説明

歩行補助装置

【課題】足の踏み替え時における違和感を抑えることを目的とする。
【解決手段】着座部材は、利用者を下側から支持する支持部材61と、支持部材61に支持された利用者の鼠径部に当接するように設けられ、支持部材61に対して少なくとも前後方向に移動可能となるように支持部材61に可動に支持された可動部材63と、可動部材63と支持部材61との間に設けられ、可動部材63に利用者の鼠径部からかかる力に応じて変形する弾性部材(引張コイルバネ71)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザが着座して使用する体重支持型の歩行補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体重支持型の歩行補助装置として、ユーザが着座するためのサドルと、サドルから下方に延び、ユーザの脚の関節に合わせて揺動可能に連結された脚リンクと、脚リンクの下端に設けられる靴状の足装着部とを備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この装置では、ユーザの体重を支えるために、脚リンクからユーザ(腰の中心)に向けてアシスト力が加えられるようになっている。具体的には、ユーザが両脚で起立した状態では各脚リンクから例えば5:5の配分でアシスト力がユーザに向けて加えられ、ユーザが歩行している際には例えば一方の脚リンクの配分が10となり、他方の脚リンクの配分が0となることで歩行時においては片脚でも体重を支えることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−48753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した装置において、前後に大きく歩幅をとるような歩行をすると、アシスト力の方向は前後に大きく傾き、前後方向の成分が大きくなるため、歩行のために踏み出した足が遊脚状態(宙に浮いた状態)から接地した瞬間(踏み替え時)に、ユーザが前方から押し戻されるような違和感を覚えることがあった。
【0006】
そこで、本発明は、足の踏み替え時における違和感を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、利用者が跨ぐようにして着座する着座部材と、当該着座部材に連結される脚リンクとを備える歩行補助装置であって、前記着座部材は、前記利用者を下側から支持する支持部材と、前記支持部材に支持された利用者の鼠径部に当接し、かつ、前記支持部材に可動に支持された可動部材と、前記可動部材と前記支持部材との間に設けられ、前記可動部材に前記利用者の鼠径部からかかる力に応じて変形する弾性部材と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、足の踏み替え時に脚リンクから後斜め上方に向けて発生する力の前後方向成分が大きな場合であっても、その力によって後方に移動する支持部材に対して可動部材が利用者とともに相対的に前方に移動して弾性部材を変形させることで、当該弾性部材によって力を吸収することができる。そのため、足の踏み替え時における違和感を抑えることができる。
【0009】
また、本発明では、前記支持部材の前部に、利用者の鼠径部に対応した形状に形成される二股形状部を設け、前記可動部材が、前記二股形状部に対して移動可能となるための空間を当該二股形状部との間に有し、前記弾性部材が、前記空間の外側に設けられているのが望ましい。
【0010】
これによれば、二股形状部と可動部材の間の空間に弾性部材を設ける構造に比べ、可動部材のストロークを確保することができるので、弾性部材によって力を効果的に吸収することができる。
【0011】
また、本発明では、前記可動部材が、前記空間を覆うカバー状に形成されるのが望ましい。
【0012】
これによれば、歩行補助装置の使用時に、利用者の脚の肉を可動部材と二股形状部との間に挟むことを防止することができる。
【0013】
また、本発明では、前記可動部材が、前記支持部材に回動可能に支持されているのが望ましい。
【0014】
これによれば、可動部材が回動可能となるので、可動部材が直線方向にスライドする構造(可動部材をガイドするガイド面が小さく、可動部材がスライド中に傾いてガイド面に引っ掛かり易い構造)に比べ、可動部材を滑らかに動作させることができる。
【0015】
また、本発明では、前記支持部材が、前記可動部材を最も後方の位置に係止するための係止部を有し、前記弾性部材が、歩行補助装置の未使用時において、前記可動部材を前記係止部に向けて付勢するように初期荷重が与えられた状態で保持されているのが望ましい。
