正帯電性荷電制御剤は、前記化学式(1)で表されるケイ素錯体化合物を、有効成分として1種又は2種以上含むものである。
【0043】
前記化学式(1)中、R,Rは、同一又は異なる基であり、水素原子;ヒドロキシ基;ヒドロキシアルキル基;カルボキシル基;アルコキシカルボニル基;ホルミル基;Cl、Br、I、Fで例示されるハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert‐ブチル基、tert-オクチル基で例示される炭素数1〜18のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基で例示される炭素数1〜18のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基で例示されるアシル基;ビニル基、アリル基(−CHCH=CH)、−C(CH)=CHで例示されるアルケニル基;ニトロ基;シアノ基;アミノ基;置換基を有しても有しなくてもよく、シクロプロペニル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基のような炭素数3〜7のシクロアルキル基で例示されるアリサイクリック基;置換基を有しても有しなくてもよく、ベンジル基、α,α'‐ジメチルベンジル基で例示されるアラルキル基;Cl、Br、I、Fのようなハロゲン原子や炭素数1〜18のアルキル基で例示される置換基を有しても有しなくてもよく、フェニル基、トルイル基、ナフチル基で例示されるアリール基が挙げられる。同じくRは窒素原子、又は置換基を有しても有しなくてもよい炭素原子が挙げられる。同じく[A]は硫酸エステル系アニオン性有機化合物から得られた硫酸エステル系アニオンが挙げられる。
【0044】
ケイ素錯体化合物は、正帯電性荷電制御剤やトナーに用いるのに必要な適度な融点や、優れたトナー用樹脂への相溶性を調節するために前記化学式(2)で表されるものであると、一層好ましい。
【0045】
前記化学式(2)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert‐ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、tert-オクチル基で例示される炭素数1〜8のアルキル基;ビニル基、アリル基(−CHCH=CH)、−C(CH)=CHで例示される炭素数2〜8のアルケニル基;又はメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基で例示される炭素数1〜8のアルコキシ基である。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert‐ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、tert-オクチル基で例示される炭素数1〜8のアルキル基若しくはビニル基、アリル基(−CHCH=CH)、−C(CH)=CHで例示される炭素数2〜8のアルケニル基、又は無置換であってもよく、炭素数1〜8であるアルキル基、アルケニル基若しくはアルコキシ基が置換していてもよいフェニル基、トルイル基、ナフチル基で例示されるアリール基が挙げられる。[A]は前記に同じである。
【0046】
化学式(2)中、Rは、炭素数1〜8の前記アルキル基であると一層好ましく、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-オクチル基であるとなお一層好ましい。Rは、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、tert-オクチル基、又は無置換若しくは炭素数1〜8であるアルキル基、若しくはアルコキシ基が置換した前記アリール基であると一層好ましい。
【0047】
前記化学式(1)又は(2)の[A]を形成するのに用いられる硫酸エステル系アニオン性有機化合物として、アルキル硫酸エステル若しくはその塩、第二高級アルコール硫酸エステル若しくはその塩、オレフィン硫酸エステル若しくはその塩、脂肪酸エチレングリコリド硫酸エステル若しくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル若しくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル若しくはその塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル若しくはその塩、脂肪酸多価アルコール硫酸エステル若しくはその塩、硫酸化油、脂肪酸アルキル硫酸エステル若しくはその塩、脂肪酸アミド硫酸エステル若しくはその塩、脂肪酸アニリド硫酸エステル若しくはその塩、又は脂肪酸モノアルカノールアミド硫酸エステル若しくはその塩等が好ましい。
【0048】
中でも特に好ましいものは、アルキル硫酸エステル若しくはその塩;繰返し単位の繰返し数が2〜12であって、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル若しくはその塩、又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル若しくはその塩である。
【0049】
上記アルキル硫酸エステルやその塩は、例えば下記化学式(a)
−O−SO−M ・・・(a)
(化学式(a)中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数12のドデシル基である。MはH、NaやK等のアルカリ金属、Ca等のアルカリ土類金属、NH、又はアルカノールアミン若しくはアルカノールアンモニウムを示す。)で表されるものである。
【0050】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルやその塩は、例えば下記化学式(b)
−O−(CHCHO)n1−SO−M ・・・(b)
(化学式(b)中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数12のドデシル基である。n1は2以上の数を示す。MはH、NaやK等のアルカリ金属、Ca等のアルカリ土類金属、NH、又はアルカノールアミン若しくはアルカノールアンモニウムを示す。)で表されるものである。
【0051】
上記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルやその塩は、例えば下記化学式(c)
【0052】
【化6】

【0053】
(化学式(c)中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数12のドデシル基である。n2は2以上の数を示す。MはH、NaやK等のアルカリ金属、Ca等のアルカリ土類金属、NH、又はアルカノールアミン若しくはアルカノールアンモニウムを示す。)で表されるものである。
【0054】
この正帯電性荷電制御剤は、ケイ素錯体カチオンと硫酸エステル系アニオンとの塩を形成させて、前記化学式(1)のケイ素錯体化合物を得て、それを有効成分として含有させることにより、調製したものである。具体的には以下の工程を経て調製される。
【0055】
先ず第1工程において、四塩化ケイ素で例示されるハロゲン化ケイ素やテトラエトキシシランのようなケイ素化剤に、ヒドロキシル基とカルボニル基を有する下記化学式(6)
【0056】
【化7】

