説明

歯付きベルト

【課題】 歯付きベルトの耐久性を向上させる。
【解決手段】 歯付きベルト10は、エラストマーから形成されるベルト本体11を有する。ベルト本体11は、歯部20が形成された歯ゴム層12と、ベルトの背面側に設けられる背ゴム層22を有する。歯ゴム層12の表面に、歯布19を被覆する。歯布19を、ベルトの長手方向に延在する糸と、幅方向に延在する糸によって織成する。幅方向に延在する糸はポリアリレート繊維糸を含む。歯布19には、歯ゴム層12に接合する前に、ゴムまたはラテックスを含む配合物を付着させ、加熱処理している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付きベルトに備えられた歯布の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来タイミングベルトとして、例えばその一方の面に歯部が形成された歯付きベルトが広く用いられる。歯付きベルトは、歯部が形成された面が歯布によって被覆され、この歯布には、ナイロン6、ナイロン66、およびアラミド等の繊維で構成される帆布が使用される。
【0003】
また、摩擦伝動ベルトとしてはVベルトが用いることが広く知られている。Vベルトは、補強布により耐久性等を向上させており、この補強布は、例えばVベルトの周囲を被覆するように設けられ、またVベルトのゴム層上に積層されるように設けられる。Vベルトの補強布には、一般的に綿、アラミド繊維が使用されており、さらには近年、耐熱性能等を維持したまま摩擦伝達性能を向上させるために、ポリアリレート繊維を使用することも検討されつつある(例えば特許文献1および2)。
【特許文献1】特開平9−273605号公報
【特許文献2】特開平9−273606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで歯付きベルトは、近年高負荷かつ高温度の条件下で耐久性を向上させることが要求されつつある。しかし、ナイロンやアラミド繊維から成る歯布を用いた歯付きベルトでは、このような過酷な条件下で十分な耐久性を向上させることが困難である。
【0005】
また、上述したように、Vベルトのカバー帆布や補強布に、ポリアリレート繊維を用いることが知られている。しかし、Vベルトは、摩擦力によって動力を伝達するベルトである一方、歯付きベルトはプーリとベルトとの噛み合いにより動力を伝達するものである。すなわち、Vベルトは、その作用および構成が歯付きベルトと大きく異なり、Vベルトの補強布を直ちに歯付きベルトに適用できるわけではない。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みて成されたものであり、高負荷かつ高温度の条件下で使用される歯付きベルトにおいて、耐久性を向上させることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯付きベルトは、エラストマーから形成され、一方の面に歯部と歯底部が交互に設けられて構成される歯ゴム層を有するベルト本体と、ベルト本体の内部または表面に積層される歯布とを備え、歯布はポリアリレート繊維を含み、かつゴム又はラテックスを含む配合物が付着されていることを特徴とする。そして、歯布は、歯ゴム層の歯部と歯底部の表面を覆うことが好ましい。
【0008】
配合物は、水素添加ニトリルゴム、フッ素ゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、またはこれらゴムのラテックスの少なくとも1つを含むことが好ましく、特に好ましくは水素添加ニトリルゴムまたは水素添加ニトリルゴムラテックスを含む。
【0009】
配合物は、例えばRFLまたはゴム糊である。すなわち、歯布は、ベルト本体に接合される前に、RFL処理またはゴム糊処理が施されている。
【0010】
歯布は、ベルトの長手方向に延在する糸と、幅方向に延在する糸によって織成され、長手方向に延在する糸が、例えばポリアリレート繊維を含む。また、長手方向に延在する糸は、ポリアリレート繊維およびポリアリレート繊維よりも伸縮性が高い高伸縮性繊維糸を含むほうが良い。これら構成により、本発明の歯付きベルトは、耐久性を有するとともに、長手方向に伸縮性を有するので、適切な屈曲性を有することができる。
【0011】
