歩行者用エアバッグ装置
【課題】フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉を、容易に抑制可能な歩行者用エアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】歩行者用エアバッグ装置M1は、車両Vのフードパネル10の後端13近傍における下面12側に搭載されて、エアバッグ22と膨張用ガスを供給するインフレーター43とを備える。エアバッグ22は、インフレーター43からの膨張用ガスにより、上昇したフードパネルの後端13とフードパネルの下方のカウル8との間の開口20から突出しつつ展開膨張して、フードパネル10の後端13付近の上面11側の領域を覆うように配設される。エアバッグ装置M1では、作動時、インフレーター43を取り付けている取付ベース55が、フードパネル10の上面11側から離れるように、下方へ移動する。
【解決手段】歩行者用エアバッグ装置M1は、車両Vのフードパネル10の後端13近傍における下面12側に搭載されて、エアバッグ22と膨張用ガスを供給するインフレーター43とを備える。エアバッグ22は、インフレーター43からの膨張用ガスにより、上昇したフードパネルの後端13とフードパネルの下方のカウル8との間の開口20から突出しつつ展開膨張して、フードパネル10の後端13付近の上面11側の領域を覆うように配設される。エアバッグ装置M1では、作動時、インフレーター43を取り付けている取付ベース55が、フードパネル10の上面11側から離れるように、下方へ移動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、作動時、カウルの上方となるフードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように、エアバッグを配設させる歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者用エアバッグ装置では、フードパネル自体の後端付近の下面側に折り畳まれて収納されるエアバッグが、インフレーターから膨張用ガスを供給されて、展開膨張し、そして、膨張を完了させたエアバッグが、フードパネル後端の上面側を、左右方向の略全域にわたって覆うように構成されるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の歩行者用エアバッグ装置では、作動時、フードパネルの後端を上昇させて、フードパネルの後端と下方のカウルとの隙間を広げ、その広げた開口から、エアバッグを突出させるものもあった(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−89333号公報
【特許文献2】特開2000−264146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行者用エアバッグ装置として、エアバッグの突出用の開口を広げるように、歩行者用エアバッグ装置の作動時にフードパネルの後端側を上昇させる構成として、フードパネルの後端付近の下面側に搭載する場合では、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターもフードパネルに取り付けられることとなる。しかし、このインフレーターは、爆発的に所定の薬剤を燃焼させて膨張用ガスを発生させたり、あるいは、予め、圧縮させて貯留させておいた状態から膨張用ガスを放出させる構成であり、剛性が必要となって、非常に硬いものとなっていた。
【0005】
一方、フードパネルは、歩行者を受け止め易いように、比較的、変形しやすい素材から形成されており、膨張を完了させたエアバッグは、硬いインフレーターの上方におけるフードパネルの上面側を覆うように、配設させる必要が生じていた。
【0006】
しかし、上記の構成の歩行者用エアバッグ装置では、エアバッグの展開膨張の配置状態にバラツキがあったり、あるいは、歩行者のフードパネル上でのエアバッグとの接触によって、エアバッグがインフレーターの上方からのずれを防止する課題があり、エアバッグの形状設定や折り畳み等の種々の対策が必要となっていた。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉を、容易に抑制可能な歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歩行者用エアバッグ装置は、車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、折り畳まれて収納されたエアバッグと、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、を備えて構成され、作動時、エアバッグが、インフレーターからの膨張用ガスにより、上昇したフードパネルの後端とフードパネルの下方のカウルとの間の開口から突出しつつ展開膨張して、フードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように配設される歩行者用エアバッグ装置であって、
インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させる移動手段が、フードパネルの後端の下面側に配設され、
移動手段が、歩行者用エアバッグ装置の作動時に、フードパネルに対するインフレーターの配置位置を、フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる歩行者から離すように、歩行者用エアバッグ装置の作動前における配置位置から取付ベースを移動させるように、構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る歩行者用エアバッグ装置は、作動時、インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させて、フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる歩行者からインフレーターを離す。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーターの上方付近のフードパネルに当たり、そして、フードパネルの上面側を変形させても、そのフードパネルの上面側から離れた位置に、インフレーターが配置されることとなって、歩行者がフードパネルを介在させてインフレーターに当たることが、抑制される。
【0010】
したがって、本発明に係る歩行者用エアバッグ装置では、インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させるための移動手段を設けることにより、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉(インフレーターに対して間接的に接触する若しくは間接的に当接すること)を、容易に抑制することができる。
【0011】
移動手段における取付ベースを移動させる方向は、後方側や下方側が例示できる。そして、移動手段が、取付ベースをフードパネルに対して下方側へ移動させるように構成される場合には、歩行者用エアバッグ装置の作動時、エアバッグを後方側へ突出させるための開口となるフードパネルの後端と下方のカウルとの隙間を広げるように、フードパネルの後端付近が上昇することから、取付ベースを下方移動させるスペースを確保し易い。
【0012】
そして、移動手段は、歩行者用エアバッグ装置の作動時に、取付ベースを平行移動させるようにスライドさせるガイド機構を設けて構成したり、あるいは、取付ベースの端部に配置される支持軸周りで回転移動させる回転機構を設けて構成できて、簡便に構成することができる。
【0013】
ちなみに、取付ベースをスライドさせるガイド機構では、インフレーターと取付ベースを下方側へ平行移動させる構成とすれば、取付ベース等を、周囲の部材に当接させること無く、フードパネルの後端付近の上昇した空きスペースに、容易に、移動させることができる。
【0014】
また、取付ベースを回転移動させる回転機構では、取付ベースをフードパネルの上面側に沿わせるように(略水平方向に沿わせるように)配置させて上面側にインフレーターを取り付けるるとともに、取付ベースの前縁側に回転中心軸となる支持軸を配置させて、作動時、取付ベースの後縁側を下方に向けて、取付ベースを下方側へ略90度回転させる構成とすれば、取付ベースを、周囲の部材に当接させること無く、フードパネルの後端付近の上昇した空きスペースに、容易に、移動させることができる。
【0015】
勿論、これらの構成では、エアバッグの展開性能を阻害することなく、すなわち、フードパネルの後端と下方のカウルとの間の開口へ向かうように、エアバッグを後方側へ突出させ、そして、エアバッグの一部を、前方側に反転させてフードパネルの後端付近の上面側に配置させ、かつ、エアバッグの残部をフードパネルの後方におけるカウルの上方の領域に配置させるように、エアバッグの展開膨張動作を確保して、構成する必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明すると、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1は、図1〜3に示すように、車両Vのフードパネル10の後端13付近における下面12側に配設されるもので、エアバッグ22、エアバッグ22に膨張用ガスを供給するインフレーター43、エアバッグ22とインフレーター43とを収納する収納部位としてのケース48、及び、インフレーター43を取り付けた取付ベース53を移動させるための移動手段55、を備えて構成されている。また、車両Vにおけるフロントバンパ5には、図1,2に示すように、歩行者との衝突を検知可能なセンサ6が、配設されており、センサ6からの信号を入力させている図示しない作動回路が、センサ6からの信号に基いて車両Vの歩行者との衝突を検知した際、インフレーター43及びフードパネル10の後端13側を上昇させる跳ね上げ機構17(図12,13参照)を作動させるように構成されている。
【0017】
なお、本明細書では、前後と上下の方向は、それぞれ、車両Vの前後と上下と一致する方向を基準とし、左右の方向は、車両Vの前方側から後方側を見た際の左右の方向を基準とする。
