説明

歯ブラシ用毛材および歯ブラシ

【課題】従来の熱可塑性樹脂からなる歯ブラシ用毛材に比べて、優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与える歯ブラシ用毛材および歯ブラシの提供。
【解決手段】ポリエステルモノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記ポリエステルモノフィラメントは温度25℃の下での動粘度が50〜30,000mm/Sのジメチルポリシロキサンを0.5〜25重量%含有していることを特徴とする歯ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂製の歯ブラシ用毛材および歯ブラシに関し、さらに詳しくは、優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与える歯ブラシ用毛材および歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯ブラシに植毛される毛材に要求される主な性能としては、歯間に詰まった食べカスや歯面に付着した歯垢を除去する清掃性が挙げられ、従来のポリエステルモノフィラメントやポリアミドモノフィラメントなどの熱可塑性樹脂製モノフィラメントからなる歯ブラシ用毛材は、その清掃性を一応は満たすものであった。
【0003】
また、特に歯間部や歯頸部、小窩裂溝等には歯垢が堆積しやすく、しかも堆積した歯垢の除去が困難であることから、特に口腔内細部を効果的に清掃できる歯ブラシが求められている。
【0004】
そこで、口腔内細部の清掃を目的とした歯ブラシとしては、先鋭テーパー加工を施した歯ブラシ(例えば、特許文献1参照)が提案されている。この歯ブラシはフィラメントが先細であるため、フィラメントの先端が口腔内細部に挿入しやすく、高い清掃性の機能が得られるが、植毛した毛材内部やタフト間に食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤が付着して汚れやすいため、使用者に清潔感を与えにくいといった問題があった。
【0005】
また、汚れが付着しにくいように、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂に対して、フッ素系樹脂を0.5〜25重量%含有せしめた歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)が提案されている。この歯ブラシ用毛材は従来の歯ブラシ用毛材に比べて汚れが付きにくいものの、使用者によってはまだ汚れが付着しやすいとの指摘があり、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3145213号公報
【特許文献2】特開2004−298327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与える歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリエステルモノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記ポリエステルモノフィラメントは温度25℃の下での動粘度が50〜30,000mm/sのジメチルポリシロキサンを0.5〜25重量%含有していることを特徴とする歯ブラシ用毛材が提供される。
【0010】
なお、本発明のブラシ用毛材おいては、前記カットブリッスルの少なくとも一端には、先端が先鋭なテーパー部を有することがさらに好ましい条件として挙げられ、この条件を満たした場合には、さらに優れた性能を発揮する。
【0011】
また、本発明の歯ブラシは、前記歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与える歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の歯ブラシ用毛材および歯ブラシについて詳細に説明する。
本発明のポリエステルモノフィラメントからなるカットブリッスルに使用するポリエステル樹脂については特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと言う)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられるが、これらを二種以上混合して使用してもよい。
【0014】
この中でも、ポリエチレンテレフタレート、PBT、ポリトリメチレンテレフタレートが、歯ブラシとして要求される高弾性、耐摩耗性、屈曲回復性等の特性が良好であることから好ましく使用される。
【0015】
一方、本発明で使用するジメチルポリシロキサンとしては、両末端にメチル基を持つ一般的なものや、両末端をシラノール基に置換したものであっても良く、例えば市販のもので言えば、東レ・ダウコーニング社製のSH−200やBY16−817、BY16−873およびPRX413等を挙げられる。
【0016】
また、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサンの含有量は0.5〜25重量%であることが必要であり、好ましくは0.8〜17重量%の範囲である。これは、ジメチルポリシロキサンの含有量が上記の範囲を下回ると防汚性効果が得られ難く、逆に上記の範囲を上回ると、ポリエステルモノフィラメントを溶融紡糸する際に、糸切れが多発して安定生産に支障をきたすことがあり、さらにはポリエステルモノフィラメントの強度が低下しやすくなるからである。
【0017】
また、ジメチルポリシロキサンの動粘度は、温度25℃の下で50〜30,000mm/sであることが必要であり、好ましくは200〜10,000mm/Sの範囲である。これはジメチルポリシロキサンの動粘度が上記の範囲を下回ると、ジメチルポリシロキサンの引火点が溶融紡糸する際の紡糸温度より低くなるために発火の恐れあり、逆に上記の範囲を上回ると、紡糸機内でポリエステル樹脂との混練が難しくなって原料が安定供給されにくくなるばかりか、紡糸口金から押し出される樹脂も不安定になってポリエステルモノフィラメントの直径が不均一となりやすいからである。
