歩留まりを高めたバイオ電池
【解決手段】本発明は、溶媒を収容しており、溶媒に対して浸透性を有してヒドロキシルイオン及び/又はヒドロニウムイオンに対して不浸透性を有する壁(16)で隔離された第1及び第2のチャンバ(14A,14B) を備えており、第1の電極(18A) が第1のチャンバに設けられ、第2の電極(18B) が第2のチャンバに設けられている電池(10)に関する。第1の酸化還元対が、第1の電極との電子の交換を引き起こす第1の酸化還元反応に関する第1の酸化剤及び第1の還元剤を有する。第2の酸化還元対が、第2の電極との電子の交換を引き起こす第2の酸化還元反応に関する第2の酸化剤及び第2の還元剤を有する。壁が、第1及び第2の酸化還元対に対して不浸透性を有する。第1の酵素又は第1の微生物が第1又は第2のチャンバに与えられて、第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバの溶媒に塩基種又は酸種を収容する第2の物質を生成するために、第1の物質の変換を引き起こす第3の酸化還元反応を促進する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ燃料電池、即ち、生分解可能な基質で入手可能なエネルギーの一部を電気に変換するために酵素又は微生物(バクテリア、酵母)を用いるバイオ燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、バイオ燃料電池は、酵素と、グルコース、アセテートのような生分解可能な基質とを収容するチャンバ内に配置された電極を有するアノードから形成されている。酵素は、基質をCO2 、陽子及び電子に確実に変換させ、電子は、バイオ燃料電池のアノード電極に取り込まれる。電子のアノード電極への移動を改善するために、酸化還元中間媒体が用いられてもよい。バイオ燃料電池は更に、電子受容体が還元されるカソードを備えている。一例として、カソードは、空気が供給されるチャンバ内に配置された電極を備えており、酸素が還元されて水になる。酵素及び酸化還元中間媒体を伴う還元反応が、カソードで行われてもよい。バイオ燃料電池の電極が負荷に接続されており、イオンブリッジにより、イオンがアノードとカソードとの間で確実に移動する。
【0003】
ほとんどの研究グループによって現在提供されているバイオ燃料電池は、生分解可能な基質、及び基質の分解に関係する酵素の選択と、カソード及び/又はアノードでの酸化還元中間媒体の使用又は未使用とにより本質的に異なる。
【0004】
バイオ燃料電池の一例は、エル.ブルーネル(L.Brunel),ジェイ.デニール(J.Denele),ケー.セルバット(K.Servat),ケー.ビー.ココー(K.B.Kokoh),シー.ジョリヴァルト(C.Jolivalt),シー.イノセント(C.Innocent),エム.クレティン(M.Cretin),エム.ローランド(M.Rolland),エス.ティングリー(S.Tingry)共著,「膜が設けられていないグルコース/酸素バイオ燃料電池のためのラッカーゼバイオカソードを介した酸素の移動(Oxygen transport through laccase biocathodes for a membrane-less glucose/O2biofuel cell)」,電気化学通信(Electrochemistry Communications),第9版,2007年,p.331-336 に記載されている。バイオ燃料電池のこの例では、カソードで、酸素が、2,2’−アジノビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)、即ちABTSの中間媒体の存在下でラッカーゼ酵素によって還元されて水になる。アノードでは、グルコースが、8−ヒドロキシキノリン−5−スルホン酸水和物、即ちHQSの中間媒体の存在下でグルコース酸化酵素(GOD)によって酸化されてグルコノラクトンになる。
【0005】
一例として、グルコース酸化酵素の酸化体及び還元体を夫々GODox 及びGODredとし、酸化還元中間媒体の酸化体及び還元体を夫々Medox 及びMedredとすると、アノードでは、以下の反応が観察され得る。
Glucose + GODox → Gluconolactone+GODred (1)
GODred + Medox → GODox + Medred (2)
Medred → Medox + 2e- (3)
化学式3の反応は、アノード電極への電子の移動を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/106966号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在提供されているバイオ燃料電池の欠点は、酵素と反応して電子のアノード電極への移動を妨げる酸素により寄生反応がアノードで生じる可能性があるということである。前の例では、以下の反応が化学式2の反応と競合して、化学式3の反応が行われなくなる。
GODred + O2 → GODox + H2O2 (4)
【0008】
従って、酸素がアノードに達しないようにするための特別なデバイスが必要であり、複雑なシステムになる。
【0009】
現在提供されているバイオ燃料電池の別の欠点は、化学式2の反応が適切に行われるように酵素及び酸化還元中間媒体を表面に固定させる必要があるということである。従って、酵素の活動は表面に限定されることになり、そのために、効率が良いバイオ燃料電池を得ることが困難になる。
【0010】
本発明は、バイオ燃料電池の動作中に実行される反応が酸素の存在によって妨げられないバイオ燃料電池を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、人体で容易に実現され得る。
【0012】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、広範囲の酸化還元対を用いて得られる。
【0013】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、白金、ニッケル等の汚染物質を使用しない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明の一態様は、溶媒を収容して、溶媒に対して浸透性を有する壁によって隔離された第1及び第2のチャンバを備えた電池を提供する。第1の電極が、第1のチャンバ内に少なくとも部分的に配置されている。第2の電極が、第2のチャンバ内に少なくとも部分的に配置されている。第1の酸化還元対が、溶媒と接して第1のチャンバ内に配されており、第1の酸化還元反応に関係して第1の電極との電子の交換を引き起こす第1の酸化剤及び第1の還元剤を有している。第2の酸化還元対が、溶媒と接して第2のチャンバ内に配されており、第2の酸化還元反応に関係して第2の電極との電子の交換を引き起こす第2の酸化剤及び第2の還元剤を有している。前記壁は、第1及び第2の酸化還元対に対して不浸透性を有する。第1の酵素又は第1の微生物が、第1のチャンバ又は第2のチャンバ内に配されて、第1及び第2の酸化還元剤反応とは異なる第3の酸化還元剤反応を促進して、第1の物質を変化させて第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバの溶媒に第2の物質を与える。それにより、第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位間の電位差が生じるか、又は第1及び第2の酸化剤及び還元剤の濃度が維持される。
【0015】
一実施形態によれば、壁はヒドロニウムイオン及び/又はヒドロキシルイオンの通過を妨げるか又は少なくとも通過の速度を遅らせる。また電池は、第1のチャンバ内のpHを調整するための第1のデバイスを備えており、第1の酵素又は第1の微生物は第1の物質を変化させて第1のチャンバの溶媒にヒドロニウムイオン又はヒドロキシルイオンを与えることができる。これによって、第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位間に電位差が生じる。
【0016】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はキノンであり、第1の還元剤は前記キノンの還元体である。
【0017】
一実施形態によれば、第1の物質はD−グルコースであり、第1の酵素は、D−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。
【0018】
一実施形態によれば、第1の物質はL−グルコースであり、第1の酵素は、L−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なL−フコース脱水素酵素である。
【0019】
一実施形態によれば、第1の物質は尿素であり、第1の酵素は、尿素の分解によってヒドロキシルイオンを生成させることが可能なウレアーゼ酵素である。
【0020】
一実施形態によれば、第1の酸化還元対及び第2の酸化還元対は同一である。
【0021】
一実施形態によれば、第1のチャンバは、溶媒に対して浸透性を有し第1の酵素又は第1の微生物に対して不浸透性を有して、第1の電極が差し込まれている溶媒の体積を画定している膜を含んでおり、第1の酸化還元対は、前記体積の溶媒に溶解されて、第1の酵素又は前記第1の微生物は前記体積の溶媒の外側に配されている。
【0022】
一実施形態によれば、第1の酸化還元対は、少なくとも部分的に第1の電極を囲む固体相又はゲル相に配されている。
【0023】
一実施形態によれば、第1のチャンバ内のpHを調整するための第1のデバイスが、第1のチャンバ内の溶媒で第1の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能な第1の酵素又は第1の微生物を有している。電池は、第2のチャンバ内の溶媒で第3の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能な第2の酵素又は第2の微生物を有して第2のチャンバ内のpHを調整するための第2のデバイスを更に備えている。
【0024】
一実施形態によれば、電池は、第1のチャンバ内の溶媒で、場合によっては第3の物質と同一の第4の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能であり、場合によっては第2の酵素又は第2の微生物と同一の第3の酵素又は第3の微生物を有して第1のチャンバ内のpHを調整するための第3のデバイスを更に備えている。電池は更に、第2のチャンバ内の溶媒で、場合によっては第1の物質と同一の第5の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能であり、場合によっては第1の酵素又は第1の微生物と同一の第4の酵素又は第4の微生物を有して第2のチャンバ内のpHを調整するための第4のデバイスを備えている。電池は更に、第1及び第2のデバイスを作動させて第3及び第4のデバイスの動作を阻止することが可能であり、第3及び第4のデバイスを作動させて第1及び第2のデバイスの動作を阻止することが可能なデバイスを備えている。
【0025】
一実施形態によれば、電池は、第1の反応が第1の酸化剤から第1の還元剤への還元を含むとき、第1の還元剤を第1の酸化剤に変化させて、第1の反応が第1の還元剤から第1の酸化剤への酸化を含むとき、第1の酸化剤を第1の還元剤に変化させることが可能な第5の酵素又は第5の微生物を有する第1の酸化剤又は第1の還元剤を再生するためのデバイスを更に備えている。
【0026】
一実施形態によれば、第5の酵素は、酸素又は過酸化水素を消費して前記キノンの還元体の前記キノンへの酸化を促進可能なチロシナーゼ型の酵素又はペルオキシダーゼ型の酵素である。
【0027】
一実施形態によれば、電池は、第1のチャンバを第2のチャンバに接続する経路を更に備えており、経路には、開閉が制御され得る弁が設けられている。
【0028】
一実施形態によれば、電池は、第1の反応が第1の酸化剤から第1の還元剤への還元を含むとき、第2の物質を消費して第1の還元剤を第1の酸化剤に変化させて、第1の反応が第1の還元剤から第1の酸化剤への酸化を含むとき、第2の物質を消費して第1の酸化剤を第1の還元剤に変化させることが可能な第6の酵素又は第6の微生物を有している。
【0029】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はユビキノンであり、第1の還元剤はユビキノールであり、第1の物質はグルコースであり、第2の物質は過酸化水素である。第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。第2の酸化剤はキノンであり、第2の還元剤は前記キノンの還元体である。第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当する。
【0030】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はデヒドロアスコルビン酸であり、第1の還元剤はアスコルビン酸塩であり、第1の物質はグルコースであり、第2の物質は過酸化水素である。第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。第2の酸化剤はキノンであり、第2の還元剤は前記キノンの還元体である。第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当する。
【0031】
本発明の前述及び他の目的、特徴及び利点を、添付図面を参照して本発明を限定するものではない特定の実施形態について以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図6】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図7】図4に示されたバイオ燃料電池の特定の構成要素の実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図9】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図10】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図11】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
明瞭化のために、同一の要素は異なる図面において同一の参照番号で示されている。
【0034】
従来のバイオ燃料電池では、アノード電極によって取り込まれる電子が、酵素による生分解可能な基質の酸化によって直接生成される(場合によっては、酸化還元中間媒体が電極とのインターフェースとして存在する)。
【0035】
本発明に係るバイオ燃料電池の原理は、酵素又は微生物による基質の分解反応を使用することであって、アノード電極によって取り込まれる電子を直接生成させるのではなく、アノード電極及びカソード電極間の電位差の生成又は維持を促進することである。
【0036】
本発明に係るバイオ燃料電池の一実施形態によれば、アノード及びカソード間のpH差を得るために基質の分解を用いて、pHに応じて酸化還元電位が変わる1又は複数の酸化還元対をアノード及び/又はカソードで用いる。特には、アノード及びカソードで同一の酸化還元対を用いてもよい。バイオ燃料電池のアノード及びカソード間のpH差は、バイオ燃料電池の電極間に電位差をもたらす。
【0037】
本発明に係るバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、溶液中の酸化還元対の酸化剤及び還元剤の夫々の濃度に応じて酸化還元電位が変わる1又は複数の酸化還元対をアノード及び/又はカソードで用いる。従って、少なくとも1つの酸化還元対に関して、該酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との間の顕著な差の維持を促進してバイオ燃料電池の電極間に電位差を得るために、酵素又は微生物による基質の分解反応を用いる。
【0038】
本発明に係るバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、電位差がアノード電極及びカソード電極間に通常存在するように、アノードとカソードとで異なる酸化還元対を用いる。従って、酸化還元対の種の再生を促進してアノード及びカソードにおける酸化還元反応の持続性を確保するために、酵素又は微生物による基質の分解反応を用いる。
【0039】
前述したバイオ燃料電池の3つの実施形態は、組み合わせられてもよい。これにより、酵素又は微生物による基質の分解反応が同時に用いられて、アノード及びカソード間のpHの生成、及び/又は、アノード及び/又はカソードにおける酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との差の生成、及び/又は酸化還元対の種の再生を促進する。
【0040】
本発明に係るバイオ燃料電池は、アノード電極及びカソード電極間の電位差が酵素又は微生物による基質の分解を示す反応を伴うバイオ燃料電池である。更に、アノード電極に取り込まれる電子を直接与えるために酵素又は微生物による基質の分解反応が使用されていないので、アノードを二原子酸素から隔離する必要がない。このために、バイオ燃料電池の形成が簡略化される。更に、酵素又は微生物と、アノード電極に取り込まれる電子の生成に関係する酸化還元対との間に関連性がないため、酸化還元対の選択の自由度が更に広がる。更に、従来のバイオ燃料電池では、電子の生成を引き起こす反応が適切に行われるように酵素及び中間媒体を固定させる必要がある。従って、酵素の活動は表面に限定される。本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態では、酵素又は微生物は、電子の生成に直接関係せず、溶液に分散され得る。従って、酵素又は微生物の活動が溶液全体に広がり、表面に限定されない。このために、バイオ燃料電池の効率が向上する。
【0041】
酸化還元対の酸化還元電位がpHに応じて変わる場合における本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態について以下に説明する。
【0042】
Ox1/Red1がバイオ燃料電池のカソードで使用される酸化還元対であるとする。酸化還元対Ox1/Red1の酸化還元電位E1が、pH1 と呼ばれるカソードのpHに応じて変わる。酸化還元対Ox1/Red1に関する電子的半反応は以下に示す通りである。