歯布は、ベルト本体に積層される前に、配合物を含む溶液に浸漬された後、加熱乾燥されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯付きベルトは、歯布にポリアリレート繊維を使用することにより、高負荷かつ高温度の条件下においても、その耐久性を向上させることができる。また、ポリアリレート繊維は、ゴム又はラテックスに対する接着性が良好であるので、ポリアリレート繊維にゴム又はラテックスを含む配合物を付着させると、その歯布とベルト本体との接着強度を向上させることができ、ベルトの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態である歯付ベルト10の一部を切断した斜視図を示す。歯付きベルト10は、ベルト本体11を有し、ベルト本体11は、歯付ベルト10の上面側に設けられる歯ゴム層12と、ベルトの背面側に設けられる背ゴム層22から構成される。歯ゴム層12は、ベルトの長手方向に沿って、歯部20と歯底部21が交互に繰り返し設けられて構成される。歯ゴム層12と背ゴム層22の間には心線14がベルトの長手方向に延びるように埋設されている。歯ゴム層12の歯部20および歯底部21の表面25には、歯布19が覆うように接合される。
【0014】
ただし、歯布19は、ベルト本体の内部または表面に積層されていれば良く、上述のように表面25を覆うように設けられていなくても良い。したがって、例えば歯ゴム層12内に埋設して積層されていても良い。この場合歯布19は、歯ゴム層12の表面25に略平行で、かつその歯ゴム層12の表面25に近接して積層されることが好ましく、例えば歯部20の表面25が摩耗された場合、露出するような位置に積層される。
【0015】
ベルト本体11はエラストマーから形成され、ベルト本体11を構成する原料ゴムとしては、水素添加ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元重合体配合物、エチレン−プロピレンゴム、フッ素ゴム、カルボキシル化水素添加ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、またはニトリルゴム等の単体またはこれらの混合物が使用されるが、好ましくは水素添加ニトリルゴムが使用される。
【0016】
歯布19は、経糸と、その経糸の直交する方向に沿って延在する緯糸が織られて構成された織物であり、例えば、平織、綾織、朱子織等により織成される。緯糸は、ポリアリレート繊維から成る糸と、ポリアリレート繊維よりも伸縮性の高い繊維から成る糸(以下高伸縮性繊維糸という)を含む複合糸である。詳述すると、緯糸は高伸縮性繊維糸を中心に、その周囲にポリアリレート繊維糸およびポリアリレート繊維以外の繊維から成る糸(以下カバー繊維糸という)が巻き回されて成り、好ましくは高伸縮性繊維糸の周りにポリアリレート繊維糸が巻き回され、そのポリアリレート繊維糸の周りにさらに、カバー繊維糸が巻き回されて構成される。
【0017】
高伸縮性繊維糸は、その材質が限定されるわけではないが、例えばウレタン弾性糸等である。カバー繊維糸も、その材質が限定されるわけではないが、例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維等で構成される糸である。なお、緯糸に使用されるポリアリレート繊維は、いわゆる全芳香族ポリエステルからなるものであり、その具体例として、例えばベクトラン(商品名.クラレ社製)が挙げられる。経糸は、その材質が特に限定されるわけではないが、ナイロン繊維またはポリエステル繊維等で構成される。
【0018】
歯布19の緯糸はベルトの長手方向に延在する一方、経糸はベルトの幅方向に延在する。したがって、ポリアリレート繊維を含む糸は、ベルトの長手方向に延在する。ただし、ポリアリレート繊維糸を含む緯糸は幅方向に延在しても良い。さらに、緯糸がナイロン繊維またはポリエステル繊維等から構成され糸である一方、経糸がポリアリレート繊維を含む上述の複合糸から構成され、経糸がベルトの幅方向または長手方向に延在し、緯糸がその経糸が延在する方向に垂直に延在しても良い。
【0019】
歯布19は、加硫接着により歯ゴム層12に接着される。歯布19は、歯ゴム層12に加硫接着されやすいように、加硫接着前に、ゴムやラテックスを含む配合物が付着されている。ゴムやラテックスは、例えば、RFL(レゾルシンホルマリンラテックス)処理やゴム糊処理等により、歯布19に付着される。配合物は、水素添加ニトリルゴム、フッ素ゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、またはこれらゴムのラテックスの少なくとも1つを含むことが好ましい。さらには、配合物は、水素添加ニトリルゴム、または水素添加ニトリルゴムラテックスを含むことが好ましい。
【0020】
