説明

歩行支援装置

【課題】自力で体重を支えきれなくなったときに膝関節が屈曲してしまうこと防止する歩行支援装置を提供する。
【解決手段】歩行支援装置100は、大腿リンク10、下腿リンク20、第1補助リンク30、及び、第2補助リンク40を備えており、それらのリンクは閉リンク構造を構成している。ユーザが膝を伸ばしたときに側方から観測して、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角が180度となるように閉リンクが構成されている。さらに、下腿リンク20に、第2補助リンク40を引き付ける磁石60が取り付けられている。ユーザが膝を伸ばした際、磁石60が第2補助リンク40を引き付け、内角が180度になると、下腿リンク20は回転できなくなり、ユーザが自力で体重を支えきれなくなった場合でも膝関節が屈曲してしまうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの脚の動き、特に歩行動作を支援する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの脚の動きをサポートする装具として、これまでの長下肢装具に加えて近年、アクチュエータによって積極的にユーザの脚の動きを補助する装置(歩行支援装置)が研究されている。そのような歩行支援装置は、ユーザの大腿と下腿の夫々に装着される大腿リンクと下腿リンクが揺動可能に連結されており、アクチュエータが下腿リンクを揺動させる。歩行支援装置は、ユーザの歩行動作に応じて下腿リンクを揺動させ、歩行動作がスムーズとなるようにユーザの脚をガイドする。そのような装置の例が特許文献1や特許文献2に開示されている。なお以下では、「歩行支援装置」を単純に「支援装置」と称する場合がある。
【0003】
特許文献2に開示された支援装置は、モータ(アクチュエータ)のトルクを増幅して下腿リンクへ伝達する減速機構として閉リンク機構を採用している点でユニークである。その支援装置は、大腿リンクと下腿リンクを2本の補助リンクで連結して4リンクの閉リンク機構を構成している。4リンクの閉リンク機構は、各リンクの長さを適宜に選定すると減速装置として機能することが知られている。例えば、特定の一つのリンクを固定したと仮定して考えたときに、最も短いリンクが一回転するときに最も長いリンクが1/4回転するように各リンクの長さを規定すると、このときのトルク増幅率はおよそ4倍となる。後述するように本発明も4リンクの閉リンク機構を採用した支援装置であるので、関連する先行技術として特許文献2を挙げておく。
【0004】
ここで、本明細書で用いる用語の幾つかを説明しておく。ピッチ軸とは、ロボットの技術分野でよく知られている用語であり、ロボット(本明細書の場合は支援装置を装着したユーザ)の左右方向(側方)に伸びる軸を意味する。また、以下の説明で用いる「前方」、「後方」とは、ユーザが直立姿勢をとったときの前方、後方を意味する。従って、例えば「下腿リンクがピッチ軸周りに回転可能である」という表現は、支援装置をユーザが装着したときにユーザのピッチ軸周りに下腿リンクが回転可能である、ということを意味する。同様に、「下腿リンクの後方」とは、支援装置をユーザが装着したときであってユーザが直立姿勢をとったときに下腿リンクの後方となる位置、を意味する。さらに、「脚の長手方向の中心線」とは、ユーザを側方(ピッチ軸方向)から観測したとき、大腿については股関節回転中心と膝関節回転中心を結ぶ直線を意味し、下腿については、膝関節回転中心と足首関節回転中心を結ぶ直線を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−301124号公報
【特許文献2】特開2008−23234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脚を動かすことが不自由な非健常者に対して上記の支援装置を用いる場合、装置を装着した脚(装着脚)が自己の筋力では体重を支えきれなくなった場合に膝関節が屈曲してしまうことを防止する機能が備えられていることが望まれる。体重を支えきれなくなって膝関節が屈曲してしまうことは、「膝折れ」と俗称されている。以下、説明が理解し易くなるので本明細書でも「膝折れ」という用語を用いる。支援装置は、膝折れを防止する機能を備えていることが好ましい。そのような機能を具現化する一つの手法として、アクチュエータを有する脚装具の場合、膝折れが生じないように下腿リンクの角度を維持するトルクを出力することが考えられる。このときアクチュエータに要求される出力トルクを小さくすることができれば、支援装置の省エネルギ化が図れる。あるいは、アクチュエータに要求される最大トルクを小さくすることができれば、小型(小出力)のアクチュエータを採用することができ、装置の軽量化/低コスト化が図れる。