【0016】
これによれば、通常の歩行時において弾性部材の変形を抑えて可動部材が可動するのを抑えることができるので、可動部材を利用者の鼠径部に確実にフィットさせた状態に維持することができ、スムーズな歩行を実現することができる。また、歩行補助装置の未使用時において弾性部材が自然長に保持された構造であると、利用者が着座するときなどに弾性部材が変形しやすく、この変形により可動部材の実質的なストロークが小さくなるおそれがあるが、初期荷重を設定することで、このような問題も防止することができる。
【0017】
また、本発明では、前記可動部材が、前記二股形状部の先端部を支点として下端部が回動可能になっているのが望ましい。
【0018】
これによれば、二股形状部の先端部を支点として可動部材の下端部を回動可能としたので、可動部材の下端部を中心にして上端部を回動させる構造に比べ、下端部のストローク量を大きくすることができ、下側から加わる脚リンクからのアシスト力を可動部材の下端部の回動で効果的に吸収することができる。
【0019】
また、本発明では、前記可動部材および前記弾性部材が、前記支持部材の左右に1つずつ設けられ、それぞれ独立して可動するように構成されていてもよい。
【0020】
これによれば、利用者の左右の鼠径部からかかる力に応じて左右の弾性部材が独立して変形するので、各可動部材を各鼠径部に常に密着させることができ、良好なフィット感を実現できる。
【0021】
なお、前記弾性部材は、例えば、前記可動部材の下端部を後方に向けて引っ張るように、当該可動部材の下端部と前記支持部材の後端部との間に設けてもよい。また、前記可動部材を、前記二股形状部の先端部に回動可能に支持される回動中心部と、前記回動中心部から前記二股形状部の後面に沿って延びる後壁部と、前記回動中心部から前方に突出する突出部と、を備えるように構成し、前記弾性部材を、前記突出部を下方に引っ張るように、当該突出部と前記支持部材との間に設けてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、足の踏み替え時における違和感を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る歩行補助装置を示す斜視図である。
【図2】図1の着座フレームを示す分解斜視図である。
【図3】着座フレームを左右方向の中央で切った断面図である。
【図4】可動部材が前方に回動した状態を示す断面図である。
【図5】着座フレームを左右方向外側から見た側面図である。
【図6】他の実施形態に係る着座フレームを示す分解斜視図である。
【図7】図6の着座フレームを左右方向の中央で切った断面図である。
【図8】可動部材を下端部を中心に回動可能に構成した形態を簡略的に示す説明図である。
【図9】可動部材を前後にスライド可能に構成した形態を簡略的に示す説明図である。
【図10】可動部材を二股形状部に対してスライド可能に構成した形態を簡略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、歩行補助装置1は、利用者が跨ぐようにして着座するための着座部材2と、当該着座部材2に連結される一対の脚リンク3と、各脚リンク3の下端に設けられる靴状部4と、各脚リンク3を作動させる2つのモータ5を備えている。そして、この歩行補助装置1は、ユーザが、靴状部4に足を入れるとともに、着座部材2上に着座した状態で使用されるようになっている。
【0025】
具体的に、歩行補助装置1では、利用者の各足(足平)に靴状部4を装着した状態で、各モータ5により各脚リンク3の関節のトルクを発生させることで、着座部材2から利用者に上向きのアシスト力(持ち上げ力)を作用させる。詳しくは、着座部材2と利用者との接触面の前後方向の幅内で着座部材2の上側に存在する仮想中心(各脚リンク3の揺動中心であり、後述する円弧状のレール部61eが一定曲率の場合はレール部61eの曲率中心)に向かって、アシスト力が作用するようになっている。
【0026】
靴状部4や脚リンク3には、図示せぬ複数のセンサが設けられており、各センサからの情報に基づいて図示せぬ制御装置が、アシスト力の目標値を決め、このアシスト力を左右に分配して左右の脚リンク3から適正なアシスト力が発生するようになっている。例えば、利用者が両脚で立った姿勢となる場合には、その体重が左右の足に均等にかかるため、アシスト力の分配比は5:5となっている。また、ユーザが歩行している場合において、一方の脚が遊脚状態となる場合には、この一方の脚リンク3のアシスト力の配分が0、他方の脚リンク3のアシスト力の配分が10となっている。
