説明

歯科医療器具

【課題】コンポジットレジンを押し延ばし操作しても、コンポジットレジンの端部が歯面と離れないようにして治療技術の容易化及び治療時間の短縮を図ることができる歯科医療器具を提供することを課題とする。
【解決手段】グリップ部110を備えた軸体100の先端部に、コンポジットレジン420を歯面400に充填操作するコンポジットレジン操作器具1であって、前記コンポジットレジン操作器具1は、前記軸体100の先端部に、該軸体100の軸方向に対し、軸支方向が異なるボールベアリング230を配設し、該ボールベアリング230に片持ち支持されて回転自由に軸支されるローラ軸300を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科治療に用いられるコンポジットレジンを歯の咬合面や歯の周面等の治療部分に充填して修復する歯科医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、う蝕部や損傷部分等の歯の治療すべき部分に、歯質に近い樹脂製のコンポジットレジンを修復素材として充填することにより、歯を元の形状に修復する歯科治療技術が採用されている。
【0003】
この歯科治療技術としては、図9(A)に示すように、歯面91のう蝕除去部等の損傷凹部92に一塊のペースト状のコンポジットレジン93を当てがった状態で、図9(B)に示すように、ペン型の医療器具94の先端部をL形状に屈曲形成した操作部95で、コンポジットレジン93を押し込みながら歯面91の横方向に押し延ばす操作を行っている。
【0004】
ところが、修復に用いられるコンポジットレジン93は高粘度のペースト状であるため、前記操作部95を、例えば図9(C)に示すように、コンポジットレジン93を上方から押圧しながら左側へと押し延ばすように移動させると、コンポジットレジン93の全体は左側へと引っ張られて押し延ばされるが、このときコンポジットレジン93に左向きの引張力P1が生じる。このため、コンポジットレジン93の右側端部93aは歯面91の損傷凹部92と離れて浮き上がり、右側端部93aで接着不良が発生してしまう。
【0005】
この結果、治療者は浮き上がった部分を上方から繰り返し何度も撫でつけるなどの押さえ付け操作、あるいは右側端部93aを押さえた状態で左側端部93bを押し延ばすという複雑な操作を必要とし、コンポジットレジン93を用いた治療技術に熟練を要していた。
【0006】
同じく、損傷凹部92の右側の修復に対しても左右対称に同様な浮き上がり現象が生じる。すなわち、図9(D)に示すように、治療者が操作部95の向きを右向きに変えて、コンポジットレジン93を上方から押圧しながら右側へと押し延ばすように操作部95を右側へと移動させると、コンポジットレジン93の全体は右側へと引っ張られて押し延ばされるが、このときコンポジットレジン93に右向きの引張力P2が生じる。このため、コンポジットレジン93の左側端部93bは歯面91の損傷凹部92と離れて浮き上がり、左側端部93bで接着不良が発生してしまう。
【0007】
この結果、治療者は浮き上がった部分を上方から繰り返し何度も撫でつけるなどの押さえ付け操作、あるいは左側端部93bを押さえた状態で右側端部93aを押し延ばすという複雑な操作を必要とし、コンポジットレジン93を用いた治療技術に熟練を要していた。
【0008】
このように、コンポジットレジン93の端部93a,93bに対しては、押し延ばし操作毎に引張力P1,P2が発生して歯面91に密着維持させることが難しくなる問題があり、修復作業に手間が掛かっていた。このため、治療者の負担が大きく、患者に対する治療時間が長くなっていた。
【0009】
このようなことから治療時における作業効率の改善を図るため、コンポジットレジンを効率よく充填操作するための医療器具が提供されている。例えば、ペン型に持って使用される医療器具の先端部に、平面でなく、弧状や卵状などの曲面に形成したコンポジットレジン操作部が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0010】
