説明

歯科インプラントのためのインプレッションポスト

【課題】歯科インプラントの位置を確実かつ高精度に転写するインプレッションポストを提供する。
【解決手段】本発明に係る歯科インプラント(20)のためのインプレッションポストは、歯科インプラント(20)に結合するように構成された結合部(16)を備えるスリーブ状のインプレッションキャップ(4)と、インプレッションキャップ(4)の長手軸方向に延びる穴部(6)と、インプレッションキャップ(4)を歯科インプラント(20)に装着するために穴部(6)に嵌挿される装着要素(8)とを含んでおり、インプレッションキャップ(4)は、内側スリーブ(10)と、内側スリーブ(10)を半径方向外側で取り囲む外側スリーブ(12)とを含み、外側スリーブは、内側スリーブ(10)に取り外し可能に装着され、結合部(16)は、少なくとも部分的に内側スリーブ(10)に備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に記載したような、歯科インプラントのためのインプレッションポストに関する。本発明は、さらに、このインプレッションポストを用いた印象採取方法、及びオープントレー印象を採取するためのインプレッションポストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インプレッションポスト(「フォーミングポスト」ともいう)は、歯科治療において、顎骨に挿入された歯科インプラントの、その周囲環境に対する位置及び配列を、所謂作業模型(master model)に転写するために使用される。歯科技工士は、この作業模型に基づいて、歯科インプラントに装着される補綴要素を製作する。
【0003】
このような目的を達成するため、インプレッションポストは、通常、インプレッションキャップと、インプレッションキャップに結合される適切な装着要素とを有している。インプレッションキャップは、装着要素により歯科インプラントに装着され、患者の口腔内のインプレッションポストの周囲の空間及びその近傍の組織構造に、インプレッションスプーンを使用して印象材(impression compound)が充填される。この印象材は、初期的に塑性変形可能であり、その後硬化可能なものである。硬化後に患者の口腔内から取り出された印象材は、反転模型(negative model)を形成し、作業模型の原型として使用される。
【0004】
先行技術におけるインプレッションポストまたは対応する印象採取方法は、例えば、非特許文献1に記載されている。さらに、例えば、インプレッションポストに関連する特許文献1〜9も参照されたい。
【0005】
印象採取方法には、オープントレー印象を採取する方法と、クローズドトレー印象を採取する方法がある。オープントレー印象を採取する方法は、クローズドトレー印象を採取する方法とは異なり、印象材を患者の口腔内から取り出す前に、インプレッションキャップを歯科インプラントに装着するために使用された装着要素を取り外すステップを含む。装着要素は、一般的には、ねじであるため、インプレッションスプーンのねじに対応する領域には穴が設けられており、この穴を通じて、例えばスクリュードライバーを使用することによって、ねじを操作することができる。オープントレー法及びクローズドトレー法は周知であり、例えば、特許文献10に記載されている。
【0006】
オープントレー印象を採取する方法の場合、インプレッションスプーンを取り除いたときに、印象材中にインプレッションキャップが残される。これによって、作業用インプラント(manipulation implant)をインプレッションキャップ内に高精度に嵌め込むように挿入することができ、その後、作業模型の製作時に、作業用インプラントは硬石膏に埋め込まれる。これによって、作業模型において、患者の顎骨内の歯科インプラントの位置は、作業用インプラントによって高精度に指定される。オープントレー印象を採取するために使用可能なインプレッションポストは、例えば、特許文献11及び特許文献12に記載されている。
【0007】
従来のインプレッションキャップは、その根尖側端部(apical end)領域(すなわち、歯科インプラントに対峙する側の端部)に、多角形のベース部または多角形の開口部を有している場合が多い。このベース部または開口部は、歯科インプラントの歯冠側端部(coronal end)領域のベース部または開口部に対して高精度に嵌まるように形成されて、インプレッションキャップと歯科インプラントとの間の捻じれ(twist)を確実に防止することが図られている。これによって、特に印象採取時に、インプレッションポストが捻じれないため、歯科インプラントの回転位置を作業用インプラントに正確に転写することができる。さらに、歯科インプラントがその歯冠側端部に開口部を有している場合、この開口部内への印象材の侵入が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1274365号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1274366号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/093648号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6213773号明細書
