説明

正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法

【課題】単斜晶を含まない正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】(a)カルボン酸と金属(M)化合物とを水中で反応させてカルボン酸金属(M)塩を合成し、(b)このカルボン酸金属塩を含む水溶液とジルコニウム化合物を反応させ、カルボン酸−ジルコニウム複合体を合成し、次いで、(c)上記カルボン酸−ジルコニウム複合体を水熱反応に供して酸化ジルコニウムナノ粒子を製造するにあたり、工程(b)の反応後の上澄み液のpHが6〜8であることを特徴とする酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法、この方法で得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物のナノ粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線や近赤外吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するものとして非常に注目されている。例えば酸化ジルコニウムナノ粒子は高い屈折率を示すことから、酸化ジルコニウムナノ粒子を熱可塑性樹脂に分散させることにより屈折率を向上させる技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
金属酸化物微粒子の製造方法としては、Breaking−downプロセスとBuilding−upプロセスが知られている。Breaking−downプロセスとしては機械的粉砕法が一般的に使用されるが、粒子径が1μm以下の微粒子を効率良く製造するのは困難であり、また、粉砕の際に不純物が混入する可能性が高い。それに対してBuilding−upプロセスは気相中や液相中の化学反応により粒子を調製する方法であり、反応条件の制御や原料物質の選定などにより微粒子を調製することができる。
【0004】
Building−upプロセスのうち気相法には特殊な装置や反応条件が必要でありコストや安全性などの面で問題が多く製造方法としては有利なものではない。
【0005】
液相法としては、共沈法、アルコキシド法、水熱合成法などが挙げられるが、共沈法には生成した金属酸化物ナノ粒子が加熱工程において成長してしまうという問題がある。アルコキシド法は、金属アルコキシドを加水分解することにより金属酸化物粒子を得る方法であるが(特許文献2)、この方法は一部の金属酸化物にしか適用できず原料が高価である上に、得られる金属酸化物の結晶性が十分でない。
【0006】
水熱合成法は金属酸化物前駆体を高温高圧下で反応させるものであり、例えば、非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、有機溶剤中に溶解した第3級カルボン酸とMgO粉末とを反応させてカルボン酸マグネシウム塩溶液を調製し、この溶液とオキシ塩化ジルコニル(ZrOCl)水溶液とを反応させてZr(IV)−第3級カルボン酸溶液を調製した後、このZr(IV)−第3級カルボン酸溶液に水を加え、Zr(IV)−第3級カルボン酸+有機溶剤+水からなる反応系について、温度220℃、圧力2.2MPaで水熱反応を行い、酸化ジルコニウムナノ粒子を得る方法が記載されている。しかしながら、この方法で製造された酸化ジルコニウムナノ粒子はX線回折分析より正方晶と単斜晶が混在していたと記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−73563号公報
【特許文献2】特開平6−287005号公報
【非特許文献1】小西康裕ら,化学工学会第65年会 研究発表講演要旨集,N202(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
正方晶酸化ジルコニウムを簡便かつ安価に製造できる技術を提案することが望まれている。また酸化ジルコニウムの結晶は正方晶であり、製造により得られる正方晶はできるだけ他結晶系の酸化ジルコニウム結晶を含まないものが望まれる。特に光学材料に用いられるときは、酸化ジルコニウムの正方晶が屈折率2.4、同単斜晶が屈折率2.1であり、できるだけ正方晶の割合が高いものが好ましい。本発明の他の目的は、この方法によって得られる正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は下記の発明により達成される。
(1)(a)一般式(I)
R−COOH ・・・ (I)
(式中、Rは炭素数6〜21の炭化水素基を示す。)で表されるカルボン酸と金属(M)化合物とを水中で反応させてカルボン酸金属(M)塩を合成する工程(以下「工程(a)」)、
(b)上記カルボン酸金属塩(M)を含む水溶液とジルコニウム化合物を反応させ、カルボン酸−ジルコニウム複合体を合成する工程「工程(b)」、および
(c)上記カルボン酸−ジルコニウム複合体を水熱反応に供して酸化ジルコニウムナノ粒子を合成する工程「工程(c)」、
を少なくとも含む酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法において、工程(b)の反応後の上澄み液のpHが6〜8であることを特徴とする正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
(2)工程(b)の反応後、アルカリ金属水酸化物を添加して、上澄み液のpHを6〜8に調整する上記(1)の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
