説明

歪取り方法および装置

【課題】 高速でかつ加熱後の水冷を必要としない効率的な歪取り方法およびその装置を提供する。
【解決手段】 ワーク100上に設置される方形のフレーム12と、前記フレーム12の枠内で縦および横方向に移動可能に設けられたプラズマトーチ11と、前記プラズマトーチ11の近傍に配置され、該プラズマトーチ11とワーク100とのスタンドオフの距離を一定に保持する加熱面倣い機構30と、前記プラズマトーチ11の縦および横方向の駆動装置13、14を予め板厚毎および加熱方法毎に設定された加熱条件に基づいて制御する制御装置56とを備え、溶接歪の発生箇所をプラズマアークにより加熱しながらプラズマトーチを移動させることにより溶接歪を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接によって板材に生じた溶接歪を修正するための歪取り方法およびその装置に関し、特に、アルミ船などアルミを主材料とする構造物の製造の際にアルミ板材に生じた溶接歪を修正するのに好適な歪取り方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、橋梁など大型構造物の製造工程では構造部材にスティフナなどの補強材が溶接されるが、しばしばこの溶接線に沿って、いわゆる痩せ馬歪と呼ばれる角変形を伴う歪が生じる。また、薄板などでは溶接歪による面外変形が頻繁に生じている。これらの歪は外観性能だけでなく設計強度にも影響する場合があり、品質管理上非常に重要な問題となる。そこで、このような溶接歪を修正するために、以下に示すような歪取りの技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、加熱用TIGトーチを取り付けた台車にリモートコントロールボックスを接続し装置全体を操作している。このとき台車を所定の方向に移動しながらTIGトーチにより対象部材を加熱後に急冷することで歪を修正するようにしている。
特許文献2では、加熱用ガスバーナを取り付けた台車に制御装置を載せ、溶接線に基づく数値データにより痩せ馬歪を加熱除去する。
特許文献3では、走行台車の一側に加熱用TIGトーチをトーチ先端と加熱部の距離を一定に保持する機構を介して取り付けている。また、トーチを揺動する機構を有しており、台車を移動しながらウィービング加熱し急冷することで歪を修正するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−45093号公報
【特許文献2】特開平5−177254号公報
【特許文献3】特開平8−206872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、歪取りの加熱熱源として主にガス炎あるいはTIGアークを利用しており、水冷などで強制急冷する必要があるため、装置本体あるいはホースを介した場所に冷却用の水タンクなどが必要となり、装置が複雑で大型になってしまうという問題がある。また、これらの熱源を利用した歪取りでは加熱速度が遅く、生産効率が良くないなどの問題がある。
【0006】
また、特許文献1、3の歪取り装置では、加熱線軌道の生成は台車本体を移動させる必要があり、加熱施工中は常に作業者による監視が必要となる。また、加熱線の精度は台車直線性に依存するため、歪の発生している板上を走行させる方式では精度の確保が困難である(特に痩せ馬歪取りでは加熱線の位置精度が要求される)。また、加熱面上に何らかの障害物がある場合は台車方式では施工することができない。
一方、特許文献2では、台車に取り付けられた移動装置によってバーナの位置を数値制御するため、加熱位置の精度は保証されるが、基本的に立向き姿勢の加熱しかできず汎用性に欠ける。また、この装置は線状加熱に特化しているため面外変形を修正する、いわゆる松葉焼きなどの加熱方法をとることはできない。
【0007】
特許文献1、3では、施工時の加熱条件(電流値、加熱速度等)を手動で設定するようになっており、対象部材の歪や板厚などの状況に合わせて調整する。このため、これらの歪取り装置を操作するためにはある程度の熟練度が要求され、加工品質の安定性の確保が困難である。
【0008】
従来技術では、ほとんどの装置が線状加熱の自動化を対象にしている。また、揺動機能を有する特許文献3の装置においても、トーチ部はエアシリンダにより駆動されるため、対象部材に適した任意のウィービングパターンを実現することはできない。
【0009】