しかし、コンポジットレジン操作部の形状を曲面形状にしても、コンポジットレジンを押圧しながら押し延ばす際に、押し延ばし方向への摩擦抵抗が高まったままの状態でコンポジットレジン操作部を動かし、さらにコンポジットレジンが高粘度状態を有しているためコンポジットレジンの全体が、押し延ばされる方向に引っ張られるという引張力が生じてしまう。このため、押し延ばし方向と反対側のコンポジットレジンの端部が、歯面から離れて浮き上がってしまう。したがって、コンポジットレジン操作部の外形状を変えるという工夫だけでは、引張力の発生を解消できないため歯面への密着操作に寄与せず、依然として歯科治療技術の負担が大きく、患者に対する治療時間が長引く原因になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−209913号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこでこの発明は、歯面上でコンポジットレジンを押し延ばし操作しても、コンポジットレジンが歯面と離れて浮き上がらない押し延ばし操作ができる歯科医療器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、グリップ部を備えた軸体の先端部に、コンポジットレジンを歯面に充填操作するコンポジットレジン操作部を備えた歯科医療器具であって、前記コンポジットレジン操作部は、前記軸体の先端部に、該軸体の軸方向に対し、軸支方向が異なる軸受けを配設し、該軸受けに片持ち支持されて回転自由に軸支されるローラ軸を備えた歯科医療器具であることを特徴とする。
【0014】
他の実施態様として、前記ローラ軸を交換可能に、前記ローラ軸を前記軸受けに着脱自在に設けることができる。
【0015】
他の実施態様として、前記ローラ軸を、少なくとも該ローラ軸の先端側を円柱形状にした先端側端面の周縁部を充填操作用の周縁角部にして構成することができる。
【0016】
他の実施態様として、前記ローラ軸の回転方向を一方向のみに回転させる一方向クラッチを備えて構成することができる。
【0017】
他の実施態様として、前記ローラ軸とローラ形状が異なる別のローラ軸を前記軸体の基端部に備えることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、歯面の修復時に、接着されたコンポジットレジンが修復中に歯面から離れてしまうという不安定要素を解消した接着信頼性の高い修復ができる。このため、歯面に対する修復作業を簡単化して能率よく歯面の修復を施すことができる。この結果、治療者の作業負担の軽減及び患者に対する治療時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)はコンポジットレジン操作器具を示す外観斜視図、(B)はコンポジットレジン操作器具を示す側面図。
【図2】ローラ軸の軸支構造を示す要部分解斜視図。
【図3】コンポジットレジン操作器具の使用状態を示す説明図。
【図4】ローラ形状の異なる他のローラ軸を示す要部斜視図。
【図5】(A)は一方向クラッチ内蔵型のベアリングの内部構造を示す縦断面図、(B)は複合型のコンポジットレジン操作器具を示す斜視図。
【図6】(A)は回転規制操作用の押しボタンを備えたコンポジットレジン操作器具を示す斜視図、(B)は操作者による押しボタンの押下操作状態を示す説明図。
【図7】(A)は押しボタンの押下待機状態を示す要部拡大縦断面図、(B)は押しボタンの押下状態を示す要部拡大縦断面図。
【図8】図8は回転規制機構のローラ軸側を示す要部縦断面図。
【図9】従来のペン型の医療器具の使用状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図面は歯科医療器具用のコンポジットレジン操作器具を示し、このコンポジットレジン操作器具を用いて歯面の治療すべき部分にコンポジットレジンを充填操作する場合の実施形態を示す。
【実施例】
【0021】
図1(A)に表されるようにコンポジットレジン操作器具1は、細長い軸状のペン型を有しており、このペン型を有する軸体100の先端に軸支部200を有し、該軸支部200を介して充填操作用のローラ軸300を回転自由に軸支して構成している。
【0022】
軸体100は、軸方向中間部にグリップ部110を備えている。このグリップ部110は治療者がペン型に持ったときに指先が当たる部分となる軸方向中間部より先端側にかけて滑り止め用のローレット111加工を施している。さらに、グリップ部110から先端側にかけて細軸120を延出し、この細軸120の先端に軸支部200を備えている。
【0023】