【0018】
本発明の歯ブラシ用毛材となるポリエステルモノフィラメントの製造方法については、特に制限はなく、公知の溶融紡糸機で製造することができ、例えば、あらかじめジメチルポリシロキサンをポリエステル樹脂に溶融混練した高濃度ポリエステルマスターペレットを作製しておき、このマスターペレットとポリエステル樹脂とを所定の比率で混合し、この混合物を通常の溶融紡糸機に供給して紡糸する方法がある。この方法を用いればジメチルポリシロキサンがポリエステルモノフィラメントの全体にわたってほぼ均一に分散し、表面にも現れやすくなって防汚性効果がより期待できる。
【0019】
そして、溶融紡糸されたポリエステルモノフィラメントは紙テープなどで束状に固定された後、さらに所望の長さに切断されてカットブリッスルとして仕上がる。
さらに、このカットブリッスルの片端または両端を化学的処理や機械的処理を施し、先端に先鋭なテーパー部を形成させた場合には、口腔内細部の清掃性に優れた歯ブラシ用毛材を得ることができる。
【0020】
また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、上記のポリエステルモノフィラメントには、耐熱剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、抗菌剤、蛍光増白剤、染料および顔料などの慣用の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0021】
さらに、上記添加剤と共に、クレー、シリカ、炭酸カルシウムまたはアパタイトなどの研磨剤や磨き剤を単体または複数組み合わせて添加しても良い。
【0022】
さらにまた、本発明の歯ブラシ用毛材の繊維軸方向に対して垂直に切断した断面形状は、特に制限はされず、円形以外にも、四角形、六角形などの多角形、さらは、四葉形、六葉形、八葉形などの多葉形などが挙げられ、特に耐久性や清掃性のバランスが良好との理由から、円形が好ましい。
【0023】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材に使用するポリエステルモノフィラメントの直径は、0.100mm以上0.500mm未満であることが望ましく、さらには0.150mm以上0.350mm未満が好ましい。
【0024】
これは、直径が0.100mm以下未満になると、口腔内細部への挿入性や到達性は良好であるが、毛腰が柔軟になるためにかえって清掃性が得られ難い傾向となり、逆に直径が0.500mm以上になると、口腔内細部への挿入性や到達性が劣って清掃性が得られ難くなるばかりか、直径が太くなって毛腰が硬くなり、歯茎などを傷めやすいなどの問題を生じやすいからである。
【0025】
そして、上記歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用した本発明の歯ブラシは、公知の方法にて製造することができ、特に限定されない。
【0026】
以上説明したとおり、本発明の歯ブラシ用毛材は、優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与えることから、従来の歯ブラシ用毛材では得られなかった様々な効果を遺憾なく発揮する。
【0027】
そして、本発明の歯ブラシ用毛材を少なくとも一部に使用した歯ブラシは、歯ブラシ用毛材の特性を十分発揮した実用性の高いものである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材の評価方法については、次の通り行った。すなわち、実施例に示す歯ブラシ用毛材を30穴の歯ブラシハンドルに毛丈13mmになるよう植毛し、植毛された歯ブラシを使用して以下の方法で評価した。
【0030】
〔防汚性評価〕
まず初めに作製した歯ブラシの重量(A)を測定した。次に、水300ccに無水ケイ酸15gを加えた模擬汚れ浸漬液を作り、150rpmでプロペラ撹拌しながら、この浸漬液に歯ブラシの植毛部分を3分間浸漬した。
【0031】
その後、歯ブラシを浸漬液から取り出し、歯ブラシを10回振って余分な液を取り除き、さらに36℃の乾燥機にて4時間乾燥した。
【0032】
そして、乾燥後の歯ブラシの重量(B)を測定し、浸漬前の歯ブラシの重量(A)を差し引いて付着した浸漬液の量を求めた。なお、本評価には歯ブラシを5本使用し、浸漬液の量は5本の平均値とした。
【0033】
この浸漬液の量を防汚性評価の指標とし、ジメチルポリシロキサンを含有しない比較例1のPBTモノフィラメントの付着量を100とした汚れ付着指数で表した。汚れ付着指数が小さいほど防汚性が高いことを示す。
【0034】
〔清掃性評価〕
2枚のアクリル板を0.2mmの隙間を設けて並べ、この隙間を歯間に見立てた擬似歯モデルを作製し、この擬似歯モデルに歯科咬合チェックスプレーで仮想汚れを付着させて、まず、仮想汚れの付着面積(イ)を測定した。その後、この擬似歯モデルに歯ブラシを荷重350gで押し当てながら、振幅50mm、往復速度190回/分で3分間ブラッシングを行い、仮想汚れが除去された部分の面積(ロ)を測定し、下記の式(I)にて汚れ除去率を求めた。この汚れ除去率が高いほど清掃性が高いことを示す。
汚れ除去率=(ロ)/(イ)×100・・・(I)
【0035】
〔実施例1〕
十分に予備乾燥したPBT樹脂(東レ社製 1200S)70重量%と、温度25℃での動粘度が500mm/sのジメチルポリシロキサン(東レ・ダウコーニング社製 SH200)30重量%とを混合し、二軸溶融紡糸機に供給して溶融押し出し、押し出されたストランドを冷却・切断をして、ジメチルポリシロキサン含有マスターバッチを作製した。
【0036】
