説明

歯科用アバットメント

【課題】歯科用インプラントフィクチャーに固定される歯科用アバットメントであって、歯肉との密着性が高く顎骨内への菌の侵入が防止でき、骨吸収や歯肉退縮を起こし難い歯科用アバットメントを提供する。
【解決手段】歯科用インプラントフィクスチャーFの口腔内側に固定されて歯肉を貫通し歯科用補綴物Pの土台となる歯科用アバットメント1であって、歯肉に当接する外周にその円周方向に沿って幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部2を螺旋状に突設するか又は略等間隔でリング状に複数突設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラントフィクチャーに固定される歯科用アバットメントであって、骨吸収や歯肉退縮が起こり難い歯科用アバットメントに関する。
【背景技術】
【0002】
欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法として、欠如歯部の顎骨内に埋入して顎骨と骨結合した人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯科用補綴物を固定する歯科インプラント治療が普及してきている。この歯科インプラント治療においては、歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯肉を貫通する歯科用アバットメントを配置し、この歯科用アバットメントの口腔内側に歯科用補綴物を配置する構造が一般的である。
【0003】
このような歯科インプラント治療が施される部位の抜歯後の歯肉組織は、抜歯前の歯肉に比べて線維芽細胞が少ないという特徴があり、歯科用アバットメントの周囲と歯肉との間から顎骨内に菌が入り易く、また炎症により破壊された組織を修復する能力が小さいので骨吸収が進む原因となり易いのである。
【0004】
また抜歯前の歯肉中の歯肉線維(コラーゲン線維)は天然歯に対して直交するように再生するのに対し、歯科用インプラントフィクスチャー埋入後に再生される組織では歯肉線維は歯科用インプラントフィクスチャーと平行となるように再生する。このような歯科用インプラントフィクスチャーと平行な歯肉線維は接触する歯科用インプラントフィクスチャーや歯科用アバットメントとの結合が弱く歯肉退縮が起こり易い。その結果、歯科用アバットメントと接触する歯肉の先端側が退縮して菌が顎骨内に入り骨吸収が進んだり審美性が損なわれたりすることが多い。
【0005】
このような骨吸収などの問題に対して、歯肉と経粘膜要素(歯科用アバットメント又はスペーサー)との一体化を図るために、周囲に完全又は部分的に伸びる溝または凹部が設けられた経粘膜要素がある(例えば、特許文献1 請求項8参照。)。この溝は周囲の歯肉との安定性を増大させるために形成されているが、例示された溝の大きさは幅が約100nm、深さが約70nmと非常に細くて浅い溝であるため(特許文献1 段落番号0017)、歯肉を構成する組織が入り込めない溝となっており、このような細くて浅い溝がどのような作用によって周囲の歯肉との安定性を増大させているのか明確でない。また前述したように、抜歯後の歯肉組織は抜歯前の歯肉組織とは異なる瘢痕組織であるため、溝を設けて一体化を図っても抜歯前の歯肉組織と同様な効果を得ることは難しいのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−519467号公報
【0007】
またこのような骨吸収や歯肉退縮が起こった後に、歯肉の移植や、エムドゲイン,GTR,GBR等を用いた外科的な処置方法も提案されているが、このような処置方法は未だ十分に確立されていないばかりか、患者の負担が大きいため好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の問題に鑑み、歯科用インプラントフィクチャーに固定される歯科用アバットメントであって、歯肉との密着性が高く、顎骨内への菌の侵入が防止でき、骨吸収や歯肉退縮が起こし難い歯科用アバットメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歯科用インプラントフィクスチャーに固定される歯科用アバットメントに、歯肉に当接する外周にその円周方向に沿って幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部を螺旋状に突設させるか又は略等間隔でリング状に複数突設させれば、螺旋状又はリング状に形成された突条部が周囲の歯肉組織に強く密着して何重にも密閉された状態となるから、口腔内から顎骨内への菌の侵入が防止でき、また強く密着した突条部によって歯肉が退縮することを抑制できることを究明して本発明を完成したのである。
【0010】
即ち本発明は、歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されて歯肉を貫通し歯科用補綴物の土台となる歯科用アバットメントであって、歯肉に当接する外周にその円周方向に沿って幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部が螺旋状に突設されているか又は略等間隔でリング状に複数突設されていることを特徴とする歯科用アバットメントである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科用アバットメントは、歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されて歯肉を貫通し歯科用補綴物の土台となる歯科用アバットメントであって、歯肉に当接する外周にその円周方向に沿って幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部が螺旋状に突設されているか又は略等間隔でリング状に複数突設されているから、螺旋状又はリング状に形成された突条部が周囲の歯肉組織に強く密着して何重にも密閉された状態となり、口腔内から顎骨内への菌の侵入が防止でき、また強く密着した突条部によって歯肉が退縮することを抑制できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る歯科用アバットメントの一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の歯科用アバットメントの使用状態を歯肉と顎骨とを断面で示した説明図である。