【特許文献5】米国特許第6379148号明細書
【特許文献6】米国特許第6524106号明細書
【特許文献7】米国特許第6508650号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0747017号明細書
【特許文献9】米国特許第6045361号明細書
【特許文献10】米国特許第7066736号明細書
【特許文献11】米国特許第5213502号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2006/0121416号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.シュレーダー等(Schroeder,A. et al.)著,「口腔インプラント学(Orale Implantlogie)」,第2版,ゲオルク・ティエメ・フェアラーク(Georg Thieme Verlag),シュトゥットガルト(Stuttgart),1994年,p.202以下
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したような捻じれ防止手段では、インプレッションキャップと歯科インプラントとの間に、軸方向にも比較的大きな静止摩擦が生じる。これは、互いに傾いて配置された多数のインプレッションポストの印象を同時に採取する場合に、重要となる。すなわち、このような場合には、印象材を、その弾性を利用することなく取り外すことができないため、印象採取時のインプレッションポストの位置が想定される位置から比較的大きくずれていると、印象材が塑性変形するおそれがあり、その結果、作業用インプラントに転写される位置が歪んでしまう可能性がある。
【0011】
この問題は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1には、インプラントの保持穴内に固定可能な下側部分と、この下側部分に挿入又は配置可能な上側部分とを含む柱状要素が開示されており、上側部分は、柱状要素の結合位置を起点として、下側部分から様々な異なった方向に直線的に取り外し可能であることが記載されている。しかし、特許文献1に記載された柱状要素は、非常に特殊な形に設計されたインプラントに対してのみ適合可能なものであるという欠点を有している。さらに、この柱状要素は、インプラントに装着するための固着リングを有しているため、患者側の許容誤差に関する問題が生じる可能性があるという欠点もある。さらに、クローズドトレー法の欠点については、特許文献10の第2欄第20−24行を参照されたい。
【0012】
したがって、本発明は、様々な方法で使用可能であり、かつ、オープントレー印象を採取するために使用可能であって、多数の歯科インプラントの、互いに傾いて配置された各インプレッションポストの印象を同時に採取する場合でも、歯科インプラントの位置を確実かつ高精度に転写するインプレッションポストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、請求項1に従うインプレッションポストによって達成される。従属請求項には、有利な実施形態が記載されている。
【0014】
本発明において、インプレッションポストのインプレッションキャップは、内側スリーブと、内側スリーブを半径方向外側で取り囲む外側スリーブとを含み、外側スリーブは、内側スリーブに取り外し可能に装着されている。したがって、内側スリーブは、装着要素と外側要素との間に配置されており、外側要素は、印象採取時に、内側スリーブが印象材に接触することを防止するための防護壁をなすものである。
【0015】
本発明において、結合部、すなわち歯科インプラントに結合されるように構成された領域は、少なくとも部分的に内側スリーブに備えられている。
【0016】
このようにインプレッションキャップを2つの部分から構成したことにより、印象採取時に、インプレッションキャップと歯科インプラントとの結合を解除し、歯科インプラントから印象材を取り外すステップを、2つの別々のステップとして実行することが可能になる。
【0017】
前記2つのステップのうちの第1ステップにおいて、インプレッションキャップと歯科インプラントとの結合は、装着要素の取り外しと同時に、または、装着要素を取り外した直後に、少なくとも部分的に解除される。
【0018】
例えば、インプレッションキャップの結合部が、この結合部に対応する、歯科インプラントの開口部内に固定されている場合、結合の解除は、内側スリーブまたは内側スリーブの結合部を開口部から歯科インプラントの長手軸方向に引き抜くという単純な方法で実行される。内側スリーブを、歯科インプラント(または歯科インプラントに固定されたインプレッションキャップ)の長手軸方向に移動させる間、外側スリーブは、それを囲む印象材中に変位することなく保持されている。このステップにおいて、内側スリーブは長手軸方向に引き抜かれるため、内側スリーブと歯科インプラントとの間に生じる静止摩擦は、最小限に留まる。