(3)金属(M)化合物がアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物である上記(1)または(2)の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
(4)Rが分枝上炭化水素基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
(5)水熱反応を1MPa未満の圧力で行う上記(1)〜(4)のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの製造方法によって製造された正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を製造することができる。本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子は屈折率の高い正方晶の結晶形を有するため、塗料組成物、樹脂組成物、膜および光学材料に添加すると、従来よりも少ない添加量で屈折率を向上させることができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかる第一の発明は正方晶酸化ジルコニウムであり、以下の工程(a)、工程(b)および工程(c)により製造することができる。
【0012】
(工程(a)について)
本発明の工程(a)では、(a)一般式(I)
R−COOH ・・・ (I)
(式中、Rは炭素数6〜21の炭化水素基を示す。)で表されるカルボン酸と金属(M)化合物とを水中で反応させてカルボン酸金属(M)塩を合成する工程である。
【0013】
炭化水素基の炭素数が6〜21である。前記一般式(I)で表されるカルボン酸としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの直鎖状カルボン酸;2−エチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、ネオデカン酸などの分岐状カルボン酸;ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの環状カルボン酸が挙げられる。これらのうち、ネオデカン酸や2−エチルヘキサン酸などの分岐状カルボン酸が好適に用いられる。これらカルボン酸は2種以上混合して使用してもよい。
【0014】
本発明の工程(a)では、前記一般式(I)で表されるカルボン酸は水に難溶または不溶であるので、工程(b)における、カルボン酸とジルコニウム化合物との反応によるカルボン酸−ジルコニウム複合体の調製のために、このカルボン酸を金属(M)化合物と反応させて可溶性、通常、水溶性のカルボン酸金属塩とする。
【0015】
上記金属(M)化合物としては、水溶性のカルボン酸金属塩を形成し得るものであればいずれでもよく、例えば、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられる。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどが挙げられる。なかでも、カルボン酸との反応性および生成する金属塩の水に対する溶解性の点から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0016】
カルボン酸と金属(M)化合物との反応条件は特に限定されないが、例えば、金属(M)化合物を溶解した水溶液にカルボン酸を加え、攪拌することでカルボン酸金属塩を調製できる。反応温度は特に限定されないが、室温〜100℃、好ましくは40〜80℃である。
【0017】
上記水溶液中の金属(M)化合物の濃度は特に限定されないが、水酸化ナトリウムを使用した場合には、通常2〜6N(規定)であることが好ましい。
【0018】
上記金属(M)化合物とカルボン酸との反応は、Mm+/R−COOH(モル比)が0.95/m以下(ここで、mは金属Mの価数を示す。)、好ましくは0.5/m〜0.9/mとなる割合で行うのがよい。0.95/mを超えると、工程(b)における、カルボン酸金属塩とジルコニウム化合物との反応において、加水分解物と思われる多量の白色沈殿が析出し、カルボン酸−ジルコニウム複合体を十分に合成できず、水熱処理を行っても凝集した酸化ジルコニウム粒子しか得られないことがある。
【0019】
(工程(b)について)
本発明の工程(b)では、工程(a)で得られたカルボン酸金属塩の水溶液とジルコニウム化合物とを反応させてカルボン酸−ジルコニウム複合体を調製するものである。
【0020】
上記ジルコニウム化合物としては、前記一般式(I)で表されるカルボン酸とともにカルボン酸−ジルコニウム複合体を形成することが可能であり、かつ水熱反応によりカルボン酸−ジルコニウム複合体から酸化ジルコニウムナノ粒子となりうるものであれば特に制限されない。例えば、水酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニル、オキシ酢酸ジルコニル、オキシ硝酸ジルコニル、硫化ジルコニウム、ジルコニウムのカルボン酸塩、アミノ化合物、およびアルコキシド化合物などを用いることができる。なかでもオキシ塩化ジルコニル、オキシ酢酸ジルコニル、オキシ硝酸ジルコニルが好適に用いられる。
【0021】
本発明のカルボン酸−ジルコニウム複合体とは、カルボン酸金属塩の水溶液とジルコニウム化合物とを反応させて得られるものであればよいが、好ましくは上記ジルコニウムにカルボン酸が配位したオイル状化合物である。
【0022】