【0007】
他方、アクチュエータに頼らずに膝折れを防止する手法として、下腿リンクの回転に対してブレーキをかける方法が考えられる。しかしその場合、歩行動作中、装着脚が立脚のときには下腿リンクの回転にブレーキをかけ、遊脚のときにはブレーキを解放するように、歩行の所定のタイミングに合わせてブレーキのON/OFF切り換える必要がある。
【0008】
上記の課題に対して、ブレーキを用いることなく、また、アクチュエータに大きな出力トルクを要求することもなく、メカ的な工夫により立脚の膝折れを防止することのできる支援装置が本願出願人によって出願された(特願2011−003481、2011年1月11日出願、本願出願時は未公開)。本明細書が開示する技術は、先に出願された支援装置を改良するものであり、歩行時の立脚の膝折れを防止する機能がより確実に作動するように工夫を加えたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、先に出願された支援装置を説明する。その支援装置は、特許文献2の歩行支援装置と同様に、大腿リンクと下腿リンクを2本の補助リンクで連結して4リンクの閉リンク機構を採用する。本明細書が開示する支援装置の一つの特徴は、特定の幾何学条件を満足するように閉リンクの構造を規定することによって、ブレーキを不要とするだけでなくアクチュエータのトルクすら必要とすることなく立脚の膝折れを防止する。
【0010】
本明細書が開示する支援装置の一態様を説明する。その支援装置は、大腿リンク、下腿リンク、第1補助リンク、第2補助リンクを備えている。大腿リンクと下腿リンクは相互に回転可能に連結されており、それぞれがユーザの大腿と下腿に取り付けられる。大腿リンクと下腿リンクの間の回転軸線は、ユーザが支援装置を装着した際、膝関節の回転軸とほぼ一致する。第1補助リンクはその一端がピッチ軸回りに回転可能に大腿リンクに連結しており、第2補助リンクはその一端がピッチ軸回りに回転可能に下腿リンクに連結している。第1補助リンクの他端は第2補助リンクの他端に回転可能に連結している。こうして閉リンク構造が確立されている。
【0011】
本明細書が開示する支援装置は、大腿リンク、下腿リンク、第1及び第2補助リンクが、4リンクの閉リンク構造を構成する。この点では特許文献2の支援装置と同じである。本明細書が開示する支援装置は、その閉リンク構造が、次の2つの幾何学的条件を満足するように構成されていることにある。第1の幾何学的条件は、支援装置を装着したユーザが膝を伸ばしたときに側方(ピッチ方向)から観測して、閉リンク構造がなす矩形において、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心を頂点とする内角が180度となるように構成されている、という条件である。「内角」とは、4リンクの閉リンク機構が作る四角形の内角のことである。以下、この条件を、「膝ロック条件」と称することにする。膝ロック条件が成立すると、第1、第2補助リンクがほぼ一直線となり、それら2個のリンクがいわゆるつっかえ棒となって下腿リンクの屈曲方向の揺動を不可能にする、すなわち下腿リンクをロックする。なお、そのような機能ゆえ、「膝ロック条件」と名付けた。
【0012】
なお、「内角」の表現を用いる際、閉リンクの幾何学的構造、すなわち、リンク連結部(矩形の頂点)の位置が重要であり、リンクの物理的な形状には限定されない。例えば、湾曲しているリンクの両端が他のリンクと連結している場合であっても、閉リンク構造を規定するリンクの幾何学的構造は、リンク両端の連結点を結ぶ直線である。すなわち、「内角が180度である」とは、リンクの実際の形状によらず、大腿リンクと第1補助リンクの連結部の回転中心(すなわち閉リンクの矩形の一つの頂点)と第1、第2補助リンクの連結部の回転中心を結ぶ直線と、第1、第2補助リンクの連結部の回転中心と下腿リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心を結ぶ直線がなす角度を意味する。従って膝ロック条件は、次のように表現することもできる。すなわち、大腿リンクと第1補助リンクの連結部の回転中心、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心、及び、下腿リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心の3点が一直線に並ぶように構成されている。
【0013】
