説明

歯ブラシ用毛材および歯ブラシ

【課題】適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有すると共に、歯垢除去などの清掃効果および歯茎に対するマッサージ効果などの使用感に優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供するものである。
【解決手段】ナイロンエラストマー90〜45重量%およびナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂10〜55重量%との熱可塑性樹脂組成物から形成されるモノフィラメントであって、断面が異形断面であることを特徴とする歯ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の歯ブラシ用毛材および歯ブラシに関し、従来のナイロン樹脂またはポリエステル樹脂の歯ブラシ用毛材に比べて適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有すると共に、歯垢除去などの清掃効果および歯茎に対するマッサージ効果などの使用感に優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯ブラシ用毛材としては、容易に加工可能なナイロンやポリエステルなどの合成樹脂製毛材が多用されてきた。
【0003】
このような合成樹脂製歯ブラシ用毛材の清掃効果およびマッサージ効果などを改良するための手段としては、これまでに様々な手法が検討されており、例えば、熱可塑性エラストマーから形成された剛毛を使用した歯肉マッサージ用口腔ブラシ(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この口腔ブラシ用毛材は、毛材の硬さがナイロンやポリエステル樹脂で形成されている歯ブラシ用毛材より劣るために、歯磨きをする上では毛腰が柔らか過ぎて、歯垢除去などの清掃効果が依然として劣るという問題があった。
【0004】
上記の欠点を補うものとしては、ポリエステル系樹脂およびポリエステルエラストマーを混合した樹脂組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなる歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)が知られているが、この歯ブラシ用毛材は、エラストマーを混合することにより適度な柔軟性を備え、歯間挿入性の向上が可能であるという利点を有する反面、ナイロン製の歯ブラシ用毛材に比べてやや毛腰が強くなるために、歯ブラシとしての使用感がやや劣るという問題点があった。
【0005】
また、合成繊維を用いた工業用ブラシにおいては、ポリブチレンテレフタレートとポリエステルエラストマーとの混合物を素材とするブラシ用毛材(例えば、特許文献3参照)が知られているが、この毛材をそのまま歯ブラシに使用した場合には、耐久性が不十分なばかりか、歯の清掃性が劣り、使用感を十分満足するにはいたらなかった。
【0006】
つまり、従来技術による合成樹脂製毛材では、歯ブラシ用毛材とした場合に異物を除去することは可能ではあるが、歯ブラシの使用感としての性能を十分に発揮せず、これらの特性を全て満足する歯ブラシ毛材の実現が強く求められているのが実状であった。
【特許文献1】特表2002−514946号公報
【特許文献2】特開2004−298328号公報
【特許文献3】特開昭61−090877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって本発明の目的は、従来のナイロン樹脂またはポリエステル樹脂の歯ブラシ用毛材に比べて適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有すると共に、歯垢除去などの清掃効果および歯茎に対するマッサージ効果などの使用感に優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明によれば、ナイロンエラストマー90〜45重量%およびナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂10〜55重量%との熱可塑性樹脂組成物から形成されるモノフィラメントであって、断面形状が異形断面であることを特徴とする歯ブラシ用毛材が提供される。
【0010】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材においては、
前記モノフィラメントの断面形状が多葉形であること、
前記ナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂がナイロン樹脂であること、
前記ナイロン樹脂がナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン11、ナイロン12およびこれらを主体とする共重合体から選ばれた少なくとも1種であること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの件を満たした場合には、さらに優れた性能を発揮する。
【0011】
また、本発明の歯ブラシは、前記歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のナイロン樹脂またはポリエステル樹脂の歯ブラシ用毛材に比べて適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有すると共に、歯垢除去などの清掃効果および歯茎に対するマッサージ効果などの使用感に優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の歯ブラシ用毛材について詳細に説明する。
【0014】
本発明の歯ブラシ用毛材1は、特定の熱可塑性樹脂組成物から形成された異形断面モノフィラメントを、所望の長さに切断したカットブリッスルを基本構造とするものである。
【0015】
本発明の歯ブラシ用毛材に形成されている異形断面とは、円形断面以外であれば特に制限するものではなく、具体的には四角形、六角形などの多角形、または、四葉形、六葉形、八葉形などの多葉形などが挙げられるが、歯ブラシ用毛材には歯垢および異物除去が要求されるため、そのバランスに優れるとの理由から、なかでも多葉断面形状であることが好ましい。
【0016】