細軸120は直棒ではなく、図1(B)に示すように、先端側での操作性の向上を図るために細く、しかもグリップ部110から先端側にかけて緩やかに湾曲させている。さらに、細軸120の軸方向中間部には、先端側での過度の押圧力を弾性変形して吸収回避する弾性変形許容溝121(図においては2列の周溝)を形成している。なお、細軸120は、軸体100と一体形成した一体物でもよく、軸体100の先端部に細軸120の基端部を圧入固定または螺着固定して連結するようにした別体構成に設けてもよい。
【0024】
軸支部200は、図2に拡大して示すように、細軸120の先端部に円形のベアリング取付孔210が貫通して開口された環状部220を有し、該環状部220のベアリング取付孔210にボールベアリング230を圧入固定して取り付け、該ボールベアリング230に回転自由に軸支されるローラ軸300を抜け止め固定する抜止リング240を備えて構成される。
【0025】
ボールベアリング230は、外輪231がベアリング取付孔210に圧入固定されて環状部220に取り付けられ、内輪232の軸孔233に後述するローラ軸300を挿通させて回転自由に軸支する。
【0026】
上述のローラ軸300は、軸方向の一側に形成される操作軸部310と、軸方向の他側に形成される片持ち軸部320とから構成される。
操作軸部310は、小径の円柱にて形成される回転軸部であり、歯の治療素材として用いられるコンポジットレジン420(図3参照)に回転可能に接触する。ことに、円柱の先端側端面の周縁部を充填操作用の周縁角部311に形成している。この周縁角部311はローラ軸300の端面とローラ軸300の外周面とが直角に接合する稜線部分であり、該周縁角部311を使うことでコンポジットレジン420を所望の形に形成することができる。具体的には、歯の特有な個々の凹凸咬合面の小窩裂溝、咬頭傾斜を形作るのに適している。
【0027】
片持ち軸部320は、前記操作軸部310よりさらに小径の軸部であり、前記ボールベアリング230の軸孔233に挿通して軸支される挿通軸部330と、該挿通軸部330の先端部に形成されて前記抜止リング240を嵌合させる周溝340とを備えている。
【0028】
そして、このローラ軸300を軸支部200に組み付ける際は、まず、ローラ軸300の片持ち軸部320をボールベアリング230の軸孔233に挿通する。このとき、挿通された片持ち軸部320の一端側がボールベアリング230の他端面側より突出する。この突出した部位に周溝340が表れ、この周溝340にC形状の抜止リング240を嵌合させることで、ローラ軸300は軸方向に対し、抜け止め固定される。これにより、ローラ軸300は片持ち軸部320を介して軸支部200に回転自由に軸支される。
【0029】
さらに、ローラ軸300は軸支部200に着脱して交換可能に設けている。該ローラ軸300を交換する際は、軸支部200に片持ち支持されている片持ち軸部320の抜止リング240を外せば、片持ち軸部320をボールベアリング230の軸孔233より引き抜いて取り外すことができる。そして、新たなローラ軸を、前記ローラ軸300を組み付けた手順にしたがって取り付ければよい。
【0030】
このコンポジットレジン操作器具1は、金属製や樹脂製で構成することができるが、治療者がペン型に持った際に、ある程度の重みが得られる金属製で構成するのが好ましい。
【0031】
このように構成されたコンポジットレジン操作器具1の使用状態を次に説明する。
例えば、図3(A)に示すように、歯面400の咬合面が凹んだ損傷凹部410を修復する場合、治療者が損傷凹部410に一塊のペースト状のコンポジットレジン420を載せ、その上面に対し、コンポジットレジン操作器具1の先端に備えられているローラ軸300を当てがって下向きに押圧する。
【0032】
さらに、図3(B)に示すように、ローラ軸300を下向きに押圧した状態で、該ローラ軸300を横方向に往復回転移動させる。これにより、コンポジットレジン420は横方向に次第に押し広げられ、ローラ軸300と接触対応した部分のみが押し広げられる。そして、ローラ軸300の往復回転移動が繰り返されることで、ローラ軸300と接触したコンポジットレジン420の上面は滑らかに均され、損傷凹部410の上面がコンポジットレジン420により所望の修復形状に覆われる。
【0033】
ここで、ローラ軸300がコンポジットレジン420に与える力の伝達状態を考察すると、該ローラ軸300を下向きに押圧しながら横方向に回転移動させることで、ローラ軸300はコンポジットレジン420に対して転がり接触し、同じ面が長く接触することがない。つまり、回転しないヘラ型などの操作部にあっては、横方向への摩擦抵抗が高まったままの状態でコンポジットレジン420を押し広げようとするのに対し、ローラ軸300は横方向への摩擦抵抗が極めて小さい状態で移動することになる。