以下では、「閉リンク構造がなす矩形において、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心を頂点とする内角」を簡単化のため「補助リンク内角」と称することにする。そうすると、膝ロック条件は、支援装置を装着したユーザが膝を伸ばしたときに側方(ピッチ方向)から観測して、補助リンク内角が180度となるように閉リンク構造が構成されている、と表現できる。なお、膝ロック条件は、支援装置を装着したユーザが膝を伸ばしたときに側方(ピッチ方向)から観測して、補助リンク内角がわずかに180度を超えてもよい。その場合は、補助リンク内角がわずかに180度を超える時点でそれ以上増大しないように補助リンクの動作範囲を制限するストッパが備えられていればよい。補助リンク内角がわずかに180度を超えた時点でその可動範囲リミットに達すれば、上記した「つっかえ棒」の役割を確実に果たすことができる。補助リンク内角が180度をわずかに超えてもそれ以上大きくならないので、実質的には、補助リンク内角は180度であると表現することができる。本明細書でいう「補助リンク内角が180度となるように構成されている」状態には、補助リンク内角が180度を僅かに超える場合も含まれることに留意されたい。
【0014】
第2の幾何学的条件は、大腿リンクと第1補助リンクの連結部の回転中心と、下腿リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心の少なくとも一方が、ユーザが支援装置を装着した際に側方(ピッチ軸方向)から観測して、膝関節回転中心を通る脚長手方向中心線よりも後方に位置する、という条件である。以下、この条件を、屈曲条件と称することにする。屈曲条件は、膝ロック条件を満足した上で、大腿リンクと下腿リンクが膝屈曲方向に曲がることができるために必要な条件である。ユーザが脚を伸ばしたとき、第1及び第2補助リンクが共に完全に脚の長手方向の中心線よりも前方に位置する場合(屈曲条件が満足されないとき)、第1と第2のリンクが引っ張り合うので大腿リンクと下腿リンクは膝屈曲方向に回転できなくなるのは容易に想像がつくであろう。
【0015】
ユーザが膝を伸ばしたときに膝ロック条件が成立すると、下腿リンクが揺動することができなくなり、膝に外力トルクが作用しても膝折れが防止される。膝折れ防止にアクチュエータのトルクは必要ない。なお、アクチュエータを備える場合は、アクチュエータによって第1あるいは第2補助リンクを回転させれば膝ロックは解除される。すなわち、歩行動作に従ってアクチュエータが下腿リンクを揺動させる際、膝が伸びきった状態まで下腿リンクが揺動すると、受動的に膝折れ防止が達成される。歩行動作が進み、アクチュエータが下腿リンクを後方に揺動させれば膝ロックは解除される。この支援装置は、膝が伸びきるまで下腿リンクが揺動すると受動的に膝ロックが成立し、アクチュエータが下腿リンクを膝屈曲方向に回転させると受動的に膝ロックが解除される。
【0016】
本明細書が開示する支援装置は、上記した構造に加えて、大腿リンク、下腿リンク、第1補助リンク、及び、第2補助リンクのいずれかのリンクに、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部を下腿リンクと大腿リンクの連結部に近づける方向に他のリンクを引き付ける磁石(第1磁石)が取り付けられている。なお、引き付けられるリンクは、少なくとも一部は磁性体で構成されている。本明細書が開示する支援装置は、磁石を備えることによって、膝ロック条件が成立する角度に至るまで補助リンクの回転を促進する。
【0017】
第1磁石は、どのリンクに備えられてもよいが、好ましくは、第1補助リンクが第2補助リンクよりも短く、下腿リンクと第2補助リンクのいずれか一方のリンクに第1磁石が取り付けられていることが好ましい。さらに、第1補助リンクを回転駆動するアクチュエータが大腿リンクに取り付けられていることが好ましい。重量の嵩むアクチュエータは下腿リンクに取り付けるよりも大腿リンクに取り付けた方が、ユーザの脚に与える負担が少ない。さらに、アクチュエータが回転駆動する第1補助リンクが短ければ短いほど、アクチュエータが第1補助リンクに加えるトルク(入力トルク)と、そのトルクに起因して下腿リンクに生じるトルク(出力トルク)の比(即ち減速機構としてのトルク比)が大きくなる。第1補助リンクを短くすることは第2補助リンクを長くすることに他ならない。従って、定性的には、第1補助リンクは第2補助リンクよりも短い方が、トルク比を大きくとれる。即ち、そのように構成すれば、アクチュエータが小さくて済み、支援装置を軽量化できる。或いは、同じサイズのアクチュエータを採用する場合、第1補助リンクが短いほど、下腿リンクを回転させるトルクを大きくすることができる。
【0018】
そして上記の場合、第2補助リンクが長いので、第1磁石を、下腿リンクと第2補助リンクの連結部回転中心から遠い位置に配置することができる。回転中心から遠いほど磁石の吸引力が第2補助リンクを駆動するトルクを大きくすることができる。すなわち、第1磁石が第2補助リンクを下腿リンクに近づけ易くなる。
【0019】