また、特許文献1では、TIGトーチとワーク間の距離(スタンドオフ)を一定に保持するためにボールキャスタで両端支持された部材にTIGトーチを固定している。しかし、TIGトーチの取付位置と支持部の距離が大きいため、変形した板面上ではスタンドオフが変動する。これに対し、特許文献3では、スタンドオフの変動を回避するために、加熱用トーチにボールキャスタの取付られた保持装置を固定している。この方式ではスタンドオフは一定に保持されるが、加熱直後の表面をボールキャスタが傷つける可能性があり施工品質上の問題がある。また、トーチ先端が保持装置で囲まれることになるため、トーチ移動範囲を制限しデッドスペースを大きくしてしまう。一方、特許文献2では、スタンドオフを一定にするためにタッチセンサを用いて位置制御を行っているが、この機能のために特別なセンサや制御軸が付加され、装置が複雑、高コストになってしまう。
【0010】
また、特許文献1、3では、基本的に台車走行が可能な板材を対象としており、下向き加熱施工しかできない構造になっている。一方、特許文献2では、構造物の壁面を立向きに加熱施工することを前提としており汎用性に乏しい。実際の施工現場では下向きと立向きの施工が混在している場合がほとんどであり、両方の施工方法に対応可能にする必要がある。
【0011】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、高速でかつ加熱後の水冷を必要としない効率的な歪取り方法およびその装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、構造が簡単でハンドリングが容易であり、板厚や歪状況に応じて適正な加熱条件、加熱パターンで施工できる歪取り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る歪取り方法は、溶接歪が発生したワークの箇所をプラズマアークにより加熱しながらプラズマトーチを移動することにより溶接歪を修正するものである。
本発明では、歪取りの熱源として熱集中性の高いプラズマアークを利用することにより、高速でかつ加熱後の水冷を必要としない効率的な歪取りを行うことができる。
【0013】
本発明の歪取り方法では、板厚毎の加熱条件として複数の加熱パターンが予め加熱方法毎に設定されており、その中から一の加熱パターンを選択して加熱を実施するものである。この場合、複数の加熱パターンは、少なくとも線状加熱パターンとウィービング加熱パターンを含むものである。
線状加熱パターンを適用することによって主に角変形(痩せ馬歪)を修正することができ、ウィービング加熱パターンは主に面外変形を修正することができる。
さらにまた、本発明の歪取り方法をアルミ材の溶接歪の修正に適用すると、アルミ船などのアルミ製構造物の製造の際の歪取りに大いに効果を発揮する。
【0014】
また、本発明に係る歪取り装置は、ワーク上に設置される方形のフレームと、前記フレームの枠内で縦および横方向に移動可能に設けられたプラズマトーチと、前記プラズマトーチの近傍に配置され、該プラズマトーチとワークとのスタンドオフの距離を一定に保持する加熱面倣い機構と、前記プラズマトーチの縦および横方向の駆動装置を予め板厚毎および加熱方法毎に設定された加熱条件に基づいて制御する制御装置と、を備えたものである。
【0015】
このように構成することにより、本発明の歪取り方法を実施することができるとともに、構造が簡単で、かつハンドリングが容易であり、大型ワークの歪取りを板厚や歪状況に応じて適正な加熱条件、加熱パターンで施工することができる。
【0016】
また、本発明の歪取り装置では、前記加熱条件を設定および選択する操作部を前記フレームに設けることが好ましい。これによって加熱条件の設定等をその場で即座に行うことができる。
【0017】
また、前記制御装置には、板厚毎の加熱条件として、線状加熱パターンとウィービング加熱パターンが設定されており、前記制御装置は、前記線状加熱パターンとして、前記操作部で加熱軌道の始点と終点を指定することにより、線状加熱線を自動生成する構成となっている。さらに、前記制御装置は、前記操作部で加熱軌道の始点からのオフセット量を指定することにより、前記線状加熱線に対する他方の線状加熱線を自動生成する構成となっている。
【0018】
また、前記ウィービング加熱パターンは直線部と円弧部からなり、かつウィービング幅とウィービング長さで定義されており、前記操作部で加熱線間隔を指定することにより、前記制御装置は、ホーム基準点と対角基準点で定義される方形の範囲に前記指定された加熱線間隔で前記ウィービング加熱パターンを自動展開する構成となっている。
【0019】