【0057】
(化学式(6)中、R,R,Rは、前記化学式(1)に同じである。)で表される化合物を、反応させると、ケイ素化剤に由来するケイ素が中心原子となりそれに、ヒドロキシル基由来の酸素が共有結合し、かつカルボニル基が配位結合し、下記化学式(7)
【0058】
【化8】

【0059】
(化学式(7)中、R,R,Rは、前記化学式(1)に同じである。[E]はアニオンを示す。)で表されるケイ素錯体中間体が得られる。この[E]は、一般にケイ素化剤に由来するアニオンである。
【0060】
高収率、高純度でケイ素錯体中間体を得るには、ケイ素化剤として、四塩化ケイ素で例示されるハロゲン化ケイ素を用いることが好ましい。例えば、化学式(6)で表される化合物と、四塩化ケイ素とを反応させた場合、[E]は、下記化学反応式(8)で示すように、ハロゲンアニオン[X]となる。
【0061】
引き続く第2工程において、このケイ素錯体中間体に、硫酸エステル系アニオン性化合物D−O−SO−Mを反応させ、下記化学反応式(8)で示すように、[E]例えば前記[X]から、[A]である硫酸エステル系アニオン[D−O−SO]にイオン変換させると、前記化学式(1)で表されたケイ素錯体化合物が得られる。
【0062】
【化9】

【0063】
(化学反応式(8)中、R,R,R,[A]は化学式(1)に同じである。[X]はハロゲンアニオン、D−O−SO−Mは、硫酸エステル系アニオン性有機化合物を示す。)
【0064】
本発明の重要な特徴は、ケイ素錯体化合物中の対イオンが、硫酸エステル系アニオンである点である。本発明のケイ素錯体化合物を含む正帯電性荷電制御剤は、本発明を適用外である対イオンが硫酸エステル系アニオン以外の各種アニオン、例えばスルホン酸系アニオンとなっている荷電制御剤よりも、帯電特性、特に環境安定性が向上するという優位な効果を有する。
【0065】
また、前記のイオン交換反応の際に、残存ハロゲン含有量が0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下にすることが、正帯電性荷電制御剤の帯電特性を向上させるのに重要な因子となる。このような残存ハロゲン含有量が少ないという好ましい実施様態により、更に帯電安定性、保存安定性、耐環境性が一層向上する。
【0066】
本発明の一層好ましい実施様態として、下記化学反応式(9)
【0067】
【化10】

【0068】
で示されるように、対イオンがハロゲンアニオン[X]であるジケトンケイ素錯体中間体を、対イオンが硫酸エステル系アニオン[A]であるジケトンケイ素錯体化合物へ、イオン変換する例を示すことができる。
【0069】
本発明の荷電制御剤は、電導度が最大300μSであると好ましく、最大200μSであるとなお好ましい。荷電制御剤は、電導度が低いほど帯電特性が向上する。
【0070】
電導度は、該化合物2gを純水100mlに加え、5分間煮沸した後、蒸発分の水分を追加し、室温まで冷却後、ろ液を電気伝導させる方法により測定された電気伝導度である。
【0071】
以下に、正帯電性荷電制御剤に使用されるケイ素錯体化合物の具体例として、正荷電制御性を有するβ-ジケトンケイ素化合物を示す。但し、勿論本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0072】
【化11】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0073】
【化12】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、n3は2以上の数、RはC1225を主成分とする基を示す。)
【0074】
【化13】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、n4は2以上の数、R10はC19を主成分とする基を示す。)
【0075】
【化14】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、i−Cはイソプロピル基、n5は2以上の数、R11はC1225を主成分とする基を示す。)
【0076】
【化15】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、i−Cはイソプロピル基を示す。)
【0077】
【化16】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、i−Cはイソプロピル基、n6は2以上の数、R12はC19を主成分とする基を示す。)
【0078】
【化17】

(i−Cはイソ−プロピル基、t−Cはターシャリ−ブチル基、n7は2以上の数、R13はC19を主成分とする基を示す。)
【0079】
【化18】

(i−Cはイソプロピル基、t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0080】
【化19】

(t−C17はターシャリ−オクチル基、t−Cはターシャリ−ブチル基、n8は2以上の数、R14はC1225を主成分とする基を示す。)
【0081】
【化20】

(t−C17はターシャリ−オクチル基、t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0082】
【化21】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0083】
【化22】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0084】
【化23】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0085】
【化24】

(i−Cはイソプロピル基を示す。)
【0086】
【化25】

(t−C17はターシャリ−オクチル基、n9は2以上の数、R15はC1225を主成分とする基を示す。)
【0087】
【化26】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0088】
【化27】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0089】
【化28】