下腿リンクを揺動させるアクチュエータを備えていれば、そのアクチュエータが、膝ロックを解除することができる。他方、次のように構成すれば、膝ロックを解除する機構として、上記した磁石を活用することも可能である。すなわち、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部が下腿リンクと大腿リンクの連結部に近づいたときに第1磁石と対向する第2磁石を他のリンクに設ける。別言すれば、ユーザが膝を伸ばしたときに第1磁石と対向する他のリンクに第2磁石を設ける。このとき、第1磁石と第2磁石の一方には電磁石を採用する。さらに支援装置は、第1磁石と第2磁石の間に引力が作用する状態と斥力が作用する状態とが切り換わるように電磁石への通電方向を制御するコントローラをさらに備える。第1磁石と第2磁石の間に引力が作用するようにすれば、前述したとおり膝ロック条件が成立するように第1/第2補助リンクの連結部が下腿/大腿リンクの連結部に引き付けられる。他方、第1磁石と第2磁石の間に斥力が作用するようにすれば、第1/第2補助リンクの連結部を下腿/大腿リンクの連結部から遠ざける方向に磁力が働く。すなわち、磁力により膝ロックが解除できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】支援装置の外観図である。
【図2】大腿リンクと下腿リンクの連結部分の拡大斜視図である。
【図3】ユーザが膝を伸ばした状態に対応する、大腿リンクと下腿リンクの連結部分の拡大側面図である。
【図4】図3の状態におけるリンク群を線画にて模式的に表した図である。
【図5】支援装置の模式的側面図である。図5(A)はユーザが膝を伸ばしたときの支援装置の形態を示しており、図5(B)はユーザが膝を曲げたときの支援装置の形態を示している。
【図6】第2実施例の支援装置の模式的側面図である。
【図7】第3実施例の支援装置の模式的側面図である。
【図8】第4実施例の支援装置の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、第1実施例の支援装置100(歩行支援装置)の外観図を示す。この実施例では、支援装置100は、ユーザの左脚に装着される。すなわち、ユーザは左脚を自由に動かすことができず、支援装置100は左脚の動きをサポートする。具体的には、支援装置100は、モータ55(アクチュエータ)を備えており、歩行動作に合わせて左脚の下腿を揺動させ、歩行動作を支援する。支援装置100は、下腿の揺動角度(膝角度)を計測する角度センサや、脚の接地を検知する接地センサを備えているとともに、それらセンサの計測結果に基づいてモータ55を制御するコントローラ14を備えている。コントローラ14は、モータ55のケース内部に収められている。各種センサは図示を省略してある。
【0022】
図面で用いる座標系について説明する。X軸はユーザの前後方向を示しており、X軸の正方向が「前方」に相当し、負方向が「後方」に相当する。図面のY軸はユーザの左右方向(側方)を示している。Y軸はピッチ軸とも呼ばれる。Z軸は鉛直方向を示している。これらの座標系のとり方は、ロボットの技術分野において一般的に使われている手法である。
【0023】
支援装置100は、モータ55を制御するアルゴリズムを様々に変更することによって、歩行動作だけでなく、立ち上がり動作や着座動作の際の膝関節の動き(下腿の動き)を支援する。なお、本明細書が開示する技術は、支援装置の機構に特徴があるのであるから、歩行支援や立ち上がり支援のための制御アルゴリズムについては説明を省略する。
【0024】
符号60は磁石を示している。磁石60の説明は後述するとして、まず、支援装置100の機械的構造を説明する。支援装置100は、ユーザの大腿に装着される大腿リンク10と、下腿に装着される下腿リンク20がジョイント52で連結された脚装具構造を有している。下腿リンク20の下端には、ジョイント24を介して足リンク25が連結されている。足リンク25はユーザの足に装着される。「ジョイント」は「連結部」に相当する。
【0025】
大腿リンク10は大腿の両側方に伸びるフレームを有しており、両側のフレームは腿当て12によって連結されている。下腿リンク20は下腿の両側方に伸びるフレームを有しており、両側のフレームは膝当て22によって連結されている。
【0026】
大腿リンク10と下腿リンク20は、一対のジョイント52によって相互に回転可能に連結されている。一対のジョイント52の夫々は、ユーザが装着したときに膝の両側に位置し、その回転軸線は膝関節の回転軸線(ピッチ軸回りの回転軸線)とほぼ一致する。一方のジョイント52には、モータ55(及びコントローラ14)が装備されている。モータ55は、大腿リンク10に固定されている。モータ55は、後述する第1補助リンク30を回転駆動する。詳しくは後述するが、第1補助リンク30の回転に連動して、下腿リンク20が大腿リンク10に対して揺動する。