【0018】
フードパネル10は、車両Vにおけるエンジンルームの上方を覆うように配設されるもので、図2に示すように、左右方向の両縁側における後端13近傍に配置されるヒンジ部16により、車両Vのボディ1に対して、前開きで開閉可能に連結されている。フードパネル10は、第1実施形態の場合、ともにアルミニウム(アルミニウム合金)等からなる板金製として、上面側のアウタパネル14と、下面側に位置してアウタパネル14より強度を向上させたインナパネル15と、から構成されている(図3参照)。各ヒンジ部16は、図12,13に示すように、フードパネル10から下方に延びる支持板16aと、支持板16aから延びて軸方向を左右方向に沿わせたヒンジピン16bとを備えて構成されて、各ヒンジピン16bが、ボディ1側から延びる支持ロッド18aに回動可能に支持されて構成されている。なお、フードパネル10のインナパネル15は、アウタパネル14より剛性が高いものの、インフレーター43より、はるかに塑性変形し易く構成されている。
【0019】
跳ね上げ機構17は、図12,13に示すように、支持ロッド18aを上昇移動させるアクチュエータ18を備えて構成されている。このアクチュエータ18は、センサ6が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路からの信号を受けてフードパネル10の後端13を跳ね上げるように、支持ロッド18aを上昇させるものであり、マイクロガスジェネレータ、電磁ソレノイド、モータ等から構成されている。
【0020】
カウル8は、図3に示すように、ボディ1側の剛性の高いカウルパネル8aと、カウルパネル8aの上方のカウルルーバ8bと、を備えて構成されている。カウルルーバ8bは、後端側をフロントウインドシールド3の下部3a側に連ならせるように配設され、フロントウインドシールド3の左右には、図1,2に示すように、フロントピラー4,4が配設されている。そして、膨張を完了させたエアバッグ22は、図1,2の二点鎖線と図4の実線に示すように、カウル8の上方となるフードパネル10の上面11の後端13付近からフロントウインドシールド3の下部3a側の上面側と、フロントピラー4,4の前方側とを覆うように、配設されることとなる。
【0021】
エアバッグ22は、図4〜10に示すように、膨張完了時に上部側に配置される上膨張部23と下部側に配置される下膨張部25とを備えて構成されている。上膨張部23は、フードパネル10の上面11の後端13付近からフロントウインドシールド3の下部3a側の上方を覆うように配設され、さらに、球状に膨らまずに、厚さを抑えて板状に膨張できるように、前後方向の中央部位に、上下の上基布32と中上基布33とを縫合により連結した左右方向に沿う連結部24が、形成されている。連結部24より前側の部位が、上前膨張部23aとして、フードパネル10の上面11側を覆い、連結部24より後側の部位が、上後膨張部23bとして、フードパネル10の上面11側からフロントウインドシールド3の下部3aの上方を覆うように構成されている。
【0022】
下膨張部25は、フードパネル10の後端13の下方からフロントウインドシールド3の下部3aの上面に接するように配設される横膨張部25aと、横膨張部25aの左右両端から後方側に延びてフロントピラー4,4の前方側を覆う縦膨張部25b,25bと、を備えて構成されている。横膨張部25aと左右の縦膨張部25bとの交差部位付近には、球状に膨らまずに、厚さを抑えて板状に膨張できるように、中下基布34と下基布35とを小さな円弧状に縫合して連結する連結部26が、形成されている。さらに、下膨張部25は、前縁側に、インフレーター43と連結させるための二つの流入口部30,30を備えている。各流入口部30は、開口端を相互に対向させるように内側に向けて形成され、それぞれ、インフレーター43の先端部43aを挿入させ、さらに、ブラケット41により挟持されて、インフレーター43と接続されている。
【0023】
また、エアバッグ22は、三種類の取付ベルト37,38,39を利用してケース48の底壁51に取り付けられ、そして、膨張完了時にエアバッグ22の前部側における上膨張部23と下膨張部25との境界部位における後方側へ凹んだ凹部22aをフードパネル10の後端13に押し付けて(図4参照)、後端13付近から上方や後方へ移動しないように、配設されている。取付ベルト37は、下膨張部25の左右の連結部26の後方近傍における下膨張部25の上下面を底壁51に連結させ、取付ベルト38は、下膨張部25の左右両端の縦膨張部25b,25bの下面側を底壁51に連結させ、取付ベルト39は、前縁側の上前膨張部23aと横膨張部25aとの左右方向の中央付近を底壁51に連結させるように配設されている。
【0024】
なお、エアバッグ22の上基布32,中上基布33,中下基布34,下基布35,及び、取付ベルト37,38,39は、可撓性を有したポリアミドやポリエステル等の織布から形成されている。
【0025】
また、下膨張部25と上膨張部23とは、左右の流入口部30,30の後方側に開口された複数の連通口28によって連通されており、左右の流入口部30,30から流入した膨張用ガスは、連通口28を経て下膨張部25から上膨張部23に流れることとなる。
【0026】
折り畳んだエアバッグ22とインフレーター43,43を収納するケース48は、第1実施形態の場合、図3,4に示すように、左右方向に長い長方形板状の天井壁49、天井壁49の周縁から下方に延びる略四角筒形状に延びる周壁50、周壁50の下方を塞ぐ長方形板状の底壁51と、を備えた略直方体形状としている。ケース48は、フードパネル10の後端13の下面12側において、フードパネル10の左右方向の幅寸法より小さい大きさとして配設されている。そして、エアバッグ22の各取付ベルト37,38,39とインフレーター43とは底壁51に取付固定されている。インフレーター43は、インフレーター43を挟持する取付ブラケット44をボルト45とナット46とを利用して、底壁51に取付固定されている。第1実施形態の場合、天井壁49と周壁50とは、フードパネル10のインナパネル15から構成されているが、フードパネル10と別部材とした板金等から形成してもよい。底壁51は、インナパネル15と同様なアルミニウム等の板金から形成されている。
【0027】
そして、第1実施形態の場合、ケース48は、インフレーター43を取り付けた底壁51を、取付ベース53として、移動手段55により移動させるように構成されている。移動手段55は、取付ベース53を回転させてインフレーター43をフードパネル10の上面11側から離れるように下方移動させる回転機構56と、取付ベース53を回転移動させるための駆動源60と、を備えて構成されている。回転機構56は、取付ベース53の前縁53aと周壁50の前壁部50aにおける前面側の下端50bとを連結させたヒンジ部57から構成され、取付ベース53は、ヒンジ部57の左右方向に沿って配設された支持軸58を回転中心として、後縁53b側を下向きに(図3に示す時計方向に)回転可能に、配設されている。ヒンジ部57の支持軸58の周囲には、駆動源60としての複数のばね(圧縮コイルばね)61が、両端をそれぞれ取付ベース53と周壁50とに当接させて配設され、取付ベース53の後縁53b側を、常時、下向きに(図3に示す時計方向に)回転させるように付勢している。
【0028】
なお、第1実施形態の場合、取付ベース53を回転駆動させる駆動源60としては、このばね61と、膨張用ガスの流入当初におけるエアバッグ22の膨張する際に天井壁49を押圧する押圧部62と、が利用されている。
【0029】
ちなみに、第1実施形態では、エアバッグ22の折り畳みに関して、上膨張部23と下膨張部25とを平らに展開させて重ねつつ、後縁22bを下膨張部25側の下向きに巻いて前方側へ接近させるように折り、その折り畳み部位27をインフレーター43の後方側に配置させるとともに、流入口部30付近をインフレーター43の上方側に配置させるように折り畳んで、ケース48内に収納させている。そのため、膨張用ガスの流入当初の流入口部30付近の初期膨張部位を、押圧部62として、取付ベース53を移動させる駆動源60に利用している。勿論、エアバッグ22の膨張時、取付ベース53を下方移動可能に天井壁49を押圧できれば、流入口部30付近以外に押圧部62を設定してもよい。
【0030】
また、取付ベース53の後縁53bには、周壁50の後壁部50cの下端50d付近に設けられた複数の係止孔64に挿入されて、取付ベース53を移動前の状態で周壁50側に取り付けて、ケース48の下方側の開口48aを塞いでおくための保持機構としての係止ピン63が、配設されている。
【0031】
なお、取付ベース53の前縁53a側には、支持軸58周りで回転した取付ベース53を必要以上に回転させないように、ストッパ機構66が配設されており、第1実施形態の場合、取付ベース53の前縁53a側に、腕片68を設け、周壁50の前壁部50aの下端50b付近を、腕片68の回転を止めるストッパ67として利用して、この腕片68とストッパ67とによって、簡便なストッパ機構66を構成している。
【0032】
第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1の車両Vへの搭載は、予め所定形状にエアバッグ22を折り畳んでおき、ブラケット41を利用して、取付ブラケット44を取り付け済みのインフレーター43,43を、各流入口部30に連結し、さらに、各取付ベルト37,38,39と各取付ブラケット44とをフードパネル10に組付済みの取付ベース53に取り付け、取付ベース53の各係止ピン63を係止孔64に挿入係止させて、そして、フードパネル10を車両Vに取り付けることにより、行っている。
【0033】
そして、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1では、センサ6からの信号により、図示しない作動回路が、車両Vの歩行者との衝突を検知した際に、跳ね上げ機構17とインフレーター43,43とを作動させることから、図3の二点鎖線と図12,13に示すように、フードパネル10の後端13が上昇する。同時に、各インフレーター43がエアバッグ22に膨張用ガスを供給することから、エアバッグ22が、膨張する。その際、エアバッグ22は、まず、流入口部30付近を膨らませて押圧部62が天井壁49を押し、その反力を利用して、取付ベース53を下方へ押すことから、図4に示すように、係止ピン63が係止孔64から抜けて、ばね61の付勢力とエアバッグ22の押圧部62の押した慣性力により、取付ベース53が、支持軸58回りで、後縁53b側を下向きに回転させ、そして、略90度回転して腕片68をストッパ67に当接させ、さらに、ばね61の付勢力によって、その位置で停止される。
