説明

歯のう蝕の予防及び治療のための組成物と方法

【課題】歯のう蝕(44)の予防と治療のための組成物及び方法を提供すること。
【解決手段】歯科用ペースト(38)は、ハイドロキシアパタイト(SiHAp)粉末を含んで
いる含むケイ酸塩、過酸化水素の水溶液とリン酸の水溶液から作られる。SiHApを含んで
いる含む歯科用ペースト(38)は、歯(15)のエナメル質(16)に塗布されて、一部のエナメル質(16)を溶解して、合成エナメル質(46)を生産するために、歯(15)のエナメル質(16)と結合する。SiHApを含んでいる含む歯科用ペースト(38)は、歯(15)の化
学的に不完全部分と結合することによって結晶化する。合成エナメル質(46)は、SiHAp
を含んでいる含む歯科用ペースト(38)で、治療の前に歯(15)のハイドロキシアパタイトとほぼ同じ化学組成と結晶構造と成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療、特に、歯のう蝕の予防及び治療のための組成物と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯に対する適切なケアや、歯の維持管理、そして修復は、世界中の人々にとって最大の関心事である。古代より、歯磨きや、フロスによる清掃、歯の定期検診などを通じて歯の維持管理をすることを、人々は教えられてきた。虫歯を予防することは歯の健康にとって重要である。
【0003】
2歳から4歳までの子供のうち20%近くが、う蝕にかかったことがあり、さらに17歳にな
るまでには、5人中約4人もの人が、う蝕病変(虫歯)もしくは修復(補修材)を少なくとも1
回は経験している。35歳から44歳までの大人のうち2/3以上が、永久歯を少なくとも1本は失っており、さらに、75歳以上の人々の約半分については、根面う蝕を患っている歯が少なくとも1本はある。(非特許文献1)
【0004】
虫歯は、口内で起こる伝染性の病変で、歯垢(口内バイオフィルム)中に存在する酸産性バクテリアの侵食によって、結果的に歯の構造が破壊される。歯のう蝕が始まるには、歯垢内に存在するミュータンスレンサ球菌の割合が比較的高い必要がある、と科学的証拠によって示されている。このバクテリアは、歯の表面にしっかりと付着し、酸を他のバクテリア種よりも多く作り出す。歯のう蝕は、ざらざらした白い部分として歯のエナメル質上に現れることが多く、その後、歯の構造を軟化させ、進行することで破壊に至る。う蝕の進行度に応じて、病変によって歯のミネラルが失われることもあれば、最終的に歯を摘出しなければならなくなることもある。このミネラルの損失は、口内に存在しているフッ化物により抑制される。フッ化物は歯の再石灰化を促進し、歯の外側により強い層を再生させるからである。
【0005】
食物に含まれるスクロースは、歯垢の濃さと化学的性質を変化させ、虫歯はこのスクロースによって引き起こされる。スクロースを高い割合で含む食物は、虫歯のリスクを上昇させる。歯垢バクテリアが単糖を含む様々な食物や飲料と接触すると、そのバクテリアは糖を代謝し、その副産物として有機酸を作る。
【0006】
その酸が唾液によって緩衝されなければ、接触している歯の組織のアパタイト結晶を溶かす。これは脱灰のプロセスとして知られている。濃いゲル状の歯垢内では、食事に含まれる糖にふれてからpHが下がるまで数秒とかからない。中性の時には、唾液中に含まれるカルシウムや、リン酸塩、フッ化物を用いて同じ結晶が再び成長し、再石灰化が起こる。脱灰が、この再石灰化を上回ったときに、う蝕病変が始まる。
【0007】
歯のう蝕は、フッ化物によって修復することができる。エナメル質や、セメント質、象牙質のミネラルは、アパタイトと呼ばれる、高度に置換の起こったカルシウムのリン酸塩である。新しく形成された歯のアパタイトは、相対的に溶解性が高く、炭酸塩を多く含み、フッ化物はあまり含んでいない。一方、フッ化物が豊富にある環境で脱灰と再石灰化が起こると、炭酸塩をあまり含んでおらず、フッ化物を多く含み、溶解性が低いアパタイトが形成される。食物や、飲料、デントリフィス(dentrifice)、口内洗浄剤、補修材などに存在するフッ化物は、歯の溶解度を低下させ、したがってう蝕のリスクを軽減させる。
【0008】
これまでの技術は、虫歯の予防に対して、満足のいく解決策にはなっていなかった。従
来の技術的装置や手法は、すでに存在しているう蝕に対して、機械的な解決策しか提供してこなかったのである。この虫歯治療のための機械的な装置や手法は、安全ではなく、長い時間に及ぶ作業を必要とし、その後も患者には影響が残ってしまう。有機レジンや、高分子、歯科用の無機セメントを用いた従来技術による治療は、う蝕の初期病変の埋め合わせをする用途にはうまく利用できない。有機レジンや、高分子、歯科用の無機セメントでは、う蝕患部を深く切削しなければ、十分な時間、う蝕を埋めておくことはできないのである。
【0009】
う蝕患部は、初期の段階では微視的なものであるため、これらの修復材を歯の上に接着させても時間の経過とともに容易にはがれてしまう。これらの修復材とエナメル質では熱膨張率が異なるために、両者は十分に接着できない。したがって、虫歯治療のためには、時間的効率の良い方法で、歯と一体化し、う蝕によってできた間隙を化学的に埋める物質を、技術的に開発する必要性が依然として存在するのである。
【0010】
Rentschは、重合可能な歯科用素材と、アパタイトの充填材をその歯科用素材に用いる
ことを公開している(特許文献1)。Rentschの素材は、透明度を調節でき、研磨性・強
度が高く、生体環境との間でイオンを放出したり吸収したりできる能力がある。しかし、Rentschの歯科用素材充填材では、歯の見た目の美しさしか解決していない。したがって
、虫歯治療のためには、歯と一体化することでう蝕を治療できる組成物と方法が、依然として技術的に必要なのである。すなわち、時間的効率の良い方法で、歯のエナメル質を完全に結晶化させることができる合成エナメル質である。
【0011】
Blackshearは、歯のう蝕や他の口内病変が形成されるのを防ぎ、口腔から糖類を除去するための手法を公開している(特許文献2)。
Blackshearの手法には、口腔衛生のための構成があり、これには炭水化物と結合するタンパク質が少なくとも一種類含まれている。これは、レクチンか他のスクロースまたはガラクトース/グルコースと結合するタンパク質であれば最も望ましい。Blackshearの手法
は、糖を除去するために用いられ、糖に関連のない虫歯の原因を防ぐのには効率的ではない。
加えて、Blackshearの手法では歯と一体化が起こらないため、治療後に起こり得るう蝕を防いだり、ハイドロキシアパタイトの合成エナメル質を作り出したりすることができない。
したがって、歯と一体化してう蝕の治療を行う組成物と方法が、依然として技術的に必要なのである。これによって、ハイドロキシアパタイトから成る合成エナメル質が生成され、あらゆるタイプの虫歯が治療でき、現存するう蝕の治療と、将来起こりうるう蝕の予防が可能になる。
【0012】
Lynchらは、酸化作用を持つ気体の発生源と、その気体を歯へと送るためのハンドピー
スを用いて、虫歯の治療を行う器具を公開している(特許文献3)。Lynchらの装置の、
ハンドピースに装着されているカップは、ガスを流入させ、う蝕を持つ歯の選んだ箇所のみに気体を当てるものであり、これを歯にはめて覆い被せるため、弾力性のある縁を有している。
このLynchらのカップは、患者の口内でガスが漏れないよう、しっかりと歯に覆い被せ
ることができないため、患者を健康被害の危険にさらしてしまう。
Lynchらの装置では、既存のう蝕を取り除けるものの、将来的に発生するう蝕を予防す
ることができず、さらに、歯のエナメル質の表面に間隙が残ってしまう。したがって、歯と一体化してう蝕を治療できる組成物と方法が、依然として技術的に必要なのである。この手法によって合成エナメル質が生成され、これにより、歯のエナメル質を含むハイドロキシアパタイト化合物の格子内にある、複数の間隙を埋めることができ、以後のう蝕の形成を予防し、う蝕治療の安全な方法となるのである。
【特許文献1】米国特許第5,952,399号
【特許文献2】米国特許第5,972,311号
【特許文献3】米国特許第6,454,566号
【非特許文献1】Glock,Martha; Horowitz,Alice M.; Canto,Maria T., compilers,Diagnosis and Management of Dental caries.Bethesda(MD): National Library of Medicine; 2001 Feb.,Current Bibliographies in Medicine (CBM),no.2001-1 (available atwww、nlm.Nih.gov/pubs/cbm/dental_caries.html).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまでの虫歯治療に関する技術的装置や手法は、安全ではなく、複雑で時間のかかる手続きが必要であり、虫歯の予防や埋め合わせに対する解決策とはなっていなかった。また、従来の技術的装置や手法では、う蝕の治療のためにエナメル質と一体化するような化学的な解決策は見いだせていない。したがって、歯と一体化してう蝕の治療を行う組成物と方法が、依然として技術的に必要なのである。これにより、歯のエナメル質を完全に結晶化させることができる合成エナメル質が生成され、既に存在するう蝕を埋め、以降のう蝕の発生を予防し、安全で、時間的効率の良い方法でう蝕を治療することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、歯のう蝕の予防及び治療のための組成物と方法である。