【0027】
そして、ユーザの歩行時において、遊脚状態の足が地面に設置した場合には、そのことをセンサで感知して、接地した足に対応した脚リンク3に適正なアシスト力が配分されるようになっている。そのため、ユーザが前後に大きく歩幅をとるような歩行(以下、大股歩行ともいう。)を行う際には、遊脚状態の足が接地した瞬間に、利用者(仮想中心)に向けて前後に大きく傾いたアシスト力が加わるようになっている。
【0028】
着座部材2は、カバーCと、カバーC内に設けられる樹脂製の着座フレーム6(図2参照)と、カバーCと着座フレーム6との間に充填されるスチレンビーズや綿などのクッション材とを備えている。
【0029】
図2に示すように、着座フレーム6は、支持部材61と、支持部材61に対して前後にスライド可能に支持されるサドルフレーム62と、支持部材61に対して回動可能(可動)に支持される2つの可動部材63とを備えている。そして、各可動部材63と支持部材61との間には、弾性部材の一例としての引張コイルバネ71と、第1連結部材81および第2連結部材82が設けられている。
【0030】
ここで、「可動部材63と支持部材61との間」とは、機構的に繋がった(関連した)もの同士での間をいう。つまり、本実施形態では、支持部材61と可動部材63とが、引張コイルバネ71、第1連結部材81および第2連結部材82によって機械的に連結されており、このように連結されたもの同士における支持部材61と可動部材63との間に引張コイルバネ71が設けられている。
【0031】
支持部材61は、サドルフレーム62を介して利用者を下側から支持するフレームであり、主に、平板状のベース部61aと、ベース部61aの前端部に一体に形成される二股形状部61bとを備えている。
【0032】
ベース部61aの左右端部には、上方に突出するガイドリブ61cが形成されている。これにより、サドルフレーム62が、一対のガイドリブ61cで左右方向への移動が規制されつつ、ベース部61aの上面に沿って前後にスライド可能となっている。
【0033】
なお、サドルフレーム62は、公知の係合突起やロック部材などによってベース部61aに対して所定の位置に位置決めされるようになっている。
【0034】
また、ベース部61aの後端部には、引張コイルバネ71の後端を取り付けるためのバネ取付部61dが設けられている。具体的に、バネ取付部61dは、左右方向において互いに間隔を空けて配置される一対の板状のリブであり、ベース部61aの後端部から後斜め上方に向けて延びるように形成されている。
【0035】
そして、一対のバネ取付部61dの後端部には、一対のバネ取付部61dを連結するボルトB1が設けられ、このボルトB1に引張コイルバネ71の後端が取り付けられている。
【0036】
なお、ベース部61aの下面には、図1に示すように、円弧状のレール部61eが連結部材61fを介して固定されている。そして、このレール部61eは、脚リンク3の上側に設けられた支持プレート31によって、レール部61eの形状に沿って前後に回動可能に支持されている。これにより、着座部材2が前後にふらつかずに、安定した姿勢で脚リンク3に支持されるようになっている。
【0037】
図2に示すように、二股形状部61bは、利用者の鼠径部に対応した形状となるように、ベース部61aの前端から二股に分岐するように形成されている。具体的に、二股形状部61bは、左右方向に離れて配置される2つの延出部61gで構成されている。
【0038】
サドルフレーム62は、利用者の臀部を支持するサドル部62aと、サドル部62aの前端から前方に延びてベース部61aにスライド可能に支持される板状のスライダ部62bとを備えている。サドル部62aは、前方に向けて先細る略三角形状に形成されており、その左右方向中央部に下方へ凹む凹部62cが形成されている。
【0039】
凹部62cを形成する底壁部62dは、図3に示すように、スライダ部62bの後端から上方に立ち上がるように延びた後、後斜め上方に向けて緩やかな傾斜で延びる曲面状に形成されている。そして、底壁部62dの前側の立ち上がった部分には、前後方向に貫通する孔62eが形成されている。
【0040】
これにより、底壁部62dの下方の空間に、引張コイルバネ71が配置されるとともに、引張コイルバネ71の前端に取り付けられる第2連結部材82が孔62eを通って前後に移動可能となっている。
【0041】