【0034】
このローラ軸300の回転特性により、ローラ軸300の押圧力は回転接触部分のみがコンポジットレジン420に局部的に伝わり、コンポジットレジン420の表面が順に押圧されて押し広げられることになる。このため、コンポジットレジン420には水平方向の引張力が発生せず、コンポジットレジン420の非押圧部分はローラ軸300からの影響を受けることがない。
【0035】
したがって、図3(C)に示すように、ローラ軸300により損傷凹部410の例えば左側端部422を押圧する時に、該ローラ軸300を横方向に往復回転移動させると、ローラ軸300に押圧されたコンポジットレジン420の左側部分のみが押し延ばされ、反対側の右側端部421に対しては引張力が発生せず、左側端部422のコンポジットレジン420の上面が滑らかに均されるとともに、コンポジットレジン420の下面は損傷凹部410の歯面400に密着したままの状態で修復される。
【0036】
同じく、損傷凹部410の右側に対しても左右対称に同様な充填操作を施して修復することができる。すなわち、図3(D)に示すように、ローラ軸300により損傷凹部410の右側端部421を押圧する時に、該ローラ軸30を横方向に往復回転移動させると、該ローラ軸300に押圧されたコンポジットレジン420の右側部分のみが押し延ばされ、反対側の左側端部422に対しては引張力が発生せず、右側端部421のコンポジットレジン420の上面が滑らかに均されるとともに、コンポジットレジン420の下面は損傷凹部410の歯面に密着したままの状態で修復される。
【0037】
さらに、高粘度状態にあるペースト状のコンポジットレジン420がローラ軸300に付着しやすい状態にあっても、コンポジットレジン420にローラ軸300が回転して接触する構成上、ローラ軸300は同じ面がコンポジットレジン420に長く接触しないため、コンポジットレジン420がローラ軸300に付着し難くなり、修復作業が一層容易になる。
【0038】
このように、治療者はコンポジットレジン420の押し延ばし位置でローラ軸300を繰り返し往復回転移動させるだけで、簡単に押し延ばし操作ができる。よって、コンポジットレジン420を損傷凹部410の隅々まで隙間なく押し広げて充填することができる。このため、ローラ軸300に押圧されていない非押圧部分を上方から繰り返し何度も撫でつけるなどの押さえ付け操作、あるいはコンポジットレジン420の他側端部を押さえた状態での一側端部を押圧操作するという複雑な作業を省略できる。
【0039】
この結果、歯面400にコンポジットレジン420を充填操作する治療技術を容易化し、高度な熟練技術を要しなくなる。さらに、コンポジットレジン420の接着面は歯面400に密着した状態が維持されるため修復不良のおそれもなくなり、充填精度の良い修復ができる。さらに、コンポジットレジン420の表面はローラ軸300でなぞるだけで滑らかな仕上がり状態が得られる。
【0040】
さらに、咬合面の小窩裂溝や咬頭傾斜を形作る場合であっても、ローラ軸300の周縁角部311を使えば、容易に形作ることができる。この際も、周縁角部311の部分が回転しながらコンポジットレジン420に接触するため、ローラ軸300は同じ部分がコンポジットレジン420に接触せず、またコンポジットレジン420を歯面400から剥離するような操作力が加わらないので安定した修復作業ができる。
【0041】
次に、前記円柱状のローラ軸300と異なる他のローラ形状のローラ軸を図4に基づいて説明する。
図4(A)に示すローラ軸350は、基端側に小径の片持ち軸部320を有し、先端側に円錐形状の操作軸部351を有して構成している。操作軸部351は片持ち軸部320側から先端側にかけて先細となる円錐形状に形成している。
このローラ軸350を用いて歯面を修復する場合は、操作軸部351が先細の円錐形状のため、ローラ軸350の先端が口腔内の細部まで行き届いた修復操作が可能になる。
【0042】
図4(B)に示すローラ軸360は、基端側に小径の片持ち軸部320を有し、先端側に、片持ち軸部320と略同径で、該片持ち軸部320側から先端側にかけて先細となる極小円錐形状の操作軸部361を有して構成している。