Ox1 + ne- + qH+ = Red1 + q/2H2O (5)
尚、n及びqは整数である。酸化還元対Ox1/Red1の酸化還元電位E1は、ネルンストの法則によれは、以下に示すように表され得る。
【0043】
【化1】
【0044】
Ox2/Red2がバイオ燃料電池のアノードで使用される酸化還元対であるとする。酸化還元対Ox2/Red2の酸化還元電位E2は、pH2 と呼ばれるアノードのpHに応じて変わる。酸化還元対Ox2/Red2に関する電子的半反応は以下に示す通りである。
Ox2 + n’e- + q’H+ = Red2 + q’/2H2O (7)
尚、n’及びq’は整数である。酸化還元対Ox2/Red2の酸化還元電位E2は、ネルンストの法則によれは、以下に示すように表され得る。
【0045】
【化2】
【0046】
バイオ燃料電池の電極間の電位差ΔEは、以下に示すように表され得る。
【0047】
【化3】
【0048】
整数n,q,n’及びq’が1に等しいとき、濃度が最初等しく、僅かしか変化しないと考えると、化学式9は以下に示すように表され得る。
【0049】
【化4】
【0050】
本発明は、複数のチャンバの内の1つで、酵素若しくは微生物を伴いチャンバ内の溶液のpHの低下を引き起こす第1群の化学反応、又は酵素若しくは微生物を伴いチャンバ内の溶液のpHの上昇を引き起こす第2群の化学反応を少なくとも促進する。バイオ燃料電池は更に、アノード及びカソード間のpH差を維持するために、バイオ燃料電池のアノード及びカソード間に塩橋を形成して、アノード及びカソード間でのH+イオン又はOH- イオンの移動を防止又は低減するデバイスを備える。
【0051】
H+イオンの形成、ひいてはpHの低下を引き起こすあらゆる反応が、第1群の反応に適している。特には、(H+イオンを放出可能な)グルコン酸及び過酸化水素が形成されることになるグルコース酸化酵素(GOD)によるD−グルコース又はグルコースのD立体異性体の酸化が適している。過酸化水素は有毒な場合があるが、必要であればカタラーゼ酵素によって分解され得る。カタラーゼ酵素は、二原子酸素を再生可能であり、従って、過酸化水素の潜在的な有害作用に対して有機体を保護する。関係する反応は以下に示す通りである。
【0052】
【化5】
【0053】
第1群の反応は、L−フコース脱水素酵素によるL−グルコース又はグルコースのL立体異性体の酸化に相当してもよい。関係する反応は以下に示す通りである。
【0054】
【化6】
【0055】
溶液をアルカリ化すべく本発明によって実施される第2群の反応は、アンモニウムイオンNH4+及びヒドロキシルイオンOH- が形成されることになるウレアーゼ酵素による尿素の分解に相当してもよい。関係する反応は以下に示す通りである。
【0056】
【化7】
【0057】
化学式11及び化学式13の夫々の反応は、血糖に関するグルコースであるD−グルコースと尿素とを言うまでもなく含有する生体溶液を用いて直接実施可能であるという利点を有する。化学式12の反応は、NADP化合物を言うまでもなく含有する生体溶液を用いて容易に実施可能である。従って、生体溶液にL−グルコースを加える必要がある。
【0058】
図1は、本発明に係るバイオ燃料電池10の実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池10は筐体12を備えており、筐体12には、以下に詳細に説明される機能を有する膜16によって隔離された2つのチャンバ14A、14Bが画定されている。本実施形態では、バイオ燃料電池10の少なくとも動作段階中に、バイオ燃料電池10によって供給される電力が、チャンバ14Aで行われる還元反応とチャンバ14Bで行われる酸化反応とによって生成されており、従って、チャンバ14Aはカソードチャンバと呼ばれ、チャンバ14Bはアノードチャンバと呼ばれる。バイオ燃料電池10のカソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bは、少なくとも部分的に相互に対称であり、同一の参照番号を用いてチャンバの同一の構成要素を示している。但し、カソードチャンバ14Aの構成要素には接尾語Aを付し、アノードチャンバ14Bの構成要素には接尾語Bを付している。
【0059】
カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bは、電極18A及び電極18Bを夫々備えており、電極18A及び電極18Bは、例えば金属、合金、炭素、導電性高分子、半導体材料、又はこれらの材料の混合物のような良好な電子導体である材料から形成されている。各電極18A、18Bは、半浸透性膜20A、20Bによって体積が画定されている第1の溶液19A、19Bに差し込まれている。半浸透性膜20A、20Bは、半浸透性膜20A、20B及び半浸透性膜22A、22Bによって体積が画定されている第2の溶液21A、21Bに設けられている。半浸透性膜22A、22Bは、半浸透性膜22A、22B、筐体12及び膜16によって体積が画定されている溶液23A、23Bに設けられている。電極18A、18Bは、負荷24に接続されている。
【0060】
酸化還元対Ox1/Red1は溶液19Aに溶解され、酸化還元対Ox2/Red2は溶液19Bに溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは同一である。酸化還元対は、例えば、分子式がC6H4(OH)2 のヒドロキノン又はベンゼン−1、4−ジオールを還元剤Red1として有し、ヒドロキノンの酸化体に相当する酸化剤Ox1 を有する酸化還元対である。より具体的には、酸化剤Ox1 は、分子式C6H4O2を有し、1,4−シクロヘキサジエンジオン、1,4−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン又はパラベンゾキノンとも呼ばれるシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオンに相当する。以下の説明では、ベンゾキノンという用語は、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオンを示すために用いられる。
【0061】
カソードチャンバ14Aでは、溶液19Aで促進されるベンゾキノンをヒドロキノンに還元する電子的半反応は以下に示す通りである。
C6H4O2 + 2H+ + 2e- → C6H4(OH)2 (14)
【0062】
溶液21Aでは、前述した化学式11又は化学式12の反応が優先して行われる。一例として、GOD酵素が溶液21Aに加えられる。膜20A及び膜22Aは、GOD酵素のマイグレーションを妨げるべく選択されている。膜20Aは、酸化還元対Ox1/Red1の拡散を制限するために、ベンゾキノン又はヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されてもよい。更に膜22Aは、グルコース及びグルコン酸塩に対して浸透性を有するように選択されている。
【0063】
膜20A及び膜22Aは、透析膜であってもよい。その場合、膜20Aのカットオフ閾値が約100ダルトンであり、膜22Aのカットオフ閾値が約4,000乃至60,000ダルトンであってもよい。膜20A又は膜22Aは負荷膜に相当してもよい。
【0064】
特に酸化還元対Ox1/Red1がGOD酵素に対して抑制作用を備えない場合、膜20Aを抑制することが望ましい。この場合、分子量がベンゾキノン/ヒドロキノン対より大きい分子に相当する酸化還元対Ox1/Red1を用いることにより、膜22Aが透析膜であるとき、膜22Aの閾値が、酸化還元対Ox1/Red1を保持するべく十分低く、グルコース及びグルコン酸塩のマイグレーションを可能にすべく十分高くなることが利点である。
【0065】
アノードチャンバ14Bでは、溶液19Bで促進されるヒドロキノンを酸化する電子的半反応は以下に示す通りである。
C6H4(OH)2 → C6H4O2 + 2H++ 2e- (15)
【0066】
溶液21Bでは、化学式13の反応が優先して行われる。一例として、ウレアーゼ酵素が溶液21Bに加えられる。ベンゾキノン及びヒドロキノンはウレアーゼ酵素を抑制する傾向があるので、膜20Bは、ウレアーゼ酵素、ベンゾキノン及びヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されている。更に、膜22Bは、ウレアーゼ酵素の通過を妨げて、尿素、アンモニウムイオンNH4+及びヒドロキシルイオンOH- を通過させるべく選択されている。
【0067】
一例として、膜20B及び膜22Bは透析膜に相当する。この場合、膜20Bのカットオフ閾値が約100ダルトンであり、膜22Bのカットオフ閾値が約4,000乃至60,000ダルトンであってもよい。膜20B又は膜22Bは負荷膜に相当してもよい。
【0068】
膜16、20A、22A、20B、22Bは、溶液19A、19B、21A、21B、23A、23Bを形成する溶媒に対して浸透性を有する。膜16は、チャンバ14A及びチャンバ14B間のイオン平衡を確保することができる。膜16は、例えば、有機又は無機のゲル又はヒドロゲルから形成された膜、膜浸透たんぱく質に関する脂質膜から形成された膜、イオン導電性高分子に関する脂質膜から形成された膜等である。一例として、膜16は、塩化カリウム(KCl)が加えられた寒天又はアガロースのようなゲル膜に相当する。このような膜16は、カソードチャンバ14Aからアノードチャンバ14BへのH+イオンのマイグレーション及びアノードチャンバ14Bからカソードチャンバ14AへのOH- イオンのマイグレーションを妨げて又は少なくとも十分に低下させる。K+イオンのアノードチャンバ14Bへの放出、及びCl- イオンのカソードチャンバ14Aへの放出を可能にして溶液の全体的なイオン平衡を確保するために、このような膜16は、K+イオン及びCl- イオンが担持されている。膜16は、一方のチャンバ14A、14Bから他方のチャンバへのH+イオン及びOH- イオンの移動を制限することによって、チャンバ14A及びチャンバ14B間のpH差を確実に維持している。
【0069】
図示していない手段によってグルコースを含む溶液23A及び尿素を含む溶液23Bの供給が可能である。このために、筐体12が、グルコース及び尿素を含有する溶液、例えば生体溶液中に設けられてもよい。その場合、筐体12に1又は複数の弁が設けられて、弁が開いているときに、溶液23A、23Bを外部と連通可能としてもよい。一例として、グルコース及び尿素を通過させるために、筐体12全体は、カットオフ閾値が十分高い半浸透性膜から形成されてもよい。
【0070】
一般的に、電極18A、18Bの形状は、酸化還元対Ox1/Red1及び酸化還元対Ox2/Red2との可能な限り効率的な電子交換を確保すべく適合されている。一例として、電極18A、18Bは、グリッド状であってもよい。
【0071】
バイオ燃料電池10は、以下の通り動作する。まず、溶液19A及び溶液19Bが、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでいるものとする。溶液19A及び溶液19BのpHは夫々、略同一であり、例えば約7である。従って、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位は、最初略等しい。グルコースが溶液23Aに導入されて、尿素が溶液23Bに導入される。溶液21Aでのグルコースの分解反応により、溶液21A、次いで溶液21Aに囲まれている溶液19AのpHが低下する。溶液19AでのpHの低下は、カソードチャンバ14Aでのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位の上昇として解釈する。同時に、溶液21Bでの尿素の分解反応により、溶液21B、次いで溶液21Bに囲まれている溶液19BのpHが上昇する。溶液19BでのpHの上昇は、カソードチャンバ14Bでのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位の低下として解釈する。化学式9によって与えられる電極18B及び電極18A間の電位差が得られる。このように、カソードチャンバ14Aで化学式14の電子的半反応が行われて、アノードチャンバ14Bで化学式15の電子的半反応が行われる。
【0072】
出願人は、0.30Vの電位差△Eに対して表面電力が2.4 μW/cm2 であり、10.2μWの電力を提供するバイオ燃料電池10を得ている。
【0073】
変形例によれば、膜20Aを囲んで、ナフィオンとして公知である材料から形成された負荷膜に相当する追加の膜が設けられてもよい。このような膜によって、陽イオン及びグルコースを通過させながら、陰イオン、例えば重炭酸塩陰イオンHCO3- のマイグレーションを妨げることが可能になる。これにより、グルコース供給溶液、例えば生体溶液に存在する陰イオンに起因する溶液19AでのpHの変動を回避することが可能になる。膜20Bを囲んで、陽イオンの横断を妨げて陰イオンを通過させる負荷膜に相当する追加の膜が設けられてもよい。これにより、尿素供給溶液、例えば生体溶液に存在する陽イオンに起因する溶液19BでのpHの変動を回避することが可能になる。
【0074】
ベンゾキノン/ヒドロキノン対以外の酸化還元対が用いられてもよい。例えば、酸化剤としてキノンを有し、還元剤として前記キノンの還元体を有する酸化還元対が用いられてもよい。更に、前述した実施形態では、同一の酸化還元対が、アノードチャンバ及びカソードチャンバで用いられている。しかしながら、アノードチャンバに第1の酸化還元対が用いられて、カソードチャンバに第1の酸化還元対とは異なる第2の酸化還元対が用いられてもよい。この場合、チャンバ14A、14BのpHが同一であるとき、チャンバ14A、14Bの第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位が、化学式9に応じて最初異なってもよい。そのため、チャンバ14A、14B内の酵素の作用に起因するpHの差を用いて、チャンバ14A及びチャンバ14B間の電位差が更に増大され得る。
【0075】
前述した実施形態では、pHが、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bの両方で変動している。しかしながら、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bで同一の酸化還元対が用いられたか、又は異なる酸化還元対が用いられたかに関わらず、チャンバ14A、14Bの内の一方でのpHの変動が、カソードチャンバ14Aに存在する酸化還元対の酸化還元電位と、アノードチャンバ14Bに存在する酸化還元対の酸化還元電位との間の適切な差を得るのに十分である。一例として、前述した実施形態と比較すると、ウレアーゼ酵素及び場合によっては抑制膜22Bを用いずに、グルコース酸化酵素GODのみが溶液21Aに加えられてもよい。溶液19Bは、生体溶液である場合、略中性又は僅かにアルカリ性のpHを有する。実際には、GOD酵素によるグルコースの酸化に起因して溶液19AのpHが低下すると、溶液19Bのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位に対して溶液19Aのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位が上昇する。これによって、カソードチャンバ14Aにおける化学式14の半反応及びアノードチャンバ14Bにおける化学式15の半反応を確立することが可能になる。別の例によれば、ウレアーゼ酵素のみが溶液21Bに加えられて、GOD酵素は加えられずに膜21Aが抑制される。実際には、ウレアーゼ酵素による尿素の分解に起因して溶液19BのpHが上昇すると、溶液19Aのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位に対して溶液19Bのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位が低下する。これによって、カソードチャンバ14Aにおける化学式14の半反応及びアノードチャンバ14Bにおける化学式15の半反応を確立することが可能になる。
【0076】
前述したバイオ燃料電池10の動作中に、カソードチャンバ14Aでベンゾキノンを消費することによりヒドロキノンが生成されて、アノードチャンバ14Bでヒドロキノンを消費することによりベンゾキノンが生成される。従って、化学式14及び化学式15の反応は、カソードチャンバ14Aでベンゾキノン濃度が低過ぎて、アノードチャンバ14Bでヒドロキノン濃度が低過ぎる場合に抑制される。燃料電池10の動作の停止を回避するために、複数の実行可能な対策が提供される。
【0077】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の実施形態によれば、バイオ燃料電池は、化学式14の反応がカソードチャンバ14Aで続行して化学式15の反応がアノードチャンバ14Bで続行するように、カソードチャンバ14Aに対してベンゾキノンを排出/供給し、アノードチャンバ14Bに対してヒドロキノンを排出/供給するための手段を備える。
【0078】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、チャンバ14A及びチャンバ14Bに存在する酸化還元対は、可逆であるように選択されている。ベンゾキノン/ヒドロキノン対の場合がこれに該当する。膜20A、溶液19A及び電極18Aにより形成された組立体が、溶液21Aから除かれて、溶液21Bに配置されてもよい。更に、膜20B、溶液19B及び電極18Bにより形成された組立体が、溶液21Bから除かれて、溶液21Aに配置されてもよい。この交換は、化学式14及び化学式15の反応が停止しそうになれば直ちに行われる。この交換が行われて、pHが安定すると、アノードチャンバ14Bにヒドロキノンが補充され、カソードチャンバ14Aにベンゾキノンが補充されるので、化学式14及び化学式15の反応は続行可能である。
【0079】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、チャンバ14A及びチャンバ14Bに存在する酸化還元対は、可逆であるように選択されている。化学式14及び化学式15の反応が停止しそうになると、電極18A、18Bは、チャンバ14A、14Bで化学式14及び化学式15の半反応と逆の半反応が行われるのに十分な電源、即ち、アノードチャンバ14Bではキノンからヒドロキノンへの還元を促進し、カソードチャンバ14Aではヒドロキノンからベンゾキノンへの酸化を促進するのに十分な電源に接続される。
