説明

歩行リハビリ装置

【課題】歩行能力の回復レベルの変化に適応する歩行リハビリ装置を提供する。
【解決手段】歩行リハビリ装置は、大腿リンク、大腿リンクに連結されている下腿リンク、下腿リンクを回転させるモータ、下腿リンクを装着した脚の足裏に加わる荷重を検知する荷重センサ、及び、コントローラを備える。大腿リンクと下腿リンクは夫々ユーザの大腿と下腿に取り付けられる。コントローラは、歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する下腿リンク回転角の目標パターンに追従するようにモータを制御する。さらにコントローラは、荷重センサが検知する荷重が第1荷重閾値を越えた後に第2荷重閾値を下回ったことをトリガとしてモータ制御を開始する。また、コントローラは、下腿リンクを装着した脚が接地しているときに受ける荷重、下腿リンクを装着した脚の歩幅、大腿リンクの回転角速度の少なくも一つの値に基づいて第1荷重閾値と第2荷重閾値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの歩行訓練を支援する歩行リハビリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アクチュエータによって積極的にユーザの脚の動きを誘導する歩行支援装置が提案されている。そのような歩行支援装置は、ユーザの大腿に装着される大腿リンクと下腿に装着される下腿リンクが揺動可能に連結されており、アクチュエータが下腿リンクを揺動させる。そのような歩行支援装置が例えば特許文献1や2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−187348号公報
【特許文献2】特開2005−95561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような歩行支援装置の適用先の一つに、膝関節を自由に動かすことができない非健常者の歩行訓練(歩行のリハビリテーション)のための装置が考えられる。歩行訓練を要する非健常者にも様々なレベルの人がいる。歩行訓練をこれから開始する非健常者は、一歩ずつ、ゆっくりと脚を動かす訓練から始める。歩行訓練に少し慣れてくると、脚のスイング速度(脚のピッチ軸まわりの回転角速度。特に、大腿部の回転角速度)が少し早くなり、また、歩幅も大きくなる。さらに回復してくると、脚のスイング速度はさらに早くなり、歩幅もさらに大きくなる。本明細書が開示する技術は、非健常者(ユーザ)の歩行能力の回復レベルの変化に適応する歩行リハビリ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
歩行のとき、ユーザは立脚によって体重を支えながら、遊脚を振り出す。当然のことながら、離床させようとする脚においては足底に加わる荷重が抜ける。発明者らはこの事実に着目し、足底に加わる荷重変化をアクチュエータ制御のトリガとして利用するという発想を得た。さらに歩行訓練を行う場合、ユーザ(非健常者)は、一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。特に回復レベルの低い非健常者の場合、一歩毎にしばし休憩しながら歩みを進める。このような事実に基づき、本明細書が開示する歩行リハビリ装置は、脚の離地から着地までの1ステップに相当する補助を行ったら一旦停止する。
【0006】
本明細書が開示する歩行リハビリ装置は、具体的には、大腿リンク、下腿リンク、アクチュエータ、荷重センサ、及び、コントローラを備える。大腿リンクは、ユーザの大腿に装着される。下腿リンクは、ユーザの下腿に装着される。下腿リンクは、大腿リンクに揺動可能に連結されている。アクチュエータは、下腿リンクを揺動させる。荷重センサは、歩行補助装置を装着している側の足底に加わる荷重(即ち床反力)を検知する。コントローラは、下腿リンクの回転角が歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する目標パターンに追従するようにアクチュエータを制御する。目標パターンは、歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する下腿リンク目標回転角の経時的変化を記述したものである。コントローラは、荷重センサが検知する荷重が第1荷重閾値を越えた後に第2荷重閾値を下回ったことをトリガとして1ステップ分のアクチュエータ制御を開始するように構成されている。