本発明の組成物は、歯のう蝕の予防および治療のために従来使用されてきた組成物に対し、歯の不完全部分と一体化し歯の不完全部分を結晶化させることにより歯のう蝕を置換し、歯のエナメル質と一体化した合成エナメル質を形成するという、利点を有する。
本発明は、歯のう蝕の予防及び治療を目的とした歯科用ペーストであり、これは、ハイドロアパタイトを含むケイ酸塩粉末と、過酸化水素水溶液、リン酸水溶液を含む。本発明を実現する場合には、アパタイト粉末は、カルシウム欠損型のハイドロキシアパタイト粉末と、フッ化ナトリウムを含むようにするのが望ましい。
【0015】
本発明の歯のう蝕を治療するための方法は、(a)ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を、過酸化水素水溶液ならびにリン酸水溶液と混合して調製した歯科用ペーストを、う蝕のある歯に塗布し、(b)歯と一体化しなかった余分な歯科用ペーストを、歯から洗い流す、工程からなる。工程(a)及び(b)は歯のう蝕は治療されるまで数回繰り返される。この方法は、フッ化アパタイト粉末を過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合した第2の歯科用ペーストを、う蝕を有する歯に塗布し、次いで余分な歯科用ペースト
を、歯から洗い流す、工程をされに含んでもよい。
【0016】
本発明の歯のう蝕を予防するための方法は、(a)ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を、過酸化水素水溶液ならびにリン酸水溶液と混合して調製した歯科用ペーストを、歯に塗布し、(b)歯と一体化しなかった余分な歯科用ペーストを、歯から洗い流す、工程からなる。この方法は、フッ化アパタイト粉末を過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合した第2の歯科用ペーストを、歯に塗布し、次いで余分な歯科用ペーストを、歯
から洗い流す、工程をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明の歯のう蝕を予防及び治療する歯科用ペーストを作成する方法は、リン酸−ケイ酸ナトリウム水溶液とリン酸カルシウムを混合し、リン酸−ケイ酸ナトリウム水溶液とリン酸カルシウムを混合の沈殿物を濾過し、この沈殿物を微小粒子化し、スリーブを通してハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を得る。得られたハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末は、過酸化水素水溶液ならびにリン酸水溶液と混合する。
【0018】
本発明は歯の美白方法であり、その方法は、ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉
末を、過酸化水素水溶液ならびにリン酸水溶液と混合して調製した歯科用ペーストを、歯に塗布し、歯と一体化しなかった余分な歯科用ペーストを、歯から洗い流す、工程からなる。この方法は、フッ化アパタイト粉末を過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合した第2の歯科用ペーストを、歯に塗布し、次いで余分な歯科用ペーストを、歯から洗い流す
、工程をされに含んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上で議論された利点の全てを提供することに加え、本発明の、歯のう蝕を予防し治療する組成物ならびに方法は、安全であり、効果的であり、無痛処置であり、調製が簡単であり、また治療に要する時間も少ない。これら本発明の利点は、以下の具体例で明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
添付した図を参照することによって、本発明をさらに説明する。ここでは、同じ構造は同じ番号で表されている。示した図は必ずしも寸法通りとは限らず、代わりに、本発明の方式を明らかにするために強調が加えられている。
【0021】
ここで示した図は、本発明を理想的に実施した場合について説明しているが、議論の節で説明しているように、本研究に関してその他の実施方法を用いた場合についても考察してある。ここで開示している事柄は、代表例を示すことによって本発明の実施方法を解説しているものであって、この実施方法に制限するものではない。
したがって、当業者によって考案された他の修正案や実施方法の多くが、本発明原理の範囲や精神に入る。
【0022】
本発明は、歯のう蝕を予防及び治療するための組成物と方法を提供する。本発明は、フッ素化アパタイト(FHAp)粉末と、過酸化水素水溶液、ならびにリン酸水溶液を含む歯科用ペーストを提供する。本発明を実施する場合には、フッ素化アパタイト粉末は、カルシウム欠損型のハイドロキシアパタイト粉末と、フッ化ナトリウム水溶液から調製するのが理想的である。この歯科用ペーストは、歯のエナメル質内のう蝕に塗布すると、歯のエナメル質と一体化し合成エナメル質を生成する。
本発明の他の実施例では、ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩(SiHAp)粉末と、
過酸化水素水溶液、ならびにリン酸水溶液を含む歯科用ペーストを提供する。
この歯科用ペーストは、歯において化学的に不完全な部分と一体化し、その歯の化学的に不完全な部分を結晶化してう蝕を埋める。
【0023】
う蝕を有する歯のために、本発明の歯科用ペーストは、単独で、または、組合せにおいて、歯のエナメル質のう蝕に塗布され、歯のエナメル質と一体化して合成エナメル質を形成する。エナメル質と合成エナメル質の一体化は、歯の天然エナメル質の深い所の中で生じる。合成エナメル質と歯のエナメル質の一体化は、象牙質とエナメル質の境界を越えて広がるかもしれないが、象牙質とエナメル質の境界を越えて広がるべきでない。歯科用ペーストは、歯のう蝕部を置換するために歯のエナメル質の化学的、物理的に不完全な部分を完全化する無機的な結晶化によって、歯のエナメル質の既存の化学的に不完全な部分と一体化する。健康な歯のために、本発明の歯科用ペーストは、単独で、または、組合せにおいて、歯に塗布されて、合成エナメルを形成するために歯のエナメル質と一体化して、不完全な自然のエナメル質構造を完全化する。
【0024】
図1は、歯15の垂直断面図を示している。歯15には、露出した歯冠27と歯根29が含まれる。歯冠27は通常、エナメル質16(骨に類似した固い物質から成る外層)によって、少なくとも部分的に覆われている。エナメル質16の下には象牙質17があり、これも骨に類似しているが、エナメル質ほど硬くはない物質から成る中間層である。歯冠27は、エナメル質16
、および、象牙質17のうちで、エナメル質16に近接している最も外側部分を含む。象牙質17が囲んでいるのは、その内側にある歯髄腔18であり、これには歯髄19 が含まれている
。血管と神経は、歯根29を貫通している根管20と呼ばれる管を通って、歯髄腔18 へ到達
する。歯根29は歯15の下側部分であり、根管20と、歯髄腔18の少なくとも一部分を含む。薄い被覆であるセメント質21は、歯15の歯根29を覆っている。
【0025】
エナメル質16は、石灰化した骨で、歯15の保護層として働いている。エナメル質16は、小さなエナメル質のロッド(角柱)が多数集まって構成されており、これが歯15の構造を形成している。エナメル質16は半透明であり、半透明の性質の差や、結晶構造の質、エナメル質16 の表面のステインによって、黄色味のかかった色から灰色がかった白色まで変色
する。エナメル質16は、約96%の無機質と、約1%の有機質、そして約3%の水から成る。エ
ナメル質を構成する主な無機質は、ハイドロキシアパタイトとしてのカルシウムとリンである。
【0026】
象牙質17は、淡黄色で多孔性の物質であり、エナメル質16よりも放射線透過性が高い。象牙質17は歯15の最も多くの部分を占めており、骨よりも硬いが、エナメル質16よりも柔らかい。象牙質17は、温度や痛みといった感覚を歯髄19へと伝える。象牙質17は、約70%
の無機質と残り約30%の有機質と水から成る。象牙質を構成する主な無機質は、ハイドロ
キシアパタイトとしてのカルシウムとリンである。
【0027】
歯髄19は歯15中で唯一の軟組織で、これによって歯15が生きた組織となっている。歯髄19には血管や神経、および他の細胞が含まれており、歯15に栄養を供給する。また、歯髄にある神経終末は、痛みや温度などの感覚を伝える。歯髄19が刺激に反応すると、修復象牙質を生成するか、もしくは炎症が起きる。
【0028】
セメント質21は、骨に似た組織で、象牙質17よりも少し淡い淡黄色をしている。セメント質21は、約55%の有機質と約45%の無機質で構成されており、主にカルシウム塩が無機質を構成している。
【0029】