【0019】
前記2つのステップのうちの第2ステップおいて、印象材を、それに埋め込まれた外側スリーブとともに取り外すことができる。このステップで、仮に印象材と歯科インプラントとが接触していたとしても、その接触面積は非常に小さいため、静止摩擦は殆ど生じない。
【0020】
上述したように、インプレッションキャップの、組立状態において歯科インプラントに結合される領域を結合部という。例えば、結合部は、この結合部に対応する、歯科インプラントの開口部内に固定されるように形成することができる。あるいは、例えば、2つの部分から構成される歯科インプラントのベース部上に配置されるように、結合用インプラント部を形成するものであってもよい。一般的には、歯科インプラントとインプレションポストは、組立状態において互いに同軸に配置され、これによって、歯科インプラントの軸配列を、可能な限り正確に作業模型に転写することが可能となる。
【0021】
一般的には、内側スリーブ及び外側スリーブの一方または両方は、その結合部において、歯科インプラント側に停止面を有しており、この停止面は、組立状態において、歯科インプラントの、この停止面に対応する相手側停止面に突き当たるように構成されている。これによって、歯科インプラントの周囲の組織構造中の「深さ位置」を、作業模型に正確に転写することが可能となる、
【0022】
本発明において、外側スリーブは、内側スリーブに取り外し可能に装着されており、一般的には、内側スリーブの外面は、少なくとも部分的に外側スリーブの内面に接している。内側スリーブと外側スリーブとが相対的に移動可能な方向は、一般的には、長手軸方向のみである。
【0023】
好適な実施形態では、インプレッションキャップの結合部は、インプレッションキャップと歯科インプラントとの間の捻じれを防止するための、歯科インプラント捻じれ防止手段を有している。これによって、歯科インプラントの周囲の組織構造に対する軸配列及び深さ位置だけでなく、歯科インプラントの回転位置も、作業模型に正確に転写することが可能となる。
【0024】
ここで、上述した第2ステップにおける静止摩擦を最小化するために、歯科インプラント捻じれ防止手段は、その全体が内側スリーブに備えられていることが好ましい。これによって、印象材中に埋め込まれた外側スリーブと歯科インプラントとが仮に接触していたとしても、その接触面積を最小限に留めることが可能となる。
【0025】
さらに、回転位置を可能な限り正確に作業模型へ転写することは、内側スリーブが、内側スリーブと外側スリーブとの間の捻じれを防止するための、外側スリーブ捻じれ防止手段をさらに有することによって確保される。これによって、回転位置に関する情報が、歯科インプラントから内側スリーブに転写されるだけでなく、内側スリーブから、印象材中に留まる外側スリーブに対して確実に転写される。この外側スリーブ捻じれ防止手段は、例えば、長手軸方向に延びる溝として形成することができ、この場合、外側スリーブは、この溝に対応するように配置されたレールまたは突起のようなラッチ要素を備えて、この溝と係合するものである。
【0026】
さらに好適な実施形態では、内側スリーブと外側スリーブは、周方向に既定の相対位置をとるように配置される。上述した外側スリーブ捻じれ防止手段に関連させていえば、この構成は、例えば、唯一の溝と、その溝に係合する唯一のレールを設けることによって達成される。
【0027】
特に単純であり、したがって好ましい実施形態では、内側スリーブと外側スリーブは、互いに同軸に配置される。
【0028】
さらに、インプレッションキャップと硬化可能な印象材とが深く噛み合うようにするため、外側スリーブは、その外面に凹凸分布を有することが好ましい。特に、このような凹凸分布は、インプレッションキャップの外面から、インプレッションキャップの長手軸に対して略直交するように突出する突出部を設けることにより形成することができる。
【0029】
好適な実施形態において、歯科インプラントの位置を可能な限り正確に作業模型に転写するために、結合部は、この結合部に対応する形状を備えた開口部内に高精度に嵌め込まれて保持される形状に形成される。
【0030】
例えばシュトラウマン(Straumann)社のボーン・レベル・インプラント(Bone Level Implants)のような従来の歯科インプラントは、通常、その歯冠側端部に、少なくとも1つの停止面を備えた筒形領域を有しており、この停止面は、前記筒形領域に対応する部品の相手側停止面との間の捻じれを防止するように構成されている。したがって、本発明に係るインプレッションポストの好適な実施形態において、前記筒形領域に対応する部品に相当する内側スリーブは、その結合部が、歯科インプラントの筒形に対応するような相手側停止面を備えた筒形状に形成される。この形状として、例えば、多角筒が特に好ましいものである。但し、歯科インプラントの開口部の形状に応じて、角錐台状に形成されるものであってもよい。