この歩行リハビリ装置を装着したユーザは、体重を患脚(大腿リンクと下腿リンクを装着した脚)側に移動したのち健脚(大腿リンクと下腿リンクを装着していない脚)側へ移動させることによって、歩行リハビリ装置にアクチュエータ制御開始を指示することができる。さらに、この歩行補助装置を用いると、患脚に加わっている荷重が抜けるとともに患脚の補助が開始される。この歩行リハビリ装置は、体重の移動と遊脚動作の開始の時間的関係が歩行動作のそれに合致している。従って、上記の歩行リハビリ装置によれば、ユーザは、アクチュエータ制御開始の指示から実際に補助が開始されるまでの一連の動きをスムーズに行うことができる。
【0007】
上記の歩行リハビリ装置は、上記した荷重変化を検知すると、離地から着地まで1ステップ分だけ患脚の動きを補助して停止する。歩行リハビリ装置のユーザは、各自のペースで一歩毎に休みながらリハビリを行うことができる。
【0008】
非健常者は、状態が回復するにつれて、左右の体重移動がスムーズになっていく。非健常者(歩行リハビリ装置のユーザ)の回復の度合い(回復レベル)に応じて、歩行リハビリ装置の動きも適応的に変化することが好ましい。その一つは、1ステップ分のアクチュエータ制御を開始するトリガ(上記した荷重変化)がユーザの回復レベルに応じて適応的に変化するとよい。第1荷重閾値と第2荷重閾値の初期値は、予め与えられるが、それらの閾値はユーザの回復レベルに応じて変更されることが好ましい。具体的には、コントローラは、下腿リンクを装着した脚が接地しているときに受ける荷重(床反力)、歩幅、及び、大腿リンクの回転角速度の少なくも一つの値に基づいて第1荷重閾値と第2荷重閾値を決定するように構成されているとよい。ここで、回転角速度は、大腿リンクのピッチ軸回りの回転角速度である。概して言うと、コントローラは、ユーザの回復レベルが向上するにつれて、第1荷重閾値を小さくし、第2荷重閾値を大きくすることが好ましい。一般的に、ユーザの回復レベルが向上するにつれて、歩幅は大きくなり、大腿リンクの回転角速度は早くなる。コントローラは、それらの値を指標にして回復レベルを推定するとともに、第1荷重閾値と第2荷重閾値を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】歩行リハビリ装置の模式的斜視図を示す。
【図2】目標パターンの一例を示す図である。
【図3】図2で用いられるパラメータを説明する図である。
【図4】コントローラの制御フローチャートを示す。
【図5】荷重閾値の変化の一例を示す図である。
【図6】訓練選定手順のフローチャートを示す。
【図7】回復レベル判定処理のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、実施例の歩行リハビリ装置10の外観図である。歩行リハビリ装置10は、一方の脚の膝関節が不自由となり、自力歩行が困難となったユーザUの歩行訓練(リハビリテーション)に用いられる。歩行リハビリ装置10を用いることで、ユーザUの歩行機能の回復を促進できるとともに、ユーザUを介助する介助者の労力を低減することも可能となる。
【0011】
図1に示すとおり、本実施例では、歩行リハビリ装置10は左脚ULに装着される。従って、左脚ULが大腿リンク20と下腿リンク30(後述)を装着した装着脚に相当する。本実施例では、ユーザUは、右脚URは自由に動かすことができるが、左脚ULの膝関節を自由に動かすことができないとする。別言すれば、右脚URは健脚であり、左脚ULは患脚である。この歩行リハビリ装置10は、健脚にはセンサを取り付けることなく、患脚に装着する装置が備えるセンサの出力に基づいて歩行訓練のための制御(歩行動作に応じた下腿リンクの回転角の制御)を実行することができる。
【0012】
本実施例の説明で用いる座標系について説明する。歩行リハビリ装置10を装着したユーザUの前後方向にX軸を定め、ユーザUの左右方向にY軸を定め、ユーザUの上下方向にZ軸を定める。ここで、X軸の正方向はユーザUの前方とし、Y軸の正方向はユーザUの左方とし、Z軸の正方向はユーザUの上方とする。なお、ロボット工学の分野では、ロボット(本実施例では人体)に固定された座標系における上記X軸、Y軸、及び、Z軸は、夫々、ロール軸、ピッチ軸、及び、ヨー軸と呼ばれる。
【0013】