図2に示すように、可動部材63は、二股形状部61bの各延出部61gを覆うようなカバー状の部材であり、各延出部61gと略同じ位置に配置されることで、支持部材61に支持された利用者の鼠径部に当接するようになっている。そして、可動部材63は、その上端部63aが二股形状部61bの各先端部61mに回動可能に取り付けられることで、その下端部63bが略前後方向に回動可能(移動可能)となっている。
【0042】
具体的に、可動部材63は、延出部61gの前面61hに沿って形成される前壁63cと、延出部61gの後面61jに沿って形成される後壁63dと、前壁63cの上端と後壁63dの上端とを繋ぐ曲面状の上壁63eと、延出部61gの左右の側面61kに沿って延びるように形成される内側壁63fおよび外側壁63gとで構成されている。
【0043】
そして、可動部材63は、図3に示すように、その前壁63cが係止部の一例としての延出部61gの前面61hに当接することで後方への移動が規制され、図4に示すように、その後壁63dが延出部61gの後面61jに当接することで前方への移動が規制されるようになっている。言い換えると、可動部材63は、その前壁63cが前面61hに当接することで最も後方の位置に係止され、その後壁63dが後面61jに当接することで最も前方の位置に係止される。
【0044】
また、図3の状態における後壁63dと後面61jとの間や、図4の状態における前壁63cと前面61hとの間には、可動部材63が延出部61gに対して回動可能(移動可能)となるための空間A1,A2が形成されるようになっている。そして、可動部材63の内側壁63fおよび外側壁63gは、図3〜図5に示すように、可動部材63の回動の範囲において、各空間A1,A2を覆うことが可能な大きさで形成されている。
【0045】
これにより、歩行補助装置1の使用時に、利用者の脚の肉を可動部材63と延出部61gとの間に挟むことを防止することが可能となっている。
【0046】
そして、図2に示すように、各可動部材63の下端部63bは、第1連結部材81および第2連結部材82を介して引張コイルバネ71に連結されている。具体的に、第1連結部材81は、前端部81aが二股に分かれており、前端部81aの二股に分かれた各先端部に対して各可動部材63の下端部63bがネジSによって回動可能に連結されている。これにより、各可動部材63が第1連結部材81とともに前後に一体に回動するようになっている。
【0047】
また、第1連結部材81の後部には、前後方向に延びる長尺板状の第2連結部材82が、ネジ止め、接着、溶接などにより一体に固定されている。そして、第2連結部材82の後端部には、引張コイルバネ71の前端が取り付けられている。
【0048】
これにより、図3の状態の可動部材63に対して利用者の鼠径部から力がかかることで、図4に示すように、可動部材63が前方に回動すると、利用者からの力が引張コイルバネ71の変形によって吸収されるようになっている。
【0049】
引張コイルバネ71は、可動部材63の下端部63bを後方に向けて引っ張るように、前述した可動部材63と延出部61gとの間の空間A1,A2の外側(詳しくは可動部材63の下端部63bと支持部材61の後端部との間)に設けられている。これにより、例えば空間A1,A2内に押圧バネを設ける構造に比べ、可動部材63のストロークを大きくすることができるので、引張コイルバネ71によって力を効果的に吸収することが可能となっている。
【0050】
また、引張コイルバネ71は、歩行補助装置1の未使用時において、可動部材63を最も後方の位置(延出部61gの前面61h:図3参照)に向けて付勢するように初期荷重が与えられた状態で保持されている。これにより、通常の使用時において、引張コイルバネ71が変形し難くなるので、可動部材63を利用者の鼠径部に確実にフィットさせた状態に維持することができ、スムーズな歩行を実現することが可能となっている。
【0051】
なお、初期荷重は、通常の使用時(前後方向に大きな歩幅をとらないとき)において支持部材61に加わるアシスト力の前後方向成分(後方に向かう力)では変形しない程度の荷重に設定するのが望ましい。ここで、通常の使用時とは、2本の脚リンク3(最も支持部材61に近い脚フレーム)の角度が所定角度以内のときをいう。
【0052】
次に、歩行補助装置1の使用時における可動部材63等の作用について説明する。
歩行補助装置1を使用する際、利用者は、まず、図1に示す着座部材2に跨るように着座するとともに、各靴状部4に足を入れる。その後、利用者は、図2に示すサドルフレーム62または支持部材61を前後に動かすことで、着座部材2の前後長さを自身の体形に合わせる。
【0053】