【0080】
図2は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池30の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池30は、開口部33Aを介して溶液19Aと連通する補助筐体32Aを備えている。弁34Aが開けられたとき、補助筐体32Aの内容物が溶液19Aと連通した状態になる。半浸透性膜35Aが、補助筐体32Aの内容物を溶液19Aから隔離する。補助筐体32Aは、ヒドロキノンからベンゾキノンを生成できる1又は複数の酵素を含んでいる。膜35Aは、筐体32Aに含まれている酵素のマイグレーションを妨げて、ベンゾキノン及びヒドロキノンを通過させるべく選択されている。
【0081】
一例として、補助筐体32A内に存在する酵素は、ポリフエノールオキシダーゼ型のチロシナーゼであり、以下の反応を促進する。
【0082】
【化8】
【0083】
別の例によれば、酵素は、過酸化水素の存在下で以下の反応を促進するペルオキシダーゼである。
【0084】
【化9】
【0085】
バイオ燃料電池30は、以下の通り動作する。通常の動作では、弁34Aが閉鎖されており、バイオ燃料電池30の動作は、バイオ燃料電池10に関して前述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があるとき、弁34Aが開けられる。その後、ヒドロキノンが補助筐体32Aに浸透し、補助筐体32Aでヒドロキノンは補助筐体32A内に存在する酵素の作用を受けてベンゾキノンに変わる。ベンゾキノンの濃度が十分なときに、弁34Aが閉じられる。
【0086】
アノードチャンバ24Bにおけるヒドロキノンの補充は、溶液19Bにヒドロキノンを加えることによって行われ得る。
【0087】
図3は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池36の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池36は、バイオ燃料電池30の全ての構成要素を備えて、更に補助筐体32Aと同様の補助筐体32Bをアノードチャンバ14Bに備えている。
【0088】
補助筐体32Bは、ベンゾキノンからヒドロキノンを生成できる1又は複数の酵素を含んでいる。膜35Bは、筐体32Bに含まれている酵素のマイグレーションを妨げて、ベンゾキノン及びヒドロキノンを通過させるべく選択されている。
【0089】
一例として、補助筐体32B内に存在する酵素はジアフォラーゼであり、以下の反応を促進する。
【0090】
【化10】
【0091】
バイオ燃料電池36は、NADPH化合物を補助筐体32Bに供給する手段を備えている。ヒドロキノンを溶液19Bに供給するのではなく、NADPH化合物を補助筐体32Bに供給することが利点である。このため、ベンゾキノン及びヒドロキノンの濃度が制限された範囲に維持され得る。
【0092】
別の例によれば、補助筐体32B内に存在する酵素は、化学式18の反応と同一の反応を促進するパラベンゾキノンレダクターゼである。
【0093】
別の例によれば、補助筐体32B内に存在する酵素は、L−リンゴ酸脱水素酵素であり、以下の反応を促進する。
【0094】
【化11】
【0095】
以下に、バイオ燃料電池36の動作について説明する。通常の動作では、弁34A及び34Bが閉じており、バイオ燃料電池36の動作は、バイオ燃料電池10に関して前述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があり、アノードチャンバ14Bのヒドロキノンの濃度を上昇させる必要があるとき、弁34A及び34Bが開けられる。その後、ヒドロキノンが補助筐体32Aに浸透し、補助筐体32Aではヒドロキノンが筐体32A内に存在する酵素の働きを受けて、ベンゾキノンに変わる。また、ベンゾキノンが補助筐体32Bに浸透し、補助筐体32Bではベンゾキノンが筐体32B内に存在する酵素の働きを受けてヒドロキノンに変わる。ベンゾキノン及びヒドロキノンの濃度が十分であるとき、弁34A及び34Bが閉じられる。
【0096】
バイオ燃料電池36の変形例によれば、補助筐体32Bのみが設けられてもよい。その場合、カソードチャンバ14Aのベンゾキノンの補充は、溶液19Aにベンゾキノンを供給することによって行われ得る。
【0097】
図4は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池37の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池37は、バイオ燃料電池10の全ての構成要素を備えて、更に一端部が溶液19Aに連通して、他端部が溶液19Bに連通している密閉性のダクト38を備えている。ダクト38に弁39が設けられている。弁39を制御するための手段は図示されていない。
【0098】
以下に、バイオ燃料電池37の動作について説明する。通常の動作では、弁39が閉じられており、バイオ燃料電池37の動作は、バイオ燃料電池10に関して上述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があり、アノードチャンバ14B内のヒドロキノンの濃度を上昇させる必要があるときに、弁39が開けられる。その後、ヒドロキノンは溶液19Aから溶液19Bに広がり、ベンゾキノンは溶液19Bから溶液19Aに広がる。溶液19A及び19Bでヒドロキノン及びベンゾキノンの濃度が略等しいとき、弁39は閉じられる。
【0099】
図5は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池40の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池40は、膜22A及び膜22B以外は、図1に示されたバイオ燃料電池10と同一の構成要素を備えている。更に、バイオ燃料電池40は、4つのpH調整デバイス42C、42D、42E、42Fを備えている。以下の説明では、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fに夫々関連する構成要素を示すために、接尾語「C」、「D」、「E」、「F」が付与されている。pH調整デバイス42Cについてのみ説明する。pH調整デバイス42Cは、密閉性の筐体44Cと弁46Cとを備えている。弁46Cが開かれたとき、補助筐体44Cの内容物が外部媒体と連通した状態になる。pH調整デバイス42Cは、弁48Cを更に備えており、弁48Cが開かれたとき、補助筐体44Cの内容物が溶液23Aと連通した状態になる。pH調整デバイス42Cは、弁46Cと補助筐体44Cの内容物との間に配置された膜50Cと、弁48Cと補助筐体44Cの内容物との間に配置された膜52Cとを備えている。pH調整デバイス42D、42E、42Fは、pH調整デバイス42Cと同様の構造を有しており、pH調整デバイス42Eの弁48Eはチャンバ14A側に設けられており、pH調整デバイス42Dの弁48D及びpH調整デバイス42Fの弁48Fはチャンバ14B側に設けられている。
【0100】
pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dは、pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dが夫々収容する溶液のpHの低下を可能にするタイプである。一例として、pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dは、前述した化学式11の反応に応じて、関連した補助筐体44C及び補助筐体44Dに夫々収容されている溶液を酸性にすることを可能にする。pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fは、pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fが夫々収容する溶液のpHの上昇を可能にするタイプである。一例として、pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fは、前述した化学式13の反応に応じて、関連した補助筐体44E及び補助筐体44Fに夫々収容されている溶液をアルカリにすることを可能にする。
【0101】
バイオ燃料電池40の動作例は、以下に示す通りである。以下に説明する弁48C、48D、48E、48Fの開放サイクルの間に、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの弁46C、46D、46E、46Fが制御されて、補助筐体44C、44D、44E、44Fが所望のpHを有する溶液を収容するように、補助筐体44C、44D、44E、44Fにグルコース及び/又は尿素が供給される。まず、溶液19A及び溶液19Bは同一のpHを有する。第1の動作段階で、弁48Cが開けられ、弁48Dが閉じられて、弁48Eが閉じられ、弁48Fが開けられる。次に、pH調整デバイス42CによってH+イオンがチャンバ14Aに放出されて溶液19AのpHが低下して、pH調整デバイス42FによってOH- イオンが放出されて溶液19BのpHが上昇する。溶液19AのpHの低下は、チャンバ14A内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の上昇として解釈して、溶液19BのpHの上昇は、チャンバ14B内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の低下として解釈する。前述した化学式14の還元反応がチャンバ14Aで行われて、前述した化学式15の酸化反応がチャンバ14Bで行われる。従って、アノード電極の役割を果たす電極18Bからカソード電極の役割を果たす電極18Aへの電子の移動が、負荷24を介して観察され得る。
【0102】
第2の動作段階では、弁48Cが閉じられ、弁48Dが開けられて、弁48Eが開けられ、弁48Fが閉じられる。次に、pH調整デバイス42DによってH+イオンが放出されて、これにより、溶液19BのpHが低下する。同時に、pH調整デバイス42EによってOH- イオンが放出されて、これにより、溶液19AのpHが低下する。溶液19BのpHの低下は、チャンバ14B内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の上昇として解釈して、溶液19AのpHの上昇が、チャンバ14A内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の低下として解釈する。前述した化学式14の還元反応がチャンバ14Bで行われて、前述した化学式15の酸化反応がチャンバ14Aで行われる。従って、アノード電極の役割を果たす電極18Aからカソード電極の役割を果たす電極18Bへの電子の移動が、負荷24を介して観察され得る。従って、バイオ燃料電池40の極性は、第1の動作段階に対して第2の動作段階で反転される。第1の動作段階及び第2の動作段階は、周期的に交換され得る。
【0103】
図6は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池60の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池60は、バイオ燃料電池10と同一の膜20A、20B、22A、22Bの構成を備えてもよい。pHの低下を引き起こす反応、例えば前述した化学式11又は化学式12の反応を促進する酵素が、溶液21A内に配置された複数の容器62Cと溶液21B内に配置された複数の容器62Dとに収容されている。pHの上昇を引き起こす反応、例えば前述した化学式13の反応を促進する酵素が、溶液21A内に配置された複数の容器62Eと溶液21B内に配置された複数の容器62Fとに収容されている。
【0104】
各容器62C、62D、62E、62Fは、略密閉状態である「閉鎖」と呼ばれる第1の構成、即ち、容器62C、62D、62E、62Fの内容物が溶液21A、21Bと全く連通しないか又は僅かしか連通しない構成から、容器の内容物が溶液21A、21Bと連通する「開放」と呼ばれる第2の構成に切り替えられ得る。容器62C、62D、62E、62Fの開閉は、電気的に制御されてもよい。一例として、各容器62C、62D、62E、62Fは、2つの制御端子64C、64D、64E、64F及び制御端子66C、66D、66E、66Fを有しており、関連する制御端子64C、64D、64E、64F及び制御端子66C、66D、66E、66F間に印加される電圧に応じて構成を変えてもよい。容器62C、62D、62E、62Fは、2つの電送路68C、68D、68E、68F及び電送路70C、70D、70E、70F間に平行に組み立てられている。電送路68C、68D、68E、68Fと電送路70C、70D、70E、70Fとの間に電圧VC〜VFを印加して、関連する容器62C、62D、62E、62Fの開閉を制御する。
【0105】
図7は、1つの容器62Cの実施形態を概略的に示している。容器62D、62E、62Fは、容器62Cと同様の構造を有してもよい。容器62Cは、蓋74によって閉じられている箱72の形状を有しており、蓋74は、蓋74を除いた残りの箱72にヒンジ76によって接続されている。ヒンジ76は、電気活性材料、例えば電気活性高分子から形成されている。例えば電気活性高分子は、マイクロマッスル社(Micromuscle Company)が販売する電気活性高分子であってもよい。電気活性高分子には複数の型がある。電気活性高分子は、IPMC(イオン伝導性高分子金属複合体)型であってもよく、水が充填された網状の多価電解質高分子の膜に相当してもよい。なお、膜の2面に電極が形成されている。IPMCでは、2つの電極間に電場が印加されると、膜内でイオンが移動して、これによって各電極付近で溶媒の分布が変わり、ひいては膜が変形する。電気活性高分子は、導電性高分子(CP)であってもよく、導電性高分子は、電圧を印加されると、酸化還元反応によって電子を容易に損失/取得する性質を有する。導電性高分子は、イオンを含有する溶液に含有されると、浸透性を有する一部のイオンを誘引/反発して、導電性高分子が変形する。電気活性高分子は、2つの柔軟電極間に配置されたエラストマーフィルムを備えた誘電性高分子であってもよい。柔軟電極は、電場を印加されたときに相互に誘引し合ってエラストマーを圧縮する。端子64Cがヒンジ76の表面に接続されて、端子66Cが対向する面に接続されている。一例として、端子64C及び端子66C間に電圧が印加されていないとき、ヒンジ76は、蓋74が開いた構成である。端子64C及び端子66C間に十分な電圧が印加されているとき、ヒンジ76は、蓋74が箱72上で閉じた構成である。容器は他の形状を有してもよいが、容器の形状は、容器が閉じたときに適度な密閉性を得るべく適合されている必要がある。
【0106】
バイオ燃料電池60の動作は、バイオ燃料電池40に関して前述した動作と同一である。但し、容器62C、62D、62E、62Fは夫々、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの役割を果たしている。バイオ燃料電池40のpH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの弁48C、48D、48E、48Fの開放(逆に、閉鎖)は、バイオ燃料電池60の容器62C、62D、62E、62Fの開放(逆に、閉鎖)に相当する。
【0107】
図8は、バイオ燃料電池70の別の実施形態を示している。図1に示されたバイオ燃料電池10と比較すると、酸化還元対Ox1/Red1が、電極18Aを覆って溶液21Aに設けられている固体相又はゲル多孔相72Aに配されている。同様に、酸化還元対Ox2/Red2が、電極18Bを覆って溶液21Bに設けられている固体相又はゲル多孔相72Bに配されている。この場合、膜20A及び膜20Bが設けられていない。固体相又はゲル多孔相に酸化還元対を固定することにより、バイオ燃料電池70の全体的な寸法が低減され得る。
【0108】
図9は、バイオ燃料電池80の別の実施形態を示している。図8に示されたバイオ燃料電池70と比較すると、カソードでのpHの低下に関する酵素が、電極72Aを覆って溶液23Aに設けられている固体相又はゲル多孔相82Aに配されている。同様に、pHの上昇に関する酵素が、電極72Bを覆って溶液23Bに設けられている固体相又はゲル多孔相82Bに配されている。この場合、膜22A及び膜22Bが設けられていない。固体相又はゲル多孔相にpHの調整に関する酵素を固定することにより、バイオ燃料電池80の全体的な寸法が低減され得る。これによって、pHの変動が始まる体積を、pHに応じて酸化還元電位が変わる酸化還元対を含有する体積に可能な限り近づけることが可能になる。このため、電池の効率が向上され得る。
【0109】
酸化還元対の化学種の再生を促進するために、及び/又は複数の酸化還元対の内の少なくとも1つに関して酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との差の発生を促進して酸化還元対の酸化還元電位を変更するために、酵素又は微生物による生分解可能な基質の分解反応を用いる場合における本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態について以下に説明する。
【0110】
図10は、本発明に係るバイオ燃料電池90の一実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池90は、半浸透性膜から形成されて、例えば水溶液、有機溶媒、ゲル、ペースト、高分子等の内容物94を囲む液嚢92を備えている。電極96が、内容物94に設けられている。半浸透性膜から形成された別の液嚢98が、内容物94に配置されている。液嚢98は溶液100を収容している。電極102が溶液100に設けられている。電極96、102が負荷104に接続されている。液嚢92は溶液106に設けられている。
【0111】