また、本発明では、前記歪取り装置の本体部分を固定治具でワークの立板に立て掛けてなる。
歪取り装置の本体部分を固定治具でワークの立板に立て掛けることにより、同じ歪取り装置でプラズマトーチを立向き姿勢で壁面等の立板の歪取りを行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、歪取りの熱源として熱集中性の高いプラズマアークを利用するので、高速でかつ加熱後の水冷等の強制冷却を必要としない効率的な歪取りを行うことができる。しかも、大型ワークの歪取り作業を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の歪取り装置を備えたシステムの構成図、図2は本発明の歪取り装置の平面図、図3はその歪取り装置の側面図、図4はその歪取り装置の正面図である。また、図5は歪取り装置のトーチ部の正面図、図6はそのトーチ部の側面図、図7はそのトーチ部の平面図である。
【0022】
本発明では、ガスバーナやTIGアークに比べて熱の集中性がよい、すなわちエネルギー密度の高いプラズマアークをワーク100、特にアルミ材の溶接歪取りの熱源として利用することにしている。プラズマアークの発生手段としては、一般にプラズマ溶接に用いられるプラズマ溶接電源を使用している。
本システムは、縦および横方向に移動可能なプラズマトーチ11を備えた歪取り装置10に、プラズマ溶接電源50、プラズマトーチケーブル52、冷却装置54および制御装置56等を接続することにより構成されている。
【0023】
この歪取り装置10は、ワーク100上に設置される方形のフレーム12を備え、フレーム12にはプラズマトーチ11の縦方向駆動装置13と横方向駆動装置14が設けられている。縦方向駆動装置13は、フレーム12の一側の縦部材上に配置された縦方向リニアガイド15と、縦方向リニアガイド15内に回転自在に設けられたボールネジからなる縦方向駆動軸16と、縦方向駆動軸16を回転駆動するサーボモータからなる縦方向駆動モータ17とから主として構成されている。横方向駆動装置1は、両端の各端部が縦方向リニアガイド15とフレーム12の他側の縦部材上にカムフォロアからなる走行装置18を介して支持され、一端部が縦方向駆動軸16に結合された横方向リニアガイド19と、横方向リニアガイド19内に回転自在に設けられたボールネジからなる横方向駆動軸20と、横方向駆動軸20を回転駆動するサーボモータからなる横方向駆動モータ21と、横方向駆動軸20に結合されたプラズマトーチ11のトーチホルダー22とから主として構成されている。
したがって、トーチホルダー22により下向きに保持されたプラズマトーチ11を、2自由度の縦方向駆動装置13および横方向駆動装置14の回転制御により、方形のフレーム12の枠内において任意の軌道で移動させることができる。ここでは、プラズマトーチ11の可動範囲は縦700mm×横400mmとしている。
【0024】
また、歪取り装置10は、加熱パターンを含む加熱条件の入力および表示等を行う操作部23を有し、さらに重量が250N程度に抑えられたハンドリングが容易な構成となっており、フレーム12の前部に取り付けられたキャスタ24により約30度傾けることでカート式に容易に移動・運搬できるようになっている。
なお、図2〜図4において、25はフレーム12の4隅に設けられたスタンド部であり、これらスタンド部25を介してワーク100上に本歪取り装置10が設置される。26はケーブルベア、27はプラズマトーチケーブル52を保持するための支柱である。
【0025】
次に、トーチ部の詳細な構成を図5乃至図7に示す。トーチ部は、プラズマアークの安定性に影響するアーク長(スタンドオフ)を一定に保持するための加熱面倣い機構30を備えている。加熱面倣い機構30は、プラズマトーチ11の近傍に配置されており、後述するようにワーク100の加熱面近傍を倣うようになっている。その構成は、具体的には、プラズマトーチ11を保持するトーチホルダー22が設けられたスライダ31に、先端にボールキャスタ32を設けた倣いロッド33を下方へ付勢するばね34を介して設けた構成である。ばね34はスライダ31とボールキャスタ32の間に装着されており、これにより倣いロッド33の先端のボールキャスタ32を常にワーク100の表面(加熱面近傍)に押し付けてプラズマトーチ11とワーク100間のスタンドオフの距離Lsを常に一定に保持することができる。しかも、ボールキャスタ32でワーク100の表面に傷を付けることもない。また、倣いロッド33はばね34により、例えば±10mmの範囲で自在に上下動するようになっており、これによりワーク100の面外変形や角変形に対しても十分に追従することが可能であり、特別なセンサ等を用いることなく接触式で正確に追従することができる。なお、図5には倣いロッド33の追従範囲LRが併記されている。