具体的には、利用者は、サドルフレーム62を押さえつつ、このサドルフレーム62に対して二股形状部61bを後方に動かすか、あるいは、二股形状部61bを押さえつつ、サドルフレーム62ごと自身を前方に移動させることで、自身の鼠径部に各可動部材63を当接させる。これにより、各可動部材63とサドルフレーム62の後部との間で利用者が挟まれて、歩行時に着座部材2が利用者に対して前後にずれることが防止される。
【0054】
ここで、引張コイルバネ71に初期荷重が与えられていることにより、各可動部材63が動き難くなっているので、着座部材2の前後長さを調整する際に各可動部材63が利用者に多少強めに当接した場合であっても、各可動部材63を初期位置に止めておくことが可能となっている。そのため、大股歩行をする際において、各可動部材63のストロークを大きく確保することが可能となっている。
【0055】
各可動部材63を鼠径部に当接させた後、利用者は、その位置でサドルフレーム62を支持部材61にロックすることにより、歩行補助装置1を利用することが可能となる。そして、利用者が歩行補助装置1を利用して大股歩行をした場合には、踏み出した足を接地させたときに、後方に向かう成分が大きなアシスト力が支持部材61に向けて発生する。
【0056】
この際、アシスト力によって後方に移動する支持部材61に対して可動部材63が利用者とともに相対的に前方に移動して引張コイルバネ71を変形させるので、当該引張コイルバネ71によって急激なアシスト力が吸収される。すなわち、モータ5により発生するアシスト力(体重支持力)が大股歩行時に利用者の前側から作用することで、利用者の鼠径部から可動部材63に対して力が加わり、この力に応じて引張コイルバネ71が変形することで急激なアシスト力が吸収されるようになっている。
【0057】
なお、可動部材63の回動方向は、利用者の鼠径部に可動部材63が当接している状態において可動部材63の利用者との接触部分が動き出す方向が、大股歩行時のアシスト力の方向と一致する(平行になる)ように設定するのが望ましい。言い換えると、可動部材63の前記接触部分が動き出す方向を、アシスト力が向かう仮想中心(着座部材2の上方に設定された仮想中心)と前記接触部分とを結ぶ直線と一致する(平行になる)ように設定するのが望ましい。そのため、前述したような方向に可動部材63を回動させるべく、可動部材63の回動中心の位置や可動部材63の形状等を適宜設定するのが望ましい。
【0058】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
足の踏み替え時におけるアシスト力を引張コイルバネ71で吸収することができるので、足の踏み替え時における違和感を抑えることができる。
【0059】
可動部材63と延出部61gとの間の空間A1,A2の外側に引張コイルバネ71を設けたので、空間A1,A2に押圧バネを設ける構造に比べ、可動部材63のストロークを確保することができ、引張コイルバネ71によって力を効果的に吸収することができる。
【0060】
可動部材63が二股形状部61bの側面61kに沿って延びて空間A1,A2を覆うカバー状に形成されているので、歩行補助装置1の使用時に利用者の脚の肉を可動部材63と二股形状部61bとの間に挟むことを防止することができる。
【0061】
引張コイルバネ71に初期荷重を与えることで、通常の歩行時に可動部材63が可動するのを抑えることができるので、可動部材63を利用者の鼠径部に確実にフィットさせた状態に維持することができ、スムーズな歩行を実現することができる。また、引張コイルバネ71に初期荷重を与えることで、着座部材2の前後長さを調整する際に各可動部材63が可動するのを抑えることができるので、大股歩行時における可動部材63のストロークを確保することができる。
【0062】
支持部材61に対して可動部材63を回動可能に設けたので、可動部材が直線方向にスライドする構造(可動部材をガイドするガイド面が小さく、可動部材がスライド中に傾いてガイド面に引っ掛かり易い構造)に比べ、可動部材63を滑らかに動作させることができる。
【0063】
可動部材63を二股形状部61bの先端部61mに回動可能に支持させて下端部63bを回動可能(移動可能)としたので、可動部材の中央や下端部を中心にして上端部を回動させる構造に比べ、下端部63bのストローク量を大きくすることができ、下側から加わる脚リンク3からのアシスト力を可動部材63の下端部63bの回動で効果的に吸収することができる。
【0064】
