説明

歯ブラシ用毛材および歯ブラシ

【課題】従来の芯鞘構造糸よりも毛腰が強く、撥水性が高いことから清掃性に優れると共に、芯鞘界面の剥離を起こしにくいことから耐久性にも優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供する。
【解決手段】芯部がポリアミド樹脂、鞘部が変性エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂であり、芯部対鞘部の重量比率が60対40〜97対3の範囲にある芯鞘型複合モノフィラメントのブリッスルからなることを特徴とする歯ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の芯鞘構造糸よりも毛腰が強く、撥水性が高いことから清掃性に優れると共に、芯鞘界面の剥離を起こしにくいことから耐久性にも優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯ブラシ用毛材に求められる要求性能としては、清掃性能、つまり歯間の汚れや歯表面に付着した歯垢の除去性能が挙げられる。係る清掃性能を満たす素材としては従来からポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンなどの合成樹脂が使用されてきた。
【0003】
しかし、同一素材からなる毛材では、清掃性を高めるために、その断面を四角や三角に形態変化させたり、もしくは直径を細径化したりするなどの必要があり、また、2種類以上の樹脂を混合した素材からなる毛材では、清掃性の向上に反比例して耐久性や毛腰が低下するという問題があった。
【0004】
そこで近年、耐久性や毛腰を保ちながらも清掃性能を向上させることができる2種類の素材を用いた芯鞘型複合モノフィラメントからなる歯ブラシ用毛材が提案されている。
【0005】
例えば、芯成分として熱可塑性エラストマー樹脂、鞘成分として結晶性ポリエステル系樹脂を用いた芯鞘型複合モノフィラメントからなり、歯垢の清掃効果が優れると共に、歯肉を痛めることなく優れたマッサージ効果を有する歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)が提供されているが、この歯ブラシ用毛材は、異種の合成樹脂から構成されているため、芯鞘界面の剥離が起こりやすく、界面間にブラッシングの際に除去された歯垢や食べカスが付着しやすいばかりか、毛折れもしやすいため、使用者によっては触感や衛生面で不快感があり、悪い印象を抱きやすいという問題があった。
【0006】
さらに、上記の問題を改善するため、ポリエステル樹脂もしくはポリアミド樹脂にフッ素系樹脂を含有させたモノフィラメントからなる歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、この歯ブラシ用毛材では、フッ素樹脂の含有率を高くすると製造が困難となるばかりか毛腰や耐久性が低下してしまい、また含有率を少なくすると、衛生面の向上ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−159344公報
【特許文献2】特開2004−298327公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来の芯鞘構造糸よりも毛腰が強く、撥水性が高いことから清掃性に優れると共に、芯鞘界面の剥離を起こしにくいことから耐久性にも優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明によれば、芯部がポリアミド樹脂、鞘部が変性エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂であり、芯部対鞘部の重量比率が60対40〜97対3の範囲にある芯鞘型複合モノフィラメントのブリッスルからなることを特徴とする歯ブラシ用毛材が提供される。
【0011】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材においては、前記芯鞘型複合モノフィラメントの直径が0.1mm〜0.3mmの範囲にあることが好ましい。
【0012】
また、本発明の歯ブラシは、前記歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも1部として基台に植毛したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来の芯鞘構造糸よりも毛腰が強く、撥水性が高いことから清掃性に優れると共に、芯鞘界面の剥離を起こしにくいことから耐久性にも優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本、発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明でいう芯鞘型複合モノフィラメントとは、ポリアミド樹脂からなる芯成分と、変性エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂からなる鞘成分とで構成される複合モノフィラメントである。芯部対鞘部の重量比率は60対40〜97対3、好ましくは70対30〜95対5の範囲にあることが必要な要件である。
【0016】
ここで、芯成分と鞘成分との重量比率が上記の範囲以外の場合には、界面剥離が起こりやすいばかりか操業性が悪くなり、安定的に製造できないため好ましくない。
【0017】
また、本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの直径は、その用途に応じて選択することができるが、通常歯ブラシ用毛材とする場合には0.1mm〜0.3mmの範囲が好ましい。直径が0.1mmを下回る場合には、歯ブラシ用毛材としての触感の不足や毛折れの原因を招き、0.3mmを上回る場合には、ブラッシング時の歯の隙間への清掃性が失われるという傾向が招かれることがある。
【0018】
