説明

歯科インプラント用インレー付きアバットメント

本発明は、歯科インプラント用インレー付きアバットメントに関する。このアバットメントは、外側アバットメント部(1’)と、該外側アバットメント部(1’)の先端で内側に配置されたインレー(2)とを備える。インレー(2)は、外側アバットメント部(1’)との接続を作り出すのに適した冠部(3)と、歯科インプラントとの解除可能な接続に適した先端部(4,104)とを備える。本発明は、インレー(2)の冠部(3)の表面(5)が、取り外し不可に装着される外側アバットメント部(1’)に確実に係合するように形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、インレー付きアバットメントに関し、歯科インプラント、特にネジ形状または円筒形状のものとアバットメントの接続を確立するインレー付きアバットメントに関するものである。このインレー付きアバットメントは、回転できないように固定されることを保証し、加工された個々の義歯を容易に組み立てることができる。
【背景技術】
【0002】
アバットメントは、一般に、歯科インプラントに取り付けられる。歯科インプラントは、この技術分野で十分に知られており、患者の顎の骨に挿入される。そして、アバットメントは、永久的または一時的な要素である。アバットメントないし橋脚歯(abutment)の良好な固定や補強を実現するために、インレー(inlay)と呼ばれる中間要素が、歯科インプラントの方向にアバットメントに挿入される。アバットメントは、例えば歯科インプラントの治療処置の間一時的に挿入することもあるし、あるいはアバットメント上に義歯を設けるために処置の終わりに永久的に挿入することもある。
【0003】
インレーは、一般に、高強度の金属、または金属合金からなっている。これらは、アバットメントを歯科インプラントのインレーと接続する接続ネジを締め付ける間に生じる力をより良好に吸収する。インレーに特に適した材料は、金、チタン、またはこれらの合金である。これらは、一方で、機械的に高い安定性と剛性を有し、他方では、極めて良好な生体適合性を有している。アバットメントとアバットメントに固定されたインレーからなる接続組み立て品は、処置の間、歯科インプラントの冠状部分の円筒状の開口に、または歯科インプラントの外側支持部にそれぞれ挿入される。
【0004】
アバットメントの再現性のある位置決めのためで、有利には、被せ物が付いたアバットメントによって例えば一時的なアバットメントを容易に交換できるように、しかも回転できないように固定するために、回転対称でない受け入れ輪郭を、歯科インプラントの位置孔に、または歯科インプラントの外側支持部に、それぞれ設けることができる。これらは、アバットメントの先端に位置する対応の回転対称でない相補的な外側の輪郭と係合できる。アバットメントは、アバットメントの第1開口とインレーの第2開口を通る接続ネジをねじ込むことによって、歯科インプラントの内側に軸方向に設けられた雌ネジの位置に固定される。接続ネジが締められると、ネジの円錐形の軸体部分はインレーの相補的な先端の内側円錐部分と確実に係合する。ネジ切りされていないネジの軸体部分はインレーの内側にほぼ完全に包み込まれている。そして、雄ネジがある先端のネジ部分は、対応する歯科インプラントの雌ネジと係合する。したがって、接続ネジは、アバットメントを歯科インプラントに軸方向に固定する。単一片のアバットメント、またはインレー付きアバットメントの連結部分である回転対称でない構造により、仮想中心軸の回りに回転できないような固定が確保される。すなわち、インレー付きアバットメントは、歯科インプラントに対して回転できない。加えて、インレーは、回転や移動ができないように、アバットメントと安定的に接続される。
【0005】
EP1656904A1によれば、このような挿入されたインレーを有するアバットメントを備える歯科インプラントシステムが公知である。インレーは、表面に形成された外形を有する先端部分を備える。この外形は、アバットメントと歯科インプラントの間の永久的な接続に適している。インレーは、周囲に外側アバットメント部が形成された少なくとも1つの肩部分を有している。この形成は、例えば、“鋳造”と呼ばれるモデリング方法によっても可能である。しかしながら、モデリング方法の不利な点としては、各鋳造モデルが独特であり、もし、例えば製造中に誤差が生じれば、誤差が生じた形状を高い費用で再加工しなければならないか、または新しいアバットメントを製造しなければならない。肩部分は、アバットメントの表面から突出しており、アバットメントに対するこの領域の支持面の相対的に小さな領域は、材料疲労によるか、または噛む間に加えられる力によって、インレー材とアバットメント材との材料の結合を緩める危険を内包している。このような緩みが生じると、アバットメントは、アバットメント自身の軸の回りに回転し、アバットメントの交換が必要になる。インレー付きアバットメントの期待し得る最良の強度および長期間の安定性を確保するために、アバットメントの内面とインレーの外面との間の接続部分は、ほぼ一体化したものでなければならない。