このローラ軸360を用いて歯面を修復する場合は、操作軸部361が先細の極小円錐形状であるため、ローラ軸350の先端が口腔内の細部まで行き届き、作業領域が限られた狭い口腔内で修復操作がし易くなり、より精密な仕上げ操作が可能になる。
【0043】
図4(C)に示すローラ軸370は、基端側に小径の片持ち軸部320を有し、先端側に、片持ち軸部320と略同径で、該片持ち軸部320側から先端側にかけて同径のまま延出させた小径の操作軸部371を有して構成している。
このローラ軸370を用いて歯面を修復する場合は、操作軸部371が小径の軸部であるため、前記操作軸部310(図2参照)に比べて口腔内の狭い部分での修復操作がし易くなり、歯面端部での精密な仕上げ操作が可能になる。
【0044】
このようなローラ軸350,360,370を用意しておき、用途に応じて使い分けるようにすれば、歯面400に対するきめ細かな修復が可能になり、信頼性の高い治療を実現できる。
【0045】
次に、ローラ軸300,350,360,370を、正逆転させるのではなく一方向のみに回転させる軸支構造について説明する。
図5(A)は一方向クラッチ内蔵型のベアリング500を示し、この一方向クラッチ内蔵型のベアリング500は内輪510と外輪520との間で囲まれる周面空間部530の周方向に複数の鋼球540と、複数のカムクラッチ550とを並列に内蔵している。そして、これらの共通空間となる周面空間部530の開放された一端面をリテーナ560で閉鎖し、他端面をシールドプレート570で閉鎖して構成している。
【0046】
前記カムクラッチ550は、立方体状を有して複数個が前記周面空間部530の周方向に等分して配設されている。このカムクラッチ550の外周面に形成されているクラッチ爪551が外輪520の内周面に対向し、内輪510が正回転したときは、クラッチ爪551が正回転方向で作用しないため回転許容し、内輪510が逆回転しようとしたときは、該クラッチ爪551が外輪520の内周面に強接触して回転規制する一方向クラッチの役目を有している。
【0047】
この一方向クラッチ内蔵型のベアリング500を用いた場合は、ローラ軸300の回転方向を一方向のみに制限することができる。そして、修復時にはローラ軸300の回転操作によるコンポジットレジン420の押し延ばし方向が同一方向となり、同一方向のみの押し延ばしが適している細かな部分での操作に有効である。さらに、ローラ軸300が逆方向に対し、非回転であるため、ローラ軸300を非回転方向に移動させれば、該ローラ軸300を軸体100と一体物であるかのごとく使用できる。
【0048】
次に、軸体にローラ軸を複数備えた複合型のコンポジットレジン操作器具1について説明する。
この複合型のコンポジットレジン操作器具1は、図5(B)に示すように、軸体100の先端部130に前記ローラ軸300を備える以外に、軸体100の基端部140に対しても別のローラ軸350(図4(A)を参照)を備えて2つのローラ軸300,350を対称形に配置して構成したものである。
【0049】
このような複合型のコンポジットレジン操作器具1を用いれば、治療中に、該複合型のコンポジットレジン操作器具2の両端部を反転させて持ち替えるだけで、2種類のローラ軸300,350を適宜使い分けて能率の良い治療ができる。
【0050】
この際、軸体100の両端部に対称形に配置される2つのローラ軸は用途に応じた種類のローラ軸を一組とし、最も適した組み合わせで配置構成するのが適している。
【0051】
次に、ローラ軸300の回転を一時停止させる回転規制機構600を図6乃至図8を参照して説明する。
前記回転規制機構600は、押しボタン610と、押しボタン支持部620と、操作ワイヤ630と、ワイヤ進退機構640を備えて構成される。
前記押しボタン610は、図6(A)及び図6(B)にも示すように、軸体100の外周面上に押下可能に突出して配設されるものであり、グリップ部110を持つ指先の近くとなる該グリップ部110の先端側に取り付けられている。
【0052】
該押しボタン610は、図7に示すように、絶縁性の樹脂材で円柱形状に形成され、その上面が押下面として設けられ、周面に形成された摺動ガイド突起611が後述する押しボタン支持部620に摺動支持され、さらに下面に形成された上バネ座612とワイヤ連結片613とが同じく後述する押しボタン支持部620に支持される。
【0053】