カルボン酸金属塩の水溶液とジルコニウム化合物とを反応は、ジルコニウムに対するカルボン酸の割合(モル比)が1.5〜3、好ましくは1.8〜2.7、より好ましくは2.0〜2.5で行うのがよい。1.5未満ではカルボン酸−ジルコニウム複合体が十分に生成しないことがある。3を超えてもカルボン酸−ジルコニウム複合体の生成に関して大きな効果がみられず、原料コストに対す効果がなく好ましくはないからである。
【0023】
カルボン酸金属塩の水溶液とジルコニウム化合物との反応条件は特に限定されないが、通常、カルボン酸金属塩の水溶液にジルコニウム化合物の水溶液を攪拌しながら滴下することで行われる。ジルコニウム化合物水溶液をカルボン酸金属塩の水溶液に滴下する際には、20分以上の時間をかけて滴下することが好ましい。20分未満の時間でジルコニウム化合物と滴下するとジルコニウムの加水分解物と思われる白色沈殿が多量に析出し、カルボン酸−ジルコニウム複合体を十分に合成できない場合がある。反応温度は特に限定されないが、40〜100℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜85℃である。
【0024】
カルボン酸金属塩の水溶液にジルコニウム化合物の水溶液を攪拌しながら滴下終了後、約30分後に白色オイル状のカルボン酸−ジルコニウム複合体が生成し、水相と2相に分離する。反応時間は特に限定されないが、通常、カルボン酸−ジルコニウム複合体生成後、さらに0.5〜2時間攪拌を行う。
【0025】
カルボン酸−ジルコニウム複合体を合成した後、上澄み液である水相のpHを6〜8に調整するものである。上記上澄み液とは、カルボン酸金属塩水溶液とジルコニウム化合物水溶液が反応し、カルボン酸−ジルコニウム複合体が生成し、水相と2相に分離後、0.5〜2時間さらに攪拌を行った後の水相のことである。
【0026】
上記上澄み液のpHは通常5以下であり、塩基性化合物を添加することにより該pHを6〜8に調整することができる。塩基性化合物としては水溶性であり、かつpHを高くできるものであればいずれでもよく、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニア水などが挙げられる。なかでも強塩基である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好適に使用される。塩基性化合物の添加方法は特に限定されないが、水溶液にして添加することが好ましい。上記上澄み液のpHを6〜8に調整後、通常、0.5〜1時間攪拌を行うことが好ましい。
【0027】
上記pHの測定は、上澄み液を少量採取し、室温まで冷やした後、pH試験紙やpH計で測定すればよい。上記pHが6未満で調製したカルボン酸−ジルコニウム複合体を水熱反応に供して酸化ジルコニウムナノ粒子を合成した場合、一部単斜晶が混在した酸化ジルコニウムナノ粒子が生成する。上記pHが8を超えるとカルボン酸−ジルコニウム複合体が一部加水分解されてしまい、水熱処理を行っても凝集した酸化ジルコニウム粒子しか得られない場合がある。
【0028】
(工程(c)について)
工程(c)では、カルボン酸−ジルコニウム複合体を水熱反応に供し酸化ジルコニウムを得る工程である。
【0029】
カルボン酸−ジルコニウム複合体を合成した後、上澄み液をデカンテーションにより除き、新たに水を加えて水熱反応に供する。添加する水の量は、(水のモル数)/(ジルコニウムのモル数)が4/1〜100/1、好ましくは8/1〜50/1となるようにするのがよい。4/1未満では、分散性に劣る酸化ジルコニウムナノ粒子が生成するおそれがある。一方、100/1を超えると、1回の反応における酸化ジルコニウムナノ粒子の生成量が少なくなる問題が生じうる。
【0030】
水熱反応に際しては、カルボン酸−ジルコニウム複合体、水の他にさらに有機溶媒を添加してもよい。カルボン酸−ジルコニウム複合体のみでは粘度が高くなる場合があり、水熱反応が効率よく進行しないおそれがあるが、適切な有機溶媒によりカルボン酸−ジルコニウム複合体を溶解することで水熱反応を効率的に進行させることができる。この有機溶媒としては、カルボン酸−ジルコニウム複合体に対して良好な溶解性を有するものであればよい。
【0031】
上記有機溶媒としては、例えば、炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アルコール類、アミン類、カルボン酸類などを一般的に用いることができる。また、水熱反応を考慮すれば、沸点が120℃以上のものが好適である。沸点が120℃未満の有機溶媒では、水熱反応時に蒸気圧が高くなるため反応圧を高くせざるを得ず、結果的に粒子の凝集や融着が生じやすくなるおそれがある。したがって、沸点が180℃以上の有機溶媒がより好ましく、沸点が210℃以上の有機溶媒がより好ましい。具体的にはデカン、ドデカン、テトラデカン、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ネオデカン酸などが挙げられる。
【0032】
カルボン酸−ジルコニウム複合体および有機溶媒の混合物におけるカルボン酸−ジルコニウム複合体の量は、通常、2〜95質量%であり、好ましくは5〜90質量%である。2質量%未満では1回の反応における酸化ジルコニウムナノ粒子の生成量が少なくなり、一方、95質量%を超えると有機溶媒の添加効果がなくなる場合がある。
【0033】