RFL処理では、歯布19がRFL溶液に浸漬された後加熱乾燥される。これにより、RFLは歯布19の繊維内に含浸するとともに、歯布19の表面に一定の厚みを有するRFL膜が形成される。RFL溶液は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物であるRF樹脂と、ラテックスとを混合した水溶液である。ラテックスは、例えばスチレンブタジエンラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合ラテックス、クロロプレンラテックス、水素添加ニトリルゴムラテックス、フッ素ゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、カルボキシル化ニトリルゴムラテックス等の単体またはこれらの混合物であるが、好ましくは水素添加ニトリルゴムラテックスが含まれる。
【0021】
ゴム糊処理では、歯布19がゴム糊液に浸漬された後加熱乾燥される。これにより、ゴム糊は歯布19内に含浸するとともに、歯布19の表面に一定の厚みを有するゴム糊膜が形成される。ゴム糊液は、未加硫ゴムがMEK(メチルエチルケトン)やトルエン等の溶剤に溶解され、加硫剤、カーボンブラック等の所定の添加剤が添加されて、作成される。未加硫ゴムは、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体配合物(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、カルボキシル化水素添加ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、またはフッ素ゴム等の単体またはこれらの混合物であるが、好ましくは、水素添加ニトリルゴムが含まれる。なお、RFL処理、及びゴム糊処理における加熱温度は、例えば150〜200℃程度である。
【0022】
図2、3は、歯付きベルト10の製造方法を示す。本製造過程においては、まず、円筒形状の歯付きドラム40が用意される。歯付きドラム40は、その外周面に歯形溝部42が周方向に等間隔に形成されている。歯付きドラム40には、端部同士が接合されることにより円筒状に形成された歯布19’が被せられる。その歯布19’上には、螺旋状に心線14’が巻き付けられ、その心線14’には1枚のゴムシート11’が巻き付けられる。歯布19’には、上述したようにRFL処理またはゴム糊処理が施されている。
【0023】
ゴムシート11’等が巻き付けられた歯付きドラム40(図2参照)は、加硫釜(図示せず)内に入れられ、所定の温度、圧力で加圧加熱される。加圧により歯付きドラム40の外側から圧力が作用されると、ゴムシート11’は、隣接する心線14’の間から歯形溝部42内に流入される。この流入により、心線14’がゴムシート11’内に埋設されるとともに、歯布19’が押圧され、歯付きドラム40の外周面に沿うように成形される(図3参照)。ゴムシート11’は、加圧加熱により加硫され、歯布19’および心線14’に加硫接着される。以上の工程によりベルトスラブ10’が得られ、ベルトスラブ10’は裁断され、図1に示すような歯付きベルト10と成る。なお、歯布19’、心線14’、およびゴムシート11’は、それぞれ歯付きベルト10においては、歯布19、心線14、およびベルト本体11に対応する。
【0024】
〔実施例〕
本実施形態を具体的に説明するために以下実施例を用いてさらに詳細に本発明について説明する。以下の各実施例および比較例においては、上述の製造方法によって歯布を製造し、その製造された歯布を用いて歯付きベルトを製造した。
【0025】
〔実施例1〕
実施例1においては、歯布は、経糸および緯糸を綾織で織成されたものであった。経糸はナイロン66で構成され、その重量繊度が110dtexであった。緯糸は高伸縮性繊維糸の周りに、ポリアリレート繊維糸を巻き回し、そのポリアリレート繊維糸の上にさらにカバー繊維糸を巻き回して構成した複合糸であった。ここで高伸縮性繊維には、ウレタン弾性糸を使用し、その糸の重量繊度は470dtexであった。カバー繊維糸には、ナイロン66が使用され、その糸の重量繊度は110dtexであった。ポリアリレート繊維糸には、ベクトラン(商品名.クラレ社製)を使用し、このポリアリレート繊維糸の重量繊度は280dtexであった。
【0026】
実施例1においては、上述の歯布をゴム糊液に浸漬した後、加熱乾燥することにより、ゴム糊処理を施した。実施例1で使用したゴム糊液は、表1に示すゴム配合をMEKに加えて作成したものであり、水素添加ニトリルゴムを主成分とするゴム糊液であった。ゴム糊処理を施した歯布を用いて、歯付きベルトを上述の方法により製造した。実施例においては、経糸がベルトの幅方向に延在するとともに、緯糸がベルトの長手方向に延在するように歯付きベルトを製造した。なお以下述べる実施例2〜5、および比較例1〜3においても、緯糸および経糸が延在する方向は、実施例1と同様であった。