【0034】
と同時に、エアバッグ22自体は、流入口部30から下膨張部25や上膨張部23に膨張用ガスが流れて、フードパネル10の上昇した後端13とカウル8との間の広がった開口20から後方へ突出するとともに展開膨張して、上膨張部23が前方側に反転してフードパネル10の後端13付近の上面11側を覆い、また、下膨張部25がフロントウインドシールド3の下部3aの上方付近からフロントピラー4の前方側を覆うように配置されて、膨張を完了させることとなる。
【0035】
そして、第1実施形態では、エアバッグ22の展開膨張完了時、取付ベース53が、フードパネル10に対する作動前の配置位置から支持軸58周りで略90度回転した位置で停止されて、フードパネル10の上面11側の後端13付近に後方移動してくる歩行者からインフレーター43が離れることとなる。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーター43の上方付近のフードパネル10に当たり、そして、フードパネル10の上面11側を変形させても、歩行者がフードパネル10を介在させてインフレーター43に当たることは、抑制される。
【0036】
したがって、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1では、インフレーター43を取り付けている取付ベース53を移動させるための移動手段55を設けることにより、フードパネル10の後端13の下面12側に搭載したインフレーター43に対する歩行者の干渉を、容易に抑制することができる。
【0037】
なお、移動前のインフレーター43は、フードパネル10の上面11側からの距離L0を20〜30mmとしており、移動後のインフレーター43は、フードパネル10の上面11側からの距離L1を50mm程度以上、望ましくは、70mm以上下方側となる位置まで移動させることが望ましい。ちなみに、実施形態の場合には、距離L1を70mm程度としている。
【0038】
そして、第1実施形態のように、移動手段55が、取付ベース53をフードパネル10に対して下方側へ移動させるように構成される場合には、歩行者用エアバッグ装置M1の作動時、跳ね上げ機構17により、エアバッグ22を後方側へ突出させるための開口20となるフードパネル10の後端13と下方のカウル8との隙間を広げるように、フードパネル10の後端13付近が上昇することから、取付ベース53を下方移動させるスペースSを確保し易く、取付ベース53を、周囲の部材と当接させること無く容易に移動させることができる。
【0039】
特に、第1実施形態では、取付ベース53をフードパネル10の上面11側に沿わせるように(略水平方向に沿わせるように)配置させて上面側にインフレーター43を取り付けるとともに、取付ベース53の前縁53a側に回転中心軸となる支持軸58を配置させて、作動時、取付ベース53の後縁53b側を下方に向けて、取付ベース53を下方側へ略90度回転させる構成としており、取付ベース53を、回転角度を小さくして、周囲の部材に当接させること無く、フードパネル10の後端13付近が上昇して空いたスペースSに、容易に、移動させることができる。
【0040】
なお、第1実施形態では、取付ベース53を移動させる駆動源60として、ばね61とエアバッグ22の押圧部62とを利用したものを示したが、図14に示す第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置M2のように、取付ベース53を常時下方へ押し下げているばね61Aだけを利用するように構成してもよい。なお、この場合には、歩行者用エアバッグ装置M2が作動するまで、取付ベース53がケース48の下方側の開口48aを安定して閉じておく保持機構70が必要となる。第2実施形態の保持機構70は、図14,15に示すように、取付ベース53の左右の両縁の後縁53b側に、係止孔71aを有した係止片71を設け、その周囲のケース48側に、インフレーター43や跳ね上げ機構17の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるような電磁ソレノイド等のアクチュエータ72を設けて、アクチュエータ72が、係止孔71aに挿入させていた係止ピン72aを、作動時に引き抜いて、取付ベース53を開かせるように構成している。なお、この第2実施形態では、第1実施形態に比べて、ばね61Aの付勢力が高く、また、係止ピン63や係止孔64の代わりに、取付ベース53を保持力を高くして保持した保持機構70が使用されている点が相違するだけであり、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0041】
さらに、取付ベース53を移動させる駆動源60としては、図16,17に示す第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置M3のように、エアバッグ22Aだけを利用してもよい。このエアバッグ22Aは、流入口部30の上方へ膨らむ球状の小容積の押圧部62Aが、流入口部30近傍の上面側に流入口62aを開口させて配設されている。なお、押圧部62Aは、膨張を完了させれば、流入口部30付近の上方でのケース48の前後方向における断面積に対応した容積で、膨張を完了させるように構成されていることから、取付ベース53を、回転させた位置で停止させておくことができる。なお、この第3実施形態では、第1実施形態と比べて、ばね61を備えておらず、エアバッグ22Aが球状に膨らむ押圧部62Aを備えている点が相違するだけであり、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0042】
さらにまた、図18〜20に示す第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4のように構成してもよい。この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4では、インフレーター43を保持した取付ベース80を移動させる移動手段82として、下方側へ平行移動させるようにスライドさせるガイド機構83を利用している。この第4実施形態では、エアバッグ22とインフレーター43とを収納する板金製のケース75が、前方を閉塞させた底壁76の外周縁から後方に四角筒形状に延びるように周壁77を設けて、後端を開口させた直方体形状として構成されている。そして、周壁77の下壁部77bにエアバッグ22とインフレーター43とを取り付けて、下壁部77bを取付ベース80としている。取付ベース80は、ケース75ごと、周壁77の上壁部77aとフードパネル(アウタパネル14)11との間に設けられた移動手段82の駆動源86としてのばね(圧縮コイルばね)87により、常時下方へ付勢されている。そして、ガイド機構83は、フードパネル10のインナパネル15に設けられた四角筒状のガイド壁84が、下方を開口させた状態で、ケース75の前後左右を囲むように配置されることにより、構成されており、さらに、取付ベース80を必要時以外に停止させておく保持機構89として、取付ベース80の下面側の左右両縁に、インフレーター43の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるようなマイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等のアクチュエータ91を設けて、アクチュエータ91の係止ピン91aが、ガイド壁84に配設された係止片90の係止孔90aに挿入係止されるように構成されている。
【0043】
そして、この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4の作動時には、保持機構89のアクチュエータ91が係止ピン91aを係止孔90aから引き抜くように引き込ませることから、ばね87の付勢力により、ケース75ごと、取付ベース80が下方へ移動する。と同時に、インフレーター43からの膨張用ガスにより、エアバッグ22がケース75の開口から後方へ突出するとともに、図示しない跳ね上げ機構によって上昇されたフードパネル10の後端13とカウル8との間の開口20から、エアバッグ22が後方へ突出して、第1実施形態と同様に展開膨張することとなる。
【0044】
なお、第4実施形態では、ケース75の周壁77に、係止孔90aに挿入されて、取付ベース80の下方への移動完了時、すなわち、ケース75の開口75aがガイド壁84から離脱した際、係止孔90aの下端内周に当接可能なストッパピン92が形成されており、ケース75や取付ベース80は、各ストッパピン92が係止孔90aの下端内周面に当接した状態で、ばね87の不勢力を受けて、その位置で停止されることとなる。
【0045】
この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4でも、作動完了時に、フードパネル10の上面11側の後端13付近に後方移動してくる歩行者からインフレーター43が離れることとなる。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーター43の上方付近のフードパネル10に当たり、そして、フードパネル10の上面11側を変形させても、歩行者がフードパネル10を介在させてインフレーター43に当たることは、抑制される。
【0046】
そして、第4実施形態では、ガイド機構83によって、インフレーター43と取付ベース80とを下方側へ平行移動させており、移動する軌跡として、各部位の移動軌跡が同じ長さで、移動時に横切るスペースを極力小さくできて、一層、取付ベース80等を、周囲の部材に当接させること無く、フードパネル10の後端13付近の上昇した空きスペースSに、容易に、移動させることができる。
【0047】