酸化還元対Ox1/Red1は溶液100に溶解されて、酸化還元対Ox2/Red2は内容物94に溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは異なる。一例として、還元剤Red1は、QH2 と示されるヒドロキノンであり、酸化剤Ox1 は、Qと示されてヒドロキノンの酸化体、即ちベンゾキノンである。溶液100では、化学式14に応じたベンゾキノンからヒドロキノンへの還元が促進される。一例として、酸化剤Ox2 は、Uと示されてC59H90O4の分子式を有するユビキノンであり、還元剤Red2は、UH2 と示されてユビキノンの還元体、即ちユビキノールである。内容物94では、以下の反応に応じてユビキノンの還元体UH2 をユビキノンUに酸化する反応が促進される。
UH2 → U + 2H+ + 2e- (20)
【0112】
膜98は、ベンゾキノン及びヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されている。溶液106はグルコースを含有している。溶液106は、例えば生体溶液である。グルコース酸化酵素GODは内容物94に配されている。膜92は、グルコースを通過させて、GOD酵素、ユビキノン、及びユビキノンの還元体のマイグレーションを妨げるべく選択されている。2つのグルコース酸化反応が、内容物94で行われる。第1のグルコース酸化反応は、以下の反応に相当する。
【0113】
【化12】
【0114】
第2のグルコース酸化反応は、以下の反応に相当する。
【0115】
【化13】
【0116】
従って、化学式22の反応によって、内容物94でユビキノンの還元体を再生することが可能になる。
【0117】
ヒドロキノンからのベンゾキノンの形成を促進可能な酵素が、溶液100に配されている。前記酵素は、例えばペルオキシダーゼ酵素である。膜98は、ペルオキシダーゼ酵素のマイグレーションを妨げて、過酸化水素(H2O2)を通過させるべく選択されている。ペルオキシダーゼ酵素は、前述した化学式17の反応を促進する。化学式17の反応に必要な過酸化水素は、内容物94で行われる化学式21の反応により生成される。本実施形態では、化学式21の反応が行われるように内容物94に酸素が加えられる必要がある。従来のバイオ燃料電池とは異なり、酸素の存在はバイオ燃料電池90の動作を妨げない。
【0118】
代替の実施形態によれば、溶液100でのヒドロキノン及び酸素からのベンゾキノンの生成を促進するポリフエノールオキシダーゼ酵素が、更に溶液100に加えられている。この反応は、化学式17の反応と同時に行われてもよい。
【0119】
バイオ燃料電池90は、以下の通り動作する。まず、溶液100は、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでおり、内容物94は、同一の濃度のユビキノンとユビキノンの還元体とを含んでもよい。この場合、ベンゾキノン/ヒドロキノンの酸化還元対の標準酸化還元電位は、25℃で約0.7 Vであり、ユビキノン/ユビキノンの還元体の酸化還元対の標準酸化還元電位は、25℃で約0.5 Vである。
【0120】
電極96、102が負荷104に接続される前に、化学式22及び化学式17の再生反応が行われる。それにより、内容物94にGOD酵素、D−グルコース及びユビキノンが存在すると、化学式22の反応に応じてユビキノールUH2 が生成される。そのため、ユビキノールUH2 の濃度が経時的に上昇する。従って、ユビキノンUの濃度とユビキノールUH2 の濃度との比率が低下して、酸化還元対U/UH2 の酸化還元電位が低下する(化学式8参照)。更に溶液100では、ペルオキシダーゼ酵素が、化学式17の反応に応じて過酸化水素及びヒドロキノンを消費する。そのため、ヒドロキノンQH2 の濃度は、経時的に低下する。従って、ベンゾキノンQの濃度とヒドロキノンQH2 の濃度との比率が上昇して、酸化還元対Q/QH2 の酸化還元電位が上昇する(化学式6参照)。酸化還元対の酸化体又は還元体の濃度を変えるだけで、酸化還元対Q/QH2 と酸化還元対U/UH2 との間に、このように電位差が生じる。濃度の比率に影響を及ぼすことによって生じるこの電位差が、酸化還元対Q/QH2 及び酸化還元対U/UH2 の標準電位の差に起因する電位差に加えられる。
【0121】
電極96及び電極102が負荷104に接続されているとき、溶液100では化学式14のベンゾキノンの還元反応が行われ易くなり、内容物94では化学式20のユビキノールUH2 の酸化反応が行われ易くなる。同時に、化学式22及び化学式17の再生反応が行われる。
【0122】
図11は、本発明に係るバイオ燃料電池110の実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池110は、半浸透性膜から形成されて溶液114を収容する液嚢112を備えている。半浸透性膜から形成された2つの液嚢116、118が、溶液114に配置されている。液嚢116、118は、共通の壁を有してもよい。液嚢116は溶液120を収容し、液嚢118は溶液122を収容する。電極124が溶液120に差し込まれて、電極126が溶液122に差し込まれている。電極124、126は、負荷128に接続されている。液嚢112は、溶液130に設けられている。
【0123】
酸化還元対Ox1/Red1が溶液120に溶解され、酸化還元対Ox2/Red2が溶液122に溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは異なる。一例として、還元剤Red1は、QH2 と示されているヒドロキノンであり、酸化剤Ox1 は、ベンゾキノンQに相当する。溶液120では、化学式14に応じてベンゾキノンからヒドロキノンへの還元が促進される。
【0124】
一例として、還元剤Red2は、AH2 と示されて分子式がC6H8O6であるアスコルビン酸塩であり、酸化剤Ox2 は、Aと示されるデヒドロアスコルビン酸である。溶液122では、以下の反応に応じてアスコルビン酸塩AH2 からデヒドロアスコルビン酸Aへの酸化が促進される。
AH2 → A + 2H+ + 2e- (23)
【0125】
膜116、118は、ベンゾキノン、ヒドロキノン、アスコルビン酸塩及びデヒドロアスコルビン酸のマイグレーションを妨げるべく選択されている。溶液130はグルコースを含有している。溶液130は、例えば生体溶液である。GOD酵素は、溶液114に配されている。膜112は、グルコースを通過させてGOD酵素のマイグレーションを妨げるべく選択されている。
【0126】
溶液114では、化学式21の反応に応じてグルコースの酸化が促進される。
【0127】
ヒドロキノンからのベンゾキノンの形成を促進可能な酵素が、溶液120に配されている。前記酵素は、例えばペルオキシダーゼ酵素である。膜116は、ペルオキシダーゼ酵素の通過を妨げて過酸化水素(H2O2)を通過させるべく選択されている。ペルオキシダーゼ酵素は、前述した化学式17の反応を促進する。化学式17の反応に必要な過酸化水素は、溶液114で行われる化学式21の反応により生成される。
【0128】
以下の反応に応じたデヒドロアスコルビン酸Aからのアスコルビン酸塩AH2 の形成を促進可能なたんぱく質が、溶液122に配されている。
【0129】
【化14】
【0130】
このたんぱく質は、例えばジスルフィドイソメラーゼ又はPDIたんぱく質に相当する酵素である。
【0131】
バイオ燃料電池110は、以下の通り動作する。まず、溶液120が、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでいる、溶液122が、同一の濃度のアスコルビン酸塩及びデヒドロアスコルビン酸を含んでいる。この場合、ベンゾキノン/ヒドロキノンの酸化還元対の酸化還元電位は、約0.7Vであり、デヒドロアスコルビン酸/アスコルビン酸塩の酸化還元対の酸化還元電位は、約−0.29Vである。
【0132】
電極124、126が負荷128に接続される前に、化学式24及び化学式17の再生反応が行われる。それにより、溶液122では、化学式24の反応に応じたアスコルビン酸塩AH2 の形成が観察され得る。従って、アスコルビン酸塩AH2 の濃度は、経時的に上昇する。それにより、デヒドロアスコルビン酸Aの濃度とアスコルビン酸塩AH2 の濃度との比率が低下して、酸化還元対A/AH2 の酸化還元電位が低下する(化学式8参照)。更に、溶液120では、ペルオキシダーゼ酵素が、化学式17の反応に応じて過酸化水素及びヒドロキノンを消費する。従って、ヒドロキノンQH2 の濃度は、経時的に低下する。それにより、ベンゾキノンQの濃度とヒドロキノンQH2 の濃度との比率が上昇して、酸化還元対Q/QH2 の酸化還元電位が上昇する(化学式6参照)。従って、酸化還元対の酸化体又は還元体の濃度を変えるだけで、酸化還元対Q/QH2 と酸化還元対A/AH2 との間に電位差が生じる。濃度の比率に影響を与えることによって生じるこの電位差は、酸化還元対Q/QH2 及び酸化還元対A/AH2 の標準電位の差に起因する電位差に加えられる。
【0133】
電極124及び電極122が負荷128に接続されているとき、溶液120では化学式14のベンゾキノンの還元反応が行われ易くなり、溶液122では化学式23のアスコルビン酸塩AH2 の酸化反応が行われ易くなる。同時に、化学式24及び化学式17の再生反応が行われて化学種の補充を行う。
【0134】
以下に、本発明に係るバイオ燃料電池の使用が特に有利である適用例について説明する。
【0135】
バイオ燃料電池は、人体内への移植に特に適している。この場合、筐体12は、例えば透析作業に用いられるタイプの可撓性膜に相当してもよい。
【0136】
バイオ燃料電池は、携帯電話、ウォークマン(登録商標)、カメラ又はビデオカメラのような可搬型電子システム用の電源に相当してもよい。この電子システムは、主電力を供給できる従来の主電源と、補助電源として用いられるバイオ燃料電池とを備えてもよい。この場合、バイオ燃料電池は、電子システムが低消費電力しか必要としない動作モードで電子システムに電力を供給すべく用いられ得る。この動作モードは、例えば、電話機の表示が一般的にオフになっている携帯電話の待機モードに相当する。
【0137】
バイオ燃料電池は、任意の支持体と一体化されることが可能であり、バイオ燃料電池の動作は、この支持体が、pHの変動を引き起こす反応に必要な要素を含有する溶媒と接したときに開始される。一例として、本発明に係るバイオ燃料電池は、紙又は布と一体化され得る。この場合、バイオ燃料電池の動作は、個人の汗が接したときに開始され得る。
【0138】
本発明の具体的な実施形態が説明されている。当業者であれば、様々な変形及び変更を想到する。特に、本発明に係るバイオ燃料電池は、前述した実施形態の内のいずれかの一部の構成要素と、前述した実施形態の内の別の実施形態の他の構成要素とを備えてもよい。一例として、本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態は、図9に示されたバイオ燃料電池のカソードと同一の構造のカソードと、図1に示されたアノードと同一の構造のアノードとを備えてもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ燃料電池、即ち、生分解可能な基質で入手可能なエネルギーの一部を電気に変換するために酵素又は微生物(バクテリア、酵母)を用いるバイオ燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、バイオ燃料電池は、酵素と、グルコース、アセテートのような生分解可能な基質とを収容するチャンバ内に配置された電極を有するアノードから形成されている。酵素は、基質をCO2 、陽子及び電子に確実に変換させ、電子は、バイオ燃料電池のアノード電極に取り込まれる。電子のアノード電極への移動を改善するために、酸化還元中間媒体が用いられてもよい。バイオ燃料電池は更に、電子受容体が還元されるカソードを備えている。一例として、カソードは、空気が供給されるチャンバ内に配置された電極を備えており、酸素が還元されて水になる。酵素及び酸化還元中間媒体を伴う還元反応が、カソードで行われてもよい。バイオ燃料電池の電極が負荷に接続されており、イオンブリッジにより、イオンがアノードとカソードとの間で確実に移動する。
【0003】
ほとんどの研究グループによって現在提供されているバイオ燃料電池は、生分解可能な基質、及び基質の分解に関係する酵素の選択と、カソード及び/又はアノードでの酸化還元中間媒体の使用又は未使用とにより本質的に異なる。
【0004】
バイオ燃料電池の一例は、エル.ブルーネル(L.Brunel),ジェイ.デニール(J.Denele),ケー.セルバット(K.Servat),ケー.ビー.ココー(K.B.Kokoh),シー.ジョリヴァルト(C.Jolivalt),シー.イノセント(C.Innocent),エム.クレティン(M.Cretin),エム.ローランド(M.Rolland),エス.ティングリー(S.Tingry)共著,「膜が設けられていないグルコース/酸素バイオ燃料電池のためのラッカーゼバイオカソードを介した酸素の移動(Oxygen transport through laccase biocathodes for a membrane-less glucose/O2biofuel cell)」,電気化学通信(Electrochemistry Communications),第9版,2007年,p.331-336 に記載されている。バイオ燃料電池のこの例では、カソードで、酸素が、2,2’−アジノビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)、即ちABTSの中間媒体の存在下でラッカーゼ酵素によって還元されて水になる。アノードでは、グルコースが、8−ヒドロキシキノリン−5−スルホン酸水和物、即ちHQSの中間媒体の存在下でグルコース酸化酵素(GOD)によって酸化されてグルコノラクトンになる。
【0005】
一例として、グルコース酸化酵素の酸化体及び還元体を夫々GODox 及びGODredとし、酸化還元中間媒体の酸化体及び還元体を夫々Medox 及びMedredとすると、アノードでは、以下の反応が観察され得る。
Glucose + GODox → Gluconolactone+GODred (1)
GODred + Medox → GODox + Medred (2)
Medred → Medox + 2e- (3)
化学式3の反応は、アノード電極への電子の移動を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/106966号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在提供されているバイオ燃料電池の欠点は、酵素と反応して電子のアノード電極への移動を妨げる酸素により寄生反応がアノードで生じる可能性があるということである。前の例では、以下の反応が化学式2の反応と競合して、化学式3の反応が行われなくなる。
GODred + O2 → GODox + H2O2 (4)
【0008】
従って、酸素がアノードに達しないようにするための特別なデバイスが必要であり、複雑なシステムになる。
【0009】
現在提供されているバイオ燃料電池の別の欠点は、化学式2の反応が適切に行われるように酵素及び酸化還元中間媒体を表面に固定させる必要があるということである。従って、酵素の活動は表面に限定されることになり、そのために、効率が良いバイオ燃料電池を得ることが困難になる。
【0010】
本発明は、バイオ燃料電池の動作中に実行される反応が酸素の存在によって妨げられないバイオ燃料電池を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、人体で容易に実現され得る。
【0012】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、広範囲の酸化還元対を用いて得られる。
【0013】
本発明の別の目的によれば、前記バイオ燃料電池は、白金、ニッケル等の汚染物質を使用しない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明の一態様は、溶媒を収容して、溶媒に対して浸透性を有する壁によって隔離された第1及び第2のチャンバを備えた電池を提供する。第1の電極が、第1のチャンバ内に少なくとも部分的に配置されている。第2の電極が、第2のチャンバ内に少なくとも部分的に配置されている。第1の酸化還元対が、溶媒と接して第1のチャンバ内に配されており、第1の酸化還元反応に関係して第1の電極との電子の交換を引き起こす第1の酸化剤及び第1の還元剤を有している。第2の酸化還元対が、溶媒と接して第2のチャンバ内に配されており、第2の酸化還元反応に関係して第2の電極との電子の交換を引き起こす第2の酸化剤及び第2の還元剤を有している。前記壁は、第1及び第2の酸化還元対に対して不浸透性を有する。第1の酵素又は第1の微生物が、第1のチャンバ又は第2のチャンバ内に配されて、第1及び第2の酸化還元剤反応とは異なる第3の酸化還元剤反応を促進して、第1の物質を変化させて第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバの溶媒に第2の物質を与える。それにより、第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位間の電位差が生じるか、又は第1及び第2の酸化剤及び還元剤の濃度が維持される。
【0015】
一実施形態によれば、壁はヒドロニウムイオン及び/又はヒドロキシルイオンの通過を妨げるか又は少なくとも通過の速度を遅らせる。また電池は、第1のチャンバ内のpHを調整するための第1のデバイスを備えており、第1の酵素又は第1の微生物は第1の物質を変化させて第1のチャンバの溶媒にヒドロニウムイオン又はヒドロキシルイオンを与えることができる。これによって、第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位間に電位差が生じる。
【0016】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はキノンであり、第1の還元剤は前記キノンの還元体である。
【0017】
一実施形態によれば、第1の物質はD−グルコースであり、第1の酵素は、D−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。
【0018】
一実施形態によれば、第1の物質はL−グルコースであり、第1の酵素は、L−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なL−フコース脱水素酵素である。
【0019】
一実施形態によれば、第1の物質は尿素であり、第1の酵素は、尿素の分解によってヒドロキシルイオンを生成させることが可能なウレアーゼ酵素である。
【0020】
