説明

歩行補助装置及びその制御方法

【課題】転倒を防止し、かつ負担を感じることなく、利用者が着座することができる歩行補助装置及びその制御方法を提供すること
【解決手段】本発明にかかる歩行補助装置は、利用者の脚の大腿に装着される第1のリンク2と、下肢に装着される第2のリンク3と、両者を相対的に回転駆動する駆動部6と、駆動部6を制御する制御部92を備えている。制御部92は、利用者による立ち上がり動作の検出後は、第1のリンク2と第2のリンク3間に生じる機械摩擦力による抗力をキャンセルするトルクを付与する摩擦補償制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の歩行を補助する歩行補助装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
身体障害者や高齢者の動作を補助するため目的で、様々なパワーアシスト装置が開発されている。そのパワーアシスト装置の一つとして、利用者の脚に取り付けて利用者の歩行を補助する歩行補助装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に開示された歩行補助装置では、圧力センサまたは6軸力センサから持ち上げ力を計算し、立ち上がり制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−17981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された歩行補助装置では、圧力センサや6軸力センサの検出精度や、駆動モータの応答性を考慮すると、安定した立ち上がり動作を実現することは難しい。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、転倒を防止し、かつ負担を感じることなく、利用者が立ち上がることができる歩行補助装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態にかかる歩行補助装置は、利用者の脚に装着され、当該利用者の歩行を補助する歩行補助装置であって、利用者の一方の脚の大腿に装着される第1のリンクと、前記第1のリンクとピッチ軸周りに伸展状態から屈曲状態まで回転可能に連結され、前記一方の脚の下肢に装着される第2のリンクと、前記第1のリンクに対して前記第2のリンクをピッチ軸周りに相対的に回転駆動する駆動部と、前記駆動部を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記利用者による立ち上がり動作の検出後は、前記第1のリンクと第2のリンク間に生じる機械摩擦力による抗力をキャンセルするトルクを付与する摩擦補償制御を実行する。
【0006】
ここで、前記摩擦補償制御におけるトルクは、前記機械摩擦力による抗力以下の値であることが好ましい。
【0007】
また、前記制御部は、前記利用者による立ち上がり動作の検出後、前記第2のリンクに対する前記第1のリンクの前記ピッチ軸周りの角度が予め定められた所定値未満の間は、前記摩擦補償制御を実行し、前記ピッチ軸周りの角度が前記所定値以上の間は位置制御を実行することが望ましい。
【0008】
本発明の他の形態にかかる歩行補助装置の制御方法は、利用者の一方の脚の大腿に装着される第1のリンクと、前記一方の脚の下肢に装着される第2のリンクと、に装着され、前記第1のリンクに対して前記第2のリンクをピッチ軸周りに相対的に回転駆動する駆動部とを有し、当該利用者の歩行を補助する歩行補助装置の制御方法であって、前記利用者による立ち上がり動作の検出後は、前記第1のリンクと第2のリンク間に生じる機械摩擦力による抗力をキャンセルするトルクを付与する摩擦補償制御を実行する。
【0009】
ここで、前記摩擦補償制御におけるトルクは、前記機械摩擦力による抗力以下の値であることが好ましい。
【0010】
また、前記利用者による立ち上がり動作の検出後、前記第2のリンクに対する前記第1のリンクの前記ピッチ軸周りの角度が予め定められた所定値未満の間は、前記摩擦補償制御を実行し、前記ピッチ軸周りの角度が前記所定値以上の間は位置制御を実行することが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転倒を防止し、かつ負担を感じることなく、利用者が立ち上がることができる歩行補助装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の使用形態を概略的に示す斜視図である。