上述の押しボタン支持部620は、前記押しボタン610の取付位置と対応するグリップ部110の先端側に前記押しボタン610の円柱形状と対応する円形状の押しボタン取付穴621が開口されており、この押しボタン取付穴621の内周面の一部に前記押しボタン610の摺動ガイド突起611と凹凸対応して摺動ガイドするガイド溝622が形成されている。
【0054】
さらに、押しボタン取付穴621の底面中央には下バネ座623が形成されている。この下バネ座623と前記上バネ座612との上下の対向面間に押しボタン復帰用のコイルバネ624を伸縮自由に介在させ、該コイルバネ624が圧縮された状態で介在されることにより、押しボタン610は通常、コイルバネ624が伸長しようとする付勢力を受けて、軸体100の外方(図7においては上方)に向けて付勢突出した状態にある。
【0055】
そして、押しボタン610が突出している押下待機位置(図7(A)参照)から該押しボタン610が僅かに押し込まれた押下位置(図7(B)参照)までの押下ストローク長さで操作される。この押しボタン610に対する付勢圧は、図6(B)に示すように、指先Fで軽く押下操作できる程度に設定し、また指先Fで押下したときの操作感触が操作者に得られる程度の付勢圧に設定する。
【0056】
また、押しボタン取付穴621の底面には、操作ワイヤ630を進退させるための逆U字形の山形突出部625を上向きに突出形成している。この山形突出部625は山形に突出した曲面であり、該山形の曲面に沿って後述する操作ワイヤ630が屈曲対応自由に配置される。
【0057】
上述の操作ワイヤ630は、例えば金属線材あるいは樹脂線材を用いて構成することができる。この操作ワイヤ630は回転規制操作用の押しボタン610からローラ軸300までの間を連結する連結媒体として備えられるものであり、押しボタン610が回転規制操作の入力側となり、ローラ軸300が回転規制操作の出力側となり、これらの間を該操作ワイヤ630で連結して回転規制時の操作力を伝達する役目を有している。
【0058】
操作ワイヤ630の基端側の連結は、図7に示すように、押しボタン610の下面に垂設しているワイヤ連結片613に操作ワイヤ630の基端部を固定して連結している。これにより、操作ワイヤ630の基端側が山形突出部625の上方に対向配置される。この操作ワイヤ630を連結した押しボタン取付穴621の空間部において、後述するワイヤ進退機構640の主要部が構成される。
【0059】
上述のワイヤ進退機構640は、軸体100と細軸120との中心部軸方向を細長く貫通したワイヤ挿通孔641に操作ワイヤ630を進退自由に挿通し、ここに挿通された操作ワイヤ630の基端部をワイヤ立ち上げ通路623を介して押しボタン610の下面に導き、該操作ワイヤ630の基端部を押しボタン下面のワイヤ連結片613に連結し、操作ワイヤ630の先端部(図8参照)をローラ軸300の片持ち軸部320に連結して構成している。
【0060】
前記操作ワイヤ630を進退させる構成として、押しボタン610の下面とその下方の押しボタン取付穴621の底面との間に形成される空間部において、操作ワイヤ630の基端側と、押しボタン取付穴621の底面に突出する前記山形突出部625とが上下に対向して配置されている。このため、押しボタン610が押下操作されると、図7(B)に示すように、操作ワイヤ630の基端側も下向きに移動し、該操作ワイヤ630の基端側が山形突出部625の山形曲面に沿って屈曲される。この屈曲作用により操作ワイヤ630は山形突出部625側に引っ張られる形で僅かに後退移動する。この操作ワイヤ630の進退移動により後述するローラ軸300側での回転規制作用を生じさせる。
【0061】
逆に、押しボタン610の押下操作が開放されて、押しボタン610が上動復帰すると、図7(A)に示すように、操作ワイヤ630の屈曲していた基端側が山形突出部625と離れ、該操作ワイヤ630の基端側は屈曲状態から元の伸長した非屈曲形状に戻り、操作ワイヤ630は引張作用を受けなくなり、伸長状態に復帰して僅かに前進移動する。
【0062】
このように、押しボタン610の押下操作に連動させて操作ワイヤ630を進退させるという操作機能を有する構成である。前記操作ワイヤ630の進退量は、前記山形突出部625の形状によって調整することができる。具体的には、該山形状の突出高さや曲面形状等を任意に設定することにより操作ワイヤ630の進退量を調整することができる。さらに、該山形状の頂部の曲面に凹溝状のワイヤガイド溝を形成すれば、該操作ワイヤ630を山形突出部625の曲面に沿って安定してガイドすることができる。