【0027】
図1の破線で囲った部分は、大腿リンク10と下腿リンク20の連結部分を示しており、図2にその連結部分の拡大図を示す。図3は連結部分の側面図を示している。なお、図2、図3では、大腿リンク10と下腿リンク20はそれらのフレームの一部のみが示されている。これらの図に示されているように、大腿リンク10と下腿リンク20の間には2本の補助リンク(第1補助リンク30、第2補助リンク40)が連結されており、大腿リンク10、下腿リンク20、第1補助リンク30、及び、第2補助リンク40によって、4リンクの閉リンク機構が構成されている。図4は、大腿リンク10、下腿リンク20、第1補助リンク30、及び、第2補助リンク40を模式的に線画で表した図である。なお、図2、図3の下腿リンク20が例示するようにリンクの物理的形状が湾曲形状であっても、図4に示すように、リンク機構を規定するための構造としては、各リンクは連結部を結ぶ直線で表すことができる。図4からも、4本のリンクが閉リンク構造を構成しており、矩形を形作ることが理解される。
【0028】
閉リンク機構の構造を詳しく説明する。第1補助リンク30の一端はジョイント52を介して大腿リンク10に連結されている。第2補助リンク40の一端はジョイント54を介して下腿リンク20に連結されている。第1補助リンク30の他端と第2補助リンク40の他端はジョイント53を介して連結されている。ジョイント51、52、53、54は、いずれもピッチ軸(図のY軸)方向に伸びる回転軸線を有している。即ち、いずれのリンクも、ジョイントを中心にピッチ軸回りに回転することができる。以下、大腿リンク10と下腿リンク20を連結するジョイント51を、第1ジョイント51と称する。大腿リンク10と第1補助リンク30を連結するジョイント52を、第2ジョイント52と称する。第1補助リンク30と第2補助リンク40を連結するジョイント53を、第3ジョイント53と称する。下腿リンク20と第2補助リンク40を連結するジョイント54を第4ジョイントと称する。また、ジョイント(第1ジョイント51、第2ジョイント52、第3ジョイント53、第4ジョイント54)との用語は、「ジョイントの回転中心」を意味する場合があることに留意されたい。
【0029】
図3の直線L1は、大腿の長手方向の中心線を示しており、L2は下腿の長手方向の中心線を示している。L1とL2を合わせて脚の長手方向中心線と称する。なお、中心線は、四肢の各部位(大腿や下腿など)の両端の関節の中心を結ぶ線分を意味する。図3は、ユーザが直立姿勢をとったときの閉リンク機構の形態を示している。図3が示しているように、ユーザが直立姿勢をとったとき、第2ジョイント52の回転中心は、膝関節回転中心(第1ジョイント51の回転中心)を通る脚長手方向の中心線L1よりも後方に位置している。第4ジョイント54の回転中心も、膝関節回転中心を通る脚長手方向の中心線L2よりも後方に位置している。なお、第2ジョイント52と第4ジョイント54の少なくとも一方が、膝関節回転中心を通る脚の長手方向の中心線L1、L2よりも後方に位置していればよい。この幾何学的条件が前述した屈曲条件に相当する。前述したように、屈曲条件は、下腿リンク20が屈曲側に回転することを保証するための条件にすぎない。
【0030】
図4は、図3の状態の各リンクを線画で模式的に表した図である。図3、図4に示すように、ユーザが直立姿勢をとったとき、側方(Y軸方向、ピッチ軸方向)から観測して、第2ジョイント52の回転中心、第3ジョイント53の回転中心、及び、第4ジョイント54の回転中心がほぼ一直線に並ぶように構成されている。即ち、前述した膝ロック条件が成立する。別言すれば、ユーザが直立姿勢をとったとき、第2ジョイント52と第3ジョイント53の回転中心を結ぶ直線L3と、第3ジョイント53と第4ジョイント54の回転中心を結ぶ直線L4がなす角度Agがほぼ180度である。なお、図4では、内角Agが180度よりも大きいことがはっきりとわかるように内角Agを180度よりもかなり大きく描いているが、正確には、角度Agは180度+微小角である。「微小角」とは、おおむね5度以下である。角度Agはわずかに180度よりも大きいが、後述する角度Agの役割からすれば、角度Agはほぼ180度と表現してよい。
【0031】
図4がよく示しているように、大腿リンク10、下腿リンク20、第1補助リンク30、及び、第2補助リンク40は矩形を構成する。従って、図4の符号Agが示す角度は、第3ジョイント53の回転中心を頂点とする矩形(閉リンク機構)の内角と呼ぶことができる。すなわち、膝ロック条件とは、ユーザが膝を伸ばしたときに側方から観測して、第3ジョイント53の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角が180度となるように構成されていることである。