取付ベース80を平行移動させるガイド機構83を利用する場合、移動手段82の駆動源86として、図21,22に示す第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置M5のように、エアバッグ22Aの押圧部62Aを利用してもよい。なお、この第5実施形態では、ケース75Aが、周壁77の上壁部77aを備えておらず、そして、左右両側でばね(引張コイルばね)93によって常時上方へ付勢されており、このばね93が、ケース75Aを移動前の状態で静止させておく保持機構89を構成している。
【0048】
この第5実施形態では、作動時、エアバッグ22Aが押圧部62Aを膨張させて、押圧部62Aのフードパネル(アウタパネル14)への押圧力の反力で、ケース75Aを、四角筒状のガイド壁84にガイドさせつつ、フードパネル10から離れるように押し下げることから、取付ベース80に取り付けられたインフレーター43を、フードパネル10から離れるように、下方に移動させるため、第4実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0049】
なお、第1実施形態では、移動手段55により、取付ベース53を略90度回転させて移動させる場合を示したが、図23〜25に示す第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置M6のように、作動時における上昇したフードパネル10の下方のスペースSに、周囲の部材に当接せずに移動可能であれば、取付ベース80を略180度回転させて下方移動させてもよい。この第6実施形態では、第5実施形態のケース75Aを使用して、前方側と上方側とを開口させた状態として、後方側の底壁76を、エアバッグ22やインフレーター43を取り付ける取付ベース80としている。そして、取付ベース80の下端80bを、移動手段55Aを構成する回転機構56Aのヒンジ部57Aに連結させている。このヒンジ部57Aは、支持軸58Aを回転中心として、取付ベース80を前方側へ向けて(図23に示す反時計方向として)略180度回転可能に支持している。また、このヒンジ部57Aには、回転する駆動源60Aとして、図示しないねじりコイルばねを設けており、常時、取付ベース80を図23に示す反時計方向に回転させるように付勢している。また、ケース75Aの下壁部77bとその近傍には、図23,24に示すように、第2実施形態と同様な保持機構70Aが配設されている。すなわち、この保持機構70Aは、下壁部77bの左右の両縁側に、係止孔71aを有した係止片71を設け、その周囲のフードパネル10側に、インフレーター43の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるようなマイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等のアクチュエータ72を設けて、アクチュエータ72が、係止孔71aに挿入させていた係止ピン72aを、作動時に引き抜いて、取付ベース80を回転させるように構成されている。なお、略180度回転した場合には、ケース75Aの下壁部77bが周囲のフードパネル10のインナパネル15に当接して、その回転が停止される。
【0050】
この第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置M6でも、作動時、インフレーター43をフードパネル10から離れるように下方移動させることができる。
【0051】
なお、各実施形態では、フードパネル10を上昇させるために、マイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等からなるアクチュエータ18を使用した跳ね上げ機構17を例示したが、展開膨張するエアバッグ22自体で、跳ね上げ機構17を兼用して、フードパネル10の後端13側を上昇させるように構成してもよい。
【0052】
また、移動手段の作動時、歩行者からインフレーターを離すようにできれば、取付ベースを後方側へ移動させてもよく、その場合には、歩行者用エアバッグ装置のエアバッグが、展開膨張完了させた際にフードパネルの後端付近の上面側を覆うように配設されるものである。そのため、移動手段が取付ベースを後方側へ移動させれば、展開膨張を完了させたエアバッグの後部側に接近させるようにインフレーターを移動させることとなり、展開膨張を完了させたエアバッグは、歩行者と接触して後方移動しても、インフレーターの上方領域から外れ難くなって、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉を、エアバッグによって容易に抑制することができる。ちなみに、この場合でも、フードパネルの後端とカウルとの間の開口から、エアバッグが円滑に後方側へ突出しつつ展開膨張して、一部を反転させて所定の領域を覆える動作を確保した状態で、取付ベースを後方移動させる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態である歩行者用エアバッグ装置を搭載させた車両の側面図である。
【図2】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置を搭載させた車両の平面図である。
【図3】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置における車両前後方向に沿った概略縦断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】第1実施形態の作動時を示す車両前後方向に沿った概略縦断面図である。
【図5】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置に使用されるエアバッグの平面図である。
【図6】第1実施形態に使用するエアバッグの底面図である。
【図7】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のVII−VII部位に対応する。
【図8】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のVIII−VIII部位に対応する。
【図9】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のIX−IX部位に対応する。
【図10】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のX−X部位に対応する。
【図11】第1実施形態のエアバッグを構成する基布を示す展開図である。
【図12】第1実施形態のフードパネルのヒンジ部を示す概略図である。
【図13】第1実施形態のフードパネルの跳ね上げ機構を示す概略図である。
【図14】第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動を説明する概略図である。
【図15】第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置の取付ベースの保持機構の作動を説明する図である。
【図16】第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置に使用するエアバッグを示す部分平面図と部分断面図である。
【図17】第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【図18】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置を示す概略部分縦断面図である。
【図19】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置を示す概略部分縦断面図であり、図18のXIX−XIX部位に対応する。
【図20】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【図21】第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を説明する概略図である。
【図22】第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置のエアバッグやインフレーターを収納するケースの概略斜視図である。
【図23】第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置の概略部分縦断面図である。
【図24】第6実施形態の取付ベースの保持機構の作動を説明する図23のXXIV−XXIV部位の概略断面図である。
【図25】第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
8…カウル、
10…フードパネル、
11…(フードパネルの)上面、
12…(フードパネルの)下面、
13…(フードパネルの)後端、
20…(フードパネルの後端とカウルとの間の)開口、
22・22A…エアバッグ、
43…インフレーター、
53・80…取付ベース、
55・55A・82…移動手段、
56・56A…回転機構、
83…ガイド機構、
M1・M2・M3・M4・M5・M6…歩行者用エアバッグ装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、作動時、カウルの上方となるフードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように、エアバッグを配設させる歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者用エアバッグ装置では、フードパネル自体の後端付近の下面側に折り畳まれて収納されるエアバッグが、インフレーターから膨張用ガスを供給されて、展開膨張し、そして、膨張を完了させたエアバッグが、フードパネル後端の上面側を、左右方向の略全域にわたって覆うように構成されるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の歩行者用エアバッグ装置では、作動時、フードパネルの後端を上昇させて、フードパネルの後端と下方のカウルとの隙間を広げ、その広げた開口から、エアバッグを突出させるものもあった(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−89333号公報