【0063】
一方、図8に示すように、操作ワイヤ630の先端側の連結は、前記ワイヤ挿通孔641に挿通された操作ワイヤ630の先端部を、ローラ軸300を軸支している片持ち軸部320の軸上に連結している。
【0064】
前記操作ワイヤ630の先端部の連結に際しては、前記軸支部200に開口されているベアリング取付孔210の内奥側にワイヤ取付空間部として隣接させた内周溝650を形成し、該内周溝650と対応するローラ軸300の片持ち軸部320上にワイヤ取付空間部としての外周溝660を形成し、これらの内周溝650と外周溝660とで囲まれる周溝空間において、その内周溝650上に操作ワイヤ630の先端部分を巻き付けて連結する環状巻付部631を備えて構成している。
【0065】
そして、操作ワイヤ630に引張力が加わらない無負荷状態である場合は、操作ワイヤ630の影響を受けないためローラ軸300は回転自由である。これに対し、操作ワイヤ630に引張力が加わった場合は、操作ワイヤ630が引っ張られ、ローラ軸300のワイヤ取り付け部分での摩擦抵抗を高めてローラ軸300の回転を規制する回転規制動作させることができる。
【0066】
前記操作ワイヤ630の先端側の連結に際して、前記軸支部200は操作ワイヤ630の取付けスペース分だけ幅厚に設け、さらに操作ワイヤ630の取付性を考慮して細軸120と軸支部200との間を着脱可能に分割して設けている。例えば、細軸120側の先端部に雄ネジ671を形成し、該細軸120の先端部と対応して接続される軸支部200側に雌ネジ672を形成して螺着接続可能に設けている(図8においては分割した状態を示している)。
【0067】
なお、軸支部200は、図5(A)で述べた一方向クラッチ付きのボールベアリング230が内蔵されており、ローラ軸300を一方向のみ回転支持する同様の機能が備えられている。
【0068】
次に、コンポジットレジン操作器具1の回転規制機構600を使用する場合について説明する。
治療される歯に付着させたコンポジットレジンに対し、コンポジットレジン操作器具1の先端に備えられているローラ軸300を当てがって修復を行う。この際、前記歯を修復している作業中に、コンポジットレジンを任意の形状に加工するローラ軸300の回転を一時的に止めることが要求される場合、例えばローラ軸300の回転を止めてコンポジットレジンを除去したい場合などである。
【0069】
このような場合に、治療者は治療器具を取り替えることなくコンポジットレジン操作器具1を持ったまま、その指先Fで押しボタン610を押下すると、この押しボタン610の押下により、操作ワイヤ630が引っ張られる。これにより、ローラ軸300は操作ワイヤ630との接触圧が高められて回転が規制され、あたかも軸体に100に固定された円柱軸のごとく使用することができる。
【0070】
したがって、押しボタン610を押している間はローラ軸300の回転を規制した状態で使用することができる。また、押しボタン610を押している指先Fを離せば、押しボタン610が元の押下待機位置に復帰し、操作ワイヤ630も引張作用がなくなり、直ちにローラ軸300の回転規制が解除される。
【0071】
このように、治療者がコンポジットレジン操作器具1の押しボタン610を押下操作または開放操作することで、ローラ軸300の回転を任意に止めることができ、ローラ軸300の回転規制と回転許容とを自由に選択して使い分けることができる。このため、修復機能の高い器具として使用することができ、1つのコンポジットレジン操作器具1で複数の異種器具の機能を有する多機能の器具として扱うことができる。
【0072】
さらに、押しボタン610の位置はコンポジットレジン操作器具1を持った指先Fの近傍にあるため容易に押下操作することができる。この結果、治療者はコンポジットレジン操作器具1を用いて歯を修復する際に、コンポジットレジン操作器具1を持ち替えることなく、指先Fの操作でローラ軸300の動きを自由に切換えて修復作業能力を確実に高めることができる。
【0073】
なお、上述の実施例では押しボタン610からローラ軸300までの間を操作ワイヤ630を用いて連結させる構成例を示したが、これに限らず他の手段にて連携操作させてもよい。例えば、押しボタン610からローラ軸300までの間をつなぐ軸体100の内部通路に操作媒体としての液体を注入し、押しボタン610の押下操作の動きに、前記注入されている液体を移動させて加圧変動させることによってローラ軸300の回転を規制、解除させるようにしてもよい。また、押しボタン610ではなく、スライド型の操作ボタンを用いて構成することもできる。