【0006】
金属材料間の良好な接着を実現するための公知の方法は、互いに接続される材料の表面を拡大することである。上述したインレーの肩部分は、環状の対称的な構造と比較すると、僅かな範囲までは拡大させることができる。
【0007】
しかしながら、例えば、形成する材料が表面張力によってインレーの表面に完全に到達することができないならば、形成工程の間、肩部分間に隙間が形成され得る。このことは、アブットメントの内面とインレーの外面との間での空気の閉じこめにつながる。そして、形成された部分が不均一になることにより全体の安定性の減少をもたらす。
【0008】
形成に使用される材料は、使用される位置によって異なる。例えば、プラスチックや金属は、一時的なアバットメントに使用される。これらは安価であり、特別な美的要求を満たす必要はない。被せ物のように、義歯が使用されるならば、貴金属やこれらの合金が、特別なセラミックスや先端の複合材料と同様に使用される。
【0009】
肩部分は、インレーの表面に実質的に回転対称に配置される。歯科インプラントのアバットメントとの固定のために、ネジは、アバットメントの開口を通して歯科インプラントの中にねじ込まれる。円錐形のネジの頭は相補的なインレーの内側部分に押し込まれる。この接続により、歯科インプラントシステムの安定性と剛性が得られる。しかしながら、アバットメントがインレーに向かって形成された先端部分で回転させないような固定ではない。中心軸から外れた力が加えられた場合、これにより、インレーの上でアバットメントの回転運動が生じる。
【0010】
歯の移動は、僅かであっても、歯科技術においては美的理由および健康上の理由で回避されなければならない。アバットメントの移動は隙間を生じ得る。この隙間に食べかすが蓄積され、虫歯や歯周疾患につながる。それゆえに、移動したアバットメントは、できるだけ早く交換しなければならない。その一方で、交換は、新しいアバットメントの製造および配置に追加の費用がかかることになる。そして、不利なことに、患者は、新たに処置を受けなければならない。
【0011】
別の問題は、インレーと歯科インプラントの上縁との間の移行部分を形成し、インレーの先端の傾斜した肩部分が位置する領域において、インレーに形成されたアバットメントの材料の断面部分がとても薄いことである。それゆえに、アバットメントの材料は、例えば固い食べ物を噛むことによって圧力が加えられた場合、欠けるかもしれない。インレーは製作するのに比較的高価である。なぜなら、例えばフライス加工によって金属を切断する場合、比較的繊細な肩部分を形成するのに、いくつかの操作ステップが必要とされるか、またはマスターを形成する場合、極めて高価なプロトタイプを製作しなければならないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1656904号明細書
【発明の概要】
【0013】
それゆえに、本発明は、アバットメントの内側へのインレーのより良好な接着を提供する解決策を見つけることを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、特に形成されたアバットメントに対して回転できないように固定する解決策を見つけることを目的とする。
【0015】
この目的の範囲内で、本発明の別の目的は、製造し組み立てるのに安価であるインレー付きアバットメントを提供することである。
【0016】
これと次に示す明細書で見つけられる他の目的は、請求項1に記載の歯科インプラント用インレー付きアバットメントによって解決される。本発明の他の有利な実施形態は、従属請求項に明確に記載されている。
【0017】
本発明の他の特徴および有利な点は、本発明の例示的な実施形態の実施方法と同様に、添付図面を参照して以下で述べられる。
【0018】
添付図面は本発明を例示し、さらに、本発明の基本的な考えを説明し、当業者が製作し本発明を使用できるようにするために、明細書とともに使用される。
【0019】
次に示すことは、明細書全体を通して適用される。参照番号が、明瞭にする目的で図中に含まれていて、直接対応する明細書の文章で説明されていないならば、参照番号は、先行する図の記述が参照される。
【0020】
構成要素を“繰り返しの”構成要素として明確に認識できるならば、明瞭にする目的で、一連の図において、通常、構成要素に繰り返して符号を付さない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の1つの実施形態にかかる組み立てられた形態のインレー付きアバットメントの断面図。
【図2A】本発明の1つの実施形態にかかるインレーの側面図。
【図2B】図2Aのインレーの上面図。
【図2C】図2Aのインレーの底面図。