【0027】
歯付きベルトの製造において、使用したゴムシートのゴム配合は、表2に示す通りゴム糊液のゴム成分と同一であり、ベルト本体11を構成する原料ゴムは、水素添加ニトリルゴムであった。なお、以下述べる実施例2〜5、および比較例1〜3においても、ゴムシートは表2に示すゴム配合のものを使用し、ベルト本体11を構成する原料ゴムは、水素添加ニトリルゴムであった。
【0028】
〔実施例2〕
実施例2においては、ゴム糊液の配合が異なる以外、実施例1と同様に、歯布および歯付きベルトを製造した。実施例2におけるゴム糊液は、表1に示すゴム配合を溶剤であるMEKに加えて作成したものであり、フッ素ゴムをゴム成分とするゴム糊液であった。
【0029】
〔実施例3〕
実施例3においては、ゴム糊液の配合が異なる以外、実施例1と同様に、歯布および歯付きベルトを製造した。実施例3におけるゴム糊液は、表1に示すゴム配合をMEKに加えて作成したものであり、カルボキシル化ニトリルゴムをゴム成分とするゴム糊液であった。
【0030】
〔実施例4〕
実施例1〜3においては、歯布にゴム糊処理を施して、そのゴム糊処理を施した歯布を用いて歯付きベルトを製造したが、実施例4においては、歯布にゴム糊処理を施す代わりにRFL処理を施し、そのRFL処理を施した歯布を用いて歯付きベルトを製造した。ここで、RFL処理は、歯布をRFL液に浸漬した後、加熱乾燥することにより行った。実施例4で使用されるRFL液は、表3に示す配合のものを用い、ラテックスには水素添加ニトリルゴムラテックスを使用した。
【0031】
〔実施例5〕
実施例5においては、RFL液の配合が異なる以外、実施例4と同様に、歯布および歯付きベルトを製造した。実施例5におけるRFL液は、表3に示す通りで、ラテックスにカルボキシル化ニトリルゴムラテックスを使用したものであった。
【0032】
〔比較例1〕
比較例1は、緯糸のポリアリレート繊維糸をアラミド繊維糸に置き換えた点以外は、実施例1と同様であった。すなわち、比較例1においては、表1に示すように、ゴム糊処理において、水素添加ニトリルゴムを主成分とするゴム糊液を使用した。また、歯布は、経糸および緯糸を綾織で織成されたものであった。経糸はナイロン66で構成され、その重量繊度が110dtexであった。緯糸は高伸縮性繊維糸の周りに、アラミド繊維糸を巻き回し、そのアラミド繊維糸の上にさらにカバー繊維糸を巻き回して構成した糸であった。ここで高伸縮性繊維には、ウレタン弾性糸を使用し、その重量繊度は470dtexであった。カバー繊維糸には、ナイロン66で構成される糸を使用し、その糸の重量繊度は110dtexであった。アラミド繊維糸にはパラ系アラミド繊維糸のテクノーラ(商品名.帝人社製)を使用し、このアラミド繊維糸の重量繊度は220dtexであった。
【0033】
〔比較例2〕
比較例2においては、ゴム糊液の配合が異なる以外、比較例1と同様に、歯布および歯付きベルトを製造した。比較例2におけるゴム糊液は、実施例1のゴム糊液と同一であり、フッ素ゴムを主成分とするゴム糊液であった。
【0034】
〔比較例3〕
比較例3においては、歯布の構成以外は、実施例1と同様であった。比較例3の歯布は、経糸および緯糸を綾織で織成されたものであった。比較例3においては、経糸および緯糸ともに、ナイロン66糸で構成され、その重量繊度は、経糸が235dtex、緯糸が470dtexであった。
【0035】
【表1】

【表2】

【表3】

【0036】
なお、上記実施例、比較例においては、以下のゴムおよびラテックスを使用した。
水素添加ニトリルゴム:結合アクリロニトリル量=36.2%、比重=0.95の中高ニトリルタイプ
フッ素ゴム:フッ素含量=67%、比重1.86
カルボキシル化ニトリルゴム:結合アクリロニトリル量=27.0%、比重=0.98の中ニトリルタイプ
水素添加ニトリルゴムラテックス:pH=10.0、粘度=30mPa・s、比重0.99、平均粒子径=0.20μmの中高ニトリルタイプ
カルボキシル化ニトリルゴムラテックス:pH=8.5、粘度=15mPa・s、比重=1.00、平均粒子径=0.12μmの高ニトリルタイプ
【0037】
〔各実施例及び比較例の評価〕
各実施例及び比較例を以下説明するように、接着強度試験、熱老化試験、及び高負荷耐久性試験により評価した。接着強度試験及び高負荷耐久性試験の結果を、表4に示すとともに、熱老化試験の結果を表5に示す。以下、各試験方法及び試験結果について詳細に説明する。なお、表4においては、歯布、処理液(ゴム糊液、RFL液)の構成についても記載した。
【0038】
【表4】

【表5】

【0039】
〔接着強度試験〕