【図2】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の使用形態を概略的に示す正面図である。
【図3】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の使用形態を概略的に示す側面図である。
【図4】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置における、制御系の構成ブロック図である。
【図5】歩容判定部の構成ブロック図である。
【図6】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の制御方法を示すフローチャートである。
【図7】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の制御方法を説明するための説明図である。
【図8】発明の実施の形態にかかる歩行補助装置の制御方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態の歩行補助装置は、図1乃至図3に示すように、例えば使用者の腿部に装着され、使用者の歩行を補助するために好適に用いられる。この歩行補助装置1は、図1乃至図4に示すように、第1のリンク2、第2のリンク3、足裏載置部4、膝装着部5、駆動部6、検出部7、腰装着部8、処理部9、注意喚起部10を備えている。
【0014】
第1のリンク2は、使用者の上腿部の側部に配置される。本実施の形態の第1のリンク2は、使用者の上腿部の左右両側部にそれぞれ配置される。第1のリンク2の上端部は、上腿保持部11の側部に連結されている。第1のリンク2の下端部は、第2のリンク3に回転可能に連結されている。
【0015】
ここで、上腿保持部11は、板状部材であって、使用者の上腿部の外周形状に倣うように湾曲した形状とされている。当該湾曲した面の内側面を使用者の上腿部に接触させる。ここで、当該内側面にはスポンジ等の緩衝部材が設けられていることが好ましい。
【0016】
第2のリンク3は、使用者の下腿部における脛部分の側部に配置される。本実施の形態の第2のリンク3は、使用者の脛部分の左右両側部にそれぞれ配置される。第2のリンク3の上端部は、第1のリンク2の下端部にピッチ軸周りに回転可能に連結されている。なお、ピッチ軸は、利用者の左右方向、ここでは膝の左右方向に延びた軸をいう。第2のリンク3の下端部は、足裏載置部4に回転可能に連結されている。
【0017】
足裏載置部4は、使用者の足を支持する。本実施の形態の足裏載置部4は、載置部4a、アーム4bを備えている。載置部4aは板状部材であって、使用者の足裏が載置される。アーム4bは、載置部4aを第2のリンク3に連結する。つまり、アーム4bは使用者の下腿部における足首部分の左右両側部にそれぞれ配置される。
【0018】
アーム4bの上端部は、第2のリンク3の下端部に回転可能に連結されている。アーム4bの下端部は、載置部4aの側部に連結されている。これにより、使用者の体重を歩行補助装置1に支持させることができる。
【0019】
膝装着部5は、アーチ5a、図示を省略したビンディングを備えている。アーチ5aは、左右の第1のリンク2と第2のリンク3との連結部相互を連結する。ビンディングは、アーチ5aに設けられている。ビンディングは、アーチ5aを使用者の膝に固定する。ビンディングは、アーチ5aを使用者の膝に固定できる構成であれば特に限定しないが、例えば使用者の膝に着脱可能なバンドを含む。
【0020】
駆動部6は、第1のリンク2と第2のリンク3との連結部分に駆動力を伝達する。駆動部6は、駆動モータ6a、減速機6bを備えている。駆動モータ6aは、処理部9の制御部92の制御信号に基づいて駆動する。駆動モータ6aの駆動力は、減速機6bに入力される。
【0021】
減速機6bは、駆動モータ6aから入力される駆動力を増幅して第1のリンク2と第2のリンク3との連結部分のピッチ軸周りの回転軸に伝達する。これにより、第2のリンク3が第1のリンク2に対して使用者の前後方向に回転駆動する。
【0022】
検出部7は、一般的な歩行補助装置で備えられているセンサ類であり、使用者の歩行状態を検出する。本実施の形態の検出部7は、少なくとも角度検出センサ7a、荷重センサ7b、姿勢検出センサ7cを備えている。
【0023】
角度検出センサ7aは、第1のリンク2と第2のリンク3との連結部分に設けられている。角度検出センサ7aは、第1のリンク2に対する第2のリンク3のピッチ軸周りの回転角度を検出し、検出信号を処理部9に出力する。ここで、第1のリンク2に対する第2のリンク3の回転角度は、使用者の歩行状態である当該使用者の膝の屈曲角度として扱うことができる。