図1に示すように、歩行リハビリ装置10は、コントローラ12と、大腿リンク20と、下腿リンク30と、足リンク40を備えている。コントローラ12は、モータ24(後述)を制御するためのCPUと、バッテリを内蔵している。コントローラ12は、歩行リハビリ装置10の各部へ電力を供給するとともに、歩行リハビリ装置10の各部の動作を制御する。コントローラ12は、ユーザUの体幹(腰)に取り付けられる。
【0014】
大腿リンク20と下腿リンク30と足リンク40は、補助を必要とするユーザUの患脚(ここでは左脚UL)に装着される。詳しくは、大腿リンク20がユーザの大腿に装着され、下腿リンク30がユーザの下腿に装着され、足リンク40がユーザの足に装着される。
【0015】
大腿リンク20と下腿リンク30は、一対の第1ジョイント22を介して連結されている。一対の第1ジョイント22は、ピッチ軸(Y軸)の一軸回りの回転関節であり、大腿リンク20に対して下腿リンク30を揺動可能に連結している。
【0016】
左脚ULの外側に位置する第1ジョイント22は、モータ24、減速機、角度センサを内蔵しており、大腿リンク20に対して下腿リンク30を相対的に揺動させる駆動ユニットに相当する。モータやセンサ類は、ケーブル16を介してコントローラ12に接続しており、コントローラ12から供給される電力によって動作するとともに、その動作はコントローラ12によって制御される。コントローラ12による制御の詳細については後述する。
【0017】
下腿リンク30と足リンク40は、一対の第2ジョイント32を介して連結されている。一対の第2ジョイント32はピッチ軸一軸回りの回転関節であり、下腿リンク30に対して足リンク40を揺動可能に連結している。第2ジョイント32にはアクチュエータは装備されておらず、足リンク40はユーザUの足の動きに応じて受動的に揺動するだけである。足リンク40の足裏には、左脚ULの足裏に加わる荷重(床反力)を計測するための荷重センサ42が備えられている。
【0018】
以上の構成により、歩行リハビリ装置10は、ユーザUの患脚(左脚UL)に取り付けられ、ユーザUの歩行訓練における左脚下腿の動きをサポートする。次に、歩行時の膝角度の一般的なパターン(経時変化)を説明するとともに、歩行リハビリ装置10の制御について説明する。なお、「膝角度」は、「下腿の回転角」の別称である。
【0019】
図2に、歩行中の左脚の動きを模式的に示す。符号Akが示すグラフは、左脚下腿の回転角の時間変化を示している。理解を助けるため、図2では、下腿の回転角を膝角度Akと称している。以下、しばしば、「膝角度」という用語を用いる。なお、図2のグラフは、膝角度Akの時間的変化の概略(傾向)を表しているのであって下腿の回転角を精密に表してはいないことに留意されたい。
【0020】
図3は、膝角度Akの定義を説明する図である。実線が左脚を表しており、破線が右脚を表している。股関節より上の実線は体幹を表している。図2でも同様である。直線L1は、股関節と膝関節を結ぶ直線を示している。直線L1は大腿の長手方向に沿った直線に相当する。膝角度Akは、直線L1から下腿へ向かう角度として表される。膝が伸びきったときが膝角度Ak=0に相当する。膝が直角に曲がったときが膝角度Ak=+90度に相当する。
【0021】
図2に戻って歩行時の脚の動きの説明を続ける。タイミングTaは、左脚が着地するタイミングを示している。タイミングTdは左脚が離地するタイミングを示している。なお、後述するように、タイミングTcは、つま先が接地したまま踵が浮き出すタイミングを示している。タイミングTcからTdの間は、足先は接地しているが踵は浮いている期間であり、実質的に左脚に荷重が加わっていないので、本明細書ではこの期間も遊脚期間に含むとする。即ち、本明細書では、タイミングTaからTcまでを立脚期間と定義し、タイミングTcから左脚が着地するタイミングTfまでの遊脚期間と定義する。タイミングTbは、左脚の立脚期間中で最も揺動角Akが大きくなるタイミングである。タイミングTcは、左脚の踵が浮き始めるとともに下腿が後方に揺動し始めるタイミングに相当する。タイミングTfは左脚が再び着地するタイミングを示している。タイミングTeは、遊脚期間において膝角度Akが最大となるタイミングを示す。それぞれのタイミングにおける脚の形態を図1の(a)から(f)に示す。(a)と(f)が示すように、着地タイミングTa、Tfでは、左脚の膝は伸びきっており、膝角度Ak=ゼロである。図2の(c)は、タイミングTcにおける脚の形態を示す。(c)において実線(左脚)が示すように、このタイミングTcにおいて、足先が接地したまま下腿が後方に揺動し始める。即ち、タイミングTcで膝角度Akは減少から増加に転じる。また、タイミングTcは、左脚が最も後方に位置するタイミングに相当し、このタイミング以降、左脚は前方へ振り出される。