【0032】
図2、図3に示すように、下腿リンク20にはメカストッパ21が設けられている。メカストッパ21は、角度Agが180度+微小角を越えないように制限している。なお、角度Agは、前述したように第3ジョイント53の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角である。従って別言すると、角度Agは、側方から観測して、第1補助リンク30と第2補助リンク40がなす角度であって膝を屈曲したときに180度以下となる側の角度、と表現することもできる。
【0033】
膝ロック条件の技術的意味を、図5を参照して説明する。図5は、側方から観測したときの支援装置100を模式的に示したものである。図5(A)は、ユーザが膝を伸ばした状態を示しており、図5(B)は、ユーザが膝を曲げた状態を示している。
【0034】
図5(A)が示すように、ユーザが膝を伸ばしたとき、ジョイント52、53、及び、54の3点の回転中心は、側方から観測してほぼ一直線に並んでいる。即ち膝ロック条件が成立している。この状態で第1ジョイント51に膝屈曲方向の外力トルクが作用しても、第1補助リンク30と第2補助リンク40は、その長手方向(ジョイント52、53、及び、54を結ぶ直線)に沿って力が作用するのであるから、回転しない。別言すると、第1補助リンク30と第2補助リンク40には軸力は作用するがモーメントは作用しないのであるからそれらは回転しない。即ち、膝ロック条件が成立すると、膝関節に屈曲方向の外力トルク(下腿リンク20を矢印Tf方向に回転させるトルク)が作用しても下腿リンク20は回転しない。つまり膝の回転がロックされる。これが、「膝ロック条件」の技術的意義である。膝関節に作用する外力トルクとは、典型的には、ユーザの体重に起因するトルクであり、ユーザの筋力がこの外力トルクに抗することができないと、いわゆる「膝折れ」となる。膝ロック条件が満たされれば、ユーザの筋力に代わって支援装置100が膝折れを防止する。
【0035】
なお、屈曲条件、即ち、第2ジョイント52の回転中心と、第4ジョイント54の回転中心の少なくとも一方が、ユーザが支援装置100を装着した際に側方から観測して、膝関節回転軸(第1ジョイント51)を通る脚長手方向中心線(直線L1及びL2)よりも後方に位置する、という条件が成立しないと下腿リンク20が膝屈曲方向に回転できないことは、図5からも明らかであろう。
【0036】
第1ジョイント51の回りに外力トルクが作用しても下腿リンク20は回転しないが(膝はロックされたままであるが)、第2ジョイント52回りに第1補助リンク30にトルクが作用すると、第1補助リンク30は容易に回転し、その結果、下腿リンク20が回転する。即ち、モータ55が第1補助リンク30を回転させるトルクを出力すれば膝のロックは解除される(図5(B))。
【0037】
このように、ユーザが膝を伸ばしたときに膝ロック条件が成立すると、膝に外力トルクが作用しても、モータ55がトルクを出力せずとも下腿リンク20は回転できなくなる。即ち、モータ55のトルクを要することなく膝折れを防止できる。なお、ジョイント52、53、及び、54の回転中心は、厳密に一直線に並ばなくともよい。すなわち、内角Agはおおむね180度であればよい。具体的には、内角Agは、180〜180+5度程度以内であればよい。その程度の範囲内であれば、第1ジョイント51(ユーザの膝関節)に外力トルクが作用したときに第1補助リンク30の回転を禁止するのにモータ55に要求される出力トルクは非常に小さくて済むからである。これは、第1ジョイント51に作用する外力トルクに起因して第1補助リンク30に生じるトルク(モーメント)が非常に小さいからである。
【0038】
図5(A)から明らかなとおり、ユーザが膝を伸ばしたとき、膝ロック条件が成立しているので、大腿リンク10に対して下腿リンク20は回転しない。より具体的には、大腿リンク10、あるいは、下腿リンク20に膝折れ方向の外力トルクが作用しても、第1補助リンク30の長手方向(直線L3)と第2補助リンク40の長手方向(直線L4)がほぼ一直線となっているので、それら補助リンクが外力トルクに抗し、下腿リンク20の回転を阻止する。即ち、一直線に並んだ2本の補助リンクが、膝折れを防止している。なお、厳密には、外力トルクは内角Agを増大する方向に作用するが、メカストッパ21が内角Agを最大でも180度+微小角(5度程度)に制限しているので、下腿リンク20は回転しない。モータ55が膝折れ防止のためのトルクを出力せずとも、2本の補助リンクが膝折れを防止する。
【0039】