(i−Cはイソプロピル基を示す。)
【0090】
【化29】

(t−C17はターシャリ−オクチル基を示す。)
【0091】
【化30】

(t−Cはターシャリ−ブチル基、t−C17はターシャリ−オクチル基を示す。)
【0092】
【化31】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示し、i−Cはイソブチル基を示し、n10は2以上の数を示し、R16はC19を主成分とする基を示す。)
【0093】
【化32】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示し、i−Cはイソブチル基を示す。)
【0094】
【化33】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0095】
【化34】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0096】
正帯電性荷電制御剤は、これらのケイ素錯体化合物の内、単一の化合物を含んでいてもよく、異なる構造のカチオンやアニオンを有する化合物を複数含んでいてもよい。さらに、従来用いられていた荷電制御剤を共存させてもよい。
【0097】
本発明の静電荷像現像用正帯電性トナーは、前記の正帯電性荷電制御剤を含むものである。この荷電制御剤0.1〜10重量部と、トナー用樹脂100重量部とを含んでいることが好ましく、荷電制御剤が0.5〜5重量部であるとより好ましい。さらに着色剤を含んでいてもよい。
【0098】
静電荷像現像用正帯電性トナーは、トナー用樹脂に、荷電制御剤と、着色剤とが、練り込まれ内添されたものであってもよい。又はトナー用樹脂と着色剤とを含む母粒子の表面に、荷電制御剤を含む子粒子を付着させたものであってもよい。母粒子が荷電制御剤を含んでいてもよく、子粒子がトナー用樹脂を含んでいてもよい。
【0099】
静電荷像現像用正帯電性トナーは、この荷電制御剤、トナー用樹脂、着色剤、及び、トナーの品質を向上させるために必要に応じて適宜使用される磁性材料や流動性改質剤やオフセット防止剤を含むものであってもよい。
【0100】
トナー用樹脂は、市販の結着樹脂、例えばスチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ビニルメチルエーテル樹脂、スチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂のような熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂を単独で用いてもよく、複数種ブレンドして用いてもよい。
【0101】
このトナー用樹脂を、減法混色によるフルカラー用トナー、又はオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)用トナーに混合して用いるためには、トナー用樹脂が、透明性を有すること、トナー像に色調障害を生じない程度のほぼ無色であること、荷電制御剤との相溶性が良好であること、適当な熱又は圧力下で流動性を有すること、微粒化が可能であることが要求される。そのようなトナー用樹脂として、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0102】
また、本発明の荷電制御剤を静電粉体塗料に含有させて、塗料中の樹脂粉体の電荷を制御したり増強したりする場合、塗料中の樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂のような熱可塑性樹脂;フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂のような熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂を、単独で用いてもよく、複数種ブレンドして用いてもよい。
【0103】
カラー用トナーの着色剤あるいは静電粉体塗料用の着色剤として、染料、顔料を、単独で用いてもよく、複数種配合して用いてもよい。
【0104】
カラー用トナーのための着色剤として、例えばキノフタロンイエロー、ハンザイエロー、イソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、ペリノンオレンジ、ペリノンレッド、ペリレンマルーン、ローダミン6Gレーキ、キナクリドンレッド、ローズベンガル、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、ジケトピロロピロール系顔料のような有機顔料;カーボンブラック、チタンホワイト、チタンイエロー、群青、コバルトブルー、べんがら、アルミニウム粉、ブロンズのような、無機顔料や金属粉;アゾ系染料、キノフタロン系染料、アントラキノン系染料、キサンテン系染料、トリフェニルメタン系染料、フタロシアニン系染料、インドフェノール系染料、インドアニリン系染料のような、油溶性染料や分散染料;ロジン、ロジン変性フェノール、ロジン変性マレイン酸のような樹脂により変性されたトリアリールメタン系染料;高級脂肪酸や樹脂などで加工された、染料や顔料が挙げられる。カラー用トナーには、これら着色剤を、単独で配合していてもよく、複数種配合していてもよい。フルカラー用の三原色トナーの調整に好適に使用できるのは、分光特性が良好な染料や顔料である。
【0105】
また、有彩色のモノカラー用トナーのための着色剤として、同色系の顔料と染料、例えばローダミン系の顔料と染料、キノフタロン系の顔料と染料、フタロシアニン系の顔料と染料を適宜配合して用いることができる。
【0106】
磁性材料として、例えば鉄、コバルト、フェライトで例示される強磁性材料製微粉体が挙げられる。流動性改質剤として例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタンが挙げられる。オフセット防止剤として例えば、ワックス、低分子量のオレフィンワックスが挙げられる。
【0107】
静電荷像現像用正帯電性トナーは、以下のようにして製造される。荷電制御剤、トナー用樹脂、着色剤、及び必要に応じ磁性材料や流動性改質剤やオフセット防止剤を、ボールミルのような混合機により十分混合した後、その混合物を加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーのような熱混練機を用いて溶融混練する。その混練物を冷却固化させた後、その固化物を粉砕及び分級することにより、粉砕法トナー粒子である平均粒径5〜20μmの一成分トナーが得られる。
【0108】
この他、各成分の溶液を噴霧乾燥してトナー粒子を得る方法や、懸濁重合法、乳化重合法なども採用できる。懸濁重合法は、トナー用樹脂の単量体、荷電制御剤、着色剤、及び必要に応じ磁性材料や流動性改質剤やオフセット防止剤と重合開始剤や架橋剤や離型剤のような添加剤とを均一に溶解又は分散させて、単量体組成物とした後、この単量体組成物を、分散安定剤を含有する連続層中、例えば水相中に、適当な分散機を用いて分散させながら重合反応を行わせることにより、所望の粒径を有するトナーの粒子が得られる。