【特許文献2】特開2000−264146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行者用エアバッグ装置として、エアバッグの突出用の開口を広げるように、歩行者用エアバッグ装置の作動時にフードパネルの後端側を上昇させる構成として、フードパネルの後端付近の下面側に搭載する場合では、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターもフードパネルに取り付けられることとなる。しかし、このインフレーターは、爆発的に所定の薬剤を燃焼させて膨張用ガスを発生させたり、あるいは、予め、圧縮させて貯留させておいた状態から膨張用ガスを放出させる構成であり、剛性が必要となって、非常に硬いものとなっていた。
【0005】
一方、フードパネルは、歩行者を受け止め易いように、比較的、変形しやすい素材から形成されており、膨張を完了させたエアバッグは、硬いインフレーターの上方におけるフードパネルの上面側を覆うように、配設させる必要が生じていた。
【0006】
しかし、上記の構成の歩行者用エアバッグ装置では、エアバッグの展開膨張の配置状態にバラツキがあったり、あるいは、歩行者のフードパネル上でのエアバッグとの接触によって、エアバッグがインフレーターの上方からのずれを防止する課題があり、エアバッグの形状設定や折り畳み等の種々の対策が必要となっていた。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉を、容易に抑制可能な歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歩行者用エアバッグ装置は、車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、折り畳まれて収納されたエアバッグと、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、を備えて構成され、作動時、エアバッグが、インフレーターからの膨張用ガスにより、上昇したフードパネルの後端とフードパネルの下方のカウルとの間の開口から突出しつつ展開膨張して、フードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように配設される歩行者用エアバッグ装置であって、
インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させる移動手段が、フードパネルの後端の下面側に配設され、
移動手段が、歩行者用エアバッグ装置の作動時に、フードパネルに対するインフレーターの配置位置を、フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる歩行者から離すように、歩行者用エアバッグ装置の作動前における配置位置から取付ベースを移動させるように、構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る歩行者用エアバッグ装置は、作動時、インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させて、フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる歩行者からインフレーターを離す。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーターの上方付近のフードパネルに当たり、そして、フードパネルの上面側を変形させても、そのフードパネルの上面側から離れた位置に、インフレーターが配置されることとなって、歩行者がフードパネルを介在させてインフレーターに当たることが、抑制される。
【0010】
したがって、本発明に係る歩行者用エアバッグ装置では、インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させるための移動手段を設けることにより、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉(インフレーターに対して間接的に接触する若しくは間接的に当接すること)を、容易に抑制することができる。
【0011】
移動手段における取付ベースを移動させる方向は、後方側や下方側が例示できる。そして、移動手段が、取付ベースをフードパネルに対して下方側へ移動させるように構成される場合には、歩行者用エアバッグ装置の作動時、エアバッグを後方側へ突出させるための開口となるフードパネルの後端と下方のカウルとの隙間を広げるように、フードパネルの後端付近が上昇することから、取付ベースを下方移動させるスペースを確保し易い。
【0012】
そして、移動手段は、歩行者用エアバッグ装置の作動時に、取付ベースを平行移動させるようにスライドさせるガイド機構を設けて構成したり、あるいは、取付ベースの端部に配置される支持軸周りで回転移動させる回転機構を設けて構成できて、簡便に構成することができる。
【0013】
ちなみに、取付ベースをスライドさせるガイド機構では、インフレーターと取付ベースを下方側へ平行移動させる構成とすれば、取付ベース等を、周囲の部材に当接させること無く、フードパネルの後端付近の上昇した空きスペースに、容易に、移動させることができる。
【0014】
また、取付ベースを回転移動させる回転機構では、取付ベースをフードパネルの上面側に沿わせるように(略水平方向に沿わせるように)配置させて上面側にインフレーターを取り付けるるとともに、取付ベースの前縁側に回転中心軸となる支持軸を配置させて、作動時、取付ベースの後縁側を下方に向けて、取付ベースを下方側へ略90度回転させる構成とすれば、取付ベースを、周囲の部材に当接させること無く、フードパネルの後端付近の上昇した空きスペースに、容易に、移動させることができる。
【0015】
勿論、これらの構成では、エアバッグの展開性能を阻害することなく、すなわち、フードパネルの後端と下方のカウルとの間の開口へ向かうように、エアバッグを後方側へ突出させ、そして、エアバッグの一部を、前方側に反転させてフードパネルの後端付近の上面側に配置させ、かつ、エアバッグの残部をフードパネルの後方におけるカウルの上方の領域に配置させるように、エアバッグの展開膨張動作を確保して、構成する必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明すると、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1は、図1〜3に示すように、車両Vのフードパネル10の後端13付近における下面12側に配設されるもので、エアバッグ22、エアバッグ22に膨張用ガスを供給するインフレーター43、エアバッグ22とインフレーター43とを収納する収納部位としてのケース48、及び、インフレーター43を取り付けた取付ベース53を移動させるための移動手段55、を備えて構成されている。また、車両Vにおけるフロントバンパ5には、図1,2に示すように、歩行者との衝突を検知可能なセンサ6が、配設されており、センサ6からの信号を入力させている図示しない作動回路が、センサ6からの信号に基いて車両Vの歩行者との衝突を検知した際、インフレーター43及びフードパネル10の後端13側を上昇させる跳ね上げ機構17(図12,13参照)を作動させるように構成されている。
【0017】
なお、本明細書では、前後と上下の方向は、それぞれ、車両Vの前後と上下と一致する方向を基準とし、左右の方向は、車両Vの前方側から後方側を見た際の左右の方向を基準とする。
【0018】
フードパネル10は、車両Vにおけるエンジンルームの上方を覆うように配設されるもので、図2に示すように、左右方向の両縁側における後端13近傍に配置されるヒンジ部16により、車両Vのボディ1に対して、前開きで開閉可能に連結されている。フードパネル10は、第1実施形態の場合、ともにアルミニウム(アルミニウム合金)等からなる板金製として、上面側のアウタパネル14と、下面側に位置してアウタパネル14より強度を向上させたインナパネル15と、から構成されている(図3参照)。各ヒンジ部16は、図12,13に示すように、フードパネル10から下方に延びる支持板16aと、支持板16aから延びて軸方向を左右方向に沿わせたヒンジピン16bとを備えて構成されて、各ヒンジピン16bが、ボディ1側から延びる支持ロッド18aに回動可能に支持されて構成されている。なお、フードパネル10のインナパネル15は、アウタパネル14より剛性が高いものの、インフレーター43より、はるかに塑性変形し易く構成されている。
【0019】
跳ね上げ機構17は、図12,13に示すように、支持ロッド18aを上昇移動させるアクチュエータ18を備えて構成されている。このアクチュエータ18は、センサ6が歩行者との衝突を検知した際に、図示しない作動回路からの信号を受けてフードパネル10の後端13を跳ね上げるように、支持ロッド18aを上昇させるものであり、マイクロガスジェネレータ、電磁ソレノイド、モータ等から構成されている。
【0020】
カウル8は、図3に示すように、ボディ1側の剛性の高いカウルパネル8aと、カウルパネル8aの上方のカウルルーバ8bと、を備えて構成されている。カウルルーバ8bは、後端側をフロントウインドシールド3の下部3a側に連ならせるように配設され、フロントウインドシールド3の左右には、図1,2に示すように、フロントピラー4,4が配設されている。そして、膨張を完了させたエアバッグ22は、図1,2の二点鎖線と図4の実線に示すように、カウル8の上方となるフードパネル10の上面11の後端13付近からフロントウインドシールド3の下部3a側の上面側と、フロントピラー4,4の前方側とを覆うように、配設されることとなる。
【0021】
エアバッグ22は、図4〜10に示すように、膨張完了時に上部側に配置される上膨張部23と下部側に配置される下膨張部25とを備えて構成されている。上膨張部23は、フードパネル10の上面11の後端13付近からフロントウインドシールド3の下部3a側の上方を覆うように配設され、さらに、球状に膨らまずに、厚さを抑えて板状に膨張できるように、前後方向の中央部位に、上下の上基布32と中上基布33とを縫合により連結した左右方向に沿う連結部24が、形成されている。連結部24より前側の部位が、上前膨張部23aとして、フードパネル10の上面11側を覆い、連結部24より後側の部位が、上後膨張部23bとして、フードパネル10の上面11側からフロントウインドシールド3の下部3aの上方を覆うように構成されている。