上記反応混合液は1MPaG未満で水熱反応させる。圧力が1MPaG以上では、粒子が凝集しやすくなったり、カルボン酸が分解して炭化物が生成したりすることがある。また、装置コストが高くなることがある。一方、常圧で反応させると結晶形成に高温を要し、熱による凝集および炭化物の生成が促進されるおそれがあるため、0.1MPaG以上、好ましくは0.2MPaG以上で行うのがよい。反応温度は、使用する溶媒などの沸点を考慮し、反応容器内の圧力が1MPaG未満となるように設定すればよい。水の飽和水蒸気圧を考慮すれば180℃以下の温度で反応させることが好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常は0.5〜20時間程度であり、2〜10時間程度とするのが好ましい。
【0034】
反応容器としては通常オートクレーブ装置を使用する。水熱処理前にオートクレーブ内を減圧処理および/または不活性ガスにより置換して系内の酸素を除去してから水熱処理を行うことが好ましい。水熱処理時に酸素が残存すると遊離したカルボン酸が一部分解するため、粒子に着色が生じること、分解物が酸化ジルコニウムナノ粒子に付着して除去できないこと、がある。不活性ガスとしてはカルボン酸に対して不活性なものであれば何でもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などを挙げることができる。中でも経済性から考えて窒素を使用することが好ましい。
【0035】
上記水熱反応の結果、上記カルボン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子が生成し、反応容器下部に沈殿する。この酸化ジルコニウムナノ粒子は通常濾別し、洗浄溶剤で洗浄することで余分なカルボン酸を除去することができる。洗浄溶剤としては、酸化ジルコニウムナノ粒子が分散せず、かつカルボン酸が溶解するものであれば特に制限はないが、アセトン、アルコール類を挙げることができる。中でもアセトン、メタノール、エタノールが好ましい。また、生成した酸化ジルコニウムナノ粒子にさらに表面処理を行う場合には、付着したカルボン酸を洗浄せずにそのまま表面処理を行ってもよい。
【0036】
本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子の粒子径は、ナノレベルといえるものであれば特に制限されないが、通常は20nm以下である。20nmを超えると、例えば分散液としたときに透明性が低くなり得るため好ましくない。より好ましくは1〜15nmであり、さらに好ましくは2〜10nmである。粒子径の測定方法としては、一般的な方法を用いることができる。例えば粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などで拡大観察し、無作為に100個の粒子を選択してその長軸方向の長さを測定し、その平均値を粒子径とする。
【0037】
本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子は、主として正方晶である。酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて光源をCuKαを用いて測定した場合、他の結晶系の主ピークと正方晶の主ピークとの強度比は0〜0.1、好ましくは0〜0.05であり、X線回折により他の結晶系の酸化ジルコニウムが検出されないものが好ましい。
【0038】
本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子はカルボン酸に被覆されており、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの非極性溶媒に対して優れた分散性を示すが、用途に応じて様々な溶媒、モノマー、ポリマーに対する分散性を向上させるためには他の被覆剤を作用させて酸化ジルコニウムナノ粒子表面を2種以上の被覆剤で被覆すればよい。
【0039】
酸化ジルコニウムナノ粒子の極性溶媒に対する分散性を高める被覆剤は、親水性の酸化ジルコニウムナノ粒子の表面に結合できるとともに、親水性基を有することから比較的極性の高い溶媒やモノマー等に対する粒子の分散性を改善することができる。例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、エポキシ基、およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を複数有する被覆剤を挙げることができる。もちろん、これら官能基に加えて他の官能基を有していてもよい。
【0040】
かかる被覆剤としては、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−t−ブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド;ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレート、アルミニウムステアレートオキサイドトリマー、イソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテートモノ(ジオクチルホスフェイト)などのアルミニウム系カップリング剤;チタニウム−n−ブトキシド、チタニウムテトラ−t−ブトキシド、チタニウムテトラ−sec−ブトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソブトキシド、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラ(メトキシプロポキシド)、チタニウムテトラ(メトキシフェノキシド)などのチタニウムアルコキシド;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスフェイト)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェイト)エチレンチタネートなどのチタン系カップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤;ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムテトラ(2−エチルヘキソキシド)、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ(2−メチル−2−ブトキシド)などのジルコニウムアルコキシド;ジルコニウムジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドペンタンジオネート、ジルコニウムジメタクリレートジブトキシドなどのジルコニウム化合物;12−ヒドロキシステアリン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸;2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸などのエーテルカルボン酸;カルボキシル化ポリブタジエン、カルボキシル化ポリイソプレンなどのカルボン酸系カップリング剤;マレイン酸変性ポリプロピレンなどのカルボン酸ポリマー;などを挙げることができる。好ましくはシランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、またはエーテルカルボン酸を用いる。
【0041】
酸化ジルコニウムナノ粒子のモノマーやポリマーに対する分散性を高める被覆剤は、酸化ジルコニウムに対する親和性を示す基とともに、モノマーに対する親和性を示す基を有することから、モノマーや当該モノマーからなるポリマーに対する粒子の分散性を改善することができる。例えば、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどビニル基を有する被覆剤で粒子を被覆すれば、同じくビニル基を有する(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマーに対する粒子の分散性を向上させることができる。また、フェニル基を有する被覆剤で粒子を被覆すれば、スチレンなどのモノマーや、スチレン樹脂やフェノール樹脂などのポリマー、フェニル基を有するモノマーやポリマーに対する分散性を向上させることができる。
【0042】
かかる被覆剤としては、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレートなどのアルミニウム系カップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤を挙げることができる。
【0043】
本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子に上記被覆剤を作用させる方法は特に限定されないが、例えば、酸化ジルコニウムナノ粒子の溶媒分散液に上記被覆剤を添加し加熱処理を行う。使用する溶媒は酸化ジルコニウムナノ粒子に適度な分散性を有するものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどを用いることができる。酸化ジルコニウムの濃度は適宜調整すればよいが、0.1〜50質量%程度にするのが好ましい。被覆剤の使用量は適宜調整すればよいが、通常は酸化ジルコニウムナノ粒子に対して1〜60質量%とする。加熱温度は適宜調整すればよいが、通常は30から180℃程度とし、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜130℃とする。反応時間も適宜調整すればよいが、通常は0.1〜10時間、好ましくは0.3〜3時間程度とする。
【0044】
被覆量は、酸化ジルコニウムに対して5〜45質量%、好ましくは10〜30質量%であるのがよい。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例および実施例における各物性に関する測定法を記載する。なお、本発明の趣旨を変更しないものであれば、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
(pHの測定)
工程(b)の上澄み液のpHはガラス電極式水素イオン濃度計(堀場製作所製、D−12)を用いて測定した。上澄み液を少量採取し、25℃でのpHを測定した。
(粉末X線回折)
酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造は、全自動多目的X線回折装置(スペクトリス社製、XPert Pro)を用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
【0046】
X線源: CuKα(0.154nm)
X線出力設定: 45kV、40mA
ステップサイズ: 0.017°
スキャンステップ時間: 5.08秒
測定範囲: 5〜90°
測定温度: 25℃
(平均粒子径)
酸化ジルコニウムナノ粒子を超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)で観察した。拡大観察された粒子を任意に100個選択し、各粒子の長軸方向の長さを測定してその平均値を平均粒子径とした。
【0047】
(実施例1)