【0109】
このような重合性単量体として、例えばスチレン、メチルスチレンのようなスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチルのような(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドのようなビニル系単量体が挙げられる。
【0110】
分散安定剤として、界面活性剤例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム;有機分散剤例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース;無機分散剤例えば、リン酸カルシウムやリン酸マグネシウムやリン酸アルミニウムのようなリン酸多価金属塩微粉体、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムのような炭酸塩微粉体、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0111】
重合開始剤として例えば、2,2’−アゾイソブチロニトリルやアゾビスブチロニトリルのようなアゾ系又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシドのような過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
【0112】
また、静電荷像現像用正帯電性トナーは、次のようにしても製造できる。荷電制御剤を含む前記の粉砕法トナー粒子又は重合法トナー粒子を母粒子とし、この母粒子の表面に、荷電制御剤の粒子のみからなる子粒子、又は荷電制御剤分散性の樹脂に10〜90重量%の荷電制御剤が分散した粒子からなる子粒子を、付着させることにより、トナーが得られる。
【0113】
子粒子を母粒子表面に付着させる方法として例えば、外添方法、又はハイブリダイゼーションシステムにより子粒子を母粒子に打ち込む方法が挙げられる。荷電制御剤分散性の樹脂として、例えばスチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−マレイン樹脂、スチレン−ビニルメチルエーテル樹脂、スチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、パラフィンワックス、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂を、単独で用いてもよく、複数種ブレンドして用いてもよい。
【0114】
荷電制御剤を含んだ粉砕法トナー粒子又は重合法トナー粒子を母粒子とする例について示したが、荷電制御剤を含まない粉砕法トナー粒子又は重合法トナー粒子を母粒子としてもよい。
【0115】
この静電荷像現像用正帯電性トナーを用いた2成分現像剤は、このトナーとキャリアとを混合し調製したもので、2成分磁気ブラシ現像法等により現像する際に使用される。このキャリアとして、例えば、粒径50〜200μm程度の鉄粉、ニッケル粉、マグネタイト粉、フェライト粉、ガラスビーズ、及びこれらの表面をアクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、又はフッ化エチレン系樹脂でコーティングしたものが挙げられる。
【0116】
この静電荷像現像用正帯電性トナーを用いた1成分現像剤は、このトナーの調製の際に、例えば鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉のような強磁性材料の微粉体を適量添加分散させたもので、接触現像法、ジャンピング現像法等により現像する際に使用される。
【0117】
本発明の荷電付与組成物は、前記化学式(1)で表されるケイ素錯体化合物を有効成分とする正帯電性荷電制御剤と、溶媒及び/又は分散剤とが含まれたものである。前記ケイ素錯体化合物は、ケイ素錯体化合物を単独で用いてもよいし、2種以上ものを併用してもよい。溶媒及び/又は分散剤100重量部に対して、ケイ素錯体化合物が0.5〜200重量部含まれていることが好適であり、更に2〜100重量部となるような割合で用いる事が好ましい。
【0118】
荷電付与組成物に含まれる溶媒又は分散剤は、例えば親水性溶剤や、疎水性有機溶剤である。親水性有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類;N,N−ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドのような非プロトン性極性溶剤が挙げられる。疎水性有機溶剤は、キシレン、トルエンのような芳香族系溶剤;ヘキサンのような炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いられてもよく、複数混合して用いられてもよい。
【0119】
分散剤は、分散用樹脂であってもよい。このような樹脂として、ポリメチルアクリレート樹脂、ポリメチルメタクリレートのようなポリ(メタ)アクリレート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂;イソプレンユニットやブタジエンユニットを有する合成ゴム;ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;ロジン樹脂;ポリカーボネート樹脂;フェノール樹脂;塩素化パラフィン;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂;シリコーン樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いられてもよく、複数混合して用いられてもよい。これらの樹脂と前記の溶媒との混合物であってもよい。
【0120】
本発明の荷電付与部材は、静電写真用トナーに接触して荷電を付与するキャリア粉末、現像スリーブ、及びブレードのいずれかであって、前記の荷電付与組成物で、コーティングされ、又は成形されたものである。具体的には、キャリア粉末に対し、0.1〜10重量%の量、一層好ましくは0.5〜2重量%の量の荷電制御剤が付される。また現像スリーブやブレードに対し、0.01〜10mg/cmの量、一層好ましくは0.1〜2mg/cmの量の荷電制御剤が付される。
【0121】
荷電付与部材は、荷電制御剤が溶剤に分散したり、樹脂のような分散剤に分散したりした荷電付与組成物に、キャリア粉末原体や現像スリーブやブレードを浸漬させた後、乾燥させたものであってもよく、またキャリア粉末原体等に荷電付与組成物を噴霧した後、乾燥させたものであってもよい。更にキャリア粉末原体等に荷電付与組成物を刷毛塗りなど塗布した後、乾燥させたものであってもよい。
【0122】
荷電付与部材は、荷電付与組成物を、基材上に押出しラミネート加工したり、成型加工したりした現像スリーブやブレードであってもよい。
【0123】
このようにして形成された荷電付与部材の表面から、ケイ素錯体化合物が露出している。
【0124】