【0022】
下膨張部25は、フードパネル10の後端13の下方からフロントウインドシールド3の下部3aの上面に接するように配設される横膨張部25aと、横膨張部25aの左右両端から後方側に延びてフロントピラー4,4の前方側を覆う縦膨張部25b,25bと、を備えて構成されている。横膨張部25aと左右の縦膨張部25bとの交差部位付近には、球状に膨らまずに、厚さを抑えて板状に膨張できるように、中下基布34と下基布35とを小さな円弧状に縫合して連結する連結部26が、形成されている。さらに、下膨張部25は、前縁側に、インフレーター43と連結させるための二つの流入口部30,30を備えている。各流入口部30は、開口端を相互に対向させるように内側に向けて形成され、それぞれ、インフレーター43の先端部43aを挿入させ、さらに、ブラケット41により挟持されて、インフレーター43と接続されている。
【0023】
また、エアバッグ22は、三種類の取付ベルト37,38,39を利用してケース48の底壁51に取り付けられ、そして、膨張完了時にエアバッグ22の前部側における上膨張部23と下膨張部25との境界部位における後方側へ凹んだ凹部22aをフードパネル10の後端13に押し付けて(図4参照)、後端13付近から上方や後方へ移動しないように、配設されている。取付ベルト37は、下膨張部25の左右の連結部26の後方近傍における下膨張部25の上下面を底壁51に連結させ、取付ベルト38は、下膨張部25の左右両端の縦膨張部25b,25bの下面側を底壁51に連結させ、取付ベルト39は、前縁側の上前膨張部23aと横膨張部25aとの左右方向の中央付近を底壁51に連結させるように配設されている。
【0024】
なお、エアバッグ22の上基布32,中上基布33,中下基布34,下基布35,及び、取付ベルト37,38,39は、可撓性を有したポリアミドやポリエステル等の織布から形成されている。
【0025】
また、下膨張部25と上膨張部23とは、左右の流入口部30,30の後方側に開口された複数の連通口28によって連通されており、左右の流入口部30,30から流入した膨張用ガスは、連通口28を経て下膨張部25から上膨張部23に流れることとなる。
【0026】
折り畳んだエアバッグ22とインフレーター43,43を収納するケース48は、第1実施形態の場合、図3,4に示すように、左右方向に長い長方形板状の天井壁49、天井壁49の周縁から下方に延びる略四角筒形状に延びる周壁50、周壁50の下方を塞ぐ長方形板状の底壁51と、を備えた略直方体形状としている。ケース48は、フードパネル10の後端13の下面12側において、フードパネル10の左右方向の幅寸法より小さい大きさとして配設されている。そして、エアバッグ22の各取付ベルト37,38,39とインフレーター43とは底壁51に取付固定されている。インフレーター43は、インフレーター43を挟持する取付ブラケット44をボルト45とナット46とを利用して、底壁51に取付固定されている。第1実施形態の場合、天井壁49と周壁50とは、フードパネル10のインナパネル15から構成されているが、フードパネル10と別部材とした板金等から形成してもよい。底壁51は、インナパネル15と同様なアルミニウム等の板金から形成されている。
【0027】
そして、第1実施形態の場合、ケース48は、インフレーター43を取り付けた底壁51を、取付ベース53として、移動手段55により移動させるように構成されている。移動手段55は、取付ベース53を回転させてインフレーター43をフードパネル10の上面11側から離れるように下方移動させる回転機構56と、取付ベース53を回転移動させるための駆動源60と、を備えて構成されている。回転機構56は、取付ベース53の前縁53aと周壁50の前壁部50aにおける前面側の下端50bとを連結させたヒンジ部57から構成され、取付ベース53は、ヒンジ部57の左右方向に沿って配設された支持軸58を回転中心として、後縁53b側を下向きに(図3に示す時計方向に)回転可能に、配設されている。ヒンジ部57の支持軸58の周囲には、駆動源60としての複数のばね(圧縮コイルばね)61が、両端をそれぞれ取付ベース53と周壁50とに当接させて配設され、取付ベース53の後縁53b側を、常時、下向きに(図3に示す時計方向に)回転させるように付勢している。
【0028】
なお、第1実施形態の場合、取付ベース53を回転駆動させる駆動源60としては、このばね61と、膨張用ガスの流入当初におけるエアバッグ22の膨張する際に天井壁49を押圧する押圧部62と、が利用されている。
【0029】
ちなみに、第1実施形態では、エアバッグ22の折り畳みに関して、上膨張部23と下膨張部25とを平らに展開させて重ねつつ、後縁22bを下膨張部25側の下向きに巻いて前方側へ接近させるように折り、その折り畳み部位27をインフレーター43の後方側に配置させるとともに、流入口部30付近をインフレーター43の上方側に配置させるように折り畳んで、ケース48内に収納させている。そのため、膨張用ガスの流入当初の流入口部30付近の初期膨張部位を、押圧部62として、取付ベース53を移動させる駆動源60に利用している。勿論、エアバッグ22の膨張時、取付ベース53を下方移動可能に天井壁49を押圧できれば、流入口部30付近以外に押圧部62を設定してもよい。
【0030】
また、取付ベース53の後縁53bには、周壁50の後壁部50cの下端50d付近に設けられた複数の係止孔64に挿入されて、取付ベース53を移動前の状態で周壁50側に取り付けて、ケース48の下方側の開口48aを塞いでおくための保持機構としての係止ピン63が、配設されている。
【0031】
なお、取付ベース53の前縁53a側には、支持軸58周りで回転した取付ベース53を必要以上に回転させないように、ストッパ機構66が配設されており、第1実施形態の場合、取付ベース53の前縁53a側に、腕片68を設け、周壁50の前壁部50aの下端50b付近を、腕片68の回転を止めるストッパ67として利用して、この腕片68とストッパ67とによって、簡便なストッパ機構66を構成している。
【0032】
第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1の車両Vへの搭載は、予め所定形状にエアバッグ22を折り畳んでおき、ブラケット41を利用して、取付ブラケット44を取り付け済みのインフレーター43,43を、各流入口部30に連結し、さらに、各取付ベルト37,38,39と各取付ブラケット44とをフードパネル10に組付済みの取付ベース53に取り付け、取付ベース53の各係止ピン63を係止孔64に挿入係止させて、そして、フードパネル10を車両Vに取り付けることにより、行っている。
【0033】
そして、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1では、センサ6からの信号により、図示しない作動回路が、車両Vの歩行者との衝突を検知した際に、跳ね上げ機構17とインフレーター43,43とを作動させることから、図3の二点鎖線と図12,13に示すように、フードパネル10の後端13が上昇する。同時に、各インフレーター43がエアバッグ22に膨張用ガスを供給することから、エアバッグ22が、膨張する。その際、エアバッグ22は、まず、流入口部30付近を膨らませて押圧部62が天井壁49を押し、その反力を利用して、取付ベース53を下方へ押すことから、図4に示すように、係止ピン63が係止孔64から抜けて、ばね61の付勢力とエアバッグ22の押圧部62の押した慣性力により、取付ベース53が、支持軸58回りで、後縁53b側を下向きに回転させ、そして、略90度回転して腕片68をストッパ67に当接させ、さらに、ばね61の付勢力によって、その位置で停止される。
【0034】
と同時に、エアバッグ22自体は、流入口部30から下膨張部25や上膨張部23に膨張用ガスが流れて、フードパネル10の上昇した後端13とカウル8との間の広がった開口20から後方へ突出するとともに展開膨張して、上膨張部23が前方側に反転してフードパネル10の後端13付近の上面11側を覆い、また、下膨張部25がフロントウインドシールド3の下部3aの上方付近からフロントピラー4の前方側を覆うように配置されて、膨張を完了させることとなる。
【0035】
そして、第1実施形態では、エアバッグ22の展開膨張完了時、取付ベース53が、フードパネル10に対する作動前の配置位置から支持軸58周りで略90度回転した位置で停止されて、フードパネル10の上面11側の後端13付近に後方移動してくる歩行者からインフレーター43が離れることとなる。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーター43の上方付近のフードパネル10に当たり、そして、フードパネル10の上面11側を変形させても、歩行者がフードパネル10を介在させてインフレーター43に当たることは、抑制される。
【0036】
したがって、第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置M1では、インフレーター43を取り付けている取付ベース53を移動させるための移動手段55を設けることにより、フードパネル10の後端13の下面12側に搭載したインフレーター43に対する歩行者の干渉を、容易に抑制することができる。
【0037】
なお、移動前のインフレーター43は、フードパネル10の上面11側からの距離L0を20〜30mmとしており、移動後のインフレーター43は、フードパネル10の上面11側からの距離L1を50mm程度以上、望ましくは、70mm以上下方側となる位置まで移動させることが望ましい。ちなみに、実施形態の場合には、距離L1を70mm程度としている。
【0038】
そして、第1実施形態のように、移動手段55が、取付ベース53をフードパネル10に対して下方側へ移動させるように構成される場合には、歩行者用エアバッグ装置M1の作動時、跳ね上げ機構17により、エアバッグ22を後方側へ突出させるための開口20となるフードパネル10の後端13と下方のカウル8との隙間を広げるように、フードパネル10の後端13付近が上昇することから、取付ベース53を下方移動させるスペースSを確保し易く、取付ベース53を、周囲の部材と当接させること無く容易に移動させることができる。