そして、十分に予備乾燥をしたPBT樹脂(東レ社製 1200S)96重量%と、ジメチルポリシロキサン含有マスターバッチ4重量%とを均一に分散するまで撹拌した後、一軸溶融紡糸機に供給して280℃で溶融混練し、溶融物を口径0.8mmの円形孔ノズルから押し出した。
【0037】
その後、押し出された溶融物を30℃の水冷中で冷却固化し、続いて70℃の温水と140℃の乾熱雰囲気中でトータル4.1倍に延伸し、さらに乾熱雰囲気中で弛緩熱処理を施して、糸径0.210mm、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサン含有量が1.2重量%のポリエステルモノフィラメントを巻き取った。
【0038】
次に、巻き取られたポリエステルモノフィラメントを束状にまとめて、その周りに紙テープを巻いて固定し、さらに30mmの長さに切断して、カットブリッスルを得た。そしてこのカットブリッスルを歯ブラシの作製に使用した。
【0039】
〔実施例2〕
実施例1において、PBT樹脂とジメチルポリシロキサン含有マスターバッチの配合比をそれぞれ85重量%対15重量%に変更し、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサン含有量を4.5重量%とした以外は、同じ方法でカットブリッスルと歯ブラシを作製した。
【0040】
〔実施例3〕
実施例1において、PBT樹脂とジメチルポリシロキサン含有マスターバッチの配合比をそれぞれ50重量%対50重量%に変更し、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサン含有量を15重量%とした以外は、同じ方法でカットブリッスルと歯ブラシを作製した。
【0041】
〔実施例4〕
実施例2で得られたカットブリッスルの両端部を水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、先端から約7.0mmの範囲に先鋭なテーパー部を形成させ、これを歯ブラシの作製に使用した。
【0042】
〔比較例1〕
実施例1において、ジメチルポリシロキサン含有マスターバッチを使用せず、PBT樹脂を100重量%使用した以外は、同じ方法でカットブリッスルと歯ブラシを作製した。
【0043】
〔比較例2〕
実施例1において、PBT樹脂とジメチルポリシロキサン含有マスターバッチの配合比を、それぞれ99重量%対1重量%に変更し、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサン含有量を0.3重量%とした以外は、同じ方法でカットブリッスルと歯ブラシを作製した。
【0044】
〔比較例3〕
実施例1において、PBT樹脂とジメチルポリシロキサン含有マスターバッチの配合比をそれぞれ10重量%対90重量%に変更し、ポリエステルモノフィラメント中のジメチルポリシロキサン含有量を27重量%とした以外は、同じ方法でポリエステルモノフィラメントを紡糸しようと試みたが、ジメチルポリシロキサンの含有量が多すぎるために、紡糸時に糸切れが多発して製造が困難であった。また、得られたポリエステルモノフィラメントについては防汚性が高いものの、強度が低いために歯ブラシ用毛材としては十分な物理特性を持つものではなかった。
【0045】
〔比較例4〕
実施例1において、温度25℃での動粘度が60,000mm/sのジメチルポリシロキサン(東レ・ダウコーニング社製 SH200)を使用した以外は、同じ方法でポリエステルモノフィラメントを紡糸しようと試みたが、ジメチルポリシロキサンの動粘度が高すぎるために、紡糸機内でPBT樹脂との混練が難しくなり、押し出しが不安定となってポリエステルモノフィラメントを採取することができなかった。
【0046】
上記実施例および比較例で得られた歯ブラシの評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかなように、ポリエステルモノフィラメント中に所定量のジメチルポリシロキサンを含有した歯ブラシ毛材(実施例1〜4)は、ジメチルポリシロキサンを所定量含有しないか含有量が規定範囲以下の歯ブラシ用毛材(比較例1〜2)と比較して、防汚性が大幅に向上しており、特に実施例1および2の歯ブラシ用毛材は、歯ブラシに使用した場合に優れた防汚性を発揮し、さらに先端に先鋭なテーパー部を形成した歯ブラシ用毛材(実施例4)は、防汚性と清掃性とを兼ね備えた歯ブラシを得ることができた。
【0049】
また、比較例3および4については、ジメチルポリシロキサンの含有量が多かったり、25℃温度での動粘度が高かったりするため、紡糸機内でPBT樹脂との混練が不安定となり、糸切れしたり溶融物の押し出しが不安定になったりして製造が困難となった。
【0050】
さらに、採取できた歯ブラシ用毛材(比較例3)は、防汚性は優れているものの、清掃性評価の際に毛折れが発生し、歯ブラシ用毛材としての物理特性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の歯ブラシ用毛材は、従来の熱可塑性樹脂からなる歯ブラシ用毛材に比べて優れた清掃性を持つとともに、清掃時に除去された食べカスや歯垢、さらには歯磨き剤などが毛材内部やタフト間に付着し難いなど、防汚性に優れ、使用者に清潔感を与えるものであることから、その実用性はきわめて高く、またその特徴を利用して、歯ブラシ以外の各種ブラシにも応用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルモノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記ポリエステルモノフィラメントは温度25℃の下での動粘度が50〜30,000mm/sのジメチルポリシロキサンを0.5〜25重量%含有していることを特徴とする歯ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記カットブリッスルの少なくとも一端には、先端が先鋭なテーパー部を有することを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする歯ブラシ。