【0022】
(d)は、タイミングTdにおける脚の形態を示す。タイミングTcからTdまでの期間は、足先は接地しているが踵が浮き上がるとともに左脚全体が前方へ揺動する期間であり、プレスイング期と呼ばれている。プレスイング期では、実質的に左脚に荷重が加わっていない。また、プレスイング期の開始(タイミングTc)からタイミングTdで足先が離地し、タイミングTfにて再び足が接地するまで左脚が滑らかにスイングする。そのため、本明細書ではプレスイング期を遊脚期間に含める。従って、本明細書では、便宜上、足の踵が浮き上がるタイミングTcを「左脚が離地するタイミング」と定義する。すなわち、タイミングTcからTfまでが遊脚期間に相当する。
【0023】
タイミングTeは、遊脚期間において膝角度Akが最大となるタイミングを示す。Tbは立脚期間において膝角度Akが最大となるタイミングを示しており、(e)に示す脚の態様と(b)に示す脚の態様は、左右の脚が入れ替わっていることを除き、同じである。
【0024】
図2に示す膝角度Akのグラフに沿って下腿が動くとき、円滑な歩行動作が実現される。歩行リハビリ装置10は、タイミングTcからTfまでの膝角度Akの軌道を目標膝角度パターン(目標パターン)として記憶している。この目標膝角度パターンは、1歩(1ステップ)分の遊脚の下腿の動きに相当する。別言すれば、目標パターンは、歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する下腿の目標回転角の経時的変化を記述しているデータである。ユーザの下腿の回転角は、下腿リンク30の回転角に相当するので、目標パターンは、厳密にいうと、歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する下腿リンクの目標回転角の経時的変化を記述しているデータである。
【0025】
歩行リハビリ装置10は、大腿リンク20に対する下腿リンク30の回転角を検出する角度センサを装備している。角度センサが検出する値は、下腿リンク30の回転角であり、同時にユーザUの膝角度でもある。
【0026】
後述するように荷重センサ42の出力に応じてトリガが発生すると、コントローラ12は、下腿リンク30の回転角が目標パターンに追従するようにモータ24を制御する。即ち、歩行リハビリ装置10は、下腿リンク30を一旦後方へ揺動させ(タイミングTcからTe)、次いで前方へ揺動させる(タイミングTeからTf)。この間、ユーザは左脚の股関節を動かして左脚全体を後方から前方へ振り出すと、左脚全体の動きが滑らかな遊脚動作となる。歩行リハビリ装置10は、1ステップ分だけ遊脚の下腿の動きを補助し、膝角度ゼロ、即ち、下腿リンク30が大腿リンク20と一直線となった状態で停止する。
【0027】
コントローラ12は、荷重センサ42が検知する荷重Wsの所定の変化をトリガとして、1ステップ分のモータ制御を開始する。荷重変化をトリガとするコントローラ12の制御の流れを説明する。図4は、コントローラ12が実行する制御のフローチャートを示す。この制御が開始されるとコントローラ12はまず、トリガ検知の回数を制限する変数Nrpに所定の値Npresetを設定する(S2)。Npresetは、コントローラ12に備えられたスイッチ(不図示)によって、例えば1から100までユーザが適宜に選定することができる。次にコントローラ12は、荷重センサ42が検知する荷重Wsが、第1荷重閾値W_th1を超えたか否かをモニタする(S4)。荷重Wsが第1荷重閾値W_th1を超えたことが検知されると(S4:YES)、コントローラ12はタイマをスタートさせ(S6)、次いで荷重センサ42が検知する荷重Wsが第2荷重閾値W_th2を下回ったか否かをモニタする(S8)。コントローラ12は、タイマスタートからの経過時間Tsが予め定められた時間閾値Ts_thを超えるまでは、荷重センサ42の出力(荷重Ws)をモニタする(S16:NO)。時間閾値Ts_thを超えると(S16:YES)、コントローラ12はタイマをリセットし(S18)、再びステップS4の荷重モニタリングに戻る。
【0028】