【0039】
特に、第1実施形態では、取付ベース53をフードパネル10の上面11側に沿わせるように(略水平方向に沿わせるように)配置させて上面側にインフレーター43を取り付けるとともに、取付ベース53の前縁53a側に回転中心軸となる支持軸58を配置させて、作動時、取付ベース53の後縁53b側を下方に向けて、取付ベース53を下方側へ略90度回転させる構成としており、取付ベース53を、回転角度を小さくして、周囲の部材に当接させること無く、フードパネル10の後端13付近が上昇して空いたスペースSに、容易に、移動させることができる。
【0040】
なお、第1実施形態では、取付ベース53を移動させる駆動源60として、ばね61とエアバッグ22の押圧部62とを利用したものを示したが、図14に示す第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置M2のように、取付ベース53を常時下方へ押し下げているばね61Aだけを利用するように構成してもよい。なお、この場合には、歩行者用エアバッグ装置M2が作動するまで、取付ベース53がケース48の下方側の開口48aを安定して閉じておく保持機構70が必要となる。第2実施形態の保持機構70は、図14,15に示すように、取付ベース53の左右の両縁の後縁53b側に、係止孔71aを有した係止片71を設け、その周囲のケース48側に、インフレーター43や跳ね上げ機構17の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるような電磁ソレノイド等のアクチュエータ72を設けて、アクチュエータ72が、係止孔71aに挿入させていた係止ピン72aを、作動時に引き抜いて、取付ベース53を開かせるように構成している。なお、この第2実施形態では、第1実施形態に比べて、ばね61Aの付勢力が高く、また、係止ピン63や係止孔64の代わりに、取付ベース53を保持力を高くして保持した保持機構70が使用されている点が相違するだけであり、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0041】
さらに、取付ベース53を移動させる駆動源60としては、図16,17に示す第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置M3のように、エアバッグ22Aだけを利用してもよい。このエアバッグ22Aは、流入口部30の上方へ膨らむ球状の小容積の押圧部62Aが、流入口部30近傍の上面側に流入口62aを開口させて配設されている。なお、押圧部62Aは、膨張を完了させれば、流入口部30付近の上方でのケース48の前後方向における断面積に対応した容積で、膨張を完了させるように構成されていることから、取付ベース53を、回転させた位置で停止させておくことができる。なお、この第3実施形態では、第1実施形態と比べて、ばね61を備えておらず、エアバッグ22Aが球状に膨らむ押圧部62Aを備えている点が相違するだけであり、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0042】
さらにまた、図18〜20に示す第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4のように構成してもよい。この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4では、インフレーター43を保持した取付ベース80を移動させる移動手段82として、下方側へ平行移動させるようにスライドさせるガイド機構83を利用している。この第4実施形態では、エアバッグ22とインフレーター43とを収納する板金製のケース75が、前方を閉塞させた底壁76の外周縁から後方に四角筒形状に延びるように周壁77を設けて、後端を開口させた直方体形状として構成されている。そして、周壁77の下壁部77bにエアバッグ22とインフレーター43とを取り付けて、下壁部77bを取付ベース80としている。取付ベース80は、ケース75ごと、周壁77の上壁部77aとフードパネル(アウタパネル14)11との間に設けられた移動手段82の駆動源86としてのばね(圧縮コイルばね)87により、常時下方へ付勢されている。そして、ガイド機構83は、フードパネル10のインナパネル15に設けられた四角筒状のガイド壁84が、下方を開口させた状態で、ケース75の前後左右を囲むように配置されることにより、構成されており、さらに、取付ベース80を必要時以外に停止させておく保持機構89として、取付ベース80の下面側の左右両縁に、インフレーター43の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるようなマイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等のアクチュエータ91を設けて、アクチュエータ91の係止ピン91aが、ガイド壁84に配設された係止片90の係止孔90aに挿入係止されるように構成されている。
【0043】
そして、この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4の作動時には、保持機構89のアクチュエータ91が係止ピン91aを係止孔90aから引き抜くように引き込ませることから、ばね87の付勢力により、ケース75ごと、取付ベース80が下方へ移動する。と同時に、インフレーター43からの膨張用ガスにより、エアバッグ22がケース75の開口から後方へ突出するとともに、図示しない跳ね上げ機構によって上昇されたフードパネル10の後端13とカウル8との間の開口20から、エアバッグ22が後方へ突出して、第1実施形態と同様に展開膨張することとなる。
【0044】
なお、第4実施形態では、ケース75の周壁77に、係止孔90aに挿入されて、取付ベース80の下方への移動完了時、すなわち、ケース75の開口75aがガイド壁84から離脱した際、係止孔90aの下端内周に当接可能なストッパピン92が形成されており、ケース75や取付ベース80は、各ストッパピン92が係止孔90aの下端内周面に当接した状態で、ばね87の不勢力を受けて、その位置で停止されることとなる。
【0045】
この第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置M4でも、作動完了時に、フードパネル10の上面11側の後端13付近に後方移動してくる歩行者からインフレーター43が離れることとなる。そのため、後方移動してくる歩行者が、インフレーター43の上方付近のフードパネル10に当たり、そして、フードパネル10の上面11側を変形させても、歩行者がフードパネル10を介在させてインフレーター43に当たることは、抑制される。
【0046】
そして、第4実施形態では、ガイド機構83によって、インフレーター43と取付ベース80とを下方側へ平行移動させており、移動する軌跡として、各部位の移動軌跡が同じ長さで、移動時に横切るスペースを極力小さくできて、一層、取付ベース80等を、周囲の部材に当接させること無く、フードパネル10の後端13付近の上昇した空きスペースSに、容易に、移動させることができる。
【0047】
取付ベース80を平行移動させるガイド機構83を利用する場合、移動手段82の駆動源86として、図21,22に示す第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置M5のように、エアバッグ22Aの押圧部62Aを利用してもよい。なお、この第5実施形態では、ケース75Aが、周壁77の上壁部77aを備えておらず、そして、左右両側でばね(引張コイルばね)93によって常時上方へ付勢されており、このばね93が、ケース75Aを移動前の状態で静止させておく保持機構89を構成している。
【0048】
この第5実施形態では、作動時、エアバッグ22Aが押圧部62Aを膨張させて、押圧部62Aのフードパネル(アウタパネル14)への押圧力の反力で、ケース75Aを、四角筒状のガイド壁84にガイドさせつつ、フードパネル10から離れるように押し下げることから、取付ベース80に取り付けられたインフレーター43を、フードパネル10から離れるように、下方に移動させるため、第4実施形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【0049】
なお、第1実施形態では、移動手段55により、取付ベース53を略90度回転させて移動させる場合を示したが、図23〜25に示す第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置M6のように、作動時における上昇したフードパネル10の下方のスペースSに、周囲の部材に当接せずに移動可能であれば、取付ベース80を略180度回転させて下方移動させてもよい。この第6実施形態では、第5実施形態のケース75Aを使用して、前方側と上方側とを開口させた状態として、後方側の底壁76を、エアバッグ22やインフレーター43を取り付ける取付ベース80としている。そして、取付ベース80の下端80bを、移動手段55Aを構成する回転機構56Aのヒンジ部57Aに連結させている。このヒンジ部57Aは、支持軸58Aを回転中心として、取付ベース80を前方側へ向けて(図23に示す反時計方向として)略180度回転可能に支持している。また、このヒンジ部57Aには、回転する駆動源60Aとして、図示しないねじりコイルばねを設けており、常時、取付ベース80を図23に示す反時計方向に回転させるように付勢している。また、ケース75Aの下壁部77bとその近傍には、図23,24に示すように、第2実施形態と同様な保持機構70Aが配設されている。すなわち、この保持機構70Aは、下壁部77bの左右の両縁側に、係止孔71aを有した係止片71を設け、その周囲のフードパネル10側に、インフレーター43の作動とともに、図示しない制御回路に作動を制御されるようなマイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等のアクチュエータ72を設けて、アクチュエータ72が、係止孔71aに挿入させていた係止ピン72aを、作動時に引き抜いて、取付ベース80を回転させるように構成されている。なお、略180度回転した場合には、ケース75Aの下壁部77bが周囲のフードパネル10のインナパネル15に当接して、その回転が停止される。