本発明の歯ブラシ用毛材を構成するナイロンエラストマーとしては、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミドオリゴマーをハードセグメントとし、またヒドロキシポリエーテルのオリゴマーをソフトセグメントとして縮重合させて得られるポリエーテルアミドなどが挙げられる。そして、前記縮重合の際に各セグメントの分子量を変更することにより、結晶状態や微細構造が異なるものが得られる。これらナイロンエラストマーの市販品としては、例えばARKEMA社製PEBAXなどを好ましく使用することができる。
【0017】
本発明の歯ブラシ用毛材を構成するナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂としては、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられるが、ナイロンエラストマーとの相溶性が優れる点では、なかでもナイロン樹脂の使用が好適である。
【0018】
本発明で使用するナイロン樹脂の具体例としては、ωアミノ酸の重縮合反応で構成されるナイロン6、ナイロン11、ナイロン12や、ジアミンとジカルボン酸の共縮重合反応で構成されるナイロン6・6、ナイロン6・10、あるいはこれらを主体とする共重合体、例えばεカプロラクタムとラウリルラクタムとのωアミノ酸同士の共縮重合で構成されるナイロン6・12などのナイロン共重合体が挙げられるが、なかでもナイロン6・10、ナイロン共重合体が好ましく使用される。
【0019】
本発明のモノフィラメントを構成する樹脂組成物における樹脂成分の配合組成は、ナイロンエラストマー90〜45重量%、好ましくは75〜55重量%と、ナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂10〜55重量%、好ましくは25〜45重量%との合計が100重量%となる割合である。ここで、ナイロンエラストマーの割合が上記の範囲未満では、毛材の硬度が著しく低下し、歯茎への触感に物足りなさを生じ、逆に上記の範囲を越えると、毛腰が強くなって歯茎への触感に不快感を生じるため好ましくない。
【0020】
なお、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、上記のナイロンエラストマー、ナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂組成物には、耐熱剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、抗菌剤、蛍光増白剤、染料および顔料などの慣用の各種添加剤を任意に含有することができる。
【0021】
また、上記添加剤と共に研磨剤または磨き剤、具体的には、クレー、シリカ、炭酸カルシウムまたはアパタイトおよびそれらの混合物を含むことができる。
【0022】
次に、本発明の歯ブラシ用毛材の製造方法について説明する。
【0023】
まず、本発明の歯ブラシ用毛材を構成する熱可塑性樹脂組成物からなる異形断面モノフィラメントは、例えば、ナイロンエラストマーとナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂のほか、必要に応じて各種添加剤を所定量分散混合した後、公知の溶融紡糸機に供給し、糸の断面形状に対応する異形断面形状のノズルから溶融押出した後、冷却および延伸工程を経て、熱セット条件での熱処理を行った後巻き取ることにより製造される。次いで、モノフィラメントを集束してこれを所望の長さに切断することにより、束状の集束体(ブリッスル束)を作製する。さらに、テープ等でブリッスル束の周囲を保護し、この束を歯ブラシの種類や用途に応じた長さに切断することにより、歯ブラシ用毛材としてのカットブリッスルが得られる。
【0024】
上記の製造方法により得られた歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した本発明の歯ブラシは、公知の方法にて製造することができ、歯ブラシ自体の製造方法については特に限定されない。
【0025】
以上、説明したとおり、本発明の歯ブラシ用毛材は、適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有し、歯に付着した歯垢、異物を満遍なく除去することができると共に、歯茎に対するマッサージ効果などをも兼ね備えたものである。そして、本発明の歯ブラシ用毛材を少なくとも一部に使用した歯ブラシは、これらの特性を十分発揮し、その実用性が極めて高いものである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明の歯ブラシ用毛材の評価方法については、次の通り行った。すなわち、実施例に示す歯ブラシ用毛材を30穴の歯ブラシハンドルに毛丈12mmになるよう植毛して歯ブラシを作成し、この歯ブラシについて以下の評価を実施した。
【0027】
〔清掃性評価〕
上記の歯ブラシを使用し、この歯ブラシに対して摺動面裏側から垂直に150gの荷重をかけて、仮想汚れを塗布したステンレス製波板に対して、振幅13mm、スピード150rpmで3000回摺動させ、仮想汚れの除去率を測定した。汚れ除去率は波板凸部表面について算出した。
【0028】
〔使用感調査〕
清掃性評価と同じ仕様の歯ブラシを作成し、成人20名に1種類あたり10日間使用してもらい、使用感、特に歯茎への刺激について回答を得た。評価基準は次の通りである。
◎・・非常に良い、
○・・良い、
△・・普通、
×・・悪い。
【0029】
〔実施例1〕
十分に予備脱湿乾燥したナイロンエラストマー樹脂(アルケマ(株)製PEBAX7033SN01、以下ナイロンエラストマーという)を70重量%とナイロン6・10樹脂(東レ(株)製アミランCM2001、以下ナイロン6・10という)30重量%を撹拌混合した後、押出型紡糸機へ供給し、加熱溶融された樹脂組成物を糸断面形状に対応する断面形状のノズルから押出し、直ちに30℃の水中で冷却し、続いて55℃の温水、さらに100℃乾熱下で4.1倍に延伸した後、乾熱雰囲気中で弛緩熱処理を行った。このようにして得られた外接円直径0.180mmの四葉形断面モノフィラメントを束状に巻き取った。
【0030】
次に、巻き取られた束状のカットブリッスルの周囲に紙テープを巻いて直径45mm毛束とし、さらに30mmの長さに切断し、歯ブラシ用毛材を得た。