コントローラ12は、経過時間Tsが時間閾値Ts_thを越えないうちに荷重Wsが第2荷重閾値W_th2を下回ったことを検知すると(S8:YES)、下腿リンク30の膝角度が1ステップ分の目標パターンに追従するようにモータ24を駆動する(S10)。1ステップ分の制御が終了するとコントローラ12は、パラメータNrpを1だけ減じて再びステップS4の荷重モニタリングに戻る(S14:NO)。コントローラ12は、パラメータNrpで規定された回数、荷重変化によるトリガ検知を繰り返す(S14)。
【0029】
図4の処理の利点を説明する。図4の処理によれば、歩行リハビリ装置10は、荷重センサ42が検知する荷重Wsが第1荷重閾値W_th1を超えた後に第2荷重閾値W_th2を下回ったことをトリガとして1ステップ分のモータ制御を開始する。この処理によって、ユーザは煩わしいスイッチ操作なしに歩行リハビリ装置10に歩行補助を指示することができる。図4の処理の利点はそれだけではない。ユーザは、歩行リハビリ装置10を装着した脚(左脚)側に体重を移動し、次いで健脚(右脚)側に体重を移動する。そうすると、患脚側の足に加わる荷重は、第1荷重閾値W_th1を超え、その後、第2荷重閾値W_th2を下回るように変化する。歩行リハビリ装置10は、このときの荷重変化をトリガとして1ステップ分のモータ制御(即ち、1ステップ分の遊脚動作の補助)を開始する。そうすると、図2の(c)の姿勢から、装置による遊脚動作補助が開始される。歩行リハビリ装置10は、図2の(c)から(f)まで、膝角度の目標パターンに沿って患脚の下腿が動くように下腿を補助する。ユーザは、歩行リハビリ装置10の補助開始とともに、患脚の股関節を動かし、患脚全体を前方へ揺動させる。その結果、患脚全体がスムーズに遊脚動作を行える。
【0030】
トリガをかけたいとき、ユーザは患脚から健脚へ体重を移動すればよい。この体重移動は、通常の歩行動作において立脚から遊脚に遷移するときの体幹の動きに合致している。即ち、歩行リハビリ装置10のトリガ方式は、患脚が遊脚となる前の歩行動作の体幹の動きに合致している。従って、歩行リハビリ装置10を装着したユーザは、モータ制御開始の指示から実際に補助が開始されるまでの一連の動きをスムーズに行うことができる。
【0031】
第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2の初期値は予めコントローラ12に設定されているが、これらの値は、歩行リハビリ装置10の稼働中にコントローラ12によって変更される。次に、コントローラ12が実行する荷重閾値の変更処理について説明する。
【0032】
歩行リハビリ装置10は、下腿リンク30を装着した脚(装着脚)が接地してから所定時間後の荷重の大きさSa、装着脚が接地してから所定時間後の大腿リンク20の回転角速度Sb、及び、装着脚の歩幅Sc(装着脚が離地した位置と、次に着地した位置との間の距離)を計測している。所定時間は、例えば0.1秒である。第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2は、Sa、Sb、Scを変数とする次の式で決定される。
【0033】
W_th1=第1荷重閾値の初期値−(C1×Sa+C2×Sb+C3×Sc)
W_th2=第2荷重閾値の初期値+(C4×Sa+C5×Sb+C6×Sc)
【0034】
上の式を以下、閾値決定式と称する。閾値決定式において、C1、C2、C3、C4、C5、C6は、予め定められた係数である。即ち、第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2は、荷重Sa、大腿リンクの回転角速度Sb、および、歩幅Scの値の線形結合によって定められる。なお、係数C1、C2、C3のうち少なくとも一つがゼロ以外であればよく、他の係数はゼロであってもよい。同様に、係数C4、C5、C6のうち少なくとも一つがゼロ以外であればよく、他の係数はゼロであってもよい。
【0035】
第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2の変化の一例を図5に示す。荷重閾値の初期値は、予めコントローラ12に記憶されているが、コントローラ12は、閾値決定式に基づいて荷重閾値を随時変更する。図5の横軸は、ユーザの回復レベルを示している。回復レベルを表す指標は、歩行リハビリ装置10を使って複数歩分だけ歩行訓練を行ったときの、上記荷重Sa、大腿リンクの回転角速度Sb、および、歩幅Scの値によって別途、算出される。回復レベルを示す指標については後述する。