モータ55が第1補助リンク30を回転駆動すると、膝ロックが解除され、さらに回転駆動すると、図5(B)に示すように下腿リンク20を回転させる。モータ55は、膝ロックを解除する機能と、下腿リンク20を揺動させる機能を兼ね備えている。ここで、図4に示すように、モータ55が回転駆動する第1補助リンク30の長さH1は、第2補助リンク40の長さH2よりも短い。モータ55は、短い方の補助リンク(第1補助リンク30)を回転駆動するので、長い方の補助リンク(第2補助リンク40)を回転駆動する場合よりも、下腿リンク20に発生するトルク(即ち出力トルク)は大きくなる。また、モータ55は大腿リンク10に固定されているので、下腿リンク20に固定される場合と比較してユーザへの負担が小さくて済む。
【0040】
下腿リンク20が備える磁石60について説明する。磁石60は、メカストッパ21に埋設されている。ユーザが膝を伸ばしたときにメカストッパ21に当接する第2補助リンク40は、鉄(磁性体)で作られており、磁力に引き付けられる。モータ55が下腿リンクを膝伸展方向に揺動させた際、第2補助リンク40が下腿リンク20のメカストッパ21にある程度近づくと、第2補助リンク40は磁石60に引き寄せられ、最後にはメカストッパ21にくっつく。すなわち、磁石60は、膝ロック条件が成立するように第2補助リンク40をメカストッパ21(下腿リンク20)に引き寄せる。磁石60を備えることによって、ユーザが膝を伸ばすように下腿を揺動させた際、膝ロック条件が確実に成立するようになる。磁石60は、膝ロック条件が成立する角度に至るまで第2補助リンク40の回転を促進する。
【0041】
磁石60とこれに引き付けられるリンクは、第1実施例の関係に限られない。以下、磁石とリンクの関係のバリエーションを説明する。図6は第2実施例の支援装置200の模式的側面図である。図6(A)はユーザが膝を伸ばしたときの各リンクの形態を示しており、図6(B)はユーザが膝を曲げたときの各リンクの形態を示している。第2実施例の閉リンク機構は、大腿リンク210、下腿リンク220、第1補助リンク230、第2補助リンク240で構成される。第2実施例の支援装置200も、ユーザが膝を伸ばしたときに側方から観測して、第1補助リンク230と第2補助リンク240の連結部(第3ジョイント53)の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角(図6(A)において直線L3とL4が図面左側でなす角度)が180度(+微小角)となるように閉リンクが構成されている。第3ジョイント53を頂点とする内角が180度(+微小角)を超えないように、下腿リンク220には、第1補助リンク230が当接するメカストッパ21が設けられている。
【0042】
第2実施例の支援装置200では、磁石60の位置は第1実施例の場合と同じであるが、メカストッパ21に当接するのが第2補助リンク240でなく第1補助リンク230である点で第1実施例と異なる。別言すれば、第1補助リンク230が第2補助リンク240よりも長い。この実施例の場合、第1補助リンク230は磁性体(典型的には鉄)で作られており、磁力が作用する。図6に示す第2実施例の磁石60も、第1実施例の磁石60と同じ効果を奏する。
【0043】
図7は第3実施例の支援装置300の模式的側面図である。図7(A)はユーザが膝を伸ばしたときの各リンクの形態を示しており、図7(B)はユーザが膝を曲げたときの各リンクの形態を示している。第3実施例の閉リンク機構は、大腿リンク310、下腿リンク320、第1補助リンク330、第2補助リンク340で構成される。第3実施例の支援装置300も、ユーザが膝を伸ばしたときに側方から観測して、第1補助リンク330と第2補助リンク340の連結部(第3ジョイント53)の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角(図7(A)において直線L3とL4が図面左側でなす角度)が180度となるように閉リンクが構成されている。第3ジョイント53を頂点とする内角が180度を超えないように、大腿リンク310には、第1補助リンク330が当接するメカストッパ21が設けられている。
【0044】
第3実施例の場合、補助リンクの揺動範囲を規制するメカストッパ21は大腿リンク310に設けられている。また、磁石60は、第3ジョイント53が第1ジョイント51に近づいたときに、メカストッパ21に当接する部分(第1補助リンク330)に埋設されている。メカストッパ21は磁性体で作られている。この実施例の場合でも、第1実施例の磁石60と同じ効果を奏する。
【0045】
第1から第3実施例から理解されるように、大腿リンク、下腿リンク、第1補助リンク、及び、第2補助リンクのいずれかのリンクに、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部を大腿リンクと下腿リンクの連結部に近づける方向に他のリンクを引き付ける磁石(第1磁石)が取り付けられていればよい。
【0046】