【図2D】図2Aのインレーの斜視図。
【図3】本発明の別の実施形態にかかる組み立てられた形態のインレー付きアバットメントの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、本発明にかかるインレー付きアバットメントの好ましい実施形態を説明する。アバットメントには、全体に参照番号1を付している。歯科インプラントの供給のためのインレー付きアバットメントは、インレー2が先端の内側に配置された外側アバットメント部1’を備える。歯科インプラントは、十分に知られているのでこれ以上説明はしない。
【0023】
インレー2は、インレー2と外側アバットメント部1’との接続を提供するのに適した外側部3と、歯科インプラントとの解除可能な接続に適した先端部4とを冠状に備えている。
【0024】
インレー2の冠部3の表面5は、外側アバットメント部1’が確実に係合でき、実質的に取り外しできない方法で接続できるように成形されている。確実に係合するには、予め加工された外側アバットメント部1’がインレー2の冠部3の上に単に押し込むだけでよい。代案として、外側アバットメント部1’をインレー2の上に射出成形してもよい。この場合、モデリングや鋳造工程が必要ないので、アバットメント1の複数の変化形を極めて安価に製造できる。このことは、一時的なアバットメント1の場合、特に重要である。なぜなら、それらは、高度の美的要求を満たさなくてもよいからである。成形プレスのような複雑な製造装置は必要とされない。外側アバットメント部1’の位置を合わせるには、単純なプレス機で十分である。
【0025】
インレー2の冠部3の少なくとも一部分、より適切に言えば表面全体5は、外側アバットメント部1’が接する外形を有している。この外形は図2A〜Dに詳細に示されている。接続された形では、アバットメント部1’は、インレー2と実質的に一体化している。冠部3は、第1縁部7と第2縁部8によって囲まれた回転対称の円筒部6に隣接している。円錐形の肩部9が回転対称の円筒部6と第2縁部8の間に形成されている。直径が減少する円錐部10は、第2縁部8から先端部4の方向に延びている。この先端部4は、図示されていない歯科インプラントの相補的な円錐部分に挿入して使用される。
【0026】
図2Aから2Dは、異なった視点で説明するためにインレー2の他の特徴部分を示している。本実施形態では、冠部3は、複数の頂上11と頂上11の間に配置された窪み12を有している。インレー2の冠部3の冠表面5は、フライス加工のような切削や鍛造のような非切削によって製造できる。
【0027】
インレー2の冠部3の表面5上の複数の頂上11と窪み12は対称に配置され、外側アバットメント部1’の加圧成形や射出成形に適している。
【0028】
外側アバットメント部1’が表面5の上へ押し込まれるか、または射出成形によって設けられると、アバットメントの基材の一部分が、それぞれの窪み12において一種のくさびを形成する第1側面13および第2側面14に摩擦を生じ、インレー2の冠部3の外面5と確実に係合する。
【0029】
このようにして生じさせた確実な係合により、ほぼ一体化したユニットを作る。したがって、外側アバットメント部1’の外側アバットメント部1’自身の軸の回りの回転は、もはや起こり得ない。外側アバットメント部1’に面する側では、冠部3の上側縁部15が約45度に傾斜している。そのため、押し込まれるか射出成形によって供給される外側アバットメント部1’を容易に配置でき、また製造できる。冠部3の下側では、より小さな角度で傾斜した別の下側縁部16が配置されている。
【0030】
本発明な有利な特徴によれば、複数の頂上11と窪み12は、冠部3全体の面を増加させ、冠部3の表面5に対してアバットメントの材料の接着が良くなる。このようにして、外側アバットメント部1’は、射出成形法を用いて成形されたインレー2に取り外しができないように、かつ確実に適合させることができる。
【0031】
他の実施形態の冠部3の表面5の外形も考えられる。例えば、外形を表面に部分的に形成するだけでもよい。表面には、十字構造や不規則に設けられた構造の溝を設けてもよい。この溝のうち、少なくとも1つは、回転できないような固定を提供する軸方向の溝を含んでいる。
【0032】
図3は、本発明にかかるインレー付きアバットメントの別の実施形態を示す。図3の実施形態は、図1から2Dまでの実施形態と類似している。そのため、同じ参照番号は、基本的に、図1や図2Aから2D中と同様にそれぞれ使用できる。
【0033】
円錐部10は、これから外れている。直径が減少する円錐部10は、第2縁部8から図示しない歯科インプラントの相補的な円錐部分に挿入して使用される先端部4の方向に僅かに湾曲して延びている。
【0034】
さらに、本実施形態の円錐形の肩部9の断面部分は、図1の実施形態のものよりも大きい。外側アバットメント部1’の先端部112は洋梨のような形状をしており、インレー2の外径にほぼ一致する円筒部114へと移行する肩113を有している。