【0031】
さらに、上述したような従来の歯科インプラントは、円錐状の端部領域を有する場合が多い。本発明の好適な実施形態における外側スリーブは、このような歯科インプラントの印象採取時に印象材が開口部内に侵入しないように、その結合部が円錐台状に形成されている。この円錐台は、歯科インプラントの、この円錐台に対応する円錐状の端部領域に、高精度に嵌めこまれて保持されるように構成される。あるいは、歯科インプラントの開口部の形状に応じて、外側スリーブの結合部における形状を、円筒状とするものであってもよい。
【0032】
さらに、歯科インプラントの開口部内への印象材の侵入を防止するために、外側スリーブではなく、内側スリーブの、歯科インプラントの開口部に対応する領域における形状を、円筒状または円錐台状とするものであってもよい。
【0033】
本発明において、インプレッションキャップは、その長手軸方向に延びる穴部を有して、略円筒状に形成されている。インプレッションキャップを歯科インプラントに装着するための装着要素は、この穴部に嵌挿される。
【0034】
装着要素は、一般的には、ネジとして形成され、雄ネジ部を有している。この雄ネジ部は、歯科インプラントの歯冠側の開口部内の雌ネジ部に対応する。
【0035】
本発明のさらに好適な実施形態において、装着要素は、係止要素を有しており、この係止要素は、内側スリーブの、この係止要素に対応する相手側係止要素と係合するように構成されている。そして、装着要素が外側スリーブから取り出されるときに、内側スリーブも一緒に運ばれるものである。これによって、内側スリーブを取り出すための複雑なステップを別に要することなく、装着要素と内側スリーブとを単一のステップで取り出すことができる。
【0036】
係止要素は、例えば、装着要素の雄ネジ部とすることができ、一方、相手側係止要素は、例えば、内側スリーブの穴部内に突出する突出部として形成することができる。この突出部は、穴部の突出部が形成された領域の直径が、装着要素の雄ネジ部の直径よりも減少するように形成され、装着要素は、この領域を通じて嵌挿されるものである。
【0037】
さらに、装着要素は、内側スリーブに固着するように結合可能であることが好ましい。この固着結合によって、さらに、装着要素または内側スリーブの紛失が防止される。
【0038】
本発明のさらに好適な実施形態において、装着要素は、咬合側(すなわち、組立状態において歯科インプラントとは反対側)の端部領域に、停止面を備えたヘッド部を含んでおり、この停止面は、内側スリーブ及び外側スリーブの端部面である相手側停止面と係合するように構成され、内側スリーブ及び外側スリーブは、その移動が防止されるように歯科インプラントに結合される。これによって、内側スリーブと外側スリーブの両方を、印象採取時にも、長手軸方向に関してそれぞれの定位置に保持することが可能となり、ひいては、歯科インプラントの位置を作業模型に正確に転写することが可能となる。
【0039】
本発明に係るインプレッションポストは、シュトラウマン社から市販されている、当業者には周知のボーン・レベル・インプラントに対して特に好適なものである。このボーン・レベル・インプラントを使用すると、印象採取時に、印象材の咬合面からの装着要素の突出長さが十分ではないという事態がしばしば発生する。したがって、多くの場合、歯科インプラントから装着要素を取り外すために、例えば、印象材の該当する領域を適当な深さまで剥離することによって、装着要素を露出させる必要が生じるという問題がある。
【0040】
本発明のさらに好適な実施形態では、インプレッションポストが、装着要素上に配置される延長要素を含むことによって、このような事態が発生しても問題とはならないものである。
【0041】
延長要素は、好ましくは、中空円筒状に形成されて装着要素に装着される。一般的には、中空円筒の内径は、装着要素のヘッド部の外径に略一致しており、この中空円筒は、ヘッド部に装着されるものである。この中空円筒によって、装着要素の、一般にヘッド部に設けられる把持領域が、印象採取の間に印象材に覆われることが防止される。そして、把持領域は、中空円筒によって形成される通路を通じて、例えばスクリュードライバーのような装着要素を取り外すための工具により、操作可能に維持される。
【0042】
一般的には、本発明に係るインプレッションポストの内側スリーブ及び装着要素は、金属からなり、一方、外側スリーブは、プラスチックからなる。但し、それぞれの構成要素について、それぞれの目的に適合する任意の他の材料を使用することも可能である。
【0043】
上述したように、本発明によれば、インプレッションキャップと歯科インプラントとの結合を解除し、歯科インプラントから印象材を取り外すステップを、2つの別々のステップとして実行することができる。
【0044】
このように、本発明は、本発明に係るインプレッションポストを使用して、歯科インプラントの印象を採取する方法も提供するものであり、この方法は、
a)インプレッションポストを装着要素により歯科インプラントに装着し、