【0036】
歩行リハビリ装置10では、第1荷重閾値W_th1の初期値は、第2荷重閾値W_th2の初期値よりも大きい値に定められている。また、閾値決定式に基づくと、回復レベルが向上するほど、第1荷重閾値W_th1は小さくなり、第2荷重閾値W_th2は大きくなる。従って、歩行訓練を開始した頃は、第1荷重閾値>第2荷重閾値であるが、回復レベルが向上すると、いずれ、第1荷重閾値と第2荷重閾値の大小関係が逆転する。図5のレベルPが、第1荷重閾値と第2荷重閾値の大小関係が逆転するポイントである。歩行リハビリ装置10は、相互に異なる2つの目標パターンを記憶しており、回復レベルがPより低いときとPより高いときとで、異なる目標パターンを使用する。
【0037】
また、図5に示すように、回復レベルは4段階(レベルA、レベルB、レベルC、及び、レベルDに分けられている。回復レベルがどの段階であるかは、回復レベルを表す指標に基づいて決定される。
【0038】
次に、歩行訓練(リハビリテーション)の種類を選定する手順について説明する。図6は、リハビリ種類を選定するための手順を示すフローチャートである。歩行リハビリテーションには、歩行訓練、荷重コントロール訓練、脚前出し訓練、及び、脚振り出し訓練がある。この手順はまず、歩行リハビリ装置10の第1荷重閾値W_th1、第2荷重閾値W_th2、歩幅、及び、振り出し速度を設定する(S51)。ここで、「振り出し速度」とは、前述した、装着脚が接地してから所定時間後の大腿リンク20の回転角速度Sbに相当する。図6以降では、理解を助けるため、回転角速度Sbを「振り出し速度」と称する。
【0039】
次に、この手順では、歩行リハビリ装置10を使うユーザの荷重コントロール判定(S52)、脚を前に出した位置(歩幅)の判定(S53)、及び、脚の振り出し速度の判定(S54)を行う。これらの判定は、ユーザの状態から回復レベルを判定する処理である。これらの判定については、後に図7のフローチャートを用いて詳しく説明する。
【0040】
荷重コントロール判定(S52)がNOの場合は、荷重コントロール訓練が選定される(S56)。この場合が、図5の「レベルA」の回復レベルに相当する。荷重コントロール判定(S52)がYESの場合、次に、脚を前に出した位置の判定を行う(S53)。脚を前に出した位置の判定がNOの場合は、脚前出し訓練が選定される(S57)。この場合が、図5の「レベルB」の回復レベルに相当する。脚を前に出した位置の判定(S53)がYESの場合、次に、脚の振り出し速度の判定を行う(S54)。脚の振り出し速度の判定がNOの場合は、脚振り出し訓練が選定される(S58)。この場合が、図5の「レベルC」の回復レベルに相当する。なお、回復レベルA(荷重コントロール訓練)、回復レベルB(脚前出し訓練)、回復レベルC(脚振り出し訓練)は、図5に記されているとおり、第1荷重閾値W_th1が第2荷重閾値W_th2よりも大きい場合に対応する。
【0041】
脚の振り出し速度の判定(S54)がYESの場合は、歩行訓練が選定される(S55)。歩行訓練が選定される場合は、第1荷重閾値W_th1が第2荷重閾値W_th2よりも小さい場合に対応する。
【0042】
図7のフローチャートを用いて、荷重コントロール判定(S52)、脚を前に出した位置の判定(S53)、及び、脚の振り出し速度の判定(S54)について説明する。これらの判定は、歩行リハビリ装置10のコントローラ12が、歩行リハビリ装置10の動作中のセンサ値から判定する。図7の処理を、回復レベル判定処理と称する。歩行リハビリ装置10は、装着脚(実施例の場合は左脚UL)が立脚の間、立脚アシストを行う(S61)。次に、コントローラ12は、立脚時の最大荷重が、第1荷重閾値W_th1よりも大きいか否かを判断する(S62)。立脚時の最大荷重が、第1荷重閾値W_th1よりも大きい場合(S62:YES)、コントローラ12は、立脚時の最小荷重が第2荷重閾値W_th2よりも小さいか否かを判断する(S63)。立脚時の最小荷重が第2荷重閾値W_th2よりも小さい場合(S63:YES)、コントローラ12は、「荷重コントロール成功回数」という内部変数の値をカウントアップする(成功回数の値を「1」だけ増加する)。この「荷重コントロール成功回数」に基づいて、ステップS52(図6)の荷重コントロール判定が行われる(詳細は後述する)。