本発明の複合モノフィラメントの鞘部を構成する反応性基を有するエチレンパーフルオロエチレンプロペン共重合樹脂(以下、EFEPと称する)とは、例えば、エポキシ基などのポリアミド系樹脂と接着性の良い反応性基を有する共重合樹脂であるが、必ずしもそれに限定されるものではない。より具体的にはダイキン工業製EFEP(エチレンパープルオロエチレン共重合樹脂)のRP−4000やRP−5000などが挙げられる。RP−4000やRP−5000は水との接触角が96度であることから、一般的に50度程度であるポリアミド系樹脂に比べ撥水性に優れているため、歯ブラシとした際に水を弾く性質があり、これは汚れを落としやすい点で最適であるといえる。
【0019】
次に、本発明の芯鞘型複合モノフィラメントの芯部を構成するポリアミド系樹脂とは、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン56、ナイロンMXD6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66共重合体から選ばれた少なくとも一種であるが、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0020】
また、前記EFEP樹脂の融点が150℃から230℃の範囲にあり、且つ、ガラス転移温度が20℃から85℃の範囲にあることが、本発明が目的としている芯鞘型複合モノフィラメントを製造する操業性の面で好ましい。その理由は、EFEP樹脂の融点およびガラス転移温度が上記の範囲であれば、芯部として使用するポリアミド系樹脂の融点およびガラス転移温度と近いため溶融複合する際の紡糸性が向上し、延伸条件も扱いやすくなるからであり、150℃から230℃の範囲以外では、操業性が悪くなり製造が困難になるからである。
【0021】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材および歯ブラシの製造方法については特に限定されないが、一般的な方法としては、公知の複合型溶融紡糸機を使用して紡糸することにより得られた芯鞘型複合モノフィラメントを毛束として必要な長さにカットすることによりブリッスルとなし、このブリッスルを毛材の少なくとも1部として基台に植毛することにより歯ブラシが得られる。
【0022】
具体的に芯成分がN610樹脂、鞘成分がEFEP樹脂からなる歯ブラシ用毛材を製造する場合を例に挙げると、まずN610樹脂ペレットおよびEFEP樹脂ペレットをそれぞれ複合型溶融紡糸機に供給して、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金からN610樹脂およびEFEP樹脂の溶融物を共押し出しする。
【0023】
引き続き、共押し出されたN610樹脂およびEFEP樹脂の溶融物は、冷却浴中で冷却固化された後、延伸および熱セットされて、芯鞘型複合モノフィラメントとなる。
【0024】
このようにして得られた芯鞘型複合モノフィラメントは、前記のとおり表層部が水との接触角が大きいフッ素系樹脂で構成されていることから撥水性に優れ、歯ブラシ表面の汚れを落としやすく、且つそのフッ素系樹脂はポリアミド系樹脂と接着性の良い反応基を有していることから、界面剥離が従来になく改善されたものであり、歯ブラシ用毛材として十分な毛腰また耐久性を持ちながらも衛生面に優れた歯ブラシ用毛材および歯ブラシを得ることができるのである。
【0025】
なお、本発明の目的や効果に影響しない範囲であれば、上記各樹脂に対し、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類、抗酸化剤、耐光剤、対侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを添加することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の歯ブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明の歯ブラシ用毛材はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
以下に、本発明の歯ブラシ用毛材および歯ブラシの評価方法について説明するが、下記の各評価で使用した本発明の歯ブラシの仕様は次の通りである。
【0028】
基台:ABS製(9mm×22mm)
植毛孔数:34箇
植毛本数:一つの孔につき20本
毛丈:10mm
[界面剥離性]
5.5mmφのステンレス製丸棒の先端部(円形フラット断面)で、押しつぶし部分の幅が糸の太さの約2.5倍となるように力を加えて押しつぶし、その押しつぶし部分を光学顕微鏡(拡大倍率40倍)で観察し、界面の剥離の程度を肉眼で観察することにより、以下の基準で判定した。
【0029】
○…光学顕微鏡(拡大倍率40倍)での観察で、剥離が認められない、
×…光学顕微鏡(拡大倍率40倍)での観察で、全体的に剥離が認められる。
【0030】
[耐久性]
前記の歯ブラシに対し、歯ブラシ摺動面裏側から垂直に500gの荷重をかけ、37℃の温水を滴下させた状態で、ステンレス製の波板に対して歯ブラシの長手方向に20000回摺動運動をさせ、ブラシ部の毛開き率(K)を測定した。毛開き率の算出方法は、初期状態におけるブラシ部摺動面の横幅をAmm、摺動後の横幅をBmmとしたとき、K=(B−A)/A×100(%)とした。評価基準は次の通りである。
【0031】
◎: 耐久性に極めて優れている (K≦20%)、
○: 耐久性に優れている (20%<K≦40%)、
△: 普通の耐久性 (40%<K≦60%)、
×: 耐久性が極めて劣る (60%<K≦100%)。
【0032】
[毛腰]
本発明で得た芯鞘複合モノフィラメントを歯ブラシに植毛し、これを成人20名に1種類あたり5日間使用してもらい、使用感、特に歯茎への刺激について回答を得た。評価基準は次の通りである。
【0033】
◎ : 「非常に良い」
○ : 「良い」
△ : 「普通」
× : 「悪い」
[清掃性]
2枚のアクリル板の間に隙間を設けることにより、疑似歯のモデルを作製し、溝部の隙間を0.1mmに設定した。
【0034】