【0035】
請求項で述べた技術的特徴に参照番号が付されている場合、これらの参照番号は、特許請求の範囲についての理解を高めるためだけに単に付されている。したがって、これらの参考番号によって示された例によって特定された各要素の保護の範囲での効果は限定されない。
【符号の説明】
【0036】
1 アバットメント
1’外側アバットメント部
2 インレー
3 冠部
4 先端部
5 冠部の表面
6 回転対称の円筒部
7 第1縁部
8 第2縁部
9 円錐形の肩部
10 円錐部
11 頂上
12 窪み
13 第1側面
14 第2側面
15 冠部の上側縁部
16 冠部の下側縁部
112 アバットメントの先端部
113 アバットメントの肩
114 アバットメントの円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科インプラント用インレー付きアバットメントであって、前記アバットメントは、外側アバットメント部(1’)と、該外側アバットメント部(1’)の先端で内側に配置されたインレー(2)とを備え、前記インレー(2)は、外側アバットメント部(1’)との接続を提供するのに適した冠部(3)と、歯科インプラントへの解除可能な接続に適した先端部(4,104)とを備え、
前記インレー(2)の前記冠部(3)の表面(5)は、取り外し不可に装着される前記外側アバットメント部(1’)に確実に係合して取り付けられるように形成されたことを特徴とする歯科インプラント用インレー付きアバットメント。
【請求項2】
前記インレー(2)の前記冠部(3)の表面(5)の少なくとも一部分は、前記外側アバットメント部(1’)が取り付けられる外形を有することを特徴とする請求項1に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項3】
回転対称の円筒部(6)は前記冠部(3)を直接的に隣接し、
前記回転対称の円筒部(6)は、前記外形と比較して小さな直径を有し、それによって、切込を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項4】
前記外形は前記インレー(2)の前記冠部(3)の実質的に表面(5)全体に形成されていることを特徴とするいずれかの前記請求項に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項5】
前記冠部(3)の表面(5)の外形は、複数の頂上(11)と窪み(12)を備えることを特徴とするいずれかの前記請求項に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項6】
前記複数の頂上(11)と窪み(12)は前記冠部(3)の表面(5)に対称に配置されたことを特徴とする請求項5に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項7】
前記複数の頂上(11)と窪み(12)は十字構造を形成することを特徴とする請求項5または6に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項8】
前記外側アバットメント部(1’)は、射出成形法を用いて成形された前記インレー(2)と確実に係合し、取り外し不可に前記インレー(2)に取り付けられたことを特徴とするいずれかの前記請求項に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項9】
前記インレー(2)の前記冠部(3)の表面(5)はフライス加工のような切削方法、または鍛造のような非切削方法によって製造されたことを特徴とするいずれかの前記請求項に記載のインレー付きアバットメント。
【請求項10】
前記外側アバットメント部(1’)を確実な係合によって前記インレー(2)の冠部(3)に取り付けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインレー付きアバットメント。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−511687(P2011−511687A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546321(P2010−546321)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051574
【国際公開番号】WO2009/101109
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(505104836)シュトラウマン・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】STRAUMANN HOLDING AG
【Fターム(参考)】