キャリア粉末は、特に限定されないが、例えば、粒径50〜200μm程度の鉄粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、銅粉のような金属粉;合金からなる粉末;マグネタイト粉、フェライト粉のような金属酸化物の粉末;ガラスビーズ、ガラス粉末;セラミックス粉末;これらの表面をアクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、又はフッ化エチレン系樹脂でコーティングした粉末;樹脂粉末、磁性物質含有樹脂粉末が挙げられる。
【0125】
現像スリーブの材質は、鉄、アルミニウム、ニッケルのような金属;、ステンレスのような合金;セラミックス;プラスチックが挙げられる。
【0126】
この正帯電性荷電制御剤を含む荷電付与部材は、保存安定性、耐環境性、耐久性に優れている。そのため、キャリア粉末や現像スリーブやブレード等の荷電付与部材は、長期間交換する必要がない。
【0127】
本発明の静電写真用トナーの荷電制御方法は、荷電付与部材と、静電写真用トナーとを接触させて摩擦させることにより、該トナーを帯電させるというものである。
【0128】
なお、静電写真用トナーは、トナー用樹脂、着色剤、及び、トナーの品質を向上させるために必要に応じて適宜使用される磁性材料や流動性改質剤やオフセット防止剤を含むもので、荷電制御剤を含まないこと以外は、前記の静電荷像現像用正帯電性トナーと同様な成分を含んだものである。
【0129】
静電写真用トナーは、トナー用樹脂と、必要に応じて着色剤や、別な荷電制御剤を含んでいてもよい。
【0130】
静電写真用トナーは、鉄粉キャリアでトナーを搬送するという磁気ブラシ現像法や、ビーズキャリアでトナーを搬送するというカスケード現像法に用いられる二成分トナーであってもよい。二成分現像剤は、このトナーとキャリアとを混合し調製したものである。
【0131】
また、静電写真用トナーは、トナーを噴霧状態にするパウダークラウド現像法や、潜像電界によりトナーを飛行させるジャンピング現像法、接触現像法に用いられる一成分トナーであってもよい。一成分現像剤は、このトナーの調製の際に、例えば鉄粉、ニッケル粉、フェライト粉のような強磁性材料の微粉体を適量添加分散させたものである。
【0132】
荷電付与部材により電荷が付与されたトナーは、帯電安定性に優れているから、それを用いて現像された画像は、品質が優れている。
【実施例】
【0133】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0134】
以下の実施例1〜7は、本発明を適用する正帯電性荷電制御剤に使用するケイ素錯体化合物の合成例を示すものである。
【0135】
(実施例1)
(1)ケイ素錯体中間体の合成
β−ジケトン化合物として1−(4−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジメチルペンタン−1,3−ジオン 160.0g(0.614mol)を酢酸エチル800mlに溶解した。これに、四塩化ケイ素34.8g(0.204mol)を室温で滴下した。2時間加熱還流後、放冷し、析出した白色結晶を濾過した。酢酸エチル600mlで洗浄後、水洗2000mlし、80℃で24時間乾燥すると、下記化学式で表される化合物例aのケイ素錯体中間体の107.4g(0.128mol)が得られた。
【0136】
【化35】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0137】
化合物例aのケイ素錯体中間体についてM−8000形 LC/3DQMSシステム(株式会社 日立製作所の商品名)を用いて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を行ったデータを図1に示す。図1のとおり、実測値m/zが806.13であり、理論値841.6から塩素イオンが脱離した理論値806.2とほぼ一致している事より、所望の化合物例aであると同定された。
【0138】
(2)アニオン交換
化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を水とメタノールとの1:1混合溶媒1000mlに分散し、これに、アニオン性有機化合物としてアルキル硫酸エステルナトリウム塩57g(0.2モル)「第一工業製薬(株)社製:モノゲンY−500」を加えて室温で24時間撹拌混合した。得られた反応液を濾過し、濾液の電導度が低下するまで水洗した。80℃で乾燥して、前記化合物例1で示されたケイ素錯体化合物77gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0139】
これらと類似の合成処方により、本発明の種々のケイ素錯体化合物の合成及び正帯電性荷電制御剤の調製が可能である。
【0140】
化合物例1のケイ素錯体化合物について、M−8000形 LC/3DQMSシステム(株式会社 日立製作所の商品名)を用いて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を行ったデータを図2に示す。図2のとおり、実測値m/zが806.00であり、理論値1071.6からドデシル硫酸エステルイオンが脱離した理論値806.2とほぼ一致している。また、CHNS元素分析では、C:70.19%(理論値:70.61%)、H:8.80%(理論値:8.84%)、S:3.13%(理論値:2.99%)であり、理論値とほぼ一致している事より、所望の化合物例1であると同定された。
【0141】
化合物例1のケイ素錯体化合物の電導度を測定したところ、117μSであった。
【0142】
(実施例2)
実施例1の(1)と同様にして化合物例aのケイ素錯体中間体を得た。実施例1の(2)で用いたアルキル硫酸エステルナトリウム塩57g(0.2モル)「第一工業製薬(株)社製:モノゲンY−500」に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩279g(0.2モル)「第一工業製薬(株)社製:ハイテノール227L」を用い、それ以外は実施例1の(2)と同様に合成し、前記化合物例2で示されたケイ素錯体化合物86gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0143】
化合物例2のケイ素錯体化合物の電導度を測定したところ、132μSであった。
【0144】
(実施例3)
実施例1の(1)と同様にして化合物例aのケイ素錯体中間体を得た。実施例1の(2)で用いたアニオン性有機化合物をポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩487g(0.2モル)「第一工業製薬(株)社製:ハイテノールN−093」に代えたこと以外は実施例1の(2)と同様に合成し、前記化合物例3で示されたケイ素錯体化合物83gからなる荷電制御剤を得た。
【0145】
(実施例4)
実施例1の(1)のβ−ジケトン化合物を代えたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、下記化学式で表される化合物例bのケイ素錯体中間体を得た。
【0146】
【化36】