【0024】
荷重センサ7bは、足裏載置部4の載置部4aに設けられている。荷重センサ7bは、載置部4aに作用する荷重を検出し、検出信号を処理部9に出力する。ここで、載置部4aに作用する荷重は、使用者の歩行状態である当該使用者の足裏に作用する荷重として扱うことができる。
【0025】
姿勢検出センサ7cは、腰装着部8の収納ボックス8b内に収納されている。姿勢検出センサ7cは、地面に対する第1のリンク2の角度を検出し、検出信号を処理部9に出力する。ここで、地面に対する第1のリンク2の回転角度は、地面に対する使用者の上腿部の角度として扱うことができる。
【0026】
腰装着部8は、ベルト8a、収納ボックス8bを備えている。ベルト8aは、使用者の腰に着脱可能な構成とされている。収納ボックス8bは、ベルト8aに設けられている。収納ボックス8bには、駆動モータ6a等の電源であるバッテリ、姿勢検出センサ7c、及び処理部9等が搭載されている制御基板が格納されている。収納ボックス8bに収納されているバッテリ及び制御基板は、角度検出センサ7a及び荷重センサ7bに配線12を介して接続されている。
【0027】
処理部9は、歩行モード判定部91、制御部92、歩容判定部93を備えている。歩行モード判定部91は、荷重センサ7b、姿勢検出センサ7cから入力される検出信号に基づいて、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が立脚状態か遊脚状態かを判定し、歩行モードを指示する指示信号を制御部92に出力する。
【0028】
つまり、歩行モード判定部91は、荷重センサ7bから入力される検出信号に基づいて、使用者の足裏に作用する荷重を算出し、算出結果に基づいて使用者の足裏が着地しているか否かを判定する。
【0029】
また、歩行モード判定部91は、姿勢検出センサ7cから入力される検出信号に基づいて、地面に対する使用者の上腿部の角度を算出し、算出結果に基づいて使用者の腿部が前方に向いているか、又は後方に向いているかを判定する。
【0030】
先ず、歩行モード判定部91は、使用者の足裏が着地しているか否かの判定結果、及び使用者の腿部が前方に向いているか、後方に向いているかの判定結果に基づいて、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が立脚状態か遊脚状態か否かを判定する。
【0031】
例えば、歩行モード判定部91は、使用者の足裏に作用する荷重が予め設定された第1の閾値以上であって、且つ使用者の腿部が後方に向いていると、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が立脚状態であると判定する。一方、歩行モード判定部91は、使用者の足裏に作用する荷重が予め設定された第1の閾値より小さいと、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が遊脚状態であると判定する。
【0032】
歩行モード判定部91は、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が今回の歩行動作では遊脚状態であると判定すると、次回の歩行動作では駆動部6の駆動モータ6aを立脚モードで制御するように制御部92に指示信号を出力する。一方、歩行モード判定部91は、歩行補助装置1が装着されている側の腿部が今回の歩行動作では立脚状態であると判定すると、次回の歩行動作では駆動部6の駆動モータ6aを遊脚モードで制御するように制御部92に指示信号を出力する。
【0033】
制御部92は、角度検出センサ7aや荷重センサ7bからの検出信号、歩行モード判定部91からの指示信号、及び後述するように歩容判定部93から入力される遊脚動作が完了した旨の信号に基づいて、駆動部6の駆動モータ6aを制御する。
【0034】
つまり、制御部92は、歩行モード判定部91から駆動モータ6aを立脚モードで制御する旨の指示信号が入力されると、歩容判定部93から遊脚動作が完了した旨の信号が入力されているかを判定し、入力されていると、歩行補助装置1が装着されている側の腿部と逆側の腿部が遊脚状態となった際に、歩行補助装置1で使用者の体重を支持することができるように、駆動モータ6aを制御する。
【0035】