図8は、2個の磁石を備える第4実施例の支援装置400の模式的側面図である。図8(A)はユーザが膝を伸ばしたときの各リンクの形態を示しており、図8(B)はユーザが膝を曲げたときの各リンクの形態を示している。第4実施例の閉リンク機構の構造は、第3実施例の閉リンクの構造と同じである。従って図8の支援装置400の各部品には図7と同じ符号を付している。支援装置400は、第2磁石62を有する点で第3実施例の支援装置と異なる。以下、支援装置400の特徴を説明する。
【0047】
第4実施例の支援装置400では、第3ジョイント53が第1ジョイント51に近づくと、第2補助リンク340がメカストッパ21に近づく。メカストッパ21は、大腿リンク310に設けられている。支援装置400では、メカストッパ21内に第2磁石62が埋設されており、第2補助リンク340の一部であって第3ジョイント53が第1ジョイント51に近づいたときに第2磁石62と対向する位置に第1磁石60が埋設されている。第2磁石62は電磁石であり、コントローラ14がその極性を制御する。コントローラ14は、第3ジョイント53が第1ジョイント51に近づくとき、第1磁石60と第2磁石62の間に引力が作用するように極性を制御する。このときは、前の実施例と同様に、第2補助リンク340(第1磁石60)がメカストッパ21(第2磁石62)に吸い寄せられ、膝ロック条件が成立する。膝ロックを解除する場合、コントローラ14は、第1磁石60と第2磁石62の間に斥力が作用するように第2磁石62の極性を制御する。斥力は、第3ジョイント53を第1ジョイント51から遠ざける向きに作用する。すなわち、電磁石である第2磁石62は、膝ロックを促進するアクチュエータとして働くとともに、膝ロックを解除するアクチュエータとしても働く。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0049】
10、210、310:大腿リンク
20、220、320:下腿リンク
21:メカストッパ
24:ジョイント
25:足リンク
30、230、330:第1補助リンク
40、240、340:第2補助リンク
51、52、53、54:ジョイント
55:モータ
60、62:磁石
100、200、300、400:歩行支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの大腿に装着される大腿リンクと、
ピッチ軸回りに回転可能に大腿リンクに連結しており、ユーザの下腿に装着される下腿リンクと、
一端がピッチ軸回りに回転可能に大腿リンクに連結している第1補助リンクと、
一端がピッチ軸回りに回転可能に下腿リンクに連結しているとともに、他端が第1補助リンクの他端に回転可能に連結している第2補助リンクと、
を備えており、
大腿リンクと下腿リンクと第1補助リンクと第2補助リンクが閉リンク構造をなしており、
大腿リンクと第1補助リンクの連結部の回転中心と、下腿リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心の少なくとも一方が、膝関節回転中心を通る脚の長手方向の中心線よりも後方に位置しており、
ユーザが膝を伸ばしたときに側方から観測して、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部の回転中心を頂点とする閉リンク構造の内角が180度となるように閉リンクが構成されているとともに、
大腿リンク、下腿リンク、第1補助リンク、及び、第2補助リンクのいずれかのリンクに、第1補助リンクと第2補助リンクの連結部を下腿リンクと大腿リンクの連結部に近づける方向に他のリンクを引き付ける磁石(第1磁石)が取り付けられていることを特徴とする歩行支援装置。
【請求項2】
第1補助リンクは第2補助リンクよりも短く、
下腿リンクと第2補助リンクのいずれか一方のリンクに第1磁石が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置。
【請求項3】
第1補助リンクと第2補助リンクの連結部が下腿リンクと大腿リンクの連結部に近づいたときに第1磁石と対向する第2磁石が他のリンクに取り付けられており、
第1磁石と第2磁石の一方は電磁石であり、
第1磁石と第2磁石の間に引力が作用する状態と斥力が作用する状態が切り換わるように電磁石への通電方向を制御するコントローラをさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−235928(P2012−235928A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107486(P2011−107486)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)