【0074】
上述のように、歯面に対する充填要請に際して、ローラ軸300でコンポジットレジン420を押圧しながら回転移動させて充填させるという特有な充填機能をローラ軸300に持たせているため、コンポジットレジン420はローラ軸300と接触した部分のみが押圧され、ローラ軸300の回転移動方向に順に押し広げられることになる。このため、ローラ軸300に押圧されていない他の非押圧部は引張力が生じず、非押圧部が歯面400と離れる心配がなくなる。この結果、修復不良のおそれがなくなり、また複雑な操作を要しないため治療技術が容易化し、常に充填精度の良い修復ができる。
【0075】
さらに、ローラ軸300の回転を規制することができる押しボタン610を備えた場合は、コンポジットレジン操作器具1による修復技術が高機能化して修復作業が一層安定する。
【0076】
この発明の構成と、上述の実施例の構成との対応において、この発明は上述の実施例の構成に限定されるものではなく、請求項に記載される技術思想に基づいて応用することができる。
【0077】
例えば、上述の実施例ではコンポジットレジン操作器具1,2のグリップ部110を細長く形成したペン型を示したが、これに限らず、グリップ部を太くして握りやすい形状に設けることができる。さらに、グリップ部110を細軸120程度に、より細くして指先での操作性をより一層高め得る形状に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
歯面にコンポジットレジンを充填操作して修復する歯科医療器具の全般。
【符号の説明】
【0079】
1…コンポジットレジン操作器具
100…軸体
200…軸支部
230,500…ベアリング
300,350,360,370…ローラ軸
311…周縁角部
400…歯面
420…コンポジットレジン
550…カムクラッチ
600…回転規制機構
610…押しボタン
620…押しボタン支持部
630…操作ワイヤ
640…ワイヤ進退機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップ部を備えた軸体の先端部に、コンポジットレジンを歯面に充填操作するコンポジットレジン操作部を備えた歯科医療器具であって、
前記コンポジットレジン操作部は、
前記軸体の先端部に、該軸体の軸方向に対し、軸支方向が異なる軸受けを配設し、該軸受けに片持ち支持されて回転自由に軸支されるローラ軸を備えた
歯科医療器具。
【請求項2】
前記ローラ軸を交換可能に、前記ローラ軸を前記軸受けに着脱自在に設けた
請求項1に記載の歯科医療器具。
【請求項3】
前記ローラ軸を、
少なくとも該ローラ軸の先端側を円柱形状にした先端側端面の周縁部を充填操作用の周縁角部にした
請求項1または2に記載の歯科医療器具。
【請求項4】
前記ローラ軸の回転方向を一方向のみに回転させる一方向クラッチを備えた
請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯科医療器具。
【請求項5】
前記ローラ軸とローラ形状が異なる別のローラ軸を、前記軸体の基端部に備えた
請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯科医療器具。
【請求項6】
前記軸体の外周面上に配設される操作ボタンと、
前記操作ボタンを待機位置と操作位置との間で変位自由に支持する操作ボタン支持部と、
前記操作ボタンから前記コンポジットレジン操作部までの間を、前記軸体内を通して連携操作させる連携操作媒体と、
前記操作ボタンを前記待機位置から前記操作位置へと変位させることに基づき、前記連携操作媒体を連携操作させて前記コンポジットレジン操作部の回転を規制する回転規制機構を備えた
請求項1乃至5の何れか1項に記載の歯科医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−240279(P2010−240279A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94575(P2009−94575)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(397059652)株式会社モリタ (8)
【Fターム(参考)】