【0043】
コントローラ12は、立脚時の最大荷重が、第1荷重閾値W_th1以下の場合(S62:NO)、或いは、立脚時の最小荷重が第2荷重閾値W_th2以上の場合(S63:NO)、立脚時の荷重がゼロとなるまでステップS62とS63の処理を繰り返す(S64:NO)。立脚時の荷重がゼロの場合(即ち、装着脚が遊脚となった場合)、コントローラ12は、立脚アシストから遊脚アシストに切り換わる(S66)。
【0044】
次にコントローラ12は、振り出し速度(装着脚接地後、所定時間後の大腿リンクの回転角速度)が、予め定められた振り出し速度閾値よりも大きいか否かを判断する(S67)。振り出し速度が、予め定められた振り出し速度閾値よりも大きい場合(S67:YES)、コントローラ12は、「振り出し速度成功回数」という内部変数の値をカウントアップする(成功回数の値を「1」だけ増加する)。この「振り出し速度成功回数」に基づいて、ステップS54(図6)の振り出し速度の判定が行われる(詳細は後述する)。
【0045】
振り出し速度が、予め定められた振り出し速度閾値以下の場合(S67:NO)、コントローラ12は、装着脚の足裏に加わる荷重がゼロよりも大きくなるまで、即ち、装着脚が着地するまで、遊脚アシストを実行しながら、ステップS67の判断を繰り返す(S69:NO)。
【0046】
装着脚の足裏に加わる荷重がゼロよりも大きくなると(S69:YES)、コントローラ12は、歩幅が予め定められている歩幅閾値よりも大きいか否かを判定する(S70)。歩幅が予め定められている歩幅閾値よりも大きい場合(S70:YES)、コントローラ12は、「歩幅成功回数」という内部変数の値をカウントアップする(成功回数の値を「1」だけ増加する)。この「歩幅成功回数」に基づいて、ステップS53(図6)の脚を前に出した位置の判定が行われる。
【0047】
コントローラ12は、荷重コントロール成功回数、振り出し速度成功回数、及び、歩幅成功回数の値に基づいて、図6の荷重コントロール判定(S52)、脚を前に出した位置の判定(S53)、及び、脚振り出し速度の判定(S54)を行う(図7、S72)。次にステップS72の処理を説明する。
【0048】
コントローラ12の内部には、荷重コントロール判定閾値、振り出し速度判定閾値、及び、歩幅判定閾値が予め設定されている。コントローラ12は、荷重コントロール成功回数を全体回数(これまでに歩行リハビリ装置10を使って歩いた歩数)で除した値が荷重コントロール判定閾値を超えたか否かを判定する。荷重コントロール成功回数を全体回数で除した値が荷重コントロール判定閾値を超えている場合、コントローラ12は、荷重コントロール判定(S52)の結果をYESとする。荷重コントロール判定閾値を超えていない場合、コントローラ12は、荷重コントロール判定(S52)の結果をNOとする。
【0049】
コントローラ12は、歩幅成功回数を全体回数で除した値が歩幅判定閾値を超えたか否かを判定する。歩幅成功回数を全体回数で除した値が歩幅判定閾値を超えている場合、コントローラ12は、脚を前に出した位置の判定(S53)の結果をYESとする。歩幅判定閾値を超えていない場合、コントローラ12は、脚を前に出した位置の判定(S53)の結果をNOとする。
【0050】
コントローラ12は、振り出し速度成功回数を全体回数で除した値が振り出し速度判定閾値を超えたか否かを判定する。振り出し速度成功回数を全体回数で除した値が振り出し速度判定閾値を超えている場合、コントローラ12は、脚の振り出し速度の判定(S54)の結果をYESとする。振り出し速度判定閾値を超えていない場合、コントローラ12は、脚の振り出し速度の判定(S54)の結果をNOとする。
【0051】
コントローラ12は、歩行リハビリ装置10を用いてユーザが所定距離(例えば10m)歩行した後の各成功回数の値に基づき、上記した、荷重コントロール判定(S52)、脚を前に振り出した位置の判定(S53)、及び、脚の振り出し速度の判定(S54)を判定する。なお、回復レベルがレベルAとは、設定した第1荷重閾値W_th1を十分に超え、かつ、設定した第2荷重閾値W_th2より十分低く荷重を抜いて地面から脚を上げられた回数/全体回数で回復レベルを判断するものである。回復レベルがレベルBとは、設定した歩幅に対して十分歩幅が大きかった回数/全体回数で回復レベルを判断するものである。回復レベルCとは、設定した脚の振り出し速度に対して実際の脚振り出し速度が十分に大きかった回数/全体回数で回復レベルを判断するものである。