【0026】
また、スライダ31にトーチホルダー22を介して取り付けられるプラズマトーチ11はトーチ方向位置調整手段である調整ネジ36によりトーチ方向(上下方向)に移動可能となっている。調整ネジ36は自己保持可能な台形ネジで形成されており、スライダ31のガイドフレーム35に設けられている。これによりスライダ31およびプラズマトーチ11は例えば±50mmのストロークを有する。そのため、ワーク100上に高さ100mm程度のスティフナ等の干渉物があっても何ら支障なくスティフナ側の裏面側からも加熱を施工することができる。また、調整ネジ36によりワーク100の表面からのプラズマトーチ11の先端位置が調整される。これによりスタンドオフの距離は3〜13mmの範囲内で調整できるようになっている。なお、倣いロッド33はプラズマトーチ11の近傍(平面視で斜め前方)に配置され、トーチ中心と倣いロッド33間の距離LTは後述する図15の試験データに基づいて約80mmに設定されている。37は調整ネジ36の摘み、38はスライダ31のガイドシャフトである。
【0027】
図1に示した制御装置56は、プログラマブルコントローラ(以降、PCと記述する)からなり、プラズマトーチ11の縦方向駆動装置13と横方向駆動装置14とプラズマ溶接電源50を制御している。一般にPCは不揮発性メモリを有しており、各種のデータを保持できる。また、図2に示すように、この歪取り装置10は加熱条件や加熱パターン等を入力および表示するための操作部(タッチパネル式操作ボックス)23を装備している。加熱条件は、電流値、加熱速度および加熱パターンであり、予め板厚毎および加熱方法毎に設定されている。加熱パターンは、主に、線状加熱パターンとウィービング加熱パターンである。加熱施工時には、ワーク100の板厚および歪発生状況に応じて、これらプリセットされた加熱条件の中から適切な条件を選んで実施することになる。
【0028】
図8は線状加熱方法を示す説明図である。図8(a)は平面図、(b)は側面図である。線状加熱動作では、図8に示すように加熱軌道の始点と終点位置を操作部23により教示する。その後自動運転を開始すると、パイロットアークをON状態にして始点教示位置にプラズマトーチ11を移動し、終点に向かって加熱移動する。このときの加熱条件およびタイミングは操作部23により任意に設定することができる。また、線状加熱パターンは主として図8に示すようなT継手隅肉溶接で発生する痩せ馬歪の修正に適用されるため、通常、線状加熱線41、42を2本生成することになる。このとき、始点からのオフセット量Sを予め設定しておくことで、片方の線状加熱線41の始点と終点を指定するだけで2本分の線状加熱線41、42を自動生成することができる。
【0029】
図9はウィービング加熱方法を示す説明図、図10はウィービング加熱パターンの施工範囲への展開を示す説明図、図11はウィービング加熱パターンの任意の加熱線方向への展開を示す説明図である。
ウィービング加熱動作では、図9に示すようにウィービング幅Aとウィービング長さLによって定義されたウィービング加熱パターンをプラズマトーチ11の可動範囲内に展開することで実現する。ウィービング加熱パターンは、図9に示すように直線部と円弧部で構成されており、各ウィービング構成点はウィービング座標系{W}上で図9の表に示すように定義される。この歪取り装置10ではこのようなウィービング加熱パターンが10通りプリセットされている。そして、このウィービング加熱パターンは、図10に示すように任意に設定できるホーム基準点と対角基準点で定義される方形の範囲43に加熱線間隔を指定することで展開される。このときウィービング加熱パターンは、ホーム基準点側から展開され、図10の加熱線dのように展開範囲43からはみ出るウィービング加熱パターンの軌道は生成されない。加熱線方向は図10に示すように縦方向駆動軸16に平行な縦方向と横方向駆動軸20に平行な横方向を選択できる。ウィービング加熱パターンの施工順番に関しては、ホーム基準点側から(a→b→c)と、中心から外側への順(b→a→c)と、外側から中心への順(a→c→b)のいずれかを選択できるようになっている。
【0030】