【0031】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1において、ナイロンエラストマーを50重量%とナイロン6・10を50重量%の配合割合に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0033】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1において、ナイロン6・10を、ナイロン共重合体樹脂(Degussa社製D22:ナイロン6/12共重合体)に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0035】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0036】
〔実施例4〕
実施例3において、ナイロンエラストマーを50重量%とナイロン共重合体を50重量%の配合割合に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0037】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0038】
〔比較例1〕
実施例1において、ナイロンエラストマーを30重量%とナイロン6・10を70重量%の配合割合に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0039】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0040】
〔比較例2〕
実施例1において、毛材断面形状を直径0.180mmの円形断面にした以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0041】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0042】
〔比較例3〕
実施例1において、ナイロン6・10を100重量%使用した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0043】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0044】
〔比較例4〕
比較例3において、ナイロン6・10をポリエステルエラストマー(東レ・デュポン(株)製ハイトレル4767)に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0045】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0046】
〔比較例5〕
実施例1において、ナイロンエラストマーをポリエステルエラストマー(東レ・デュポン(株)製ハイトレル4767)、ナイロン6・10をポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製トレコン1100S、以下PBTという)に変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0047】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0048】
〔比較例6〕
比較例3において、ナイロン6・10をポリアミドエラストマーに変更した以外は、同様の方法で歯ブラシ用毛材を作製した。
【0049】
得られた歯ブラシ用毛材を使用して歯ブラシを作製し、特性を評価した結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果から明らかなように、本発明の歯ブラシ用毛材を使用した歯ブラシ(実施例1〜4)は、仮想汚れを付着したステンレス波板の汚れは等しく除去されていると共に、使用感調査についても、実用性の高いものであることが分かる。
【0052】
これに対して、本発明の条件を満足しない歯ブラシ用毛材を使用した歯ブラシは、清掃性能に欠けたものとなり、例えば、ナイロンエラストマーの含有量が少ない歯ブラシ用毛材(比較例1、3)は、ナイロンエラストマー以外の樹脂特性が出てくるため毛腰が硬くなり歯茎への感触に不快感が生じる。また、ポリエステルエラストマー単独またはポリエステルエラストマーとPBTとの混合物を使用した歯ブラシ用毛材(比較例4、5)およびポリアミドエラストマー単独を使用した歯ブラシ用毛材(比較例6)は、毛材の硬度が著しく低下し、歯茎への触感の物足りなさが生じてくる。さらに、断面形状が円形(比較例2)であると、歯表面への接触面積は増えるものの清掃性が低下し、歯茎への感触についても不快感が生じてくるため、実施例の歯ブラシに劣るものであり、実用性の低いものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の歯ブラシ用毛材は、適度な柔軟性および高い摩擦抵抗を有すると共に、歯垢除去などの清掃効果および歯茎に対するマッサージ効果などの使用感に優れるものであり、歯茎に違和感を与えることもないことから、特に子供用、高齢者用の歯ブラシとして寄与するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロンエラストマー90〜45重量%およびナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂10〜55重量%との熱可塑性樹脂組成物から形成されるモノフィラメントであって、断面形状が異形断面であることを特徴とする歯ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記モノフィラメントの異形断面形状が多葉形であることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記ナイロンエラストマー以外の熱可塑性樹脂がナイロン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項4】
前記ナイロン樹脂が、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン11、ナイロン12およびこれらを主体とする共重合体から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする歯ブラシ。

【公開番号】特開2008−154724(P2008−154724A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345611(P2006−345611)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】