一実施形態によれば、第1の酸化還元対及び第2の酸化還元対は同一である。
【0021】
一実施形態によれば、第1のチャンバは、溶媒に対して浸透性を有し第1の酵素又は第1の微生物に対して不浸透性を有して、第1の電極が差し込まれている溶媒の体積を画定している膜を含んでおり、第1の酸化還元対は、前記体積の溶媒に溶解されて、第1の酵素又は前記第1の微生物は前記体積の溶媒の外側に配されている。
【0022】
一実施形態によれば、第1の酸化還元対は、少なくとも部分的に第1の電極を囲む固体相又はゲル相に配されている。
【0023】
一実施形態によれば、第1のチャンバ内のpHを調整するための第1のデバイスが、第1のチャンバ内の溶媒で第1の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能な第1の酵素又は第1の微生物を有している。電池は、第2のチャンバ内の溶媒で第3の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能な第2の酵素又は第2の微生物を有して第2のチャンバ内のpHを調整するための第2のデバイスを更に備えている。
【0024】
一実施形態によれば、電池は、第1のチャンバ内の溶媒で、場合によっては第3の物質と同一の第4の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能であり、場合によっては第2の酵素又は第2の微生物と同一の第3の酵素又は第3の微生物を有して第1のチャンバ内のpHを調整するための第3のデバイスを更に備えている。電池は更に、第2のチャンバ内の溶媒で、場合によっては第1の物質と同一の第5の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能であり、場合によっては第1の酵素又は第1の微生物と同一の第4の酵素又は第4の微生物を有して第2のチャンバ内のpHを調整するための第4のデバイスを備えている。電池は更に、第1及び第2のデバイスを作動させて第3及び第4のデバイスの動作を阻止することが可能であり、第3及び第4のデバイスを作動させて第1及び第2のデバイスの動作を阻止することが可能なデバイスを備えている。
【0025】
一実施形態によれば、電池は、第1の反応が第1の酸化剤から第1の還元剤への還元を含むとき、第1の還元剤を第1の酸化剤に変化させて、第1の反応が第1の還元剤から第1の酸化剤への酸化を含むとき、第1の酸化剤を第1の還元剤に変化させることが可能な第5の酵素又は第5の微生物を有する第1の酸化剤又は第1の還元剤を再生するためのデバイスを更に備えている。
【0026】
一実施形態によれば、第5の酵素は、酸素又は過酸化水素を消費して前記キノンの還元体の前記キノンへの酸化を促進可能なチロシナーゼ型の酵素又はペルオキシダーゼ型の酵素である。
【0027】
一実施形態によれば、電池は、第1のチャンバを第2のチャンバに接続する経路を更に備えており、経路には、開閉が制御され得る弁が設けられている。
【0028】
一実施形態によれば、電池は、第1の反応が第1の酸化剤から第1の還元剤への還元を含むとき、第2の物質を消費して第1の還元剤を第1の酸化剤に変化させて、第1の反応が第1の還元剤から第1の酸化剤への酸化を含むとき、第2の物質を消費して第1の酸化剤を第1の還元剤に変化させることが可能な第6の酵素又は第6の微生物を有している。
【0029】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はユビキノンであり、第1の還元剤はユビキノールであり、第1の物質はグルコースであり、第2の物質は過酸化水素である。第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。第2の酸化剤はキノンであり、第2の還元剤は前記キノンの還元体である。第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当する。
【0030】
一実施形態によれば、第1の酸化剤はデヒドロアスコルビン酸であり、第1の還元剤はアスコルビン酸塩であり、第1の物質はグルコースであり、第2の物質は過酸化水素である。第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素である。第2の酸化剤はキノンであり、第2の還元剤は前記キノンの還元体である。第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当する。
【0031】
本発明の前述及び他の目的、特徴及び利点を、添付図面を参照して本発明を限定するものではない特定の実施形態について以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図6】本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態を示す概略図である。
【図7】図4に示されたバイオ燃料電池の特定の構成要素の実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図9】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図10】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【図11】本発明に係るバイオ燃料電池の他の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
明瞭化のために、同一の要素は異なる図面において同一の参照番号で示されている。
【0034】
従来のバイオ燃料電池では、アノード電極によって取り込まれる電子が、酵素による生分解可能な基質の酸化によって直接生成される(場合によっては、酸化還元中間媒体が電極とのインターフェースとして存在する)。
【0035】
本発明に係るバイオ燃料電池の原理は、酵素又は微生物による基質の分解反応を使用することであって、アノード電極によって取り込まれる電子を直接生成させるのではなく、アノード電極及びカソード電極間の電位差の生成又は維持を促進することである。
【0036】
本発明に係るバイオ燃料電池の一実施形態によれば、アノード及びカソード間のpH差を得るために基質の分解を用いて、pHに応じて酸化還元電位が変わる1又は複数の酸化還元対をアノード及び/又はカソードで用いる。特には、アノード及びカソードで同一の酸化還元対を用いてもよい。バイオ燃料電池のアノード及びカソード間のpH差は、バイオ燃料電池の電極間に電位差をもたらす。
【0037】
本発明に係るバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、溶液中の酸化還元対の酸化剤及び還元剤の夫々の濃度に応じて酸化還元電位が変わる1又は複数の酸化還元対をアノード及び/又はカソードで用いる。従って、少なくとも1つの酸化還元対に関して、該酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との間の顕著な差の維持を促進してバイオ燃料電池の電極間に電位差を得るために、酵素又は微生物による基質の分解反応を用いる。
【0038】
本発明に係るバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、電位差がアノード電極及びカソード電極間に通常存在するように、アノードとカソードとで異なる酸化還元対を用いる。従って、酸化還元対の種の再生を促進してアノード及びカソードにおける酸化還元反応の持続性を確保するために、酵素又は微生物による基質の分解反応を用いる。
【0039】
前述したバイオ燃料電池の3つの実施形態は、組み合わせられてもよい。これにより、酵素又は微生物による基質の分解反応が同時に用いられて、アノード及びカソード間のpHの生成、及び/又は、アノード及び/又はカソードにおける酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との差の生成、及び/又は酸化還元対の種の再生を促進する。
【0040】
本発明に係るバイオ燃料電池は、アノード電極及びカソード電極間の電位差が酵素又は微生物による基質の分解を示す反応を伴うバイオ燃料電池である。更に、アノード電極に取り込まれる電子を直接与えるために酵素又は微生物による基質の分解反応が使用されていないので、アノードを二原子酸素から隔離する必要がない。このために、バイオ燃料電池の形成が簡略化される。更に、酵素又は微生物と、アノード電極に取り込まれる電子の生成に関係する酸化還元対との間に関連性がないため、酸化還元対の選択の自由度が更に広がる。更に、従来のバイオ燃料電池では、電子の生成を引き起こす反応が適切に行われるように酵素及び中間媒体を固定させる必要がある。従って、酵素の活動は表面に限定される。本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態では、酵素又は微生物は、電子の生成に直接関係せず、溶液に分散され得る。従って、酵素又は微生物の活動が溶液全体に広がり、表面に限定されない。このために、バイオ燃料電池の効率が向上する。
【0041】
酸化還元対の酸化還元電位がpHに応じて変わる場合における本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態について以下に説明する。
【0042】
Ox1/Red1がバイオ燃料電池のカソードで使用される酸化還元対であるとする。酸化還元対Ox1/Red1の酸化還元電位E1が、pH1 と呼ばれるカソードのpHに応じて変わる。酸化還元対Ox1/Red1に関する電子的半反応は以下に示す通りである。
Ox1 + ne- + qH+ = Red1 + q/2H2O (5)
尚、n及びqは整数である。酸化還元対Ox1/Red1の酸化還元電位E1は、ネルンストの法則によれは、以下に示すように表され得る。
【0043】
【化1】
【0044】
Ox2/Red2がバイオ燃料電池のアノードで使用される酸化還元対であるとする。酸化還元対Ox2/Red2の酸化還元電位E2は、pH2 と呼ばれるアノードのpHに応じて変わる。酸化還元対Ox2/Red2に関する電子的半反応は以下に示す通りである。
Ox2 + n’e- + q’H+ = Red2 + q’/2H2O (7)
尚、n’及びq’は整数である。酸化還元対Ox2/Red2の酸化還元電位E2は、ネルンストの法則によれは、以下に示すように表され得る。
【0045】
【化2】
【0046】
バイオ燃料電池の電極間の電位差ΔEは、以下に示すように表され得る。
【0047】
【化3】
【0048】
整数n,q,n’及びq’が1に等しいとき、濃度が最初等しく、僅かしか変化しないと考えると、化学式9は以下に示すように表され得る。
【0049】
【化4】
【0050】
本発明は、複数のチャンバの内の1つで、酵素若しくは微生物を伴いチャンバ内の溶液のpHの低下を引き起こす第1群の化学反応、又は酵素若しくは微生物を伴いチャンバ内の溶液のpHの上昇を引き起こす第2群の化学反応を少なくとも促進する。バイオ燃料電池は更に、アノード及びカソード間のpH差を維持するために、バイオ燃料電池のアノード及びカソード間に塩橋を形成して、アノード及びカソード間でのH+イオン又はOH- イオンの移動を防止又は低減するデバイスを備える。
【0051】
H+イオンの形成、ひいてはpHの低下を引き起こすあらゆる反応が、第1群の反応に適している。特には、(H+イオンを放出可能な)グルコン酸及び過酸化水素が形成されることになるグルコース酸化酵素(GOD)によるD−グルコース又はグルコースのD立体異性体の酸化が適している。過酸化水素は有毒な場合があるが、必要であればカタラーゼ酵素によって分解され得る。カタラーゼ酵素は、二原子酸素を再生可能であり、従って、過酸化水素の潜在的な有害作用に対して有機体を保護する。関係する反応は以下に示す通りである。
【0052】
【化5】
【0053】
第1群の反応は、L−フコース脱水素酵素によるL−グルコース又はグルコースのL立体異性体の酸化に相当してもよい。関係する反応は以下に示す通りである。
【0054】
【化6】
【0055】
溶液をアルカリ化すべく本発明によって実施される第2群の反応は、アンモニウムイオンNH4+及びヒドロキシルイオンOH- が形成されることになるウレアーゼ酵素による尿素の分解に相当してもよい。関係する反応は以下に示す通りである。
【0056】
【化7】
【0057】
化学式11及び化学式13の夫々の反応は、血糖に関するグルコースであるD−グルコースと尿素とを言うまでもなく含有する生体溶液を用いて直接実施可能であるという利点を有する。化学式12の反応は、NADP化合物を言うまでもなく含有する生体溶液を用いて容易に実施可能である。従って、生体溶液にL−グルコースを加える必要がある。
【0058】
図1は、本発明に係るバイオ燃料電池10の実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池10は筐体12を備えており、筐体12には、以下に詳細に説明される機能を有する膜16によって隔離された2つのチャンバ14A、14Bが画定されている。本実施形態では、バイオ燃料電池10の少なくとも動作段階中に、バイオ燃料電池10によって供給される電力が、チャンバ14Aで行われる還元反応とチャンバ14Bで行われる酸化反応とによって生成されており、従って、チャンバ14Aはカソードチャンバと呼ばれ、チャンバ14Bはアノードチャンバと呼ばれる。バイオ燃料電池10のカソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bは、少なくとも部分的に相互に対称であり、同一の参照番号を用いてチャンバの同一の構成要素を示している。但し、カソードチャンバ14Aの構成要素には接尾語Aを付し、アノードチャンバ14Bの構成要素には接尾語Bを付している。
【0059】
カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bは、電極18A及び電極18Bを夫々備えており、電極18A及び電極18Bは、例えば金属、合金、炭素、導電性高分子、半導体材料、又はこれらの材料の混合物のような良好な電子導体である材料から形成されている。各電極18A、18Bは、半浸透性膜20A、20Bによって体積が画定されている第1の溶液19A、19Bに差し込まれている。半浸透性膜20A、20Bは、半浸透性膜20A、20B及び半浸透性膜22A、22Bによって体積が画定されている第2の溶液21A、21Bに設けられている。半浸透性膜22A、22Bは、半浸透性膜22A、22B、筐体12及び膜16によって体積が画定されている溶液23A、23Bに設けられている。電極18A、18Bは、負荷24に接続されている。
【0060】
酸化還元対Ox1/Red1は溶液19Aに溶解され、酸化還元対Ox2/Red2は溶液19Bに溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは同一である。酸化還元対は、例えば、分子式がC6H4(OH)2 のヒドロキノン又はベンゼン−1、4−ジオールを還元剤Red1として有し、ヒドロキノンの酸化体に相当する酸化剤Ox1 を有する酸化還元対である。より具体的には、酸化剤Ox1 は、分子式C6H4O2を有し、1,4−シクロヘキサジエンジオン、1,4−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン又はパラベンゾキノンとも呼ばれるシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオンに相当する。以下の説明では、ベンゾキノンという用語は、シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオンを示すために用いられる。
【0061】
カソードチャンバ14Aでは、溶液19Aで促進されるベンゾキノンをヒドロキノンに還元する電子的半反応は以下に示す通りである。
C6H4O2 + 2H+ + 2e- → C6H4(OH)2 (14)
【0062】
溶液21Aでは、前述した化学式11又は化学式12の反応が優先して行われる。一例として、GOD酵素が溶液21Aに加えられる。膜20A及び膜22Aは、GOD酵素のマイグレーションを妨げるべく選択されている。膜20Aは、酸化還元対Ox1/Red1の拡散を制限するために、ベンゾキノン又はヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されてもよい。更に膜22Aは、グルコース及びグルコン酸塩に対して浸透性を有するように選択されている。
【0063】
膜20A及び膜22Aは、透析膜であってもよい。その場合、膜20Aのカットオフ閾値が約100ダルトンであり、膜22Aのカットオフ閾値が約4,000乃至60,000ダルトンであってもよい。膜20A又は膜22Aは負荷膜に相当してもよい。
【0064】
特に酸化還元対Ox1/Red1がGOD酵素に対して抑制作用を備えない場合、膜20Aを抑制することが望ましい。この場合、分子量がベンゾキノン/ヒドロキノン対より大きい分子に相当する酸化還元対Ox1/Red1を用いることにより、膜22Aが透析膜であるとき、膜22Aの閾値が、酸化還元対Ox1/Red1を保持するべく十分低く、グルコース及びグルコン酸塩のマイグレーションを可能にすべく十分高くなることが利点である。
【0065】
アノードチャンバ14Bでは、溶液19Bで促進されるヒドロキノンを酸化する電子的半反応は以下に示す通りである。
C6H4(OH)2 → C6H4O2 + 2H++ 2e- (15)
【0066】
溶液21Bでは、化学式13の反応が優先して行われる。一例として、ウレアーゼ酵素が溶液21Bに加えられる。ベンゾキノン及びヒドロキノンはウレアーゼ酵素を抑制する傾向があるので、膜20Bは、ウレアーゼ酵素、ベンゾキノン及びヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されている。更に、膜22Bは、ウレアーゼ酵素の通過を妨げて、尿素、アンモニウムイオンNH4+及びヒドロキシルイオンOH- を通過させるべく選択されている。
【0067】
一例として、膜20B及び膜22Bは透析膜に相当する。この場合、膜20Bのカットオフ閾値が約100ダルトンであり、膜22Bのカットオフ閾値が約4,000乃至60,000ダルトンであってもよい。膜20B又は膜22Bは負荷膜に相当してもよい。
【0068】