図2は、う蝕44を有する歯15の上面図を示しており、う蝕44は歯15のエナメル質16のおよそ中心部にある線で示されている。図2は、本発明のFHApを含む歯科用ペースト36によって治療する前の歯15の上面を示すものである。う蝕44は、虫歯としても知られており、歯15のうちの腐食を受けた柔らかい部分であり、エナメル質16から象牙質17まで、果ては歯15の歯髄19にまで進行する可能性がある。口内に存在するバクテリアは、全ての食物、特にその中でも糖類やデンプンを、酸へと変換する。バクテリアや、酸、食物のかす、そして唾液が口内で合わさって、プラークと呼ばれる粘着性の物質を作り、それが歯に付着する。歯15から除去されなかったプラークは、石灰化して結石や歯石となる。プラークや結石は歯肉を刺激し、歯肉炎や、最終的には歯周炎を引き起こす。プラーク中の酸は、エナメル質16を少なくとも部分的に溶かし、う蝕44を作り上げる。
【0030】
図3には、歯15の上面が示してある。これは、本発明のFHApを含む歯科用ペースト36を塗布することでう蝕44を治療した後であり、ペーストが歯15のエナメル質16と一体化し合成エナメル質46を形成している。図3に示されているように、図2の歯の中央部に線で示してあったう蝕44 が除去され、合成エナメル質46で置き換えられている。
【0031】
本発明も、歯のう蝕44の治療に類似した方法で、歯のう蝕44の形成を予防することができる。歯のう蝕44の治療と歯のう蝕44の形成を防ぐための化学とメカニズムは類似する。本発明の1つの実施例では、健康な歯15のために、FHApを含む歯科用ペースト36は、歯に
塗布され、合成エナメル質46を形成するために歯15のエナメル質と一体化して、不完全な自然のエナメル構造を完全化する。本発明のもう一つの実施例では、SiHApを含む歯科用
ペースト38は、歯に塗布され、合成エナメル46を形成するために歯15のエナメル質と一体化して、不完全な自然のエナメル構造を完全化する。本発明のもう一つの実施例では、FHApを含む歯科用ペースト36とSiHApを含む歯科用ペースト38が歯に塗布され、歯15のエナ
メル質と一体化し合成エナメル46を形成して、不完全な自然のエナメル構造を完全化する。
【0032】
図2と図3は、歯のう蝕44の形成の防止を論じるのに用いることができる。不完全なエナメル構造を有する歯15は、歯のう蝕44に侵されやすい。健康な歯15におけるう蝕44の形成は、健康な歯15がう蝕44の感染性を持ち、適切に処理されないと、う蝕の形成に進むというプロセスを必要とする。本発明の歯科用ペーストは、単独で、または、組合せて、合成エナメル質46を形成するために歯15の不完全なエナメル構造と一体化して、歯のう蝕44の形成を防ぐために、物理的、化学的に、歯15のエナメル構造を完全化する。一体化の範囲は、歯15の天然エナメル質16の深さによって支配される。歯科用ペーストは、歯のう蝕44の形成を防ぐために、エナメル質16のアパタイトを完全化する。
【0033】
本発明を実施する場合には、歯科用ペースト36は、フッ素化したアパタイト粉末と、過酸化水素水水溶液、そしてリン酸水溶液を含むのが望ましい。本発明を実施する場合には、フッ素化したアパタイト粉末は、リン酸カルシウムとフッ化ナトリウムを含むのが望ましい。本発明におけるリン酸カルシウム、特にハイドロキシアパタイトは、生理化学的な特性をエナメル16のそれらと類似していることが望ましい。本発明では、リン酸カルシウムは、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末を含むものであり、本発明を実施する場合には、リン酸カルシウムは、ハイドロキシアパタイトとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末であることが望ましい。また、本発明の他の実施方法として、リン酸カルシウムのカルシウムは、ストロンチウム、バリウム、カドミウム、鉛、ナトリウム、カリウムなどで部分的に置換してもよい。う蝕44を予防し治療するための歯科用ペースト36の調製は、いくつかのステップから成る。
【0034】
ハイドロキシアパタイトは、いろいろな化学組成でリン酸カルシウム化合物を含む。本発明の1つの実施例では、化学組成はCa10(PO(OH)である。本発明のも
う一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトは約0.5から約1.67の範囲のリンに対するカルシウムモル比のカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトである。本発明のもう一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトは約1.67より大きいリンに対するカルシウムモル比のカルシウム過剰ハイドロキシアパタイトである。本発明のもう一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトはPO3−及び/又はOHイオンの全体か一部がCO2−イオンによって置換され、炭酸塩化されたアパタイトである。本発明のもう一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトは、OHイオンの全部または一部がF及び/又はClによって置換されたフッ化および塩化ハイドロキシアパタイトである。本発明のもう一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトは、カルシウム(Ca)イオンの一部がマグネシウム、亜鉛、ストロンチウムその他の金属によって置換された陽イオン置換ハイドロキシアパタイトである。本発明のもう一つの実施例では、ハイドロキシアパタイトは、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイトと塩化アパタイトの組合せである。
【0035】
本発明のもう一つの実施例では、フッ化アパタイト粉末は、ハイドロキシアパタイトと他の熱力学的に準安定リン酸カルシウムから成る。特にハイドロキシアパタイトが共存するとき、熱力学的に準安定材料は、溶液状、またはペーストの如くジェル状のような湿潤状態の下では、経時的にハイドロキシアパタイトに変化する。本発明の1つの実施例では
、熱力学的に準安定リン酸カルシウムは、Ca(POnHOの化学組成で表されるアモルファスリン酸カルシウムである。本発明のもう一つの実施例では、熱力学的に準安定リン酸カルシウムは、リン酸8カルシウム(Ca(HPO4)*5HO)、リ
ン酸2カルシウム2水塩(CaHPO*2HO)、リン酸2カルシウム無水塩(CaHPO)、α及びβ相を含むリン酸3カルシウム塩(whitlockite)(Ca(PO
2)、β−Ca(PO、リン酸4カルシウム塩(Ca(POO)、リ
ン酸モノカルシウム1水塩(Ca(HPO* HO)、及びリン酸モノカルシ
ウム無水塩(Ca(HPO)からなるグループから選ばれる。
当業者は、本発明の精神および範囲の中で当該技術分野において既知の他の熱力学的に準安定リン酸カルシウムがあることが理解できる。
本発明を実施する場合には、理想的には、約1gのカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末(カルシウム/リン比(Ca/P)が約1.66)(日本の宇部マテリアルズ株式会社から入手可能)を、濃度約200mMのフッ化ナトリウム約100mlと混合する。このカルシウム
欠損型ハイドロキシアパタイト粉末とフッ化ナトリウムとの混合物を、60℃で約1時間攪
拌した後濾過し、この混合物の沈殿物を得る。
【0036】
本発明を実施する場合には、このカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末とフッ化ナトリウムとの混合物は、バイオシェーカーを用いて攪拌するのが望ましい。
得られた沈殿物は続いて、水で洗浄し、約110℃〜約170℃で24時間乾燥させ、これによってフッ素化アパタイトの粉末が得られる。
【0037】
本発明を実施する場合には、フッ素化したアパタイト粉末は、フッ素によって処理されたカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末であることが望ましい。フッ素化したアパタイト粉末を生成する過程においては、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末(Ca10(PO(OH)のOHを、安定性のためFによって置換し、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末を、安定なフッ素化アパタイト粉末(Ca10(PO)に変化させる。フッ素化アパタイト粉末中のフッ素含有量は、0.01〜1.0重量パーセント(w/w%)ほどである。フッ素化アパタイト粉末は、粉砕し、100 meshの
スリーブ(目の隙間約150ミクロン)に通す。約35%の過酸化水素水溶液と、約85%のリン酸
水溶液との混合物を、約2ml、フッ素化アパタイト粉末約1.5gに加えて攪拌し、本発明の歯科用ペースト36を調製する。当技術分野で知られている様々な水溶液や粉末を、本発明と共に用いることができること、ならびに、水溶液や粉末の量や濃度を変更すること、調製の際に当技術分野で知られている他の条件を使用することは、本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0038】
歯科用ペースト36を調製するために使用するリン酸としては、メタリン酸、ピロリン酸、正リン酸、三リン酸が使用でき、またこれらに限定されるものではない。本発明を実現する場合には、FHApを含む歯科用ペースト36に含まれるリン酸の含有量は1.0から20重量パーセント(w/w%)の間であるのが望ましい。当技術分野で知られている他の酸でも、本発明において使用できるが、それは本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0039】