支持部材61の前部が二股形状部61bとして形成されるので、利用者が前方に脚を振り出した際に、当該脚に二股形状部61bが当たった場合であっても、二股形状部61bが左右方向に変形することで、着座部材2のヨーイング(鉛直軸回りに回転すること)を抑制することができる。
【0065】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。以下に参照する図面において、前記実施形態と略同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0066】
前記実施形態では、2つの可動部材63を第1連結部材81で連結することで一体に回動するように構成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図6および図7に示すように、支持部材61の左右に、可動部材63および引張コイルバネ71を1つずつ設け、それぞれ独立して可動するように構成してもよい。
【0067】
具体的に、可動部材63は、前記実施形態と略同様の形状に形成されており、その前壁63cに前方に突出する突出部の一例としての第1リング部63hを備えている。言い換えると、可動部材63は、二股形状部61bの先端部61mに回動可能に支持される回動中心部63j(上端部63a)と、回動中心部63j付近から二股形状部61bの後面61jに沿って延びる後壁63dと、回動中心部63j付近から前方に突出する第1リング部63hとを備えている。
【0068】
そして、引張コイルバネ71は、第1リング部63hを下方に引っ張るように、当該第1リング部63hと支持部材61との間に設けられている。詳しくは、引張コイルバネ71は、その上端が第1リング部63hに取り付けられ、その下端が二股形状部61bの前面61hから前方に突出するように設けられた第2リング部61nに取り付けられている。
【0069】
このような構造によれば、利用者の左右の鼠径部からかかる力に応じて左右の引張コイルバネ71が独立して変形するので、例えば利用者が腰を捻じるように動作した場合などの左右の可動部材63に異なる大きさの荷重が加わる場合であっても、各可動部材63を各鼠径部に常に密着させることができ、良好なフィット感を実現できる。
【0070】
前記実施形態では、可動部材63を二股形状部61bの先端部61mに回動可能に設けて下端部63bを回動可能(移動可能)に構成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図8に示すように、可動部材93の下端部93bを支持部材91に回動可能に設けて上端部93eを回動可能に構成し、可動部材93と支持部材91との間に可動部材93を後方(図示時計回り)に向けて付勢するトーションバネ72を設けてもよい。
【0071】
この構造でも、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、この構造においては、可動部材93自体を二股形状に形成してもよいし、2つの可動部材93を左右に分けて設けることで可動部材93と支持部材91との間で二股形状を形成してもよい。
【0072】
また、図9に示すように、二股形状に形成される(もしくは左右に1つずつ配置される)可動部材103を支持部材101に対して前後にスライド可能に設け、可動部材103と支持部材101との間に引張コイルバネ71を設けるようにしてもよい。この構造でも、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、図10に示すように、前記実施形態と略同様の支持部材61の二股形状部61bに、二股形状部61bの後面61jに対して直交する方向に直線的に移動する可動部材113を設け、可動部材113と二股形状部61bの間に押圧バネ73を設けるようにしてもよい。この構造でも、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
なお、この構造においては、可動部材113の移動方向を、大股歩行時のアシスト力の方向と一致させる(平行にする)のが望ましい。これによれば、アシスト力をより効果的に吸収することができる。
【0075】
なお、図8〜図10のいずれの形態においても、可動部材(93,103,113)、弾性部材(72,71,73)および支持部材(91,101,61)は、機構的に繋がって(関連して)おり、このような機構における可動部材と支持部材との間に弾性部材が配置されている。
【0076】
また、可動部材は利用者の鼠径部に当接する形状であれば、どのような形状であってもよく、例えば二股形状部の先端を繋ぎ合わせたようなリング形状などに形成してもよい。