実施例1〜5、および比較例1〜3に係る歯布について、それぞれ接着強度試験により接着強度を評価した。接着強度試験においては、上記実施例1〜5、および比較例1〜3のゴム糊処理またはRFL処理を施した歯布を使用した。本試験においては、未加硫ゴムシートの上に歯布を配置し、プレス機により圧力を作用させつつ加熱することにより加硫し、ゴムシート51に歯布52が加硫接着して構成される接着試験サンプル50(図4参照)を得た。接着試験サンプル50は、長さ100mm、幅25mm、厚さ4mmであった。なお、接着試験サンプル50の製造においては、加熱温度160℃、加熱時間20分間で行った。また、本試験における未加硫ゴムは、表2に示す配合のものを使用した。
【0040】
図5は、接着試験サンプル50を引張試験機に取り付けた状態を示す斜視図である。図5に示すように、接着試験サンプル50はその長手方向を図5の左右方向に配置し、歯布52とゴムシート51を僅かに剥がし、歯布52の端部を図中上方のチャック61に取付け、ゴムシート51の端部を図中下方のチャック62に取付け、両者を50mm/分の速度で引っ張った。歯布52とゴムシート51を剥離するときの力は、周期的に大小を繰り返すが、その複数の極大値と極小値の相加平均値を、接着強度とした。
【0041】
上記接着強度試験は、常温(23℃)下で行うとともに、120℃の高温槽の中においても行った。また、140℃の条件下で560時間放置した接着試験サンプル50についても、放置した後常温(23℃)に戻し、常温(23℃)下で上記接着強度試験を実施した。
【0042】
以上の接着強度試験において、実施例1と比較例1とを比較すると、帆布に付着される配合物(水素添加ニトリルゴム)は同一であるが、実施例1の接着強度が良好であることが理解できる(表4参照)。これは、実施例1において、歯布にポリアリレート繊維を含むものが使用されためと考えられ、すなわち、水素添加ニトリルゴムとポリアリレート繊維の接着力が良好であることに起因するものと考えられる。比較例2と実施例2を比べても、実施例2の接着強度が良好であるが、これも同様にフッ素ゴムとポリアリレート繊維の接着力が良好であることに起因するものと考えられる。また、実施例3〜5についても接着強度は、良好であるが、実施例1に比べると、接着強度が劣ることが理解できる。なお、ナイロンを使用した歯布については、初期の接着強度は良好であったが、熱老化後の強度は非常に低下していることが理解できる。
【0043】
〔熱老化試験〕
実施例1〜5、および比較例1〜3で製造された歯布を用いて、熱老化試験を実施した。熱老化試験においても、ゴム糊処理またはRFL処理を施した歯布を使用した。各実施例、比較例においては、ゴム糊処理を施した歯布を切断し、長さ550mm、幅25mmの測定用歯布をそれぞれ作製した。このとき、緯糸が延在する方向が長さ方向に、経糸が延在する方向が幅方向になるようにした。これら測定用歯布を、140℃の条件下で放置し、0、70、280、560、1000、および2000時間経過後それぞれにおいて、破断強度を測定した。ここで、破断強度とは、測定用歯布を長さ方向に200mm/分の引張速度で引っ張っていき、破断したときに長さ方向に作用されている引張力をいう。
【0044】
破断強度及び破断強度残存率と放置時間との関係を表5に示す。なお、破断強度残存率とは、放置前(0時間)の測定用歯布の破断強度を100としたとき、2000時間後における破断強度を%で示したものである。
【0045】
表5から明らかなように、いずれの歯布も、破断強度は、熱老化に伴い低下することが理解できる。しかし、実施例1〜5の歯布は、比較例1〜3の歯布に比べて、2000時間後における破断強度残存率が優れていたことが理解できる。すなわち、ゴム糊処理及びRFL処理が施され、かつポリアリレート繊維を用いた歯布は、高温環境下での耐久性が優れていることが理解できる。
【0046】
また、比較例1および2に示すように、歯布の緯糸にアラミド繊維糸を用いた場合、ゴム糊液のゴム成分を、フッ素ゴムから水素添加ニトリルゴムに変更したところで、その破断強度および破断強度残存率については、顕著な差異は見られなかった。しかし実施例1および2に示すように、歯布の緯糸にポリアリレート繊維糸を用いた場合、ゴム糊液のゴム成分を、フッ素ゴムから水素添加ニトリルゴムに変更すると、その破断強度および破断強度残存率は、驚くべきことに顕著に向上した。これは、水素添加ニトリルゴムのゴム成分は、ポリアリレート繊維糸に対して非常に接着性が良好であり、帆布の強度を強化する効果が他の物質に比べて顕著であるためと考えられる。
【0047】
〔高負荷耐久性試験〕