【図3】本発明に係る歯科用アバットメントの他の実施例を示す斜視図である。
【図4】図3の歯科用アバットメントの使用状態を歯肉と顎骨とを断面で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明に係る歯科用アバットメントについて詳細に説明する。
図面中、Fは歯科用インプラントフィクスチャー、Pは歯科用補綴物であり、これらの歯科用インプラントフィクスチャーFや歯科用補綴物Pの形状等には特に限定はなく、様々なものが使用できる。また、Gは歯肉、Jは顎骨である。
【0014】
1は歯科用インプラントフィクスチャーFの口腔内側に固定されて歯肉を貫通し歯科用補綴物Pの土台となる歯科用アバットメントである。この歯科用アバットメント1としては、後述する突条部2が突設されている点以外には特に限定はなく、例えば図1及び図2のような歯科用補綴物P形成部が設けられた形状のものや、図3及び図4のように歯科用補綴物P形成部となる別部材を口腔内側に係合させて使用するものなどが使用できる。またこの歯科用アバットメント1は生体親和性の高い純チタンやチタン合金や、セラミックスなどを加工したものが使用できる。
【0015】
2は歯肉に当接する歯科用アバットメント1の外周にその円周方向に沿って螺旋状に突設されているか又は略等間隔でリング状に複数突設されている幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部である。
【0016】
この突条部2の幅を1〜500μmとしたのは、幅が1μm未満であると、歯肉と密着する幅が狭すぎるため高い密閉性を得ることが難しく、また幅が500μmを超えると、突条部2と歯肉とが広い幅に亘って当接するような状態となるが、歯肉の内部組織は当接面の形状が平らではないため却って隙間が生じ易くしっかりと密着しないため、歯科用アバットメント1と歯肉との間の密閉性が損なわれることがあるからである。
特に幅が100〜300μmであると、歯肉と密着し易く顎骨側への密閉効果が高くなるのでより好ましい。
【0017】
また突条部2の高さを1〜500μmとしたのは、高さが1μm未満であると、突条部2と突条部2が突設されていない部分との差がほとんどないため密閉性が損なわれ易く、また高さが500μmを超えると、突条部2は幅が1〜500μmで非常に薄いため、曲げによる変形又は破損が起こり易くなり強度や耐久性に問題が生じるからである。
【0018】
なお歯肉中の歯肉線維(コラーゲン線維)は直径が0.1〜0.5μmの細線維の集合体であり、歯肉線維自身の直径は約2〜20μmであるが、この歯肉線維が突条部2,2間に入り込むことができれば、歯科用アバットメント1と歯肉との結合力も高めることができるので、突条部2,2間の間隔は20μm以上であると好ましい。特に突条部2,2間の間隔が100μm以上であれば、歯科用アバットメント1と平行に再生する抜歯後の歯肉線維が歯科用アバットメント1と直交するように形成された突条部2,2間に入り込み易くなり、また突条部2,2間が500μmを超えると、突条部2,2間に入り込んだ歯肉線維が突条部2,2間内を歯科用アバットメント1と平行に再生し易くなって歯科用アバットメント1と歯肉との結合力を高めることができなくなる。
【0019】
本発明に係る歯科用アバットメント1としては、図1及び図2の如きものがある。この歯科用アバットメント1では、幅約100μm、高さ約100μmの各突条部2が、歯肉と密着する約2mmの高さの歯科用アバットメント1の傾斜面にそれぞれ約150μmの間隔を開けてリング状に8本形成されている。
また顎骨に埋入させた歯科用インプラントフィクスチャーFに歯科用補綴物Pを設けた歯科用アバットメント1を固定すると図2の如き状態となる。この歯科用アバットメント1は歯肉と密着する傾斜面全体に亘って略均等に各突条部2が設けられており、この8本のリング状の突条部2によって歯肉Gが歯科用アバットメント1に強固に結合して、顎骨G内への外部から菌の侵入を防ぐことができるのである。
【0020】
次に図3及び図4に示す本発明に係る歯科用アバットメント1では、幅約50μm、高さ約50μmの各突条部2が、歯肉と密着する高さ約2mmの歯科用アバットメント1の傾斜面の口腔内側の高さ約1.6mmの部位にそれぞれ約50μmの間隔を開けてリング状に16本形成されている。このように突条部2を歯肉と密着する部位全体に亘って配しない場合には、図3及び図4の如く、口腔内側に配すると歯肉退縮の抑制効果が高くて好ましい。
【符号の説明】
【0021】
1 歯科用アバットメント
2 突条部
F 歯科用インプラントフィクスチャー
G 歯肉
J 顎骨
P 歯科用補綴物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントフィクスチャー(F)の口腔内側に固定されて歯肉を貫通し歯科用補綴物(P)の土台となる歯科用アバットメント(1)であって、歯肉に当接する外周にその円周方向に沿って幅1〜500μm、高さ1〜500μmの突条部(2)が螺旋状に突設されているか又は略等間隔でリング状に複数突設されていることを特徴とする歯科用アバットメント(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−194118(P2010−194118A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42757(P2009−42757)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】