また、ウィービング加熱パターンは駆動軸に平行なだけでなく、図11に示すように任意の方向にも展開できる。このときの各ウィービング構成点は式(1)、(2)により容易に求めることができる。ここで、RWは、ホーム基準点を原点とする装置座標{R}から見たウィービング座標系(またはワーク座標系){W}への同次変換行列である。また、θはZ軸周りの回転角度、x,yは{R}上のウィービング加熱パターンの始点である。また、ウィービング加熱パターンの条件とアークONタイミングおよびウィービング加熱パターンは線状加熱と同様に任意に設定することができる。
【0031】
【数1】

【0032】
次に、上述のように構成された歪取り装置10の動作を説明する。ワーク100は、例えば図12に示すように、プレート101にロンジ102およびトランス103を隅肉継手で溶接して構成されているものとする。図12の(a)は平面図、(b)は側面図である。なお、図12において、Oはワーク座標系の原点である。
このようなワーク100のプレート101に溶接歪が発生した場合、歪の発生状況に応じて、例えば図12(a)の斜線部で示すように、No.1の施工区画にこの歪取り装置10をセットする。このとき、プラズマトーチ11のプレート101の表面からの距離(オフセット)は予め調整ネジ36により所定の値に調整されている。そして、予め設定されている加熱条件(電流値、加熱速度、加熱パターン等)の中からプレート101の板厚に対応する電流値、加熱速度、および加熱パターン、ならびに加熱方向等を操作部23で選定する。そして自動運転を開始すると、プラズマトーチ11は、縦方向駆動装置13および横方向駆動装置14を制御装置56により制御することにより、フレーム12の枠内において、選定された加熱パターンでプレート101の歪発生箇所を加熱しながら移動する。これにより溶接歪が修正される。
【0033】
(1)歪取りの熱源
ここで、歪取りの熱源としてプラズマアークを利用することの意義について説明する。アルミ板材に対するプラズマアークによる加熱変形量を実験(自然冷却)により検証した結果を示す。熱変形の解析でよく用いられる入熱パラメータ(加熱線単位長さ当たりの入熱量を板厚の2乗で割った値)を横軸にとり、横収縮量(加熱点からの距離を板厚で割った値)と角変形量を縦軸にとったときの分布を図13、図14に示す。アルミ板材は板厚4mm、5mm、6mm、8mmについて実験したものである。
この結果から、入熱パラメータが4(J/mm3)付近で角変形量が最大になることが判明した。但し、施工品質から実加熱表面状態に溶融痕が残らないという前提で角変形量が最大となる加熱条件を適正値としている。このときの加熱速度は約750cpm〜125cpmであり、一般的なTIG加熱時の加熱速度10cpmに比べ10倍程度高速である。しかも、プラズマアークによる加熱の場合は水冷等の強制冷却が全く不要であり、自然冷却でよい。したがって、装置構成がきわめてコンパクトにできるとともに、ワークの溶接歪を効率的に修正することができる。
また、この実験で求めた板厚毎の適正値は前述のように制御装置56にプリセットされている。
【0034】
(2)加熱動作
プレート101に角変形(いわゆる痩せ馬歪)が発生している場合には、加熱パターンとして主に線状加熱パターンを操作部23で選択して適用する。線状加熱パターンは、図8に示したように加熱軌道の始点と終点の位置を操作部23で指定することにより制御装置56が自動的に生成する。また、No.2あるいはNo.5の区画領域において、線状加熱パターンを自動生成する場合には、ロンジ102の隅肉継手の溶接線データに基づいて上記始点からのオフセット量Sを操作部23で設定するだけでよい。
一方、プレート101に面外変形が発生している場合には、加熱パターンとして図9に示したような主にウィービング加熱パターンを適用する。加熱施工時に板厚とウィービング番号を指定することで、プリセットされた加熱条件とウィービング加熱パターンで加熱動作を実行することができる。ウィービング加熱パターンは、加熱線間隔を指定することでホーム基準点と対角基準点からなる方形の展開範囲に自動的に展開される。また、プラズマトーチ11の移動開始からアークONまでのタイミングや加熱終了時に発生するクレータ処理(電流を徐々に下げる)時間についても操作部23で任意に設定できるようになっている。
なお、加熱速度は一定である。但し、ウィービング加熱パターンの場合、線速度を一定に制御する。また、ウィービング加熱パターンと線状加熱パターンとでは通常、加熱速度は異なる。加熱速度は操作部23で設定される。
【0035】
(3)加熱面倣い動作