一方、制御部92は、歩行モード判定部91から駆動モータ6aを遊脚モードで制御する旨の指示信号が入力されると、少なくとも前回に歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時に、角度検出センサ7a、荷重センサ7b及び姿勢検出センサ7cから取得した検出信号に基づいて、次回の歩行動作で歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時の使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌道等を予測的に算出する。
【0036】
つまり、制御部92は、少なくとも前回に歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時に、角度検出センサ7aから入力された検出信号に基づいて、使用者の膝の屈折角度を算出する。
【0037】
また、制御部92は、少なくとも前回に歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時に、荷重センサ7bから入力された検出信号に基づいて、使用者の足裏が着地した時間を算出する。
【0038】
さらに制御部92は、少なくとも前回に歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時に、姿勢検出センサ7cから入力された検出信号に基づいて、地面に対する使用者の大腿部の角度を算出する。
【0039】
制御部92は、これらの情報に基づいて、先ず順運動学から使用者の歩幅を算出し、当該歩幅と使用者の足裏が着地した時間に基づいて使用者の歩行速度を算出する。さらに制御部92は、算出した歩行速度を実現するための、時間と使用者の膝角度との関係(歩行軌跡)を算出する。制御部92は、算出した使用者の歩行軌跡等に基づいて、次回の歩行動作で歩行補助装置1が装着された側の腿部が遊脚状態となった時の使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌道等を予測的に算出する。つまり、制御部92は、前回の歩行動作に基づいて算出した使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌跡等に倣うように、次回の歩行動作を実現する。
【0040】
制御部92は、予測的に算出した使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌跡等が実現されるように、駆動部6の駆動モータ6aの制御信号を生成し、当該制御信号に基づいて駆動モータ6aを制御する。その一方で、制御部92は、予測的に算出した使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌跡等を歩容判定部93に出力する。
【0041】
ここで、制御部92は、歩容判定部93の判定結果に基づいても、駆動部6の駆動モータ6aを制御する。歩容判定部93は、図5に示すように、予測時間算出部93a、動作時間算出部93b、状態判定部93cを備えている。
【0042】
予測時間算出部93aは、制御部92から入力された、予測的に算出された使用者の歩幅、歩行速度、歩行軌跡等に基づいて、遊脚状態である、歩行補助装置1が装着されている側の腿部の足裏が着地する遊脚完了予想時間を算出する。予測時間算出部93aは、算出した遊脚完了予測時間を示す出力信号を状態判定部93cに出力する。
【0043】
動作時間算出部93bは、遊脚動作時間を算出する。つまり、動作時間算出部93bは、荷重センサ7b及び姿勢検出センサ7cの検出信号に基づいて、遊脚状態となる、歩行補助装置1が装着されている側の腿部の足裏が地面から離れ、再び地面に接地するまで、断続的に時間を算出(測定)する。動作時間算出部93bは、算出した遊脚動作時間を示す出力信号を状態判定部93cに出力する。
【0044】
状態判定部93cは、角度検出センサ7a又は荷重センサ7bから入力される検出信号に基づいて、歩行動作が完了したか否かを判定したり、予測時間算出部93a及び動作時間算出部93bから入力される信号に基づいて、遊脚完了予測時間と、遊脚動作時間と、を比較し、比較結果に基づいて制御部92に指示信号を出力したりする。
【0045】
本実施の形態にかかる歩行補助装置1は、利用者の立ち上がり動作をアシストする機能を有する。以下、この処理について、図6〜図8を用いて説明する。
【0046】
制御部92は、利用者の立ち上がり動作を検出すると、図6のフローチャートに示される処理を実行する。ここで、利用者の立ち上がり動作は、モータ軸角速度が正であることを検出することにより、検出できる。