(t−Cはターシャリ−ブチル基を示す。)
【0147】
次いで実施例1の(2)のアニオン交換の際に、化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を化合物例bのケイ素錯体中間体の107g(0.1モル)に代えたこと以外は実施例1の(2)と同様にして合成し、前記化合物例12で示されたケイ素錯体化合物101gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0148】
(実施例5)
実施例1の(1)のβ−ジケトン化合物を代えたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、下記化学式で表される化合物例cのケイ素錯体中間体を得た。
【0149】
【化37】

(t−Cはターシャリーブチル基を示す。)
【0150】
次いで実施例1の(2)のアニオン交換の際に、化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を化合物例cのケイ素錯体中間体の90g(0.1モル)に代えたこと以外は実施例1の(2)と同様にして合成し、前記化合物例13で示されたケイ素錯体化合物84gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0151】
(実施例6)
実施例1の(1)のβ−ジケトン化合物を代えたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、下記化学式で表される化合物例dのケイ素錯体中間体を得た。
【0152】
【化38】

(t−Cはターシャリーブチル基を示す。)
【0153】
次いで実施例1の(2)のアニオン交換の際に、化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を化合物例dのケイ素錯体中間体の99g(0.1モル)に代えたこと以外は実施例1の(2)と同様にして合成し、前記化合物例16で示されたケイ素錯体化合物95gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0154】
(実施例7)
実施例1の(1)のβ−ジケトン化合物を代えたこと以外は実施例1の(1)と同様にして、下記化学式で表される化合物例eのケイ素錯体中間体を得た。
【0155】
【化39】

(t−Cはターシャリーブチル基を示す。)
【0156】
次いで実施例1の(2)のアニオン交換の際に、化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を化合物例eのケイ素錯体中間体の94g(0.1モル)に代えたこと以外は実施例1の(2)と同様にして合成し、前記化合物例17で示されたケイ素錯体化合物90gからなる正帯電性荷電制御剤を得た。
【0157】
次の実施例8〜19は、本発明を適用する静電荷像現像用正帯電性トナー及びそれを含む現像剤を調製した例である。
【0158】
(実施例8)
スチレン−アクリル共重合樹脂(CPR−600B:三井化学社製の商品名)の100重量部と、低分子量ポリプロピレン(ビスコール550−P:三洋化成工業社製の商品名)の3重量部と、マゼンタ色顔料(C.I. Pigment Red 57:1)の5重量部と、実施例1で調製した化合物例1からなる荷電制御剤の1重量部とを、高速ミキサーで均一にプレミキシングした。次いで、エクストルーダーで溶融混練し、冷却後振動ミルで粗粉砕した。得られた粗砕物を分級機付きのエアージェットミルを用いて微粉砕して、粒径10μmのマゼンタトナーを得た。
【0159】
得られたトナー5重量部に対して、鉄粉キャリア(TEFV200/300:パウダーテック社製の商品名)95重量部を混合して現像剤を調製した。
【0160】
現像剤をポリ瓶中で秤量し、回転数100rpmのボールミルにより攪拌して現像剤を帯電させ、標準条件(25℃、相対湿度50%)で初期帯電量(3分値)を測定した。更に攪拌時間(分)毎の摩擦帯電量を測定し、帯電の安定性を評価した。帯電の安定性については、安定性のあるものを○、ないものを×とする2段階で評価した。また、低温低湿(10℃、相対湿度30%)及び高温高湿(35℃、相対湿度90%)の各条件下で同様にして初期ブローオフ帯電量を測定し、帯電量環境安定性も同時に評価した。帯電量環境安定性については、安定性のあるものを○、ないものを×とする2段階で評価した。
【0161】
なお、帯電量の測定は、ブローオフ帯電量測定機TB−200(東芝ケミカル社製の商品名)により行った。
【0162】
この現像剤を用いて市販の複写機にてトナーの画像を形成した。得られたトナー画像について、カブリ、細線再現性、帯電安定性及び持続性、オフセット現象について目視で観察した。
【0163】
カブリについては、カブリがないものを○、あるものを×として、細線再現性については、細線再現性が良好ないものを○、悪いものを×として、帯電安定性及び持続性については、帯電安定性及び持続性が良いものを○、悪いものを×として、オフセット現象について、オフセット現象が観測されなかったものを○、観測されたものを×として、それぞれ2段階で評価した。
【0164】
それらの結果を表2に示す。
【0165】
(実施例9〜14)
実施例2〜7で調製した化合物例2、3、12、13、16又は17からなる荷電制御剤を、表1のように用いたこと以外は、実施例8と同様に行った。
【0166】
【表1】