実施例1〜5、および比較例1〜3に係る歯付きベルトについて、それぞれ高負荷耐久性試験により、高負荷作用時における耐久性を評価した。図6は、高負荷耐久性試験に使用した走行試験装置90である。走行試験装置90は、原動歯付きプーリ91、従動歯付きプーリ92、アイドラプーリ93、およびアイドラ歯付きプーリ94を有する。本試験において、原動歯付きプーリ91および従動歯付きプーリ92に、歯付きベルト95を掛け回し、100℃の雰囲気下で歯付きベルト95を時計回りに回転させた。ベルトの緩み側には、外側からアイドラプーリ93によって、内側からアイドラ歯付きプーリ94によってテンションを作用させた。なお、原動歯付きプーリ91の歯数は18歯、従動歯付きプーリの歯数は36歯であり、原動歯付きプーリ91を3500rpmで回転させた。そして、歯付きベルト95が回転中、各歯には、従動歯付きプーリ92によって、1歯当たり7.3N/mの荷重を作用させた。
【0048】
本試験においては、ベルトの破断に至るまで時間を測定することにより耐久性を評価した。表4から明らかなように、実施例1〜5は、比較例1〜3に比べて、破断に至るまでの時間が長かった。すなわち、ゴム糊処理またはRFL処理が施され、かつポリアリレート繊維糸を含む歯布を使用した歯付きベルトは、従来の歯付きベルトに比べて、高負荷条件下において、優れた耐久性を有することが理解できる。
【0049】
また、本試験においても、熱老化試験の場合と同様に、歯布を水素添加ニトリルゴムのゴム糊によって処理した場合(実施例1)、他のゴム成分のゴム糊によって処理した場合(実施例2,3)に比べ、耐久性が優れていたことが理解できる。さらに、水素添加ニトリルゴムラテックスを用いて歯布をRFL処理した場合(実施例4)、他のラテックスを用いた場合(実施例5)に比べ、同様に耐久性が優れていたことが理解できる。すなわち、本試験においては、水素添加ニトリルゴムまたはゴムラテックスを含む配合物が付着された歯布は、他の配合物が付着された歯布に比べ、高負荷走行時の耐久性が優れていることが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係る歯付ベルトを模式的に示す斜視図である。
【図2】歯付ベルトの製造方法の一工程を模式的に示す側面図である。
【図3】歯付ベルトの製造方法の一工程を模式的に示す側面図である。
【図4】接着強度試験に使用された接着試験サンプルを示す斜視図である。
【図5】接着試験サンプルを引張試験機に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図6】高負荷耐久性試験に使用された走行試験装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 歯付きベルト
11 ベルト本体
12 歯ゴム層
14 心線
19 歯布
22 背ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーから形成され、一方の面に歯部と歯底部が交互に設けられて構成される歯ゴム層を有するベルト本体と、前記ベルト本体の内部または表面に積層される歯布とを備え、前記歯布はポリアリレート繊維を含み、かつゴム又はラテックスを含む配合物が付着されていることを特徴とする歯付きベルト。
【請求項2】
前記配合物は、水素添加ニトリルゴム、フッ素ゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、またはこれらゴムのラテックスの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項3】
前記配合物は、水素添加ニトリルゴムまたは水素添加ニトリルゴムラテックスを含むことを特徴とする請求項2に記載の歯付きベルト。
【請求項4】
前記配合物は、RFLまたはゴム糊のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項5】
前記歯布は、ベルトの長手方向に延在する糸と、幅方向に延在する糸によって織成され、前記長手方向に延在する糸がポリアリレート繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト。
【請求項6】
前記長手方向に延在する糸は、ポリアリレート繊維およびポリアリレート繊維よりも伸縮性が高い高伸縮性繊維糸を含むことを特徴とする請求項5に記載の歯付きベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−46676(P2007−46676A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230632(P2005−230632)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)