【0052】
なお、第1荷重閾値W_th1、第2荷重閾値W_th2は、前述した閾値決定次の代りに次の式に基づいて決定されてもよい。
【0053】
W_th1=第1荷重閾値の初期値−(C11×Xa+C12×Xb+C13×Xc)
W_th2=第2荷重閾値の初期値+(C14×Xa+C15×Xb+C16×Xc)
【0054】
ここで、Xa=「設定した第1荷重閾値W_th1を十分に超え、かつ、設定した第2荷重閾値W_th2より十分低く荷重を抜いて地面から脚を上げられた回数/全体回数」であり、Xb=「設定した歩幅に対して十分歩幅が大きかった回数/全体回数」であり、Xc=「設定した脚の振り出し速度に対して実際の脚振り出し速度が十分に大きかった回数/全体回数」である。また、C11、C12、C13、C14、C15、C16は、予め定められた係数である。ここで、回復レベルAの場合は、C12、C13、C15、C16=0とする。また、回復レベルBの場合は、C13、C16=0とする。
【0055】
コントローラ12は、上記した処理によって決定した回復レベルを、表示装置(不図示)に表示する。歩行リハビリ装置10のユーザ、あるいは、そのユーザをサポートする療法士は、歩行リハビリ装置10の表示装置に表示された回復レベルによって、ユーザの歩行能力の回復度合いを把握することができる。
【0056】
歩行リハビリ装置10の他の特徴を以下に列記する。非健常者(歩行リハビリ装置のユーザ)は、歩行能力が回復するにつれて、遊脚の振り動作が早くなっていく。コントローラ12は、回復状態に応じて、目標パターンを変更するとよい。発明者の検討によると、回復状態と、適切な第1、第2荷重閾値の間には特定の相関があることが判明した。その相関に基づき、コントローラ12は次の特徴を有するのがよい。即ち、コントローラ12は、第1荷重閾値W_th1が第2荷重閾値W_th2より大きい場合には、下腿リンク回転角が第1目標パターンに追従するようにモータ24(アクチュエータ)を制御し、第1荷重閾値W_th1が第2荷重閾値W_th2よりも小さくなった場合には、第1目標パターンと異なる第2目標パターンに追従するようにモータ24(アクチュエータ)を制御するとよい。
【0057】
ユーザの回復レベルは、第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2と相関がある。従って、コントローラ12は、第1荷重閾値W_th1と第2荷重閾値W_th2に相関する(基づいて決定される)歩行能力回復レベルを表示することが好ましい。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0059】
10:歩行リハビリ装置
12:コントローラ
20:大腿リンク
22:第1ジョイント
24:モータ
30:下腿リンク
32:第2ジョイント
40:足リンク
42:荷重センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの大腿に装着される大腿リンクと、
大腿リンクに回転可能に連結されており、ユーザの下腿に装着される下腿リンクと、
下腿リンクを回転させるアクチュエータと、
下腿リンクの回転角が、歩行時の離地から着地までの1ステップに相当する下腿リンク目標回転角の経時的変化を記述した目標パターンに追従するようにアクチュエータを制御するコントローラと、
大腿リンクと下腿リンクを装着している脚の足底に加わる荷重を検知する荷重センサと、
を備えており、コントローラは、
荷重センサが検知する荷重が第1荷重閾値を超えた後に第2荷重閾値を下回ったことをトリガとして1ステップ分のアクチュエータ制御を開始し、
下腿リンクを装着した脚が接地しているときに受ける荷重、下腿リンクを装着した脚の歩幅、及び、大腿リンクの回転角速度の少なくも一つの値に基づいて第1荷重閾値と第2荷重閾値を決定することを特徴とする歩行リハビリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−125388(P2012−125388A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279196(P2010−279196)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)