加熱面倣い機構30は、ばね34により倣いロッド33を常時プレート101の表面(加熱面近傍)に押し付けてプラズマトーチ11とプレート102との距離(スタンドオフ)を一定に保持している。倣いロッド33とプラズマトーチ11の間隔が広いとスタンドオフを一定に保持し難いため、両者をできるだけ接近させた方が有利になる。しかし、倣いロッド33とプラズマトーチ11が近すぎると、加熱直後のプレート101表面を傷つけてしまう危険性がある。そこで実験と熱解析により最適な間隔を求めた。
図15は、アルミ板材(板厚4mm)について、加熱線からの距離に対する最高到達温度分布を示したものである。その結果、アルミ板材の場合、倣いロッド33とプラズマトーチ11の間隔が80mmあれば表面温度は80度付近になっており、倣いロッド33によって傷つくことはないことを確認した。
【0036】
再び図12において、No.1の区画領域の加熱が終了したら次のNo.2の区画領域にこの歪取り装置10を運んでセットする。その後は上記と同様にNo.2の区画領域の歪発生箇所を加熱施工する。以降同様に、No.3、No.4、・・・No.16と各区画領域について加熱施工していけばよい。なお、区画領域の加熱施工の順番は図12のようにワーク100の縦方向に限定されるものではなく、横方向に順番に行ってもよく、また歪の発生が大きい区画領域から任意に加熱を行ってもよい。また、上記の説明では、ワーク100の表面側から加熱施工しているが、ワーク100を裏返しにして裏面側から加熱施工することもできる。この場合は、ロンジ102上に、いわゆるゲタをはかせて歪取り装置10をセットすればよい。そして、プラズマトーチ11は調整ネジ36により下降させて所定のスタンドオフを保つようにセットする。
【0037】
この歪取り装置10は軽量のため、またフレーム12の前部にはキャスタ24が取り付けられているので、持ち運びに便利であるとともに、操作部23がフレーム12に取り付けられているので、その場で適用する加熱条件、加熱パターン等を即座に設定することができ、きわめて使い勝手のよいものとなっている。
【0038】
次に、図16は本発明の他の実施形態の歪取り装置を示す側面図である。前述の実施形態ではプラズマトーチ11を下向き姿勢で加熱施工するものとしたが、本実施形態では立向き姿勢とするものである。すなわち、ワーク100の立板104の溶接歪を修正できるようにする。歪取り装置10の本体部分の構成は上述したものと全く同じであり、その歪取り装置10のフレーム12を適当な固定治具60で支えて立板104に立て掛けるように構成されている。固定治具60は、例えば、内部に圧縮ばねが設けられたテレスコープ式の支柱61と、フレーム12に支柱61を固定するために支柱61の上端部にピン結合された取付具62と、支柱61の下端部に設けられた吸着パッド63とから構成されている。この固定治具60により歪取り装置10の本体部分をワーク100の立板104の表面に立て掛けることができるので、前述の実施形態と同様の動作により立板104に生じた溶接歪を修正することができる。
【0039】
以上の実施形態では、主としてアルミ構造物へ適用する例を示したが、痩せ馬歪や面外変形を伴うアルミ以外の構造物の加熱歪取り施工への適用も十分可能である。但し、この場合には、対象とする部材の特性に合った熱源を選定する必要がある。
また、ウィービング加熱パターンに関して、前述の実施形態の場合、直線と円弧補間軌道を組み合わせたS字状の軌道で実現しているが、その他にはサイン波、矩形波などのパターンも容易に生成することができる。さらにまた、一般的な施工法である松葉焼きなどの加熱方法も実現可能である。
また、加熱面倣い機構について、先端部にボールキャスタを有する倣いロッドによる機械倣い方式で説明したが、超音波センサやレーザセンサ等を用いる非接触式の倣い機構とすることも可能である。
その他、歪取り装置のプラズマトーチ移動機構を片持ち式の直交Tタイプやスカラ型に構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の歪取り装置を備えたシステムの構成図。
【図2】本発明の歪取り装置の平面図。
【図3】歪取り装置の側面図。
【図4】歪取り装置の正面図。
【図5】歪取り装置のトーチ部の正面図。
【図6】トーチ部の側面図。
【図7】トーチ部の平面図。
【図8】線状加熱方法を示す説明図。
【図9】ウィービング加熱方法を示す説明図。
【図10】ウィービング加熱パターンの施工範囲への展開を示す説明図。
【図11】ウィービング加熱パターンの任意の加熱線方向への展開を示す説明図。
【図12】本発明の歪取り装置による歪取り方法の説明図。
【図13】アルミ板材の場合の入熱パラメータと横収縮量の関係を示すグラフ。