b)印象材を用いて、インプレッションポスト及びその周囲の組織構造の印象を採取し、
c)装着要素を取り外して、ンプレッションキャップと歯科インプラントとの結合を少なくとも部分的に解除し、
d)印象材を、インプレッションキャップの外側スリーブとともに歯科インプラントから取り外す、一連のステップを含むものである。
【0045】
また、上述したように、本発明には、オープントレー印象を採取するための本発明に係るインプレッションポストの使用も含まれる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、様々な方法で使用可能であり、かつ、オープントレー印象を採取するために使用可能であって、多数の歯科インプラントの、互いに傾いて配置された各インプレッションポストの印象を同時に採取する場合でも、歯科インプラントの位置を確実かつ高精度に転写するインプレッションポストを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態におけるインプレッションポストを示す側面図である。インプレッションポストは、模式的に示されたインプラント内に装着され、インプレッションポストには、延長要素が装着されている。
【図2】図1に示す実施形態を、II−II’線に沿って切断して示す縦断面図である。但し、装着要素は側面図で示されている。
【図3】図1に示す実施形態を、III-III’線に沿って切断して示す断面図である。
【図4】図2に示す装着要素の半分を断面で、もう半分を側面で示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。図1及び図2に示す本発明の一実施形態におけるインプレッションポスト2は、スリーブ状のインプレッションキャップ4を含み、インプレッションキャップ4は、その長手軸方向に延びる略円柱状の穴部6を備えている。インプレッションポスト2は、穴部6に嵌挿される装着要素8も含んでおり、本実施形態において、装着要素8は、ネジとして形成されている。
【0049】
インプレッションキャップ4は、半径方向内側に配置される内側スリーブ10と、半径方向外側に内側スリーブ10と同軸に配置される外側スリーブ12とを含む。したがって、内側スリーブ10は、外側スリーブ12と装着要素8との間に配置されている。
【0050】
インプレッションキャップ4は、その根尖側端部領域14に結合部16を有しており、この結合部16が、歯科インプラント20の、結合部16に対応する形状を有する開口部18内に高精度に嵌め込まれて固定される。ここで、内側スリーブ10は、結合部16において、(中空の)筒22状に形成され、筒22を構成する壁は、少なくとも1つの平坦領域を含んでいる。この平坦領域は、係止面(図示は省略する)をなし、この係止面に対応する、歯科インプラント20の相手側係止面と係合することによって、歯科インプラント捻じれ防止手段を形成する。
【0051】
外側スリーブ12は、その根尖側端部領域24の結合部16において、(中空の)円錐台26をなすように形成されている。円錐台26は、歯科インプラント20の開口部18の、円錐台26に対応する円錐状部分28に、高精度に嵌め込まれるように形成されている。根尖側端部領域24には、歯科インプラント20とは反対側に、同様に円錐台をなすように形成された中央領域30が隣接する。根尖側端部領域24は、中央領域30と比べて僅かに先細りとなるように形成される。
【0052】
外側スリーブ12は、根尖側端部領域24の反対側の咬合側端部(occlusal end)領域32において、2つの突出部34a、34bを有しており、これらの突出部34a及び34bのそれぞれは、周方向に180°離隔された2つの突起36a、36a’及び36b、36b’を備えている。2つの突出部34a、34bは、それらの中間に存在する細径化された分節部38によって互いに分離されており、これらの下側に、別の細径化された分節部40が隣接する。下側の突出部34bの根尖側方向における分節部40の断面は、中間の分節部38の断面に略一致しており、また、分節部40は、中央領域30を突出部34bから分離するものである。図3に示すように、突起36a、36a’、36b、36b’は、長手軸方向に延在する凹部37、37’を有している。外側スリーブ12の外面にこのような凹凸分布を形成するのは、印象採取時に、外側スリーブ12と印象材とが深く噛み合うようにするためである。
【0053】
内側スリーブ10は、その上側(すなわち、咬合側)の半分に、長手軸方向に延びる溝42を有している。この溝42は、外側スリーブ12の、溝42内に案内されるレール44とともに、内側スリーブ10と外側スリーブ12との間の捻じれを防止するものである。唯一の溝42と唯一のレール44が形成されていることの結果として、内側スリーブ10の外側スリーブ12に対する周方向の位置は、曖昧さを残すことなく規定される。
【0054】