FHApを含む歯科用ペースト36は、攪拌した後、歯15のエナメル質16に塗布し、そこでエナメル質16と一体化する。エナメル質16と一体化する際に、FHApを含む歯科用ペースト36は、エナメル質16を含むハイドロキシアパタイト化合物の、格子中にある多数の間隙を埋める。歯のエナメル質16のうちの不完全な部分で、FHApを含む歯科用ペースト36は結晶化する。FHApを含む歯科用ペースト36は、時間が経つにつれ活性が徐々に低下するため、本発明を実施する場合には、FHApを含む歯科用ペースト36を作るための材料は、使用の前に混合することが望ましい。エナメル質16にFHApを含む歯科用ペースト36を塗布して約15
分が経過した後、エナメル質16と一体化しなかった余分なFHApを含む歯科用ペースト36は、洗浄媒体を用いて歯15から洗い流すことで取り除く。本発明を実施する場合には、その洗浄媒体は純水であることが望ましい。歯科用ペーストを歯の上に留めておく時間の長さはさまざまに変えられるが、それは本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解
するであろう。
【0040】
FHApを含む歯科用ペースト36は、塗布すると、歯15のエナメル質16のうちの一部を溶かす。歯科用ペースト36は、過酸化水素水とリン酸の水溶液を加えたことにより、約1-2のpHを持つ強酸を含む。FHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16をミクロレベルで溶か
し、これによってエナメル質16の内部に一体化することができる。FHApを含む歯科用ペースト36は、一定の時間が経過した後に取り除かれ、一定の量のエナメル質16を溶かし、FHApを含む歯科用ペースト36が一体化することによって合成エナメル質46が生成される。
【0041】
本発明を実施する場合には、FHApを含む歯科用ペースト36は歯15のエナメル質16に複数回塗布するのが望ましい。歯15へFHApを含む歯科用ペースト36を塗布する度に、合成エナメル質46の厚さが増し、これによって歯15のエナメル質16内へのFHApを含む歯科用ペースト36の一体化がさらに進むことになる。歯15へのFHApを含む歯科用ペースト36の一回の塗布が終わるごとに、余分の歯科用ペースト36は洗浄媒体を用いて歯15から洗い流すことで取り除く。本発明の実施例では、高速及び/又は低速のハンドピースがFHApを含む歯科用ペーストを歯に塗布するのに使用される。FHApを含む歯科用ペーストを歯に塗布するのは何回でもよく、これは本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。当技術分野で知られている多くの方法によって、この歯科用ペーストを歯から取り除くことができるが、これらの方法も本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0042】
歯のう蝕44の形成に対する感染性を示している歯のために、FHApを含む歯科用ペースト36は、合成エナメル46を形成するために、不完全なエナメル構造と一体化する。物理的、化学的にFHApを含む歯科用ペースト36は歯15のエナメル構造を完全化する。そして、歯のう蝕44が形成するのを防ぐためにエナメル16のアパタイトを完全化する。
【0043】
本発明のFHApを含む歯科用ペースト36は、う蝕44を治療し、合成エナメル質46で置き換えた。本発明を実施する場合には、FHApを含む歯科用ペースト36は歯15内に新たなう蝕44が生成するのを防止するためにも使うことができる。この歯科用ペーストは、まだう蝕の無い状態から歯の奥深くまで進行している状態まで、様々な段階のう蝕を治療するのに使うことができ、これらも本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0044】
本発明を実施する場合には、FHApを含む歯科用ペースト36は、歯15のエナメル質16に存在しているう蝕44の治療に対して使用されるのが望ましい。また、本発明の他の実施法としては、歯15の象牙質17まで進行したう蝕44の治療に歯科用ペースト36を使用しても良い。さらに、歯科用ペースト36はセメントとしても用いることができる。歯科用ペースト36は、歯の様々な部位まで進行したう蝕の治療にも用いることができるが、これらも本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0045】
本発明を実施する場合には、歯科用ペースト36に加え、ケイ酸化したアパタイトペーストを歯15に塗布し、う蝕44の治療を強化することができる。本発明のひとつの実施法として、このケイ酸化したアパタイトペーストを、歯科用ペースト36を塗布した後に塗布するという方法がある。また、もうひとつの実施法としては、このケイ酸化したアパタイトペーストを、歯科用ペースト36を塗布する前に塗布するという方法がある。ケイ酸化したアパタイトペーストは、う蝕44の治療を強化し、う蝕44が置き換わるのを促進する手助けをする。ケイ酸化したアパタイトの調製は、いくつかのステップから成る。
【0046】
ケイ酸化したアパタイトのペーストは、リン酸(日本の関東化学株式会社より入手可能)とケイ酸ナトリウム(日本の関東化学株式会社より入手可能)を、水酸化カルシウム(CSH)(
日本の宇部マテリアルズ株式会社より入手可能)の懸濁液に混合し、ハイドロキシアパタ
イトのPO3−イオンをSiO2−イオンで置き換えることで調製する。約35%の過酸
化水素水溶液と、約85%のリン酸水溶液を混合したものを約2ml分、リン酸と、ケイ酸ナトリウム、水酸化カルシウム懸濁液の混合物約1.5gに加えて混合すると、ケイ酸化したア
パタイトのペーストが得られる。このケイ酸化アパタイトペーストは、歯15に塗布すると、歯15のエナメル質16 に一体化する。約10分後、エナメル質16と一体化しなかった余分
なケイ酸化アパタイトは、純水を使って洗い流す。この発明を実施する場合には、ケイ酸化したペーストを、歯に何度も塗布してもよい。当技術分野で知られている他のペーストも歯に塗布できるが、それは本発明の範囲と精神に入るということを当業者は理解するであろう。
【0047】
図4Aの走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、歯15の研磨した断面図の一部を示しており、
これは本発明のFHApを含む歯科用ペースト36を塗布した後である。ここには合成エナメル質46が含まれている。図4Aは、FHApを含む歯科用ペースト36を塗布した後であり、歯15の最も外側の部分を拡大したものである。図4Aに示した本発明の実現方式では、合成エナメル質46と、エナメル質16、象牙質17、そして歯髄19が示されている。FHApを含む歯科用ペースト36を少なくとも1回塗布すると、FHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16
と一体化し、合成エナメル質46を形成する。図4Aに示した本発明の実現方式では、FHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16と強く一体化し、塗布した歯科用ペースト36とエナメル質16との間には境界が残っていない。
図4Aには、数本の矢印が指し示している線があるが、これは合成エナメル質46と象牙質17との境界を示している。
【0048】
図4Bは、歯15の研磨した断面を後方散乱電子顕微鏡で撮影した画像であり、これは本発明のFHApを含む歯科用ペースト36を塗布した後である。ここには、合成エナメル質46も含まれている。図4Bは、図4Aと同じ歯15の同じ部分を撮影したものであるが、後方散乱技術を用いることで、合成エナメル質46とエナメル質16 との間に境界が無いことがよ
りはっきりと分かるようになっている。
【0049】
図4Bに示した本発明の実現方法では、後方散乱電子顕微鏡画像を見ると、まるで歯15の研磨した断面が単一の物質で構成されているように写されていることが分かる。このように、歯15の研磨した断面が単一の物質で構成されていることが分かったため、この後方散乱電子顕微鏡画像によって、FHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16と強く一体化し、合成エナメル質46を形成しているということが確認された。加えて、塗布したFHApを含む歯科用ペースト36とエナメル質16との間に境界が無いため、図4Bから、一体化したFHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16と類似した化学組成を有していることが分かる。
【0050】
図4Cは、研磨した歯15の一部分の内部構造を走査型電子顕微鏡で撮影した2枚目の画像であり、これは本発明のFHApを含む歯科用ペースト36を塗布した後である。
ここには、合成エナメル質46が含まれている。図4Cに示した本発明の実現方法では、合成エナメル質46の厚さは約30〜50ミクロンである。前にも論じたように、FHApを含む歯科用ペースト36を歯15に塗布する回数などの様々な要因によって、合成エナメル質46の厚さは影響を受ける。図4Cに示したように、FHApを含む歯科用ペースト36はエナメル質16と一体化し、合成エナメル質46を生成する。これは網目状の構造として示されている。
【0051】
図4Dは、本発明のFHApを含む歯科用ペースト36を塗布した後の、合成エナメル質46の走査型電子顕微鏡による高倍率画像を示している。図4Cに示してあるように、合成エナメル質46は多数のミクロンレベルの柱状結晶25で構成されている。
多数の柱状結晶25は、歯15の表面とは平行に並んでおらず、表面に対しておおよそ垂直
となっている。合成エナメル質46を構成する多数の柱状結晶25の構造と向きの配置は、歯15のエナメル質16を構成する棒状または角柱状エナメルの構造と向きの配置とほぼ同じである。
【0052】
歯15のエナメル質16に、FHApを含む歯科用ペースト36が一体化することによって、エナメル質16を構成するハイドロキシアパタイト化合物の格子内にある、多数の間隙が埋められる。FHApを含む歯科用ペースト36は、歯15の化学的に不完全な部分に一体化し、歯15の化学的に不完全な部分を結晶化させる。FHApを含む歯科用ペースト36が一体化することによって、図4Dに示されているような、柱状結晶25の形態が作られる。エナメル質16の多数のハイドロキシアパタイト結晶は、FHApを含む歯科用ペースト36がエナメル質16に一体化してできたものである。FHApを含む歯科用ペースト36で治療を施さなかった歯15のエナメル質16にあるハイドロキシアパタイトと、化学組成および結晶の構造を比較した場合、図4Bと図4Dに示した合成エナメル質46の化学組成と結晶の構造は、本発明で治療を施す前の未治療の歯15の化学組成および結晶の構造とほぼ同じである。加えて、歯科用ペースト36がエナメル質16に結晶化することによって、FHApを含む歯科用ペースト36とエナメル質16との間になめらかな境界が作られる。
【0053】
図5Aは、本発明の合成エナメル質46に対する広範囲走査型X線光電子分光(XPS)スペクトルを示している。図5Aは、結合エネルギーに対する強度のグラフを示している。FHApを含む歯科用ペースト36で治療していない歯15の、エナメル質16に対するXPSスペクトル
と比較した場合、図5Aに示されている合成エナメル質46に対応する様々な強度ピークは、本発明によって治療を行う前の歯15のエナメル質16に対するXPSスペクトルに見られる
ピークと、おおよそ一致する。
【0054】
合成エナメル質46の、Fと、Ca2s、Ca2p3、P2s、そしてP2pに対応する強度ピークが図5Aに現れており、本発明で治療する前の歯15のエナメル質16に現れるF
、 Ca2s、Ca2p3、P2s、そしてP2pの強度ピークと一致している。合成エ
ナメル質46は、エナメル質16中に存在するCa2+、 P5+、 Fイオンと本質的に同じCa2+、 P5+、 Fイオンから構成されている。さらに、合成エナメル質46中のFイオンの量は、エナメル質16中のFイオンの量とおおよそ同じである。本発明の合成エナメル質46のCa/P原子比は1.58であり、エナメル質のCa/Pは1.64である。
【0055】
図5Bは、本発明の合成エナメル質に対するX線回折(XRD)パターンを示している。本発明で治療する前の歯15のエナメル質16に対するXRDパターンと比較すると、図5Bに示し
た合成エナメル質46に対応する検出されたピークは、本発明で治療する前の歯15のエナメル質16に対するXRDパターンとおよそ一致している。尖鋭で強い002反射は、合成エナメル質46が、[0001]方向に配列した単一の結晶で成り立っているということを示している。
アパタイトの結晶は、(0001)結晶学的な面(別名c-面)と(1010)面(別名a-面)に囲まれている。(1010)面が結晶の側面と一致するので、(0001)面がアパタイトクリスタルの基礎表面と一致し、 [0001]方向に配置される単結晶は、ほぼ(0001)面に対して垂
直な方向にある。
【0056】
図6A−6Cは、本発明のFHApを含む歯科用ペースト36が、エナメル質16と一体化しているところ、ならびに、フッ素による処理を行ったハイドロキシアパタイト結晶が[0001]方向に向かってどのように成長するかを示したものである。図6Aは、歯15のエナメル質16の表面を磨いたものを原子間力顕微鏡(AFM)で撮影した画像であり、これは本発明のFHApを含む歯科用ペースト36で治療する前である。図6Aには、表面を磨いたことによって
できた、細長い多数の線が写し出されている。
【0057】
図6Bは、歯15の磨いた表面のAFM画像であり、これはFHApを含む歯科用ペースト36を
エナメル質16に約1分間塗布し、その後洗浄媒体を用いて歯15から歯科用ペースト36を洗
い流した後のものである。図6Bには、FHApを含む歯科用ペースト36がエナメル質16の一部を溶解し、FHApを含む歯科用ペースト36がエナメル質16に対して部分的に一体化しているという中間段階が示してある。図6Cは、歯15を磨いた表面のAFM画像であり、これは
約15分間治療を行い、続いてFHApを含む歯科用ペースト36を洗浄媒体を用いて歯15から洗い流した後のものである。図6Cに示されているように、歯15の表面は約30〜50nmの直径を持つ粒子で覆われている。図4C−4DのSEM画像と照らし合わせると、図6Cの粒子
は、図4Dの柱状結晶25の上部であるということがわかる。
【0058】
本発明のもう一つの実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、歯のう蝕44の防止
と治療を強化するためにFHApを含む歯科用ペースト36に、単独で、または、加えて、歯15に塗布される。本発明の1つの実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、FHApを含む歯科用ペースト36の使用の後、塗布される。本発明のもう一つの実施例では、SiHApを含
む歯科用ペースト38は、FHApを含む歯科用ペースト36の使用の前に塗布される。SiHApを
含む歯科用ペースト38は、歯のう蝕44の治療を強化することができ、歯のう蝕44の置換を促進するのを助ける。SiHAp粉末は、FHApを含む歯科用ペースト36の使用の前に、または
、その後、歯に塗布してもよい。FHApを含む歯科用ペースト36の使用の後、歯にSiHAp粉
末を塗布することによって、合成エナメル質の厚みは増え、そして、歯の外見は、より強い光沢、輝きと磨き性(polishability)の点で改善される。当業者は、本発明の精神お
よび範囲内で、両方の歯科用ペーストの歯への適用のいくつかを理解するであろう。当業者は、本発明の精神および範囲内で、歯科用ペーストが当該技術分野で知られた様々な方法で、歯15から除去されることができることを理解できるであろう。
【0059】
SiHApを含む歯科用ペースト38の調製は、数工程から成る。ハイドロキシアパタイト(SiHAp)を含むケイ酸塩粉末の形成では、試料は湿式プロセスを用いて合成される。リン酸−ケイ酸ナトリウム(両方とも関東Pure Chemicals社(日本)から入手可能)の混合溶液は、総濃度が約0.3 mol.dm−3のPO3−とSiO4−を準備し、約0.5 mol.dm−3のCa2+イオン(日本の宇部マテリアルズ株式会社から入手可能)を含む水酸化カルシウムCa(OH)のスラリーに加える。ケイ酸ナトリウムは、ハイドロキシアパタイトペーストを含むケイ酸塩の粘度を減少させる。試料の組成は、合成温度を変えることによって制御すれることができ、そして、微量元素の含量は、Ca(OH)の純度を選ぶことによって制御できる。さらにまた、試料中のリン酸塩イオンとケイ酸塩イオンのモル比率(Si/P比率)は、リン酸ケイ酸ナトリウムの混合溶液中でSi/P比率を選ぶことによって制御できる。Si/Pのモル比率は、およそ0.11からおよそ0.43まで変動し得る。合成温度は、約5から40℃まで変動し得る。ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を
形成する方法は、公知の技術、例えば、オカダとスズキ「ヒドロキシアパタイト粉を含むケイ酸塩」、2001、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan,、8:118-124、で知られており、ここで参照されるすべてが、ここに取り入れられる。過酸化水素
の約35%の水溶液とリン酸の約85%の水溶液の混合液の約2mlは、リン酸、ケイ酸ナトリウ
ムと水酸化カルシウム懸濁液の混合液約1.5gに添加され、本発明のSiHApを含む歯科用ペースト38が調製される。当業者は、本技術分野で知られている種々の水溶液と粉末が本発明に使用でき、本技術分野で知られている他の処理条件加えて水溶液及び粉末の他の量及び濃度は本発明の精神および範囲内に含まれる
【0060】
SiHApを含む歯科用ペースト38が混ぜられたあと、SiHApを含む歯科用ペースト38は、SiHApを含む歯科用ペースト38がエナメル質16と一体化する歯15に塗布される。一体化の範
囲は、歯15の天然エナメル質16の深さによって支配される。エナメル質16と一体化する際に、SiHApを含む歯科用ペースト38は、エナメル質16から成るハイドロキシアパタイト合
成物の格子の多数の空隙を埋める。SiHApを含む歯科用ペースト38は歯のエナメル質16の
化学的に不完全な部分で結晶化する。そして、合成エナメル質46のケイ酸塩アパタイトの
結晶を形成する。本発明の好ましい実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38の活性が