【0167】
(実施例15)
スチレン−アクリル共重合樹脂(CPR−600B:三井化学社製の商品名)の100重量部と、イエロー色顔料(C.I.Pigment Yellow 180)の5重量部と、低分子量ポリプロピレン(ビスコール550−P:三洋化成工業社製の商品名)の3重量部と、実施例5で調製した化合物例13からなる荷電制御剤の1重量部とを、実施例8と同様に処理して平均粒径10μmのイエロートナー及び現像剤を調製し、実施例8と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0168】
(実施例16)
ポリエステル樹脂(ER−561:三菱レイヨン社製の商品名)の100重量部と、低重合ポリプロピレン(ビスコール550−P:三洋化成工業社製の商品名)の3重量部と、カーボンブラック(#44:三菱化学社製の商品名)の6重量部と、実施例6で調製した化合物例16からなる荷電制御剤の1重量部とを、実施例8と同様に処理して平均粒径10μmの黒色トナー及び現像剤を調製し、実施例8と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0169】
(実施例17)
スチレンモノマーの80重量部と、n−ブチルアクリレートモノマーの20重量部と、イエロー色顔料(C.I.Pigment Yellow 180)の5重量部と、2,2’−アゾイソブチロニトリルの1.8重量部と、実施例7で調製した化合物例17からなる荷電制御剤の1重量部とを、高速ミキサーで均一にプレミキシングして重合性単量体組成物を得た。
【0170】
一方、濃度0.1モル%の第三リン酸ナトリウム水溶液100mlを蒸留水600mlにより希釈し、この液を撹拌しながらこれに濃度1.0モル/Lの塩化カルシウム水溶液18.7mlを徐々に加え、次いで濃度20%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.15gを加えて分散液を調整した。
【0171】
この分散液を前記重合性単量体組成物に加えて、TK式ホモミキサー(特殊機化工社製)により高速撹拌しながら温度65℃に昇温せしめ、昇温後30分間撹拌した後、更に、80℃まで昇温させ、通常の撹拌機による回転数100rpmの撹拌に切り換え、温度80℃のまま6時間重合させた。
【0172】
重合終了後、反応混合物を冷却して固形物を濾別し、その濾取物を濃度5重量%の塩酸水溶液中に浸漬して分散剤として利用したリン酸カルシウムを分解した後、その固形物を洗浄液が中性となるまで水洗し、脱水、乾燥させることにより平均粒径10μmのイエロートナーを得た。
【0173】
得られたトナー5重量部に対して、鉄粉キャリア(TEFV200/300:パウダーテック社製の商品名)95重量部を混合して現像剤を調整し、実施例8と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0174】
(実施例18)
スチレンモノマーの80重量部と、n−ブチルアクリレートモノマーの20重量部と、カーボンブラック(MA−100:三菱化学社製の商品名)の5重量部と、2,2’−アゾイソブチロニトリルの1.8重量部と、実施例1で調製した化合物例1からなる荷電制御剤の1重量部とを、実施例17と同様に処理して平均粒径13μmの黒色重合トナー及び現像剤を調製し、実施例8と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0175】
(実施例19)
スチレン−アクリル共重合樹脂(CPR−600B:三井化学社製の商品名)の100重量部と、低分子量ポリプロピレン(ビスコール550−P:三洋化成工業社製の商品名)の3重量部と、マゼンタ色顔料(C.I. Pigment Red 57:1)の5重量部とを高速ミキサーで均一にプレミキシングした。次いで、エクストルーダーで溶融混練し、冷却後振動ミルで粗粉砕した。得られた粗砕物を分級機付きのエアージェットミルを用いて微粉砕して、粒径10μmのマゼンタトナーの母粒子を得た。
【0176】
得られた母粒子108重量部に対して、実施例1で調製した化合物例1からなる1重量部の荷電制御剤とする子粒子を外添し、静電荷像現像用正帯電性トナーを得た。
【0177】
このトナー5重量部に対して、鉄粉キャリア(TEFV200/300:パウダーテック社製の商品名)95重量部を混合して現像剤を調整し、実施例8と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0178】
(比較例1)
実施例8で用いた化合物例1のケイ素錯体化合物を、下記化合物例fに代えたこと以外は、実施例8と同様にして、トナーを得、さらに同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0179】
【化40】

【0180】
(比較例2)
実施例8の化合物例1のケイ素錯体化合物を、化合物例aのケイ素錯体中間体に代えたこと以外は実施例8と同様に静電荷像現像用正帯電性トナーを得て、同様に評価した。
【0181】
(比較例3)
化合物例1を合成する際のアニオン交換反応の条件を次のように変えたこと以外は実施例1の(2)と同様にして、アニオン交換反応が不完全な化合物を調製した。
【0182】
先ず、化合物例aのケイ素錯体中間体の84g(0.1モル)を水1000mlに分散し、これに、アルキル硫酸エステルナトリウム塩34g(0.12モル)「第一工業製薬(株)社製:モノゲンY−500」を加えて室温で24時間撹拌混合した。濾過、水洗後、80℃で乾燥し、化合物例21で示されるケイ素錯体化合物を主に含む80gの荷電制御剤を得た。この荷電制御剤は、残留塩素量が0.31%であった。
【0183】
実施例8の化合物例1を、アニオン交換反応が不完全なケイ素錯体化合物を含む荷電制御剤に代えたこと以外は、実施例8と同様にしてトナーを得、同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0184】
【表2】

【0185】
表2から明らかな通り、実施例の現像剤は、帯電安定性や持続性が優れ、さらに環境安定性が優れていた。また、それを用いて形成したトナー画像は、カブリがなく、再線再現性、帯電安定性及び持続性に優れ、オフセット現象が認められなかった。一方、比較例の現像剤は、環境安定性が悪く、夏場のような高温多湿条件下や、温湿度が変動する条件下での使用に向かないものであった。
【0186】
上記で得られたケイ素錯体化合物を荷電制御剤として含む荷電付与組成物の調製、この荷電付与組成物を用いた荷電付与部材の作製、及びそれを用いた静電写真用トナーの荷電制御方法の例について、以下の実施例に示す。
【0187】
(実施例20)
キシレン1000mlにポリメチルメタアクリレート樹脂100gを溶解し、これに、化合物例1 50gを混合して、荷電付与組成物1を得た。
得られた荷電付与組成物1を用い、フェライトキャリア(F−150:パウダーテック社製)1000gに流動床型コーティング装置でコートして、荷電付与部材1(キャリア)を得た。
【0188】
実施例8と同様にして得られたトナー5部に対して、前記荷電付与部材1(キャリア)の95重量部を混合して現像剤を調製した。得られた現像剤を実施例8と同様に評価し、それらの結果を表3に示す。
【0189】
(実施例21)
トルエン1000mlにスチレン−メチルメタアクリレート共重合樹脂100gを溶解し、これに、化合物例16の50gを混合して、荷電付与組成物2を得た。
得られた荷電付与組成物2を用い、フェライトキャリア(F−150:パウダーテック社製)1000gに流動床型コーティング装置でコートして、荷電付与部材2(キャリア)を得た。
【0190】
実施例8と同様にして得られたトナー5部に対して、前記荷電付与部材2(キャリア) 95重量部を混合して現像剤を調製した。得られた現像剤を実施例8と同様に評価し、それらの結果を表3に示す。
【0191】
【表3】