内側スリーブ10は、さらに、根尖側端部領域46に、壁の内周に沿って突出部48を有しており、この突出部48によって穴部6の内径が減少する。装着要素8の第1ボルト部50は、穴部6のこの領域を通じて嵌挿される。第1ボルト部50には、咬合側方向に第1ボルト部より大きな直径を備えた第2ボルト部52が隣接し、根尖側方向に雄ネジ部54が隣接する。雄ネジ部54は、歯科インプラント20の開口部18内の雌ネジ部56と対応する。図示された実施形態では、雄ネジ部54の直径は、第2ボルト部52の直径と略一致している。
【0055】
装着要素8は、インプレッションキャップ4から突出する咬合側端部(すなわち、歯科インプラント20とは反対側の端部)領域66に、ヘッド部68を有している。ヘッド部68は、円筒70をなすように形成され、長手軸方向に延びる溝状の複数の凹部72を備えている。ヘッド部68の、インプレッションキャップ4と対峙する端面74は、外側スリーブ12の歯科インプラント20から離れる方向の移動を制限し、外側スリーブ12に対する停止面をなす。装着要素8のヘッド部8には、中空円筒状の延長要素76が装着される。この延長要素76の内径は、ヘッド部68の直径と略一致する。延長要素76は、印象を採取している間に、印象材によってヘッド部68が覆われることを防止するものである。
【0056】
図4に示すように、装着要素8のヘッド部68は、その咬合側端部に、スクリュードライバーのためのノッチ77を有している。
【0057】
本実施形態におけるインプレッションポスト2の使用方法は、次のようなものである。まず、結合部16を、歯科インプラント20の開口部18内に挿入し、装着要素8を使用して開口部18に装着して、印象採取する歯科インプラント20にインプレッションポスト2を固定する。ここで、初期的にインプレッションキャップ4が開口部18の停止位置に対して完全に挿入されなかった場合、内側スリーブ10の停止面62が、歯科インプラント20の相手側停止面64に突き当たるまで、装着要素8を、そのヘッド部68を用いてさらに押し下げる。このとき、外側スリーブ12は、歯科インプラント20とヘッド部68との間に固定されることによって、移動することなく定位置に保持される。装着要素8のネジ締めは、通常は手操作により実行される。手操作によるネジ締めは、ヘッド部68が拡径された把持部を構成することによって、容易に実行される。但し、例えばスクリュードライバーのような適切な工具を使用して、ネジ締めを実行するものであってもよい。
【0058】
印象を採取する前に、印象材によってヘッド部68が覆われないようにヘッド部68に延長要素76を装着し、その後、インプレッションポスト2の周りに印象材を付着する。
【0059】
印象材が硬化した後、通常はスクリュードライバーを使用して装着要素8を取り外す。このとき、延長要素78によって形成される通路78により、装着要素8のヘッド部68を操作することができる。
【0060】
装着要素8を、歯科インプラント20の開口部18内の雌ねじ部56から取り外した後、最終的に、印象材中に埋め込まれた外側スリーブ12から軸方向咬合側に取り出すことができる。このとき、装着要素8の雄ねじ部54が係止要素となり、内側スリーブ10の壁の内側から突出する突出部48が相手側係止要素となることで、内側スリーブ10も一緒に取り出される。
【0061】
最後に、外側スリーブ12が埋め込まれた印象材を、歯科インプラント20から取り外す。ここで、この取り外しが外側スリーブ12の長手軸に対して傾いた方向に実行された場合でも、円錐台状に形成された外側スリーブ12の端部領域24と、歯科インプラント20の対応する円錐状部分28との間の静止摩擦は、それらの間の接触面積が小さいことにより、小さいものである。
【符号の説明】
【0062】
4:インプレッションキャップ、6:穴部、8:装着要素、10:内側スリーブ、12:外側スリーブ、16:結合部、20:歯科インプラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科インプラント(20)のためのインプレッションポストであって、
前記歯科インプラント(20)に結合するように構成された結合部(16)を備えるスリーブ状のインプレッションキャップ(4)と、該インプレッションキャップ(4)の長手軸方向に延びる穴部(6)と、前記インプレッションキャップ(4)を前記歯科インプラント(20)に装着するために前記穴部(6)に嵌挿される装着要素(8)とを含んでおり、
前記インプレッションキャップ(4)は、内側スリーブ(10)と、該内側スリーブを半径方向外側で取り囲む外側スリーブ(12)とを含み、該外側スリーブは、前記内側スリーブ(10)に取り外し可能に装着され、前記結合部(16)は、少なくとも部分的に前記内側スリーブ(10)に備えられる、ことを特徴とするインプレッションポスト。
【請求項2】
前記結合部(16)は、前記インプレッションキャップ(4)と前記歯科インプラント(20)との間の捻じれを防止するための、歯科インプラント捻じれ防止手段を有することを特徴とする請求項1に記載のインプレッションポスト。
【請求項3】
前記歯科インプラント捻じれ防止手段は、その全体が前記内側スリーブ(10)に備えられることを特徴とする請求項2に記載のインプレッションポスト。