【0050】
この第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置M6でも、作動時、インフレーター43をフードパネル10から離れるように下方移動させることができる。
【0051】
なお、各実施形態では、フードパネル10を上昇させるために、マイクロガスジェネレータや電磁ソレノイド等からなるアクチュエータ18を使用した跳ね上げ機構17を例示したが、展開膨張するエアバッグ22自体で、跳ね上げ機構17を兼用して、フードパネル10の後端13側を上昇させるように構成してもよい。
【0052】
また、移動手段の作動時、歩行者からインフレーターを離すようにできれば、取付ベースを後方側へ移動させてもよく、その場合には、歩行者用エアバッグ装置のエアバッグが、展開膨張完了させた際にフードパネルの後端付近の上面側を覆うように配設されるものである。そのため、移動手段が取付ベースを後方側へ移動させれば、展開膨張を完了させたエアバッグの後部側に接近させるようにインフレーターを移動させることとなり、展開膨張を完了させたエアバッグは、歩行者と接触して後方移動しても、インフレーターの上方領域から外れ難くなって、フードパネルの後端下面側に搭載したインフレーターに対する歩行者の干渉を、エアバッグによって容易に抑制することができる。ちなみに、この場合でも、フードパネルの後端とカウルとの間の開口から、エアバッグが円滑に後方側へ突出しつつ展開膨張して、一部を反転させて所定の領域を覆える動作を確保した状態で、取付ベースを後方移動させる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態である歩行者用エアバッグ装置を搭載させた車両の側面図である。
【図2】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置を搭載させた車両の平面図である。
【図3】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置における車両前後方向に沿った概略縦断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】第1実施形態の作動時を示す車両前後方向に沿った概略縦断面図である。
【図5】第1実施形態の歩行者用エアバッグ装置に使用されるエアバッグの平面図である。
【図6】第1実施形態に使用するエアバッグの底面図である。
【図7】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のVII−VII部位に対応する。
【図8】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のVIII−VIII部位に対応する。
【図9】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のIX−IX部位に対応する。
【図10】第1実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、図5のX−X部位に対応する。
【図11】第1実施形態のエアバッグを構成する基布を示す展開図である。
【図12】第1実施形態のフードパネルのヒンジ部を示す概略図である。
【図13】第1実施形態のフードパネルの跳ね上げ機構を示す概略図である。
【図14】第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動を説明する概略図である。
【図15】第2実施形態の歩行者用エアバッグ装置の取付ベースの保持機構の作動を説明する図である。
【図16】第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置に使用するエアバッグを示す部分平面図と部分断面図である。
【図17】第3実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【図18】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置を示す概略部分縦断面図である。
【図19】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置を示す概略部分縦断面図であり、図18のXIX−XIX部位に対応する。
【図20】第4実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【図21】第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を説明する概略図である。
【図22】第5実施形態の歩行者用エアバッグ装置のエアバッグやインフレーターを収納するケースの概略斜視図である。
【図23】第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置の概略部分縦断面図である。
【図24】第6実施形態の取付ベースの保持機構の作動を説明する図23のXXIV−XXIV部位の概略断面図である。
【図25】第6実施形態の歩行者用エアバッグ装置の作動時を示す概略部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
8…カウル、
10…フードパネル、
11…(フードパネルの)上面、
12…(フードパネルの)下面、
13…(フードパネルの)後端、
20…(フードパネルの後端とカウルとの間の)開口、
22・22A…エアバッグ、
43…インフレーター、
53・80…取付ベース、
55・55A・82…移動手段、
56・56A…回転機構、
83…ガイド機構、
M1・M2・M3・M4・M5・M6…歩行者用エアバッグ装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、折り畳まれて収納されたエアバッグと、該エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、を備えて構成され、作動時、前記エアバッグが、前記インフレーターからの膨張用ガスにより、上昇した前記フードパネルの後端と該フードパネルの下方のカウルとの間の開口から突出しつつ展開膨張して、前記フードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように配設される歩行者用エアバッグ装置であって、
前記インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させる移動手段が、前記フードパネルの後端の下面側に配設され、
該移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時に、前記フードパネルに対する前記インフレーターの配置位置を、前記フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる前記歩行者から離すように、前記歩行者用エアバッグ装置の作動前における配置位置から前記取付ベースを移動させるように、構成されていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記移動手段が、前記取付ベースを前記フードパネルに対して下方側へ移動させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時に、前記取付ベースを平行移動させるようにスライドさせるガイド機構を備えて、構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時、前記取付ベースの端部に配置される支持軸周りで回転移動させる回転機構を備えて、構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項1】
車両のフードパネルの後端近傍における下面側に搭載されて、折り畳まれて収納されたエアバッグと、該エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、を備えて構成され、作動時、前記エアバッグが、前記インフレーターからの膨張用ガスにより、上昇した前記フードパネルの後端と該フードパネルの下方のカウルとの間の開口から突出しつつ展開膨張して、前記フードパネルの後端付近の上面側の領域を覆うように配設される歩行者用エアバッグ装置であって、
前記インフレーターを取り付けている取付ベースを移動させる移動手段が、前記フードパネルの後端の下面側に配設され、
該移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時に、前記フードパネルに対する前記インフレーターの配置位置を、前記フードパネルの上面側の後端付近に後方移動してくる前記歩行者から離すように、前記歩行者用エアバッグ装置の作動前における配置位置から前記取付ベースを移動させるように、構成されていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記移動手段が、前記取付ベースを前記フードパネルに対して下方側へ移動させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時に、前記取付ベースを平行移動させるようにスライドさせるガイド機構を備えて、構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記移動手段が、前記歩行者用エアバッグ装置の作動時、前記取付ベースの端部に配置される支持軸周りで回転移動させる回転機構を備えて、構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2007−261510(P2007−261510A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91795(P2006−91795)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
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