段階的に減少するので、SiHApを含む歯科用ペースト38を調製するのに用いられる成分は
使用の前に混合される。エナメル質16へのSiHApを含む歯科用ペースト38の適用のおよそ10分後に、エナメル16と一体化しなかったSiHApを含む余分な歯科用ペースト38は、洗浄媒体で歯15を洗うことによって除去する。本発明の好ましい実施例では、洗浄媒体は純水である。当業者であれば、歯科用ペーストが、本発明の精神および範囲内でいろいろな長さの時間で歯にとどめることができることは、理解できるであろう。
【0061】
本発明の好ましい実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、何回も歯15のエナメ
ル質16に塗布される。本発明の好ましい実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、
およそ2回からおよそ6回まで歯15のエナメル質16に塗布さらる。本発明のもう一つの好ましい実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、3回、歯15のエナメル質16に塗布される。歯15に対するSiHApを含む歯科用ペースト38の各々の使用は、合成エナメル46の厚み
を増やす。そして、歯15のエナメル質16にSiHApを含む歯科用ペースト38のさらなる一体
化が図られる。歯15にSiHApを含む歯科用ペースト38の各々の使用の後、SiHApを含む余分な歯科用ペースト38は、洗浄媒体で歯15を洗うことによって除去する。本発明の他の実施例では、高速及び/又は低速ハンドピースが、SiHApを含む歯科用ペースト38の塗布に加
えて使われる。当業者であれば、いくつかの歯への歯科用ペーストの塗布が本発明の精神および範囲内にあることが理解できよう。また、当業者であれば、SiHApを含む歯科用ペ
ースト38が本技術分野で知られた種々の方法で歯15から除去されることが、本発明の精神および範囲内であることを理解できるであろう。
【0062】
歯のう蝕44の形成に対する感染性を示している歯のために、SiHApを含む歯科用ペース
ト38は、合成エナメル46を形成するために、不完全なエナメル構造と一体化する。物理的、化学的にSiHApを含む歯科用ペースト38は、歯15のエナメル構造を完全化する。そして
、歯のう蝕44が形成するのを防ぐためにエナメル質16のアパタイトを完全化する。
【0063】
本発明のSiHApを含む歯科用ペースト38は、歯のう蝕44を処理し、歯のう蝕44を合成エ
ナメル46と置換する。当業者であれば、SiHApを含む歯科用ペースト38が、歯のう蝕44が
ない段階から歯のう蝕44が歯15の深くまで進んだ段階までの種々のいろいろな段階において、歯のう蝕44を治療するのに、発明の精神および範囲内で用いられることができることは理解できよう。
【0064】
歯のう蝕44を有している歯のために、SiHApを含む歯科用ペースト38は、歯15のエナメ
ル質16の中に存在している歯のう蝕44を治療するのに用いられる。本発明のもう一つの実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38は、歯15の象牙質17に進んだ歯のう蝕44を治療
するのに用いられる。本発明のもう一つの実施例では、SiHApを含む歯科用ペースト38を
、セメントとして使うことができる。当業者であれば、SiHApを含む歯科用ペースト38が
歯15のいろいろな部分に進行して、本発明の精神および範囲内で歯のう蝕44を治療するのに用いられることが理解できるであろう。
【0065】
図7Aは、合成エナメル質46(本発明のSiHApを含む歯科用ペースト38の使用後の歯15
)を含む一部の磨かれた横断面の低倍率(40×)の電子顕微鏡撮像画面を表す。図7Aに示される具体例では、合成エナメル質46、エナメル質16と象牙質17、が示されている。SiHApを含む歯科用ペースト38の少なくとも1回の使用後、SiHApを含む歯科用ペースト38は
、合成エナメル46を形成するようにエナメル16と一体化する。歯15のエナメル質16へのSiHApを含む歯科用ペースト38の一体化が、エナメル質16を構成するハイドロキシアパタイ
ト化合物の格子の、多数の空隙を埋める。SiHApを含む歯科用ペースト38は、歯15の化学
的に不完全な部分を結晶化させるように、歯15の化学的に不完全な部分と一体化する。移行ゾーン50は、合成エナメル質46がエナメル質16と一体化するゾーンとして示される。淡
い灰色がより濃い灰色と交差する箇所として、移行ゾーン50が示される。
【0066】
図7Bは、本発明のSiHApを含む歯科用ペースト38の使用の後、合成エナメル質46の高
倍率(500×)の電子顕微鏡撮像画面を示す。SiHApを含む歯科用ペースト38の一体化の結果、柱状結晶25形態となる。エナメル質16の複数のハイドロキシアパタイトの結晶は、エナメル質16でSiHApを含む歯科用ペースト38の一体化の結果である。エナメル質16に対す
るSiHApを含む歯科用ペースト38の結晶化は、SiHApを含む歯科用ペースト38とエナメル質16とのスムーズな対比を提供する。移行ゾーン50は、合成エナメル質46がエナメル質16と一体化するゾーンとして示される。淡い灰色がより濃い灰色と交差する箇所として、移行ゾーン50は示される。
【0067】
図8は、合成エナメル質46(本発明のFHApを含む歯科用ペースト36の使用後の歯15)を含む一部の磨かれた横断面の走査電子顕微鏡撮像画面を示す。図8で示される具体例では、合成エナメル質46、エナメル質16と象牙質17が、示される。FHApを含む歯科用ペースト36の少なくとも1回の使用後、FHApを含む歯科用ペースト36は、合成エナメル46を形成す
るように、エナメル質16と一体化する。図8で示される本発明の実施例では、FHApを含む歯科用ペースト36は、エナメル質16と合成エナメル質46との対照の欠如によって示されるように、エナメル質16と強く一体化される。移行ゾーン50は、合成エナメル質46がエナメル質16と一体化するゾーンとして示される。淡い灰色がより濃い灰色と交差する箇所で、移行ゾーン50が示される。
【0068】
図7Aと図7Bを図8と比較すると、歯15にSiHApを含む歯科用ペースト38の適用がFHApを含む歯科用ペースト36の使用と比較して合成エナメル46の結晶化が増加する結果とな
っていることは明白である。
【0069】
いかなる特定の理論にでも限られることなく、SiHApを含む歯科用ペースト38の使用後
の合成エナメル質46の結晶化の増加は、部分的には、FHAp分子と比較してSiHAp分子のほ
うが、より大きな寸法であることによる。SiHAp分子のより大きな寸法は、適用の回数が
同じであれば、FHApを含む歯科用ペースト36と比較してSiHApを含む歯科用ペースト38の
厚みが増加する結果となる。このように、歯科用ペーストのより少しの層が希望されるならば、人はSiHApを含む歯科用ペースト38を使わなければならない。SiHApを含む歯科用ペースト38は、とりわけ、FHApを含む歯科用ペースト36と比較して、より良い磨き性(すなわち歯のツールで研磨した後のより良い表面仕上げ)と粘性(それは、歯科用ペーストの湿潤性に影響を及ぼす)の増加を提供する。
【0070】
図9A−Eは、本発明のFHApを含む歯科用ペースト36の使用後の薄い歯部の走査電子顕微鏡撮像画面を示す。図9Aは、合成エナメル質46(図9Aの中のR)とエナメル質16(
図9A中のE)を含む歯15の低倍率画像である。移行ゾーン50は矢印と点線で示し、合成
エナメル質46とエナメル質16(スケール線は、5μm)の間の移行ゾーンである。図9Bは、歯15の合成エナメル質46の拡大画像を示す。合成エナメル質46は、同じ方位(スケール線は、100nm)に配置される細長い柱の結晶25から成る。観察されたゾーンの電子回折パ
ターンは、図9Bの右下に重畳されている。図9Cは、エナメル質16ゾーンの拡大画像(スケール線は、100nm)を示す。観察された地域の電子回折パターンは、9C、図の左
下角に重畳されている。
【0071】
図9Dは、合成エナメル質46と歯15のエナメル質16の間の交差するあたりの拡大画像である。すなわち、図9D(25が連続的に発達する柱状結晶)で示すように(スケール線は、100nm)不連続な境界線が観察されない。柱状結晶の連続成長は、合成エナメル質46と
エナメル質16のより良い一体化につながる。図9Eは、歯15(スケール線は、1nm)の合
成エナメル質46の結晶構造を示す高解像度画像である。ナノメートルスケールでの結晶格
子周期は、図9E(0.817nmと0.688nm)で示すように観察された。図9E中の矢印は、結晶の細長い方向を示す。
【0072】
当業者であれば、フッ化アパタイト(FHAp)及びハイドロキシアパタイト(SiHAp)を
含むケイ酸塩以外のアパタイト粉末が、本発明の組成物及び方法で使われることができることが理解できるであろう。本発明の作品で使われるアパタイトの一般的な化学式はA10(BOである。ここで、Aはカルシウム(Ca)、Bはリン酸塩(P)、Cはフッ素、塩素または水酸基(F,Cl,OH)である。F、ClとOHイオンはアパタイトの結晶格子で自由に置換することができ、そして、若干の例がいずれか一種が100%に近いことがあったとしても、三種のすべては通常あらゆる例で存在する。たとえば、本発明の歯科用ペーストで使ったフッ化アパタイト(FHAp)粉末では、Ca10(POの化学式が存在する。この場合、Cはフッ素である。本発明の歯科用ペーストで使ったハイドロキシアパ