純水(900g)に水酸化ナトリウム(200g、キシダ化学製、特級)を攪拌下添加し、溶解させた。次いでバーサティック10(992g、ネオデカン酸、ジャパンエポキシレジン製)を攪拌下添加し、40℃まで加熱してネオデカン酸ナトリウムを含む水溶液を調製した。次に当該溶液を80℃まで加熱し、攪拌下、ジルコゾールZC−20(1464g、オキシ塩化ジルコニルZrOCl水溶液、酸化ジルコニウムとして20.2wt%含有、第一稀元素化学工業製)を40分間かけて投入した。その後、1時間攪拌したところ、白色で粘調なオイル状のネオデカン酸−ジルコニウム複合体が生成した。上澄み液である水相を少量採取し、25℃でpHを測定したところ4.5であった。
【0048】
水酸化ナトリウム(14g)を純水(70g)に溶解させた水溶液を添加し、30分間攪拌したところ、上澄み液のpHは7.4となった。
【0049】
上澄み液をデカンテーションにより除去後、当該ネオデカン酸−ジルコニウム複合体を純水で十分に水洗した。
【0050】
得られたネオデカン酸−ジルコニウム複合体と純水(700g)を攪拌機付きオートクレーブ内に仕込み、反応容器中の雰囲気を窒素ガスにより置換した。その後、攪拌下178℃まで加熱し、5時間反応させることにより酸化ジルコニウムナノ粒子を合成した。昇温終了時の容器内圧力は0.9MPaであった。反応後の懸濁液を濾過し、濾過物をメタノールで洗浄し50℃で乾燥させた。
【0051】
上記酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、単斜晶由来のピークはほとんど見られず、正方晶の単一の結晶構造を有することが確認された。FE−SEMで分析を実施したところ平均粒子径が5nmの独立分散した粒子であった。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、ネオデカン酸−ジルコニウム複合体が生成後、水酸化ナトリウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で酸化ジルコニウムナノ粒子を製造した。ネオデカン酸−ジルコニウム複合体生成後の上澄み液のpHは4.6であった。
【0053】
酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、単斜晶由来のピークが見られ、正方晶と単斜晶が混在する結晶構造であることが確認された。単斜晶の主ピーク(2θ=28.0°)と正方晶の主ピーク(2θ=30.2°)との強度比は0.29であった。FE−SEMで分析を実施したところ平均粒子径が5nmの独立分散した粒子であった。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、ネオデカン酸−ジルコニウム複合体が生成後、添加する水酸化ナトリウム水溶液の量を、水酸化ナトリウム(30g)および純水(140g)とした以外は実施例1と同様の方法で酸化ジルコニウムナノ粒子を製造した。pH調整後の上澄み液のpHは9.5であった。
【0055】
酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造をX線回折装置にて確認したところ、単斜晶由来のピークはほとんど見られず、正方晶の単一の結晶構造を有することが確認されたが、酸化ジルコニウムナノ粒子の収率は著しく低く、FE−SEMで分析を実施したところ平均粒子径が6nmの凝集した粒子であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、単斜晶を含まない正方晶酸化ジルコニウムの製造方法に関するものである。屈折率の高い正方晶の結晶形を有するため、塗料組成物、樹脂組成物、膜および光学材料に添加すると、従来よりも少ない添加量で屈折率を向上させることができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例1および比較例1のX線回折チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(I)
R−COOH ・・・ (I)
(式中、Rは炭素数6〜21の炭化水素基を示す。)で表されるカルボン酸と金属(M)化合物とを水中で反応させてカルボン酸金属(M)塩を合成する工程、
(b)上記カルボン酸金属塩(M)を含む水溶液とジルコニウム化合物を反応させ、カルボン酸−ジルコニウム複合体を合成する工程、および
(c)上記カルボン酸−ジルコニウム複合体を水熱反応に供して酸化ジルコニウムナノ粒子を合成する工程、
を少なくとも含む酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法において、
上記工程(b)の反応後の上澄み液のpHが6〜8であることを特徴とする正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
当該工程(b)の反応後、アルカリ金属水酸化物を添加して、上澄み液のpHを6〜8に調整する請求項1に記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
当該金属(M)化合物がアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物である請求項1または2記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
当該Rが分枝上炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
当該水熱反応を1MPa未満の圧力で行う請求項1〜4のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法によって製造された正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子。

【図1】
image rotate