【0192】
表3から明らかな通り、実施例20、21の現像剤は、帯電安定性や持続性が優れ、さらに環境安定性が優れていた。また、それを用いて形成したトナー画像は、カブリがなく、再線再現性、帯電安定性及び持続性に優れ、オフセット現象が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明のケイ素錯体化合物を含む荷電制御剤は、静電荷像現像用トナーや粉体塗料に良好な正帯電性を発現させるものである。この荷電制御剤は、モノクロのトナーのみならず、幅広く種々の有彩色のトナーに添加して使用される。
【0194】
この荷電制御剤を含む本発明の静電荷像現像用トナーは、この静電荷像現像用トナーは、無機、有機を問わずあらゆる種類の感光体上の静電荷像現像に適し、さらに転写記録媒体としては普通紙のみならず加工紙、加工フィルムなどにも適している。
【0195】
本発明の荷電付与組成物は、複写機やプリンターやファクシミリなどの電子写真による複写や印刷の際に使用されるキャリア粉末や現像スリーブやブレード等の電荷付与部材の原材料として、用いられる。この荷電付与組成物で形成された電荷付与部材を用いた静電写真用トナーの荷電制御方法は、静電写真用トナーに負の電荷を付与して優れた帯電特性や帯電安定性を発現して、紙やフィルム等の転写記録媒体上にトナーを定着させて明瞭でカブリのない画像を得るのに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明を適用する正帯電性荷電制御剤に含まれるケイ素錯体化合物の中間体の液体クロマトグラフィー質量分析の結果を示す図である。
【0197】
【図2】本発明を適用する正帯電性荷電制御剤に含まれるケイ素錯体化合物の液体クロマトグラフィー質量分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】

(化学式(1)中、R,Rは水素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、置換基を有していてもよいアリサイクリック基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基から選ばれる同一又は異なる基;Rは窒素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子;[A]は硫酸エステル系アニオンを示す。)
で表されるケイ素錯体化合物を含んでいることを特徴とする正帯電性荷電制御剤。
【請求項2】
前記ケイ素錯体化合物が、下記化学式(2)
【化2】

(化学式(2)中、Rは炭素数1〜8であってアルキル基、アルケニル基、又はアルコキシ基;Rは炭素数1〜8であってアルキル基、アルケニル基、又は無置換若しくは炭素数1〜8であるアルキル基、若しくはアルケニル基、若しくはアルコキシ基が置換したアリール基;[A]は前記に同じである。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項3】
前記化学式(2)中、Rは炭素数1〜8の前記アルキル基;Rはイソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−オクチル基、又は無置換若しくは炭素数1〜8であるアルキル基、若しくはアルコキシ基が置換したアリール基であることを特徴とする請求項2に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項4】
前記化学式(2)のケイ素錯体化合物が、下記化学式(3)
【化3】

(式(3)中、R、及びRは前記に同じ、Xはハロゲン元素を示す。)で表されるβ−ジケトンケイ素化合物と、硫酸エステル系アニオン性有機化合物とを反応させて得られた化合物であることを特徴とする請求項2に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項5】
前記化学式(3)の前記β−ジケトンケイ素化合物由来の残存ハロゲン含有量が、最大でも0.2%であることを特徴とする請求項4に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項6】
前記硫酸エステル系アニオン性有機化合物が、アルキル硫酸エステル若しくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル若しくはその塩、又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル若しくはその塩であることを特徴とする請求項4に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項7】
前記アルキル硫酸エステル、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、及び前記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルが、炭素数8〜18で直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していることを特徴とする請求項6に記載の正帯電性荷電制御剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の正帯電性荷電制御剤が含まれていることを特徴とする静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項9】
前記正帯電性荷電制御剤0.1〜10重量部と、トナー用樹脂100重量部とを含むことを特徴とする請求項8に記載の静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項10】
請求項8に記載のトナーを摩擦により、正に帯電させることを特徴とする静電荷像現像用正帯電性トナーの荷電制御方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の正帯電性荷電制御剤と、溶媒及び/又は分散剤とが、含まれていることを特徴とする荷電付与組成物。
【請求項12】
静電写真用トナーに接触して荷電を付与するキャリア粉末、現像スリーブ、及びブレードのいずれかが、請求項11に記載の荷電付与組成物で、コーティングされ、又は成形されており、前記ケイ素錯体化合物を露出させていることを特徴とする荷電付与部材。
【請求項13】
請求項12に記載の荷電付与部材と、静電写真用トナーとを接触させて摩擦させることにより、該トナーを帯電させることを特徴とする静電写真用トナーの荷電制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−41564(P2007−41564A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174904(P2006−174904)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】