この疑似歯のモデルにあらかじめ歯科咬合チェック用スプレーで見かけの汚れを付着させた後、歯ブラシを用いて、負荷400g、振幅70mm、スピード180rpmで3分間ブラッシングを行い、ブラッシング後に清掃できた面積を測定して、ブラッシング前の見かけ汚れ付着面積に対する百分率を算出し、仮想汚れの除去率を下記のように表記した。
【0035】
◎ : 清掃性に極めて優れている(汚れ除去率≧50%)、
○ : 清掃性に優れている(50%>汚れ除去率>30%)、
△ : 普通の清掃性(30%>汚れ除去率≧10%)、
× : 清掃性が劣る(10%>汚れ除去率)。
【0036】
[実施例1]
N610樹脂(東レ製M2001:融点225℃、ガラス転移温度45℃)を芯成分(65重量%)とし、EFEP樹脂(ダイキン工業製EFEP、RP−5000:融点200℃、ガラス転移温度75℃)を鞘成分(35重量%)として、各N610樹脂ペレットおよびEFEP樹脂ペレットを複合溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金からN610樹脂およびEFEP樹脂の溶融物を共押し出しした。引き続き、共押し出されたN610樹脂およびEFEP樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行うことにより、直径0.19mmで、表1に示した芯部対鞘部重量比率からなる芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0037】
次に、得られた芯鞘型複合モノフィラメントをカットし、前記選択した歯ブラシの仕様にて植毛して得た歯ブラシで評価を行った。
【0038】
[実施例2]
芯部95重量%および鞘部5重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.19mmで表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0039】
[実施例3]
芯部重量75%および鞘部25重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.19mmで表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0040】
[実施例4]
直径を0.12mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして、表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0041】
[実施例5]
直径を0.29mmにしたこと以外は、実施例1と同様にして、表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、芯部50重量%および鞘部50重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.19mmで表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0043】
[比較例2]
芯部20重量%および鞘部80重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.19mmで表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0044】
[比較例3]
芯部35重量%および鞘部65重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.19mmで表1に示した芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0045】
[比較例4]
N610樹脂ペレットのみを用いて溶融紡糸したこと以外は、実施例1と同様の方法によりN610モノフィラメントを得た。
【0046】
[比較例5]
芯部65重量%およびPETからなる鞘成分35重量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法により芯鞘型複合モノフィラメントを得た。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果から明らかなように、本発明の歯ブラシ用毛材は、本発明の条件を満たさないモノフィラメントまたは複合モノフィラメントからなる歯ブラシ用毛材(比較例1〜5)に比べて、界面剥離が起こりにくく、また、直径の制御により十分な耐久性と毛腰を有するとともに、歯間への清掃性が優れ、さらには汚れが落ちやすく、衛生面にも優れていることがわかる。
【0049】
なかでも、実施例1および2、3は、耐久性および毛腰、清掃性に効果が大きく最適な素材構成であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の歯ブラシ用毛材および歯ブラシは、従来の芯鞘構造糸よりも毛腰が強く、撥水性が高いことから清掃性に優れると共に、芯鞘界面の剥離を起こしにくいことから耐久性にも優れているため、衛生面にも効果の高い歯ブラシとして、日常的に繰り返すブラッシングに最適でしかも長期間清潔に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリアミド樹脂、鞘部が変性エチレンテトラフルオロエチレン共重合樹脂であり、芯部対鞘部の重量比率が60対40〜97対3の範囲にある芯鞘型複合モノフィラメントのブリッスルからなることを特徴とする歯ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記芯鞘型複合モノフィラメントの直径が0.1mm〜0.3mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも1部として基台に植毛したことを特徴とする歯ブラシ。

【公開番号】特開2013−102987(P2013−102987A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249286(P2011−249286)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】