タイト(SiHAp)を含むケイ酸塩粉末の場合には、Cが水酸基である。そして、ハイドロキシアパタイトの中のPO3−イオンが部分的にSiO4−イオンに置換されたCa10(POSi)OHの化学式がある。
【0073】
三次元空間では、6つの結晶系で分けられる14の異なる格子が、造られるかもしれない
。フランスの結晶学者A・ブラベによって確立されているように、これらは等軸晶形であるものまたは立方晶形、正方晶形、斜方晶形、単斜晶形、三方晶形、六方晶形である。アパタイトミネラルは、ブラベ格子の六方晶形の結晶系に属する。六方晶形の結晶系の鉱物は、120°で交差する3本の結晶軸と他の3つに対して垂直である4番目の軸に特徴付けられる。この4本目の軸は、通常垂直に表される。六方晶形の分割の全ての結晶は、回転の
一つの6倍の軸を占有する。回転の一つの6倍の軸に加えて、六角形の分割の結晶は、回転の最高6本の2倍の軸を占有するかもしれない。六方晶形の分割の結晶は、逆転左右対称と最高7台の鏡面の中心を示すかもしれない。当業者であれば、上記の基準を満たすどんな
アパタイト粉末でも本発明の精神および範囲で組成物と方法で使われることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の他の実施例では、本発明の歯科用ペースト組成物は、歯科医業の分野内で、そして、それ以外の種々の分野で使用することができる。たとえば、歯科用ペースト組成物が、歯列矯正、口腔外科、歯周病学、歯内治療学、手術/補修歯科医業、歯科補綴学的歯科医業、予防的な歯科医業、インプラント、カラムクロマトグラフィー、ピエゾ電気材料と半導体の分野に適用することができる。
【0075】
歯列矯正学の分野では、歯科用ペースト組成物は、戦略的な抜歯、例えば、小臼歯の摘出のためのスペースを確保するための歯の移動の必要を減らす。エナメル形成技術、通常歯の近心側及び遠心側からエナメルを除去する技術、塗布、歯科用ペースト組成物の構築及び輪郭削り、を組み合わせることによって、歯列矯正医は歯摘出なしに歯列矯正処置のために必要とされるスペースをコントロールすることができる。
【0076】
口腔外科と歯周病学の分野では、歯科用ペースト組成物は、歯槽骨損失または不足の箇所を処置するのに用いられる。たとえば、本発明のフッ化物処理したカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末の歯科用ペーストがコハク酸溶液または類似する溶液に混合され、骨セメントまたは人工骨として骨欠損または欠陥からの空隙を充填するのに適用される。
【0077】
口腔外科と歯周病学の分野の骨欠損部分の充填とその用途に加えて、本発明のフッ化物処理したカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末歯科用ペーストは、手術/補修歯科医業と歯科補綴学的歯科医業で歯髄の保護、更なる虫歯の予防、患者が経験する刺激感
を減らすのに用ることができる。虫歯の掘削と補修により歯髄腔が露出する寸前のとき、固められ成形されたフッ化物で処理したカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末歯科用ペーストが、歯髄を保護して、更なる虫歯を予防し、刺激を減らすために基礎物質の代わりに設置することができる。また、歯科用ペースト組成物は、歯と一体化することにより支持されていないエナメル質を支持されたエナメル質に移行させ、合成エナメル質を提供し、これにより保守的な修復がなされる。
【0078】
歯科用ペースト組成物は、保存修復学と歯科補綴学的歯科医業の分野で使用される。これらの分野では、歯科用ペースト組成物が、複合樹脂またはセメント材の代わりに補修材料として使われる。
【0079】
予防的な歯科医業分野における虫歯の予防の更なる強化は、本発明の歯科用ペースト組成物と、歯みがき、予防ペーストとフッ化物処理ジェルを混合することによって成し遂げられる。本発明の歯科用ペースト組成物は、歯の構造物への一体化により、粘着力により適所にとどまる先行技術における歯科用シーラントより効果的である。
【0080】
歯科用ペースト組成物は、同様にインプラントの分野で使うことができる。この分野の適用のために、歯科用ペースト組成物が移植組織の金属製基部に塗られて、基材金属を覆う自然歯用人工カルシウムとして使われる。
【0081】
歯周炎、歯肉炎や他の要因が歯のセメント質の露顕を引き起こし、むき出しのセメント質のため刺激感が生じるとき、歯科用ペースト組成物が刺激感を減らすむき出しのセメント質の被覆材として使われる。さらにまた、多糖類、特にマルトースや大豆繊維粉を混合された歯科用ペースト組成物は、人工セメント質の働きをするために、セメント質に塗ることができる。
【0082】
本発明の歯科用ペースト組成物は、殺菌剤または抗菌薬として有効でもある。殺菌性または抗菌性の効果により、虫歯の形成を防ぐのを助ける。歯科用ペースト組成物は、歯のう蝕の有無にかかわらず歯に塗られることができる。
【0083】
歯科医業の分野以外の歯科用ペースト組成物のいろいろな応用は、半導体のカラムクロマトグラフィー、ピエゾ電気材料または表面の塗布材料のための充填材として、歯科用ペースト組成物の使用が含まれる。これらの用途のために、たとえば、フッ化物処理したカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト歯科用ペースト組成は、低いpH溶液でイオン化して、それから、再結晶させた。自然に生じるリン酸カルシウムクラスタが同様に低いpH溶液でイオン化されて、再結晶した場合と比較し、これは結晶のより濃くて、規則的で、より大きくて、より高い品質で生産できる。結晶でより高品質ものは、歯科医業の分野以外で、前記の分野での使用が許される。
【0084】
具体例において、本発明は、フッ化アパタイト粉;過酸化水素の水溶液;そして、リン酸の水溶液を含む歯15の歯のう蝕44を治療するための歯科用ペーストを提供する。
【0085】
具体例において、本発明は、う蝕44がある歯15に、過酸化水素水溶液とリン酸水溶液を混ぜ合わせたフッ化アパタイト(FHAp)粉末から成歯科用ペーストを塗ること、歯15からFHApを含む歯科用ペースト36の余分な量を洗い流すことを含む、歯15のう蝕44を治療する方法を提供する。歯15の蝕44が治療されるまで、プロセスを繰り返す。本方法は、う蝕44を有する歯15にSiHApを含む歯科用ペースト38を塗り、歯15からSiHApを含む余分な歯科用ペースト38を洗い流すことを更に含むことができる。
【0086】
具体例において、本発明は、歯15のう蝕44の形成を予防する方法を提供する:(a) 過
酸化水素水溶液とリン酸水溶液を混合したフッ化アパタイト(FHAp)粉末から成る歯科用ペースト36を塗り、(b)歯15からFHApを含む歯科用ペースト36の余分な量を洗い流す。
【0087】
具体例において、本発明は、歯のう蝕44を予防し治療する組成物を調製する方法を提供する:フッ化ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液を混合すること;フッ化ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液の混合物の沈殿物を濾過すること;沈殿物を多数の微小粒子にして、フッ化アパタイト粉末を生成するために多数の微小粒子をスリーブに通すこと;そして、フッ化アパタイト粉末を過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混合させること。
【0088】
具体例において、本発明は、歯の美白方法を提供する:歯15に過酸化水素水溶液とリン酸水溶液を混ぜ合わせたフッ化アパタイト(FHAp)粉末から成る歯科用ペースト36を塗ること;歯15からFHApを含む歯科用ペースト36の余分な量を洗い流すこと。
【0089】
具体例において、本発明は、ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末;過酸化水素水溶液;そして、リン酸水溶液を含む歯15のう蝕44を治療するための歯科用ペーストを提供する;。
【0090】
具体例において、本発明は、歯15のう蝕44を治療する方法を提供する:(a)ヒドロキシアパタイト(SiHAp)を含むケイ酸塩粉末を過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混合した
歯科用ペースト38を、う蝕44を有する歯15に塗り、(b)歯15からSiHApを含む歯科用ペー
スト38の余分な量を洗い流す。
【0091】
具体例において、本発明は、歯のう蝕44の形成を予防する方法を提供する:(a)ハイドロキシアパタイト(SiHAp)を含むケイ酸塩粉末を過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混
合した歯科用ペースト38を歯15に塗り、(b)歯15からSiHApを含む余分な歯科用ペースト38を洗い流す。
【0092】
具体例において、本発明は、歯のう蝕44を予防し治療するSiHApを含む歯科用ペースト38の調製方法を提供する:リン酸−ケイ酸ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液を混合