膜16、20A、22A、20B、22Bは、溶液19A、19B、21A、21B、23A、23Bを形成する溶媒に対して浸透性を有する。膜16は、チャンバ14A及びチャンバ14B間のイオン平衡を確保することができる。膜16は、例えば、有機又は無機のゲル又はヒドロゲルから形成された膜、膜浸透たんぱく質に関する脂質膜から形成された膜、イオン導電性高分子に関する脂質膜から形成された膜等である。一例として、膜16は、塩化カリウム(KCl)が加えられた寒天又はアガロースのようなゲル膜に相当する。このような膜16は、カソードチャンバ14Aからアノードチャンバ14BへのH+イオンのマイグレーション及びアノードチャンバ14Bからカソードチャンバ14AへのOH- イオンのマイグレーションを妨げて又は少なくとも十分に低下させる。K+イオンのアノードチャンバ14Bへの放出、及びCl- イオンのカソードチャンバ14Aへの放出を可能にして溶液の全体的なイオン平衡を確保するために、このような膜16は、K+イオン及びCl- イオンが担持されている。膜16は、一方のチャンバ14A、14Bから他方のチャンバへのH+イオン及びOH- イオンの移動を制限することによって、チャンバ14A及びチャンバ14B間のpH差を確実に維持している。
【0069】
図示していない手段によってグルコースを含む溶液23A及び尿素を含む溶液23Bの供給が可能である。このために、筐体12が、グルコース及び尿素を含有する溶液、例えば生体溶液中に設けられてもよい。その場合、筐体12に1又は複数の弁が設けられて、弁が開いているときに、溶液23A、23Bを外部と連通可能としてもよい。一例として、グルコース及び尿素を通過させるために、筐体12全体は、カットオフ閾値が十分高い半浸透性膜から形成されてもよい。
【0070】
一般的に、電極18A、18Bの形状は、酸化還元対Ox1/Red1及び酸化還元対Ox2/Red2との可能な限り効率的な電子交換を確保すべく適合されている。一例として、電極18A、18Bは、グリッド状であってもよい。
【0071】
バイオ燃料電池10は、以下の通り動作する。まず、溶液19A及び溶液19Bが、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでいるものとする。溶液19A及び溶液19BのpHは夫々、略同一であり、例えば約7である。従って、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位は、最初略等しい。グルコースが溶液23Aに導入されて、尿素が溶液23Bに導入される。溶液21Aでのグルコースの分解反応により、溶液21A、次いで溶液21Aに囲まれている溶液19AのpHが低下する。溶液19AでのpHの低下は、カソードチャンバ14Aでのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位の上昇として解釈する。同時に、溶液21Bでの尿素の分解反応により、溶液21B、次いで溶液21Bに囲まれている溶液19BのpHが上昇する。溶液19BでのpHの上昇は、カソードチャンバ14Bでのベンゾキノン/ヒドロキノン対の酸化還元電位の低下として解釈する。化学式9によって与えられる電極18B及び電極18A間の電位差が得られる。このように、カソードチャンバ14Aで化学式14の電子的半反応が行われて、アノードチャンバ14Bで化学式15の電子的半反応が行われる。
【0072】
出願人は、0.30Vの電位差△Eに対して表面電力が2.4 μW/cm2 であり、10.2μWの電力を提供するバイオ燃料電池10を得ている。
【0073】
変形例によれば、膜20Aを囲んで、ナフィオンとして公知である材料から形成された負荷膜に相当する追加の膜が設けられてもよい。このような膜によって、陽イオン及びグルコースを通過させながら、陰イオン、例えば重炭酸塩陰イオンHCO3- のマイグレーションを妨げることが可能になる。これにより、グルコース供給溶液、例えば生体溶液に存在する陰イオンに起因する溶液19AでのpHの変動を回避することが可能になる。膜20Bを囲んで、陽イオンの横断を妨げて陰イオンを通過させる負荷膜に相当する追加の膜が設けられてもよい。これにより、尿素供給溶液、例えば生体溶液に存在する陽イオンに起因する溶液19BでのpHの変動を回避することが可能になる。
【0074】
ベンゾキノン/ヒドロキノン対以外の酸化還元対が用いられてもよい。例えば、酸化剤としてキノンを有し、還元剤として前記キノンの還元体を有する酸化還元対が用いられてもよい。更に、前述した実施形態では、同一の酸化還元対が、アノードチャンバ及びカソードチャンバで用いられている。しかしながら、アノードチャンバに第1の酸化還元対が用いられて、カソードチャンバに第1の酸化還元対とは異なる第2の酸化還元対が用いられてもよい。この場合、チャンバ14A、14BのpHが同一であるとき、チャンバ14A、14Bの第1及び第2の酸化還元対の酸化還元電位が、化学式9に応じて最初異なってもよい。そのため、チャンバ14A、14B内の酵素の作用に起因するpHの差を用いて、チャンバ14A及びチャンバ14B間の電位差が更に増大され得る。
【0075】
前述した実施形態では、pHが、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bの両方で変動している。しかしながら、カソードチャンバ14A及びアノードチャンバ14Bで同一の酸化還元対が用いられたか、又は異なる酸化還元対が用いられたかに関わらず、チャンバ14A、14Bの内の一方でのpHの変動が、カソードチャンバ14Aに存在する酸化還元対の酸化還元電位と、アノードチャンバ14Bに存在する酸化還元対の酸化還元電位との間の適切な差を得るのに十分である。一例として、前述した実施形態と比較すると、ウレアーゼ酵素及び場合によっては抑制膜22Bを用いずに、グルコース酸化酵素GODのみが溶液21Aに加えられてもよい。溶液19Bは、生体溶液である場合、略中性又は僅かにアルカリ性のpHを有する。実際には、GOD酵素によるグルコースの酸化に起因して溶液19AのpHが低下すると、溶液19Bのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位に対して溶液19Aのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位が上昇する。これによって、カソードチャンバ14Aにおける化学式14の半反応及びアノードチャンバ14Bにおける化学式15の半反応を確立することが可能になる。別の例によれば、ウレアーゼ酵素のみが溶液21Bに加えられて、GOD酵素は加えられずに膜21Aが抑制される。実際には、ウレアーゼ酵素による尿素の分解に起因して溶液19BのpHが上昇すると、溶液19Aのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位に対して溶液19Bのベンゾキノン/ヒドロキノン酸化還元対の酸化還元電位が低下する。これによって、カソードチャンバ14Aにおける化学式14の半反応及びアノードチャンバ14Bにおける化学式15の半反応を確立することが可能になる。
【0076】
前述したバイオ燃料電池10の動作中に、カソードチャンバ14Aでベンゾキノンを消費することによりヒドロキノンが生成されて、アノードチャンバ14Bでヒドロキノンを消費することによりベンゾキノンが生成される。従って、化学式14及び化学式15の反応は、カソードチャンバ14Aでベンゾキノン濃度が低過ぎて、アノードチャンバ14Bでヒドロキノン濃度が低過ぎる場合に抑制される。燃料電池10の動作の停止を回避するために、複数の実行可能な対策が提供される。
【0077】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の実施形態によれば、バイオ燃料電池は、化学式14の反応がカソードチャンバ14Aで続行して化学式15の反応がアノードチャンバ14Bで続行するように、カソードチャンバ14Aに対してベンゾキノンを排出/供給し、アノードチャンバ14Bに対してヒドロキノンを排出/供給するための手段を備える。
【0078】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、チャンバ14A及びチャンバ14Bに存在する酸化還元対は、可逆であるように選択されている。ベンゾキノン/ヒドロキノン対の場合がこれに該当する。膜20A、溶液19A及び電極18Aにより形成された組立体が、溶液21Aから除かれて、溶液21Bに配置されてもよい。更に、膜20B、溶液19B及び電極18Bにより形成された組立体が、溶液21Bから除かれて、溶液21Aに配置されてもよい。この交換は、化学式14及び化学式15の反応が停止しそうになれば直ちに行われる。この交換が行われて、pHが安定すると、アノードチャンバ14Bにヒドロキノンが補充され、カソードチャンバ14Aにベンゾキノンが補充されるので、化学式14及び化学式15の反応は続行可能である。
【0079】
チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池の別の実施形態によれば、チャンバ14A及びチャンバ14Bに存在する酸化還元対は、可逆であるように選択されている。化学式14及び化学式15の反応が停止しそうになると、電極18A、18Bは、チャンバ14A、14Bで化学式14及び化学式15の半反応と逆の半反応が行われるのに十分な電源、即ち、アノードチャンバ14Bではキノンからヒドロキノンへの還元を促進し、カソードチャンバ14Aではヒドロキノンからベンゾキノンへの酸化を促進するのに十分な電源に接続される。
【0080】
図2は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池30の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池30は、開口部33Aを介して溶液19Aと連通する補助筐体32Aを備えている。弁34Aが開けられたとき、補助筐体32Aの内容物が溶液19Aと連通した状態になる。半浸透性膜35Aが、補助筐体32Aの内容物を溶液19Aから隔離する。補助筐体32Aは、ヒドロキノンからベンゾキノンを生成できる1又は複数の酵素を含んでいる。膜35Aは、筐体32Aに含まれている酵素のマイグレーションを妨げて、ベンゾキノン及びヒドロキノンを通過させるべく選択されている。
【0081】
一例として、補助筐体32A内に存在する酵素は、ポリフエノールオキシダーゼ型のチロシナーゼであり、以下の反応を促進する。
【0082】
【化8】
【0083】
別の例によれば、酵素は、過酸化水素の存在下で以下の反応を促進するペルオキシダーゼである。
【0084】
【化9】
【0085】
バイオ燃料電池30は、以下の通り動作する。通常の動作では、弁34Aが閉鎖されており、バイオ燃料電池30の動作は、バイオ燃料電池10に関して前述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があるとき、弁34Aが開けられる。その後、ヒドロキノンが補助筐体32Aに浸透し、補助筐体32Aでヒドロキノンは補助筐体32A内に存在する酵素の作用を受けてベンゾキノンに変わる。ベンゾキノンの濃度が十分なときに、弁34Aが閉じられる。
【0086】
アノードチャンバ24Bにおけるヒドロキノンの補充は、溶液19Bにヒドロキノンを加えることによって行われ得る。
【0087】
図3は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bへの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池36の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池36は、バイオ燃料電池30の全ての構成要素を備えて、更に補助筐体32Aと同様の補助筐体32Bをアノードチャンバ14Bに備えている。
【0088】
補助筐体32Bは、ベンゾキノンからヒドロキノンを生成できる1又は複数の酵素を含んでいる。膜35Bは、筐体32Bに含まれている酵素のマイグレーションを妨げて、ベンゾキノン及びヒドロキノンを通過させるべく選択されている。
【0089】
一例として、補助筐体32B内に存在する酵素はジアフォラーゼであり、以下の反応を促進する。
【0090】
【化10】
【0091】
バイオ燃料電池36は、NADPH化合物を補助筐体32Bに供給する手段を備えている。ヒドロキノンを溶液19Bに供給するのではなく、NADPH化合物を補助筐体32Bに供給することが利点である。このため、ベンゾキノン及びヒドロキノンの濃度が制限された範囲に維持され得る。
【0092】
別の例によれば、補助筐体32B内に存在する酵素は、化学式18の反応と同一の反応を促進するパラベンゾキノンレダクターゼである。
【0093】
別の例によれば、補助筐体32B内に存在する酵素は、L−リンゴ酸脱水素酵素であり、以下の反応を促進する。
【0094】
【化11】
【0095】
以下に、バイオ燃料電池36の動作について説明する。通常の動作では、弁34A及び34Bが閉じており、バイオ燃料電池36の動作は、バイオ燃料電池10に関して前述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があり、アノードチャンバ14Bのヒドロキノンの濃度を上昇させる必要があるとき、弁34A及び34Bが開けられる。その後、ヒドロキノンが補助筐体32Aに浸透し、補助筐体32Aではヒドロキノンが筐体32A内に存在する酵素の働きを受けて、ベンゾキノンに変わる。また、ベンゾキノンが補助筐体32Bに浸透し、補助筐体32Bではベンゾキノンが筐体32B内に存在する酵素の働きを受けてヒドロキノンに変わる。ベンゾキノン及びヒドロキノンの濃度が十分であるとき、弁34A及び34Bが閉じられる。
【0096】
バイオ燃料電池36の変形例によれば、補助筐体32Bのみが設けられてもよい。その場合、カソードチャンバ14Aのベンゾキノンの補充は、溶液19Aにベンゾキノンを供給することによって行われ得る。
【0097】
図4は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池37の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池37は、バイオ燃料電池10の全ての構成要素を備えて、更に一端部が溶液19Aに連通して、他端部が溶液19Bに連通している密閉性のダクト38を備えている。ダクト38に弁39が設けられている。弁39を制御するための手段は図示されていない。
【0098】
以下に、バイオ燃料電池37の動作について説明する。通常の動作では、弁39が閉じられており、バイオ燃料電池37の動作は、バイオ燃料電池10に関して上述した動作と同一である。カソードチャンバ14A内のベンゾキノンの濃度を上昇させる必要があり、アノードチャンバ14B内のヒドロキノンの濃度を上昇させる必要があるときに、弁39が開けられる。その後、ヒドロキノンは溶液19Aから溶液19Bに広がり、ベンゾキノンは溶液19Bから溶液19Aに広がる。溶液19A及び19Bでヒドロキノン及びベンゾキノンの濃度が略等しいとき、弁39は閉じられる。
【0099】
図5は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池40の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池40は、膜22A及び膜22B以外は、図1に示されたバイオ燃料電池10と同一の構成要素を備えている。更に、バイオ燃料電池40は、4つのpH調整デバイス42C、42D、42E、42Fを備えている。以下の説明では、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fに夫々関連する構成要素を示すために、接尾語「C」、「D」、「E」、「F」が付与されている。pH調整デバイス42Cについてのみ説明する。pH調整デバイス42Cは、密閉性の筐体44Cと弁46Cとを備えている。弁46Cが開かれたとき、補助筐体44Cの内容物が外部媒体と連通した状態になる。pH調整デバイス42Cは、弁48Cを更に備えており、弁48Cが開かれたとき、補助筐体44Cの内容物が溶液23Aと連通した状態になる。pH調整デバイス42Cは、弁46Cと補助筐体44Cの内容物との間に配置された膜50Cと、弁48Cと補助筐体44Cの内容物との間に配置された膜52Cとを備えている。pH調整デバイス42D、42E、42Fは、pH調整デバイス42Cと同様の構造を有しており、pH調整デバイス42Eの弁48Eはチャンバ14A側に設けられており、pH調整デバイス42Dの弁48D及びpH調整デバイス42Fの弁48Fはチャンバ14B側に設けられている。
【0100】
pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dは、pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dが夫々収容する溶液のpHの低下を可能にするタイプである。一例として、pH調整デバイス42C及びpH調整デバイス42Dは、前述した化学式11の反応に応じて、関連した補助筐体44C及び補助筐体44Dに夫々収容されている溶液を酸性にすることを可能にする。pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fは、pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fが夫々収容する溶液のpHの上昇を可能にするタイプである。一例として、pH調整デバイス42E及びpH調整デバイス42Fは、前述した化学式13の反応に応じて、関連した補助筐体44E及び補助筐体44Fに夫々収容されている溶液をアルカリにすることを可能にする。
【0101】
バイオ燃料電池40の動作例は、以下に示す通りである。以下に説明する弁48C、48D、48E、48Fの開放サイクルの間に、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの弁46C、46D、46E、46Fが制御されて、補助筐体44C、44D、44E、44Fが所望のpHを有する溶液を収容するように、補助筐体44C、44D、44E、44Fにグルコース及び/又は尿素が供給される。まず、溶液19A及び溶液19Bは同一のpHを有する。第1の動作段階で、弁48Cが開けられ、弁48Dが閉じられて、弁48Eが閉じられ、弁48Fが開けられる。次に、pH調整デバイス42CによってH+イオンがチャンバ14Aに放出されて溶液19AのpHが低下して、pH調整デバイス42FによってOH- イオンが放出されて溶液19BのpHが上昇する。溶液19AのpHの低下は、チャンバ14A内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の上昇として解釈して、溶液19BのpHの上昇は、チャンバ14B内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の低下として解釈する。前述した化学式14の還元反応がチャンバ14Aで行われて、前述した化学式15の酸化反応がチャンバ14Bで行われる。従って、アノード電極の役割を果たす電極18Bからカソード電極の役割を果たす電極18Aへの電子の移動が、負荷24を介して観察され得る。