【請求項4】
前記内側スリーブ(10)は、前記内側スリーブ(10)と前記外側スリーブ(12)との間の捻じれを防止するための、外側スリーブ捻じれ防止手段をさらに有することを特徴とする請求項3に記載のインプレッションポスト。
【請求項5】
前記内側スリーブ(10)と前記外側スリーブ(12)は、周方向に既定の相対位置をとるように配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項6】
前記内側スリーブ(10)と前記外側スリーブ(12)は、互いに同軸に配置されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項7】
前記結合部(16)は、前記歯科インプラント(20)の、前記結合部に対応する形状を備えた開口部(18)内に高精度に嵌め込まれて保持される形状に形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項8】
前記内側スリーブ(10)の前記結合部(16)における形状は、多角筒状または角錐台状に形成されることを特徴とする請求項7に記載のインプレッションポスト。
【請求項9】
前記外側スリーブ(12)の前記結合部(16)における形状は、円筒状または円錐台状に形成されることを特徴とする請求項7または8に記載のインプレッションポスト。
【請求項10】
前記外側スリーブ(12)は、その外面に凹凸分布を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項11】
前記装着要素(8)は、ネジであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項12】
前記装着要素(8)は、係止要素を有しており、該係止要素は、前記内側スリーブ(10)の、前記係止要素に対応する相手側係止要素と係合するように構成され、前記装着要素(8)が前記結合部(16)から離れる方向に移動するときに前記内側スリーブ(10)も一緒に運ばれることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項13】
前記装着要素(8)は、前記内側スリーブ(10)に固着するように結合されることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項14】
前記装着要素(8)は、組立状態において前記歯科インプラント(20)とは反対側の端部領域に、停止面を備えたヘッド部(68)を含んでおり、前記停止面は、前記内側スリーブ(10)及び前記外側スリーブ(12)の端部面である相手側停止面と係合するように構成され、内側スリーブ(10)及び外側スリーブ(12)は、その移動が防止されるように前記歯科インプラント(20)に結合されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項15】
前記装着要素(8)上に配置される延長要素(76)を含むことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のインプレッションポスト。
【請求項16】
前記延長要素(76)は、中空円筒状に形成されて前記装着要素(8)に装着されることを特徴とする請求項15に記載のインプレッションポスト。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載のインプレッションポストを使用して歯科インプラントの印象を採取する方法であって、
a)前記インプレッションポスト(2)を前記装着要素(8)により前記歯科インプラント(20)に装着し、
b)印象材を用いて、前記インプレッションポスト(2)及びその周囲の組織構造の印象を採取し、
c)前記装着要素(8)を取り外して、前記インプレッションキャップ(4)と前記歯科インプラント(20)との結合を少なくとも部分的に解除し、
d)前記印象材を、前記インプレッションキャップ(4)の前記外側スリーブ(12)とともに前記歯科インプラント(20)から取り外す、
一連のステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
オープントレー印象を採取することを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載のインプレッションポストの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−172703(P2010−172703A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17388(P2010−17388)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(505104836)シュトラウマン・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】STRAUMANN HOLDING AG
【Fターム(参考)】