すること;リン酸−ケイ酸ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液の混合物の沈殿物を濾過すること;沈殿物を加工して多数の微小粒子にし、ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を生成するために多数の微小粒子をスリーブに通すこと;そして、過酸化水素水溶液とリン酸水溶液にハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を混合すること。
【0093】
さらに、本発明は、歯15を白くする方法を提供する:過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混合したハイドロキシアパタイト(SiHAp)を含むケイ酸塩粉末から成る歯科用ペース
ト38を、歯15に塗ること、歯15からSiHApを含む余分な歯科用ペースト38を洗い流すこと

【0094】
本件で引用された全ての特許、特許出願と出版文献は、彼らの全部を参照によって本件に取り入れられる。この発明が、特に示し、その好ましい具体例への言及が記述されているにも関わらず、形態と詳細のいろいろな変化が、本発明の範囲から逸脱することなくその中でなされるであろうことは、当業者であればよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】歯の断面図を示す。
【図2】中央部付近にう蝕を有する歯の上面図を示す。
【図3】本発明の歯科用ペーストによって治療した歯の上面図。ペーストが作り出した合成エナメルによって、う蝕が埋められている。
【図4A】研磨した歯の断面の一部に対する、走査型電子顕微鏡による画像を示す。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後であり、合成エナメル質も含まれる。
【図4B】研磨した歯の断面の一部に対する、後方散乱電子顕微鏡による画像。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後であり、合成エナメル質も含まれる。
【図4C】研磨した歯の内部構造に対する、後方散乱電子顕微鏡による2枚目の画像を示す。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後であり、合成エナメル質も含まれる。
【図4D】合成エナメル質に対する、走査型電子顕微鏡による高倍率画像を示す。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後である。
【図5A】歯の合成エナメル質に対する、広範囲走査型X線光電子分光スペクトル。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後である。
【図5B】歯の合成エナメル質に対するX線回折(XRD)パターンを示す。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布した後である。
【図6A】歯のエナメル質を研磨した表面に対する、原子間力顕微鏡画像を示す。これは、本発明の歯科用ペーストを塗布する前である。
【図6B】研磨した歯の表面に対する、原子間力顕微鏡画像を示す。これは、本発明の歯科用ペーストを歯のエナメル質に塗布した後である。
【図6C】本発明による歯科用ペーストの粒子で覆われた、歯の表面の原子間力顕微鏡画像を示す。これは歯科用ペーストを塗布した後である。
【符号の説明】
【0096】
15 歯
16 エナメル質
17 象牙質
18 歯髄腔
19 歯髄
20 根管
21 セメント質
25 柱状結晶
27 歯冠
29 歯根
36 FHApを含む歯科用ペースト
38 SiHApを含む歯科用ペースト
44 う蝕
46 合成エナメル質
50 移行ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の組成から成る歯のう蝕治療するための歯科用ペースト:
ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末;
過酸化水素水溶液;及び
リン酸水溶液。
【請求項2】
ハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末が、リン酸カルシウム及びリン酸−珪酸ナトリウムの水溶液からなることを特徴とする請求項1記載の歯科用ペースト。
【請求項3】
リン酸カルシウムがハイドロキシアパタイトである請求項2記載の歯科用ペースト。
【請求項4】
リン酸水溶液がメタリン酸、ピロリン酸、正リン酸、及び三リン酸の群から選ばれる請求項1記載の歯科用ペースト。
【請求項5】
歯科用ペーストがう蝕を有する歯のエナメル質と一体化し歯の合成エナメル質を形成する請求項1記載の歯科用ペースト。
【請求項6】
歯科用ペーストが歯のエナメル質の化学的に不完全部分と一体化することによって、う蝕を有する歯のエナメル質を結晶化する請求項1記載の歯科用ペースト。
【請求項7】
歯科用ペーストが歯のエナメルを形成するヒドロキシアパタイト化合物の格子の多数の空隙を埋める請求項1記載の歯科用ペースト。
【請求項8】
次の工程から成る歯のう蝕を治療する方法:
(a)過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合したハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末からなる歯科用ペーストをう蝕を有する歯に塗布し;ついで
(b)歯から余分な量の歯科用ペーストを洗い流す。
【請求項9】
工程(a)及び(b)を歯のう蝕が治療されるまで繰り返す請求項8記載の方法。
【請求項10】
過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合されたフッ化アパタイト粉末から成る第2の歯科用ペーストを、う蝕を有する歯に塗布し、次いで、第2の歯科用ペーストの余分な量を洗い流すことを更に含む請求項8記載の方法。
【請求項11】
歯において歯科用ペーストを結晶化することをさらに含む請求項記載の8の方法。
【請求項12】
歯のう蝕を歯科用ペーストの多数の結晶で置換することをさらに含む請求項8記載の方法。
【請求項13】
歯のエナメル質に歯科用ペーストを一体化させ、歯科用ペーストからなる合成エナメル質を形成することをさらに含む請求項8記載の方法。
【請求項14】
合成エナメル質がエナメル質のハイドロキシアパタイトとほとんど同じ結晶構造及び化学組成を有する請求項13記載の方法。
【請求項15】
歯科用ペーストが歯のエナメル質の化学的に不完全な部分と一体化し、歯のエナメル質の化学的に不完全な部分を結晶化させる請求項13記載のの方法。
【請求項16】
次の工程から成る歯のう蝕の形成を予防する方法:
(a)過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合したハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末からなる歯科用ペーストを歯に塗布し;ついで
(b)歯から余分な量の歯科用ペーストを洗い流す。
【請求項17】
過酸化水素水溶液及びリン酸水溶液に混合されたフッ化アパタイト粉末から成る第2の歯科用ペーストを、歯に塗布し、次いで、第2の歯科用ペーストの余分な量を洗い流すことを更に含む請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の工程からなる、歯のう蝕を予防し、治療ために歯科用ペーストを調製する方法:リン酸ケイ酸ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液を混合すること;
リン酸ケイ酸ナトリウムとリン酸カルシウムの水溶液の混合物の沈殿物を濾過すること;
沈殿物を多数の微粒子とし、この微粒子を篩を通してハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を得ること;そして、
過酸化水素水溶液とリン酸水溶液にハイドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末を混合すること。
【請求項19】
以下の工程からなる、歯の美白方法:
過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混合したヒドロキシアパタイトを含むケイ酸塩粉末から成る歯科用ペーストを塗布し;ついで、歯から歯科用ペーストの余分な量を洗うこと。
【請求項20】
過酸化水素水溶液とリン酸水溶液に混合したフッ素化したアパタイト粉末から成る第2の歯科用ペーストを歯に塗布し、歯から第2の歯科用ペーストの余分な量を洗うことを更に含む請求項19の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−513149(P2007−513149A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542229(P2006−542229)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018453
【国際公開番号】WO2005/053630
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(506190762)
【Fターム(参考)】