【0102】
第2の動作段階では、弁48Cが閉じられ、弁48Dが開けられて、弁48Eが開けられ、弁48Fが閉じられる。次に、pH調整デバイス42DによってH+イオンが放出されて、これにより、溶液19BのpHが低下する。同時に、pH調整デバイス42EによってOH- イオンが放出されて、これにより、溶液19AのpHが低下する。溶液19BのpHの低下は、チャンバ14B内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の上昇として解釈して、溶液19AのpHの上昇が、チャンバ14A内に存在する酸化還元対の酸化還元電位の低下として解釈する。前述した化学式14の還元反応がチャンバ14Bで行われて、前述した化学式15の酸化反応がチャンバ14Aで行われる。従って、アノード電極の役割を果たす電極18Aからカソード電極の役割を果たす電極18Bへの電子の移動が、負荷24を介して観察され得る。従って、バイオ燃料電池40の極性は、第1の動作段階に対して第2の動作段階で反転される。第1の動作段階及び第2の動作段階は、周期的に交換され得る。
【0103】
図6は、チャンバ14A及びチャンバ14B内に存在する酸化還元対が可逆酸化還元対であるとき、チャンバ14A、14Bの化学種の補充を可能にするバイオ燃料電池60の別の実施形態を示している。バイオ燃料電池60は、バイオ燃料電池10と同一の膜20A、20B、22A、22Bの構成を備えてもよい。pHの低下を引き起こす反応、例えば前述した化学式11又は化学式12の反応を促進する酵素が、溶液21A内に配置された複数の容器62Cと溶液21B内に配置された複数の容器62Dとに収容されている。pHの上昇を引き起こす反応、例えば前述した化学式13の反応を促進する酵素が、溶液21A内に配置された複数の容器62Eと溶液21B内に配置された複数の容器62Fとに収容されている。
【0104】
各容器62C、62D、62E、62Fは、略密閉状態である「閉鎖」と呼ばれる第1の構成、即ち、容器62C、62D、62E、62Fの内容物が溶液21A、21Bと全く連通しないか又は僅かしか連通しない構成から、容器の内容物が溶液21A、21Bと連通する「開放」と呼ばれる第2の構成に切り替えられ得る。容器62C、62D、62E、62Fの開閉は、電気的に制御されてもよい。一例として、各容器62C、62D、62E、62Fは、2つの制御端子64C、64D、64E、64F及び制御端子66C、66D、66E、66Fを有しており、関連する制御端子64C、64D、64E、64F及び制御端子66C、66D、66E、66F間に印加される電圧に応じて構成を変えてもよい。容器62C、62D、62E、62Fは、2つの電送路68C、68D、68E、68F及び電送路70C、70D、70E、70F間に平行に組み立てられている。電送路68C、68D、68E、68Fと電送路70C、70D、70E、70Fとの間に電圧VC〜VFを印加して、関連する容器62C、62D、62E、62Fの開閉を制御する。
【0105】
図7は、1つの容器62Cの実施形態を概略的に示している。容器62D、62E、62Fは、容器62Cと同様の構造を有してもよい。容器62Cは、蓋74によって閉じられている箱72の形状を有しており、蓋74は、蓋74を除いた残りの箱72にヒンジ76によって接続されている。ヒンジ76は、電気活性材料、例えば電気活性高分子から形成されている。例えば電気活性高分子は、マイクロマッスル社(Micromuscle Company)が販売する電気活性高分子であってもよい。電気活性高分子には複数の型がある。電気活性高分子は、IPMC(イオン伝導性高分子金属複合体)型であってもよく、水が充填された網状の多価電解質高分子の膜に相当してもよい。なお、膜の2面に電極が形成されている。IPMCでは、2つの電極間に電場が印加されると、膜内でイオンが移動して、これによって各電極付近で溶媒の分布が変わり、ひいては膜が変形する。電気活性高分子は、導電性高分子(CP)であってもよく、導電性高分子は、電圧を印加されると、酸化還元反応によって電子を容易に損失/取得する性質を有する。導電性高分子は、イオンを含有する溶液に含有されると、浸透性を有する一部のイオンを誘引/反発して、導電性高分子が変形する。電気活性高分子は、2つの柔軟電極間に配置されたエラストマーフィルムを備えた誘電性高分子であってもよい。柔軟電極は、電場を印加されたときに相互に誘引し合ってエラストマーを圧縮する。端子64Cがヒンジ76の表面に接続されて、端子66Cが対向する面に接続されている。一例として、端子64C及び端子66C間に電圧が印加されていないとき、ヒンジ76は、蓋74が開いた構成である。端子64C及び端子66C間に十分な電圧が印加されているとき、ヒンジ76は、蓋74が箱72上で閉じた構成である。容器は他の形状を有してもよいが、容器の形状は、容器が閉じたときに適度な密閉性を得るべく適合されている必要がある。
【0106】
バイオ燃料電池60の動作は、バイオ燃料電池40に関して前述した動作と同一である。但し、容器62C、62D、62E、62Fは夫々、pH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの役割を果たしている。バイオ燃料電池40のpH調整デバイス42C、42D、42E、42Fの弁48C、48D、48E、48Fの開放(逆に、閉鎖)は、バイオ燃料電池60の容器62C、62D、62E、62Fの開放(逆に、閉鎖)に相当する。
【0107】
図8は、バイオ燃料電池70の別の実施形態を示している。図1に示されたバイオ燃料電池10と比較すると、酸化還元対Ox1/Red1が、電極18Aを覆って溶液21Aに設けられている固体相又はゲル多孔相72Aに配されている。同様に、酸化還元対Ox2/Red2が、電極18Bを覆って溶液21Bに設けられている固体相又はゲル多孔相72Bに配されている。この場合、膜20A及び膜20Bが設けられていない。固体相又はゲル多孔相に酸化還元対を固定することにより、バイオ燃料電池70の全体的な寸法が低減され得る。
【0108】
図9は、バイオ燃料電池80の別の実施形態を示している。図8に示されたバイオ燃料電池70と比較すると、カソードでのpHの低下に関する酵素が、電極72Aを覆って溶液23Aに設けられている固体相又はゲル多孔相82Aに配されている。同様に、pHの上昇に関する酵素が、電極72Bを覆って溶液23Bに設けられている固体相又はゲル多孔相82Bに配されている。この場合、膜22A及び膜22Bが設けられていない。固体相又はゲル多孔相にpHの調整に関する酵素を固定することにより、バイオ燃料電池80の全体的な寸法が低減され得る。これによって、pHの変動が始まる体積を、pHに応じて酸化還元電位が変わる酸化還元対を含有する体積に可能な限り近づけることが可能になる。このため、電池の効率が向上され得る。
【0109】
酸化還元対の化学種の再生を促進するために、及び/又は複数の酸化還元対の内の少なくとも1つに関して酸化還元対の酸化剤の濃度と還元剤の濃度との差の発生を促進して酸化還元対の酸化還元電位を変更するために、酵素又は微生物による生分解可能な基質の分解反応を用いる場合における本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態について以下に説明する。
【0110】
図10は、本発明に係るバイオ燃料電池90の一実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池90は、半浸透性膜から形成されて、例えば水溶液、有機溶媒、ゲル、ペースト、高分子等の内容物94を囲む液嚢92を備えている。電極96が、内容物94に設けられている。半浸透性膜から形成された別の液嚢98が、内容物94に配置されている。液嚢98は溶液100を収容している。電極102が溶液100に設けられている。電極96、102が負荷104に接続されている。液嚢92は溶液106に設けられている。
【0111】
酸化還元対Ox1/Red1は溶液100に溶解されて、酸化還元対Ox2/Red2は内容物94に溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは異なる。一例として、還元剤Red1は、QH2 と示されるヒドロキノンであり、酸化剤Ox1 は、Qと示されてヒドロキノンの酸化体、即ちベンゾキノンである。溶液100では、化学式14に応じたベンゾキノンからヒドロキノンへの還元が促進される。一例として、酸化剤Ox2 は、Uと示されてC59H90O4の分子式を有するユビキノンであり、還元剤Red2は、UH2 と示されてユビキノンの還元体、即ちユビキノールである。内容物94では、以下の反応に応じてユビキノンの還元体UH2 をユビキノンUに酸化する反応が促進される。
UH2 → U + 2H+ + 2e- (20)
【0112】
膜98は、ベンゾキノン及びヒドロキノンのマイグレーションを妨げるべく選択されている。溶液106はグルコースを含有している。溶液106は、例えば生体溶液である。グルコース酸化酵素GODは内容物94に配されている。膜92は、グルコースを通過させて、GOD酵素、ユビキノン、及びユビキノンの還元体のマイグレーションを妨げるべく選択されている。2つのグルコース酸化反応が、内容物94で行われる。第1のグルコース酸化反応は、以下の反応に相当する。
【0113】
【化12】
【0114】
第2のグルコース酸化反応は、以下の反応に相当する。
【0115】
【化13】
【0116】
従って、化学式22の反応によって、内容物94でユビキノンの還元体を再生することが可能になる。
【0117】
ヒドロキノンからのベンゾキノンの形成を促進可能な酵素が、溶液100に配されている。前記酵素は、例えばペルオキシダーゼ酵素である。膜98は、ペルオキシダーゼ酵素のマイグレーションを妨げて、過酸化水素(H2O2)を通過させるべく選択されている。ペルオキシダーゼ酵素は、前述した化学式17の反応を促進する。化学式17の反応に必要な過酸化水素は、内容物94で行われる化学式21の反応により生成される。本実施形態では、化学式21の反応が行われるように内容物94に酸素が加えられる必要がある。従来のバイオ燃料電池とは異なり、酸素の存在はバイオ燃料電池90の動作を妨げない。
【0118】
代替の実施形態によれば、溶液100でのヒドロキノン及び酸素からのベンゾキノンの生成を促進するポリフエノールオキシダーゼ酵素が、更に溶液100に加えられている。この反応は、化学式17の反応と同時に行われてもよい。
【0119】
バイオ燃料電池90は、以下の通り動作する。まず、溶液100は、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでおり、内容物94は、同一の濃度のユビキノンとユビキノンの還元体とを含んでもよい。この場合、ベンゾキノン/ヒドロキノンの酸化還元対の標準酸化還元電位は、25℃で約0.7 Vであり、ユビキノン/ユビキノンの還元体の酸化還元対の標準酸化還元電位は、25℃で約0.5 Vである。
【0120】
電極96、102が負荷104に接続される前に、化学式22及び化学式17の再生反応が行われる。それにより、内容物94にGOD酵素、D−グルコース及びユビキノンが存在すると、化学式22の反応に応じてユビキノールUH2 が生成される。そのため、ユビキノールUH2 の濃度が経時的に上昇する。従って、ユビキノンUの濃度とユビキノールUH2 の濃度との比率が低下して、酸化還元対U/UH2 の酸化還元電位が低下する(化学式8参照)。更に溶液100では、ペルオキシダーゼ酵素が、化学式17の反応に応じて過酸化水素及びヒドロキノンを消費する。そのため、ヒドロキノンQH2 の濃度は、経時的に低下する。従って、ベンゾキノンQの濃度とヒドロキノンQH2 の濃度との比率が上昇して、酸化還元対Q/QH2 の酸化還元電位が上昇する(化学式6参照)。酸化還元対の酸化体又は還元体の濃度を変えるだけで、酸化還元対Q/QH2 と酸化還元対U/UH2 との間に、このように電位差が生じる。濃度の比率に影響を及ぼすことによって生じるこの電位差が、酸化還元対Q/QH2 及び酸化還元対U/UH2 の標準電位の差に起因する電位差に加えられる。
【0121】
電極96及び電極102が負荷104に接続されているとき、溶液100では化学式14のベンゾキノンの還元反応が行われ易くなり、内容物94では化学式20のユビキノールUH2 の酸化反応が行われ易くなる。同時に、化学式22及び化学式17の再生反応が行われる。
【0122】
図11は、本発明に係るバイオ燃料電池110の実施形態を概略的に示している。バイオ燃料電池110は、半浸透性膜から形成されて溶液114を収容する液嚢112を備えている。半浸透性膜から形成された2つの液嚢116、118が、溶液114に配置されている。液嚢116、118は、共通の壁を有してもよい。液嚢116は溶液120を収容し、液嚢118は溶液122を収容する。電極124が溶液120に差し込まれて、電極126が溶液122に差し込まれている。電極124、126は、負荷128に接続されている。液嚢112は、溶液130に設けられている。
【0123】
酸化還元対Ox1/Red1が溶液120に溶解され、酸化還元対Ox2/Red2が溶液122に溶解されている。本実施形態では、酸化還元対Ox1/Red1と酸化還元対Ox2/Red2とは異なる。一例として、還元剤Red1は、QH2 と示されているヒドロキノンであり、酸化剤Ox1 は、ベンゾキノンQに相当する。溶液120では、化学式14に応じてベンゾキノンからヒドロキノンへの還元が促進される。
【0124】
一例として、還元剤Red2は、AH2 と示されて分子式がC6H8O6であるアスコルビン酸塩であり、酸化剤Ox2 は、Aと示されるデヒドロアスコルビン酸である。溶液122では、以下の反応に応じてアスコルビン酸塩AH2 からデヒドロアスコルビン酸Aへの酸化が促進される。
AH2 → A + 2H+ + 2e- (23)
【0125】
膜116、118は、ベンゾキノン、ヒドロキノン、アスコルビン酸塩及びデヒドロアスコルビン酸のマイグレーションを妨げるべく選択されている。溶液130はグルコースを含有している。溶液130は、例えば生体溶液である。GOD酵素は、溶液114に配されている。膜112は、グルコースを通過させてGOD酵素のマイグレーションを妨げるべく選択されている。
【0126】
溶液114では、化学式21の反応に応じてグルコースの酸化が促進される。
【0127】
ヒドロキノンからのベンゾキノンの形成を促進可能な酵素が、溶液120に配されている。前記酵素は、例えばペルオキシダーゼ酵素である。膜116は、ペルオキシダーゼ酵素の通過を妨げて過酸化水素(H2O2)を通過させるべく選択されている。ペルオキシダーゼ酵素は、前述した化学式17の反応を促進する。化学式17の反応に必要な過酸化水素は、溶液114で行われる化学式21の反応により生成される。
【0128】
以下の反応に応じたデヒドロアスコルビン酸Aからのアスコルビン酸塩AH2 の形成を促進可能なたんぱく質が、溶液122に配されている。
【0129】
【化14】
【0130】
このたんぱく質は、例えばジスルフィドイソメラーゼ又はPDIたんぱく質に相当する酵素である。
【0131】
バイオ燃料電池110は、以下の通り動作する。まず、溶液120が、同一の濃度のベンゾキノン及びヒドロキノンを、例えばベンゾキノン/ヒドロキノン複合体の形態で含んでいる、溶液122が、同一の濃度のアスコルビン酸塩及びデヒドロアスコルビン酸を含んでいる。この場合、ベンゾキノン/ヒドロキノンの酸化還元対の酸化還元電位は、約0.7Vであり、デヒドロアスコルビン酸/アスコルビン酸塩の酸化還元対の酸化還元電位は、約−0.29Vである。
【0132】
電極124、126が負荷128に接続される前に、化学式24及び化学式17の再生反応が行われる。それにより、溶液122では、化学式24の反応に応じたアスコルビン酸塩AH2 の形成が観察され得る。従って、アスコルビン酸塩AH2 の濃度は、経時的に上昇する。それにより、デヒドロアスコルビン酸Aの濃度とアスコルビン酸塩AH2 の濃度との比率が低下して、酸化還元対A/AH2 の酸化還元電位が低下する(化学式8参照)。更に、溶液120では、ペルオキシダーゼ酵素が、化学式17の反応に応じて過酸化水素及びヒドロキノンを消費する。従って、ヒドロキノンQH2 の濃度は、経時的に低下する。それにより、ベンゾキノンQの濃度とヒドロキノンQH2 の濃度との比率が上昇して、酸化還元対Q/QH2 の酸化還元電位が上昇する(化学式6参照)。従って、酸化還元対の酸化体又は還元体の濃度を変えるだけで、酸化還元対Q/QH2 と酸化還元対A/AH2 との間に電位差が生じる。濃度の比率に影響を与えることによって生じるこの電位差は、酸化還元対Q/QH2 及び酸化還元対A/AH2 の標準電位の差に起因する電位差に加えられる。
【0133】
電極124及び電極122が負荷128に接続されているとき、溶液120では化学式14のベンゾキノンの還元反応が行われ易くなり、溶液122では化学式23のアスコルビン酸塩AH2 の酸化反応が行われ易くなる。同時に、化学式24及び化学式17の再生反応が行われて化学種の補充を行う。
【0134】
以下に、本発明に係るバイオ燃料電池の使用が特に有利である適用例について説明する。
【0135】
バイオ燃料電池は、人体内への移植に特に適している。この場合、筐体12は、例えば透析作業に用いられるタイプの可撓性膜に相当してもよい。
【0136】
バイオ燃料電池は、携帯電話、ウォークマン(登録商標)、カメラ又はビデオカメラのような可搬型電子システム用の電源に相当してもよい。この電子システムは、主電力を供給できる従来の主電源と、補助電源として用いられるバイオ燃料電池とを備えてもよい。この場合、バイオ燃料電池は、電子システムが低消費電力しか必要としない動作モードで電子システムに電力を供給すべく用いられ得る。この動作モードは、例えば、電話機の表示が一般的にオフになっている携帯電話の待機モードに相当する。