図6に示されるように、制御部92は、角度検出センサ7aから第1のリンク2に対する第2のリンク3の、ピッチ軸周りの回転角度であるモータ軸角度を取得し、さらに、モータ軸角速度を演算により算出する(ステップS101)。
【0047】
次に、制御部92は、取得したモータ軸角度が伸展アシスト領域の中か否かを判定する(ステップS102)。ここで、伸展アシスト領域は、第1のリンク2と第2のリンク3が伸展した状態、即ち両者が一直線上の位置する状態から第1のリンク2を後方に所定角度だけ傾斜させた状態に至るまでの領域をいい、当該所定角度は、例えば、10度〜60度(第1のリンク2と第2のリンク3の角度でいえば、120度〜170度)である。さらに好ましい当該所定角度は、20度〜40度(第1のリンク2と第2のリンク3の角度でいえば、140度〜160度)である。
図7では、利用者が着座する椅子20に対する第1のリンク2及び第2のリンク3の位置を模式的に示しており、ECが伸展アシスト領域、FCが摩擦補償領域である。
【0048】
制御部92は、取得したモータ軸角度が伸展アシスト領域の中にあると判定した場合には、位置制御を実行する(ステップS103)。ここで、位置制御は、第1のリンク2と第2のリンク3との間の角度変化が、着座動作を行うために予め設定又は予測された角度変化になるように、駆動部6の駆動モータ6aの制御信号を生成する制御である。このように、伸展アシスト領域にある場合には、位置制御を行うようにしたため、位置に応じた伸展方向へのトルクを付与することができ、これによって立位状態を維持できるという効果を奏する。
【0049】
制御部92は、取得したモータ軸角度が伸展アシスト領域の外にあると判定した場合には、さらに、演算により算出したモータ軸角速度が0よりも大きいかどうかを判定する(ステップS104)。ここで、第1のリンク2と第2のリンク3のなす角度が大きくなる方向への回転、即ち、利用者が膝を折り曲げた状態から伸ばした状態(例えば、着座した状態から立ち上がった状態)に移行する方向への回転を正としている。従って、モータ軸角速度が0よりも大きいということは、利用者が立ち上がり動作を行っていることを示す。
【0050】
制御部92は、モータ軸角速度が0よりも大きいと判定した場合には、摩擦補償制御を実行する(ステップS105)。
ここで、図8を用いて、摩擦補償制御について説明する。第1のリンク2と第2のリンク3の間には、第2のリンク3に対して第1のリンク2を伸展方向(即ち、立ち上がり時の回転方向)に回転させると、駆動モータ6aからのトルク付与が行われていない状態でも、第1のリンク2と第2のリンク3の連結部における機械摩擦力(動摩擦力)に起因する抗力が発生する。本発明の実施の形態にかかる摩擦補償制御は、この機械摩擦力に起因する抗力をキャンセルするためのトルクを付与する制御である。
【0051】
具体的には、摩擦補償制御では、図8に示されるように、予め測定により求められた機械摩擦力F(グラフ上の点線で示す)以下のトルクTを与える。図8に示される例では、モータ軸角速度が所定位置θd2に至るまでは、トルクTは、モータ軸角速度が増加するにつれて略正比例して増加させている。その後は、機械摩擦力Fが増加しているが、トルクTは、略一定の値としている。このようなトルクTの設定は、図8に示されるものに限らず、第1のリンク2と第2のリンク3の連結部の構造に依存して大きく変化する機械摩擦力によって、変わってくる。本実施の形態にかかる摩擦補償制御は、基本的に、当該機械摩擦力をキャンセルする程度のトルクを付与すればよい。より好ましくは、トルクは、当該機械摩擦力に沿って変化し、当該機械摩擦力を上回らない範囲で設定される。例えば、当該機械摩擦力に対して50%以上100%以下のトルクが付与される。
【0052】
このように、摩擦補償制御では、機械摩擦力による抗力をキャンセルする程度のアシスト力であるため、利用者を不安定にさせにくい。
【0053】
制御部92は、モータ軸角速度が0以下と判定した場合には、トルクゼロ制御を実行する(ステップS106)。モータ軸角速度が0以下であるから、立ち上がり動作を中断して、利用者が着座動作を行っていることを示す。トルクゼロ制御では、第1のリンク2と第2のリンク3間に、駆動部6からのトルクが付加されない。なお、このとき、ダンパ制御を行うようにしてもよい。これにより、利用者が自重をあずけなら着座姿勢に戻ることができるため、利用者は、負担を感じることなく、立ち上がり動作を中止し、安全に着座姿勢に戻ることができる。
【0054】