【図14】アルミ板材の場合の入熱パラメータと角変形量の関係を示すグラフ。
【図15】アルミ板材の場合の加熱線からの距離と最高到達温度の関係を示すグラフ。
【図16】本発明の他の実施形態の歪取り装置を示す側面図。
【符号の説明】
【0041】
10 歪取り装置
11 プラズマトーチ
12 フレーム
13 縦方向駆動装置
14 横方向駆動装置
15 縦方向リニアガイド
16 縦方向駆動軸
17 縦方向駆動モータ
18 走行装置
19 横方向リニアガイド
20 横方向駆動軸
21 横方向駆動モータ
22 トーチホルダー
23 操作部
24 キャスタ
25 スタンド部
30 加熱面倣い機構
31 スライダ
32 ボールキャスタ
33 倣いロッド
34 ばね
35 ガイドフレーム
36 調整ネジ
37 摘み
41 線状加熱線
42 線状加熱線
43 ウィービング加熱パターンの展開範囲
50 プラズマ溶接電源
56 制御装置
60 固定治具
100 ワーク
101 プレート
102 ロンジ
103 トランス
104 立板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接歪が発生したワークの箇所をプラズマアークにより加熱しながらプラズマトーチを移動することにより溶接歪を修正することを特徴とする歪取り方法。
【請求項2】
板厚毎の加熱条件として複数の加熱パターンが予め加熱方法毎に設定されており、その中から一の加熱パターンを選択して加熱を実施することを特徴とする請求項1記載の歪取り方法。
【請求項3】
前記複数の加熱パターンは、少なくとも線状加熱パターンとウィービング加熱パターンを含むことを特徴とする請求項2記載の歪取り方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の歪取り方法をアルミ材の溶接歪の修正に適用することを特徴とする歪取り方法。
【請求項5】
ワーク上に設置される方形のフレームと、
前記フレームの枠内で縦および横方向に移動可能に設けられたプラズマトーチと、
前記プラズマトーチの近傍に配置され、該プラズマトーチとワークとのスタンドオフの距離を一定に保持する加熱面倣い機構と、
前記プラズマトーチの縦および横方向の駆動装置を予め板厚毎および加熱方法毎に設定された加熱条件に基づいて制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする歪取り装置。
【請求項6】
前記加熱条件を設定および選択する操作部が前記フレームに設けられていることを特徴とする請求項5記載の歪取り装置。
【請求項7】
前記制御装置には、板厚毎の加熱条件として、線状加熱パターンとウィービング加熱パターンが設定されていることを特徴とする請求項5または6記載の歪取り装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記線状加熱パターンとして、前記操作部で加熱軌道の始点と終点を指定することにより、線状加熱線を自動生成する構成となっていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の歪取り装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記操作部で加熱軌道の始点からのオフセット量を指定することにより、前記線状加熱線に対する他方の線状加熱線を自動生成する構成となっていることを特徴とする請求項8記載の歪取り装置。
【請求項10】
前記ウィービング加熱パターンは直線部と円弧部からなり、かつウィービング幅とウィービング長さで定義されており、前記操作部で加熱線間隔を指定することにより、前記制御装置は、ホーム基準点と対角基準点で定義される方形の範囲に前記指定された加熱線間隔で前記ウィービング加熱パターンを自動展開する構成となっていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の歪取り装置。
【請求項11】
請求項5乃至10のいずれかに記載の歪取り装置の本体部分を固定治具でワークの立板に立て掛けてなることを特徴とする歪取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−205176(P2006−205176A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16759(P2005−16759)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)