【0137】
バイオ燃料電池は、任意の支持体と一体化されることが可能であり、バイオ燃料電池の動作は、この支持体が、pHの変動を引き起こす反応に必要な要素を含有する溶媒と接したときに開始される。一例として、本発明に係るバイオ燃料電池は、紙又は布と一体化され得る。この場合、バイオ燃料電池の動作は、個人の汗が接したときに開始され得る。
【0138】
本発明の具体的な実施形態が説明されている。当業者であれば、様々な変形及び変更を想到する。特に、本発明に係るバイオ燃料電池は、前述した実施形態の内のいずれかの一部の構成要素と、前述した実施形態の内の別の実施形態の他の構成要素とを備えてもよい。一例として、本発明に係るバイオ燃料電池の実施形態は、図9に示されたバイオ燃料電池のカソードと同一の構造のカソードと、図1に示されたアノードと同一の構造のアノードとを備えてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を収容しており、該溶媒に対して浸透性を有してヒドロニウムイオン及び/又はヒドロキシルイオンに対して不浸透性を有する壁(16;98) で隔離された第1及び第2のチャンバ(14A,14B) と、
前記第1のチャンバ内に少なくとも部分的に配置された第1の電極(18A) と、
前記第2のチャンバ内に少なくとも部分的に配置された第2の電極(18B) と、
前記第1のチャンバ内に配置されて前記溶媒と接しており、第1の酸化還元反応に関係して前記第1の電極との電子の交換を引き起こす第1の酸化剤及び還元剤を有する第1の酸化還元対と、
前記第2のチャンバ内に配置されて前記溶媒と接しており、第2の酸化還元反応に関係して前記第2の電極との電子の交換を引き起こす第2の酸化剤及び還元剤を有する第2の酸化還元対と
を備えており、前記壁は前記第1及び第2の酸化還元対に対して不浸透性を有しており、
前記第1のチャンバ又は前記第2のチャンバ内に配されており、前記第1及び第2の酸化還元反応とは異なる第3の酸化還元反応を促進して、酸種又はアルカリ種を含む第2の物質を提供すべく第1の物質の変化を引き起こし、それによってpHの変化及び該pHの変化に続く酸化還元電位の変化を引き起こす第1の酵素又は第1の微生物を
更に備えていることを特徴とする電池(10;90) 。
【請求項2】
前記第1の酸化剤はキノンであり、前記第1の還元剤は前記キノンの還元体であることを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記第1の物質はD−グルコースであり、前記第1の酵素は、前記D−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なグルコース酸化酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記第1の物質はL−グルコースであり、前記第1の酵素は、前記L−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なL−フコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項5】
前記第1の物質は尿素であり、前記第1の酵素は、前記尿素の分解によってヒドロキシルイオンを生成させることが可能なウレアーゼ酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項6】
前記第1及び第2の酸化還元対は同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電池。
【請求項7】
前記第1のチャンバ(14A) は、前記溶媒に対して浸透性を有し前記第1の酵素又は前記第1の微生物に対して不浸透性を有して、前記第1の電極(18A) が差し込まれている前記溶媒の体積(19A) を画定している膜(20A) を含んでおり、
前記第1の酸化還元対は、前記体積の溶媒に溶解されて、前記第1の酵素又は前記第1の微生物は前記体積の溶媒の外側に配されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電池。
【請求項8】
前記第1の酸化還元対は、前記第1の電極(18A) を少なくとも部分的に囲む固体相又はゲル相(72A) に配されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電池。
【請求項9】
前記第1のチャンバ(14A) 内のpHを調整するための第1のデバイス(20A,22A;42C;62C) が、前記第1の物質を変化させて前記第1のチャンバ内の溶媒にヒドロニウムイオンを与えることが可能な前記第1の酵素又は前記第1の微生物を有しており、
第3の物質を変化させて前記第2のチャンバ内の溶媒にヒドロキシルイオンを与えることが可能な第2の酵素又は第2の微生物を有して前記第2のチャンバ(14B) 内のpHを調整するための第2のデバイス(20B,22B;42D;62D)を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電池。
【請求項10】
前記第1のチャンバ内の溶媒で、場合によっては前記第3の物質と同一の第4の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能であり、場合によっては前記第2の酵素又は前記第2の微生物と同一の第3の酵素又は第3の微生物を有して前記第1のチャンバ(14A) 内のpHを調整するための第3のデバイス(42E;62E) と、
前記第2のチャンバ内の溶媒で、場合によっては前記第1の物質と同一の第5の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能であり、場合によっては前記第1の酵素又は前記第1の微生物と同一の第4の酵素又は第4の微生物を有して第2のチャンバ(14B) 内のpHを調整するための第4のデバイス(42F;62F) と、
前記第1及び第2のデバイスを作動させて前記第3及び第4のデバイスの動作を阻止することが可能であり、前記第3及び第4のデバイスを作動させて前記第1及び第2のデバイスの動作を阻止することが可能なデバイスと
を更に備えていることを特徴とする請求項9に記載の電池。
【請求項11】
前記第1の反応が前記第1の酸化剤から前記第1の還元剤への還元を含むとき、前記第1の還元剤を前記第1の酸化剤に変化させて、前記第1の反応が前記第1の還元剤から前記第1の酸化剤への酸化を含むとき、前記第1の酸化剤を前記第1の還元剤に変化させることが可能な第5の酵素又は第5の微生物を有して前記第1の酸化剤又は前記第1の還元剤を再生するためのデバイスを更に備えていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項12】
前記第5の酵素は、酸素又は過酸化水素を消費して前記キノンの還元体の前記キノンへの酸化を促進可能なチロシナーゼ型の酵素又はペルオキシダーゼ型の酵素であることを特徴とする請求項10又は11に記載の電池。
【請求項13】
前記第1のチャンバ(14A) を前記第2のチャンバ(14B) に接続する経路(38)を更に備えており、
前記経路に、開閉が制御され得る弁(39)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項14】
前記第1の反応が前記第1の酸化剤から前記第1の還元剤への還元を含むとき、前記第2の物質を消費して前記第1の還元剤を前記第1の酸化剤に変化させて、前記第1の反応が前記第1の還元剤から前記第1の酸化剤への酸化を含むとき、前記第2の物質を消費して前記第1の酸化剤を前記第1の還元剤に変化させることが可能な第6の酵素又は第6の微生物を有していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項15】
前記第1の酸化剤はユビキノンであり、前記第1の還元剤はユビキノールであり、前記第1の物質はグルコースであり、前記第2の物質は過酸化水素であり、前記第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素であり、
前記第2の酸化剤はキノンであり、前記第2の還元剤は前記キノンの還元体であり、前記第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当することを特徴とする請求項14に記載の電池。
【請求項16】
前記第1の酸化剤はデヒドロアスコルビン酸であり、前記第1の還元剤はアスコルビン酸塩であり、前記第1の物質はグルコースであり、前記第2の物質は過酸化水素であり、前記第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素であり、
前記第2の酸化剤はキノンであり、前記第2の還元剤は前記キノンの還元体であり、前記第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当することを特徴とする請求項14に記載の電池。
【請求項1】
溶媒を収容しており、該溶媒に対して浸透性を有してヒドロニウムイオン及び/又はヒドロキシルイオンに対して不浸透性を有する壁(16;98) で隔離された第1及び第2のチャンバ(14A,14B) と、
前記第1のチャンバ内に少なくとも部分的に配置された第1の電極(18A) と、
前記第2のチャンバ内に少なくとも部分的に配置された第2の電極(18B) と、
前記第1のチャンバ内に配置されて前記溶媒と接しており、第1の酸化還元反応に関係して前記第1の電極との電子の交換を引き起こす第1の酸化剤及び還元剤を有する第1の酸化還元対と、
前記第2のチャンバ内に配置されて前記溶媒と接しており、第2の酸化還元反応に関係して前記第2の電極との電子の交換を引き起こす第2の酸化剤及び還元剤を有する第2の酸化還元対と
を備えており、前記壁は前記第1及び第2の酸化還元対に対して不浸透性を有しており、
前記第1のチャンバ又は前記第2のチャンバ内に配されており、前記第1及び第2の酸化還元反応とは異なる第3の酸化還元反応を促進して、酸種又はアルカリ種を含む第2の物質を提供すべく第1の物質の変化を引き起こし、それによってpHの変化及び該pHの変化に続く酸化還元電位の変化を引き起こす第1の酵素又は第1の微生物を
更に備えていることを特徴とする電池(10;90) 。
【請求項2】
前記第1の酸化剤はキノンであり、前記第1の還元剤は前記キノンの還元体であることを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記第1の物質はD−グルコースであり、前記第1の酵素は、前記D−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なグルコース酸化酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記第1の物質はL−グルコースであり、前記第1の酵素は、前記L−グルコースの酸化によってヒドロニウムイオンを生成させることが可能なL−フコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項5】
前記第1の物質は尿素であり、前記第1の酵素は、前記尿素の分解によってヒドロキシルイオンを生成させることが可能なウレアーゼ酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電池。
【請求項6】
前記第1及び第2の酸化還元対は同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電池。
【請求項7】
前記第1のチャンバ(14A) は、前記溶媒に対して浸透性を有し前記第1の酵素又は前記第1の微生物に対して不浸透性を有して、前記第1の電極(18A) が差し込まれている前記溶媒の体積(19A) を画定している膜(20A) を含んでおり、
前記第1の酸化還元対は、前記体積の溶媒に溶解されて、前記第1の酵素又は前記第1の微生物は前記体積の溶媒の外側に配されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電池。
【請求項8】
前記第1の酸化還元対は、前記第1の電極(18A) を少なくとも部分的に囲む固体相又はゲル相(72A) に配されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電池。
【請求項9】
前記第1のチャンバ(14A) 内のpHを調整するための第1のデバイス(20A,22A;42C;62C) が、前記第1の物質を変化させて前記第1のチャンバ内の溶媒にヒドロニウムイオンを与えることが可能な前記第1の酵素又は前記第1の微生物を有しており、
第3の物質を変化させて前記第2のチャンバ内の溶媒にヒドロキシルイオンを与えることが可能な第2の酵素又は第2の微生物を有して前記第2のチャンバ(14B) 内のpHを調整するための第2のデバイス(20B,22B;42D;62D)を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電池。
【請求項10】
前記第1のチャンバ内の溶媒で、場合によっては前記第3の物質と同一の第4の物質を変化させてヒドロキシルイオンを与えることが可能であり、場合によっては前記第2の酵素又は前記第2の微生物と同一の第3の酵素又は第3の微生物を有して前記第1のチャンバ(14A) 内のpHを調整するための第3のデバイス(42E;62E) と、
前記第2のチャンバ内の溶媒で、場合によっては前記第1の物質と同一の第5の物質を変化させてヒドロニウムイオンを与えることが可能であり、場合によっては前記第1の酵素又は前記第1の微生物と同一の第4の酵素又は第4の微生物を有して第2のチャンバ(14B) 内のpHを調整するための第4のデバイス(42F;62F) と、
前記第1及び第2のデバイスを作動させて前記第3及び第4のデバイスの動作を阻止することが可能であり、前記第3及び第4のデバイスを作動させて前記第1及び第2のデバイスの動作を阻止することが可能なデバイスと
を更に備えていることを特徴とする請求項9に記載の電池。
【請求項11】
前記第1の反応が前記第1の酸化剤から前記第1の還元剤への還元を含むとき、前記第1の還元剤を前記第1の酸化剤に変化させて、前記第1の反応が前記第1の還元剤から前記第1の酸化剤への酸化を含むとき、前記第1の酸化剤を前記第1の還元剤に変化させることが可能な第5の酵素又は第5の微生物を有して前記第1の酸化剤又は前記第1の還元剤を再生するためのデバイスを更に備えていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項12】
前記第5の酵素は、酸素又は過酸化水素を消費して前記キノンの還元体の前記キノンへの酸化を促進可能なチロシナーゼ型の酵素又はペルオキシダーゼ型の酵素であることを特徴とする請求項10又は11に記載の電池。
【請求項13】
前記第1のチャンバ(14A) を前記第2のチャンバ(14B) に接続する経路(38)を更に備えており、
前記経路に、開閉が制御され得る弁(39)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項14】
前記第1の反応が前記第1の酸化剤から前記第1の還元剤への還元を含むとき、前記第2の物質を消費して前記第1の還元剤を前記第1の酸化剤に変化させて、前記第1の反応が前記第1の還元剤から前記第1の酸化剤への酸化を含むとき、前記第2の物質を消費して前記第1の酸化剤を前記第1の還元剤に変化させることが可能な第6の酵素又は第6の微生物を有していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電池。
【請求項15】
前記第1の酸化剤はユビキノンであり、前記第1の還元剤はユビキノールであり、前記第1の物質はグルコースであり、前記第2の物質は過酸化水素であり、前記第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素であり、
前記第2の酸化剤はキノンであり、前記第2の還元剤は前記キノンの還元体であり、前記第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当することを特徴とする請求項14に記載の電池。
【請求項16】
前記第1の酸化剤はデヒドロアスコルビン酸であり、前記第1の還元剤はアスコルビン酸塩であり、前記第1の物質はグルコースであり、前記第2の物質は過酸化水素であり、前記第1の酵素は、グルコースから過酸化水素を生成させることが可能なグルコース酸化酵素であり、
前記第2の酸化剤はキノンであり、前記第2の還元剤は前記キノンの還元体であり、前記第6の酵素は、過酸化水素を消費して前記キノンの還元体を前記キノンに酸化することが可能なペルオキシダーゼ酵素に相当することを特徴とする請求項14に記載の電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2011−517039(P2011−517039A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503482(P2011−503482)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050639
【国際公開番号】WO2009/136092
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(501354026)ユニヴェルシテ ジョセフ フーリエ (9)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(510270236)インスティチュート ナショナル デ サイエンシーズ アプリーク デ トゥールス (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050639
【国際公開番号】WO2009/136092
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(501354026)ユニヴェルシテ ジョセフ フーリエ (9)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(510270236)インスティチュート ナショナル デ サイエンシーズ アプリーク デ トゥールス (1)
【Fターム(参考)】
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