【0077】
前記各実施形態では、弾性部材としてバネ(引張コイルバネ71や押圧バネ73等)を採用したが、本発明はこれに限定されず、可動部材のストローク範囲で弾性変形可能な部材であれば、例えばゴムなどであってもよい。
【0078】
前記実施形態では、可動部材63(下端部63b)を略前後方向に移動(回動)可能としたが、本発明はこれに限定されず、少なくとも利用者の鼠径部から可動部材に対して力が加わる方向に可動部材が移動可能となっていればよい。言い換えると、少なくとも、大股歩行時に前側に踏み出した脚リンクから利用者に向けて作用するアシスト力が加わる方向(アシスト力が加わる方向には直交しない方向)に可動部材が移動可能となっていればよい。ここで、「大股歩行時」とは、左右の脚リンクの最上方の各脚フレームのなす角が所定値以上の場合をいい、この所定値は、実験やシミュレーション等で適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 歩行補助装置
2 着座部材
3 脚リンク
61 支持部材
61b 二股形状部
63 可動部材
71 引張コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が跨ぐようにして着座する着座部材と、当該着座部材に連結される脚リンクとを備える歩行補助装置であって、
前記着座部材は、
前記利用者を下側から支持する支持部材と、
前記支持部材に支持された利用者の鼠径部に当接し、かつ、前記支持部材に可動に支持された可動部材と、
前記可動部材と前記支持部材との間に設けられ、前記可動部材に前記利用者の鼠径部からかかる力に応じて変形する弾性部材と、を備えていることを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
前記支持部材の前部には、利用者の鼠径部に対応した形状に形成される二股形状部が設けられ、
前記可動部材は、前記二股形状部に対して移動可能となるための空間を当該二股形状部との間に有し、
前記弾性部材は、前記空間の外側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【請求項3】
前記可動部材は、前記空間を覆うカバー状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の歩行補助装置。
【請求項4】
前記可動部材は、前記支持部材に回動可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記可動部材を最も後方の位置に係止するための係止部を有し、
前記弾性部材は、歩行補助装置の未使用時において、前記可動部材を前記係止部に向けて付勢するように初期荷重が与えられた状態で保持されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項6】
前記可動部材は、前記二股形状部の先端部を支点として下端部が回動可能になっていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項7】
前記可動部材および前記弾性部材は、前記支持部材の左右に1つずつ設けられ、それぞれ独立して可動することを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の歩行補助装置。
【請求項8】
前記弾性部材は、前記可動部材の下端部を後方に向けて引っ張るように、当該可動部材の下端部と前記支持部材の後端部との間に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の歩行補助装置。
【請求項9】
前記可動部材は、前記二股形状部の先端部に回動可能に支持される回動中心部と、前記回動中心部から前記二股形状部の後面に沿って延びる後壁部と、前記回動中心部から前方に突出する突出部と、を備え、
前記弾性部材は、前記突出部を下方に引っ張るように、当該突出部と前記支持部材との間に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の歩行補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−130426(P2012−130426A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283363(P2010−283363)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)