このように、本実施の形態にかかる歩行補助装置は、利用者の立ち上がり動作を検知して、上述したアシストを開始するため、利用者は、自身の意思による、任意のタイミングで、このアシスト処理を開始することができる。
【0055】
特に、当該歩行補助装置では、機械摩擦力によって発生する抗力をキャンセルする程度のトルクを付与し、利用者を積極的にアシストしないため、転倒の危険性を大幅に減らすことが可能である。また、摩擦補償制御では、機械摩擦力程度のトルクは付加するため、利用者は、負担を感じることなく、立ち上がり動作を行うことができる。
【0056】
つまり、この制御技術によれば、デバイス構成の変更が殆どないにもかかわらず、着座動作中の安全性を高め、かつ座り心地を飛躍的に改善させることができるという大きな効果を奏することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、立ち上がり動作は、第1のリンクと第2のリンクのモータ軸角度の変化に基づいて検出するのみならず、利用者が立ち上がり動作を行うことを立ち上がりスイッチを操作することによって入力できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 歩行支援装置
2 第1のりンク
3 第2のリンク
4 足裏載置部、4a 載置部、4b アーム
5 膝装着部、5a アーチ
6 駆動部、6a 駆動モータ、6b 減速機
7 検出部、7a 角度検出センサ、7b 荷重センサ、7c 姿勢検出センサ
8 腰装着部、8a ベルト、8b 収納ボックス
9 処理部
91 歩行モード判定部
92 制御部
93 歩容判定部、93a 予測時間算出部、93b 動作時間算出部、93c 状態判定部
20 椅子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の脚に装着され、当該利用者の歩行を補助する歩行補助装置であって、
利用者の一方の脚の大腿に装着される第1のリンクと、
前記第1のリンクとピッチ軸周りに伸展状態から屈曲状態まで回転可能に連結され、前記一方の脚の下肢に装着される第2のリンクと、
前記第1のリンクに対して前記第2のリンクをピッチ軸周りに相対的に回転駆動する駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記利用者による立ち上がり動作の検出後は、前記第1のリンクと第2のリンク間に生じる機械摩擦力による抗力をキャンセルするトルクを付与する摩擦補償制御を実行する、歩行補助装置。
【請求項2】
前記摩擦補償制御におけるトルクは、前記機械摩擦力による抗力以下の値であることを特徴とする請求項1記載の歩行補助装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記利用者による立ち上がり動作の検出後、前記第2のリンクに対する前記第1のリンクの前記ピッチ軸周りの角度が予め定められた所定値未満の間は、前記摩擦補償制御を実行し、
前記ピッチ軸周りの角度が前記所定値以上の間は位置制御を実行する、請求項1又は2記載の歩行補助装置。
【請求項4】
利用者の一方の脚の大腿に装着される第1のリンクと、前記一方の脚の下肢に装着される第2のリンクと、に装着され、前記第1のリンクに対して前記第2のリンクをピッチ軸周りに相対的に回転駆動する駆動部とを有し、当該利用者の歩行を補助する歩行補助装置の制御方法であって、
前記利用者による立ち上がり動作の検出後は、前記第1のリンクと第2のリンク間に生じる機械摩擦力による抗力をキャンセルするトルクを付与する摩擦補償制御を実行する、歩行補助装置の制御方法。
【請求項5】
前記摩擦補償制御におけるトルクは、前記機械摩擦力による抗力以下の値であることを特徴とする請求項4記載の歩行補助装置の制御方法。
【請求項6】
前記利用者による立ち上がり動作の検出後、前記第2のリンクに対する前記第1のリンクの前記ピッチ軸周りの角度が予め定められた所定値未満の間は、前記摩擦補償制御を実行し、
前記ピッチ軸周りの角度が前記所定値以上の間は位置制御を実行する、請求項4又は5記載の歩行補助装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−90844(P2013−90844A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235276(P2011−235276)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)